IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 電気化学工業株式会社の特許一覧

特許7596363素子搭載基板、および素子搭載基板の製造方法
<>
  • 特許-素子搭載基板、および素子搭載基板の製造方法 図1
  • 特許-素子搭載基板、および素子搭載基板の製造方法 図2
  • 特許-素子搭載基板、および素子搭載基板の製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】素子搭載基板、および素子搭載基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20241202BHJP
【FI】
H01L23/36 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022511755
(86)(22)【出願日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2021009761
(87)【国際公開番号】W WO2021200011
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2020063126
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大助
(72)【発明者】
【氏名】太田 寛朗
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/017689(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/021645(WO,A1)
【文献】特開2006-117491(JP,A)
【文献】国際公開第2017/158993(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはマグネシウムを含む平板状の金属-炭化珪素複合体の表裏両面に、アルミニウムまたはマグネシウム含有金属層が形成された放熱板と、
前記放熱板の一方の面側に搭載された、セラミックス板を含む電子素子とを備え、
前記放熱板の他方の面の平面度が600μm以下であり、
前記放熱板は実質的に矩形であり、
前記矩形の長辺の長さをa、短辺の長さをbとし、
前記他方の面の2つの短辺の各中点の間を結ぶ直線をl 、前記他方の面の2つの長辺の各中点の間を結ぶ直線をl とし、
を含みかつ前記他方の面と略垂直な断面で当該放熱板を断面視したときの、前記他方の面が成す曲線上の点と、l との最大距離をh とし、
を含みかつ前記他方の面と略垂直な断面で当該放熱板を断面視したときの、前記他方の面が成す曲線上の点と、l との最大距離をh としたとき、
(h /a)/(h /b)が1.07以上1.9以下となる素子搭載基板。
【請求項2】
請求項1に記載の素子搭載基板であって、
前記放熱板の室温~400℃間における熱膨張係数をα、前記セラミックス板の室温~400℃間における熱膨張係数をαとしたとき、αとαの差が5.0ppmK-1以下である素子搭載基板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の素子搭載基板であって、
前記放熱板の前記一方の面の、前記電子素子が搭載されていない部分の算術平均粗さRaが0.2~2.0μmである素子搭載基板。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の素子搭載基板であって、
前記放熱板の前記一方の面側を上面として当該素子搭載基板を上面視したとき、前記放熱板の面積の10~80%が前記電子素子で覆われている素子搭載基板。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の素子搭載基板の製造方法であって、
アルミニウムまたはマグネシウムを含む平板状の金属-炭化珪素複合体の表裏両面にアルミニウムまたはマグネシウム含有金属層が形成された放熱板を準備する準備工程と、
前記放熱板の少なくとも片面の平面度を調整する平面度調整工程と、
前記放熱板の前記片面とは反対側の面に、セラミックス板を含む電子素子を搭載する搭載工程と
を含む素子搭載基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素子搭載基板、および素子搭載基板の製造方法に関する。より具体的には、特定の放熱板の少なくとも片面に、セラミックス板を含む電子素子が搭載された素子搭載基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車や電鉄用途におけるパワーモジュール用放熱部品として、従来の銅に替わり、金属-炭化珪素複合体で構成された放熱板が使用されるようになってきている。
金属-炭化珪素複合体の金属としては、アルミニウムやその合金がしばしば用いられる。
【0003】
放熱板の用いられ方として、通常、放熱板の一方の面側には、パワー半導体素子等を含む電子素子が搭載される。また、放熱板の他方の面側は、電子素子から発生した熱の放熱性を高めるため、放熱フィンや放熱ユニットなどの他の放熱部品と接合されることが多い。
【0004】
十二分な放熱性能を得るためには、放熱板と他の放熱部品とが、できるだけすき間なく接合していることが重要である。このため、放熱板の他方の面側(電子素子が搭載された面とは反対の側)の性状が重要である。
例えば、放熱板を他の放熱部品と接合する場合、一般的には放熱板の周縁部に設けられた孔を利用して、放熱板を他の放熱部品にネジ固定する。しかし、放熱板の「他方の面」が凹面であったり、「他方の面」に微少な凹凸が多く存在していたりすると、放熱板と他の放熱部品との間に隙間が生じ、熱伝導性が低下してしまう。
【0005】
