(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】金属成形体表面の粗面化方法とそれを使用したシール方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/352 20140101AFI20241202BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20241202BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
B23K26/352
B23K26/00 N
B29C45/14
(21)【出願番号】P 2021526825
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2020023697
(87)【国際公開番号】W WO2020255994
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2019111949
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】595138155
【氏名又は名称】ダイセルミライズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】板倉 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 潔
(72)【発明者】
【氏名】宇野 孝之
(72)【発明者】
【氏名】和田 法寿
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-142960(JP,A)
【文献】特開2018-094777(JP,A)
【文献】特開2011-240685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/352
B23K 26/00
B29C 45/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成形体表面の粗面化方法であって、
前記金属成形体表面に対して、連続波レーザーを使用してエネルギー密度1MW/cm
2以上で、照射速度2000mm/sec以上でレーザー光を照射することで粗面化する工程を有しており、
前記レーザー光を照射して粗面化する工程が、金属成形体表面に対して複数本の直線、曲線、または直線と曲線の組み合わせを含む線状溝が形成されるようにレーザー光を連続照射する工程であり、
前記隣接する線状溝同士の幅方向中間位置の間隔(ピッチ間隔)(P)が0.12mm以上で、等間隔または異なる間隔からなる部分を含んでいるものであり、
前記ピッチ間隔(P)(μm)とレーザー光線のスポット径(S)(μm)の比(P/S)が6.79~
10である、金属成形体表面の粗面化方法。
【請求項2】
金属成形体表面の粗面化方法であって、
前記金属成形体表面に対して、連続波レーザーを使用してエネルギー密度1MW/cm
2以上で、照射速度2000mm/sec以上でレーザー光を照射することで粗面化する工程を有しており、
前記レーザー光を照射して粗面化する工程が、金属成形体表面に対して複数本の直線、曲線、または直線と曲線の組み合わせを含む線状溝が形成されるようにレーザー光を照射するとき、レーザー光の照射部分と非照射部分が交互に生じるように照射する工程であり、
前記隣接する線状溝同士の幅方向中間位置の間隔(ピッチ間隔)(P)が0.12mm以上で、等間隔または異なる間隔からなる部分を含んでいるものであり、
前記ピッチ間隔(P)(μm)とレーザー光線のスポット径(S)(μm)の比(P/S)が6.79~
10である、金属成形体表面の粗面化方法。
【請求項3】
金属成形体の開口部の全部または一部に樹脂成形体を接合させてシールするシール方法であって、
前記金属成形体が、内部空間を有し、前記内部空間と接続された開口部を有するものであり、
前記金属成形体の樹脂成形体との接合面に対して、連続波レーザーを使用してエネルギー密度1MW/cm
2以上で、照射速度2000mm/sec以上でレーザー光を照射する、金属成形体表面の粗面化方法を実施することで粗面化する工程を有しており、
前記レーザー光を照射して粗面化する工程が、前記接合面に対して、複数本の直線、曲線、または直線と曲線の組み合わせを含む線状溝を形成するように連続波レーザー光を連続照射するとき、または連続波レーザー光の照射部分と非照射部分が交互に生じるように照射するとき、前記接合面に沿って、前記金属成形体の内部空間から前記金属成形体の外部空間に至る経路を横切るようにして複数の線状溝を形成し、かつ前記複数の線状溝同士の間の少なくとも一部に粗面化されていない接合面が残されるようにする工程であり、
隣接する線状溝同士の幅方向中間位置の間隔(ピッチ間隔)(P)が0.12mm以上で、等間隔または異なる間隔からなる部分を含んでいるものであり、
前記ピッチ間隔(P)(μm)とレーザー光線のスポット径(S)(μm)の比(P/S)が4~12.5であって、
前工程において粗面化された金属成形体の接合面を含む部分を金型内に配置し、樹脂を射出成形または圧縮成形して形成した樹脂成形体により前記開口部をシールする工程を有している、シール方法。
【請求項4】
樹脂成形体を用いて第1金属成形体と第2金属成形体とをシールするシール方法であって、
前記第1金属成形体の第1の接合面および前記第2金属成形体の第2の接合面に対して、連続波レーザーを使用してエネルギー密度1MW/cm
2以上で、照射速度2000mm/sec以上でレーザー光を照射する、金属成形体表面の粗面化方法を実施することで粗面化する工程を有しており、
前記工程が、前記第1の接合面および前記第2の接合面のそれぞれに、連続波レーザー光を連続照射、または連続波レーザー光の照射部分と非照射部分が交互に生じるように照射して、複数本の直線、曲線、または直線と曲線の組み合わせを含む線状溝を形成するように複数の線状溝を形成し、かつ前記複数の線状溝同士の間の少なくとも一部に粗面化されていない接合面が残されるようにする工程を含み、
隣接する線状溝同士の幅方向中間位置の間隔(ピッチ間隔)(P)が0.12mm以上で、等間隔または異なる間隔からなる部分を含んでいるものであり、
前記ピッチ間隔(P)(μm)とレーザー光線のスポット径(S)(μm)の比(P/S)が4~12.5であって、
前記第1金属成形体の第1の接合面を含む部分と前記第2金属成形体の第2の接合面を含む部分を金型内に配置し、樹脂を射出成形または圧縮成形することにより、第1の金属成形体と第2の金属成形体の間に樹脂成形体を接合させてシールする工程を有している、シール方法。
【請求項5】
前記粗面化する工程が、前記第1の金属成形体と前記第2の金属成形体とが組み合わせられたときに、前記第1の接合面および前記第2の接合面に沿って前記第1の金属成形体の内部空間から外部空間に至る経路を横切るようにして、前記第1の接合面および前記第2の接合面に複数の線状溝を形成する工程を含む、請求項
4記載のシール方法。
【請求項6】
前記第1の金属成形体の前記第1の接合面は環状の内側面であり、前記第2の金属成形体の前記第2の接合面は前記環状の内側面に対して隙間を置いて配置される筒状の外側周面であり、前記隙間に樹脂成形体が接合されてシールされる、請求項
4または
5記載のシール方法。
【請求項7】
前記第1の金属成形体の前記第1の接合面は第1の管の一端部の外表面であり、前記第2の金属成形体の前記第2の接合面は第2の管の一端部の外表面であり、前記第1の管の一端部の端面と前記第2の管の一端部の端面が当接され、筒状の樹脂成形体が前記第1の接合面および前記第2の接合面を外側からシールする、請求項
4または
5記載のシール方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属成形体表面の粗面化方法と、この方法を使用したシール方法に関する。
背景技術
【0002】
特開2018-94777号公報には、開口部を有する金属成形体に樹脂成形体を接合させて開口部をシールする方法として、特定照射条件の連続波レーザー光を使用する発明が記載されている。
【0003】
また特許第5701414号公報には、金属成形体と樹脂成形体を接合させる方法として、金属成形体の表面に対して、連続波レーザーを使用して2000mm/sec以上の照射速度でレーザー光を連続照射することで前記金属成形体の表面を粗面化した後、樹脂成形体と接合して複合成形体を製造する発明が記載されている。
