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特許7596433ターボ過給機を有する大型ターボ過給式2ストローク内燃機関及びこれを動作させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】ターボ過給機を有する大型ターボ過給式2ストローク内燃機関及びこれを動作させる方法
(51)【国際特許分類】
   F02B 37/00 20060101AFI20241202BHJP
   F02B 37/007 20060101ALI20241202BHJP
   F02B 37/02 20060101ALI20241202BHJP
   F02B 37/12 20060101ALI20241202BHJP
   F02B 37/22 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
F02B37/00 400C
F02B37/007
F02B37/02 D
F02B37/12 303G
F02B37/22
【請求項の数】 13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023068235
(22)【出願日】2023-04-19
(65)【公開番号】P2023162135
(43)【公開日】2023-11-08
【審査請求日】2024-05-02
(31)【優先権主張番号】PA202270220
(32)【優先日】2022-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】ウィンヴェア リッケ
(72)【発明者】
【氏名】イェンスン キム
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/162840(WO,A1)
【文献】特開昭48-082214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 33/00-41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユニフロー型の大型ターボ過給式2ストローク内燃機関であって、
それぞれ下端部に掃気ポートを有すると共に上端部に排気弁を有する複数のシリンダと、
前記掃気ポートを通じて前記シリンダに接続される掃気受けを有し、自身を通じて前記シリンダに掃気が導入される吸気系と、
前記排気弁を通じて前記シリンダに接続される排気受けを有し、前記シリンダ内で生じた排気が自身を通じて排出される排気系と、
コンプレッサーを作動させるように前記コンプレッサーに結合される排気駆動型のタービンと、前記タービンの入口であって前記排気系に接続される入口と、前記コンプレッサーの出口であって、前記掃気受けに加圧された掃気流を届けるために前記吸気系に接続される出口とをそれぞれ有する、複数のターボ過給機と、
を備え、
前記複数のターボ過給機の少なくとも1つは選択的に作動・停止可能なターボ過給機であり、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機は、
電子制御式のタービン制御弁経由で前記排気受けに選択的に接続される、作動・停止可能なタービンと、
作動・停止可能なコンプレッサーと、
を有し、
前記作動・停止可能なコンプレッサーの出口は選択的に、電子制御式のコンプレッサー制御弁によって前記吸気系に接続し、また、前記コンプレッサー制御弁の上流で前記作動・停止可能なコンプレッサーの前記出口に繋がっている、電子制御式のエア抜き弁によって外気に接続し、
前記エア抜き弁は、前記エア抜き弁を通る気体の流れに対して制御可能な可変制限部を形成する可変弁であり、
前記機関は更にコントローラを備え、該コントローラは、前記タービン制御弁と、前記コンプレッサー制御弁と、前記エア抜き弁とに組み合わされ、
前記コントローラは更に、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機を始動するときに、
・ 前記タービン制御弁を閉状態から開状態へ移行させ、
・ 前記コンプレッサー制御弁を閉状態から開状態へ移行させ、
・ 前記エア抜き弁を、
・ 前記作動・停止可能なコンプレッサーの前記出口における測定した又は推定した圧力、
・ 前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の測定した又は推定した回転速度、
の2つの関数として、開状態から閉状態へ向けて連続的に移行させる、
ように構成され
前記コントローラは更に、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の所定の回転速度に対する、前記作動・停止可能なコンプレッサーの前記出口における目標圧力を通知され、ただし前記目標圧力は、前記所定の回転速度において前記作動・停止可能なコンプレッサーが最高の効率を有する圧力に対応する、
機関。
【請求項2】
前記コントローラは、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機を停止するときに、
・ 前記コンプレッサー制御弁を開状態から閉状態へ移行させ、
・ 前記タービン制御弁を開状態から閉状態へ移行させ、
・ 前記エア抜き弁を、
・ 前記作動・停止可能なコンプレッサーの前記出口における測定した又は推定した圧力、
・ 前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の測定した又は推定した回転速度、
の少なくとも1つの関数として、開状態へと連続的に移行させる、
ように構成される、請求項1に記載の機関。
【請求項3】
前記関数は、前記作動・停止可能なコンプレッサーの出口における実際の圧力が、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の実際の回転速度に対する前記目標圧力に対応することになる位置に、前記エア抜き弁を動かすようにする、請求項に記載の機関。
【請求項4】
前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の所与の回転速度に対する前記目標圧力は、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の同じ所与の回転速度で前記作動・停止可能なコンプレッサーがサージする圧力からサージマージンだけ離れている、請求項に記載の機関。
【請求項5】
前記作動・停止可能なコンプレッサーの出口における圧力を表す信号を提供するように構成される圧力センサと、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の回転速度を表す信号を提供するように構成される速度センサとのうち少なくとも1つを備える、請求項に記載の機関。
【請求項6】
前記コントローラは、前記速度センサからの信号に基づいて前記目標圧力を決定するように構成される、請求項に記載の機関。
【請求項7】
前記コントローラは、前記目標圧力と前記圧力センサからの信号との差を決定し、前記差の関数として前記エア抜き弁の設定値を決定するように構成される、請求項に記載の機関。
【請求項8】
