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特許7596570エレベータの異常音診断システムおよび異常音診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】エレベータの異常音診断システムおよび異常音診断方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/02 20060101AFI20241202BHJP
   B66B 3/00 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
B66B5/02 S
B66B3/00 R
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024009779
(22)【出願日】2024-01-25
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(72)【発明者】
【氏名】閔 子
(72)【発明者】
【氏名】首藤 正志
(72)【発明者】
【氏名】田中 翔
(72)【発明者】
【氏名】司馬 寛之
(72)【発明者】
【氏名】高澤 理志
(72)【発明者】
【氏名】山本 顕生
【審査官】板澤 敏明
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-46925(JP,A)
【文献】特開2022-25828(JP,A)
【文献】国際公開第2020/245969(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/123633(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00-5/28
B66B 3/00-3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかごの上面に設けられ、前記乗りかごの昇降中に発生する音を測定する2つ以上の音センサと、
各々の前記音センサの測定により作成された音圧測定データに基づいて、異常音が発生しているか否かを判定する第1異常音判定部と、
前記第1異常音判定部により異常音が発生していると判定された場合、各々の前記音圧測定データの音圧ピーク値が発生した時刻の時刻差を測定時刻差として算出する第1時刻差算出部と、
前記測定時刻差に基づいて、前記乗りかごの上面における基準点に対する異常音の発生位置を測定発生位置として算出する位置算出部と、
前記測定発生位置と、前記音圧ピーク値が発生した前記乗りかごの昇降位置における機器配置データとに基づいて、異常音を発生させた異常音発生機器を特定する機器特定部と、
を備えた、エレベータの異常音診断システム。
【請求項2】
前記測定発生位置は、前記基準点に対する方向と前記基準点からの距離で定められる、
請求項1に記載のエレベータの異常音診断システム。
【請求項3】
前記位置算出部は、前記基準点に対してある発生位置で発生した音が各々の前記音センサに到達する時刻の時刻差である基準時刻差を用いて、前記測定発生位置を算出する、
請求項1または2に記載のエレベータの異常音診断システム。
【請求項4】
前記位置算出部は、前記基準時刻差と前記測定時刻差との差についての二乗和平方根を算出することにより、前記測定発生位置を算出する、
請求項3に記載のエレベータの異常音診断システム。
【請求項5】
前記位置算出部は、前記基準点に対する複数の円周上に仮想音源を配置した場合の基準時刻差を用いて、前記円周毎に前記二乗和平方根を算出する、 請求項4に記載のエレベータの異常音診断システム。
【請求項6】
前記乗りかごの昇降位置毎の機器配置データを記憶した機器配置データベースを更に備え、
前記機器特定部は、前記機器配置データベースに記憶された複数の前記機器配置データから、前記音圧ピーク値が発生した前記乗りかごの昇降位置における一の前記機器配置データを特定する、
請求項1または2に記載のエレベータの異常音診断システム。
【請求項7】
前記第1異常音判定部は、予め記憶されていた音圧基準データの音圧ピーク値と、前記音圧測定データの前記音圧ピーク値とを比較することにより、異常音が発生しているか否かを判定する、
請求項1または2に記載のエレベータの異常音診断システム。
【請求項8】
前記第1異常音判定部により異常音が発生していないと判定された場合、各々の前記音圧測定データから得られる測定スペクトログラムに基づいて、異常音が発生しているか否かを判定する第2異常音判定部と、
前記第2異常音判定部により異常音が発生していると判定された場合、各々の前記測定スペクトログラムの音圧ピーク値が発生した時刻の時刻差を前記測定時刻差として算出する第2時刻差算出部と、を更に備えた、
請求項1または2に記載のエレベータの異常音診断システム。
【請求項9】
前記第2異常音判定部は、予め記憶されていた基準スペクトログラムのピーク周波数と、前記測定スペクトログラムのピーク周波数とを比較することにより、異常音が発生しているか否かを判定する、
請求項8に記載のエレベータの異常音診断システム。
【請求項10】
前記機器特定部により特定された異常音発生機器を交換すべきか否かを判定する機器交換判定部を更に備えた、
請求項1または2に記載のエレベータの異常音診断システム。
【請求項11】
前記音センサの向きを変更可能なセンサ駆動部と、
前記センサ駆動部を制御するセンサ駆動制御部と、を更に備えた、
請求項1または2に記載のエレベータの異常音診断システム。
【請求項12】
乗りかごの上面に設けられた2つ以上の音センサにより、前記乗りかごの昇降中に発生する音を測定するステップと、
各々の前記音センサの測定により作成された音圧測定データに基づいて、異常音が発生しているか否かを判定するステップと、
異常音が発生していると判定された場合、各々の前記音圧測定データの音圧ピーク値が発生した時刻の時刻差を測定時刻差として算出するステップと、
前記測定時刻差に基づいて、前記乗りかごの上面における基準点に対する異常音の発生位置を測定発生位置として算出するステップと、
前記測定発生位置と、前記音圧ピーク値が発生した前記乗りかごの昇降位置における機器配置データとに基づいて、異常音を発生させた異常音発生機器を特定するステップと、
を備えた、エレベータの異常音診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施の形態は、エレベータの異常音診断システムおよび異常音診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータの異常音診断は、正常時の音圧データと診断時の音圧データとを比較することにより行われる。例えば、乗りかごの昇降中に撮像した画像と、測定した音圧データと、乗りかごの昇降位置とに基づいて、異常音が発生している昇降位置を特定する異常音診断システムが知られている。あるいは、例えば、複数の音センサの向きと、音圧差と、乗りかごの昇降位置と、学習データベースとに基づいて異常音が発生している昇降位置を特定する異常音診断システムも知られている。このような異常音診断システムは、処理が複雑になり高価なシステムになり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第7006864号公報
