(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】管内走行車両
(51)【国際特許分類】
B61B 13/10 20060101AFI20241202BHJP
【FI】
B61B13/10
(21)【出願番号】P 2023567225
(86)(22)【出願日】2022-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2022043183
(87)【国際公開番号】W WO2024111053
(87)【国際公開日】2024-05-30
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】591151808
【氏名又は名称】株式会社KANSOテクノス
(73)【特許権者】
【識別番号】501054551
【氏名又は名称】株式会社NJS
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100196221
【氏名又は名称】上潟口 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】柴田 卓詞
(72)【発明者】
【氏名】加島 清
(72)【発明者】
【氏名】谷上 雅人
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】池田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】大友 良介
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-210427(JP,A)
【文献】特開平05-185964(JP,A)
【文献】特開平07-246930(JP,A)
【文献】特開平07-323701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61B 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管の内部を走行する管内走行車両であって、
本体ケーシングと、
前記本体ケーシングの幅方向に沿って延びる車軸と、
前記車軸の両端部に設けられる車輪と、
磁界を生成する磁石であって、該磁界により該磁石と前記管との間に引力を作用させる磁石と、を備え、
前記磁石は、
前記車軸の両端部に設けられた車輪の間に配置され、前記車
軸を中心として揺動可能であ
り、
前記磁石を保持し、前記車軸に吊り下げられる吊下部材をさらに備え、
前記本体ケーシングは、上方に向かって凹設された凹部がその下部に形成され、
前記吊下部材は、前記凹部に配置され、
前記車軸は、前記凹部において前記吊下部材が揺動可能となるように、前記凹部を挿通している、管内走行車両。
【請求項2】
前記凹部は、前記
車軸と直交する方向における端部が開放されている、請求項
1に記載の管内走行車両。
【請求項3】
前記本体ケーシングは、第1本体ケーシング及び第2本体ケーシングを含み、
前記第1本体ケーシング及び前記第2本体ケーシングは、平面視で前記
車軸と直交する方向に延びる第2軸に沿って並ぶように配置され、互いに対して該第2軸を中心として回転可能に構成され、
前記第1本体ケーシング及び前記第2本体ケーシングのそれぞれに形成された前記凹部に、前記吊下部材が揺動可能に配置されている、請求項
2に記載の管内走行車両。
【請求項4】
前記車輪は、収容空間を形成する第1車輪ケーシングと、該第1車輪ケーシングの収容空間を覆う第2車輪ケーシングと、を有し、
前記収容空間は、モータの回転出力を減速して前記車輪に伝達する歯車を収容している、請求項1から
3のいずれか一項に記載の管内走行車両。
【請求項5】
前記第2車輪ケーシングは、前記第1車輪ケーシングに対して回転するように構成され、
前記第1車輪ケーシング及び前記第2車輪ケーシングの少なくとも一方に、前記車輪の外部から前記収容空間への液体の侵入を抑制するブラシ体が配置されている、請求項
4に記載の管内走行車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管の内部を走行する管内走行車両に関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電等に用いられる水圧鉄管の内部を検査する方法として、検査員が水圧鉄管内をロープアクセスにて移動しながら目視する方法が知られている。このような高所での検査は、検査員に危険が及ぶおそれがある。このため、近年では、検査員に代わり、遠隔操作可能な装置を水圧鉄管内で移動させながら検査を行わせる方法が提案されている。
