(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】酸化物複合体
(51)【国際特許分類】
B22F 1/16 20220101AFI20241202BHJP
C01G 5/00 20060101ALI20241202BHJP
C09C 3/06 20060101ALI20241202BHJP
C09D 1/00 20060101ALI20241202BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20241202BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20241202BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20241202BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20241202BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
B22F1/16
C01G5/00 Z
C09C3/06
C09D1/00
C09D5/00 Z
C09D17/00
B22F1/052
B22F1/14 400
B22F9/00 B
(21)【出願番号】P 2024053056
(22)【出願日】2024-03-28
【審査請求日】2024-04-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 博輝
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩規
(72)【発明者】
【氏名】濱 久也
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105834448(CN,A)
【文献】特開平11-349423(JP,A)
【文献】特表2009-519374(JP,A)
【文献】国際公開第2019/078100(WO,A1)
【文献】特開2021-154233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
B82Y 5/00-99/00
C01G 5/00
C09C 1/00- 3/12
C09D 1/00-10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物複合体であって、
(A)銀微粒子の表面の一部が、(B)無機酸化物微粒子で被覆されており、
前記(A)銀微粒子は、
透過型電子顕微鏡(TEM)に依り測定した平均一次粒子径が1nm~1,000nmであり、
前記(B)無機酸化物微粒子は、
透過電子顕微鏡(TEM)観察に依り測定した平均一次粒子径が1nm~100nmであ
り、
前記(B)無機酸化物微粒子の平均一次粒子径に対する前記(A)銀微粒子の平均一次粒子径の比率((A)銀微粒子の平均一次粒子径/(B)無機酸化物微粒子の平均一次粒子径)は、1~1,000である、
酸化物複合体。
【請求項2】
前記(A)銀微粒子は、平均一次粒子径が1nm~200nmである、請求項1に記載の酸化物複合体。
【請求項3】
前記(A)銀微粒子は、表面の被覆率が1表面%以上である、請求項1に記載の酸化物複合体。
【請求項4】
前記(A)銀微粒子は、表面の被覆率が5表面%~95表面%である、請求項1に記載の酸化物複合体。
【請求項5】
前記(B)無機酸化物微粒子の平均一次粒子径に対する
前記(A)銀微粒子の平均一次粒子径の比率((A)銀微粒子の平均一次粒子径/(B)無機酸化物
微粒子の平均一次粒子径)は、1以上、200以下である、請求項1に記載の酸化物複合体。
【請求項6】
前記(B)無機酸化物微粒子の平均一次粒子径に対する
前記(A)銀微粒子の平均一次粒子径の比率((A)銀微粒子の平均一次粒子径/(B)無機酸化物微粒子の平均一次粒子径)は、
1~100である、請求項1に記載の酸化物複合体。
【請求項7】
前記(A)銀微粒子を被覆する前記(B)無機酸化物微粒子におけるランダム率は、50%以上である、請求項1に記載の酸化物複合体。
【請求項8】
前記(B)無機酸化物微粒子中の酸化チタン質量(TiO
2質量)に対する前記(A)銀微粒子中の銀質量(Ag質量)の質量比率
((A)銀微粒子中のAg質量/(B)無機酸化物微粒子中のTiO
2質量)は、
≦10である、請求項1に記載の酸化物複合体。
【請求項9】
酸化物複合体中、
前記(A)銀微粒子、及び前記(B)無機酸化物微粒子の固形分量の総和は、50質量%以下である、請求項1に記載の酸化物複合体。
【請求項10】
前記(B)無機酸化物微粒子は、(B1)チタニア微粒子である、請求項1に記載の酸化物複合体。
【請求項11】
前記(B1)チタニア微粒子は、
表面が有機酸で保護されており、
酸化チタンの重量に対して、有機酸の質量が1質量%以上である、
請求項10に記載の酸化物複合体。
【請求項12】
前記有機酸は、
炭素数1~4のモノカルボン酸、及び炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機酸、又は
炭素数1~4のモノカルボン酸、及び炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機酸由来のアシルオキシ基
である、請求項11に記載の酸化物複合体。
【請求項13】
前記有機酸は、酢酸、及び乳酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機酸である、請求項11に記載の酸化物複合体。
【請求項14】
前記(B1)チタニア微粒子は、正帯電している、請求項10に記載の酸化物複合体。
【請求項15】
請求項1~14
の何れか1項に記載の酸化物複合体と、
水とを含み、
水を0.5質量%以上含む、分散体。
【請求項16】
前記分散体のpHは、pH=1~8である、請求項15に記載の分散体。
【請求項17】
請求項1~14
の何れか1項に記載の酸化物複合
体を含む塗料。
【請求項18】
請求項17に記載の塗料に依り形成された塗膜。
【請求項19】
請求項
15に記載の分散体を含む塗料。
【請求項20】
請求項
19に記載の塗料に依り形成された塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、チタニアナノ粒子の表面に金属ナノ粒子が担持された金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子であって、前記チタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合しており、前記チタニアナノ粒子を示差熱熱重量同時測定装置に依って600℃迄昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上であり、且つ、チタニアナノ粒子中の酸化チタンに対して90質量%以下の担持量で金属ナノ粒子が表面に担持されている金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子、及びその金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子を含有する光触媒を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、銀の水に対する耐溶出性、基材に対する密着性、透明性を向上させた酸化物複合体を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、次の酸化物複合体を包含する。
【0006】
項1.
酸化物複合体であって、
(A)銀微粒子の表面の一部が、(B)無機酸化物微粒子で被覆されており、
前記(A)銀微粒子は、平均一次粒子径が1nm~1,000nmであり、
前記(B)無機酸化物微粒子は、平均一次粒子径が1nm~100nmである、
酸化物複合体。
【0007】
項2.
前記(A)銀微粒子は、平均一次粒子径が1nm~200nmである、前記項1に記載の酸化物複合体。
【0008】
項3.
前記(A)銀微粒子は、表面の被覆率が1表面%以上である、前記項1に記載の酸化物複合体。
【0009】
項4.
前記(A)銀微粒子は、表面の被覆率が5表面%~95表面%である、前記項1に記載の酸化物複合体。
【0010】
項5.
前記(B)無機酸化物微粒子の平均一次粒子径に対する(A)銀微粒子の平均一次粒径の比率
((A)銀微粒子の平均一次粒子径/(B)無機酸化物微粒子の平均一次粒子径)は、
0.5以上である、前記項1に記載の酸化物複合体。
【0011】
項6.
前記(B)無機酸化物微粒子の平均一次粒子径に対する(A)銀微粒子の平均一次粒径の比率
((A)銀微粒子の平均一次粒子径/(B)無機酸化物の平均一次粒径)は、
1以上、200以下である、前記項1に記載の酸化物複合体。
【0012】
項7.
前記(A)銀微粒子を被覆する前記(B)無機酸化物微粒子におけるランダム率は、50%以上である、前記項1に記載の酸化物複合体。
【0013】
項8.
前記(B)無機酸化物微粒子中の酸化チタン質量(TiO2質量)に対する前記(A)銀微粒子中の銀質量(Ag質量)の質量比率
((A)銀微粒子中のAg質量/(B)無機酸化物微粒子中のTiO2質量)は、
≦10(10以下)である、前記項1に記載の酸化物複合体。
【0014】
項9.
酸化物複合体中、
前記(A)銀微粒子、及び前記(B)無機酸化物微粒子の固形分量の総和は、50質量%以下である、前記項1に記載の酸化物複合体。
【0015】
項10.
前記(B)無機酸化物微粒子は、(B1)チタニア微粒子である、前記項1に記載の酸化物複合体。
【0016】
項11.
前記(B1)チタニア微粒子は、
表面が有機酸で保護されており、
酸化チタンの重量に対して、有機酸の質量が1質量%以上である、
前記項10に記載の酸化物複合体。
【0017】
項12.
前記有機酸は、
炭素数1~4のモノカルボン酸、及び炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機酸、又は
炭素数1~4のモノカルボン酸、及び炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機酸由来のアシルオキシ基
である、前記項11に記載の酸化物複合体。
【0018】
項13.
前記有機酸は、酢酸、及び乳酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機酸である、前記項11に記載の酸化物複合体。
【0019】
項14.
前記(B1)チタニア微粒子は、正帯電している、前記項10に記載の酸化物複合体。
【0020】
項15.
