(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】正極板及び電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20241202BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241202BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241202BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241202BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20241202BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/36 E
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
(21)【出願番号】P 2022580298
(86)(22)【出願日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 CN2021093563
(87)【国際公開番号】W WO2021258900
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】202010585072.2
(32)【優先日】2020-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】510177809
【氏名又は名称】ビーワイディー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BYD Company Limited
【住所又は居所原語表記】No. 3009, BYD Road, Pingshan, Shenzhen, Guangdong 518118, P. R. China
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100132698
【氏名又は名称】川分 康博
(72)【発明者】
【氏名】阮▲澤▼文
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼娜
(72)【発明者】
【氏名】▲ハオ▼▲ロン▼
(72)【発明者】
【氏名】潘▲儀▼
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-137928(JP,A)
【文献】国際公開第2020/017580(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111261834(CN,A)
【文献】特開2008-251401(JP,A)
【文献】特表2019-501492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/02-62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、前記集電体上に配置された正極活物質層とを含み、前記正極活物質層は、m層の正極活物質サブ層を含み、各層の正極活物質サブ層における正極活物質材料は、主正極材料及び補助正極材料を含み、前記正極活物質層における主正極材料のD
50粒径は、以下を満たし、
【数1】
ここで、前記mは、2以上の整数であり、前記nは、2~mのうちのいずれかの整数であり、前記D
50
1は、第1層の正極活物質サブ層における主正極材料のD
50粒径を表し、前記D
50
nは、第n層の正極活物質サブ層における主正極材料のD
50粒径を表し、前記第n層の正極活物質サブ層から前記集電体までの距離は、第n-1層の正極活物質サブ層から前記集電体までの距離より大きく、
前記補助正極材料のD
90粒径は、前記第1層の正極活物質サブ層における主正極材料のD
10粒径より小さ
く、
前記主正極材料は、層状正極材料であり、前記補助正極材料は、ポリアニオン正極材料であり、
前記層状正極材料は、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、及びニッケルコバルトアルミン酸リチウムのうちの少なくとも1種であり、
前記ポリアニオン正極材料は、リン酸鉄リチウム、リン酸鉄マンガンリチウム、リン酸マンガンリチウム、リン酸バナジウムリチウム、フルオロリン酸バナジウムリチウム、ケイ酸マンガンリチウム、ケイ酸鉄リチウム及びケイ酸コバルトリチウムのうちの少なくとも1種であることを特徴とする正極板。
【請求項2】
前記補助正極材料のD
50粒径は、200nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の正極板。
【請求項3】
第n-1層の正極活物質サブ層における主正極材料のD
90粒径は、第n層の正極活物質サブ層における主正極材料のD
10粒径以下であることを特徴とする、請求項1に記載の正極板。
【請求項4】
前記正極活物質層における主正極材料の粒径は、4.0μm≦D50
[m/2]+1≦8.0μmをさらに満たし、前記[m/2]は、整数に切り下げることを表し、前記D
50
[m/2]+1は、第[m/2]+1層の正極活物質サブ層における主正極材料のD
50粒径を表すことを特徴とする、請求項3に記載の正極板。
