(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】セルロースカルバメートの製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 11/20 20060101AFI20241202BHJP
D21C 3/02 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
D21H11/20
D21C3/02
(21)【出願番号】P 2022527927
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(86)【国際出願番号】 FI2020050749
(87)【国際公開番号】W WO2021099679
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-08-23
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】520102646
【氏名又は名称】アンドリッツ オサケ ユキチュア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ローマルク、ハンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルタ、キイェスティ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンハタロ、カリ
【審査官】當間 庸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-143301(JP,A)
【文献】特開昭60-123502(JP,A)
【文献】特表2000-505135(JP,A)
【文献】米国特許第05378827(US,A)
【文献】特表2017-521513(JP,A)
【文献】特表2017-504778(JP,A)
【文献】国際公開第2013/108191(WO,A1)
【文献】特表2019-512384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/20
D21C 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースカルバメート(CCA)の製造において窒素化合物の排出を制御する方法であって、化学パルプ工場でセルロース系繊維材料から溶解パルプ(DP)及び/又はクラフトパルプを製造し、パルプの
重合度を低下させるために活性化し、並びに
活性化DP又は活性化クラフトパルプを尿素と反応させてセルロースカルバメートを生成することによってアンモニアを放出し、
セルロースカルバメートの製造が煙道ガスシステムを備えたパルプ工場に統合され、煙道ガスからの二酸化炭素が放出されたアンモニアと反応して尿素を生成し、これがカルバメートの製造に使用されるようになっている方法。
【請求項2】
二酸化炭素が石灰窯の煙道ガスから得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
カルバメートの製造により放出されたアンモニア又はアンモニア含有廃水が、DPの製造により生じた前加水分解物及び/又はパルプ工場からの酸性廃水を中和するために使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
CCAの製造により生じた窒素含有廃水の少なくとも一部が、蒸発プラントに送られ、乾燥窒素肥料を生産するために濃縮される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
CCAの製造により生じた窒素含有廃水が、パルプ工場の廃水処理プラントに搬送されて栄養素として使用される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
活性化が、化学パルプ工場のファイバーラインで、及び/又は化学パルプ工場とCCAプラントとの間の別個の段階で、及び/又はCCAプラントにおいて行われる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
