(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】乗客コンベア、乗客コンベアの異常診断装置、及び乗客コンベアの異常診断方法
(51)【国際特許分類】
B66B 29/00 20060101AFI20241202BHJP
【FI】
B66B29/00 G
(21)【出願番号】P 2021185537
(22)【出願日】2021-11-15
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 隆行
(72)【発明者】
【氏名】小平 法美
(72)【発明者】
【氏名】大西 友治
【審査官】中田 誠二郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-173364(JP,A)
【文献】特開2019-199333(JP,A)
【文献】特開2018-8757(JP,A)
【文献】特開2017-149497(JP,A)
【文献】特開2021-11371(JP,A)
【文献】特開2004-93256(JP,A)
【文献】米国特許第5881859(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00-31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドレールを駆動するハンドレール駆動機構の異常診断を行なう乗客コンベアであって、
前記ハンドレール駆動機構が設けられている領域に位置するスカートガードに、前記ハンドレール駆動機構の動作状態を検出するセンサユニットを備え、前記ハンドレール駆動機構を稼働した状態で、前記センサユニットで前記ハンドレール駆動機構の異常を検出する異常検出部を備える乗客コンベア。
【請求項2】
請求項1に記載の乗客コンベアであって、
前記センサユニットは、前記ハンドレール駆動機構の動作状態を検出する検出器を備えると共に、前記センサユニットは、診断機能を備えた外部の情報機器と電気信号的に接続されており、
前記センサユニットに設けられた前記検出器からの検出信号は、前記外部の情報機器に送信され、前記外部の情報機器は、前記検出信号に基づいて前記ハンドレール駆動機構の異常診断を実行する乗客コンベア。
【請求項3】
請求項2に記載の乗客コンベアであって、
前記センサユニットは、前記スカートガードに着脱可能に取り付けられた乗客コンベア。
【請求項4】
請求項3に記載の乗客コンベアであって、
前記スカートガードには、前記センサユニットの取付位置である前記ハンドレール駆動機構の位置を示す目印が貼付されている乗客コンベア。
【請求項5】
ハンドレールを駆動するハンドレール駆動機構の異常診断を行なう乗客コンベアの異常診断装置であって、
前記ハンドレール駆動機構が設けられている領域に位置するスカートガードに設置され、前記ハンドレール駆動機構の動作状態を検出するセンサユニットを備え、前記ハンドレール駆動機構を稼働した状態下で、前記センサユニットで前記ハンドレール駆動機構の異常を検出する乗客コンベアの異常診断装置。
【請求項6】
ハンドレールを駆動するハンドレール駆動機構の異常診断を行なう乗客コンベアの異常診断方法であって、
前記ハンドレール駆動機構の動作状態を検出するセンサユニットを備えたセンサ箱を、前記ハンドレール駆動機構が設けられている領域に位置するスカートガードに取り付け、
その後に前記ハンドレール駆動機構を稼働した状態で、前記センサユニットで前記ハンドレール駆動機構の異常を検出する
ことを特徴とする乗客コンベアの異常診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレーターや動く歩道などの乗客コンベアのハンドレールを駆動するために設けられているハンドレール駆動機構の異常診断に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアとして、エスカレーターや、例えばオートライン(登録商標)と呼ばれる動く歩道が知られている(動く歩道は、階段状に変化するステップを有さずに人や荷物を搬送する形態である)。以下では、乗客コンベアとして、エスカレーターを代表例として説明を進めるが、場合によって乗客コンベアと表記することもある。
【0003】
乗客コンベアとして知られているエスカレーターは、建築構造物(ビルや駅舎)に設置されるフレームと、このフレーム内に設けられて循環移動する無端状に連結された複数のステップと、このステップと同期して移動するハンドレールを備えている。このハンドレールの駆動装置においては、上部機械室内に設置されるエスカレーター駆動機構(ドライビングマシン)により駆動チェーン(ドライビングチェーン)を介して、上部機械室内に設置された上部ターミナルギヤに設けられたステップ駆動スプロケットに駆動力が与えられている。
【0004】
