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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】蓄電池管理装置および蓄電池の管理方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/3828 20190101AFI20241202BHJP
   G01R 31/374 20190101ALI20241202BHJP
【FI】
G01R31/3828
G01R31/374
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023550781
(86)(22)【出願日】2021-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2021035619
(87)【国際公開番号】W WO2023053195
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 健志
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-057357(JP,A)
【文献】特開2017-009577(JP,A)
【文献】特開2021-150076(JP,A)
【文献】特開2019-192517(JP,A)
【文献】特開2012-145403(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008469(WO,A1)
【文献】特開2017-122622(JP,A)
【文献】特開2010-266221(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0170669(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110658466(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/3828
G01R 31/374
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SOCの変化量に対するOCVの変化量の絶対値であるOCV変化率が所定値以下の第1の領域と、前記OCV変化率が前記所定値を超える第2の領域と、を含むSOC-OCV特性を有する蓄電池を管理する蓄電池管理装置であって、
前記蓄電池に流れる電流を計測する電流計測部と、
前記電流計測部が計測した電流を積算することにより、前記蓄電池の容量を算出するクーロンカウンティング処理部と、
基準時のSOCと、前記クーロンカウンティング処理部が算出した前記基準時からの前記蓄電池の容量の変化量と、前記蓄電池のFCCとに基づき、前記蓄電池のSOCを推定するSOC推定部と、
前記蓄電池のOCVを取得するOCV取得部と、
前記OCV取得部が取得した前記蓄電池のOCVに対応するSOCである補正用SOCが前記第2の領域内にあることを必要条件として含む補正条件が満たされた場合、前記基準時のSOCと前記補正用SOCとの差と前記基準時からの前記蓄電池の容量の変化量とに応じて、前記SOC推定部で用いる前記蓄電池のFCCを補正する補正部と、
を備える、蓄電池管理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電池管理装置であって、
前記補正用SOCが前記第1の領域内にあり、かつ、前記SOC推定部による推定SOCが、前記補正用SOCのある前記第1の領域外にある場合、前記補正用SOCのある前記第1の領域における前記推定SOC側のSOCである仮補正用SOCに基づき、前記蓄電池のFCCを仮補正する仮補正部をさらに備える、蓄電池管理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の蓄電池管理装置であって、
前記補正条件が満たされるごとに、前記補正部における前記蓄電池のFCCの補正の履歴を記録する履歴部をさらに備え、
前記補正条件は、前記履歴部に記録された直近の所定回数(2回以上)分のFCCの補正量の平均値が閾値以上であることを必要条件としてさらに含む、蓄電池管理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の蓄電池管理装置であって、
前記補正用SOCが前記第1の領域内にあり、かつ、前記SOC推定部による推定SOCが、前記補正用SOCのある前記第1の領域外にある場合、前記補正用SOCのある前記第1の領域における前記推定SOC側のSOCである仮補正用SOCに基づき、基準時のSOCを仮補正する仮補正部をさらに備え、
前記補正条件は、前記所定回数に相当する期間において前記仮補正が実行されないことを必要条件としてさらに含む、蓄電池管理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の蓄電池管理装置であって、
前記蓄電池が有するSOC-OCV特性は、複数の前記第2の領域を含んでおり、
前記補正条件は、前記基準時のSOCが、前記補正用SOCとは異なる前記第2の領域内にあることを必要条件としてさらに含む、蓄電池管理装置。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の蓄電池管理装置であって、
前記補正条件は、前記基準時のSOCと前記補正用SOCとの差が下限値以上であることを必要条件としてさらに含む、蓄電池管理装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の蓄電池管理装置であって、
前記蓄電池の温度を計測する温度計測部をさらに備え、
前記補正条件は、前記温度計測部が計測した温度が所定の温度範囲内であることを必要条件としてさらに含む、蓄電池管理装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の蓄電池管理装置であって、
前記補正条件が満たされた場合、前記基準時のSOCを、前記補正用SOCに更新するSOC更新部をさらに備える、蓄電池管理装置。
【請求項9】
SOCの変化量に対するOCVの変化量の絶対値であるOCV変化率が所定値以下の第1の領域と、前記OCV変化率が前記所定値を超える第2の領域と、を含むSOC-OCV特性を有する蓄電池の管理方法であって、
