(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】硫化物系無機固体電解質材料、固体電解質、固体電解質膜およびリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20241202BHJP
H01B 1/10 20060101ALI20241202BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241202BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241202BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01B1/10
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2022565226
(86)(22)【出願日】2021-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2021041740
(87)【国際公開番号】W WO2022113783
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2020197943
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000165974
【氏名又は名称】古河機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 樹史
【審査官】遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2020-0107396(KR,A)
【文献】特開2014-035865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01B 1/10
H01M 10/052
H01M 10/0562
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成元素としてLi、PおよびS
のみを含む硫化物系無機固体電解質材料であって、
31P-NMR測定で得られるスペクトルにおいて、PS
4構造由来のピークの面積の総和を1としたとき、P
2S
6ガラス構造由来のピークの面積の総和が0.1以上である、硫化物系無機固体電解質材料。
【請求項2】
請求項1に記載の硫化物系無機固体電解質材料であって、
前記スペクトルにおいて、PS
4ガラス構造由来のピーク面積の総和を1としたとき、P
2S
6ガラス構造由来のピーク面積の総和が0.15以上である、硫化物系無機固体電解質材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の硫化物系無機固体電解質材料であって、
前記スペクトルにおいて、PS
4ガラス構造由来のピーク面積の総和を1としたとき、PS
4結晶構造由来のピーク面積の総和が0.3~1である硫化物系無機固体電解質材料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の硫化物系無機固体電解質材料であって、
リチウムイオン伝導度が1.5×10
-3S/cm以上である硫化物系無機固体電解質材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の硫化物系無機固体電解質材料であって、
メジアン径が0.1~10μmの粒子で構成される硫化物系無機固体電解質材料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の硫化物系無機固体電解質材料であって、
当該硫化物系無機固体電解質材料中のPの含有量に対するLiの含有量のモル比Li/Pが1.0以上5.0以下であり、Pの含有量に対するSの含有量のモル比S/Pが2.0以上6.0以下である硫化物系無機固体電解質材料。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の硫化物系無機固体電解質材料であって、
リチウムイオン電池に用いられる硫化物系無機固体電解質材料。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の硫化物系無機固体電解質材料を含む固体電解質。
【請求項9】
請求項8に記載の固体電解質を主成分として含む固体電解質膜。
【請求項10】
請求項9に記載の固体電解質膜であって、
粒子状の前記固体電解質の加圧成形体である固体電解質膜。
【請求項11】
請求項9または10に記載の固体電解質膜であって、
当該固体電解質膜中のバインダー樹脂の含有量が、前記固体電解質膜の全体を100質量%としたとき、0.5質量%未満である固体電解質膜。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか1項に記載の固体電解質膜であって、
当該固体電解質膜中の前記硫化物系無機固体電解質材料の含有量が、前記固体電解質膜の全体を100質量%としたとき、50質量%以上である固体電解質膜。
【請求項13】
正極活物質層を含む正極と、電解質層と、負極活物質層を含む負極とを備えたリチウムイオン電池であって、
前記正極活物質層、前記電解質層および前記負極活物質層のうち少なくとも一つが、請求項1~7のいずれか1項に記載の硫化物系無機固体電解質材料を含むリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物系無機固体電解質材料、固体電解質、固体電解質膜およびリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、一般的に、携帯電話やノートパソコン等の小型携帯機器の電源として使用されている。また、最近では小型携帯機器以外に、電気自動車や電力貯蔵等の電源としてもリチウムイオン電池は使用され始めている。
【0003】
現在市販されているリチウムイオン電池には、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されている。
一方、電解液を固体電解質に変えて、電池を全固体化したリチウムイオン電池(以下、全固体型リチウムイオン電池とも記載する)の検討が進められている。全固体型リチウムイオン電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を含まないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられる。
固体電解質に用いられる固体電解質材料としては、例えば、硫化物系無機固体電解質材料が知られている。
【0004】
固体電解質材料の具体的な先行技術として、特許文献1および2のような、31P-NMR測定で得られるスペクトルに着目した無機固体電解質材料が知られている。
【0005】
特許文献1には、以下をすべて満たす固体電解質が記載されている。
・構成成分として、リチウム、リン及び硫黄を含む。
・下記式(A)を満たす。
LiaPcSdXe・・・(A)
[(式(A)において、a~eは各元素の組成比を示し、a:c:d:eは1~9:1:3~7:0~9を満たす。XはIである。]
・31P-NMRにおいて83.0ppm以上88.0ppm以下の領域にピーク(第1ピーク)を有し、83.0ppm以上88.0ppm以下の領域以外にピークを有さないか、又は有していても第1ピークに対するピーク強度比が0.5以下である。
・イオン伝導度が5×10-4S/cm以上である。
・100mlの容器に0.1gの固体電解質を入れて、この容器に湿度80~90%の空気を500ml/分で60分間通じたときの、空気中の硫化水素濃度平均値が200ppm以下である。
【0006】
特許文献2には、りん及び硫黄を含む硫化物固体電解質材料が記載されている。この硫化物固体電解質材料を31P-NMR測定することで得られたスペクトルにおいて、87.5ppm以上88.5ppm以下の範囲内に現れるピークを第1ピークと定義し、同スペクトルにおいて、84.2ppm以上85.2ppmに現れるピークを第2ピークと定義し、第1ピークの積分強度と第2ピークの積分強度との比率をx:1-xと表したとき、0.00926≦x≦0.37である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6077740号公報
【文献】特開2019-3927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
固体電解質材料に求められる性能の1つに、高いイオン伝導度がある。
本発明者の知見によれば、従来の硫化物系無機固体電解質粒子には、イオン伝導度の点で改善の余地があった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的の1つは、高いイオン伝導度を有する硫化物系無機固体電解質粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0011】
本発明によれば、
構成元素としてLi、PおよびSを含む硫化物系無機固体電解質材料であって、
31P-NMR測定で得られるスペクトルにおいて、PS4構造由来のピークの面積の総和を1としたとき、P2S6ガラス構造由来のピークの面積の総和が0.1以上である、硫化物系無機固体電解質材料
が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、
上記の硫化物系無機固体電解質材料を含む固体電解質
が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、
上記の固体電解質を主成分として含む固体電解質膜
が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、
正極活物質層を含む正極と、電解質層と、負極活物質層を含む負極とを備えたリチウムイオン電池であって、
前記正極活物質層、前記電解質層および前記負極活物質層のうち少なくとも一つが、上記の無機固体電解質材料を含むリチウムイオン電池
が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高いイオン伝導度を有する硫化物系無機固体電解質粒子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】リチウムイオン電池の構造の一例を示す断面図である。
【
図2】実施例1の硫化物系無機固体電解質材料の
31P-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応しない。
【0018】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0019】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
【0020】
<硫化物系無機固体電解質材料>
