(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】電気融着継手
(51)【国際特許分類】
F16L 47/03 20060101AFI20241202BHJP
B29C 65/34 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
F16L47/03
B29C65/34
(21)【出願番号】P 2021164824
(22)【出願日】2021-10-06
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】505142964
【氏名又は名称】株式会社クボタケミックス
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】檜物 友和
(72)【発明者】
【氏名】大室 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】小森 裕太
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-321034(JP,A)
【文献】特開2003-028380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 47/03
B29C 65/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続相手の樹脂管が挿入される熱可塑性の樹脂管の内周面に螺旋状で形成された切欠き溝に電熱線が挿入された融着部を備えた電気融着継手であって、
前記熱可塑性の樹脂管の外周面から前記電熱線に到達するように穿孔された穴に挿入された、外部の電源から前記電熱線に電気を供給するための略円柱形状で導電性を備えたターミナルピンを含み、
前記ターミナルピンの前記電熱線側の端部には、前記電熱線の長手方向に沿って前記電熱線を内包する溝が設けられ、
前記ターミナルピンと前記電熱線とが当接したときに前記熱可塑性の樹脂管の外周面から目視可能な位置に、前記溝の方向を示すマークが
、前記ターミナルピンの前記外周面側の端部に付されていることを特徴とする、電気融着継手。
【請求項2】
前記マークは
、前記溝と同じ方向の目印溝であることを特徴とする、請求項1に記載の電気融着継手。
【請求項3】
前記溝の断面形状は、溝開放側の溝
の幅が溝底部の溝
の幅よりも
狭い略逆ハの字型形状であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の電気融着継手。
【請求項4】
前記溝における、前記ターミナルピンと前記電熱線との接合は、前記溝の形状または前記電熱線の形状に合致する形状の導電性を備えた接続部材が、前記ターミナルピンおよび前記電熱線と当接して接合されることを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれかに記載の電気融着継手。
【請求項5】
前記接続部材は、前記電熱線の長手方向の垂直面における断面形状を内包する中空部を備え前記溝
の幅に合致した略中空円柱形状、または、前記溝
の幅に合致した略角柱形状であることを特徴とする、請求項4に記載の電気融着継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック管の接続に用いられる電気融着継手に関し、特に熱可塑性樹脂管の内周部に形成された凹溝に電熱線を嵌入した構造の電気融着継手に関する。
【背景技術】
【0002】
電気融着継手は、通常射出成形法を用いて製造され、ポリエチレンやポリブテン等の熱可塑性樹脂からなる継手本体の内周部に電熱線が埋設されている。このような電気融着継手は、EF(ElectroFusion)継手、EFソケット等と呼ばれることがある。
このような電気融着継手として、大口径の電気融着継手を中心にして、熱可塑性樹脂からなる管材の内面に沿って螺旋状に凹溝を切削加工で設け、この凹溝内に電熱線を嵌入した構造を備えた継手が提供されている。この構造の電気融着継手は、製造方法としては簡潔であるが、電熱線を溝から浮き上がらないように装着する点についての製造上の難しさが問題点として指摘されてきた。このような問題点に鑑みて、特許第5035672号公報(特許文献1)は、熱可塑性樹脂管の内周部に形成された凹溝に電熱線を嵌入した構造の電気融着継手において、保管環境下での温度変化で電熱線が凹溝から浮き上がることなく、かつ、プラスチック管との融着界面にボイドが生じないような電気融着継手を開示する。
【0003】
この特許文献1に開示された電気融着継手は、プラスチック管が挿入される熱可塑性の樹脂管と、樹脂管の内周面に螺旋形にして螺旋ピッチが小さい部分と大きい部分とに形成されたU字状の凹溝と、凹溝開口部の両側面に形成された舌状部と、凹溝内に装入された電熱線とを有し、凹溝の幅は、電熱線の直径と同じかわずかに狭い寸法に形成され、凹溝の深さは、電熱線の直径より深い寸法にして、螺旋ピッチが小さい凹溝部分のほうが螺旋ピッチが大きい凹溝部分よりも浅い寸法に形成され、螺旋ピッチが小さい凹溝部分に装入された電熱線は溶融された舌状部を含む樹脂で凹溝内に埋め込まれており、螺旋ピッチが大きい凹溝部分に装入された電熱線は押圧された舌状部で凹溝内に押し込められていることを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この特許文献1に開示された電気融着継手においては、特許文献1の第0016段落~第0018段落に記載の通り、熱可塑性樹脂のスリーブを準備してその内周面にU字状の凹溝を螺旋状に切削加工により形成させてから、押当て工具を押付けながら凹溝に沿って移動させて側壁を変形させて内周面から飛出したバリ状の舌状部を形成させた後に、凹溝の全長にわたって電熱線を装入する、という3つの工程を経て製造されるために、製造コストが高くなる傾向が強い。
【0006】
また、この特許文献1に開示された電気融着継手は、特許文献1の第0009段落に記載の通り、2本のプラスチック管を直列に接続するための継手に過ぎない。より詳しくは、スリーブの内周面は、左方から挿入されたプラスチック管の表面を溶融して融着する左融着部と、右方から挿入されたプラスチック管の表面を溶融して融着する右融着部と、左融着部と左コネクターピン(ターミナルピン)との間の左巻端部と、右融着部と右コネクターピン(ターミナルピン)との間の右巻端部と、左融着部と右融着部との間の渡り部とに区分けされ、凹溝は左巻端部から右巻端部まで連続して形成されており、この中に1本の連続した電熱線が装着されている。すなわち、電気融着継手の左右の受口に同時にプラスチック管を融着することを前提としているために、継手内面には1本の連続した電熱線が左から右(または右から左)へ同一方向に巻き付けてられている。
【0007】
