(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】組成物およびそれを用いた電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20241202BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20241202BHJP
H10K 50/15 20230101ALI20241202BHJP
H10K 50/81 20230101ALI20241202BHJP
H10K 50/82 20230101ALI20241202BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20241202BHJP
H10K 85/20 20230101ALI20241202BHJP
H10K 30/81 20230101ALI20241202BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K50/15
H10K50/81
H10K50/82
H10K85/60
H10K85/20
H10K30/81
(21)【出願番号】P 2023524028
(86)(22)【出願日】2022-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2022010967
(87)【国際公開番号】W WO2022249648
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2021087224
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽光発電主力電源化推進技術開発/太陽光発電の新市場創造技術開発/壁面設置太陽光発電システム技術開発(開口部向けペロブスカイトBIPVモジュールの開発)」委託研究産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【氏名又は名称】間中 恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100227880
【氏名又は名称】檜山 明穂
(72)【発明者】
【氏名】樋口 洋
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0267946(US,A1)
【文献】特開2007-080541(JP,A)
【文献】特開2020-038889(JP,A)
【文献】特開2019-083159(JP,A)
【文献】特開2019-051236(JP,A)
【文献】特開2016-162911(JP,A)
【文献】特開2009-211859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電材料、p型ドーパント、および溶媒を含み、
前記溶媒は、アルコール、脂肪族炭化水素、シロキサン、エステル、およびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含
み、
前記p型ドーパントは、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド基を含む金属塩、ビス(フルオロスルホニル)イミド基を含む金属塩、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド基を含む金属塩、4,4,5,5-テトラフルオロ-1,3,2-ジチアゾリジン-1,1,3,3-テトラオキシド基を含む金属塩、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、SnCl
4
、SbCl
5
、FeCl
3
、およびWO
3
からなる群より選択される少なくとも1つを含む、
電極材料。
【請求項2】
前記導電材料は、金属、導電性炭素、および導電性化合物からなる群より選択される少なくとも1つを含む、
請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
前記p型ドーパントは、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、およびトリス(ペンタフルオロフェニル)ボランからなる群より選択される少なくとも1つを含む、
請求項
1に記載の電極材料。
【請求項4】
前記溶媒は、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ペンタジオール,1,3-ペンタジオール、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメトキシジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7,9,9,11,11-ドデカメチルヘキサシロキサン、1,1,5,5-テトラメチル-3,3-ジフェニルトリシロキサン、1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、プロピルセルソルブ、ブチルセルソルブ、ジメチルセルソルブ、フェニルセルソルブ、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、およびジプロピレングリコールジメチルエーテルからなる群より選択される少なくとも1つを含む、
請求項1から
3のいずれか一項に記載の電極材料。
【請求項5】
前記溶媒は、2-プロパノールを含む、
請求項
4に記載の電極材料。
【請求項6】
前記p型ドーパントの濃度は、0.1質量%以上かつ100質量%未満である、
請求項1から
5のいずれか一項に記載の電極材料。
【請求項7】
前記p型ドーパントの濃度は、0.1質量%以上かつ46.1質量%以下である、
請求項
6に記載の電極材料。
【請求項8】
(A1)第一電極、光電変換層、および正孔輸送層、をこの順で積層することと、