活性化方法が、酸加水分解、アルカリ加水分解(マーセレーション)、オゾン段階、過酸化物処理及び酸素段階における過酸化物添加のうちの少なくとも1つである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
活性化が、パルプ工場にて生成若しくは形成された化学物質を使用することによって行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維、フィルム、又はスポンジなどの再生セルロース製品へとさらに加工することができるセルロースカルバメート(CCA)の製造方法に関する。より具体的には、本発明は、溶解パルプ(DP)及び/又はクラフトパルプからCCAを製造する方法であって、化学パルプ工場のシステム、蒸気、水、電気、煙道ガス、廃水処理、及びCCA製造のサイドストリームを利用してプロセス全体の総合的な効率を上げ、CCAの製造における窒素化合物の排出を制御するような総合的CCA製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースカルバメート(CCA)は、80年以上前に発明されたアルカリ可溶性セルロース誘導体である。CCAはアルカリ溶解性という特性があるため、再生セルロース製品の良好な原材料である。
【0003】
CCAは、セルロースを尿素又は尿素ラジカルと高温にて反応させることにより製造される。典型的には尿素が用いられ、反応式(1)及び(2)に従ってセルロースと反応する。カルバメート化反応では、温度が133℃を超えると尿素が分解し始め、中間生成物であるイソシアン酸とアンモニアが形成される(反応式(1))。イソシアン酸は、セルロース骨格にカルバメート基を形成することによって、セルロースのOH基とさらに反応する(2)。
【化1】
【0004】
セルロースのカルバメート化中に形成されるアンモニアガスは、反応式の生成物側の飽和を防ぐため、及びカルバメート化の停止を防ぐために、除去する必要がある。
【0005】
高温のため、水は蒸発し、こうして形成されたCCAは物理的に固体形態である。それは保管及び輸送が可能な安定した材料である。これらの特性により、CCAは産業上利用可能な製品である。
【0006】
CCAは、クラフトパルプ、前加水分解クラフトパルプ、ソーダ-AQパルプ、亜硫酸パルプ、中性亜硫酸パルプ、酸性亜硫酸パルプ又はオルガノソルブパルプなどの任意のタイプの化学パルプから製造することができる。既存のカルバメート技術の一般的な特徴は、パルプの溶解、及び前記パルプを活性化してDP0(重合度)を低下させるためにこれを前処理することから始まることである。通常、DP0の低下は、マーセル化、酸性若しくはアルカリ性剤による加水分解、酵素、放射線、触媒及び/又は粉砕などの機械的手段によって行われる。
【0007】
米国特許第2,134,825号は、セルロースと尿素を高温で反応させてアルカリ可溶性製品を形成する方法を開示している。米国特許第4,404,369号(FI62318)は、尿素が溶解したアンモニア溶液を利用し、セルロースと尿素を高温で反応させてアルカリ可溶性製品を形成する方法を開示している。国際公開第03099872号は、まず尿素とアルカリの混合物でセルロースを活性化し、その後に、反応押出装置を利用して液体を加圧し高温でカルバメート化反応を行ってアルカリ可溶性製品を形成する方法を開示している。国際公開第2003064476号は、一貫性の高いプロセス及び処理装置を利用し、セルロースを尿素及び少量の過酸化物と混合する前に予め細かく砕き、混合物を高温で反応させてアルカリ可溶性製品を形成するCCA製造方法を開示している。独国特許第4443547号は、カルバメート化反応の前にセルロースを活性化するためにまず塩酸塩酸(hydrochloride acid)でセルロースを加水分解し、その後高温で尿素と反応させてアルカリ可溶性製品を形成することによるセルロースカルバメートの調製方法を開示している。
【0008】
溶解パルプは、製紙用のパルプとは異なる。溶解パルプの製造では、可能な限り高濃度のセルロース及び可能な限り低濃度のヘミセルロース(例えばキシラン)を有するパルプを生成しようとするが、紙パルプの場合、セルロース及びヘミセルロースが紙パルプ中に可能な限り多く残るように、蒸解及び漂白中に漂白された紙パルプからリグニンを除去しようとする。主成分であるセルロース(α-セルロースと記載される)に加えて、紙パルプは、最大25%までのヘミセルロースを含有することができるが、溶解パルプは、典型的には90%を超えるα-セルロースを含有し、ヘミセルロースの量は約5%未満でなければならない。
