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特許7596327作業領域推定方法、作業領域推定システムおよび作業領域推定プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】作業領域推定方法、作業領域推定システムおよび作業領域推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20241202BHJP
   G06Q 50/02 20240101ALI20241202BHJP
【FI】
A01B69/00 303Z
G06Q50/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022047500
(22)【出願日】2022-03-23
(65)【公開番号】P2023141270
(43)【公開日】2023-10-05
【審査請求日】2024-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205350
【弁理士】
【氏名又は名称】狩野 芳正
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭策
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹士
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-162053(JP,A)
【文献】特開2022-021096(JP,A)
【文献】特開2022-036524(JP,A)
【文献】特開2021-132598(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0000005(US,A1)
【文献】特開2021-131721(JP,A)
【文献】特開昭59-220108(JP,A)
【文献】特開昭64-018807(JP,A)
【文献】特開2017-127291(JP,A)
【文献】特開2014-178888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00 ー 69/08
G06Q 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプリング周期を決定することと、
圃場の内側で移動しながら作業を行う作業車両の位置を前記サンプリング周期で測定した測位情報を出力することと、
前記測位情報に基づいて、前記圃場のうちの前記作業車両が前記作業を行った作業領域の位置および形状を推定して作業領域情報として出力することと
を含み、
前記決定することは、
前記圃場の形状を表す圃場情報または過去に出力した前記作業領域情報に基づいて前記サンプリング周期を決定すること
を含む
作業領域推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の作業領域推定方法において、
前記測位情報を出力することは、
前記作業車両に搭載された車載端末が備える測位部が、前記測位情報を出力すること
を含み、
前記車載端末が備える第1の通信部が、前記測位情報を送信すること
をさらに含み、
前記作業領域情報として出力することは、
作業領域推定装置が備える第2の通信部が、前記測位情報を受信することと、
前記作業領域推定装置が備える推定部が、前記作業領域の前記位置および前記形状を推定することと
を含み、
前記決定することは、
前記作業領域推定装置が備える決定部が、前記サンプリング周期を決定すること
を含む
作業領域推定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の作業領域推定方法において、
前記作業領域推定装置が備える圃場情報記憶部が、前記圃場情報を記憶すること
をさらに含み、
前記決定することは、
前記圃場の前記形状が矩形であり、かつ、前記矩形の長辺および短辺の比率が所定の範囲に含まれる第1の場合において、前記サンプリング周期を第1のサンプリング周期に決定することと、
前記第1の場合以外の第2の場合において、前記サンプリング周期を前記第1のサンプリング周期より短い第2のサンプリング周期に決定することと
をさらに含む
作業領域推定方法。
【請求項4】
請求項2に記載の作業領域推定方法において、
前記作業領域推定装置が備える作業領域情報記憶部が、過去に出力した前記作業領域情報を記憶すること
をさらに含み、
前記決定することは、
前記作業領域の前記形状が矩形であり、かつ、前記矩形の長辺および短辺の比率が所定の範囲に含まれる第1の場合において、前記サンプリング周期を第1のサンプリング周期に決定することと、
前記第1の場合以外の第2の場合において、前記サンプリング周期を前記第1のサンプリング周期より短い第2のサンプリング周期に決定することと
をさらに含む
作業領域推定方法。