【文献】特開2022-025828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施の形態は、簡素で安価なエレベータの異常音診断システムおよび異常音診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施の形態によるエレベータの異常音診断システムは、乗りかごの上面に設けられ、乗りかごの昇降中に発生する音を測定する2つ以上の音センサと、各々の音センサの測定により作成された音圧測定データに基づいて、異常音が発生しているか否かを判定する第1異常音判定部と、第1異常音判定部により異常音が発生していると判定された場合、各々の音圧測定データの音圧ピーク値が発生した時刻の時刻差を測定時刻差として算出する第1時刻差算出部と、測定時刻差に基づいて、前記乗りかごの上面における基準点に対する異常音の発生位置を測定発生位置として算出する位置算出部と、測定発生位置と、音圧ピーク値が発生した乗りかごの昇降位置における機器配置データとに基づいて、異常音を発生させた異常音発生機器を特定する機器特定部と、を備えている。
【0006】
実施の形態によるエレベータの異常音診断方法は、乗りかごの上面に設けられた2つ以上の音センサにより、前記乗りかごの昇降中に発生する音を測定するステップと、各々の音センサの測定により作成された音圧測定データに基づいて、異常音が発生しているか否かを判定するステップと、異常音が発生していると判定された場合、各々の音圧測定データの音圧ピーク値が発生した時刻の時刻差を測定時刻差として算出するステップと、測定時刻差に基づいて、前記乗りかごの上面における基準点に対する異常音の発生位置を測定発生位置として算出するステップと、測定発生位置と、音圧ピーク値が発生した乗りかごの昇降位置における機器配置データとに基づいて、異常音を発生させた異常音発生機器を特定するステップと、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1の実施の形態によるエレベータ装置を示す概略図である。
図2図2は、図1の昇降路と乗りかごを上方から見たときの機器配置を示す概略図である。
図3図3は、第1の実施の形態によるエレベータの異常音診断システムを示すブロック図である。
図4図4(a)は、図3に示す第1異常音判定部による判定処理を説明するための模式図であり、図4(b)は、図2に示す音センサへの音源からの音の到達時間を説明するための模式図であり、図4(c)は、図3に示す第1時刻差算出部による測定時刻差の算出処理を説明するための模式図である。
図5図5(a)は、図3に示す第2異常音判定部による判定処理を説明するための模式図であり、図5(b)は、図3に示す第2時刻差算出部による測定時刻差の算出処理を説明するための模式図である。
図6図6は、図1の乗りかごを上方から見たときの機器配置を示す概略図であって、基準時刻差を説明するための図である。
図7図7(a)は、図3に示す位置算出部が用いる基準時刻差を説明するための表であり、図7(b)は、図3に示す位置算出部による発生位置の算出処理を説明するためのグラフである。
図8図8(a)は、昇降路の上部における機器配置の一例を示す模式平面図であり、図8(b)は、図8(a)に示された機器配置データの一例を示す図である。
図9図9(a)は、昇降路の中央部における機器配置の一例を示す模式平面図であり、図9(b)は、図9(a)に示された機器配置データの一例を示す図である。
図10図10(a)は、昇降路の下部における機器配置の一例を示す模式平面図であり、図10(b)は、図10(a)に示された機器配置データの一例を示す図である。
図11図11は、第1の実施の形態によるエレベータの異常音診断方法を示すフローチャートである。
図12図12は、第2の実施の形態によるエレベータの異常音診断システムを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本実施の形態によるエレベータの異常音診断システムおよび異常音診断方法について説明する。
【0009】
(第1の実施の形態)
まず、図1図11を用いて、第1の実施の形態によるエレベータの異常音診断システムおよび異常音診断方法について説明する。
【0010】
図1に示すように、本実施の形態によるエレベータの乗りかご1は、図示しない釣合錘と主ロープで連結されている。この主ロープは、図示しない巻上機に連結されたトラクションシーブに巻きかけられており、巻上機が主ロープを巻き上げることにより、乗りかご1と釣合錘が昇降する。乗りかご1の昇降は、昇降路2内に設けられた一対のガイドレール3A、3Bに案内される。乗りかご1の上部および下部には、ガイドレール3A、3Bに転動するガイドローラ4A、4Bが設けられている。図2に示すように、乗りかご1の上面には、主ロープが巻き掛けられたシーブ5A、5Bが設けられている。また、乗りかご1の上面には、第1かご機器6A、第2かご機器6Bおよび第3かご機器6Cが設けられている。
【0011】
本実施の形態によるエレベータ異常音診断システム10は、乗りかご1が昇降している間に異常音が発生しているか否かを診断するシステムである。以下、異常音診断システム10について説明する。
【0012】
図2および図3に示すように、異常音診断システム10は、2つ以上の音センサ11~14と、診断装置20と、音データベース15と、時刻差データベース16と、機器配置データベース17と、表示部18と、を備えている。音センサ11~14および診断装置20は、乗りかご1の上面に設置されていてもよい。音データベース15、時刻差データベース16および機器配置データベース17は、エレベータの制御装置内に設置されていてもよく、制御装置外に設置されていてもよい。あるいは、データベース15~17は、クラウドサーバーに設けられていてもよい。表示部18は、エレベータの監視室に設けられていてもよい。本実施の形態においては、図2に示すように、一例として、4つの音センサ11~14を備えた異常音診断システム10について説明する。4つの音センサ11~14は、第1音センサ11と、第2音センサ12と、第3音センサ13と、第4音センサ14である。
【0013】
音センサ11~14は、乗りかご1の上面に設けられている。音センサ11~14は、乗りかご1の昇降中に発生する音を測定する。音センサ11~14は、20Hz~20kHzまでの音を測定可能なマイクロホンであってもよい。音センサ11~14は、後述する音圧データ作成部22と、有線または無線で接続されていてもよい。音センサ11~14から音圧データ作成部22に音信号が送信される。音センサ11~14は、乗りかご1の上面に固定されていてもよい。音センサ11~14は、図2に示すように、上方から見たときに、乗りかご1の上面に位置する上梁(図示せず)の中央部に配置されていてもよいが、乗りかご1の上面の4隅にそれぞれ配置されていてもよい。音センサ11~14が指向性を有する場合、音センサ11~14の向きは任意であり、音センサ11~14の向きは固定されていてもよい。
【0014】