【請求項5】
前記正極活物質層における主正極材料の表面密度に対する、前記正極活物質層のうちの第1層の正極活物質サブ層~第m層の正極活物質サブ層それぞれにおける主正極材料の表面密度の百分率は、正規分布を呈することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の正極板。
【請求項6】
前記正極活物質層において、前記正極活物質層における主正極材料の表面密度に対する各層の正極活物質サブ層における主正極材料の表面密度の百分率は、
ρ
1≦10.0%、ρ
m≦10.0%、
ρ
2≧10.0%、ρ
m-1≧10.0%、
40.0%≦ρ
m/2≦60.0%を満たし、
ここで、前記mは、3以上の整数であり、前記ρ
1は、正極活物質層における主正極材料の表面密度に対する第1層の正極活物質サブ層における主正極材料の表面密度の百分率を表し、前記ρ
2は、正極活物質層における主正極材料の表面密度に対する第2層の正極活物質サブ層における主正極材料の表面密度の百分率を表し、前記ρ
mは、正極活物質層における主正極材料の表面密度に対する第m層の正極活物質サブ層における主正極材料の表面密度の百分率を表し、前記ρ
m-1は、正極活物質層における主正極材料の表面密度に対する第m-1層の正極活物質サブ層における主正極材料の表面密度の百分率を表し、mが奇数である場合、前記ρ
m/2は、正極活物質層における主正極材料の表面密度に対する第[m/2]+1層の正極活物質サブ層における主正極材料の表面密度の百分率を表し、前記[m/2]は、整数に切り下げることを表し、mが偶数である場合、前記ρ
m/2は、正極活物質層における主正極材料の表面密度に対する第[m/2]層の正極活物質サブ層及び第[m/2]+1層の正極活物質サブ層のうちの少なくとも1つにおける主正極材料の表面密度の百分率を表すことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の正極板。
【請求項7】
各層の正極活物質サブ層は、導電剤及び結着剤をさらに含み、前記正極活物質層の表面密度は、300g/m
2≦ρ≦500g/m
2を表し、前記ρは、正極活物質層の表面密度を表すことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の正極板。
【請求項8】
前記補助正極材料の質量は、前記正極活物質層における正極活物質材料の質量の0.5%~20.0%を占めることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の正極板。
【請求項9】
前記mは、3~6の間の整数であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の正極板。
【請求項10】
前記m=4であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の正極板。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の正極板を含む電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、ビーワイディーカンパニーリミテッドが2020年6月24日に提出した、出願名称が「正極板及び電池」である中国特許出願第「202010585072.2」号の優先権を主張するものである。これらはすべて本明細書の一部として引用する。
【0002】
本発明は、電池の技術分野に関し、特に、正極板及び電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、体積が小さく、軽量であり、サイクル年数が長く、メモリー効果がないなどの利点を有し、携帯型電子機器及び新エネルギー電気自動車電池の分野に広く応用される。リチウム電池システムにおいて、層状正極材料は、高エネルギー密度、低コスト、高プラットフォーム電圧などの利点により正極材料の注目焦点となっている。特に人々の高エネルギー密度に対する緊急な需要に伴い、電極板の表面密度及び小型高密度に対しても要求はより高くなってきている。高表面密度及び高凝集の場合、電解液から離れた側の電極板におけるリチウムイオンの移動経路が延長され、電極板の局所的なリチウムの脱離及び挿入が不均一であり、電極板における大、小粒子は全て脱離/挿入を完了する速度が一致しないため、粒子間の荷電状態の分布が不均一になり、電池インピーダンスが大きく、レートが低く、サイクル減衰が速いという問題を引き起こすとともに、安全上の潜在的な危険を高める。
【発明の概要】
【0004】
本願の内容は、少なくとも従来技術における技術的課題の1つを解決することを目的とする。このため、本願の第1態様に係る正極板は、集電体と、前記集電体に設置された正極活物質層とを含み、前記正極活物質層は、m層の正極活物質サブ層を含み、各層の正極活物質サブ層における正極活物質材料は、主正極材料及び補助正極材料を含み、前記正極活物質層における主正極材料のD
50粒径は、以下を満たし、
【数1】
ここで、前記mは、2以上の整数であり、前記nは、2~mのうちのいずれかの整数であり、前記
D
50
1
は、第1層の正極活物質サブ層における主正極材料のD
50粒径を表し、前記D
50
nは、第n層の正極活物質サブ層における主正極材料のD
50粒径を表し、前記第n層の正極活物質サブ層から前記集電体までの距離は、第n-1層の正極活物質サブ層から前記集電体までの距離より大きく、前記補助正極材料のD
