(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】有機ハロゲン化合物の分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20241202BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20241202BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 D
G01N27/62 C
G01N30/88 X
G01N30/72 A
(21)【出願番号】P 2022047556
(22)【出願日】2022-03-23
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】近藤 亜里
(72)【発明者】
【氏名】沖 充浩
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-183924(JP,A)
【文献】特開2014-044198(JP,A)
【文献】特開2014-115104(JP,A)
【文献】特開2004-163327(JP,A)
【文献】特表2011-526675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
G01N 30/00 - G01N 30/96
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ハロゲン化合物から生成したフラグメントイオンを質量分析する工程と、
前記フラグメントイオンを質量分析する工程で得られたマススペクトルグラムから前記有機ハロゲン化合物のハロゲン含有率を求める工程と、
を有する有機ハロゲン化合物の分析方法。
【請求項2】
前記有機ハロゲン化合物のハロゲン含有率を求める工程において、二重結合を有するフラグメントイオンの質量電荷比に対応するピーク面積から前記有機ハロゲン化合物のハロゲン含有率を求める請求項1に記載の有機ハロゲン化合物の分析方法。
【請求項3】
電子衝撃法によって、前記フラグメントイオンが生成される請求項1又は2に記載の有機ハロゲン化合物の分析方法。
【請求項4】
前記有機ハロゲン化合物のハロゲン含有率を求める工程において、前記二重結合を有するフラグメントイオンは、炭素数が3以上7以下のフラグメントイオンを含む請求項
2に記載の有機ハロゲン化合物の分析方法。
【請求項5】
前記有機ハロゲン化合物のハロゲン含有率を求める工程において、前記二重結合を有するフラグメントイオンは、炭素数が2以下のフラグメントイオンを含まない請求項
2又は4に記載の有機ハロゲン化合物の分析方法。
【請求項6】
前記有機ハロゲン化合物のハロゲン含有率を求める工程において、前記二重結合を有するフラグメントイオンは、炭素数が8以上のフラグメントイオンを含まない請求項
2、4又は5に記載の有機ハロゲン化合物の分析方法。
【請求項7】
前記有機ハロゲン化合物から生成したフラグメントイオンを質量分析する工程において、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いる請求項1ないし6のいずれか1項に記載の有機ハロゲン化合物の分析方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の求められたハロゲン含有率に基づいて選択された標準試料を用いて検量線を得る工程と、
分析試料を質量分析する工程と、
前記分析試料を質量分析する工程で得られたマススペクトルグラムと前記検量線を用いて、前記有機ハロゲン化合物の含有量を求める工程と、
を有する有機ハロゲン化合物の分析方法。
【請求項9】
前記選択された標準試料のハロゲン含有率(%)と前記求められたハロゲン含有率(%)の差は、-5%以上+5%以下である請求項8に記載の有機ハロゲン化合物の分析方法。
【請求項10】
前記分析試料を質量分析する工程において、負の化学イオン源を用いる請求項8又は9に記載の有機ハロゲン化合物の分析方法。
【請求項11】
前記分析試料を質量分析する工程において、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いる請求項8ないし10のいずれか1項に記載の有機ハロゲン化合物の分析方法。
【請求項12】
前記有機ハロゲン化合物は、ハロゲン化アルキルを含み、
前記有機ハロゲン化合物のハロゲン含有率は、前記ハロゲン化アルキルのハロゲン含有率である請求項1ないし11のいずれか1項に記載の有機ハロゲン化合物の分析方法。
【請求項13】
前記ハロゲン化アルキルは、塩素化パラフィンであり、
前記ハロゲン化アルキルのハロゲン含有率は、前記塩素化パラフィンの塩素含有率である請求項12に記載の有機ハロゲン化合物の分析方法。
【請求項14】
前記塩素化パラフィンは、炭素数が10以上13以下の短鎖塩素化パラフィン、炭素数が14以上17以下の中鎖塩素化パラフィン、及び、炭素数が18以上30以下の長鎖塩素化パラフィンからなる群より選ばれる1種以上を含む請求項13に記載の有機ハロゲン化合物の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、有機ハロゲン化合物の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学物質の規制が厳しくなっており、電気電子機器等を製造する企業として、製品に用いる構成材料中の化学物質の管理は非常に重要となってくる。
【0003】
