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特許7596514アルミニウム缶充填ワインおよびワイン充填用アルミニウム缶
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】アルミニウム缶充填ワインおよびワイン充填用アルミニウム缶
(51)【国際特許分類】
   B65D 1/02 20060101AFI20241202BHJP
   B65D 85/72 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
B65D1/02 110
B65D85/72 200
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023510051
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2021013904
(87)【国際公開番号】W WO2022208760
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-08-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 玲
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】王 欣
【審査官】武井 健浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-062688(JP,A)
【文献】国際公開第2020/017466(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/017311(WO,A1)
【文献】特表2005-503971(JP,A)
【文献】特開平02-076565(JP,A)
【文献】特開2011-016570(JP,A)
【文献】特開2019-131275(JP,A)
【文献】特開2006-007746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/02
B65D 1/16
B65D 81/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボトル缶の構造を有し、アルミニウム板と、前記アルミニウム板の缶内面側となる面に設けられた樹脂フィルムと、前記アルミニウム板と前記樹脂フィルムとの間に介在し、それらを接着する接着剤層とを含み、前記樹脂フィルムが、最表面層としての第1樹脂層と、ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂を含む第2樹脂層とを含み、前記接着剤層のみが炭酸カルシウムを含むアルミニウム缶と、
前記アルミニウム缶に封入され、4.3mg/L以下の分子状SO2と、350mg/L以下の塩化物イオンとを含有するワインと
を含むアルミニウム缶充填ワイン。
【請求項2】
前記樹脂フィルムが、前記第1樹脂層および前記第2樹脂層の2層構造を有する請求項1に記載のアルミニウム缶充填ワイン。
【請求項3】
前記第1樹脂層が、イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂を含む請求項1または2に記載のアルミニウム缶充填ワイン。
【請求項4】
前記接着剤層が、熱硬化性エポキシ樹脂を含む請求項1~3の何れか1項に記載のアルミニウム缶充填ワイン。
【請求項5】
前記樹脂フィルムが、前記接着剤層と対向する面の最外層として、第3樹脂層を更に含み、前記第1樹脂層、前記第2樹脂層、および前記第3樹脂層の3層構造を有する請求項1に記載のアルミニウム缶充填ワイン。
【請求項6】
前記第1樹脂層が、イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂を含む請求項5に記載のアルミニウム缶充填ワイン。
【請求項7】
前記接着剤層が、熱硬化性エポキシ樹脂を含む請求項5または6に記載のアルミニウム缶充填ワイン。
【請求項8】
前記第3樹脂層が、イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂を含む請求項5~7の何れか1項に記載のアルミニウム缶充填ワイン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム缶充填ワインおよびワイン充填用アルミニウム缶に関する。
【背景技術】
【0002】
ワインには、通常、果汁発酵中の野生酵母の抑制や熟成の調節のための必須の添加剤として、適量の亜硫酸が添加されている。このようなワインをアルミニウム缶に充填すると、ワインに添加されている亜硫酸が腐食性を有するためアルミニウム缶に腐食を生じやすいという問題や、亜硫酸とアルミニウムとの間の酸化還元反応により硫化水素が発生し、ワインのフレーバーを劣化させるという問題がある。
【0003】
ワインに添加された亜硫酸は、その一部が糖やアルデヒド、アントシアニンなどと結合して「結合型亜硫酸」の形態で存在し、残りの亜硫酸は、「遊離型亜硫酸」の形態で存在する。遊離型亜硫酸は、その多くがHSO3 -(重亜硫酸イオン)の形態で存在し、残りがSO2(分子状SO2)の形態で存在する。重亜硫酸イオンと分子状SO2の存在比は、pHによって変わる。
【0004】
例えば、特許文献1は、ワインをアルミニウム缶にパッケージングする方法を開示し、35ppm未満の遊離型亜硫酸と、300ppm未満の塩化物と、800ppm未満のスルフェートとを有するワインを製造すること、およびアルミニウム缶の内面に耐食コーティングを施すことを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第03/029089号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記問題に鑑み、本発明は、アルミニウム缶の腐食およびワインのフレーバー劣化が起こりにくい、アルミニウム缶充填ワインおよびワイン充填用アルミニウム缶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、アルミニウム缶の内面側の特定のコーティングとワインの特定の組成との組み合わせにより、上述の問題(すなわち、アルミニウム缶の腐食の問題およびワインのフレーバー劣化の問題)を解決することを新たに見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一つの側面によれば、