90粒径は、前記第1層の正極活物質サブ層における主正極材料のD
10粒径より小さい。
【0005】
本願の第2の態様に係る電池は、以上に記載の正極板を含む。
【0006】
本開示の有益な効果は、以下のとおりである。本開示に係る正極板において、正極活物質層中の各層の正極活物質サブ層における主正極材料の粒径を以下を満たすように設定することにより、
【数2】
正極活物質層の主正極材料の粒径が集電体に隣接する一側から集電体から離れた一側へ徐々に増加し、正極活物質層全体におけるリチウムイオンの脱離/挿入速度が均一になるため、正極板の厚さ方向に隣接する粒子の間の荷電分布が均一になるとともに、正極板の厚さ方向及び大小粒子の間の荷電状態の違いによる分極を低減することができ、小粒子の補助正極材料を大粒子の主正極材料の間の隙間に充填し、正極板の圧縮密度を効果的に増加させる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示に係る1つの実施例及び比較例で製造された正極板のマイクロ領域のラマンスペクトル画像図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の説明は、本開示の好ましい実施形態であり、なお、当業者であれば、本開示の原理から逸脱しない前提でいくつかの改良と修飾を行うこともでき、これらの改良と修飾も本開示の保護範囲に含まれる。
【0009】
本開示の一実施例に係る正極板は、集電体と、上記集電体に設置された正極活物質層とを含み、上記正極活物質層は、m層の正極活物質サブ層を含み、各層の正極活物質サブ層における正極活物質材料は、主正極材料及び補助正極材料を含み、上記正極活物質層における主正極材料のD
50粒径は、以下を満たし、
【数3】
ここで、上記mは、2以上の整数であり、上記nは、2~mのうちのいずれかの整数であり、上記
D
50
1
は、第1層の正極活物質サブ層における主正極材料のD
50粒径を表し、上記D
50
nは、第n層の正極活物質サブ層における主正極材料のD
50粒径を表し、上記第n層の正極活物質サブ層から上記集電体までの距離は、第n-1層の正極活物質サブ層から上記集電体までの距離より大きい。
【0010】
上記補助正極材料のD90粒径は、上記第1層の正極活物質サブ層における主正極材料のD10粒径より小さい。すなわち、上記補助正極材料の粒径と上記第1層の正極活物質サブ層における主正極材料の粒径は、D90
補助<D
10
1
を満たし、上記D90
補助は、上記補助正極材料のD90粒径を表し、上記D
10
1
は、第1層の正極活物質サブ層における主正極材料のD10粒径を表す。
【0011】
m層の正極活物質サブ層は、集電体の同一側に設置され、上記集電体から離れた方向から、m層の正極活物質サブ層は、積層して設置された第1層の正極活物質サブ層、第2層の正極活物質サブ層...第m-1層の正極活物質サブ層、第m層の正極活物質サブ層を順に含み、第1層の正極活物質サブ層は、上記集電体に直接的に接触する。一実施例において、上記mは、3~6の間の整数である。さらに一実施例において、上記m=4である。
【0012】
上記正極活物質層における主正極材料のD
50粒径は、以下を満たし、
【数4】
つまり、m層の正極活物質サブ層のうちのいずれか一層の正極活物質サブ層のD
50粒径と、第1層の正極活物質サブ層のD
50粒径は、上記の関係式1を有し、関係式1から分かるように、第1層の正極活物質サブ層~第m層の正極活物質サブ層のうちのD
50粒径は、徐々に増加し、集電体に近接する側の第1層の正極活物質サブ層のD
50粒径は、最も小さく、集電体から最も離れた第m層の正極活物質サブ層におけるD
50粒径が最も大きく、中間層は、小粒径が徐々に大粒径に遷移する勾配分布である。
【0013】
関係式1のような勾配分布の粒径関係において、正極活物質層の主正極材料の粒径が集電体から、集電体から離れた一側へ徐々に増加することにより、正極活物質層全体におけるリチウムイオンの脱離/挿入速度が均一になることにより、正極板の厚さ方向に隣接する粒子の間の荷電分布が均一になり、正極板の厚さ方向及び大小粒子の間の荷電状態の違いによる分極を低減することができ、さらに製造された電池の導電性能を向上させ、製造された電池のレート性能及び安全性能などを向上させることができる。リチウムイオンの電池における輸送に影響を与えることは、主に2つの方面を含み、1つは固相拡散であり、すなわち電極における活物質材料の粒子の粒径の大きさであり、もう1つは液相拡散であり、すなわちリチウムイオンの液相環境における拡散距離である。正極活物質層全体の各位置における正極材料の粒子の粒径が上記関係式1の規律に応じて分布せず、例えば、正極活物質層全体における正極材料の粒子の粒径が同じである場合、リチウムイオンの活物質材料における固相拡散の距離が同じであるが、極板の異なる厚さでの活物質材料の固液界面からの距離が異なるため、その液相におけるリチウムイオンの脱離挿入距離が異なることを引き起こし、この場合に、極板の表層(セパレータに近接する位置)にある活物質材料のリチウム脱離挿入速度が速くなり、極板の裏層(集電体に近接する位置)の活物質材料のリチウム脱離挿入速度が遅くなり、さらに活物質材料の粒子間の荷電状態の分布が不均一になり、電池インピーダンスが大きく、レートが悪く、サイクル減衰が速いという問題を引き起こす。リチウムイオンが大粒子の正極材料の粒子に脱離挿入を完了する速度は、小粒子の主正極材料の粒子に脱離挿入を完了する速度より遅いため、正極材料の粒子間の荷電状態の分布が不均一になり、電池インピーダンスが大きく、レートが低く、サイクル減衰が速いという問題を引き起こす。