塩素化パラフィンに代表される有機ハロゲン化合物は、難燃性、疎水性、可塑性、絶縁性、金属に対する高圧下での潤滑性を有し、安価であることから難燃剤、ポリ塩化ビニル用可塑剤、潤滑油添加剤などとして利用される。
【0004】
短鎖塩素化パラフィンは、REACH(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals)規則の高懸念物質であり、塩素化パラフィンの分析方法が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、信頼性の高い有機ハロゲン化合物の分析方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の有機ハロゲン化合物の分析方法は、有機ハロゲン化合物から生成したフラグメントイオンを質量分析する工程と、フラグメントイオンを質量分析する工程で得られたマススペクトルグラムから有機ハロゲン化合物のハロゲン含有率を求める工程と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】実施形態の炭素数が3のフラグメントイオンに関する表。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、好適な一実施形態について詳細に説明する。実施形態において、特に条件が書かれていなければ25℃で大気圧(100[kPa])で実施される際の条件である。
【0010】
以下の工程において、工程の順番が制限されている場合を除き、工程の順番の入れ替えが可能である。
【0011】
明細書中の化合物には、構造異性体が含まれる。
【0012】
(第1実施形態)
第1実施形態の分析方法は、
図1の実施形態に関わるフローチャートに示すように、有機ハロゲン化合物から生成したフラグメントイオンを質量分析する工程(S11)と、フラグメントイオンを質量分析する工程で得られたマススペクトルグラムから有機ハロゲン化合物のハロゲン含有率を求める工程(S12)と、求められたハロゲン含有率に基づいて選択された標準試料を用いて検量線を得る工程(S21)と、分析試料を質量分析する工程(S22)と、分析試料を質量分析する工程で得られたマススペクトルグラムと検量線を用いて、有機ハロゲン化合物の含有量を求める工程(S23)と、を含む。
【0013】
有機ハロゲン化合物のハロゲン含有率は、有機ハロゲン化合物から生成したフラグメントイオンを質量分析する工程(S11)と、フラグメントイオンを質量分析する工程で得られたマススペクトルグラムから有機ハロゲン化合物のハロゲン含有率を求める工程(S12)を含むハロゲン含有率を求める工程(S10)から求められる。ハロゲン含有率を求める工程(S10)では、電子衝撃法(EI法 Electron Impact)によるクロマトグラフ質量分析を行なうことが好ましい。
【0014】
有機ハロゲン化合物の定量は、求められたハロゲン含有率に基づいて選択された標準試料を用いて検量線を得る工程(S21)と、分析試料を質量分析する工程(S22)と、フラグメントイオンを質量分析する工程で得られたマススペクトルグラムと検量線を用いて、有機ハロゲン化合物の含有量を求める工程(S23)を含む有機ハロゲン化合物の定量工程(S20)から求められる。有機ハロゲン化合物の定量工程(S20)においては、負の化学イオン化法(NCI(Negative Chemical Ionization))を用いたクロマトグラフ質量分析を行なうことが好ましい。
【0015】
ハロゲン含有率を求める工程(S10)と有機ハロゲン化合物の定量工程(S20)において、同じ分析試料を分析する。分析試料は、例えば、潤滑油、切削油、作動油、樹脂、塗料、接着剤、難燃剤及び加脂剤などとこれらを含む製品である。
【0016】
有機ハロゲン化合物は、炭素鎖の炭素にCl、F,Br及びIからなる群より選ばれる1種以上のハロゲンが結合した有機化合物である。実施形態では、信頼性の高い方法で分析するために有機ハロゲン化合物のハロゲン含有率が求められ、求められたハロゲン含有率に基づいて標準試料が選択され、分析される。
【0017】
有機ハロゲン化合物には、ハロゲン化アルキルが含まれる。有機ハロゲン化合物は、環状のアルキル鎖(一部がハロゲンで置換された物を含む)構造を含んでもよい。有機ハロゲン化合物の炭素数は10以上30以下が好ましい。直鎖状のハロゲン化アルキルが有機ハロゲン化合物に含まれることが好ましい。側鎖を有するハロゲン化アルキルも有機ハロゲン化合物に含まれていてもよい。
【0018】
有機ハロゲン化合物は、塩化物又はフッ化物が好ましく、塩化物であることがより好ましい。
【0019】
ハロゲン化アルキルは、塩素化パラフィンであることが好ましい。塩素化パラフィンはその炭素鎖の長さに応じて、短鎖塩素化パラフィン(Short Chain Chlorinated Paraffins; SCCP, C10-C13)、中鎖塩素化パラフィン(Medium Chain Chlorinated Paraffins; SCCP, C14-C17)、長鎖塩素化パラフィン(Long Chain Chlorinated Paraffins; SCCP, C18-C30)の3つに分類できる(C10は炭素数が10の塩素化パラフィン)。実施形態の分析方法であれば、短鎖塩素化パラフィンだけでなく、中鎖塩素化パラフィン及び長鎖塩素化パラフィンの分析を行なうことができる。
【0020】
