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特許7596350電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び電子写真装置
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  • 特許-電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び電子写真装置 図1
  • 特許-電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び電子写真装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び電子写真装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/05 20060101AFI20241202BHJP
   G03G 5/147 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
G03G5/05 101
G03G5/05 104A
G03G5/147 502
G03G5/147 503
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022188615
(22)【出願日】2022-11-25
(65)【公開番号】P2024076829
(43)【公開日】2024-06-06
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】石塚 由香
(72)【発明者】
【氏名】樋山 史幸
(72)【発明者】
【氏名】榊原 彰
(72)【発明者】
【氏名】西田 孟
(72)【発明者】
【氏名】三浦 大祐
【審査官】塚田 剛士
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-095867(JP,A)
【文献】特開2007-122036(JP,A)
【文献】特開2016-164652(JP,A)
【文献】特開2016-164651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/05
G03G 5/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリレート及びポリカーボネートを含有する表面層を有する電子写真感光体であって、
該ポリアリレートが、下記式(1-1)で示される構造単位、下記式(1-2)で示される構造単位及び下記式(1-3)で示される構造単位からなる群より選択される少なくとも1種の構造単位を有し、
該ポリカーボネートが、下記式(2-1)で示される構造単位を有する
ことを特徴とする電子写真感光体。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【請求項2】
前記表面層が、前記式(2-1)で示される構造単位を5mol%以上40mol%以下含有する請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記ポリカーボネートが、前記式(2-1)で示される構造単位を20mol%以上60mol%以下含有する請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
ポリアリレート及びポリカーボネートを含有する表面層を有する電子写真感光体であって、
該表面層から回収された高分子成分の成分分析において、
該ポリアリレートが、
TMAH共存下での熱分解ガスクロマトグラフ質量分析にて、TICが、m/z=242及びm/z=227の成分が検出されるMSスペクトルを有するピークを有し、
重クロロホルムを用いたH-NMRスペクトルにて、2.40±0.02ppm及び2.35±0.02ppmにピークを有し、
該ポリカーボネートが、
TMAH共存下での熱分解ガスクロマトグラフ質量分析にて、TICが、m/z=242及びm/z=227の成分が検出されるMSスペクトルを有するピークを有し、
重クロロホルムを用いたH-NMRスペクトルにて、2.40±0.02ppmにピークを有することを特徴とする電子写真感光体。
【請求項5】
前記表面層が、シリカ微粒子を含有する請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記シリカ微粒子の体積平均粒径が、0.1μm以上0.5μm以下である請求項5に記載の電子写真感光体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段及びクリーニング手段からなる群より選ばれた少なくとも1つの手段と、を一体に支持し、電子写真装置の本体に着脱自在であるプロセスカートリッジ。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の電子写真感光体、並びに、帯電手段、露光手段、現像手段及び転写手段を有する電子写真装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び電子写真装置において、長期使用時における画質向上のために、これまで幅広い検討がなされてきた。
その一例として、特許文献1には、感光層に、特定骨格を有するポリアリレートとポリカーボネートとを含有する電子写真感光体(以下、「感光体」ともいう。)が、感光体への負荷に対する耐摩耗性、耐傷性を向上させることができることに関し記載されている。しかし、層内において2種類の樹脂は、均一に分散され難いためと推察しているが、表面に微細な凹凸が形成されている。この構造は、外部物質との接触面積を減少させるように機能していると推察している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第04862663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発明者らが、特許文献1に記載の感光体を用いて、低温低湿環境下で長期使用を行ったところ、傷起因によるスジ状の画像弊害が発生した。この原因は、感光体の表面層との接触部材との擦れ部において、トナーに含まれる外添剤、紙粉、又はその他硬い異物が、接触部材にはさまり、それを起点として、傷が発生することがわかった。この現象が低温低湿環境下で見られた理由は、低温の影響で接触部材自体が硬くなったことが原因の一つと考えている。
そこで、発明者らは、電子写真感光体の表面層を構成する樹脂に着目した結果、特定構造を有するポリアリレート及びポリカーボネートを混合した表面層を用いることで、外的な衝撃に対する耐傷性が向上することを見出し、本発明に至った。