発明の概要
【0004】
本発明は、その幾つかの例において、金属成形体表面の粗面化方法を提供することに向けられている。また本発明は別の幾つかの例において、金属成形体と樹脂成形体を接合することで、高いシール性で金属成形体の開口部をシールするシール方法を提供することに向けられている。
【0005】
幾つかの例示的な形態において、本発明は、金属成形体表面の粗面化方法であって、
前記金属成形体表面に対して、連続波レーザーを使用して、エネルギー密度1MW/cm2以上、照射速度2000mm/sec以上でレーザー光を照射することで粗面化する工程を有しており、
前記レーザー光を照射して粗面化する工程が、金属成形体表面に対して複数本の直線、曲線、または直線と曲線の組み合わせの線状溝が形成されるようにレーザー光を線状に連続照射する工程であり、
隣接する線同士の間隔(ピッチ間隔)(P)が0.12mm以上であり、前記ピッチ間隔(P)(μm)とレーザー光線のスポット径(S)(μm)の比(P/S)が4~12.5である、金属成形体表面の粗面化方法を提供する。
【0006】
また別の幾つかの例示的な形態において、本発明は、金属成形体表面の粗面化方法であって、
前記金属成形体表面に対して、連続波レーザーを使用して、エネルギー密度1MW/cm2以上、照射速度2000mm/sec以上でレーザー光を照射することで粗面化する工程を有しており、
前記レーザー光を照射して粗面化する工程が、金属成形体表面に対して複数本の直線、曲線、または直線と曲線の組み合わせの線状溝が形成されるようにレーザー光を線状に照射するとき、レーザー光の照射部分と非照射部分が交互に生じるように照射する工程であり、
隣接する線同士の間隔(ピッチ間隔)(P)が0.12mm以上であり、前記ピッチ間隔(P)(μm)とレーザー光線のスポット径(S)(μm)の比(P/S)が5~12.5である、金属成形体表面の粗面化方法を提供する。
【0007】
別の幾つかの例示的な形態において、本発明は、上記したいずれかの金属成形体表面の粗面化方法を使用したシール方法を提供する。シール方法は、例えば、金属成形体に樹脂成形体を接合させて金属成形体の開口部の全部または一部シールするシール方法であってよく、金属成形体は、シールされる開口部と接続された内部空間に有するものであってよい。金属成形体の樹脂成形体との接合面は、上記したいずれかの粗面化方法を使用して粗面化されて、接合面に複数本の直線、曲線、または直線と曲線の組み合わせの線状溝が形成されてよい。またこれら複数本の線状溝は、金属成形体の内部空間から金属成形体の外部空間に至る経路、例えば接合面に沿って内部空間から金属成形体の外部空間に至る最短経路を横切るように形成されてよい。複数の線状溝同士の間の少なくとも一部には、粗面化されていない接合面が残されていてよい。粗面化された金属成形体の接合面を含む部分は金型内に配置され、樹脂を射出成形または圧縮成形して形成した樹脂成形体により、開口部の全部または一部のシールが行われてよい。
【0008】
本発明の例による金属成形体表面の粗面化方法によれば、例えば樹脂成形体とのシール性に優れた接合面を得ることができる。または本発明の例によるシール方法によれば、例えば内部空間を有する金属成形体の開口部を樹脂成形体で塞いでシールすることにより高いシール性が得られる。別の例では、2つの金属成形体の間を樹脂成形体でシールするときに、高いシール性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)は本発明の例示的な金属成形体表面の粗面化方法において形成した例示的な線状溝の一実施形態の平面図、
図1(b)は
図1(a)とは異なる例示的な線状溝の実施形態の平面図、
図1(c)は
図1(a)、
図1(b)とは異なる例示的な線状溝の実施形態の平面図。
【0010】
【
図2】
図2(a)は
図1とは異なる本発明の例示的な金属成形体表面の粗面化方法において形成した例示的な線状溝の一実施形態の平面図、
図2(b)は
図2(a)とは異なる例示的な線状溝の実施形態の平面図。
【0011】
【
図3】
図3(a)、
図3(b)は、
図2の実施形態を実施するためのレーザー照射方法の例示的な別実施形態の説明図。
【0012】
【
図4】
図4(a)は本発明の例示的なシール方法を適用する金属成形体の例示的な一実施形態の斜視図、
図4(b)は
図4(a)の一端側からの平面図。
【0013】
【
図5】
図5(a)は
図4の金属成形体に対してレーザー光を照射して粗面化するときのレーザー光の照射方法の例示的な一実施形態を示す平面図、
図5(b)は
図5(a)とは異なるレーザー光の照射方法の例示的な実施形態を示す平面図、
図5(c)は
図5(a)、
図5(b)とは異なるレーザー光の照射方法の例示的な実施形態を示す平面図。
【0014】
【
図6】
図6は
図4の例示的な金属成形体の表面に
図5(a)に示す実施形態でレーザー光を照射した後の例示的な軸方向の部分断面図。
【0015】
【
図7】
図7は
図6の実施形態のように金属成形体を粗面化した後、開口部を樹脂成形体でシールした状態を示す例示的な軸方向の部分断面図。
【0016】
【
図8】
図8は
図6の実施形態に対応する比較形態を示す例示的な軸方向の部分断面図。
【0017】
【
図9】
図9は
図7の実施形態に対応する金属成形体の開口部を樹脂成形体でシールした比較形態を示す例示的な軸方向の部分断面図。
【0018】
【
図10】
図10(a)は本発明の例示的なシール方法を適用する例示的な金属成形体の斜視図、
図10(b)は
図10(a)の金属成形体の開口部を樹脂成形体でシールした状態を示す例示的な斜視図。
【0019】
【
図11】
図11(a)~
図11(d)は、本発明の例示的なシール方法の別実施形態を説明するための断面図。
【0020】
【
図12】
図12(a)は、2本のパイプに対して本発明の例示的なシール方法を適用した状態を示す長さ方向の断面図、
図12(b)は
図12(a)の部分拡大断面図。
【0021】
【
図13】
図13は実施例1と比較例1~4で得られた複合成形体のシール性の試験方法の例示的な説明図。
【0022】
【
図14】
図14は実施例1における粗面化状態を示す表面のSEM写真。
【0023】
【
図15】
図15は比較例1における粗面化状態を示す表面のSEM写真。
【0024】
【
図16】
図16は比較例2における粗面化状態を示す表面のSEM写真。
【0025】
【
図17】
図17は比較例3における粗面化状態を示す表面のSEM写真。
【0026】
【
図18】
図18は比較例4における粗面化状態を示す表面のSEM写真。
【0027】
【
図19】
図19は実施例2における粗面化状態を示す表面のSEM写真。
【0028】
【
図20】
図20は比較例5における粗面化状態を示す表面のSEM写真。
【0029】
【
図21】
図21は実施例3における粗面化状態を示す表面のSEM写真。
【0030】
【
図22】
図22は比較例6における粗面化状態を示す表面のSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<金属成形体表面の粗面化方法>
本発明の粗面化方法で使用する金属成形体の金属は特に制限されるものではなく、用途に応じて公知の金属から適宜選択することができる。例えば、鉄、各種ステンレス、アルミニウム、亜鉛、チタン、銅、黄銅、クロムめっき鋼、マグネシウムおよびそれらを含む合金、タングステンカーバイド、クロミウムカーバイドなどのサーメットから選ばれるものを挙げることができる。幾つかの例示的な形態では、本発明の粗面化方法は、これらの金属に対して、アルマイト処理、めっき処理などの表面処理を施したものにも適用できる。
【0032】
幾つかの例によれば、レーザー光照射して粗面化する工程におけるレーザー光の照射方法としては、
(I)粗面化対象となる金属成形体の接合面に対して、直線、曲線、または直線と曲線の組み合わせを含む線状溝が形成されるようにレーザー光を連続的に照射する方法(第1のレーザー光照射方法)と、
(II)粗面化対象となる金属成形体の表面に対して、直線、曲線、または直線と曲線の組み合わせを含む線状溝が形成されるようにレーザー光を照射するとき、レーザー光の照射部分と非照射部分が交互に生じるように照射する方法(第2のレーザー照射方法)のいずれかのレーザー照射方法を使用することができる。
【0033】
<第1のレーザー照射方法>