上記のような問題を避けるため、放熱板と他の放熱部品との間にできるだけ隙間ができないように、他の放熱部品と接合する面がわずかに凸型に湾曲した放熱板が提案されている。
これは、上述のように、放熱板は、他の放熱部品にネジ等の固定部材で固定して用いられることが通常であるところ、他の放熱部品との接合面が凸型に湾曲していることで、固定部材で固定された際にその接合面が「適度に平ら」になり、他の放熱部品との接合性(密着性)が高まるためである。
【0006】
一例として、特許文献1には、多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる板状複合体であって、板状複合体の面内に他の放熱部品に当該板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し、穴間方向(X方向)の長さ10cmに対する反り量(Cx;μm)と、それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(Cy;μm)の関係が、50≦Cx≦250、且つ-50≦Cy≦200である(Cy=0を除く)ことを特徴とする炭化珪素質複合体が記載されている。
【0007】
他の一例として、特許文献2には、多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる板状複合体であって、複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が250μm以下の反りを有する炭化珪素複合体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3468358号公報
【文献】国際公開第2015/115649号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、(1)まず、わずかに湾曲した放熱板を製造し、(2)それを他の放熱部品と接合する際に、ネジ等の固定用部材の力により湾曲を「平らに」することで、放熱板と他の放熱部品との接合性を高め、ひいては放熱性を高めることが知られている。
【0010】
しかし、特許文献1、2等に記載の湾曲した放熱板は、放熱板単独での湾曲量などを特定の値としたものである。
前述のように、通常、放熱板は、その一方の面側に電子素子が搭載され、他方の面側には他の放熱部品が接合される。放熱板がこのような用いられ方をされる場合、放熱板単独での湾曲の度合いを最適化したとしても、(電子素子が搭載されている影響により)実際の電子デバイスに搭載される際には湾曲の度合いが最適となっていない可能性がある。
【0011】
また、放熱板の一方の面側に搭載される電子素子(典型的にはパワー素子)には、通常、セラミックス板などのセラミックス材料が含まれるところ、このセラミックス材料の熱膨張の大きさと、放熱板の熱膨張率の大きさとの違いにより、意図しない湾曲や望ましくない応力の発生が起こる可能性もある。
【0012】
特に近年、パワーモジュールにおいては一層の放熱性向上が求められている。そのため、最適な放熱性能が発揮されるよう、電子素子-放熱板-他の放熱部材を一体的に捉えて放熱性向上を検討することが考えられる。
しかし、上述のように、過去の検討は、放熱板単独での湾曲量の最適化などにとどまっている。本発明者らの知る限り、これまで、電子素子-放熱板-他の放熱部材を一体的に捉えた放熱性向上の検討は不十分だった。
【0013】
本発明者らは、上記事情などを踏まえ、放熱板単独ではなく、それに搭載される電子素子等も含めた一体的な観点から、放熱性が良好な電子デバイスを得ることを目的に、検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討の結果、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0015】
本発明によれば、
アルミニウムまたはマグネシウムを含む平板状の金属-炭化珪素複合体の表裏両面に、アルミニウムまたはマグネシウム含有金属層が形成された放熱板と、
前記放熱板の一方の面側に搭載された、セラミックス板を含む電子素子とを備え、
前記放熱板の他方の面の平面度が600μm以下である素子搭載基板が提供される。
また、本発明によれば、上記の素子搭載基板の製造方法であって、
アルミニウムまたはマグネシウムを含む平板状の金属-炭化珪素複合体の表裏両面にアルミニウムまたはマグネシウム含有金属層が形成された放熱板を準備する準備工程と、
前記放熱板の少なくとも片面の平面度を調整する平面度調整工程と、
前記放熱板の前記片面とは反対側の面に、セラミックス板を含む電子素子を搭載する搭載工程と
を含む素子搭載基板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、放熱性が良好な素子搭載基板(電子デバイス)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】素子搭載基板の一例を模式的に表した図(断面図)である。
図2】主面3Bの形態について説明するための図である。
図3】製造工程における「加熱プレス」について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、(i)同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合や、(ii)特に図2以降において、図1と同様の構成要素に改めては符号を付さない場合がある。
すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応するものではない。特に、説明上のわかりやすさのため、形状や寸法比は誇張して描かれている場合がある。とりわけ、各図において「湾曲」の大きさは実際の物品よりも誇張されている。
【0019】
特に明示的な説明の無い限り、本明細書中、「略」という用語は、特に明示的な説明の無い限りは、製造上の公差や組立て上のばらつき等を考慮した範囲を含むことを表す。