前記項1~14に記載の酸化物複合体と、
水とを含み、
水を0.5質量%以上含む、分散体。
【0021】
項16.
前記分散体のpHは、pH=1~8である、前記項15に記載の分散体。
【0022】
項17.
前記項1~14に記載の酸化物複合体、又は
前記項15~16に記載の分散体
を含む塗料。
【0023】
項18.
前記項17に記載の塗料に依り形成された塗膜。
【0024】
本発明は、銀微粒子の表面を無機酸化物微粒子(酸化チタン微粒子等)で、部分被覆した酸化物複合体である。本発明の酸化物複合体は、銀化合物の水に対する耐溶出性が向上しており、基材に対する密着性が向上している。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、銀化合物の水に対する耐溶出性、基材に対する密着性等を向上させた酸化物複合体を提供する事を可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0027】
本発明を表す実施の形態は、発明の趣旨がより良く理解出来る説明であり、特に指定のない限り、発明内容を限定するものではない。
【0028】
本明細書において、「含む」及び「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみから成る(consist essentially of)」、及び「のみから成る(consist of)」の何れも包含する概念である。
【0029】
本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、「A以上、B以下」を意味する。
【0030】
本明細書において、一般に、部、%等の表示を使用する。
【0031】
本明細書において、特に断りがない限り、質量部又は質量%(wt%)を表す。
【0032】
[1]酸化物複合体
従来技術(特許文献1)は、超音波等に依り、金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子の均一な分散液を作製する。従来技術は、銀が酸化チタン(担体)に担持された構造であり、銀ナノ粒子担持チタニアナノ粒子の二次粒子径は比較的大きく、液中での分散安定性や、銀ナノ粒子の水への溶出性について更なる検討が必要で有る。
【0033】
従来技術は、酸化チタンの周囲に銀が担持された構造であり、つまり、酸化チタンの周囲を銀が被覆する構造である。一般に、銀は容易にイオン化し水に溶出する事から、抗菌抗ウイルス性の持続性が低い。銀の水への耐溶出性を付与する方法として、銀を銀ナノ粒子の形態で担体に担持したり、銀をバインダ等に埋めて固定化したりする方法が取られる。従来技術は、しかしながら、抗菌抗ウイルス性、透明性、銀の水への耐溶出性等を共立させる事について、更なる検討が必要で有る。
【0034】
本発明は、銀微粒子(担体)の周囲に、無機酸化物微粒子(チタニア等)が担持された構造である。本発明は、銀微粒子(担体)の周囲を無機酸化物微粒子(チタニア等)が被覆する構造である。本発明の酸化物複合体は、高圧分散処理を行い、無機酸化物微粒子(チタニアナノ粒子等)担持銀微粒子)の二次粒子径を制御する事に依り、銀の周囲を酸化チタンで被覆し、液中で、均一に、安定して分散する分散液を作製する事を可能とする。
【0035】
本発明の酸化物複合体は、銀ナノ粒子を無機酸化物微粒子(酸化チタン等)のゾルで被覆する事に依り、銀の水への耐溶出性が向上し、酸化物複合体が含む銀の抗菌抗ウイルス性を維持し、併せて、酸化物複合体の基材に対する密着性、酸化物複合体の透明性等を共に維持する事を可能とする。
【0036】
本発明の酸化物複合体は、
(A)銀微粒子の表面の一部が、(B)無機酸化物微粒子で被覆されており、
前記(A)銀微粒子は、平均一次粒子径が1nm~1,000nmであり、
前記(B)無機酸化物微粒子は、平均一次粒子径が1nm~100nmである。
【0037】
(1-1)(A)銀微(ナノ)粒子
本発明の酸化物複合体は、銀微粒子(担体)の周囲に、無機酸化物微粒子(チタニア等)が担持された構造、或は、銀微粒子(担体)の周囲を無機酸化物微粒子(チタニア等)が被覆する構造である。酸化物複合体では、(A)銀微粒子の表面の一部が、(B)無機酸化物微粒子で被覆されており、(A)銀微粒子は、平均一次粒子径が1nm~1,000nmである。
【0038】
(A)銀微粒子の平均一次粒子径は、1nm~1,000nmであり、好ましくは、1nm~500nm、より好ましくは、1nm~200nmであり、更に好ましくは1nm~100nmである。銀ナノ構造体の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)に依り、測定する。
【0039】
サンプルの調整は、無機酸化物複合体を構成する銀、或は、無機酸化物の内、固形分量が多い方の化合物濃度を0.2質量%(wt%)に調整し、TEMグリッドに滴下し、室温以下の温度下で乾燥させる事で行う。この時、化合物濃度が0.2質量%に満たない場合は、濃度調整を行わずに、TEMグリッドに滴下し、室温以下の温度下で乾燥させる。
【0040】
担持される銀ナノ構造体の平均粒子径を、この範囲に調整する事に依り、分散安定性の高い分散液を得られ、可視光触媒活性をより向上させ、透明性をより向上させた膜を形成する事が出来る。
【0041】
銀ナノ構造体の形態は、特に制限されず、銀の安定性、明所、及び暗所(特に、暗所)における抗菌活性、及び抗ウイルス活性等の観点から、好ましくは、銀微(ナノ)粒子、銀微(ナノ)ロッド、銀微(ナノ)ワイヤ等を用いる。
【0042】
(A)銀微粒子の表面の被覆率
(A)銀微粒子は、好ましくは、表面の被覆率が1表面%以上であり、より好ましくは、表面の被覆率が5表面%~95表面%である。
【0043】
被覆率の定義
銀(Ag)微粒子(担体)の周囲に、無機酸化物微粒子(チタニア(Ti)等)が担持された構造を有する酸化物複合体を、電子顕微鏡(走査電子顕微鏡(SEM)、或は透過電子顕微鏡(TEM))で、画像を取り、元素分析(エネルギー分散型X線分析(EDS)、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、電子エネルギー損失分光(EELS)等)に依って、A粒子とTi粒子との存在位置を明らかにする。
【0044】
その後、任意のAg粒子を10粒子抽出し、Ag粒子の粒径順に並べた後、小さい方から5番目と6番目との粒子径のAgナノ粒子に着目し、画像解析ソフトウェアWinROOF(三谷商事株式会社)等の画像処理ソフトで、二値化処理を行う。
【0045】
(A)粒子径比α(Ag)/β(Ti)
銀(Ag)粒子の粒子径をα(nm)とし、チタニア(Ti)粒子の粒子径をβ(nm)とする。此れに依り、α/βを算出する。α/βは、好ましくは、1/2以上である。
【0046】
α(Ag粒子)/β(Ti粒子)は、1/2以上に調整する事(銀ナノ粒子が或る程度大きい事)に依り、酸化チタン粒子の粒径は、銀ナノ粒子に対して、良好に大きさを保持し(酸化チタン粒子の粒径が銀ナノ粒子の粒径に対して大き過ぎに成らず)、良好に酸化物複合体を含む分散体の透明性を保持する事が出来る。α(Ag)/β(Ti)は、より好ましくは、1~1,000に調整し、更に好ましくは、1~100に調整する。
【0047】
(B)Ag粒子の被覆率
この二値化処理の結果、Ag粒子の面積をA、Agナノ粒子と重なる無機酸化物粒子の面積をBとする。この結果に依り、B(無機酸化物粒子)/A(Ag粒子)×100(%)を被覆率と定義する。
【0048】
Ag粒子が、完全に、無機酸化物粒子に覆われている場合、被覆率は100%と成る。
【0049】
Ag粒子が、単独で存在する場合、被覆率は0%と成り、Ag粒子は無機酸化物粒子に覆われていない。
【0050】
酸化物複合体は、被覆率の値は、1表面%~99表面%であり、好ましくは、5表面%~95表面%であり、より好ましくは、10表面%~80表面%であり、更に好ましくは、15表面%~65表面%である。酸化物複合体は、被覆率の値を、前記範囲のチタニアの被覆率を調整する事に依り、酸化物複合体は、良好に、抗菌抗ウイルス活性を発揮し、酸化物複合体を含む分散体は、分散安定性が良好であり、酸化物複合体を含む塗膜は銀の水への溶出耐性および基材への密着性が向上する。
【0051】
