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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】血糖値を制御するための自動システム
(51)【国際特許分類】
   G16H 20/10 20180101AFI20241202BHJP
【FI】
G16H20/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022531630
(86)(22)【出願日】2020-11-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-01
(86)【国際出願番号】 EP2020082600
(87)【国際公開番号】W WO2021104971
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】1913336
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507362786
【氏名又は名称】コミサリア ア エナジー アトミック エ オックス エナジーズ オルタネティヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルヌーブ,エマ
(72)【発明者】
【氏名】ドロン,エレオノール-マエヴァ
【審査官】鹿谷 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-501765(JP,A)
【文献】特開2019-113966(JP,A)
【文献】特開2019-136256(JP,A)
【文献】国際公開第2017/035019(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3387989(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動血糖調節システムであって、
- 血糖センサ(101) 、
- インスリン注射デバイス(103) 、及び
- 処理・制御ユニット(105)
を備えており、
前記処理・制御ユニットは、申告されていない食事を管理する方法を実行するように構成されており、前記方法は、
a) 時点t0で、ユーザが申告していない食事に相当する可能性があるイベントを検出するステップ(201) と、
b) ステップa)でイベントが検出された場合、ユーザのデータの履歴からトレーニングによって生成された第1の表(M1)に基づき、時点t0より前の所定の継続時間の時間T_ANT 内にユーザが食事を取った確率を決定するステップ(211) と、
c) ステップb)で決定された確率が閾値THより大きい場合、前記第1の表(M1)に基づき、時間T_ANT 内にユーザが摂取した食事の推定される時間帯を決定して、ユーザのデータの履歴からトレーニングによって生成された第2の表(M2)に基づき、前記食事の推定される量を決定し(213) 、その後、前記自動血糖調節システムの食事管理モジュールを作動させ(209) 、前記食事の推定される時間帯及び量を前記食事管理モジュールに伝送するステップと
を有する、自動血糖調節システム。
【請求項2】
- 前記第1の表(M1)は一連の確率値を有しており、前記確率値は、所定の時間サイクルの複数回の発生を含むトレーニング段階中、前記時間サイクルの所定の時間間隔内にユーザが食事を申告した回数の割合に夫々対応し、
- 前記第2の表(M2)は一連の食事量値を有しており、前記食事量値は、前記トレーニング段階中、前記時間サイクルの各時間間隔内にユーザが申告した食事の平均量に夫々対応する、請求項1に記載の自動血糖調節システム。
【請求項3】
前記時間サイクルは複数の時間間隔に分割されており、前記第1の表(M1)の値の数、及び前記第2の表(M2)の値の数は、前記時間サイクルの時間間隔の数と等しい、請求項2に記載の自動血糖調節システム。
【請求項4】
前記処理・制御ユニット(105) は、ステップb)で決定された確率が閾値THより低い場合、食事に非特有の血糖調節法を実行する(205) ように構成されている、請求項1~3のいずれか1つに記載の自動血糖調節システム。
【請求項5】
前記処理・制御ユニット(105) に連結されているユーザインターフェースデバイス(107) を更に備えている、請求項1~4のいずれか1つに記載の自動血糖調節システム。
【請求項6】
前記処理・制御ユニット(105) は、ステップa)でイベントが検出された場合、ステップb)の前に、ユーザが時間T_ANT 内に申告していない食事をしたか否かをユーザに質問すべく、前記ユーザインターフェースデバイス(107) により前記ユーザに第1の問い合わせをする第1のステップ(203) を実行するように構成されている、請求項5に記載の自動血糖調節システム。