そして、このステップ駆動スプロケットが回転駆動されることにより、同じく上部ターミナルギヤに設けられたハンドレール駆動スプロケットも回転駆動され、ハンドレール駆動スプロケットに連結されてるハンドレール駆動チェーンによってハンドレールローラーが駆動され、これによってハンドレールが駆動されている。
【0005】
このハンドレールローラーには、ハンドレールを駆動するための駆動ローラーと、弾性力によってハンドレールを加圧している従動ローラーとから構成されており、駆動ローラーと従動ローラーの間にハンドレールを通し、ハンドレールを挟圧することでハンドレールを移動させている。以上に説明した構成は、動く歩道動においても同様の構成が採用されている。
【0006】
そして、このようなハンドレールを異常なく駆動するためには、これらのハンドレールローラーの経年劣化による回転の異常や、異物の混入等によるハンドレールローラーの固渋等の異常や、ハンドレールのスリップといった異常がないか定期的に診断する必要がある。
【0007】
従来の一般的な機械における回転体の回転状態を診断する方法としては、例えば、特開2004-93256号公報(特許文献1)のように、予め回転体にセンサユニットを取り付け、信号線でセンサユニットから検出情報を収集して回転体の異常を検出することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1における異常診断システムは、鉄道車両の車軸の回転軸受の異常を検出する技術であって、エスカレーターのような乗客コンベアのハンドレール駆動機構の異常診断にはついては考慮されていない。
【0010】
乗客コンベアには乗客が安全に利用できるように、スカートガードと内デッキが設けられており、これらの内側にハンドレール駆動機構が設置されている構造となっている。このため、このままの状態ではハンドレール駆動機構の動作状態の確認作業は不可能であり、ハンドレール駆動機構の動作状態を確認するためには、スカートガードと内デッキを取り外す必要がある。特許文献1には、このような乗客コンベアの固有の構成における異常検出方法について言及されていない。
【0011】
また、特許文献1のようにセンサユニットを予めハンドレール駆動機構に設けるとハンドレール駆動機構が複雑となり保守性が低下するという課題を新たに生じる。一方で、乗客コンベアにおいては、任意の時期、例えば定期的に保守点検が行われているので、この機会にハンドレール駆動機構の動作状態の確認作業を行えば良いという背景事情がある。
【0012】
本発明の目的は、乗客コンベアのハンドレール駆動機構の異常を検出する場合に、スカートガードを外すことなく任意の時期(例えば点検時)に異常診断を行うことができる乗客コンベア、乗客コンベアの異常診断装置、及び乗客コンベアの異常診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ハンドレール駆動機構が設けられている領域に位置するスカートガードにセンサユニットを備え、ハンドレール駆動機構を稼働した状態でセンサユニットによって異常を検出することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、乗客コンベアのハンドレール駆動機構の異常を検出する場合に、スカートガードを外すことなく任意の時期に異常診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明が適用されるエスカレーターの全体を示す構成図である。
【
図2】
図1に示すエスカレーターのハンドレールを駆動するために設けられているハンドレール駆動機構の構成を示す構成図である。
【
図3】本発明の実施形態になる、ハンドレール駆動機構の異常を検出するために使用するセンサ箱をスカートガードに取り付けた状態を示す外観斜視図である。
【
図4】
図3に示すセンサ箱に収納されたセンサユニットの構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の実施形態になるハンドレール駆動機構の異常を検出するための作業手順を示すフローチャートである。
【
図6】センサユニットで実行される異常診断の判定パターンと判定結果を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【0017】
次に、本発明の実施形態になる乗客コンベアの異常診断装置、及び異常診断方法について説明するが、代表例としてエスカレーターに本発明を適用した例を説明する。
【0018】
図1は本発明が適用される対象となるエスカレーター10の全体の構成を示している。エスカレーター10は、建築構造物に設置されたフレーム11と、制御盤12と、欄干13と、複数のステップ14と、ハンドレール15と、エスカレーター駆動機構16とを備えている。
【0019】