アルミニウム板と、前記アルミニウム板の缶内面側となる面に設けられた樹脂フィルムと、前記アルミニウム板と前記樹脂フィルムとの間に介在し、それらを接着する接着剤層とを含み、前記樹脂フィルムが、最表面層としての第1樹脂層と、ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂を含む第2樹脂層とを含み、前記樹脂フィルムを構成する樹脂層および前記接着剤層の少なくとも1つの層が炭酸カルシウムを含むアルミニウム缶と、
前記アルミニウム缶に封入され、4.3mg/L以下の分子状SO2と、350mg/L以下の塩化物イオンとを含有するワインと
を含むアルミニウム缶充填ワイン
が提供される。
【0009】
本発明の別の側面によれば、
アルミニウム板と、前記アルミニウム板の缶内面側となる面に設けられた樹脂フィルムと、前記アルミニウム板と前記樹脂フィルムとの間に介在し、それらを接着する接着剤層と含み、前記樹脂フィルムが、最表面層としての第1樹脂層と、ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂を含む第2樹脂層とを含み、前記樹脂フィルムを構成する樹脂層および前記接着剤層の少なくとも1つの層が炭酸カルシウムを含む、ワイン充填用アルミニウム缶
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルミニウム缶の腐食およびワインのフレーバー劣化が起こりにくい、アルミニウム缶充填ワインおよびワイン充填用アルミニウム缶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、ワイン充填用アルミニウム缶の一例を示す一部切欠き側面図である。
図2図2は、ワイン充填用アルミニウム缶の層構成の一例を示す断面図である。
図3図3は、ワイン充填用アルミニウム缶の層構成の別の例を示す断面図である。
図4図4は、ワインの分子状SO2濃度および塩化物イオン濃度がアルミニウム缶への適用可能性に及ぼす影響を示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を説明するが、以下の説明は、本発明を詳説することを目的とし、本発明を限定することを意図していない。
【0013】
1.アルミニウム缶充填ワイン
一つの側面によれば、アルミニウム缶充填ワインが提供され、アルミニウム缶充填ワインは、
アルミニウム板と、前記アルミニウム板の缶内面側となる面に設けられた樹脂フィルムと、前記アルミニウム板と前記樹脂フィルムとの間に介在し、それらを接着する接着剤層とを含み、前記樹脂フィルムが、最表面層としての第1樹脂層と、ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂を含む第2樹脂層とを含み、前記樹脂フィルムを構成する樹脂層および前記接着剤層の少なくとも1つの層が炭酸カルシウムを含むアルミニウム缶と、
前記アルミニウム缶に封入され、4.3mg/L以下の分子状SO2と、350mg/L以下の塩化物イオンとを含有するワインと
を含む。
【0014】
上述のとおり、本発明は、アルミニウム缶の内面側の特定のコーティング(すなわち、上述の樹脂フィルム)とワインの特定の組成(すなわち、上述の分子状SO2濃度および塩化物イオン濃度)とを組み合わせることにより、アルミニウム缶の腐食およびワインのフレーバー劣化を起こりにくくすることができる。
【0015】
アルミニウム缶充填ワインは、アルミニウム缶本体にワインを充填した後、公知の巻締め工程に従ってアルミニウム缶本体に別部品のキャップを巻締めることにより製造することができる。
【0016】
以下、特定の組成を有する「ワイン」と、特定のコーティングを内面側に有する「アルミニウム缶」について説明する。
【0017】
1-1.ワイン
アルミニウム缶に封入されるワインは、4.3mg/L以下の分子状SO2と、350mg/L以下の塩化物イオンとを含有する。
【0018】
本明細書において「分子状SO2濃度」は、下記式により算出された値を指す。
【数1】
【0019】
分子状SO2濃度を算出するために使用される「pH」、「アルコール濃度」、および「遊離型亜硫酸濃度」の値は、以下のとおり測定された値を指す。
【0020】
すなわち、「pH」は、20℃のワインに対して、pHメーターにより測定された値を指す。「アルコール濃度」は、液体クロマトグラフィーにより測定された値を指す。「遊離型亜硫酸濃度」は、通気蒸留・滴定法(ランキン法)により測定された値を指す。
【0021】
ワイン中の分子状SO2濃度は、0~4.3mg/Lであり、好ましくは1~3mg/Lであり、より好ましくは1~2mg/Lである。ワイン中の分子状SO2濃度が4.3mg/Lを超えると、アルミニウム缶の腐食やワインのフレーバー劣化が起こりやすくなる。
【0022】
本明細書において「塩化物イオン濃度」は、電位差滴定法により測定された値を指す。
【0023】
ワイン中の塩化物イオン濃度は、0~350mg/Lであり、好ましくは0~200mg/L、より好ましくは0~100mg/Lである。ワイン中の塩化物イオン濃度が350mg/Lを超えると、アルミニウム缶の腐食やワインのフレーバー劣化が起こりやすくなる。
【0024】
1-2.アルミニウム缶
図1に、ワイン充填用アルミニウム缶(以下、単にアルミニウム缶ともいう)の一例を示す。図1に示すアルミニウム缶1は、容器本体2と底蓋3とキャップ(図示せず)とから構成される。容器本体2および底蓋3をまとめてアルミニウム缶本体とも呼ぶ。容器本体2は、口頸部2a、肩部2b、および胴部2cを一体に有している。底蓋3は、容器本体2に対し、胴部2cの下端開口部を塞ぐように、一体的に巻締め固着されている。口頸部2aには、図示していないが、別部品のピルファープルーフキャップが、周知のキャッパーによるロールオン成形により、螺合でリシール(再封鎖)可能なように装着される。図1には、3ピースタイプのボトル缶を図示したが、アルミニウム缶1は、2ピースタイプのボトル缶、すなわち、容器本体2と底蓋3とが一体に形成されているボトル缶であってもよい。
【0025】
アルミニウム缶1は、アルミニウム缶の腐食を防止するために、缶内面(すなわち、容器本体2の内面、底蓋3の内面、およびキャップの内面)に、以下で説明する樹脂被膜を有している。また、アルミニウム缶1は、缶外面(すなわち、容器本体2の外面、底蓋3の外面、およびキャップの外面)に樹脂被膜を有していてもよい。
【0026】
具体的には、アルミニウム缶は、アルミニウム板と、前記アルミニウム板の缶内面側となる面に設けられた樹脂フィルムと、前記アルミニウム板と前記樹脂フィルムとの間に介在し、それらを接着する接着剤層とを含み、
前記樹脂フィルムが、最表面層としての第1樹脂層と、ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂を含む第2樹脂層とを含み、
前記樹脂フィルムを構成する樹脂層および前記接着剤層の少なくとも1つの層が炭酸カルシウムを含む。
【0027】
かかるアルミニウム缶の層構成の一例を図2に示し、かかるアルミニウム缶の層構成の別の例を図3に示す。
