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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】積層体および積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20241202BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20241202BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20241202BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20241202BHJP
   C08F 20/28 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B7/022
B32B27/16
B65D65/40 D
C08F20/28
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023198150
(22)【出願日】2023-11-22
【審査請求日】2023-12-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武井 希
(72)【発明者】
【氏名】武田 政史
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】特許第7371809(JP,B1)
【文献】特許第7380782(JP,B1)
【文献】特許第7384248(JP,B1)
【文献】特開2022-093288(JP,A)
【文献】特開2022-132010(JP,A)
【文献】特開2015-227437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
C07J7/04-7/06
C08F20/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートシール層、基材、ニス層をこの順に有する積層体であって、
前記ニス層が、(メタ)アクリレート化合物を含む電子線硬化型組成物を電子線で硬化
した層であり、
前記(メタ)アクリレート化合物が、分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有す
る化合物を、前記電子線硬化型組成物全量中80質量%以上含み、
前記分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物が、アルキレンオキサイド変性(3~9mol/mol)トリメチロールプロパントリアクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(300)ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、EO変性1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、PO変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、(ネオペンチルグリコール変性)トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、PO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、および、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上であり、
前記(メタ)アクリレート化合物が、アルキレンオキサイド変性(3~9mol/mol)トリメチロールプロパントリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、および、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートからなる群から選ばれる2種以上を含み、かつ、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを含む場合には、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの含有量が電子線硬化型組成物全量中50質量%以下であり、
前記電子線硬化型組成物が、光重合開始剤を実質的に含有せず、
前記ニス層が、ナノインデンテーション法による硬度100~180MPa、かつ、ナノインデンテーション法による回復率77~100%である、積層体。
【請求項2】
基材とニス層の間に、さらに印刷層を有する、請求項1記載の積層体。
【請求項3】
前記(メタ)アクリレート化合物が、アルキレンオキサイド変性(3~9mol/mol)トリメチロールプロパントリアクリレートを含む、請求項1記載の積層体。
【請求項4】
電子線硬化型組成物が、さらに体質顔料を含む、請求項1記載の積層体。
【請求項5】
電子線硬化型組成物が、さらに樹脂微粒子を含む、請求項1記載の積層体。
【請求項6】
電子線硬化型組成物が、さらにレベリング剤を含む、請求項1記載の積層体。
【請求項7】
請求項1~6いずれか記載の積層体からなる、包装材料。
【請求項8】
電子線で硬化するときの条件が、加速電圧50~200kVかつ照射線量15~200kGyである、請求項1~6いずれか記載の積層体の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体および積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷産業分野において、瞬間乾燥による工程時間の短縮、揮発性成分非含有(Non-VOC)による環境負荷低減や作業安全性の向上、及び架橋反応による強固な塗膜物性の実現が可能となる観点から、活性エネルギー線による硬化技術の利用が拡大している。
【0003】
チラシ・ポスター等の紙基材をベースとする商業用印刷分野から始まった活性エネルギー線硬化技術の活用は、印刷機や印刷インキを含めた印刷技術の発展により様々な分野へと展開してきており、各種フィルム基材へと適用分野を拡大させつつあり、食品、化粧品、玩具の包装他、パッケージ製品向けの包装材料としての使用が拡大しつつある。