特に断りの無い限り、本明細書中の各種数値(特に測定値)のうち、温度により値が変わりうるものについては、室温(25℃)での値を採用することができる。
【0020】
<素子搭載基板>
図1は、本実施形態の素子搭載基板の一例を模式的に表した図(断面図)である。
図1の素子搭載基板は、放熱板1と、その放熱板1の一方の面側に搭載された電子素子11とを備える。
【0021】
放熱板1は、アルミニウムまたはマグネシウムを含む平板状の金属-炭化珪素複合体2(以下、複合体2とも記載する)の表裏両面に、アルミニウムまたはマグネシウム含有金属層3(以下、金属層3とも記載する)が形成されたものである。
放熱板1の2つの主面のうち、電子素子11が搭載された側の面を主面3A、その他方の面を主面3Bとする。
【0022】
例えば、放熱板1は、その周縁部に複数の貫通孔5を有する。より具体的には、後述のように放熱板1が実質的に矩形である場合には、放熱板1の少なくとも四隅に貫通孔5が設けられることが好ましい。
貫通孔5は、ネジ等で放熱板1を他の放熱部品(例えば放熱フィンなど)に接合する際に利用される。
【0023】
電子素子11は、少なくともセラミックス板12を含む。図1においては、電子素子11は、セラミックス板12が2つの金属層13により挟まれた構造となっている。
電子素子11は、例えば、はんだ14によりはんだ付けされることで、放熱板1の主面3A側に搭載される。なお、放熱板1の主面3Aを上面として電子素子11を上面視したとき、放熱板1の面積の10~80%が電子素子11で覆われている。
【0024】
図1の素子搭載基板において、主面3B(すなわち、電子素子11が搭載された面とは反対側の面)の平面度は、50~600μm、好ましくは100~500μm、より好ましくは150~450μmである。
放熱板1単独ではなく電子素子11が搭載された状態において、主面3Bの平面度が上記範囲にあることで、素子搭載基板-他の放熱部材「一体として」放熱性が良好となると考えられる。
すなわち、電子素子11を放熱板1に搭載して素子搭載基板としたときに、主面3Bの平面度が適当な数値であることで、その素子搭載基板を他の放熱部材と接合した際に、主面3B-他の放熱部材間の接合性が良好となり、優れた放熱性能が得られると考えられる。
【0025】
なお、平面度とは、平面形体を幾何学的平行二平面で挟んだとき、平行二平面の間隔が最小となる場合の、二平面の間隔と定義される(JIS B 0621を参照されたい)。
平面度の測定装置としては、例えば、キーエンス社製の装置VR-3000を挙げることができる。
【0026】
本実施形態の素子搭載基板の好ましい態様について説明を続ける。
【0027】
[放熱板1の性状について]
主面3B(放熱板1の、電子素子11が搭載された面とは反対側の面)は、主面3Aとは反対側の方向に、凸に湾曲していることが好ましい。これにより、ネジ等の固定部材で放熱板1を他の放熱部材(放熱フィン等)に固定した際に、接合面を「平ら」にしやすく、放熱板1と放熱フィン等との接合性(密着性)を一層高めることができる。
【0028】
放熱板1は、好ましくは、実質的に矩形である。つまり、放熱板1の一方の主面を上面として放熱板1を上面視したとき、放熱板1の形状は実質的に矩形である。
ここで「実質的に矩形である」とは、放熱板1の四隅の少なくとも1つが、直角形状ではなく、丸みを帯びた形状に加工されていてもよいことを意味する(もちろん、四隅は直角形状であってもよい)。
なお、放熱板1の四隅の少なくとも1つが、丸みを帯びた形状に加工されている場合、放熱板1を上面視したときの短辺と長辺の直線部分を延長したときに交差する点を、矩形の「頂点」と定義することができる。また、このとき、放熱板1の「短辺の長さ」や「長辺の長さ」は、上記「頂点」を始点または終点として定義することができる。
【0029】
放熱板1が実質的に矩形である場合、放熱板1の縦横の長さは、一例として、40mm×90mmから250×140mm程度である。
放熱板1の厚みは、一例として2mm以上6mm以下、好ましくは3mm以上5mm以下である。なお、放熱板1の厚みが一様ではない場合には、少なくとも放熱板1の重心部分における厚みが上記範囲にあることが好ましい。
金属層3の厚みは、例えば上下あわせて50~300μm程度である。
【0030】
主面3Bの全体としての平面度が前述の数値範囲内であることに加え、主面3Bの湾曲の仕方をより細かく設計することで、放熱性能を一層良好とすることができる。
これについて、例えば、放熱板1が実質的に矩形であり、その矩形の長辺の長さがa、短辺の長さがbであり、また、主面3Bが主面3Aとは反対側の方向に凸に湾曲している場合を考える。
【0031】
図2(a)は、主面3Bの形態について説明するための図である。換言すると、本実施形態の素子搭載基板における放熱板1の主面3Bのみを明示した図である。
また、図2(b)は、図2(a)の断面βで主面3Bを切断したときの断面図、図2(c)は図2(a)の断面γで主面3Bを切断したときの断面図である。
これら図には、説明の為に補助線などが記載されている。
【0032】
ここで、主面3Bの2つの短辺の各中点(図中にMおよびMで示される)の間を結ぶ直線をl、主面3Bの2つの長辺の各中点(図中にMおよびMで示される)の間を結ぶ直線をlとする。
【0033】
また、lを含みかつ主面3Bと略垂直な断面βで主面3Bを切断したとき、その断面において主面3Bが成す曲線上の点とlとの最大距離をhとする。さらに、lを含みかつ主面3Bと略垂直な断面γで主面3Bを切断したとき、その断面において主面3Bが成す曲線上の点とlとの最大距離をhとする。
【0034】
このとき、h/a>h/bであるように、素子搭載基板を設計することが好ましい。
より具体的には、(h/a)/(h/b)の値は、1.0以上1.9以下であることが好ましく、1.07以上1.6以下であることがより好ましい。