酸化物複合体は、被覆率の値が、被覆率が99%を超えると、Ag粒子の露出率が低下し、抗ウイルス性能が低下する可能性が有る。酸化物複合体は、被覆率が1%未満であると、酸化物複合体中、或は分散対中でのAg粒子の安定性が低下する可能性が有る。本発明の酸化物複合体は、被覆率被覆率(B(無機酸化物粒子)/A(Ag粒子)×100(%))を、1表面%~99表面%に調整する事に依り、Ag粒子の表面を部分的に被覆する事が可能に成り、抗ウイルス性能は向上し、酸化物複合体を含む分散体の安定性は良好であり、酸化物複合体は銀の水への溶出耐性、及び基材への密着性が向上する。
【0052】
(C)無機酸化物粒子(Ti等)島のランダム率
Ag粒子のランダム率を以下の様に定義する。
【0053】
画像処理ソフト(WinROOF)での二値化処理の結果、Ag粒子の座標位置を下記の様に定義する。
AgXmax (Ag粒子のX座標の最大値)
AgXmin (Ag粒子のX座標の最小値)
AgYmax (Ag粒子のY座標の最大値)
AgYmin (Ag粒子のY座標の最小値)
【0054】
続いて、無機酸化物粒子について、WinROOFの形状特徴測定によって、N個の無機酸化物粒子が抽出される。夫々の無機酸化物粒子に対し、任意に、1,2,3と順に番号を割り振った際のn番目の無機酸化物粒子をOnと定義する。
【0055】
Onに対し、座標位置を下記の通り定義する。
Onx (n番目の無機酸化物粒子の重心のX座標)
Ony (n番目の無機酸化物粒子の重心のY座標)
【0056】
続いて、Ag粒子の領域を下記の通り分割する。
AgX1=AgXmin (1番目のX座標)
AgXm+1=AgXm+(AgXmax-AgXmin)/N (m+1番目のX座標)
AgY1=AgYmin (1番目のY座標)
AgYm+1=AgYm+(AgYmax-AgYmin)/N (m+1番目のY座標)
【0057】
上記で分割した各領域における無機酸化物粒子の個数、及びその最大値を下記の通り定義する。
AgXmとAgXm+1との座標内に含まれるOnxの数を、NOmxと定義する。
更に、NOmxの最大値をNOxmaxと定義する。
AgYmとAgYm+1との座標内に含まれるOnyの数を、NOmyと定義する。
更に、NOmxの最大値をNOymaxと定義する。
【0058】
X軸方向のランダム率(Ranx)、Y軸方向のランダム率(Rany)は、下記の通りである。
Ranx=(1-NOxmax/N)×100
Rany=(1-NOymax/N)×100
【0059】
此れに依り、ランダム率(Ranx,Rany)が測定される。夫々のランダム率Ranx,Ranyは、好ましくは、50%以上であり、より好ましくは、70%以上であり、更に好ましくは、90%以上である。本発明の酸化物複合体では、ランダム率が高い事は、即ち、Ag粒子に被覆されているTi粒子の個数が多く、且つ分散良く配置されている事を意味する。
【0060】
本発明の酸化物複合体は、ランダム率Ranx,Ranyを調整する事に依り、Ag粒子の分散性を高めつつ、Ag粒子を効率良く露出させる事が可能になり、Ag粒子の分散安定性と抗ウイルス活性が向上し、無機酸化物複合体からのAgの溶出を防ぐ事が可能となる。
【0061】
(1-2)(B)無機酸化物微粒子
本発明の酸化物複合体は、銀微粒子(担体)の周囲に、無機酸化物微粒子(チタニア等)が担持された構造、或は、銀微粒子(担体)の周囲を無機酸化物微粒子(チタニア等)が被覆する構造である。本発明の酸化物複合体では、(A)銀微粒子の表面の一部が、(B)無機酸化物微粒子で被覆されており、(B)無機酸化物微粒子は、平均一次粒子径が1nm~100nmである。
【0062】
(B)無機酸化物微粒子は、シリカ、アルミナ、セリア、参加カルシウム、酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛であり、好ましくは、(B1)チタニア微粒子である。
【0063】
(B1)チタニア微粒子は、好ましくは、表面が有機酸で保護されており、酸化チタンの重量に対して、有機酸の質量が1質量%以上である。
有機酸は、好ましくは、
【0064】
炭素数1~4のモノカルボン酸、及び炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機酸、又は
【0065】
炭素数1~4のモノカルボン酸、及び炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機酸由来のアシルオキシ基である。
【0066】
有機酸は、好ましくは、酢酸、及び乳酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機酸である。
【0067】
(B1)チタニア微粒子は、好ましくは、正帯電している。
【0068】
水、無機酸、遊離した有機酸等は、一般に、200℃以下で、殆ど揮発する。
【0069】
(B1)チタニア微粒子は、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)に依って、昇温させた場合に200℃以上での質量減少は、チタニア微粒子表面に存在する有機酸、或はアセトキシ基の重量を意味する。
【0070】
(B1)チタニア微粒子は、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)に依って、600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少は、5質量%以上であり、好ましくは、7質量%~20質量%である。質量減少量をこの範囲に調整する事で、乾燥、又は焼成時に、チタニアナノ粒子同士の凝集を抑制出来る為、クラック、剥がれ等が起こり難く、塗布性、及び透明性に特に優れる。(B)無機酸化物微粒子(好ましくは、(B1)チタニア微粒子)は、クラック、剥がれ等を抑制する事が出来、金属を強固に担持させ易い結果、可視光触媒活性にも優れる。示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)の詳細な条件は、雰囲気:空気、昇温速度:3℃/分である。
【0071】
(B1)チタニア微粒子を保護する有機酸は、好ましくは、炭素数1~4のモノカルボン酸、及び炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機酸、又は炭素数1~4のモノカルボン酸、及び炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機酸由来のアシルオキシ基(-OCOR)である。
【0072】
-OCORにおいて、Rのアルキル基は、好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基等である。-OCORは、好ましくは、モノカルボン酸は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等である。
【0073】
-OCORにおいて、Rのヒドロキシアルキル基は、好ましくは、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基等である。-OCORは、好ましくは、ヒドロキシカルボン酸は、グリコール酸、乳酸等が挙げられる。
【0074】
-OCORにおいて、揮発性、有害性、及び分解性の観点から、Rは、好ましくは、水素原子、又はメチル基、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基等である。
【0075】
-OCORにおいて、水溶性、及び臭気の観点から、Rは、好ましくは、メチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基等である。
【0076】
-OCORは、揮発性、有害性及び分解性の観点から、好ましくは、モノカルボン酸として、ギ酸、酢酸等である。
【0077】
-OCORは、揮発性、有害性及び分解性の観点から、好ましくは、ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、乳酸等である。
【0078】
-OCORは、水溶性及び臭気の観点から、特に好ましくは、酢酸、グリコール酸、乳酸等である。
【0079】
有機酸は、前記有機酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いて良く、これらの有機酸を1種単独で用いても良く、或は目的に応じて2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0080】