このような構造では、(1)左右両方の受口にプラスチック管を融着して接続するとしても同時に融着しなければならず左右一方ずつ融着することができないという問題点、(2)左右両方ではなく左右のいずれか片方の受口にプラスチック管を融着して接続して他方の受口は他の接続方法によりプラスチック管等を接続させることができない(片受タイプの電気融着継手が実現できない)という問題点、がある。さらに、上記(1)(2)の問題点は、渡り部を設けることなく左右の電熱線を独立させて配置することにより解決することができるが、その場合に左右2ヶ所に2本ずつ配置されるターミナルピンのうちの1本は、電気融着継手の軸芯方向の中央部側に配置されることになる。この場合において、ターミナルピンは電気融着継手のスリーブを貫通する貫通孔に設置されるために、電気融着継手の中央部側にターミナルピンが設置されると、この貫通孔に起因して漏水に繋がる可能性という問題点がある。このため、水密性に影響しないように、左右2ヶ所に2本ずつ合計4本のターミナルピンを配置しなければならない。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された電気融着継手は、接続相手の2本のプラスチック管を直列に、かつ、同時に接続するための継手に過ぎないために、特許文献1には、このような渡り部を設けることなく左右の電熱線を独立させて左右2ヶ所に2本ずつ合計4本のターミナルピンを配置することに関する記載も示唆もない。
特に、外部電源に接続されて電熱線に電力を供給するターミナルピンは、スリーブに埋設された電熱線と十分に接続されていなければプラスチック管を(十分に)融着して(確実に)接続することができない可能性という問題点があるが、特許文献1には、このような問題点自体およびこの問題点の解決手段に関する記載も示唆もない。
【0009】
本発明は、上述の問題点に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、熱可塑性樹脂管の内周部に形成された凹溝に電熱線を嵌入した構造を備え、接続相手のプラスチック管を左右の受口両方に同時にではなく左右の受口の片方ずつ(左右両方が電気融着であっても左右の片方のみが電気融着で他方は電気融着でなくても構わない)電気融着できる電気融着継手であって、ターミナルピンと電熱線との接続をより確実にして電気融着することのできる電気融着継手を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る電気融着継手は、以下の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明に係る電気融着継手は、接続相手の樹脂管が挿入される熱可塑性の樹脂管の内周面に螺旋状で形成された切欠き溝に電熱線が挿入された融着部を備えた電気融着継手であって、前記熱可塑性の樹脂管の外周面から前記電熱線に到達するように穿孔された穴に挿入された、外部の電源から前記電熱線に電気を供給するための略円柱形状で導電性を備えたターミナルピンを含み、前記ターミナルピンの前記電熱線側の端部には、前記電熱線の長手方向に沿って前記電熱線を内包する溝が設けられ、前記ターミナルピンの前記端部と逆側の前記熱可塑性の樹脂管の外周面側の位置であって前記ターミナルピンと前記電熱線とが当接したときに前記熱可塑性の樹脂管の外周面から目視可能な位置に、前記溝の方向を示すマークが付されていることを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記マークは、前記外周面側の端部に設けられた、前記溝と同じ方向の目印溝であるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記溝の断面形状は、溝開放側の溝幅が溝底部の溝幅よりも狭い略逆ハの字型形状であるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記溝における、前記ターミナルピンと前記電熱線との接合は、前記溝の形状または前記電熱線の形状に合致する形状の導電性を備えた接続部材が、前記ターミナルピンおよび前記電熱線と当接して接合されるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記接続部材は、前記電熱線の長手方向の垂直面における断面形状を内包する中空部を備え前記溝幅に合致した略中空円柱形状、または、前記溝幅に合致した略角柱形状であるように構成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、熱可塑性樹脂管の内周部に形成された凹溝に電熱線を嵌入した構造を備え、接続相手のプラスチック管を左右の受口両方に同時にではなく左右の受口の片方ずつ(左右両方が電気融着であっても左右の片方のみが電気融着で他方は電気融着でなくても構わない)電気融着できる電気融着継手であって、ターミナルピンと電熱線との接続をより確実にして電気融着することのできる電気融着継手を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係る電気融着継手の(A)側面図および(B)正面図であって、(C)矢示1C断面図、(D)矢示1D断面図、(E)矢示1E断面図、(F)矢示1F断面図である。
【
図2】
図1に示した電気融着継手の製造方法を説明するための斜視図(その1:往路)である。
【
図3】
図1に示した電気融着継手の製造方法を説明するための斜視図(その2:復路)である。
【
図4】
図2および
図3に示した電気融着継手の製造方法において用いる刃物と電気融着継手(ここでは加工前のスリーブ)との関係を説明するための(A)正面図(その1:往路)、(B)正面図(その2:復路)、である。
【
図5】
図2および
図3に示した電気融着継手の製造方法において用いる専用刃物の(A)~(E)平面図および(F)~(I)斜視図である。
【
図6】
図5に示した専用刃物の各部寸法を説明するための(A)~(C)斜視図および(D)正面図である。
【
図7】電気融着継手100の(A)往路巻線、(B)復路巻線を説明するための図である。
【
図8】電気融着継手200の(A)往路巻線、(B)復路巻線を説明するための図である。
【
図9】比較例に係る電気融着継手の(A)往路巻線、(B)復路巻線を説明するための図である。
【
図10】電気融着継手が備えるターミナルピンを説明するための(A)~(B)平面図、(C)施工手順図、(D)~(E)接続部材図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る電気融着継手および電気融着継手の製造方法を、
図1~
図10を参照して説明する。これらの
図1~
図10において、同じ構成については同じ符号を付しておりその機能も同じであるために、繰り返して説明しない場合がある。