前記コントローラは、前記差の関数として、前記タービン制御弁及び/又は前記コンプレッサー制御弁の設定値を決定するように構成される、請求項に記載の機関。
【請求項9】
前記タービン制御弁は、前記作動・停止可能なタービンの上流に配置され、及び/又は、前記コンプレッサー制御弁は、前記作動・停止可能なコンプレッサーの下流に配置され、及び/又は、前記エア抜き弁は、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機のコンプレッサーの下流で前記コンプレッサー制御弁の上流にあるエア抜き管に配置される、請求項1に記載の機関。
【請求項10】
前記コントローラは、前記機関の動作条件の関数として、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機を作動及び停止させるように構成される、請求項1に記載の機関。
【請求項11】
前記コンプレッサー制御弁は、前記コンプレッサー制御弁を通るガスの流れに対して制御可能な可変制限部を形成する可変弁であり、
前記コントローラは、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機を始動するときに、
・ 前記作動・停止可能なコンプレッサーの前記出口における測定した又は推定した圧力、
・ 前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の測定した又は推定した回転速度、
の2つの関数として、前記コンプレッサー制御弁を閉状態から開方向に動かすように構成される、請求項1に記載の機関。
【請求項12】
ユニフロー型の大型ターボ過給式2ストローク内燃機関の動作方法であって、前記機関は、
それぞれ下端部に掃気ポートを有すると共に上端部に排気弁を有する複数のシリンダと、
前記掃気ポートを通じて前記シリンダに接続される掃気受けを有し、自身を通じて前記シリンダに掃気が導入される吸気系と、
前記排気弁を通じて前記シリンダに接続される排気受けを有し、前記シリンダ内で生成した排気が自身を通じて排出される排気系と、
コンプレッサーを作動させるように前記コンプレッサーに結合される排気駆動型のタービンと、前記タービンの入口であって前記排気系に接続される入口と、前記コンプレッサーの出口であって、前記掃気受けに加圧された掃気流を届けるために前記吸気系に接続される出口とをそれぞれ有する、複数のターボ過給機と、
を備え、
前記複数のターボ過給機の少なくとも1つは選択的に作動・停止可能なターボ過給機であり、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機は、
電子制御式のタービン制御弁により前記排気受けに選択的に接続される、作動・停止可能なタービンと、
作動・停止可能なコンプレッサーと、
を有し、
前記作動・停止可能なコンプレッサーの出口は選択的に、電子制御式のコンプレッサー制御弁によって前記吸気系に接続し、また、前記コンプレッサー制御弁の上流で前記作動・停止可能なコンプレッサーの前記出口に繋がっている、電子制御式のエア抜き弁によって外気に接続し、
前記エア抜き弁は、前記エア抜き弁を通る気体の流れに対して制御可能な可変制限部を形成する可変弁であり、
前記方法は、
前記作動・停止可能なコンプレッサーの出口における圧力と、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の回転速度の少なくとも一方を測定又は推定することと;
前記少なくとも1つの選択的に作動・停止可能なターボ過給機を始動することであって、
・ 前記タービン制御弁を閉状態から開状態へ移行させ、
・ 前記コンプレッサー制御弁を閉状態から開状態へ移行させ、
・ 前記エア抜き弁を、前記少なくとも1つの選択的に作動・停止可能なターボ過給機を始動する間に、
・ 前記作動・停止可能なコンプレッサーの前記出口における測定した又は推定した圧力、
・ 前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の測定した又は推定した回転速度、
の少なくとも1つの関数として、開状態から閉状態へと連続的に移行させる、
ことによって始動することと;
前記作動・停止可能なコンプレッサーの前記出口における前記測定した又は推定した圧力と、前記作動・停止可能なコンプレッサーの前記出口における目標圧力とを比較し、前記比較の結果に基づいて前記エア抜き弁を制御することと;
を含み、ただし前記目標圧力は、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の所定の回転速度において前記作動・停止可能なコンプレッサーが最高の効率を有する圧力に対応する、方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの選択的に作動・停止可能なターボ過給機を停止することであって、
・ 前記コンプレッサー制御弁を開状態から閉状態へ移行させ、
・ 前記タービン制御弁を開状態から閉状態へ移行させ、
・ 前記エア抜き弁を、
・ 前記作動・停止可能なコンプレッサーの前記出口における測定した及び/又は推定した圧力、
・ 前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の測定した及び/又は推定した回転速度、
の少なくとも1つの関数として、閉状態から開状態へと連続的に移行させる、
ことによって停止することを含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の開示事項は、掃気空気を供給するための複数の排気駆動式ターボ過給機を備える大型2ストローク内燃機関、及びこのような機関を動作させる方法に関する。
【背景】
【0002】
ターボ過給式大型2ストローク内燃機関は、大型船舶の推進システムや、発電プラントの原動機としてしばしば用いられる。その大きさや重量、出力は、このタイプの圧縮内燃機関を他の燃焼機関からかけ離れたものとしており、このタイプの圧縮内燃機関を独特の分類に位置づけている。これらの機関は、高さが増すことがあまり問題にならないので、ピストンに側圧がかからないようにクロスヘッドを用いて構成される。通常、このような機関は天然ガスや石油ガス、メタノール、エタン、(重)燃料油で運転される。
【0003】
ターボ過給式大型2ストローク内燃機関は、圧縮着火、すなわちディーゼル原理により動作させられる場合と、ピストンの下死点(BDC)から上死点(TDC)までのストローク中に掃気ガスを燃料と混合させる予混合機関、すなわちオットー原理により動作させられる場合とがある。
【0004】