有機ハロゲン化合物は、鎖長及び/又はハロゲン含有率が異なる異性体及び構造異性体が含まれる少なくとも10種以上の多成分混合物である。有機ハロゲン化合物が塩素化パラフィンで炭素数が10から13で塩素数が5から10の場合、理論上の異性体の数は、3549と非常に多い。多成分混合物であると全ての異性体の検量線を作成して化合物毎に濃度を測定することで正確な濃度が求まる。しかし、分析試料に非常に多くの種類の化合物が含まれる場合、全ての化合物の検量線を作成して化合物毎の濃度を測定することは作業の煩雑性を理由に現実的ではない。
【0021】
そこで、このような多成分混合物を定量分析するための標準試料が市販されていて、例えば、標準試料を用いて検量線を作成して有機ハロゲン化合物の分析を行なうことができる。特定の塩素含有率の標準試料を用い、有機ハロゲン化合物の分析をする場合、複数の炭素数の化合物において、特定の塩素数の化合物のみ(例えば、炭素数が14から17の標準試料の場合で塩素数が7としたとき、炭素数が14で塩素数が7の化合物、炭素数が15で塩素数が7の化合物、炭素数が16で塩素数が7の化合物、炭素数が17で塩素数が7の化合物)の濃度とマスクロマトグラフのピーク面積値から検量線を作成する。そして、塩素数が7の化合物を基準に検量線から有機ハロゲン化合物の定量を行なうことが知られている。しかし、塩素数は7だけではなく、さらに、標準試料と分析対象の有機ハロゲン化合物の塩素含有率が異なる場合、分析対象の有機ハロゲン化合物と標準試料の塩素含有率の違いが大きければ定量分析の信頼性が低くなる。標準試料の塩素含有率と分析対象の有機ハロゲン化合物の塩素含有率の違いによる定量分析評価の信頼性を高めるなどの目的で複数種類の標準試料を混合して検量線を作成することもあるが、複数種類の標準試料を用いることで、塩素含有率の差が減少するとは限らない。塩素含有率の差が未知である場合、検量線作成に塩素数が異なる化合物(例えば、塩素数が5と7である炭素数が14から17の化合物)を用いても、塩素含有率の差が評価できないため、定量分析評価の信頼性の問題がある。
【0022】
そこで、実施形態では、分析対象の有機ハロゲン化合物の塩素含有率を求め、求められた塩素含有率に基づいて標準試料を選択することで、信頼性の高い有機ハロゲン化合物の定量分析に寄与する。
【0023】
有機ハロゲン化合物のハロゲン含有率を求める工程に関して、有機ハロゲン化合物から生成したフラグメントイオンを質量分析する工程(S11)について説明する。有機ハロゲン化合物をフラグメントイオンに分解して分析を行なう。有機ハロゲン化合物に由来するフラグメントイオンを分析することで、有機ハロゲン化合物のハロゲン含有率が求められる。例えば、分析試料を熱分解し、熱分解によって発生した有機ハロゲン化合物を含むガスをフラグメントイオンに分解し、フラグメントイオンを質量分析する。ガスクロマトグラフ質量分析によって、有機ハロゲン化合物から生成したフラグメントイオンのマススペクトルグラムを得る。フラグメントイオンの質量分析においてガスクロマトグラフ質量分析計を用いることが好ましい。
【0024】
質量分析において、多数のフラグメントイオンが生成される方法で有機ハロゲン化合物をイオン化することが好ましい。有機ハロゲン化合物のイオン化方法としては、電子衝撃法が好ましい。電子衝撃法で有機ハロゲン化合物を分解すると、炭素数が2以上で元々の有機ハロゲン化合物の炭素数-1以下のフラグメントイオンが生成する。
【0025】
フラグメントイオンを質量分析する工程で得られたマススペクトルグラムから有機ハロゲン化合物のハロゲン含有率を求める工程(S12)について説明する。フラグメントイオンを質量分析する工程で得られたマススペクトルグラムからは、フラグメントイオンの質量電荷比に対応するピーク面積が求められる。
【0026】
フラグメントイオンは、有機ハロゲン化合物から2段階のプロセスで生成される。有機ハロゲン化合物は、C(炭素)-C(炭素)結合が分解して元の化合物よりも炭素鎖の短いハロゲン化炭化水素イオンと飽和炭化水素イオンが生成し(1段階目)、ハロゲン化炭化水素イオンからハロゲン化水素が離脱し(2段階目)て、ハロゲン化炭化水素イオンが不飽和結合を有する炭化水素イオンになる。1分子(イオン)から1分子のハロゲン化水素が離脱すると1つの二重結合が生じる。1分子(イオン)から2分子のハロゲン化水素が離脱すると2つの二重結合(場合によっては、1つ三重結合)が生じる。フラグメント化によって、飽和炭化水素イオンと不飽和結合を有する炭化水素イオンが生成する。飽和炭化水素イオンと不飽和結合を有する炭化水素イオンを実施形態ではフラグメントイオンと称している。
【0027】
マススペクトルグラムには、飽和炭化水素イオンと不飽和結合を有する炭化水素イオンのピークが含まれる。二重結合を有するフラグメントイオンの質量電荷比に対応するピーク面積から有機ハロゲン化合物のハロゲン含有率が求まる。より具体的には、分子量と離脱したハロゲン化水素量を考慮した不飽和結合を有する炭化水素イオンのピーク面積比から有機ハロゲン化合物の塩素含有率が求められる。
【0028】
有機ハロゲン化合物の塩素含有率を求める際に、炭素数が3以上7以下のフラグメントイオンの質量電荷比に対応するピーク面積から有機ハロゲン化合物の塩素含有率を求めることが好ましい。炭素数が2以下のフラグメントイオンと炭素数が8以上のフラグメントイオンは、全フラグメントイオンに占める割合が少ないなどの理由で、塩素含有率を求めるためのデータとして信頼性が低い場合がある。
【0029】
ここで、炭素数が3のフラグメントイオンの質量電荷比に対応するピーク面積から有機塩化物の塩素含有率を求める例を示す。
図2に、炭素数が3のフラグメントイオンに関する表示している。