(B)無機酸化物微粒子の平均一次粒子径は好ましくは、1nm~100nmであり、より好ましくは、1nm~50nmであり、更に好ましくは、1nm~10nmであり、特に好ましくは、2nm~6nmである。(B)無機酸化物微粒子の平均一次粒子径(担持される側)は、(A)銀微粒子の平均一次粒子径(担体、担持する側)に比べると、小さい事が好ましい。(B)無機酸化物微粒子の平均粒子径を、前記範囲に調整する事に依り、(B)無機酸化物微粒子は、(A)銀微粒子(担体)の周囲に、適度に、且つより強固に担持する事が出来、(B)無機酸化物微粒子は、可視光触媒活性がより高く、且つ透明性のより高い膜を形成する事が出来る。
【0081】
(B)無機酸化物微粒子の平均二次粒子径は、1,000nm以下であり、より好ましくは5nm~500nm更に好ましくは、5nm~100nmである。
【0082】
酸化物複合体の平均二次粒子径の平均粒子径は、粒度分布計の観察に依り、測定する。
【0083】
(B)無機酸化物微粒子の平均粒子径は、透過電子顕微鏡(TEM)観察に依り、測定する。サンプルの調整は、銀ないし無機酸化物のうち固形分量が多い方の化合物濃度を0.2%に調整しTEMグリッドに滴下し、25℃以下で乾燥させる事で行う。この時、化合物濃度が0.2質量%(wt%)に満たない物は濃度調整を行わずにTEMグリッドに滴下し、25℃以下で乾燥させる。
【0084】
(B)無機酸化物微粒子の比表面積は、好ましくは、150m2/g~500m2/gであり、より好ましくは、200m2/g~400m2/gであり、更に好ましくは210~300m2/gである。(B)無機酸化物微粒子の比表面積を、前記範囲に調整する事に依り、(B)無機酸化物微粒子は、(A)銀微粒子(担体)の周囲に、適度に、且つより強固に担持する事が出来、(B)無機酸化物微粒子は、可視光触媒活性がより高く、且つ透明性のより高い膜を形成する事が出来る。
【0085】
(B)無機酸化物微粒子の比表面積は、BET法に依り、測定する。
【0086】
チタニアナノ粒子は、N、Cl、及びS元素の濃度を、何れも、好ましくは、0~5,000ppm、より好ましくは、0~1,000ppmとする事が出来る。チタニアナノ粒子のN、Cl、及びS元素の濃度を、この範囲に調整する事に依り、基材の腐食等を抑える事が出来る。チタニアナノ粒子のN、Cl、及びS元素の濃度は、TiCl4、TiOSO4等の酸性チタニア前駆体由来の不純物が存在しないか、又はごく少量である事を意味している。
【0087】
(B)無機酸化物微粒子(好ましくは、(B1)チタニア微粒子)のN、Cl、及びS元素の濃度は、WDX(蛍光X線)に依り、測定する。
【0088】
(B1)チタニア微粒子の結晶形は、好ましくは、アナターゼ型であり、(B1)チタニア微粒子は、好ましくは、アナターゼ型以外の結晶形を含まず、アナターゼ型100%である。(B1)チタニア微粒子は、アナターゼ型を採用する事に依り、可視光触媒活性が向上する。
【0089】
(1-3)酸化物複合体
酸化物複合体では、好ましくは、(B)無機酸化物微粒子の平均一次粒子径に対する(A)銀微粒子の平均一次粒径の比率((A)銀微粒子の平均一次粒子径/(B)無機酸化物微粒子の平均一次粒子径)は、0.5以上である。
【0090】
酸化物複合体では、好ましくは、(B)無機酸化物微粒子の平均一次粒子径に対する(A)銀微粒子の平均一次粒径の比率((A)銀微粒子の平均一次粒子径/(B)無機酸化物の平均一次粒径)は、1以上、200以下である。
【0091】
酸化物複合体では、好ましくは、(A)銀微粒子を被覆する(B)無機酸化物微粒子におけるランダム率(Ranx,Rany)の夫々が50%以上であり、より好ましくは70%以上であり、更に好ましくは、90%以上が好ましい。
【0092】
酸化物複合体では、好ましくは、(B)無機酸化物微粒子(好ましくは、(B1)チタニア微粒子)中の酸化チタン質量(TiO2質量)に対する(A)銀微粒子中の銀質量(Ag質量)の質量比率((A)銀微粒子中のAg質量/(B)無機酸化物微粒子中のTiO2質量)は、≦10(10以下)であり、より好ましくは0.0001~5であり、更に好ましくは、0.001~1である。(A)銀微粒子中のAg質量/(B)無機酸化物微粒子中のTiO2質量を、≦10(10以下)に調整する事に依り、抗微生物活性(抗菌活性、及び抗ウイルス活性)、酸化物複合体の安定性等を良好に保持する事が出来、塗膜の強度、及び透明性が維持する事が出来る。
【0093】
酸化物複合体中、好ましくは、(A)銀微粒子、及び(B)無機酸化物微粒子の固形分量の総和は、50質量%以下である。
【0094】
(1-4)分散体、塗料、及び塗膜
本発明は、本発明の酸化物複合体と、水とを含み、水を0.5質量%以上含む、分散体を包含する。
【0095】
分散体のpHは、好ましくは、pH=1~8であり、より好ましくは、pH=2~5である。分散体のpHをこの範囲とする事で、分散液の安定性が良好になり、透明性が良好になり、分散体を基材に塗布乾燥した際の塗膜割れを防ぐ事が出来る。
【0096】
本発明は、本発明の酸化物複合体、又は分散体を含む塗料、及び本発明の塗料に依り形成された塗膜を包含する。
【0097】
[2]酸化物複合体の製造方法
本発明の酸化物複合体は、銀微粒子(担体)の周囲に、無機酸化物微粒子(チタニア等)が担持された構造、或は、銀微粒子(担体)の周囲を無機酸化物微粒子(チタニア等)が被覆する構造である。
【0098】
本発明では、(A)銀微粒子(担体)の周囲に、(B)無機酸化物微粒子(好ましくは、(B1)チタニア微粒子、チタニアゾル)を担持させる方法は、好ましくは、(A)銀化合物と(B)無機酸化物微粒子とを混合後、光照射に依り、銀ナノ粒子を形成しながら、銀ナノ粒子表面を無機酸化物微粒子(好ましくは、(B1)チタニア微粒子、チタニアゾル)により被覆する方法を用いる。
【0099】
(A)銀微粒子(担体)の周囲に、(B)無機酸化物微粒子を担持させる方法は、好ましくは、(A)銀化合物と(B)無機酸化物微粒子とを混合後、還元剤により、銀ナノ粒子を形成しながら、銀ナノ粒子表面を無機酸化物微粒子(好ましくは、(B1)チタニア微粒子、チタニアゾル)により被覆する方法を用いる。(A)銀微粒子(担体)の周囲に、(B)無機酸化物微粒子を担持させる方法は、好ましくは、(A)銀微粒子(担体)と(B)無機酸化物微粒子とを接触させて、混合、又は静置して、担持する方法を用いる。
【0100】
無機酸化物微粒子の製造方法は、好ましくは、
(A工程)工程(B)無機酸化物微粒子を含む物質、有機酸、及び水を混合した分散液を、90℃より高い温度で、1時間以上加熱する工程を備える。
【0101】
(B工程)酸化物複合体の製造方法は、好ましくは、工程(A)の後、工程(A)で得られた(B)無機酸化物微粒子を含む分散液に対して、30MPa以上の加圧処理を行う(高圧分散法)。
【0102】
酸化物複合体の製造方法は、好ましくは、(B)工程の後、(C)工程(工程(C1)、(C2)、(C3)、或は(C4))を備える。
【0103】
(C1工程)は、工程(B)で得られた分散液と、銀微粒子の前駆体とを混合して得られた分散液に対して、化学的に還元処理を行う工程である。工程(C1)は、外部からエネルギーを加える事で、担持効率を向上させる事が出来る。
【0104】
(C2工程)は、工程(B)で得られた分散液と、(A)銀微粒子とを混合して得られた分散液に対して、紫外線を照射する工程である。工程(C2)は、外部からエネルギーを加える事で、担持効率を向上させる事が出来る。
【0105】
(C3工程)は、工程(B)で得られた分散液と、(A)銀微粒子とを混合する工程である。工程(C3)は、(B)無機酸化物微粒子の分散液の高粘度化を防げる事が出来、均一な粒子を得る事が出来る。
【0106】
(C4工程)工程(B)で得られた分散液に、(A)銀微粒子を添加して、静置する工程である。
【0107】
工程(C1)、(C2)、(C3)、及び(C4)は、何れも、25℃以下で行う事で、(A)銀微粒子の粒径制御性を、更に向上させる事が可能である。
【0108】
[2-1]工程(A)
工程(A)では、(B)無機酸化物微粒子を含む物質、有機酸、及び水を混合して分散液を得る。(B)無機酸化物微粒子は、好ましくは、(B1)チタニア微粒子である。
【0109】
(B1)チタニア微粒子の調整