(B1)前記正孔輸送層上に、請求項1から
7のいずれか一項に記載の電極材料を用いて第二電極を形成することと、
を含む、
電子デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記(B1)において、前記電極材料を前記正孔輸送層上に塗布することで前記第二電極を形成する、
請求項
8に記載の製造方法。
【請求項10】
(A2)請求項1から
7のいずれか一項に記載の電極材料を用いて第二電極を形成することと、
(B2)前記第二電極上に、正孔輸送層、光電変換層、および第一電極をこの順で積層することと、
を含む、
電子デバイスの製造方法。
【請求項11】
前記(A2)において、前記電極材料を基板上に塗布することで前記第二電極を形成する、
請求項
10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、組成物およびそれを用いた電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの多くは、光吸収、発光、増幅、または整流等の機能を発現させるために、光電変換層に対して正孔輸送層、または電子輸送層を接触させた構造により、正孔、または電子だけを一方向に取り出し、あるいは供給している。
【0003】
正孔輸送層は、接する光電変換層の価電子帯との正孔の出し入れができ、同光電変換層の伝導帯の電子は絶縁する機能を有する層である。電子輸送層は、接する光電変換層の伝導帯の電子の出し入れができ、同光電変換層の価電子帯の正孔は絶縁する機能を有する層である。
【0004】
正孔輸送層を構成する主材料として様々な正孔輸送材料が存在するが、単独で電子デバイスの正孔輸送層として十分に機能する正孔濃度を有する材料は少ない。多くの場合、正孔輸送材料に添加剤を加えることで、必要な正孔濃度を得る。即ち、前記添加剤は、正孔輸送材料から価電子帯の電子を奪う機能を有する。
【0005】
ペロブスカイト太陽電池は、例えば、第一電極、光電変換層、正孔輸送層、および第二電極をこの順序で形成した構造を有している。第一電極と光電変換層との間にさらに電子輸送層が位置することもある。ペロブスカイト太陽電池において、光電変換層は、光を吸収して電子および正孔を発生させる層である。正孔輸送層は、光電変換層で生成した正孔のみを伝導して第二電極に伝え、電子を絶縁する層である。電子輸送層は、光電変換層で生成した電子のみを伝導して第一電極に伝え、正孔を絶縁する層である(非特許文献1)。
【0006】
有機薄膜太陽電池は、例えば、第一電極、光電変換層、正孔輸送層、および第二電極がこの順序で形成された構造を有している。動作原理の詳細は、ペロブスカイト太陽電池とは異なる部分もあるが、正孔輸送層が、電子を伝導させず正孔のみを伝導して、第二電極に伝える層である点では、ペロブスカイト太陽電池と同じである(特許文献1)。
【0007】
有機化合物を発光層とする有機EL発光素子は、例えば、第一電極、発光層、正孔輸送層、および第二電極がこの順序で形成された構造を有している。有機EL発光素子における正孔輸送層は、発光層に対して電子を伝導させず、正孔のみを伝導する機能層である点で、前述のペロブスカイト太陽電池、有機薄膜太陽電池とは動作が異なるが、正孔輸送層が電子を伝導させず、正孔のみを伝導するという機能を有していることにおいては同じである(特許文献2)。
【0008】
このように、正孔輸送層は、電子デバイスの動作の中核を担う部品である。しかしながら、正孔輸送層の上にインクの塗布によって電極を作製した場合、電子デバイスの性能が低くなる傾向があった(非特許文献2)。
【0009】
特許文献3は、電子輸送層に対するドーパントを含む電極を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Materials Chemistry and Physics 256,p.123594(2020)
【文献】Journral of Materials chemistry A,3,p.15996(2015)
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2012-216673公報
【文献】特開2019-77685公報
【文献】国際公開第2011/052546号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本開示の目的は、電子デバイスの性能を向上するのに適した組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の組成物は、導電材料、p型ドーパント、および溶媒を含む。前記溶媒は、アルコール、脂肪族炭化水素、シロキサン、エステル、およびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含む。
【発明の効果】
【0014】
本開示は、電子デバイスの性能を向上するのに適した組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、第2実施形態による製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、第2実施形態による製造方法によって得られる太陽電池100の概略構成の断面図を示す。
【
図3】
図3は、第2実施形態による製造方法によって得られる太陽電池200の概略構成の断面図を示す。
【
図4】
図4は、第3実施形態による製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、第3実施形態による製造方法によって得られる太陽電池300の概略構成の断面図を示す。
【
図6】
図6は、第3実施形態による製造方法によって得られる太陽電池400の概略構成の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態では、組成物が説明される。
【0018】
