(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極
(51)【国際特許分類】
H01M 4/133 20100101AFI20241202BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20241202BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20241202BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241202BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/48
H01M4/587
H01M4/36 E
H01M4/62 Z
H01M4/36 A
(21)【出願番号】P 2023523168
(86)(22)【出願日】2021-10-18
(86)【国際出願番号】 KR2021014516
(87)【国際公開番号】W WO2022080995
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】10-2020-0134444
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ス-ミン・イ
(72)【発明者】
【氏名】セ-ミ・パク
(72)【発明者】
【氏名】スン-ヨン・シン
(72)【発明者】
【氏名】ヨン-ジュ・イ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン-ヒュン・チェ
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-125077(JP,A)
【文献】特表2017-514280(JP,A)
【文献】特表2018-530859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/00-10/39
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池用負極であって、
前記リチウムイオン二次電池用負極は、負極集電体と、前記負極集電体の少なくとも一面に形成され、負極活物質を備える負極活物質層と、を含み、
前記負極活物質層は、負極集電体の表面と対面する下層部と、前記下層部の上部に配置される上層部と、を含み、
前記下層部は負極活物質として黒鉛を含み、前記上層部は負極活物質として黒鉛及びケイ素酸化物を含み、前記ケイ素酸化物の球形度は0.4~0.8であり、前記上層部は線形導電材
として単層カーボンナノチューブ(SWCNT)及び多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の1種以上を含む、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項2】
前記下層部は、負極活物質100wt%に対して黒鉛を90wt%以上で含む、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項3】
前記上層部は、黒鉛とケイ素酸化物とを70:30~99:1の重量比で含む、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
前記ケイ素酸化物は、下記化学式1で表される化合物を1種以上含み、
[化学式1]
SiOx
前記xは、0以上2未満である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項5】
前記xが0.5以上1.5以下である、請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項6】
前記ケイ素酸化物の粒径(D50)が3μm~10μmである、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項7】
前記ケイ素酸化物のケイ素酸化物粒子の表面に、内部に、または表面及び内部に金属が分布し、前記金属はLi、Mg及びAlから選択された1種以上である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項8】
前記線形導電材
は、グラフェ
ンをさらに含む、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用負極を含むリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年10月16日付け出願の韓国特許出願第10-2020-0134444号に基づく優先権を主張する。本発明は、リチウムイオン二次電池用負極及びそれを含む二次電池に関し、より詳しくは、急速充電用電池で効果的に使用可能な負極、及びそれを含む二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