【0028】
図2に示す層構成を有するアルミニウム缶(以下、第1実施形態に係るアルミニウム缶ともいう)は、アルミニウム板10と、前記アルミニウム板10の缶内面側となる面に設けられた樹脂フィルム12と、前記アルミニウム板10と前記樹脂フィルム12との間に介在し、それらを接着する接着剤層11とを含み、
前記樹脂フィルム12が、2層構造の積層フィルムであり、最表面層としての第1樹脂層12aと、ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂を含む第2樹脂層12bとからなり、
前記接着剤層11が炭酸カルシウム14を含む。
【0029】
図3に示す層構成を有するアルミニウム缶(以下、第2実施形態に係るアルミニウム缶ともいう)は、アルミニウム板10と、前記アルミニウム板10の缶内面側となる面に設けられた樹脂フィルム12と、前記アルミニウム板10と前記樹脂フィルム12との間に介在し、それらを接着する接着剤層11とを含み、
前記樹脂フィルム12が、3層構造の積層フィルムであり、最表面層としての第1樹脂層12aと、中間層としてのダイマー酸共重合ポリエステル樹脂を含む第2樹脂層12bと、接着剤層11と対向する面の最外層としての第3樹脂層12cとからなり、
前記接着剤層11が炭酸カルシウム14を含む。
【0030】
第1実施形態に係るアルミニウム缶は、第2実施形態に係るアルミニウム缶に含まれる第3樹脂層12cが省略されていること以外、第2実施形態に係るアルミニウム缶と同じである。したがって、以下、第2実施形態に係るアルミニウム缶について説明する。
【0031】
1-2-1.樹脂フィルム12
第2実施形態において、アルミニウム板10の缶内面側となる面に設けられた樹脂フィルム12は、3層構造の積層フィルムである。3層構造の積層フィルムは、図示されるとおり、第1樹脂層12aと、第2樹脂層12bと、第3樹脂層12cとから構成される。具体的には、第1樹脂層12aは、第1樹脂層12aの全酸量に対して3~15mol%のイソフタル酸を含んだイソフタル酸共重合ポリエステル樹脂を主体として(すなわち、50質量%以上の含有率で)含む樹脂フィルムとすることができる。第2樹脂層12bは、第2樹脂層12bの全酸量に対して5~50mol%のダイマー酸を含んだダイマー酸共重合ポリエステル樹脂を主体として(すなわち、50質量%以上の含有率で)含む樹脂フィルムとすることができる。第3樹脂層12cは、第3樹脂層12cの全酸量に対して3~15mol%のイソフタル酸を含んだイソフタル酸共重合ポリエステル樹脂を主体として(すなわち、50質量%以上の含有率で)含む樹脂フィルムとすることができる。第1樹脂層12a、第2樹脂層12b、および第3樹脂層12cは、それぞれ、例えば3~10μmの厚さを有する。樹脂フィルム12は、全フィルム中の全酸量に対するダイマー酸比率は3~30mol%とすることが好ましい。
【0032】
この3層構造の積層フィルムは、ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂を含むため、樹脂フィルム12に柔軟性を持たせることができる。かかる樹脂フィルム12を使用すれば、柔軟性に優れているため、フィルム製膜性が良好であるとともに、製缶時の絞り・しごき加工工程においてフィルムの破断(ヘアー)、削れ(カジリ)が生じにくく、さらに缶内に内容物が封入されて製品化された後、落下、外部衝撃(デント)を与えられてもフィルム面が破損せずアルミニウム缶の腐食が生じにくい。すなわち、アルミニウム缶の内面側の品質を確保することができる。
【0033】
また、この3層構造の積層フィルムは、第2樹脂層12bがダイマー酸共重合ポリエステル樹脂を含み、高温粘着性を有し常温では柔軟で傷つきやすいが、第2樹脂層12bは、各々がイソフタル酸共重合ポリエステル樹脂を含む第1樹脂層12aおよび第3樹脂層12cで挟まれているため、樹脂フィルム12の取扱い易さを向上させることができる。すなわち、第1樹脂層12aおよび第3樹脂層12cは高温時でも非粘着性であり、かつ常温時では比較的堅牢な性質を有しているので、フィルム成形時に高温の延伸ロールに巻き付くトラブルがなく、アルミニウム缶成型時の搬送時などに傷つく虞もない。ただし、前述の延伸ロールへの巻き付きや、アルミニウム缶搬送時の傷付きは、そのトラブルが発生する箇所の部品の表面処理など特殊な対策を施したり、生産速度を下げたりするなどの対策を行えば解決する場合があり、第1樹脂層12aおよび第3樹脂層12cは生産技術的な対応によって省略できる。
【0034】
図示しないが、アルミニウム板10の缶外面側となる面に、樹脂フィルムが設けられていてもよい。この外面側樹脂フィルムは、例えば、ポリブチレンテレフタレートとイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートのブレンド樹脂(PBT/共重合PET)とすることができる。外面側樹脂フィルムは、例えば5~20μmの厚さを有する。
【0035】
1-2-2.接着剤層11
上述の樹脂フィルム12は、接着剤層11によってアルミニウム板10に接着することができる。接着剤層11は、例えば、熱硬化性エポキシ樹脂からなる接着剤とすることができる。接着剤層11は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含まないことが好ましい。ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、内分泌攪乱物質としての懸念がある。このため、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含まないことは、缶容器の内容物へのビスフェノールA型エポキシ樹脂の溶出を確実に回避できる点で好ましい。ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含まないで、接着性を上げるには、例えば、ポリエステル樹脂とフェノール樹脂の含有比率(質量比)を10~40:0~20とすることが好ましい。接着剤層11は、例えば2~20μmの厚さを有する。
【0036】
第1および第2実施形態では、炭酸カルシウム14は、接着剤層11に粒子の形態で含まれる。炭酸カルシウム14は、亜硫酸と反応する捕酸剤として機能する。このため、炭酸カルシウム14は、ワインに含まれる亜硫酸が、樹脂フィルム12を透過してアルミニウム板10に到達するのを防止することができる。その結果、アルミニウム缶の腐食を防止したり、亜硫酸とアルミニウムとの反応による硫化水素の発生によりワインのフレーバー劣化を招くことを防止したりすることができる。
【0037】
炭酸カルシウム14の粒子は、例えば0.01~4.0μmの平均粒径、好ましくは0.01~0.1μmの平均粒径を有する。炭酸カルシウム14の添加量は、接着剤樹脂100質量部に対して、例えば5~50質量部とすることができる。炭酸カルシウムの添加量が少ないと、上記効果が低下する傾向があり、炭酸カルシウムの添加量が多いと、樹脂フィルム12の成形性が低下する傾向がある。