【0005】
したがって、本発明の目的は、外的な衝撃に対して、高い耐傷性を有する樹脂を選択し、画像弊害を抑制した電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び電子写真装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明の第一の態様は、ポリアリレート及びポリカーボネートを含有する表面層を有する電子写真感光体であって、
該ポリアリレートが、下記式(1-1)で示される構造単位、下記式(1-2)で示される構造単位及び下記式(1-3)で示される構造単位からなる群より選択される少なくとも1種の構造単位を有し、
該ポリカーボネートが、下記式(2-1)で示される構造単位を有することを特徴とする電子写真感光体である。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【0007】
また、第二の態様は、ポリアリレート及びポリカーボネートを含有する表面層を有する電子写真感光体であって、
該表面層から回収された高分子成分の成分分析において、
該ポリアリレートが
TMAH共存下での熱分解ガスクロマトグラフ質量分析にて、TICが、m/z=242及びm/z=227の成分が検出されるMSスペクトルを有するピークを有し、
重クロロホルムを用いたH-NMRスペクトルにて、2.40±0.02ppm及び2.35±0.02ppmにピークを有し、
該ポリカーボネートが、
TMAH共存下での熱分解ガスクロマトグラフ質量分析にて、TICが、m/z=242及びm/z=227の成分が検出されるMSスペクトルを有するピークを有し、
重クロロホルムを用いたH-NMRスペクトルにて、2.40±0.02ppmにピークを有することを特徴とする電子写真感光体である。
【0008】
また、本発明に係るプロセスカートリッジは、前記電子写真感光体と、帯電手段及び現像手段からなる群より選ばれた少なくとも1つの手段と、を一体に支持し、電子写真装置の本体に着脱自在であるプロセスカートリッジである。
【0009】
また、本発明の電子写真装置は、前記電子写真感光体、並びに、帯電手段、露光手段、現像手段及び転写手段を有する電子写真装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電子写真感光体の表面層が、高い耐傷性を有するため、低温低湿環境下における長期使用を通して、スジ状の画像弊害を抑制できる電子写真感光体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る電子写真感光体の層構成の一例を示す図である。
図2】本発明の電子写真装置及びプロセスカートリッジの概略構成の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本開示を詳細に説明する。
本発明の第一の態様において、ポリアリレートが、上記式(1-1)で示される構造単位、上記式(1-2)で示される構造単位及び上記式(1-3)で示される構造単位からなる群より選択される少なくとも1種の構造単位を有していて、かつポリカーボネートが上記式(2-1)で示される構造単位を有することで、表面層の耐傷性が向上する。
【0013】
発明者らは、理由を以下のように推測している。
一般的に、印刷時、感光体の表面層と、紙又は当接している部材等の接触部材との間で、硬い異物が挟まれて、表面層が外的衝撃を受けることで傷になるとされている。この時の外的衝撃の受け方として2つの作用がある。1つめは、外的衝撃により表面層に対して、平行方向に表面層の表面が徐々に擦れることによって傷となる作用と、2つめは、外的衝撃により垂直方向に瞬間的に穴が発生し、成長して傷となる作用がある。
本発明に係るポリアリレートは、平行方向での擦れによる耐傷性に対しては本発明に係るポリカーボネートよりも強いが、垂直方向の衝撃に対しては本発明に係るポリカーボネートよりも弱い。一方、本発明のポリカーボネートは、平行方向での擦れによる耐傷性に対しては本発明に係るポリアリレートよりも弱いが、垂直方向の衝撃に対しては本発明に係るポリアリレートより強い。更に、本発明の電子写真感光体は、表面層に本発明に係るポリアリレート及びポリカーボネートを含有することで、芳香環についたメチル基の作用で、樹脂間の絡まりが高まり、外的衝撃を吸収でき、耐傷性をより一層高めていると推測している。よって、総合的に外的衝撃に対して、強い表面層となり、高い耐傷性を示すと推測している。
【0014】
次に、本開示の一形態に係る電子写真感光体について具体的に説明する。
[電子写真感光体]
本発明の電子写真感光体は、表面層を有する。図1は、電子写真感光体の層構成の一例を示す図である。図1中、支持体101上に、下引き層102、電荷発生層103及び電荷輸送層(表面層)104がこの順に積層されている。
該電子写真感光体を製造する方法としては、後述する各層の塗布液を調製し、所望の層の順番に塗布して、乾燥させる方法が挙げられる。このとき、塗布液の塗布方法としては、浸漬塗布、スプレー塗布、インクジェット塗布、ロール塗布、ダイ塗布、ブレード塗布、カーテン塗布、ワイヤーバー塗布、リング塗布などが挙げられる。これらの中でも、効率性及び生産性の観点から、浸漬塗布が好ましい。
以下、各層について説明する。
【0015】
<支持体>
支持体は導電性を有する支持体であることが好ましい。また、支持体の形状としては、円筒状、ベルト状、シート状などが挙げられる。中でも、円筒状支持体であることが好ましい。また、支持体の外表面に、陽極酸化などの電気化学的な処理を施し酸化被膜を作る、ブラスト処理、切削処理などを施してもよい。支持体の材質としては、金属、樹脂、ガラスなどが好ましい。
金属としては、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅、金、ステンレスや、これらの合金などが挙げられる。中でも、アルミニウムを用いたアルミニウム製支持体であることが好ましく、より好ましくは、外表面に酸化被膜を有するアルミニウム合金である。酸化被膜を有することにより支持体からの電荷の注入を抑制できるため、帯電の安定性が高い。
また、樹脂やガラスに、導電性材料を混合又は被覆するなどの処理によって、導電性を付与してもよい。
【0016】
<導電層>
支持体の上に、導電層を設けてもよい。導電層を設けることで、支持体の表面の傷や凹凸を隠蔽することや、支持体の表面における光の反射を制御することができる。
導電層は、導電性粒子と、樹脂と、を含有することが好ましい。
導電性粒子の材質としては、金属酸化物、金属、カーボンブラックなどが挙げられる。