【0004】
包装材料は複数のフィルムを接着剤で張り合わせた構成をしており、印刷された絵柄がフィルムを通して視認される裏刷り構成がほとんどであった。しかしながら、環境負荷低減や工程時間の短縮という観点から、最表層がインキ・ニスの層となる表刷り構成の需要が拡大している。
【0005】
一般的に、表刷り構成の包装材料においては、インキ塗膜の保護を目的としてオーバーコートニスが塗布されるが、従来からの溶剤や水性タイプの熱乾燥型オーバーコートニスでは十分な塗膜強度が得られない。そこで、強固な塗膜物性を有する、活性エネルギー線硬化型ニスが使用されている。
【0006】
しかしながら、表刷り構成の包装材料のうち、さらにヒートシール層を有している場合は、最表層のインキ・ニス層の上から高温で処理されるために、活性エネルギー線硬化型ニスを使用していても、インキ・ニス層にひび割れや剥離が発生しやすく(特許文献1を参照)、包装材料のデザインや仕様が制限されるという問題がある。
【0007】
ここで、活性エネルギー線硬化型ニスとしては、紫外線(UV)硬化型ニスが主流であるが、紫外線(UV)硬化型ニスは光重合開始剤を相当量含有しており、これがイナート成分となり、硬化塗膜の強度や耐熱性に影響を与えてしまう。さらには、包装材料場合、光重合開始剤の分解物等に由来する臭気の問題も大きい。加えて、紫外線硬化の場合、紫外線を発生させるランプの発熱による基材へのダメージも問題となっている。
【0008】
このような背景のもと、紫外線(UV)硬化型ニスに対し、光重合開始剤を必要とせず、基材への熱ダメージも少なく、高エネルギーな電子線で硬化できる電子線(EB)硬化型ニスが、特に耐熱性や、臭気の点で注目されている。
【0009】
このような表刷り構成のニス層の耐熱性や強度の指標としては、表面の硬度が用いられることが多いが、包装材料の場合、加工時の割れの問題や、ヒートシール時の耐熱性など、硬度からでは推し量れない特性も多く、硬度に加え脆性の評価が必要となっている。特にヒートシール時のニス層の耐熱性には、単にニス層に熱がかかることへの耐性はもちろんであるが、ヒートシール層の熱での変形・収縮による応力や、基材が熱での収縮しようとする応力に対し、ニス層が抵抗し、変形等を抑えることが求められるため、硬度と脆性の両面からの最適化が必要である。
【0010】
加えて、包装材料としては、光沢性、輸送時の衝撃や摩擦に耐えうるためのスリップ性、密着性等が必要であり、さらには昨今の感染症対策におけるアルコール消毒に耐えうるための耐溶剤性も必要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2007-204543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、耐熱性、光沢性、スリップ性、耐溶剤性、低臭気性を有する積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す積層体により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、ヒートシール層、基材、ニス層をこの順に有する積層体であって、
前記ニス層が、(メタ)アクリレート化合物を含む電子線硬化型組成物を電子線で硬化
した層であり、
前記(メタ)アクリレート化合物が、分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有す
る化合物を、前記電子線硬化型組成物全量中80質量%以上含み、
前記電子線硬化型組成物が、光重合開始剤を実質的に含有せず、
前記ニス層が、ナノインデンテーション法による硬度100~180MPa、かつ、ナノインデンテーション法による回復率77~100%である、積層体に関する。
【0015】
また本発明は、基材とニス層の間に、さらに印刷層を有する、上記積層体に関する。
【0016】
また本発明は、前記(メタ)アクリレート化合物が、アルキレンオキサイド変性(3~9mol/mol)トリメチロールプロパントリアクリレートを含む、上記積層体に関する。
【0017】
また本発明は、電子線硬化型組成物が、さらに体質顔料を含む、上記積層体に関する。
【0018】
また本発明は、電子線硬化型組成物が、さらに樹脂微粒子を含む、上記積層体に関する。
【0019】
また本発明は、電子線硬化型組成物が、さらにレベリング剤を含む、上記積層体に関する。
【0020】
また本発明は、上記積層体からなる、包装材料に関する。
【0021】
また本発明は、電子線で硬化するときの条件が、加速電圧50~200kVかつ照射線量15~200kGyである、上記積層体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によって、耐熱性、光沢性、スリップ性、耐溶剤性、低臭気性を有する積層体を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0024】
本明細書で使用される用語について説明する。「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル及び/又はメタアクリロイル(メタクリロイル)を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタアクリレート(メタクリレート)を意味する。「活性エネルギー線」とは、紫外線、電子線等、照射することによって照射されたものに化学反応等の化学的変化を生じさせ得る性質を有するエネルギー線を意味する。また、「PO」は「プロピレンオキサイド」を、「EO」は「エチレンオキサイド」を表す。
【0025】
<積層体>
本発明の積層体は、ヒートシール層、基材、ニス層をこの順に有する積層体であり、ニス層が、(メタ)アクリレート化合物を含む電子線硬化型組成物を電子線で硬化した層である積層体である。
本発明の積層体は、各種用途に用いることができる。中でも包装材料として好適に用いることができる。
【0026】
<基材>