【0035】
上記の不等式については、以下のように解釈することができる。
/aは、放熱板1における「長辺方向の単位長さ当たりの湾曲」を意味すると言える。
同様に、h/bは、放熱板1における「短辺方向の単位長さ当たりの湾曲」を意味すると言える。
そうすると、「h/a>h/b」であるということは、長辺が短辺より長いことを差し引いても、長辺方向の「湾曲の度合い」のほうが、短辺方向のそれよりも大きいこと、と解釈することができる。
【0036】
電子素子11が搭載された放熱板1を、ネジ等を用いて他の部品に押し当てて接合する際、矩形状(長方形状)の放熱板1は、短辺方向よりも長辺方向に変形しやすい(曲がりやすい)。よって、長辺方向の「湾曲の度合い」を短辺方向のそれより大きくすることで、放熱板1を他の放熱部品に接合した際、よりピッタリと接合することができ、一層の放熱性向上、信頼性向上等の効果を得ることができると考えられる。
【0037】
放熱板1の主面3Aにおける、電子素子11が搭載されていない部分(主面3Aが露出している部分)の算術平均粗さRa(以下、「表面粗さRa」ともいう)は、好ましくは0.2~2.0μm、より好ましくは0.5~1.6μmである。
前述のように、電子素子11は、例えばはんだ14によりはんだ付けされることで放熱板1に搭載される。表面粗さRaの値が適切であることで、はんだの濡れ性が高められ、結果、放熱板1-電子素子11間の接合強度を高めることができると考えられる。
また、詳細は不明であるが、主面3Aの粗さ(表面粗さRa)が適当であることで、放熱板1-電子素子11の間に一種の「遊び」が生まれると考えられる。これにより、外力、ヒートサイクル、素子搭載基板を他の放熱部品に接続する際の歪みなどがあっても、接合性の悪化が抑えられるとも考えられる。
【0038】
図1には示していないが、放熱板1の最表面には、メッキ層が存在してもよい。これにより、例えば電子素子11との接合性を一層高めることができる(具体的は、電子素子11とのはんだ付けをよりしやすくなる)。メッキ層は、例えばNiメッキであることができる。メッキ層の厚みは、一層あたり10μm程度、上下あわせて20μm程度とすることができる。
【0039】
[電子素子11の性状など]
電子素子11は、例えば、パワー半導体素子であることができる。パワー半導体素子である電子素子11からは多量の熱が放出されうるが、本実施形態の素子搭載基板を他の放熱部材(放熱フィン等)に適切に接合することで、その熱を効率的に排熱しうる。
【0040】
前述のように、電子素子11は、少なくともセラミックス板12を含む。また、電子素子11は、典型的には金属層13も含む。
【0041】
セラミックス板12の材質は、セラミックス材料である限り特に限定されない。
例えば、窒化珪素、窒化アルミニウムなどの窒化物系セラミックス、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどの酸化物系セラミックス、炭化珪素等の炭化物系セラミックス、ほう化ランタン等のほう化物系セラミックス等であることができる。中でも、窒化アルミニウム、窒化ケイ素および酸化アルミニウムが、絶縁性、金属層13との接合性の強さ、機械的強度などの観点から好ましい。
【0042】
金属層13は、導電性や熱伝導性などの観点から、好ましくは銅、銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金で構成される。例えば、純銅(C1020材もしくはC1011材)、無酸素銅板などにより構成することができる。
金属層13の一部は、エッチングなどにより除去され、回路パターンとなっていてもよい。
【0043】
電子素子11の、金属層13-セラミックス板12-金属層13の3層構造は、例えば、セラミックス板と金属板とを、適当なろう材で接合することで得ることができる。
【0044】
ろう材としては、Ag-Cu系ろう材を好ましい。すなわち、ろう材は、Ag粉末、Cu粉末等の混合物であることが好ましい。そして、融解温度を適度にする等の観点から、Ag粉末とCu粉末の合計を100質量部としたとき、Ag粉末が75質量部以上98質量部以下、Cu粉末が2質量部以上25質量部以下であることが好ましい。
【0045】
ろう材は、セラミックス板との濡れ性改善などの目的から、SnまたはInを含んでもよい。これらの配合量は好ましくは0.4質量部以上3.5質量部以下である。
【0046】
ろう材は、セラミックス板との反応性を高める等の観点から、活性金属を含むことが好ましい。活性金属としては、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブなどを挙げることができる。窒化アルミニウム基板や窒化珪素基板との反応性が高く、接合強度を非常に高くできる観点で、チタンを含むことが好ましい。
活性金属の添加量は、Ag粉末と、Cu粉末と、Sn粉末またはIn粉末の合計100質量部に対して、1.5質量部以上5.0質量部以下が好ましい。活性金属の添加量を適切に調整することで、接合不良の発生を一層抑えることができる。
【0047】
ろう材は、上述のような金属粉末と、必要に応じて有機溶剤やバインダーとを混合することで得ることができる。混合には、らいかい機、自転公転ミキサー、プラネタリーミキサー、3本ロール等を用いることができる。これにより、例えばペースト状のろう材を得ることができる。
ここで使用可能な有機溶剤は特に限定されない。例えば、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、イソホロン、トルエン、酢酸エチル、テレピネオール、ジエチレングリコール・モノブチルエーテル、テキサノール等が挙げられる。
ここで使用可能なバインダーは特に限定されない。例えば、ポリイソブチルメタクリレート、エチルセルロース、メチルセルロース、アクリル樹脂、メタクリル樹脂等の高分子化合物が挙げられる。
【0048】