【0014】
一般的に、大粒径の正極材料の粒子のリチウム脱離/挿入速度は遅く、小粒径の正極材料の粒子のリチウム脱離/挿入速度は速く、本願において、電解液に隣接する(又は集電体から離れた一側の)正極活物質サブ層における主正極材料の粒子の粒径を大きく設定し、電解液から離れた(又は集電体に隣接する一側の)正極活物質サブ層における主正極材料の粒子の粒径を小さく設定することで、電解液に近接する大粒径の主正極材料の粒子のリチウム脱離/挿入速度は、電解液から離れた小粒径の主正極材料の粒子のリチウム脱離/挿入速度と同等になり、さらに各層の正極活物質サブ層における正極活物質材料のリチウム脱離/挿入速度が同じになり、正極活物質層全体のリチウム脱離/挿入速度の一貫性を向上させる。
【0015】
例えば、第1層の正極活物質サブ層における主正極材料の粒子の粒径が最も小さく、リチウムイオンが主正極材料の粒子から析出する時間が短いが、第1層の正極活物質サブ層が電解液から最も離れ、該析出したリチウムイオンは、長い時間を必要として電解液に入ることができる一方、第m層の正極活物質サブ層における主正極材料の粒子の粒径が最も大きく、リチウムイオンが主正極材料の粒子から析出する時間が長いが、第m層の正極活物質サブ層が電解液に最も近接し、該析出したリチウムイオンは、短い時間を必要として電解液に入ることができる。これにより分かるように、リチウムイオンが第1層の正極活物質サブ層の主正極材料の粒子から析出して電解液に到達する総時間は、リチウムイオンが第m層の正極活物質サブ層の主正極材料の粒子から析出して電解液に到達する総時間と一致する傾向があり、すなわち、第1層の正極活物質サブ層におけるリチウムイオンの脱離/挿入速度は、第m層の正極活物質サブ層におけるリチウムイオンの脱離/挿入速度と同等である。同様に、第2層の正極活物質層と第m-1層の正極活物質層におけるリチウムイオンの脱離/挿入速度が同等であり、隣接する第n層と第n-1層の正極活物質サブ層におけるリチウムイオンの脱離/挿入速度も同等であり、或いは正極活物質層のうちのいずれか2層の正極活物質サブ層におけるリチウムイオンの脱離/挿入速度も同等である。したがって、正極活物質層全体に対して、正極活物質層のうちの各正極活物質サブ層における主正極材料のD50粒径を上記関係式1に応じて分布させることにより、正極活物質層全体におけるリチウムイオンの脱離/挿入速度が均一になることにより、正極板の厚さ方向における隣接する粒子の間の荷電分布が均一になり、正極板の厚さ方向及び大小粒子の間の荷電状態の違いによる分極を低減することができる。
【0016】
また、本願における正極活物質材料において補助正極材料がさらに設置され、補助正極材料の粒径と第1層の正極活物質サブ層における主正極材料の粒径は、D90
補助<D
10
1
を満たし、すなわち、全体的に90%の補助正極材料の粒径は、10%の正極活物質サブ層の主正極材料の粒径より小さく、粒径が小さい補助正極材料を、各層の正極活物質サブ層における粒径が相対的に大きい主正極材料の粒子の隙間に分布させ、正極板の圧縮密度を効果的に増加させる。
【0017】
本願において、主正極材料は、好ましくは層状正極材料であり、補助正極材料は、好ましくはポリアニオン正極材料であり、上記ポリアニオン正極材料は、優れた構造安定性を有し、ポリアニオン正極は、電解液と反応しにくく、又は電解液と反応する時に正極活物質層の構造への影響が小さく、正極活物質層の構造安定性を破壊せず、ポリアニオン正極材料と層状正極材料の複合使用により、正極板のサイクル及び安全性能を向上させることができる。層状正極材料は、主正極材料を塗布して圧縮する方式で形成された層状正極材料であってもよい。
【0018】
本開示に係る正極板において、正極活物質層のうちの各層の正極活物質サブ層における主正極材料の粒径を、上記関係式1を満たすように設定する場合で、さらに小粒子の補助正極材料を大粒子の主正極材料の間の隙間に充填することにより、正極板の厚さ方向に隣接する粒子の間の荷電分布の均一性を向上させ、正極板の厚さ方向及び大小粒子の間の荷電状態の違いによる分極を低減する場合で、さらに正極板の圧縮密度を効果的に増加させることができる。
【0019】
一実施例において、上記補助正極材料のD50粒径は、200nm以下である。すなわち、上記補助正極材料の粒径は、D50
補助≦200nmを満たし、上記D50
補助は、上記補助正極材料のD50粒径を表す。補助正極材料のD50粒径が200nm以下である場合、補助正極材料は、主正極材料の粒子の間によりよく分布し、正極板の圧縮密度をさらに向上させることができる。
【0020】
一実施例において、第n-1層の正極活物質サブ層における主正極材料のD90粒径は、上記第n層の正極活物質サブ層における主正極材料のD10粒径以下である。すなわち、第n-1層の正極活物質サブ層における主正極材料の粒径と上記第n層の正極活物質サブ層における主正極材料の粒径は、D90
n-1≦D10
nを満たし、上記D90
n-1は、第n-1層の正極活物質サブ層における主正極材料のD90粒径を表し、上記D10
nは、第n層の正極活物質サブ層における主正極材料のD10粒径を表す。第n-1層の正極活物質サブ層において、90%の主正極材料の粒径は、第n層の正極活物質サブ層における10%の主正極材料の粒径より小さい。このように、隣接する2層における主正極材料の粒子の粒径が小粒径から大粒径に徐々に遷移することを保証することができ、正極活物質層全体に対して、各正極活物質サブ層における主正極材料の粒子の粒径分布の勾配規則性をさらに向上させることができる。