このような機関において、単一の機関負荷に対してターボ過給機の性能を最適化することは、比較的簡単である。しかし、ターボ過給式大型2ストローク内燃機関は、幅広い機関負荷と動作条件で動作する必要があり、単一の(非可変ジオメトリー)ターボ過給機しか搭載しない場合、幅広い機関負荷で最適なターボ過給効率を達成することは困難である。可変ジオメトリーターボ過給機は、問題の一部を軽減することができるが、コストやメンテナンス、複雑さの増加などのデメリットがある。例えば、部分負荷時の機関効率を最適化する場合、部分負荷時の掃気圧を高めることができることが有効であることが分かっている。そのため、排気バイパスを使用して掃気圧に影響を与えることが一般的になっている。その効果は、バイパスを開放している状態で、ターボ過給機を、100%負荷時という特定の圧力に適合させることで得られる。しかし、排気ガスの一部がターボ過給機のタービンをバイパスするため、ターボ過給機の能力は低下する。シリンダから見ると、これは効率の悪いターボ過給機を使うことになり、結果的に掃気にも悪影響が出る。部分負荷時にバイパスを閉じると、ターボ過給機のタービンは利用可能な排ガスマスフローの全部を受け取り、より高い空気マスフローに変換するため、部分負荷時の掃気圧は高くなる。しかしながら、高負荷時における掃気の減少は、もちろん望ましいものではない。この問題を回避する1つの方法は、複数のターボ過給機を搭載し、ターボ過給機の1つ又は複数を選択的に使用することであり、機関負荷に応じて最も優れた性能をもたらす方法で、全ターボ過給機能力の選択された割合を使用することである。ターボ過給機を選択的に始動及び停止させることにより、動作中の1つ又は複数のターボ過給機は常に全ての排気ガスパワーを獲得し、高負荷時の掃気品質の低下が回避される。作動・停止されるターボ過給機は、残りのターボ過給機と同じサイズ(容量)とは限らない(ここで残りのターボ過給機とは、常にアクティブ化されているターボ過給機を意味する)。選択的に始動及び停止されるターボ過給機の相対的なサイズ/容量は、掃気空気圧力に対する効果の所望の大きさに従って選択される。
【0005】
従って、複数のターボ過給機を搭載し、その動作台数を制御すれば、広い機関負荷範囲で高いターボ過給機効率を実現できるため、単一(非可変ジオメトリ)のターボ過給機に比べて燃費が向上し、機関動作コストや環境負荷が低減できる。
【0006】
ターボ過給機を停止させたとき、100%の機関負荷が可能であるとは限らない。残りのターボ過給機は、排ガスの全量を扱うのに十分な容量がない。これは、ターボ過給機は比較的高い負荷で作動させる必要があることを意味し、典型的には、機関負荷が最大機関負荷(最大連続定格)に向かうときに、最大機関負荷(最大連続定格)の50%から75%の間に作動させる。同じことが、ターボ過給機を休止させる逆のプロセスにも当てはまり、これも通常、同様または同じ比較的高い機関負荷で実行する必要がありる。
【0007】
しかし実際には、カットインとアウトの間、ターボ過給機のコンプレッサーの動作点をコンプレッサーダイアグラム内に維持することが重要であるため、このような高い機関負荷でターボ過給機を作動又は停止させることは困難であることが知られている。現在の圧力比に対してターボ過給機の回転数が低くなりすぎると、コンプレッサーはサージ/ストールに追い込まれる。サージとは、コンプレッサー内の定常流の破壊のことである。これは通常、低流量で発生するサージは、コンプレッサーが設計値から外れて動作すると発生し、ターボ過給機全体に影響を及ぼし、空力的にも機械的にも好ましくない。ターボ過給機を損傷する可能性もある。サージは高温、高振動をもたらすだけでなく、フローの逆流を生じうる。すなわちフローが反転し、コンプレッサーサイレンサーの外に出てしまうことになりうる。その結果、ターボ過給機の機械部品に高い負荷がかかる。1回のサージ/ストールでターボ過給機が致命的になることはないが、長期間にわたって多くのサージ/ストールが発生すると、ターボ過給機の信頼性が損なわれるだろう。
【0008】
本願の技術分野ではこの問題は解決されていない。すなわち、コンプレッサー作動点をコンプレッサーダイアグラム中の所望の位置又は領域に維持することができない。このため本願の技術分野では、比較的低い機関負荷、典型的には最大連続定格のおよそ10%でターボ過給機を始動及び停止することによって、この問題を回避してきた。しかしながら、これは、ターボ過給機の始動又は停止の度に、機関を10%の機関負荷まで減速させる必要があることを意味し、これは、実際には非常に望ましくなく、しばしば不可能である。例えば、機関が外航船舶の主推進機として用いられる場合、例えば65%以上の機関負荷で動作できるようになる前に、機関を10%の機関負荷まで減速させる必要があることは、好ましくない。
【0009】
US2010/0281862は、複数のターボ過給機を備えた船舶用機関を開示している。この機関では、ターボ過給機は、単一動作から並列動作、又は並列動作から単一動作に切り替えられ、始動又は停止されるターボ過給機のサージが防止されると記載されている。この舶用ディーゼル機関は、機関本体に搭載された排気マニホールドがタービン部に連絡する排気管と、排気管のどこかに接続されたタービン入口弁と、コンプレッサー部が機関本体に搭載された供給マニホールドに連絡する供給管と、供給管のどこかに接続されてコンプレッサー部の出口圧力以上になると開放状態になる逆止弁と、一端がコンプレッサー部と逆止弁との間の供給管のどこかに接続されたエア抜き管と、エア抜き管のどこかに接続されたエア抜き弁とを備える。エア抜き弁は、ターボ過給機の始動時にタービンインレットバルブがほぼ開位置に達した時点で閉じられ、ターボ過給機の停止時にタービンインレットバルブが閉じ始める直前で開かれる。ところが本願の発明者によるテストでは、US2010/0281862の教示に従っても、ターボ過給機のサージは確実に防止されないことが示された。
【0010】
特開2015162840A1号公報に開示される機関は、主過給機と補助過給機が作動する状態から出発して、主過給機を作動させたまま、補助タービン入口弁と補助コンプレッサー出口弁を閉じ、補助過給機を停止する。また、過給機の動作台数を減らす際に、補助過給機の回転数に基づいて所定のサージマージンを有する停止時基準圧力を決定し、補助コンプレッサーの出口圧力が停止時基準圧力より高いときにブローオフバルブを開き、補助コンプレッサーの出口圧力が停止時基準圧力より低いときにブローオフバルブを閉じる。
【摘要】
【0011】
本発明の目的は、ターボ過給機のサージ/ストールのリスクを最小限に抑えつつ、比較的高い機関負荷でターボ過給機の作動/停止を可能にする、ユニフロー型の大型ターボ過給式2ストローク内燃機関を提供することにある。
【0012】
この目的や他の目的が、本願の開示事項の特徴により達成される。可能な様々な実装形態が、明細書及び図面から明らかになるだろう。
【0013】
第1の捉え方によれば、次のような、ユニフロー型の大型ターボ過給式2ストローク内燃機関が提供される。この機関は、
それぞれ下端部に掃気ポートを有すると共に上端部に排気弁を有する複数のシリンダと、
前記掃気ポートを通じて前記シリンダに接続される掃気受けを有し、自身を通じて前記シリンダに掃気ガスが導入される吸気系と、
前記排気弁を通じて前記シリンダに接続される排気受けを有し、前記シリンダ内で生成した排気が自身を通じて排出される排気系と、
コンプレッサーを作動させるように前記コンプレッサーに結合される排気駆動型のタービンと、前記タービンの入口であって前記排気系に接続される入口と、前記コンプレッサーの出口であって、前記掃気受けに加圧された掃気流を届けるために前記吸気系に接続される出口とをそれぞれ有する、複数のターボ過給機と、
を備え、
前記複数のターボ過給機の少なくとも1つは選択的に作動・停止可能なターボ過給機であり、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機は、
