(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】アクリルゴム、ゴム組成物及びその架橋物、並びにゴムホース
(51)【国際特許分類】
C08F 220/18 20060101AFI20241202BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20241202BHJP
F16L 11/04 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
C08F220/18
C08L33/04
F16L11/04
(21)【出願番号】P 2021574667
(86)(22)【出願日】2021-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2021001822
(87)【国際公開番号】W WO2021153372
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2020013734
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】中野 辰哉
(72)【発明者】
【氏名】堀口 達徳
(72)【発明者】
【氏名】河崎 孝史
(72)【発明者】
【氏名】宮内 俊明
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-187901(JP,A)
【文献】特開2011-006509(JP,A)
【文献】国際公開第2018/147142(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/078167(WO,A1)
【文献】特開2003-082029(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008473(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/163468(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/099117(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08L
F16L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチルアクリレート及びn-ブチルアクリレートをモノマー単位として含み、かつトルエン不溶分を含むアクリルゴムであって、
前記n-ブチルアクリレートの含有量に対する前記エチルアクリレートの含有量の質量比が3以上であり、
前記トルエン不溶分の含有量が、前記アクリルゴム全量を基準として
4.2質量%以下である、アクリルゴム(ただし、タイヤブラダーに用いられるアクリルゴムを除く)。
【請求項2】
モノマー単位としてメタクリレートを含まない、請求項1に記載のアクリルゴム。
【請求項3】
モノマー単位としてエチレンを更に含む、請求項1又は2に記載のアクリルゴム。
【請求項4】
モノマー単位として、カルボキシル基を有する架橋席モノマーを更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のアクリルゴム。
【請求項5】
モノマー単位として、前記エチルアクリレート、前記n-ブチルアクリレート、エチレン、及び、カルボキシル基を有する架橋席モノマーのみを含む、請求項1に記載のアクリルゴム。
【請求項6】
前記エチルアクリレートの含有量が、前記モノマー単位全量を基準として70~90質量%である、請求項5に記載のアクリルゴム。
【請求項7】
前記n-ブチルアクリレートの含有量が、前記モノマー単位全量を基準として10~30質量%である、請求項5又は6に記載のアクリルゴム。
【請求項8】
前記エチレンの含有量が、前記モノマー単位全量を基準として0.5~5質量%である、請求項5~7のいずれか一項に記載のアクリルゴム。
【請求項9】
前記架橋席モノマーの含有量が、前記モノマー単位全量を基準として0.5~5質量%である、請求項5~8のいずれか一項に記載のアクリルゴム。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のアクリルゴムを含有する、ゴム組成物(ただし、タイヤブラダーに用いられるゴム組成物を除く)。
【請求項11】
請求項10に記載のゴム組成物の架橋物(ただし、タイヤブラダーに用いられる架橋物を除く)。
【請求項12】
請求項11に記載の架橋物を含む、ゴムホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アクリルゴム、ゴム組成物及びその架橋物、並びにゴムホースに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルゴム及びその架橋物は、耐熱性、耐油性、機械的特性等の物性に優れているため、例えば、自動車のエンジンルーム内のホース部材等の材料として多く使用されている。このようなアクリルゴムの架橋物に求められる特性の一つとして、架橋物を屈曲させたときに亀裂が発生しづらいこと(耐屈曲疲労性と呼ばれる)が挙げられる。例えば特許文献1には、耐屈曲疲労性等に優れる架橋物を与えることのできるアクリルゴム組成物として、アクリルゴムに対して、特定の老化防止剤、カーボンブラック及び架橋剤を添加したアクリルゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1では、アクリルゴム組成物を特定の組成にすることにより耐屈曲疲労性を向上させようとするものであるが、本発明者らの検討によれば、アクリルゴムそれ自体にも耐屈曲疲労性を向上させるための改善の余地がある。