【0038】
炭酸カルシウム14は、接着剤層11に含まれていることが好ましい。この場合、炭酸カルシウム14は、ワインに含まれる亜硫酸を効果的に捕獲することができる。炭酸カルシウム14は、接着剤層11に加えて、樹脂フィルム12の何れかの層に更に含まれていてもよい。あるいは、炭酸カルシウム14は、接着剤層11の代わりに樹脂フィルム12の何れかの層に含まれていてもよい。この場合、樹脂フィルム12を複数層から構成し、最表面層以外の層に炭酸カルシウム14を含むことが好ましい。炭酸カルシウム14を、樹脂フィルム12の最表面層以外の層に含むと、アルミニウム缶の成形加工時にミクロな欠陥を生じる可能性を排除することができる。
【0039】
1-2-3.樹脂フィルム12の詳細
第2実施形態における樹脂フィルム12の詳細を以下で説明する。
【0040】
<第1樹脂層12a>
第1樹脂層12aは、第1樹脂層12aの全酸量に対して3~15mol%のイソフタル酸を含んだイソフタル酸共重合ポリエステル樹脂を、例えば50~100質量%の含有率で含む樹脂フィルムとすることができる。かかる樹脂フィルムは130℃付近で非粘着性である。
【0041】
「イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂」は、例えば、テレフタル酸成分を85~97モル%、イソフタル酸成分を15~3モル%含有するジカルボン酸単位と、エチレングリコール成分を90モル%以上含有するジオール単位とからなるものである。すなわち、「イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂」は、例えば、主としてエチレンテレフタレートからなり、イソフタル酸成分3~15モル%が共重合されているものである。イソフタル酸成分を共重合させると、フィルムにしなやかさを付与することができる。これにより、アルミニウム缶の成形時に表面に微細なクラックが生じることを防ぐことができる。
【0042】
イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂においては、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分以外のジカルボン酸単位が、アルミニウム板へのラミネート性、アルミニウム缶の特性を損なわない範囲、例えば、10モル%以下の範囲で含まれていてもよい。このようなジカルボン酸単位としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、1,12-ドデカン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられ、これらは単独で使用しても、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0043】
また、イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂においては、エチレングリコール成分以外のジオール単位が、10モル%以下の範囲で含まれていてもよい。このようなジオール単位としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジエタノール等の脂環族ジオール等が挙げられ、これらは単独で使用しても、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0044】
イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂は、上記ジカルボン酸成分とジオール成分とを、公知の方法でエステル化反応させることによって得られる。例えば、ジカルボン酸成分の末端にメチル基が付加された出発物質を用いて触媒添加によりジオール成分とエステル交換反応を行う方法や、末端未修飾のジカルボン酸成分を出発物質としてジオール成分と直接エステル化反応を行なう方法が挙げられる。あるいは、市販のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂を使用してもよく、市販品としては、例えば、IP121B,PIFG8,PIFG10(いずれもベルポリエステルプロダクツ社製)等が挙げられる。また、イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂の極限粘度は、特に限定されるものではないが、0.7~0.9であることが好ましい。
【0045】
上記のイソフタル酸共重合ポリエステル樹脂は、単独でフィルム成形して用いることも可能であるが、他のポリエステル樹脂、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂などを単独で、または混合して、イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂に対して50質量%未満の割合でブレンドして用いてもよい。
【0046】
<第2樹脂層12b>
第2樹脂層12bは、ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂を、例えば50~100質量%の含有率で含む樹脂フィルムとすることができる。
【0047】
「ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂」は、例えば、
テレフタル酸成分を70モル%以上含有するジカルボン酸単位(a1)とエチレングリコール成分を70モル%以上含有するジオール単位(a2)とからなり、数平均分子量700以下のエステルオリゴマー(A)50~93質量%と、
水添ダイマー酸単位(b1)と、1,4-ブタンジオール単位(b2)とからなり、数平均分子量1500~3000のポリエステルポリオール(B)7~50質量%と
を構成単位とするものである。
【0048】
[エステルオリゴマー(A)]
上記のダイマー酸共重合ポリエステル樹脂において、ジカルボン酸単位(a1)は、テレフタル酸単位を70モル%以上含有するものである。なお、ジカルボン酸単位の全量がテレフタル酸単位であってもかまわない。あるいは、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分が、アルミニウム板へのラミネート性、アルミニウム缶の成形時の特性を損なわない範囲で、30モル%未満の範囲で含有されていてもよい。テレフタル酸以外のジカルボン酸成分は、例えば、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1、4-ナフタレンジカルボン酸、4、4′-ビフェニルジカルボン酸、1,12-ドデカン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられ、これらを単独で使用しても、2種類以上を混合して使用してもよい。また、これらのうち、フィルム被覆を含むアルミニウム缶の耐デント性(すなわち、外部衝撃(デント)を与えられてもフィルム面が破損せずアルミニウム板の腐食が生じにくい性質)の向上の点から、例えば、イソフタル酸を1~30モル%程度の範囲で好適に用いることができる。