前記蓄電池に流れる電流を計測する工程と、
計測した電流を積算することにより、前記蓄電池の容量を算出する工程と、
基準時のSOCと、算出した前記基準時からの前記蓄電池の容量の変化量と、前記蓄電池のFCCとに基づき、前記蓄電池のSOCを推定する工程と、
前記蓄電池のOCVを取得する工程と、
取得した前記蓄電池のOCVに対応するSOCである補正用SOCが前記第2の領域内にあることを必要条件として含む補正条件が満たされた場合、前記基準時のSOCと前記補正用SOCとの差と前記基準時からの前記蓄電池の容量の変化量とに応じて、前記蓄電池のSOCを推定する工程で用いる前記蓄電池のFCCを補正する工程と、
を含む、蓄電池の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、蓄電池管理装置および蓄電池の管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電池のSOC(State of Charge、充電率)を推定する方法として、OCV(Open Circuit Voltage、開回路電圧)法が知られている(例えば、特許文献1参照)。OCV法では、蓄電池のOCVを取得し、取得したOCVと、蓄電池が有するSOC-OCV(Open Circuit Voltage、開回路電圧)の特性曲線における対応関係とに基づいてSOCを推定する。OCV法では、例えばSOCの推定可能な時期が蓄電池のOCVを取得可能な時期に制約されたり、SOCの変化量に対するOCVの変化量の絶対値が比較的に小さい領域(例えばプラトー領域)を含むSOC-OCV特性を有する蓄電池では、SOCを精度よく推定できなかったりするおそれがある。
【0003】
一方、蓄電池のSOCを推定する別の方法として、電流積算法が知られている。電流積算法では、蓄電池に流れる電流の計測結果を積算することにより初期時からの蓄電池の容量の変化量を特定し、初期容量と特定された容量の変化量と、FCC(Full Charge Capacity、満充電容量)とに基づいてSOCを推定する。電流積算法では、OCVとは異なり、OCVを取得可能な時期の制約やプラトー領域の影響を受けることなく、SOCを推定することが可能であるが、蓄電池に流れる電流を計測する電流計測部の計測誤差に起因してSOCを精度よく推定できないおそれがある。これに対して、従来、電流積算法とOCV法とを併用する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。この方法では、OCVを計測できるタイミングごとに、OCV法により推定したSOCに初期容量をリセットすることにより、電流計測部の計測誤差による積算誤差を解消する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-81244号公報
【文献】特開2020-60581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電流積算法においてSOCの推定精度に影響を与える要因は、電流計測部の計測誤差だけではなく、蓄電池について想定された状態と実際の状態との誤差(以下、「蓄電池の状態誤差」という)が想定される。蓄電池の状態誤差の発生要因は、例えば、蓄電池の出荷時の固体差や蓄電池の経年変化が挙げられる。例えば、蓄電池の状態誤差が相対的に大きければ、電流積算法に使用されるFCCも大きな誤差を含んでいる可能性があり、電流計測部の計測誤差よりもSOCの推定精度に大きく影響し得る。電流積算法に限らず、電流積算法とOCV法とを併用する上述の方法であっても、精度の低いFCCを用いている限り、電流積算法によって推定されるSOCには、電流計測部の計測誤差に加えて、蓄電池の状態誤差に起因する誤差が継続的に含まれることになる。その結果、電流積算法によってSOCを精度よく推定できない、という課題がある。
【0006】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本明細書に開示される蓄電池管理装置は、SOCの変化量に対するOCVの変化量の絶対値であるOCV変化率が所定値以下の第1の領域と、前記OCV変化率が前記所定値を超える第2の領域と、を含むSOC-OCV特性を有する蓄電池を管理する蓄電池管理装置であって、前記蓄電池に流れる電流を計測する電流計測部と、前記電流計測部が計測した電流を積算することにより、前記蓄電池の容量を算出するクーロンカウンティング処理部と、基準時のSOCと、前記クーロンカウンティング処理部が算出した前記基準時からの前記蓄電池の容量の変化量と、前記蓄電池のFCCとに基づき、前記蓄電池のSOCを推定するSOC推定部と、前記蓄電池のOCVを取得するOCV取得部と、前記OCV取得部が取得した前記蓄電池のOCVに対応するSOCである補正用SOCが前記第2の領域内にあることを必要条件として含む補正条件が満たされた場合、前記補正用SOCに基づき、前記SOC推定部で用いる前記蓄電池のFCCを補正する補正部と、を備える。
【0009】
本蓄電池管理装置では、基準時のSOCと、蓄電池に流れる電流の積算に基づく蓄電池の容量の変化量と、蓄電池のFCCとに基づき、蓄電池のSOCが推定される(以下、「電流積算法に基づくSOC推定」という)。この電流積算法に基づくSOC推定に用いられるFCCは、補正用SOCに基づき補正される。この補正用SOCは、OCV取得部が取得した蓄電池のOCVに対応するSOCであり、かつ、第2の領域(SOCの変化量に対するOCVの変化量の絶対値であるOCV変化率が所定値を超える領域)内にあるSOCである。SOCが第2の領域内にある場合、SOCが第1の領域(上記OCV変化率が所定値以下の領域)内にある場合に比べて、OCVに対応するSOCの取得精度が高い。そして、その相対的に高い精度で取得された補正用SOCは、積算誤差がない分だけ、電流積算法に基づき推定されるSOCに比べて、蓄電池の実際の状態(蓄電池の固体差や経年変化など)を顕著に反映する。このため、この補正用SOCを用いて、電流積算法に基づくSOC推定に用いられるFCCを精度よく補正することができる。これにより、本蓄電池管理装置によれば、FCCが補正されるので、電流積算法に基づくSOC推定を精度よく行うことができる。
【0010】