粗面化対象となる金属成形体表面の接合面に対して所定のエネルギー密度と照射速度で連続波レーザー光を連続照射する第1のレーザー照射方法は公知であり、例えば特許第5774246号公報、特許第5701414号公報、特許第5860190号公報、特許第5890054号公報、特許第5959689号、特開2016-43413号公報、特開2016-36884号公報、特開2016-44337号公報に記載されたレーザー光の連続照射方法と同様にして実施することができる。
【0034】
1つの好ましい実施形態では、エネルギー密度は1MW/cm2以上にすることができる。レーザー光の照射時のエネルギー密度は、レーザー光の出力(W)と、レーザー光(スポット面積(cm2)(π×〔スポット径/2〕2)から求められる。レーザー光の照射時のエネルギー密度は、1つの好ましい実施形態では2~1000MW/cm2であり、別の好ましい実施形態では10~800MW/cm2であり、さらに別の好ましい実施形態では10~700MW/cm2であることができる。
【0035】
1つの好ましい実施形態では、レーザー光の照射速度は2000mm/sec以上であり、別の好ましい実施形態では2,000~20,000mm/secであり、さらに別の好ましい実施形態では2,000~18、000mm/secであり、さらに別の好ましい実施形態では3,000~15、000mm/secであることができる。
【0036】
1つの好ましい実施形態では、レーザー光の出力は4~4000Wであり、別の好ましい実施形態では50~2500Wであり、さらに別の好ましい実施形態では150~2000Wであることができる。他のレーザー光の照射条件が同一であれば、出力が大きいほど孔(溝)深さは深くなり、出力が小さいほど孔(溝)深さは浅くなる。
【0037】
1つの好ましい実施形態では、波長は500~11,000nmである。1つの好ましい実施形態では、スポット径(S)は5~80μmであることができる。
【0038】
レーザー光の照射方向は、例えば一方向に照射する方法、双方向から照射する方法、またはこれらを組み合わせた照射方法を使用することができる。
【0039】
1つの好ましい実施形態では、焦点はずし距離は、-5~+5mmであり、別の好ましい実施形態では-1~+1mmであり、さらに別の好ましい実施形態では-0.5~+0.1mmであることができる。焦点はずし距離は、設定値を一定にしてレーザー照射しても良いし、焦点はずし距離を変化させながらレーザー照射しても良い。例えば、レーザー照射時に、焦点はずし距離を小さくしていくようにしたり、周期的に大きくしたり小さくしたりしても良い。焦点はずし距離が-(マイナス)であると、孔深さは深くなる。
【0040】
繰り返し回数(一つの孔または溝を形成するための合計のレーザー光の照射回数)は、溝深さに応じて調整されるものであるが、1つの好ましい実施形態では1~30回であり、別の好ましい実施形態では5~20回であることができる。同一のレーザー照射条件であれば、繰り返し回数が多いほど溝深さが深くなり、繰り返し回数が少ないほど溝深さが浅くなる。
【0041】
上記したレーザー照射条件により形成される直線、曲線、または直線と曲線の組み合わせを含む線状溝は、例えば直線の線状溝のみを含む形態、曲線の線状溝のみを含む形態、直線と曲線の線状溝の組み合わせを含む形態などであってよい。例えば、
図1(a)~
図1(c)に示す実施形態にすることができる。
【0042】
図1(a)に示す例では、それぞれが間隔をおいて形成された線状溝1~4が示されており、線状溝1~4の間隔(ピッチ間隔P1)は等間隔である。
図1(a)では、線状溝1の幅方向中間位置から線状溝2の幅方向中間位置までの間隔がピッチ間隔P1となる。線状溝1~4の間には、粗面化されていない金属成形体の表面1a、2a、3aが残っている。
【0043】
1つの実施形態では、ピッチ間隔P1は0.12mm以上であり、ピッチ間隔(P)とスポット径(S)の比(P/S)は、1つの好ましい実施形態では4~12.5であり、別の好ましい実施形態では4~12であり、より好ましい実施形態では4~10、より好ましい実施形態では5~10であることができる。
【0044】
本発明における例によれば、ピッチ間隔とスポット径は、レーザー発振器における設定値(理論値)である。ピッチ間隔は、設定値と実際値(レーザー照射後の測定値)が一致するものであるが、スポット径(溝幅)はレーザー照射時の熱による変形などの要因もあって、理論値と実際値が一致しない場合も含まれる。
【0045】
図1(b)に示す例では、それぞれが間隔をおいて形成された線状溝11~14が示されており、ピッチ間隔P11とP12は異なっている(P11<P12)。
図1(b)に示す例では、線状溝11の幅方向中間位置から線状溝12の幅方向中間位置までの間隔がピッチ間隔P11となり、線状溝12の幅方向中間位置から線状溝13の幅方向中間位置までの間隔がピッチ間隔P12となり、線状溝13の幅方向中間位置から線状溝14の幅方向中間位置までの間隔もピッチ間隔P12となる。線状溝11~14の間には、粗面化されていない金属成形体の表面11a、12a、13aが残っている。
【0046】
1つの実施形態では、ピッチ間隔P11、P12は0.12mm以上であり、ピッチ間隔(P)とスポット径(S)の比(P/S)は、1つの好ましい実施形態では4~12.5であり、別の好ましい実施形態では4~12であり、より好ましい実施形態では4~10、より好ましい実施形態では5~10であることができる。
【0047】
幾つかの例では、ピッチ間隔は、ピッチ間隔が同じである群とピッチ間隔が異なる群が交互に形成されているものでもよいし、ランダムに形成されているものでもよい。
【0048】
図1(c)に示す例では、合計で6本の線状溝21~26が形成されているが、線状溝21、22と線状溝24、25は、いずれも近接してレーザー光が照射されたため、2本の線状溝が1本の線状溝になっている形態である。
【0049】
図1(c)に示す例では、1本になっている線状溝21、22の幅方向中間位置から線状溝23の幅方向中間位置までの間隔がピッチ間隔P21となり、線状溝23の幅方向中間位置から1本になっている線状溝24、25の幅方向中間位置までの間隔がピッチ間隔P21となり、1本になっている線状溝24、25の幅方向中間位置から線状溝26の幅方向中間位置までがピッチ間隔P21となる。P21は、いずれも同じ間隔であるが、
図1(b)に示す実施形態と同様に異なるピッチ間隔を含むこともできる。2本以上の線状溝が1本の線状溝になっている場合も同様に考えることができる。
【0050】
線状溝21、22と線状溝23の間、線状溝23と線状溝24、25の間、線状溝24、25と線状溝26の間には、粗面化されていない金属成形体の表面22a、23a、25aが残っている。
【0051】
1つの実施形態では、ピッチ間隔P21は0.12mm以上であり、ピッチ間隔(P)とスポット径(S)の比(P/S)は、1つの好ましい実施形態では4~12.5であり、別の好ましい実施形態で4~12であり、より好ましい実施形態では4~10、より好ましい実施形態では5~10であることができる。
【0052】
幾つかの例では、ピッチ間隔Pは、ピッチ間隔Pが同じである群とピッチ間隔Pが異なる群が交互に形成されているものでもよいし、ランダムに形成されているものでもよい。
【0053】
本発明の例によれば、第1のレーザー光照射方法において、ピッチ間隔が0.12mm以上で、P/Sが上記範囲内であると、隣接する線状溝同士(レーザー光の照射痕同士)の干渉が少なくなるので繰り返し回数を増加できるほか、意図的に線状溝が形成されない部分を確保することができるため、金属成形体の開口部を樹脂成形体により被覆するシール方法として適用した場合には、特に高圧雰囲気中における気体のリーク防止効果が高められる。
【0054】
<第2のレーザー光照射方法>
粗面化対象となる金属成形体表面の接合面に対して所定のエネルギー密度と照射速度で連続波レーザー光を照射するとき、レーザー光の照射部分と非照射部分が交互に生じるように照射する第2のレーザー照射方法は公知であり、例えば特開2018-144104号公報に記載の方法を使用することができる。
【0055】
第2のレーザー光照射方法は、レーザー光の照射部分と非照射部分が交互に生じるように照射することを除いて、第1のレーザー光照射方法と同じ照射条件であることができる。すなわちレーザー光の出力、照射速度、エネルギー密度、繰り返し回数、波長、スポット径、焦点はずし距離などのそれぞれの条件および相互関係を、第1のレーザー光照射方法の場合と同様に選択し実施することができる。
【0056】
第2のレーザー光照射方法において、レーザー光の照射部分と非照射部分が交互に生じるように照射するとは、例えば