【0009】
溶解パルプの低いヘミセルロース濃度は、典型的には、強いアルカリ性及び酸性条件下でチップ及び/又はパルプを処理することによって求められる。溶解パルプは伝統的に、亜硫酸法又は酸前加水分解を備えた硫酸塩法のいずれかで製造されてきた。溶解パルプの製造に硫酸塩法が使用される場合、アルカリ蒸解の前に、木材チップは通常は前加水分解にかけられ、そこでアルカリ蒸解の前に酸性条件下で相当量のヘミセルロースが除去される。ファイバーラインの最後に、パルプは紙パルプと同様の漂白段階で処理されるが、ここで最も重要な違いはアルカリ漂白段階であり、これは最大収量を保持する漂白よりも高い温度で行われる。さらに、ビスコースパルプを製造するために、硫酸塩蒸解及び亜硫酸塩蒸解はいずれも、通常は紙パルプ製造よりも低いカッパー価に蒸解される。
【0010】
また、溶解パルプ製造において、酸性蒸解プロセスの後に苛性ソーダ抽出を行ってもよいことや、チップをアルカリ蒸解する前に高温及び高圧で酸前加水分解段階に供することも知られている。溶解パルプを製造するための1つの好ましい方法は、国際公開第2019170962号に記載されている。
【0011】
化学パルプ工場は、特定の元素、ナトリウム及び硫黄のバランスが存在するクローズド・プロセス・システムである。塩素やカリウムなどのいくつかの無機元素は、木材とともにプロセスサイクルに入る。それらは、プロセスバランスからフライアッシュが取り出されるときに除去される。クローズドサイクルであるため、パルプ工場のプロセスサイクルにおいて非プロセス要素又は全く新しい要素が存在するのを防ぐ又は最小限に抑えることが重要である。CCAを製造する際には尿素が必要であり、したがって窒素はプロセスバランスへの新たな投入物であるため、窒素の量を最小限に抑える必要がある。
【0012】
世界の繊維市場のうちの大部分9,900万トン(62%)は、合成紡織繊維として知られる再生不可能かつ生分解性でない供給原料(エコではない綿に24.3%、及び有害化学物質CS2(二硫化炭素)を使用して製造されるビスコースに6.6%)に基づいている。
【0013】
ビスコースは、セルロース系再生繊維を製造する最も一般的に使用される方法であり、CS2を使用するビスコース法は、再生繊維の総生産量の90%超を占める。イオン液体を用いて製造されたリヨセルなどの製品に使用される他の方法があり、これらはより環境に優しいが、それらのコスト及びケミカル・リカバリー・チャレンジ(chemical recovery challenge,化学物質の回収という困難な作業)のためにニッチ製品にとどまっている。
【0014】
ビスコース工場をわずかに変更すればカルバメートプロセスに移行できるため、CCAは現在のビスコース繊維製造業者の観点から興味深い代替手段である。最大の利点は、有害で有毒な化学物質CS2がもはや使用されないので、労働衛生上の問題性がはるかに低いことである。紡糸システムは完全にオープンであってもよく、有害で有毒なCS2ガスを排出しない。他の大きな利点は、ビスコース凝固速度と比較して沈殿速度が速いため、現在の紡糸装置を用いた紡糸生産能力が高いことである。
【0015】
既知のプロセスを考慮すると、再生セルロース製品の原材料として使用されるCCAを製造するための化学パルプ工場及びCCA製造プロセスを含む総体的なプロセス概念を開発する必要がある。有害な排出物及び化学パルプ工場環境のプロセスバランスにおける1つの新しい要素である窒素を制御するための、環境に優しいアレンジメントを提供することが特に必要とされている。
【発明の概要】
【0016】
驚くべきことに、溶解パルプ及び/又はクラフトパルプが製造される化学パルプ工場にセルロースカルバメートの製造を統合することにより、任意の既知の解決策と比較したときに、技術的及び経済的な観点から利点が大きいことが分かった。本発明の解決策は、添付の特許請求の範囲に定義されるとおりである。
【0017】
本出願では、溶解パルプ及び/又はクラフトパルプを製造する化学パルプ工場にCCA製造を統合し、統合されたパルプ工場の化学物質回収プロセスによってセルロース活性化に使用される化学物質の少なくとも一部が製造され、かつCCAの製造における窒素化合物の排出が制御されるようにする。
【0018】