(2)上記蓄電池管理装置において、前記補正部は、前記基準時のSOCと前記補正用SOCとの差と前記基準時からの前記蓄電池の容量の変化量とに応じて、前記SOC推定部で用いる前記蓄電池のFCCを補正する構成としてもよい。本蓄電池管理装置によれば、蓄電池の実際の状態変化に相関する、基準時のSOCと補正用SOCとの差に基づきFCCが補正されるため、電流積算法に基づくSOC推定を、より精度よく行うことができる。
【0011】
(3)上記蓄電池管理装置において、前記補正用SOCが前記第1の領域内にあり、かつ、前記SOC推定部による推定SOCが、前記補正用SOCのある前記第1の領域外にある場合、前記補正用SOCのある前記第1の領域における前記推定SOC側のSOCである仮補正用SOCに基づき、前記蓄電池のFCCを仮補正する仮補正部をさらに備える構成としてもよい。本蓄電池管理装置によれば、補正用SOCが第2の領域内にない場合でも、仮補正によって、電流積算法に基づくSOC推定を精度よく行うことができる。
【0012】
(4)上記蓄電池管理装置において、前記補正条件が満たされるごとに、前記補正部における前記蓄電池のFCCの補正の履歴を記録する履歴部をさらに備え、前記補正条件は、前記履歴部に記録された直近の所定回数(2回以上)分のFCCの補正量の平均値が閾値以上であることを必要条件としてさらに含む構成としてもよい。本蓄電池管理装置によれば、例えば電流計測部のノイズや測定誤差等によりFCCの補正の精度が低下することを抑制することができる。
【0013】
(5)上記蓄電池管理装置において、前記補正用SOCが前記第1の領域内にあり、かつ、前記SOC推定部による推定SOCが、前記補正用SOCのある前記第1の領域外にある場合、前記補正用SOCのある前記第1の領域における前記推定SOC側のSOCである仮補正用SOCに基づき、基準時のSOCを仮補正する仮補正部をさらに備え、前記補正条件は、前記所定回数に相当する期間において前記仮補正が実行されないことを必要条件としてさらに含む構成としてもよい。本蓄電池管理装置によれば、例えば仮補正の実行による誤差が、FCCの補正の要否判断に悪影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0014】
(6)上記蓄電池管理装置において、前記蓄電池が有するSOC-OCV特性は、複数の前記第2の領域を含んでおり、前記補正条件は、前記基準時のSOCが、前記補正用SOCとは異なる前記第2の領域内にあることを必要条件としてさらに含む構成としてもよい。本蓄電池管理装置によれば、例えば基準時のSOCと補正用SOCとが同じ第2の領域内にあり、蓄電池の電荷移動量が極めて少なく、FCCの補正を要しない場合でもFCCの補正が実行される負担を軽減することができる。
【0015】
(7)上記蓄電池管理装置において、前記補正条件は、前記基準時のSOCと前記補正用SOCとの差が下限値以上であることを必要条件としてさらに含む構成としてもよい。本蓄電池管理装置によれば、例えば基準時のSOCと補正用SOCとの差(蓄電池における電荷移動量)が極めて少なく、FCCの補正を要しない場合でもFCCの補正が実行される負担を軽減することができる。
【0016】
(8)上記蓄電池管理装置において、前記蓄電池の温度を計測する温度計測部をさらに備え、前記補正条件は、前記温度計測部が計測した温度が所定の温度範囲内であることを必要条件としてさらに含む構成としてもよい。本蓄電池管理装置によれば、蓄電池の温度が所定の温度範囲外であることに起因してFCCの補正精度が低下することを抑制することができる。
【0017】
(9)上記蓄電池管理装置において、前記補正条件が満たされた場合、前記基準時のSOCを、前記補正用SOCに更新するSOC更新部をさらに備える構成としてもよい。本蓄電池管理装置によれば、例えば電流計測部による電流の積算誤差に起因する蓄電池のSOCの推定精度の低下を抑制することができる。
【0018】
(10)本明細書に開示される蓄電池の管理方法は、SOCの変化量に対するOCVの変化量の絶対値であるOCV変化率が所定値以下の第1の領域と、前記OCV変化率が前記所定値を超える第2の領域と、を含むSOC-OCV特性を有する蓄電池の管理方法であって、前記蓄電池に流れる電流を計測する工程と、計測した電流を積算することにより、前記蓄電池の容量を算出する工程と、基準時のSOCと、算出した前記基準時からの前記蓄電池の容量の変化量と、前記蓄電池のFCCとに基づき、前記蓄電池のSOCを推定する工程と、前記蓄電池のOCVを取得する工程と、取得した前記蓄電池のOCVに対応するSOCである補正用SOCが前記第2の領域内にあることを必要条件として含む補正条件が満たされた場合、前記補正用SOCに基づき、前記蓄電池のSOCを推定する工程で用いる前記蓄電池のFCCを補正する工程と、を含む。本蓄電池の管理方法によれば、FCCが補正されるので、電流積算法に基づくSOC推定を精度よく行うことができる。
【0019】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、蓄電池管理装置、蓄電池管理装置と蓄電池とを備える電池装置、それらの管理方法、それらの方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態における電池装置100の構成を概略的に示す説明図
図2】蓄電池12のSOC-OCV特性を概略的に示す説明図
図3】SOC-OCVテーブルT1の一例を示す説明図
図4】領域区分-OCVテーブルT2の一例を示す説明図
図5】OCV取得処理を示すフローチャート
図6】補正処理を示すフローチャート
図7】蓄電池12のSOC-OCV特性を概略的に示す説明図
図8】変形例における補正処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0021】
A.実施形態:
A-1.電池装置100の構成:
図1は、本実施形態における電池装置100の構成を概略的に示す説明図である。電池装置100は、組電池10と、蓄電池管理装置20とを備える。
【0022】
組電池10は、複数の蓄電池12が直列に接続された構成を有している。本実施形態では、組電池10は、4つの蓄電池12から構成されている。組電池10は、プラス端子42およびマイナス端子44を介して、図示しない負荷および外部電源に接続される。
【0023】