電子制御式のタービン制御弁により前記排気受けに選択的に接続される、作動・停止可能なタービンと、
作動・停止可能なコンプレッサーと、
を有し、
前記作動・停止可能なコンプレッサーの出口は選択的に、電子制御式のコンプレッサー制御弁によって前記吸気系に接続し、また、前記コンプレッサー制御弁の上流で前記作動・停止可能なコンプレッサーの前記出口に繋がっている、電子制御式のエア抜き弁によって外気に接続し、
前記エア抜き弁は、前記エア抜き弁を通る気体の流れに対して制御可能な可変制限部を形成する可変バルブであり、
前記機関は更にコントローラを備え、前記コントローラは、前記タービン制御弁と、前記コンプレッサー制御弁と、前記エア抜き弁とに組み合わされ、
前記コントローラは更に、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機を始動するときに、
前記タービン制御弁を閉状態から開状態へ移行させ、
前記コンプレッサー制御弁を閉状態から開状態へ移行させ、
前記エア抜き弁を、前記作動・停止可能なコンプレッサーの前記出口における測定した又は推定した圧力と、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の測定した又は推定した回転速度とのうちの少なくとも1つの関数として、閉状態へと連続的に移行させる、
ように構成される。
【0014】
前記エア抜き弁を前記関数に従って開状態から閉状態へと連続的に移行させることにより、前記作動・停止可能なコンプレッサーの前記出口の圧力を制御することが可能となり、ひいては、前記作動・停止可能なコンプレッサーの(上流側と下流側の)圧力比をあるレベルに制御することが可能となる。このレベルとは、コンプレッサーの圧力比とターボ過給機又はコンプレッサーの回転数との組み合わせで定義されるコンプレッサー動作点が、コンプレッサーがサージ/ストールを起こす動作点まで一定の距離だけ離れているレベルであり、すなわち、サージ/ストールまでのマージンを有するレベルである。従って、前記作動・停止可能なコンプレッサーの始動時に当該コンプレッサーにサージ/ストールが生じるリスクを著しく軽減することができる。
【0015】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記関数は、前記作動・停止可能なコンプレッサーの動作点であって、サージやストールから安全な距離にあることが分かっている動作点から導き出される。
【0016】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記関数は、コンプレッサーの特性、例えば、作動・停止可能なコンプレッサーに関連するコンプレッサーダイアグラムに定義されているコンプレッサーの特性から得られる。
【0017】
作動・停止可能なコンプレッサーの出口における圧力をコンプレッサーダイアグラムから得られる関数として制御することにより、ストールやサージの発生を防止するか、少なくとも低減するようにターボ過給機の始動を制御することが可能になる。
【0018】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記コントローラは、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機を停止するときに、
前記コンプレッサー制御弁を開状態から閉状態へ移行させ、
前記タービン制御弁を、好ましくは前記コンプレッサー制御弁が閉じた後に、開状態から閉状態へ移行させ、
前記エア抜き弁を、前記作動・停止可能なコンプレッサーの前記出口における測定した及び/又は推定した圧力と、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の測定した及び/又は推定した回転速度とのうちの少なくとも1つの関数として、前記エア抜き弁を開状態へと移行させる、
ように構成される。
【0019】
前記エア抜き弁を前記関数に従って閉状態から開状態へと連続的に移行させることにより、前記作動・停止可能なコンプレッサーの前記出口の圧力を制御することが可能となり、ひいては、前記作動・停止可能なコンプレッサーの(上流側と下流側の)圧力比をあるレベルに制御することが可能となる。このレベルとは、圧力比とターボ過給機の回転数との組み合わせで定義されるコンプレッサー動作点が、コンプレッサーがサージ/ストールを起こす動作点まで一定の距離だけ離れているレベルであり、すなわち、サージ/ストールまでのマージンを有するレベルである。従って、前記作動・停止可能なコンプレッサーの停止時に当該コンプレッサーにサージ又はストールが生じるリスクを著しく軽減することができる。
【0020】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記コントローラは、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機のある回転速度範囲において、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の所定の回転速度に対する、前記始動・停止可能なコンプレッサーの出口における目標圧力を通知される。
【0021】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記コントローラは、前記作動・停止可能なコンプレッサーの出口における実際の圧力が、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の実際の回転速度に対する前記目標圧力に対応することになる位置に、前記エア抜き弁を動かすようにする。前記作動・停止可能なコンプレッサーの出口の実際の圧力が前記目標圧力に対応するようにすることで、動作点を最適な位置、例えばコンプレッサーの最高効率に対応する位置に維持することが可能になる。また、前記作動・停止可能なコンプレッサーの動作点を最適な動作位置又はその近くに維持することによって、ストールのリスクも大幅に低減される。
【0022】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の所与の回転速度に対する前記目標圧力は、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の同じ所与の回転速度で前記作動・停止可能なコンプレッサーがサージする圧力からサージマージンだけ離れている。
【0023】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記選択的に作動可能なターボ過給機の所与の回転速度における前記目標圧力は、前記選択的に作動可能なターボ過給機の同じ所与の回転速度において、前記作動・停止可能なコンプレッサーが最高の効率を有する圧力に対応する。
【0024】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記機関は、前記作動・停止可能なコンプレッサーの出口における圧力を表す信号を提供する圧力センサと、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の回転速度を表す信号を提供するように構成される速度センサとを備える。