診断装置20は、本実施の形態による異常音診断の各種処理を行う。診断装置20は、通信部21と、音圧データ作成部22と、第1異常音判定部23と、第1時刻差算出部24と、スペクトログラム作成部25と、第2異常音判定部26と、第2時刻差算出部27と、位置算出部28と、機器特定部29と、かご位置取得部30と、機器交換判定部31と、情報記録部32と、を含んでいてもよい。
【0015】
通信部21は、上述した音データベース15、時刻差データベース16、機器配置データベース17および表示部18に通信可能に構成されている。通信部21は、インターネットを介して各データベース15~17および表示部18と通信可能であってもよい。
【0016】
音圧データ作成部22は、各々の音センサ11~14により測定された音から、音圧測定データを作成する。音圧測定データは、乗りかご1の昇降を開始してからの時刻と音圧との関係を示すデータである。図4(a)は、音圧測定データを模式的に示している。音圧データ作成部22は、音センサ11~14毎に音圧測定データを作成する。このため、本実施の形態では、1度の測定により、4つの音圧測定データが作成される。
【0017】
第1異常音判定部23は、各々の音圧測定データに基づいて、異常音が発生しているか否かを判定する。例えば、第1異常音判定部23は、予め記憶されていた音圧基準データの音圧ピーク値と音圧測定データの音圧ピーク値とを比較することにより、異常音が発生しているか否かを判定してもよい。各々の音圧測定データは、対応する音圧基準データと比較される。すなわち、音圧測定データおよび音圧基準データはそれぞれ、対応する音センサ11~14と関連付けられている。
【0018】
より具体的には、第1異常音判定部23は、上述した通信部21を介して、後述する音データベース15に記憶されている各々の音圧基準データを取得する。各々の音圧基準データと、対応する音圧測定データとが比較される。より具体的には、図4(a)に示すように、音圧測定データP1の音圧ピーク値から、対応する音圧基準データP0の音圧ピーク値を引いた音圧ピーク値差ΔPが、所定の第1の閾値以上である場合に、異常音が発生していると判定されてもよい。この音圧ピーク値差ΔPが、第1の閾値よりも小さい場合には、異常音が発生していないと判定されてもよい。音圧ピーク値は、音圧測定データにおける音圧の最高値である。図4(a)は、第1音センサ11から得られた音圧測定データP1を代表的に例示している。
【0019】
上述したように本実施の形態においては、4つの音圧測定データが作成される。第1異常音判定部23は、各々の音圧測定データが、対応する音圧基準データと比較される。少なくとも1つの音圧測定データについての音圧ピーク値差ΔPが上述した第1の閾値以上である場合に、第1異常音判定部23は、異常音が発生していると判定してもよい。
【0020】
第1時刻差算出部24は、第1異常音判定部23により異常音が発生していると判定された場合、各々の音圧測定データの音圧ピーク値が発生した時刻の時刻差を測定時刻差として算出する。測定時刻差は、後述する異常音発生機器から発生した異常音が、各々の音センサ11~14に到達するまでの時刻差である。図4(b)に示すように、異常音発生機器から発生した異常音は、各々の音センサ11~14に到達するまでの時間は異なり得る。そこで、本実施の形態による異常音診断システム10では、異常音が各々の音センサ11~14に到達するまでの時刻差を用いて、異常音の発生位置を特定する。
【0021】
例えば、第1時刻差算出部24は、第1音センサ11に対応する音圧測定データの音圧ピーク値が発生した時刻と、他の音センサ12~14に対応する音圧測定データの音圧ピーク値が発生した時刻との差を算出してもよい。本実施の形態においては、図4(c)に示すように、第1時刻差算出部24は、第2音センサ12に対応する音圧ピーク値が発生した時刻t2と第1音センサ11に対応する音圧ピーク値が発生した時刻t1との測定時刻差Δt21iを算出する。図4(c)は、第1音センサ11から得られた音圧測定データP1と第2音センサ12から得られた音圧測定データP2を代表的に例示している。同様にして、第1時刻差算出部24は、第3音センサ13に対応する音圧ピーク値が発生した時刻t3と時刻t1との測定時刻差Δt31iを算出する。また、第1時刻差算出部24は、第4音センサ14に対応する音圧ピーク値が発生した時刻t4と時刻t1との測定時刻差Δt41iを算出する。
【0022】
スペクトログラム作成部25は、上述した音圧データ作成部22により作成された各々の音圧測定データから測定スペクトログラムを作成する。測定スペクトログラムは、音圧測定データを高速フーリエ変換することにより作成されてもよい。測定スペクトログラムは、乗りかご1の昇降を開始してからの時刻と周波数と音圧との関係を示すデータである。図5(a)は、測定スペクトログラムから得られる周波数-音圧特性を模式的に示している。図5(a)には、後述する基準スペクトログラムから得られる周波数-音圧特性が重ねて示されている。スペクトログラム作成部25は、音圧測定データ毎に測定スペクトログラムを作成する。このため、本実施の形態では、1度の測定により、4つの測定スペクトログラムが作成されて、周波数-音圧特性がそれぞれ得られる。図5(a)は、第1音センサ11から得られた測定スペクトログラムから得られる周波数-音圧特性を代表的に例示している。
【0023】
スペクトログラム作成部25は、第1異常音判定部23により異常音が発生していないと判定された場合に、上述した測定スペクトログラムを作成してもよい。あるいは、スペクトログラム作成部25は、第1異常音判定部23により異常音が発生していない判定された場合だけでなく、第1異常音判定部23により異常音が発生したと判定された場合にも、測定スペクトログラムを作成してもよい。
【0024】
第2異常音判定部26は、第1異常音判定部23により異常音が発生していないと判定された場合、上述した測定スペクトログラムに基づいて、異常音が発生しているか否かを判定する。例えば、第2異常音判定部26は、予め記憶されていた基準スペクトログラムのピーク周波数と、測定スペクトログラムのピーク周波数とを比較することにより、異常音が発生しているか否かを判定してもよい。各々の測定スペクトログラムのピーク周波数は、対応する基準スペクトログラムのピーク周波数と比較される。各々の測定スペクトログラムは、対応する音センサ11~14と関連付けられている。
【0025】
第2異常音判定部26は、上述した通信部21を介して、後述する音データベース15に記憶されている各々の基準スペクトログラムを取得する。各々の基準スペクトログラムのピーク周波数と、対応する測定スペクトログラムのピーク周波数とが比較される。より具体的には、図5(a)に示すように、測定スペクトログラムのピーク周波数f1と、対応する基準スペクトログラムのピーク周波数f0とのピーク周波数差Δfの絶対値が、所定の第2の閾値以上である場合に、異常音が発生していると判定されてもよい。このピーク周波数差Δfの絶対値が、第2の閾値よりも小さい場合には、異常音が発生していないと判定されてもよい。ピーク周波数は、スペクトログラムにおいて音圧ピーク値が発生した際の周波数である。
【0026】