【請求項5】
請求項2に記載の作業領域推定方法において、
前記作業領域推定装置が備える作業領域情報記憶部が、過去に出力した前記作業領域情報を記憶することと、
前記決定部が、前記サンプリング周期を、第1のサンプリング周期より短い第2のサンプリング周期に決定することと、
前記測位部が、前記第2のサンプリング周期で測定した前記測位情報を出力することと、
前記第1の通信部が、前記測位情報のうち、前記第1のサンプリング周期で測定した場合に得られる部分測位情報を前記第2の通信部へ送信することと、
前記推定部が、前記部分測位情報に基づいて前記作業領域の前記位置および前記形状を推定して前記作業領域情報として出力することと、
前記推定部が、前記作業領域の前記形状が矩形であり、かつ、前記矩形の長辺および短辺の比率が所定の範囲に含まれる第1の場合以外の第2の場合において、前記測位情報を要求する要求信号を出力することと、
前記第1の通信部が、前記要求信号に応じて前記測位情報を前記第2の通信部へ送信することと、
前記推定部が、前記測位情報に基づいて前記作業領域の前記位置および前記形状を改めて推定して前記作業領域情報として出力することと
をさらに含む
作業領域推定方法。
【請求項6】
サンプリング周期を決定する決定部と、
圃場の内側で移動しながら作業を行う作業車両の位置を前記サンプリング周期で測定した測位情報を出力する測位部と、
前記測位情報に基づいて、前記圃場のうちの前記作業車両が前記作業を行った作業領域の位置および形状を推定して作業領域情報として出力する推定部と
を備え、
前記決定部は、前記圃場の形状を表す圃場情報または過去に出力した前記作業領域情報に基づいて前記サンプリング周期を決定する
作業領域推定システム。
【請求項7】
実行することによって所定の処理を実現するための作業領域推定プログラムであって、
前記処理は、
サンプリング周期を決定することと、
圃場の内側で移動しながら作業を行う作業車両の位置を前記サンプリング周期で測定した測位情報を取得することと、
前記測位情報に基づいて、前記圃場のうちの前記作業車両が前記作業を行った作業領域の位置および形状を推定して作業領域情報として出力することと
を含み、
前記決定することは、
前記圃場の形状を表す圃場情報または過去に出力した前記作業領域情報に基づいて前記サンプリング周期を決定すること
を含む
作業領域推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作業領域推定方法、作業領域推定システムおよび作業領域推定プログラムに関し、例えば圃場のうちの作業が行われた作業領域の推定に好適に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特許6946217号公報)には、圃場登録装置の発明が開示されている。この発明では、測位装置を設けた作業車両が圃場で走行しながら農作業を行う際に、測位装置により所定のサンプリング周期で位置情報を取得する。取得された位置情報は遠隔の監理サーバへ送信される。監理サーバは、受信した位置情報に含まれる複数の測位点に凸包処理を施すことで、圃場のうちの、作業車両が農作業を行った作業領域を特定することができる。
【0003】
上記の技術において、作業領域の位置および形状を特定する精度と、作業車両から監理サーバへ位置情報を送信する通信負荷とは、トレードオフの関係にある。例えば、サンプリング周期をより短くすれば、位置情報に含まれる測位点が増加して、作業領域を特定する精度が上がるが、その一方で通信負荷が大きくなる。反対に、サンプリング周期をより長くすれば、位置情報の情報量が減少して、通信負荷が小さくなるが、その一方で作業領域を特定する精度が下がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6946217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記状況に鑑み、本開示は、精度と通信負荷の観点から、作業領域の推定をより効率よく行うための作業領域推定方法、作業領域推定システムおよび作業領域推定プログラムを提供することを目的の1つとする。その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、(発明を実施するための形態)で使用される番号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、(特許請求の範囲)の記載と(発明を実施するための形態)との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、(特許請求の範囲)に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0007】