第1実施形態による組成物は、導電材料、p型ドーパント、および溶媒を含む。当該溶媒は、アルコール、脂肪族炭化水素、シロキサン、エステル、およびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含む。
【0019】
第1実施形態による組成物は、例えば、電極を形成するためのインクとして使用される。第1実施形態による組成物は、例えば、電子デバイスにおいて使用される。電子デバイスは、例えば、第一電極、光電変換層、正孔輸送層、および第二電極をこの順序で備える電子デバイスは、例えば、太陽電池である。
【0020】
例えば電子デバイスの電極の製造に第1実施形態による組成物が使用されると、例えば正孔輸送層が予め備えるp型ドーパントが電極へ溶出することによる、正孔輸送層中の正孔の濃度の低下を抑制できる。したがって、第1実施形態による組成物を用いて電子デバイスを作製することにより、電子デバイスの性能を向上することができる。
【0021】
本明細書において、p型ドーパントとは、電子デバイスにおける正孔輸送層を構成する正孔輸送材料に添加された際に、アクセプターとして機能する材料、すなわち正孔輸送材料から価電子帯の電子を引き抜く機能を有する材料をいう。
本明細書において、正孔輸送材料とは、正孔の注入および放出を許容し、電子の注入および放出を拒む材料である。
導電材料は、正孔および電子の注入および放出を許容する材料である。
【0022】
導電材料は、金属、導電性炭素、および導電性化合物からなる群より選択される少なくとも1つを含んでもよい。
【0023】
導電材料は、粉末であってもよい。
【0024】
金属は、酸素および水と化合しやすいアルカリ金属およびアルカリ土類金属はやや使用しにくいが、金属粉化できるものであれば限定されない。
【0025】
導電性炭素は、作製方法によって様々な形態があるが、導電性の高いものが望ましい。導電性炭素の例は、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブ、またはグラファイトである。カーボンブラックは、例えば、三菱ケミカル株式会社製カーボンブラック#3030B、#3050B、#3230B、または#3400Bであってもよい。
【0026】
導電性化合物の例は、フッ素ドープ酸化錫(SnO2:F)、インジウム錫酸化物(ITO)、Alドープ酸化亜鉛(ZnO:Al)、Gaドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)、Nbドープ酸化チタニウム(TiO2:Nb)、バリウム錫酸化物(BTO)、または窒化チタン(TiN)である。
【0027】
導電材料が粒子である場合、インク化の観点から、10μm以下の粒径を有していてもよい。
【0028】
p型ドーパントは、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド基を含む金属塩、ビス(フルオロスルホニル)イミド基を含む金属塩、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド基を含む金属塩、4,4,5,5-テトラフルオロ-1,3,2-ジチアゾリジン-1,1,3,3-テトラオキシド基を含む金属塩、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(TPFPB)、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4-TCNQ)、SnCl4、SbCl5、FeCl3、およびWO3からなる群より選択される少なくとも1つを含んでもよい。
【0029】
p型ドーパントは、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド基を含む金属塩、ビス(フルオロスルホニル)イミド基を含む金属塩、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド基を含む金属塩、4,4,5,5-テトラフルオロ-1,3,2-ジチアゾリジン-1,1,3,3-テトラオキシド基を含む金属塩、TPFPB、F4-TCNQ、SnCl4、SbCl5、FeCl3、およびWO3からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0030】
p型ドーパントは、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)およびTPFPBからなる群より選択される少なくとも1つを含んでもよい。p型ドーパントは、LiTFSIおよびTPFPBからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0031】
溶媒は、組成物を塗布する面を構成する材料を浸食しない材料であればよい。
【0032】
溶媒は、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ペンタジオール,1,3-ペンタジオール、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメトキシジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7,9,9,11,11-ドデカメチルヘキサシロキサン、1,1,5,5-テトラメチル-3,3-ジフェニルトリシロキサン、1,1,1,3,3-ペンタメチルジシロキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、プロピルセルソルブ、ブチルセルソルブ、ジメチルセルソルブ、フェニルセルソルブ、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、およびジプロピレングリコールジメチルエーテルからなる群より選択される少なくとも1つを含んでもよい。
【0033】
上記の溶媒は、例えば、ペロブスカイト太陽電池、および有機薄膜太陽電池において有効である。