電子素子11は、例えば以下のようにして得ることができる。
(1)ろう材ペーストを、セラミックス板の両面に塗布し、その塗布面に銅板を接触させる。
(2)真空中もしくは不活性雰囲気中で加熱処理をすることで、セラミックス板と銅板を接合する。
【0049】
上記(1)でろう材ペーストをセラミックス板に塗布する方法は特に限定されない。例えば、ロールコーター法、スクリーン印刷法、転写法などが挙げられる。均一に塗布しやすいという点から、スクリーン印刷法が好ましい。
上記(2)のセラミックス板と銅板との接合については、真空中または窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気中、例えば770℃以上830℃以下の温度で、10分以上60分の時間で処理することが好ましい。
【0050】
[放熱板1-電子素子11の関係、素子搭載基板全体としての設計]
前述のように、本実施形態の素子搭載基板の設計思想は、放熱板1単独ではなく、放熱板1と電子素子11とを一体的に捉えて放熱性を向上させることにある。
【0051】
この点で、例えば、温度25~400℃における放熱板1の熱膨張係数をα、温度25~400℃におけるセラミックス板12の熱膨張係数をαとしたとき、αとαの差が5.0ppm K-1以下となる。
【0052】
また、別観点として、放熱板1の主面3Aの側を上面として素子搭載基板を上面視したとき、放熱板1の面積の、好ましくは10~80%、より好ましくは15~70%が電子素子11で覆われている。
上記程度の面積割合の電子素子11が主面3Aに搭載される場合において、主面3Bの平面度を50~600μmに設定したり、前述のh/a、h/bなどの値を適切に設計したりすることで、意図せぬ歪みや熱応力などの発生を十二分に小さくしつつ、放熱性を良好とすることができる。
【0053】
[はんだ]
はんだ14として、特に種類は限定しないが、例えば、鉛すず共晶はんだ、または鉛フリーはんだを用いることができる。はんだ塗布厚みは、例えば0.1~0.2mmとすることができる。また、リフローの条件は特に限定されず、はんだ14の融解温度等に応じて適宜設定すればよいが、典型的には250~350℃で5~30分程度とすることができる。温度が高すぎない/時間が長すぎないことにより、平面度の意図せぬ変化などが抑えられる。
【0054】
[素子搭載基板の製造方法]
本実施形態の素子搭載基板は、例えば、以下のようにして製造することができる。
(1)放熱板の準備:アルミニウムまたはマグネシウムを含む平板状の金属-炭化珪素複合体の表裏両面に、アルミニウムまたはマグネシウム含有金属層が形成された放熱板を準備する。
(2)平面度の調整:(1)で準備した放熱板の少なくとも片面の平面度を調整する。好ましくは、準備した放熱板の少なくとも一方の面に、その一方の面とは反対側の方向に凸な湾曲を設ける。
(3)接合:上記(2)で平面度が調整された放熱板と、別途準備した電子素子とを、はんだ等により接合する。
【0055】
上記手順についてより詳しく説明する。
【0056】
(1)放熱板の準備:
例えば、(i)炭化珪素粉末を平板状に成形して焼成し、平板状の成形体(プリフォーム)を得る工程と、(ii)その成形体(プリフォーム)に金属を含浸させる工程と、により、平板状の金属-炭化珪素複合体の表裏両面に金属層が設けられた放熱板を得ることができる。
【0057】
上記(i)の工程では、まず、原料の炭化珪素粉末(好ましくは、平均粒子径が1~300μmの炭化珪素粒子を一種又は二種以上)を適当な方法で平板状にする。
平板状にする方法としては、公知の方法を適宜適用することができる。例えば、乾式プレス法、湿式プレス法、押出し成型法、インジェクション法、キャスティング法、シート成形後打ち抜く方法等を用いることができる。
【0058】
炭化珪素粉末を平板状とする際、金属の含浸時に割れなどの異常を発生しないような強度を発現させるために、無機質または有機質のバインダーを適宜添加してもよい。高強度の成形体が得やすいため、バインダーとしてはシリカゾルが好ましい。バインダーは、体積比率で、固形分として炭化珪素100に対し20以下の添加が、相対密度の向上という理由より好ましい。
【0059】
上記で得られた平板については、製造条件によって異なるものの、通常は乾燥や加熱脱脂処理を経た後、焼成される。これにより、十分な強度を有する成形体(プリフォームとも呼ばれる)を得ることができる。
焼成条件としては、不活性雰囲気中または大気中で、700℃以上の温度とすることが好ましい。ただし、大気中の場合、1100℃以上の温度で焼成すると、炭化珪素が酸化し得られる複合体の熱伝導率が低下する場合がある。よって、この温度以下で焼成することが好ましい。
【0060】
焼成して得られるプリフォームの相対密度は、55~75%であることが好ましい。プリフォームの相対密度を55~75%とすることにより、放熱板1の熱膨張係数を6~10ppm/K程度に設計しやすい。なお、対密度は、金属を含浸する前の空隙を有する炭化珪素の成形体(プリフォーム)の、体積中に占める炭化珪素の体積割合で定義される。
プリフォームの相対密度を55~75%とするには、焼成前の平板を得る段階において、粒度の異なる炭化珪素粉末を配合することが好ましい。炭化珪素の場合、平均粒径が100μmの粉末と平均粒径が10μm又はこれより細かい粉末を混合したもの、あるいは平均粒径が60μmの粉末と平均粒径が10μm又はこれより細かい粉末を混合した粉末の使用がその一例として挙げられる。
ここで、平均粒径は、走査型電子顕微鏡(例えば日本電子社製「JSM-T200型」)と画像解析装置(例えば日本アビオニクス社製)を用い、1000個の粒子について求めた径の平均値を算出することによって求めることができる。
【0061】
なお、放熱板の主面の平面度を好ましいものとすることを目的に、得られたプリフォームを金属に含浸させる前に、プリフォームの一部を機械加工してもよい。