【0003】
特許文献1では、管の内部を走行する車両が提案されている。車輪が管の内壁面に当接して転動することにより、車両は内壁面上を走行することができる。
【0004】
特許文献1に記載された車両は、磁石を備えている。この磁石が車軸に接続され、車軸の両端の車輪に互いに異なる磁極が与えられることにより、車輪の周囲に磁界が生成される。鋼や鋳鉄のような磁性材料により管が形成されている場合、この磁界により車輪と管との間に引力が作用し、車輪が管の内壁面に押し付けられる。車両は、この車輪を転動させることにより、内壁面に対する推進力を得る。磁石の磁力を十分に大きくすれば、車両を管の内壁面に沿って上昇させ、内壁面の天面部まで到達させることも可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された車両では、管の内壁面の段差を跨ぐように走行する際に、磁力が車両の走行を阻害するおそれがあった。例えば、磁石と段差の手前側部分との間に引力が作用することにより、車両が段差の奥側に移動できなくなるおそれがあった。また、この課題を解決するために磁石の磁力を小さくすると、引力の大きさが不十分となり、管内において車両が走行できる範囲が限定されるという新たな課題が生じる。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、磁力を用いて管の内部を円滑に走行することが可能な管内走行車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために、管内走行車両は、本体ケーシングと、本体ケーシングの幅方向に沿って延びる車軸と、車軸の両端部に設けられる車輪と、磁界を生成する磁石であって、磁界により磁石と管との間に引力を作用させる磁石と、を備え、磁石は、車軸の両端部に設けられた車輪の間に配置され、車軸を中心として揺動可能であり、磁石を保持し、車軸に吊り下げられる吊下部材をさらに備え、本体ケーシングは、上方に向かって凹設された凹部がその下部に形成され、吊下部材は、凹部に配置され、車軸は、凹部において吊下部材が揺動可能となるように、凹部を挿通している。
【0012】
上記管内走行車両において、凹部は、車軸と直交する方向における端部が開放されていてもよい。
【0013】
上記管内走行車両において、本体ケーシングは、第1本体ケーシング及び第2本体ケーシングを含み、第1本体ケーシング及び第2本体ケーシングは、平面視で車軸と直交する方向に延びる第2軸に沿って並ぶように配置され、互いに対して第2軸を中心として回転可能に構成され、第1本体ケーシング及び第2本体ケーシングのそれぞれに形成された凹部に、吊下部材が揺動可能に配置されていてもよい。
【0014】
上記管内走行車両において、車輪は、収容空間を形成する第1車輪ケーシングと、第1車輪ケーシングの収容空間を覆う第2車輪ケーシングと、を有し、収容空間は、モータの回転出力を減速して車輪に伝達する歯車を収容していてもよい。
【0015】
上記管内走行車両において、第2車輪ケーシングは、第1車輪ケーシングに対して回転するように構成され、第1車輪ケーシング及び第2車輪ケーシングの少なくとも一方に、車輪の外部から収容空間への液体の侵入を抑制するブラシ体が配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、磁力を用いて管の内部を円滑に走行することが可能な管内走行車両を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図7】走行している管内走行車両を示す説明図である。
【
図8】走行している管内走行車両を示す説明図である。
【
図9】走行している管内走行車両を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<管内走行車両の構成>
図1~6を参照しながら、実施形態に係る管内走行車両1(以下「車両1」という。)の構成を説明する。車両1は、水圧鉄管内の検査に用いることを目的として設計されている。水圧鉄管は、「管」の一例である。
図1~6は、車両1の基本的な構成のみを示している。
図1は、車両1を示す斜視図である。