組電池10を構成する各蓄電池12は、プラトー領域PRを含むSOC(State of Charge、充電率)-OCV(Open Circuit Voltage、開回路電圧)特性を有する蓄電池である。図2は、蓄電池12のSOC-OCV特性を概略的に示す説明図である。プラトー領域PRとは、SOC-OCV特性を表す曲線がほぼ平坦となる領域であり、より詳細には、OCV変化率(SOCの変化量に対するOCVの変化量の絶対値)が2mV/%以下の領域である。プラトー領域PRを含むSOC-OCV特性を有する蓄電池12としては、例えばリン酸鉄系のリチウムイオン電池やチタン酸系のリチウムイオン電池が挙げられる。また、蓄電池12のSOC-OCV特性は、さらに変化領域CRを有している。変化領域CRは、OCV変化率が2mV/%を超える領域(非プラトー領域)である。図2に示すように、蓄電池12のSOC-OCV特性は、3つのプラトー領域PR(第1のプラトー領域PR1、第2のプラトー領域PR2、第3のプラトー領域PR3)と4つの変化領域CR(第1の変化領域CR1、第2の変化領域CR2、第3の変化領域CR3、第4の変化領域CR4)とが交互に並んでいる。なお、プラトー領域PRは、特許請求の範囲における第1の領域の一例であり、変化領域CRは、特許請求の範囲における第2の領域の一例であり、2mV/%は、特許請求の範囲における所定値の一例である。
【0024】
蓄電池管理装置20は、組電池10を含む電池装置100を管理するための装置である。蓄電池管理装置20は、電圧計22と、電流計24と、温度計26と、監視部28と、ラインスイッチ40と、制御部60と、記録部72と、履歴部74と、インターフェース(I/F)部76とを備えている。
【0025】
電圧計22は、各蓄電池12に対して1つ設けられている。各電圧計22は、各蓄電池12に対して並列に接続され、各蓄電池12の電圧を計測して、電圧計測値を示す信号を監視部28に向けて出力する。電流計24は、組電池10に対して直列に接続されている。電流計24は、組電池10に流れる電流を計測して、電流計測値を示す信号を監視部28に向けて出力する。温度計26は、組電池10の近くに配置されている。温度計26は、組電池10(各蓄電池12)の温度を計測して、温度計測値を示す信号を監視部28に向けて出力する。監視部28は、電圧計22、電流計24および温度計26から受け取った信号に基づき、各蓄電池12の電圧、組電池10に流れる電流および組電池10(各蓄電池12)の温度を示す信号を制御部60に向けて出力する。電圧計22および監視部28は、電圧計測部の一例であり、電流計24および監視部28は、電流計測部の一例であり、温度計26および監視部28は、電池温度計測部の一例である。
【0026】
ラインスイッチ40は、組電池10とマイナス端子44との間に設置されている。ラインスイッチ40は、制御部60によってオン・オフ制御されることにより、組電池10と負荷および外部電源との間の接続を開閉する。
【0027】
制御部60は、例えば、CPU、マルチコアCPU、プログラマブルなデバイス(Field Programmable Gate Array(FPGA)、Programmable Logic Device(PLD)等)を用いて構成され、蓄電池管理装置20の動作を制御する。制御部60は、OCV取得部62、クーロンカウンティング処理部64と、SOC推定部66と、補正部68、SOC更新部70、仮補正部71としての機能を有する。これら各部の機能については、後述のSOC推定処理の説明に合わせて説明する。
【0028】
記録部72は、例えばROMやRAM、ハードディスクドライブ(HDD)等により構成され、各種のプログラムやデータを記憶したり、各種の処理を実行する際の作業領域やデータの記憶領域として利用されたりする。例えば、記録部72には、後述のSOC推定処理を実行するためのコンピュータプログラムが格納されている。該コンピュータプログラムは、例えば、CD-ROMやDVD-ROM、USBメモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体(不図示)に格納された状態で提供され、電池装置100にインストールすることにより記録部72に格納される。
【0029】
また、記録部72には、SOC-OCVテーブルT1と、領域区分-OCVテーブルT2とが格納されている。SOC-OCVテーブルT1は、各蓄電池12のOCV法に基づくSOC推定に用いられるテーブルである。図3は、SOC-OCVテーブルT1の一例を示す説明図である。SOC-OCVテーブルT1は、OCVと、電池温度と、SOCとを関連付けるテーブルである。SOC-OCVテーブルT1に規定される関係は、予め実験的に定められる。図3に示すように、SOC-OCV特性は、電池温度の変化に応じて変動する。SOC-OCVテーブルT1を参照することにより、各蓄電池12のOCVおよび電池温度に基づき、蓄電池12のSOCを推定することができる。なお、図3では、OCVを、Va0,Va1,・・・などと表示しているが、SOC-OCVテーブルT1には、実際にはOCVの数値が規定されている。また、図3では、蓄電池12の放電時に用いられる放電用SOC-OCVテーブルと、蓄電池12の充電時に用いられる充電用SOC-OCVテーブルとが示されている。
【0030】
また、記録部72に記録された領域区分-OCVテーブルT2(図1)は、推定されたSOCがSOC-OCV特性におけるどの領域(プラトー領域PR、変化領域CR)にあるか(どの領域に属するか)を判断する際に用いられるテーブルである。図4は、領域区分-OCVテーブルT2の一例を示す説明図である。本実施形態では、領域区分-OCVテーブルT2に、OCVと、SOC-OCV特性における各領域区分と、電池温度との関係が規定されている。上述したように、SOC-OCV特性は電池温度の変化に応じて変動するため、そのSOC-OCV特性の変動に伴って、SOC-OCV特性における各領域区分が変動する。なお、図4では、OCVを、Vo0,Vo1,・・・などと表示しているが、領域区分-OCVテーブルT2には、実際にはOCVの数値が規定されている。
【0031】
履歴部74は、例えばROMやRAM、ハードディスクドライブ(HDD)等により構成され、電池装置100に関する各種履歴を記録する。このような履歴としては、例えば、蓄電池12のOCVや、後述のFCC補正処理や仮補正処理の補正内容等の履歴が挙げられる。インターフェース部76等は、有線または無線により他の装置との通信を行う。例えば、インターフェース部76を介した他の装置との通信により、履歴部74に記録された履歴が更新される。
【0032】
A-2.SOC推定処理:
次に、本実施形態の電池装置100において蓄電池管理装置20により実行されるSOC推定処理について説明する。本実施形態では、SOC推定処理は、主として、電流積算法に基づくSOC推定を行いつつ、OCV法により取得された補正用SOCが変化領域CRにある場合、その補正用SOCに基づき、電流積算法に基づくSOC推定に用いるFCC(Full Charge Capacity、満充電容量)を補正する処理である。本実施形態では、SOC推定処理は、組電池10を構成する各蓄電池12を対象としてSOCを個別に推定するものとする。以下の説明では、1つの蓄電池12を取り上げて説明する。SOC推定処理は、例えば、蓄電池管理装置20が起動された場合に、自動的に、または、管理者からの指示に応じて開始される。
【0033】
A-2-1.積算SOC(t)の推定処理:
本実施形態の電池装置100において、電流積算法に基づくSOC(以下、「積算SOC(t)」という)を推定する処理が実行される。具体的には、蓄電池管理装置20のクーロンカウンティング処理部64(図1)が、電流計24および監視部28により計測される電流を積算することにより、各蓄電池12の容量を算出している。次に、蓄電池管理装置20のSOC推定部66が、基準時のSOC(0)と、クーロンカウンティング処理部64が算出した基準時からの蓄電池12の容量の変化量Q(t)(電荷移動量)と、蓄電池12のFCCとに基づき、蓄電池の積算SOC(t)を推定する。積算SOC(t)は、次の式(1)で示すことができる。
積算SOC(t)=基準時のSOC(0)+[Q(t)/FCC]・・・(1)
SOC推定処理の開始当初では、基準時は、電池装置100の出荷時であり、その後は、基準時は、後述する補正処理における基準SOC更新処理の実行時である。なお、積算SOC(t)の推定処理は、SOC推定処理中に継続的に実行される。
【0034】
A-2-2.OCV取得処理:
図5は、本実施形態の電池装置100において実行されるOCV取得処理を示すフローチャートである。制御部60は、蓄電池12への充電または放電の電流が所定の閾値を下回るか、ラインスイッチ40がクローズ状態からオープン状態へ移行した場合、蓄電池12が停止状態であると判断し、蓄電池管理装置20のOCV取得部62(図1)が、蓄電池12のOCV取得処理(図5)を実行する。具体的には、OCV取得部62は、OCV取得タイミングが到来したか否かを判断し、OCV取得タイミングが到来したと判断した場合に、OCV取得処理を実行する(S110~S140)。本実施形態では、蓄電池12のOCV取得タイミングは、蓄電池12のOCVを取得可能な程度に蓄電池12の分極が解消して電池電圧が安定した状態になっているタイミングである。
【0035】
図5に示すように、制御部60のOCV取得部62(図1)は、再度、ラインスイッチ40がクローズ状態であるか否かを判断する(S110)。ラインスイッチ40がクローズ状態であることは、蓄電池12(組電池10)が負荷に電気的に接続されていることを意味し、ラインスイッチ40がオープン状態であることは、蓄電池12が、負荷(図示しない)に電気的に接続されていない無負荷状態であることを意味する。
【0036】
OCV取得部62は、ラインスイッチ40がクローズ状態であると判断すると(S110:YES)、蓄電池12に電流が流れていない停止状態が所定時間以上継続したか否かを判断する(S120)。制御部60は、常時、監視部28から入力される信号に基づき、蓄電池12に流れる電流の有無を判断し、その判断結果を経過時間に関連づけた履歴として残しており、OCV取得部62は、この履歴に基づき、蓄電池12の停止状態が所定時間以上継続したか否かを判断できる。なお、OCV取得部62は、蓄電池12に流れる電流が基準電流値(電流が概ねゼロとみなせる値)以下であれば、蓄電池12の電流状態は停止状態であると判断する。蓄電池12の電流の計測は、SOC推定処理中、継続的に実行される。
【0037】
OCV取得部62は、蓄電池12の停止状態が所定時間以上継続していないと判断した場合(S120:NO)、S110に戻る。一方、OCV取得部62は、蓄電池12の停止状態が所定時間以上継続したと判断した場合(S120:YES)、監視部28から入力される信号に基づき、該所定時間内における蓄電池12の電池電圧の変化率が所定の基準率(蓄電池12の電池電圧が概ね安定しているとみなせる値)未満であるか否かを判断する(S130)。なお、蓄電池12の電圧の計測は、SOC推定処理中、継続的に実行される。
【0038】
OCV取得部62は、所定時間内における蓄電池12の電池電圧の変化率が基準率以上であると判断した場合(S130:NO)、S110に戻る。一方、OCV取得部62は、所定時間内における蓄電池12の電池電圧の変化率が基準率未満であると判断した場合(S130:YES)、計測された蓄電池12の電池電圧を、蓄電池12のOCVとして履歴部74に記録し(S140)、補正処理に進む(S150)。
【0039】
A-2-3.補正処理:
図6は、補正処理を示すフローチャートである。補正処理は、積算SOC(t)の推定処理に用いる基準時のSOC(0)を更新するとともに、蓄電池12の積算SOC(t)およびFCCを補正する処理である。
【0040】
(補正用SOCの推定処理):
本実施形態では、まず、OCV取得処理で取得された蓄電池12のOCVに対応するSOC(以下、「補正用SOC」という)を推定する。具体的には、蓄電池12の停止状態に移行する直前の電流状態が、充電状態であるか、放電状態であるかを判断する(S210)。例えば、電流計24から出力される信号は、蓄電池12に流れる電流の有無および流れる向きに応じた信号(当該電流計24に備えられた検出抵抗(図示しない)の両端電圧の高低に応じた信号)であり、制御部60は、電流計24から出力される信号のレベルと、その信号のレベル反転とに基づき、蓄電池12の電流状態(充電状態、放電状態、停止状態)を判断する。制御部60は、蓄電池12の停止状態に移行する直前の電流状態が充電状態であると判断した場合、上記記録部72に記録された充電用SOC-OCVテーブルを参照して、OCV処理で取得したOCVに対応するSOCを補正用SOCとして推定する(S220)。また、制御部60は、蓄電池12の停止状態に移行する直前の電流状態が放電状態であると判断した場合、上記記録部72に記録された放電用SOC-OCVテーブルを参照して、OCV処理で取得したOCVに対応するSOCを補正用SOCとして推定する(S230)。
【0041】