本発明における基材は、特に制限はなく、公知のものを用いることができるが、フィルム基材が好ましい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン基材、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル基材、ポリカーボネート基材、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂などのポリスチレン系基材、ナイロン基材、ポリアミド基材、ポリ塩化ビニル基材、ポリ塩化ビニリデン基材、セロハン基材、紙基材、アルミニウム基材など、もしくはこれらの複合材料からなるフィルム基材が挙げられる。中でも、リサイクル性の観点からポリオレフィン系のフィルムが好ましい。
また、シリカ、アルミナ、アルミニウムなどの無機化合物を、フィルム基材に蒸着した蒸着基材を用いることもできる。更に、蒸着処理面に対し、ポリビニルアルコールなどによるコート処理を施されていてもよい。基材は、印刷される面(印刷層と接する面)が易接着処理されていることが好ましい。易接着処理の具体例として、コロナ放電処理、紫外線/オゾン処理、プラズマ処理、酸素プラズマ処理、プライマー処理等が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレート基材において、十分な密着性が得られない場合は、アクリルコート処理、ポリエステル処理、ポリ塩化ビニリデン処理などの表面処理を施してもよい。
【0027】
基材として、紙基材を用いてもよい。該紙基材としては、通常の紙又は段ボールなどであり、膜厚としては特に指定はない。紙基材の厚さは、例えば、0.2mm~1.0mm、20~150g/mのものを使用でき、印刷表面が易接着処理されていてもよい。紙基材は、意匠性を付与させる目的で表面がアルミなどの金属で蒸着処理されていてもよい。また、紙基材は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂やその他の樹脂などで表面コート処理が施されていてもよく、さらに、コロナ処理などの表面処理が施されていてもよい。例えば、表面処理された紙基材の具体例として、コート紙、アート紙などが挙げられる。
【0028】
<ヒートシール層>
本発明におけるヒートシール層は、特に制限はなく、公知のものを用いることができる。例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)や高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン、酸変性ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、酸変性ポリプロピレン、共重合ポリプロピレン、エチレン-ビニルアセテート共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、アイオノマー等のポリオレフィン樹脂等が挙げられる。中でもリサイクル性の観点から、ポリプロピレン系樹脂が好ましく、ヒートシール性の観点から未延伸ポリプロピレンが特に好ましい。
ヒートシール層の厚みは特に限定されないが、積層体の加工性やヒートシール性等を考慮して10~60μmの範囲が好ましく、15~40μmの範囲がより好ましい。
なお、ヒートシール層を積層する方法は、特に限定されない。例えば、接着剤層とシーラントフィルムとを熱によってラミネートする方法(熱ラミネート、ドライラミネート)や、シーラント樹脂を溶融させて接着剤層上に押出し、冷却固化させて積層する方法(押出ラミネーション法)等が挙げられる。
【0029】
<ニス層>
本発明におけるニス層は、(メタ)アクリレート化合物を含む電子線硬化型組成物を電子線で硬化した層である。
【0030】
本発明における電子線硬化型組成物は、(メタ)アクリレート化合物を組成物全量中80質量%以上含む。(メタ)アクリレート化合物の含有量は、組成物全量中80~99質量%であることが好ましく、85~98質量%であることが好ましく、90~97質量%であることが特に好ましい。
【0031】
本明細書において、(メタ)アクリレート化合物とは、分子内に(メタ)アクリロイル基を有する化合物を意味する。
本発明における電子線硬化型組成物を構成するために使用可能な(メタ)アクリレート化合物の具体例として、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(300)ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、EO変性1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、PO変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、(ネオペンチルグリコール変性)トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、PO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレートなどの2官能の(メタ)アクリレート化合物、
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどの3官能の(メタ)アクリレート化合物、
ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートなどの4官能のラジカル(メタ)アクリレート化合物、
ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどの5官能の(メタ)アクリレート化合物、
ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの6官能の(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0032】
また、(メタ)アクリレート化合物としては、脂肪族ウレタンアクリレート、芳香族ウレタンアクリレートなどのウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレートなどを用いることができる。
【0033】
(メタ)アクリレート化合物は、単独で使用しても、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0034】