例えば、旋盤などの切削・研削機具により、プリフォームの少なくとも片面を、その外側に向かって凸型の湾曲形状となるように加工してもよい。プリフォームの段階で機械加工(切削加工)を施す場合、金属切削のための特別な器具等を用いる必要がなく、容易に湾曲の度合いや平面度を制御しやすいメリットがある。
【0062】
上記(ii)の工程(金属の含浸)では、焼成して得られたプリフォームへ金属を含浸させるために、いわゆる溶湯鍛造法やダイカスト法が採用できる。
【0063】
溶湯鍛造法の場合、プリフォームに、アルミニウムまたはマグネシウムを含む金属を含浸させ、炭化珪素と金属とを含む複合化部と、複合化部の外面の表面金属層とを備える、金属-炭化珪素質複合体を作製することができる。
アルミニウムまたはマグネシウムを含む金属(合金)を、プリフォームに含浸させて、金属-炭化珪素質複合体を得る方法としては、例えば、下記方法がある。
プリフォームの両板面に、アルミナ若しくはシリカからなる、繊維、球状粒子、及び破砕形状の粒子のうちの1種以上を直接接するように配置し、離型板で挟むことで一つのブロックとする。
このブロックを、500℃以上650℃以下で予備加熱し、そして、高圧容器内に1個または2個以上配置する。その後、ブロックの温度低下を防ぐためにできるだけ速やかに、アルミニウムまたはマグネシウムを含む金属の溶湯を30MPa以上の圧力で加圧し、金属をプリフォームの空隙中に含浸させる。
以上により、炭化珪素と金属とを含む複合化部と、複合化部の外面の表面金属層とを備える、金属-炭化珪素質複合体が得られる。
【0064】
ダイカスト法は、プリフォームを製品形状のキャビティーを有する金型内にセットし、型締めを行い、その後、金属を高速注入し、金属-炭化珪素複合体を得る方法である。
【0065】
ここで、例えば上記の溶湯鍛造法において、凹型および/または凸型の形態を工夫する、より具体的には、型とプリフォームとの間に、金属層に相当する「隙間」を設けるといった工夫により、金属-炭化珪素複合体の表面に金属層を設けることができる(すなわち、図1のように、複合体2の表裏両面に金属層3が形成された放熱板1を得ることができる)。
ちなみに、このようにして金属層を形成した場合、複合体に含浸している金属の組成と、金属層を構成する金属の組成は、基本的に同じとなる。
【0066】
含浸させる金属は、アルミニウムまたはマグネシウムを含む限り、特に限定されない。アルミニウムまたはマグネシウムを主成分とする金属であることが好ましく、アルミニウムを主成分とする金属であることがより好ましい。
【0067】
含浸させる金属は、アルミニウムまたはマグネシウム以外に、他の元素を含んでもよい。
例えば、含浸させる金属は、アルミニウムを主成分とし、0.1質量%以上1.5質量%以下のマグネシウムと、0.1質量%以上18質量%以下のシリコンを含有するものであってもよい。アルミニウムにシリコンやマグネシウムが合金化することにより、合金の融点低下や高温での溶融金属の粘性低下があり、高温鋳造等で緻密な複合体を得やすくなるという利点がある。
【0068】
なお、含浸時に生じた歪み除去などの目的で、アニール処理を行ってもよい。歪み除去の目的で行うアニール処理は、400℃以上550℃以下の温度で10分以上行うことが好ましい。
アニール温度が400℃以上であれば、放熱板1内部の歪みが十分に開放されて、機械加工後のアニール処理工程で湾曲が大きく変化することを抑制できる。
アニール温度が550℃以下であれば、含浸で用いた金属(例えばアルミニウム合金)が溶融することを防止できる。
アニール時間が10分以上であれば、放熱板1内部の歪みが十分に開放され、機械加工後の加工歪み除去のためのアニール処理工程で、湾曲が大きく変化することを抑制できる。
【0069】
(2)平面度の調整:
一例として、平面度の調整は、上記で得られた放熱板1を加熱プレスすることで行うことができる。
具体的には、図3(a)、図3(b)および図3(c)に示されるように、プレス凸型100とプレス凹型110とにより、放熱板1を挟み、加熱プレスする(加熱しながら押圧する)。これにより、放熱板1の主面の平面度を調整することができる。
プレス凸型100とプレス凹型110は、放熱板1に所定の湾曲が付与されるように形状加工されている。また、典型的には、プレス凸型100の凸部の形態と、プレス凹型110の凹部の形態は、略同一である。つまり、典型的には、放熱板1を挟まずにプレス凸型100とプレス凹型110とを重ねた場合、プレス凸型100とプレス凹型110の間にすき間はほとんどできない。
【0070】
プレス凸型100およびプレス凹型110の材質は特に限定されず、後述の温度および圧力条件下で実質上変形しないものであればよい。具体的には、カーボン、窒化ほう素等のセラミックスや、超硬合金、ステンレス鋼などの金属材料が好ましく使用される。
【0071】
適切な湾曲が付与された放熱板1が得られる限り、加熱プレス時の加熱温度は特に限定されない。しかしながら、生産性や、圧力を小さくする観点から、加熱温度は、放熱板1中の金属が溶融しない範囲内でできるだけ高い温度であることが好ましい。本実施形態では、放熱板1中に含まれる金属はアルミニウムやマグネシウム等(合金である場合を含む)であることを踏まえると、好ましくは450℃以上ら550℃以下である。
【0072】
適切な湾曲が付与された放熱板1が得られる限り、加熱プレス時の圧力は特に限定されない。圧力は、放熱板1の厚みや加熱温度等に応じて適宜調整すればよい。しかしながら、生産性や、確実に湾曲を付与する等の観点から、圧力は10kPa以上が好ましく、30kPa以上250kPa以下がより好ましい。
【0073】
適切な湾曲が付与された放熱板1が得られる限り、加熱プレスの時間も特に限定されない。しかしながら、確実に湾曲を付与する等の観点から、例えば、放熱板1自体の温度が450℃以上となる時間が、30秒以上となることが好ましく、30秒以上300秒以下となることがより好ましい。
【0074】