図2,3は、それぞれ、車両1を示す側面図、平面図である。
図4は、後部本体1rの一部を示す分解斜視図であり、
図5は、前部本体1fの一部を示す分解斜視図である。
図6は、車両1を示す背面図である。
【0019】
本明細書では、水平面上に載置された車両1の前方を向いた場合の左方、右方を、それぞれ「左」、「右」と称する。左右方向は、後述する前部本体ケーシング2f及び後部本体ケーシング2rの幅方向と一致する。また、鉛直方向上方を「上」と称し、鉛直方向下方を「下」と称する。
【0020】
図1~3に示すように、車両1は、前部本体1f及び後部本体1rを備えている。前部本体1fは、
図1に示すように、前部本体ケーシング2f、車軸3f及び車輪4fを備え、さらに、
図5に示すように、磁力ユニット5fを備えている。後部本体1rは、
図1に示すように、後部本体ケーシング2r、車軸3r、車輪4r及び磁力ユニット5rを備えている。車軸3f,3rは、「第1軸」の一例である。また、前部本体ケーシング2fは、「本体ケーシング」及び「第1本体ケーシング」の一例であり、後部本体ケーシング2rは、「本体ケーシング」及び「第2本体ケーシング」の一例である。
【0021】
前部本体ケーシング2f及び後部本体ケーシング2rは、ステンレス鋼により形成された箱形状の部材である。
図1及び
図3に示すように、前部本体ケーシング2f及び後部本体ケーシング2rは、上部が開放された収容空間21f,21rを形成している。前部本体ケーシング2f及び後部本体ケーシング2rの上端部には、左右方向に延びるフランジ22f,22rが形成されている。フランジ22f,22rの上面には、トレー(不図示)が載置される。当該トレーには、蓄電池、制御装置、無線通信装置、照明、カメラ、センサ等、車両1の走行や水圧鉄管の検査に必要な機器が搭載されている。
【0022】
また、
図4及び
図5に示すように、前部本体ケーシング2f及び後部本体ケーシング2rの下部には、凹部26f,26rが形成されている。凹部26f,26rは、上方に向かって凹設されている。凹部26fの端部261fと、凹部26rの端部261rは開放されている。
【0023】
図3に示すように、前部本体ケーシング2fの収容空間21fには、走行用モータ23f及びギアボックス24fが収容されている。また、後部本体ケーシング2rの収容空間21rには、走行用モータ23r、ギアボックス24r及びサーボモータ25が収容されている。走行用モータ23f,23rは、電力の供給を受けて走行用の回転トルクを発生させるアクチュエータである。走行用モータ23f,23rは、互いに同期するように構成されている。ギアボックス24f,24rは、複数の歯車(不図示)をその内部に収容している。走行用モータ23fの出力軸(不図示)はギアボックス24fに接続され、走行用モータ23rの出力軸(不図示)はギアボックス24rに接続されている。ギアボックス24fの出力軸(不図示)は、前部本体ケーシング2fの右側面を貫通し、ギアボックス24rの出力軸(不図示)は、後部本体ケーシング2rの右側面を貫通している。サーボモータ25は、電力の供給を受けて出力軸の回転変位を生じさせるアクチュエータである。
【0024】
車軸3f,3rは、ステンレス鋼により形成された、断面が円形の棒形状の部材である。
図4に示すように、後部本体ケーシング2rの下部には、左右方向に貫通する孔20rが形成されている。車軸3rは、リング31及びブッシュ32を介して孔20rを挿通し、凹部26rを横切るように配置されている。同様に、車軸3fも、前部本体ケーシング2fの下部に形成されている孔(不図示)を挿通し、前部本体ケーシング2fの凹部26fを横切るように配置されている。
【0025】
図1に示すように、車軸3fの両端部には一対の車輪4f,4fが設けられ、車軸3rの両端部には一対の車輪4r,4rが設けられている。車輪4f,4rは、車輪本体41f,41r及びリング42f,42rを有している。車輪本体41f,41rは、ステンレス鋼により形成されている。リング42f,42rは、弾性を有するゴム材料により形成され、車輪本体41f,41rの周側面に取り付けられている。
【0026】
図5に示すように、右前輪である車輪4Rfの車輪本体41fは、第1車輪ケーシング43及び第2車輪ケーシング44を有している。第1車輪ケーシング43は、円形の底板431と、底板431の周縁で立設する側板432とを有している。底板431及び側板432は、収容空間41aを形成している。また、側板432の周縁には、径方向に延びるフランジ433が設けられている。