ここで、本発明の実施の形態に係る電気融着継手は、主として中大口径(たとえば内径300mm以上)の電気融着継手であって、この電気融着継手は、熱可塑性樹脂からなる樹脂管(管材、スリーブと記載する場合がある)の内面(内周面と記載する場合がある)に沿って螺旋状に溝(後述する専用刃物の押切刃が内周面に沿った方向から見てV字形状であるので一例としてこの溝の断面形状はV字溝である)を切削加工で設けると同時にこの溝内に電熱線を嵌入するという特徴のある製造方法により製造された構造を備える。さらに、本発明の実施の形態に係る電気融着継手は、電熱線を左右に独立して設けた両受タイプであっても、電熱線を左右の片方にのみ設けた片受タイプであっても構わないが、以下においては両受タイプであるとして説明する。すなわち、本実施の形態に係る電気融着継手は、その軸芯方向の中央部側に特許文献1のような渡り部を設けることなく、左右の電熱線を独立させて左右2ヶ所に電気融着継手の端部側に2本ずつ合計4本のターミナルピンを配置したものであって、中央部側にターミナルピンを設けるための貫通孔(スリーブにおける外周面と内周面とを貫通させる孔)を備えないために、水密性に影響しないという特徴を備える。
【0015】
また、本実施の形態に係る電気融着継手として、
図1に電気融着継手100および電気融着継手200を示しているが、これは巻線構造(巻線のスタート位置Sおよび/または巻線のエンド位置Eが異なる、ならびに、巻線ピッチが異なる巻線方法により製造された構造)が異なる2種類の電気融着継手であって、
図7に示す巻線構造を備える電気融着継手が
図1に示す電気融着継手100であって、
図8に示す巻線構造を備える電気融着継手が
図1に示す電気融着継手200である。なお、
図9に示す巻線構造を備える電気融着継手は比較例に係るものである。
【0016】
さらに、一例ではあるが、
図7~
図8のいずれかに示す巻線構造を採用して、
図5~
図6に示す専用刃物を用いて
図2~
図4に示す製造方法を用いて、管材(スリーブ)の内周面に沿って、かつ、スリーブの端部側から中央部側への往路および中央部側から端部側への復路で形成される螺旋状の溝を専用刃物の押切刃により切削して設けると同時にその溝内に電熱線が嵌入された(埋め込まれた、埋設された)後に、
図10に示すターミナルピンと嵌入された電熱線とが確実に接続されて、
図1に示す電気融着継手が完成される。
【0017】
<電気融着継手の全体構造>
まず、上述したように製造された電気融着継手の全体構造について説明する。
図1(A)および
図1(B)に示すように、本実施の形態に係る電気融着継手100(
図7に示す巻線構造を備える)、電気融着継手200(
図8に示す巻線構造を備える)は、一例として、呼び径250(接続相手の樹脂管の外径が315mmに対応する電気融着継手)の場合、内径317mm、外径400mm、軸方向長さが300mmである、中空円筒形状を備える。以下において、専用刃物1000を含み電気融着継手100等についての数値の絶対値を記載する場合には、注記しなくても、この呼び径250(内径315mm)の電気融着継手に対する数値である。なお、以下において、電気融着継手100および電気融着継手200を電気融着継手100を代表させて説明する場合がある。そして、その内周面に電熱線300が螺旋状に埋設されている。
【0018】
すなわち、この電気融着継手100は、接続相手の樹脂管が挿入される熱可塑性の樹脂管(管材、スリーブ)の内周面に螺旋状で形成された切欠き溝に電熱線300が挿入された融着部を備えている。この融着部は、電気融着継手100の軸方向の少なくとも一方(ここでは両方)の端部側に、電熱線300に(ターミナルピン2000を経由して)通電可能に設けられる。この融着部において、電気融着継手100の開口部側から開口部の逆側の開口部側への往路方向へ螺旋が進行する往路と往路方向と逆方向の復路とが1本の電熱線300で形成されている。
【0019】
さらに具体的には、
図1(C)~
図1(F)に示すように、電気融着継手100は、左右それぞれ1本の電熱線300のスタート位置S側(往路開始側)にターミナルピン2000(S側)を、エンド位置E側(復路終了側)にターミナルピン2000(E側)を、備える。このターミナルピン2000は金属加工品であって、その詳細な構造は後述するが、電熱線300と確実に接続される構造を備える。なお、電気融着継手100におけるターミナルピン2000は、スタート位置S側とエンド位置E側とで円周方向で同じ位置であって軸方向でずれた位置に、これらに対して、電気融着継手200におけるターミナルピン2000は、スタート位置S側とエンド位置E側とで軸方向に略同じ位置であって円周方向でずれた位置に、配置されている。いずれの電気融着継手においても、水密性に影響しないように、(本実施の形態に係る電気融着継手は両受タイプであるために)左右2ヶ所に2本ずつ合計4本のターミナルピンが電気融着継手の(軸方向中心部側ではなく)端部側に配置されている。このような位置にターミナルピン2000を配置するために、
図7~
図8に示すように、巻線構造は、往路巻線とターン部Tと復路巻線とを備える。
【0020】
電気融着継手100は、左右の電熱線300の位置に対応させて、射出成形品を埋め込んだインジケータ3000を備える。電熱線300にターミナルピン2000を経由して電力を供給した電気融着時に、このインジケータ3000が隆起することにより電気融着されていることを確認することができる。
【0021】
<電気融着継手の製造方法>
上述した巻線構造を備えた本実施の形態に係る電気融着継手100は、
図2~
図4を参照して以下において説明する電気融着継手の製造方法により、1本の電熱線300が往路巻線とターン部と復路巻線とを備えるように、電気融着継手の内周面に埋め込まれる。なお、以下において説明する電気融着継手の製造方法で使用する専用刃物1000について、
図5~
図6に示す。
【0022】
本実施の形態に係る電気融着継手100の製造方法は、旋盤に電気融着継手(ここでは完成品としての電気融着継手ではなく中空円筒形状の管材(スリーブ)であるが以下においてこのかっこ書きを記載しない場合がある)を自転させるようにセットする継手セットステップと、旋盤に専用刃物(
図2~
図6に示す専用刃物1000)をセットする刃物セットステップと、専用刃物1000を電気融着継手の内周面に当接させながら軸方向へ移動させるとともに、電気融着継手を自転させて、融着部を形成する融着部形成ステップとを含む。そして、この融着部形成ステップは、専用刃物1000が備える押切刃1200により、内周面に切欠き溝を切削する溝切削ステップと、専用刃物1000が備える電熱線供給孔1210から、電熱線300を切欠き溝へ挿入する(より詳しくは専用刃物1000のボディ部1100が備える電熱線導入孔1110から挿入された電熱線300を専用刃物1000の押切刃1200が備える電熱線供給孔1210から排出して電熱線300を切欠き溝へ挿入する)電熱線挿入ステップと、専用刃物1000が備える押さえガイド1300により、電熱線300が挿入された切欠き溝を電熱線300とともに押圧して電熱線300を切欠き溝内に固定する電熱線固定ステップとを含む。ここで、刃物セットステップにおいては、専用刃物1000の内周方向の向きを180度反転させて、往路から復路へ切り換える(後述するターン部Tを形成する)切り換えステップが実行可能なように、専用刃物1000が旋盤にセットされる。なお、電熱線供給部とは、電熱線導入孔1110および電熱線供給孔1210ならびにそれらの孔どうしを接続する専用刃物1000内部に設けられた連通孔で形成される同じ直径(後述するd1)で形成されているとして説明する場合があったり、これらの同じ直径d1を電熱線供給孔1210の直径として代表させて記載する場合がある。