【0049】
上記のダイマー酸共重合ポリエステル樹脂において、ジオール単位(a2)は、エチレングリコール単位を70モル%以上含有するものである。なお、ジオール単位の全量がエチレングリコール単位であってもかまわない。あるいは、エチレングリコール以外のジオール成分が、30モル%未満の範囲で含有されていてもよい。エチレングリコール以外のジオール成分は、例えば、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、シクロへキサンジメタノール等が挙げられ、これらを単独で使用しても、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0050】
上記のダイマー酸共重合ポリエステル樹脂において、エステルオリゴマー(A)の数平均分子量は700以下であり、好ましくは、300~700である。数平均分子量700以下のエステルオリゴマー(A)を使用して共重合体を行うことで、ポリエステルポリオール(B)が高分子鎖中にランダムに結合され、外観が透明な共重合ポリエステル樹脂が得られる。また、得られた共重合ポリエステル樹脂は、他の樹脂との相溶性も良好なため、他の樹脂とブレンドして溶融押出を行った際にサージング現象(吐出不安定現象)等の問題が発生せず、安定に製膜することができる。
【0051】
一方で、例えば、数平均分子量が700を超え、1000付近のエステルオリゴマーを使用すると、さらなるポリエステルポリオール(B)との共重合反応において、重合反応の頭打ちが生じるため、例えば、極限粘度が0.7~0.9程度の高粘度の共重合ポリエステル樹脂が得られない。また、数平均分子量が5000を超えるようなポリエステルを使用すると、重合反応の頭打ち現象が生じることなく、高分子の共重合ポリエステル樹脂が得られるものの、得られる共重合ポリエステル樹脂は、エステル(A)単位の分子量が大きいため、-(A)-(B)-型のブロック状共重合体となってしまい、相分離により樹脂の外観が白濁してしまう。さらに、このようなブロック状共重合体は、他の樹脂との相溶性に乏しいため、溶融押出の際にサージング現象(吐出不安定現象)が発生してしまい、シートあるいはフィルムを成形することができないという問題もある。
【0052】
エステルオリゴマー(A)は、テレフタル酸を主とするジカルボン酸成分(a1)とエチレングリコールを主とするジオール成分(a2)とを、公知の方法でエステル化反応させることによって得られる。例えば、ジカルボン酸成分(a1)の末端にメチル基が付加された出発物質を用いて触媒添加によりジオール成分(a2)とエステル交換反応を行いオリゴマーを得る方法や、末端未修飾のジカルボン酸成分(a1)を出発物質としてジオール成分(a2)と直接エステル化反応によりオリゴマーを得る方法が挙げられる。
【0053】
エステルオリゴマー(A)の製造においては、例えば、反応温度230~250℃にて所定のエステル化率に到達した後、得られた全オリゴマーに対して3~10質量%のジオール(エチレングリコール)を系内に投入し、内温を230~250℃に維持した状態で30分~1時間程度、解重合反応を行なうことが望ましい。エステル化反応後、ジオール(エチレングリコール)を用いた解重合反応を行うことによって、エステルオリゴマー(A)の数平均分子量を700以下に調整することが可能となる。一方、解重合反応を行わない場合、通常の条件では、エステルオリゴマーの数平均分子量が700を超える高いものとなってしまう。あるいは、解重合反応を行わない場合、ジオール成分のジカルボン酸成分に対するモル比を1.25~1.60の高い範囲とすることによって数平均分子量を700以下に制御することもできるが、ジオール成分のモル比が1.25未満であると、数平均分子量が700を超えてしまう。
【0054】
[ポリエステルポリオール(B)]
上記のダイマー酸共重合ポリエステル樹脂において、ポリエステルポリオール(B)は、ジカルボン酸単位が水添ダイマー酸単位(b1)からなるものである。ダイマー酸とは、例えば、オレイン酸やリノール酸といった炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られた炭素数36のジカルボン酸化合物である。二量化後に残存する不飽和二重結合が水素添加によって飽和化されたダイマー酸が水添ダイマー酸であり、ポリエステルポリオール(B)のジカルボン酸単位は、この水添ダイマー酸単位(b1)からなる。なお、通常、水添ダイマー酸は、直鎖分岐構造化合物、脂環構造等を持つ化合物の混合物として得られ、その製造工程によりこれらの含有率は異なるものの、本発明においてこれらの含有率は特に限定されない。また、ポリエステルポリオール(B)のジオール単位は、1,4-ブタンジオール単位(b2)からなる。なお、ポリエステルポリオール(B)の末端は、いずれも1,4-ブタンジオール単位(b2)に由来する水酸基である。
【0055】
ポリエステルポリオール(B)の数平均分子量は1500~3000であり、好ましくは1800~2500である。平均分子量がこの範囲であれば、共重合時の反応性に優れ、且つ得られた共重合ポリエステル樹脂の金属板被覆用フィルムとしての性能も優れる。これに対して、平均分子量が1500未満の場合、共重合時の反応性は良好であるものの、フィルム被覆を含むアルミニウム缶の耐デント性に劣る傾向がある。一方で、平均分子量が3000を超える場合、共重合時の反応性が悪く、所望の分子量の共重合ポリエステル樹脂が得られない場合がある。
【0056】
ポリエステルポリオール(B)は、水添ダイマー酸単位(b1)と、1,4-ブタンジオール単位(b2)とを、公知の方法でエステル化反応させることによって得ることができるものの、末端が水酸基となるように反応時のモル比をそれぞれ調整する必要がある。あるいは、ポリエステルポリオール(B)として、市販品を使用してもかまわない。例えば、水添ダイマー酸と1,4-ブタンジオールからなる数平均分子量2200のポリエステルポリオールとして、Priplast3199(クローダ社製)が市販されている。また、その他のポリエステルポリオールの市販品として、Priplast3162,3192,3196,2101,2104(いずれもクローダ社製)等が入手可能である。
【0057】
[共重合ポリエステル樹脂]