(メタ)アクリレート化合物は、硬化性の観点から、分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能アクリレートを含むことが好ましい。
【0035】
(メタ)アクリレート化合物は、耐熱性の観点から、アルキレンオキサイド変性(3~9mol/mol)トリメチロールプロパントリアクリレートを含むことが好ましい。アルキレンオキサイド変性(3~9mol/mol)トリメチロールプロパントリアクリレートを含むことで、ニス層の硬度と回復率とが良好となり、積層体の耐熱性が良好となる。アルキレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレートのアルキレンオキサイド変性量は3~6mol/molであることがより好ましい。
さらに、アルキレンオキサイド変性(3~9mol/mol)トリメチロールプロパントリアクリレートは、エチレンオキサイド変性(3~9mol/mol)トリメチロールプロパントリアクリレート、または、プロピレンオキサイド変性(3~9mol/mol)トリメチロールプロパントリアクリレートであることが好ましく、エチレンオキサイド変性(3~6mol/mol)トリメチロールプロパントリアクリレート、または、プロピレンオキサイド変性(3~6mol/mol)トリメチロールプロパントリアクリレートであることがより好ましく、エチレンオキサイド変性(3mol/mol)トリメチロールプロパントリアクリレート、または、プロピレンオキサイド変性(3mol/mol)トリメチロールプロパントリアクリレートであることが特に好ましい。
アルキレンオキサイド変性(3~9mol/mol)トリメチロールプロパントリアクリレートの含有量としては、電子線硬化型組成物全量中20~90質量%であることが好ましい。
【0036】
また、(メタ)アクリレート化合物は、耐熱性の観点から、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを含むことが好ましい。ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを含むことでニス層の硬度が向上し、積層体の耐熱性が良好となる。ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを含む場合には、電子線硬化型組成物全量中5~50質量%であることが好ましい。
【0037】
また、(メタ)アクリレート化合物は、光沢の観点から、トリプロピレングリコールジアクリレートを含むことが好ましい。トリプロピレングリコールジアクリレートを含むことで、積層体の光沢が良好となる。トリプロピレングリコールジアクリレートを含む場合には、電子線硬化型組成物全量中5~50質量%であることが好ましい。
【0038】
本発明における電子線硬化型組成物はさらに、体質顔料、樹脂微粒子、レベリング剤を含むことができる。
【0039】
<体質顔料>
本発明における電子線硬化型組成物は、さらに体質顔料を含むことが好ましい。体質顔料を含むことで塗膜の造膜性が増し、スリップ性が向上する。
体質顔料の具体例として、シリカ、硫酸バリウム、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、二酸化珪素、及び水酸化アルミニウム等が挙げられる。また、これらの1種を単独で使用しても、2種以上を組合せて使用してもよい。
体質顔料として好ましくはシリカである。
体質顔料の含有量は、電子線硬化型組成物全量中0.1~10質量%が好ましく、1.0~5質量%がより好ましい。
【0040】
<樹脂微粒子>
本発明における電子線硬化型組成物は、さらに樹脂微粒子を含むことが好ましい。樹脂微粒子を含むことで、スリップ性及び耐熱性が向上する。
【0041】
樹脂微粒子の具体例として、ウレタン樹脂微粒子、アクリル樹脂微粒子、アクリル-スチレン共重合体樹脂微粒子、ポリカーボネート樹脂微粒子、ポリエチレン樹脂微粒子、ポリスチレン樹脂微粒子、シリコーン樹脂微粒子、メラミン樹脂微粒子、メラミン-ベンゾグアナミン樹脂微粒子、メラミン-ベンゾグアナミン-ホルムアルデヒド樹脂(縮合物)微粒子、ポリプロピレン樹脂微粒子、アマイド樹脂微粒子、ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子、及びベンゾグアナミン樹脂微粒子が挙げられる。これらを単独で使用しても、必要に応じて、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
スリップ性、耐熱性、光沢性の観点から、樹脂微粒子の含有量は、電子線硬化型組成物の全質量を基準として、0.1~5質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.25~3質量%である。
【0043】
樹脂微粒子は、市販品として入手しても、公知の製造方法によって製造してもよい。例えば、ウレタン樹脂微粒子の具体例として、根上工業社製のアートパールC-1000透明、アートパールC-600透明、アートパールC-400透明、アートパールC-800、アートパールMM-120Tが挙げられる。また、ウレタン樹脂微粒子は、架橋構造を有してもよい。架橋構造を有するウレタン樹脂微粒子の具体例として、根上工業社製のアートパールJB-800T、アートパールJB-600T、アートパールP-800T、アートパールP-400Tなどの架橋ウレタン樹脂微粒子等が挙げられる。
【0044】
アクリル樹脂微粒子として、根上工業社製のアートパールJ4PY、アートパールJ5PY、アイカ工業社製のガンツパールGB08Sなどが挙げられる。また、株式会社日本触媒製のエポスターMA1002、エポスターMA1004、エポスターMA1006、及びエポスターMA1010、東洋紡株式会社製タフチックFH-S005、タフチックFH-S008、タフチックFH-S010、タフチックFH-S015、タフチックFH-S020、綜研化学株式会社製のケミスノーMX-80H3wT、MX-150、MX-180TA、MX-300、MX-500、MX-1000、MX-1500H、MX-2000、MX-3000等が挙げられる。
【0045】
アクリル-スチレン共重合体樹脂微粒子の具体例として、株式会社日本触媒社製のエポスターMA2003、日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製のFS-102、FS-201、FS-301、MG-451、MG-351等が挙げられる。
