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特許7596532アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する遺伝子操作された微生物及びPHA生産量の向上方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する遺伝子操作された微生物及びPHA生産量の向上方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/53 20060101AFI20241202BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241202BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20241202BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20241202BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20241202BHJP
   C12N 9/14 20060101ALI20241202BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20241202BHJP
   C12P 7/625 20220101ALI20241202BHJP
【FI】
C12N15/53 ZNA
C12N1/21
C12N9/02
C12N15/55
C12N15/54
C12N9/14
C12N9/10
C12P7/625
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023528120
(86)(22)【出願日】2022-06-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-12
(86)【国際出願番号】 CN2022101802
(87)【国際公開番号】W WO2023193353
(87)【国際公開日】2023-10-12
【審査請求日】2023-05-10
(31)【優先権主張番号】202210353439.7
(32)【優先日】2022-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【微生物の受託番号】CGMCC  CGMCC 23600
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523050771
【氏名又は名称】シェンチェン ブルーファ バイオサイエンシズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN BLUEPHA BIOSCIENCES CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 808,8 Floor Research Building,Tsinghua Hi-Tech Park,West Of South Gate,No.13,Langshan Road,Songpingshan Community,Xili Street,Nanshan District,Shenzhen,Guangdong 518057 China
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】イン,ジン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ユ
(72)【発明者】
【氏名】シエ,シャオクイ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,フアユ
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ヤクン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ティアン
(72)【発明者】
【氏名】タン,ピンガン
【審査官】松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-039031(JP,A)
【文献】特開2007-228894(JP,A)
【文献】特表2013-510572(JP,A)
【文献】国際公開第2017/163518(WO,A1)
【文献】Biochemical Engineering Journal,2003年,Vol.16, No.2,p.107-113
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファがパーム油を炭素源とした場合に生産るPHAの生産量を向上させるためのアセトアセチルCoAレダクターゼ変種またはそのコーィング遺伝子の使用であって、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種が、WP018973707.1であり、前記コーディング遺伝子が、配列番号3で示されるものであることを特徴とする、前記使用。
【請求項2】
前記使用が、
(1)前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーィング遺伝子を含むプラスミドをラルストニア・ユートロファに導入する方式、および
(2)前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーィング遺伝子の1個または複数のコピーをラルストニア・ユートロファのゲノムに挿入する方式
のいずれか1種または複数種により実現されることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファが、さらに、
(1)PHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種を発現させる修飾、および
(2)(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現および/または酵素活性を向上させる修飾
を含み、
前記PHAポリメラーゼ変種のアミノ酸配列が、配列番号29が示すとおりであり、
前記(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現および/または酵素活性の向上が、配列番号30で示されるプロモーターにて、ゲノム中の(R)-エノイルCoAヒドラターゼのコーィング遺伝子の転写を開始させることにより実現されることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファがパーム油を炭素源とした場合に生産るPHAの生産量の向上方法であって、
ラルストニア・ユートロファを修飾することでアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現させることを含み、
前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種が、WP018973707.1であり、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子が、配列番号3で示されるものである
ことを特徴とする、前記向上方法。
【請求項5】
前記発現が、
(1)前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーィング遺伝子を含むプラスミドを導入する方式、および
(2)前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーィング遺伝子の1個または複数のコピーをゲノムに挿入する方式
のいずれか1種または複数種により実現されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、ラルストニア・ユートロファに対して、
(1)PHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種を発現させる修飾、および
(2)(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現および/または酵素活性を向上させる修飾
を行うことをさらに含み、
前記PHAポリメラーゼ変種のアミノ酸配列が、配列番号29が示すとおりであり、
前記(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現および/または酵素活性の向上が、配列番号30で示されるプロモーターにて、ゲノム中の(R)-エノイルCoAヒドラターゼのコーィング遺伝子の転写を開始させることにより実現されることを特徴とする、請求項4または5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の技術分野に関するものであり、具体的には、ポリヒドロキシアルカノエートの生産量を向上させるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種及びそのコーディング遺伝子、並びにアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する遺伝子操作された微生物及びPHA生産量の向上方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリヒドロキシアルカノエート(Polyhydroxyalkanoates、PHA)は、微生物から合成される再生・分解が可能で複数の材料特性を備える高分子ポリマーであり、医学、材料および環境保護の分野において広く使用される見込みがある。ポリヒドロキシアルカノエートは、主に炭素源及びエネルギーの貯蔵担体として微生物の細胞内に広く存在する。PHAは、モノマーの種類や重合方法に応じて、硬くて脆い硬質プラスチックないし柔軟なエラストマー等、一連の多様な材料特性を有するものである。ポリヒドロキシ酪酸(PHB)はPHAの一種であって、細菌から生成される商業的に有用な複合生体高分子であり、生分解性/熱可塑性材料としての使用、一部の抗生物質の有機合成用のキラル中心の供給源としての使用、および薬物伝達や骨置換用の基質としての使用などを含む、複数種の潜在的な用途がある。ポリ(3-ヒドロキシ酪酸-共-3-ヒドロキシヘキサン酸)(PHBHHx;PHBHと略する)もPHAの一種であり、不溶性微小球状粒子として細胞質に存在する。