一実施の形態によれば、作業領域推定方法は、サンプリング周期を決定すること(S11)と、圃場(9)の内側で移動しながら作業を行う作業車両(2)の位置をサンプリング周期で測定した測位情報を出力すること(S12)と、測位情報に基づいて、圃場(9)のうちの作業車両(2)が作業を行った作業領域の位置および形状を推定して作業領域情報として出力すること(S13)とを含む。決定すること(S11)は、圃場(9)の形状を表す圃場情報または過去に出力した前記作業領域情報に基づいてサンプリング周期を決定すること(S21~S26)を含む。
【0008】
一実施の形態によれば、作業領域推定システム(1)は、決定部(523)と、測位部(321)と、推定部(522)とを備える。決定部(523)は、サンプリング周期を決定する。測位部(321)は、圃場(9)の内側で移動しながら作業を行う作業車両(2)の位置をサンプリング周期で測定した測位情報を出力する。推定部(522)は、測位情報に基づいて、圃場(9)のうちの作業車両(2)が作業を行った作業領域の位置および形状を推定して作業領域情報として出力する。決定部(523)は、圃場(9)の形状を表す圃場情報または過去に出力した作業領域情報に基づいてサンプリング周期を決定する。
【0009】
一実施の形態によれば、作業領域推定プログラムは、実行することによって所定の処理を実現するためのものである。この処理は、サンプリング周期を決定すること(S11)と、圃場(9)の内側で移動しながら作業を行う作業車両(2)の位置をサンプリング周期で測定した測位情報を取得すること(S12)と、測位情報に基づいて、圃場(9)のうちの作業車両(2)が作業を行った作業領域の位置および形状を推定して作業領域情報として出力すること(S13)とを含む。決定すること(S11)は、圃場(9)の形状を表す圃場情報または過去に出力した前記作業領域情報に基づいてサンプリング周期を決定すること(S21~S26)を含む。
【発明の効果】
【0010】
一実施の形態によれば、精度と通信負荷の観点から、作業領域の推定をより効率よく行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、一実施の形態による作業領域推定システムの一構成例を示す図である。
図2図2は、一実施の形態による車載端末の一構成例を示すブロック回路図である。
図3図3は、一実施の形態による作業領域推定装置の一構成例を示すブロック回路図である。
図4図4は、一実施の形態による作業領域推定方法の処理の一例を示すフローチャートである。
図5A図5Aは、測位のサンプリング周期と、作業領域の推定精度との関係について説明するための図である。
図5B図5Bは、測位のサンプリング周期と、作業領域の推定精度との関係について説明するための図である。
図5C図5Cは、測位のサンプリング周期と、作業領域の推定精度との関係について説明するための図である。
図5D図5Dは、測位のサンプリング周期と、作業領域の推定精度との関係について説明するための図である。
図6図6は、一実施の形態においてサンプリング周期を決定する方法を説明するためのフローチャートである。
図7A図7Aは、一実施の形態においてある図形が矩形であるか否かを判定する方法について説明するための図である。
図7B図7Bは、一実施の形態においてある図形が矩形であるか否かを判定する方法について説明するための図である。
図8A図8Aは、一実施の形態において2つの図形の一致度を算出する方法について説明するための図である。
図8B図8Bは、一実施の形態において2つの図形の一致度を算出する方法について説明するための図である。
図8C図8Cは、一実施の形態において2つの図形の一致度を算出する方法について説明するための図である。
図8D図8Dは、一実施の形態において2つの図形の一致度を算出する方法について説明するための図である。
図8E図8Eは、一実施の形態において2つの図形の一致度を算出する方法について説明するための図である。
図8F図8Fは、一実施の形態において2つの図形の一致度を算出する方法について説明するための図である。
図9図9は、一実施の形態において作業領域の位置および形状を推定する方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
添付図面を参照して、本開示による作業領域推定方法、作業領域推定システムおよび作業領域推定プログラムを実施するための形態を以下に説明する。
【0013】
(実施の形態)
図1に示すように、一実施の形態による作業領域推定システム1は、作業車両2に搭載された車載端末3と、作業領域推定装置5とを含む。車載端末3は、圃場9の内側を移動しながら作業を行う作業車両2の位置を測定した測位情報を、遠隔の作業領域推定装置5へ送信する。車載端末3と、作業領域推定装置5との通信は、ネットワーク4を介して行われてもよい。
【0014】
図2に示すように、車載端末3は、コンピュータのように構成されてもよい。図2の例において、車載端末3は、バス31と、演算装置32と、記憶装置33と、測位装置34と、通信装置35と、入出力装置36とを備える。バス31は、演算装置32、記憶装置33、測位装置34、通信装置35および入出力装置36を、互いに通信可能に接続する。