上部機械室17内にはステップ/ハンドレール駆動機構18が設置されており、制御盤12から電力が供給され、制御盤12によりその動作が制御される。このステップ/ハンドレール駆動機構18から駆動チェーン19を介して上部ターミナルギヤ20に設けられているステップ駆動スプロケット21に駆動力が伝達される。
【0020】
同様に、ステップ駆動スプロケット21が回転駆動されることにより、同じく上部ターミナルギヤ20に設けられたハンドレール駆動スプロケット22も回転駆動され、ハンドレール駆動スプロケット22に連結されているハンドレール駆動チェーン23によりハンドレール駆動機構24が駆動される。結果的にハンドレール15が駆動される構成となっている。尚、ハンドレール駆動機構24については、エスカレーター10の左右1個所ずつ設置されている。このような、エスカレーターの構成は、既によく知られた構成である。
【0021】
次に、エスカレーター10のハンドレール15を駆動するために設けられているハンドレール駆動機構24について、
図2を用いて説明する。
図2はエスカレーター10のハンドレール15を駆動するために設けられているハンドレール駆動機構24を正面から見たものである。
【0022】
ハンドレール駆動機構24には、ハンドレール15を駆動するための3個の駆動ローラー25と、3個の従動レバー26に回転自在に取り付けられた3個の従動ローラー27と、従動レバー26を駆動ローラー25の側に弾性的に付勢して、従動ローラー27を駆動ローラー25の側に付勢する付勢ばね28を備えている。
【0023】
そして、駆動ローラー25と従動ローラー27の間にハンドレール15を通し、ハンドレール15を駆動ローラー25と従動ローラー27とで挟圧することで、ハンドレール15を移動させている。
【0024】
尚、
図1に示した通り、駆動ローラー25は、上部ターミナルギヤ20に設けられたステップ駆動スプロケット21が回転駆動されることにより、同じく上部ターミナルギヤ20に設けられたハンドレール駆動スプロケット22も回転駆動される。そして、ハンドレール駆動スプロケット22に連結されてるハンドレール駆動チェーン23により、駆動ローラー25が駆動されることで、ハンドレール15が移動するようになる。このような、ハンドレール駆動機構24の構成は、既によく知られた構成である。
【0025】
次に、エスカレーター10のハンドレール駆動機構24の異常状態を検出するために使用するセンサ箱の構成、及びセンサ箱を使用した診断方法の処理手順について
図3~
図5を用いて説明する。
図3は、センサ箱をスカートガードに取り付けた状態でのハンドレール駆動機構24を斜め上方から眺めたものであり、
図4は、センサユニットの構成を示すものであり、
図5は、異常診断を行う手順を示すものである。
【0026】
ハンドレール駆動機構24においては、異常事象として発生するのは、特に駆動ローラー25の固渋やハンドレール15のスリップである。したがって、通常の状態では、スカートガード29や内デッキが存在するので、ハンドレール駆動機構24の異常状態の確認作業は不可能である。
【0027】
このため、ハンドレール駆動機構24の異常状態を確認するためには、スカートガード29と図示しない内デッキ(スカートガードを上側から覆っている)を取り外して異常状態を確認する必要があり、多くの手間がかかるという課題がある。
【0028】
或いは、特許文献1に示されているように、予めセンサユニットをハンドレール駆動機構24に組み込んでおく必要があり、通常の動作に必要がない余分な構成部品を設けることになって、コストアップを招くという課題を新たに生じる。
【0029】
そこで、本実施形態では
図3にあるように、任意の時期、例えば定期的な保守点検を行うときだけ、センサユニットを備えたセンサ箱30をスカートガード29に取り付け、この状態でハンドレール駆動機構24を稼働させて、ハンドレール駆動機構24の駆動ローラー25の固渋やハンドレール15のスリップといった異常事象を検出するようにしたことを特徴としている。
【0030】
図3において、エスカレーター10には乗客が巻き込まれないで安全に利用できるように、ステップ14に隣接してスカートガード29が設けられており、スカートガード29の上側に内デッキ(図示せず)が設けられている。そして、スカートガード29の内側(ステップ14とは反対側)には、ハンドレール駆動機構24が設置されている。尚、スカートガード29は電気亜鉛メッキ鋼板で作られている。
【0031】
図2でも説明したように、駆動ローラー25と従動ローラー27の間にはハンドレール15が挟み込まれ、駆動ローラー25を回転させることによってハンドレール15を移動させることができる。したがって、ハンドレール駆動機構24が存在している領域のスカートガード29に、センサ箱30を取り付けて駆動ローラー25の回転状態や、ハンドレール15の移動状態を検出することによって、ハンドレール駆動機構24の異常を検出することができるようになる。
【0032】