【0034】
溶媒は、2-プロパノールを含んでもよい。
【0035】
第1実施形態による組成物は、バインダーを含んでいてもよい。これにより、組成物を用いて形成された電極の固着性を高めることができる。
【0036】
バインダーの例は、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸、ポリビニルブチラール、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、ポリジメチルシロキサン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、各種ゴム、リグニン、ペクチン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、セルロース系樹脂、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、キチン類、キトサン類、またはデンプンである。
【0037】
第1実施形態による組成物は、導電材料の凝集を抑制するために、導電材料に対して2質量%以上かつ10質量%以下のバインダーを含んでいてもよい。
【0038】
第1実施形態による組成物において、p型ドーパントの濃度は、0.1質量%以上、かつ、100質量%未満であってもよい。以上の構成によれば、正孔輸送層におけるドーパント濃度の低下を抑制できる。
【0039】
第1実施形態による組成物において、p型ドーパントの濃度は、0.1質量%以上、かつ溶媒に対する飽和濃度以下であってもよい。以上の構成によれば、正孔輸送層におけるドーパント濃度の低下を抑制できる。さらに、溶媒の蒸発を抑制しながら組成物を保存できる。p型ドーパントの濃度は、0.1質量%以上かつ50質量%以下であってもよく、0.1質量%以上かつ46.1質量%以下であってもよい。これにより、正孔輸送層におけるドーパント濃度の低下をより抑制できる。また、組成物の粘度が高まるのを抑制でき、スピンコートで成膜しやすくなる。
【0040】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態では第1実施形態による組成物を用いた電子デバイスの製造方法が説明される。
【0041】
図1は、第2実施形態による製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0042】
第2実施形態による電子デバイスの製造方法は、
(A1)第一電極、光電変換層、および正孔輸送層、をこの順で積層することと、
(B1)正孔輸送層上に、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物を用いて第二電極を形成することと、
を含む。
【0043】
図1で示される第2実施形態による製造方法の一例を示すフローチャートにおける各ステップについて、S11は、上記(A1)に含まれ、S12からS14は、上記(B1)に含まれる。
【0044】
上記(B1)において、第1実施形態による組成物を正孔輸送層上に塗布することで第二電極を形成してもよい。
【0045】
従来、正孔輸送層の上にインクの塗布によって電極を作製した場合、性能が低くなる傾向があった。これは、正孔輸送層に含まれるp型ドーパントが電極へ溶出してしまい、正孔輸送層中の正孔濃度が低下するためである。第2実施形態による製造方法では、正孔輸送層の上に第1実施形態による組成物を塗布して電極を作製する。第2実施形態によれば、組成物にはp型ドーパントが含まれており、正孔輸送層からp型ドーパントが電極へ溶出することによる正孔輸送層中のp型ドーパント濃度の低下を抑制することができる。その結果、正孔輸送層中の正孔濃度の低下を抑制できる。したがって、第2実施形態による製造方法は、性能が向上した電子デバイスを提供できる。
【0046】
上記(A1)において、基板の上に、第一電極、光電変換層、および正孔輸送層、をこの順で積層してもよい。
【0047】
上記(A1)において、第一電極、電子輸送層、光電変換層、および正孔輸送層、をこの順で積層してもよい。
【0048】
第2実施形態による製造方法で製造される電子デバイスは、第一電極、光電変換層、正孔輸送層、および第二電極をこの順序で備えた電子デバイスであれば特には限定されない。第2実施形態による製造方法で製造される電子デバイスは、例えば、太陽電池、発光素子、または光センサである。第2実施形態による製造方法で製造される電子デバイスは、例えば、太陽電池であってもよい。
【0049】
図2および
図3を用いて、第2実施形態による製造方法で製造される電子デバイスが太陽電池である場合の構成の一例を説明する。
【0050】
図2は、第2実施形態による製造方法によって得られる太陽電池100の概略構成の断面図を示す。太陽電池100は、基板1、第一電極2、電子輸送層3、光電変換層4、正孔輸送層5、および第二電極6がこの順で積層されている。
【0051】
第2実施形態による製造方法は、
(C1)第二電極の上に補助電極を積層すること、をさらに含んでもよい。
【0052】
これにより、得られる電子デバイスにおいて、第二電極からの電流を外部にロスを少なく取り出すことができる。
【0053】
図3は、第2実施形態による製造方法によって得られる太陽電池200の概略構成の断面図を示す。太陽電池200は、基板1、第一電極2、電子輸送層3、光電変換層4、正孔輸送層5、第二電極6、および補助電極7がこの順で積層されている。
【0054】
マイナス電極として第一電極2を露出させるために、例えば、レーザー照射によるレーザースクライブまたは金属刃によるメカニカルスクライブによって、第一電極2を露出させる部分の電子輸送層3、光電変換層4、正孔輸送層5、第二電極6、および補助電極7を除去すること、を含んでもよい。
【0055】
以下、第2実施形態による製造方法によって太陽電池を製造する場合の各構成要素について説明する。
【0056】
(基板1)