上述したように本実施の形態においては、4つの測定スペクトログラムが作成される。第2異常音判定部26により、各々の測定スペクトログラムのピーク周波数が、対応する基準スペクトログラムのピーク周波数と比較される。少なくとも1つの測定スペクトログラムについてのピーク周波数差Δfの絶対値が上述した第2の閾値以上である場合に、第2異常音判定部26は、異常音が発生していると判定してもよい。
【0027】
第2時刻差算出部27は、第2異常音判定部26により異常音が発生していると判定された場合、各々の測定スペクトログラムの音圧ピーク値が発生した時刻の時刻差を測定時刻差として算出する。第2時刻差算出部27により算出される測定時刻差は、上述した第1時刻差算出部24により算出される測定時刻差と同様にして、後述する位置算出部28で用いられる値である。
【0028】
例えば、第2時刻差算出部27は、第1時刻差算出部24と同様に、第1音センサ11に対応する測定スペクトログラムの音圧ピーク値が発生した時刻と、他の音センサ12~14に対応する測定スペクトログラムの音圧ピーク値が発生した時刻との差を算出してもよい。他の音センサ12~14に対応する測定スペクトログラムの音圧ピーク値は、第1音センサ11に対応する測定スペクトログラムから得られたピーク周波数f1についての音圧ピーク値であってもよい。本実施の形態においては、図5(b)に示すように、第2時刻差算出部27は、第2音センサ12に対応する音圧ピーク値(ピーク周波数f1についての音圧ピーク値)が発生した時刻t2と第1音センサ11に対応する音圧ピーク値(ピーク周波数f1についての音圧ピーク値)が発生した時刻t1との測定時刻差Δt21iを算出する。図5(b)は、第1音センサ11のピーク周波数f1の時間特性(ピーク周波数f1を成分とする音圧測定データP1)と第2音センサ12のピーク周波数f1の時間特性(ピーク周波数f1を成分とする音圧測定データP2)を代表的に例示している。同様にして、第2時刻差算出部27は、第3音センサ13に対応する音圧ピーク値(ピーク周波数f1についての音圧ピーク値)が発生した時刻t3と第1音センサ11に対応する音圧ピーク値(ピーク周波数f1についての音圧ピーク値)が発生した時刻t1との測定時刻差Δt31iを算出する。また、第2時刻差算出部27は、第4音センサ14に対応する音圧ピーク値(ピーク周波数f1についての音圧ピーク値)が発生した時刻t4と第1音センサ11に対応する音圧ピーク値(ピーク周波数f1についての音圧ピーク値)が発生した時刻t1との測定時刻差Δt41iを算出する。
【0029】
第2時刻差算出部27は、図5(b)に示すような、測定スペクトログラムのピーク周波数の時間特性を作成し、音圧ピーク値が発生した時刻を算出してもよい。しかしながら、第2時刻差算出部27は、上述した測定スペクトログラムから、音圧ピーク値が発生した時刻を算出してもよい。
【0030】
位置算出部28は、上述した測定時刻差に基づいて、乗りかご1の上面における基準点SPに対する音の発生位置を測定発生位置として算出する。位置算出部28が算出する測定発生位置は、上方から見たときの音の発生位置である。上述した第1異常音判定部23により異常音が発生していると判定された場合、位置算出部28は、第1時刻差算出部24により算出された測定時刻差を用いる。上述した第2異常音判定部26により異常音が発生していると判定された場合、位置算出部28は、第2時刻差算出部27により算出された測定時刻差を用いる。
【0031】
位置算出部28は、乗りかご1の上面に相当する高さ位置における2次元平面座標として測定発生位置を算出してもよい。例えば、位置算出部28が算出する測定発生位置は、上述した基準点SPに対する方向と、基準点SPからの距離で定められてもよい。例えば、図6に示すように、測定発生位置は、上方から見たときの、基準点SPを中心とした円座標系(または極座標系)における角度と半径で表されてもよい。角度は、後述するように基準点SPから右側に直線状に延びる基準線SLを基準として定められてもよい。この場合、基準線SLが角度0°に相当する。
【0032】
本実施の形態においては、図6に示すように、基準点SPから右側に直線状に延びる基準線SLから反時計回りに角度が進むように角度を設定する。基準点SPは、4つの音センサ11~14により画定される点であってもよい。基準点SPは、上方から見たときの4つの音センサ11~14の中心点であってもよい。しかしながら、基準点SPは、乗りかご1の上面における中心点に設定されてもよく、または乗りかご1の上面における任意の点に設定されていてもよい。例えば、4つの音センサ11~14は、基準点SPからずれた位置に配置されていてもよい。
【0033】
例えば、位置算出部28は、基準時刻差を用いて測定発生位置を算出してもよい。基準時刻差は、上述の基準点SPに対して所定の発生位置で発生した音が各々の音センサ11~14に到達する時刻の時刻差である。
【0034】
基準時刻差は、図6に示すように、所定の半径を有する円周CA、CB上に仮想音源を所定の角度で配置して、その仮想音源からの音が各々の音センサ11~14に到達するまでの時刻差として算出することができる。仮想音源は0°から所定の角度刻みで配置してもよい。図7(a)には、10°刻みで仮想音源を配置した場合の基準時刻差が示されている。基準時刻差は、10°よりも小さい角度刻みで設定されていてもよいが、10°よりも大きい角度刻みで設定されていてもよい。各々の基準時刻差には、角度と、仮想音源が配置された円周の半径が関連付けられている。各々の基準時刻差は、理論的に求められていてもよく、実験的に求められていてもよい。
【0035】
本実施の形態においては、位置算出部28は、複数の円周CA、CB上に仮想音源を配置した場合の基準時刻差を用いる。本実施の形態においては、位置算出部28は、円周CA上に仮想音源が配置された場合の基準時刻差ΔtA21j、ΔtA31j、ΔtA41jと、円周CB上に仮想音源が配置された場合の基準時刻差ΔtB21j、ΔtB31j、ΔtB41jとが用いられる。仮想音源が配置される円周の個数は2つであることに限られることはなく、3つ以上でもよく、任意である。
【0036】
図6に示すように、円周CAの半径RAと円周CBの半径RBは異なっている。図7(a)に示す基準時刻差ΔtA21j、ΔtA31j、ΔtA41jは、半径RAの円周CA上に仮想音源を配置した場合における基準時刻差である。基準時刻差ΔtB21j、ΔtB31j、ΔtB41jは、半径RBの円周CB上に仮想音源を配置した場合における基準時刻差である。基準時刻差ΔtA21j、ΔtA31j、ΔtA41jおよび基準時刻差ΔtB21j、ΔtB31j、ΔtB41jは、時刻差データベース16に記憶されている。時刻差データベース16に記憶されている基準時刻差を、位置算出部28が用いる。
【0037】
図7(a)には、基準時刻差の例が示されている。ΔtA21jは、円周CA上に仮想音源を配置した場合における第1音センサ11と第2音センサ12についての基準時刻差である。同様に、ΔtA31jは、第1音センサ11と第3音センサ13についての基準時刻差であり、ΔtA41jは、第1音センサ11と第4音センサ14についての基準時刻差である。ΔtB21jは、円周CB上に仮想音源を配置した場合における第1音センサ11と第2音センサ12についての基準時刻差である。同様に、ΔtB31jは、第1音センサ11と第3音センサ13についての基準時刻差であり、ΔtB41jは、第1音センサ11と第4音センサ14についての基準時刻差である。