【0003】
ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha;カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)とも言う)は、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)の合成を研究するための重要なモデル細菌であり、現在多く研究されているPHBの生成に用いられる菌株である。炭素が過剰で窒素が不足すると、菌株はPHBを大量に蓄積することができる。一方、細胞内の他の炭素源の代謝が活発である場合、PHBの合成は影響されてしまう。現在、ラルストニア・ユートロファ内におけるPHBの合成経路はすでに明らかにされている。具体的には、アシルCoA(Acyl-CoA)は、phaA(β-ケトチオラーゼ)の作用下でアセトアセチルCoA(acetoacetyl CoA)を合成し、さらにphaB(アセトアセチルCoAレダクターゼ)により3-ヒドロキシ酪酸を合成する。菌株の発酵生産性能が、PHAの生産に影響を及ぼす重要な要素であるため、PHAの合成と蓄積に有利な遺伝子および菌株を開発することは重要な意義を持つ。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、ポリヒドロキシアルカノエートの生産量を向上させることができるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種及びそのコーディング遺伝子、並びにポリヒドロキシアルカノエートを生産するための遺伝子操作された微生物を提供することを目的とする。
【0005】
具体的には、本発明は、以下の技術案を提供する。
【0006】
第1に、本発明はアセトアセチルCoAレダクターゼ(PhaB)変種を提供し、配列番号31で示される野生型アセトアセチルCoAレダクターゼに比べて、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種は、
(1)141番目のバリンの、イソロイシンまたはロイシンへの突然変異、
(2)12番目のメチオニンの、トレオニン、セリン、アラニン、ロイシン、リジンまたはイソロイシンへの突然変異、
(3)194番目のイソロイシンの、バリン、ロイシンまたはメチオニンへの突然変異、
(4)42番目のグルタミン酸の、リジン、グルタミン、ロイシン、アスパラギン酸、プロリン、トレオニン、アスパラギンまたはヒスチジンへの突然変異、および
(5)55番目のフェニルアラニンの、バリン、アラニンまたはイソロイシンへの突然変異
のうちの1種または複数種を有する。
【0007】
本発明が提供するアセトアセチルCoAレダクターゼ変種は、配列番号31で示される野生型アセトアセチルCoAレダクターゼに比べて、突然変異として、上記(1)~(5)のいずれか一種の突然変異を含んでもよく、上記(1)~(5)に係る突然変異のいずれか2つ、3つ、4つまたは5つの組合わせを含んでもよい。
【0008】
本発明は、上記の単一の変異部位を含む変種、及びいずれか2つ、3つ、4つまたは5つの変異部位を含む変種が、いずれも菌株の生物量とPHAの含有量を顕著に向上させ、さらにPHAの生産量を顕著に向上させることができることを実験により証明した。
【0009】
第2に、本発明は、上記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種をコードする核酸分子を提供する。
【0010】
上記で提供されるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のアミノ酸配列及びコドン規則に基づいて、当業者は上記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種をコードする核酸分子のヌクレオチド配列を獲得できる。同じアミノ酸配列をコードする核酸分子のヌクレオチド配列は唯一ではないが、上記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種をコードすることができる核酸分子はいずれも本発明の保護範囲内にある。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態において、前記核酸分子のヌクレオチド配列は配列番号3~28のいずれかが示すとおりである。
【0012】
第3に、本発明は、上記核酸分子を含有する生体材料を提供し、前記生体材料は、発現カセット、ベクターまたは宿主細胞である。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態において、上記核酸分子を含有する発現カセットは、プロモーター、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種をコードする核酸分子、及びターミネーターを作動可能に連結することによって得られる。発現の需要及び発現カセットの上下流の配列に応じて、発現カセットはターミネーターを含まなくてもよく、エンハンサー等の他の転写・翻訳調節因子を含んでもよい。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態において、上記核酸分子を含有するベクターはプラスミドベクターであり、これらのプラスミドベクターには、複製型ベクターと非複製型ベクターが含まれる。上記核酸分子を載せるベクターはプラスミドベクターに限らず、ファージ、ウィルス等のベクターであってもよい。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態において、上記核酸分子、発現カセットまたはベクターを含有する大腸菌細胞およびラルストニア・ユートロファ細胞が提供されるが、宿主細胞の種類はこれらに限らず、いずれの微生物細胞またはタンパク質の発現に使用できる動物細胞であってもよい。
【0016】
第4に、本発明は、遺伝子操作された微生物のPHA生産量を向上させるためのアセトアセチルCoAレダクターゼ変種またはそのコーディング遺伝子の使用を提供し、配列番号31で示される野生型アセトアセチルCoAレダクターゼに比べて、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種は、
(1)141番目のバリンの、イソロイシンまたはロイシンへの突然変異、
(2)12番目のメチオニンの、トレオニン、セリン、アラニン、ロイシン、リジンまたはイソロイシンへの突然変異、
(3)194番目のイソロイシンの、バリン、ロイシンまたはメチオニンへの突然変異、
(4)42番目のグルタミン酸の、リジン、グルタミン、ロイシン、アスパラギン酸、プロリン、トレオニン、アスパラギンまたはヒスチジンへの突然変異、および
(5)55番目のフェニルアラニンの、バリン、アラニンまたはイソロイシンへの突然変異
のうちの1種または複数種を有する。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態において、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種は、WP018973707.1、MBI1365550.1、WP019621003.1、PZO88445.1、WP188557499.1、WP018954578.1、WP109722486.1、HBR97190.1、RKZ34011.1、PCI29794.1、WP152128546.1、WP043577352.1、WP028534370.1、WP163146383.1、WP020559877.1、EEV22383.1、WP054674877.1、WP116473412.1、WP062152427.1、WP070469244.1、MBE0623823.1、WP166570087.1、WP187671963.1、WP124635583.1、WP175829488.1、WP041099832.1のいずれか1種である。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態において、前記コーディング遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号3~28のいずれかが示すとおりである。
【0019】
上記の使用は、
(1)アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子を含むプラスミドを前記微生物に導入する方式、および
(2)アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子の1つまたは複数のコピーを前記微生物のゲノムに挿入する方式
のいずれか1種または複数種により実現される。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態において、前記微生物のゲノムの原位置のphaB遺伝子は不活性化されていない。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態において、前記微生物のゲノムの原位置のphaB遺伝子は完全に保留されている。
【0022】
上記の使用において、前記遺伝子操作された微生物は、さらに、
(1)PHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種を発現させる修飾、および