図2(a)および
図2(b)に示すように点線状の線状溝を形成する実施形態を含んでいる。
【0057】
図2(a)および
図2(b)の点線状溝31は、レーザー光の照射部分31aと、レーザー光の照射部分31aと長さ方向に隣接するレーザー光の照射部分31aの間にあるレーザー光の非照射部分31bとが交互に生じて、全体として点線状の線状溝31が形成されるように照射した状態を示している。他の点線状溝32~35も同様である。
【0058】
図2(a)では、隣接する点線状溝31~35において、レーザー光の照射部分とレーザー光の非照射部分が同じ位置になるように照射されている。このため、点線状溝31~35の長さ方向に直交する方向を列としたとき、レーザー光の照射部分のみからなる列と、レーザー光の非照射部分のみからなる列が長さ方向に交互に並んだ形態になっている。
【0059】
図2(b)では、隣接する点線状溝31~35のレーザー光の照射部分とレーザー光の非照射部分が交互に異なる位置になるように照射されている。このため、点線状溝31~35の長さ方向に直交する方向を列としたとき、レーザー光の照射部分とレーザー光の非照射部分が、一つの列方向に交互に存在する形態になっている。
【0060】
第1のレーザー照射方法について記載したように、レーザー光は、繰り返して複数回照射することができ、繰り返し回数は、例えば1~30回、別の例では5~20回にすることができる。繰り返して複数回照射するときは、レーザー光の照射部分31aを同じにしてもよいし、レーザー光の照射部分をずらして、レーザー光の照射部分31aを異ならせてもよい。
【0061】
レーザー光の照射部分31aを同じにして複数回照射したときは点線状の溝が形成されるが、レーザー光の照射部分31aをずらして、即ち、最初はレーザー光の非照射部分31bであった部分にレーザー光の照射部分31aが重なるようにずらして照射することを繰り返すと、点線状に照射した場合であっても、最終的には実線状の溝が形成されることになる。かくして第2のレーザー照射方法によって形成される、直線、曲線、または直線と曲線の組み合わせを含む線状溝は、点線状の線状溝または実線状の線状溝であることができる。
【0062】
第2のレーザー光照射方法を、金属成形体の開口部を含む部分の全部または一部に樹脂成形体を接合させてシールするシール方法に使用する場合には、シール性を高める観点から、上記のように実線状の溝を形成するようにレーザー光を照射する方法が好ましい場合がある。
【0063】
金属成形体に対して連続的にレーザー光を照射すると、照射面の温度が上昇することから、厚さの小さい成形体ではそりなどの変形が生じるおそれもあるため、冷却するなどの対策が必要になる場合がある。しかし、
図2に示すように点線状の溝31~35を形成するようにレーザー光を照射すると、レーザー光の照射部分31aとレーザー光の非照射部分31bが交互に生じ、レーザー光の非照射部分31bでは冷却されていることになるため、レーザー光の照射を継続した場合、厚さの小さい成形体でもそりなどの変形が生じ難くなる。このとき、上記のようにレーザー光の照射部分を異ならせた(レーザー光の照射部分をずらした)場合でも、レーザー光の照射時には点線状に照射されているため、同様の効果が得られる。
【0064】
図2(a)および
図2(b)に示すように複数の点線状溝が形成されるようにレーザー光を照射したときでも、
図1(a)~
図1(c)と同様にレーザー光を照射して、隣接する点線状溝31~35のピッチ間隔を等間隔または異なる間隔にすることができる。
図2では、ピッチ間隔P31<ピッチ間隔P32である。
【0065】
点線状溝31と点線状溝32の間隔(それぞれの幅方向中間位置の間の距離)P31と、点線状溝32と点線状溝33の間隔(それぞれの幅方向中間位置の間の距離)P31は同じである。点線状溝33と点線状溝34の間隔(それぞれの幅方向中間位置の間の距離)P32と、点線状溝33と点線状溝34の間隔(それぞれの幅方向中間位置の間の距離)P32は同じである。線状溝31~35の間には、粗面化されていない金属成形体の表面36、37が残っている。
【0066】
図1(a)~(c)と同様に、1つの実施形態では、
図2(a)に示す隣接する点線状溝同士のピッチ間隔P31、P32は0.12mm以上であり、ピッチ間隔(P)とスポット径(S)の比(P/S)は4~12.5であり、1つの好ましい例では4~12であってよくり、別の好ましい例では4~10、より好ましい実施形態では5~10であることができる。
【0067】
1つの実施形態では、
図2に示すレーザー光の照射部分31aの長さ(L1)とレーザー光の非照射部分31bの長さ(L2)は、L1/L2=1/9~9/1の範囲になるように調整することができる。レーザー光の照射部分31aの長さ(L1)は、複雑な多孔構造に粗面化する観点から、1つの実施形態では0.05mm以上であることができ、別の実施形態では0.1~10mmであることができ、さらに別の実施形態では0.3~7mmであることができる。
【0068】
1つの例示的な実施形態では、第2のレーザー光照射方法では、レーザーの駆動電流を直接変換する直接変調方式の変調装置をレーザー電源に接続したファイバーレーザー装置を使用し、デューティ比(duty ratio)を調整してレーザー照射することができる。
【0069】
レーザーの励起には、パルス励起と連続励起の2種類があり、パルス励起によるパルス波レーザーは一般にノーマルパルスと呼ばれる。しかし連続励起であってもパルス波レーザーを作り出すことが可能である。例えばQスイッチパルス発振方法、AOMやLN光強度変調機により時間的に光を切り出すことでパルス波レーザーを生成させる外部変調方式、レーザーの駆動電流を直接変調してパルス波レーザーを生成する直接変調方式などにより、パルス波レーザーを作り出すことができる。
【0070】
上記した1つの例示的な実施形態は、レーザーの駆動電流を直接変換する直接変調方式の変調装置をレーザー電源に接続したファイバーレーザー装置を使用することで、レーザーを連続励起させてパルス波レーザーを作り出すものであり、第1のレーザー光照射方法で使用した連続波レーザーとは別のものである。但し、エネルギー密度、レーザー光の照射速度、レーザー光の出力、波長、スポット径、焦点はずし距離は、第1のレーザー光照射方法と同様に実施することができる。
【0071】
デューティ比は、レーザー光の出力のON時間とOFF時間から次式により求められる比である。
デューティ比(%)=ON時間/(ON時間+OFF時間)×100
【0072】
デューティ比は、上記のL1/(L1+L2)に対応するものであるから、例えば10~90%の範囲から選択することができる。デューティ比を調整してレーザー光を照射することで、
図2に示すような点線状に照射することができる。デューティ比が大きいと粗面化工程の効率は良くなるが、冷却効果は低くなり、デューティ比が小さいと冷却効果は良くなるが、粗面化効率は悪くなる。目的に応じて、デューティ比を調整することができる。
【0073】
1つの例示的な実施形態では、第2のレーザー光照射工程では、粗面化対象となる金属成形体の表面上に、間隔をおいてレーザー光を通過させないマスキング材を配置した状態でレーザーを連続照射する方法を適用できる。マスキング材は、金属成形体に直接接触しても接触していなくとも良い。複数回照射するときは、マスキング材の位置を変化させることで、金属成形体全体を粗面化させることができる。
【0074】
この実施形態の1つの例では、
図3(a)のように金属成形体110の上に間隔をおいて複数枚のマスキング材111を配置した状態で、レーザーを連続照射する。マスキング材としては、熱伝導率の小さい金属などを使用することができる。その後、マスキング材111を取り去ると、
図3(b)に示すとおり、
図2と同様にレーザー光の照射部分101と非照射部分102が長さ方向に交互に生じた点線状溝が形成されている。
【0075】
図3(a)、
図3(b)に示す実施形態の場合にも、マスキング材111の部分では冷却されていることになるため、レーザー光の照射を継続した場合、厚さの小さい成形体でもそりなどの変形が生じ難くなる。
【0076】
第2のレーザー光照射方法において、ピッチ間隔が0.12mm以上で、P/Sが上記範囲内であると、隣接する線状溝同士(レーザー光の照射痕同士)の干渉が少なくなるので繰り返し回数を増加できるほか、意図的に線状溝が形成されない部分を確保することができるため、金属成形体の開口部を樹脂成形体で被覆するシール方法として適用した場合には、特に高圧雰囲気中における気体のリーク防止効果が高められる。