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は、構成元素としてLi、PおよびSを含む。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料を31P-NMR測定することで得られるスペクトルにおいて、PS4構造由来のピークの面積の総和を1としたとき、P2S6ガラス構造由来のピークの面積の総和は0.1以上である。
【0021】
本発明者は、硫化物系無機固体電解質材料のイオン伝導度の向上を、様々な観点から検討した。その結果、31P-NMR測定で得られるスペクトルにおいて、P2S6ガラス構造由来のピークの面積がイオン伝導度と相関するらしいことを知見した。
この知見に基づき発明者はさらに検討を進めた。そして、PS4構造由来のピーク面積の総和を基準としたときに、P2S6ガラス構造由来のピークの面積がある程度大きい場合に、イオン伝導度が向上することを見出した。
そこで、本発明者らは、原料組成や製法を工夫することにより、「31P-NMR測定で得られるスペクトルにおいて、PS4構造由来のピークの面積の総和を1としたとき、P2S6ガラス構造由来のピークの面積の総和が0.1以上である」硫化物系無機固体電解質材料を新たに作製した。そして、イオン伝導度を高めることができた。
(「PS4構造」とは、PS4結晶構造とPS4ガラス構造の両方を含む。)
【0022】
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料が良好なイオン伝導性を示す理由は、以下のように説明可能である。念のため述べておくと、以下説明は推測を含み、また、以下説明により本発明は限定されない。
【0023】
理論的には、結晶構造のイオン伝導度の方がガラス構造のイオン伝導度よりも高いため、硫化物系無機固体電解質材料の全てを結晶構造のみにすればイオン伝導度は向上するように思われる。しかし、実在系では、結晶構造と結晶構造との界面において、格子不整合により、Liイオンの移動が抑制されてしまう。
この「格子不整合」によるイオン伝導度の低下を抑えるため、結晶構造間の「すき間」をガラス構造で埋めることが効果的と考えられる。本実施形態において「P2S6ガラス構造由来のピークの面積の総和が0.1以上である」ということは、結晶構造間に、Liイオンの移動性を高めるのに十分な量のP2S6ガラスが存在することを表していると考えられる。
【0024】
補足しておくと、「PS4構造由来のピーク面積」「P2S6ガラス構造由来のピークの面積」などは、31P-NMR測定で得られるNMRスペクトルを、ガウス関数を用いて「波形分離」することで得られる。波形分離は、例えば、各種スペクトルデータの曲線フィットが可能な市販のソフトウェアを用いて行うことができる。曲線フィットが可能なソフトウェアとしては、NMR装置に付属しているソフトウェアや、NMR装置とは別に市販されているソフトウェアが挙げられる。前者としてはJOEL社のALICE2がある。また、後者としてはOriginProやIgorProといったソフトウェアが有名である。
特許文献1においては、31P-NMRスペクトルを波形分離して解析したことは記載されていない。また、特許文献2においては、31P-NMRスペクトル中のP2S6ガラス構造由来のピークの面積については何ら言及されていない。31P-NMRスペクトルを波形分離して「精緻に」検討し、そのうえで、PS4構造由来のピークの面積に対するP2S6ガラス構造由来のピークの面積に着目することは、本発明者独自の着想に基づく。
【0025】
また、本実施形態において、各化学種の化学シフトとしては、下表の値(単位:ppm)を採用することができる。すなわち、得られたNMRスペクトルを各化学種に対応するピークに波形分離する際には、下表に示される数値範囲内において極大値を示すガウス関数を用いることが好ましい。
【0026】
【0027】
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は、適切な原料を用いて、適切な製造方法を経ることにより得ることができる。好ましい素材や製造方法については追って詳述するが、例えば、(i)P含有率が化学量論で規定される27.87質量%よりも大きいP2S5を原料として用いること、(ii)最終的な硫化物系無機固体電解質材料の組成がLi10P3S12またはこの近傍なるように、各原料のモル比を調整すること、(iii)適切なアニール処理を行うこと、などが挙げられる。このような点に留意することで、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料を製造しやすい。
【0028】
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料に関する説明を続ける。
【0029】
(NMRスペクトルについて)
前述のように、31P-NMRスペクトルにおけるPS4構造(PS4結晶構造とPS4ガラス構造の両方)由来のピークの面積の総和を1としたとき、P2S6ガラス構造由来のピークの面積の総和は0.1以上である。この値は、好ましくは0.15以上、より好ましくは0.25以上である。また、この値の上限については、例えば2.0以下、好ましくは1.0以下である。この値が適当であることは、結晶構造間の「すき間」に適度な量のP2S6ガラスが存在することを意味すると考えられる。すなわち、この値を適切に調整することで、イオン伝導度を一層高めうる。
【0030】
31P-NMRスペクトルにおいて、PS4ガラス構造由来のピーク面積の総和を1としたとき、P2S6ガラス構造由来のピーク面積の総和は、好ましくは0.15以上、より好ましくは0.25以上である。また、この値の上限は、例えば3.0以下、好ましくは1.0以下である。詳細は不明であるが、硫化物系無機固体電解質材料が、ガラス構造としてP2S6ガラス構造とPS4ガラス構造の両方を含み、かつ、これらガラス構造の比率が適当であることにより、結晶構造間の様々なタイプの格子不整合をガラス構造で埋めることができると推測される。そして、その結果、イオン伝導度の一層の向上が図れる場合があると考えられる。
【0031】
31P-NMRスペクトルにおいて、PS4ガラス構造由来のピーク面積の総和を1としたとき、PS4結晶構造由来のピーク面積の総和は、好ましくは0.3~1、より好ましくは0.3~0.5である。
前述のように、結晶構造間に適度な量のガラス構造が存在することで、Liイオンの移動性は高まると考えられる。この値が0.3~1であるということは、PS4という組成の切り口で、結晶構造間に適度な量のガラス構造が存在することを表していると推測される。
【0032】
31P-NMRスペクトルにおいて、PS4構造由来のピーク面積の総和を1としたとき、P2S7ガラス構造由来のピークの面積の総和は、通常0.05~0.25、好ましくは0.05~0.2である。
31P-NMRスペクトルにおいて、PS4構造由来のピーク面積の総和を1としたとき、P2S7結晶構造由来のピークの面積の総和は、通常0.05~0.25、好ましくは0.05~0.2である。
31P-NMRスペクトルにおいて、PS4構造由来のピーク面積の総和を1としたとき、P2S6結晶構造由来のピークの面積の総和は、通常0.005~0.02、好ましくは0.01~0.1である。
【0033】
31P-NMRスペクトルにおいて、PS4ガラス構造由来のピーク面積の総和を1としたとき、P2S7ガラス構造由来のピークの面積の総和は、通常0.05~0.3、好ましくは0.08~0.25である。
31P-NMRスペクトルにおいて、PS4ガラス構造由来のピーク面積の総和を1としたとき、P2S7結晶構造由来のピークの面積の総和は、通常0.05~0.3、好ましくは0.08~0.25である。
31P-NMRスペクトルにおいて、PS4ガラス構造由来のピーク面積の総和を1としたとき、P2S6結晶構造由来のピークの面積の総和は、通常0.01~0.2、好ましくは0.01~0.15、さらに好ましくは0.01~0.1である。
【0034】
各ピーク面積を適切に調整することで、イオン伝導度をより高められる場合がある。
【0035】
(構成元素およびその組成について)
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は、電気化学的安定性、水分や空気中での安定性、取り扱い性などの観点から、構成元素としてLi、PおよびSを含む。
また、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性、電気化学的安定性、水分や空気中での安定性および取り扱い性等をより一層向上させる観点から、硫化物系無機固体電解質材料中の上記Pの含有量に対する上記Liの含有量のモル比Li/Pが、好ましくは1.0以上5.0以下、より好ましくは2.0以上4.0以下、さらに好ましくは2.5以上3.8以下、さらにより好ましくは2.8以上3.6以下、さらにより好ましくは3.0以上3.5以下、さらにより好ましくは3.1以上3.4以下、特に好ましくは3.2以上3.4以下である。
また、上記Pの含有量に対する上記Sの含有量のモル比S/Pは、好ましくは2.0以上6.0以下、より好ましくは3.0以上5.0以下、さらに好ましくは3.5以上4.5以下、さらにより好ましくは3.8以上4.2以下、さらにより好ましくは3.9以上4.1以下、特に好ましくは4.0である。
硫化物系無機固体電解質材料中のLi、PおよびSの含有量は、例えば、ICP発光分光分析やX線分析により求めることができる。
【0036】
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料の組成式は、好ましくはLi10P3S12である。別の言い方として、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料を製造するにあたっては、最終的に得られる硫化物系無機固体電解質材料の組成式がLi10P3S12またはその近傍となるように、各原料の混合比を最適化することが好ましい。
【0037】
(粒子径分布について)
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は、リチウムイオン電池への適用性などの観点で、通常、粒子により構成されている。別の言い方として、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料の性状は、通常、粒子状である。
【0038】
硫化物系無機固体電解質材料を構成する粒子の粒子径分布を適切に設計することで、イオン伝導度を一層高めることができる場合がある。
粒子径分布について、定量的には、個数基準におけるメジアン径d50を指標とすることができる。d50は、好ましくは0.1~10μm、より好ましくは0.1~6.0μmである。d50が適度に大きいことにより、粒子間の接触面(界面)が少なくなり、一層良好なイオン伝導度が得られると考えられる。また、d50が大きすぎないことにより、粒子間にすき間ができにくくなり、一層良好なイオン伝導度が得られると考えられる。
【0039】