金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化インジウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化ビスマスなどが挙げられる。金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などが挙げられる。
これらの中でも、導電性粒子として、金属酸化物を用いることが好ましく、特に、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛を用いることがより好ましい。
導電性粒子として金属酸化物を用いる場合、金属酸化物の表面をシランカップリング剤などで処理したり、金属酸化物にリンやアルミニウムなど元素やその酸化物をドーピングしたりしてもよい。
また、導電性粒子は、芯材粒子と、その粒子を被覆する被覆層とを有する積層構成としてもよい。芯材粒子としては、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛などが挙げられる。被覆層としては、酸化スズなどの金属酸化物が挙げられる。
また、導電性粒子として金属酸化物を用いる場合、その体積平均粒径が、1nm以上500nm以下であることが好ましく、3nm以上400nm以下であることがより好ましい。
【0017】
樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂などが挙げられる。
また、導電層は、シリコーンオイル、樹脂粒子、酸化チタンなどの隠蔽剤などを更に含有してもよい。
導電層の平均膜厚は、1μm以上50μm以下であることが好ましく、3μm以上40μm以下であることが特に好ましい。
導電層は、上記の各材料及び溶剤を含有する導電層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。導電層用塗布液中で導電性粒子を分散させるための分散方法としては、ペイントシェーカー、サンドミル、ボールミル、液衝突型高速分散機を用いた方法が挙げられる。
【0018】
<下引き層>
支持体又は導電層の上に、下引き層を設けてもよい。下引き層を設けることで、層間の接着機能が高まり、電荷注入阻止機能を付与することができる。
下引き層は、樹脂を含有することが好ましい。また、重合性官能基を有するモノマーを含有する組成物を重合することで硬化膜として下引き層を形成してもよい。
樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、アルキッド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレンオキシド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド酸樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、セルロース樹脂などが挙げられる。
重合性官能基を有するモノマーが有する重合性官能基としては、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基、メチロール基、アルキル化メチロール基、エポキシ基、金属アルコキシド基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、カルボン酸無水物基、炭素-炭素二重結合基などが挙げられる。
【0019】
また、下引き層は、電気特性を高める目的で、電子輸送物質、金属酸化物、金属、導電性高分子などを更に含有してもよい。これらの中でも、電子輸送物質、金属酸化物を用いることが好ましい。
電子輸送物質としては、キノン化合物、イミド化合物、ベンズイミダゾール化合物、シクロペンタジエニリデン化合物、フルオレノン化合物、キサントン化合物、ベンゾフェノン化合物、シアノビニル化合物、ハロゲン化アリール化合物、シロール化合物、含ホウ素化合物などが挙げられる。電子輸送物質として、重合性官能基を有する電子輸送物質を用い、上記の重合性官能基を有するモノマーと共重合させることで、硬化膜として下引き層を形成してもよい。
金属酸化物としては、酸化インジウムスズ、酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素などが挙げられる。金属としては、金、銀、アルミなどが挙げられる。
また、下引き層は、添加剤を更に含有してもよい。
【0020】
下引き層の平均膜厚は、0.1μm以上50μm以下であることが好ましく、0.2μm以上40μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上30μm以下であることが特に好ましい。
下引き層は、上記の各材料及び溶剤を含有する下引き層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥及び/又は硬化させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0021】
<感光層>
電子写真感光体の感光層は、支持体、導電層若しくは下引き層上に設けられ、主に、(1)積層型感光層と、(2)単層型感光層とに分類される。(1)積層型感光層は、電荷発生物質を含有する電荷発生層と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層と、を有する。(2)単層型感光層は、電荷発生物質と電荷輸送物質を共に含有する感光層を有する。
【0022】
(1)積層型感光層
積層型感光層は、電荷発生層と、電荷輸送層と、を有する。
【0023】
(1-1)電荷発生層
電荷発生層は、電荷発生物質と、樹脂と、を含有することが好ましい。
電荷発生物質としては、アゾ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、インジゴ顔料、フタロシアニン顔料などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、フタロシアニン顔料が好ましい。フタロシアニン顔料の中でも、オキシチタニウムフタロシアニン顔料、クロロガリウムフタロシアニン顔料、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料が好ましい。
電荷発生層中の電荷発生物質の含有量は、電荷発生層の全質量に対して、40質量%以上85質量%以下であることが好ましく、60質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。