【0021】
一実施例において、上記正極活物質層における主正極材料の粒径は、4.0μm≦D50
[m/2]+1≦8.0μmをさらに満たし、上記[m/2]は、整数に切り下げることを表し、上記D50
[m/2]+1は、第[m/2]+1層の正極活物質サブ層における主正極材料のD50粒径を表す。例えば、mが4である場合、正極活物質層における主正極材料の粒径は、4.0μm≦D
50
3
≦8.0μmを満たし、つまり、第3層の正極活物質サブ層のD50粒径は、4.0μm~8.0μmの間にある。mが5である場合、正極活物質層における主正極材料の粒径は、4.0μm≦D
50
3
≦8.0μmを満たし、つまり、第3層の正極活物質サブ層のD50粒径は、4.0μm~8.0μmの間にある。
【0022】
上記設定は、中間層に近接するか又は中間層における主正極材料の粒径の大きさを限定し、上記各層における粒径分布関係式1により、第1層の正極活物質サブ層~最後の層の正極活物質サブ層における主正極材料の粒径分布を知ることができる。
【0023】
一実施例において、上記正極活物質層における主正極材料の表面密度に対する上記正極活物質層のうちの第1層の正極活物質サブ層~第m層の正極活物質サブ層における主正極材料の表面密度のそれぞれの百分率は、正規分布を呈する。ここで、上記正極活物質層における主正極材料の表面密度とは、所定の厚さでの単位面積当たりの正極活物質層における主正極材料の質量を指し、上記正極活物質サブ層における主正極材料の表面密度とは、所定の厚さでの単位面積当たりの正極活物質サブ層における主正極材料の質量を指す。
【0024】
つまり、正極活物質層のうちの両端の正極活物質サブ層における主正極材料の表面密度が小さく、中間層の正極活物質サブ層における主正極材料の表面密度が大きく、このような分布は、正極板の厚さ方向における隣接する粒子間の荷電分布の均一性を向上させることができる。両端の正極活物質サブ層における主正極材料の粒径の大きさの差が最大であり、リチウムイオンが両端の主正極材料の粒子に脱離/挿入する速度の差が最大であるため、両端の正極活物質サブ層における主正極材料の表面密度を小さく設定することは、両端のリチウムイオンの脱離/挿入速度の差が大きい主正極材料の粒子の量を減少させることができ、それにより正極活物質層全体におけるリチウムイオン脱離挿入速度の一貫性を向上させることができ、さらに正極板の厚さ方向に隣接する粒子間の荷電分布の均一性を向上させることができる。
【0025】
一実施例において、上記正極活物質層において、上記正極活物質層における主正極材料の表面密度に対する各層の正極活物質サブ層における主正極材料の表面密度の百分率は、
ρ1≦10.0%、ρm≦10.0%、
ρ2≧10.0%、ρm-1≧10.0%、
40.0%≦ρm/2≦60.0%を満たし、
ここで、上記mは、3以上の整数であり、上記ρ1は、正極活物質層における主正極材料の表面密度に対する第1層の正極活物質サブ層における主正極材料の表面密度の百分率を表し、上記ρ2は、正極活物質層における主正極材料の表面密度に対する第2層の正極活物質サブ層における主正極材料の表面密度の百分率を表し、上記ρmは、正極活物質層における主正極材料の表面密度に対する第m層の正極活物質サブ層における主正極材料の表面密度の百分率を表し、上記ρm-1は、正極活物質層における主正極材料の表面密度に対する第m-1層の正極活物質サブ層における主正極材料の表面密度の百分率を表し、mが奇数である場合、上記ρm/2は、正極活物質層における主正極材料の表面密度に対する第[m/2]+1層の正極活物質サブ層における主正極材料の表面密度の百分率を表し、上記[m/2]は、整数に切り下げることを表し、mが偶数である場合、上記ρm/2は、正極活物質層における主正極材料の表面密度に対する第[m/2]層の正極活物質サブ層及び第[m/2]+1層の正極活物質サブ層のうちの少なくとも1つにおける主正極材料の表面密度の百分率を表す。
【0026】
例えば、m=4である場合、ρ1=8%、ρ2=45%、ρ3=38%、ρ4=9%である。
【0027】
m=5である場合、ρ1=8%、ρ2=17%、ρ3=50%、ρ4=17%、ρ5=8%である。m=6である場合、ρ1=5%、ρ2=10%、ρ3=40%、ρ4=30%、ρ5=10%、ρ6=5%である。すなわち、両端の正極活物質サブ層における主正極材料の表面密度は小さく、中間の正極活物質サブ層における主正極材料の表面密度は大きい。
【0028】
一実施例において、各層の正極活物質サブ層は、導電剤及び結着剤をさらに含む。
【0029】
好ましくは、上記正極活物質層の表面密度は、300g/m2≦ρ≦500g/m2を表し、上記ρは、正極活物質層の表面密度を表す。上記正極活物質層は、主正極材料、補助正極材料、導電剤及び結着剤を含み、正極活物質層の表面密度とは、所定の厚さでの単位面積当たりの正極活物質層における全ての主正極材料、補助正極材料、導電剤及び結着剤の質量を指す。
【0030】