【請求項7】
前記処理・制御ユニット(105) は、
- ユーザが前記第1の問い合わせに否定的に回答をした場合、食事に非特有の血糖調節法を実行し(205) 、
- ユーザが前記第1の問い合わせに肯定的に回答した場合、時間T_ANT 中に取った申告していない食事の時間及び量をユーザに質問すべく、前記ユーザインターフェースデバイス(107) により前記ユーザに第2の問い合わせをする第2のステップ(207) を実行し、
- ユーザが前記第1の問い合わせに回答しない場合、ステップb)を実行し、その後、ステップc)を実行する
ように構成されている、請求項6に記載の自動血糖調節システム。
【請求項8】
前記処理・制御ユニット(105) は、
- ユーザが前記第2の問い合わせに回答した場合、前記自動血糖調節システムの食事管理モジュールを作動させて(209) 、前記第2の問い合わせに対する回答として前記ユーザが申告した時間及び量を前記食事管理モジュールに伝送し、
- ユーザが前記第2の問い合わせに回答しない場合、前記第1の表(M1)に基づき、時間T_ANT 内にユーザが摂取した食事の推定される時間帯を決定して、前記第2の表(M2)に基づき、前記食事の推定される量を決定し(213) 、その後、前記自動血糖調節システムの食事管理モジュールを作動させ(209) 、前記食事の推定される時間帯及び量を前記食事管理モジュールに伝送する
ように構成されている、請求項7に記載の自動血糖調節システム。
【請求項9】
前記処理・制御ユニット(105) は、ステップc)で、推定される食事量に応じてユーザに注射するインスリンのボーラス投与量を前記食事管理モジュールによって決定するように構成されている、請求項1~8のいずれか1つに記載の自動血糖調節システム。
【請求項10】
前記処理・制御ユニット(105) は、ステップc)で、ステップb)で決定された確率の関数である係数によって前記ボーラス投与量に重み付けするように構成されている、請求項9に記載の自動血糖調節システム。
【請求項11】
前記第1の表(M1)及び前記第2の表(M2)は、前記処理・制御ユニット(105) のメモリ回路に記憶されている、請求項1~10のいずれか1つに記載の自動血糖調節システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、人工膵臓とも称される自動血糖調節システムの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病ユーザの血糖症(又は血糖)履歴、食事履歴及びインスリン注射履歴に基づき糖尿病ユーザのインスリン摂取を自動的に調節することを可能にする、人工膵臓とも称される自動血糖調節システムが既に提供されている。
【0003】
このタイプの調節システムの例が、本出願人によって既に出願されている国際特許出願の国際公開第2018/055283号パンフレット(DD16959/B15018)、国際公開第2018/055284号パンフレット(DD17175/B15267)、国際公開第2019/016452号パンフレット(DD17609/B15860)、及び国際公開第2019/180341号パンフレット(DD18479/B16770)、並びに2018年6月29日付の仏国特許出願第18/56016号(DD18587/B16893)、2018年5月22日付の仏国特許出願第18/00492 号(DD18480/B16894)、2018年5月22日付の仏国特許出願第18/00493 号(DD18588/B16895)、2018年12月21日付の仏国特許出願第18/73812 号(DD18986/B17521)、及び2019年7月25日付の仏国特許出願第19/08457 (DD19664/B18647)に特に記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既知の人工膵臓の性能を改善し、特にユーザを高血糖又は低血糖の状態にするリスクを更に制限し得ることが望ましい。
【0005】
ユーザによって予め申告されていない食事の管理が、本明細書ではより具体的に検討されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態は、自動血糖調節システムであって、
- 血糖センサ、
- インスリン注射デバイス、及び
- 処理・制御ユニット
を備えており、
前記処理・制御ユニットは、申告されていない食事を管理する方法を実行するように構成されており、前記方法は、
a) 時点t0で、ユーザが申告していない食事に相当する可能性があるイベントを検出するステップと、
