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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】常温アスファルト混合物
(51)【国際特許分類】
   C08L 95/00 20060101AFI20241202BHJP
   E01C 7/26 20060101ALI20241202BHJP
   C08K 13/02 20060101ALI20241202BHJP
   C08K 5/00 20060101ALN20241202BHJP
   C08K 3/00 20180101ALN20241202BHJP
【FI】
C08L95/00
E01C7/26
C08K13/02
C08K5/00
C08K3/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022553388
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2020037512
(87)【国際公開番号】W WO2022070398
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000208204
【氏名又は名称】大林道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092679
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 盛之助
(72)【発明者】
【氏名】上地 俊孝
(72)【発明者】
【氏名】山原 詩織
(72)【発明者】
【氏名】東本 崇
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-082180(JP,A)
【文献】特表2015-515536(JP,A)
【文献】特表2019-524973(JP,A)
【文献】特開2018-199779(JP,A)
【文献】特表2019-524952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
E01C 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも骨材と、アスファルトと、脂肪酸製造における工業副産物である脂肪酸ピッチである植物由来の性状改善剤と、潤滑性固化剤(脂肪酸及び/または脂肪酸の二量体及び/または脂肪酸の三量体で何れもピッチを含まないもの)及びセメントを混合して構成される常温アスファルト混合物であって、
前記性状改善剤:前記潤滑性固化剤の比率が40:60~5:95の範囲に設定されていることを特徴とする常温アスファルト混合物。
【請求項2】
再生骨材を前記骨材の一部として混合して成ることを特徴とする請求項1に記載の常温アスファルト混合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路の舗装などに供される常温アスファルト混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路下の埋設管掘削工事に伴う舗装道路の仮復旧や、既設の舗装道路に局所的に発生する破損箇所の補修には、施工現場において常温状態で施工が可能な常温アスファルト混合物が従来から使用されている。この種の常温アスファルト混合物は、袋詰めされ、施工現場において常温のまま敷き均され、転圧が可能であるというメリットを有している反面、通常の加熱アスファルト混合物に比べて耐久性に乏しく、長期的に使用することができないという問題を有している。特に、交通量が多い施工箇所や繰り返し振動を受ける舗装面、たわみ量が大きな床版上の舗装面などにおいては、この常温アスファルト混合物を短期間でしか使用することができない。
【0003】
上記問題を解決するため、近年では、反応性物質を用いることによって短時間で強度を発現することができる常温アスファルト混合物が開発されている。ここで、このような常温アスファルト混合物は、少なくとも骨材(例えば、砕石や砕砂、細砂、石粉など)と、アスファルトと、潤滑性固化剤(脂肪酸及び/または脂肪酸の二量体及び/または脂肪酸の三量体)と、アルカリ性添加材(セメント)を混合して構成されるものであって、これを用いて施工される舗装体の強度と耐久性及びたわみ追従性を高めるために今までに種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、パルミチン酸を1~15重量%、ステアリン酸を0.3~10重量%、オレイン酸を39~59重量%、リノール酸を20~48重量%、リノレン酸を1~15重量%含有する潤滑性固化材を用いる提案がなされている。