【0015】
演算装置32は、測位部321と、通信部322とを備える。記憶装置33は、車載端末プログラム記憶部331を備える。車載端末プログラム記憶部331は、車載端末プログラムを記憶する。
【0016】
演算装置32は、車載端末プログラムを読み出して実行することによって、測位部321および通信部322のそれぞれの機能を実現する。測位部321および通信部322のそれぞれは、演算装置32および記憶装置33が協働して実現する処理を実行する仮想的な機能ブロックである。これらの機能ブロックの処理については、後述する。
【0017】
車載端末プログラムは、外部の記録媒体330から読み出されて車載端末プログラム記憶部331に格納されてもよい。記録媒体330は、非一時的で有形の媒体(non-transitory and tangible media)であってもよい。
【0018】
測位装置34は、測位部321の制御下で、GNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)などを利用して位置を測定し、測位情報を取得する。測位情報は、測定された測位点の位置を表す位置情報と、測定を行った測定時刻を表す時刻情報とを対応付けたものを含む。この測位情報に含まれる複数の測位点のそれぞれは、厳密には測位装置34のアンテナの位置を表すが、測位装置34が車載端末3に固定されており、かつ、車載端末3が作業車両2に固定されているとき、実質的には作業車両2の位置を表す。
【0019】
通信装置35は、通信部322の制御下で、ネットワーク4を介した無線通信および/または有線通信で、作業領域推定装置5を含む外部の装置との通信を行う。車載端末プログラムは、通信装置35によって外部から受信されて車載端末プログラム記憶部331に格納されてもよい。
【0020】
入出力装置36は、使用者に情報を出力し、使用者が入力する操作を受け付ける。一例として、入出力装置36は、画像を出力する表示装置、音声を出力するスピーカー、押下操作を受け付けるボタン、音声入力を受け付けるマイクロフォン、タッチ操作を受け付けるとともに画像の出力を行うタッチパネルなどを含む。
【0021】
図3に示すように、作業領域推定装置5は、コンピュータのように構成されてもよい。図3の例において、作業領域推定装置5は、バス51と、演算装置52と、記憶装置53と、通信装置54と、入出力装置55とを備える。バス51は、演算装置52、記憶装置53、通信装置54および入出力装置55を、互いに通信可能に接続する。
【0022】
演算装置52は、通信部521と、推定部522と、決定部523とを備える。記憶装置53は、作業領域推定プログラム記憶部531と、圃場情報記憶部532と、作業領域情報記憶部533とを備える。作業領域推定プログラム記憶部531は、作業領域推定プログラムを記憶する。圃場情報記憶部532は、圃場9に係る情報を圃場情報として記憶する。作業領域情報記憶部533は、過去に推定した作業領域に係る情報を作業領域情報として記憶する。
【0023】
演算装置52は、作業領域推定プログラムを読み出して実行することによって、通信部521、推定部522および決定部523のそれぞれの機能を実現する。通信部521、推定部522および決定部523のそれぞれは、演算装置52および記憶装置53が協働して実現する処理を実行する仮想的な機能ブロックである。これらの機能ブロックの処理については、後述する。
【0024】
作業領域推定プログラムは、外部の記録媒体530から読み出されて作業領域推定プログラム記憶部531に格納されてもよい。同様に、圃場情報および作業領域情報も、記録媒体530から読み出されて圃場情報記憶部532および作業領域情報記憶部533にそれぞれ格納されてもよい。記録媒体530は、非一時的で有形の媒体(non-transitory and tangible media)であってもよい。
【0025】
通信装置54は、通信部521の制御下で、ネットワーク4を介した無線通信および/または有線通信で、車載端末3を含む外部の装置との通信を行う。作業領域推定プログラムは、通信装置54によって外部から受信されて作業領域情報記憶部533に格納されてもよい。同様に、圃場情報および作業領域情報も、通信装置54によって外部から受信されて圃場情報記憶部532および作業領域情報記憶部533にそれぞれ格納されてもよい。
【0026】
入出力装置55は、使用者に情報を出力し、使用者が入力する操作を受け付ける。一例として、入出力装置55は、画像を出力する表示装置、入力を受け付けるキーボードおよび/またはマウスなどを含む。
【0027】
図4のフローチャートを参照して、一実施の形態による作業領域推定方法の処理の一例について説明する。一例として、作業領域推定装置5が起動するとき、図4のフローチャートの処理が開始する。図4のフローチャートの処理が開始すると、ステップS11が実行される。