図2の表に炭素数毎のフラグメントイオンの質量電荷比(m/z(yn))、フラグメントイオン構造、ピーク面積(A
yn)、離脱した塩素数(二重結合数)(N
yn)とフラグメントイオンの塩素離脱前の分子量(M
yn)を示す。フラグメントイオンの二重結合の数を離脱した塩素数とみなしている。なお、フラグメントイオン構造は、考えられる構造の1例である場合がある。質量電荷比が39であるピークは、2つの塩素が離脱したフラグメントイオンに由来するピークである。質量電荷比が41であるフラグメントイオンは、1つの塩素が離脱したフラグメントイオンに由来するピークである。質量電荷比が43であるピークは、塩素の離脱がなかったフラグメントイオンに由来するピークである。そして、次の計算式から塩素含有率を求める。次の計算式では、各フラグメントイオンのピーク面積にハロゲンの離脱前の分子の質量数に占めるハロゲンの質量数と離脱したハロゲンの数の両方を掛け合わせた数値の和をフラグメントイオンの総ピーク面積で割ってハロゲン含有率を求めている。
塩素含有率(%)={((N
39)・(M
Cl/M
39)・A
39)+((N
41)・(M
Cl/M
41)・A
41)+((N
43)・(M
Cl/M
43)・A
43)}/(A
39+A
41+A
43) (式1)
図2の表から求まる塩素含有率は、47%(=(52070+93766+0)/310711)である。
【0030】
上記式を一般化すると、
塩素含有率(%)={((Ny1)・(MX/My1)・Ay1)+......+((Nyn)・(MX/Myn)・Ayn)}/(Ay1+......+Ayn) (式2)
yn フラグメントイオンの質量電荷比(y1~yn)
Nyn 質量電荷比がynであるフラグメントイオンから離脱したハロゲンの数
MX ハロゲンの分子量
Myn 質量電荷比がynであるフラグメントイオンのハロゲン離脱前の分子量
Ayn 質量電荷比がynであるフラグメントイオンのピーク面積
【0031】
炭素数が異なるフラグメントイオンからハロゲン含有率を求める場合、つまり、例えば、炭素数が3のフラグメントイオン、炭素数が4のフラグメントイオン及び炭素数が5のフラグメントイオンからハロゲン含有率を求める場合、ynを炭素数が3から5のフラグメントイオンの質量電荷比として、分母に、炭素数が3から5のフラグメントイオンの総ピーク面積を用いて求めてもよいし、炭素数毎のフラグメントイオンから求めたハロゲン含有率(例えば、炭素数が3のフラグメントイオンから求めたハロゲン含有率、炭素数が4のフラグメントイオンから求めたハロゲン含有率と炭素数が5のフラグメントイオンから求めたハロゲン含有率)を求めて、その平均値(炭素数が3のフラグメントイオンから求めたハロゲン含有率、炭素数が4のフラグメントイオンから求めたハロゲン含有率と炭素数が5のフラグメントイオンから求めたハロゲン含有率の平均値)でもよい。炭素数が異なるフラグメントイオンのピーク面積からハロゲン含有率を求める場合、上記2つの計算において炭素数毎にフラグメントイオンの総ピーク面積値などを基準に重みづけをしたり、フラグメントイオンのピーク面積パターンなどを学習した結果を考慮したりして、式(1)に基づいてハロゲン化含有率を求めてもよい。
【0032】
ハロゲン含有率を求めるために用いるフラグメントイオンの炭素数の選択方法は、例えば、炭素数が5のフラグメントイオンのピーク面積からハロゲン含有率(C5ハロゲン含有率)を求め、C5ハロゲン含有率の値に基づいて判断することもできる。また、有機ハロゲン化合物の炭素数、分析対象の試料の種類に応じてハロゲン含有率を求めるために用いるフラグメントイオンの炭素数の選択をすることができる。ハロゲン含有率を求めるために用いるフラグメントイオンの炭素数は、炭素数3のみ、炭素数4のみ、炭素数3から5、炭素数6のみ、炭素数3から7、炭素数3と5と7など多数の選択肢の中から選ばれる。
【0033】
例えば、短鎖塩素化パラフィンを分析する場合、炭素数が5のフラグメントイオン、炭素数が6のフラグメントイオン及び炭素数が7のフラグメントイオンからなる群より選ばれる1つ以上のフラグメントイオンを選択し、選択したフラグメントイオンのピーク面積から求めたハロゲン含有率に基づいて標準試料を選択することで信頼性の高い分析をすることができる。
【0034】
例えば、中鎖塩素化パラフィンを分析する場合、炭素数が3のフラグメントイオン、炭素数が4のフラグメントイオン及び炭素数が5のフラグメントイオンからなる群より選ばれる1つ以上のフラグメントイオンを選択し、選択したフラグメントイオンのピーク面積から求めたハロゲン含有率に基づいて標準試料を選択することで信頼性の高い分析をすることができる。
【0035】
例えば、長鎖塩素化パラフィンを分析する場合、炭素数が3のフラグメントイオン、炭素数が4のフラグメントイオン及び炭素数が5のフラグメントイオンからなる群より選ばれる1つ以上のフラグメントイオンを選択し、選択したフラグメントイオンのピーク面積から求めたハロゲン含有率に基づいて標準試料を選択することで信頼性の高い分析をすることができる。
【0036】
例えば、短鎖塩素化パラフィンに加えて中鎖塩素化パラフィン及び/又は長鎖塩素化パラフィンを分析する場合、炭素数が4のフラグメントイオン、炭素数が5のフラグメントイオン及び炭素数が6のフラグメントイオンからなる群より選ばれる1つ以上のフラグメントイオンを選択し、選択したフラグメントイオンのピーク面積から求めたハロゲン含有率に基づいて標準試料を選択することで信頼性の高い分析をすることができる。
【0037】