(各SOCが属する領域判断処理):
蓄電池管理装置20の制御部60は、現時点(OCV取得時)の積算SOC(t)と、補正用SOCと、領域区分-OCVテーブルT2とに基づき、積算SOC(t)と補正用SOCとがそれぞれ、蓄電池12のSOC-OCV特性におけるどの領域(プラトー領域PR、変化領域CR)に属するかを判断する。次に説明するように、本実施形態では、積算SOC(t)と補正用SOCとがそれぞれ属する領域の組み合わせに応じて、補正処理の有無や補正内容の異なる処理が実行される。
【0042】
(積算SOC更新処理):
積算SOC更新処理は、積算SOC(t)を補正用SOCに更新(リセット)する処理である。積算SOC(t)と補正用SOCとがいずれも変化領域CR内にあると判断された場合(S240:YES、かつ、S250:YES)、蓄電池管理装置20のSOC更新部70(図1)は、積算SOC更新処理を行う(S270)。また、積算SOC(t)がプラトー領域PR内にあり、かつ、補正用SOCが変化領域CR内にあると判断した場合も(S240:NO、かつ、S260:YES)、SOC更新部70は、SOC(t)更新処理を行う(S270)。要するに、SOC更新部70は、補正用SOCが変化領域CR内にあること(以下、「第1の条件」という)が満たされた場合に、積算SOC更新処理を行う。補正用SOCが変化領域CR内にある場合、補正用SOCがプラトー領域PRにある場合に比べて、補正用SOCの推定処理(S220,S230)の推定精度が高い。このため、上記第1の条件を満たした場合に推定された補正用SOCを用いて積算SOC更新処理を行うことにより、SOCの推定精度を向上させることができる。
【0043】
(FCC補正処理):
FCC補正処理は、上記補正用SOCに基づき、積算SOC(t)の推定処理に用いられる蓄電池12のFCCを補正する処理である。本実施形態では、FCC補正処理は、次の補正条件が満たされた場合に実行される。補正条件には、必要条件として、上記第1の条件に加えて、次の条件が含まれる。
第2の条件:基準時のSOC(0)が属する変化領域CRと、補正用SOCが属する変化領域CRとが互いに異なること。制御部60は、上記領域判断処理の判断結果に基づき、第2の条件が満たされたか否かを判断することができる。
第3の条件:前回のFCC補正処理(S310)の実行時以降に、後述の仮基準SOC更新処理(S340)が実行されていないこと。仮基準SOC更新処理が実行されると、仮基準SOC更新処理の実行情報(仮補正用SOC等)が実行時刻に関連付けられて履歴情報として履歴部74に記録される。制御部60は、履歴部74に記憶された履歴情報に基づき、第3の条件が満たされたか否かを判断することができる。
第4の条件:履歴部74に記録された直近の所定回数(2回以上)分のFCC補正量(例えば図2の差ΔSOC1)の平均値(移動平均値)が閾値以上であること。FCC補正量は、各回の補正処理において、所定の条件(本実施形態では第1から第3の条件)が満たされた場合に、履歴部74に記録される。制御部60は、履歴部74に記憶された上記履歴情報に基づき、第4の条件が満たされたか否かを判断することができる。
【0044】
具体的には、上記第2の条件と第3の条件との両方が満たされたと判断された場合(S280:YES)、制御部60は、FCC補正量を算出して履歴部74に今回のOCV取得処理の実行時刻に対応づけて履歴情報として履歴部74に記録する(S290)。FCC補正量は、補正用SOCに基づく補正後のFCCと、補正前のFCCとの差である。補正後のFCCは、次の式(2)によって算出できる。
補正後のFCC=Q(t)/(補正用SOC-基準時のSOC(0))・・・(2)
そして、制御部60は、補正後のFCCと補正前のFCCとの差から、FCC補正量(=補正後のFCC-補正前のFCC)を算出する。なお、上記第2の条件と第3の条件との少なくとも一方が満たされないと判断された場合(S280:NO)、FCC補正量の算出および記録(S290)、FCC補正処理(S310)は実行されず、S320に進む。
【0045】
次に、第4の条件が満たされたと判断された場合(S300:YES)、補正部68は、上記FCC補正処理を実行する(S310)。具体的には、補正部68は、積算SOC(t)の推定処理に用いられる蓄電池12のFCCを、補正後のFCCに補正し、S320に進む。なお、第4の条件が満たされないと判断された場合(S300:NO)、FCC補正処理は実行されず、S320に進む。
【0046】
(基準SOC更新処理):
S320では、SOC更新部70は、基準SOC更新処理を実行する。基準SOC更新処理は、積算SOC(t)の推定処理で用いられる式(1)における基準時のSOC(0)を、補正用SOCに更新(リセット)する処理である。補正用SOCが変化領域CR内にある場合、補正用SOCがプラトー領域PRにある場合に比べて、補正用SOCの推定処理(S220,S230)の推定精度が高い。このため、上記第1の条件を満たした場合に基準SOC更新処理を行うことにより、これ以降における積算SOC(t)の推定処理の精度を向上させることができる。また、積算SOC(t)と補正用SOCとがいずれもプラトー領域PR内にあると判断された場合(S240:NO、かつ、S260:NO)、FCC補正処理および基準SOC更新処理は実行されない。
【0047】
なお、制御部60は、補正後のFCCに基づき、蓄電池12のSOH(State of Health、健全度)を推定し、インターフェース部76を介して外部に通知してもよい。制御部60は、予め記録部72に記録された新品の蓄電池12のFCCと、補正後のFCCとに基づき、蓄電池12のSOHを推定する。
【0048】
(仮補正処理):
仮補正処理は、補正用SOCがプラトー領域PR内にある場合に、積算SOC(t)を仮補正用SOCに更新(リセット)するとともに、積算SOC(t)の推定処理で用いられる式(1)における基準時のSOC(0)を、仮補正用SOCに更新(リセット)する処理である。本実施形態では、積算SOC(t)が変化領域CR内にあり、かつ、補正用SOCがプラトー領域PR内にあると判断された場合(S240:YES、かつ、S250:NO)、蓄電池管理装置20の仮補正部71(図1)は、仮積算SOC更新処理を実行する(S330)。仮積算SOC更新処理では、仮補正部71は、補正用SOCのあるプラトー領域PRのうち、積算SOC(t)に最も近いSOCを、仮補正用SOCとして決定し、積算SOC(t)を仮補正用SOCに更新する。このように、仮補正用SOCを用いて積算SOC更新処理を行うことにより、SOCの推定精度を向上させることができる。