b) ステップa)でイベントが検出された場合、ユーザのデータの履歴からトレーニングによって生成された第1の表に基づき、時点t0より前の所定の継続時間の時間T_ANT 内にユーザが食事を取った確率を決定するステップと、
c) ステップb)で決定された確率が閾値THより大きい場合、前記第1の表に基づき、時間T_ANT 内にユーザが摂取した食事の推定される時間帯を決定して、ユーザのデータの履歴からトレーニングによって生成された第2の表に基づき、前記食事の推定される量を決定し、その後、前記自動血糖調節システムの食事管理モジュールを作動させ、前記食事の推定される時間帯及び量を前記食事管理モジュールに伝送するステップと
を有する、自動血糖調節システムを提供する。
【0007】
実施形態によれば、
- 前記第1の表は一連の確率値を有しており、前記確率値は、所定の時間サイクルの複数回の発生を含むトレーニング段階中、前記時間サイクルの所定の時間間隔内にユーザが食事を申告した回数の割合に夫々対応し、
- 前記第2の表は一連の食事量値を有しており、前記食事量値は、前記トレーニング段階中、前記時間サイクルの各時間間隔内にユーザが申告した食事の平均量に夫々対応する。
【0008】
実施形態によれば、前記時間サイクルは複数の時間間隔に分割されており、前記第1の表の値の数、及び前記第2の表の値の数は、前記時間サイクルの時間間隔の数と等しい。
【0009】
実施形態によれば、前記処理・制御ユニットは、ステップb)で決定された確率が閾値THより低い場合、食事に非特有の血糖調節法を実行するように構成されている。
【0010】
実施形態によれば、前記自動血糖調節システムは、前記処理・制御ユニットに連結されているユーザインターフェースデバイスを更に備えている。
【0011】
実施形態によれば、前記処理・制御ユニットは、ステップa)でイベントが検出された場合、ステップb)の前に、ユーザが時間T_ANT 内に申告していない食事をしたか否かをユーザに質問すべく、前記ユーザインターフェースデバイスにより前記ユーザに第1の問い合わせをする第1のステップを実行するように構成されている。
【0012】
実施形態によれば、前記処理・制御ユニットは、
- ユーザが前記第1の問い合わせに否定的に回答をした場合、食事に非特有の血糖調節法を実行し、
- ユーザが前記第1の問い合わせに肯定的に回答した場合、時間T_ANT 中に取った申告していない食事の時間及び量をユーザに質問すべく、前記ユーザインターフェースデバイスにより前記ユーザに第2の問い合わせをする第2のステップを実行し、
- ユーザが前記第1の問い合わせに回答しない場合、ステップb)を実行し、その後、ステップc)を実行する
ように構成されている。
【0013】
実施形態によれば、前記処理・制御ユニットは、
- ユーザが前記第2の問い合わせに回答した場合、前記自動血糖調節システムの食事管理モジュールを作動させて、前記第2の問い合わせに対する回答として前記ユーザが申告した時間及び量を前記食事管理モジュールに伝送し、
- ユーザが前記第2の問い合わせに回答しない場合、前記第1の表に基づき、時間T_ANT 内にユーザが摂取した食事の推定される時間帯を決定して、前記第2の表に基づき、前記食事の推定される量を決定し、その後、前記自動血糖調節システムの食事管理モジュールを作動させ、前記食事の推定される時間帯及び量を前記食事管理モジュールに伝送する
ように構成されている。
【0014】
実施形態によれば、前記処理・制御ユニットは、ステップc)で、推定される食事量に応じてユーザに注射するインスリンのボーラス投与量を前記食事管理モジュールによって決定するように構成されている。
【0015】
実施形態によれば、前記処理・制御ユニットは、ステップc)で、ステップb)で決定された確率の関数である集中因子によって前記ボーラス投与量に重み付けするように構成されている。
【0016】
実施形態によれば、前記第1の表及び前記第2の表は、前記処理・制御ユニットのメモリ回路に記憶されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
前述及び他の特徴及び利点は、添付図面を参照して本発明を限定するものではない実例として与えられる以下の特定の実施形態に詳細に記載されている。
【0018】
図1】実施形態に従って対象の血糖値を調節するための自動システムの例を概略的に示すブロック図である。
図2図1の自動システムによって実行され得る自動血糖調節法の例を示す図である。
図3図2の方法の実施に使用され得る第1のルックアップテーブルの例を示す図である。
図4図2の方法の実施に使用され得る第2のルックアップテーブルの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