【0025】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記コントローラは、前記速度センサからの信号に基づいて前記目標圧力を決定するように構成される。
【0026】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記コントローラは、前記目標圧力と前記圧力センサからの信号との差を決定し、前記差の関数として前記エア抜き弁の設定値を決定するように構成される。
【0027】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記コントローラは、前記設定値からの、前記決定された差の関数として、前記タービン制御弁及び/又は前記コンプレッサー制御弁の設定値を決定するように構成される。
【0028】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記タービン制御弁は、前記作動・停止可能なタービンの上流に配置され、及び/又は、前記コンプレッサー制御弁は、前記作動・停止可能なコンプレッサーの下流に配置され、及び/又は、前記エア抜き弁は、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機のコンプレッサーの下流で前記コンプレッサー制御弁の上流にあるエア抜き管に配置される。
【0029】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の推定圧力及び/又は推定回転速度は、1つ又は複数の試験及び/又はシミュレーション、又は経験から得られた、予め格納されている値である。
【0030】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記機関はシリンダに燃料を供給するための燃料系を備える。
【0031】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記タービン制御弁は、作動・停止可能なタービンへの排ガスの流れを制御するように構成される。
【0032】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記コンプレッサー制御弁は、前記作動・停止可能なコンプレッサーから前記掃気受けへの掃気ガスの流れを制御するように構成される。
【0033】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記機関は、前記掃気受け内の掃気ガス圧力を検知するための圧力センサ及び/又は前記掃気受け内の掃気圧力を推定するための観測装置を備える。
【0034】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記コントローラは、機関の動作条件の関数として、好ましくは機関負荷、掃気圧又は負荷設定点の関数として、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機を作動・停止するように構成される。
【0035】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記コントローラは、検知された若しくは観測された掃気圧、及び/又は、検知された若しくは観測された排気温度の関数として、実際の機関ターボ過給効率を決定するように構成される。ここで、「機関ターボ過給効率」との用語は、周囲条件に関わらず、機関により経験された又は感じられたターボ過給効率を表す。
【0036】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記コンプレッサー制御弁は、前記コンプレッサー制御弁を通るガスの流れに対して制御可能な可変制限部を形成する可変弁であり、前記コントローラは、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機を始動するときに、前記作動・停止可能なコンプレッサーの前記出口における測定した又は推定した圧力と、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の測定した又は推定した回転速度と次の2つの関数として、前記コンプレッサー制御弁を開方向に動かすように構成される。
【0037】
第2の捉え方によれば、ユニフロー型の大型ターボ過給式2ストローク内燃機関を動作させる方法が提供される。ここで前記機関は、
それぞれ下端部に掃気ポートを有すると共に上端部に排気弁を有する複数のシリンダと、
前記掃気ポートを通じて前記シリンダに接続される掃気受けを有し、自身を通じて前記シリンダに掃気が導入される吸気系と、
前記排気弁を通じて前記シリンダに接続される排気受けを有し、前記シリンダ内で生成した排気が自身を通じて排出される排気系と、
コンプレッサーを作動させるように前記コンプレッサーに結合される排気駆動型のタービンと、前記タービンの入口であって前記排気系に接続される入口と、前記コンプレッサーの出口であって、前記掃気受けに加圧された掃気流を届けるために前記吸気系に接続される出口とをそれぞれ有する、複数のターボ過給機と、
を備え、
前記複数のターボ過給機の少なくとも1つは選択的に作動・停止可能なターボ過給機であり、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機は、
電子制御式のタービン制御弁経由で前記排気受けに選択的に接続される、作動・停止可能なタービンと、
作動・停止可能なコンプレッサーと、
を有し、
前記作動・停止可能なコンプレッサーの出口は選択的に、電子制御式のコンプレッサー制御弁によって前記吸気系に接続し、また、前記コンプレッサー制御弁の上流で前記作動・停止可能なコンプレッサーの前記出口に繋がっている、電子制御式のエア抜き弁によって外気に接続し、
前記エア抜き弁は、前記エア抜き弁を通る気体の流れに対して制御可能な可変制限部を形成する可変弁であり、
そして前記方法は、
前記作動・停止可能なコンプレッサーの出口における圧力と、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の回転速度の少なくとも一方を測定又は推定することと;
前記少なくとも1つの選択的に作動・停止可能なターボ過給機を始動することとであって、
・ 前記タービン制御弁を閉状態から開状態へ移行させ、
・ 前記コンプレッサー制御弁を、好ましくは前記タービン制御弁が開いた後に、閉状態から開状態へ移行させ、
・ 前記エア抜き弁を、前記作動・停止可能なコンプレッサーの前記出口における測定した又は推定した圧力と、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の測定した又は推定した回転速度とのうちの少なくとも1つの関数として、閉状態から開状態へと連続的に移行させる、
ことによって始動することと;
を含む。
【0038】
前記第2の捉え方の実装形態の一例において、前記方法は、前記少なくとも1つの選択的に作動・停止可能なターボ過給機を停止することであって、
前記コンプレッサー制御弁を開状態から閉状態へ移行させ、
前記タービン制御弁を、好ましくは前記コンプレッサー制御弁が閉じた後に、開状態から閉状態へ移行させ、