センサ箱30は、スカートガード29のステップ14の側の表面に、図示しない永久磁石、吸盤、或いは両面テープ等で、脱着自在に固定される。このため、異常診断が必要な時に随時使用することができる。また、センサ箱30を構成する筐体は、アルミ合金や合成樹脂によって形成することができる。
【0033】
センサ箱30には、駆動ローラー25の動作状態、ここでは回転状態を検出する回転検出器(駆動ローラー用磁気センサ)31、及びハンドレール15の動作状態、ここでは移動状態を検出する移動検出器(ハンドレール用磁気センサ)32、回転検出器31と移動検出器32の検出信号によって異常状態を診断するための診断データを生成する異常検出部33、及び電源部40が収納されている。
【0034】
ここで、異常検出部33は、異常状態を診断する機能を備えておらず、診断を実行する場合の基礎的な診断データを生成する機能を備えている。そして、実質的な診断機能は、後述する外部の情報機器39(
図4参照)である。尚、回転検出器31、移動検出器32、及び異常検出部33をまとめて、本明細書ではセンサユニットと表記する。
【0035】
回転検出器31は、駆動ローラー25の回転状態を検出する機能を備えており、例えば、磁気センサを使用することができる。回転検出器31は、駆動ローラー25の個数だけ備えられており、本実施形態では3個設けられている。
【0036】
回転検出器31は、駆動ローラー25の回転状態を検出し、駆動ローラー25の動作異常の有無(例えば固渋による回転速度の低下)を推定するために使用される。尚、駆動ローラー25の回転状態を、より良く検出可能とするために駆動ローラー25に図示しない磁性体を取り付けておき、その磁性体の回転を検出して駆動ローラー25の回転状態を検出しても良い。更には、駆動ローラー25の周囲に鉄製の凹凸を形成し、この凹凸を利用して回転状態を検出することもできる。
【0037】
移動検出器32は、ハンドレール15の移動状態を検出する機能を備えており、これは、ハンドレール15の内部に介装されているスチールコードの移動状態から、ハンドレール15の動作異常の有無(例えば、ハンドレールのスリップ)を推定するために使用される。
【0038】
尚、ハンドレール15の移動状態をより良く検出可能とするために、ハンドレール15の側面に図示しない磁性体、例えばスチールテープを一定間隔で貼り付けておき、このスチールテープの移動を検出することでハンドレール15の移動状態を確認してもよい。ここで、このスチールテープは、異常診断を実行するときにだけ、ンドレール15に貼り付けても良い。また、移動検出器32を、間隔をあけて複数個並べて配置し、夫々の移動検出器32によって検出した検出信号から、ハンドレール15の移動状態を推定するようにしても良い。
【0039】
尚、検出感度を向上するために、駆動ローラー25とハンドレール15が存在する位置のスカートガード29に小孔を形成し、この小孔に回転検出器31や移動検出器32が臨むように配置しても良い。この場合はセンサ箱30の外側に回転検出器31や移動検出器32が位置するように構成すれば良い。
【0040】
ここで、センサ箱30は、ハンドレール駆動機構24の駆動ローラー25の回転状態、及び駆動ローラー25と従動ローラー27の間を移動するハンドレール15の移動状態を検出する。このため、駆動ローラー25とハンドレール15が存在する位置に、回転検出器31と移動検出器32を正確に配置することが必要である。
【0041】
このため、スカートガード29に、センサ箱30の位置決めのための位置決め突起を形成することや、塗料等の塗布による位置決め表示を行うことも有効な位置決め方法である。更には、ハンドレール駆動機構24を稼働している状態で、センサ箱30の位置を微調整しながら、回転検出器31や移動検出器32の検出信号が最も大きくなる位置を適切な位置として、センサ箱30の位置決めを行うことも可能である。
【0042】
次に、センサ箱30に収納されているセンサユニットの構成について、
図4を用いて説明する。センサ箱30には、回転検出器としての駆動ローラー用磁気センサ31が駆動ローラー25の個数分(3個)と、移動検出器としてのハンドレール用磁気センサ32が1個搭載されている。そして、これらの検出器31、32の検出信号は、異常状態を診断するための診断データを生成する異常検出部33に入力されている。
【0043】
異常検出部33は、駆動ローラー用磁気センサ31、及びハンドレール用磁気センサ32で検出された検出信号を、増幅、フィルタ処理するアンプ/フィルタ処理部34と、この増幅、フィルタ処理を行った検出信号をA/D変換するA/D変換部35を備えている。更にA/D変換された検出信号は、演算処理部(CPU)36によって異常診断に必要な診断データに適合するようにデータ処理される。
【0044】