高温で尿素を用いて溶解パルプ(DP)及び/又はクラフトパルプからCCAを製造するCCAプラントは、化学パルプ工場の処理部門であってもよい。DP及び/又はクラフトパルプは化学パルプ工場で製造され、CCAプラントで使用される。溶解パルプ及びクラフトパルプは、当技術分野で公知の方法で製造することができる。この方法は、典型的には、木材チップなどのセルロース系材料の前処理、蒸解及び漂白を含む。
【0019】
化学パルプ工場は、漂白された繊維状セルロース材料を製造する。繊維状セルロース材料は、軟材又は硬材などの樹木植物材料から得てもよい。綿、草、バガス、穀物のわら、亜麻、麻、サイザル麻、マニラ麻又は竹などの非樹木リグノセルロース系植物材料から得られる繊維状セルロース系材料を使用することも可能である。
【0020】
DP又はクラフトパルプを高温で尿素と反応させることによってCCAを製造するCCAプラントは、セルロースカルバメートを製造する任意の既知の方法を用いて稼働することができるが、化学パルプ工場環境とは無関係の有機溶媒又は他の化学物質を使用しない方法を用いることが有利である。尿素、あるいは尿素及び水酸化ナトリウム及び/又は過酸化物のみを使用するCCA製造方法は、全ての化学的残留物又は副生成物を化学パルプ工場で利用できるため、最も適している。
【0021】
セルロースカルバメートの製造に必要な前処理は、溶解パルプ又はクラフトパルプのセルロースの活性化である。活性化では、重合度(DP0)を低下させる。これは、化学パルプ工場のファイバーラインの適切な段階で、及び/又は化学パルプ工場のファイバーラインとCCAプラントとの間の別個の段階で、及び/又はCCAプラントにおいて、行うことができる。活性化、すなわちDP0の低下は、化学パルプ工場のプロセス環境に適した異なる方法に従って行うことができる。活性化は、化学パルプ工場において蒸解後に又は漂白に関連して行われてもよい。有利な活性化方法は、典型的には、酸加水分解、アルカリ加水分解(マーセレーション)、オゾン段階(ozone stage)、過酸化物処理及び酸素段階(oxygen stage)での過酸化物添加である。
【0022】
化学パルプ工場は、セルロースカルバメートを製造するために必要な蒸気、電気、及び水などのプロセスユーティリティを、CCAプラントに提供する。
【0023】
CCAプラントは、以下から廃棄物ストリームを生成し得る。
・CCAプロセスのカルバメート化反応(アンモニア)
・生成物の洗浄が必要であればCCAプロセスの洗浄(未反応尿素及びカルバメート化の副生成物)。
【0024】
本発明は、DP及び/又はクラフトパルプからセルロースカルバメート(CCA)を製造し、セルロースカルバメートの製造における窒素化合物の排出を制御する方法であって、溶解パルプ(DP)及び/又はクラフトパルプを化学パルプ工場で製造し、工場にて、CCAプラントにて、又はそれらの間にて、溶解パルプ及び/又はクラフトパルプを活性化する方法を提供する。活性化DP又はクラフトパルプを尿素と反応させてセルロースカルバメートを製造することによってアンモニアが放出される。セルロースカルバメートの製造は、煙道ガスシステムを備えたパルプ工場に統合され、煙道ガスからの二酸化炭素が放出されたアンモニアと反応して尿素を生成するようになっており、この生成された尿素はカルバメートの製造で使用される。
【0025】
溶解パルプ又はクラフトパルプの活性化、すなわちDP0の低下は、CCAが製造されるときと同時に、化学パルプ工場のファイバーライン又はCCAプラントで行われる。国際公開第2003064476号は、CCA製造プロセスにおけるセルロース活性化のためのプロセスを開示している。
【0026】
溶解パルプ又はクラフトパルプの活性化は、以下のような異なる方法に従って行うことができる。
・化学パルプ工場からの酸ストリーム(亜硫酸水素ナトリウム等)、又は回収サイクルで生成された新しい酸(硫黄含有煙道ガスからのH2SO4等)を使用することによる酸加水分解
・化学パルプ工場からのアルカリストリームを使用することによるアルカリ加水分解、すなわちマーセレーション
・オゾン処理、及び、好ましくは化学パルプ工場からの酸若しくはアルカリストリームによるパルプpHの調整、あるいは
・O2段階若しくはCCAプラントでの過酸化物処理。
【0027】
CO
2を使用することによって、セルロースカルバメート化反応で形成されたアンモニアガスは元の尿素に変換され、CCAプロセスの化学物質投入を最小限に抑えるためにカルバメート化で再び使用される(式(3)及び(4))。化学パルプ工場の煙道ガスシステムから(特に石灰窯から)CO