前記エア抜き弁を、前記作動・停止可能なコンプレッサーの前記出口における測定した又は推定した圧力と、前記選択的に作動・停止可能なターボ過給機の測定した又は推定した回転速度とのうちの少なくとも1つの関数として、開状態から閉状態へと連続的に移行させる、
ことによって停止することを含む。
【0039】
本発明の上述の態様及び他の態様は、以下に説明される実施形態により更に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
以下、図面に示される例示的な実施形態を参照しつつ、様々な側面や実施形態、実装例を詳細に説明する。
図1】ある例示的実施形態に従う、複数のターボ過給機を備える大型2ストローク内燃機関を正面方向から俯瞰した図である。
図2図1の大型2ストローク内燃機関を背面方向から俯瞰した図である。
図3図1による大型2ストローク内燃機関の図式的表現である。この図では、図をできるだけシンプルにするために、複数のターボ過給機のうち1つのみを示している。
図4】試験中の掃気圧示すグラフである。
図5】試験中のバルブの動き及びストールマージンを示すグラフである。
図6図1の機関の制御図である、
図7】2つのターボ過給機を有する、図1の大型2ストローク内燃機関の実施形態の図式的表現である。
図8図1による機関のバルブの動きの一例を示すグラフである。
図9図1による機関の掃気圧、ワークライン設定値、実際のワークラインの一例を示すグラフである。
図10図1による機関のサージマージンの一例を示すグラフである。
図11】大型2ストローク内燃機関の他の実施形態の図式的表現である。この実施形態は3つのターボ過給機を備える。
【詳細説明】
【0041】
図1図3は、ターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関100を描いている。この機関は、クランクシャフト8及びクロスヘッド9を有する。図3は、ターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関を、その吸気システム及び排気システムと共に略図により表現したものである。この実施形態100において、機関は直列に6本のシリンダ1を有する。ターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関は通常、直列に配される4本から14本のシリンダを有する。これらのシリンダはシリンダフレーム23に担持される。シリンダフレーム23は機関フレーム11に担持される。機関100は、例えば、船舶の主機関や、発電所において発電機を動かすための固定型の機関として用いられることができる。機関100の全出力は、例えば、1000kWから110000kWでありうる。
【0042】
この実施形態における機関100は、2ストロークユニフロー式圧縮着火型機関であり、各シリンダライナ1には、その下部領域に掃気ポート18が設けられ、その頂部中央には排気弁が配される。しかし、機関100は必ずしも圧縮着火式(ディーゼル原理)である必要はなく、実施形態によっては予混合機関(オットー原理)であってもよい。ここで紹介する実施形態において、機関100の圧縮圧力は圧縮着火を行うために十分高い。しかし機関100は、それより低い圧縮圧力で動作し、火花又は同様の手段で点火される予混合機関であってもよい。
【0043】
掃気空気は吸気系を通じてシリンダ1に導入される。吸気系は、掃気ポート18を介してシリンダ1に接続される掃気受け2を備える。
【0044】
シリンダで生成された排気は排気系を通じて排気される。排気系は、排気弁4を介してシリンダ1に接続される排気受け3を備える。
【0045】
機関100の吸気系は、掃気ガス又は掃気空気のレシーバ2を備える。EGRが使用されない場合、レシーバ2は空気のみを受け取り、EGRが使用される場合、レシーバ2は排気ガスと掃気空気の混合物を受け取る。それゆえレシーバ2は「掃気受け」と呼ばれる。掃気空気は、掃気受け2を通じて、各シリンダ1の掃気ポート18へと導かれる。ピストン10は、シリンダライナ1中で下死点(BDC)と上死点(TDC)の間を往復し、掃気空気を圧縮する。燃料は、シリンダカバー22に配される燃料弁55から噴射される。その後に燃焼が続き、排ガスが生成される。あるいは、燃料弁55はシリンダライナに配置され、燃料はBDCからTDCまでのピストンストローク中に導入される。掃気空気と燃料の混合物が圧縮され、ピストンがTDC又はその近くにあるときに点火が誘発され、燃焼が続き、排ガスが生成される。
【0046】
シリンダカバー22の中央開口部には、中央排気弁4が配置される。またシリンダカバー22には、中央開口部又は中央排気弁4の周囲において複数(好ましくは3つか4つ)の燃料弁55が配置される。排気弁4は、コントローラ(電子制御ユニット)50によって制御される、電気油圧式排気弁作動システ29によって作動する。燃料弁55には、燃料供給系30によって燃料が供給される。コントローラ50はまた、燃料弁55の動作を制御するように構成される。
【0047】
排気弁4が開かれると、排気ガスは、シリンダカバー22の中央開口部から、(各シリンダ1に設けられる)排気ダクトを有する排気系を通って排気受け3に流入し、第1排気管路19を通ってターボ過給機5のタービン8に向かう。そこから排気ガスは、第2排気管路を通り、エコノマイザ20を経由して出口21へと向かい、大気中に放出される。なお機関100は複数のターボ過給機5を備えるが、必ずしもすべてのターボ過給機が同時に作動するとは限らない。
【0048】
作動中のターボ過給機5のタービン8は、ターボ過給機5のシャフトを通じてコンプレッサー-7を駆動する。コンプレッサー-7には、空気取り入れ口12を通じて外気が供給される。コンプレッサー-7は、圧縮された掃気空気を、掃気受け2に繋がる掃気管13へと送り込む。典型的には、各コンプレッサー7に掃気管13が設けられる。掃気管13の掃気は、掃気を冷却するためのインタークーラー14及びウォーターミストキャッチャー63を通過する。
【0049】
機関100は、2つ以上のターボ過給機5と、コントローラ50とを備える。ターボ過給機5のうち少なくとも1つは選択的に作動・停止が可能なターボ過給機5である。コントローラ50は、低機関負荷時には適切な流路面積を有する1つのターボ過給機5のみが作動するように、停止機関負荷閾値を下回る場合は、少なくとも1つの選択的に作動・停止可能なターボ過給機5を停止するように構成される。またコントローラ50は、機関負荷が始動機関負荷閾値を上回ったときに、少なくとも1つの選択的に作動・停止可能なターボ過給機5を始動するように構成される。始動機関負荷及び停止機関負荷は、同一であっても異なっていてもよく、また、作動するターボ過給機5の流路面積が機関負荷に適合するように選択される。
【0050】
図7は,それぞれ別個の掃気経路にある2つのターボ過給機5を備える機関100の実施形態を示す。図7の左側のターボ過給機5は選択的に作動・停止可能なターボ過給機であり、図7の右側のターボ過給機5は常に作動している。選択的に作動・停止可能なターボ過給機5と常時作動するターボ過給機5とは、同じ容量であっても、異なる容量であってもよい。特に、選択的に作動・停止可能なターボ過給機5は、常時作動するターボ過給機5よりも小さい容量を有することができる。コントローラ50は、機関100の最適なターボ過給効率を達成することを目的として、機関の実際の動作条件、特に実際の機関負荷に従って、選択的に作動・停止可能なターボ過給機5を作動及び停止するように構成される。