【0005】
そこで、本発明の一側面は、架橋物の耐屈曲疲労性を向上させることができるアクリルゴムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、エチルアクリレート及びn-ブチルアクリレートをモノマー単位として含むアクリルゴムにおいて、n-ブチルアクリレートの含有量に対するエチルアクリレートの含有量の質量比と、アクリルゴムに含まれるトルエン不溶分の含有量とを所定の範囲内であることにより、当該質量比とトルエン不溶分とがその範囲外である場合に比べて、架橋物の耐屈曲疲労性を向上させることができることを見出した。
【0007】
本発明の一側面は、エチルアクリレート及びn-ブチルアクリレートをモノマー単位として含み、かつトルエン不溶分を含むアクリルゴムであって、n-ブチルアクリレートの含有量に対するエチルアクリレートの含有量の質量比が2以上であり、トルエン不溶分の含有量が、アクリルゴム全量を基準として5質量%以下である、アクリルゴムである。
【0008】
アクリルゴムは、モノマー単位としてメタクリレートを含んでよい。アクリルゴムは、モノマー単位としてエチレンを更に含んでよい。アクリルゴムは、モノマー単位として、カルボキシル基を有する架橋席モノマーを更に含んでよい。
【0009】
アクリルゴムは、モノマー単位として、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、エチレン、及び、カルボキシル基を有する架橋席モノマーのみを含んでよい。この場合、エチルアクリレートの含有量は、モノマー単位全量を基準として70~90質量%であってよい。n-ブチルアクリレートの含有量は、モノマー単位全量を基準として10~30質量%であってよい。エチレンの含有量は、モノマー単位全量を基準として0.5~5質量%であってよい。架橋席モノマーの含有量は、モノマー単位全量を基準として0.5~5質量%であってよい。
【0010】
本発明の他の一側面は、上記のアクリルゴムを含有するゴム組成物である。本発明の他の一側面は、このゴム組成物の架橋物である。本発明の他の一側面は、この架橋物を含むゴムホースである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面によれば、架橋物の耐屈曲疲労性を向上させることができるアクリルゴムを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態は、エチルアクリレート及びn-ブチルアクリレートをモノマー単位として含むアクリルゴムである。
【0013】
エチルアクリレートの含有量は、アクリルゴム(アクリルゴムを含む組成物)の架橋物(以下、単に「架橋物」ともいう)の引張強度を向上させる観点から、好ましくは、アクリルゴムに含まれるモノマー単位全量を基準として、70質量%以上、72質量%以上、74質量%以上、又は76質量%以上であってよい。エチルアクリレートの含有量は、架橋物の耐寒性を向上させる観点から、好ましくは、アクリルゴムに含まれるモノマー単位全量を基準として、90質量%以下、87質量%以下、85質量%以下、又は82質量%以下であってよい。エチルアクリレートの含有量は、アクリルゴムに含まれるモノマー単位全量を基準として、70~90質量%、70~87質量%、70~85質量%、70~82質量%、72~90質量%、72~87質量%、72~85質量%、72~82質量%、74~90質量%、74~87質量%、74~85質量%、74~82質量%、76~90質量%、76~87質量%、76~85質量%、又は76~82質量%であってもよい。
【0014】
エチルアクリレート及びn-ブチルアクリレートの合計含有量は、アクリルゴムに含まれるモノマー単位全量を基準として、90質量%以上、93質量%以上、95質量%以上、又は96質量%以上であってよく、99.5質量%以下又は99質量%以下であってよく、90~99.5質量%、90~99質量%、93~99.5質量%、93~99質量%、95~99.5質量%、95~99質量%、96~99.5質量%、又は96~99質量%であってもよい。
【0015】
n-ブチルアクリレートの含有量は、架橋物の耐寒性を向上させる観点から、好ましくは、アクリルゴムに含まれるモノマー単位全量を基準として、10質量%以上、12質量%以上、又は15質量%以上であってよい。n-ブチルアクリレートの含有量は、架橋物の引張強度を向上させる観点から、好ましくは、アクリルゴムに含まれるモノマー単位全量を基準として、30質量%以下、25質量%以下、又は22質量%以下であってよい。n-ブチルアクリレートの含有量は、アクリルゴムに含まれるモノマー単位全量を基準として、10~30質量%、10~25質量%、10~22質量%、12~30質量%、12~25質量%、12~22質量%、15~30質量%、15~25質量%、又は15~22質量%であってもよい。