【0027】
第1車輪ケーシング43の収容空間41aには、歯車45,46が収容されている。歯車45は、ギアボックス24fの出力軸の端部に接続されている。歯車46は、その周側面において歯車45と噛合している。歯車46のボス46aには車軸3fの右端部が挿通しており、歯車46は、このボス46aにおいて車軸3fに対して固定されている。すなわち、歯車45が回転し、これにより、歯車46が回転すると、それに伴って車軸3fも回転する。
【0028】
第1車輪ケーシング43のフランジ433のうち、収容空間41a寄りの部位には、ブラシ体47が取り付けられている。ブラシ体47は、車輪4Rfの外部から収容空間41aへの液体の侵入を抑制することを目的として設けられている。ブラシ体47は、樹脂材料(例えば、ポリエステル)により形成された毛の集合体であり、可撓性を有している。ブラシ体47は、収容空間41aを包囲するように環状に配置されるとともに、その先端を右方に向けるように配置されている。
【0029】
第2車輪ケーシング44は、円形の底板441と、底板441の周縁で立設する側板442とを有している。底板441及び側板442は、収容空間41bを形成している。前述したリング42fは、側板442の周側面に取り付けられている。底板441がねじ(不図示)により歯車46のボス46aに締結されると、底板441が第1車輪ケーシング43の収容空間41aを覆い、第2車輪ケーシング44の収容空間41bに第1車輪ケーシング43が収容される。
【0030】
このとき、第2車輪ケーシング44の底板441及び側板442は、第1車輪ケーシング43のフランジ433の端面及び周側面との間に隙間を形成するように配置される。第1車輪ケーシング43に設けられているブラシ体47は、車輪4Rfの外部から収容空間41aまで延びる隙間の途中に位置する。また、ブラシ体47の先端部は、第2車輪ケーシング44の底板441に当接する。歯車46が回転すると、ボス46aに締結されている第2車輪ケーシング44は、フランジ433との間に形成された隙間を維持しながら、車軸3fを中心として、車軸3fとともに回転する。
【0031】
前部本体ケーシング2fの左側面を貫通している車軸3fの左端部には、左前輪である車輪4Lfが固定されている。このため、車輪4Rfの第2車輪ケーシング44とともに車軸3fが回転すると、車輪4Lfも同方向に同一速度で回転する。
【0032】
右後輪である車輪4Rr(
図1参照)は、車輪4Rfと同様に構成されている。また、後部本体ケーシング2rの左側面を貫通している車軸3rの左端部には、左後輪である車輪4Lr(
図1参照)が固定されている。このため、車輪4Rrの第2車輪ケーシング44とともに車軸3rが回転すると、車輪4Lrも同一方向に同一速度で回転する。
【0033】
図5に示すように、磁力ユニット5fは、前部本体ケーシング2fの凹部26fに配置されている。また、
図1に示すように、磁力ユニット5rは、後部本体ケーシング2rの凹部26rに配置されている。
図4に示すように、磁力ユニット5rは、吊下部材51及び磁石52を有している。
【0034】
吊下部材51は、磁性材料で形成された板を折り曲げ加工することにより形成されており、吊下部511及び保持部512を有している。吊下部511の左右方向両端部は、上方に向くように折り曲げられ、当該両端部を左右方向に貫通する孔513が形成されている。保持部512は、直方体形状を有し、吊下部511の下部に取り付けられている。保持部512は、その内部に収容空間を形成している。
【0035】
磁石52は、周囲に磁場を生成する永久磁石である。磁石52は、吊下部材51の保持部512の収容空間に収容されることにより、保持部512に保持されている。
【0036】
吊下部材51の吊下部511の上端部は、後部本体ケーシング2rの凹部26rに配置される。吊下部材51は、凹部26rを横切るように配置されている車軸3rが、ブッシュ53を介して孔513を挿通することにより、車軸3rに吊り下げられる。吊り下げられた吊下部材51は、車軸3rを中心として、
図4に矢印A4で示す方向に揺動可能である。
【0037】
図5に示す磁力ユニット5fは、磁力ユニット5rと同様に、前部本体ケーシング2fの凹部26fに配置されている。磁力ユニット5fは、凹部26fを横切るように配置されている車軸3fに吊り下げられ、車軸3fを中心として揺動可能である。磁力ユニット5f,5rは、互いに独立して揺動することができる。