【0051】
選択的に作動・停止可能なターボ過給機5の作動・停止可能なタービン8の入口と排気受け3とを接続する導管には、電子的に制御されるタービン制御弁35が配置される。タービン制御弁35はコントローラ50に接続されており、タービン制御弁35への信号を通じて、コントローラ50によりタービン制御弁35の位置が制御される。コントローラ50は、タービン制御弁35によって、排気受け3から作動・停止可能なタービン8の入口への排気ガスの流れを開放・遮断する。
【0052】
選択的に作動・停止可能なターボ過給機5の作動・停止可能なコンプレッサー7の出口を、掃気空気クーラ14及びウォーターミストキャッチャー63を通じて掃気受け2に接続する管路には、電子制御式のコンプレッサー制御弁36が配置される。コンプレッサー制御弁36はコントローラ50に接続されており、コンプレッサー制御弁36への信号を通じて、コントローラ50によりコンプレッサー制御弁36の位置が制御される。コントローラ50は、コンプレッサー制御弁36を通じて、作動・停止可能なコンプレッサー7の出口から掃気受け2への掃気の流れを開放・遮断することができる。
【0053】
少なくとも選択的に作動・停止可能なターボ過給機5には、選択的に作動・停止可能なターボ過給機5の回転速度を表す信号を生成する回転速度センサが設けられ、この信号はコントローラ50に伝達される。圧力センサ33は、作動・停止可能なコンプレッサー7の出口における圧力を測定するように配置されている。圧力センサ33は、コンプレッサー制御弁36の上流に配置される。圧力センサ33の信号はコントローラ50に伝達される。
【0054】
電子的に制御されるエア抜き弁37が、作動・停止可能なコンプレッサー7の出口と、例えば大気圧又は大気圧に実質的に等しい圧力を有する他の環境、例えばターボ過給機5の下流の排気系、又は選択的に作動・停止可能なコンプレッサー7の入口側との間に配置されており、エア抜き弁37はコンプレッサー制御弁36の上流の作動・停止可能なコンプレッサー7の出口に流体的に接続している。好ましくは、エア抜き弁37は、作動・停止可能なコンプレッサー7の出口をコンプレッサー制御弁36に接続する導管から分岐するエア抜き管39に配置される。エア抜き弁37は、エア抜き弁37を通る気体の流れに対して制御可能な可変制限部を形成する可変バルブである。従ってコントローラ50は、エア抜き弁37の位置を調整することにより、エア抜き弁37を通る空気の流れに対する制限を制御する。
【0055】
図4及び図5は、タービン制御弁35(TCV)及びコンプレッサー制御弁36(CCV)のみを用いて選択的に作動・停止可能なターボ過給機5の作動及び作動停止を試みた結果を示す図である。図4は、時間に対する掃気受け2内の掃気圧力(bar)を示すプロットであり、図5は、時間に対するタービン制御弁35及びコンプレッサー制御弁36の開閉を、縦軸の0が全閉弁、縦軸の1が全開弁に対応するように示すプロットである。また図5には、ストールマージンもプロットしている。ストールマージンは、コンプレッサーがストールにどれだけ近いかを示す指標である。図5では、コンプレッサー制御弁36及びタービン制御弁35の開弁後、約4秒から13秒の間にストールマージンがマイナスになり、コンプレッサーがストールしていることがよくわかる。タービン制御弁35とコンプレッサー制御弁36の開弁プロファイルとタイミングをそれぞれ変えて試みたが、選択的に作動・停止可能なターボ過給機5の作動と停止中にサージ/ストールマージンをゼロ以上に維持できる結果を得なかった。
【0056】
コンプレッサーの効率は、コンプレッサー7にかかる圧力比をコンプレッサー7を通過する空気流量に対してプロットした図(コンプレッサーダイアグラム)において、一定の効率線によって記述することができる。一定効率線は、このコンプレッサーダイアグラムにおいて、コンプレッサー7の効率が一定である楕円形状の曲線である。圧力比は、コンプレッサー7の出口の圧力をコンプレッサー7の入口の圧力で割った比である。コンプレッサー7の入口の圧力は、実質的に一定であると仮定できる大気圧に実質的に等しいので、コントローラ50がコンプレッサー7上の圧力比を決定するためには、コンプレッサー7の出口の圧力のみを、測定(例えば、圧力センサを使用)又は推定(例えば、観測装置を使用)することによって決定すればよい。コンプレッサー7を通る空気流を直接測定することは困難であるが、実施形態によっては、コンプレッサー7の回転速度、すなわちターボ過給機5の回転速度の関数として、コントローラ50によって決定(算出)される。
【0057】
実施形態によっては、あるターボ過給機速度範囲について、選択的に作動・停止可能なターボ過給機5の回転速度に対して最高の圧縮効率をもたらす作動・停止可能なコンプレッサー7の最適圧力比は、例えば、最適圧力比がターボ過給機速度に対してプロットされるダイアグラムに表すことができるワークライン(作業線)として、コントローラ50に格納される。
【0058】
別の実施形態では、作動・停止可能なコンプレッサー7の入口における(大気)圧力が既知で一定であるため、あるターボ過給機速度範囲について、選択的に作動・停止可能なターボ過給機5の回転速度に対して最高の圧縮効率をもたらす、作動・停止可能なコンプレッサー7の出口における最適圧力が、コントローラ50に格納される。
【0059】
図6は、タービン制御弁35(TCV)、コンプレッサー制御弁36(CCV)及びエア抜き弁37(ARV)の位置を制御するための制御ダイアグラムである。ターボ過給機5の測定又は推定された回転速度は、目標圧力推定器に提供される。目標圧力推定器は、コントローラ50の一部であってもよいし、別個の制御ユニットであってもよい。目標圧力推定器は、実際のターボ過給機の回転数に対して、作動・停止可能なコンプレッサー7の出口における最適な圧力を、例えば上記の記憶されたワークラインを用いて計算する。目標圧力は、作動・停止可能なコンプレッサー7の出口における測定又は決定された実際の圧力と比較され、2つの信号の間の差が決定される。この差は弁コントローラに送られる。弁コントローラは、コントローラ50の一部であってもよいし、別個のコントローラであってもよい。弁コントローラは、上記の差に応じてエア抜き弁37の位置を調整する。エア抜き弁37の制御のために、弁コントローラは、作動・停止可能なコンプレッサー7の出口における圧力が目標圧力より低いときにエア抜き弁37によってもたらされる流れに対する制限を増加させ、作動・停止可能なコンプレッサーの出口における圧力が目標圧力より高いときにエア抜き弁37によってもたらされる流れに対する制限を減少させるために比例(P)制御、又は比例及び積分(PI)制御、又は比例・積分及び差動制御(PID)を行うことができる。このように、ターボ過給機の回転数は、第1のフィードバック制御ループにおいて使用され、コンプレッサー出口圧力は、第2のフィードバック制御ループにおいて使用される。従って、この実施形態では、コントロールダイアグラムは二重フィードバックループ制御を形成する。
【0060】