メジアン径d50の算出の基となる、個数基準における粒子径分布は、例えば、(1)粒子を電子顕微鏡で撮影し、(2)撮影された画像中の各粒子の定方向接線径(フェレ径)を測定し、(3)各粒子の定方向接線径(フェレ径)を横軸に、個数基準での頻度を縦軸にプロットする、といった手順で得ることができる。
【0040】
(その他事項)
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は、通常、電気化学的安定性に優れている。電気化学的安定性とは、例えば、広い電圧範囲で酸化還元されにくい性質をいう。より具体的には、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料において、温度25℃、掃引電圧範囲0~5V、電圧掃引速度5mV/秒の条件で測定される硫化物系無機固体電解質材料の酸化分解電流の最大値は、0.50μA以下であることが好ましく、0.20μA以下であることがより好ましく、0.10μA以下であることがさらに好ましく、0.05μA以下であることがさらにより好ましく、0.03μA以下であることが特に好ましい。
硫化物系無機固体電解質材料の酸化分解電流の最大値が上記上限値以下であると、リチウムイオン電池内での硫化物系無機固体電解質材料の酸化分解を抑制することができるため好ましい。
硫化物系無機固体電解質材料の酸化分解電流の最大値の下限値は特に限定されないが、例えば0.0001μA以上である。
【0041】
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性を必要とする任意の用途に用いることができる。中でも、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、リチウムイオン電池に用いられることが好ましい。より具体的には、リチウムイオン電池における正極活物質層、負極活物質層、電解質層等に使用される。さらに、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、全固体型リチウムイオン電池を構成する正極活物質層、負極活物質層、固体電解質層等に好適に用いられ、全固体型リチウムイオン電池を構成する固体電解質層に特に好適に用いられる。
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料を適用した全固体型リチウムイオン電池の例としては、正極と、固体電解質層と、負極とがこの順番に積層されたものが挙げられる。
ちなみに、リチウムイオン伝導性の定量的指標として、リチウムイオン伝導度を用いることができる。本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導度は、例えば1.0×10-3S/cm以上、好ましくは1.5×10-3S/cm以上である。リチウムイオン伝導度は大きければ大きいほど好ましいが、現実的には、リチウムイオン伝導度の上限は例えば5.0×10-3S/cm、具体的には3.0×10-3S/cm、より具体的には2.0×10-3S/cmである。リチウムイオン伝導度の測定は、例えば後掲の実施例に記載のようにして行うことができる。
【0042】
(無機固体電解質材料の製造方法)
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は、好ましくは、以下の工程(A)、(B)および(C)を含む製造方法により得ることができる。また、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料の製造方法は、必要に応じて、以下の工程(D)をさらに含むことが好ましい。その場合、工程(C)は工程(D)の前に行われてもよいし、工程(D)の後に行われてもよいし、その両方で行われてもよい。
工程(A):原料組成物を準備する工程
工程(B):硫化物系無機固体電解質材料の原料組成物を機械的処理することにより、原料組成物を化学反応させながらガラス化して、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料を得る工程
工程(C):得られた硫化物系無機固体電解質材料を分級処理する工程
工程(D):得られたガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料を加熱(アニール)し、少なくとも一部を結晶化する工程
【0043】
以下、これら工程について具体的に説明する。
【0044】
・原料組成物を準備する工程(A)
はじめに、原料を適切に混合して、硫化物系無機固体電解質材料の原料組成物を準備する。ここで、原料組成物中の各原料の混合比は、得られる硫化物系無機固体電解質材料が所望の組成比になるように調整する。
硫化物系無機固体電解質材料の原料組成物は、典型的には硫化リチウムおよび硫化リンを含み、好ましくは窒化リチウムをさらに含む。
【0045】
既に述べたように、最終的な硫化物系無機固体電解質材料の組成がLi10P3S12またはこの近傍となるように、各原料のモル比を調整することが好ましい。換言すると、Pのモル量に対するLiのモル量(Li/P)が3.2~3.4となるように、また、Pのモル量に対するSのモル量(S/P)が3.9~4.1となるように、原料の組成を調整することが好ましい。
ちなみに、Li10P3S12はリチウムリッチな組成である。よって、原料として窒化リチウムを用いることで、組成を最適化しやすい。
【0046】
各原料を混合する方法は、各原料を均一に混合できる混合方法であれば特に限定されない。例えば、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、打撃粉砕装置、ミキサー(パグミキサー、リボンミキサー、タンブラーミキサー、ドラムミキサー、V型混合器等)、ニーダー、2軸ニーダー、気流粉砕機等を用いて混合することができる。実験室レベルであればメノウやアルミナなどの乳鉢を用いた混合であってもよい。
各原料を混合するときの攪拌速度や処理時間、温度、反応圧力、混合物に加えられる重力加速度等の混合条件は、混合物の処理量によって適宜決定することができる。
【0047】
原料として用いる硫化リチウムは特に限定されない。市販されている硫化リチウムを使用してもよいし、例えば、水酸化リチウムと硫化水素との反応により得られる硫化リチウムを使用してもよい。高純度な硫化物系無機固体電解質材料を得る観点および副反応を抑制する観点から、不純物の少ない硫化リチウムを使用することが好ましい。
本実施形態において、硫化リチウムには多硫化リチウムも含まれる。硫化リチウムとしてはLi2Sが好ましい。
【0048】
既に述べたように、原料として用いる硫化リンとしては、P含有率が化学量論で規定される27.87質量%よりも大きいP2S5を原料として用いることが好ましい。詳細は不明であるが、このような「余分なPを含む」P2S5を原料として用いることで、工程(B)や(D)において、秩序的な結晶の生成だけでなく、結晶よりも不秩序なガラスの生成も進んで、適量のP2S6ガラス構造が生成されると推測される。
原料の入手性や、最終的な硫化物系無機固体電解質材料のイオン伝導性をより高める観点から、原料のP2S5中のP含有率は、好ましくは28.0~28.3質量%である。
【0049】
原料としては窒化リチウムを用いてもよい。ここで、窒化リチウム中の窒素はN2として系内に排出されるため、原料である無機化合物として窒化リチウムを利用することで、構成元素としてLi、P、およびSを含む硫化物系無機固体電解質材料に対し、Li組成のみを増加させることが可能となる。
使用可能な窒化リチウムは特に限定されない。市販されている窒化リチウム(例えば、Li3N等)を使用してもよいし、例えば、金属リチウム(例えば、Li箔)と窒素ガスとの反応により得られる窒化リチウムを使用してもよい。高純度な固体電解質材料を得る観点および副反応を抑制する観点から、不純物の少ない窒化リチウムを使用することが好ましい。
【0050】
・ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料を得る工程(B)
工程(A)で得られた原料組成物を機械的処理することにより、原料である硫化リチウムと、硫化リンと、好ましくは窒化リチウムとを化学反応させながらガラス化する。そして、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料を得る。
【0051】
機械的処理においては、2種以上の無機化合物を機械的に衝突させることにより、化学反応させながらガラス化させる。機械的処理としては、例えば、メカノケミカル処理等が挙げられる。メカノケミカル処理とは、対象の組成物にせん断力や衝突力のような機械的エネルギーを加えつつガラス化する方法である。
工程(B)において、メカノケミカル処理は、水分や酸素を高いレベルで除去した環境下を実現しやすい観点から、乾式メカノケミカル処理であることが好ましい。
メカノケミカル処理を適用することで、各原料を微粒子状に粉砕しながら混合することができる。よって、各原料の接触面積を大きくすることができる。それにより、各原料の反応を促進することができる。このため、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料をより一層効率良く得ることができる。
【0052】
メカノケミカル処理とは、混合対象に、せん断力、衝突力または遠心力のような機械的エネルギーを加えつつガラス化する方法である。メカノケミカル処理によるガラス化を行う装置(ガラス化装置)としては、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル、ロールミル等の粉砕・分散機;削岩機や振動ドリル、インパクトドライバ等で代表される回転(せん断応力)および打撃(圧縮応力)を組み合わせた機構からなる回転・打撃粉砕装置;高圧型グライディングロール;等が挙げられる。これらの中でも、非常に高い衝撃エネルギーを効率良く発生させることができる観点から、ボールミルおよびビーズミルが好ましく、ボールミルが特に好ましい。また、連続生産性に優れている観点から、ロールミル;削岩機や振動ドリル、インパクトドライバ等で代表される回転(せん断応力)および打撃(圧縮応力)を組み合わせた機構からなる回転・打撃粉砕装置;高圧型グライディングロール;ローラ式竪型ミルやボール式竪型ミル等の竪型ミル等が好ましい。
本実施形態においては、特に、ボールミルを用いて工程(B)を行うことが好ましい。より具体的には、直径5~50mmのジルコニア製ボールを用いて、合計10~1500時間程度メカノケミカル処理を行うことが好ましい。ボールミルを用いて工程(B)を行う場合、その途中で、ボールミル装置の内壁やボールに付着した粉末を掻き取り、掻き取った粉末を再びボールミルに戻してメカノケミカル処理を再開するようにしてもよい。
【0053】
工程(B)は、水分および酸素の存在量および流入を高いレベルで抑制した雰囲気下でおこなうことが好ましい。これにより、原料組成物と、水分および酸素との接触を高いレベルで抑制することができる。
水分および酸素の存在量および流入を高いレベルで抑制した雰囲気は、例えば、以下の方法により作り出すことができる。