【0077】
第1のレーザー光照射方法と第2のレーザー光照射方法で使用するレーザーは公知のものを使用することができ、例えば、YVO4レーザー、ファイバーレーザー(シングルモードファイバーレーザー、マルチモードファイバーレーザー)、エキシマレーザー、炭酸ガスレーザー、紫外線レーザー、YAGレーザー、半導体レーザー、ガラスレーザー、ルビーレーザー、He-Neレーザー、窒素レーザー、キレートレーザー、色素レーザーを使用することができる。
【0078】
レーザー光照射して粗面化する工程において、第1のレーザー光照射方法または第2のレーザー光照射方法を実施したときは、上記したエネルギー密度と照射速度を満たすように金属成形体にレーザー光を照射すると、金属成形体の表面は溶融しながら一部が蒸発されることから、複雑な構造の多孔構造を有する溝が形成されると考えられる。しかしながら本発明は、このような作用に何ら拘束されるものではない。
【0079】
このときに形成される多孔構造は、例えば特許第5774246号公報の
図7または
図8、特許第5701414号公報の
図7または
図8に示されるものと同じか、または類似する複雑な多孔構造でありうる。一方、上記したエネルギー密度または照射速度を満たさない場合には、金属成形体の表面は昇華して孔が形成されるか(通常のパルスレーザー照射により形成される孔)、または溶融(レーザー溶接)してしまい、複雑な構造を有する溝は形成されないと考えられる。
【0080】
<シール方法>
本発明のシール方法は、幾つかの例示的な実施形態において、金属成形体の開口部を含む部分の全部または一部に樹脂成形体を接合させてシールするシール方法であることができる。また別の幾つかの例示的な実施形態において、本発明のシール方法は、金属成形体(第1の金属成形体)と、別の金属成形体(第2の金属成形体)とを、樹脂成形体を接合させてシールするシール方法であることができる。
【0081】
1つの例示的な実施形態では、金属成形体は、内部空間を有し、前記内部空間と接続された開口部を有していてよい。樹脂の射出成形または圧縮成形によって形成される樹脂成形体により前記開口部が閉塞できるものであれば、金属成形体の形状、厚さ、構造および大きさは特に制限されるものではない。金属成形体の金属としては、上記した金属成形体表面の粗面化方法に用いられる金属と同じ金属を使用することができる。
【0082】
本発明のシール方法は、金属成形体表面の樹脂成形体との接合面に対して、連続波レーザーを使用して、エネルギー密度1MW/cm2以上で、照射速度2000mm/sec以上でレーザー光を照射することで粗面化する工程を有している。
【0083】
1つの例示的な実施形態では、前記粗面化する方法としては、上記した金属成形体表面の粗面化方法に関連して説明したのと同じ第1のレーザー光照射方法または第2のレーザー光照射方法のいずれかを使用することができる。別の例示的な実施形態では、ピッチ間隔Pが0.12mm以上であること、ピッチ間隔(P)(μm)とレーザー光線のスポット径(S)(μm)の比(P/S)が4~12.5であることという要件の一方または両方を満たさない場合であっても、他の条件を第1のレーザー光照射方法または第2のレーザー光照射方法と同様にして、公知の連続波レーザー光を照射する方法であってもよい。
【0084】
(1)
図4~
図7に示す実施形態
図4~
図7により本発明のシール方法の例示的な一実施形態を説明する。
図4(a)、
図4(b)は、本発明で使用することのできる金属成形体の1つの形態を示すものである。
【0085】
示されているように、筒状の金属成形体40は、第1端面41、反対側の第2端面42、外周面43a、内周面43bを有し、さらに内部空間となる貫通孔44を有している。貫通孔44は、第1端面41側に第1開口部44a、第2端面42側に第2開口部44bを有している。
【0086】
図4(a)に示す筒状の金属成形体40を使用して、第1開口部44aを閉塞しようとするとき、第1端面41の第1開口部44aを包囲する環状接合面45(
図4(b))に対してレーザー光を照射して、複数本の直線、曲線、または直線と曲線の組み合わせを含む線状溝を形成させて粗面化することができる。
【0087】
レーザー光を照射して粗面化する工程においては、金属成形体40の樹脂成形体60(例えば
図7参照)との環状接合面45に対して、複数本の直線、曲線、または直線と曲線の組み合わせを含む線状溝を形成するように連続波レーザー光を照射するとき、金属成形体40の内部空間(貫通孔)44から金属成形体40の外部空間に至る経路(例えば典型的には最短経路)を横切るようにして複数の線状溝を形成し、かつ複数の線状溝同士の間の少なくとも一部に粗面化されていない環状接合面45が残されるようにする。このようなレーザー光の照射形態としては、例えば
図5(a)~
図5(c)に示す実施形態があるが、これらに限定されるものではない。
【0088】
図5(a)、
図6に示す実施形態では、金属成形体40の第1端面41の環状接合面45に対して、貫通孔44の中心を基準とする直径の異なる複数の同心円状の線状溝50~52が形成されている。同心円状の線状溝50~52は、金属成形体40の内部空間(貫通孔)44から金属成形体40の外部空間に至る経路(例えば最短経路)(例えば、
図5(a)中の接合面45に沿った2本の矢印で表される)を横切るようにして形成されている。
【0089】
環状接合面45に形成されている同心円状の線状溝50~52の間には、粗面化されていない環状接合面45の部分が残っており、環状接合面45のこれらの部分は同心円状の線状溝50~52の間に連続的に壁となって存在している。
【0090】
図5(b)に示す実施形態では、金属成形体40の第1端面41の環状接合面45に対して、渦巻き状の線状溝53が形成されている。
図5(b)の実施形態の長さ方向の断面図は、
図6と同様の断面図になる。示されているように、渦巻き状の線状溝53は、金属成形体40の内部空間(貫通孔)44から金属成形体40の外部空間に至る経路(例えば最短経路)(例えば、
図5(b)中の接合面45に沿った2本の矢印で表される)を横切るようにして形成されている。
【0091】
環状接合面45に形成されている渦巻き状の線状溝53の各巻きの間には、粗面化されていない環状接合面45の部分が残っており、環状接合面45のこれらの部分は渦巻き状の線状溝53の各巻きの間に連続的に壁となって存在している。
【0092】
図5(c)に示す実施形態では、金属成形体40の第1端面41の環状接合面45に対して、貫通孔44の中心を基準とする直径の異なる複数の周方向に不連続な同心円状の線状溝54~56が形成されている。
図5(c)に示す実施形態では、第2のレーザー光照射方法を適用して、
図2(b)に示すような形態の点線状溝(周方向に不連続な同心円状の線状溝54~56)が形成されるようにする。
【0093】
周方向に不連続な同心円状の線状溝54~56は、金属成形体40の内部空間(貫通孔)44から金属成形体40の外部空間に至る経路(例えば最短経路)(例えば、
図5(c)中の接合面45に沿った2本の矢印)をいずれかの同心円状の線状溝54~56が横切るようにして形成されている。即ち、例えば
図5(c)中の2本の矢印を見たとき、不連続な同心円状の線状溝54の線状溝がない部分には不連続な同心円状の線状溝55の線状溝が存在しており、不連続な同心円状の線状溝55の線状溝がない部分には、不連続な同心円状の線状溝の線状溝54、56が存在するようになっている。
【0094】
環状接合面45に形成されている周方向に不連続な同心円状の線状溝54~56の間には、粗面化されていない環状接合面45の部分が残っており、環状接合面45のこれらの部分は同心円状の線状溝50~52の間に連続的に壁となって存在している。
【0095】
なお、シール性を高める観点から、1つの例では
図5(a)、
図5(b)の実施形態を使用してよい。
図5(c)の実施形態にするときは、レーザー光を照射していない部分(
図3(b)の非照射部分102に相当する部分)の長さを短くすることができる(例えば、照射部分101に相当する部分の長さが7~9:非照射部分102に相当する部分の長さが3~1)。さらに
図5(c)では三重に不連続な同心円状の線状溝54~56が形成されているが、シール性を高める観点から、例えば4重、5重以上に形成することができる。
【0096】
また照射部分に相当する部分101と非照射部分に相当する部分102をずらしながら連続波レーザー光を照射することで最終的に