【0038】
図2及び
図3に示すように、前部本体1f及び後部本体1rは、前後方向に並ぶように配置され、連結ユニット11により連結されている。
図3に示すように、連結ユニット11は、上下方向に延びる第1連結軸111と、水平方向に延びる第2連結軸112と、を有している。連結ユニット11は、サーボモータ25の出力軸に連結されるととともに、前部本体1f及び後部本体1rを、第1連結軸111及び第2連結軸112を中心として回転可能に連結している。具体的には、
図3に示すように、連結ユニット11は、後部本体1rを、第1連結軸111を中心として前部本体1fに対して角度θ3の範囲で回転させることができる。さらに、
図6に示すように、連結ユニット11は、後部本体1rを、第2連結軸112を中心として前部本体1fに対して角度θ6の範囲で回転させることができる。第2連結軸112は「第2軸」の一例であり、平面視で車軸3f,3rと直交する方向に延びている。
【0039】
<管内走行車両を用いた水圧鉄管内の検査>
次に、車両1を用いた水圧鉄管内の検査について説明する。検査員がリモートコントローラ(不図示)を操作すると、リモートコントローラは、その操作に対応する操作信号を車両1に送信する。車両1では、無線通信装置がこの操作信号を受信し、制御装置が制御信号を走行用モータ23f,23rに送信する。つまり、蓄電池から走行用モータ23f,23rに電力が供給される。尚、検査員と車両1との間における通信は、無線通信装置の代わりに、有線通信装置を用いて行ってもよい。
【0040】
電力の供給を受けた走行用モータ23f,23rは、その出力軸を回転させる。当該出力軸の回転出力は、ギアボックス24f,24r(
図1参照)内の歯車、及び、車輪4Rf,4Rr内の歯車45,46(
図5参照)により減速されて、車輪4Rf,4Rrの第2車輪ケーシング44に伝達される。これにより、車輪4Rf,4Rrの第2車輪ケーシング44と車軸3f,3rが回転する。
【0041】
上述したように、車軸3f,3rが回転すると、車軸3f,3rの左端部に固定されている車輪4Lf,車輪4Lrも回転する。これにより、車両1の車輪4f,4rが全て回転する。車輪4f,4rは、水圧鉄管の内壁面に当接して転動することにより、内壁面に対する推進力を発生させ、車両1が走行することができる。
【0042】
磁力ユニット5f,5rの磁石52は、生成する磁界により、磁石52と水圧鉄管との間に引力を作用させる。この引力は、車軸3f,3rに吊り下げられている磁力ユニット5f,5rを内壁面に引くように作用する。この結果、車軸3f,3rの両端部に設けられている車輪4f,4rが、水圧鉄管の内壁面に押し付けられる。車輪4f,4rのリング42f,42rは、内壁面との間に大きな摩擦力を生じさせ、内壁面に対する推進力を確実に発生させることができる。
【0043】
また、磁石52が生成する磁界を十分強くすることにより、水圧鉄管の内壁面のうち車両1が走行可能な範囲を拡大することが可能になる。磁石52と水圧鉄管との間により大きな引力を作用させることにより、車両1は、内壁面の側面部を走行しながら上昇し、天面部まで到達することも可能である。
【0044】
車両1が水圧鉄管の内壁面の湾曲部分を走行する際、サーボモータ25がその出力軸を変位させることにより、連結ユニット11は、後部本体1rを、第1連結軸111や第2連結軸112を中心として、前部本体1fに対して回転させる。これにより、車両1が全体として屈曲したり捩れたりした構成となり、車輪4f,4rの全てを内壁面に当接させることが可能になる。この結果、内壁面に対する推進力を確実に発生させることができる。
【0045】
車両1の走行中、照明が発光して車両1の周囲の水圧鉄管を照らすとともに、カメラが水圧鉄管を撮影する。カメラが撮影した水圧鉄管の映像は、リアルタイムで信号に変換され、無線通信装置により検査員に向けて送信される。検査員は、当該信号に基づいてディスプレイに表示される映像を確認しながら、リモートコントローラを操作して車両1を走行させる。
【0046】
また、車両1は、水圧鉄管内の所定の位置でセンサを動作させ、水圧鉄管に関する情報を取得する。センサが取得した情報は、信号に変換され、無線通信装置により検査員に向けて送信される。検査員は、当該信号に基づいて水圧鉄管の検査を行うことができる。
【0047】
<磁力ユニットの作用>
次に、
図7~9を参照しながら、車両1が水圧鉄管内の段差STを跨ぐように走行する際の磁力ユニット5f,5rの作用について説明する。