2ストリームを引き出し、CCAプラントのカルバメート化反応器へ送るか、又は別のプロセスへと送り、そこで尿素を製造してCCAプロセスで再利用することができる。
【化2】
【0028】
尿素は、アンモニアと二酸化炭素(CO2)との反応によって生成される。これは2段階プロセスであり、アンモニアと二酸化炭素が反応してカルバミン酸アンモニウムを形成し、次いでこれが脱水されて尿素になる。尿素生成プロセスにおいて、アンモニア及びCO2は気体の形態で導入される。両成分を高圧凝縮器で液化し、高圧反応器に送り、そこで高温、例えば180~190℃で、カルバミン酸アンモニウムが形成される(反応式(5))。この反応は速く、発熱性である。
【0029】
二酸化炭素の有利な供給源は、石灰窯(この中で石灰泥(CaCO3)が燃焼され石灰(CaO)になる)からの煙道ガスである。石灰窯の煙道ガスのCO2分圧は、パルプ工場の回収ボイラや動力ボイラなどのボイラの煙道ガス分圧よりも高く、これは、石灰窯の煙道ガスが、燃料の燃焼によるCO2及び焼成反応によるCO2も含むためである。
【0030】
窒素バランスは、必要に応じて、追加の方法を用いることによってさらに制御することができる。未反応尿素、カルバメート化反応で形成されたアンモニア、チオ尿素、又はカルバメート化反応からの他の副生成物などの窒素化合物を含有する廃棄物ストリームの全て又は一部を、化学パルプ工場の廃水処理プラントに送ってそこで微生物の栄養源として機能させたり、又は嫌気性消化システムに送ってそこでバイオガスを生成させたりすることができる。別の選択肢は、窒素含有廃棄物ストリームの全て又は一部を、蒸発プラントに送って乾燥肥料を製造することである。このプロセス設定により、未反応残渣を利用することによってCCAプロセスに投入される尿素の量を最小限に抑えることができる。
【0031】
廃水又はアンモニアガスなどのCCAプラントからのアルカリ性廃棄物ストリームを化学パルプ工場へと処理し、そこで、
・溶解パルプ製造からの酸性加水分解物(前加水分解物)、
・漂白ウォッシャーからの酸性洗浄濾液、
・蒸発プラントからの酸性凝縮物、又は
・他の酸性プロセスストリーム
を中和するために使用することができる。
【0032】
窒素を含有するこれらの中和された廃棄物ストリームをさらに、化学パルプ工場の廃水処理プラントに送ってそこで微生物の栄養源として機能させたり、又は嫌気性消化に送ってバイオガスを生成させたりすることができる。
【0033】
セルロースカルバメート化反応で形成されたアンモニアガス(反応式(1))を、パルプ工場の煙道ガスシステムで利用して、NOx排出を最小限に抑えることができる(反応式(5)及び(6))。アンモニアは利用される際、気体形態であっても溶解溶液形態であってもよい。
【化3】
【0034】
二酸化炭素の排出は、地球温暖化の主な原因であると考えられている。したがって、パルプ工場の煙道ガスからCO2を捕らえ、それを尿素の原料として利用することが有利である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、溶解パルプ又はクラフトパルプを製造する化学パルプ工場にCCAを統合することによる、CCAの製造の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1における数字及び文字は、以下のストリーム及び処理段階を指す。
A.化学パルプ工場
B.セルロースカルバメート(CCA)プラント
1.パルプを製造するために必要な原材料、化学物質及びプロセスユーティリティ
2.セルロースカルバメート
3.尿素
4.溶解パルプ又はクラフトパルプ
5.CCAプラントからパルプ工場での中和、又は廃水処理プラント、又はバイオガス生成のための嫌気性消化プラントへのややアルカリ性の窒素含有濾液
6.パルプ工場からCCAの製造への蒸気、水、電気、及びCO
2(尿素回収)
7.CCAプラントで活性化が行われる場合、酸性又はアルカリ性活性化剤
8.NOx排出を低減するための煙道ガスシステムへのアンモニア
【0037】
木材チップなどの原材料、及び典型的には蒸解化学物質などの化学物質、並びにプロセスユーティリティが化学パルプ工場Aに導入され(ライン1)、そこで溶解パルプ又はクラフトパルプが自体公知の方法で製造される。
【0038】