【0049】
次に、仮補正部71は、仮基準SOC更新処理を実行する(S340)。仮基準SOC更新処理では、仮補正部71は、基準時のSOC(0)を仮補正用SOCに更新する。仮基準SOC更新処理を行うことにより、これ以降における積算SOC(t)の推定処理の精度を向上させることができる。
【0050】
A-3.実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の蓄電池管理装置20は、プラトー領域PRを含むSOC-OCV特性を有する複数の蓄電池12が直列に接続された組電池10を管理するための装置である。蓄電池管理装置20は、電流計24と、温度計26と、監視部28と、OCV取得部62、クーロンカウンティング処理部64と、SOC推定部66と、補正部68、SOC更新部70、仮補正部71と、制御部60とを備える。電圧計22および監視部28は、蓄電池12の電圧を計測する。電流計24および監視部28は、組電池10に流れる電流を計測する。クーロンカウンティング処理部64は、電流計24および監視部28が計測した電流と、上記定電流制御中の電流と、を積算することにより、蓄電池12の容量を算出する。
【0051】
SOC推定部66は、基準時のSOC(0)と、クーロンカウンティング処理部64が算出した基準時からの蓄電池12の容量の変化量Q(t)と、蓄電池12のFCCとに基づき、蓄電池12のSOCを推定する。OCV取得部62は、蓄電池12のOCVを取得する。補正部68は、OCV取得部62が取得した蓄電池12のOCVに対応するSOCである補正用SOCが変化領域CR内にあること(第1の条件 図6のS250:YESまたはS260:YES)を必要条件として含む補正条件が満たされた場合、前記補正用SOCに基づき、SOC推定部66による推定SOCとSOC推定部66で用いる蓄電池12のFCCを補正する(S310)。
【0052】
補正用SOCは、OCV取得部62が取得した蓄電池12のOCVに対応するSOCであり、かつ、変化領域CR内にあるSOCである。SOCが変化領域CR内にある場合、プラトー領域PR内にある場合に比べて、OCVに対応するSOCの取得精度が高い。そして、その相対的に高い精度で取得された補正用SOCは、積算誤差がない分だけ、電流積算法に基づき推定される積算SOC(t)に比べて、蓄電池12の状態誤差(蓄電池12の出荷時や製造段階での固体差や経年変化など)を顕著に反映する。このため、この補正用SOCを用いて、積算SOC(t)の推定処理に用いられるFCCを精度よく補正することができる。これにより、本実施形態によれば、FCCが補正されない構成に比べて、積算SOC(t)の推定処理を精度よく行うことができる。
【0053】
本実施形態では、蓄電池12の状態誤差に相関する、基準時のSOC(0)と補正用SOCとの差に基づきFCCが補正されるため(S310)、積算SOC(t)の推定処理を、より精度よく行うことができる。
【0054】
本実施形態では、補正用SOCが変化領域CR内にない場合でも、仮補正処理(S330,S340)が行われる。これにより、本実施形態によれば、仮補正処理を行わない構成に比べて、積算SOC(t)の推定処理を精度よく行うことができる。
【0055】
本実施形態では、直近の所定回数(2回以上)分のFCC補正処理におけるFCC補正量の平均値が閾値以上であること(第4の条件)が必要条件として(S300:YES)、FCC補正処理が実行される。これにより、本実施形態によれば、例えば電流計24のノイズや測定誤差等によりFCCの補正の精度が低下することを抑制することができる。
【0056】
本実施形態では、基準時のSOC(0)が属する変化領域CRと、補正用SOCが属する変化領域CRとが互いに異なること(第2の条件)が必要条件として(S280:YES)、FCC補正処理が実行される。これにより、本実施形態によれば、例えば基準時のSOC(0)と補正用SOCとが同じ変化領域CR内にあり、蓄電池12の電荷移動量が極めて少なく、FCCの補正を要しない場合でもFCCの補正が実行される負担を軽減することができる。
【0057】
本実施形態では、前回のFCC補正処理の実行時以降に、後述の仮補正処理が実行されていないこと(第3の条件)が必要条件として(S280:YES)、FCC補正処理が実行される。これにより、本実施形態によれば、例えば仮補正の実行による誤差が、FCCの補正の要否判断に悪影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0058】
例えば、図2に示す例では、積算SOC(t)と補正用SOCとのいずれも第3の変化領域CR3内にあるため(図6のS240:YES、かつ、S250:YES)、積算SOC更新処理(S270)および基準SOC更新処理(S320)が実行され、積算SOC(t)および基準時のSOC(0)が、補正用SOCに更新される。また、積算SOC(t)と補正用SOCとには、蓄電池12の状態誤差等の影響による差ΔSOC1が存在する。本実施形態では、基準時のSOC(0)と補正用SOCとが別の変化領域CR2,CR3にあるため(S280:YES)、FCC補正処理は実行される。なお、基準時のSOC(0)と補正用SOCとが同じ変化領域にある場合(S280:NO)でも、基準時のSOC(0)と補正用SOCとの差が下限値以上である場合には、FCC補正処理を実行するとしてもよい。
【0059】
図7は、蓄電池12のSOC-OCV特性を概略的に示す説明図である。図7に示す例では、積算SOC(t)は第3の変化領域CR3内にあるが、補正用SOCは、第3のプラトー領域PR3内にあるため(図6のS240:YES、かつ、S250:NO)、FCC補正処理は実行されず、代わりに、仮積算SOC更新処理(S330)および仮基準SOC更新処理(S340)が実行される。仮積算SOC更新処理および仮基準SOC更新処理では、第3のプラトー領域PR3のうち、積算SOC(t)に最も近いSOCの値S2が、仮補正用SOCとして決定され、この仮補正用SOCに基づき、積算SOC(t)と、積算SOC(t)の推定処理に用いられる蓄電池12の基準時のSOC(0)とが仮補正される。このため、仮基準SOC更新処理を行わない場合に比べて、積算SOC(t)の推定処理を精度よく行うことができる。但し、積算SOC(t)とSOCの値S2との差ΔSOC2は、蓄電池12の状態誤差を正確に反映したものとは限らないため、FCC補正処理に比べて、FCCの補正精度が低いおそれがある。このため、上述したように、第3の条件が満たされない場合(S280:NO)、FCC補正量の算出および記録(S290)、FCC補正処理(S310)が実行されないようになっている。