図7~9は、走行している車両1を示す説明図である。説明の理解を容易にするため、磁力ユニット5f,5r及び凹部26f,26rが破線で示されている。また、車軸3f,3rを通る軸線Nf,Nrが示されている。軸線Nf,Nrは、車両1が水平面上に載置された際に鉛直方向と一致する直線である。
【0048】
図7は、水圧鉄管内の下段面S1上を段差STに向かって走行する車両1を示している。当該水圧鉄管は、磁性材料により形成されている。下段面S1は、略水平な面である。このとき、車軸3f,3rに吊り下げられている磁力ユニット5f,5rの磁石52と下段面S1との間に引力が作用する。このため、磁力ユニット5f,5rは、軸線Nf,Nrに沿うように配置される。また、磁石52を保持している磁力ユニット5f,5rの保持部512は、いずれも下段面S1と対向するように配置される。磁力ユニット5f,5rの磁石52が生成する磁界により、車輪4f,4rは下段面S1に押し付けられる。
【0049】
図8は、前方の車輪4fが段差STに乗り上げた車両1を示している。このとき、車両1が傾斜し、磁力ユニット5fの磁石52と段差STとの間に作用する引力が、磁石52と下段面S1との間に作用する引力よりも大きくなる。このため、磁力ユニット5fは、軸線Nfから前方に角度θ81だけ回転し、保持部512が段差STと対向するように配置される。磁力ユニット5fの磁石52が生成する磁界により、車輪4fは段差STに押し付けられる。
【0050】
また、磁力ユニット5rの磁石52と下段面S1との間に、引き続き引力が作用する。車輪4fが段差STに乗り上げて車両1が傾斜したことにより、磁力ユニット5rは、軸線Nrから後方に角度θ82だけ回転し、保持部512が引き続き下段面S1と対向するように配置される。
【0051】
図9は、前方の車輪4fが上段面S2に到達した車両1を示している。このとき、磁力ユニット5fの磁石52と上段面S2との間に引力が作用する。このため、磁力ユニット5fは、軸線Nfから後方に角度θ91だけ回転し、保持部512が上段面S2と対向するように配置される。磁力ユニット5fの磁石52が生成する磁界により、車輪4fは上段面S2に押し付けられる。
【0052】
また、磁力ユニット5rの磁石52と下段面S1との間に、引き続き引力が作用する。車両1がさらに傾斜したことにより、磁力ユニット5rは、軸線Nrから後方に角度θ92だけ回転し、保持部512が引き続き下段面S1と対向するように配置される。
【0053】
<作用効果>
次に、車両1に基づく作用効果について説明する。
【0054】
磁力ユニット5f,5rの磁石52は、車軸3f,3rに対して平行に延びる軸を中心として揺動可能である。この構成によれば、車両1が水圧鉄管内の段差STを跨ぐように走行する際、磁石52が主に引力を作用させる対象が、磁力ユニット5f,5rの揺動に伴って変化する。このため、引力により車両1の走行を阻害することなく、車輪4f,4rを水圧鉄管の内壁面に押し付け、内壁面に対する推進力を発生させて、水圧鉄管の内部を円滑に走行することが可能になる。
【0055】
また、磁石52は、車軸3f,3rを中心として揺動可能である。
【0056】
このように構成された車両1は、車軸3f,3rと磁石52が揺動する中心軸とを別に設けた場合と比べて、その構成をコンパクトにすることが可能になる。また、磁石52が軸線Nf,Nrに対してどのような角度を成している場合でも、磁石52と水圧鉄管の内壁面との距離を略一定とすることができる。この結果、磁石52と水圧鉄管との間に作用する引力を略一定とし、水圧鉄管の内部を円滑に走行することが可能になる。
【0057】
また、磁石52は、車軸3fの両端部に設けられている車輪4f,4fの間に設けられるとともに、車軸3rの両端部に設けられている車輪4r,4rの間に設けられる。
【0058】
この構成によれば、磁力ユニット5fの磁石52に基づく引力により、車輪4f,4fを均等に管の内壁面に押し付けることが容易になる。同様に、磁力ユニット5rの磁石52に基づく引力により、車輪4r,4rを均等に管の内壁面に押し付けることが容易になる。この結果、内壁面に対する推進力を確実に発生させることが可能になる。
【0059】
また、車両1は、磁石52を保持し、車軸3f,3rに吊り下げられる吊下部材51をさらに備える。前部本体ケーシング2f及び後部本体ケーシング2rは、上方に向かって凹設された凹部26f,26rがその下部に形成されている。吊下部材51は、凹部26f,26rに配置されている。車軸3f,3rは、凹部26f,26rにおいて吊下部材51が揺動可能となるように、凹部26f,26rを挿通している。