【0028】
ステップS11において、作業領域推定装置5の決定部523が、車載端末3の測位装置34が測位を行うためのサンプリング周期を決定する。図5A図5Dを参照して、測位のサンプリング周期と、作業領域の推定精度との関係について説明する。
【0029】
図5Aは、圃場9の内側を作業車両2が作業を行うために移動した経路62と、作業車両2に作業中に測位装置34が測位を行った複数の測位点61とを示している。図5Aの例において、サンプリング周期は比較的短く、一例として10秒である。図5Aでは、比較のために、サンプリング周期がより長く、一例として60秒である場合に測位が行われる測位点61を、測位点63として示している。
【0030】
図5Bに示すように、図5Aの例における測位点61に基づいて、作業車両2が作業を行った作業領域を推定すると、推定領域71が得られる。推定領域71は、例えば、測位点61の凸包を算出することによって得られる。推定領域71の形状は、圃場9の形状に比較的近く、かつ、作業車両2が通過した測位点61をすべて含んでおり、その推定精度は比較的高い。ここで、作業車両が圃場9に対して作業を行う作業幅に応じて、推定領域71を広げてもよい。一例として、作業幅が、作業車両の進行方向に向かって左右に均等であり、かつ、GNSSアンテナが作業車両の幅方向の中央に配置されている場合には、推定領域71の境界線を、作業幅の半分だけ外側に広げてもよい。
【0031】
図5Cは、サンプリング周期が比較的長く、一例として60秒である場合に得られる測位点63と、これらの測位点63の測位情報に基づいて推測される、作業車両2の経路64とを示している。図5Cは、さらに、比較のために、図5Aの例における、サンプリング周期が比較的短い場合に得られる複数の測位点61を示している。ここで、図5Cの例に示す経路64が、測位点63を測位の順番に接続した場合の、見かけ上の軌跡にすぎないことに留意されたい。
【0032】
図5Dに示すように、図5Cの例における測位点63に基づいて、作業車両2が作業を行った作業領域を推定すると、推定領域72が得られる。推定領域72は、例えば、測位点63の凸包を算出することによって得られる。推定領域72の形状は、圃場9の形状から比較的遠く、また、作業車両2が通過した測位点61の一部を含んでおらず、その推定精度は比較的低い。
【0033】
このように、作業領域の推定精度を高めるためには、サンプリング周期をより短くしてより多くの測位点61、63で作業車両2の位置を測定することが好ましい。しかし、測位点61、63が増えると、測位情報の情報量が増加し、車載端末3と作業領域推定装置5との間の通信負荷が大きくなる。
【0034】
ここで、発明者は、所定の条件が満たされるとき、サンプリング周期が比較的長くても、比較的高い精度で作業領域を推定できる場合があることを見出した。その理由と、この条件を判定してサンプリング周期を決定する方法とを、図6のフローチャートを参照して説明する。
【0035】
図4のステップS11が開始すると、図6のフローチャートの処理が実行される。図6のフローチャートの処理が開始すると、ステップS21が実行される。
【0036】
図6のステップS21において、作業領域推定装置5の決定部523が、圃場9の圃場情報があるか否かを判定する。より詳細には、決定部523は圃場情報記憶部532にアクセスして、作業車両2がこれから作業を行う圃場9の情報を表す圃場情報が圃場情報記憶部532に記憶されているか否かを判定する。ここで、作業車両2の測位部321が作業車両2の位置を測定し、その結果を表す位置情報を作業車両2の通信部322が作業領域推定装置5の通信部521へ送信してもよい。
【0037】
圃場情報が無い場合(No)、処理はステップS22へ進む。反対に、圃場情報がある場合(Yes)、処理はステップS23へ進む。
【0038】
図6のステップS22において、作業領域推定装置5の決定部523が、圃場9における過去の作業領域情報があるか否かを判定する。より詳細には、決定部523は作業領域情報記憶部533にアクセスして、作業車両2がこれから作業を行う圃場9で過去に作業を行った作業領域の作業領域情報が作業領域情報記憶部533に記憶されているか否かを判定する。
【0039】
過去の作業領域情報がある場合(Yes)、処理はステップS23へ進む。反対に、過去の作業領域情報が無い場合(No)、処理はステップS26へ進む。
【0040】
図6のステップS23において、作業領域推定装置5の決定部523が、圃場9または過去に推定した作業領域の形状が矩形であるか否かを判定する。これは、圃場9の形状が矩形であれば、サンプリング周期が比較的長くても作業領域の推定精度が比較的高く保たれると期待されるからであり、また、過去に推定された作業領域の形状が矩形であれば、その作業領域を含む圃場9の形状も矩形であると期待されるからである。図7Aおよび図7Bを参照して、ある図形が矩形であるか否かを判定する方法について説明する。