また、分析試料を質量分析する工程(S22)で分析試料に含まれる有機ハロゲン化合物の炭素数が求まる場合、分析試料を質量分析する工程(S22)を行なって、有機ハロゲン化合物の炭素数を求めてから炭素数を考慮してハロゲン含有率を求めることができる。
【0038】
検量線作成前に有機ハロゲン化合物の炭素数が不明であっても、多種の炭素数の検量線を作成すれば、例えば、塩素化パラフィンであれば、短鎖塩素化パラフィンの標準試料、中鎖塩素化パラフィンの標準試料と長鎖塩素化パラフィンの標準試料を用いて検量線を作成することができる。
【0039】
求められたハロゲン含有率に基づいて選択された標準試料を用いて検量線を得る工程(S21)について説明する。求められたハロゲン含有率に基づいて標準試料を選択する。標準試料は炭素数とハロゲン含有率が既知の試料である。有機ハロゲン化合物の炭素数が不明である場合は、分析試料を質量分析する工程(S22)を行なって、有機ハロゲン化合物の炭素数を求めてから標準試料を選択することが好ましい。求められたハロゲン含有率に基づいて選択された標準試料を用いて検量線を得ることで、有機ハロゲン化合物のハロゲン含有率の定量評価の信頼性を向上させることができる。
【0040】
検量線の作成には、分析試料を質量分析する工程(S22)と同じ方法で質量分析をすることが好ましい。求められたハロゲン含有率に基づいて選択された標準試料を熱分解して、熱分解によって発生したガスをガスクロマトグラフで分離させて、質量分析計で質量分析する。標準試料の質量分析によって得られたマススペクトルグラムから質量電荷比のピーク面積を求めて検量線を作成する。検量線の作成において、負の化学イオン源を用いるガスクロマトグラフ質量分析を行なうことが好ましい。検量線の作成においてガスクロマトグラフ質量分析計を用いることが好ましい。
【0041】
標準試料のハロゲン含有率(%)は、求められたハロゲン含有率(%)と近い値であることが好ましい。選択された標準試料のハロゲン含有率(%)と求められたハロゲン含有率(%)の差が-5%以上+5%以下であることが好ましく、-3%以上+3%以下であることがより好ましい。具体例を挙げると、求められたハロゲン含有率が50%であればハロゲン含有率が45%以上55%以下の標準試料を用いて検量線を作成することが好ましい。2種以上の標準試料を混合して検量線を作成する場合は、混合後のハロゲン含有率を基準とする。
【0042】
例えば、ハロゲン含有化合物を分析する場合、ハロゲン含有率(例えば、塩素含有率)に基づいてハロゲン数(例えば、塩素数)が5から10のいずれかのハロゲン数(例えば、塩素数)を含む化合物を選択して検量線を作成することが好ましい。
【0043】
例えば、短鎖塩素化パラフィンを分析する場合、ハロゲン含有率に基づいて塩素数が5から8のいずれかの塩素数を含む化合物を選択して検量線を作成することが好ましい。短鎖塩素化パラフィンを分析する場合、例えば炭素数が10以上13以下の化合物を含む標準試料を選択することが好ましい。例えば、炭素数が10の化合物と、炭素数が11の化合物と、炭素数が12の化合物と、炭素数が13の化合物を含む標準試料を選択して、塩素数が7の化合物で定量する場合、炭素数が10で塩素数が7の化合物に対応する質量電荷比のピーク面積、炭素数が11で塩素数が7の化合物に対応する質量電荷比のピーク面積、炭素数が12で塩素数が7の化合物に対応する質量電荷比のピーク面積、炭素数が13で塩素数が7の化合物に対応する質量電荷比のピーク面積から検量線を作成することが好ましい。ハロゲン含有率に基づいて標準試料を選択することで信頼性の高い分析をすることができる。
【0044】
例えば、中鎖塩素化パラフィンを分析する場合、ハロゲン含有率に基づいて塩素数が5から11、好ましくは5から9のいずれかの塩素数を含む化合物を選択して検量線を作成することが好ましい。中鎖塩素化パラフィンを分析する場合、例えば炭素数が14以上17以下の化合物を含む標準試料を選択することが好ましい。例えば、炭素数が14の化合物と、炭素数が15の化合物と、炭素数が16の化合物と炭素数が17の化合物を含む標準試料を選択して、塩素数が7の化合物で定量する場合、炭素数が14で塩素数が7の化合物に対応する質量電荷比のピーク面積、炭素数が15で塩素数が7の化合物に対応する質量電荷比のピーク面積、炭素数が16で塩素数が7の化合物に対応する質量電荷比のピーク面積、炭素数が17で塩素数が7の化合物に対応する質量電荷比のピーク面積から検量線を作成することが好ましい。ハロゲン含有率に基づいて標準試料を選択することで信頼性の高い分析をすることができる。
【0045】
例えば、長鎖塩素化パラフィンを分析する場合、ハロゲン含有率に基づいて塩素数が5から15、好ましくは5から9のいずれかの塩素数を含む化合物を選択して検量線を作成することが好ましい。長鎖塩素化パラフィンを分析する場合、例えば炭素数が18以上30以下の化合物を含む標準試料を選択することが好ましい。例えば、炭素数が18の化合物と、炭素数が19の化合物と、炭素数が20の化合物と炭素数が21の化合物を含む標準試料を選択して、塩素数が7の化合物で定量する場合、炭素数が18で塩素数が7の化合物に対応する質量電荷比のピーク面積、炭素数が19で塩素数が7の化合物に対応する質量電荷比のピーク面積、炭素数が20で塩素数が7の化合物に対応する質量電荷比のピーク面積、炭素数が21で塩素数が7の化合物に対応する質量電荷比のピーク面積から検量線を作成することが好ましい。ハロゲン含有率に基づいて標準試料を選択することで信頼性の高い分析をすることができる。
【0046】