モバイル機器に対する技術開発と需要が増加するにつれ、再充電が可能であって小型化及び大容量化が可能な二次電池の需要が急激に伸びている。最近はハイブリッド電気自動車(HEV)、電気自動車(EV)の動力源としての二次電池の使用が実現されている。それ故に、多様な要求に応えられる二次電池に対して盛んに研究されており、特に高いエネルギー密度、高い放電電圧及び出力を有するリチウム二次電池に対する需要が高まっている。電気自動車などに使用されるリチウム二次電池は、高エネルギー密度及び短時間に高出力を発揮可能な特性を持つべきであるだけでなく、大電流による充放電が短時間に繰り返される苛酷な条件下で10年以上使用できなければならないため、従来の小型リチウム二次電池よりも著しく優れた出力特性及び長期寿命特性が必ず求められる。
【0003】
特に、近年開発される電気自動車は、急速充電モードと緩速充電モードを備えてユーザ便宜性を極大化している。高エネルギー密度のリチウム二次電池を速い速度で充電するためには、電池の電流密度を非常に高くして充電しなければならない。一方、高い電流密度でリチウムイオン電池を充電すると、負極の表面で短期的に過電圧が発生して(<0V vs Li/Li+)リチウム金属の析出と電解液の分解が加速化し易く、電池の寿命劣化につながる結果になる。急速充電にも寿命の劣化がない電池を開発するためには、より速い速度でリチウムイオンを受け入れられる負極の開発が必須である。
【0004】
また、リチウム二次電池の基本的な性能特性である容量、出力及び寿命は、負極材料によって大きく影響を受ける。電池性能の極大化のため、負極活物質は電気化学反応電位がリチウム金属に近く、リチウムイオンとの反応可逆性が高く、さらに活物質内におけるリチウムイオンの拡散速度が速くなければならないなどの条件が要求される。このような要求に応える物質として黒鉛とシリコン素材が多く用いられている。黒鉛系負極材料は充放電時に劣化し易く(天然黒鉛)、容量が低いという短所があり、シリコン系負極活物質は黒鉛などの炭素系材料に比べて高容量であるものの、充放電時の体積変化が大きい。相互の短所を補うため、炭素材料とシリコン材料との混合使用に対する考慮が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためのものであって、二重層構造の負極活物質層を含む負極を提供することを第1課題とする。また、前記負極活物質層のうちの上層部が負極活物質として特定範囲の球形度を満たすSiOを含む負極を提供することを第2課題とする。一方、本発明の他の目的及び長所は、下記の説明によって理解されるものである。また、本発明の目的及び長所は、特許請求の範囲に示される手段または方法、及びその組み合わせによって実現可能である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1形態は、リチウムイオン二次電池用負極に関し、前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体の少なくとも一面に形成され、負極活物質を備える負極活物質層と、を含み、前記負極活物質層は、負極集電体の表面と対面する下層部と、前記下層部の上部に配置される上層部と、を含み、前記下層部は負極活物質として黒鉛を含み、前記上層部は負極活物質として黒鉛及びケイ素酸化物を含み、前記ケイ素酸化物は球形度が0.4~0.8であり、前記上層部は線形導電材を含む。
【0007】
本発明の第2形態によれば、第1形態において、前記下層部は負極活物質100wt%に対して黒鉛を90wt%以上で含む。
【0008】
本発明の第3形態によれば、第1または第2形態において、前記上層部は黒鉛とケイ素酸化物とが70:30~99:1の重量比で含まれる。
【0009】
本発明の第4形態によれば、第1~第3形態のうちのいずれか一つにおいて、前記ケイ素酸化物は下記化学式1で表される化合物を1種以上含む。
[化学式1]
SiOx
式中、前記xは0以上2未満である。
【0010】
本発明の第5形態によれば、第4形態において、前記xは0.5以上1.5以下である。
【0011】
本発明の第6形態によれば、第1~第5形態のうちのいずれか一つにおいて、前記ケイ素酸化物は粒径(D50)が3μm~10μmである。
【0012】
本発明の第7形態によれば、第1~第6形態のうちのいずれか一つにおいて、前記ケイ素酸化物はケイ素酸化物粒子の表面、内部、または表面及び内部に金属が分布されているものであり、前記金属はLi、Mg及びAlから選択された1種以上である。
【0013】
本発明の第8形態によれば、第1~第7形態のうちのいずれか一つにおいて、前記線形導電材は単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)及びグラフェンから選択された1種以上を含む。
【0014】
本発明の第9形態は、第1~第8形態のうちのいずれか一つによる負極を含むリチウムイオン二次電池に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明による負極を使用する二次電池は、電池の寿命特性及び急速充電特性が改善される。
【0016】