同様の特徴が、様々な図で同様の参照符号によって示されている。特に、様々な実施形態に共通する構造的特徴及び/又は機能的特徴は同一の参照符号を有してもよく、同一の構造特性、寸法特性及び材料特性を有してもよい。
【0020】
明瞭化のために、本明細書に記載されている実施形態の理解に有用な工程及び要素のみが示されて詳細に記載されている。特に、記載された調節システムの血糖値測定デバイス及びインスリン注射デバイスは詳述されておらず、記載された実施形態は、公知の血糖値測定デバイス及びインスリン注射デバイスの全て又は大部分と適合する。更に、記載された調節システムの処理・制御ユニットの実装は詳述されておらず、このような処理・制御ユニットの形成は、本開示の機能的な表示に基づく当業者の技能の範囲内である。
【0021】
特に指定されていない場合、「約」、「略」、「実質的に」及び「程度」という表現は、該当する値の10%の範囲内、好ましくは5%の範囲内を表す。
【0022】
図1は、ユーザの血糖値を調節するための自動システムの実施形態の例を概略的に示すブロック図である。
【0023】
図1の自動システムは、ユーザの血糖値を表す量、例えば、簡略化のために以下に血糖値と称される、間質液中のグルコース濃度を測定すべく適合されたセンサ101 (CG)を備えている。通常動作では、センサ101 は、ユーザの身体の上に又は身体の内部に、例えば腹部のレベル又は腕のレベルに常時置かれてもよい。センサ101 は、例えばCGM (持続血糖モニタリング)型センサ、すなわち、ユーザの血糖値を連続的に又は比較的高い頻度で(例えば少なくとも20分に一回、好ましくは少なくとも5分に一回)測定することができるセンサである。センサ101 は、例えば皮下血糖センサである。
【0024】
図1の自動システムは、インスリン注射デバイス103 (PMP) 、例えば皮下注射デバイスを更に備えている。インスリン注射デバイス103 は、例えばユーザの皮膚の下に埋め込まれた注射針に連結されたインスリン槽を有するインスリンポンプ型の自動注射デバイスであり、ポンプは、決められた量のインスリンを決められた時間に自動的に注射すべく電気的に制御されてもよい。通常動作では、インスリン注射デバイス103 は、ユーザの身体の内部に又は身体の上に、例えば腹部のレベルに常時置かれてもよい。
【0025】
図1の自動システムは、一方では血糖センサ101 に、例えばワイヤリンク又は無線リンク(無線)によって接続されて、他方ではインスリン注射デバイス103 に、例えばワイヤ又は無線リンクによって接続された処理・制御ユニット105 (CTRL)を更に備えている。処理・制御ユニット105 は、動作中、センサ101 によって測定されるユーザの血糖値に関するデータを受けて、決められた量のインスリンを決められた時間にユーザに注射すべくインスリン注射デバイス103 を電気的に制御することができる。この例では、処理・制御ユニット105 は、ユーザによって摂取されたグルコースの量の時間変化を表すデータcho(t)を、ユーザインターフェース107 (USR) を介して受けることが更にできる。
【0026】
処理・制御ユニット105 は、特にセンサ101 によって測定された血糖値の履歴、インスリン注射デバイス103 によって注射したインスリンの履歴及びユーザによる炭水化物摂取の履歴を考慮して、ユーザに注射するインスリンの量を決定することができる。このために、処理・制御ユニット105 は、例えばマイクロプロセッサを有する(詳述されない)デジタル計算回路を有している。処理・制御ユニット105 は、例えばユーザによって一日中及び/又は一晩中携帯される携帯機器であり、例えば以下に記載されるタイプの調節法を実行するように構成されたスマートフォン型機器である。
【0027】
処理・制御ユニット105 は、食事時間外に、予測制御法とも称される自動MPC 型(「モデルベースの予測制御」)調節法を実施するように構成されており、この方法では、ユーザの身体によるインスリンの同化作用及びユーザの血糖への影響を記述する数学的モデル、例えば生理学的モデルから得られた、ユーザの血糖値の経時的な今後の傾向の予測結果を考慮して、インスリン投与量を調節する。より具体的には、処理・制御ユニット105 は、注射したインスリンの履歴及び摂取された炭水化物の履歴と、所定の数学的モデルとに基づき、予測時間又は予測範囲と称される次の時間、例えば1~10時間に亘るユーザの血糖値の予測される経時的な傾向を表す曲線を決定するように構成されてもよい。処理・制御ユニット105 は、この曲線を考慮して、次の予測時間中にユーザに注射すべきインスリンの量を決定するため、(モデルに基づき推定される血糖値とは対照的に)ユーザの実際の血糖値は許容限度の範囲内のままであり、特に高血糖症又は低血糖症のリスクを制限する。