(2)(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現および/または酵素活性を向上させる修飾
のうちの1種または複数種を含む。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態において、元のPHAポリメラーゼに比べて、前記PHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種は、149番目のアスパラギンのセリンへの突然変異および171番目のアスパラギン酸のグリシンへの突然変異を含有する。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態において、前記PHAポリメラーゼ変種のアミノ酸配列は、配列番号29が示すとおりである。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態において、(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現および/または酵素活性の向上は、配列番号30で示されるプロモーターにて、ゲノム中の(R)-エノイルCoAヒドラターゼのコーディング遺伝子の転写を開始させることにより実現される。
【0026】
上記の使用において、前記微生物はラルストニア・ユートロファ、大腸菌またはハロモナス菌であることが好ましい。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態において、前記遺伝子操作された微生物のPHA生産量を向上させることは、遺伝子操作された微生物の脂質を炭素源としてPHAを生産する際のPHA生産量を向上させることである。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態において、前記遺伝子操作された微生物のPHA生産量を向上させることは、遺伝子操作された微生物の植物油を炭素源としてPHAを生産する際のPHA生産量を向上させることである。
【0029】
上記植物油は、パーム油、落花生油、大豆油、亜麻仁油、菜種油、ヒマシ油、コーン油から選択される1種または複数種の混合物を含む。
【0030】
第5に、本発明は、ポリヒドロキシアルカノエートまたはその誘導体を生産する微生物を構築するための、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種、そのコーディング遺伝子または前記コーディング遺伝子を含む生体材料の使用を提供する。
【0031】
本発明で提供されるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種が微生物のPHA生産量を向上させることができる機能に基づいて、これらの変種をコードする核酸分子及びこれらの核酸分子を含有する生体材料を、PHAまたはその誘導体を生産する菌株の構築に使用することができる。
【0032】
本発明において、PHAの誘導体とは、PHAを前駆体物質として合成される代謝物を意味する。PHAの合成能力が向上する場合、一般的にPHAを前駆体として合成される代謝物の生産量もそれに応じて向上することができる。
【0033】
上記の使用において、前記微生物はラルストニア・ユートロファ、大腸菌またはハロモナス菌であることが好ましい。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態において、配列番号3~28のいずれかで示される核酸分子をラルストニア・ユートロファに導入してPHAを生産する菌株を構築する。
【0035】
第6に、本発明は、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファを提供する。
【0036】
配列番号31で示される野生型アセトアセチルCoAレダクターゼに比べて、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種は、
(1)141番目のバリンの、イソロイシンまたはロイシンへの突然変異、
(2)12番目のメチオニンの、トレオニン、セリン、アラニン、ロイシン、リジンまたはイソロイシンへの突然変異、
(3)194番目のイソロイシンの、バリン、ロイシンまたはメチオニンへの突然変異、
(4)42番目のグルタミン酸の、リジン、グルタミン、ロイシン、アスパラギン酸、プロリン、トレオニン、アスパラギンまたはヒスチジンへの突然変異、および
(5)55番目のフェニルアラニンの、バリン、アラニンまたはイソロイシンへの突然変異
のうちの1種または複数種を有する。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態において、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種は、WP018973707.1、MBI1365550.1、WP019621003.1、PZO88445.1、WP188557499.1、WP018954578.1、WP109722486.1、HBR97190.1、RKZ34011.1、PCI29794.1、WP152128546.1、WP043577352.1、WP028534370.1、WP163146383.1、WP020559877.1、EEV22383.1、WP054674877.1、WP116473412.1、WP062152427.1、WP070469244.1、MBE0623823.1、WP166570087.1、WP187671963.1、WP124635583.1、WP175829488.1、WP041099832.1のいずれか1種である。
【0038】
本発明において、標的酵素またはその変種の発現は、
(1)アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子を含むプラスミドを導入する方法、および
(2)アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子の1つまたは複数のコピーをゲノムに挿入する方法
のいずれか1種または複数種により実現される。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態において、ゲノムにアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子のコピーを1つ挿入することで、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現させる。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態において、ゲノム中のアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子の挿入位置は、phaC遺伝子のコーディング領域または当該コーディング領域の下流にある。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態において、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子は、配列番号3~28のいずれかが示すとおりである。これらのコーディング遺伝子の配列は、ラルストニア・ユートロファのコドン選好性に応じて、そして人工最適化およびスクリーニングを組み合わせることで得られる、ラルストニア・ユートロファにおいてアセトアセチルCoAレダクターゼ変種の配列を効率良くかつ正確に発現できる配列であり、これらの配列を使用することは、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種がラルストニア・ユートロファにおいてPHA合成を向上させる効果をよりよく発揮することを促進するのに有利である。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態において、前記微生物のゲノムの原位置のphaB遺伝子は不活性化されていない。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態において、前記微生物のゲノムの原位置のphaB遺伝子は完全に保留されている。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態において、PHBHを合成するための遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファが提供され、PHBHの合成を促進するため、前記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファは、さらに、
(1)PHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種を発現させる修飾、および
(2)(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現および/または酵素活性を向上させる修飾
のうちの1種または複数種を含む。
【0045】
ここで、PHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種は、C6脂肪酸(3-ヒドロキシヘキサン酸)を重合できるように、細菌のPHAポリメラーゼのアミノ酸配列を変異させてもよい。先行技術におけるC6脂肪酸(3-ヒドロキシヘキサン酸)を重合できるPHAポリメラーゼ変種を使用してもよく、先行技術におけるPHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種の変異部位を組み合わせることで、新たなより効率的なPHAポリメラーゼ変種を得てもよい。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態において、元のPHAポリメラーゼに比べて、前記PHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種は、149番目のアスパラギンのセリンへの突然変異および171番目のアスパラギン酸のグリシンへの突然変異を含有する。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態において、前記PHAポリメラーゼ変種のアミノ酸配列は、配列番号29が示すとおりである。