実施形態によっては、弁コントローラは、所定のプロファイル及びシーケンスに従って、タービン制御バルブ35及びコンプレッサー制御バルブ36の開放及び閉鎖を制御する。選択的に作動・停止可能なターボ過給機5を始動するためのプロファイル又はワークラインと、選択的に作動・停止可能なターボ過給機5を停止するためのプロファイル又はワークラインは、試験又はシミュレーションによって決定でき、これら既定のプロファイル及びシーケンスは、コントローラ50に記憶される。
【0061】
図8は、機関が50%機関負荷(最大連続定格の50%)で動作しているときに、選択的に作動・停止可能なターボ過給機5を作動及び停止させるための、時間に対するバルブ動作の結果の一例を示している。選択的に作動・停止可能なターボ過給機5は、例えば、機関負荷が機関負荷閾値を上回って上昇するときにアクティブ化される。この例では、コントローラ50は、タービン制御弁35を全閉から全開に動かすことによって、選択的に作動・停止可能なターボ過給機5を始動するように構成される。コントローラ50は、タービン制御弁35が開かれた後のある期間後に、コンプレッサー制御弁36を全閉位置から全開位置へ移行させるように構成される。これは、予め決められた固定的な期間ではない。コンプレッサー制御弁36は、圧力設定値がもはや増加しないときに開かれる。これが起こる時間は、ターボ過給機5の加速度によって決まる。エア抜き弁37は、開放位置からスタートし、上述の制御方法に従って、すなわち、選択的に作動・停止可能なターボ過給機5の回転速度と作動・停止可能なコンプレッサー7の出口における圧力の関数として、閉じる。この関数はコンプレッサー特性によって決定される。このコンプレッサー特性は、上に説明したように、例えばコンプレッサーダイアグラムを用いて記述することができる。コンプレッサーダイアグラムは、作動・停止可能なコンプレッサー7の速度と出口圧力とを組み合わせて、コンプレッサーが最適に(高い効率で)機能する、又は少なくとも失速/サージのリスクがない、動作点を決定することを可能とする。
【0062】
本実施例では、コンプレッサー制御弁36はタービン制御弁35の後に開く。しかし、これは必ずしも常にそうであるとは限らず、状況、特にターボ過給機5の加速度に依存する。
【0063】
選択的に作動・停止可能なターボ過給機5は、例えば、機関負荷が機関負荷閾値を下回ったときに、停止される。なお、この閾値は、選択的に作動・停止可能なターボ過給機5を始動するための機関負荷閾値とは異なることがある。この例では、コントローラ50は、コンプレッサー制御弁36を全開から全閉に動かすことによって、選択的に作動・停止可能なターボ過給機5を停止するプロセスを開始するように構成される。コントローラ50は、タービン制御弁35を、タービンコンプレッサー制御弁36が閉じられた後のある期間後に、全開位置から全閉位置へ移行させるように構成される。エア抜き弁37は、閉鎖位置からスタートし、上述の制御方法に従って、すなわち、選択的に作動・停止可能なターボ過給機5の回転速度と作動・停止可能なコンプレッサー7の出口における圧力の関数として、開く。
【0064】
図9は、制御の結果としての掃気受け2内の掃気圧力、エア抜きバルブ37のワークライン設定値、エア抜きバルブ37の実際のワークラインを、時間に対して示したものである。図10は、サージマージンを時間に対して示した図であり、選択的に作動・停止可能なターボ過給機5の作動時及び停止時の両方でサージマージンが正であり、サージによるリスクを大幅に低減していることがわかる。サージマージンは、コンプレッサー7がどの程度サージに近いかを示す指標である。
【0065】
このように、コントローラは、作動・停止可能なコンプレッサー7の出口における実際の圧力が目標圧力に近い圧力を保つように、エア抜き弁の位置を調整することができる。
【0066】
ここで目標圧力は、作動・停止可能なコンプレッサー7のピーク効率に従っている。
【0067】
選択的に作動・停止可能なターボ過給機5の挙動は、テストベッドにおける機関のテスト及び/又はコンピュータシミュレーションに基づいて予測することができる。従ってエア抜き弁37の適切な開度曲線は、記憶されたデータに基づいたものとすることができ、ターボ過給機速度及び/又は作動・停止可能なコンプレッサー7の出口圧力をリアルタイムで測定又は決定する必要はない。コントローラ50には、圧力逃し弁37の開放のための1つ又は複数のワークラインが提供されてもよい。好ましくは、これらの曲線(ワークライン)の各々は、特定の機関負荷に適している。
【0068】
実施形態によっては、コンプレッサー制御弁36は、コンプレッサー制御弁36を通るガスの流れに対して制御可能な可変制限部を形成する可変弁である。この実施形態では、コントローラ50は、選択的に作動・停止可能なコンプレッサー7の出口における圧力を制御するというそのタスクにおいてエア抜き弁37を支援するべく、選択的に作動・停止可能なターボ過給機5を始動するときに、作動・停止可能なコンプレッサー7の出口における測定又は推定圧力と、選択的に作動・停止可能なターボ過給機5の測定又は推定回転速度との両方の関数として、コンプレッサー制御弁36を閉鎖から開放に向けて移行するように構成される。
【0069】
図11は、別の実施形態による機関100の図式的表現である。この機関100は、2つの常時作動型ターボ過給機5と1つの選択的に作動・停止可能なターボ過給機5とを備える。この実施形態において、既に説明又は図示した構成や特徴と同様の構成及び特徴については、以前に使用したものと同じ符号を付している。追加の常時作動型ターボ過給機5を除けば、本実施形態による機関100は、前に紹介した機関と本質的に同一である。しかし、追加の常時作動型ターボ過給機のために、選択的に作動・停止可能なターボ過給機5が作動する機関負荷や停止となる機関負荷は、前に紹介した機関と異なる。選択的に作動・停止可能なターボ過給機5が始動及び停止される機関負荷は、それぞれのターボ過給機5の容量及び特性によって決まる。
【0070】
いくつかの実施形態と共に方法及び機関を説明してきた。しかし、本願の明細書や図面、特許請求の範囲を検討すれば、当業者は、特許請求の範囲に記載される発明を実施するにおいて、説明された実施例に加えて多くのバリエーションが存在することを理解し、また具現化することができるであろう。特許請求の範囲に記載される「備える」「有する」「含む」との語句は、記載されていない要素やステップが存在することを排除しない。特許請求の範囲において記載される要素の数が複数であると明示されていなくとも、当該要素が複数存在することを除外しない。特許請求の範囲に記載されるいくつかの要素の機能は、単一のコントローラやその他のユニットによって遂行されてもよい。いくつかの事項が別々の従属請求項に記載されていても、これらを組み合わせて実施することを排除するものではなく、組み合わせて実施して利益を得ることができる。
【0071】
特許請求の範囲で使用されている符号は発明の範囲を限定するものと解釈されてはならない。特に言及されない限り、図面は明細書と共に読まれることが意図されており、本願による開示の全体の一部である。明細書中で、「水平」「縦」「左」「右」「上」「下」との用語は、単に、読者が見る方向に図示された構造の向きを表すに過ぎない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11