上記のダイマー酸共重合ポリエステル樹脂は、エステルオリゴマー(A)50~93質量%と、ポリエステルポリオール(B)7~50質量%とを共重合反応させることによって得ることができる。ここで、ポリエステルポリオール(B)の全ポリマー中に占める含有量は7~50質量%であり、好ましくは15~35質量%である。ポリエステルポリオール(B)の含有量が上記範囲であれば、共重合反応性に優れているとともに、特にフィルム被覆を含むアルミニウム缶の耐デント性に優れている。さらに、ポリエステルポリオール(B)が高分子鎖中にランダムに結合された共重合ポリエステル樹脂が得られるため、外観が無色透明あるいは淡黄色透明となる。他方、ポリエステルポリオール(B)の含有量が7質量%未満であると、フィルム被覆を含むアルミニウム缶の耐デント性が劣り、50質量%を超えると、共重合反応性に劣るとともに、得られた共重合ポリエステル樹脂において、ポリエステルポリオール(B)の相分離が生じ、白濁した外観となる場合がある。
【0058】
エステルオリゴマー(A)とポリエステルポリオール(B)との共重合反応は、従来公知の方法で行うことができ、例えば、各成分を添加した反応系内を大気圧から徐々に減圧して133.3Pa以下の高真空下として一連の反応を行うことができる。反応時の温度は、250~270℃の間で制御することが望ましく、270℃を超えると、共重合反応の後半に劣化による粘度低下が発生し、250℃未満では共重合反応が進行しない場合がある。また、共重合反応に使用する重合触媒としては、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウム、チタン化合物等が用いることができ、これらのうち、反応性、安全性、価格の面から、テトラブチルチタネートやテトライソプロポキシチタネート等のチタン化合物を用いることが好ましい。また、上記のダイマー酸共重合ポリエステル樹脂の極限粘度は、特に限定されるものではないが、0.7~0.9であることが好ましい。
【0059】
ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂を得るもう一つの方法として、テレフタル酸成分を50~95mol%、ダイマー酸成分を50~5mol%含有するジカルボン酸と、エチレングリコール成分を90mol%以上含有するジオールとを公知の方法でエステル化反応させることによる方法が挙げられる。
【0060】
ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂においては、テレフタル酸成分、ダイマー酸成分以外のジカルボン酸単位が、アルミニウム板へのラミネート性、アルミニウム缶の特性を損なわない範囲、例えば、10モル%以下の範囲で含まれていてもよい。このようなジカルボン酸単位としては、例えば、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、1,12-ドデカン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられ、これらは単独で使用しても、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0061】
また、ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂においては、エチレングリコール成分以外のジオール単位が、10モル%以下の範囲で含まれていてもよい。このようなジオール単位としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジエタノール等の脂環族ジオール等が挙げられ、これらは単独で使用しても、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0062】
上記のダイマー酸共重合ポリエステル樹脂は、単独でフィルム成形して用いることも可能であるが、他のポリエステル樹脂とブレンドして用いてもよい。他のポリエステル樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂、イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂などが挙げられ、単独で、または混合して、ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂の50質量%未満の割合でブレンドして使用してもよい。
【0063】
<第3樹脂層12c>
第3樹脂層12cは、第3樹脂層12cの全酸量に対して3~15mol%のイソフタル酸を含んだイソフタル酸共重合ポリエステル樹脂を、例えば50~100質量%の含有率で含む樹脂フィルムとすることができる。第3樹脂層12cは、第1樹脂層12aと同様の組成とすることができる。
【0064】
上記の第1樹脂層12a、第2樹脂層12b、第3樹脂層12cの共重合ポリエステル樹脂において、溶融押出フィルムを成形する場合の冷却ロールへの静電密着性を安定させるために、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、塩化マグネシウム等の金属塩を添加剤として添加することも可能である。さらに、フィルムロールのブロッキング防止剤として、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、二酸化チタン等の不活性粒子を適量配合することも可能であり、不活性粒子の平均粒径は1.0~4.0μmが好ましい。1.0μm未満ではアンチブロッキング性に劣り、4.0μmを超えると磨耗による粒子の脱落やフィルム延伸時の破断が生じる場合がある。
【0065】
また、上記の第1樹脂層12a、第2樹脂層12b、第3樹脂層12cの共重合ポリエステル樹脂には、必要に応じて着色顔料、ワックス、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含有していてもよい。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等があるが、特にヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。また、これら酸化防止剤の数種類を組み合わせても添加してもよく、含有量は100~5000ppmが好ましい。
【0066】
<積層フィルム>
樹脂フィルム12は、第1樹脂層12a、第2樹脂層12b、および第3樹脂層12cの共重合ポリエステル樹脂を、公知の方法によって積層することによって得ることができる。例えば、第1樹脂層12aの共重合ポリエステル樹脂と、第2樹脂層12bの共重合ポリエステル樹脂と、第3樹脂層12cの共重合ポリエステル樹脂とを、それぞれ個別の押出機に投入し1つのダイから同時に共押出する方法(コエクストルージョンラミネート)が挙げられる。あるいは、予めTダイ法やインフレーション法によって製造した第1樹脂層12a(または第3樹脂層12c)のフィルムを送り出しながら、その表面上に第2樹脂層12bの共重合ポリエステル樹脂を溶融押出し、冷却固化し、得られた2層構造のフィルムを送り出しながら、その表面上に第3樹脂層12c(または第1樹脂層12a)の共重合ポリエステル樹脂を溶融押出し、冷却固化する方法(エクストルージョンラミネート)が挙げられる。また、樹脂フィルム12の厚さは、特に限定されるものではないが、第1樹脂層12a、第2樹脂層12b、第3樹脂層12cの合計で9~30μmであることが好ましい。