本明細書に添付される図面は、本発明の望ましい実施形態を例示するものであり、発明の内容とともに本発明の技術的な思想をさらに理解させる役割をするものであるため、本発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されてはならない。一方、本明細書に添付される図面における要素の形状、大きさ、縮尺または比率などはより明確な説明を強調するため誇張されることもある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本明細書及び特許請求の範囲において使用された用語や単語は通常的及び辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。したがって、本明細書に記載された実施形態に示された構成は、本発明のもっとも望ましい一実施形態に過ぎず、本発明の技術的な思想のすべてを代弁するものではないため、本出願の時点においてこれらに代替できる多様な均等物及び変形例があり得ることを理解せねばならない。
【0019】
本明細書の全体において、ある部分が他の構成要素を「含む」とは、特に言及しない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0020】
また、本明細書の全体で使われる用語「約」、「実質的に」などは、言及された意味に固有の製造及び物質許容誤差が提示されるとき、その数値でまたはその数値に近接した意味として使われ、本願の理解を助けるために正確または絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使われる。
【0021】
本明細書の全体において、「A及び/またはB」との記載は「A、Bまたはこれら全て」を意味する。
【0022】
発明の詳細な説明における特定の用語は便宜上使用されるものであって、制限的なものではない。また、上、下、左、右、前、後、内部、外部のように方向を示す単語は、参照する図面における方向を示すか、若しくは、それぞれ指定された装置、システム及びその部材の幾何学的中心に向かうかまたはそれから遠くなる方向を示す。
【0023】
本発明は、電気化学素子用負極、例えばリチウムイオン二次電池用負極に関する。
【0024】
本発明によれば、前記負極は、負極集電体、及び前記負極集電体の少なくとも一面に位置した負極活物質層を含む。前記負極活物質層は、前記負極集電体の上部に形成された第1層(下層部)、及び前記第1層の上部に形成された第2層(上層部)を含む。前記第1層及び第2層は、それぞれ独立して負極活物質、導電材及びバインダー樹脂を含む。
【0025】
前記第1層は負極活物質を含み、前記負極活物質は前記第1層100重量%に対して90重量%以上の範囲で含まれ得る。前記負極活物質としては黒鉛を含む。本発明の具体的な一実施形態において、前記第1層は、負極活物質100wt%に対する黒鉛の含量が90wt%以上、望ましくは95wt%以上である。本発明の一実施形態において、前記第1層の負極活物質は黒鉛のみを含み得る。
【0026】
前記第2層は負極活物質を含み、前記負極活物質は前記第2層100重量%に対して90重量%以上の範囲で含まれ得る。前記負極活物質としては黒鉛及びシリコン系活物質を含み、黒鉛とシリコン系活物質との重量比は70:30~99:1である。本発明の一実施形態において、前記シリコン系活物質はケイ素酸化物を含み得る。
【0027】
一方、本発明の一実施形態において、前記シリコン系活物質は下記化学式1で表される化合物を1種以上含み得る。
[化学式1]
SiOx
化学式1において、0≦x<2である。化学式1において、SiO2(化学式1のxが2である場合)であると、リチウムイオンと反応せずリチウムを貯蔵できないため、xは2未満であることが望ましい。具体的には、電極活物質の構造的安定性の面でxは0.5≦x≦1.5であり得る。
【0028】
一方、本発明の一実施形態において、前記シリコン系活物質は、前記シリコン系活物質粒子の表面、内部、または表面及び内部に分布された金属をさらに含み得る。前記金属は、シリコン系活物質の表面及び/または内部に分布して、シリコン系活物質の非可逆相(例えば、SiO2)の比率を下げて活物質の効率を増加させるためにシリコン系活物質内に含まれ得る。前記金属は、Li、Mg及びAlからなる群より選択された少なくとも1種、望ましくはLi及びMgからなる群より選択された少なくとも1種、より望ましくは上述したシリコン系酸化物粒子の損傷防止効果に優れ、水分との反応性が低いことから負極活物質の寿命特性を一層向上可能であるという点でMgであり得る。前記金属は、前記シリコン系活物質内に0.1重量%~25重量%、望ましくは3重量%~15重量%で含まれ得、このような範囲であるとき、活物質の効率を増加させながらも容量を阻害しないという点で望ましい。
【0029】
図1は本発明による負極100の断面を概略的に図式化したものである。集電体110である銅薄膜の表面に下層部122及び上層部121が順次に配置された負極活物質層120が形成されており、前記上層部は負極活物質としてシリコン系活物質(例えば、ケイ素酸化物)124を含むことが示されている。
図1において、参照符号123は黒鉛などの炭素系負極活物質である。
【0030】