基板1は、太陽電池の各層を保持する役割を果たす。基板1は、基板1上に第一電極2、光電変換層4、正孔輸送層5、および第二電極6を形成する工程において、腐食および消失しない安定な材料から構成される。
【0057】
太陽電池が基板側からの入射光で発電する場合、基板1は光透過性を有する材料から構成される。
【0058】
基板1は、ガラス等のセラミックス基板またはプラスチック基板であってもよい。プラスチック基板は、プラスチックフィルムであってもよい。
【0059】
第一電極2が十分な強度を有している場合、第一電極2によって太陽電池の各層を保持することができるので、基板1は設けられていなくてもよい。
【0060】
(第一電極2)
第一電極2の機能は、光電変換層4で発生した電子を受容し、外部に取り出すことである。第一電極2は、導電性を有する。第一電極2は、電気抵抗が小さいことが望ましい。
【0061】
第一電極2を構成する材料の例は、金属、電子伝導性を示す導電性化合物、または導電性炭素である。
【0062】
金属としては制限がなく、ほぼすべての金属を使用可能である。
【0063】
第一電極2に光透過性が必要な場合は、光透過性を有する導電性化合物が望ましい。導電性化合物の例は、インジウム、亜鉛、または錫の酸化物、チタンの酸化物および窒化物、または有機物導電体である。フッ素ドープ酸化錫(SnO2:F)、インジウム錫酸化物(ITO)、Alドープ酸化亜鉛(ZnO:Al)、Gaドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)、Nbドープ酸化チタニウム(TiO2:Nb)、またはバリウム錫酸化物(BTO)は、体積抵抗値が小さいため、大きな電流を流す屋外用太陽電池にも使用できる。SnO2:F、ITO、ZnO:Al、ZnO:Ga、TiO2:Nb、およびBTOは、光透過性も有しているため、太陽電池には特に有用である。
【0064】
導電性炭素の例は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、またはグラファイトである。ケッチェンブラックおよびアセチレンブラックは、カーボンブラックに分類される材料である。
【0065】
第一電極2の製法の例は、スパッタ、蒸着、またはイオンプレーティングのような真空成膜法、スクリーン印刷、スプレー法、またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法である。CVD法とは、加熱した基板1に、特殊な材料液の微細な液滴あるいはガスを吹き付けることにより、基板1面上に成膜する方法である。例えば、基板1上にITOをシート抵抗値10Ω/□以上かつ40Ω/□以下程度になるように、スパッタで第一電極2が作製されてもよい。
【0066】
(電子輸送層3)
電子輸送層3の機能は、光電変換層4の伝導帯の電子を受容して、電子を第一電極2に伝導すると同時に、光電変換層4の価電子帯の正孔は絶縁することである。
【0067】
電子輸送層3を構成する材料の例は、酸化チタンまたは酸化錫である。
【0068】
電子輸送層3の製法として、例えば、TiO2ナノ粒子を含むアルコール分散液(濃度1質量%)をスピナー塗布またはスプレー塗布し、100℃以上の加熱によりアルコールを除去する方法がある。例えば、第一電極2上に、TiO2を厚さ10nm以上かつ100nm以下になるように、スパッタで電子輸送層3が作製されてもよい。さらに、TiO2のナノ粒子の集合体を厚さ100nm以上かつ500nm以下程度で形成することで電子輸送層3としてもよい。
【0069】
(光電変換層4)
光電変換層4の機能は、基板側から、あるいはその反対側から入射した光を受容して電子と正孔を生じさせ、電子と正孔とを再結合させずに拡散させることである。
【0070】
光電変換層4は、ペロブスカイト化合物を含んでいてもよい。ペロブスカイト化合物は、組成式ABX3により表されるペロブスカイト型結晶構造およびその類似の構造を有する化合物を意味する。ここで、Aは1価のカチオンである。カチオンAの例は、アルカリ金属カチオンまたは有機カチオンのような1価のカチオンである。アルカリ金属カチオンの例は、ナトリウムカチオン(Na+)、カリウムカチオン(K+)、セシウムカチオン(Cs+)、またはルビジウムカチオン(Rb+)である。有機カチオンの例は、メチルアンモニウムカチオン(CH3NH3
+)または、ホルムアミジニウムカチオン(NH2CHNH2
+)である。Bは2価の金属カチオンである。カチオンBの例は、Pbカチオン、Snカチオン、またはGeカチオンである。Xは1価のアニオンである。アニオンXの例は、ハロゲンアニオンである。ハロゲンアニオンは、例えば、ヨウ素アニオンまたは臭素アニオンである。カチオンA、カチオンB、およびアニオンXのそれぞれのサイトは、複数種類のイオンによって占有されていてもよい。
【0071】
光電変換層4の製法の例は、有機溶媒に所定の材料を溶解させた溶液を塗布し、塗布膜から有機溶媒を除去し、さらに熱処理する方法である。ここで、塗布膜からの有機溶媒の除去は、例えば、減圧することで有機溶媒を蒸発させて除去すること、あるいは有機溶媒に溶解させた上記所定の材料に対して貧溶媒であり、かつ有機溶媒に対して相溶性のある溶媒を加えることにより、塗布膜から有機溶媒のみを除去すること、等により行うことができる。このような方法は、一般的である。このような方法は、手軽であり、かつ、性能が高い光電変換層4を製造することができる。光電変換層4の製法は、真空蒸着であってもよい。
【0072】
(正孔輸送層5)
正孔輸送層5の機能は、光電変換層4から正孔のみを受容し、電子をブロックすることである。正孔輸送層5は、正孔輸送材料を含む。正孔輸送材料は、光電変換層4のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)準位に近いHOMO準位、および光電変換層4のLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)準位よりも高いLUMO準位を有することが望ましい。