【0005】
また、特許文献2には、炭素数が6~30の飽和脂肪酸を50~100重量%の割合で含有する潤滑性固化材を使用する提案がなされている。
【0006】
さらに、特許文献3には、側鎖にカルボキシル及び/またはスルホ基を2つ以上有する有機酸ポリマーを用い、アルカリ性添加材(セメント)として少なくとも2価以上の金属イオンを含む反応性樹脂材を使用する提案がなされている。この常温アスファルト混合物によれば、加水によって反応性樹脂材とアルカリ性添加材とが架橋及び/または重合反応してアイオノマーとなることによって、舗装体に強度とたわみ追従性が付与される。
【0007】
また、特許文献4には、脂肪酸として、オレイン酸とリノール酸を含有するものを用い、リノール酸の含有量を該オレイン酸とリノール酸の合計重量に対して50重量%よりも大きな値に設定する提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5916937号公報
【文献】特許第6089139号公報
【文献】特許第6344873号公報
【文献】特許第6458194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1~4において提案された常温アスファルト混合物は、耐流動性、骨材飛散抵抗性、たわみ追従性及び低温時の作業性のバランスが必ずしも良好であるとは言い難く、性状改善剤も高価であるという問題を有している。例えば、特許文献4において提案された石油潤滑油系の液体である性状改善剤は、脂肪酸製造における工業副産物である脂肪酸ピッチよりも高価である。このため、このような高価な性状改善剤を含む常温アスファルト混合物は、経済性の点で問題がある。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、耐流動性、骨材飛散抵抗性、たわみ追従性及び低温作業性のバランスと経済性に優れた常温アスファルト混合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、少なくとも骨材と、アスファルトと、植物由来の油状成分である性状改善剤と、潤滑性固化剤(脂肪酸及び/または脂肪酸の二量体及び/または脂肪酸の三量体)及びセメントを混合して構成される常温アスファルト混合物であって、前記性状改善剤:前記潤滑性固化剤の比率が40:60~5:95の範囲に設定されていることを特徴とする。
【0012】
ここで、上記常温アスファルト混合物に再生骨材をさらに混合しても良い。
【0013】
また、前記性状改善剤は、脂肪酸ピッチであることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、性状改善剤:潤滑性固化剤の比率を40:60~5:95の範囲に設定することによって、当該常温アスファルト混合物の耐流動性、骨材飛散抵抗性、たわみ追従性及び低温作業性との間に良好なバランスが成り立つことが実験的に確かめられた。また、性状改善剤として、脂肪酸製造における工業副産物である安価な脂肪酸ピッチを用いることによって、当該常温アスファルト混合物のコストが低く抑えられて経済的でもある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
本発明に係る常温アスファルト混合物は、常温でこれに水を掛けることによって硬化してアスファルト舗装体を形成する補修材であって、基本的に骨材と、植物由来の油状成分である性状改善剤と、潤滑性固化剤及びセメントを混合して構成されている。ここで、この常温アスファルト混合物を構成する各種物質の配合割合の一例を表1に示す。
【0017】
【表1】
表1に示すように、本実施の形態に係るアスファルト混合物に含まれる骨材には、7号砕石(最大粒径5mm)が43.0%、砕砂が24.0%、細砂が28.0%、石粉が5.0%の割合で使用される。なお、骨材には、既設舗装の種類に応じて6号砕石(最大粒径13mm)や5号砕石(最大粒径20mm)などを用いて粒度調整することができる。
【0018】