まず、グローブボックス内に混合容器およびガラス化装置用の密閉容器を配置し、次いで、グローブボックス内に対して、ガス精製装置を通じて得られた高純度のドライアルゴンガスやドライ窒素ガス等の不活性ガスの注入および真空脱気を複数回(3回以上が好ましい)おこなう。ここで、上記操作後のグローブボックス内は、高純度のドライアルゴンガスやドライ窒素ガス等の不活性ガスをガス精製装置を通じて循環させて、酸素濃度および水分濃度を好ましくは1.0ppm以下、より好ましくは0.8ppm以下、さらに好ましくは0.6ppm以下にそれぞれ調整する。
次いで、グローブボックス内の混合容器内に硫化リチウムおよび硫化リンを投入し、次いで、混合することによって原料組成物を調製する(工程(A)を意味する)。ここで、グローブボックス内の混合容器内への硫化リチウムおよび硫化リンの投入は、以下の手順でおこなう。はじめにグローブボックスの本体内部のドアを閉じた状態で、グローブボックスのサイドボックス内に硫化リチウムおよび硫化リンを入れる。次いで、サイドボックス内に対して、グローブボックス内から導引した高純度のドライアルゴンガスやドライ窒素ガス等の不活性ガスの注入および真空脱気を複数回(3回以上が好ましい)おこない、その後、グローブボックスの本体内部のドアを開けて、グローブボックスの本体内部の混合容器に硫化リチウムおよび硫化リンを入れ、混合容器を密閉する。
次いで、硫化リチウムおよび硫化リンを混合後、得られた原料組成物を混合容器から取り出し、ガラス化装置用の容器に移し、密閉する。
こうした操作をおこなうことによって、原料組成物が入った密閉容器内の水分および酸素の存在量を従来よりも高いレベルで抑制することができ、その結果、工程(B)において、水分および酸素の存在量が高いレベルで抑制された雰囲気を作り出すことができる。
つづいて、原料無機組成物が入った密閉容器をグローブボックス内から取り出す。次いで、ドライアルゴンガスやドライ窒素ガス、ドライエアー等のドライガスが充満した雰囲気中(例えば、ドライアルゴンガスやドライ窒素ガス、ドライエアー等を充満させた箱の中)に配置されたガラス化装置に密閉容器をセットし、ガラス化をおこなう。ここで、ガラス化をおこなっている間は、ドライガスを充満させた雰囲気中にドライガスを一定量導入し続けることが好ましい。こうした工夫によって、工程(B)において、水分および酸素の流入を高いレベルで抑制した雰囲気を作り出すことができる。
密閉容器内への水分および酸素の流入を高いレベルで抑制する観点から、密閉容器の蓋部には、より高い気密性を実現できる観点から、Oリング、フェルールパッキン等の密封性に優れるパッキンを用いることが好ましい。
【0054】
ガラス化の程度について補足しておく。通常は、線源としてCu-Kα線を用いたX線回折分析をしたとき、原料由来の回折ピークが消失または低下していたら、原料無機組成物はガラス化され、所望の硫化物系無機固体電解質材料が得られていると判断することができる。
【0055】
工程(B)では、27.0℃、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz~7MHzの測定条件における交流インピーダンス法による硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導度が、好ましくは1.0×10-4S・cm-1以上、より好ましくは2.0×10-4S・cm-1以上、さらに好ましくは3.0×10-4S・cm-1以上、特に好ましくは4.0×10-4S・cm-1以上となるまでガラス化処理を行うことが好ましい。これにより、リチウムイオン伝導性により一層優れた硫化物系無機固体電解質材料を得ることができる。
【0056】
・分級処理(ふるい分け)工程(C)
得られた硫化物系無機固体電解質材料を分級処理(ふるい分け)することが好ましい。この処理を行うことにより、例えばd50を調整することができる。
硫化物系無機固体電解質材料をさらに粉砕処理して粒径などを調整してもよい。粉砕処理の具体的方法としては、気流粉砕、乳鉢、回転ミル、コーヒーミル等公知の粉砕方法を用いることができる。
工程(C)は、空気中の水分との接触を防ぐことができる点から、不活性ガス雰囲気下または真空雰囲気下で行うことが好ましい。
【0057】
・硫化物系無機固体電解質材料の少なくとも一部を結晶化する工程(D)
本実施形態では、硫化物系無機固体電解質材料の少なくとも一部を結晶化する工程を行うことが好ましい。工程(D)では、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料を加熱(アニール)することにより、硫化物系無機固体電解質材料の少なくとも一部を結晶化して、ガラスセラミックス状態(結晶化ガラスとも呼ばれる)の硫化物系無機固体電解質材料を生成する。加熱条件を適切に選択することにより、硫化物系無機固体電解質材料中の各ガラス構造や各結晶構造の比率を調整することができる。そして、より一層リチウムイオン伝導性に優れた硫化物系無機固体電解質材料を得ることができる。
換言すると、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性に優れる点から、ガラスセラミックス状態(結晶化ガラス状態)であることが好ましい。
【0058】
ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料を加熱(アニール)する際の温度としては、220~500℃であることが好ましく、250~350℃であることがより好ましい。
ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料を加熱(アニール)する時間は、所望のガラスセラミックス状態の硫化物系無機固体電解質材料が得られる時間であれば特に限定されない。時間は、例えば0.5~24時間、好ましくは1~18時間、さらに好ましくは1~15時間、より好ましくは1~10時間である。
加熱の方法は特に限定されず、例えば、焼成炉を用いる方法を挙げることができる。加熱の温度、時間等の条件は、硫化物系無機固体電解質材料の特性の最適化のため適宜調整することができる。
【0059】
ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料の加熱(アニール)は、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。これにより、硫化物系無機固体電解質材料の劣化(例えば、酸化)を防止することができる。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等が挙げられる。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましく、また、水分の接触を避けるために、露点が-70℃以下であることが好ましく、-80℃以下であることが特に好ましい。
不活性ガスの導入方法は、系内が不活性ガス雰囲気で満たされる方法であれば特に限定されない。例えば、不活性ガスをパージする方法、不活性ガスを一定量導入し続ける方法等が挙げられる。
【0060】
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料を得るためには、上記の各工程を適切に調整することが好ましい。ただし、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料の製造方法は、上記のような方法には限定されず、種々の条件を適切に調整することにより、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料を得ることができる。
【0061】
<固体電解質>
本実施形態の固体電解質は、上述の、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料を含む。
本実施形態の固体電解質は、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料以外の成分として、例えば、本発明の目的を損なわない範囲内で、上述した本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料とは異なる種類の固体電解質材料を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0062】
本実施形態の固体電解質は、上述した本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料とは異なる種類の固体電解質材料を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料とは異なる種類の固体電解質材料としては、イオン伝導性および絶縁性を有するものであれば特に限定されず、一般的にリチウムイオン電池に用いられるものを用いることができる。例えば、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料とは異なる種類の硫化物系無機固体電解質材料、酸化物系無機固体電解質材料、その他のリチウム系無機固体電解質材料等の無機固体電解質材料;ポリマー電解質等の有機固体電解質材料を挙げることができる。
【0063】
前述した本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料とは異なる硫化物系無機固体電解質材料としては、例えば、Li2S-P2S5材料、Li2S-SiS2材料、Li2S-GeS2材料、Li2S-Al2S3材料、Li2S-SiS2-Li3PO4材料、Li2S-P2S5-GeS2材料、Li2S-Li2O-P2S5-SiS2材料、Li2S-GeS2-P2S5-SiS2材料、Li2S-SnS2-P2S5-SiS2材料、Li2S-P2S5-Li3N材料、Li2S2+X-P4S3材料、Li2S-P2S5-P4S3材料等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、リチウムイオン伝導性に優れ、かつ広い電圧範囲で分解等を起こさない安定性を有する点から、Li2S-P2S5材料が好ましい。ここで、例えば、Li2S-P2S5材料とは、少なくともLi2S(硫化リチウム)とP2S5とを含む無機組成物を機械的処理により互いに化学反応させることにより得られる無機材料を意味する。
ここで、本実施形態において、硫化リチウムには多硫化リチウムも含まれる。
【0064】
上記酸化物系無機固体電解質材料としては、例えば、LiTi2(PO4)3、LiZr2(PO4)3、LiGe2(PO4)3等のNASICON型、(La0.5+xLi0.5-3x)TiO3等のペロブスカイト型、Li2O-P2O5材料、Li2O-P2O5-Li3N材料等が挙げられる。
その他のリチウム系無機固体電解質材料としては、例えば、LiPON、LiNbO3、LiTaO3、Li3PO4、LiPO4-xNx(xは0<x≦1)、LiN、LiI、LISICON等が挙げられる。
さらに、これらの無機固体電解質の結晶を析出させて得られるガラスセラミックスも無機固体電解質材料として用いることができる。