そして、演算処理部36によって実行されたデータ処理の結果は、SDメモリカードのようなデータ保管部37に記憶されて保管される。尚、この他の記憶媒体を使用することもできる。更に、データ処理の結果は、WiFi(登録商標)のような、外部と電気信号的(無線通信や有線通信を意味する)に接続される外部通信部38を介して、パーソナルコンピュータ(PC)のような外部情報機器39に送信される。また、センサ箱30には、充電可能な電源部40を備えており、電源部40から異常診断機能部33を構成する各電子部品に電力が供給されている。
【0045】
このようなセンサ箱30は、可搬型に構成されて持ち運ぶことができ、検査が必要な任意の時期に、スカートガード29に容易に取り付けられて、ハンドレール駆動機構24の異常診断用の診断データを簡単に取得できるという作用、効果を奏することができる。
【0046】
次に、上述したセンサ箱30を使用して、ハンドレール駆動機構24の異常診断を実行する場合の作業手順について
図5を用いて説明する。
【0047】
≪作業手順S10≫
作業手順S10においては、エスカレーター10の上部付近に設置されているハンドレール駆動機構24に隣接するスカートガード29のステップ14の側の表面に、センサ箱30を永久磁石、吸盤、或いは両面テープ等によって一時的に設置する。尚、センサ箱30の設置位置の特定(位置決め)は上述した通りであるが、本実施形態では、以下に説明する作業手順S13~作業手順S16で位置決めを行っている。
【0048】
≪作業手順S11≫
作業手順S11においては、センサ箱30の設置が完了したら、PC等の外部情報機器39に、対象となる現地のエスカレーターの管理番号や、エスカレーター速度等の現場情報を入力する。
【0049】
≪作業手順S12≫
作業手順S12においては、作業手順S11で現場情報の入力が完了したら、センサ箱30の電源を入れ、PC等の外部情報機器39とWiFi等を利用して電気信号的に接続する。
【0050】
≪作業手順S13≫~≪作業手順S16≫
作業手順S13においては、センサ箱30の設置位置の確認作業を行うが、この場合は、作業手順10で設置した位置を基準にする。そして、この状態下で作業手順S14によってエスカレーターを稼働して半周させる運転を実行する。
【0051】
作業手順S15では、エスカレーターを稼働している状態で、各検出器(磁気センサ)31、32の出力に問題がないかどうかを判定する。問題がなければ作業手順S17に進むが、問題があれば再び作業手順S14に戻って同じ作業手順を行う。
【0052】
つまり、センサ箱30の位置を微調整しながら、回転検出器31や移動検出器32の検出信号が、診断が可能な値(例えばピーク値)になる位置を適切な位置として、センサ箱30の位置決めを行うようにしている。
【0053】
尚、位置決めが完了したときにスカートガードに設置位置を示す目印を貼付しても良い。目印は特定の図形でも企業、製品、顧客等のロゴマークでも良い。目印を貼付することにより次回以降の点検で作業時間を削減することが可能でありロゴマークを目印とすることにより意匠性を向上させることができる。
【0054】
≪作業手順S17≫
作業手順S17においては、センサ箱30と外部情報機器39の接続が完了したら、計測の準備が完了となるので、外部情報機器39によって計測開始の指示をセンサ箱30に送信する。これによって、センサ箱30で計測が開始される。
【0055】
≪作業手順S18≫
作業手順S18においては、計測が開始されたら、エスカレーター10を1周運転させる。これによって、ハンドレール駆動機構24が稼働され、駆動ローラー25が回転し、またハンドレール15が移動する。
【0056】
≪作業手順S19≫
作業手順S19においては、エスカレーター10を1周運転したら、外部情報機器39で計測終了の指示をセンサ箱に送信して計測が終了となる。そして、計測が終了すると同時に、センサ箱30からPC等の外部情報機器39に診断データが送信される。PC等の外部情報機器39は、送信されてきた診断データである、少なくとも、駆動ローラー25の回転状態やハンドレール15の移動状態、及び駆動ローラー25の回転速度やハンドレール15の駆動速度を算出する演算を実行する。
【0057】
更に、この外部情報機器39では、異常診断の演算を実行する。この時の異常診断の判定方法としては、外部情報機器39に予め入力されている現場のエスカレーター速度に対して、駆動ローラー25の回転速度やハンドレール15の駆動速度がどのような関係にあるかを比較することで求めることができる。このような比較によって、駆動ローラー25の動作異常(例えば、駆動ローラーの固渋)や、ハンドレールの動作異常(例えば、ハンドレールのスリップ)を判定することができる。具体的な判定方法は、
図6に示している。
【0058】
≪作業手順S20≫、≪作業手順S21≫
作業手順S20、及び作業手順S21においては、上述した作業手順S19の外部情報機器39による判定処理が完了したら、外部情報機器39の表示画面に表示された判定内容を確認し、判定結果に問題がないかの確認を行う。
【0059】