一方、本発明の一実施形態において、前記シリコン系活物質は、前記シリコン系粒子の表面を全部または少なくとも一部被覆する炭素コーティング層をさらに含み得る。前記炭素コーティング層は、シリコン系粒子の体積膨張を抑制し、電解液との副反応を防止する保護層として機能することができる。前記炭素コーティング層は、前記シリコン系活物質内に0.1重量%~10重量%、望ましくは3重量%~7重量%で含まれ得、このような範囲であるとき、前記炭素コーティング層がシリコン系粒子の体積膨張を優秀な水準で制御しながら、電解液との副反応を防止できるという点で望ましい。
【0031】
また、前記シリコン系活物質は、粒径(D50)が3μm~10μm、望ましくは3μm~10μmであり得る。前記粒径(D50)が3μmに及ばない場合、比表面積が大きくて電解液との反応面積が増加するため、充放電時における電解液との副反応の発生頻度が増加し、これにより電池寿命が低下するおそれがある。一方、10μmを超過する場合は、充放電時に活物質粒子の体積膨張/収縮による体積変化が大きいため、活物質粒子が割れるかまたはクラックが生じるなどの劣化による電池性能低下の問題が発生するおそれがある。
【0032】
また、本発明において、前記シリコン系活物質、特にケイ素酸化物は粒子の球形度が0.4以上であり得る。または、これと独立的にまたはこれと共に、前記球形度は0.85以下または0.80以下であり得る。前記球形度が0.4よりも小さい場合は、充/放電による体積変化が粒子に均一に現れずに特定の部分に多くのストレスが加えられ、活物質粒子の劣化が促進されることがある。また、球形度が0.85よりも大きい場合は、粒子同士の接触面積が減少して電気伝導度特性が低下するおそれがある。
【0033】
球形度は、1に近いほど円に近いことを意味する。球形度は、粒子の長軸の長さ(La)に対する短軸の長さ(Lb)の比(Lb/La)で定義され得る。具体的な一実施形態において、前記球形度は粒子形状分析機(例えば、Qicpic‐Lixell、Sympatec GmbH)を用いて測定可能である。具体的には、粒子形状分析機を用いて粒子の球形度累積分布を導出した後、球形度が大きい粒子からの分布の比率が50%に該当する球形度を粒子の球形度と判断し得る。または、本発明の一実施形態において、前記球形度は下記数式1によって算出され得、具体的には、粒子の断面SEMイメージをコンピュータ処理プログラムを通じてArea及びDmaxの値を算出した後、下記数式1を用いて球形度を算出し得る。
[数式1]
球形度=4Area/(πDmax2)
【0034】
一方、本発明の一実施形態において、シリコン系活物質の球形度は活物質粒子を空気分級ミル(air classifying mill)(例えば、TC‐15、日清エンジニアリング製)に投入した後、その回転速度(rpm)を変更する方法で制御され得る。
【0035】
一方、前記黒鉛は、人造黒鉛及び天然黒鉛から選択された少なくとも1種を含み得る。
【0036】
前記天然黒鉛は、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛のような未加工天然黒鉛、または球形化天然黒鉛などを使用し得る。鱗片状黒鉛及び鱗状黒鉛はほぼ完全な結晶を示し、土状黒鉛はそれよりも結晶性が低い。電極容量の面を考慮すると、結晶性が高い鱗片状黒鉛及び鱗状黒鉛を使用し得る。例えば、鱗片状黒鉛を球形化して使用可能である。球形化天然黒鉛の場合、粒子サイズは5~30μm、望ましくは10~25μmの粒径を有し得る。
【0037】
前記人造黒鉛は、一般に、コールタール、コールタールピッチ(coal tar pitch)及び石油系重質油などの原料を2,500℃以上で焼結する黒鉛化方法によって製造され得、このような黒鉛化の後に粉砕及び2次粒子形成のような粒度調整を経て負極活物質として使用される。
【0038】
通常人造黒鉛は、結晶が粒子内でランダムに分布されており、天然黒鉛に比べて球形度が低くて多少尖った形状を呈する。前記人造黒鉛は、粉末状、フレーク状、ブロック状、板状または棒状であり得るが、リチウムイオンの移動距離が短縮されて出力特性が向上するように、結晶粒の配向度が等方性を有することが望ましい。このような面を考慮すると、フレーク状及び/または板状であり得る。
【0039】
本発明の一実施形態で使用される人造黒鉛は、商業的に多用されているメソフェーズカーボンマイクロビーズ(mesophase carbon microbead:MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維(mesophase pitch-based carbon fiber:MPCF)、ブロック状に黒鉛化された人造黒鉛、粉体状に黒鉛化された人造黒鉛などがある。また、前記人造黒鉛は5~30μm、望ましくは10~25μmの粒径を有し得る。
【0040】
前記人造黒鉛の比表面積は、BET(Brunauer‐Emmett‐Teller)法で測定し得る。例えば、気孔分布測定装置(Porosimetry analyzer;Bell Japan Inc、Belsorp‐II mini)を使用して窒素ガス吸着流通法によってBET6点法で測定し得る。後述する天然黒鉛の比表面積の測定も、この条件によるものである。
【0041】