【0016】
モノマー単位中のn-ブチルアクリレートの含有量に対するエチルアクリレートの含有量の質量比(エチルアクリレートの含有量(質量)/n-ブチルアクリレートの含有量(質量))は、架橋物の耐屈曲疲労性を向上させる観点から、2以上であり、架橋物の耐屈曲疲労性を更に向上させ、架橋物の引張強度も向上させる観点から、好ましくは、2.1以上、2.2以上、2.3以上、2.5以上、3以上、3.5以上、3.8以上、4以上、又は4.1以上であってもよい。当該質量比は、架橋物の耐寒性を向上させる観点から、好ましくは、12以下、11以下、10以下、8以下、6以下、又は5以下であってもよい。
【0017】
アクリルゴムは、モノマー単位として、エチレンを更に含んでよい。エチレンの含有量は、アクリルゴムに含まれるモノマー単位全量を基準として、0.5質量%以上、0.7質量%以上、又は1質量%以上であってよく、5質量%以下、4質量%以下、又は3質量%以下であってよい。エチレンの含有量は、アクリルゴムに含まれるモノマー単位全量を基準として、0.5~5質量%、0.5~4質量%、0.5~3質量%、0.7~5質量%、0.7~4質量%、0.7~3質量%、1~5質量%、1~4質量%、又は1~3質量%であってもよい。
【0018】
アクリルゴムは、モノマー単位として、カルボキシル基を有する架橋席モノマーを更に含んでよい。架橋席モノマーは、エチルアクリレート及びn-ブチルアクリレートと共重合可能であり、かつ架橋席(架橋点ともいう)を形成するためのカルボキシル基を有するモノマーである。架橋席モノマーは、重合性の炭素-炭素二重結合を有しており、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、メタアリル基、ビニル基、又はアルケニレン基を有している。
【0019】
カルボキシル基を有する架橋席モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2-ペンテン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、及びマレイン酸モノアルキルエステルが挙げられる。
【0020】
架橋席モノマーの含有量は、アクリルゴムに含まれるモノマー単位全量を基準として、0.5質量%以上、0.7質量%以上、又は1質量%以上であってよく、5質量%以下、4質量%以下、又は3質量%以下であってよい。架橋席モノマーの含有量は、アクリルゴムに含まれるモノマー単位全量を基準として、0.5~5質量%、0.5~4質量%、0.5~3質量%、0.7~5質量%、0.7~4質量%、0.7~3質量%、1~5質量%、1~4質量%、又は1~3質量%であってもよい。
【0021】
アクリルゴムは、モノマー単位として、上記のモノマー以外のその他のモノマーを更に含んでよい。
【0022】
その他のモノマーとしては、例えば、エチルアクリレート及びn-ブチルアクリレート以外のアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、フッ素含有(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、第3級アミノ基含有(メタ)アクリレート、アルキルメタクリレート、アルキルビニルケトン、ビニルエーテル、アリルエーテル、芳香族ビニル化合物、ビニルニトリル、ハロゲン化ビニル、及びハロゲン化ビニリデンが挙げられる。
【0023】
エチルアクリレート及びn-ブチルアクリレート以外のアルキルアクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、イソアミルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-メチルペンチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、及び2-エチルヘキシルアクリレートが挙げられる。アルキルメタクリレートとしては、アルキルメタクリレートとしては、例えば、メチルメタクリレート及びオクチルメタクリレートが挙げられる。
【0024】
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-(n-プロポキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(n-ブトキシ)エチル(メタ)アクリレート、3-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-エトキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(n-プロポキシ)プロピル(メタ)アクリレート、及び2-(n-ブトキシ)プロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0025】