本願の正極活物質層の表面密度は大きく、300g/m2と500g/m2との間にあり、高い電気容量を有する。一方、表面密度が大きい正極活物質層は、同じ面積の正極板でより大きい厚さを有し、本願において、厚さがより大きい正極活物質層に対して、上記各正極活物質サブ層の粒径分布関係式1を用い、正極板の正極材料の粒子間の荷電状態分布の改善がより明らかである。或いは、厚さがより大きい正極板に対して、上記関係式1の設定を用いると、正極板の電気性能を改善する効果がより明らかであり、具体的には、正極板のインピーダンスを低減し、正極板の荷電均一性を向上させ、製造された電池のレート性能を向上させることができると表現される。
【0031】
上記導電剤は、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ及びグラフェンのうちの少なくとも1種であり、上記結着剤は、ポリフッ化ビニリデン又はフッ化ビニリデン含有のコポリマーである。
【0032】
一実施例において、上記正極活物質層の表面密度は、350g/m2≦ρ≦450g/m2を満たす。さらなる一実施例において、上記正極活物質層の表面密度は、400g/m2≦ρ≦450g/m2を満たす。
【0033】
一実施例において、上記補助正極材料の質量は、上記正極活物質層における正極活物質材料の質量の0.5%~20.0%を占める。上記質量比を用いて得られた正極板の極板圧縮密度は、優れる。
【0034】
さらなる一実施例において、上記補助正極材料の質量は、上記正極活物質層における正極活物質材料の質量の4.0%~12.0%を占める。
【0035】
一実施例において、上記層状正極材料は、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、及びニッケルコバルトアルミン酸リチウムのうちの少なくとも1種であり、上記ポリアニオン正極材料は、リン酸鉄リチウム、リン酸鉄マンガンリチウム、リン酸マンガンリチウム、リン酸バナジウムリチウム、フルオロリン酸バナジウムリチウム、ケイ酸マンガンリチウム、ケイ酸鉄リチウム及びケイ酸コバルトリチウムのうちの少なくとも1種である。
【0036】
本開示に係る電池は、上記いずれか一項に記載の正極板を含む。上記電極板を電池に設置し、正極板の厚さ方向及び大小粒子の間の荷電の違いによる分極を低減することができ、リチウムの不均一な脱離/挿入による分極を除去することができ、電池のインピーダンスを低減し、電池の異なるレートでの電気化学性能及びサイクル性能を向上させることができる。
【0037】
本開示の技術手段をよりよく説明するために、以下、具体的な実施例により説明する。
【実施例1】
【0038】
(1)正極活物質材料、導電剤及び結着剤を、質量比に94:3.0:3.0従って、N-メチルピロリドンの溶媒に溶解し、均一に分散させ、スラリーを調製し、正極活物質材料は、層状正極材料及びポリアニオン正極材料を含み、層状正極材料は、LiNi0.83Co0.13Mn0.04O2であり、ポリアニオン正極材料は、リン酸鉄リチウム正極材料であり、正極活物質材料においてリン酸鉄リチウム正極材料が占める質量百分率は、6.5%である。
【0039】
(2)上記ステップに従って第1正極スラリーを調製し、第1正極スラリーは、D50=0.80μmのLiNi0.83Co0.13Mn0.04O2及びD50=200nmのリン酸鉄リチウム正極材料を含み、
上記ステップに従って第2正極スラリーを調製し、第2正極スラリーは、D50=2.2μmのLiNi0.83Co0.13Mn0.04O2及びD50=200nmのリン酸鉄リチウム正極材料を含み、
上記ステップに従って第3正極スラリーを調製し、第3正極スラリーは、D50=5.2μmのLiNi0.83Co0.13Mn0.04O2及びD50=200nmのリン酸鉄リチウム正極材料を含み、
上記ステップに従って第4正極スラリーを調製し、第4正極スラリーは、D50=12.0μmのLiNi0.83Co0.13Mn0.04O2及びD50=200nmのリン酸鉄リチウム正極材料を含む。
【0040】
(3)第1正極スラリー、第2正極スラリー、第3正極スラリー及び第4正極スラリーの順序に従って、順に集電体に塗布して第1層の正極活物質サブ層、第2層の正極活物質サブ層、第3層の正極活物質サブ層及び第4層の正極活物質サブ層を形成し、4層の正極活物質サブ層は、正極板の正極活物質層を構成し、4つのスラリーで塗布された正極板を連続的に振動することにより、正極板内の各層の正極活物質サブ層における正極活物質材料の粒子の粒径が勾配分布を呈し、界面層の粒径差を低減する。
【0041】
(4)正極板を焼成し、圧延した後に特定のサイズに切断して使用に備え、上記正極活物質層における主正極材料の表面密度に対する上記第1層の正極活物質サブ層、第2層の正極活物質サブ層、第3層の正極活物質サブ層及び第4層の正極活物質サブ層における主正極材料の占有率は、それぞれ8.0%、45.0%、38.0%及び9.0%であり、正極活物質層の表面密度は、420g/m
2である。上記4層の正極活物質サブ層におけるLiNi
0.83Co
0.13Mn
0.04O
2のD
50粒径は、以下を満たす。
【数5】
【実施例2】
【0042】
実施例1と同じ方法で正極板を製造し、相違点は、選択された正極活物質サブ層を製造する層状正極材料のD50粒径が3種であり、第1層の正極活物質サブ層、第2層の正極活物質サブ層及び第3層の正極活物質サブ層における層状正極材料のD50粒径がそれぞれ2.0μm、6.5μm、15.0μmであり、3層における層状正極材料のD50粒径が関係式1を満たすことであり、他の条件が実施例1と同じであり、正極板を製造する。
【実施例3】
【0043】