ここで、表1に示すように、潤滑性固化剤としての脂肪酸と性状改善剤としての脂肪酸ピッチが可塑剤混合物を構成しており、この脂肪酸混合物とアスファルトとがバインダを構成している。そして、バインダにおけるアスファルトの配合比は56.1%、可塑剤混合物の配合比は43.90%に設定されている。上記可塑剤混合物には、脂肪酸と性状改善剤である脂肪酸ピッチが含まれている。ここで、前記脂肪酸は、目的生成物として生産されたものであるからピッチを含まない。
【0019】
アスファルトとしては、ストレートアスファルト(St.As.60/80)が使用されており、アスファルトの選定に当たっては、骨材の剥離性などを考慮して適宜適切なものを選択することができる。なお、施工箇所の状況に応じて脱色アスファルトなどを使用することもできる。
【0020】
また、外添加されるアルカリ性添加剤としてのセメントには、普通セメントが使用されている。
【0021】
ここで、外添加剤としてのセメントを除く各種混合物の合計を100%としたときの各混合物の配合比を表1に示すが、骨材における7号砕石、砕砂、細砂、石粉の配合比は、それぞれ40.2%、22.4%、26.2%、4.7%となる。また、バインダの配合比は6.5%となり、その内訳はアスファルトが3.65%、潤滑性固化剤の配合比が2.14%、性状改善剤の配合比が0.71%となっている。この場合、0.8%のセメントが外添される。
【0022】
ところで、前述のように、可塑剤混合物には潤滑性固化剤と性状改善剤が含まれるが、潤滑性固化剤と性状改善剤の種類と配合比率を表2に示す。
【0023】
【表2】
本実施の形態では、脂肪酸として築野食品工業(株)社製のTFA-145WF(型番)を使用した。また、本実施の形態では、性状改善剤として植物由来の油状成分である脂肪酸ピッチを使用した。この脂肪酸ピッチは、脂肪酸製造における工業副産物(残渣)である。なお、本実施の形態では、脂肪酸ピッチとして特別に検討したもの(表2においては、形式的に「TFA-B60」と表示した)を使用した。
【0024】
而して、本実施の形態では、常温アスファルト混合物における脂肪酸ピッチ:脂肪酸の比率を25:75に設定している(表2に「実施例1」として表示)。なお、表2には、性状改善剤を用いないで、脂肪酸(TFA-145WF)を100%用いた場合を「比較例1」とし、性状改善剤として鉱物油(アロマ系)、具体的には三徳商事(株)社製の再生用添加材であるリセイクールスーパー(商品名)を用い、脂肪酸:鉱物油の比率を75:25に設定した場合を「比較例2」とした。また、性状改善剤として植物油(再生品としての廃食用油)を用い、脂肪酸:植物油の比率を75:25に設定した場合を「比較例3」とした。
【0025】
ところで、本実施の形態(表2の「実施例1」)に係る常温アスファルト混合物において性状改善剤として使用されている脂肪酸ピッチは、工業副産物(残渣)であるために従来から使用されている鉱物油(ミネラルオイル)に比して安価であるために経済的である他、石油由来材料に対するバイオマス材料としての利点(例えば、再生可能な資源といった点及び石油資源の節約といった点)を有している。性状としては、常温アスファルト混合物には高い耐流動性と骨材飛散抵抗性及びたわみ追従性を確保することができるとともに、低温作業性の向上を図ることができ、これらの間に良好なバランスが保たれることが後述の各種試験において実証された。
【0026】
以下、本実施の形態に係る常温アスファルト混合物(表2の「実施例1」)に対する評価を表2の比較例1~3との比較において説明する。
【0027】
ここで、評価概要を表3に示す。
【0028】
【表3】

表3に示すように、評価は下記の4項目についてそれぞれ行われた。
【0029】
1)使用時の作業性:
使用時の作業性についての試験項目としては、可塑剤の成分の流動点が挙げられ、試験は、50gの試料を温度12.5~-17.5℃まで2.5℃刻みで空冷し、各温度における流動性の有無を確認することによって実施された。この場合、流動性を無くした温度の一つ手前の温度を流動点とした。そして、その温度が-10℃以下である場合は、流動点は○(良)、-10~0℃である場合は、流動点は△(可)、0℃以上である場合は、流動点は×(不可)と判定した。
【0030】
2)たわみ追従性:
たわみ追従性についての試験項目としては、曲げ試験が挙げられ、この曲げ試験は、温度20℃の水を散布して供試体を作製し、この供試体を温度20℃で7日間硬化養生し、試験温度-10℃で行われた。この曲げ試験の結果、(曲げひずみ×10-3)が4以上であれば○(良)、3~4であれば△(可)、3未満であれば×(不可)と判定した。