樹脂としては、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルブチラール樹脂がより好ましい。
また、電荷発生層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を更に含有してもよい。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、などが挙げられる。
【0024】
電荷発生層の平均膜厚は、0.1μm以上0.8μm以下であることが好ましく、0.15μm以上0.4μm以下であることがより好ましい。
電荷発生層は、上記の各材料及び溶剤を含有する電荷発生層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0025】
(1-2)電荷輸送層
電荷輸送層は、電荷輸送物質と、樹脂と、を含有することが好ましい。
電荷輸送物質としては、例えば、多環芳香族化合物、複素環化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、エナミン化合物、ベンジジン化合物、トリアリールアミン化合物や、これらの物質から誘導される基を有する樹脂などが挙げられる。これらの中でも、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物が黒ポチの発生の抑制効果が高いため好ましい。
【0026】
以下に、好ましい電荷輸送物質を示す。
【表1】
【0027】
電荷輸送層中の電荷輸送物質の含有量は、電荷輸送層の全質量に対して、25質量%以上70質量%以下であることが好ましく、30質量%以上55質量%以下であることがより好ましい。
樹脂としては、ポリアリレート、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂などが挙げられる。電荷輸送層が表面層となる場合、これらの中でも、本発明に係る構造を有するポリアリレート及びポリカーボネートを含有することが耐傷性の観点から必要である。
【0028】
以下に、本発明の第一の態様で使用する樹脂を示す。
ポリアリレートが、下記式(1-1)で示される構造単位、下記式(1-2)で示される構造単位及びび下記式(1-3)で示される構造単位からなる群より選択される少なくとも1種の構造単位を有し、
ポリカーボネートが、下記式(2-1)で示される構造単位を有する。
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【0029】
本発明に係る表面層において、好ましくは、前記式(2-1)で示される構造単位を5mol%以上40mol%以下含有することが耐傷性の観点で好ましく、樹脂間の絡まりが増えて、耐傷性が向上する。
更に、本発明に係るポリカーボネートが、前記式(2-1)で示される構造単位を20mol%以上60mol%以下含有することで、より一層樹脂間の絡まりが増えて、耐傷性が向上する。
【0030】
また本発明の第二の態様は、ポリアリレート及びポリカーボネートを含有する表面層を有する電子写真感光体であって、
該表面層から回収された高分子成分の成分分析において、
該ポリアリレートが
水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)共存下での熱分解ガスクロマトグラフ質量分析にて、トータルイオンクロマトグラム(TIC)が、m/z=242及びm/z=227の成分が検出されるMSスペクトルを有するピークを有し、
重クロロホルムを用いたH-NMRスペクトルにて、2.40±0.02ppm及び2.35±0.02ppmにピークを有し、
該ポリカーボネートが、
TMAH共存下での熱分解ガスクロマトグラフ質量分析にて、TICが、m/z=242及びm/z=227の成分が検出されるMSスペクトルを有するピークを有し、
重クロロホルムを用いたH-NMRスペクトルにて、2.40±0.02ppmにピークを有する。
【0031】
トータルイオンクロマトグラム(TIC)が、m/z=242及びm/z=227の成分が検出されるMSスペクトルを有するピークを有し、重クロロホルムを用いたH-NMRスペクトルにて、2.40±0.02ppmにピークを有することは、上記式(2-1)の構造単位を有することを示す。
【0032】
また、トータルイオンクロマトグラム(TIC)が、m/z=242及びm/z=227の成分が検出されるMSスペクトルを有するピークを有し、重クロロホルムを用いたH-NMRスペクトルにて、2.35±0.02ppmにピークを有することは、下記式(2-2)の構造単位を有することを示す。
【化9】
【0033】
したがって、上記スペクトルを有する場合、ポリアリレートが少なくとも上記式(2-1)及び式(2-2)の構造を含有していることを示し、ポリカーボネートが少なくとも式(2-1)の構造を含有していることを示している。
【0034】
尚、本発明の感光体の表面層が式(1-3)で示されるポリアリレートを含有する場合も、上記スペクトルを示すため、ポリカーボネートとポリアリレート両者が混ざったスペクトルとなる。
【0035】
電子写真感光体が、ポリアリレート及びポリカーボネートを含有する表面層を有し、ポリアリレートとポリカーボネートが上記特有のスペクトルを有することで、表面層の耐傷性が向上する。ポリアリレートが上記式(2-1)の構造部分とそれに類似する構造部分を骨格とし、ポリカーボネートが共通の上記式(2-1)の構造部分を有することにより樹脂間の絡まりが高まり、外的衝撃を吸収でき、耐傷性をより一層高めていると推測している。
具体的な表面層の分析手法を以下に説明する。
【0036】
■感光体表面層中の樹脂の再沈
・感光体を切る
感光体端部から母線方向10cmの位置で糸鋸を用いて切る。
・切り出した10cmのドラム内面を洗う
クロロホルムを浸み込ませたシルボン紙を使ってシリンダー内面を拭き取る。
・表面層を溶出する
切口側のドラム端部3cm分をクロロホルムに浸漬する。
(100mLビーカーにクロロホルム約60ccを入れ、常温で5分浸漬する。)
・濃縮する(濃厚液化)
ロータリーエバポレーターで濃縮を行い、2mLまで濃縮し、停止する。
・再沈する
メタノール/アセトン混合液(体積比1:1)50mLを用意し、攪拌しながら上記濃厚液を全量滴下する。
・濾過する
桐山ロートで吸引濾過を行う。
(ロート:SU-40、濾紙:No.5C-40 いずれも(有)桐山製作所製)
・乾燥する
濾紙上の残渣をスパチュラで回収して真空乾燥する(70℃1時間)
【0037】
■熱分解GCMS
装置構成:熱分解装置+ガスクロマトグラフィー(GC)装置+質量分析(MS)装置
熱分解装置:日本分析工業(株)社製 JPS-700