図5(a)と類似した同心円状の線状溝にすることもできるが、最初から連続波レーザー光を連続照射して
図5(a)のような溝を形成した場合と比べて、金属成形体40に対する熱的影響を緩和できる。
【0097】
図8は、
図5(a)~
図5(c)に対応する比較形態を示す断面図である。
図8に示す比較形態では、例えば、金属成形体40の第1端面41の環状接合面45に対して、複数の同心円状の線状溝が狭い間隔(ピッチ間隔)で形成されたため、隣接する同心円状の線状溝同士が一体となり、環状接合面45の全面が粗面化された形態を示している。このため、
図8に示す実施形態では、
図5(a)~(c)のように線状溝と線状溝の間に粗面化されていない環状接合面45は残っていない。
【0098】
シール方法の次の工程においては、例えば前工程において粗面化された金属成形体の開口部を含む接合面を金型内に配置して、樹脂成形体となる樹脂を射出成形または圧縮成形して前記開口部をシールすることができる。1つの具体的な例によれば、前工程において、
図4(a)の金属成形体40の第1端面41の第1開口部44aを包囲する環状接合面45に対してレーザー光を照射して粗面化したときは、第1端面41側を金型内に配置して、環状接合面45を含む円と同じ形状および同じ大きさの円になるように樹脂を射出成形または圧縮成形して樹脂成形体60を形成させ、第1開口部44aをシールして複合成形体を得ることができる。
【0099】
図5(a)、
図6に示す実施形態では、
図7に例示するとおり、射出成形または圧縮成形により溶融した樹脂が同心円状の線状溝50~52内に入り込み、同心円状の線状溝50~52の間の粗面化されてない面(環状接合面45の部分)と密着され、内部空間、すなわち貫通孔44の第1開口部44aを覆った状態で固まることで、第1開口部44aが閉塞されている。本発明のシール方法を適用すれば、金属成形体40の第1端面41の環状接合面45と樹脂成形体60の間が強い接合力で一体化されることによる第1のシール作用と、金属成形体40の粗面化されてない環状接合面45と樹脂成形体60が密着していることによる第2のシール作用によって、高いシール性を得ることができる。
【0100】
特に貫通孔44内に高圧気体が封入されているような場合には、第1の作用と第2の作用により高いシール性を発揮できる。
図5(b)、
図5(c)に示す実施形態においても、
図5(a)に示す実施形態と同様に2つのシール作用によって高いシール性を発揮できる。
【0101】
これに対して
図8、
図9に示す比較形態では、射出成形または圧縮成形により溶融した状態が粗面化部分57内に入り込んだ後で固まることで、金属成形体40の第1端面41の環状接合面45と樹脂成形体60の間が強い接合力で一体化されることにより第1のシール作用が発揮されることは同じである。しかし
図8、
図9に示す比較形態では、粗面化されてない環状接合面45の部分が存在していないことから第2のシール作用が発揮されず、シール性は本発明の実施形態と比べると劣る。
【0102】
また
図8、
図9に示す比較形態の粗面化部分57には、非常に複雑な孔構造が形成されているため、孔構造の全てに溶融した樹脂が入り込むことはできず、孔の側面や底面には、第1のシール作用には影響しないが、樹脂と接触していない僅かな隙間が残存している場合が考えられる。そのような僅かな隙間が残存している場合で、かつ金属成形体40の内部空間(貫通孔44)に高圧の気体が存在しているような場合には、ごく少量の気体が僅かな隙間を通って金属成形体40の外部に漏れ出るおそれがある。
【0103】
一方、
図5~
図7に示す本発明の例による実施形態では、線状溝部分(粗面化部分)に僅かな隙間が残存した場合でも、粗面化されてない環状接合面45と樹脂成形体60の密着性が高く、隙間も存在していないため、金属成形体40の内部空間(貫通孔)44の気体や液体が金属成形体40の外部空間まで漏れ出ることを阻止するような作用(第2のシール作用)が発揮されることになり、優れたシール作用が発揮される。なお、粗面化部分がない場合は、第1のシール作用が発揮されないため金属成形体と樹脂成形体が接合できず、第2のシール作用の有無自体を問題にするまでもない。
【0104】
樹脂成形体に使用する樹脂には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のほか、熱可塑性エラストマー、ゴム(架橋可能なエラストマーを含み、熱可塑性エラストマーを含まない)も含まれる。
【0105】
熱可塑性樹脂は、用途に応じて公知の熱可塑性樹脂から適宜選択することができる。例えば、ポリアミド系樹脂(PA6、PA66等の脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド)、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂等のスチレン単位を含む共重合体、ポリエチレン、エチレン単位を含む共重合体、ポリプロピレン、プロピレン単位を含む共重合体、その他のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂を挙げることができる。
【0106】
熱硬化性樹脂は、用途に応じて公知の熱硬化性樹脂から適宜選択することができる。例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レソルシノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ビニルウレタンを挙げることができる。
【0107】
熱可塑性エラストマーは、用途に応じて公知の熱可塑性エラストマーから適宜選択することができる。例えば、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ニトリル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーを挙げることができる。
【0108】
ゴムとしては、エチレン‐プロピレンコポリマー(EPM)、エチレン‐プロピレン‐ジエンターポリマー(EPDM)、エチレン‐オクテンコポリマー(EOM)、エチレン‐ブテンコポリマー(EBM)、エチレン‐オクテンターポリマー(EODM)、エチレン‐ブテンターポリマー(EBDM)などのエチレン‐α‐オレフィンゴム;エチレン/アクリル酸ゴム(EAM)、ポリクロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル‐ブタジエンゴム(NBR)、水添NBR (HNBR)、スチレン‐ブタジエンゴム(SBR)、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン(ACSM)、エピクロルヒドリン(ECO)、ポリブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(合成ポリイソプレンを含む) (NR)、塩素化ポリエチレン(CPE)、ブロム化ポリメチルスチレン‐ブテンコポリマー、スチレン‐ブタジエン‐スチレン(S‐B‐S)およびスチレン‐エチレン‐ブタジエン‐スチレン(S‐E‐B‐S)ブロックコポリマー、アクリルゴム(ACM)、エチレン‐酢酸ビニルエラストマー(EVM)、およびシリコーンゴムなどを挙げることができる。
【0109】
架橋可能なエラストマーとしては、架橋可能なフッ素エラストマー、架橋可能なフッ素エラストマーと他の架橋可能なエラストマー(架橋可能なシリコーンエラストマーを含む)の組み合わせ、架橋可能なシリコーンエラストマー、架橋可能なシリコーンエラストマーと他の架橋可能なエラストマー(架橋可能なフッ素エラストマーを含む)の組み合わせなどを使用することができる。
【0110】
架橋可能なフッ素エラストマーは公知のものであってよく、例えば特開2013-14640号公報に記載されているフッ素ゴム、熱可塑性フッ素ゴムおよび前記ゴムを含むゴム組成物を挙げることができ、これらの中でもフッ素ゴムが好ましい。また原料となるフッ素エラストマーは、例えば特開2013-14640号公報に記載されている架橋剤、架橋促進剤、充填剤を含有する組成物として使用することもできる。
【0111】
架橋可能なシリコーンエラストマーは公知のものであってよく、例えば特開2004-27228号公報、特開2007-302893号公報、特表2016-505647号公報、特表2014-500888号公報などに記載されているものを挙げることができる。架橋可能なエラストマーを含むエラストマーまたはそれらを含む組成物のムーニー粘度(ML1+10,121℃)は、1つの好ましい例では10~200であってよく、別の好ましい例では10~100であってよい。
