(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】接着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 7/35 20180101AFI20241202BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20241202BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
C09J7/35
C09J163/00
C09J11/06
(21)【出願番号】P 2024526976
(86)(22)【出願日】2023-12-05
(86)【国際出願番号】 JP2023043490
(87)【国際公開番号】W WO2024122545
(87)【国際公開日】2024-06-13
【審査請求日】2024-05-07
(31)【優先権主張番号】P 2022195169
(32)【優先日】2022-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】島口 龍介
(72)【発明者】
【氏名】新井 桂子
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-163694(JP,A)
【文献】特開2016-084470(JP,A)
【文献】特開平11-186723(JP,A)
【文献】特開2000-077483(JP,A)
【文献】特開平08-008306(JP,A)
【文献】特開平09-130053(JP,A)
【文献】米国特許第04198739(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
B32B
C09D1/00-10/00;101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂及び成膜助剤を含
み、イミダゾール化合物を含有しない接着層用の組成物からなる接着層と、
該接着層の上に形成され、熱可塑性樹脂を含むコート層とを有する接着シートであって、
前記コート層は、エポキシ樹脂硬化剤
を含み、常温でタックを示さず、
前記エポキシ樹脂硬化剤は、ジシアンジアミド、イミダゾール化合物及び三級アミンから選択される少なくとも1種であり、
前記接着シートの40℃で14日放置後の発熱量比が80%以上であり、
前記接着シートを、前記接着層の硬化開始温度以上に加熱することにより、前記コート層の少なくとも一部が、前記接着層とコート層の界面からコート層表面に至る範囲で消失する接着シート。
【請求項2】
前記成膜助剤及び熱可塑性樹脂は、それぞれフェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の接着シート。
【請求項3】
前記コート層は、
さらにエポキシ樹脂硬化促進剤を含み、前記エポキシ樹脂硬化促進剤は、イミダゾール化合物、三級アミン
及びリン系化合物から選択される少なくとも1種
(但し、前記エポキシ樹脂硬化剤と同じ種類のものは除く)である請求項1に記載の接着シート。
【請求項4】
前記接着層は、エポキシ樹脂硬化促進剤を含み、前記エポキシ樹脂硬化促進剤は、リン系化合物である請求項1に記載の接着シート。
【請求項5】
エポキシ樹脂及び成膜助剤を含み、イミダゾール化合物を含有しない接着層用の組成物からなる接着層と、
該接着層の上に形成され、熱可塑性樹脂を含むコート層とを有する接着シートであって、
前記接着層は、エポキシ樹脂硬化剤を含み、前記エポキシ樹脂硬化剤は、ジシアンジアミド、三級アミン及び酸無水物から選択される少なくとも1種であり、
前記コート層は、エポキシ樹脂硬化促進剤を含み、常温でタックを示さず、前記エポキシ樹脂硬化促進剤は、イミダゾール化合物、三級アミン及びリン系化合物から選択される少なくとも1種(但し、前記エポキシ樹脂硬化剤と同じ種類のものは除く)であり、
前記接着シートの40℃で14日放置後の発熱量比が80%以上であり、
前記接着シートを、前記接着層の硬化開始温度以上に加熱することにより、前記コート層の少なくとも一部が、前記接着層とコート層の界面からコート層表面に至る範囲で消失する接着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着シートに関し、さらに詳しくは、作業性に優れ、長期間常温保存が可能な接着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造材のリベット接合の補強、家具や建築資材の化粧板貼り合せ、自動車の内装材、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の層間接着や構造接着用途、フレキシブル電子回路基板用カバーレイフィルム接着用等様々な分野で接着シートが用いられている。本願出願人は、熱硬化型樹脂を含む接着層用の組成物からなる接着層と、接着層の上に形成され、樹脂を含むコート層を有し、コート層は、常温でタックを示さず、接着シートを、接着層の硬化開始温度以上に加熱することにより、コート層の少なくとも一部が、接着層とコート層の界面からコート層表面に至る範囲で消失することを特徴とする接着シートを提案している(特許文献1参照)。特許文献1の接着シートでは、接着層を加熱硬化させる前の作業中に望まない貼り付きやブロッキング現象を防止でき、優れた作業性を実現できる。