【0023】
ここで、上述した継手セットステップにおいて、電気融着継手がセットされる旋盤は、汎用旋盤またはNC(Numerical Control、数値制御)旋盤であることが好ましい。
また、
図4(A)に示す往路における専用刃物1000と電気融着継手との関係、および、
図4(B)に示す復路における専用刃物1000と電気融着継手との関係に示すように、専用刃物1000は、押切刃1200、電熱線供給孔1210、押さえガイド1300の順に、自転している電気融着継手の内周面に対向する構造を備え、専用刃物1000が備える電熱線導入孔1110(入口)から電熱線供給孔1210(出口)への方向は、電気融着継手が自転する方向と同じ方向であることが好ましい。
【0024】
また、
図2(C)に示すように、融着部形成ステップは、専用刃物1000の軸方向へ移動(平行移動停止)および電気融着継手の自転を停止(回転停止)させて、専用刃物1000の内周方向の向きを180度反転させて、往路から復路へ切り換える(後述するターン部Tを形成する)切り換えステップをさらに含むことが好ましい。
図2を参照して、この製造方法における融着部形成ステップについて、往路巻線形成と復路巻線形成とに分けて説明する。
【0025】
図2(A)に示すように、往路のスタート位置Sに専用刃物1000を位置決めして、専用刃物1000を電気融着継手の内周面に当接させながら軸方向へ移動(平行移動)を開始させるとともに、電気融着継手の自転(ここでは左側の開口部から見て時計回りに回転)を開始させる。このように専用刃物1000を電気融着継手の内周面に当接させながら専用刃物1000の平行移動および電気融着継手の自転を開始することにより、スタート位置Sから往路巻線300Fが電気融着継手の内周面に埋め込まれ始める。
【0026】
これを、
図7~
図8に示す往路巻線を形成するように、専用刃物1000の平行移動速度と電気融着継手の自転速度とを制御すると、
図2(B)に示すように往路巻線300F(詳しくは
図7(A)および
図8(A)のいずれかの往路巻線)が形成される。
さらに、
図2(C)に示すように、専用刃物1000が往路のエンド位置(ターン部Tの半円の開始位置)に到達するまで
図7~
図8に示す往路巻線300Fが形成されると、切り換えステップを実行する。このとき、専用刃物1000の平行移動と電気融着継手の自転とを停止させて、専用刃物1000の内周方向の向きを180度反転させて、往路から復路へ切り換えるためのターン部Tが形成される。
【0027】
次に、
図3(A)に示すように、復路のスタート位置(ターン部Tの半円の終了位置)にある専用刃物1000を電気融着継手の内周面に当接させながら軸方向へ移動(往路の逆方向に平行移動)を開始させるとともに、電気融着継手の自転(ここでは左側の開口部から見て反時計回りに回転)を開始させる。このように専用刃物1000を電気融着継手の内周面に当接させながら専用刃物1000の平行移動(往路の逆方向であって専用刃物1000をスタート位置Sに接近させるように平行移動)および電気融着継手の自転(往路の逆回転)を開始することにより、ターン部T終了位置から復路巻線300Rが電気融着継手の内周面に埋め込まれ始める。
【0028】
これを、
図7~
図8に示す復路巻線を形成するように、専用刃物1000の平行移動速度と電気融着継手の自転速度とを制御すると、
図3(B)に示すように復路巻線300R(詳しくは
図7(B)および
図8(B)のいずれかの復路巻線)が形成される。
さらに、
図3(C)に示すように、専用刃物1000が復路の終点(エンド位置E)に到達するまで
図7~
図8に示す復路巻線300Rが形成されると、1本の電熱線が、往路巻線300F、ターン部Tおよび復路巻線300Rとして、スタート位置Sからターン部Tを経てエンド位置Eまで、電気融着継手の内周面に埋め込まれる。
【0029】
<専用刃物の構造>
上述した電気融着継手の製造方法に用いられる専用刃物1000の構造上の特徴について、
図5~
図6を参照して以下に詳しく説明する。
上述したように、専用刃物1000は、押切刃1200、電熱線供給孔1210、押さえガイド1300の順に、自転している電気融着継手の内周面に対向する構造を備える。さらに、内周面に沿った方向(
図5~
図6に示す方向)から見た押切刃の形状は略V字形状であって、略V字形状の先端側が内周面に当接して切欠き溝を切削する。
ここで、
図5~
図6に示すように、専用刃物1000の軸方向の長さを刃物幅A、押さえガイド1300の軸方向の幅を押さえガイド幅E、電熱線300の線径を直径d2として、刃物幅Aおよび押さえガイド幅Eは、直径d2の10倍以上であることが好ましい。
【0030】
呼び径250の電気融着継手に対して、上述した刃物幅Aおよび押さえガイド幅Eについては10mmに設定したが、押切による電熱線300の埋込時およびUターン時(ターン部T形成時)における専用刃物1000への負荷が大きく押切刃1200が変形・破損したために、強度向上を目的として刃物幅Aおよび押さえガイド幅Eについては15mmに設定している。ここで、これらの刃物幅Aおよび押さえガイド幅Eについては、電気融着継手の呼び径により変化する可能性があるが、本発明においては、電気融着継手の内周面に埋め込まれる電熱線300の線径である直径d2との関係に着目している。この直径d2は、一般的に、0.7mmから1.1mm程度のものが好ましく用いられる。0.7mmの場合には、A=E=15mm、d2=0.7mmで15/0.7=21.42であって、1.1mmの場合には、A=E=15mm、d2=1.1mmで15/1.1=13.64であって、いずれも刃物幅Aおよび押さえガイド幅Eは、直径d2の10倍以上であることが好ましい。
【0031】
さらに、押切刃1200から押さえガイド1300までの内周面方向の長さを距離G、電熱線300の線径を直径d2として、刃物幅Aおよび押さえガイド幅Eは、直径d2の4倍以上であることが好ましい。
呼び径250の電気融着継手に対して、距離Gを2mmと5mmとで比較した場合、短い方が電熱線300の埋込位置は浅く(埋込位置が継手内面に近く電熱線が目視で確認できて隠れず)好ましくなく、長い方が押さえる効果が大きく(電熱線が目視で確認できず隠れて)好ましい。ここで、これらの距離Gについては、電気融着継手の呼び径により変化する可能性があるが、本発明においては、電気融着継手の内周面に埋め込まれる電熱線300の線径である直径d2との関係に着目している。上述したように、直径d2として、0.7mm、1.1mmとすると、0.7mmの場合には、G=5mm、d2=0.7mmで5/0.7=7.143であって、1.1mmの場合には、G=5mm、d2=1.1mmで5/1.1=4.545であって、いずれも距離Gは、直径d2の4倍以上であることが好ましい。
【0032】
さらに、押切刃1200の略V字形状の先端開先角度を角度αとして、この角度αは、80度未満であることが好ましい。