実施例1と同じ方法で正極板を製造し、相違点は、選択された正極活物質サブ層を製造する層状正極材料のD50粒径が5種であり、第1層の正極活物質サブ層、第2層の正極活物質サブ層、第3層の正極活物質サブ層、第4層の正極活物質サブ層及び第5層の正極活物質サブ層における層状正極材料のD50粒径がそれぞれ0.5μm、1.5μm、4.5μm、8.0μm、18.0μmであり、5層における層状正極材料のD50粒径が関係式1を満たすことであり、他の条件が実施例1と同じであり、正極板を製造する。
【実施例4】
【0044】
実施例1と同じ方法で正極板を製造し、相違点は、選択されたリン酸鉄リチウムのD50粒径=125nmであることであり、正極板を製造する。
【実施例5】
【0045】
実施例1と同じ方法で正極板を製造し、相違点は、選択されたリン酸鉄リチウムのD50粒径=300nmであることであり、正極板を製造する。
【実施例6】
【0046】
実施例1と同じ方法で正極板を製造し、相違点は、選択された層状正極材料がコバルト酸リチウム及びニッケルコバルトアルミン酸リチウムであり、両者のモル比が1:1であることであり、正極板を製造する。
【実施例7】
【0047】
実施例1と同じ方法で正極板を製造し、相違点は、正極活物質材料におけるリン酸鉄リチウムの含有量が15.0%であることであり、正極板を製造する。
【実施例8】
【0048】
実施例1と同じ方法で正極板を製造し、相違点は、正極活物質材料におけるリン酸鉄リチウムの含有量が2.0%であることであり、正極板を製造する。
【実施例9】
【0049】
実施例1と同じ方法で正極板を製造し、相違点は、正極活物質材料におけるポリアニオンがリン酸鉄マンガンリチウムであることであり、正極板を製造する。
(比較例1)
【0050】
実施例1と同じ方法で正極板を製造し、相違点は、正極活物質材料においてD50=5.4μmのLiNi0.83Co0.13Mn0.04O2のみが含有されることであり、正極板を製造する。
(比較例2)
【0051】
実施例1と同じ方法で正極板を製造し、相違点は、正極活物質材料においてポリアニオン正極材料が含有されていないことであり、正極板を製造する。
(比較例3)
【0052】
実施例1と同じ方法で正極板を製造し、相違点は、正極活物質材料においてD50=5.4μmのLiNi0.83Co0.13Mn0.04O2のみが含有され、正極活物質材料においてポリアニオン正極材料が含有されていないことであり、正極板を製造する。
(比較例4)
【0053】
実施例1と同じ方法で正極板を製造し、相違点は、選択された正極活物質サブ層を製造する層状正極材料のD50粒径が4種であり、第1層の正極活物質サブ層、第2層の正極活物質サブ層、第3層の正極活物質サブ層及び第4層の正極活物質サブ層におけるLiNi0.83Co0.13Mn0.04O2のD50粒径がそれぞれ0.6μm、3.0μm、7.0μm、20.0μmであり、正極板を製造する。
【0054】
上記実施例1~実施例9及び比較例1~比較例4中の正極板を用いていずれも以下の方法に従って、対応する電池を製造する。正極板をセパレータ及び負極板と順に積層して、ベアセルを得て、次にセルをケースに入れて、焼成し乾燥した後、電解液を注入し、溶接して密封し、高温老化、化成、エージングなどの工程を経て電池を得る。
【0055】
上記実施例1~実施例9及び比較例1~比較例4における正極板を用いて対応して製造された電池に対して、インピーダンス性能テスト、レート性能テスト、サイクル性能テスト、安全性能テスト及び荷電状態性能テストを含む性能テストを行い、具体的なデータを
図1及び表1に示す。
【0056】
インピーダンス性能テスト方法において、25℃で、0.2Cの定電流定電圧で満充電にし、放置した後にさらに0.2Cの定電流で2.5Vまで放電し、3回繰り返し、3回目の放電容量をC0とし、0.2C0の電流で電池を50%のSOCまで調整し、さらに1.5Cの定電流放電を30sテストし、インピーダンス値の大きさを算出する。
【0057】
レート性能テスト方法において、25℃で、0.2Cの定電流定電圧で満充電にし、放置した後にさらに0.2Cの定電流で2.5Vまで放電し、3回繰り返し、3回目の放電容量をC0とし、0.2C0、5.0C0の定電流定電圧で満充電にし、さらに同じ大きさの電流で完全に放電し、0.2C0の放電用量を基準とし、5.0C0の放電容量とその比率を、レート性能を評価する指標とする。
【0058】
サイクル性能テスト方法において、25℃で、0.2Cの定電流定電圧で満充電にし、放置した後にさらに0.2Cの定電流で2.5Vまで放電し、3回繰り返し、3回目の放電容量をC0とし、45℃の環境下で、1.0C0の定電流定電圧で満充電にし、さらに1.0C0の定電流で放電し、このように500サイクルをサイクルし、容量保持率を記録する。
【0059】
安全性能テスト方法において、DSCテスト電極の安定性を、安全性能を評価する指標とし、電池を満充電にし、グローブボックス内に正極板を取り出し、適量の正極材料を掻き取ってるつぼに入れ、さらに一定量の電解液を添加し、機器に移し、テスト雰囲気が純アルゴンガスであり、昇温速度が2℃/minであり、それぞれ熱暴走開始温度、熱暴走ピーク温度及び放熱電力を記録する。
【0060】