溶解パルプ(DP)又はクラフトパルプは、自体公知の方法で化学パルプ工場で製造される(ライン4)。これは、化学パルプ工場のファイバーライン又はCCAプラントBで活性化される。
【0039】
セルロースカルバメート(CCA)製造プラントは、化学パルプ工場に統合される(ライン6)。CCAは、以下の反応によって製造される。
a)高温での、活性化DP又は活性化クラフトパルプと尿素との反応。DP又はクラフトパルプの乾物含量は約40~90%であり、(ライン3からの)尿素と効率的に混合される、あるいは、
b)CCAが生成されるときと同時にDP又はクラフトパルプの活性化が行われるように、高温にて、DP又はクラフトパルプと尿素(ライン3)及び活性化剤(ライン7)との反応。DP又はクラフトパルプの乾物含量は約40~90%であり、(ライン3からの)尿素及び活性化剤(ライン7)と効率的に混合される。
【0040】
次いで、130~160℃の温度にて、蒸気加熱混合反応器内で最終カルバメート化反応を行う。反応中にアンモニアが生成される。尿素のわずかな部分は反応せず、洗浄によってCCA生成物から除去することができる。CCA生成物を冷却、洗浄、及び乾燥し、次いで、それをさらなる処理へと送る(ライン2)。
【0041】
カルバメート化プロセスから放出されたアンモニアは、蒸気により反応器外へとスクラビングされ、尿素を生成するために使用され、尿素はカルバメート化プロセスへとリサイクルされる。内部で尿素を生成することにより、ライン3を介して外部から供給される尿素の量を減らすことができる。これは、パルプ工場からの煙道ガスの二酸化炭素とアンモニアを反応させることによって行われる。二酸化炭素の有利な供給源は、石灰窯(この中で石灰泥(CaCO3)が燃焼され石灰(CaO)になる)からの煙道ガスである。尿素再生プラントは、CCAプラントの一部であることが好ましい。
【0042】
二酸化炭素は、好ましくは煙道ガスから捕捉される。これは、モノエタノールアミン(MEA)吸収プロセス及び圧力スイング吸着(PSA)プロセスなどの従来周知の方法を使用することによって行うことができる。
【0043】
尿素生産は、アンモニアと二酸化炭素が反応してカルバミン酸アンモニウムを形成し、次いでこれが脱水されて尿素になる、という2段階プロセスである。アンモニア及びCO2は気体の形態で導入される。両成分を高圧凝縮器で液化し、高圧反応器へと送り、そこで高温、例えば180~190℃で、カルバミン酸アンモニウムが形成される(反応式(5))。この反応は速く、発熱性である。第2の反応(6)は吸熱性であり、完了しない。尿素及びカルバミン酸アンモニウムを含む溶液が得られる。溶液中に存在するカルバミン酸アンモニウムは、回収ユニット内でCO2及びNH3に分解され、尿素合成反応器へとリサイクルされる。尿素プロセス溶液は、カルバメート化反応器へと送られる。
【0044】
放出されたアンモニアの一部は、反応式(5)及び(6)に従ってNOx排出を最小限に抑えるために、パルプ工場の煙道ガスシステムでも利用することができる。アンモニアは、パルプ工場に送られるとき(ライン8)、気体形態であっても溶解形態であってもよい。
【0045】
未反応尿素などの窒素化合物を含むややアルカリ性の廃棄物ストリーム(ライン5)の全て又は一部を、化学パルプ工場の廃水処理プラントに送ることができる。これらの廃棄物ストリームは、任意選択的又は代替的に、蒸発プラントに送って乾燥肥料を製造したり、あるいはバイオガス製造に送ったり、あるいは以下のもの
・溶解パルプ製造からの酸性加水分解物(前加水分解物)、
・漂白ウォッシャーからの酸性洗浄濾液、
・パルプ工場の蒸発プラントのNCGガス凝縮システムからの酸性凝縮物、又は
・他の酸性プロセスストリーム
を中和するための中和剤として使用することができる。
【0046】
窒素を含有するこれらの中和された廃棄物ストリームをさらに、化学パルプ工場の廃水処理プラントに送ってそこで微生物の栄養源として機能させたり、又は嫌気性消化に送ってバイオガスを生成させたりすることができる。
【0047】
この新しい方法は、利用可能なアンモニア及び二酸化炭素を利用することによって統合されたCCAプラント及びパルプ工場からのそれらの排出を制御する、効率的な方法を提供する。原材料である溶解パルプ又はクラフトパルプは、好ましくはパルプ工場によって生成された化学物質を使用することによって、ファイバーライン又はCCAプラントで活性化される。