【0067】
2.ワイン充填用アルミニウム缶
別の側面によれば、ワイン充填用アルミニウム缶が提供され、ワイン充填用アルミニウム缶は、アルミニウム板と、前記アルミニウム板の缶内面側となる面に設けられた樹脂フィルムと、前記アルミニウム板と前記樹脂フィルムとの間に介在し、それらを接着する接着剤層と含み、前記樹脂フィルムが、最表面層としての第1樹脂層と、ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂を含む第2樹脂層とを含み、前記樹脂フィルムを構成する樹脂層および前記接着剤層の少なくとも1つの層が炭酸カルシウムを含む。
【0068】
ワイン充填用アルミニウム缶の詳細は、上述の「1-2.アルミニウム缶」の欄の説明を参照することができる。かかるアルミニウム缶は、缶内面側に特定の樹脂フィルムを有するため、ワインを充填した際にアルミニウム缶の腐食およびワインのフレーバー劣化が起こりにくい点で優れている。
【0069】
以下に、ワイン充填用アルミニウム缶の好ましい実施形態をまとめて示す。
【0070】
[1] アルミニウム板と、前記アルミニウム板の缶内面側となる面に設けられた樹脂フィルムと、前記アルミニウム板と前記樹脂フィルムとの間に介在し、それらを接着する接着剤層と含み、前記樹脂フィルムが、最表面層としての第1樹脂層と、ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂を含む第2樹脂層とを含み、前記樹脂フィルムを構成する樹脂層および前記接着剤層の少なくとも1つの層が炭酸カルシウムを含む、ワイン充填用アルミニウム缶。
【0071】
[2] 前記樹脂フィルムが、前記第1樹脂層および前記第2樹脂層の2層構造を有する[1]に記載のワイン充填用アルミニウム缶。
[3] 前記第1樹脂層が、イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂を含む[1]または[2]に記載のワイン充填用アルミニウム缶。
【0072】
[4] 前記接着剤層が、熱硬化性エポキシ樹脂を含む[1]~[3]の何れか1に記載のワイン充填用アルミニウム缶。
[5] 前記樹脂フィルムが、前記接着剤層と対向する面の最外層として、第3樹脂層を更に含み、前記第1樹脂層、前記第2樹脂層、および前記第3樹脂層の3層構造を有する[1]に記載のワイン充填用アルミニウム缶。
【0073】
[6] 前記第1樹脂層が、イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂を含む[5]に記載のワイン充填用アルミニウム缶。
[7] 前記接着剤層が、熱硬化性エポキシ樹脂を含む[5]または[6]に記載のワイン充填用アルミニウム缶。
【0074】
[8] 前記第3樹脂層が、イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂を含む[5]~[7]の何れか1に記載のワイン充填用アルミニウム缶。
[9] 前記接着剤層が炭酸カルシウムを含む[1]~[8]の何れか1に記載のアルミニウム缶充填ワイン。
【実施例
【0075】
[実施例1]
実施例1では、缶内面側に特定のコーティングを有するアルミニウム缶に種々のワインを封入し、貯蔵試験を行った。
【0076】
[pH、アルコール濃度、遊離型亜硫酸濃度、および塩化物イオン濃度の取得]
38種類のワインについて、pH、アルコール濃度、遊離型亜硫酸濃度、および塩化物イオン濃度を取得した。pHは、20℃でpHメーターにより測定した。アルコール濃度は、高速液体クロマトグラフィーにより測定した。遊離型亜硫酸濃度は、通気蒸留・滴定法(ランキン法)により測定した。塩化物イオン濃度は、電位差滴定法により測定した。
【0077】
[分子状SO2濃度の算出]
取得されたpH、アルコール濃度、および遊離型亜硫酸濃度の値から、上述の分子状SO2濃度の計算式に基づいて、38種類のワインの各々の分子状SO2濃度を算出した。
【0078】
[アルミニウム缶への封入]
ワインの各々をアルミニウム缶本体に充填し、アルミニウム缶本体に別部品のキャップを巻締めることにより、缶充填ワインを製造した。
【0079】
使用したアルミニウム缶は、図1に示すボトル缶の構造を有し、缶内面側に、図3に示す層構成を有する樹脂被膜を有し、缶外面側に樹脂被膜を有していた。具体的には、アルミニウム缶本体は、缶外面側から順に、外面側樹脂フィルム、アルミニウム板10、接着剤層11、および3層構造の内面側樹脂フィルム12を有していた。
【0080】
3層構造の内面側樹脂フィルム12は、10モル%イソフタル酸共重合PET樹脂からなる外層と、21モル%ダイマー酸共重合PET樹脂からなる中間層と、10モル%イソフタル酸共重合PET樹脂からなる内層とから構成されていた。内面側樹脂フィルム12は、25μmの厚さを有していた。外層、中間層、内層は、1:1:0.5の厚さの比を有していた。また、接着剤層11は、熱硬化性エポキシ樹脂からなり、炭酸カルシウム粒子を含んでいた。接着剤層11は、3μmの厚さを有していた。
【0081】
また、外面側樹脂フィルムは、ポリブチレンテレフタレートとイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートのブレンド樹脂(PBT/共重合PET)から構成されていた。外面側樹脂フィルムは、18μmの厚さを有していた。
【0082】
アルミニウム缶の素材は、以下のとおり製造した。すなわち、内面側樹脂フィルムを公知の共押出フィルム製造方法により準備し、内面側樹脂フィルムに接着剤樹脂を塗布し、一方、外面側樹脂フィルムを公知のフィルム製造方法により準備し、これら2種類のフィルムをアルミニウム板に熱圧着により接着させた。
【0083】
[缶充填ワインの蔵置および品質評価]
缶充填ワインを蔵置し、蔵置後に、前記缶充填ワインの品質を評価した。蔵置は、5℃、20℃、38℃の温度で24ヶ月の期間にわたって行った。品質評価は、腐食状態の目視観察および官能評価により行った。
【0084】
すべての蔵置条件で、腐食が観察されず、かつワインのフレーバーが劣化しなかった場合、かかるワインを、試験したアルミニウム缶に充填可能なワインと評価した。一方、腐食が観察されるか、またはワインのフレーバーが劣化した場合、かかるワインを、試験したアルミニウム缶に充填可能でないワインと評価した。