【0065】
上記有機固体電解質材料としては、例えば、ドライポリマー電解質、ゲル電解質等のポリマー電解質を用いることができる。
ポリマー電解質としては、一般的にリチウムイオン電池に用いられるものを用いることができる。
【0066】
<固体電解質膜>
本実施形態の固体電解質膜は、前述した本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料を含む固体電解質を主成分として含む。
【0067】
本実施形態の固体電解質膜は、例えば、全固体型リチウムイオン電池を構成する固体電解質層に用いられる。
本実施形態の固体電解質膜を適用した全固体型リチウムイオン電池の例としては、正極と、固体電解質層と、負極とがこの順番に積層されたものが挙げられる。この場合、固体電解質層が固体電解質膜により構成されたものである。
【0068】
本実施形態の固体電解質膜の平均厚みは、好ましくは5μm以上500μm以下、より好ましくは10μm以上200μm以下、さらに好ましくは20μm以上100μm以下である。上記固体電解質膜の平均厚みが上記下限値以上であると、固体電解質の欠落や、固体電解質膜表面のクラックの発生をより一層抑制できる。また、上記固体電解質膜の平均厚みが上記上限値以下であると、固体電解質膜のインピーダンスをより一層低下させることができる。その結果、得られる全固体型リチウムイオン電池の電池特性をより一層向上できる。
【0069】
本実施形態の固体電解質膜は、前述した本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料を含む粒子状の固体電解質の加圧成形体であることが好ましい。すなわち、粒子状の固体電解質を加圧し、固体電解質材料同士のアンカー効果で一定の強度を有する固体電解質膜とすることが好ましい。
加圧成形体とすることにより、固体電解質同士の結合が起こり、得られる固体電解質膜の強度はより一層高くなる。その結果、固体電解質の欠落や、固体電解質膜表面のクラックの発生をより一層抑制できる。
【0070】
本実施形態の固体電解質膜中の、上記した本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料の含有量は、固体電解質膜の全体を100質量%としたとき、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらにより好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。これにより、固体電解質間の接触性が改善され、固体電解質膜の界面接触抵抗を低下させることができる。その結果、固体電解質膜のリチウムイオン伝導性をより一層向上させることができる。そして、このようなリチウムイオン伝導性に優れた固体電解質膜を用いることにより、得られる全固体型リチウムイオン電池の電池特性をより一層向上できる。
本実施形態の固体電解質膜中の、上記した本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料の含有量の上限は特に限定されないが、例えば、100質量%以下である。
【0071】
固体電解質膜の平面形状は、特に限定されず、電極や集電体の形状に合わせて適宜選択することが可能である。平面形状は、例えば、矩形であることができる。
【0072】
本実施形態の固体電解質膜にはバインダー樹脂が含まれてもよい。バインダー樹脂が含まれる場合、その含有量は、固体電解質膜の全体を100質量%としたとき、好ましくは0.5質量%未満、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以下、さらにより好ましくは0.01質量%以下である。また、本実施形態に係る固体電解質膜は、バインダー樹脂を実質的に含まないことがさらにより好ましく、バインダー樹脂を含まないことが最も好ましい。
これにより、固体電解質間の接触性が改善され、固体電解質膜の界面接触抵抗を低下させることができる。その結果、固体電解質膜のリチウムイオン伝導性をより一層向上させることができる。そして、このようなリチウムイオン伝導性に優れた固体電解質膜を用いることにより、得られる全固体型リチウムイオン電池の電池特性を向上できる。
念のため述べておくと、「バインダー樹脂を実質的に含まない」とは、本実施形態の効果が損なわれない程度にはバインダー樹脂が含まれてもよいことを意味する。また、固体電解質層と正極または負極との間に粘着性樹脂層を設ける場合、固体電解質層と粘着性樹脂層との界面近傍に存在する粘着性樹脂層由来の粘着性樹脂は、「固体電解質膜中のバインダー樹脂」から除かれる。
【0073】
上記バインダー樹脂は、無機固体電解質材料間を結着させるために、リチウムイオン電池に一般的に使用される結着剤のことをいう。例えば、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレン・ブタジエン系ゴム、ポリイミド等が挙げられる。
【0074】
本実施形態の固体電解質膜は、例えば、(i)まず、粒子状の固体電解質を金型のキャビティ表面上または基材表面上に膜状に堆積させ、(ii)次いで、膜状に堆積した固体電解質を加圧することにより得ることができる。
上記(ii)において固体電解質を加圧する方法は特に限定されない。例えば、金型のキャビティ表面上に粒子状の固体電解質を堆積させた場合は金型と押し型によるプレス、粒子状の固体電解質を基材表面上に堆積させた場合は金型と押し型によるプレスやロールプレス、平板プレス等の方法を挙げることができる。固体電解質を加圧する圧力は、例えば10~500MPaである。
【0075】
必要に応じて、膜状に堆積した無機固体電解質を加圧するとともに加熱してもよい。加熱加圧を行えば固体電解質同士の融着・結合が起こり、得られる固体電解質膜の強度はより一層高くなる。その結果、固体電解質の欠落や、固体電解質膜表面のクラックの発生をより一層抑制できる。固体電解質を加熱する温度は、例えば、40~500℃である。
【0076】
<リチウムイオン電池>
図1は、本実施形態のリチウムイオン電池の構造の一例(リチウムイオン電池10)を示す断面図である。
リチウムイオン電池100は、例えば、正極活物質層101を含む正極110と、電解質層120と、負極活物質層103を含む負極130とを備えている。そして、正極活物質層101、負極活物質層103および電解質層120の少なくとも一つが、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料を含有する。また、正極活物質層101、負極活物質層103および電解質層120のすべてが、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料を含有していることが好ましい。
本実施形態では、特に断りがなければ、正極活物質を含む層を正極活物質層101と呼ぶ。
正極110は、必要に応じて、正極活物質層101に加えて集電体105をさらに含んでもよいし、集電体105を含まなくてもよい。また、本実施形態では特に断りがなければ、負極活物質を含む層を負極活物質層103と呼ぶ。負極130は、必要に応じて、負極活物質層103に加えて集電体105をさらに含んでもよいし、集電体105を含まなくてもよい。
リチウムイオン電池100の形状は特に限定されない。円筒型、コイン型、角型、フィルム型その他任意の形状が挙げられる。
【0077】
リチウムイオン電池100は、一般的に公知の方法に準じて製造される。例えば、正極110、電解質層120および負極130を重ねたものを、円筒型、コイン型、角型、フィルム型その他任意の形状に形成し、必要に応じて、非水電解液を封入することにより作製される。
【0078】
(正極)
正極110を構成する材料は特に限定されず、リチウムイオン電池に一般的に用いられているものを使用することができる。正極110の製造居方法は特に限定されず、一般的に公知の方法に準じて製造することができる。例えば、正極活物質を含む正極活物質層101をアルミ箔等の集電体105の表面に形成することにより得ることができる。
正極活物質層101の厚みや密度は、電池の使用用途等に応じて適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
【0079】
正極活物質層101は正極活物質を含む。
正極活物質は特に限定されず一般的に公知のものを使用することができる。例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)、リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4)、固溶体酸化物(Li2MnO3-LiMO2(M=Co、Ni等))、リチウム-マンガン-ニッケル酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)、オリビン型リチウムリン酸化物(LiFePO4)等の複合酸化物;ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子;Li2S、CuS、Li-Cu-S化合物、TiS2、FeS、MoS2、Li-Mo-S化合物、Li-Ti-S化合物、Li-V-S化合物、Li-Fe-S化合物等の硫化物系正極活物質;硫黄を含浸したアセチレンブラック、硫黄を含浸した多孔質炭素、硫黄と炭素の混合粉等の硫黄を活物質とした材料;等を用いることができる。これらの正極活物質は1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、より高い放電容量密度を有し、かつ、サイクル特性により優れる観点から、硫化物系正極活物質が好ましく、Li-Mo-S化合物、Li-Ti-S化合物、Li-V-S化合物から選択される一種または二種以上がより好ましい。
【0080】
ここで、Li-Mo-S化合物は構成元素としてLi、Mo、およびSを含んでいるものであり、通常は原料であるモリブデン硫化物および硫化リチウムを含む無機組成物を機械的処理により互いに化学反応させることにより得ることができる。
また、Li-Ti-S化合物は構成元素としてLi、Ti、およびSを含んでいるものであり、通常は原料であるチタン硫化物および硫化リチウムを含む無機組成物を機械的処理により互いに化学反応させることにより得ることができる。
Li-V-S化合物は構成元素としてLi、V、およびSを含んでいるものであり、通常は原料であるバナジウム硫化物および硫化リチウムを含む無機組成物を機械的処理により互いに化学反応させることにより得ることができる。
【0081】
正極活物質層101は、上記正極活物質以外の成分として、例えば、バインダー樹脂、増粘剤、導電助剤、固体電解質材料等から選択される1種以上の材料を含んでもよいし、含まなくてもよい。以下、バインダー樹脂、増粘剤、導電助剤、固体電解質材料等の各材料について説明する。
【0082】
正極活物質層101は、正極活物質同士および正極活物質と集電体105とを結着させる役割をもつバインダー樹脂を含んでもよい。