フッ素含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,1-ジヒドロペルフルオロエチル(メタ)アクリレート、1,1-ジヒドロペルフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1,1,5-トリヒドロペルフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、1,1,2,2-テトラヒドロペルフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1,1,7-トリヒドロペルフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、1,1-ジヒドロペルフルオロオクチル(メタ)アクリレート、及び1,1-ジヒドロペルフルオロデシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0026】
水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、1-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及びヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。第3級アミノ基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びジブチルアミノエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0027】
アルキルビニルケトンとしては、例えばメチルビニルケトンが挙げられる。ビニルエーテルとしては、例えばビニルエチルエーテルが挙げられる。アリルエーテルとしては、例えばアリルメチルエーテルが挙げられる。芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、及びビニルトルエンが挙げられる。ビニルニトリルとしては、例えば、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが挙げられる。ハロゲン化ビニルとしては、例えば、塩化ビニル及びフッ化ビニルが挙げられる。ハロゲン化ビニリデンとしては、例えば、塩化ビニリデン及びフッ化ビニリデンが挙げられる。
【0028】
その他のモノマーの含有量は、アクリルゴムに含まれるモノマー単位全量を基準として、1質量%以上であってよく、10質量%以下であってよい。
【0029】
アクリルゴムは、好ましくは、モノマー単位としてメタクリレートを含まない。アクリルゴムは、より好ましくは、モノマー単位として、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、エチレン、及び、カルボキシル基を有する架橋席モノマーのみを含む。
【0030】
アクリルゴムは、上記のモノマーを乳化重合、懸濁重合などの公知の方法により共重合することにより得られ、より具体的には、例えば以下の方法により得られる。
【0031】
まず、エチルアクリレート及びn-ブチルアクリレートを含むモノマー混合液と、乳化剤の水溶液(例えばポリビニルアルコール水溶液)とを反応容器内で混合して懸濁液を作製する。続いて、反応容器中を窒素ガスで置換した後、必要に応じてエチレンを例えば0.5~5MPaの圧力で圧入する。その後、懸濁液を撹拌しながら、重合開始剤を懸濁液に加えて重合を開始させ、例えば40~100℃で1~24時間で重合を進行させる。得られた共重合体に凝固剤(例えばホウ酸ナトリウム水溶液)を添加し、共重合体を固化させた後、水による共重合体の洗浄、脱水及び乾燥の工程をこの順で実施し、アクリルゴムを得る。このような方法でアクリルゴムを得る場合、モノマー混合液を予め乳化剤の水溶液と混合して懸濁液を作製する方法のほうが、乳化剤の水溶液を混合して予め懸濁液を作製した後に懸濁液にモノマー混合液を加える方法よりも、後述するトルエン不溶分が少なくなる傾向にある。
【0032】
乳化剤は、例えば、ポリビニルアルコールであってよく、その他の界面活性剤であってもよい。その他の界面活性剤としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノレン酸などの脂肪酸の塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウムなどの高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステルナトリウムなどの高級燐酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンドデシルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、及び、モノステアリン酸ポリエチレングリコールが挙げられる。これらの界面活性剤を乳化剤として用いる場合、ポリビニルアルコールを乳化剤として用いる場合に比べて、トルエン不溶分が更に少なくなる傾向にある。
【0033】
モノマー混合液は、必要に応じて、エチルアクリレート及びn-ブチルアクリレートに加えて、アクリルゴムを構成する上述のモノマー(ただし、エチレン等の気体状のモノマーを除く)を更に含んでもよい。