【0041】
任意の図形に外接する、なるべく小さい矩形を考える。一例として、図示しない任意の図形が矩形であるとき、この図形に外接するなるべく小さい矩形は、任意の図形に一致する。その一方で、図7Aに示すように、任意の図形が、辺の総数が4を超える多角形73であるとき、この多角形73に外接するなるべく小さい矩形81と、多角形73との一致度は、比較的低い。また、図7Bに示すように、任意の図形が、辺の総数が4に満たない三角形74であるとき、この三角形74に外接するなるべく小さい矩形82と、三角形74との一致度は、比較的低い。このように、任意の図形と、その図形に外接するなるべく小さい矩形との一致度を算出し、この一致度が所定の閾値より大きいか否かを判定することによって、その図形が矩形であるか否かを判定することができる。
【0042】
図8A図8Fを参照して、2つの図形の一致度を算出する方法について説明する。図8Aは、第1の図形の輪郭を、縦横のメッシュ状に区切った平面上の配列に変換した第1のビットマップ画像80を表す。図8Bは、第2の図形の輪郭を同様に変換した第2のビットマップ画像70を表す。図8Aおよび図8Bに共通して、黒いピクセルは変換前の図形の輪郭が存在する部分に対応し、白いピクセルは変換前の図形の輪郭が存在しない部分に対応する。
【0043】
図8Cは、図8Aおよび図8Bの論理積を表す論理積画像110を表す。図8Cの論理積画像110において、黒いピクセルは、図8Aのビットマップ画像80および図8Bのビットマップ画像70の両方において、対応する座標のピクセルが黒いことを表す。反対に、図8Cの論理積画像110において、白いピクセルは、図8Aのビットマップ画像80または図8Bのビットマップ画像70の少なくとも一方において、対応する座標のピクセルが白いことを表す。
【0044】
図8Dは、図8Aおよび図8Bの論理和を表す論理和画像120を表す。図8Dの論理和画像120において、黒いピクセルは、図8Aのビットマップ画像80または図8Bのビットマップ画像70の少なくとも一方において、対応する座標のピクセルが黒いことを表す。反対に、図8Dの論理和画像120において、白いピクセルは、図8Aのビットマップ画像80および図8Bのビットマップ画像70の両方において、対応する座標のピクセルが白いことを表す。
【0045】
一実施の形態では、図8Cの論理積画像110に含まれる黒いピクセルの総数を、図8Dの論理和画像120に含まれる黒いピクセルの総数で割り算した比率を、図8Aのビットマップ画像80と、図8Bのビットマップ画像70との一致度とする。また、図8Aの図形と、図8Bの図形との一致度を、図8Aに変換する前の第1の図形と、図8Bに変換する前の第2の図形との一致度とする。図8A図8Dの例では、図8Cの論理積画像110に含まれる黒いピクセルの総数は11であり、図8Dの論理和画像120に含まれる黒いピクセルの総数は17であるので、図8Aのビットマップ画像80と図8Bのビットマップ画像70との一致度は、11/17=約64.7%と算出される。
【0046】
ただし、ビットマップ画像80、70に変換する前の図形の寸法と、ビットマップ画像80、70への変換に用いるメッシュの寸法との比率によっては、論理積画像110における黒いピクセルの総数が著しく少なくなり、その結果、2つのビットマップ画像80、70の一致度が、現実的な値から乖離してしまう可能性がある。この場合は、図8Eおよび図8Fに示すように、変換後のビットマップ画像80、70のピクセル130のそれぞれを、3×3またはそれ以上のピクセルの集合140に変換することで、論理積画像110の黒いピクセルの総数を増加させて、ビットマップ画像80、70の一致度の現実的な値の算出を可能とすることができる。
【0047】
図6のステップS23では、このような方法によって算出した一致度が所定の閾値より大きい場合、圃場9または過去に推定した作業領域の形状は矩形であると判定する。反対に、この一致度が閾値以下である場合、形状は矩形ではないと判定する。形状が矩形であると判定した場合(Yes)、処理はステップS24へ進む。反対に、形状が矩形ではないと判定した場合(No)、処理はステップS26へ進む。
【0048】
図6のステップS24において、作業領域推定装置5の決定部523が、矩形の長辺および短辺の比率が所定の範囲に含まれるか否かを判定する。より詳細には、ステップS23でその形状が矩形であると判定された圃場9または過去に推定された作業領域の縦横比が、所定の範囲に含まれるか否かを判定する。これは、一般的に、圃場9または過去に推定された作業領域の形状が正方形に近いほど、サンプリング周期が比較的長くても作業領域の形状を比較的高い精度で推定できると期待できるからである。一例として、所定の範囲は、0.5から2までである。
【0049】
矩形の長辺および短辺の比率が所定の範囲に含まれる場合(Yes)、処理はステップS25へ進む。反対に、矩形の長辺および短辺の比率が所定の範囲に含まれない場合(No)、処理はステップS26へ進む。