使用するチタンを含む物質は、好ましくは、加熱に依り酸化チタンと成る物質である。チタンを含む物質は、好ましくは、酸化チタン、及び/又は酸化チタン前駆体でありより好ましくは、酸化チタン;水酸化チタン;チタンアルコキシド;三塩化チタン、四塩化チタン等のハロゲン化チタン(特に、塩基で中和したもの);金属チタン等を用いる。
【0110】
チタンを含む物質は、得られるチタニアの分散性、塗布性、及び可視光触媒性の観点から、好ましくは、チタンアルコキシド、水酸化チタン、ハロゲン化チタン(特に、塩基で中和したもの)である。チタンを含む物質は、純度、分散性、塗布性、透明性、及び可視光触媒性の観点から、より好ましくは、チタンアルコキシドである。
【0111】
チタンアルコキシドは、好ましくは、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn-ブトキシド、チタンテトラn-プロポキシド、チタンテトラエトキシド等である。チタンアルコキシドは、コスト、副生成物の水溶性、塗布性及び可視光触媒性の観点から、より好ましくは、チタンテトライソプロポキシドである。
【0112】
チタンを含む物質は、前記チタンを含む物質から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いて良く、これらのチタンを含む物質を1種単独で用いても良く、或は目的に応じて2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0113】
チタンアルコキシドと有機酸との組合せに因っては、得られるチタニアを触媒として水に溶け難いエステル化合物が遊離する事がある。チタニア自身に問題はない。例えば、チタンテトラn-ブトキシドと酢酸の組合せにおいて、混合し加熱した段階で酢酸ブチルが生じ遊離するが、均一な分散液を得る観点から、好ましくは、水溶性に優れる有機酸アルコキシドが得られる有機酸とチタンアルコキシドとの組合せを採用する。
【0114】
ハロゲン化チタン(四塩化チタン、三塩化チタン等)は、不純物(ハロゲン)、量産時の反応器の腐食、結晶性制御、塗布性、透明性及び可視光触媒性の観点から、好ましくは、塩基で中和し、沈殿物の洗浄を行ってから用いる。ハロゲン化チタンは、得られるチタニアの分散性の観点から、好ましくは、乾燥を行わずに用いる。
【0115】
チタンを含む物質として、酸化チタン、金属チタン等の固体を用いる場合、平均一次粒子径は、好ましくは、100nm以下であり、より好ましくは、50nm以下である。チタンを含む物質の平均粒子径の下限値は、特に設定されず、好ましくは、1nm程度である。
【0116】
粒径が大きい場合は、好ましくは、遊星ボールミル、ペイントシェーカー等を用いて乾式、又は湿式で、粉砕して用いる。
【0117】
酸化チタン、金属チタン等の固体の平均粒子径は、電子顕微鏡(TEM)観察に依り、測定する。
【0118】
工程(A)で生成する分散液中のチタンを含む物質の濃度は、生産性、反応液の粘度、塗布性、透明性及び可視光触媒性の観点から、好ましくは、0.01mol/L~5mol/Lであり、より好ましくは、0.05mol/L~3mol/Lである。
【0119】
反応に使用する酸は、有機酸であり、揮発性のある酸が好ましい事から、好ましくは、化学式CnH2n+1COOH(n=0~3)で示されるモノカルボン酸(炭素数1~4のモノカルボン酸)、炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸等を用いる。
【0120】
モノカルボン酸は、揮発性、有害性及び分解性の観点から、好ましくは、n=0のギ酸、及びn=1の酢酸である。
【0121】
ヒドロキシカルボン酸は、好ましくは、グリコール酸、乳酸等であり、水溶性、及び臭気の観点から、より好ましくは、酢酸、グリコール酸、乳酸等である。
【0122】
有機酸は、前記有機酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いて良く、これらの有機酸を1種単独で用いても良く、或は目的に応じて2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0123】
有機酸の使用量は、分散性、塗布性、透明性、可視光触媒性及びコストの観点から、チタンを含む物質中のチタン1モルに対して、好ましくは、有機酸のモル数が0.5モル以上、特に好ましくは、1モル以上と成る様に調整する。有機酸の使用量は、有機酸を多く用いる程経時安定性、塗布性、透明性等を向上させる事が出来る。有機酸の使用量の上限値は、特に制限されず、チタンを含む物質中のチタン1モルに対して、好ましくは、アシルオキシ基のモル数が10モル以下と成る様に調整する。
【0124】
工程(A)で得られる分散液中の有機酸の濃度は、分散性、塗布性、透明性、可視光触媒性及びコストの観点から、好ましくは、0.02mol/L~10mol/Lであり、より好ましくは、0.1mol/L~7mol/Lである。
【0125】
反応溶媒は、好ましくは、水等の水性溶媒を主成分(好ましくは、50質量%以上)として用いる。反応溶媒は、反応時にアルコール、又はエステルを含んでいても良い。
【0126】
反応溶媒は、チタンテトライソプロポキシドを原料として用いた場合、有機酸との反応に依り、イソプロピルアルコールが生じる。加熱に依り、有機酸のイソプロピルエステルが生じる事が有る。工程(A)に依り得られる分散液中には、アルコール、又はエステルを投入しても良いし、系中で発生していても良い。アルコール、又はエステルは、100℃以下の開放系における加熱に依り除去しても良いし、減圧に依り除去しても良いし、反応液中に残留していても良い。
【0127】
分散液中にアルコールが含まれる場合、得られるチタニアナノ粒子、及び金属担持チタニアナノ粒子の平均粒子径が小さくなる傾向に有り、平均粒子径を制御する為に、意図的にアルコールを添加しても良い。
【0128】
一般に、チタニアナノ粒子の水熱合成反応に用いる事が多い硝酸、塩酸、硫酸等の無機酸(特に、無機強酸)は、得られるチタニアナノ粒子の結晶形がアナターゼ型の他にブルッカイト型も混在するだけでなく、得られる分散液の貯蔵安定性、装置の腐食、不純物、排水等の観点から、原則用いない事が好ましい。
【0129】
無機酸は、原料の分散性、透明性、均一性等を高め、取扱いを容易にする場合、効果を損なわない範囲で、例えば、0.01mol/L以下の範囲で補助的に使用する事も出来る。工程(A)で得られる分散液中のN、Cl及びS元素の濃度は、何れも0.01mol/L以下と成る。
【0130】
工程(A)で得られる分散液のpHは、装置の腐食や取扱いの安全性、分散性等の観点から、好ましくは、2以上、6未満であり、より好ましくは、2.1~5である。
【0131】
工程(A)において、分散液の作製方法は、特に制限されず、チタンを含む物質、有機酸及び水(溶媒)を同時に混合しても良いし、逐次混合しても良い。量産スケールにおいては、凝集して大きな塊を形成し難く、攪拌を継続し易い観点から、好ましくは、有機酸、及び水(溶媒)を混合した後に、攪拌しながらチタンを含む物質を投入する。ラボスケールにおいては、好ましくは、チタンを含む物質、及び有機酸を混合した後に、攪拌しながら水を投入する。
【0132】
得られた分散液を、90℃より高い温度で、1時間以上加熱する。加熱は、好ましくは、常圧下に行い、或は、密閉容器内で加圧下に行う。チタニアナノ粒子、及び金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子の平均粒子径を小さくする観点から、好ましくは、常圧下に行う。好ましくは、0.09MPa~0.11MPaの条件で行う。加圧下に行う場合、可視光触媒活性が高く、且つ透明性の高い膜が形成し易い観点から、好ましくは、0.2MPa以下(0.11MPa~0.2MPa)において、短時間(5分~30分程度)の反応を行う。
【0133】
加熱の際には、チタンを含む物質と有機酸と水とを十分に反応させる観点から、好ましくは、撹拌する。攪拌の方法は、特に制限されず、常法に従う。攪拌時間は、チタンを含む物質と有機酸と水とを十分に反応させる観点から、好ましくは、1時間以上であり、より好ましくは、1.5時間以上である。攪拌時間の上限値は、特に制限されず、好ましくは、240時間である。
【0134】
加熱温度は、好ましくは、90℃より高い温度、より好ましくは、92℃以上である。加熱温度は、90℃以下では、酸化チタン微粒子の結晶成長が制御出来ず、加熱終了後、経時で分散安定性が低下したり、銀微粒子複合時に沈殿が生じたりする傾向が有る。加熱温度の上限値は、特に制限されず、好ましくは、常圧で反応する場合、120℃である。