前記人造黒鉛のタップ密度は、0.7g/cc~1.1g/ccであり、詳細には0.8g/cc~1.05g/ccであり得る。この範囲から外れてタップ密度が0.7g/cc未満であると、粒子間の接触面積が十分ではないため、接着力特性が低下して体積当り容量が低下し、1.1g/ccを超過すると、電極の湾曲性(tortuosity)及び電解液の湿潤性(wetability)が低下して、充放電時の出力特性が低下するという問題があるため望ましくない。
【0042】
ここで、前記タップ密度は、COPLEY社のJV‐1000またはセイシン企業製のKYT‐4000測定機器を用いて、100ccのタッピング用シリンダーに前駆体50gを入れた後、3000回タッピングして求める。後述する天然黒鉛のタップ密度の測定も、この条件によるものである。
【0043】
また、前記人造黒鉛は、平均粒径(D50)が8μm~30μm、詳細には12μm~25μmであり得る。前記人造黒鉛の平均粒径(D50)が8μm未満であると、比表面積の増加によって二次電池の初期効率が減少して電池性能が低下し、平均粒径(D50)が30μmを超過すると、接着力が低下し、充填密度が低いため、容量が低下するおそれがある。
【0044】
前記人造黒鉛の平均粒径は、例えば、レーザー回折法(laser diffraction method)を用いて測定し得る。前記レーザー回折法は、一般にサブミクロン(submicron)領域から数mm程度の粒径の測定が可能であり、高再現性及び高分解性の結果が得られる。前記人造黒鉛の平均粒径(D50)は、粒径分布の50%基準での粒径と定義できる。前記人造黒鉛の平均粒径(D50)の測定方法は、例えば、人造黒鉛をエタノール/水の溶液に分散させた後、市販のレーザー回折粒度測定装置(例えば、マイクロトラックMT3000)に導入して約28kHzの超音波を出力60Wで照射した後、測定装置において粒径分布の50%基準での平均粒径(D50)を算出し得る。
【0045】
一方、本発明において、前記負極は、負極集電体の上部に下層部を形成し、前記下層部の上部に上層部を形成する方法で製造し得る。前記下層部及び上層部を形成する方法としては、ドライ・オン・ウェット(dry on wet)の製造方法またはウェット・オン・ウェット(wet on wet)の製造方法を適用し得る。ドライ・オン・ウェットは、下層部スラリーを塗布及び乾燥した後、乾燥した下層部の上面に上層部スラリーを塗布する方法であり、ウェット・オン・ウェットは、下層部スラリーを塗布した後、乾燥する前に上層部スラリーを塗布し、下層部と上層部とを同時に乾燥工程に投入する方法である。例えば、本発明の一実施形態において、前記負極は、ウェット・オン・ウェットの方法で製造可能であり、具体的には、二重スロットダイ(double slot die)などの装置を用いて二種のスラリーを同時にコーティングし、乾燥して、下層部及び上層部の負極活物質層を形成し得る。
【0046】
前記スラリーのコーティング方法は、当該分野で通常用いられる方法であれば、特に限定されない。例えば、スロットダイを用いたコーティング法を使用してもよく、メイヤー(Mayer)バーコーティング法、グラビアコーティング法、浸漬コーティング法、噴霧コーティング法などが使われてもよい。
【0047】
本発明の一実施形態において、前記負極集電体は、電池に化学的変化を誘発せず導電性を有するものであれば特に制限されなく、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金などが使用され得る。
【0048】
前記集電体の厚さは特に制限されないが、通常適用される3~500μmの厚さを有し得る。
【0049】
前記バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF‐co‐HEP)、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、多様な共重合体などの多様な種類のバインダー高分子が使用され得る。
【0050】
前記溶媒としては、N‐メチルピロリドン、アセトン、水などが使用され得る。
【0051】
前記導電材は、当該電池に化学的変化を誘発せず導電性を有するものであり、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)のようなカーボンナノチューブ(CNT);グラフェン;フルオロカーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材などが使用され得る。
【0052】
一方、本発明の具体的な一実施形態において、前記上層部は、前記導電材として単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)及びグラフェンのように線接触または面接触する線形導電材を1種以上含むことが望ましい。前記線形導電材は、0.5μm~100μmの長さを有し得る。例えば、前記単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は平均長さが2μm~100μmであり得、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は平均長さが0.5μm~30μmであり得る。一方、前記線形導電材は、1nm~70nmの断面直径を有し得る。本発明は、上層に球形度の高い電極活物質粒子が含まれていて粒子間の接触面積が減少し得るため、このように線接触または面接触可能な導電材を使用することで、粒子間導電経路を十分に確保することができる。