【0034】
懸濁液には、pH調整剤を更に添加してもよい。pH調整剤は、例えば、酢酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩であってよく、好ましくは酢酸ナトリウムである。pH調整剤の添加量は、アクリルゴムを構成するモノマー全量100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上であってよく、5質量部以下であってよい。
【0035】
重合開始剤は、例えば、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物、tert-ブチルヒドロペルオキシド、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、又は、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化物であってよく、好ましくはtert-ブチルヒドロペルオキシドである。重合開始剤の添加量は、アクリルゴムを構成するモノマー全量100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上であってよく、2質量部以下であってよい。
【0036】
以上のようにして得られるアクリルゴム中のトルエン不溶分の含有量は、アクリルゴムの全量を基準として、架橋物の屈曲疲労性を向上させる観点から5質量%以下であり、架橋物の屈曲疲労性を更に向上させる観点から、好ましくは4.5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3.5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。アクリルゴム中のトルエン不溶分の含有量は、架橋物の成形性を向上させる観点から、アクリルゴムの全量を基準として、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、特に好ましくは1.5質量%以上である。
【0037】
アクリルゴム中のトルエン不溶分の含有量は、以下のように測定される。
アクリルゴム1gを精秤し、トルエン100mLに温度25℃で48時間かけて溶解させた後、事前に質量(X(g)とする)を測定した容量250mLの遠心管に溶解液を移す。続いて、最大遠心半径13.8cmのアングルローターを用いて、温度10℃、8500rpm、60分間の条件で溶解液を遠心分離した後、非沈殿物をデカンテーションにより取り除く。遠心管中の沈殿物を温度70℃の真空乾燥器で24時間乾燥させ、乾燥後の遠心管の質量(Y(g)とする)を測定する。測定されたX,Yから、下式によりトルエン不溶分を算出する。
トルエン不溶分(質量%)=(Y-X)×100
【0038】
アクリルゴム中のトルエン不溶分は、上述したとおり、モノマー混合液と乳化剤の水溶液とを混合して懸濁液を作製する際の混合の順序によって、調整することができる。また、アクリルゴム中のトルエン不溶分は、アクリルゴムに含まれるモノマー単位におけるn-ブチルアクリレートの含有量に対するエチルアクリレートの含有量の質量比によっても調整することができる。当該質量比が大きいほど、アクリルゴム中のトルエン不溶分は少なくなる傾向にある。
【0039】
アクリルゴムのムーニー粘度は、例えば、10以上、20以上、又は30以上であってよく、70以下、60以下、又は50以下であってよい。アクリルゴムのムーニー粘度は、JIS K6300に規定される方法に従って測定された値であり、具体的には、L型ローターを用いて、100℃において、予備加熱1分間の後、回転開始後4分間経過した時点で測定された値を意味する。
【0040】
以上説明したアクリルゴムは、必要に応じてその他の成分と組み合わせてゴム組成物として用いられる。すなわち、本発明の他の一実施形態は、上記のアクリルゴム(及び必要に応じて用いられるその他の成分)を含有するゴム組成物である。アクリルゴムの含有量は、ゴム組成物の全量を基準として、例えば、50質量%以上、55質量%以上、又は60質量%以上であってよく、90質量%以下であってよい。
【0041】
ゴム組成物に含まれ得るその他の成分としては、例えば、充填剤、滑剤、老化防止剤、界面活性剤、架橋剤、及び架橋促進剤が挙げられる。
【0042】
充填剤としては、例えばカーボンブラック、シリカ、タルク及び炭酸カルシウムが挙げられる。充填剤の含有量は、アクリルゴム100質量部に対して、例えば、30質量部以上であってよく、100質量部以下であってよい。
【0043】
滑剤としては、例えば、流動パラフィン、ステアリン酸、ステアリルアミン、脂肪酸亜鉛、脂肪酸エステル、及びオルガノシリコーンが挙げられる。滑剤の含有量は、アクリルゴム100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上であってよく、10質量部以下であってよい。
【0044】
老化防止剤としては、例えば芳香族アミン化合物及びフェノール化合物が挙げられる。老化防止剤の含有量は、アクリルゴム100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上であってよく、10質量部以下であってよい。