一方、別の一例として、平面度の調整は、上記で得られた放熱板1の少なくとも片面(素子搭載基板としたときに、主面3Bとなる面)を機械加工(研削、切削等)することにより行ってもよい。具体的には、旋盤などの精密な削り取り(研削、切削等)が可能な機具により、放熱板1の少なくとも一方の主面(主面3B)の平面度を調整することができる。
【0075】
放熱板1に電子素子11を搭載する前/後で、反り量が変化することから、予めその変化を見込んで平面度を調整することが好ましい。
例えば、187.5mm×137.5mmの放熱板1へ50mm×58mmの電子素子11(セラミックス基板)を6枚搭載した(被覆面積 174cm/257cm、被覆率67.5%)条件で、搭載前後で、反り量は長手方向で約150μm、短手方向で約6μm減少する。
【0076】
なお、平面度を調整するにあたっては、加熱プレスと機械加工の両方を行ってもよい。
【0077】
放熱板の製造工程は、上述していない他の工程を含んでもよい。
一例として、放熱板の製造工程は、ネジ止め用の孔を設ける工程を含んでもよい。具体的には、機械加工などにより、他の放熱部品と接合するためのネジ止め用の孔を設けることができる。
ネジ止め用の孔を設ける工程は、どの段階で行ってもよいが、特に、放熱板の平面度の調整において機械加工を施す場合には、その前に行うことが好ましい。こうすることで、設けた孔を、旋盤等への固定にも用いることができる。
【0078】
別の一例として、放熱板の製造工程は、放熱板の片面または両面を適宜研磨する工程を含んでもよい。これにより、例えば、放熱板表面の算術平均粗さRaを調整することができる。
さらに別の一例として、放熱板の製造工程は、放熱板の最表面にメッキ層を設ける工程を含んでもよい。メッキ層を設ける意義などについては前述のとおりである。
【0079】
(3)接合:
例えば、(i)まず、上記のようにして平面度などが調整された放熱板の表面に、フラックスを添加してペースト状にしたはんだペーストを塗布し、(ii)その塗布されたはんだペーストの上に、電子素子(例えばセラミックス回路基板)を載置し、(iii)そして、リフローしてはんだを溶解させることで、素子搭載基板を得ることができる。
この接合により、典型的には、放熱板の一方の面(図1における主面3B)の平面度が幾分変化し、その平面度が50~600μmとなる。
なお、前述のように、例えば接合前の放熱板の主面の平面度、用いるはんだの種類や厚み、放熱板を上面視したときに電子素子が占める面積などを調整することで、最終的な素子搭載基板において、好ましい平面度を得やすくなる。
【0080】
電子素子(セラミックス回路基板)の構成要素、素材、製造方法などは、前述のとおりである。よって、改めての説明は省略する。
はんだとして好ましく使用可能なものについては前述のとおりである。よって、改めての説明は省略する。
【0081】
上記リフローの条件は特に限定されず、はんだの融解温度等に応じて適宜設定すればよいが、典型的には250~350℃で5~30分程度とすることができる。温度が高すぎない/時間が長すぎないことにより、平面度の意図せぬ変化などが抑えられる。
【0082】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例
【0083】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0084】
1.放熱板の製造
(炭化珪素質多孔体の形成)
まず、以下の炭化珪素粉末A、炭化珪素粉末Bおよびシリカゾルを、攪拌混合機で30分間混合し、混合物を得た。
・炭化珪素粉末A(大平洋ランダム株式会社製:NG-150、平均粒径:100μm) 300g
・炭化珪素粉末B(屋久島電工株式会社製:GC-1000F、平均粒径:10μm) 150g
・シリカゾル(日産化学工業株式会社製:スノーテックス) 30g
【0085】
得られた混合物を金型へ投入し、圧力10MPaでプレス成形した。これにより、185mm×135mm×5.5mmの寸法の平板状の成形体を得た。得られた成形体を、大気中、温度900℃で2時間焼成して、相対密度(嵩密度)が65体積%の炭化珪素質多孔体を得た。
【0086】
この炭化珪素質多孔体の、完成後の放熱部材の主面2Bとなる面を平面研削盤で加工した。その後、主面2Aとなる面を、R=11mの旋盤にて凸型の湾曲形状に機械加工した。このとき、炭化珪素質多孔体の中央の厚みは4.8mmとなるよう調整した。
なお、以下の工程のため、同様の炭化珪素質多孔体を30枚作成した。
【0087】
(金属の含浸)
機械加工した炭化珪素質多孔体の主面2A側にアルミナ繊維(田中製紙工業株式会社製、純度97%、シート状形態)を配し、両面をカーボンコートした210mm×160mm×0.8mmの寸法のステンレス板で挟んで、30枚を積層した。
次に、両側に6mm厚みの鉄板を配置して、M10のボルト6本で連結して面方向の締め付けトルクが3Nmとなるようにトルクレンチで締め付けて一つのブロックとした。
その後、一体としたブロックを電気炉で620℃に予備加熱し、さらにその後、あらかじめ加熱しておいた内径400mmφのプレス型内に収めた。そのプレス型内に、シリコンを12質量%、マグネシウムを1.0質量%含有するアルミニウム合金の溶湯を注ぎ、そして100MPaの圧力で20分間加圧した。これにより、炭化珪素質多孔体にアルミニウム合金を含浸させた。
【0088】
含浸終了後、25℃まで冷却し、その後、湿式バンドソーにて離型板の形状に沿って切断し、挟んだステンレス板をはがした。さらにその後、含浸時の歪み除去のために500℃の温度で3時間アニール処理を行った。
以上により、アルミニウム-炭化珪素質複合体を得た。
【0089】
(含浸後の処理)
得られたアルミニウム-炭化珪素質複合体の外周を、NC旋盤で加工して、縦横の大きさを190mm×140mmとした。その後、縁周部8カ所に直径7mmの貫通穴、4カ所にφ10-4mmの皿穴を加工した。