≪作業手順S22≫
次に、外部情報機器39に表示された判定内容に問題がある場合は、作業手順S22においては、その判定結果に基づいて、センサ箱30を取り外して、ハンドレール駆動機構24の問題があった構成部品の調査と、異常状態の回復や構成部品の交換といった対策を行う。この対策が完了すると作業手順24を行うことになる。
【0060】
≪作業手順S23≫
一方、外部情報機器39に表示された判定内容に問題ない場合は、作業手順S23においては、エスカレーター10の上部付近に設置されているハンドレール駆動機構24のスカートガード29に設置したセンサ箱30の取り外しを行う。
【0061】
≪作業手順S24≫
次に、作業手順S24においては、センサ箱30を片付けて最終的な確認作業を実施し、作業終了となる。これら作業手順S10~作業手順S24の作業については、エスカレーター10の両側に設置されているハンドレール駆動機構24に対して確認を行うようにしている。
【0062】
次に、作業手順S19の異常診断における判定方法の一例について
図6を用いて説明する。
図6では、予め定めたエスカレーター速度、駆動ローラー25の回転速度、及びハンドレール15の移動速度の関係を基に4個の判定パターンを示している。
【0063】
パターン1は、「エスカレーター速度=駆動ローラー回転速度=ハンドレール移動速度」の関係があれば、正常状態と判定する例である。
【0064】
パターン2は、「エスカレーター速度>駆動ローラー回転速度、ハンドレール移動速度」の関係があれば、異常状態と判定し、駆動ローラー25の固渋、及びハンドレール15のスリップが有ると判定する例である。
【0065】
パターン3は、「エスカレーター速度=駆動ローラー回転速度>ハンドレール移動速度」の関係があれば、異常状態と判定し、ハンドレール15のスリップが有ると判定する例である。
【0066】
パターン4は、「エスカレーター速度=ハンドレール移動回転速度>駆動ローラー回転速度」の関係があれば、異常状態と判定し、駆動ローラー25の固渋が有ると判定する例である。
【0067】
これらの判定は、センサ箱30のセンサユニットから送られてくる診断データを基に、外部情報機器39に内蔵されたマイクロコンピュータの演算機能(診断処理)を利用して実行される。
【0068】
以上に説明した実施形態では、ハンドレール駆動機構24に設けられている駆動ローラー25の回転状態を検出する例について説明したが、同じくハンドレール駆動機構24に設けられている従動ローラー27においても同様に適用しても良いものである。
【0069】
また、本実施形態では、駆動ローラー用磁気センサ31、及びハンドレール用磁気センサ32によって検出された診断データの診断処理を外部情報機器39で行っているが、センサ箱30の異常検出部33の演算処理部(CPU)36で診断処理を実行するようにしても良い。このように構成すると、わざわざ外部情報機器39と接続することもなく、センサ箱30だけで簡単にハンドレール駆動機構24の異常診断を実行することができる。
【0070】
上述した実施形態は、エスカレーターのハンドレール駆動機構における異常診断であるが、動く歩道に使用されているハンドレール駆動機能における異常診断についても同様に適応できるものであり、その構成、作用、及び効果についても同様のものである。
【0071】
以上説明したように、本発明は、ハンドレール駆動機構の駆動機構が設けられている領域に位置するスカートガードにセンサユニットを備え、ハンドレール駆動機構を稼働した状態でセンサユニットによって異常を検出することを特徴とするものである。
【0072】
これによれば、乗客コンベアのハンドレール駆動機構の異常を検出する場合に、スカートガードを外すことなく任意の時期に異常診断を行うことができる。
【0073】
尚、本発明は上記したいくつかの実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。各実施例の構成について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0074】
10…エスカレーター、11…フレーム、12…制御盤、13…欄干、14…ステップ、15…ハンドレール、16…エスカレーター駆動機構、17…上部機械室、18…ステップ/ハンドレール駆動機構、19…駆動チェーン、20…上部ターミナルギヤ、21…ステップ駆動スプロケット、22…ハンドレール駆動スプロケット、23…ハンドレール駆動チェーン、24…ハンドレール駆動機構、25…駆動ローラー、27…従動ローラー、29…スカートガード、30…センサ箱、31…回転検出器(駆動ローラー用磁気センサ)、32…移動検出器(ハンドレール用磁気センサ)、33…異常検出部、34…アンプ,フィルタ処理部、35…A/D変換部、36…演算処理部(CPU)、37…データ保管部(SDなど)、38…外部通信部(WiFiなど)、39…外部情報機器、40…電源部。