バインダー樹脂はリチウムイオン電池に使用可能な通常のバインダー樹脂であれば特に限定されない。例えば、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレン・ブタジエン系ゴム、ポリイミド等が挙げられる。バインダーは一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
正極活物質層101は、塗布に適したスラリーの流動性を確保する点から、増粘剤を含んでもよい。増粘剤としてはリチウムイオン電池に使用可能な通常の増粘剤であれば特に限定されない。例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系ポリマーおよびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩、ポリカルボン酸、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸塩、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマー等が挙げられる。増粘剤は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
正極活物質層101は、正極110の導電性を向上させる観点から、導電助剤を含んでもよい。導電助剤としてはリチウムイオン電池に使用可能な通常の導電助剤であれば特に限定されない。例えば、アセチレンブラック、ケチェンブラック等のカーボンブラック、気相法炭素繊維等の炭素材料が挙げられる。導電助剤を用いる場合は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
正極110は、上述した本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料を含む固体電解質を含んでいてもよいし、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料とは異なる種類の固体電解質材料を含む固体電解質を含んでいてもよい。本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料とは異なる種類の固体電解質材料としては、イオン伝導性および絶縁性を有するものであれば特に限定されず、一般的にリチウムイオン電池に用いられるものを用いることができる。例えば、硫化物系無機固体電解質材料、酸化物系無機固体電解質材料、その他のリチウム系無機固体電解質材料等の無機固体電解質材料;ポリマー電解質等の有機固体電解質材料を挙げることができる。より具体的には、本実施形態の固体電解質の説明で挙げた無機固体電解質材料を用いることができる。
【0086】
正極活物質層101中の各種材料の配合割合は、電池の使用用途等に応じて、適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
【0087】
(負極)
負極130を構成する材料は特に限定されず、リチウムイオン電池に一般的に用いられているものを使用することができる。負極130の製造方法は特に限定されず、一般的に公知の方法に準じて製造することができる。例えば、負極活物質を含む負極活物質層103を銅等の集電体105の表面に形成することにより得ることができる。
負極活物質層103の厚みや密度は、電池の使用用途等に応じて適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
【0088】
負極活物質層103は負極活物質を含む。
負極活物質としては、リチウムイオン電池の負極に使用可能な通常の負極活物質であれば特に限定されない。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、樹脂炭、炭素繊維、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素質材料;リチウム、リチウム合金、スズ、スズ合金、シリコン、シリコン合金、ガリウム、ガリウム合金、インジウム、インジウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金等を主体とした金属系材料;ポリアセン、ポリアセチレン、ポリピロール等の導電性ポリマー;リチウムチタン複合酸化物(例えばLi4Ti5O12)等が挙げられる。これらの負極活物質は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0089】
負極活物質層103は特に限定されないが、上記負極活物質以外の成分として、例えば、バインダー樹脂、増粘剤、導電助剤、固体電解質材料等から選択される1種以上の材料を含んでもよい。これらの材料としては、特に限定はされないが、例えば、上述した正極110に用いる材料と同様のものを挙げることができる。
負極活物質層103中の各種材料の配合割合は、電池の使用用途等に応じて、適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
【0090】
(電解質層)
電解質層120は、正極活物質層101と負極活物質層103の間に形成される層である。
電解質層120としては、セパレーターに非水電解液を含浸させたものや、固体電解質を含む固体電解質層が挙げられる。
【0091】
セパレーターとしては、正極110と負極130を電気的に絶縁させ、リチウムイオンを透過する機能を有するものであれば特に限定されず、例えば、多孔性膜を用いることができる。
【0092】
多孔性膜としては微多孔性高分子フィルムが好適に使用され、材質としてポリオレフィン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル等が挙げられる。特に、多孔性ポリオレフィンフィルムが好ましく、具体的には多孔性ポリエチレンフィルム、多孔性ポリプロピレンフィルム等が挙げられる。
【0093】
セパレーターに含浸させる非水電解液とは、電解質を溶媒に溶解させたものである。電解質としては、公知のリチウム塩がいずれも使用でき、活物質の種類に応じて選択すればよい。例えば、LiClO4、LiBF6、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiB10Cl10、LiAlCl4、LiCl、LiBr、LiB(C2H5)4、CF3SO3Li、CH3SO3Li、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、Li(CF3SO2)2N、低級脂肪酸カルボン酸リチウム等が挙げられる。
【0094】
電解質を溶解する溶媒は、電解質を溶解させる液体として通常用いられるものであれば特に限定されない。例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ビニレンカーボネート(VC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン類;トリメトキシメタン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2-エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン等のオキソラン類;アセトニトリル、ニトロメタン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等の含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の有機酸エステル類;リン酸トリエステルやジグライム類;トリグライム類;スルホラン、メチルスルホラン等のスルホラン類;3-メチル-2-オキサゾリジノン等のオキサゾリジノン類;1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、ナフタスルトン等のスルトン類;等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0095】
固体電解質層は、正極活物質層101および負極活物質層103の間に形成される層であり、固体電解質材料を含む固体電解質により形成される層である。固体電解質層に含まれる固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではない。ただし、本実施形態においては、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料を含む固体電解質であることが好ましい。
本実施形態の固体電解質層における固体電解質の含有量は、所望の性能が得られる割合であれば特に限定されず、例えば10体積%以上100体積%以下、好ましくは50体積%以上100体積%以下である。特に、本実施形態においては、固体電解質層が本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料を含む固体電解質のみから構成されていることが好ましい。
【0096】
本実施形態の固体電解質層は、バインダー樹脂を含有していてもよい。バインダー樹脂を含有することにより、可撓性を有する固体電解質層を得ることができる。バインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素含有結着材を挙げることができる。固体電解質層の厚さは、例えば0.1μm以上1000μm以下、好ましくは0.1μm以上300μm以下である。
【0097】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
構成元素としてLi、PおよびSを含む硫化物系無機固体電解質材料であって、
31
P-NMR測定で得られるスペクトルにおいて、PS
4
構造由来のピークの面積の総和を1としたとき、P
2
S
6
ガラス構造由来のピークの面積の総和が0.1以上である、硫化物系無機固体電解質材料。
2.
1.に記載の硫化物系無機固体電解質材料であって、
前記スペクトルにおいて、PS
4
ガラス構造由来のピーク面積の総和を1としたとき、P
2
S
6
ガラス構造由来のピーク面積の総和が0.15以上である、硫化物系無機固体電解質材料。
3.
1.または2.に記載の硫化物系無機固体電解質材料であって、
前記スペクトルにおいて、PS
4
ガラス構造由来のピーク面積の総和を1としたとき、PS
4
結晶構造由来のピーク面積の総和が0.3~1である硫化物系無機固体電解質材料。
4.
1.~3.のいずれか1つに記載の硫化物系無機固体電解質材料であって、
リチウムイオン伝導度が1.5×10
-3
S/cm以上である硫化物系無機固体電解質材料。
5.
1.~4.のいずれか1つに記載の硫化物系無機固体電解質材料であって、
メジアン径が0.1~10μmの粒子で構成される硫化物系無機固体電解質材料。
6.
1.~5.のいずれか1つに記載の硫化物系無機固体電解質材料であって、
当該硫化物系無機固体電解質材料中のPの含有量に対するLiの含有量のモル比Li/Pが1.0以上5.0以下であり、Pの含有量に対するSの含有量のモル比S/Pが2.0以上6.0以下である硫化物系無機固体電解質材料。
7.