例えば、短鎖塩素化パラフィンに加えて中鎖塩素化パラフィン及び/又は長鎖塩素化パラフィンを分析する場合、ハロゲン含有率に基づいて塩素数が5から9のいずれかの塩素数を含む化合物を選択して検量線を作成することが好ましい。短鎖塩素化パラフィンに加えて中鎖塩素化パラフィン及び/又は長鎖塩素化パラフィンを分析する場合、例えば炭素数が10以上30以下の化合物を含む標準試料を選択することが好ましい。ハロゲン含有率に基づいて標準試料を選択することで信頼性の高い分析をすることができる。
【0047】
また、分析試料を質量分析した際に、各炭素数で存在する構造異性体の中から強度の強いハロゲン数(例えば、塩素数)を1つずつ選ぶなどして検量線を作成することもできる。この場合、炭素数毎に異なるハロゲン数の化合物から検量線を作成することがある。
【0048】
また、炭素数毎に1つのハロゲン数(例えば、炭素数が15で塩素数が7)の化合物に対応する質量電荷比のピーク面積から検量線を作成する例を一部示しているが、炭素数毎に複数のハロゲン数の化合物に対応する質量電荷比のピーク面積から検量線を作成してもよい。例えば、炭素数が18でハロゲン数(塩素数)が7、8、9、10の化合物に対応する質量電荷比のピーク面積からそれぞれの検量線を作成してもよい。
【0049】
分析試料を質量分析する工程(S22)について説明する。分析試料を熱分解して、熱分解によって発生したガスをガスクロマトグラフで分離させて、質量分析計で質量分析する。分析試料を質量分析する工程(S22)において、負の化学イオン源を用いるガスクロマトグラフ質量分析によって、分析試料中の有機ハロゲン化合物の質量分析を行なうことが好ましい。質量分析を行なって、分析試料中の有機ハロゲン化合物のマススペクトルグラムが得られる。分析試料の質量分析においてガスクロマトグラフ質量分析計を用いることが好ましい。
【0050】
分析試料を質量分析する工程で得られたマススペクトルグラムと検量線を用いて、有機ハロゲン化合物の含有量を求める工程(S23)について説明する。作成した検量線を用いて、分析試料中の有機ハロゲン化合物のマススペクトルグラムのピーク面積から各炭素鎖の化合物の濃度(含有量)を求める。求めた各炭素鎖の濃度を全て足し合わせた濃度を有機ハロゲン化合物の濃度とする。また、短鎖塩素化パラフィン、中鎖塩素化パラフィンと長鎖塩素化パラフィン毎に濃度を求めることもできる。
【0051】
例えば、分析試料中に、炭素数が13から17の塩素化パラフィンが含まれる場合、炭素数が13、14、15、16及び17の化合物に対応する質量電荷比のピーク面積から求めた検量線を用い、分析試料中の炭素数が13、14、15、16及び17の化合物に対応する質量電荷比のピーク面積から炭素数が13、14、15、16及び17の化合物の各濃度(CC13(炭素数が13の化合物の濃度)、CC14(炭素数が14の化合物の濃度)、CC15(炭素数が15の化合物の濃度)、CC16(炭素数が16の化合物の濃度)、CC17(炭素数が17の化合物の濃度))を求める。そして、炭素数が13、14、15、16及び17の化合物の各濃度を全て足し合わせた値が分析試料中の有機ハロゲン化合物(塩素化パラフィン)の濃度(=CC13+CC14+CC15+CC16+CC17)である。また、CC13が分析試料中の短鎖塩素化パラフィンの濃度であり、CC14+CC15+CC16+CC17が中鎖塩素化パラフィンの濃度である。炭素数毎にハロゲン数が異なる複数の検量線を用いて濃度を測定した場合も同様に各検量線から求めた濃度を足し合わせて分析試料中の有機ハロゲン化合物の濃度を求めることができる。
【0052】
分析試料に含まれる有機ハロゲン化合物のハロゲン含有率を考慮して選択された標準試料を用いて検量線を作成することで、有機ハロゲン化合物の定量結果の信頼性を高めることができる。有機ハロゲン化合物の濃度及びハロゲン含有率が未知の試料を分析する際に、求められたハロゲン含有率に基づかない標準試料を用いて作成した検量線を用いて定量分析をすると、測定結果が実際の濃度より高いのか低いのか不明である。そのため、ハロゲン含有率を求めずに定量分析した場合、その分析結果の信頼性が高いのか低いのかは判断ができない。従って、ハロゲン含有率を求めないで分析をした場合、定性分析としては評価できるが、定量分析としては信頼性が低くい。すると、定量結果の評価の信頼性が低くスクリーニングとしても信頼性が低い。実施形態の分析方法であれば、定量結果の信頼性を高めることができ、規制物質等が含有されている製品か否かの判定に役立つ。
【0053】
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
640mg/kgの短鎖塩素化パラフィンを含有する2mgの樹脂試料1をはかりとり、下記に示した条件1にて、Py-GC/MS(加熱炉型熱分解装置(パイロライザー)付き、ガスクロマトグラフ質量分析装置)により分析した。パイロライザーで熱分解し、熱分解によって発生したガスをガスクロマトグラフ質量分析した。
【0055】
(条件1)
パイロライザーの熱抽出温度:250℃、
パイロライザーのインターフェース温度:オート
ガスクロマトグラフのカラム:100%dimethyl polysiloxane, length 15m, internal diameter 0.25mm, film thickness 0.05μm
ガスクロマトグラフのインジェクション温度:300℃
ガスクロマトグラフのカラムオーブン温度:40℃(2分保持)→20℃/min昇温→320℃
ガスクロマトグラフのインジェクションモード:Split 1/50
ガスクロマトグラフのキャリアガス:He 52.1cm/sec, constant flow