【0135】
工程(A)で得られる分散液のpHは、装置の腐食や取扱いの安全性、分散性等の観点から、好ましくは、2以上、6未満であり、より好ましくは、2.1~5である。
【0136】
[2-2]工程(B)
<高圧分散法(加圧処理)>
工程(B)では、工程(A)で得られた(B)無機酸化物微粒子を含む分散液に対して、30MPa以上の加圧処理を行う(高圧分散法)。(B)無機酸化物微粒子は、好ましくは、(B1)チタニア微粒子である。
【0137】
高圧分散法を採用する場合、好ましくは、(B)無機酸化物微粒子を含む分散液に対して、30MPa以上の加圧処理を行う。
【0138】
加圧処理を施す事に依り、(B)無機酸化物微粒子の1次粒子及び/又は2次粒子の微粒化が起こり、(B)無機酸化物微粒子の分散安定性、透明性等が向上し、工程(C)における反応性、均一性等が向上し、(A)銀微粒子複合時に、(B)無機酸化物微粒子に、(A)銀微粒子表面をより被覆する事が可能となる。
【0139】
加圧処理を施す際の加圧レベルは、(B)無機酸化物微粒子の微粒化を十分に行う事が出来るものであれば、特に制限されない。加圧レベルは、好ましくは、30MPa以上に調整し、より好ましくは、50MPa~400MPaに調整し、更に好ましくは、100MPa~300MPaに調整する。加圧処理は、好ましくは、高圧分散装置、超臨界水作製装置等を用いて行う。高圧分散装置は、力学的な圧力を掛ける事に依り、(B)無機酸化物微粒子を分散する事が出来る。超臨界水作製装置は、水を加熱する事に依り系の圧力を上げる事が出来る。
【0140】
加圧に依り、例えば、
(i)2個以上の(B)無機酸化物微粒子の分散体同士を衝突させる事、
(ii)(B)無機酸化物微粒子の料分散体と金属又はセラミックス材料(炭化ケイ素、アルミナ等高硬度の材料)とを衝突させる事、
(iii)(B)無機酸化物微粒子の分散体を断面積1cm2以下の空間を通過させる事
等の処理を行う。
【0141】
加圧に依り、加圧条件をより強くする事が可能であり、(B)無機酸化物微粒子の微粒化をより効率良く行う事が出来、処理時間をより低減する事が出来る。
【0142】
加圧操作は、好ましくは、2回以上行い、より好ましくは、3回以上行う。
【0143】
加圧時の温度は、特に制限されない。加圧時の温度は、無機酸化物微粒子の分散を十分に行う事が出来、且つ溶媒が沸騰しない様に調整する。よって、加圧時の温度は、好ましくは、0℃~99℃であり、より好ましくは、10℃~90℃である。加圧時は、加圧、衝突する事に依り、温度が上昇する為、熱交換機等で冷却する事が好ましい。温度範囲をこの範囲とする事で、(B)無機酸化物微粒子の再凝集を防ぐ事が可能となる。
【0144】
加圧処理を行う際、好ましくは、予備処理(前処理)として、通常の機械的撹拌、乳化装置に依る分散処理、ビーズミルに依る分散処理等の他の分散装置による分散処理を併用しても良い。此れに依り、高圧分散装置等において、目詰まり防止等の効果を有し得る。
【0145】
この前処理の分散処理は強い方が好ましく、例えば乳化装置に依る分散処理に関しては回転数は5,000回転~10万回転が好ましく、10,000回転~5万回転がより好ましい。
【0146】
[2-3]工程(C1)
工程(C1)では、工程(B)で得られた(B)無機酸化物微粒子を含む分散液と、(A)銀塩とを混合して得た分散液に対して、化学的に還元処理を行う。
【0147】
銀塩
銀微粒子の前駆体として使用される銀塩は、工程(A)、及び(B)で得られる(B)無機酸化物微粒子(チタニアナノ粒子)を含む分散液(ゾル)が酸性である為、好ましくは、工程(C1)を経た分散液が塩基性と成る事を避ける。銀塩は、好ましくは、水溶液が酸性、又は中性の銀塩である。銀塩は、好ましくは、塩化銀(I)、硝酸銀(I)、有機酸銀(乳酸銀(I)、酢酸銀(I)、クエン酸銀(I)、ミリスチン酸銀(I)等)、硫化銀(I)、酸化銀(I)、リン酸銀(I)、炭酸銀(I)、臭化銀(I)、ヨウ化銀(I)等を用いる。
【0148】
銀微粒子の前駆体は、前記銀塩から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いて良く、これらの銀塩を1種単独で用いても良く、或は目的に応じて2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0149】
工程(C1)では、銀微粒子の使用量は、分散性、透明性、抗微生物活性(抗菌活性、及び抗ウイルス活性)、無機酸化物微粒子(チタニアナノ粒子等)の安定性等の観点から、(B)無機酸化物微粒子中の酸化チタン質量(TiO2質量)に対する(A)銀微粒子中の銀質量(Ag質量)の質量比率((A)銀微粒子中のAg質量/(B)無機酸化物微粒子中の酸化チタン質量(TiO2質量)は、好ましくは、≦10(10以下)であり、より好ましくは0.0001~5であり、更に好ましくは、0.001~1である。
【0150】
化学的な還元処理
工程(C1)では、化学的な還元処理は、特に限定されず、好ましくは、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤の使用する方法、ポリオール還元法、エタノール還元法等を用いる。還元剤を使用する場合、分散安定性、変色防止性の観点から、好ましくは、0℃以上20℃未満(室温)で行う。
【0151】
工程(C1)は、空気雰囲気下に行っても良いし、嫌気下で行っても良い。工程(C1)の嫌気下は、好ましくは、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下等の不活性ガス雰囲気下等である。
【0152】
工程(C1)では、化学的な還元処理の際には、工程(B)で得られた分散液と、銀微粒子を十分に反応させる観点から、好ましくは、撹拌する。攪拌の方法は、特に制限されず、常法に従う事が出来る。
【0153】
得られる分散液のpHは、添加する金属種や金属種の添加量に因って異なり、塗布性の観点から、好ましくは、1~5であり、より好ましくは、2~4である。
【0154】
この後、常法に依り、(A)銀微粒子(担体)の周囲に、(B)無機酸化物微粒子(好ましくは、(B1)チタニア微粒子、チタニアゾル)を被覆させた酸化物複合体を沈殿、及び遠心分離する事等により、酸化物複合体を回収する事が出来る。
【0155】
[2-4]工程(C2)
工程(C2)では、工程(B)で得られた(B)無機酸化物微粒子を含む分散液と、工程(C1)で記載された銀塩とを混合して得た分散液に対して、紫外線照射を行う。
【0156】
紫外線照射
工程(C2)では、(A)銀微粒子(担体)の周囲に、(B)無機酸化物微粒子(好ましくは、(B1)チタニア微粒子、チタニアゾル)を担持させ易さ、反応速度、反応の制御性生産性の観点から、280nm~500nmの波長を含む紫外線照射装置を用いる事が好ましい。波長範囲が280nmより短いと分散安定性が低下し、500nmより波長が長いと銀が還元されず銀ナノ粒子が生成されない。
【0157】
工程(C2)では、紫外光照射の際には、工程(B)で得られた(B)無機酸化物微粒子を含む分散液と、(A)銀微粒子とを十分に反応させる観点から、好ましくは、撹拌する。攪拌の方法は、特に制限されず、常法に従う事が出来る。
【0158】
工程(C2)は、空気雰囲気下に行っても良いし、嫌気下で行っても良い。工程(C2)の嫌気下は、好ましくは、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下等の不活性ガス雰囲気下等である。
【0159】
工程(C2)の反応時間は、好ましくは1.5時間以上、より好ましくは1.5時間~36時間の範囲とする。この時間範囲より短いと銀ナノ粒子の周りに無機酸化物微粒子がされずゲル化が発生し、この時間範囲より長いと銀ナノ粒子の粒径が増大し沈殿が発生する。
【0160】
得られる分散液のpHは、添加する金属種や金属種の添加量に因って異なり、塗布性の観点から、好ましくは、1~5あり、より好ましくは、2~4である。
【0161】
この後、常法に依り、(A)銀微粒子(担体)の周囲に、(B)無機酸化物微粒子(好ましくは、(B1)チタニア微粒子、チタニアゾル)を担持させた酸化物複合体を沈殿、及び遠心分離する事等により、酸化物複合体を回収する事が出来る。
【0162】