【0045】
界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸エステル塩が挙げられる。界面活性剤の含有量は、アクリルゴム100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上であってよく、10質量部以下であってよい。
【0046】
架橋剤としては、例えば、イミダゾール化合物及びジアミン化合物が挙げられる。架橋剤の含有量は、アクリルゴム100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上であってよく、10質量部以下であってよい。
【0047】
架橋促進剤は、ゴム組成物が架橋剤を含有する場合に、好ましく用いられる。架橋促進剤としては、例えば、トリメチルチオ尿素化合物、フェノチアジン化合物、及びグアニジン化合物が挙げられる。架橋促進剤の含有量は、アクリルゴム100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上であってよく、10質量部以下であってよい。
【0048】
ゴム組成物は、架橋された状態で(架橋物として)好適に用いられる。すなわち、本発明の他の一実施形態は、上記のゴム組成物の架橋物である。架橋物は、ゴム組成物を架橋させることにより得られる。架橋物においては、アクリルゴムにモノマー単位として含まれる架橋席モノマーの架橋席(架橋点)により、アクリルゴム同士の架橋が形成されている。ゴム組成物が架橋剤を含有する場合、架橋剤によりアクリルゴム同士の架橋が更に形成される。
【0049】
ゴム組成物を架橋する方法は、公知の方法であってよく、例えば、ゴム組成物を加熱及び加圧する第一の架橋工程と、第一の架橋工程後のゴム組成物を更に加熱する第二の架橋工程とを備えていてよい。
【0050】
第一の架橋工程において、加熱温度は、例えば、150℃以上であってよく、220℃以下であってよい。加圧時の圧力は、例えば、0.4MPa以上であってよく、20MPa以下であってよい。加熱及び加圧を行う時間は、例えば、5分間以上であってよく、2時間以下であってよい。
【0051】
第二の架橋工程において、加熱温度は、例えば、150℃以上であってよく、220℃以下であってよい。加熱時間は、例えば、30分間以上であってよく、24時間以下であってよい。
【0052】
ゴム組成物の架橋物は、ゴムホースや、ガスケット、パッキング等のシール部品として好適に用いられ、ゴムホースに特に好適に用いられる。すなわち、本発明の他の一実施形態は、上記の架橋物を含むゴムホース又はシール部品であり、好ましくは上記の架橋物を含むゴムホースである。当該ゴムホース及びシール部品は、ゴム組成物の架橋物のみからなってもよく、当該架橋物と他の部品とを備えていてもよい。
【0053】
ゴムホースとしては、例えば、自動車、建設機械、油圧機器等のトランスミッションオイルクーラーホース、エンジンオイルクーラーホース、エアダクトホース、ターボインタークーラーホース、ホットエアーホース、ラジエターホース、パワーステアリングホース、燃料系統用ホース、及びドレイン系統用ホース等が挙げられる。
【0054】
シール部品としては、例えば、エンジンヘッドカバーガスケット、オイルパンガスケット、オイルシール、リップシールパッキン、O-リング、トランスミッションシールガスケット、クランクシャフト、カムシャフトシールガスケット、バルブステム、パワーステアリングシールベルトカバーシール、等速ジョイント用ブーツ材及びラックアンドピニオンブーツ材が挙げられる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例をよって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
<実施例1~5>
内容積40リットルの耐圧反応容器に、表1に示したモノマー(ただしエチレンを除く)を含むモノマー混合液11kgと、ポリビニルアルコールの4質量%水溶液17kgと、酢酸ナトリウム22gとを投入し、攪拌機で予めよく混合し、均一懸濁液を作製した。容器内上部の空気を窒素で置換後、容器上部にエチレンを3MPaの圧力で圧入した(ただし実施例5を除く)。攪拌を続行し、容器内を55℃に保持した後、t-ブチルヒドロペルオキシド水溶液(0.25質量%)2リットルを加えて、重合を開始させた。容器内温度を55℃に保ち、6時間後に反応を終了させた。得られた共重合体にホウ酸ナトリウム水溶液(3.5質量%)7リットルを添加して共重合体を固化させた。固化させた共重合体を水で洗浄した後、脱水及び乾燥を行ってアクリルゴムを得た。
【0057】
<比較例1、2>
内容積40リットルの耐圧反応容器に、ポリビニルアルコールの4質量%水溶液17kgと酢酸ナトリウム22gとを投入し、攪拌機で予めよく混合し、均一懸濁液を作製した。容器内上部の空気を窒素で置換後、容器上部にエチレンを3MPaの圧力で圧入した。攪拌を続行し、容器内を55℃に保持した後、表1に示したモノマー(ただしエチレンを除く)を含むモノマー混合液11kgと、t-ブチルヒドロペルオキシド水溶液(0.25質量%)2リットルを6時間掛けて加えて、重合を開始させた。容器内温度を55℃に保ち、6時間後に反応を終了させた。得られた共重合体にホウ酸ナトリウム水溶液(3.5質量%)7リットルを添加して共重合体を固化させた。固化させた共重合体を水で洗浄した後、脱水及び乾燥を行ってアクリルゴムを得た。