呼び径250の電気融着継手に対して、押切刃1200の角度αとして、80度および40度とを比較した場合、角度αが大きい方がUターン時(ターン部T形成時)における溝幅が大きくなり電熱線300が溝から浮き出て溝から外れ易いために好ましくなく(角度αが小さくなるとこのような問題点が発生しないために)、本発明においては、この角度αの上限として80度であることが好ましい。
さらに、押切刃1200の軸方向の幅であって先端側とは逆側の幅を押切刃幅B、押切刃1200の略V字形状の高さを押切刃高さCとして、押切刃幅B≦押切刃高さC×0.75であることが好ましい。
【0033】
押切刃1200の押切刃1200の略V字形状の先端開先角度(角度α)に関して、別の観点から考察してみると以下のように判断できる。呼び径250の電気融着継手に対して、Uターン時(ターン部T形成時)における溝幅が大きくなり電熱線300が溝から浮き出て溝から外れ易くなるという問題点を発生させないためには、本発明においては、押切刃幅B≦押切刃高さC×0.75であることが好ましい。
さらに、押切刃1200の軸方向の幅であって先端側とは逆側の幅を押切刃幅B、押切刃1200の略V字形状の高さを押切刃高さC、電熱線300の線径を直径d2として、押切刃幅Bは、直径d2の2.8倍以下であって、押切刃高さCは、直径d2の3.6倍以上であることが好ましい。
【0034】
押切刃1200の押切刃1200の略V字形状の先端開先角度(角度α)に関して、さらに別の観点から考察してみると以下のように判断できる。上述したように、呼び径250の電気融着継手に対して、Uターン時(ターン部T形成時)における溝幅が大きくなり電熱線300が溝から浮き出て溝から外れ易くなるという問題点を発生させないという観点においては、電気融着継手の呼び径により変化する可能性があるが、本発明においては、押切刃1200の外形寸法(押切刃幅Bおよび押切刃高さCであって、呼び径250の場合B=3mm、C=4mm)と、電気融着継手の内周面に埋め込まれる電熱線300の線径である直径d2との関係に着目している。上述したように、直径d2として、0.7mm、1.1mmとすると、0.7mmの場合には、B/d2=3/0.7=4.285(4.3:切り上げ)、C/d2=4/0.7=5.714(5.7:切り捨て)であって、1.1mmの場合には、B/d2=3/1.1=2.727(2.8:切り上げ)、C/d2=4/1.1=3.636(3.6:切り捨て)であって、押切刃幅Bは直径d2の2.8倍以下であって、押切刃高さCは直径d2の3.6倍以上であることが好ましい。
【0035】
さらに、押切刃1200の内周面方向の長さを押切刃長さD、電熱線300の線径を直径d2として、押切刃長さDは、直径d2の10倍以下であることが好ましい。
呼び径250の電気融着継手に対して、押切刃長さDは極力短い方がUターン時(ターン部T形成時)の負荷が小さくなると想定される。ただし、短くなると押切刃1200の剛性が低下するために6~7mm程度の長さを確保する方ことが好ましい。ここで、この押切刃長さDについては、電気融着継手の呼び径により変化する可能性があるが、本発明においては、電気融着継手の内周面に埋め込まれる電熱線300の線径である直径d2との関係に着目している。上述したように、直径d2として、0.7mm、1.1mmとすると、0.7mmの場合には、D=6~7mm、d2=0.7mmで8.57(=6/0.7)~10(=7/0.7)であって、1.1mmの場合には、5.45(=6/1.1)~6.36(=7/1.1)であって、いずれも押切刃長さDは、直径d2の10倍以下であることが好ましい。
【0036】
さらに、電熱線供給部の直径(より詳しくは電熱線導入孔1110および電熱線供給孔1210ならびにそれらの孔どうしを接続する専用刃物1000内部に設けられた連通孔が備える直径であって同じ直径であって電熱線供給孔1210の直径で代表させて記載する場合がある)を直径d1、電熱線の線径を直径d2として、直径d1は、直径d2の2倍以上であることが好ましい。
【0037】
ここで、直径d1と直径d2との関係(差、クリアランス)については、呼び径が異なる電気融着継手に対しても同じ関係が基本的には成立する。電熱線300の線径である直径d2については、専用刃物1000における電熱線供給部の直径である直径d1と電熱線300の線径である直径d2との差が0.4mm程度の場合、電熱線300が専用刃物1000を通過する時の抵抗が大きく電熱線の破断が確認された(直径d1:1.5mm、直径d2:1.1mm)。これらの差(直径d1-直径d2)としてクリアランス0.8mm程度を確保した場合(直径d1:1.5mm、直径d2:0.7mm)、電熱線300の破断が確認されなかった。これらのことから、電熱線300の線径である直径d2と同等程度のクリアランスを確保することが好ましい。
【0038】
<巻線構造>
上述した電気融着継手の製造方法において用いられる巻線方法の特徴およびその製造方法により製造された電気融着継手が備える巻線構造の特徴について、
図7~
図9を参照して以下に詳しく説明する。なお、
図7および
図8が本実施の形態に係る電気融着継手100および電気融着継手200の巻線構造を説明するための図であって、
図9はそれらと比較する比較例に係る電気融着継手巻線構造を説明するための図である。また、
図7および
図8における巻線構造において、ターン部Tの位置(ターン部Tのピッチ)は、本実施の形態に係る電気融着継手の製造装置の動作状況により(以下に示す条件を満足する範囲において)適宜変更することが可能である。
【0039】
上述したように、電気融着継手が備える融着部において、左右2ヶ所に2本ずつ合計4本のターミナルピン2000が電気融着継手の(軸方向中心部側ではなく)端部側に配置するために、電気融着継手100の開口部側から開口部の逆側の開口部側への往路方向へ螺旋が進行する往路と往路方向と逆方向の復路とがターン部Tを経由する巻線方法により1本の電熱線300が埋め込まれた巻線構造を備える。この巻線構造は、以下のような特徴を備える。
【0040】
電気融着継手が備える融着部は、往路および復路ともに、螺旋状のピッチが同一ピッチで形成される融着部における軸方向中央部の第1エリアと、螺旋状のピッチが同一ピッチよりも最大で2倍のピッチで形成される中央部以外の第2エリアとを含む。
より詳しくは、電気融着継手が備える融着部におけるエリアを、融着部における軸方向中央部の第1エリアと、その中央部である第1エリア以外の電熱線300のスタート位置Sおよびエンド位置Eならびにターン部Tを含む第2エリアとに分けて、第1エリアにおける螺旋状の巻線ピッチが同一ピッチで形成されるとともに、第2エリアにおける螺旋状の巻線ピッチが第1エリアの同一ピッチよりも最大で2倍のピッチで形成される。
【0041】
第1エリアの巻線ピッチに対して、
図9に示すように、第2エリアの巻線ピッチを約3~5倍程度とすると、融着時に電熱線300が外側に移動し易く電気融着継手外側へのはみ出しや、往路・復路の電熱線接触による短絡(ショート)が発生し易い傾向が見られた。一方、第1エリアの巻線ピッチに対して、第2エリアの巻線ピッチの変化が小さい(第2エリアの巻線ピッチが、第1エリアの同一ピッチと同じ、または、第1エリアの同一ピッチよりも最大で2倍)場合には、電熱線300のはみ出しや短絡(ショート)が発生し難い傾向がある。このため、第2エリアの巻線ピッチは、第1エリアの巻線ピッチに対して同等(同一を含む)~2倍程度に抑えることが好ましい。