[2-5]工程(C3)、及び(C4)
工程(C3)として、工程(B)で得られた(B)無機酸化物微粒子を含む分散液分散液と、(A)銀微粒子を混合する工程を採用する事が出来る。
【0163】
工程(C4)として、工程(B)で得られた(B)無機酸化物微粒子を含む分散液分散液に、(A)銀微粒子を添加して静置する工程を採用する事が出来る。
【0164】
銀微粒子
使用する(A)銀微粒子、使用量等の条件は、工程(C1)と同様である。
混合、及び静置
【0165】
工程(C3)では、工程(B)で得られた分散液と、(A)銀微粒子を混合する方法は、特に制限されず、常法に従う。工程(C3)は、工程(B)で得られた分散液に、(A)銀微粒子を添加し、攪拌する。攪拌の方法は、特に制限されず、常法に従う。
【0166】
工程(C3)、及び(C4)は、空気雰囲気下に行っても良いし、嫌気下で行っても良い。工程(C3)、及び(C4)の嫌気下は、好ましくは、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下等の不活性ガス雰囲気下等である。
【0167】
得られる分散液のpHは、添加する金属種や金属種の添加量に因って異なり、塗布性の観点から、好ましくは、1~5であり、より好ましくは、2~4である。
【0168】
この後、常法に依り、(A)銀微粒子(担体)の周囲に、(B)無機酸化物微粒子(好ましくは、(B1)チタニア微粒子、チタニアゾル)を担持させた酸化物複合体を沈殿、及び遠心分離する事等により、酸化物複合体を回収する事が出来る。
【0169】
[3]酸化物複合体を含む分散液、塗料、及び塗膜
酸化物複合体を含む分散液
本発明の酸化物複合体を含む分散液(光触媒分散液、更に、可視光応答型光触媒分散液)は、工程(A)と、工程(B)と、工程(C1)、工程(C2)、工程(C3)、又は工程(C4)とを経た反応液を用いる。
【0170】
従来の可視光応答型光触媒の分散液は、分散剤を使用しなければ、均一な分散液を得る事が出来なかった。
【0171】
本発明の酸化物複合体を含む分散液は、分散剤を加えても良い。本発明の酸化物複合体を含む分散液は、分散剤を加えなくても、通常の可視光応答型光触媒に比べて、遥かに分散性の良い分散液と成る。
【0172】
本発明の酸化物複合体を含む分散液は、分散性が良い結果、コーティングの耐クラック性に優れる。本発明の酸化物複合体を含む分散液は、分散剤を加えなくても良い結果、緻密なチタニアのコーティングも可能に成り、塗布性、及び透明性にも優れる上に、可視光触媒活性にも優れる。
【0173】
酸化物複合体を含む分散液では、酸化物複合体を含む分散液の総量を100質量%として、主要な溶媒である水の含有量を、コーティングの容易さ、コーティングの膜性等の観点から、好ましくは、50質量%以上とし、より好ましくは、60質量%以上とする。
【0174】
酸化物複合体を、反応液から取り出し、溶媒を変更する事も可能である。遠心分離、ろ過膜等に依り、反応液から水分を除去し、有機溶媒に置換しても良い。酸化物複合体は、分散性、透明性等の観点から、乾燥させない事が好ましい。
【0175】
分散液に使用する有機溶媒は、好ましくは、アルコール等を用いる。アルコールは、好ましくは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の炭素数1~6の脂肪族アルコール、α-テルピネオール等の非脂肪族アルコール;ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ヘキシレングリコール(2-メチル-2,4-ペンタンジオール)、エチレングリコール-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール系溶媒;1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のジオール等である。
【0176】
分散液に使用する有機溶媒は、OH基を有さなくても、好ましくは、チタニア、及び他の溶媒(水、アルコール等)との親和性が有る有機溶媒を用いる。有機溶媒は、好ましくは、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、テトラエチレングリコールジアセテート等を用いる。有機溶媒は、沸点等の観点から、より好ましくは、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等を用いる。
【0177】
酸化物複合体を含む塗料
酸化物複合体を含む分散液は、用途に応じて、好ましくは、粘度を調整し、塗料とする。塗料の塗工に、スピンコート、ディップコート、スプレー等に用いる場合、好ましくは、低粘度に調整する。塗料の塗工に、刷毛塗り、スキージ法等に用いる場合、好ましくは、それより粘度を高く調整する。塗料の塗工に、スクリーン印刷に用いる場合、好ましくは、更に粘度を高く調整し、流動性を抑制する。
【0178】
酸化物複合体を含む塗膜
得られる酸化物複合体を含む塗膜は、緻密なコーティングを可能とする。
【0179】
塗膜を備える塗装製品は、特に制限されず、例えば、建材、建物外装、建物内装、窓枠、窓ガラス、各種レンズ、構造部材、住宅等建築設備、調理器具、繊維製品、家具、ディスプレイ、ディスプレイ保護フィルム、水回り部材、車両用照明灯のカバー及び窓ガラス、機械装置、又は物品の外装、防塵カバー及び塗装、表示機器、そのカバー、交通標識、各種表示装置、広告塔等の表示物、道路用及び鉄道用等の遮音壁、橋梁、ガードレールの外装及び塗装、トンネル内装及び塗装、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー等外部で用いられる電子、電気機器の外装部、特に透明部材、ビニールハウス、温室等の外装等である。
【実施例】
【0180】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。
【0181】
本発明は、以下の具体的な実施例に限定されない。
【0182】
[実施例1]
チタンテトライソプロポキシド142.1g(0.5mol)に、酢酸30g(0.5mol)を加え、60分撹拌し、次いで、水を538g加え、常圧(0.10MPa)で、95℃で3時間撹拌し、次いで、高圧分散処理(160Mpa)を行う事で酸化チタン微粒子を含む分散液を得た。
【0183】
この分散液が含む酸化チタン微粒子は、透過型電子顕微鏡像の観察から、一次粒子は平均3nmであり、粒度分布計から、二次粒子は30nmであった。
【0184】
この分散液15g(固形分5.2質量%)に、分散液中に含まれるチタニア微粒子(酸化チタン)に対して、金属重量ベースで、銀が25質量%と成る様に、硝酸銀(I)を添加し、よく攪拌し、次いで、紫外線ランプを、3時間照射する事で類白色の分散液を得た。得られた分散液は、3週間程度、放置しても、溶液の色に変化は無く、銀成分が安定して溶液中に存在している事が確認出来た。
【0185】
この分散液を、透過型電子顕微鏡で評価した処、銀微粒子を被覆する酸化チタン微粒子において、銀微粒子の一次粒径は70nmであり、酸化チタン微粒子の一次粒径は4nmであり、被覆率は、20表面%であり、ランダム率は98%であった。この事から、分散液は、銀ナノ粒子の表面の一部が酸化チタンナノ粒子で、ランダムに被覆されている酸化物複合体を含む事が判る。
【0186】
【0187】
厚さ0.7mm、50mm角のガラスに、固形分が60mg/m2と成る様に、この分散液を塗布した後、この基板を80℃で乾燥し、分光測色計(コニカミノルタCM-36sG)に依り測定した処、塗膜のヘイズ変化は、0.3であった。実施例1の塗膜は、透明性に優れる事が理解出来る。
【0188】
得られたガラス基板の塗膜面を、指で強く擦っても、塗膜の滑落が見られなかった。実施例1の塗膜は、チタニア微粒子とガラス表面との密着度が高い事が理解出来る。
【0189】
得られたガラス基板を、ヘイドン式摩擦試験機に依り、750gの荷重を掛けて、水拭き後、JISZ2801に依り抗菌試験を行った処、抗菌活性値は、3.0以上であった。実施例1の塗膜面を有するガラス基板は、水拭き後も抗菌性が維持されている事が確認された。
【0190】
[実施例2]
チタンテトライソプロポキシド142.1g(0.5mol)に、酢酸30g(0.5mol)を加え、60分撹拌し、次いで、水を538g加え、常圧(0.10MPa)で、95℃で3時間撹拌し、次いで、高圧分散処理(160Mpa)を行う事で酸化チタン微粒子を含む分散液を得た。この分散液が含む酸化チタン微粒子は、透過型電子顕微鏡像の観察から、一次粒子は平均3nmであり、粒度分布計から、二次粒子は30nmであった。