【0058】
<比較例3>
内容積40リットルの耐圧反応容器に、表1に示したモノマー(ただしエチレンを除く)を含むモノマー混合液1kgと、ポリビニルアルコールの4質量%水溶液17kgと、酢酸ナトリウム22gとを投入し、攪拌機であらかじめよく混合し、均一懸濁液を作製した。容器内上部の空気を窒素で置換後、容器上部にエチレンを3MPaの圧力で圧入した。攪拌を続行し、容器内を55℃に保持した後、表1に示したモノマー(ただしエチレンを除く)を含むモノマー混合液10kgと、t-ブチルヒドロペルオキシド水溶液(0.25質量%)2リットルを6時間掛けて加えて、重合を開始させた。容器内温度を55℃に保ち、6時間後に反応を終了させた。得られた共重合体にホウ酸ナトリウム水溶液(3.5質量%)7リットルを添加して共重合体を固化させた。固化させた共重合体を水で洗浄した後、脱水及び乾燥を行ってアクリルゴムを得た。
【0059】
得られたアクリルゴムに含まれるモノマー単位の組成を表1に示す。なお、モノマー単位の含有量は、核磁気共鳴スペクトルにより測定した。
【0060】
また、得られたアクリルゴム中のトルエン不溶分の含有量、及び、アクリルゴムのムーニー粘度ML(1+4)100℃をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0061】
トルエン不溶分は、以下の方法により測定した。すなわち、まず、アクリルゴム1gを精秤し、トルエン100mLに温度25℃で48時間かけて溶解させた後、事前に質量(X(g)とする)を測定した容量250mLの遠心管に溶解液を移した。続いて、最大遠心半径13.8cmのアングルローターを用いて、温度10℃、8500rpm、60分間の条件で溶解液を遠心分離した後、非沈殿物をデカンテーションにより取り除いた。遠心管中の沈殿物を温度70℃の真空乾燥器で24時間乾燥させ、乾燥後の遠心管の質量(Y(g)とする)を測定した。測定されたX,Yから、下式によりトルエン不溶分を算出した。
トルエン不溶分(質量%)=(Y-X)×100
【0062】
ムーニー粘度ML(1+4)100℃は、JIS K6300に規定される方法に従って測定した。
【0063】
続いて、得られた各アクリルゴム100質量部と、充填剤(カーボンブラック(東海カーボン社製 シーストSO))45質量部と、滑剤a(流動パラフィン(カネダ社製 ハイコールK-230))1質量部と、滑剤b(パラフィンワックス(日本精蝋社製 パラフィンワックス135F))1質量部と、滑剤c(ステアリン酸(日油株式会社製))1質量部と、滑剤d(ステアリルアミン(花王社製 ファーミン80))0.3質量部と、老化防止剤a(4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(Addivant社製 Naugard#445))0.5質量部と、老化防止剤b(N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン(大内新興化学工業社製 ノクラック810-NA))1質量部と、離型剤(リン酸エステル化合物(巴工業社製 モールドウィズINT-21G))0.5質量部と、架橋剤(ヘキサメチレンジアミンカーバメート(Du pont社製 Diak#1))0.7質量部と、架橋促進剤(ランクセス社製 XLA-60)1.5質量部とを、8インチオープンロールで混練を行ってゴム組成物を得た。
【0064】
得られたゴム組成物を厚さ2.4mmのシートに分出しした後、プレス加硫機を用いて、170℃、10MPaの圧力で20分間加熱及び加圧を行った。続いて、ギヤーオーブン内で170℃4時間の加熱を行い、ゴム組成物の架橋物を得た。
【0065】
(架橋物の引張強度の評価)
JIS K6251:2010に従って、架橋物の引張強度を測定した。
【0066】
(架橋物の耐屈曲疲労性の評価)
JIS-K6260:2010に従って、23℃及び100℃の環境下のそれぞれにおいて、架橋物に0.5mmの亀裂が発生するまでの屈曲回数を測定した。屈曲回数は、5つの試料について同様の測定を行った結果の平均値とした。屈曲回数が多いほど、耐屈曲疲労性に優れる。
【0067】
(架橋物の耐寒性の評価)
JIS K6261:2006に従って、架橋物のT100を測定した。T100は、23℃における架橋物の比モジュラスの値に対して100倍の値を示す温度を意味する。T100が低いほど耐寒性に優れる。
【0068】
(成形性の評価)
ゴム単軸押出機(スクリュー径:50mm)を使用し、スクリュー回転速度:20rpm、ヘッド温度:110℃、シリンダー温度:90℃、ホッパー温度:70℃の条件で、得られたゴム組成物をチューブ状(内径:9mm、外径:14mm)に成形した。得られたチューブについて、質量W(g)、押出方向の長さL(cm)、及び密度ρ(g/cm3)を測定し、下記式によりダイスウェルDS(%)を算出した。
DS=(W/LρS0-1)×100
ただし、S0はダイの面積(cm2)である。ダイスウェルが小さいほど成形性に優れる。
【0069】