【0042】
図7~
図9に示す呼び径250の電気融着継手の場合であるために一例ではあるが、巻線ピッチを第1エリアと第2エリアとに分けて、以下に示す。
比較例に係る電気融着継手の巻線構造である
図9(A)の往路巻線に示すように往路加工ピッチは、第1エリアがF(n)~F(n+1)=9.0mm(n=1~5)であって、第2エリアがF(0)~F(1)=14.5mmおよびF(6)~F(7)=20.5mm(ターン部T)であって、第2エリアの巻線ピッチ(ここではF(6)~F(7)=20.5mm(ターン部T))が、第1エリアの同一ピッチ(ここではF(n)~F(n+1)=9.0mm(n=1~5))の2.3倍であるために、第2エリアの巻線ピッチが、第1エリアの同一ピッチと同じではなく、第1エリアの同一ピッチよりも最大で2倍も満足しない。
【0043】
また、
図9(B)の復路巻線に示すように復路加工ピッチは、第1エリアがR(n)~R(n+1)=9.0mm(n=1~5)であって、第2エリアがR(0)~R(1)=35.0mmおよびF(6)~F(7)=15.0mm(ターン部T)であって、第2エリアの巻線ピッチ(ここではR(0)~R(1)の35.0mm)が、第1エリアの同一ピッチ(ここではR(n)~R(n+1)の9.0mm(n=1~5))の3.9倍であるために、第2エリアの巻線ピッチが、第1エリアの同一ピッチと同じではなく、第1エリアの同一ピッチよりも最大で2倍も満足しない。
【0044】
この
図9に示す巻線構造では、融着時に電熱線300が外側に移動し易く電気融着継手外側へのはみ出しや、往路・復路の電熱線接触による短絡(ショート)が発生し易い傾向が見られた。
次に、本実施の形態に係る電気融着継手100の巻線構造である
図7(A)の往路巻線に示すように往路加工ピッチは、第1エリアがF(n)~F(n+1)=13.0mm(n=0~3)であって、第2エリアがF(4)~F(5)=16.5mm(ターン部T)であって、第2エリアの巻線ピッチが、(第1エリアの同一ピッチと同じ、または、)第1エリアの同一ピッチよりも最大で2倍を満足する。
【0045】
また、
図7(B)の復路巻線に示すように復路加工ピッチは、第1エリアおよび第2エリアがR(n)~R(n+1)=13.0mm(n=0~6:ターン部含む)であって、第2エリアの巻線ピッチが、第1エリアの同一ピッチと同じ(、または、第1エリアの同一ピッチよりも最大で2倍)を満足する。
さらに、本実施の形態に係る電気融着継手200の巻線構造である
図8(A)の往路巻線に示すように往路加工ピッチは、第1エリアおよび第2エリアがF(n)~F(n+1)=13.0mm(n=0~5:ターン部含む)であって、第2エリアの巻線ピッチが、第1エリアの同一ピッチと同じ(、または、第1エリアの同一ピッチよりも最大で2倍)を満足する。
【0046】
また、
図8(B)の復路巻線に示すように復路加工ピッチは、第1エリアがR(n)~R(n+1)=13.0mm(n=0~4)であって、第2エリアがR(5)~R(6)=14.5mm(ターン部T)であって、第2エリアの巻線ピッチが、(第1エリアの同一ピッチと同じ、または、)第1エリアの同一ピッチよりも最大で2倍を満足する。
これらの
図7に示す巻線構造および
図8に示す巻線構造では、
図9に示す比較例に係る巻線構造とは異なり、融着時に電熱線300が外側に移動し易く電気融着継手外側へのはみ出しや、往路・復路の電熱線接触による短絡(ショート)が発生し易い傾向が見られなかった。
【0047】
また、上述したように第1エリアと第2エリアとに分けたうちの第2エリアは、往路から復路への切り換え部分(ターン部T)を含む。
さらに、この切り換え部分(ターン部T)のピッチは、第1エリアの同一ピッチ以上であることが好ましい。
呼び径250の電気融着継手の場合であって、一例ではあるが、切り換え部分(ターン部T)のピッチは、
図7(A)の往路巻線に示すように第1エリアにおける同一ピッチ13.0mmに対して16.5mm、
図7(B)の復路巻線に示すように第1エリアにおける同一ピッチ13.0mmに対して13.0mm、
図8(A)の往路巻線に示すように第1エリアにおける同一ピッチ13.0mmに対して13.0mm、
図8(B)の復路巻線に示すように第1エリアにおける同一ピッチ13.0mmに対して14.5mmであって、切り換え部分(ターン部T)のピッチは、第1エリアの同一ピッチ以上であることを満足する。
【0048】
なお、上述したように第2エリアの巻線ピッチが第1エリアの同一ピッチと同じ、または、第1エリアの同一ピッチよりも最大で2倍を満足しない点で好ましくない巻線構造を示す
図9における切り換え部分(ターン部T)のピッチは、
図9(A)の往路巻線に示すように第1エリアにおける同一ピッチ9.0mmに対して20.5mm、
図9(B)の復路巻線に示すように第1エリアにおける同一ピッチ9.0mmに対して15.0mmであって、切り換え部分(ターン部T)のピッチは、第1エリアの同一ピッチ以上であることを満足している。このため、
図9における巻線構造について、第2エリアの巻線ピッチが第1エリアの同一ピッチと同じ、または、第1エリアの同一ピッチよりも最大で2倍を満足させるように変更すると、融着時に電熱線300が外側に移動し易く電気融着継手外側へのはみ出しや、往路・復路の電熱線接触による短絡(ショート)が発生し易い傾向を解消することができ、好ましい巻線構造を実現することができる。
【0049】
切り換え部分(ターン部T)は、第1エリアにおける同一ピッチの半分よりも大きい直径の半円で形成されることが好ましい。
切り換え部分(ターン部T)は、第1エリアにおける同一ピッチの半分に対して150%以上の直径の半円で形成されることが好ましい。
ことが好ましい。
【0050】
呼び径250の電気融着継手の場合であって、一例ではあるが、切り換え部分(ターン部T)の半円の直径は、
図7(A)の往路巻線に示すように第1エリアにおける同一ピッチ13.0mmに対して10.0mm、
図7(B)の復路巻線に示すように第1エリアにおける同一ピッチ13.0mmに対して10.0mm、
図8(A)の往路巻線に示すように第1エリアにおける同一ピッチ13.0mmに対して10.0mm、
図8(B)の復路巻線に示すように第1エリアにおける同一ピッチ13.0mmに対して10.0mmであって、切り換え部分(ターン部T)は、第1エリアにおける同一ピッチの半分よりも大きい直径の半円、および、第1エリアにおける同一ピッチの半分に対して150%以上の直径の半円であることを満足する。
【0051】
なお、上述したように第2エリアの巻線ピッチが第1エリアの同一ピッチと同じ、または、第1エリアの同一ピッチよりも最大で2倍を満足しない点で好ましくない巻線構造を示す
図9における切り換え部分(ターン部T)の半円の直径は、
図9(A)の往路巻線に示すように第1エリアにおける同一ピッチ9.0mmに対して10.0mm、