【0191】
この分散液15g(固形分5.2質量%)に、分散液中に含まれるチタニア微粒子(酸化チタン)に対して、金属重量ベースで、銀が5質量%と成る様に、酢酸銀(I)を添加し、よく攪拌し、次いで、紫外線ランプを、3時間照射する事で類白色の分散液を得た。得られた分散液は、3週間程度、放置しても、溶液の色に変化は無く、銀成分が安定して溶液中に存在している事が確認出来た。
【0192】
この分散液を、透過型電子顕微鏡で評価した処、銀微粒子を被覆する酸化チタン微粒子において、銀微粒子の粒径は30nmであり、酸化チタン微粒子の一次粒径は4nmであり、被覆率は23表面%であった。ランダム率は99%であった。この事から、分散液は、銀微粒子の表面の一部が酸化チタン微粒子でランダムに被覆されている酸化物複合体を含む。
【0193】
厚さ0.7mm、50mm角のガラスに、固形分が60mg/m2と成る様に、この分散液を塗布した後、この基板を80℃で乾燥し、分光測色計(コニカミノルタCM-36sG)に依り測定した処、塗膜のヘイズ変化は、0.2であった。実施例2の塗膜は、透明性に優れる事が理解出来る。
【0194】
得られたガラス基板の塗膜面を、指で強く擦っても、塗膜の滑落が見られなかった。実施例2の塗膜は、チタニア微粒子とガラス表面との密着度が高い事が理解出来る。
【0195】
得られたガラス基板を、ヘイドン式摩擦試験機に依り、750gの荷重を掛けて、水拭き後、JISZ2801に依り抗菌試験を行った処、抗菌活性値は、3.0以上であった。実施例2の塗膜面を有するガラス基板は、水拭き後も抗菌性が維持されている事が確認された。
【0196】
[実施例3]
一次粒径12nmのシリカ微粒子の水分散体20質量%を蒸留水で10倍希釈し、高圧分散処理(200Mpa)し、100gの2質量%水分散体を得た。この分散液が含む酸化チタン微粒子は、透過型電子顕微鏡像の観察から、一次粒子は平均12nmであり、粒度分布計から、二次粒子は80nmであった。
【0197】
この水分散体に対し、粒径100nmの銀微粒子を、銀微粒子中に含まれる銀重量がシリカ微粒子のシリカ重量に対して、5質量%と成る様に添加し、24時間室温で攪拌混合する事で、シリカ微粒子被覆銀微粒子の水分散体を得た。
【0198】
この分散液を、透過型電子顕微鏡で評価した処、銀微粒子を被覆するシリカ微粒子において、銀微粒子の一次粒径は100nmであり、シリカ微粒子の一次粒径は12nmであり、被覆率は50表面%であった。ランダム率は80%であった。この事から、分散液は、銀微粒子の表面の一部が酸化チタン微粒子でランダムに被覆されている酸化物複合体を含む。
【0199】
厚さ0.7mm、50mm角のガラスに、固形分が60mg/m2と成る様に、この分散液を塗布した後、この基板を80℃で乾燥し、分光測色計(コニカミノルタCM-36sG)に依り測定した処、塗膜のヘイズ変化は、0.5であった。実施例3の塗膜は、透明性に優れる事が理解出来る。
【0200】
得られたガラス基板の塗膜面を、指で強く擦っても、塗膜の滑落が見られなかった。実施例2の塗膜は、チタニア微粒子とガラス表面との密着度が高い事が理解出来る。
【0201】
得られたガラス基板を、ヘイドン式摩擦試験機に依り、750gの荷重を掛けて、水拭き後、JISZ2801に依り抗菌試験を行った処、抗菌活性値は、3.0以上であった。実施例2の塗膜面を有するガラス基板は、水拭き後も抗菌性が維持されている事が確認された。
【0202】
[比較例1]
(銀ナノ粒子のみ)
ガラス基板に、市販の粒径100nmの銀ナノ粒子(Sigma-Aldrich)分散液を塗布した。
【0203】
得られたガラス基板の塗膜面を、指で擦った処、剥がれが確認出来た。比較例1の塗膜は、その後の評価に繋げなかった。
【0204】
[比較例2]
(銀担持シリカ)
粒径150nmのシリカ微粒子の水分散体100gに、銀微粒子に含まれる銀量がシリカ微粒子のシリカ量に対して、1質量%と成る様に、粒径15nmの銀微粒子を添加し、24時間室温で攪拌混合する事で、銀微粒子担持シリカ微粒子の25質量%水分散体を得た。
【0205】
得られた分散液は、1週間程度、放置すると、溶液は白濁沈殿が発生した。
【0206】
この分散液を、透過型電子顕微鏡で評価した処、銀微粒子の粒径は15nmであり、シリカ微粒子の粒径は150nmであり、被覆率は100表面%であり、ランダム率は0%であった。
【0207】
厚さ0.7mm、50mm角のガラスに、この分散液を塗布し、この基板を80℃で乾燥し、分光測色計(コニカミノルタCM-36sG)に依り測定した処、塗膜のヘイズ変化は、2以上であった。比較例2の分散体は実施例1~3と比較して透明性に劣る事が分かる。
【0208】
得られたガラス基板の塗膜面を、指で強く擦っても、塗膜の滑落が見られなかった。
【0209】
得られたガラス基板を、ヘイドン式摩擦試験機に依り、750gの荷重を掛けて、水拭き後、JISZ2801に依り抗菌試験を行った処、抗菌活性値は、2.0未満であった。比較例2の塗膜面を有するガラス基板は、水拭き後、抗菌性を維持する事が出来なかった。
【0210】
[比較例3]
(銀ナノ粒子が酸化チタンナノ粒子の二次粒子に担持されている構造)
チタンテトライソプロポキシド142.1g(0.5mol)に、酢酸30g(0.5mol)を加え、60分撹拌し、次いで、水を538g加え、常圧(0.10MPa)で、85℃で3時間撹拌し、次いで、超音波分散処理を行う事で酸化チタン微粒子を含む分散液を得た。
【0211】
この分散液が含む酸化チタン微粒は、透過型電子顕微鏡像の観察から、一次粒子は平均5nmであり、粒度分布計から、二次粒子は2μmであった。
【0212】
この分散液15g(固形分5.2質量%)に、分散液中に含まれるチタニア微粒子(酸化チタン)に対して、金属重量ベースで、銀が25質量%と成る様に、硝酸銀(I)を添加し、よく攪拌し、次いで、紫外線ランプを、30分照射する事で類白色の分散液を得た。得られた分散液は、3週間後、分散安定性が保たれず、沈殿が見られた。
【0213】
銀と複合した直後の分散液を、透過型電子顕微鏡で評価した処、銀ナノ粒子を被覆する酸化チタンナノ粒子において、銀ナノ粒子の一次粒径は40nmであり、酸化チタンナノ粒子の一次粒径は4nmであり、銀の二次粒子の上に銀ナノ粒子が担持されている構造であった。被覆率は、100表面%であり、ランダム率は0%であった。この事から、分散液は、銀ナノ粒子が酸化チタンナノ粒子の二次粒子に担持されている構造である事が分かる。
【0214】
厚さ0.7mm、50mm角のガラスに、固形分が60mg/m2と成る様に、この分散液を塗布した後、この基板を80℃で乾燥し、分光測色計(コニカミノルタCM-36sG)に依り測定した処、塗膜のヘイズ変化は、2以上であった。比較例3の分散体は実施例1~3と比較して透明性に劣る事が分かる。
【0215】
得られたガラス基板の塗膜面を、指で強く擦っても、塗膜の滑落が見られなかった。
【0216】
得られたガラス基板を、ヘイドン式摩擦試験機に依り、750gの荷重を掛けて、水拭き後、JISZ2801に依り抗菌試験を行った処、抗菌活性値は、2.0未満であった。比較例2の塗膜面を有するガラス基板は、水拭き後、抗菌性を維持する事が出来なかった。
【0217】
[産業上の利用可能性]
本発明の酸化物複合体は、銀微粒子の周囲に無機酸化物微粒子(チタニア等)が担持された構造である。本発明の酸化物複合体は、銀微粒子の周囲を無機酸化物微粒子(チタニア等)が被覆する構造である。本発明の酸化物複合体は、高圧分散処理を行い、無機酸化物微粒子(チタニアナノ粒子等)担持銀微粒子)の二次粒子径を制御する事に依り、銀の周囲を酸化チタンで被覆し、液中で、均一に、安定して分散する分散液を作製する事を可能とする。
【0218】
本発明の酸化物複合体は、銀ナノ粒子を無機酸化物微粒子(酸化チタン等)のゾルで被覆する事に依り、銀の水への耐溶出性が向上し、酸化物複合体が含む銀の抗菌抗ウイルス性を維持し、併せて、酸化物複合体の基材に対する密着性、酸化物複合体の透明性等を共に維持する事を可能とする。
【要約】
【課題】本発明は、銀化合物の水に対するの耐溶出性、基材に対する密着性等を向上させた酸化物複合体を提供する事を目的とする。
【解決手段】酸化物複合体。
【選択図】なし