【0048】
上記のPHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種の発現は、
(1)前記PHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種のコーティング遺伝子を含むプラスミドを導入する方式、および
(2)前記PHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種のコーティング遺伝子の1つまたは複数のコピーをゲノムに挿入する方式
のいずれか1種または複数種により実現される。
【0049】
本発明のいくつかの実施形態において、PHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種を発現させるとともに、ゲノムにおける元のPHAポリメラーゼのコーディング遺伝子を不活性化させる。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態において、PHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種のコーディング遺伝子をゲノムに挿入する。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態において、PHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種のコーディング遺伝子を含有する発現プラスミドを導入する。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態において、前記発現プラスミドは安定的に発現するプラスミドであり、プラスミドの安定的な発現は、プラスミドにおいて菌株の成長に必須となる代謝物の合成遺伝子を担持するとともに、ゲノムにおける当該合成遺伝子を不活性化させることにより実現される。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態において、前記配列番号29で示されるPHAポリメラーゼ変種のコーディング遺伝子を含有するプラスミドはさらにproC遺伝子を含有し、かつ前記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファのゲノムにおけるproC遺伝子は不活性化されている。
【0054】
上記の酵素の発現の向上は、下記の(1)~(4)のいずれか1種または複数種の方式により実現することができる。
(1)前記酵素のコーディング遺伝子を含有するベクターを導入する方式、
(2)ゲノムにおける前記酵素のコーディング遺伝子のコピー数を増やす方式、
(3)ゲノムにおける前記酵素のコーディング遺伝子の転写および/または翻訳調節因子(プロモーター等を含む)の配列を変化させる方式、および
(4)前記酵素のコーディング遺伝子のヌクレオチド配列を変化させる方式。
【0055】
上記の酵素活性の向上は、前記酵素の1つまたは複数のアミノ酸の置換、欠失または挿入により実現することができる。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態において、(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現および/または酵素活性の向上は、配列番号30で示されるプロモーターにて、ゲノム中の(R)-エノイルCoAヒドラターゼのコーディング遺伝子の転写を開始させることにより実現される。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態において、配列番号30で示されるプロモーターにて、ゲノム中の(R)-エノイルCoAヒドラターゼのコーディング遺伝子の転写を開始させることは、ゲノム中の(R)-エノイルCoAヒドラターゼのコーディング遺伝子とその上流にある遺伝子との遺伝子間領域に配列番号30で示されるプロモーターを挿入することにより実現される。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態において、前記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファは、野生型ラルストニア・ユートロファ、ラルストニア・ユートロファH16菌株またはラルストニア・ユートロファBPS-050を出発菌株として修飾を経て得られるものである。
【0059】
ここで、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)BPS-050は、すでに2021年10月13日にChina General Microbiological Culture Collection Center(略称CGMCC、住所:北京市朝陽区北辰西路1号院3号、中国科学院微生物研究所、郵便番号100101)に受託され、その分類学上の位置はラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)であり、受託番号はCGMCC No.23600である。
【0060】
本発明は、上記出発菌株において発現する本発明が提供するアセトアセチルCoAレダクターゼ変種が、PHAの生産量を顕著に向上させることができることを実験により証明した。
【0061】
第7に、本発明は、遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファの形質転換体ライブラリーを提供し、前記形質転換体ライブラリーは上記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファのうちの少なくとも2株を含む。
【0062】
本発明のいくつかの実施形態において、前記形質転換体ライブラリーにおける遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファは、WP018973707.1、MBI1365550.1、WP019621003.1、PZO88445.1、WP188557499.1、WP018954578.1、WP109722486.1、HBR97190.1、RKZ34011.1、PCI29794.1、WP152128546.1、WP043577352.1、WP028534370.1、WP163146383.1、WP020559877.1、EEV22383.1、WP054674877.1、WP116473412.1、WP062152427.1、WP070469244.1、MBE0623823.1、WP166570087.1、WP187671963.1、WP124635583.1、WP175829488.1、WP041099832.1といったアセトアセチルCoAレダクターゼ変種から選択されるいずれか1種を発現し、前記形質転換体ライブラリーにおける各遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファが発現するアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のアミノ酸配列は異なる。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態において、前記形質転換体ライブラリーは、上記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファのうちのいずれか2~26株を含む。
【0064】
第8に、本発明は、前記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファの構築方法を提供し、前記方法は、ラルストニア・ユートロファを修飾することにより前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現させるステップを含む。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態において、遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファのPHBH合成能力を促進するために、前記方法は、さらに、ラルストニア・ユートロファに対して、
(1)PHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種を発現させる修飾、および
(2)(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現および/または酵素活性を向上させる修飾
のうちの1種または複数種を行うことを含む。
【0066】
本発明のいくつかの実施形態において、前記PHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種のアミノ酸配列は、配列番号29が示すとおりである。
【0067】
本発明のいくつかの実施形態において、前記方法は、配列番号30で示されるプロモーターにて、ゲノム中の(R)-エノイルCoAヒドラターゼのコーティング遺伝子の転写を開始させることを含む。
【0068】
本発明のいくつかの実施形態において、前記方法は、PHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種のコーティング遺伝子をゲノムに挿入することを含む。
【0069】
本発明のいくつかの実施形態において、前記方法は、PHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種のコーティング遺伝子を含むプラスミドを導入することを含む。