【0085】
[分子状SO2濃度の上限値および塩化物イオン濃度の上限値の決定]
横軸に分子状SO2濃度(mg/L)をとり、縦軸に塩化物イオン濃度(mg/L)をとり、各ワインのデータをプロットした。評価結果が良かったワイン(すなわち、試験したアルミニウム缶に適用可能であると評価されたワイン)は、「〇」印でプロットし、評価結果が悪かったワイン(すなわち、試験したアルミニウム缶に適用可能でないと評価されたワイン)は、「×」印でプロットした。
【0086】
評価結果を図4に示す。評価結果によると、分子状SO2濃度が4.3mg/mL以下であり、かつ塩化物イオン濃度が350mg/L以下であるワインを、缶内面側に特定のコーティングを有する上記アルミニウム缶に充填すると、蔵置期間に、アルミニウム缶の腐食やワインのフレーバー劣化を引き起こさないことが示された。
【0087】
[実施例2]
実施例2では、実施例1で使用したアルミニウム缶(以下、アルミニウム缶Aという)に加えて、別のアルミニウム缶(以下、アルミニウム缶Bという)に、下記表1に示す3種類のワインを封入して、貯蔵試験を行った。貯蔵試験は、実施例1の[缶充填ワインの蔵置および品質評価]の欄に記載されるとおり行った。
【0088】
アルミニウム缶Bは、ボトル缶の構造を有し、缶内面側に、図2に示す層構成を有する樹脂被膜を有し、缶外面側に樹脂被膜を有していた。具体的には、アルミニウム缶Bの本体は、缶外面側から順に、外面側樹脂フィルム、アルミニウム板10、接着剤層11、および2層構造の内面側樹脂フィルム12を有していた。
【0089】
2層構造の内面側樹脂フィルム12は、ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートのブレンド樹脂(PBT/PET)からなる外層と、10モル%イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂からなる内層とから構成されていた。内面側樹脂フィルム12は、20μmの厚さを有していた。外層、内層は、1:1の厚さの比を有していた。また、接着剤層11は、熱硬化性エポキシ樹脂からなり、炭酸カルシウム粒子を含んでいた。接着剤層11は、3μmの厚さを有していた。
【0090】
また、外面側樹脂フィルムは、ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートのブレンド樹脂(PBT/PET)から構成されていた。外面側樹脂フィルムは、18μmの厚さを有していた。
【0091】
評価結果を以下の表に示す。
【表1】
【0092】
ワインAは、2.2mg/Lの分子状SO2濃度と、170mg/Lの塩化物イオン濃度を有していた。ワインBは、0.8mg/Lの分子状SO2濃度と、40mg/Lの塩化物イオン濃度を有していた。ワインCは、2.7mg/Lの分子状SO2濃度と、50mg/Lの塩化物イオン濃度を有していた。
【0093】
ワインAは、アルミニウム缶Aに封入して貯蔵試験を行った場合には、腐食が起こらなかったが、アルミニウム缶Bに封入して貯蔵試験を行った場合には、腐食が起こった。同様に、ワインCは、アルミニウム缶Aに封入して貯蔵試験を行った場合には、腐食が起こらなかったが、アルミニウム缶Bに封入して貯蔵試験を行った場合には、腐食が起こった。
【0094】
この結果から、ワイン中の分子状SO2濃度が4.3mg/mL以下であり、かつワイン中の塩化物イオン濃度が350mg/L以下であったとしても、アルミニウム缶の内面側に特定のコーティングを有していないと、蔵置期間にアルミニウム缶の腐食が起こることが分かる。
【0095】
実施例1と実施例2の結果から、アルミニウム缶の内面側の特定のコーティングとワインの特定の組成とを組み合わせると、アルミニウム缶の腐食およびワインのフレーバー劣化を防止できることが示された。
以下に、本願の出願当初の請求項を実施の態様として付記する。
[1] アルミニウム板と、前記アルミニウム板の缶内面側となる面に設けられた樹脂フィルムと、前記アルミニウム板と前記樹脂フィルムとの間に介在し、それらを接着する接着剤層とを含み、前記樹脂フィルムが、最表面層としての第1樹脂層と、ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂を含む第2樹脂層とを含み、前記樹脂フィルムを構成する樹脂層および前記接着剤層の少なくとも1つの層が炭酸カルシウムを含むアルミニウム缶と、
前記アルミニウム缶に封入され、4.3mg/L以下の分子状SO 2 と、350mg/L以下の塩化物イオンとを含有するワインと
を含むアルミニウム缶充填ワイン。
[2] 前記樹脂フィルムが、前記第1樹脂層および前記第2樹脂層の2層構造を有する[1]に記載のアルミニウム缶充填ワイン。
[3] 前記第1樹脂層が、イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂を含む[1]または[2]に記載のアルミニウム缶充填ワイン。
[4] 前記接着剤層が、熱硬化性エポキシ樹脂を含む[1]~[3]の何れか1に記載のアルミニウム缶充填ワイン。
[5] 前記樹脂フィルムが、前記接着剤層と対向する面の最外層として、第3樹脂層を更に含み、前記第1樹脂層、前記第2樹脂層、および前記第3樹脂層の3層構造を有する[1]に記載のアルミニウム缶充填ワイン。
[6] 前記第1樹脂層が、イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂を含む[5]に記載のアルミニウム缶充填ワイン。
[7] 前記接着剤層が、熱硬化性エポキシ樹脂を含む[5]または[6]に記載のアルミニウム缶充填ワイン。
[8] 前記第3樹脂層が、イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂を含む[5]~[7]の何れか1に記載のアルミニウム缶充填ワイン。
[9] 前記接着剤層が炭酸カルシウムを含む[1]~[8]の何れか1に記載のアルミニウム缶充填ワイン。
[10] アルミニウム板と、前記アルミニウム板の缶内面側となる面に設けられた樹脂フィルムと、前記アルミニウム板と前記樹脂フィルムとの間に介在し、それらを接着する接着剤層と含み、前記樹脂フィルムが、最表面層としての第1樹脂層と、ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂を含む第2樹脂層とを含み、前記樹脂フィルムを構成する樹脂層および前記接着剤層の少なくとも1つの層が炭酸カルシウムを含む、ワイン充填用アルミニウム缶。
【符号の説明】
【0096】
1…ワイン充填用アルミニウム缶、2…容器本体、2a…口頸部、2b…肩部、2c…胴部、3…底蓋
10…アルミニウム板、11…接着剤層、12…樹脂フィルム、12a…第1樹脂層、12b…第2樹脂層、12c…第3樹脂層、14…炭酸カルシウム
図1
図2
図3
図4