【0053】
本発明の一実施形態において、前記上層部及び下層部の各負極活物質層は、必要に応じて増粘剤をさらに含み得る。このような増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられ、このうちの一つ以上が使用され得る。
【0054】
一方、本発明の一実施形態において、乾燥された負極に対して加圧工程がさらに行われ得る。前記加圧は、ロールプレスのように当該分野で通常使用される方法によって行われ得る。一方、前記加圧は、加温条件下で行われ得る。例えば、前記加圧は1~20MPaの圧力及び15~30℃の温度で行われ得る。
【0055】
本発明の他の一実施形態は、上記のように製造された負極を含むリチウム二次電池に関する。具体的には、前記リチウム二次電池は、正極、上述したような負極、及びこれらの間に介在されたセパレータを含む電極組立体にリチウム塩含有電解質を注入して製造され得る。
【0056】
前記正極は、正極活物質、導電材、バインダー及び溶媒を混合してスラリーを製造した後、これを金属集電体に直接コーティングするか、または、別途の支持体上にキャスティングし、支持体から剥離した正極活物質フィルムを金属集電体にラミネーションすることで正極を製造し得る。
【0057】
正極に使用される活物質としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、LiCoPO4、LiFePO4及びLiNi1-x-y-zCoxM1yM2zO2(M1及びM2は、互いに独立してAl、Ni、Co、Fe、Mn、V、Cr、Ti、W、Ta、Mg及びMoからなる群より選択されたいずれか一つであり、x、y及びzは、互いに独立して酸化物組成元素の原子分率であって、0≦x<0.5、0≦y<0.5、0≦z<0.5、0<x+y+z≦1である)からなる群より選択されたいずれか一つの活物質粒子またはこれらのうちの2種以上の混合物を含み得る。本発明の一実施形態において、例えば前記正極活物質は、リチウムコバルト酸化物及び/またはリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含み得る。
【0058】
一方、導電材、バインダー及び溶媒は、前記負極の製造時に使われたものと同様に使用され得る。
【0059】
前記セパレータは、従来セパレータとして使用される通常の多孔性高分子フィルム、例えばエチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体、及びエチレン/メタクリレート共重合体などのようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムを単独またはこれらを積層して使用し得る。また、高いイオン透過度と機械的強度を有する絶縁性の薄い薄膜が使用され得る。前記セパレータは、セパレータの表面にセラミック物質が薄くコーティングされた安定性強化セパレータ(SRS:safety reinforced separator)を含み得る。この他にも、通常の多孔性不織布、例えば高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などから作製された不織布が使用可能であるが、これらに制限されることはない。
【0060】
前記電解液は、イオン伝導度を有するものであって、電解質としてリチウム塩及びそれを溶解させるための有機溶媒を含む。
【0061】
前記リチウム塩は、二次電池用電解液に通常使用されるものであれば、制限なく使用可能であり、例えば、前記リチウム塩の陰イオンとしてはF-、Cl-、I-、NO3
-、N(CN)2
-、BF4
-、ClO4
-、PF6
-、(CF3)2PF4
-、(CF3)3PF3
-、(CF3)4PF2
-、(CF3)5PF-、(CF3)6P-、CF3SO3
-、CF3CF2SO3
-、(CF3SO2)2N-、(FSO2)2N-、CF3CF2(CF3)2CO-、(CF3SO2)2CH-、(SF5)3C-、(CF3SO2)3C-、CF3(CF2)7SO3
-、CF3CO2
-、CH3CO2
-、SCN-、及び(CF3CF2SO2)2N-からなる群より選択される1種を使用し得る。本発明の一実施形態において、前記リチウム塩は、電解液に0.8~1.4Mの範囲で含まれ得る。
【0062】
前記電解液に含まれる有機溶媒としては、通常使用されるものであれば、制限なく使用可能であり、代表的には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ビニレンカーボネート、スルホラン、γ‐ブチロラクトン、プロピレンスルフィート及びテトラヒドロフランよりなる群より選択される1種以上を使用し得る。
【0063】