【0046】
ポリカーボネート樹脂微粒子の具体例として、特開2014-125495号公報記載の微粒子、特開2011-26471号公報記載の製造法によって得られる微粒子、特開2001-213970号公報記載の方法によって得られる微粒子等が挙げられる。
【0047】
シリコーン樹脂微粒子の具体例として、信越化学工業株式会社製のKMP-594、KMP-597、KMP-598、KMP-600、KMP-601、KMP-602、東レ・ダウコーニング株式会社製のトレフィルE-506S、EP-9215、モメンティブ社のトスルパールのシリーズ等が挙げられる。
【0048】
ポリエチレン樹脂微粒子の具体例として、三井化学株式会社製のミペロンXM-220、XM221U、住友精化株式会社製のフロービーズLE-1080、ビックケミー・ジャパン株式会社製Cerafloure991等が挙げられる。
【0049】
ポリスチレン系微粒子の具体例として、綜研化学株式会社製のケミスノーSX-130H、SX-350H、SX-500H等が挙げられる。
【0050】
メラミン樹脂微粒子の具体例として、株式会社日本触媒製のエポスターSS、エポスターS、エポスターFS、エポスターS6、エポスターS12等が挙げられる。
【0051】
メラミン-ベンゾグアナミン樹脂微粒子の具体例として、株式会社日本触媒製のエポスターM30が挙げられる。
【0052】
ベンゾグアナミン樹脂微粒子の具体例として、株式会社日本触媒製のエポスターMS、エポスターM05、エポスターL15等が挙げられる。
【0053】
ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子の具体例として、Shamrock Technologies 社のSST-3T1-RC等が挙げられる。
【0054】
樹脂微粒子は、シリコーン樹脂微粒子、アクリル樹脂微粒子、ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子、およびポリエチレン樹脂微粒子からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、アクリル樹脂微粒子、およびポリテトラフルオロエチレン微粒子からなる群より選ばれる1種以上であることがより好ましい。
シリコーン樹脂微粒子、アクリル樹脂微粒子、ポリエチレン樹脂微粒子を使用した場合、粒径制御が容易であり、真球度が高く、優れた分散性を容易に得ることができる。また、これら樹脂微粒子は、透明性が高く、光沢の低下を最小限に抑えながら、良好なスリップ性を得ることができる。ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子を使用した場合、化学的安定性、高い融点,摩擦係数の低さから、優れた耐熱性、スリップ性を得ることができる。
【0055】
樹脂微粒子は、スリップ性、耐熱性、光沢性の観点から、平均粒子径が2~12μmの樹脂微粒子を使用することが好ましく、より好ましくは、5~10μmである。
樹脂微粒子は、各種樹脂から構成される粒子、又は表面を各種樹脂で被覆した粒子のいずれの形態であってもよい。また樹脂微粒子は、1種を単独で使用しても、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0056】
<レベリング剤>
本発明における電子線硬化型組成物は、さらにレベリング剤を含むことが好ましい。レベリング剤を含むことで、スリップ性が向上する。
レベリング剤としては、表面の滑り性の観点から、シリコーン変性アクリレート化合物を含むことが好ましい。またレベリング剤は、1種を単独で使用しても、2種以上を組合せて使用してもよい。
レベリング剤の含有量は、電子線硬化型組成物全量中0.1~3質量%が好ましく、0.4~1.5質量%がより好ましい。
【0057】
<その他の成分>
本発明における電子線硬化型組成物は、本発明の効果が低下しない範囲で、帯電防止剤、界面活性剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、硬化剤、可塑剤、湿潤剤、接着補助剤、消泡剤、帯電防止剤、トラッピング剤、ブロッキング防止剤、防腐剤などを使用することができる。などを必要に応じて添加することができる。
【0058】
本発明における電子線硬化型組成物は、光重合開始剤を実質的に含有しない。ここで、本発明における実質的に含有しないとは、意図的に添加することなく、かつ、非意図的添加による含有量が1質量%未満であることを意味する。非意図的添加には、各原料に微量に含まれている場合や、組成物の製造工程、印刷物作製工程におけるコンタミネーションなどが該当する。
【0059】
また、本発明の電子線硬化型組成物は有機溶剤を実質的に含有しない。印刷インキの粘度調整剤として用いられている有機溶剤は、残留性有機汚染物質であるMOSH/MOAHを含有する懸念があり、また、揮発性成分を含有しないこと(Non-VOC)により環境負荷低減や作業安全性の向上が期待できることから、本発明においては、有機溶剤を実質的に含まないことが好ましい。
【0060】
<電子線硬化型組成物の製造方法>
本発明の電子線硬化型組成物の製造方法としては、(メタ)アクリレート化合物と、必要に応じて使用される樹脂微粒子等のその他の成分とを、ミキサーなどを用いて30分~3時間程度混合攪拌することによって製造することができる。なお、(メタ)アクリレート化合物として、予め2種以上の(メタ)アクリレート化合物を混合攪拌しておき、その後、必要に応じて使用される樹脂微粒子等のその他の成分を添加して製造してもよい。
【0061】
<ニス層の製造>
電子線硬化型組成物を印刷またはコーティングする方法としては、ロールコーター、グラビアコーター、フレキソコーター、エアドクターコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、スクイズコーター、含浸コーター、トランスファーロールコーター、キスコーター、カーテンコーター、キャストコーター、スプレーコーター、ダイコーター等を用いるコーティング、オフセット印刷( 湿し水を使用する通常の平版及び湿し水を使用しない水無し平版)、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷等を用いる印刷が挙げられる。