【0060】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0061】
上記実施形態における電池装置100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記各実施形態において、組電池10を構成する蓄電池12の個数は任意に変更可能である。また、上記実施形態において、温度計26が、各蓄電池12について設けられてもよい。なお、温度計26は省略されてもよい。
【0062】
上記実施形態では、蓄電池として、リン酸鉄系のリチウムイオン電池を例示したが、OCV率が所定値以下の第1の領域と、OCV変化率が所定値を超える第2の領域と、を含むSOC-OCV特性を有する蓄電池であれば、他の二次電池でも一次電池でもよい。また、所定値は、2mV/%に限らず、任意に設定することができる。また、第1の領域と第2の領域との数は任意に変更可能である。
【0063】
また、上記実施形態において、SOC-OCVテーブルT1や領域区分-OCVテーブルT2の内容は、あくまで一例であり、種々変形可能である。また、必ずしも記録部72にSOC-OCVテーブルT1および/または領域区分-OCVテーブルT2が記録されている必要はない。また、上記各実施形態において、制御部60が有する各機能部の少なくとも1つが省略されてもよい。
【0064】
上記実施形態におけるSOC推定処理の内容は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、SOC推定処理は、組電池10を構成する各蓄電池12を対象としてSOCを個別に推定するものとしたが、組電池10全体を対象としてSOCを推定するものでもよい。上記実施形態のOCV取得処理では、蓄電池12の電池電圧が安定した状態の電池電圧をOCVとして取得する方法が採用されたが(図5のS110~S130)、例えば蓄電池12の内部抵抗や電池電圧等の変化に基づきOCVを推定する方法など、公知の方法が採用されてもよい。
【0065】
上記実施形態におけるSOC推定処理において、基準SOC更新処理(S320)が実行されなくてもよい。そのような構成であっても、FCC補正処理が実行されることにより、積算SOC(t)の推定処理の精度を向上させることができる。FCC補正処理を実行するための補正条件は、上記第2の条件から第4の条件の少なくとも1つを含まないとしてもよい。また、補正条件は、例えば、上記所定回数に相当する期間において仮補正が実行されないことを必要条件としてさらに含んでもよい。これにより、例えば仮補正の実行による誤差が、FCCの補正の要否判断に悪影響を及ぼすことを抑制することができる。また、補正条件は、基準時のSOC(0)と補正用SOCとの差が下限値以上であることを必要条件としてさらに含んでもよい。これにより、例えば基準時のSOC(0)と補正用SOCとの差(蓄電池12における電荷移動量)が極めて少なく、FCCの補正を要しない場合でもFCCの補正が実行される負担を軽減することができる。さらに、補正条件は、温度計26が計測した温度が所定の温度範囲内であることを必要条件としてさらに含んでもよい。これにより、蓄電池12の温度が所定の温度範囲外であることに起因してFCCの補正精度が低下することを抑制することができる。
【0066】
上記実施形態のFCC補正処理(S310)では、基準時のSOC(0)と補正用SOCとの差に応じてFCCを補正する例として、電流積算法による積算SOC(t)を、OCV法による補正用SOCに置き換えてFCC算出式(2)に代入してFCCを補正する構成を挙げたが、例えば、電流積算法による積算SOC(t)(例えば30%)よりも、補正用SOC(例えば20%)に近いSOC(例えば27%)に置き換えてFCC算出式に代入してFCCを補正してもよい。また、FCC処理では、電流積算法による積算SOC(t)と補正用SOCとの差に応じてFCCを補正してもよい。
【0067】
上記実施形態の仮補正処理(S320)では、補正用SOCのあるプラトー領域PRのうち、積算SOC(t)に最も近いSOC(該プラトー領域PRと変化領域CRとの境界のSOC)が、仮補正用SOCとして決定されたが、積算SOC(t)側のSOCであれば、例えば該境界のSOCから若干外れたSOCが、仮補正用SOCとして決定されてもよい。
【0068】
上記実施形態では、FCC補正量の履歴が履歴部74に記録されたが(S290)、補正の履歴(例えばFCCの補正量に相関する情報の履歴)であればよく、例えばFCCの値の履歴が履歴部74に記録されてもよい。
【0069】
図8は、変形例における補正処理を示すフローチャートである。図8に示すように、本変形例では、上記第2の条件が満たされたと判断された場合(S360:YES)、図6に示すFCC補正量の算出および記録(S290)、第4の条件の判断処理(S300)は実行されず、FCC補正処理(S310)が実行される。また、仮積算SOC更新処理(S330)の実行後、仮補正部71は、FCC仮補正処理を実行する(S350)。FCC仮補正処理は、積算SOC(t)の推定処理に用いられる蓄電池12のFCCを仮補正する処理である。FCC仮補正処理では、積算SOC(t)の推定処理に用いられる蓄電池12のFCCが、仮補正後のFCCに補正される。FCC仮補正処理が終了すると、仮基準SOC更新処理を実行する(S340)。これにより、補正用SOCが変化領域CRにない場合でも、FCC仮補正処理によって、電流積算法に基づくSOC推定を精度よく行うことができる。
【符号の説明】
【0070】
10:組電池 12:蓄電池 20:蓄電池管理装置 22:電圧計 24:電流計 26:温度計 28:監視部 40:ラインスイッチ 42:プラス端子 44:マイナス端子 60:制御部 62:OCV取得部 64:クーロンカウンティング処理部 66:SOC推定部 68:補正部 70:SOC更新部 71:仮補正部 72:記録部 74:履歴部 76:インターフェース部 100:電池装置 CR:変化領域 PR:プラトー領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8