【0028】
変形例として、処理・制御ユニット105 は、食事時間外に、決定行列型の自動血糖調節法を実施して、センサ101 によって測定される現在の血糖値又は過去の一定時間に亘る血糖値の変化の速度(若しくは傾き)などの観察される様々なパラメータに応じて患者に供給するインスリンの量を決定するように構成されてもよい。
【0029】
別の変形例では、処理・制御ユニット105 は、食事時間外に、MPC 型の調節法と決定行列型の調節法とを交互に実施するように構成されてもよい。
【0030】
原則として、ユーザは、自身の各食事、特に食事摂取時間、及び(食事量とも称される)食事中に摂取したグルコースの概算量をユーザインターフェース107 を介して申告するす。
【0031】
処理・制御ユニット105 は、ユーザによって食事が申告された場合、特定の食事管理モジュールを作動させるように構成されており、この食事管理モジュールは、食事の同化作用に関連する生理学的特性を考慮すべく適合された調節法を実施する。食事管理モジュールは、例えば、処理・制御ユニット105 によりソフトウェアの形態で実施される。食事管理モジュールによって実施される調節法は、ユーザが入力したデータ、特に食事の申告された時間及び申告された量に基づいて、インスリンのボーラス投与量、すなわち、通常注射される基礎インスリン速度を補うためにユーザに注射される補足的なインスリン投与量を計算するステップを有してもよい。そのため、食事管理モジュールは、注射デバイス103 による注射のボーラス投与量を制御する。ボーラス投与を、1回の注射又は複数回の連続的な注射、例えば2回の注射で行ってもよい。食事の開始前に申告された場合にはボーラス投与を、食事の申告の際に、又は食事の開始の際に、又は食事の開始の少し前に行ってもよい。食事が遅れて告知された場合、食事の開始後にボーラス投与を行ってもよい。例として、食事中に注射されるインスリンのボーラス投与量は、食事時間外の1時間以内に通常注射されるインスリンの投与量の少なくとも2倍より多くてもよい。例として、食事時間外にユーザに通常注射される基礎インスリン速度は、0.3 ~1.5 UI/hの範囲内であり、ここで、UIは国際的なインスリン単位、つまり、ヒトインスリンの略0.0347 mg の生物学的等価量を表す。食事管理モジュールによって決定されて、その後、注射デバイス103 によって注射されるボーラス投与量は、例えば、食事の申告された量及び対象のインスリンに対する感受性に応じて3~30UIの範囲内である。ボーラス投与量の注射後、食事管理モジュールは、現在の血糖値を目標値に戻すために、例えばPID フィルタ又はPID (「比例積分微分」)コレクタにより、所定の時間、例えばボーラス投与量の注射後の3時間、ユーザに注射する基礎インスリン速度を調整することができる。この調整時間の終わりに食事管理法が終了する。その後、処理・制御ユニット105 は、別の血糖調節法、例えば上述したようなMPC 型又は決定行列型の方法を実施することができる。
【0032】
上述した動作は、その効率がユーザの申告に大きく依存するという制限を受ける。ユーザが食事の申告を省略した場合、食事管理モジュールは作動しない。そのため、ユーザの血糖値は、食事に非特有の調節法、例えば上述したようなMPC 型又は決定行列型の方法によって保証され、その結果、特にこれらの方法が食事摂取に関連する高血糖の状況に対して集中的ではないために比較的長い高血糖期間が生じる場合がある。
【0033】
図2は、ユーザが申告しない食事の管理に適合された血糖調節システムの例を示す図である。この方法は、ユーザに関するデータの履歴に基づいてトレーニングによって生成された統計データの使用に基づいている。
【0034】
図2の方法は、より具体的には図3に示されているタイプの食事確率表又は行列M1、及び図4に示されているタイプの平均食事量表又は行列M2の使用に基づいている。
【0035】
図3の例では、表M1は整数Hの行及び整数Dの列を有している。図示されている例では、数Dは7であり、表M1の各列は1週間の1日に対応する。更に、この例では、数Hは24であり、表M1の各行は1日の1時間に対応する。
【0036】
図4の例では、表M2は、表M1と同一の数Hの行及び同一の数Dの列を有している。表M2の各列は1週間の1日に対応し、表M2の各行は1日の1時間に対応する。
【0037】