【0050】
図6のステップS25において、作業領域推定装置5の決定部523が、サンプリング周期を、比較的長い第1のサンプリング周期に決定する。作業領域推定装置5の通信部521は、決定されたサンプリング周期を表す信号を、車載端末3の通信部322へ送信する。ステップS25が終了すると、図6のフローチャートの処理は終了し、図4のステップS11も終了し、処理は図4のステップS12へ進む。
【0051】
図6のステップS26において、作業領域推定装置5の決定部523が、サンプリング周期を、比較的短い第2のサンプリング周期に決定する。作業領域推定装置5の通信部521は、決定されたサンプリング周期を表す信号を、車載端末3の通信部322へ送信する。ステップS26が終了すると、図6のフローチャートの処理は終了し、図4のステップS11も終了し、処理は図4のステップS12へ進む。
【0052】
図4のステップS12において、車載端末3の測位部321が、作業車両2の位置を測定する。このとき、測位部321は、車載端末3の通信部322が受信したサンプリング周期ごとに、測位を行う。測位して得られた測位情報は、記憶装置33に格納される。圃場9における作業車両2の作業が終了した後、車載端末3の通信部322は、記憶装置33から測位情報を読み出して作業領域推定装置5の通信部521へ送信する。作業領域推定装置5の通信部521は、受信した測位情報を記憶装置53に格納する。
【0053】
ステップS12の後、図4のステップS13が実行される。ステップS13において、作業領域推定装置5の推定部522が、記憶装置53に格納された測位情報に基づいて、作業領域の位置および形状を推定する。ステップS13の処理について、図9のフローチャートを参照して説明する。
【0054】
ステップS13が開始すると、図9のフローチャートの処理が実行される。図9のフローチャートの処理が開始すると、ステップS31が実行される。
【0055】
図9のステップS31において、作業領域推定装置5の推定部522が、記憶装置53に格納された測位情報のうち、第1のサンプリング周期の測位情報で作業領域を推定する。ここで、測位情報が、図6のステップS25で決定された第1のサンプリング周期で測位されたものであれば、推定部522は測位情報に含まれる測位点63の全体を処理の対象として用いて作業領域を推定する。反対に、測位情報が、図6のステップS26で決定された第2のサンプリング周期で測位されたものであれば、推定部522は、記憶装置53から読み出した測位情報のうち、第1のサンプリング周期で測位した場合に得られる部分を抽出し、抽出された部分的な測位情報に含まれる測位点63を処理の対象として用いて作業領域を推定する。
【0056】
一例として、作業領域推定装置5の推定部522は、処理の対象となる測位点63の凸包を算出し、この凸包を推定作業領域として出力する。
【0057】
ステップS31の後、図9のステップS32が実行される。ステップS32において、作業領域推定装置5の推定部522が、ステップS31で推定した作業領域の形状が矩形であるか否かを判定する。この判定の処理は、図6のステップS23と同様に行われてもよい。また、この判定の処理は、図6のステップS23と同様に、作業領域推定装置5の決定部523が行ってもよい。
【0058】
判定の結果として、推定した作業領域の形状が矩形ではない場合(NO)は、ステップS31における作業領域の推定は精度が不十分である可能性があるので、処理は図9のステップS33へ進む。反対に、推定した作業領域の形状が矩形である場合(Yes)は、ステップS31における作業領域の推定は十分に高い精度で行われたと期待されるので、図9のフローチャートの処理は終了し、図4のステップS13も終了し、図4のフローチャートの処理も終了する。このとき、次回の圃場9における作業と、この時に行われる作業領域の推定処理とに備えて、今回の推定処理で得られた作業領域の位置および形状を表す作業領域情報を、図3に示した作業領域推定装置5の作業領域情報記憶部533に格納する。さらに、第2のサンプリング周期による測位情報のうち、第1のサンプリング周期で測位した場合に得られる測位点63の情報を残して、他の測位点61の情報を削除してもよい。
【0059】
図9のステップS33において、作業領域推定装置5の推定部522が、第2のサンプリング周期の測位情報で作業領域を改めて推定する。ここで、作業領域推定装置5の推定部522は、図9のステップS31の場合と同様に、処理の対象となる測位点61の凸包を算出し、この凸包を推定作業領域として出力する。
【0060】
ステップS33が終了すると、図9のフローチャートの処理は終了し、図4のステップS13も終了し、図4のフローチャートの処理も終了する。このとき、次回の圃場9における作業と、この時に行われる作業領域の推定処理とに備えて、今回の推定処理で得られた作業領域の位置および形状を表す作業領域情報を、図3に示した作業領域推定装置5の作業領域情報記憶部533に格納する。