【0031】
3)骨材飛散抵抗性:
骨材飛散抵抗性についての試験項目としては、20℃カンタブロ試験が挙げられ、この20℃カンタブロ試験は、温度20℃で水を散布して両面50回転圧し、脱型後に温度20℃で24時間の硬化養生を行い、温度20℃で試験を行った。この20℃カンタブロ試験の結果、損失率が10%未満であれば○(良)、10~20%であれば△(可)、20%以上であれば×(不可)と判定した。
【0032】
4)耐流動性:
耐流動性についての試験項目としては、ホイールトラッキング試験が挙げられ、このホイールトラッキング試験は、温度20℃の水を散布して供試体を作製し、この供試体に対して温度20℃で7日間の硬化養生を行い、温度60℃で試験を行った。このホイールトラッキング試験の結果、動的安定度が3000回/mm以上であれば○(良)、1000~3000回/mmであれば△(可)、1000回/mm未満であれば×(不可)と判定した。
【0033】
以上の骨材飛散抵抗性を評価するための20℃カンタブロ試験によって得られた20℃カンタブロ損失率(%)と、耐流動性を評価するためのホイールトラッキング(WT)試験によって得られた動的安定度DS(回/mm)と、たわみ追従性を評価するための曲げ試験によって得られた-10℃曲げひずみ(×10-3)と、使用時の作業性を評価するための可塑剤成分の流動点(℃)を表2に示す実施例1と比較例1~3について表4にまとめて示す。
【0034】
【表4】

そして、実施例1と比較例1~3について得られた各項目についての表4に示す結果に対する評価を表5に○(良)、△(可)、×(不可)にてそれぞれ示す。
【0035】
【表5】
表5に示す評価結果から明らかなように、可塑剤として脂肪酸と脂肪酸ピッチを併用した実施例1においては、脂肪酸のみを単体で使用した比較例1に比してたわみ追従性(曲げひずみ)や骨材飛散抵抗性(20℃カンタブロ損失率)が改善され、当該常温アスファルト混合物の作業性の良否の指標となるアスファルトの可塑剤成分の流動点(低温時の作業性)も改善されている。その一方で、実施例1においては、耐流動性(動的安定度)は、比較例1よりも低い値を示すものの、舗装計画交通量3000台/日以上の道路の塑性変形輪数の基準値を満足している。
【0036】
ところで、脂肪酸の鹸化反応(中和化反応)を利用した常温アスファルト混合物にオイル系の性状改善剤を添加して可撓性を付与すると、たわみ追従性や骨材飛散抵抗性(カンタブロ損失率)、可塑剤成分の流動点(低温時の作業性)が向上する反面、耐流動性(動的安定度)は低下するという性状のトレードオフが起こる。
【0037】
ところが、実施例1は、脂肪酸ピッチの代わりに鉱物油を使用した比較例2や植物油を使用した比較例3に比べて前記トレードオフのバランスが良好である。
【0038】
以上の結果、実施例1において使用した脂肪酸ピッチは、オイル成分の中でも性状改善剤の効果において優位性を確認することができる。
【0039】
したがって、本実施の形態に係る常温アスファルト混合物は、性状改善剤として、脂肪酸製造における工業副産物(残渣)としての安価な脂肪酸ピッチを使用し、脂肪酸:脂肪酸ピッチの比率を75:25に設定することによって、高い耐流動性と骨材飛散抵抗性及びたわみ追従性を維持しつつ、低温作業性と経済性の向上を図ることができるという効果が得られる。
【0040】
特に、可塑剤として脂肪酸+脂肪酸ピッチ(植物油)の組み合わせを採用することによって、低温作業性を改善することができることが確認された。すなわち、組成により温度は異なるが、脂肪酸単体では一定温度以下になると結晶性が現れて凝固してしまうことが分かった。そこで、植物油や鉱物油のような結晶化しづらくて融点が低い材料を混ぜると、脂肪酸の結晶化を阻害して凝固点を下げることが確認された。
【0041】
ところで、本実施の形態では、脂肪酸ピッチ:脂肪酸の比率を25:75に設定したが、この比率を40:60~5:95の範囲に設定すれば、前記と同様の効果が得られることが確認された。
【0042】
また、本発明においては、アスファルト舗装の発生材を破砕・粒度調整分級して得られる再生骨材を表1に示す砕石や砂と一部置き換えて使用しても良く、このように再生骨材を使用することによって常温アスファルト混合物の更なるコストダウンを実現することができる。
【0043】
その他、本発明は、以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。