【0038】
位置算出部28は、基準時刻差と測定時刻差との差についての二乗和平方根を算出する。位置算出部28は、円周CA、CB毎に二乗和平方根を算出してもよい。より具体的には、位置算出部28は、基準時刻差ΔtA21j、ΔtA31j、ΔtA41jと測定時刻差Δt21i、Δt31i、Δt41iとの差についての二乗和平方根(SRSS)を示すIAを、以下の式(1)を用いて算出してもよい。
【数1】
上記式(1)に、上述した第1時刻差算出部24または第2時刻差算出部27により算出された測定時刻差Δt21i、Δt31i、Δt41iを代入するとともに、ある角度での基準時刻差ΔtA21j、ΔtA31j、ΔtA41jを代入する。このことにより、その角度におけるIAが算出される。基準時刻差を角度毎に代入して式(1)の計算を実行することにより、図7(b)に示すように、角度毎に、円周CAに対応するIAが算出される。
【0039】
同様にして、位置算出部28は、基準時刻差ΔtB21j、ΔtB31j、ΔtB41jと測定時刻差Δt21i、Δt31i、Δt41iとの差についての二乗和平方根(SRSS)を示すIBを、以下の式(2)を用いて算出してもよい。
【数2】
上記式(2)に、上述した第1時刻差算出部24または第2時刻差算出部27により算出された測定時刻差Δt21i、Δt31i、Δt41iを代入するとともに、ある角度での基準時刻差ΔtB21j、ΔtB31j、ΔtB41jを代入する。このことにより、その角度におけるIBが算出される。基準時刻差を角度毎に代入して式(2)の計算を実行することにより、図7(b)に示すように、角度毎に、円周CBに対応するIBが算出される。
【0040】
式(1)により得られる角度毎のIAと、式(2)により得られる角度毎のIBのうちの最小値となる点が、測定発生位置である。このようにして算出された例が、図7(b)に示されている。図7(b)の横軸は角度であり、縦軸はIA、IBである。図7(b)からわかるように、IAが最小となる角度が存在するとともにIBが最小となる角度が存在する。IAおよびIBのうち最小となる角度および半径が測定発生位置であってもよい。図7(b)に示す例では、角度170°付近におけるIBが最小となっており、この角度と半径RBで定められる位置が測定発生位置である。後述する機器特定部29により、測定発生位置またはその近傍に、異常音発生機器が存在していると処理されてもよい。図7(b)に示す例では、角度220°付近においてIAが最小となっているが、IAの最小値は、IBの最小値より大きい。このため、角度220°付近における半径RAで定められる位置には、異常音発生機器が存在しないと処理されてもよい。しかしながら、この位置は、異常音発生機器の存在の可能性がある位置として、更なる診断処理が行われてもよい。
【0041】
機器特定部29は、上述の測定発生位置と、機器配置データとに基づいて、異常音を発生させた異常音発生機器を特定する。機器特定部29が用いる機器配置データは、上述した音圧測定データの音圧ピーク値または上述した測定スペクトログラムの音圧ピーク値が発生した乗りかご1の昇降位置(高さ)における機器配置データである。機器配置データは、後述する機器配置データベース17に記憶されていてもよい。機器配置データは、乗りかご1の昇降位置毎に機器配置データベース17に予め記憶されていてもよい。機器特定部29は、機器配置データベース17に記憶された複数の機器配置データから、音圧ピーク値が発生した乗りかご1の昇降位置における一の機器配置データを特定する。機器特定部29は、後述するかご位置取得部30が取得した乗りかご1の昇降位置データに基づいて、音圧ピーク値が発生した乗りかご1の昇降位置を特定する。
【0042】
乗りかご1の昇降運転を制御する制御装置(図示せず)は、乗りかご1の昇降位置と時刻との関係を示す昇降位置データを有している。この昇降位置データを用いると、音圧ピーク値が発生した時刻における乗りかご1の昇降位置が特定できる。この際、各々の音センサ11~14に対応して複数の音圧ピーク値が存在しているため、各々の音圧ピーク値における時刻の平均値を用いて乗りかご1の昇降位置を特定してもよく、最も大きい音圧ピーク値における時刻を用いて乗りかご1の昇降位置を特定してもよい。乗りかご1の昇降位置は、後述するかご位置取得部30により取得されてもよい。機器特定部29は、後述する機器配置データベース17に記憶されている複数の機器配置データのうち、音圧ピーク値が発生した時刻における乗りかご1の昇降位置に最も近い昇降位置における機器配置データを機器配置データベース17から取得する。
【0043】
機器配置データは、例えば、図8図10に示すようなデータ構造を有していてもよい。図8図10には、乗りかご1の3つの昇降位置における機器配置データの模式的な例を示している。例えば、図8(a)は、昇降路2の上部における機器配置の一例を示しており、図8(b)はその機器配置データの一例である。図8(a)に示されているように、昇降路2の上部の壁面2aに、第1壁面機器7Aおよび第2壁面機器7Bが設置されている。図9(a)は、昇降路2の中央部における機器配置の一例を示しており、図9(b)は、その機器配置データである。図9(a)に示されているように、昇降路2の中央部の壁面2aに、第3壁面機器7Cおよび第4壁面機器7Dが設置されている。図10(a)は、昇降路2の下部における機器配置を示しており、図10(b)はその機器配置データである。図10(a)に示されているように、昇降路2の下部の壁面2aに、第5壁面機器7E、第6壁面機器7Fおよび第7壁面機器7Gが設置されている。このようにして、各かご機器6A~6Cおよび各壁面機器7A~7Gには、基準点SPに対する角度と、半径が関連付けられている。
【0044】
機器特定部29は、乗りかご1の上面に設置されたかご機器6A~6Cおよび昇降路2の壁面2aに設置された壁面機器7A~7Gのうち、測定発生位置に最も近い位置に位置する機器を異常音発生機器として特定する。例えば、図7(b)に示すように、角度170°付近におけるIBが最小値となる場合であって、図10(a)に対応する乗りかご1の昇降位置において音圧ピーク値が発生している場合、第7壁面機器7Gが、異常音発生機器として特定されてもよい。
【0045】
上述したように、機器配置データには、乗りかご1の上面に設けられたかご機器6A~6Cと、昇降路2に設けられた壁面機器7A~7Eとが含まれている。かご機器6A~6Cは、乗りかご1の上面に存在する異常音発生機器となり得る機器であり、かご機器6A~6C以外にも、上述したガイドローラ4A、4Bおよびシーブ5A、5Bは、乗りかご1の上面に存在する異常音発生機器となり得る機器として、機器配置データに含まれていてもよい。壁面機器7A~7Eは、昇降路2の壁面2aに存在する異常音発生機器となり得る機器である。壁面機器7A~7Eとしては、乗りかご1の上面の昇降範囲に位置する壁面機器であって、異常音を発生する可能性がある機器が挙げられる。このような壁面機器としては、例えば、上述したガイドレール3A、3B、制御盤、各階に位置する乗場ドア(図示せず)等が挙げられるが、これらに限られることはない。本実施の形態による異常音診断システム10では、このような種々の機器から、異常音発生機器を特定することができる。