【0070】
本発明のいくつかの実施形態において、前記方法は、PHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種のコーティング遺伝子およびproC遺伝子を含有するプラスミドを導入すること、及びゲノムにおけるproC遺伝子を不活性化させることを含む。
【0071】
ここで、遺伝子の不活性化は遺伝子ノックアウト、発現の沈黙化、RNA干渉等の方式により実現することができる。
【0072】
第9に、本発明は前記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファの下記のいずれか1種の使用を提供する。
(1)ポリヒドロキシアルカノエートまたはその誘導体の発酵生産における使用、および
(2)ポリヒドロキシアルカノエートまたはその誘導体の発酵生産に用いられる菌株の選別・育成における使用。
【0073】
本発明において、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)はポリヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸-共-3-ヒドロキシヘキサン酸)(PHBHHx;PHBHと略する)、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシ吉草酸の共重合体(PHBV)等を含むが、これらに限定されない。
【0074】
上記の使用において、ポリヒドロキシアルカノエートまたはその誘導体の発酵生産に用いられる菌株の選別・育成は、具体的には、本発明が提供する遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファを出発菌株とした、遺伝子操作改造、変異誘発または馴化の方法による、ポリヒドロキシアルカノエートまたはその誘導体の発酵生産に用いられる菌株の選別・育成であってもよい。
【0075】
第10に、本発明は、ポリヒドロキシアルカノエートまたはその誘導体の発酵生産方法を提供し、前記方法は、前記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファを培養して培養物を得るステップを含む。
【0076】
本発明のいくつかの実施形態において、前記方法は、前記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファに対して活性化培養を行い、活性化された菌体を種培地に接種して種培養を行い、種培養液を得た後、当該種培養液を発酵培地に接種し、前記培養物を得ることを含む。
【0077】
上記培養では、通常のラルストニア・ユートロファ培養用培地を選択してもよい。培地には、炭素源、窒素源及び無機塩が含まれてもよい。ここで、炭素源として、植物油(例えば、パーム油)、スクロース、グルコース、糖蜜、マルトース、フルクトース、アラビノースのうちの1種または複数種の組み合わせを含んでもよいが、これらに限定されない。窒素源として、コーンスティープリカー、酵母エキス、尿素、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸カリウムのうちの1種または複数種の組み合わせを含んでもよいが、これらに限定されない。無機塩として、リン酸塩、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、鉄塩、マンガン塩、カルシウム塩、ホウ酸塩、コバルト塩、銅塩、ニッケル塩、モリブデン塩のうちの1種または複数種の組み合わせを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0078】
本発明のいくつかの実施形態において、前記方法は、培養した培養物に対して分離および抽出を行い、ポリヒドロキシアルカノエートまたはその誘導体を収集するステップをさらに含む。
【0079】
第11に、本発明は、遺伝子操作された微生物から生産されるPHAの生産量の向上方法を提供し、前記方法は、ラルストニア・ユートロファを修飾することによりアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現させることを含む。
【0080】
配列番号31で示される野生型アセトアセチルCoAレダクターゼに比べて、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種は、
(1)141番目のバリンの、イソロイシンまたはロイシンへの突然変異、
(2)12番目のメチオニンの、トレオニン、セリン、アラニン、ロイシン、リジンまたはイソロイシンへの突然変異、
(3)194番目のイソロイシンの、バリン、ロイシンまたはメチオニンへの突然変異、
(4)42番目のグルタミン酸の、リジン、グルタミン、ロイシン、アスパラギン酸、プロリン、トレオニン、アスパラギンまたはヒスチジンへの突然変異、および
(5)55番目のフェニルアラニンの、バリン、アラニンまたはイソロイシンへの突然変異
のうちの1種または複数種を有する。
【0081】
本発明のいくつかの実施形態において、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種は、WP018973707.1、MBI1365550.1、WP019621003.1、PZO88445.1、WP188557499.1、WP018954578.1、WP109722486.1、HBR97190.1、RKZ34011.1、PCI29794.1、WP152128546.1、WP043577352.1、WP028534370.1、WP163146383.1、WP020559877.1、EEV22383.1、WP054674877.1、WP116473412.1、WP062152427.1、WP070469244.1、MBE0623823.1、WP166570087.1、WP187671963.1、WP124635583.1、WP175829488.1、WP041099832.1のいずれか1種である。
【0082】
上記の方法において、前記発現は、
(1)前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーティング遺伝子を含むプラスミドを導入する方式、および
(2)前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーティング遺伝子の1つまたは複数のコピーをゲノムに挿入する方式
のいずれか1種または複数種により実現される。
【0083】
本発明のいくつかの実施形態において、前記微生物のゲノムの原位置のphaB遺伝子は不活性化されていない。
【0084】
本発明のいくつかの実施形態において、前記微生物のゲノムの原位置のphaB遺伝子は完全に保留されている。
【0085】
本発明のいくつかの実施形態において、前記コーティング遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号3~28のいずれかが示すとおりである。
【0086】
上記の使用において、前記遺伝子操作された微生物は、さらに、
(1)PHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種を発現させる修飾、および
(2)(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現および/または酵素活性を向上させる修飾
のうちの1種または複数種を含む。
【0087】
本発明のいくつかの実施形態において、元のPHAポリメラーゼに比べて、前記PHBHを合成できるPHAポリメラーゼ変種は、149番目のアスパラギンのセリンへの突然変異および171番目のアスパラギン酸のグリシンへの突然変異を含有する。
【0088】
本発明のいくつかの実施形態において、前記PHAポリメラーゼ変種のアミノ酸配列は配列番号29が示すとおりである。
【0089】
本発明のいくつかの実施形態において、(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現および/または酵素活性の向上は、配列番号30で示されるプロモーターにて、ゲノム中の(R)-エノイルCoAヒドラターゼのコーティング遺伝子の転写を開始させることにより実現される。本発明のいくつかの実施形態において、前記遺伝子操作された微生物から生産されるPHAの生産量の向上方法は、遺伝子操作された微生物が脂質を炭素源としてPHAを生産する際のPHA生産量を向上させる方法である。
【0090】
本発明のいくつかの実施形態において、前記遺伝子操作された微生物から生産されるPHAの生産量の向上方法は、遺伝子操作された微生物が植物油を炭素源としてPHAを生産する際のPHA生産量を向上させる方法である。
【0091】
上記の植物油は、パーム油、落花生油、大豆油、亜麻仁油、菜種油、ヒマシ油、コーン油から選択される1種または複数種の混合物を含む。
【0092】
本発明の有益な効果は、以下の通りである。すなわち、本発明が提供するアセトアセチルCoAレダクターゼ変種及びそのコーティング遺伝子は、菌株のPHAの合成および蓄積を有意に促進するとともに、菌株の生物量の向上を促進し、さらに、PHAの生産量を顕著に向上させることができ、本発明が提供するアセトアセチルCoAレダクターゼ変種及びそのコーティング遺伝子により構築される、遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファは、細胞乾燥重量およびPHAの生産量が顕著に向上し、PHAの遺伝子操作された菌株の開発に新たな遺伝子資源および菌株資源を提供し、PHAの発酵生産效率の向上および生産コストの低減において重要な応用価値がある。
【発明を実施するための形態】
【0093】