GC装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)社製 FOCUS-GC
MS装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)社製 ISQ
サンプル量:0.1mg(TMAH(多摩化学工業(株)製)含有)
熱分解温度:590℃(日本分析工業(株)社製 パイロホイル F590使用)
カラム:「HP5-MS」(アジレントテクノロジー(株)社製 19091S-433、長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)
GC注入口条件:
Inlet Temp:250℃
Split Flow:50mL/min
GC昇温条件:40℃(5min)→10℃/min(300℃)→300℃(20min)
MS条件:
Ion Source Temp:200℃
MS Transfer Line Temp:250℃
【0038】
■NMR測定
・測定試料調製
サンプル20mgを基準物質テトラメチルシラン入りの重クロロホルム1gに溶解し、全量NMRチューブへ移す。
(重クロロホルム:シグマアルドリッチジャパン(株)製、クロロホルム-d、型番612200)
(NMRチューブ:Norell社製、ST500-7、型番S3010)
・NMR測定
装置:ブルカー社製、AVANCE500
条件:プロトンNMR、ICON-NMRによる自動測定
積算回数:32回
基準ピーク:テトラメチルシランのメチル基ピークを0ppmとする。
■ポリアリレートとポリカーボネートの分取
感光体表面層中の樹脂を再沈させた成分をサイズ排除クロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーのような成分を分離回収可能な分取装置で、樹脂を分取する。
【0039】
電荷輸送物質と樹脂との含有量比は、質量比で4:10~20:10が好ましく、5:10~10:10がより好ましい。
【0040】
また、電荷輸送層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、レベリング剤、滑り性付与剤、耐摩耗性向上剤などの添加剤を含有してもよい。
具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、シロキサン変性樹脂、シリコーンオイル、フッ素樹脂微粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリエチレン樹脂粒子、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、窒化ホウ素微粒子などが挙げられる。これらの中でも、シリカ微粒子が耐傷性の観点で好ましく、体積平均粒径が、0.1μm以上0.5μm以下であることが本発明の電荷輸送層において、外的衝撃を吸収しやすく、傷を抑制できる。
【0041】
電荷輸送層の平均膜厚は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、8μm以上40μm以下であることがより好ましく、10μm以上30μm以下であることが特に好ましい。
電荷輸送層は、上記の各材料及び溶剤を含有する電荷輸送層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。これらの溶剤の中でも、エーテル系溶剤又は芳香族炭化水素系溶剤が好ましい。
【0042】
■体積平均粒径
粒子の体積平均粒径の測定方法は、以下のとおりである。
層中から粒子を分離し、このシリカ粒子の一次粒子100個をSEM(走査型顕微鏡)により100,000倍で観察し、一次粒子ごとの最長径、最短径を測定し、この中間値から球相当径を測定する。得られた球相当径の累積頻度における50%径(D50v)を求め、これを粒子の体積平均粒径とした。
【0043】
(2)単層型感光層
単層型感光層は、電荷発生物質、電荷輸送物質、樹脂及び溶剤を含有する感光層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。電荷発生物質、電荷輸送物質、樹脂としては、上記「(1)積層型感光層」における材料の例示と同様である。
【0044】
<保護層>
保護層が表面層の場合は、本発明に係る樹脂を含有する。
保護層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、レベリング剤、滑り性付与剤、耐傷/耐摩耗性向上剤、重合反応開始剤などの添加剤を含有してもよい。
具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、シロキサン変性樹脂、シリコーンオイル、フッ素樹脂微粒子、ポリスチレン樹脂微粒子、ポリエチレン樹脂微粒子、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、窒化ホウ素微粒子、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウムなどが挙げられる。これらの中でも、シリカ微粒子が耐傷性の観点で好ましく、体積平均粒径が、0.1μm以上0.5μm以下であることが本発明の保護層において、外的衝撃を吸収しやすく、傷を抑制できる。
【0045】
更に、シロキサン樹脂あるいは電荷輸送物質を添加することができる。電荷輸送物質としては、トリアリールアミン化合物、ヒドラゾン化合物、スチルベン化合物、ピラゾリン化合物、オキサゾール化合物、チアゾール化合物、トリアリルメタン化合物などが挙げられる。保護層の平均膜厚は、0.5μm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上7μm以下であることが好ましい。上記各層の塗布液を塗布する際は、浸漬塗布法(ディッピング法)、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ブレードコーティング法、ビームコーティング法などの塗布方法を用いることができる。
【0046】
[プロセスカートリッジ及び電子写真装置]
本開示の一態様に係るプロセスカートリッジは、これまで述べてきた電子写真感光体と、帯電手段、現像手段及びクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とする。
また、本開示の一態様に係る電子写真装置は、少なくとも電子写真感光体と帯電部材とを有するプロセスカートリッジと、露光手段、現像手段及び転写手段からなる群から選択される少なくとも一つを有することを特徴とする。
【0047】
図2に、プロセスカートリッジ21とプロセスカートリッジ21を有する電子写真装置の概略構成の一例を示す。