図9(B)の復路巻線に示すように第1エリアにおける同一ピッチ9.0mmに対して10.0mmであって、切り換え部分(ターン部T)は、第1エリアにおける同一ピッチの半分よりも大きい直径の半円、および、第1エリアにおける同一ピッチの半分に対して150%以上の直径の半円であることを満足している。このため、
図9における巻線構造について、第2エリアの巻線ピッチが第1エリアの同一ピッチと同じ、または、第1エリアの同一ピッチよりも最大で2倍を満足させるように変更すると、融着時に電熱線300が外側に移動し易く電気融着継手外側へのはみ出しや、往路・復路の電熱線接触による短絡(ショート)が発生し易い傾向を解消することができ、好ましい巻線構造を実現することができる。
【0052】
<ターミナルピン構造>
上述した電気融着継手を構成するターミナルピン2000の構造上の特徴について、
図10を参照して以下に詳しく説明する。
上述したように、本実施の形態に係る電気融着継手は、その軸芯方向の中央部側に特許文献1のような渡り部を設けることなく、左右の電熱線を独立させて左右2ヶ所に電気融着継手の端部側に2本ずつ合計4本のターミナルピン2000を配置したものであって、中央部側にターミナルピンを設けるための貫通孔(スリーブにおける外周面と内周面とを貫通させる孔)を備えないために、水密性に影響しないという特徴を備える。このターミナルピン2000は、螺旋状の溝を専用刃物1000の押切刃1200により切削して設けると同時にその溝内に電熱線を嵌入した後に(
図2および
図3に示す工程の後に)、
図10に示すターミナルピン2000と、内周面に嵌入された電熱線とが確実に接続される。このように本実施の形態に係る電気融着継手が備えるターミナルピン2000は、内周面に埋め込まれた電熱線300と確実に接続される構造を備える。
【0053】
図10(A)に示すターミナルピン2000および
図10(B)に示すターミナルピン2100は、ともに本実施の形態に係る電気融着継手が備えるターミナルピンであって、電熱線300側の端部2030に設けられて電熱線300の長手方向に沿って電熱線300を内包する溝の形状が異なる。
図10(A)に示すターミナルピン2000はテーパを備えない溝2032であって、
図10(B)に示すターミナルピン2100はテーパを備えるテーパ溝2132である。この点のみがターミナルピン2000とターミナルピン2100とで異なる。また、
図10(C)は、ターミナルピンを挿入する穿孔を設ける手順およびその穿孔へターミナルピンを挿入して電熱線300側の端部2030に設けられた溝に電熱線300を内包させて、ターミナルピンと電熱線300とを確実に接続させる手順を示す。なお、ターミナルピン2000およびターミナルピン2100を、ターミナルピン2000で代表させて説明する場合がある。
【0054】
このターミナルピン2000は、熱可塑性の樹脂管(管材、スリーブ)の外周面から電熱線300に到達するように穿孔された穴に挿入された、外部の電源から電熱線300に電気を供給するための略円柱形状で導電性(ターミナルピンの素材として銅、鉛等を用いることが一例)を備える。ターミナルピン2000の電熱線300側の端部2030には(この端部2030はより具体的には略円柱形状の下側端面である)、電熱線300の長手方向に沿って電熱線300を内包する溝2032(ターミナルピン2100の場合にはテーパ溝2132)が設けられ、ターミナルピン2000の端部と逆側の熱可塑性の樹脂管の外周面側の位置であってターミナルピンと電熱線とが当接したときに熱可塑性の樹脂管の外周面から目視可能な位置に、溝2032(またはテーパ溝2132)の方向を示すマークが付されている。この場合において、このマークは、溝2032(またはテーパ溝2132)の方向を示すとともに、ターミナルピン2000(またはターミナルピン2100)と電熱線300とが当接したときに熱可塑性の樹脂管の外周面から目視可能であるために、電熱線300を確実に溝2032(またはテーパ溝2132)に内包することができる。
【0055】
このマークは、外周面側の端部2010に設けられた(この端部2010はより具体的には略円柱形状の上側端面である)、溝2032(またはテーパ溝2132)と同じ方向の目印溝2012であることが好ましい。この場合において、
図10(A)および
図10(B)に示すように、溝2032(またはテーパ溝2132)と目印溝2012とは同じ方向であって、この目印溝2012はターミナルピン2000(またはターミナルピン2100)と電熱線300とが当接したときに熱可塑性の樹脂管の外周面から目視可能であるために、電熱線300を確実に溝2032(またはテーパ溝2132)に内包することができる。
【0056】
テーパ溝2132の断面形状は、溝開放側の溝幅が溝底部の溝幅よりも
狭い略逆ハの字型形状であることが好ましい。これにより、電熱線300とターミナルピン2000とをはんだ付けにより接続して融着するときの通電不良をより確実に防止することができる。
図10(A)に示すターミナルピン2000および
図10(B)に示すターミナルピン2100は、上述したように、略円柱形状で導電性を備え、電熱線300側の端部2030(下側端面)には、電熱線300の長手方向に沿って電熱線300を内包する溝2032(またはテーパ溝2132)が設けられ、この端部2030と逆側の熱可塑性の樹脂管の外周面側の位置であってターミナルピンと電熱線とが当接したときに熱可塑性の樹脂管の外周面から目視可能な位置(端部2010(上側端面))に、溝2032(またはテーパ溝2132)と同じ方向の目印溝2012が設けられている。さらに、端部2010(上側端面)と端部2030(下側端面)との間の中間部には、抜け防止の鍔2020が設けられている。
【0057】
このような構成を備えたターミナルピン2000の設置手順について
図10(C)を参照して説明する。なお、以下に説明する手順において、(C1)~(C3)については巻線形成前に実施され、(C4)~(C5)は巻線形成後(
図2および
図3に示す工程後)に実施される。また、各部寸法については、呼び径250の電気融着継手を一例としている。
(C1)電気融着継手100の外周面から内周面へ向けて、鍔2020の大きさ(直径)に対応した直径の穴をドリルで開ける。このとき、鍔2020の位置に合わせて穴の深さが決定される。たとえば、鍔2020の最大径10.5mmであることに対して直径10mmの穴を開ける。また、鍔2020の最下端がターミナルピン2000の上側端面から15mmの位置であることに対して18mmの深さの穴を開ける。
【0058】
(C2)上記(C1)で決定されている深さでドリルを停止させて、外周面の穴周囲を面取りする。たとえば、2mmで面取りする。
(C3)電気融着継手100の外周面から内周面へ向けて、ターミナルピン2000の鍔2020よりも下側の大きさ(直径)に対応した直径の穴をドリルで開ける。たとえば、鍔2020よりも下側の大きさ(直径)が5mm~6mmであることに対して直径8mmの穴を内周面まで貫通させる。これ以降の(C4)および(C5)は、
図2および