【0073】
例えば、ペロブスカイト太陽電池の場合、光電変換層4のLUMO準位が-4eV付近、HOMO準位が-5eV付近にある。したがって、正孔輸送材料の例は、ポリ(ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル))アミン(PTAA)、N2,N2,N2’,N2’,N7,N7,N7’,N7’-オクタキス(4-メトキシフェニル)-9,9’-スピロビ〔9H-フルオレン〕-2,2’,7,7’-テトラミン(Spiro-OMeTAD)、ジチオフェンベンゼン共重合体(DTB)、ポリ3ヘキシルチオフェン(P3HT)、またはポリ3ヘキシルチオフェン‐ポリスチレンブロック重合体(P3HT-b-PSt)である。
【0074】
正孔輸送層5は、PTAA、Spiro-OMeTAD、DTB、P3HT、およびP3HT-b-PStからなる群より選択される少なくとも一つを含んでもよい。なお、これらの材料は、単独では正孔輸送層において十分な正孔密度が得られないことがある。このため、正孔輸送層5は、正孔輸送材料だけでなく、添加剤を含んでもよい。添加剤は、正孔輸送材料から価電子帯の電子を奪う機能を有する。すなわち、正孔輸送層5は、p型ドーパントを含んでもよい。以下、正孔輸送層5に含まれるp型ドーパントを、第2のp型ドーパントともいう。
【0075】
第2のp型ドーパントとしては、第1実施形態による組成物に含まれるp型ドーパントとして例示される材料が用いられ得る。正孔輸送層5は、第2のp型ドーパントとして、第1実施形態による組成物に含まれるp型ドーパントと同じ物質を含んでいてもよいし、異なる物質を含んでいてもよい。正孔輸送層5と第二電極6を形成する第1実施形態による組成物とが、p型ドーパントとして互いに同じ物質を含む場合、電子デバイスの製造工程が煩雑にならない。正孔輸送層5と第二電極6を形成する第1実施形態による組成物とが、p型ドーパントとして互いに異なる物質を含む場合、異なる性質を有するp型ドーパントを電子デバイスに使用することができ、互いの性質を補うことができる。例えば、正孔輸送層5と第二電極6とが、光に対する耐久性を有するp型ドーパントと、熱に対する耐久性を有するp型ドーパントとを含むと、電子デバイスの光および熱に対する耐久性を向上できる。
【0076】
正孔輸送層5は、有機溶媒に正孔輸送材料と第2のp型ドーパントとを溶解した液を、下地となる層の上(例えば光電変換層4の上)に塗布し、乾燥させる方法により形成されてもよい。これに用いる有機溶媒には、例えば、第一電極2、電子輸送層3、および光電変換層4を溶解させないものを選択する。このような有機溶媒の例は、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、アニソール、またはメシチレンである。
【0077】
(第二電極6)
第二電極6の機能は、光電変換層4で発生した正孔を受容し、外部に取り出すことである。
【0078】
第二電極6は、第1実施形態による組成物を用いて形成される。第二電極6は、例えば、第1実施形態による組成物を塗布および乾燥することによって形成できる。例えば、正孔輸送層に上述の組成物を塗布して乾燥することによって形成されてもよい。これにより、正孔輸送層5におけるドーパント濃度の低下をさらに抑制できる。その結果、電子デバイスの性能を向上させることができる。
【0079】
(補助電極7)
補助電極7は、第二電極6に電気的に接続されている。補助電極7の機能は第二電極6からの電流を外部にロスを少なく取り出すことである。補助電極7は、低抵抗な材料から構成され得る。補助電極7は、例えば、蒸着によって形成される。
【0080】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態では第1実施形態による組成物を用いた電子デバイスの製造方法が説明される。第1実施形態および第2実施形態において説明された事項は、適宜、省略され得る。
【0081】
図4は、第3実施形態による製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0082】
第3実施形態による電子デバイスの製造方法は、
(A2)請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物を用いて第二電極を形成することと、
(B2)第二電極上に、正孔輸送層、光電変換層、および第一電極をこの順で積層することと、を含む。
【0083】
図4で示される第3実施形態による製造方法の一例を示すフローチャートにおける各ステップについて、S41からS43は、上記(A2)に含まれ、S44は、上記(B2)に含まれる。
【0084】
上記(A2)において、第1実施形態による組成物を基板に塗布することで第二電極を形成してもよい。
【0085】
上記(B2)において、第二電極上に、正孔輸送層、光電変換層、電子輸送層、および第一電極をこの順で積層してもよい。
【0086】
第3実施形態による製造方法で製造される電子デバイスは、例えば、太陽電池である。
【0087】
図5および
図6を用いて、第3実施形態による製造方法で製造される電子デバイスが太陽電池である場合の構成の一例を説明する。
【0088】
図5は、第3実施形態による製造方法によって得られる太陽電池300の概略構成の断面図を示す。太陽電池300は、基板11、第二電極16、正孔輸送層15、光電変換層14、電子輸送層13、および第一電極12がこの順で積層されている。
【0089】
第3実施形態による製造方法は、
(C2)第二電極の上に補助電極を積層すること、をさらに含んでもよい。
【0090】
これにより、得られる電子デバイスにおいて、第二電極からの電流を外部にロスを少なく取り出すことができる。
【0091】
図6は、第3実施形態による製造方法によって得られる太陽電池400の概略構成の断面図を示す。太陽電池400は、基板11、第二電極16、補助電極17、正孔輸送層15、光電変換層14、電子輸送層13、および第一電極12がこの順で積層されている。