また、インライン印刷及びオフライン印刷において、UV硬化型、電子線硬化型、熱乾燥型、蒸発乾燥型、酸化重合型、浸透乾燥型、熱重合型、2液硬化型、液体トナー型、粉体トナー型のインキといった各種インキを、必要に応じて組み合わせて使用することもできる。
【0062】
<電子線照射条件>
本発明の電子線硬化型組成物は、各種印刷方法によって印刷された後、電子線照射機を通って硬化され、印刷層が形成される。硬化に用いられる電子線は、フィルムへのダメージと電子線硬化型組成物の硬化性のバランスを考慮し、50~200kV、より好ましくは80~110kVの加速電圧において、照射線量15~60kGy、より好ましくは20~45kGyの条件で調整された電子線を照射することが望ましい。照射線量が15~60kGyであると、十分な皮膜強度が得られ、かつ、フィルム強度低下、臭気、黄変等のフィルムへのダメージによる問題が抑制できる。
【0063】
<印刷層>
本発明における積層体は、基材とニス層の間に、さらに印刷層を有してもよい。
印刷層は、インキを印刷し、必要に応じて乾燥や硬化をすることによって得られる。インキとしては、溶剤系インキ、水系インキ、活性エルギー線硬化型インキ等公知のものを使用できるが、積層体の生産性等を考慮すると活性エルギー線硬化型インキであることが好ましく、電子線硬化型インキであることがより好ましく、無溶剤型の電子線硬化型インキであることが特に好ましい。
基材にインキを印刷する方法としては、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷等公知の印刷方法を選択することが出来る。
【0064】
<積層体の製造方法>
本発明における積層体の製造方法としては、ニス層を有する基材を作成後、ヒートシール層を積層する方法と、ヒートシール層を有する基材にニス層を作成する方法のいずれも用いることができる。
ここで、ニス層を作成するときに照射される電子線が、電子線の強度、基材の種類、及び厚みによってはヒートシール層に影響し、ヒートシール強度が低下する場合がある。そのようなときには、ニス層を有する基材を作成後、ヒートシール層を積層する方法とすることで、影響を受けないで積層体を製造できる。
【0065】
<積層体におけるニス層の硬度>
本発明の積層体におけるニス層は、ナノインデンテーション法による硬度が100~180MPaである。
ナノインデンテーション法による硬度とは、微小領域機械特性評価装置(ナノインデンター)を用いて測定される押し込み硬さの値であり、本発明ではハイジトロンTI Premier(Bruker社製)を用いて測定された値である。
ナノインデンターは積層体のごく表層のみ押し込みを行うため、基材の影響をうけず、薄膜であるニス層のみの機械的特性を測定することができる。他の測定法では、押し込みの荷重及び変位が大きすぎて、薄膜層のみの測定が難しい。本発明においては、ニス層のみの硬さを示す。
【0066】
ニス層の押し込み硬さ(H)の測定方法は次の通りである。ナノインデンターの圧子として、三角錐形状のバーコビッチ(Berkovich)圧子を用いる。測定試料にバーコビッチ圧子を後述の押込み条件にて押込み、押し込み荷重F(μN)に対する押し込み深さh(nm)を連続的に測定し、荷重-変位曲線を作成する。作成された荷重-変位曲線から最大押し込み荷重Fmax(μN)を求める。次いで、最大押込み荷重Fmax(μN)をその時の圧子と試料の接触投影面積Ac(μm)で除することにより硬さを求める。つまり、H=Fmax/Acである。
ここで、Acは標準試料の溶融石英を用いて装置標準の方法で圧子先端曲率を補正した接触投影面積である。接触射影面積 Ac は接触深さh(nm)から算出され、Ac=24.56hである。
押込み条件は、室温において、先ず圧子を300nmの深さまでを5秒間押し込み(すなわち60nm/s)、次に300nmの深さで2秒間保持し、最後に0nmまでの除荷を5秒間で行う。
【0067】
<積層体におけるニス層の積層体の回復率>
本発明の積層体におけるニス層は、ナノインデンテーション法による回復率が、77~100%である。
ナノインデンテーション法による回復率とは、微小領域機械特性評価装置(ナノインデンター)を用いて測定される、押し込み後の塗膜の回復状態を表す値であり、本願では積層体におけるニス層の硬度を測定したものと同様の装置用いて測定された値である。数字が大きいほど押し込みを吸収してかつ元の塗膜の状態に戻りやすいことを示し、本発明においては、塗膜の脆性を表す。
【0068】
ニス層の回復率の測定方法は次の通りである。ナノインデンターの圧子として、円錐形状のコニカル(Conical)圧子を用いる。測定試料にコニカル圧子を後述の押込み条件にて水平駆動させ、水平移動距離(um)に対する押し込み深さh(nm)を連続的に測定し、水平距離-垂直変位曲線を作成する。作成された水平距離-垂直変位曲線から回復率(%)を求める。回復率(%)は、圧子による水平駆動によって押し込められた塗膜の回復度合いを示した指標である。押込み条件は、室温において、圧子を水平方向に0.4μm/sで6μm移動させるのと連動して、垂直方向に荷重速度20μN/sで最大300μNの荷重をかけた。また、測定後に形させない弱い荷重で同一箇所を試料を変なぞることで、圧痕の深さを計測した。そこで得られた測定データから、
(押込み中の垂直方向変位max(nm)- 押込み後の圧痕深さmax(nm))/押込み中の垂直方向変位max(nm)×100=回復率(%)を算出した。
【実施例
【0069】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」をそれぞれ表す。
【0070】
<電子線硬化型組成物の製造>
以下の製造例、実施例及び比較例で使用した材料の詳細は、以下のとおりである。
<(メタ)アクリレート化合物>
・Miramer M122:MIWON社製、LA(ラウリルアクリレート)
・TPGDA:ダイセル・オルネクス社製、TPGDA(トリプロピレングリコールジ
アクリレート)
・Miramer M300:MIWON社製、TMPTA(トリメチロールプロパントリアクリレート)
・LAROMER LR 8863:BASF社、TMP(EO)3TA(EO(3モル)変性トリメチロールプロパントリアクリレート)