1.~6.のいずれか1つに記載の硫化物系無機固体電解質材料であって、
リチウムイオン電池に用いられる硫化物系無機固体電解質材料。
8.
1.~7.のいずれか1つに記載の硫化物系無機固体電解質材料を含む固体電解質。
9.
8.に記載の固体電解質を主成分として含む固体電解質膜。
10.
9.に記載の固体電解質膜であって、
粒子状の前記固体電解質の加圧成形体である固体電解質膜。
11.
9.または10.に記載の固体電解質膜であって、
当該固体電解質膜中のバインダー樹脂の含有量が、前記固体電解質膜の全体を100質量%としたとき、0.5質量%未満である固体電解質膜。
12.
9.~11.のいずれか1つに記載の固体電解質膜であって、
当該固体電解質膜中の前記硫化物系無機固体電解質材料の含有量が、前記固体電解質膜の全体を100質量%としたとき、50質量%以上である固体電解質膜。
13.
正極活物質層を含む正極と、電解質層と、負極活物質層を含む負極とを備えたリチウムイオン電池であって、
前記正極活物質層、前記電解質層および前記負極活物質層のうち少なくとも一つが、1.~7.のいずれか1つに記載の硫化物系無機固体電解質材料を含むリチウムイオン電池。
【実施例】
【0098】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0099】
<硫化物系無機固体電解質材料の製造>
(実施例1)
まず、原料として、Li2S(古河機械金属社製、純度99.9%)、P2S5(Perimeter Solutions社製)およびLi3N(古河機械金属社製)をそれぞれ準備した。P2S5については、Perimeter Solutions社から入手した、ロット番号が異なるいくつかのP2S5製品の中から、P含有率28.1質量%の製品を選択して用いた。P含有率の測定は、ICP発光分光分析装置(セイコーインスツルメント社製、SPS3000)を用いて、ICP発光分光分析法により測定した。
【0100】
次いで、アルゴングローブボックス内で、Li2S粉末とP2S5粉末とLi3N粉末(Li2S:P2S5:Li3N=27:9:2(モル比))を精秤した。そして、これら粉末を10分間メノウ乳鉢で混合した。こうして混合粉末を得た。
【0101】
次いで、混合粉末500gを秤量し、φ25mmのジルコニア製ボール7500gとφ10mmのジルコニア製ボール700gとともに、アルミナ製ポット(内容積5.0L)に入れた。そして、ボールミル(回転数100rpm)で48時間粉砕混合(メカノケミカル処理)した。
次いで、ポット内壁やボールについた粉砕混合後の粉末を掻き取りした。その後、再度同じポットに粉末をボールと共に入れ、ボールミル(回転数100rpm)で先と同じ時間粉砕混合した。この掻き取りから粉砕までの作業を累計700時間になるまで繰り返した。そして、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料(Li10P3S12)を得た。
粉砕混合(メカノケミカル処理)は、水分および酸素の存在量および流入が高いレベルで抑制された雰囲気下で行った。
【0102】
次いで、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料をアルゴン中300℃で7時間アニール処理した。これによって、ガラスセラミックス状態の硫化物系無機固体電解質材料(Li10P3S12)を得た。
得られたガラスセラミックス状態の硫化物系無機固体電解質材料を、目開き20μmのふるいにて分級して、粗大粒子を除いた。
以上のようにして、硫化物系無機固体電解質材料を製造した。
【0103】
得られた硫化物系無機固体電解質材料の組成がLi10P3S12であることは、ICP発光分光分析装置(セイコーインスツルメント社製、SPS3000)を用いて、ICP発光分光分析法により確認した。
【0104】
(実施例2)
まず、原料として、Li2S(古河機械金属社製、純度99.9%)、P2S5(Perimeter Solutions社製)およびLi3N(古河機械金属社製)をそれぞれ使用した。P2S5については、Perimeter Solutions社から入手した、ロット番号が異なるいくつかのP2S5製品の中から、P含有率28.0質量%の製品を選択して用いた(P含有率の測定方法は実施例1と同様)。
【0105】
次いで、アルゴングローブボックス内で、Li2S粉末とP2S5粉末とLi3N粉末(Li2S:P2S5:Li3N=27:9:2(モル比))を精秤した。そして、これら粉末を10分間メノウ乳鉢で混合した。こうして混合粉末を得た。
次いで、混合粉末500gを秤量し、φ25mmのジルコニア製ボール7500gとφ10mmのジルコニア製ボール700gとともに、アルミナ製ポット(内容積5.0L)に入れた。そして、ボールミル(回転数100rpm)で48時間粉砕混合(メカノケミカル処理)した。
次いで、ポット内壁やボールについた粉砕混合後の粉末を掻き取りした。その後、再度同じポットに粉末をボールと共に入れ、ボールミル(回転数100rpm)で先と同じ時間粉砕混合した。この掻き取りから粉砕までの作業を累計700時間になるまで繰り返した。そして、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料(Li10P3S12)を得た。
次いで、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料をアルゴン中300℃で7時間アニール処理した。これよって、ガラスセラミックス状態の硫化物系無機固体電解質材料(Li10P3S12)を得た。
次いで、得られたガラスセラミックス状態の硫化物系無機固体電解質材料を目開き20μmのふるいにて分級して、粗大粒子を除いた。
以上のようにして、硫化物系無機固体電解質材料を製造した。
【0106】
得られた硫化物系無機固体電解質材料の組成がLi10P3S12であることは、ICP発光分光分析装置(セイコーインスツルメント社製、SPS3000)を用いて、ICP発光分光分析法により確認した。
【0107】
(実施例3)
まず、原料として、Li2S(古河機械金属社製、純度99.9%)、P2S5(関東化学社製)およびLi3N(古河機械金属社製)をそれぞれ使用した。P2S5については、関東化学社から入手した、ロット番号が異なるいくつかのP2S5製品の中から、P含有率が27.87質量%よりも大きい27.9質量%程度のものを用いた(P含有率の測定方法は実施例1と同様)。
【0108】
次いで、アルゴングローブボックス内で、Li2S粉末とP2S5粉末とLi3N粉末(Li2S:P2S5:Li3N=27:9:2(モル比))を精秤した。そして、これら粉末を10分間メノウ乳鉢で混合した。こうして混合粉末を得た。
次いで、混合粉末500gを秤量し、φ25mmのジルコニア製ボール7500gとφ10mmのジルコニア製ボール700gとともに、アルミナ製ポット(内容積5.0L)に入れた。そして、ボールミル(回転数100rpm)で48時間粉砕混合(メカノケミカル処理)した。
次いで、ポット内壁やボールについた粉砕混合後の粉末を掻き取りした。その後、再度同じポットに粉末をボールと共に入れ、ボールミル(回転数100rpm)で先と同じ時間粉砕混合した。この掻き取りから粉砕までの作業を累計700時間になるまで繰り返した。そして、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料(Li10P3S12)を得た。
次いで、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料を、アルゴン中300℃で7時間アニール処理した。これによって、ガラスセラミックス状態の硫化物系無機固体電解質材料(Li10P3S12)を得た。
次いで、得られたガラスセラミックス状態の硫化物系無機固体電解質材料を目開き20μmのふるいにて分級して、粗大粒子を除いた。
以上のようにして、硫化物系無機固体電解質材料を製造した。
【0109】
得られた硫化物系無機固体電解質材料の組成がLi10P3S12であることは、ICP発光分光分析装置(セイコーインスツルメント社製、SPS3000)を用いて、ICP発光分光分析法により確認した。
【0110】
(比較例1)
比較例1においては、実施例1~3とは異なり、原料としてLi3Nを用いずに、Li9P3S12で表される組成の硫化物系無機固体電解質材料を製造した。具体的な手順は以下の通りである。
【0111】
まず、原料として、Li2S(古河機械金属社製、純度99.9%)、P2S5(Perimeter Solutions社製、P含有率28.1質量%、P含有率の測定方法は実施例1と同様)をそれぞれ準備した。
次いで、アルゴングローブボックス内で、Li2S粉末とP2S5粉末(Li2S:P2S5=75:25(モル比))を精秤した。そして、これら粉末を10分間メノウ乳鉢で混合した。こうして混合粉末を得た。
次いで、混合粉末500gを秤量し、φ25mmのジルコニア製ボール7500gとφ10mmのジルコニア製ボール700gとともに、アルミナ製ポット(内容積5.0L)に入れた。そして、ボールミル(回転数100rpm)で48時間粉砕混合(メカノケミカル処理)した。