【0092】
以下、第3実施形態による製造方法によって太陽電池を製造する場合の各構成要素について説明する。第2実施形態において説明された事項は、適宜、省略され得る。
【0093】
基板11は、第2実施形態で説明した基板1と同じ構成を有する。補助電極17は、第2実施形態で説明した補助電極7と同じ構成を有する。正孔輸送層15は、第2実施形態で説明した正孔輸送層5と同じ構成を有する。光電変換層14は、第2実施形態で説明した光電変換層4と同じ構成を有する。電子輸送層13は、第2実施形態で説明した電子輸送層3と同じ構成を有する。第一電極12は、第2実施形態で説明した第一電極2と同じ構成を有する。
【0094】
第二電極16は、第1実施形態による組成物を用いて形成される。第二電極16は、例えば、第1実施形態による組成物を塗布および乾燥することによって形成できる。例えば、基板1に上述の組成物を塗布して乾燥することによって形成されてもよい。これにより、正孔輸送層15における正孔濃度の低下を抑制できる。その結果、性能が向上した電子デバイスを提供できる。
【0095】
正孔輸送層15の製法は、第2実施形態で説明された通りである。
【0096】
光電変換層14の製法の例として、例えば、有機溶媒に所定の材料を溶解させた溶液を塗布し、減圧することで有機溶媒を蒸発させて除去し、熱処理する方法がある。
【0097】
電子輸送層13の製法として、例えば、TiO2またはSnO2をスパッタする方法がある。あるいは、TiO2ナノ粒子を含むアルコール分散液(濃度1質量%)をスピナー塗布またはスプレー塗布し、100℃以上の加熱によりアルコールを除去した後、TiO2またはSnO2をスパッタすることで電子輸送層13を形成してもよい。
【0098】
第一電極12の製法として、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、Alドープ酸化亜鉛(ZnO:Al)、Gaドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)、Nbドープ酸化チタニウム(TiO2:Nb)、またはバリウム錫酸化物(BTO)のスパッタ、または蒸着のような真空成膜がある。
【実施例】
【0099】
以下、実施例を参照しながら、本開示がより詳細に説明される。実施例では、ペロブスカイト太陽電池を作製し、そのデバイス性能を評価した。
【0100】
(実施例1から9)
以下、実施例1から9による太陽電池の作製方法を説明する。
【0101】
基板として、25mm角、厚さ0.7mmのガラスが用意された。当該ガラスの片面に、インジウム錫酸化物ITOをスパッタでシート抵抗値10Ω/□になるように、スパッタで作製した。このようにして、基板の上に第一電極が形成された。
【0102】
第一電極上に、酸化チタン(TiO2)を厚さ30nmになるように、スパッタで作製した。
【0103】
さらに、TiO2のナノ粒子の集合体を厚さ250nmで形成した。このようにして、第一電極の上に電子輸送層が形成された。
【0104】
次に、光電変換層の原料溶液を調製した。原料溶液は、ホルムアミジニウムヨウ化水素酸塩((NH2)2CH2I)2.91g、メチルアンモニウムヨウ化水素酸塩(CH3NH3I)0.57g、およびヨウ化鉛(PbI2)10gを、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)23.3mLおよびジメチルスルホキシド(DMSO)5.8mLの混合溶媒に溶解させた液であった。電子輸送層上に、原料溶液(80μL)を滴下し、当該電子輸送層を含む基板をスピンコーターで、4000rpmで70秒間回転させた。回転開始から30秒から60秒後に、回転中の原料溶液が滴下された電子輸送層上に、トルエン1mLをピペットで滴下した。その後、115℃のホットプレートで30分間加熱した。このようにして、電子輸送層の上に光電変換層が形成された。
【0105】
次に、正孔輸送材料液を調製した。正孔輸送材料液は、PTAA10mg、およびtertブチルピリジン6μLを、トルエン1mLに加えてなる溶液に、LiTFSI500mgをアセトニトリル1mLに溶解させた溶液4.8μLを加えることで得られた。正孔輸送層は、光電変換層上に正孔輸送材料液60μLを滴下し、スピンコーターで4000rpm、30秒間回転させることで形成された。
【0106】
電極用インクとして本開示の組成物を調製した。電極用インクは、ビーズミルに、アセチレンブラック9質量部およびセルロース1質量部を入れ、表1に記載した量の2-プロパノールを加えて攪拌した後、さらにp型ドーパントとして、表1に記載した量のLiTFSIまたはTPFPBを加えて調整された。表1に、電極用インクにおけるp型ドーパントの濃度を示す。ここで、電極用インクにおけるp型ドーパントの濃度とは、電極用インクにおけるp型ドーパントの質量分率である。
【0107】
正孔輸送層上に、電極用インク(組成物)500μLを滴下し、スピンコーターで、1000rpmで30秒間回転させた後、100℃のホットプレートで2時間加熱した。このようにして、正孔輸送層上に第二電極が形成された。第二電極の上に蒸着によりAuを200nmの厚さで形成した。このようにして補助電極が形成された。
【0108】
以上のようにして、実施例1から9による太陽電池が作製された。
【0109】
(比較例1)
正孔輸送層上に滴下する電極用インクにp型ドーパントを加えなかったこと以外、実施例1から9と同様にして、比較例1の太陽電池が作製された。
【0110】
(評価1)
作製した実施例1から9および比較例1の太陽電池の特性が、蛍光灯光下で評価された。太陽電池に対して、基板であるガラス面側から光が入射するようにして、さらに、受光面積を規定するように開口面形状が0.4cm×0.25cmの遮光マスクをガラス面に装荷した状態で、蛍光灯光(照度200lx)を照射した。ソースメーター(ADC株式会社製、6246)を用いて、動作電圧0.6Vでの電流値を計測した。以下、動作電圧を「Vop」ともいう。実施例1から9および比較例1の太陽電池の照度200lxにおけるVop=0.6Vでの電流値を表1に示す。