・Miramer M3160:MIWON社製、TMP(EO)6TA(EO(6モル)変性トリメチロールプロパントリアクリレート)
・Miramer M3190:MIWON社製、TMP(EO)9TA(EO(9モル)変性トリメチロールプロパントリアクリレート)
・Miramer M3150:MIWON社製、TMP(EO)15TA(EO(15モル)変性トリメチロールプロパントリアクリレート)
・Etermer EM 2381:Eternal Materials社製、TMP(PO)3TA(PO(3モル)変性トリメチロールプロパントリアクリレート)
・A-TMPT-6PO:新中村化学工業社製、TMP(PO)6TA(PO(6モル)変性トリメチロールプロパントリアクリレート)
・Miramer M600:MIWON社製、DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)
・EBECRYL 130:ダイセル・オルネクス社製、TCDDA(トリシクロデカンジアクリレート)
・EBECRYL 230:ダイセル・オルネクス社製、脂肪族ウレタンアクリレート(アクリロイル基数2)
・EBECRYL 8411:ダイセル・オルネクス社製、脂肪族ウレタンアクリレート(アクリロイル基数2)
・SR355NS:Sartomer社製、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート
<樹脂微粒子>
・積水テクポリマーBM30X-5:積水化成品工業社、平均粒子径5μm、アクリル樹脂微粒子
・積水テクポリマーBM30X-8:積水化成品工業社、平均粒子径8μm、アクリル樹脂微粒子
・積水テクポリマーBM30X-12:積水化成品工業社、平均粒子径12μm、アクリル樹脂微粒子
<レベリング剤>
・TEGO Rad 2300:エボニック社製、アクリロイル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン樹脂
<体質顔料>
・AEROSIL R972:日本アエロジル社製、平均一次粒子径16nm、比表面積110m/g、乾式シリカ)
<光重合開始剤>
・OMNIRAD 1173:IGM Resins社製、2―ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン
<インキ作成用顔料>
・MOGAL E:Bilra Carbon社製、顔料
<インキ作成用分散剤>
・Solsperse32000:Lubrizol社製、分散剤
<インキ作成用消泡剤>
・BYK-1790:BYK社製、消泡剤
<水性系オーバーコートニス>
JS 1269 PO マットレジウサー:東洋インキ社製
<溶剤系オーバーコートニス>
HW870 アクワリオナ A ソフトマットニス:東洋インキ社製
【0071】
<電子線硬化型組成物の製造>
(製造例1)
LAROMER LR 8863を76.0部、TPGDAを10.0部、Miramer M600を10.0部、積水テクポリマーBM30X-5を0.5部、TEGO Rad 2300を0.5部、AEROSIL R972を3.0部の配合比で混合し、自転・公転方式ミキサーを用いて攪拌して、電子線硬化型組成物を得た。
【0072】
(製造例2~21)
表1に示した組成に従って各材料を使用した以外は、実施例1と同様の方法によって、製造例2~21の電子線硬化型組成物を得た。
【0073】
(製造例22)
MOGAL Eを23部、EBECRYL 8411を6部、Miramer M122を3部、TPGDAを10部、Laromer LR 8863を46.5部、SR355NSを5部、Solsperse32000を6部、BYK-1790を0.5部の配合比で混合し、三本ロールで練肉して電子線硬化型フレキソインキを調製した。
【0074】
<積層体の製造>
(実施例1)
製造例1で得た電子線硬化型組成物を用いて、フレキソ印刷方式にて基材に印刷を行った。印刷後の塗膜に対して、直ちに電子線を照射することによって硬化塗膜を形成し、積層体を作製した。より詳細には、以下のとおりである。
印刷機はRK Print Coat Instruments社製のフレキシプルーフ100を使用した。印刷条件は、印刷スピード60m/min、アニロックスロール線数300Line/inch、アニロックスロールのセル容量13.09cm/mとした。アニロックスロールの彫刻パターンは、ヘキサゴナルとした。版材はDuPont社製のESXQを使用し、版材の面積は106.8cmとした。電子線硬化型組成物の塗布量は、硬化後の塗布量が2.5~3.5g/mとなるように印刷した。
電子線の照射は、岩崎電気社製の電子線照射機EC250/15/180Lを使用し、加速電圧110kV、電子線量30kGyの条件で実施した。
基材としては、二軸延伸ポリプロピレンフィルムと無延伸ポリプロピレンフィルムとのラミネート積層基材を用いた。ラミネート積層基材の二軸延伸ポリプロピレンフィルム側に電子線硬化型組成物を印刷した。ラミネート積層基材は、以下のようにして作製した。
【0075】
(ラミネート積層基材の作製方法)
フタムラ化学製の二軸延伸ポリプロピレンフィルム(製品名:FOR-BT、厚さ20μm)に接着剤希釈液を塗布して溶剤を揮散させた。接着剤希釈液は、接着剤(東洋モートン株式会社製のTM-321A/TM-321B=2/1)を有効成分が30%となるように酢酸エチルで希釈して調製した。接着剤希釈液の塗布は、常温において、バーコーターを用いて、溶剤揮発後の固形分塗布量が2.0~2.5g/mとなるように調整して実施した。次に、上記フィルムの接着剤の塗布面を、無延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学株式会社製、FHK30μm)と貼り合せた。次いで、35℃、湿度60%RT~80%RTの環境下にて24時間放置し、ラミネート積層基材を得た。得られた積層体について、ニス層の硬度と回復率を上述した方法にて測定した。結果を表1に示す。
【0076】
(実施例2~14、比較例1~7)
表1に記載した種類のニスと基材を用いた以外は、実施例1と同様の方法で実施例2~14、比較例1~7の積層体を得た。得られた積層体について、ニス層の硬度と回復率を上述した方法にて測定した。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例15)