本発明の適用は、下記の明細書に記載または例示された形態に限定されない。本発明は、他の実施形態に適用でき、且つ多種の態様で実施または実行することができる。また、本明細書で使用される句や用語は、説明を目的とするものであり、限定とみなされるべきではない。本明細書で使用される「含む」、「包含する」または「有する」、「含有する」、「係る」及びそれらの変形は、以下に挙げられた事項及びその等価物並びに他の事項を含むことを意図する。
【0094】
本発明が提供する具体的な実施形態の一部または全部は、本発明が、菌株のPHA生産量を顕著に向上できるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種及びそのコーティング遺伝子を見出したことに基づくものである。これらのアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーティング遺伝子は、PHAの合成に必要となる他の遺伝子を有する菌株に導入されることにより、これらの菌株のPHA生産量を向上させることに用いられ、遺伝子操作された微生物を得ることができる。これらの遺伝子操作された微生物は、PHAの生産に適用することができ、従来のPHA発酵生産菌株の発酵生産性能を向上させることができる。本発明が提供するアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現することに加え、遺伝子操作された微生物は、さらに他の修飾が施されてもよく、本発明は、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種の発現という修飾を、少なくともPHAポリメラーゼ(phaC)変種の発現、phaJの強化発現といった修飾と組み合わせて行うことで、PHAの生産量をさらに向上できることを見出した。
【0095】
いくつかの実施形態において、本発明は、配列番号31で示される野生型アセトアセチルCoAレダクターゼに比べて、
(1)141番目のバリンの、イソロイシンまたはロイシンへの突然変異、
(2)12番目のメチオニンの、トレオニン、セリン、アラニン、ロイシン、リジンまたはイソロイシンへの突然変異、
(3)194番目のイソロイシンの、バリン、ロイシンまたはメチオニンへの突然変異、
(4)42番目のグルタミン酸の、リジン、グルタミン、ロイシン、アスパラギン酸、プロリン、トレオニン、アスパラギンまたはヒスチジンへの突然変異、および
(5)55番目のフェニルアラニンの、バリン、アラニンまたはイソロイシンへの突然変異
のうちの1種または複数種を有するアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を提供する。
【0096】
本発明は、上記(1)~(5)に示す突然変異のいずれか1種または複数種の突然変異を有する条件を満した上で、例えば、WP018973707.1、MBI1365550.1、WP019621003.1、PZO88445.1、WP188557499.1、WP018954578.1、WP109722486.1、HBR97190.1、RKZ34011.1、PCI29794.1、WP152128546.1、WP043577352.1、WP028534370.1、WP163146383.1、WP020559877.1、EEV22383.1、WP054674877.1、WP116473412.1、WP062152427.1、WP070469244.1、MBE0623823.1、WP166570087.1、WP187671963.1、WP124635583.1、WP175829488.1、WP041099832.1のいずれかのタンパク質のアミノ酸配列と、少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%、もしくは上記数値におけるいずれか2つからなる範囲の類似性を有するアミノ酸配列を有するアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を提供する。
【0097】
アセトアセチルCoAレダクターゼ変種は、全長アセトアセチルCoAレダクターゼ、アセトアセチルCoAレダクターゼの断片、切断されたアセトアセチルCoAレダクターゼなど、アセトアセチルCoAから3-ヒドロキシ酪酸が生産されることを促進する活性を有するすべてのアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を含む。
【0098】
いくつかの実施形態において、本発明は、配列番号3~28のいずれかで示されるヌクレオチド配列を有する、上記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種をコードする遺伝子を提供する。これらの遺伝子はラルストニア・ユートロファにおいて発現するように最適化されたものである。
【0099】
本発明が提供する上記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種及びそのコーティング遺伝子は、菌株の乾燥重量及びPHAの含有量を顕著に向上させ、さらに菌株のPHA生産量を効果的に向上させることができる。
【0100】
いくつかの実施形態において、本発明は、ゲノムに上記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーティング遺伝子が挿入された、遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファを提供する。
【0101】
いくつかの実施形態において、本発明は、ラルストニア・ユートロファBPS-050菌株のゲノムに上記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーティング遺伝子が挿入された、遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファを提供する。これらの遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファは、ラルストニア・ユートロファBPS-050菌株に比べて有意に向上されたPHA生産量を有する。
【0102】
いくつかの実施形態において、本発明は、ラルストニア・ユートロファBPS-050菌株のゲノムにおけるphaCの欠失位置に上記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーティング遺伝子が挿入された、遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファを提供する。
【0103】
いくつかの実施形態において、本発明は、ラルストニア・ユートロファH16菌株のゲノムに上記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーティング遺伝子が挿入された、遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファを提供する。これらの遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファは比較的に高いPHB生産量を有する。
【0104】
いくつかの実施形態において、本発明は、ラルストニア・ユートロファH16菌株のゲノムにおけるphaC遺伝子の位置に上記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーティング遺伝子が挿入された、遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファを提供する。
【0105】
いくつかの実施形態において、本発明は、ラルストニア・ユートロファH16菌株のゲノムにおけるphaC遺伝子がPHAポリメラーゼ変種(配列は配列番号29が示すとおりである)をコードする遺伝子に置き換えられ、そのゲノムにおけるphaJ遺伝子の転写を配列番号30で示されるプロモーターにより開始させ、そしてそのゲノムに上記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーティング遺伝子が挿入された、遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファを提供する。これらの遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファは有意に向上されたPHBH生産量を有する。
【0106】
同じ発酵培養の条件下で、上記実施形態における遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファのポリヒドロキシアルカノエートの収率は、出発菌株に比べて顕著に向上した。
【0107】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するためのものではない。
【実施例1】
【0108】
実施例1 アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する形質転換体ライブラリーの構築及びアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のスクリーニング
本実施例では、ラルストニア・ユートロファBPS-050を出発菌株とし、異なるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を含有する形質転換体ライブラリーを構築し、具体的には以下のステップを含む。
【0109】
ステップ1:基礎プラスミドの構築
ラルストニア・ユートロファのゲノムをテンプレートとしてPCR増幅を行うことで、phaCの上流および下流に相同な断片phaC-H1およびphaC-H2を得、後続操作を容易にするため、phaC-H1、phaC-H2の後端、前端にBsaIを添加した。修飾後のプラスミドpK18mob(Orita,I.,Iwazawa,et al.J.Biosci.Bioeng.113,63~69)をテンプレートとしてPCR増幅を行うことで、ベクターの断片を得、使用したプライマー配列は表1が示すとおりである。phaC-H1、phaC-H2をGibson Assembly法によりベクターの断片に連結させ、組換えプラスミドpKO-C(配列は配列番号1が示すとおりである)を得た。