【0112】
これらの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマー、ゴム(架橋可能なエラストマーを含み、熱可塑性エラストマーを含まない)には、公知の繊維状充填材を配合することができる。公知の繊維状充填材としては、炭素繊維、無機繊維、金属繊維、有機繊維等を挙げることができる。
【0113】
炭素繊維は周知のものであってよく、PAN系、ピッチ系、レーヨン系、リグニン系等のものを用いることができる。無機繊維としては、ガラス繊維、玄武岩繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維等を挙げることができる。金属繊維としては、ステンレス、アルミニウム、銅等からなる繊維を挙げることができる。有機繊維としては、ポリアミド繊維(全芳香族ポリアミド繊維、ジアミンとジカルボン酸のいずれか一方が芳香族化合物である半芳香族ポリアミド繊維、脂肪族ポリアミド繊維)、ポリビニルアルコール繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリオキシメチレン繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ポリエステル繊維(全芳香族ポリエステル繊維を含む)、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリイミド繊維、液晶ポリエステル繊維などの合成繊維や天然繊維(セルロース系繊維など)や再生セルロース(レーヨン)繊維などを用いることができる。
【0114】
これらの繊維状充填材としては、例えば繊維径が3~60μmの範囲のものを使用することができるが、これらの中でも、例えば金属成形体の接合面が粗面化されて形成される孔や溝の開口径より小さな繊維径のものを使用することが好ましい。繊維径は、1つの好ましい例ではは5~30μmであってよく、別の好ましい例では7~20μmであってよい。
【0115】
(2)
図10に示す実施形態
図10(a)は、本発明のシール方法の別の実施形態の例を示すものである。金属成形体70は、天面71、反対側の底面72、4つの側面73~76を有し、さらに内部には内部空間77を有している。天面71は内部空間77と接続された開口部78を有していることができる。1つの具体的な例によれば、粗面化工程では、天面71の開口部78を包囲する環状接合面79に対して
図5(a)~
図5(c)のいずれかの実施形態でレーザー光を照射して粗面化する。このときの粗面化状態は、
図6に示すようになる。
【0116】
その後、天面71側を金型内に配置して、環状接合面79を含む円と同じ形状および同じ大きさの円になるように樹脂を射出成形または圧縮成形して樹脂成形体60を形成させて開口部38をシールして複合成形体を得ることができる。1つの具体的な例によれば、このときの断面構造は
図7に示すようになる。
図10(b)のシールされた複合成形体は、第1のシール作用と第2のシール作用を発揮できることから、高いシール性が得られる。
【0117】
(3)
図11に示すシール方法
図11(a)は、本発明のシール方法のさらに別の実施形態の例を示すものであり、第1金属成形体80と第2金属成形体90の2つの金属成形体を使用する。第1金属成形体80は、外側環状壁部81、外側環状壁部81と同一方向に伸ばされた内側環状壁部82、外側環状壁部81と内側環状壁部82の間を接続する環状面部83を有している。外側環状壁部81と内側環状壁部82は、外側環状壁部81の長さ>内側環状壁部82の長さの関係を有している。外側環状壁部81の環状面部83に対向する部分は大開口部84を有しており、内側環状壁部82の大開口部84に対向する部分は小開口部85を有している。
【0118】
第2金属成形体90は筒状のものであり、第1端面91、反対側の第2端面92、周面93、貫通孔94、第1端面91側の第1開口部94a、第2端面92側の第2開口部94bを有している。
【0119】
粗面化工程は、例えば前記した第1のレーザー光照射方法または第2のレーザー光照射方法により、第1金属成形体の第1の接合面および第2金属成形体の第2の接合面のそれぞれに、複数本の直線、曲線、または直線と曲線の組み合わせを含む線状溝を形成するように複数の線状溝を形成し、かつ前記複数の線状溝同士の間の少なくとも一部に粗面化されていない接合面が残されるようにする工程を含んでいてよい。
【0120】
1つの具体的な例によれば、粗面化工程では、第1金属成形体80の小開口部85の内側環状壁部82の内側面82a(長さL11)と、筒状の第2金属成形体90の第1端面91から第2端面92側の周面93(外側周面93a)(長さL11)のそれぞれに対して、周方向に環状にレーザー光を照射し、かつそれぞれの環状照射部同士が長さ方向に間隔をおいて形成されるようにレーザー光を照射する方法(
図11(b)参照)、螺旋状にレーザー光を照射する方法などを使用することができる。
【0121】
図11(b)の例では、第1の接合面である内側面82aに沿って第1金属成形体80の内部空間から外部空間に至る経路(例えば最短経路)を横切るように環状溝86が形成されており、隣接する環状溝86の間には、粗面化されていない内側環状壁部82の内側面82aの部分が残存している。
【0122】
またやはり
図11(b)に例示的に示されているように、第2金属成形体90の第2の接合面である外側周面93aにも、接合面に沿って第1端面91から第2端面92に至る経路を横切るように環状溝96が形成されており、隣接する環状溝96の間には、粗面化されていない第2金属成形体90の外側周面93aの部分が残存している。第2の接合面は、第1の接合面と対向して配置されることが意図されていてよい。
【0123】
次の工程では、第1金属成形体80の第1の接合面82aを含む部分と第2金属成形体90の第2の接合面93aを含む部分を金型内に配置し、樹脂を射出成形または圧縮成形することにより、第1の金属成形体80と第2の金属成形体90の間に樹脂成形体を接合させてシールを行うことができる。
【0124】
1つの具体的な例によれば、
図11(c)に示すように、第1金属成形体80の内側環状壁部82の中心軸と第2金属成形体90の中心軸が一致し、かつ第1金属成形体82の小開口部85と第2金属成形体90の第1端面91が一致するようにして、第1金属成形体80と第2金属成形体90の間に隙間を置いて金型内に配置する。このように第1の金属成形体と前記第2の金属成形体とが組み合わせられたときに、環状溝86と環状溝96は、前記第1の接合面および前記第2の接合面に沿って第1金属成形体の内部空間から外部空間に至る経路を横切る。その後、樹脂を射出成形または圧縮成形して樹脂成形体99を形成させて小開口部85と第2金属成形体90の隙間をシールして、
図11(d)に示す複合成形体を得る。
図11(d)の複合成形体は、第1のシール作用と第2のシール作用を発揮できることから、高いシール性が得られる。
【0125】
(4)
図12に示すシール方法
図12は、本発明のシール方法のさらに別実施形態の例を示すものであり、第1金属成形体および第2金属成形体として、第1金属管160と第2金属管170の2つの金属管を使用する。レーザー照射工程では、第1金属管160の第1端部161の外表面と第2金属管170の第1端部171の外表面に対してレーザー光を照射して、粗面化し、後で樹脂と一体化される接合面を形成することができる。
【0126】
レーザー光を照射するときは、第1金属管160の第1端部161の外表面に対して、周方向に環状に照射し、かつそれぞれの環状照射部同士が長さ方向に間隔をおいて形成されるように照射する方法(
図12(b)参照)、螺旋状に照射する方法などを使用することができる。レーザー光の照射方法は、上記した第1のレーザー光照射方法または第2のレーザー光照射方法を適用することができる。
【0127】
図12(b)に示すとおり、接合面となる粗面化部分には、第1金属管160側の複数の線状溝(環状溝)162と、第2金属管170側の複数の線状溝(環状溝)172が形成された状態になっている。複数の線状溝162、172は、第1金属管160と第2金属管170の突き合わせられた端面を通り、これらの管の内部空間から外部空間に至る経路(例えば最短経路)を横切るようにして形成されており、隣接する複数の線状溝162、および隣接する複数の線状溝172の間には、それぞれ、粗面化されていない部分164、174が残存している。