製造例22で作製した電子線硬化型インキを実施例1における組成物と同様にフレキソ印刷方式にて基材に印刷し、実施例1における組成物と同様の条件で電子線にて硬化し、印刷層を有する基材を作成した。
得られた印刷層を有する基材の印刷面上に、実施例1と同様にニス層を作成し、基材とニス層の間に印刷層を有する積層体を作製した。得られた積層体について、ニス層の硬度と回復率を上述した方法にて測定した。結果を表1に示す。
【0078】
(比較例8、9)
市販のオーバーコートニスを用いて、実施例1と同様にフレキソ印刷方式にて基材に印刷を行った。印刷後の塗膜に対して、直ちに乾燥することによって塗膜を形成し、積層体を作製した。より詳細には、以下のとおりである。
実施例1と同様の装置及び条件で、塗布量は、硬化後の塗布量が0.9~1.5g/mとなるように印刷した。
乾燥は、温度70℃、乾燥時間3分の条件で実施した。
得られた積層体について、ニス層の硬度を上述した方法にて測定した。ニス層の回復率の測定も試みたが、ニス層の強度が弱く測定することができなかった。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
【表1】

【0081】
得られた積層体について、以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0082】
[耐熱性]
得られた積層体について、ヒートシーラー(TP-705 リングシールテスター、テスター産業社)で印刷面側から180℃、0.25MPa、1秒の条件での加熱を2回繰り返し、ヒートシール部分のニス層の割れと剥離を評価した。評価3以上が実用上好ましい。
(評価基準)
5:クラック少しあり、剥離無し
4:クラックあり、剥離無し
3:クラック少し多い、剥離無し
2:クラック多い、剥離無し
1:剥離あり
【0083】
[耐溶剤性]
得られた積層体について、99.5%エタノール溶液に浸漬した綿棒を使用して、1秒あたり1往復で擦り、硬化塗膜表面が削れるまでの往復回数を測定した。評価3以上が実用上好ましい。
(評価基準)
5:50回以上
4:40回以上50回未満
3:20回以上30回未満
2:10回以上20回未満
1:10回未満
【0084】
[スリップ性]
得られた積層体について、動摩擦係数を摩擦測定機(摩擦測定機HM-3、東洋精機製作所社製、速度100mm/min 移動距離50mm、スレッド63mm×63mm、200g)にて測定した。評価2以上が実用上好ましい。
(評価基準)
3:動摩擦係数0.40未満
2:動摩擦係数0.40以上0.45未満
1:動摩擦係数0.45以上
【0085】
[臭気]
得られた積層体について、89mm×120mmに切り出し、印刷直後の臭気の強度を5人で官能評価し、その平均値にて評価した。評価3以上が実用上好ましい。
(評価基準)
4:臭気がほとんど感じられなかった
3:臭気がわずかに感じられた
2:臭気がはっきり感じられた
1:臭気が強く感じられた
【0086】
実施例1~15は、(メタ)アクリレート化合物が、分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物を、組成物全量中80質量%以上含み、光重合開始剤を実質的に含有しない組成物を用いたニス層であり、積層体の硬度が100~180MPa、かつ、回復率77~100%であった。その結果、耐熱性、スリップ性、耐溶剤性、低臭気性が実用レベルであった。
一方、比較例1は、硬度が100MPa未満であり、耐熱性と耐溶剤性が不十分であった。これは、架橋密度が低いことが影響していると考えられる。
比較例2は、分子中に(メタ)アクリロイル基を1つ有する化合物を多く用いており、比較例1と同様に硬度が低い結果となり、耐熱性と耐溶剤性が不十分であった。
比較例3は、回復率が77%未満であり、耐熱性が不十分であった。これは、硬度は適度な範囲であるが、脆性が高い、脆い塗膜になったためと考えられる。
比較例4は、(メタ)アクリロイル基を持たないイナートな樹脂を20質量%含み、分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物が、組成物全量中80質量%未満となったものであり、硬度が100MPa未満となり、耐溶剤性とスリップ性が不十分であった。これは、架橋に組み込まれないイナートな樹脂が塗膜表面にも存在しているためと考えられる。
比較例5は、硬度が180MPaを超えて、かつ、回復率も77%未満であり、耐熱性が不十分であった。また、比較例6は、回復率は範囲内であるが、硬度が180MPaを超えており、耐熱性が不十分であった。比較例5、6から、硬度を高くするだけでは、ヒートシール時の耐熱性を満たせないことがわかる。
比較例7は、光重合開始剤を含む系であり、光重合開始剤やその分解物がイナートな成分となり、光重合開始剤を実質的に含まない系に比べ、耐熱性が劣るのに加え、光重合開始剤やその分解物による臭気が強く実用には適さないものであった。
比較例8、9は、活性エネルギー線硬化型ではない、油性ニスおよび水性ニスをニス層に用いた積層体であり、活性エネルギー線硬化型に比べ、硬度が著しく小さく、回復率は測定できなかった。その結果、耐熱性と耐溶剤性が顕著に劣っていた。また、残留用剤等に由来すると思われる臭気が強かった。
【0087】
以上より、明らかなように、本発明の積層体は、硬度と回復率を特定の範囲とすることで、耐熱性、スリップ性、耐溶剤性、低臭気性を有していることが証明された。

【要約】
【課題】耐熱性、光沢性、スリップ性、密着性、耐溶剤性、低臭気性を有する積層体を提供すること。
【解決手段】ヒートシール層、基材、ニス層をこの順に有する積層体であって、前記ニス層が、(メタ)アクリレート化合物を含む電子線硬化型組成物を電子線で硬化した層であり、前記(メタ)アクリレート化合物が、分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物を、前記電子線硬化型組成物全量中80質量%以上含み、前記電子線硬化型組成物が、光重合開始剤を実質的に含有せず、前記ニス層が、ナノインデンテーション法による硬度100~180MPa、かつ、ナノインデンテーション法による回復率77~100%である、積層体。
【選択図】なし