【0061】
以上に説明したように、一実施の形態によれば、圃場9または過去に推定した作業領域の形状が矩形であり、かつ、この矩形の長辺および短辺の比率が所定の範囲に含まれる場合は、比較的長いサンプリング周期で測位を行い、その他の場合は比較的短いサンプリング周期で測位を行う。その結果、測位情報の情報量が比較的少なくても、作業領域の位置および形状を比較的高い精度で推定できると期待できる場合には、サンプリング周期を比較的長くすることで通信負荷を節約することができる。また、比較的長いサンプリング周期で測位した場合に得られる測位点63の情報を抽出して記憶装置53に残すことで記憶容量を節約することができる。さらに、比較的高い精度で作業領域を推定するために情報量が比較的多い測位情報が必要となる可能性がある場合は、事前にサンプリング周期を比較的短く決定することもできる。
【0062】
(変形例)
上記の実施の形態では、図4のステップS12において、車載端末3の測位部321が、ステップS11で決定されたサンプリング周期で測位を行う構成について説明した。この構成の変形例として、図4のステップS12において、車載端末3の測位部321は、ステップS11で決定されたサンプリング周期が比較的長い第1のサンプリング周期である場合にも、比較的短い第2のサンプリング周期で測位を行う場合について説明する。
【0063】
この場合、図4のステップS12において、車載端末3の通信部322は、第2のサンプリング周期で測位して出力された測位情報のうち、第1のサンプリング周期で測位した場合に第1のサンプリング周期で測位した場合に得られる部分を部分測位情報として抽出し、抽出された部分測位情報を作業領域推定装置5の通信部521へ送信する。通信部521は、受信した部分測位情報を記憶装置53に格納する。
【0064】
上記の実施の形態と同様に、ステップS12の後、図4のステップS13が実行され、図9のステップS31~S33が実行される。ステップS31において、作業領域推定装置5の推定部522は、第1のサンプリング周期の測位情報に等しい部分測位情報で作業領域を推定する。部分測位情報で推定された作業領域を、区別のために、部分作業領域と呼ぶ。
【0065】
ステップS31の後、図9のステップS32において、推定部522は、部分作業領域の形状が矩形であるか否かを判定する。部分作業領域の形状が矩形であるとき、推定部522は、さらに、図6のステップS24と同様に、この矩形の長辺および短辺の比率が所定の範囲に含まれるか否かを判定してもよい。判定の結果、部分作業領域の形状が矩形であり、かつ、この矩形の長辺および短辺の比率が所定の範囲に含まれる場合には、部分作業領域を作業領域として出力する。その他の場合、処理はステップS33へ進む。
【0066】
図9のステップS33において、推定部522は、第2のサンプリング周期の測位情報で作業領域を改めて推定する。その前に、推定部522は、第2のサンプリング周期で測位した測位情報を要求する要求信号を出力し、作業領域推定装置5の通信部521はこの要求信号を車載端末3の通信部322へ送信し、通信部322はこの要求信号に応じて測位情報を作業領域推定装置5の通信部521へ送信する。
【0067】
上記の変形例では、まず、情報量が比較的少ない部分測位情報を車載端末3から作業領域推定装置5へ送信し、必要に応じて情報量が比較的多い測位情報を送信する。こうすることで、作業領域の形状が矩形であり、かつ、この矩形の長辺および短辺の比率が所定の範囲に含まれる場合には、通信負荷を節約することができ、いずれの場合にも作業領域の位置および形状を比較的高い精度で推定できる。
【0068】
以上、発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。また、実施の形態に説明したそれぞれの特徴は、技術的に矛盾しない範囲で自由に組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 作業領域推定システム
2 作業車両
3 車載端末
31 バス
32 演算装置
321 測位部
322 通信部(第1の通信部)
33 記憶装置
330 記録媒体
331 車載端末プログラム記憶部
34 測位装置
35 通信装置
36 入出力装置
4 ネットワーク
5 作業領域推定装置
51 バス
52 演算装置
521 通信部(第2の通信部)
522 推定部
523 決定部
53 記憶装置
530 記録媒体
531 作業領域推定プログラム記憶部
532 圃場情報記憶部
533 作業領域情報記憶部
54 通信装置
55 入出力装置
61、63 測位点
62、64 経路
71、72 推定領域
73 多角形
74 三角形
70、80 ビットマップ画像
81、82 矩形
9 圃場
110 論理積画像
120 論理和画像
130 ピクセル
140 ピクセルの集合
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9