【0090】
また、アルミニウム-炭化珪素質複合体の主面2Aに対応する側を、ターニングセンタでR=11mとなるよう機械加工した。機械加工後、マッフル炉を用いて500℃の温度で4時間のアニール処理を行った。これにより加工歪みの除去を行った。
【0091】
さらに、アルミニウム-炭化珪素質複合体を、圧力0.4MPa、搬送速度1.0m/minの条件でアルミナ砥粒にてブラスト処理を行い清浄化し、その後、無電解Ni―P及びNi-Bめっきを行った。これにより複合体表面に8μm厚(Ni-P:6μm、Ni-B:2μm)のめっき層を形成した。
【0092】
以上により、放熱板(放熱部材)を得た。
【0093】
2.電子素子の準備
セラミックス板の材質、線膨張率、銅層の材質、全体の大きさ・厚みは次の通りである。
窒化珪素、窒化アルミニウムなどの窒化物系セラミックス、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどの酸化物系セラミックス、炭化珪素等の炭化物系セラミックス、ほう化ランタン等のほう化物系セラミックス等であることができる。中でも、窒化アルミニウム、窒化ケイ素および酸化アルミニウムが、絶縁性、金属層13との接合性の強さ、機械的強度などの観点から好ましい。
・熱膨張係数 :窒化ケイ素 3ppm/K、窒化アルミニウム 4.6ppm/K(室温25℃~400℃)
・銅材の材質 :銅、銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金
・金属板厚み :0.15~0.8mm
・セラミックス基板サイズ:□50mm×58mm
・セラミックス基板厚み :0.32mm~1.00mm
【0094】
3.放熱板と電子素子のはんだ付け
放熱板と電子素子とのはんだ付けに用いたはんだの組成、はんだ付けの条件、厚み、基板による被覆面積は次の通りである。
・はんだ組成:鉛/すず共晶はんだ(すず63%)
・はんだ付け温度:250℃
・フラックス:あり
・塗布厚み:0.2mm
・基板による被覆面積:187.5mm×137.5mmの放熱板へ50mm×58mmのセラミックス基板を6枚搭載した。(被覆面積 174cm/257cm、被覆率67.5%)
【0095】
4.平面度の測定
(fの測定)
電子素子11を搭載した放熱板1について、電子素子11が搭載されていな側の主面3Bを、キーエンス社製の装置VR-3000を用いて平面度測定し、平面度fを得た。このとき、主面3Bが装置観測視野に収まらなかったため、主面3Bを上面視したときの中心(幾何学的重心)と、測定装置の観測視野の中心とが一致するようにして、190mm×100mmの範囲を測定した。
表1に実施例(実施例1~9)の放熱板1を9枚測定した結果を示す。平面度fは平均363.7μm、最大値480μm、最小値246μm、標準偏差77.3であった。
【0096】
(hおよびhの測定)
レーザー三次元形状測定機を用いて、主面3Bの形状に関するデータを取得し、そのデータを解析することで、hおよびhを求めた。また、hおよびhについて、電子素子11の搭載前後について求め、搭載前後でどの程度の変化が生じたかを確認した。
装置:レーザー三次元形状測定機(以下4つの装置が一体となったもの)
XYθステージユニット:K2-300(神津精機株式会社製)
高精度レーザー変位計:LK-G500(株式会社キーエンス製)
モータコントローラ:SC-200K(神津精機株式会社製)
AD変換機:DL-100(神津精機株式会社製)
表1に実施例(実施例1~9)として9枚の放熱板1について、(h/a)/(h/b)を示す。実施例1~9において、(h/a)/(h/b)は最小1.27であり最大1.78であり、実施形態で示した1以上1.9以下の範囲に含まれた。
また、表2に実施例(実施例10~12)として3枚の放熱板1について電子素子11の搭載前後の反り量の変化を示す。これら実施例では、反り量は長手方向で約150μm、短手方向で約6μm減少する。予めその変化を見込んで平面度を調整することで、所望の密着性と放熱性を実現できる。
【0097】
5.算術平均粗さRa(表面粗さRa)の測定
実施例(129枚)の放熱板1について、主面3Aにおける、電子素子11が搭載されていない部分(主面3Aが露出している部分)の表面粗さRaを、ミツトヨ製の測定装置サーフテストSJ-310により、ISO4287-1997に準じて測定した。
実施例の放熱板1について測定した結果、表面粗さRaは、平均1.02μm、最大値1.52、最小値0.84、標準偏差0.11であった。
【0098】
6.性能評価
なお、表1で示した実施例1~9の放熱板1を、放熱フィンにネジにより接合し、放熱板1と放熱フィンとの密着性、放熱性等を評価したところ、密着性および放熱性は良好であった。
すなわち、実施例1~9の放熱板1を用いることで、放熱性が良好なパワーモジュールを製造することができ、かつ、そのようなパワーモジュール製造の際の歩留まり改善などもできることが示された。
なお、平面度が700μmでその他は実施例1と同等の場合(比較例)、Cu板やAl板にねじ止めで固定される際にM字形状となってしまい、Cu板やAl板との間に隙間が生じた。また、基板搭載後、パワーモジュールを製造するに際し、上部を覆うケースが嵌らなかった。
【表1】
【表2】
【0099】
この出願は、2020年3月31日に出願された日本出願特願2020-063126号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0100】
1 放熱板
2 複合体(アルミニウムまたはマグネシウムを含む金属-炭化珪素複合体)
3 金属層(アルミニウムまたはマグネシウム含有金属層)
3A 主面(電子素子11が搭載された側の面)
3B 主面(主面3Aの他方の面)
5 貫通孔
11 電子素子
12 セラミックス板
13 金属層
100 プレス凸型
110 プレス凹型
図1
図2
図3