図3に示す巻線工程後の処理である。 (C4)ターミナルピン2000を貫通孔へ挿入する。このとき、目印溝2012を目視で確認して、その目印溝2012と同じ方向に設けられている溝2032が電熱線300を内包するように(電熱線300の長手方向と目印溝2012とが平行な位置になるようにして溝2032が電熱線300を内包するように)ターミナルピン2000を貫通孔へ挿入する。
【0059】
(C5)貫通孔へ挿入されて、電熱線300が溝2032に内包された状態のターミナルピン2000において、電熱線300をはんだ付けして、ターミナルピン2000と電熱線300とを接続する。
このように、溝2032(またはテーパ溝2132)に内包された電熱線300とターミナルピン2000(またはターミナルピン2100)とは(一例ではあるが)はんだ付けにより接続される。しかしながら、本発明はこのようなはんだ付けによる接続に限定されるものではなく、以下のような接続を採用することができる。このはんだ付け以外の接続について、
図10(D)および
図10(E)を参照して説明する。なお、
図10(D)および
図10(E)は、電熱線300とターミナルピン2100との接続について記載しているが、ターミナルピン2100ではなくターミナルピン2000であっても構わない。
【0060】
図10(D)および
図10(E)に示すように、テーパ溝2132における、ターミナルピン2100と電熱線300との接合は、テーパ溝2132の形状または電熱線300の形状に合致する形状の導電性を備えた接続部材が、ターミナルピン2100および電熱線300と当接して接合されることが好ましい。
このような接続部材として、
図10(D)に示すように、接続部材2210は、電熱線300の長手方向の垂直面における断面形状を内包する中空部を備え溝幅に合致した略中空円柱形状であっても構わないし、または、
図10(E)に示すように、接続部材2220は、溝幅に合致した略角柱形状であっても構わない。なお、ターミナルピン2000よりもターミナルピン2100の方が、接続部材2210、接続部材2220がテーパ溝2132に嵌り込むとテーパ溝2132から抜けにくいために、好ましい。
【0061】
<上述した実施の形態の作用効果>
上述した構成を備えた電気融着継手の製造方法および電気融着継手によると、以下の作用効果を奏する。
(1-1)汎用の普通旋盤またはNC旋盤に専用刃物を取付け、スリーブを自転させることで内周面に電熱線の設置(埋め込み)を行うために、射出成形設備および専用の電熱線巻付加工設備を使用せずに、電熱線の設置・固定が可能となる。特に、射出成形の場合には、サイズ毎の専用金型が必要であったが、本実施の形態に係る電気融着継手の製造方法によると、比較的容易に母材のスリーブ径に合わせた電気融着継手を製造することが可能となる。
(1-2)押切刃でスリーブ内周面を切り欠いて電熱線を挿入しながら専用刃物を内周面に沿って進行させることにより、押さえガイドの通過時に電熱線の固定も可能となるために、一度の工程で、溝掘・電熱線設置・固定が可能となる。その結果、製造時間を短縮することが可能となる。
(1-3)比較的容易に押切刃の高さ、専用刃物内の電熱線の通過孔径・位置を変更することが可能であるために、電気融着継手の内周面の電熱線の埋込深さおよび電熱線径を任意に、かつ、比較的容易に調整することが可能となる。
(1-4)比較的容易に押切刃の形状を「略V字形状」以外の「円錐形」等に変更可能であるために、電熱線の巻線ピッチを大きく変化させる場合または巻線方向を極端に変化させる場合(180°反転させてターン部Tを形成する場合等)に、押切刃に作用する抵抗を抑えることが可能となる。
【0062】
(2)本実施の形態に係る電気融着継手においては、融着部におけるエリアを、融着部における軸方向中央部の第1エリアと、その中央部である第1エリア以外の電熱線のスタート位置およびエンド位置ならびにターン部を含む第2エリアとに分けて、第1エリアにおける螺旋状の巻線ピッチが同一ピッチで形成されるとともに、第2エリアにおける螺旋状の巻線ピッチが第1エリアの同一ピッチよりも最大で2倍のピッチであるような巻線構造を採用した。すなわち、電気融着継手における一般的な巻線構造である、継手入口(端部)およびターン部(第2エリア)付近の巻線ピッチが融着部中央部(第1エリア)と比較して大きいのではなく、最大でも2倍を越えないようにしたために(巻線ピッチを大きくしないために)、融着時に電熱線が外側に移動し難く、電気融着継手外側へのはみ出すことも、往路・復路の電熱線接触による短絡(ショート)が発生し難い傾向が見られた。さらに、接合品質に大きく影響しない場合であっても、電気融着継手からの電熱線のはみ出しを抑えることで、外観向上にも繋がる。また、電熱線の巻付時、巻線ピッチが大きくなると専用刃物の押切刃に作用する負荷が斜め方向に力が働くために大きくなる。巻線ピッチが同一または2倍を越えないようにすることにより、専用刃物の押切刃の摩耗抑制および変形抑制にも繋がる。
【0063】
(3)ターミナルピンを穿孔に挿入する時(打込み時)にターミナルピンが回転して溝に電熱線が収まらないことがあるとターミナルピンを電熱線に確実に接続することができなかったが、電気融着継手の外周面から目視可能な位置に、溝の方向を示すマーク(目印溝)が付したために、ターミナルピンの挿入途中にターミナルピンの回転の有無を確認できて、電熱線を確実に溝に内包することができる。また、はんだ付け以外によりターミナルピンを電熱線に接続することにより、通電途中にはんだが外れて電気融着処理が中断してしまうという事態をより確実に回避することができる。その結果、ターミナルピンと電熱線とを確実に接続できることにより、施工現場での融着トラブルを防ぐことが可能となる。
【0064】
以上のようにして、本実施の形態に係る電気融着継手および電気融着継手の製造方法によると、熱可塑性樹脂管の内周部に形成された凹溝に電熱線を嵌入した構造を備えた電気融着継手であって、プラスチック管を左右の受口両方に一度ではなく左右の受口の片方ずつ(左右両方が電気融着であっても左右の片方のみが電気融着で他方は電気融着でなくても構わない)を、製造コストを上昇させることなく水密性に影響しないようにして、ターミナルピンと電熱線との接続をより確実にして、電気融着することのできる電気融着継手を提供することができる。
【0065】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、熱可塑性樹脂管の内周部に形成された凹溝に電熱線を嵌入した構造を備えた電気融着継手に好ましく、接続相手のプラスチック管を左右の受口両方に同時にではなく左右の受口の片方ずつ(左右両方が電気融着であっても左右の片方のみが電気融着で他方は電気融着でなくても構わない)電気融着できる電気融着継手を、製造コストを上昇させることなく水密性に影響しないようにして、ターミナルピンと電熱線との接続をより確実にして、提供できる点で特に好ましい。
【符号の説明】
【0067】
100 電気融着継手
200 電気融着継手
300 電熱線
300F 往路巻線
300R 復路巻線
1000 専用刃物
1100 ボディ部
1110 電熱線導入孔
1200 押切刃
1300 押さえガイド
1600 ハウジング接合部
2000 ターミナルピン
3000 インジケータ