質量分析計のイオン化法:EI(電子衝撃法) 70eV
質量分析計のイオンソース温度:230℃
質量分析計のスキャンレンジ:m/z 10-600
【0056】
実施例1において得られた炭素数が5のフラグメントイオンの質量電荷比のピーク面積、炭素数が6のフラグメントイオンの質量電荷比のピーク面積と炭素数が7のフラグメントイオンの質量電荷比のピーク面積から塩素含有率を算出したところ62%であった。塩素含有率の算出には、式(2)を用いた。
【0057】
次に、炭素数が10から13(C10-C13)で塩素含有率63%の塩素化パラフィン標準試料100μg/mLを5μLはかり取って、下記に示した条件2にてPy-GC/MSより分析した。パイロライザーで熱分解し、熱分解によって発生したガスをガスクロマトグラフ質量分析し、検量線を作成した。検量線の作成には、炭素数が10から13でそれぞれ塩素数が7の化合物に対応する質量電荷比(モニタリングマスの定量イオン)のピーク面積を用いた。
【0058】
(条件2)
パイロライザーの熱抽出温度:200℃→(20℃/min)→300℃→(5℃/min)→340℃(1min)
パイロライザーのインターフェース温度:オート
ガスクロマトグラフのカラム:100%dimethyl polysiloxane, length 15m, internal diameter 0.25mm, film thickness 0.05μm
ガスクロマトグラフのインジェクション温度:300℃
ガスクロマトグラフのカラムオーブン温度:80℃→(20℃/min)→320℃
ガスクロマトグラフのインジェクションモード:Split 1/50
ガスクロマトグラフのキャリアガス:He 52.1cm/sec, constant flow
質量分析計のイオン化法:NCI(negative chemical ionization)、使用ガス:メタン
質量分析計のイオンソース温度:150℃
質量分析計のスキャンレンジ:m/z 200-600
モニタリングマス(m/z):化合物名(C10Cl7)、定量イオン(347)、定性イオン(349)
モニタリングマス(m/z):化合物名(C11Cl7)、定量イオン(361)、定性イオン(363)
モニタリングマス(m/z):化合物名(C12Cl7)、定量イオン(375)、定性イオン(377)
モニタリングマス(m/z):化合物名(C13Cl7)、定量イオン(389)、定性イオン(391)
【0059】
次に、樹脂試料1を約0.2mgはかり取り、条件2にてPy-GC/MSより分析した。そして、モニタリングマスの定量イオンのピーク面積と検量線から定量した。モニタリングマスの定量イオンのピーク面積と検量線から定量して得られた塩素化パラフィン含有量は700mg/kgであった。
【0060】
(比較例1)
C10-C13で塩素含有率59%の塩素化パラフィン標準試料を用いて検量線を作成したこと以外は、実施例1と同様に樹脂試料1の定量を行なった。比較例1の検量線の傾きは、実施例1の検量線の傾きの約1.5倍であった。モニタリングマスの定量イオンのピーク面積と比較例1の検量線から定量して得られた塩素化パラフィン含有量は1400mg/kgであった。
【0061】
(比較例2)
C10-C13で塩素含有率55.5%の塩素化パラフィン標準試料を用いて検量線を作成したこと以外は、実施例1と同様に樹脂試料1の定量を行なった。比較例2の検量線の傾きは、実施例1の検量線の傾きの約3倍であった。モニタリングマスの定量イオンのピーク面積と比較例2の検量線から定量して得られた塩素化パラフィン含有量は2000mg/kgであった。
【0062】
求められた塩素含有率に最も近い塩素含有率の標準試料を用いた実施例では実際の分析対象の樹脂試料1との塩素化パラフィンの差が非常に少なく塩素含有率を予め求めて、求めた塩含有率に基づいて標準試料を選択して樹脂試料1を質量分析することで信頼性の高い分析を行なうことができた。比較例1、2では、求められた塩素含有率と用いた標準試料の塩素含有率の差があるため、検量線の傾きの差が影響して測定誤差が大きかった。標準試料の塩素含有率が不明な試料に対しては塩素含油率を求め、求められた塩素含有率に基づいて選択された標準試料を用いて分析することで、分析の信頼性が向上する。
【0063】
(実施例2)
3000mg/kgの中鎖塩素化パラフィンを含有する2mgの樹脂試料2をはかりとり、条件1にて、Py-GC/MS(加熱炉型熱分解装置(パイロライザー)付き、ガスクロマトグラフ質量分析装置)により分析した。パイロライザーで熱分解し、熱分解によって発生したガスをガスクロマトグラフ質量分析した。
【0064】
実施例2において得られた炭素数が5のフラグメントイオンの質量電荷比のピーク面積から塩素含有率を算出したところ53%であった。塩素含有率の算出には、式(2)を用いた。
【0065】
次に、炭素数が14から17(C14-C17)で塩素含有率53%の塩素化パラフィン標準試料100μg/mLを5μLはかり取って、下記に示した条件3にてPy-GC/MSより分析した。パイロライザーで熱分解し、熱分解によって発生したガスをガスクロマトグラフ質量分析し、検量線を作成した。検量線の作成には、炭素数が14から17でそれぞれ塩素数が7の化合物に対応する質量電荷比(モニタリングマスの定量イオン)のピーク面積を用いた。
【0066】
(条件3)
パイロライザーの熱抽出温度:200℃→(20℃/min)→300℃→(5℃/min)→340℃(1min)
パイロライザーのインターフェース温度:オート