荷電状態(state of charge、SOC)性能テスト方法において、2.0Cの電流で電池を迅速に満充電にし、グローブボックス内に正極板を取り出し、Arイオンビームで切断して極板断面を得て、さらにラマンスペクトルに置いて断面走査を行い、異なる金属と酸素/異なる価数金属と酸素の振動レベルが異なり、ラマンスペクトルでのピーク位置、ピーク型、ピーク強度が異なり、550cm-1ピークと470cm-1ピークの面積比率を、SOC状態を評価する指標とすることにより、走査面積内の各点の比率を得ることができ、すなわち、面積内のSOC分布状況を得ることができ、さらに面積内のSOCの平均値を求め、該極板の実際のSOC状態を特徴付ける。
【0061】
図1に示すように、
図1における左側は、実施例1に従って製造された電池のSOC分布状況であり、
図1における右側は、比較例3に従って製造された電池のSOC分布状況であり、実施例1の製造された正極板におけるSOC分布が明らかに均一であることが分かり、正極板の分極がより小さく、リチウムイオンの挿入/脱出に役立つことを説明する。
【0062】
【0063】
表1から分かるように、実施例1~実施例9の効果は、比較例1~4の効果より高く、一実施例において、実施例1~実施例9において電池インピーダンスの面で、電池インピーダンス値が最低で151m・Ωに達することができ、電池インピーダンス値が低いほど電池の導電性能が高くなることを示し、レート性能の面で、レート比率が最高で99.3%であり、最低で86.2%であり、レート比率が高いほど電池の異なるレートでの電気化学性能が安定し、すなわち、レート性能が高くなることを示し、サイクル性能の面で、サイクル容量保持率が最高で93.2%であり、最低で82.0%であり、サイクル容量保持率が高いほど電池性能が安定し、耐用年数が長くなり、安全性能の面で、熱暴走開始温度が最高で204.2℃であり、熱暴走ピーク温度が最高で210.2℃であり、放熱電力が最低で948.4J/gであり、熱暴走開始温度及び熱暴走ピーク温度が高いほど電池が耐高温で、安全になることを示し、放熱電力が低いほど電池が発熱しにくく、安全になることを示し、SOCの面で、最高で98.7%であり、SOC比率が高いほど、正極板におけるSOCがより均一であることを示す。
【0064】
比較例1に対して、比較例1における正極活物質層における層状正極材料の粒子の粒径が1種しかなく、実施例1のように関係式1の粒径大きさ分布を用いないため、製造された電池は、インピーダンス、レート、サイクル容量保持率、安全性能及びSOCの面でいずれも実施例1より悪く、比較例1における電池インピーダンスが195m・Ωであり、実施例1より大きく、電池の導電性能が低下することを示し、レートが87.8%のみであり、容量保持率が76.8%のみであり、熱暴走開始温度及び熱暴走ピーク温度が実施例1より低く、放熱機能は、実施例1より高く、SOC比率が実施例1より低い。
【0065】
比較例2に対して、比較例2にポリアニオン正極材料が添加されておらず、正極板の圧縮密度に影響を与え、さらに正極板の導電性能に影響を与え、比較例2のデータから分かるように、比較例2で製造された電池は、インピーダンス、レート、サイクル容量保持率、安全性能及びSOCの面で、いずれも実施例1より低い。
【0066】
比較例3に対して、比較例3において1種の粒径の大きさの粒子のみがあり、ポリアニオン正極材料が添加されておらず、比較例3のデータから分かるように、比較例3で製造された電池は、インピーダンス、レート、サイクル容量保持率、安全性能及びSOCの面で、いずれも実施例1より低い。
【0067】
比較例4に対して、比較例4において、4層の正極活物質サブ層におけるLiNi0.83Co0.13Mn0.04O2のD50粒径が本開示の関係式1を満たさず、つまり、各層の間の粒子粒径の大きさが関係式1における規則性分布を呈しておらず、比較例4のデータから分かるように、比較例4で製造された電池は、インピーダンス、レート、サイクル容量保持率、安全性能及びSOCの面で、いずれも実施例1より低く、これは、本開示における関係式1に基づいて、各正極活物質サブ層におけるLiNi0.83Co0.13Mn0.04O2のD50粒径を設定することにより電池の電気性能を向上させることができることを説明する。
【0068】
実施例5を実施例1及び実施例4と比較して分かるように、D50粒径≦200nmのリン酸鉄リチウムを用いて製造された正極板の性能効果がより高い。
【0069】
実施例7及び実施例8を実施例1と比較して分かるように、正極活物質材料に占める質量百分率が6.5%であるリン酸鉄リチウム正極材料を用いて製造された正極板の性能効果がより高く、本開示は、より多くの実験データにより、補助正極材料が上記正極活物質層における正極活物質材料の質量の4.0%~12.0%を占める時に製造された正極板の性能が優れることを発見する。
【0070】
以上より、表1における実施例及び比較例の実験結果から分かるように、本開示の関係式1の粒径分布を満たす正極板に応じて、正極板の厚さ方向及び大小粒子の間のSOC状態の違いによる分極を低減することができ、リチウム挿入の不均一による分極を除去し、電池のインピーダンスを低下させ、レート及びサイクル性能を向上させることができる。ポリアニオン正極材料が優れた構造安定性を有し、複合使用により、サイクル性能を向上させるだけでなく、安全性能(熱安定性)も改善される。
【0071】
上述した実施例は、単に本開示のいくつかの実施形態を示し、その説明が具体的で詳細であるが、本開示の特許範囲を限定するものと理解すべきではない。なお、当業者にとっては、本開示の構想から逸脱しない前提で、さらにいくつかの変形及び改良を行うことができ、これらは、いずれも本開示の保護範囲に属する。したがって、本開示の特許の保護範囲は、添付された特許請求の範囲を基準とすべきである。