円筒状の電子写真感光体11は、軸12を中心に矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。電子写真感光体11の表面は、帯電手段13により、正又は負の所定電位に帯電される。尚、本実施形態においては、帯電手段13はローラー型の帯電部材によるローラー帯電方式を採用してもよい。帯電された電子写真感光体11の表面には、露光手段(不図示)から露光光14が照射され、目的の画像情報に対応した静電潜像が形成される。電子写真感光体11の表面に形成された静電潜像は、現像手段15に収容されたトナーを供給することで現像され、電子写真感光体11の表面にはトナー像が形成される。電子写真感光体11の表面に形成されたトナー像は、転写手段16により、転写材17に転写される。トナー像が転写された転写材17は、定着手段18へ搬送され、トナー像の定着処理を受け、電子写真装置の外へプリントアウトされる。電子写真装置は、転写後の電子写真感光体11の表面に残ったトナーなどの付着物を除去するための、クリーニング手段19を有していてもよい。クリーニング手段はウレタン樹脂を有するクリーニングブレードであることが好ましい。また、クリーニング手段を別途設けず、上記付着物を現像手段などで除去する、所謂、クリーナーレスシステムを用いてもよい。電子写真装置は、電子写真感光体11の表面を、前露光手段(不図示)からの前露光光20により除電処理する除電機構を有していてもよい。また、本開示の一態様に係るプロセスカートリッジ21を電子写真装置本体に着脱可能にするために、レールなどの案内手段22を設けてもよい。
【0048】
本開示の一態様に係る電子写真感光体は、レーザービームプリンター、LEDプリンター、複写機、ファクシミリ、及びこれらの複合機などに用いることができる。
【実施例
【0049】
以下、実施例及び比較例を用いて本開示に係るプロセスカートリッジ、電子写真装置について更に詳細に説明する。尚、本開示は、下記の実施例によって具現化される構成に何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例の記載において、「部」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0050】
<ポリアリレートA1の製造例>
攪拌装置を備えた反応容器中に、二価フェノール成分として下記構造式(B-1)100.00質量部、末端封止剤としてp-tert-ブチルフェノール(PTBP)1.77質量部、アルカリとして水酸化ナトリウム(NaOH)34.67質量部、重合触媒としてトリ-n-ブチルベンジルアンモニウムクロライド(TBBAC)の50質量%水溶液を1.04質量部、酸化防止剤としてハイドロサルファイトナトリウム0.50質量部を仕込み、水3300質量部に溶解させた(水相)。また、これとは別に、塩化メチレン2600質量部に、下記構造式(B-2)121.79質量部、を溶解させた(有機相)。
mol比は以下の通りである。
構造式(B-1):PTBP:構造式(B-2):TBBAC:NaOH
=100.00:2.86:100.00:0.68:210.00(モル比)。
水相をあらかじめ攪拌しておき、有機相を水相中に強攪拌下で添加し、15℃で2時間、界面重合法で重合をおこなった。この後、攪拌を停止し、水相と有機相をデカンテーションして分離した。水相を除去した後、塩化メチレン500質量部、純水3000質量部と酢酸10質量部を添加して反応を停止し、15℃で30分間攪拌した。その後、有機相を純水で10回洗浄し、有機相をメタノール中に添加してポリマーを沈殿させた。沈殿させたポリマーを濾過した後、150℃真空下で24時間乾燥し、ポリアリレートA1を得た。得られたポリアリレートA1の粘度平均分子量は47,000であった。
【化10】
【化11】
【0051】
<ポリアリレートA2の製造例>
攪拌装置を備えた反応容器中に、二価フェノール成分として構造式(B-1)50.00質量部、下記構造式(B-3)50.00質量部、末端封止剤としてp-tert-ブチルフェノール(PTBP)1.77質量部、アルカリとして水酸化ナトリウム(NaOH)34.67質量部、重合触媒としてトリ-n-ブチルベンジルアンモニウムクロライド(TBBAC)の50質量%水溶液を1.04質量部、酸化防止剤としてハイドロサルファイトナトリウム0.50質量部を仕込み、水3300質量部に溶解させた(水相)。また、これとは別に、上記構造式(B-2)121.79質量部、を溶解させた(有機相)。
mol比は以下の通りである。
構造式(B-1):構造式(B-3):PTBP:構造式(B-2):TBBAC:NaOH
=50.00:50.00: 2.86:100.00:0.68:210.00(モル比)。
水相をあらかじめ攪拌しておき、有機相を水相中に強攪拌下で添加し、15℃で2時間、界面重合法で重合をおこなった。この後、攪拌を停止し、水相と有機相をデカンテーションして分離した。水相を除去した後、塩化メチレン500質量部、純水3000質量部と酢酸10質量部を添加して反応を停止し、15℃で30分間攪拌した。その後、有機相を純水で10回洗浄し、有機相をメタノール中に添加してポリマーを沈殿させた。沈殿させたポリマーを濾過した後、150℃真空下で24時間乾燥し、ポリアリレートA2を得た。
得られたポリアリレートA2の粘度平均分子量は48,000であった。
【化12】
【0052】
<ポリアリレートA3~A14の製造例>
ポリアリレートA2の製造例に対して、表2に記載の構造(本発明の構造単位に含まれる構成単位)及び比率に変更した以外は、ポリアリレートA2の製造例と同様に作製した。
【0053】
【表2】
【0054】
<ポリカーボネートP1の製造例>
9.0w/w%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液5.4Lに、下記構造式(B-4)677.00g(2.52mol)と下記構造式(B-5)360.36g(1.68mol)、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.4g、及びハイドロサルファイト5.0gを溶解した。これにメチレンクロライド2.4Lを加えて撹拌しつつ、15℃に保ちながら、引き続き、ホスゲン540gを30分間で吹き込んだ。ホスゲンの吹き込み終了後、p-t-ブチルフェノール21gを加え、激しく撹拌して、反応液を乳化させ、乳化後、11mlのトリエチルアミンを加え、温度20~25℃にて約1時間撹拌し、重合させた。
重合終了後、反応液を水相と有機相に分離し、有機相をリン酸で中和した。洗浄水の導電率が10μS/cm以下になるまで有機相の水洗を繰り返した。得られた有機相を、62℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、温度120℃、24時間乾燥して、目的のポリカーボネートP1を得た。得られたポリカーボネートの粘度平均分子量は41,000であった。