特に、前記カーボネート系の有機溶媒のうち、環状カーボネートであるエチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートは、高粘度の有機溶媒であって、誘電率が高くて電解質内のリチウム塩をよく解離させるため、好適に使用可能であり、このような環状カーボネートにジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートのような低粘度、低誘電率の線状カーボネートを適当な比率で混合して用いると、高い電気伝導率を有する電解液を製造できてさらに好適に使用可能である。
【0064】
選択的に、本発明によって貯蔵される電解液は、通常の電解液に含まれる過充電防止剤などのような添加剤をさらに含み得る。
【0065】
本発明の一実施形態によるリチウム二次電池は、正極と負極との間にセパレータを配置して電極組立体を形成し、前記電極組立体を、例えば、パウチ、円筒型電池ケースまたは角形電池ケースに収納した後、電解質を注入すれば、二次電池が完成され得る。または、前記電極組立体を積層した後、それを電解液に含浸させ、得られた結果物を電池ケースに入れて密封すれば、リチウム二次電池が完成され得る。
【0066】
本発明の一実施形態によれば、前記リチウムイオン二次電池は、スタック型、巻き取り型、スタック・アンド・フォールディング型またはケーブル型であってもよい。
【0067】
本発明によるリチウム二次電池は、小型デバイスの電源として用いられる電池セルに使用可能であるだけでなく、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールに単位電池としても好適に使用可能である。前記中大型デバイスの好適な例としては、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電力貯蔵用のシステムなどが挙げられ、特に、高出力が求められる領域であるハイブリッド電気自動車及び新再生エネルギー貯蔵用のバッテリーなどに有効に使用可能である。
【0068】
以下、本発明の理解を助けるために、実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は多様な他の形態に変形可能であり、本発明の範囲が下記の実施例に限定されるものではない。本発明の実施例は、当業者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0069】
<実施例>
(1)下層部用スラリーの準備
負極活物質、バインダー樹脂及び導電材をアセトンに投入して下層部用スラリーを準備した。また、負極活物質(炭素材料及びケイ素酸化物材料)、バインダー樹脂及び導電材をアセトンに投入して上層部用スラリーを準備した。次いで、負極集電体(銅薄膜、厚さ5μm)の表面に前記下層部用スラリーを塗布し、その後直ちに上層部用スラリーを塗布して、これを熱風乾燥して電極を収得した。収得された電極の総厚さは80μmであり、上層部の厚さは約40μm、下層部の厚さは約40μmであった。気孔度は約30vol%であった。負極の製造時に使用した成分及び含量を下記表1及び表2にまとめて示した。
【0070】
【0071】
【0072】
(2)電池の製造
実施例1~実施例5及び比較例1~比較例6で準備した負極を用いて電池を製造した。前記負極を1.7671cm2にカッティングして準備し、対極としてリチウム金属薄膜を使用した。二つの電極の間に多孔性ポリエチレンフィルムをセパレータとして介在し、電解液を注液してコイン型のハーフセルを製造した。前記電解液は、メチルエチルカーボネート(EMC)とエチレンカーボネート(EC)とを体積比7:3で混合した溶液に、ビニレンカーボネートを0.5重量%の濃度、LiPF6を1M濃度で投入したものである。
【0073】
(3)寿命特性(容量維持率)及び体積膨張率の評価
実施例及び比較例の電池に対して充放電を行って寿命特性(容量維持率)を評価し、結果を下記表3に示した。一方、1回サイクルと2回サイクルは0.1Cで充電/放電し、3回サイクルから100回サイクルまでは0.5Cで充放電した。
‐ 充電条件:CC(定電流(Constant Current))/CV(定電圧(Constant Voltage))モード(5mV/0.005C電流カットオフ)
‐ 放電条件:CCモード(1.5V)
【0074】
容量維持率は、下記数式2によって導出した。
[数式2]
容量維持率(%)=(100回放電容量/1回放電容量)×100
【0075】
一方、体積膨張率は下記数式3によって導出した。
[数式3]
体積膨張率(%)={(100回充放電後の電池の体積-充放電前の最初体積)/充放電前の最初体積}×100
【0076】
【0077】
表3から、実施例1~5の電池の場合、比較例1~6の電池に比べて容量維持率が優れていることが確認された。また、比較例1~6の電池は、体積膨張率が実施例の電池に比べて高いことが確認された。特に、比較例3、4及び6の電池の場合、容量維持率は多少高いものの、体積膨張率が19%以上であり、実施例の電池に比べて反復的な充放電時の体積変化が大きいことが確認された。一方、比較例1及び2の場合、上層部に使われたケイ素酸化物の球形度が実施例1及び実施例2と類似するものの、線形導電材ではなく、点状導電材が使われたため、容量維持率が低下したことが確認された。