表M1及び表M2の列のランクをdで表し、dは0~6の範囲内の整数であり、表M1及び表M2の行のランクをhで表し、hは0~23の範囲内の整数であり、表M1の座標(d, h)の各値M1(d, h)は、d日目の時間帯h内にユーザが食事をした確率に対応し、表M2の座標(d, h)の各値M(d, h) は、d日目の時間帯h内にユーザが一般的に取った食事の平均量に対応し、例えばgCHOで、すなわち炭水化物のグラムで表している。この例では、ランクd=0~d=6の日は、1週間の7日間に夫々対応し、ランクhの各時間帯は、時間hから時間h+1の1時間の時間帯に対応する。
【0038】
表M1及び表M2は、以前のトレーニング段階、例えば複数の日から複数の週に亘る段階中にユーザから取得したデータの履歴に基づき、トレーニングによって生成されてもよい。例として、表M1の各値M1(d, h)は、トレーニング段階中にd日目の時間帯h内にユーザが申告した食事の回数の割合に対応する。表M2の各値M2(d, h)は、例えば、トレーニング段階中にd日目の時間帯h内にユーザが申告した食事の平均量に対応する。
【0039】
表M1及び表M2は、処理・制御ユニット105 のメモリ回路に記憶されてもよい。
【0040】
表M1及び表M2は、例えば、ユーザがユーザインターフェース107 を介して食事を申告する毎にシステムの使用に合わせて更新されてもよい。
【0041】
パーソナライズされた表M1及び表M2が所与の対象に使用可能ではない場合、第1の手法として、母集団データの履歴から取得した一般的な表M1及び表M2を使用してもよい。一般的な表M1及び表M2は、例えば、複数のタイプの母集団、例えば学童、10代、成人に関して、場合によっては様々な食事割合で、例えば居住国に応じて決定されてもよい。
【0042】
図2の方法は、ユーザが申告していない食事に相当する可能性があるイベントを検出するステップ201 (DET) を有する。例として、ステップ201 で実行される検出は、システムの血糖センサ101 から得られる測定値に基づいてもよい。ステップ201 で検出されるイベントは、例えば、食物の摂取後に通常観察されるが、ユーザによる食事の事前申告では説明されないタイプのユーザの血糖値の上昇に対応する。例として、処理・制御ユニット105 は、このようなイベントを検出するためにユーザの血糖値曲線を連続的にモニタするように構成されてもよい。
【0043】
時点t0で、イベントがステップ201 で検出されると、ユーザインターフェースデバイス107 によりユーザに問い合わせる第1のステップ203 (USR1)を実行する。このステップ中、ユーザが時点t0より前の所定の継続時間の時間T_ANT 内に、例えば時点t0より前の3時間以内に食事をしたか否かを、ユーザインターフェースデバイス107 を介してユーザに質問する。
【0044】
ステップ203 で、ユーザが対象とする時間T_ANT 内に申告していない食事を取っていない(N)とデバイス107 を介してユーザが回答した場合、ステップ205 (REGUL) で食事に非特有の調節法、例えば上述したようなMPC 型又は決定行列型の方法で調節を続行する。
【0045】
ステップ203 で、ユーザが対象とする時間T_ANT 内に申告していない食事を取った(Y)とユーザが回答した場合、ユーザインターフェースデバイス107 によりユーザに問い合わせる第2のステップ207 (USR2)を実行する。このステップ中、申告していない食事の量及び申告していない食事摂取時間をデバイス107 を介してユーザに質問する。言い換えれば、ステップ203 及びステップ207 中、ユーザが申告を省略した食事を事後に申告することをユーザに求める。
【0046】
ステップ207 で、ユーザが、デバイス107 を介して、申告していない食事の量及び食事を示すことにより回答した(A)場合、処理・制御ユニット105 は特定の食事管理モジュールを作動させ、この食事管理モジュールは、ステップ209 (PMM) 中、ユーザが申告した食事の量及び食事の時間を考慮して、食事の同化作用に関連する生理学的特性を考慮すべく適合された調節法を実行する。
【0047】
ステップ203 で、ユーザが、時間T_ANT 内における申告していない食事の摂取の可能性について問い合わせられた質問に回答しない(NA)場合、ステップ211 (PMS1)を実行し、ステップ211 中、処理・制御ユニット105 は、申告していない食事を時間T_ANT 内にユーザが摂取した確率が所定の閾値THより大きいか否かを表M1に基づいて決定する。このため、処理・制御ユニット105 は、行列M1が現在の日付に対応するランクdの列、及び時間T_ANT を含む最小時間範囲に対応する行に閾値THより大きい確率値M1(d, h)を含むか否かを決定する。
【0048】
ステップ211 で、表M1が、時間T_ANT 内に閾値THより大きい食事摂取確率値M1(d, h)を含まないと決定された場合、ステップ205 を実行する。すなわち、食事に非特有の調節法、例えば上述したようなMPC 型又は決定行列型の方法で調節を続行する。