【化13】
【化14】
【0055】
粘度平均分子量の測定方法
測定対象である樹脂をジクロロメタンに溶解し、濃度が6.00g/Lの溶液を調製する。ウベローデ(Ubbelohde)型粘度計を用いて、25℃における比粘度を測定する。この比粘度から 極限粘度を求め、マーク-ホーウィンク(Mark-Houwink)の粘度式のK(比例定数部分)とa(指数部分;αで表記されることもある)をそれぞれ1.23×10-4と0.83として粘度平均分子量を算出した。
【0056】
<ポリカーボネートP2~P12の製造例>
ポリカーボネートP1の製造例に対して、表3に記載の構造単位及び比率に変更した以外は、ポリカーボネートP1の製造例と同様に作製した。
【0057】
【表3】
【0058】
〔実施例1〕
(支持体)
切削された外径24mm、長さ257mm、肉厚0.75mmのアルミニウム合金よりなるシリンダーを支持体とした。
【0059】
(下引き層の形成)
下引き層用分散液は以下のように作製した。平均一次粒径40nmのルチル型酸化チタン(石原産業社製「TTO55N」)と、該酸化チタンに対して3質量%のメチルジメトキシシラン(東芝シリコーン社製「TSL8117」)とを、高速流動式混合混練機((株)カワタ社製「SMG300」)に投入し、回転周速34.5m/秒で高速混合して得られた表面処理酸化チタンを、メタノール/1-プロパノールのボールミルにより分散させることにより、疎水化処理酸化チタンの分散スラリーとした。該分散スラリーと、メタノール/1-プロパノール/トルエンの混合溶媒、及び、ε-カプロラクタム[下記式(A)で表される化合物]/ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン[下記式(B)で表される化合物]/ヘキサメチレンジアミン[下記式(C)で表される化合物]/デカメチレンジカルボン酸[下記式(D)で表される化合物]/オクタデカメチレンジカルボン酸[下記式(E)で表される化合物]の組成モル比率が、75%/9.5%/3%/9.5%/3%からなる共重合ポリアミドのペレットとを加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた後、超音波分散処理を行うことにより、メタノール/1-プロパノール/トルエンの質量比が7/1/2で、疎水性処理酸化チタン/共重合ポリアミドを質量比3/1で含有する、固形分濃度18.0%の下引き層用分散液とした。この下引き層用塗布液を前記支持体上に浸漬塗布して塗膜を形成し、塗膜を10分間100℃で乾燥させることによって、2.00μm下引き層を形成した。
【化15】
【0060】
(電荷発生層の形成)
電荷発生物質としてCuKα特性X線回折におけるブラッグ角(2θ±0.2°)の27.3°に強いピークを有するY型オキシチタニウムフタロシアニン結晶10部、4-メトキシ-4-メチルペンタノン-2 150部を、直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミルに入れ、1.5時間サンドグラインドミルによって粉砕分散処理した。
次にあらかじめ、4-メトキシ-4-メチルペンタノン-2 100部にポリアセタール樹脂(商品名:エスレックBX-1、積水化学工業(株)製)5部を加えて溶解させていた溶液105部を加え、0.5時間分散処理した。
その後、1,2-ジメトキシエタン250部を加えることによって、電荷発生層用塗布液を作製した。この電荷発生層用塗布液を得られた下引き層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、塗膜を10分間100℃で乾燥させることによって、0.15μm電荷発生層を形成した。
【0061】
尚、X線回折の測定は、次の条件で行ったものである。
[粉末X線回折測定]
使用測定機:理学電気(株)製、X線回折装置RINT-TTRII
X線管球:Cu
管電圧:50KV
管電流:300mA
スキャン方法:2θ/θスキャン
スキャン速度:4.0°/min
サンプリング間隔:0.02°
スタート角度(2θ):5.0°
ストップ角度(2θ):40.0°
アタッチメント:標準試料ホルダー
フィルター:不使用
インシデントモノクロメーター:使用
カウンターモノクロメーター:不使用
発散スリット:開放
発散縦制限スリット:10.00mm
散乱スリット:開放
受光スリット:開放
平板モノクロメーター:使用
カウンター:シンチレーションカウンター
【0062】
(電荷輸送層の形成)
次に、CTM1で示される電荷輸送物質6部、A1で示されるポリアリレート7部、P1で示されるポリカーボネート3部をオルトキシレン23部/安息香酸メチル23部/ジメトキシメタン23部の混合溶剤に溶解させることによって電荷輸送層用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を電荷発生層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、塗膜を30分間125℃で乾燥させることによって、膜厚が24μmの電荷輸送層を形成した。
得られた感光体の表面層中の樹脂の熱分解GCMSの結果から、TICが、m/z=242及びm/z=227の成分が検出されるMSスペクトルを有しており、またH-NMRスペクトルにて、2.4ppmにピークを有していたため、式(2-1)を含んでいることを特定した。
【0063】
電子写真装置には、ヒューレットパッカード社製のレーザービームプリンター、商品名HPColor LaserJet EnterpriseM653dnの改造機を使用した。
最初に電子写真装置、及び作成した電子写真感光体を、温度15℃/湿度10%RHの環境下に24時間以上放置した後に、電子写真装置のシアン色のカートリッジに装着し、本体に挿入した。
その後、100枚ハーフトーン画像を出し、カートリッジを取り出し、感光体上に存在している傷について、目視で認識できる深い傷についてのみカウントした。更に、カウントした傷について、それぞれ最大谷深さを示すRvを測定し、最大値を表5に示した。
その後、1枚内で1.5%濃度となるような横線の画像で、40000枚を通紙し、カートリッジを取り出し、感光体上に存在している傷について、目視で認識できる深い傷についてのみカウントした。更に、カウントした傷について、Rvを測定し、最大値を表5に示した。尚、Rvが1.0μmを超えると、画像弊害が出る傾向にあった。結果を表5に示す。
Rvの測定は、以下の条件で行った。
会社名:株式会社 小坂研究所