【0046】
かご位置取得部30は、乗りかご1の昇降運転を制御する制御装置から、乗りかご1の昇降位置データを取得する。取得した乗りかご1の昇降位置データは、上述した機器特定部29で用いられる。
【0047】
機器交換判定部31は、上述した機器特定部29により特定された異常音発生機器を交換すべきか否かを判定する。機器交換判定部31は、異常音発生機器から発生した異常音の音圧の大きさまたは異常音のピーク周波数のずれの大きさに基づいて、交換すべきか否かを判定してもよい。上述した第1異常音判定部23により異常音が発生していると判定された場合、機器交換判定部31は、上述した音圧ピーク値差ΔPが所定の第3の閾値以上である場合に、異常音発生機器を交換すべきと判定してもよい。第3の閾値は、上述した第1の閾値よりも大きくてもよい。あるいは、上述した第2異常音判定部26により異常音が発生していると判定された場合、機器交換判定部31は、上述したピーク周波数差Δfが所定の第4の閾値以上である場合に、異常音発生機器を交換すべきと判定してもよい。第4の閾値は、上述した第2の閾値よりも大きくてもよい。
【0048】
情報記録部32は、異常音が発生していると判定された場合であって、異常音発生機器が交換すべきでないと判定された場合、上述した機器特定部29により特定された異常音発生機器の情報と、上述した機器交換判定部31により判定された異常音発生機器の交換判定結果を記録してもよい。異常音発生機器の情報と交換判定結果は、診断装置20外の図示しないデータベースに記録されてもよく、診断装置20内の図示しないメモリなどに記録されてもよい。また、情報記録部32は、第1異常音判定部23および第2異常音判定部26により異常音が発生していないと判定された場合、上述した音圧データ作成部22により作成された各々の音圧測定データと、スペクトログラム作成部25により作成された各々の測定スペクトログラムを、上述した音データベース15に記録してもよい。
【0049】
音データベース15は、上述した複数の音圧基準データを記憶している。音圧基準データは、正常時における音圧データであってもよい。例えば、音圧基準データは、最下階から最上階に途中停車することなく乗りかご1が昇降するパターンでの音圧データであってもよい。音データベース15に記憶された複数の音圧基準データは、各々の音圧測定データに対応している。更に、音データベース15は、乗りかご1の任意の昇降パターンに対応するように複数の音圧基準データを記憶していてもよい。この場合、診断時の乗りかご1の昇降パターンに対応する昇降パターンの音圧基準データが、第1異常音判定部23で用いられてもよい。音データベース15に記憶された複数の音圧基準データは、複数の昇降パターンに対応するとともに、各々の音センサ11~14に対応していてもよい。
【0050】
更に、音データベース15は、前回の診断時までに異常音が発生していないと判定されて作成された各々の音圧測定データを音圧基準データとして記憶していてもよい。これらの音圧基準データが、第1異常音判定部23による音圧測定データとの比較で用いられてもよい。この場合、前回の診断時からの音圧データの変化、例えば、音圧が増加傾向にあるか否かなどを確認することができる。
【0051】
また、音データベース15は、上述した複数の基準スペクトログラムを記憶している。基準スペクトログラムは、正常時におけるスペクトログラムであってもよい。例えば、基準スペクトログラムは、最下階から最上階に途中停車することなく乗りかご1が昇降するパターンでのスペクトログラムであってもよい。音データベース15に記憶された複数の基準スペクトログラムは、各々の測定スペクトログラムに対応している。更に、音データベース15は、乗りかご1の任意の昇降パターンに対応するように複数の基準スペクトログラムを記憶していてもよい。この場合、診断時の乗りかご1の昇降パターンに対応する昇降パターンの基準スペクトログラムが、第2異常音判定部26で用いられてもよい。音データベース15に記憶された複数の基準スペクトログラムは、複数の昇降パターンに対応するとともに、各々の音センサ11~14に対応していてもよい。
【0052】
更に、音データベース15は、前回の診断時までに異常音が発生していないと判定されて作成された各々の測定スペクトログラムを基準スペクトログラムとして記憶していてもよい。これらの基準スペクトログラムが、第2異常音判定部26による測定スペクトログラムとの比較で用いられてもよい。この場合、前回の診断時からのスペクトログラムの変化、例えば、周波数が高まる傾向にあるか否かなどを確認することができる。
【0053】
時刻差データベース16は、上述した複数の基準時刻差ΔtA21j、ΔtA31j、ΔtA41jと、基準時刻差ΔtB21j、ΔtB31j、ΔtB41jを記憶している。
【0054】
機器配置データベース17は、上述した複数の機器配置データを記憶している。機器配置データベース17には、複数の昇降位置における機器配置データが記憶されていてもよい。機器配置データベース17に記憶されている機器配置データは、例えば図8(b)、図9(b)および図10(b)に示す機器配置データであってもよい。機器配置データベース17に記憶されている機器配置データの個数は3つに限られることはなく、昇降範囲に細分化して多数の機器配置データが機器配置データベース17に記憶されていてもよい。
【0055】
表示部18は、上述した機器特定部29により特定された異常音発生機器を表示してもよい。表示部18は、上述した通信部21を介して、機器特定部29から異常音発生機器の情報を取得してもよい。表示部18は、上述した機器交換判定部31による異常音発生機器の交換判定結果を表示してもよい。異常音発生機器を交換すべきという判定結果が表示された場合には、異常音発生機器の交換作業が行われてもよい。
【0056】
このような構成からなる本実施の形態の作用、すなわち、エレベータの異常音診断方法について図10を用いて説明する。
【0057】
まず、ステップS1として、乗りかご1を昇降させて、各々の音センサ11~14により音を測定する。乗りかご1の昇降パターンは、音データベース15に記録されている基準音圧データに対応する昇降パターンであればよい。例えば、乗りかご1は、最下階から途中停車することなく最上階に昇降させてもよい。
【0058】
ステップS1の後、ステップS2として、音圧データ作成部22は、各々の音センサ11~14により測定された音から、音圧測定データを作成する。本実施の形態においては、4つの音圧測定データが作成される。
【0059】
ステップS2の後、ステップS3として、第1異常音判定部23は、各々の音圧測定データに基づいて、異常音が発生しているか否かを判定する。より具体的には、第1異常音判定部23は、乗りかご1の昇降パターンに対応する音圧基準データを、音データベース15から取得する。そして、第1異常音判定部23は、互いに対応する音圧基準データの音圧ピーク値と音圧測定データの音圧ピーク値とを比較することにより、異常音が発生しているか否かを判定する(図4(a)参照)。本実施の形態においては、少なくとも1つの音圧測定データについての音圧ピーク値差ΔPが上述した第1の閾値以上である場合に、異常音が発生していると判定されてもよい。