【0110】
【表1】
【0111】
ステップ2:遺伝子合成
スクリーニングしようとする異なるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーティング遺伝子がそれぞれ、ラルストニア・ユートロファにおいて良好に発現できるように、配列を最適化した。最適化されたアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーティング遺伝子をそれぞれ合成し、後続操作を容易にするため、合成されたDNA配列の上流にGGTCTCATCを添加し、下流にGTGAAGAGACCを添加した。
【0112】
ステップ3:標的遺伝子を含有する目的菌株の構築
ステップ1で構築したpKO-Cプラスミドと、遺伝子合成により得られたアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーティング遺伝子を含有するプラスミドとを、Golden gate法により組み立て、それぞれ異なるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーティング遺伝子を持つ組換えプラスミドpKO-C-N(Nは載せたアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーティング遺伝子を表す)を得た。各プラスミドをトランスフェクションによりそれぞれ大腸菌S17-1に導入し、さらに、接合導入法によりラルストニア・ユートロファBPS-050株に導入し、自殺プラスミドが宿主菌内で複製できない特性を利用して、スペクチノマイシン500μg/mLとアプラマイシン100μg/mLを同時に含有するLBプレートで陽性クローンをスクリーニングした。相同な断片を有する組換えプラスミドがゲノムのphaC-H1およびphaC-H2が存在する特定の位置に組み込まれた当該陽性クローンを、第一の相同組換え菌とした。第一の相同組換え菌をスクロース100mg/mLを含むLBプレート上に画線状に塗布して、単一のクローンを培養し、これらの単一のクローンからスペクチノマイシン耐性のないクローンをスクリーニングし、プライマーFphaCH1-F:tggtctggctggcggactgag、及びプライマーphaCH2-R:ggcgaactcatcctgcgcctcによるPCRにより、標的遺伝子(異なるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーティング遺伝子)が挿入された組換え菌を同定した。得られた組換え菌はプラスミドが安定なラルストニア・ユートロファReΔproCΔphaC::Nであり、合計221個の形質転換体が得られた。
【0113】
ステップ4:ラルストニア・ユートロファの元のphaB遺伝子を過剰発現する組換え菌の構築
ステップ3における組換えプラスミドの構築方法を参照し、Gibson組み立て法により、ラルストニア・ユートロファの元のphaB遺伝子を含有する組換えプラスミドを構築した。具体的な方法は、以下の通りである。
【0114】
ステップ1で得られたpKO-CプラスミドをテンプレートとしてPCR増幅を行うことで、プラスミド骨格断片を得、ラルストニア・ユートロファのゲノムをテンプレートとして増幅を行うことで、phaB遺伝子の断片を得、上記の2つの断片をGibson Assembly法により連結させ、組換えプラスミドpKO-C-phaBを得た。構築の過程において使用したプライマーは、表2に示すとおりである。
【0115】
【表2】
【0116】
pKO-C-phaBプラスミドをトランスフェクションにより大腸菌S17-1に導入し、上記のステップ3の方法に従って組換え菌を構築し、最終的にphaB遺伝子がラルストニア・ユートロファのphaC遺伝子の位置に取り込まれた過剰発現菌株ReΔphaC::phaBを得た。
【0117】
ステップ5:ラルストニア・ユートロファのPHA生産量を顕著に向上できるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のスクリーニング
(1)異なるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する組換え菌の発酵培養
ステップ3で得られた異なるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する組換え菌を、平板画線法により画線状に塗布し、単一のクローンを得、単一のクローンを種培地(4mL)に接種して、12時間培養した。一晩培養した菌液をLB活性化培地10mLが入ったガラス製三角フラスコ100mLに移植し、接種終了時のOD量が約0.1となるように、30℃、220rpmで、8h培養することで、移植・培養を行った。PHA発酵生産の培養では、OD値が6~7の前培養種を、発酵培地30mLが入った250mLのシェイクフラスコに0.1ODで接種した後、さらに一定量の乳化剤を加えた。48h後に発酵を停止し、発酵液を採取し、遠心分離して菌体を得た。菌体を重量が一定となるまで乾燥した。
【0118】
上記発酵培地の処方は、パーム油1%、NHCl 1g/L、微量元素溶液I 10mL/Lおよび微量元素溶液II 1mL/Lである。ここで、微量元素溶液Iの組成は、MgSO 20g/L、CaCl 2g/Lである。微量元素溶液IIの組成は、ZnSO・7HO 100mg/L、MnCl・4HO 30mg/L、HBO 300mg/L、CoCl・6HO 200mg/L、CuSO・5HO 10mg/L、NiCl・6HO 20mg/L、NaMoO・2HO 30mg/Lである。上記試薬はSinopharm Chemical Reagent Co.,Ltd.から購入したものである。
【0119】
(2)PHAの含有量の測定
エステル化溶液の調製:無水メタノール485mLを取り、安息香酸1g/Lを加え、濃硫酸15mLをゆっくりと加えて、約500mLのエステル化溶液を調製した。
【0120】
サンプルの調製:サンプルを精密に秤量した後、エステル化チューブにエステル化溶液2mLとクロロホルム2mLとを加えた。PHAサンプルを10mg程度秤量し、同様に処理して標準サンプルとした。エステル化チューブに蓋をして密封した後、100℃で4時間反応させた。反応終了後、エステル化チューブを室温まで冷却させ、脱イオン水1mLを加え、ボールテックスで振蕩して十分に混合させ、分層するまで静置した。水相と有機相が完全に分離した後、下層の有機相を採取してガスクロマトグラフィー(GC)解析に用いた。
【0121】
PHA組成及び含有量に対するGC解析:島津製作所のGC-2014型ガスクロマトグラフを使用した。クロマトグラフの構成は、HP-5型キャピラリカラム、水素炎イオン化検出器FID、SPLスプリット注入口であり、高純度窒素ガスをキャリアガスとし、水素ガスを燃焼ガスとし、空気を助燃ガスとし、AOC-20S型オートサンプラを使用し、アセトンを洗浄液とした。GC解析プログラムの設定について、注入口の温度を240℃とし、検出器の温度を250℃とし、カラム開始温度を80℃とし、1.5分間維持し、30℃/分の速度で140℃まで昇温させ、そして0分間維持し、40℃/分の速度で240℃まで昇温させ、そして2分間を維持し、合計時間を8分間とした。GCの結果については、内部標準法を使用し、ピーク面積に基づき、PHAの組成及び含有量を定量的に算出した。
【0122】
異なるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する組換え菌のPHA生産量を測定した。スクリーニングにより、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のほとんどが、ラルストニア・ユートロファのPHA生産量を顕著に向上させることができず、それどころか、多くのアセトアセチルCoAレダクターゼ変種が、ラルストニア・ユートロファのPHA生産量を明らかに低減(40%以下にまで低減)させ、わずか26個のアセトアセチルCoAレダクターゼ変種が、ラルストニア・ユートロファのPHA生産量(PHA含有量が83%以上に達している)を顕著に向上させることができることが分かった。これら26個のアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する組換え菌のPHA生産量および菌体乾燥重量の測定結果は表3が示すとおりであり、出発菌株であるラルストニア・ユートロファBPS-050を対照菌株とし、対照菌株のCDWは10.34g/Lであり、PHAの割合は82.21%であり、Hの割合は8.15mol%であった。
【0123】
【表3】
【0124】
(3)元のphaBを過剰発現する組換え菌の発酵培養およびPHA含有量の測定
上記のステップ4で得られた元のphaB遺伝子を過剰発現する組換え菌を上記(1)における方法に従って発酵培養し、そして上記(2)における方法に従ってPHA含有量の測定を行い、出発菌株であるラルストニア・ユートロファBPS-050を対照菌株とした。
【0125】
発酵の結果は表4が示すとおりである。結果は、ラルストニア・ユートロファ自身のphaB遺伝子を過剰発現してもPHA生産量を向上させることができないことを示している。
【0126】
【表4】
【実施例2】
【0127】
実施例2 アセトアセチルCoAレダクターゼ変種の保存部位の分析
実施例1でスクリーニングした26個のアセトアセチルCoAレダクターゼ変種(表3に示すもの)の保存部位を分析するとともに、16個のPHA生産量が40%未満のアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を無作為に選択し、これらのアセトアセチルCoAレダクターゼ変種に対してマルチプルアライメントを行い、そして一定のコンピューターアルゴリズムにより結果を分析して、最終的にPHA生産量を効率よく向上できるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種の保存部位を確定した。ラルストニア・ユートロファのphaB遺伝子を配列の基准とする場合、保存部位はそれぞれV141I、M12T、I194V、E42K、F55Vであった。