【0128】
シール工程では、第1金属管160の第1端面161と第2金属管170の第1端面171を当接させた状態で金型内に配置し、樹脂を射出成形または圧縮成形して筒状の樹脂成形体175を形成させて、第1金属管160と第2金属管170を接続する共に接続部分を外側からシールすることができる。
図12(a)の複合成形体は、第1のシール作用と第2のシール作用を発揮できることから、高いシール性が得られる。
【実施例】
【0129】
実施例1および比較例1~4
図13(a)に示す形状および寸法(単位はミリ)の環状の金属成形体(アルミニウムA5052)200の環状接合面201(392.5mm
2の広さ範囲)に対して、表1に示す条件でレーザー光を照射して(第1のレーザー光照射方法)、環状接合面201を粗面化した。粗面化後の環状接合面201の状態を示すSEM写真を
図14(実施例1)、
図15(比較例1)、
図16(比較例2)、
図17(比較例3)、
図18(比較例4)に示す。
【0130】
レーザー装置は次のものを使用した。
発振器:IPG-Ybファイバー;YLR-300-AC
集光系:fc=80mm/fθ=100mm
焦点はずし距離:±0mm(一定)
【0131】
次に、粗面化処理後の金属成形体200を使用して、下記の方法で射出成形して、金属成形体200の開口202を樹脂成形体210で閉塞して環状の複合成形体を得た(
図13(b))。
【0132】
<射出成形>
GF35%強化PPS樹脂(DURAFIDE 1135MF1:ポリプラスチックス(株)製),GF(ガラス繊維)
樹脂温度:320℃
金型温度:150℃
射出成形機:ファナック製ROBOSHOT S2000i100B)
【0133】
(最大溝深さ)
最大溝深さ(Rz)は、レーザー光照射後の面(392.5mm2の広さ範囲)をワンショット3D形状測定器VR-3200((株)キーエンス製)で測定した。
【0134】
(シール性試験)
下記装置を使用して評価した。
【0135】
試験機:(株)コスモ計器製のヘリウムリークテスター G-FINE
検出法:大気圧法
検出範囲:下限5.00×10-7Pa・m3/s
設定圧力:500kPa
【0136】
(ヒートサイクル試験)
上記シール性試験において、試験装置を-40℃、30分の雰囲気で維持した後、125℃、30分の雰囲気で維持することを1サイクルとして、合計で500サイクル繰り返した後のシール性を試験した。
【0137】
【0138】
実施例1は、レーザー光照射により形成された線状溝のピッチが広いため、
図14からも明らかなとおり、線状溝の間に粗面化されていない部分が残存していた。このため、ヒートサイクル後のシール性も優れていた。
【0139】
比較例1は、レーザを渦巻き状ではなく、所定のピッチ間隔で複数の同心円状に照射した。レーザー照射の方法は、一方向ではなく、交互になるように照射した(双方向)。具体的には、レーザを開始点から終点に向け円状に照射した後は、その終点からレーザー照射方向と垂直な方向に1ピッチの距離レーザをずらし、さきほどと逆方向にレーザを照射する。この操作を複数回実施することで、環状接合面全体が処理されるようにした。このようにして全面照射する操作を繰返し数1回とした。
【0140】
比較例1はレーザー光のピッチが狭いため、
図15からも明らかなとおり、多数の線状溝が一体になって全面が粗面化された状態になっており、粗面化されていない部分は残存していなかった。このため、ヒートサイクル後のシール性が劣っていた。なお、比較例1では実施例1に比べると繰り返し回数が少なく、最大深さも小さくなっているが、ピッチ間隔が狭いことから、この少ない回数で、ほぼ全面が粗面化された状態になった。それ以上粗面化処理を継続することは、一旦形成された凸部を再度レーザー光で潰して平坦化するような状態になることから中止したものである。
【0141】
なお、実施例1のSEM写真と比較例1のSEM写真から測定が容易な箇所を選択してP/Sを計測したところ、ピッチは設定値と実測値は同じであり、スポット径(溝幅)には誤差があったが、実施例1の実測値はP/S=4~12.5を満たしており、比較例1はP/S<4であった。
【0142】
比較例2~4は、ピッチ間隔は広いが、スポット径(溝幅)が大きいため、P/Sが本発明の範囲外となっていることから、ヒートサイクル後のシール性が劣っていたと考えられる。なお、比較例2~4のうち最も繰り返し回数の多い比較例2の繰り返し回数であっても実施例1と比べると少ないが、スポット径(溝幅)が大きく、最大深さも大きくなったため、試験に使用した環状の金属成形体(厚さ1mm)では、それ以上繰り返すことは難しかった。
【0143】
実施例2、3および比較例5、6
図13(a)に示す形状および寸法(単位はミリ)の環状の金属成形体(ステンレスSUS304または銅C2801)200の環状接合面201(392.5mm
2の広さ範囲)に対して、表2に示す条件でレーザー光を照射して(第1のレーザー光照射方法)、環状接合面201を粗面化した。それぞれの例の粗面化後の表面のSEM写真を
図19(実施例2)、
図20(比較例5)、
図21(実施例3)、
図22(比較例6)に示す。比較例5および6における「双方向」は、比較例1の場合と同様の照射パターンを指している。
【0144】
レーザー装置は次のものを使用した。
発振器:IPG-Ybファイバー;YLR-300-AC,fb径:13μm,1070nm
集光系:OPTICEL D30L-CL+ARGES社のSQUIRREL16(fc=80mm/fθ=163mm)
【0145】
次に、粗面化処理後の金属成形体200を使用して、下記の方法で射出成形して、金属成形体200の開口202を樹脂成形体210で閉塞して環状の複合成形体を得た(
図13(b))。
【0146】
<射出成形>
GF35%強化PPS樹脂(DURAFIDE 1135MF1:ポリプラスチックス(株)製),GF(ガラス繊維)
樹脂温度:320℃
金型温度:150℃
射出成形機:ファナック製ROBOSHOT S2000i100B)
【0147】
実施例1と同様にして最大溝深さ(Rz)を測定し、シール性は次のように試験した。
(シール性試験)
試験機:(株)コスモ計器 ヘリウムリークテスター G-FINE
検出方法:大気圧法
検出範囲:下限 5.00×10-7Pa・m3/s
設定圧力:500kPa
【0148】
【0149】
実施例2(
図19)および実施例3(
図21)では、溝と溝の間に粗面化されていない部分が連続的に壁となって気体がリークする経路が遮断されているため(第2のシール作用)、気体が溝を通ってリークし難い構造になっていたと考えられる。これに対して比較例5(
図20)と比較例6(
図22)では、溝と溝の間の壁が不連続となっているため、第2のシール作用が十分に発揮されず、気体がリークし易い構造になっていたと考えられる。
【0150】
このような図面(SEM写真)から確認できる粗面化状態は、実施例2、3の溝よりも比較例5、6の溝の方が最大深さは大きかったが、比較例5、6はP/Sを満たしていないことから、比較例5、6の粗面化状態がシール性(第2のシール作用)を発揮するには十分ではないと考えられることとも合致していた。このような粗面化状態の違いから、シール性の試験から確認できるとおり、実施例2、3のシール性が高く、比較例5、6のシール性が低くなったものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明の例による金属成形体表面の粗面化方法は、例えば、特許第6489766号に記載された微粒子の担体、特許第6422701号に記載された研磨材などの製造方法に用いることができるほか、公知の連続波レーザー光を連続照射する方法と同様にして利用することができる。
【0152】
本発明の例によるシール方法は、金属成形体と樹脂成形体の接続部分のシール性が優れているため、通常の管、三つ叉管などの一部開口部のシール、吸湿防止のための容器(複数の部品が収容されたハウジングなど)開口部のシール、金属管同士の接続およびシールなどに利用することができる。
【符号の説明】
【0153】
1~4 線状溝
1a~3a 線状溝が形成されていない部分(粗面化されていない部分)
11~14 線状溝
11a~13a 線状溝が形成されていない部分(粗面化されていない部分)
21~26 線状溝
22a、23a、25a 線状溝が形成されていない部分(粗面化されていない部分)
31~35 点線状溝
31a レーザー光照射部分
31b レーザー光非照射部分
36、37 点線状溝が形成されていない部分(粗面化されていない部分)