【0060】
ステップS3において異常音が発生していると判定された場合、ステップS4として、第1時刻差算出部24は、各々の音圧測定データの音圧ピーク値が発生した時刻の時刻差を測定時刻差として算出する(図4(b)参照)。本実施の形態においては、上述した測定時刻差Δt21i、Δt31i、Δt41iが算出される。
【0061】
ステップS3において異常音が発生していないと判定された場合、ステップS5として、スペクトログラム作成部25は、上述した各々の音圧測定データから測定スペクトログラムを作成する。本実施の形態においては、4つの測定スペクトログラムが作成される。
【0062】
ステップS5の後、ステップS6として、第2異常音判定部26は、各々の測定スペクトログラムに基づいて、異常音が発生しているか否かを判定する。より具体的には、第2異常音判定部26は、乗りかご1の昇降パターンに対応する基準スペクトログラムを、音データベース15から取得する。そして、第2異常音判定部26は、基準スペクトログラムのピーク周波数と測定スペクトログラムのピーク周波数とを比較することにより、異常音が発生しているか否かを判定する(図5(a)参照)。本実施の形態においては、少なくとも1つの測定スペクトログラムについてのピーク周波数差Δfの絶対値が上述した第2の閾値以上である場合に、異常音が発生していると判定されてもよい。
【0063】
ステップS6において異常音が発生していると判定された場合、ステップS7として、第2時刻差算出部27は、各々の測定スペクトログラムの音圧ピーク値が発生した時刻の時刻差を測定時刻差として算出する(図5(b)参照)。本実施の形態においては、上述した測定時刻差Δt21i、Δt31i、Δt41iが算出される。
【0064】
ステップS6において異常音が発生していないと判定された場合、後述するステップS12に移行する。
【0065】
ステップS4またはステップS7の後、ステップS8として、位置算出部28は、測定時刻差に基づいて、各々の音センサ11~14から画定される基準点SPに対する音の発生位置を測定発生位置として算出する。ステップS3において異常音が発生していると判定された場合、位置算出部28は、ステップS4において算出された測定時刻差を用いる。ステップS6において異常音が発生していると判定された場合、位置算出部28は、ステップS7において算出された測定時刻差を用いる。位置算出部28は、上述した式(1)に測定時刻差Δt21i、Δt31i、Δt41iを代入するとともに、上述した基準時刻差ΔtA21j、ΔtA31j、ΔtA41jを角度毎に代入して、IAを角度毎に算出する。また、位置算出部28は、上述した式(2)に測定時刻差Δt21i、Δt31i、Δt41iを代入するとともに、上述した基準時刻差ΔtB21j、ΔtB31j、ΔtB41jを角度毎に代入して、IBを角度毎に算出する。IAおよびIBのうち値が最小となる位置として、測定発生位置が算出される。
【0066】
ステップS8の後、ステップS9として、機器特定部29は、測定発生位置と、機器配置データとに基づいて、異常音を発生させた異常音発生機器を特定する。より具体的には、上述したかご位置取得部30により、乗りかご1の昇降位置が取得される。続いて、音圧ピーク値が発生した時刻における乗りかご1の昇降位置が特定され、この昇降位置における機器配置データが、機器配置データベース17から取得される。その後、機器配置データベース17から、測定発生位置に最も近い位置に位置する機器が、異常音発生機器として特定される。
【0067】
ステップS9の後、ステップS10として、機器交換判定部31は、異常音発生機器を交換すべきか否かを判定する。ステップS3において異常音が発生していると判定された場合には、上述した音圧ピーク値差ΔPが上述した第3の閾値以上である場合に、異常音発生機器は交換すべきと判定されてもよい。ステップS6において異常音が発生していると判定された場合には、上述したピーク周波数差Δfが上述した第4の閾値以上である場合に、異常音発生機器は交換すべきと判定されてもよい。
【0068】
ステップS10において異常音発生機器が交換すべきと判定された場合、ステップS11において、表示部18は、異常音発生機器の情報と、異常音発生機器の交換判定結果を表示する。この表示を見たオペレータにより、異常音発生機器の交換作業が行われてもよい。ステップS11の後、本実施の形態による異常音診断方法は終了してもよい。
【0069】
ステップS10において異常音発生機器が交換すべきでないと判定された場合、ステップS12において、情報記録部32により情報が記録される。より具体的には、上述したステップS3またはステップS6において異常音が発生していると判定された場合、情報記録部32は、異常音発生機器の情報と、異常音発生機器の交換判定結果を図示しないデータベースなどに記録する。ステップS6において異常音が発生していないと判定された場合、情報記録部32は、上述した各々の音圧測定データと、各々の測定スペクトログラムを、音データベース15に記録する。ステップS12の後、本実施の形態による異常音診断方法は終了してもよい。
【0070】
このように本実施の形態によれば、各々の音センサ11~14の測定により作成された音圧測定データに基づいて異常音が発生していると判定された場合、各々の音圧測定データの音圧ピーク値が発生した時刻の時刻差を測定時刻差として算出する。この測定時刻差に基づいて、乗りかご1の上面における基準点SPに対する異常音の発生位置を測定発生位置として算出し、この測定発生位置と、音圧ピーク値が発生した乗りかご1の昇降位置における機器配置データとに基づいて、異常音を発生させた異常音発生機器が特定される。このことにより、簡素な構成で異常音発生機器を特定することができる。このため、簡素な構成で安価にエレベータの異常音を診断することができる。また、異常音が発生した位置を特定することができるため、異常音発生機器の候補を容易に絞り込むことができ、異常音発生機器の特定を容易化させることができるとともに、信頼性を向上させることができる。
【0071】
また、本実施の形態によれば、測定発生位置は、基準点に対する方向と基準点からの距離で定められる。このことにより、異常が発生した位置を、座標として特定することができる。このため、異常音発生機器の候補を容易に絞り込むことができ、異常音発生機器の特定を容易化させることができるとともに、信頼性を向上させることができる。
【0072】
また、本実施の形態によれば、位置算出部28は、基準点SPに対してある発生位置で発生した音が各々の音センサ11~14に到達する時刻の時刻差である基準時刻差を用いて、異常音の発生位置である測定発生位置が算出される。このことにより、測定発生位置を容易に算出することができ、位置算出部28の構成を簡素化させることができるとともに安価に構成することができる。とりわけ本実施の形態によれば、位置算出部28は、基準時刻差と測定時刻差との差についての二乗和平方根を算出することにより測定発生位置を算出する。このことにより、測定発生位置を容易に算出することができる。
【0073】