【0049】
ステップ211 で、表M1が、時間T_ANT 内に閾値THより大きい食事摂取確率値M1(d, h)を含むと決定された場合、ステップ213 (PMS2)を実行し、ステップ213 中、処理・制御ユニット105 は、時間T_ANT 内にユーザが摂取した食事の推定時間帯及び摂取した食事の推定量を決定する。
【0050】
ユーザが摂取した食事の推定時間帯を決定するために、処理・制御ユニット105 は表M1を使用してもよい。推定時間帯は、例えば、表M1の食事摂取確率値M1(d, h)が最も高い時間T_ANT の座標d, hの位置に対応する。変形例として、ステップ201 でイベントが特定された時点で食事を位置付けてもよい。
【0051】
摂取した食事の推定量を決定するために、処理・制御ユニット105 は表M2を使用してもよい。食事の推定量は、例えば、表M1に基づき推定される座標d, hの時間帯における表M2の値M2(d, h)に対応する。変形例として、食事の推定量を、観察された血糖値の上昇に基づき決定してもよい。
【0052】
ステップ213 の終わりに、ステップ209 を実行する。すなわち、処理・制御ユニット105 は特定の食事管理モジュールを作動させ、この食事管理モジュールは、食事の同化作用に関連する生理学的特性を考慮すべく適合された調節法を実施する。この場合、ステップ209 で実行される調節法は、表M1及び表M2に基づきステップ213 で決定された食事の推定量及び推定時間帯を入力パラメータとして使用する。
【0053】
ステップ207 で、ユーザが、時間T_ANT 中に取った申告していない食事の時間及び量について問い合わせられた質問に回答しない(NA)場合、ステップ213 を実行して、表M1及び表M2に基づいて、申告していない食事の時間帯及び量を推定する。その後、ステップ209 を、前述したステップと同様に実行する。
【0054】
ステップ209 で実行される調節法によって決定される、ユーザに注射されるインスリンのボーラス投与量を集中因子によって重み付けすることが好ましく、この集中因子は、ステップ207 でユーザによって行われた食事申告の後にステップ209 が実行されたときに第1の値を有してもよく、ステップ213 での表M1及び表M2に基づく食事の量及び時間の推定後にステップ209 が実行されたときに、第1の値より小さい第2の値を有してもよい。ステップ211 が実行される場合、時間T_ANT 内にユーザが食事を取った確率が低いため、第2の値はより一層低くてもよい。
【0055】
図2に関連して記載された方法により、ユーザが通常取った食事の時間及び量を表す統計データを使用して、特定の調節モジュールによって、食事に相当する可能性があるが、ユーザなどが申告していないイベントを食事として処理できることが有利である。
【0056】
変形例として、ユーザに問い合わせるステップ203 及びステップ207 を省略してもよい。この場合、食事に相当する可能性があるイベントがステップ201 で検出されると、ステップ211 を直接実行し、ステップ211 で、イベントを検出する時点t0より前の先の時間T_ANT 中にユーザが食事を取った確率が閾値THより小さいと決定された場合、ステップ205 に進み、逆の場合、ステップ213 に進み、その後、ステップ209 に進む。
【0057】
様々な実施形態及び変形例が記載されている。当業者は、これらの様々な実施形態及び変形例のある特徴を組み合わせることができると理解し、他の変形例が当業者に想起される。特に、記載された実施形態は、表M1及び表M2の横軸及び縦軸の時間分割精度の図3及び図4に関連して記載されている例に限定されない。変形例として、表M1及び表M2が7日連続に亘って1時間当たり且つ1日当たり1つの食事確率値及び1つの平均食事量値を有する代わりに、表M1及び表M2は、(対象とする日とは無関係に)1時間当たり且つ仕事日当たり1つの食事確率値及び1つの平均食事量値を有して、(対象とする日とは無関係に)1時間当たり且つ非仕事日当たり1つの食事確率値及び1つの平均食事量値を有してもよい。より一般的には、ユーザの寿命に適合されたあらゆる他の分割が検討されてもよい。
【0058】
更に、記載されている実施形態は、ステップ201 で実行される検出がセンサ101 によって与えられる血糖測定値に基づいている図2に関連して記載されている例に限定されない。より一般的に、ステップ201 で実行される、食事に相当する可能性があるイベントの検出は、血糖測定値の補足又は代替としてあらゆる他の適切な指標に基づいてもよい。
【0059】
本特許出願は、参照によって本明細書に組み込まれている仏国特許出願第19/13336 号明細書の優先権を主張している。
図1
図2
図3
図4