【実施例3】
【0128】
実施例3 H16を出発菌株とするアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する形質転換体ライブラリーの構築及びその性能に対する検証
本実施例では、ラルストニア・ユートロファH16を出発菌株(ラルストニア・ユートロファH16菌株のphaC遺伝子が変異しておらず、phaJ遺伝子の上流にプロモーターが導入されていないもの)とし、ラルストニア・ユートロファH16において、実施例1でスクリーニングした26個のアセトアセチルCoAレダクターゼ変種をそれぞれ発現させた。
【0129】
組換えプラスミドと組換え菌の構築方法は実施例1を参照し、違いは、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーティング遺伝子をゲノムにおけるphaC遺伝子に挿入した後、実施例1における上流および下流の相同断片のプライマーphaCH1-F、phaCH1-Rを、iphaCH1 F:tggtacccggccaagtctgtgtggaactacgtggtcgac;iphaCH1 R:TGAGACCCAAGGTCTCCATtcatgccttggctttgacgtatcに変更したことにあり、その他の操作は実施例1と同じであって、実施例1でスクリーニングした26個のアセトアセチルCoAレダクターゼ変種をそれぞれ発現する組換え菌を構築した。
【0130】
構築した組換え菌に対し、実施例1の方法に従って発酵培養およびPHA生産量の測定を行い、菌体乾燥重量およびPHA生産量の測定結果は表5が示すとおりである。結果は、実施例1でスクリーニングした26個のアセトアセチルCoAレダクターゼ変種が同様にラルストニア・ユートロファH16菌株の細胞乾燥重量およびPHA含有量を向上でき、さらにPHA生産量を効率よく向上できることを示している。
【0131】
【表5】
【実施例4】
【0132】
実施例4 H16株の遺伝子組み換え菌を出発菌株とするアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する形質転換体ライブラリーの構築及びその性能に対する検証
本実施例では、ラルストニア・ユートロファH16を出発菌株とし、そのゲノムにおけるphaC遺伝子をphaC遺伝子変種(コードするタンパク質配列は配列番号29が示すとおりである)に変異させ、そして、ゲノムにおけるphaJ遺伝子の上流に配列番号30で示されるプロモーターを挿入したうえで、実施例1でスクリーニングした26個のアセトアセチルCoAレダクターゼ変種をそれぞれ発現させた。具体的な方法は以下の通りである。
【0133】
ステップ1:ラルストニア・ユートロファのゲノムにおけるphaC遺伝子の置き替え
phaC遺伝子変種の遺伝子合成配列は配列番号2が示すとおりであり、当該配列はphaC遺伝子の上流および下流の約600bpの断片及びphaC変種を含有するとともに、合成配列の上流にGGTCTCATCが、下流にGTGAAGAGACCが、後続のベクターとの連結を容易にするために添加された。合成遺伝子をGolden gate法によりpKO-Cベクター断片に連結させることで、組換えプラスミドpK18mob-ΔphaC::phaCacを得た。
【0134】
組換えプラスミドpK18mob-ΔphaC::phaCacを大腸菌S17-1に導入し、さらに、接合導入法によりラルストニア・ユートロファH16に導入し、自殺プラスミドが宿主菌内で複製できない特性を利用し、カナマイシン200μg/mLとアプラマイシン100μg/mLを同時に含有するLBプレートで陽性クローンをスクリーニングした。相同な断片を有する組換えプラスミドがゲノムのH1およびH2が存在する特定の位置に組み込まれた当該陽性クローンを、第一の相同組換え菌とした。第一の相同組換え菌をスクロース100mg/mLを含むLBプレート上に画線状に塗布して、単一のクローンを培養し、これらの単一のクローンからカナマイシン耐性のないクローンをスクリーニングし、プライマーphaC-H1 FPおよびphaC-H2 RPによるPCRにより、phaC遺伝子が置き換えされた組換え菌を同定した。得られた組換え菌はラルストニア・ユートロファReΔphaC::phaCacである。
【0135】
ステップ2:phaJ4b遺伝子の上流に特定のプロモーターが挿入された組換え菌の構築
(1)ステップ1で得られたラルストニア・ユートロファReΔphaC::phaCacのゲノムをテンプレートとしてPCR増幅を行い、phaJ-H1 Fp、phaJ-H1 Rpを用いて、phaJ遺伝子のプロモーターの上流に相同な断片H1を得、phaJ-H2 Fp、phaJ-H2 Rpを用いて、phaJ遺伝子のプロモーターの下流に相同な断片H2を得た。
【0136】
(2)phaJ遺伝子のプロモーターphaJ43(配列番号30)を遺伝子合成した。
【0137】
(3)PCRによって得られたH1、H2及びphaJ43プロモーターをGibson Assembly法によりベクター断片に連結させ、組換えプラスミドpK18mob-phaJ43を得た。上記で使用したプライマーは表6が示すとおりである。
【0138】
【表6】
【0139】
(4)組換えプラスミドpK18mob-phaJ43を大腸菌S17-1に導入し、さらに、接合導入法によりラルストニア・ユートロファReΔphaC::phaCacに導入し、自殺プラスミドが宿主菌内で複製できない特性を利用して、カナマイシン200μg/mLとアプラマイシン100μg/mLを同時に含有するLBプレートを用いて陽性クローンをスクリーニングした。相同な断片を有する組換えプラスミドがゲノムのH1とH2が存在する特定の位置に組み込まれた当該陽性クローンを、第一の相同組換え菌とした。第一の相同組換え菌をスクロース100mg/mLを含むLBプレート上に画線状に塗布して、単一のクローンを培養し、これらの単一のクローンからカナマイシン耐性のないクローンをスクリーニングし、プライマーphaJ FpとphaJ RpによるPCRにより、相応のサイズの組換え菌を同定した。得られた組換え菌はラルストニア・ユートロファReΔphaC::phaCac_phaJ43である。
【0140】
(5)ラルストニア・ユートロファReΔphaC::phaCac_phaJ43において、実施例1でスクリーニングした26個のアセトアセチルCoAレダクターゼ変種をそれぞれ発現させた。
【0141】
組換えプラスミドと組換え菌の構築方法は実施例1を参照し、実施例1でスクリーニングした26個のアセトアセチルCoAレダクターゼ変種をそれぞれ発現するReΔphaC::phaCac_phaJ43組換え菌を構築した。
【0142】
構築した組換え菌に対し、実施例1の方法に従って発酵培養およびPHA生産量の測定を行った。結果は、対照菌(本実施例中のアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現しない組換え菌ReΔphaC::phaCac_phaJ43)に対する、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する組換え菌の、細胞乾燥重量とPHA含有量における上昇割合が実施例1に相当することを示している。これにより、実施例1でスクリーニングした26個のアセトアセチルCoAレダクターゼ変種が同様に、ラルストニア・ユートロファReΔphaC::phaCac_phaJ43菌株の細胞乾燥重量とPHA含有量を顕著に向上させ、さらにPHA生産量を顕著に向上させることができることが証明されている。
【実施例5】
【0143】
実施例5 組換え菌の発酵実験
以上の実施例1、3および4で構築された組換え菌について、他の植物油を炭素源とする発酵実験を行った。すなわち、実施例1、3および4で使用された発酵培地におけるパーム油をそれぞれ大豆油または亜麻仁油に変換し、その他の発酵方法は実施例1と同じであった。結果は、各組換え菌が大豆油または亜麻油を炭素源として発酵を行う場合、その細胞乾燥重量とPHA生産量がパーム油を炭素源とする場合の結果と一致する傾向にあり、顕著な差異がないことを示している。上記では、一般的な説明および具体的な実施形態を用いて、本発明を詳細に説明したが、本発明に基づいて、いくつかの修正または改善を行ってもよいことは、当業者にとって自明である。従って、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で行われたこれらの修正または改善はいずれも本発明の保護範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明は、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種及びそのコーティング遺伝子を発現する遺伝子操作された微生物、微生物のPHA生産量を向上させるためのアセトアセチルCoAレダクターゼ変種及びそのコーティング遺伝子の使用、ならびに微生物のPHA生産量の向上方法を提供する。微生物においてアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現させることで、微生物のPHAの合成および蓄積能力が顕著に向上するとともに、微生物の生物量の向上が促進され、さらにPHAの生産量が効果的に向上する。本発明が提供するアセトアセチルCoAレダクターゼ変種及びそのコーティング遺伝子、ならびに遺伝子操作された微生物は、PHAの生産菌株の開発に新たな遺伝子資源および菌株資源を提供し、PHAの発酵生産效率の向上および生成コストの低減において、重要な経済価値と応用の見通しを有する。
【配列表】
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