また、本実施の形態によれば、位置算出部は、基準点SPに対する複数の円周CA、CB上に仮想音源を配置した場合の基準時刻差を用いて、円周CA、CB毎に二乗和平方根を算出する。このことにより、位置算出部28は、異常音発生機器の位置として、基準点SPに対する半径位置を特定することができる。このため、測定発生位置を容易に算出することができる。
【0074】
また、本実施の形態によれば、乗りかご1の昇降位置毎の機器配置データが、機器配置データベース17に記憶されている。機器特定部29は、機器配置データベース17に記憶された複数の機器配置データから、音圧ピーク値が発生した乗りかご1の昇降位置における一の機器配置データを特定する。このことにより、異常音が発生したときの乗りかご1の昇降位置における機器配置データを用いて異常音発生機器を特定することができる。このため、機器特定部29の構成を簡素化させることができるとともに安価に構成することができる。
【0075】
また、本実施の形態によれば、第1異常音判定部23は、予め記憶されていた音圧基準データの音圧ピーク値と、音圧測定データの音圧ピーク値とを比較することにより、異常音が発生しているか否かを判定する。このことにより、音圧測定データの音圧ピーク値に基づいて異常音の発生の有無を判定することができる。このため、異常音の発生の有無を容易に判定することができ、第1異常音判定部23の構成を簡素化させることができるとともに安価に構成することができる。
【0076】
また、本実施の形態によれば、第1異常音判定部23により異常音が発生していないと判定された場合、第2異常音判定部26が、各々の音圧測定データから得られる測定スペクトログラムに基づいて、異常音が発生しているか否かが判定される。第2異常音判定部26が、異常音が発生していると判定した場合、各々の測定スペクトログラムの音圧ピーク値が発生した時刻の時刻差が、測定時刻差として算出される。このことにより、音圧測定データに基づいた判定により異常音が発生していないと判定された場合であっても、測定スペクトログラムに基づいた異常音が発生していると判定された場合には、測定時刻差を算出することができる。算出された測定時刻差に基づいて、上述した測定発生位置が算出されて、異常音発生機器を特定することができる。このため、第2異常音判定部26は、第1異常音判定部23とは異なる観点で異常音の発生の有無を判定することができ、異常音発生の有無の判定精度を向上させることができる。
【0077】
また、本実施の形態によれば、第2異常音判定部26は、予め記憶されていた基準スペクトログラムの音圧ピーク値に対応するピーク周波数と、測定スペクトログラムの音圧ピーク値に対応するピーク周波数とを比較することにより、異常音が発生しているか否かを判定する。このことにより、測定スペクトログラムの音圧ピーク値に基づいて異常音の発生の有無を判定することができる。このため、周波数のずれの有無の観点で異常音の発生の有無を判定することができる。
【0078】
また、本実施の形態によれば、機器交換判定部31は、機器特定部29により特定された異常音発生機器を交換すべきか否かを判定する。このことにより、オペレータは、異常音発生機器が交換すべきか否かを容易に認識することができる。このため、異常音発生機器が交換すべきと判定された場合には、異常音発生機器を迅速に交換することができ、エレベータ装置の安全性および信頼性を向上させることができる。
【0079】
なお、上述した本実施の形態においては、4つの音センサ11~14を用いて異常音診断を行う例について説明した。しかしながら、本実施の形態は、このことに限られることはない。2つ以上の任意の個数の音センサを用いて異常音診断を行ってもよい。この場合、上述した式(1)は、音センサの個数に応じた式に修正される。
【0080】
(第2の実施の形態)
次に、図12を用いて、第2の実施の形態によるエレベータの異常音診断システムおよび異常音診断方法について説明する。
【0081】
図12に示す第2の実施の形態においては、音センサの向きが変更可能になっている点が主に異なり、他の構成は、図1図11に示す第1の実施の形態と略同一である。なお、図12において、図1図11に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0082】
図12に示すように、本実施の形態による異常音診断システム10は、音センサ11~14の向きを変更可能なセンサ駆動部19と、センサ駆動部19を制御するセンサ駆動制御部33と、を更に備えていてもよい。本実施の形態による音センサ11~14はそれぞれ、指向性を有している。
【0083】
センサ駆動部19は、乗りかご1の上面に固定されている。乗りかご1の上面には、4つのセンサ駆動部19が固定されており、対応する音センサ11~14の向きを変更する。例えば、センサ駆動部19は、乗りかご1の上面に位置する上梁などに、磁力を用いて固定されていてもよい。音センサ11~14は、センサ駆動部19に固定されていてもよい。例えば、センサ駆動部19は、3軸旋回装置のように構成されていてもよい。この場合、音センサ11~14の向きを任意の方向に変更することができる。センサ駆動部19は、センサ駆動制御部33から発信された制御信号に従って駆動される。センサ駆動制御部33は、診断装置20内で構成されていてもよい。
【0084】
このように本実施の形態によれば、音センサ11~14の向きを、センサ駆動部19によって変更することができる。このことにより、音センサ11~14の向きを、異常音が発生していると予想される機器に向けることができる。このため、音の測定精度を向上させることができ、異常音診断の精度を向上させることができる。また、各々の音センサ11~14の向きを互いに異なる向きに向けることもできる。この場合、複数の方向からの音を精度良く測定することができ、異常音診断の精度を向上させることができる。
【0085】
以上述べた実施の形態によれば、簡素な構成で安価にエレベータの異常音を診断することができる。
【0086】
本発明のいくつかの実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0087】
1:乗りかご、10:異常音診断システム、11:第1音センサ、12:第2音センサ、13:第3音センサ、14:第4音センサ、19:センサ駆動部、20:診断装置、23:第1異常音判定部、24:第1時刻差算出部、26:第2異常音判定部、27:第2時刻差算出部、28:位置算出部、29:機器特定部、31:機器交換判定部、33:センサ駆動制御部、SP:基準点
【要約】
【課題】簡素で安価なエレベータの異常音診断システムを提供する。
【解決手段】実施の形態によるエレベータの異常音診断システムにおいては、各々の音センサの測定により作成された音圧測定データに基づいて異常音が発生していると判定された場合、各々の音圧測定データの音圧ピーク値が発生した時刻の時刻差を測定時刻差として算出する。この測定時刻差に基づいて、乗りかごの上面における基準点に対する異常音の発生位置を測定発生位置として算出し、この測定発生位置と、音圧ピーク値が発生した乗りかごの昇降位置における機器配置データとに基づいて、異常音を発生させた異常音発生機器が特定される。
【選択図】図3
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