ガスクロマトグラフのカラム:100%dimethyl polysiloxane, length 15m, internal diameter 0.25mm, film thickness 0.05μm
ガスクロマトグラフのインジェクション温度:300℃
ガスクロマトグラフのカラムオーブン温度:80℃→(20℃/min)→320℃
ガスクロマトグラフのインジェクションモード:Split 1/50
ガスクロマトグラフのキャリアガス:He 52.1cm/sec, constant flow
質量分析計のイオン化法:NCI(negative chemical ionization)、使用ガス:メタン
質量分析計のイオンソース温度:150℃
質量分析計のスキャンレンジ:m/z 200-600
モニタリングマス(m/z):化合物名(C14Cl7)、定量イオン(403)、定性イオン(405)
モニタリングマス(m/z):化合物名(C15Cl7)、定量イオン(417)、定性イオン(419)
モニタリングマス(m/z):化合物名(C16Cl7)、定量イオン(431)、定性イオン(433)
モニタリングマス(m/z):化合物名(C17Cl7)、定量イオン(445)、定性イオン(447)
【0067】
次に、樹脂試料2を約0.2mgはかり取り、条件3にてPy-GC/MSより分析した。そして、モニタリングマスの定量イオンのピーク面積と検量線から定量した。モニタリングマスの定量イオンのピーク面積と検量線から定量して得られた塩素化パラフィン含有量は5000mg/kgであった。
【0068】
(比較例3)
C14-C17で塩素含有率42%の塩素化パラフィン標準試料を用いて検量線を作成したこと以外は、実施例2と同様に樹脂試料2の定量を行なった。モニタリングマスの定量イオンのピーク面積と比較例1の検量線から定量して得られた塩素化パラフィン含有量は16000mg/kgであった。
【0069】
求められた塩素含有率に最も近い塩素含有率の標準試料を用いた実施例では実際の分析対象の樹脂試料2との塩素化パラフィンの差が非常に少なく塩素含有率を予め求めて、求めた塩素含有率に基づいて標準試料を選択して樹脂試料2を質量分析することで信頼性の高い分析を行なうことができた。比較例3では、求められた塩素含有率と用いた標準試料の塩素含有率の差があるため、測定誤差が3倍程度と非常に大きかった。標準試料の塩素含有率が不明な試料に対しては塩素含有率を求め、求められた塩素含有率に基づいて選択された標準試料を用いて分析することで、分析の信頼性が向上する。
【0070】
(実施例3)
10000mg/kgの中鎖塩素化パラフィンを含有する2mgの樹脂試料3をはかりとり、条件1にて、Py-GC/MS(加熱炉型熱分解装置(パイロライザー)付き、ガスクロマトグラフ質量分析装置)により分析した。パイロライザーで熱分解し、熱分解によって発生したガスをガスクロマトグラフ質量分析した。
【0071】
実施例2において得られた炭素数が5のフラグメントイオンの質量電荷比のピーク面積から塩素含有率を算出したところ53%であった。塩素含有率の算出には、式(2)を用いた。
【0072】
次に、炭素数が14から17(C14-C17)で塩素含有率52%の塩素化パラフィン標準試料100μg/mLを5μLはかり取って、下記に示した条件3にてPy-GC/MSより分析した。パイロライザーで熱分解し、熱分解によって発生したガスをガスクロマトグラフ質量分析し、検量線を作成した。検量線の作成には、炭素数が14から17でそれぞれ塩素数が7の化合物に対応する質量電荷比(モニタリングマスの定量イオン)のピーク面積を用いた。
【0073】
次に、樹脂試料3を約0.2mgはかり取り、条件3にてPy-GC/MSより分析した。そして、モニタリングマスの定量イオンのピーク面積と検量線から定量した。モニタリングマスの定量イオンのピーク面積と検量線から定量して得られた塩素化パラフィン含有量は13000mg/kgであった。
【0074】
(比較例4)
C14-C17で塩素含有率42%の塩素化パラフィン標準試料を用いて検量線を作成したこと以外は、実施例3と同様に樹脂試料3の定量を行なった。モニタリングマスの定量イオンのピーク面積と比較例1の検量線から定量して得られた塩素化パラフィン含有量は430000mg/kgであった。
【0075】
求められた塩素含有率に最も近い塩素含有率の標準試料を用いた実施例では実際の分析対象の樹脂試料3との塩素化パラフィンの差が非常に少なく塩素含有率を予め求めて、求めた塩素含有率に基づいて標準試料を選択して樹脂試料3を質量分析することで信頼性の高い分析を行なうことができた。比較例4では、求められた塩素含有率と用いた標準試料の塩素含有率の差があるため、測定誤差が4倍程度と非常に大きかった。標準試料の塩素含有率が不明な試料に対しては塩素含有率を求め、求められた塩素含有率に基づいて選択された標準試料を用いて分析することで、分析の信頼性が向上する。
【0076】
長鎖の有機ハロゲン化合物や短鎖、中鎖、長鎖を組み合わせた試料においても同様に信頼性の高い分析を行なうことができる。
【0077】
塩素含有率を炭素数3から5又は炭素数3のフラグメントイオンのピーク面積から求めているが、炭素数3から5又は炭素数3のフラグメントイオン以外のピーク面積からも信頼性の高い塩素含有率を求めることができる。
【0078】
実施例では、有機ハロゲン化合物の含有率が既知の試料を分析して実施形態の分析方法の信頼性について評価をした。有機ハロゲン化合物の含有率が未知の試料に対して分析を行なっても同様に信頼性の高い分析を行なうことができる。
【0079】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。