【0060】
この構成によれば、車両1の上下方向寸法の増大を抑制しつつ、車軸3f,3rを中心として磁石52を揺動させることが可能になる。
【0061】
また、凹部26f,26rは、車軸3f,3rと直交する方向における端部261f,261rが開放されている。
【0062】
この構成によれば、車両1が前後方向に走行することにより端部261f,261rに接近した水圧鉄管内の段差STに対して、磁石52に基づく引力を効率良く作用させることが可能になる。
【0063】
また、本体ケーシングは、第1本体ケーシングである前部本体ケーシング2f及び第2本体ケーシングである後部本体ケーシング2rを含んでいる。前部本体ケーシング2f及び後部本体ケーシング2rは、平面視で車軸3f,3rと直交する方向に延びる第2連結軸112に沿って並ぶように配置され、互いに対して第2連結軸112を中心として回転可能に構成されている。前部本体ケーシング2f及び後部本体ケーシング2rのそれぞれに形成された凹部26f,26rに、吊下部材51が揺動可能に配置されている。
【0064】
この構成によれば、車両1が水圧鉄管の内壁面の側面部を走行しながら上昇する際、第2連結軸112を中心として、前部本体1fに対して回転させることができる。これにより、車両1が内壁面の湾曲部分を走行する際にも、車輪4f,4rの全てを内壁面に当接させ、内壁面に対する推進力を確実に発生させることができる。また、前部本体ケーシング2f及び後部本体ケーシング2rのいずれが水圧鉄管内の段差STに接近した場合でも、磁石52に基づく引力を作用させることが可能になる。
【0065】
また、車輪4Rf,4Rrは、収容空間41aを形成する第1車輪ケーシング43と、第1車輪ケーシング43の収容空間41aを覆う第2車輪ケーシング44と、を有している。収容空間41aは、走行用モータ23f,23rの回転出力を減速して車輪4Rf,4Rrに伝達する歯車45,46を収容している。
【0066】
この構成によれば、走行用モータ23f,23rの回転出力を減速させる全ての歯車を前部本体ケーシング2fや後部本体ケーシング2rに収容した場合と比べて、前部本体ケーシング2fや後部本体ケーシング2rをコンパクトにすることが可能になる。この結果、前部本体ケーシング2fや後部本体ケーシング2rの底部が水圧鉄管の内壁面や異物と干渉することを抑制し、車両1を円滑に走行させることが可能になる。
【0067】
また、第2車輪ケーシング44は、第1車輪ケーシング43に対して回転するように構成されている。第1車輪ケーシング43に、車輪4fの外部から収容空間41aへの液体の侵入を抑制するブラシ体47が配置されている。
【0068】
車輪4fの外部から収容空間41aへの液体の侵入を抑制する方法として、第1車輪ケーシング43と第2車輪ケーシング44との間にシール用のパッキンを配置するものが考えられる。しかし、この場合、第2車輪ケーシング44の回転によりパッキンが短期間で摩耗し、シールが維持できなくなるおそれがある。
【0069】
上記構成では、第1車輪ケーシング43に配置したブラシ体47により液体の侵入を抑制するため、第2車輪ケーシング44が回転しても摩耗しにくい構成とすることができる。この結果、車輪4fの外部から収容空間41aへの液体の侵入を長期間にわたって抑制することが可能になる。
【0070】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく、適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、上水管内、水圧鉄管内、下水管内、排水管内、トンネル内、ダクト内、パイプシャフト内、ガス管内等において利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 管内走行車両(車両)
2f 前部本体ケーシング(本体ケーシング、第1本体ケーシング)
2r 後部本体ケーシング(本体ケーシング、第2本体ケーシング)
3f,3r 車軸(第1軸)
4f,4r 車輪
26f,26r 凹部
261f,261r 端部
41a 収容空間
43 第1車輪ケーシング
44 第2車輪ケーシング
45,46 歯車
47 ブラシ体
51 吊下部材
52 磁石
112 第2連結軸(第2軸)