【0111】
(評価2)
作製した実施例1から9および比較例1の太陽電池の特性が、疑似太陽光下で評価された。太陽電池に対して、開口面形状が0.4cm×0.25cmの遮光マスクを介して基板であるガラス面側から光が入射するようにして、ソーラーシミュレータによる1SUN光を照射した。ソースメーター(ADC株式会社製、6246)を用いて、-0.2Vから+1.2Vの電圧範囲における電圧-電流特性を計測し、最大出力点での出力を求めた。実施例1から9および比較例1の太陽電池の最大出力を表1に示す。
【0112】
【0113】
(考察1)
表1に示されるように、実施例1から7の評価1における電流値および評価2における最大出力の値は、比較例1よりも大きい。p型ドーパントであるLiTFSIを含む電極用インクを用いて第二電極を形成することで、太陽電池の特性が向上する。また、電極用インク中のLiTFSI濃度が0.1質量%から46.1質量%の範囲において、太陽電池の特性が向上する。
【0114】
実施例8および9の評価1における電流値および評価2における最大出力の値は、比較例1よりも大きい。これにより、正孔輸送層が予め備えるp型ドーパントがLiTFSIであるのに対し、電極用インクに含まれるp型ドーパントがTPFPBであっても、太陽電池の特性が向上することがわかる。すなわち、電極用インクが含有するp型ドーパントは、正孔輸送層が有するドーパントに限定されず、異なる材料であってもよいことが示された。
【0115】
(実施例10から18)
以下、実施例10から18の太陽電池の作製方法を説明する。正孔輸送層および第二電極以外は、実施例1から9と同様に作製されたため、説明を省略する。
【0116】
正孔輸送層は、半導体層上に正孔輸送材料液0.06mLを滴下し、スピンコーターで4000rpm、30秒間回転させることで形成された。正孔輸送材料液は、ガラス容器にPTAA0.1gを取り、これに、TPFPB粉末1gをトルエン10mLに溶解させて得られたTPFPB溶液10mLを加えて2時間振盪させることにより得られた。すなわち、実施例10から18における正孔輸送層は、含有されるp型ドーパントがTPFPBであることが実施例1から9と異なる。
【0117】
電極用インクとして本開示の組成物を調整した。電極用インクは、ビーズミルに、アセチレンブラック9質量部およびセルロース1質量部を入れ、表2に記載した量の2-プロパノールを加えて攪拌した後、さらにp型ドーパントとして、表2に記載した量のLiTFSIまたはTPFPBを加えて調整された。表2に、電極用インクにおけるp型ドーパントの濃度を示す。
【0118】
正孔輸送層上に、電極用インクと500μLを滴下し、スピンコーターで、1000rpmで30秒間回転させた後、100℃のホットプレートで2時間加熱した。このようにして、正孔輸送層上に第二電極が形成された。第二電極の上に蒸着によりAuを200nmの厚さで形成した。このようにして補助電極が形成された。
【0119】
(比較例2)
電極用インクにp型ドーパントを加えなかったこと以外、実施例10から18と同様にして、比較例2の太陽電池が作製された。
【0120】
(評価3)
作製した実施例10から18および比較例2の太陽電池の特性が、蛍光灯光下で評価された。太陽電池に対して、基板であるガラス面側から光が入射するようにして、さらに、受光面積を規定するように開口面形状が0.4cm×0.25cmの遮光マスクをガラス面に装荷した状態で、蛍光灯光(照度200lx)を照射した。ソースメーター(ADC株式会社製、6246)を用い、動作電圧0.6Vでの電流値を計測した。実施例10から18および比較例2の太陽電池の照度200lxにおけるVop=0.6Vでの電流値を表2に示す。
【0121】
(評価4)
作製した実施例10から18および比較例2の太陽電池デバイスの特性が、疑似太陽光下で評価された。太陽電池に対して、開口面形状が0.4cm×0.25cmの遮光マスクを介して基板であるガラス面側から光が入射するようにして、ソーラーシミュレータによる1SUN光を照射した。ソースメーター(ADC株式会社製、6246)を用いて、電圧範囲-0.2Vから+1.2Vの範囲で電圧-電流特性を計測し、最大出力点での出力を求めた。実施例10から18および比較例2の太陽電池の最大出力を表2に示す。
【0122】
【0123】
(考察2)
表2に示されるように、実施例10から16の評価3および評価4の値は、比較例2の評価1および評価2の値よりも大きい。p型ドーパントであるTPFPBを含む電極用インクを用いて第二電極を形成することで、太陽電池の特性が向上する。また、電極用インク中のTPFPB濃度が0.1質量%以上かつ46.1質量%以下の範囲において、太陽電池の特性が向上する。
【0124】
実施例17および実施例18の評価3における電流値および評価4における最大出力の値は、比較例2の値よりも大きい。これにより、正孔輸送層が予め備えるp型ドーパントがTPFPBであるのに対して、電極用インクに含まれるp型ドーパントがLiTFSIであっても、太陽電池の特性が向上することがわかる。すなわち、電極用インクが含有するp型ドーパントは、正孔輸送層が有するp型ドーパントに限定されず、異なる材料であってもよいことが示された。また、表1および表2から、正孔輸送層が有するp型ドーパントに関わらず、p型ドーパントを含む電極用インクを用いて第二電極を形成することで、電子デバイスの特性が向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本開示の組成物および製造方法は、初期および長期信頼性において、従来よりも向上した性能を発揮する電子デバイスを提供するため、有用である。
【符号の説明】
【0126】
1、11 基板
2、12 第一電極
3、13 電子輸送層
4、14 光電変換層
5、15 正孔輸送層
6、16 第二電極
7、17 補助電極
100、200、300、400 太陽電池