粗さ計装置名:SE3500
カットオフ値:0.08mm
予備長さ:カットオフ×1
フィルター特性:2CR
評価長さ:2.5mm
縦倍率:10000
横倍率:50
送り長さ:0.1mm/sec
レベリング:直線(全域)
JISB0601-1982
評価長さ全長から処理:間隔評価長さ8000等分
λsフィルター:なし
極性:normal
【0064】
〔実施例2~73、比較例1~11〕
表4に示すポリアリレート種、ポリカーボネート種、CTM種、バインダー比率、CTM/バインダー比率で作成した以外は実施例1と同様にして感光体を作製した。結果を表5に示す。
【0065】
〔実施例74〕
A1で示されるポリアリレート7部、P1で示されるポリカーボネート3部をオルトキシレン23部/安息香酸メチル23部の混合溶剤に溶解させ、その後、シリカ微粒子QSG-170(信越化学工業(株)製 体積平均粒径170nm)1部を加え、マイクロフルイダイザ―((株)パウレック M110-P)にて分散を行った。
その後、電荷輸送層として、上記分散液に、CTM3で示される電荷輸送物質8部、ジメトキシメタン23部を加え、溶解させることによって電荷輸送層用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を電荷発生層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、塗膜を30分間125℃で乾燥させることによって、膜厚が18μmの電荷輸送層を形成した。結果を表5に示す。
【0066】
〔実施例75〕
実施例74において、表4に示すポリカーボネートと微粒子として、シリカ微粒子KE-S10(日本触媒(株)体積平均粒径0.1μm)に変更した以外は、実施例74と同様にして感光体を作製した。結果を表5に示す。
【0067】
〔実施例76〕
実施例74において、表4に示すポリカーボネートと微粒子として、シリカ微粒子KE-S30(日本触媒(株)体積平均粒径0.3μm)に変更した以外は、実施例74と同様にして感光体を作製した。結果を表5に示す。
【0068】
〔実施例77〕
実施例74において、表4に示すポリカーボネートと微粒子として、シリカ微粒子KE-P50(日本触媒(株)体積平均粒径0.5μm)に変更した以外は、実施例74と同様にして感光体を作製した。結果を表5に示す。
【0069】
〔実施例78〕
実施例74において、表4に示すポリカーボネートと微粒子として、シリカ微粒子43-00-701(コアフロント(株)体積平均粒径0.07μm)に変更した以外は、実施例74と同様にして感光体を作製した。結果を表5に示す。
【0070】
〔実施例79〕
実施例74において、表4に示すポリカーボネートと微粒子として、シリカ微粒子SO-C4(アドマテックス韓国(株)体積平均粒径0.9~1.2μm)に変更した以外は、実施例74と同様にして感光体を作製した。結果を表5に示す。
【0071】
〔実施例80〕
実施例74において、表4に示すポリカーボネートと微粒子として、アルミナ微粒子AKP-53(住友化学(株)体積平均粒径0.17μm)に変更した以外は、実施例74と同様にして感光体を作製した。結果を表5に示す。
【0072】
〔実施例81〕
実施例74において、表4に示すポリカーボネートと微粒子として、シリカ微粒子SO-C1(アドマテックス韓国(株)体積平均粒径0.2~0.4μm)に変更した以外は、実施例74と同様にして感光体を作製した。結果を表5に示す。
【0073】
〔実施例82〕
実施例74において、表4に示すポリカーボネートと微粒子として、シリカ微粒子QCB-100(信越化学工業(株)体積平均粒径0.2μm)に変更した以外は、実施例74と同様にして感光体を作製した。結果を表5に示す。
【0074】
【表4】
【0075】
【表5】
【0076】
本実施形態の開示は以下の構成を含む。
[構成1]
ポリアリレート及びポリカーボネートを含有する表面層を有する電子写真感光体であって、
該ポリアリレートが、下記式(1-1)で示される構造単位、下記式(1-2)で示される構造単位及び下記式(1-3)で示される構造単位からなる群より選択される少なくとも1種の構造単位を有し、
該ポリカーボネートが、下記式(2-1)で示される構造単位を有する
ことを特徴とする電子写真感光体。
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
[構成2]
前記表面層が、前記式(2-1)で示される構造単位を5mol%以上40mol%以下含有する構成1に記載の電子写真感光体。
[構成3]
前記ポリカーボネートが、前記式(2-1)で示される構造単位を20mol%以上60mol%以下含有する構成1又は2に記載の電子写真感光体。
[構成4]
ポリアリレート及びポリカーボネートを含有する表面層を有する電子写真感光体であって、
該表面層から回収された高分子成分の成分分析において、
該ポリアリレートが、
TMAH共存下での熱分解ガスクロマトグラフ質量分析にて、TICが、m/z=242及びm/z=227の成分が検出されるMSスペクトルを有するピークを有し、
重クロロホルムを用いたH-NMRスペクトルにて、2.40±0.02ppm及び2.35±0.02ppmにピークを有し、
該ポリカーボネートが、
TMAH共存下での熱分解ガスクロマトグラフ質量分析にて、TICが、m/z=242及びm/z=227の成分が検出されるMSスペクトルを有するピークを有し、
重クロロホルムを用いたH-NMRスペクトルにて、2.40±0.02ppmにピークを有することを特徴とする電子写真感光体。
[構成5]
前記表面層が、シリカ微粒子を含有する構成1~4のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
[構成6]
前記シリカ微粒子の体積平均粒径が、0.1μm以上0.5μm以下である構成5に記載の電子写真感光体。
[構成7]
構成1~6のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段及びクリーニング手段からなる群より選ばれた少なくとも1つの手段と、を一体に支持し、電子写真装置の本体に着脱自在であるプロセスカートリッジ。
[構成8]
構成1~6のいずれか1項に記載の電子写真感光体、並びに、帯電手段、露光手段、現像手段及び転写手段を有する電子写真装置。
【符号の説明】
【0077】
101:支持体
102:下引き層
103:電荷発生層
104:電荷輸送層(表面層)
11:電子写真感光体
12:軸
13:帯電手段
14:像露光光
15:現像手段
16:転写手段
17:転写材
18:定着手段
19:クリーニング手段
20:前露光光
21:プロセスカートリッジ
22:案内手段
図1
図2