次いで、ポット内壁やボールについた粉砕混合後の粉末を掻き取りした。その後、再度同じポットに粉末をボールと共に入れ、ボールミル(回転数100rpm)で先と同じ時間粉砕混合した。この掻き取りから粉砕までの作業を累計700時間になるまで繰り返した。そして、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料(Li9P3S12)を得た。
次いで、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料をアルゴン中300℃で7時間アニール処理した。これによって、ガラスセラミックス状態の硫化物系無機固体電解質材料(Li9P3S12)を得た。
次いで、得られたガラスセラミックス状態の硫化物系無機固体電解質材料を目開き20μmのふるいにて分級して、粗大粒子を除いた。
以上のようにして、硫化物系無機固体電解質材料を製造した。
【0112】
得られた硫化物系無機固体電解質材料の組成がLi9P3S12であることは、ICP発光分光分析装置(セイコーインスツルメント社製、SPS3000)を用いて、ICP発光分光分析法により確認した。
【0113】
(比較例2)
比較例2においては、実施例1~3とは異なり、P含有率が比較的少ないP2S5を原料として用いた。具体的な手順は以下の通りである。
【0114】
まず、原料として、Li2S(古河機械金属社製、純度99.9%)、P2S5(Perimeter Solutions社製)およびLi3N(古河機械金属社製)をそれぞれ準備した。P2S5については、Perimeter Solutions社から入手した、ロット番号が異なるいくつかのP2S5製品の中から、P含有率27.7質量%の製品を選択して用いた(P含有率の測定方法は実施例1と同様)。
【0115】
次いで、アルゴングローブボックス内で、Li2S粉末とP2S5粉末とLi3N粉末(Li2S:P2S5:Li3N=27:9:2(モル比))を精秤した。そして、これら粉末を10分間メノウ乳鉢で混合した。こうして混合粉末を得た。
次いで、混合粉末500gを秤量し、φ25mmのジルコニア製ボール7500gとφ10mmのジルコニア製ボール700gとともに、アルミナ製ポット(内容積5.0L)に入れた。そして、ボールミル(回転数100rpm)で48時間粉砕混合(メカノケミカル処理)した。
次いで、ポット内壁やボールについた粉砕混合後の粉末を掻き取りした。その後、再度同じポットに粉末をボールと共に入れ、ボールミル(回転数100rpm)で先と同じ時間粉砕混合した。この掻き取りから粉砕までの作業を累計700時間になるまで繰り返した。そして、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料(Li10P3S12)を得た。
次いで、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料をアルゴン中300℃で7時間アニール処理した。これによって、ガラスセラミックス状態の硫化物系無機固体電解質材料(Li10P3S12)を得た。
次いで、得られたガラスセラミックス状態の硫化物系無機固体電解質材料を目開き20μmのふるいにて分級して、粗大粒子を除いた。
以上のようにして、硫化物系無機固体電解質材料を製造した。
【0116】
得られた硫化物系無機固体電解質材料の組成がLi10P3S12であることは、ICP発光分光分析装置(セイコーインスツルメント社製、SPS3000)を用いて、ICP発光分光分析法により確認した。
【0117】
<31P-NMR測定>
各実施例および比較例で得られた硫化物系無機固体電解質材料を試料として、以下のようにして、リン31核磁気共鳴分光分析を行った。そして、波形分離を行った。
【0118】
N2でパージしたグローブバッグ内で、3.2mm径の測定用試料管に試料を充填した。これを装置にセットし、外部磁場に対してマジック角(54.7°)傾斜した状態で、回転(Magic Angle Spinning:MAS)させて、測定した。
NMR測定条件の詳細は以下の通りである。
・観測周波数:242.95MHz
・パルス幅:90°パルス
・パルス待ち時間:2800sec
・積算回数:64回
・測定モード:シングルパルス法
・MAS速度:12kHz
・標準物質:(NH4)2HPO4 1.33ppm
・装置:JNM-ECA600 株式会社JEOL RESONANCE製
【0119】
得られたNMRスペクトルを、波形分離が可能なソフトウェアを用いて、ガウス関数により、PS4ガラス構造由来のピーク、PS4結晶構造由来のピーク、P2S7ガラス構造由来のピーク、P2S7結晶構造由来のピーク、P2S6ガラス構造由来のピーク、および、P2S6結晶構造由来のピークに波形分離した。そして、各ガウス関数の面積を、各構造由来のピークの面積の総和とした。波形分離に際し、各ガウス関数の極大位置(各構造の化学シフトに相当)、半値幅や最大値については、得られたNMRスペクトルをできるだけ忠実に再現するように最適化した。ただし、各ガウス関数の極大位置については、前掲の表1に記載の数値範囲内において最適化した。
【0120】
参考のため、実施例1の硫化物系無機固体電解質材料の
31P-NMRスペクトル(元データおよび波形分離したもの)を
図2に示す。
【0121】
<粒径の測定/粒度分布の算出>
National Institutes of Health公開の画像処理ソフト(公開フリーウェア、ImageJ、v1.52a)を用いて、得られた硫化物系無機固体電解質材料のSEM画像を解析した。そして、この解析に基づき、粒度分布を求めた。そして、得られた粒度分布から、d50を求めた。
【0122】
手順としては、まず、SEMの試料台上にカーボンテープを張り付け、そのカーボンテープ上に硫化物系無機固体電解質材料の粒子が薄く広くばらけた状態になるように微量付着させた。
次に、硫化物系無機固体電解質材料のSEM画像を撮影した(解像度:横1280×縦960ピクセル)。得られたSEM画像をImageJに読み込ませた。SEM画像内に表示されたスケールからキャリブレーションを実施した。次に画像を白黒の2値化画像に変換した。その際に、粒子の輪郭が明確になるように閾値を設定した。得られた白黒画像で重なった粒子がある場合は、ImageJによる画像処理としてウォーターシェッド法による粒子同士の重なりの分離を実行した。そして、ImageJによる画像解析として粒子解析を実行し、フェレ径による粒子径の計測結果を得た。各実施例および比較例においては、3000個以上の粒子径を測定した。
得られた粒子径の計測結果をMicrosoft社の表計算ソフトのEXCEL(登録商標)で読み込み、粒度分布を得た。そして、その粒度分布から、メジアン径d50を求めた。
【0123】
すべての実施例および比較例において、d50は0.1~10μmの範囲内であった。
【0124】
<評価:リチウムイオン伝導度の測定>
各実施例および比較例で得られた硫化物系無機固体電解質材料について、交流インピーダンス法により、リチウムイオン伝導度を測定した。
リチウムイオン伝導度の測定には、バイオロジック社製、ポテンショスタット/ガルバノスタットSP-300を用いた。試料の大きさは直径9.5mm、厚さ1.2~2.0mm、測定条件は、印加電圧10mV、測定温度27.0℃、測定周波数域0.1Hz~7MHz、電極はLi箔とした。
リチウムイオン伝導度測定用の試料としては、プレス装置を用いて、各実施例および比較例で得られた粉末状の硫化物系無機固体電解質材料150mgを、270MPaで10分間プレスして得られる、直径9.5mm、厚さ1.2~2.0mmの板状の硫化物系無機固体電解質材料を用いた。
【0125】
各種情報をまとめて表2および3に示す。表2と表3はともに実施例1~3および比較例1~2の情報をまとめているが、(i)表2は、構造由来のピークの面積は、PS4構造(PS4結晶構造とPS4ガラス構造の両方)由来のピーク面積の総和を1としたときの各構造由来のピーク面積を示し、(ii)表3は、PS4ガラス構造由来のピーク面積の総和を1としたときの各構造由来の面積を示している。
【0126】
【0127】
【0128】
表2および表3に示されるとおり、31P-NMR測定で得られるスペクトルにおいて、PS4構造由来のピークの面積の総和を1としたとき、P2S6ガラス構造由来のピークの面積の総和が0.1以上である硫化物系無機固体電解質材料(実施例1~3)は、高いリチウムイオン伝導性を示した。一方、P2S6ガラス構造由来のピークの面積の総和が0.1未満である硫化物系無機固体電解質材料(比較例1および2)のリチウムイオン伝導性は悪かった。
また、実施例1および2と、実施例3との対比から、P2S6ガラス構造由来のピークの面積の総和がより大きくなると、リチウムイオン伝導性がより高まる傾向が読み取れる。
【0129】
この出願は、2020年11月30日に出願された日本出願特願2020-197943号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0130】
100 リチウムイオン電池
101 正極活物質層
103 負極活物質層
105 集電体
110 正極
120 電解質層
130 負極