しかしながら、特許文献1の接着シートでは、接着層中に主剤、硬化剤及び硬化促進剤が含まれているため、常温で保存することができず、保存安定性の点で改良する余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明では、常温保存が可能で、作業性に優れた接着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、エポキシ樹脂及び成膜助剤を含む接着層用の組成物からなる接着層と、該接着層の上に形成され、熱可塑性樹脂を含むコート層とを有する接着シートにおいて、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤のうちの少なくとも一方をコート層に添加して、接着層中での硬化反応を抑制することにより、常温保存が可能で、作業性に優れた接着シートが得られることを見出し、本発明に想到した。すなわち、本発明の接着シートは、エポキシ樹脂及び成膜助剤を含む接着層用の組成物からなる接着層と、該接着層の上に形成され、熱可塑性樹脂を含むコート層とを有し、コート層は、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤のうちの少なくとも一方を含み、常温でタックを示さず、接着シートの40℃で14日放置後の発熱量比が80%以上であり、接着シートを、接着層の硬化開始温度以上に加熱することにより、コート層の少なくとも一部が、接着層とコート層の界面からコート層表面に至る範囲で消失することを特徴とする。
【0006】
上記成膜助剤及び熱可塑性樹脂は、それぞれフェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
上記コート層に含まれるエポキシ樹脂硬化剤は、ジシアンジアミド、イミダゾール化合物及び三級アミンのうちから選択される少なくとも1種とすることができる。
また、上記コート層に含まれる、エポキシ樹脂硬化促進剤は、イミダゾール化合物、三級アミン、リン系化合物から選択される少なくとも1種とすることができる。
上記コート層には、上記エポキシ樹脂硬化剤の少なくとも1種と、上記エポキシ樹脂硬化促進剤の少なくとも1種(但し、前記エポキシ樹脂硬化剤と同じ種類のものは除く)とを含有させることができる。
また、本発明の接着シートは、上記接着層が、エポキシ樹脂硬化剤を含み、上記エポキシ樹脂硬化剤は、ジシアンジアミド、イミダゾール化合物、三級アミン及び酸無水物のうちから選択される少なくとも1種とし、上記コート層が、エポキシ樹脂硬化促進剤を含み、上記エポキシ樹脂硬化促進剤は、イミダゾール化合物、三級アミン、リン系化合物から選択される少なくとも1種(但し、上記硬化剤と同じ種類のものは除く)とすることもできる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の接着シートは、保管時にはエポキシ樹脂の硬化反応が抑制され、使用時に接着シートを加熱することにより、接着層の成分と上部に形成されたコート層の成分とが混ざり合い、反応が促進され、硬化が進行することを特徴とする。このため、本発明の接着シートは、常温での保存が可能で、保存場所を確保しやすく、冷蔵輸送が不要で、輸送や保存にかかるコストを低減できる。また、常温での硬化反応の進行を抑制するため冷蔵保存を必要としていた従来の接着シートでは、使用時に、結露による接着シートへの悪影響を回避するため、室温に馴染ませてから開封していた。しかし、本発明の接着シートでは、常温での保存が可能なため、取出し後すぐに使用することができ、作業の迅速化も期待できる。
なお、本発明の接着シートの使用時の加熱条件は、特に限定されず、接着層及びコート層の材料組成等を調整することにより、既存の接着シートと同等の加熱条件でエポキシ樹脂の硬化物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
なお、本明細書中、数値範囲を表す「~」は、その上限値および下限値としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も上限値と同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
【0009】
本実施形態に係る接着シートは、エポキシ樹脂及び成膜助剤を含む接着層用の組成物からなる接着層と、該接着層の上に形成され、熱可塑性樹脂を含むコート層とを有し、該コート層は、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤のうちの少なくとも一方を含み、常温でタックを示さず、接着シートの40℃で14日放置後の発熱量比が80%以上であり、接着シートを、接着層の硬化開始温度以上に加熱することにより、コート層の少なくとも一部が、接着層とコート層の界面からコート層表面に至る範囲で消失することを特徴とする。
【0010】
上述のとおり、本実施形態に係る接着シートは、常温で接着層中のエポキシ樹脂の硬化反応の進行を抑制できることを特徴とする。このためには、(i)コート層中に、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤を添加して、接着層中には、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤とも添加しない構成、(ii)コート層中に、エポキシ樹脂硬化剤を添加して、接着層中には、エポキシ樹脂硬化促進剤を添加する構成、(iii)コート層中に、エポキシ樹脂硬化促進剤を添加して、接着層中に、エポキシ樹脂硬化剤を添加する構成、並びに(iv)コート層中に、エポキシ樹脂硬化剤を添加して、接着層中に、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤の何れも添加しない構成うちのいずれかの構成を採用する。それぞれの構成の詳細については、後述する。
【0011】
本実施形態に係る接着シートでは、コート層が常温でタック(べたつき)を示さないため、タック等に起因する作業性の低下を防止することができる。コート層のタックの有無は、以下の方法で評価することができる。
離型フィルム上にコート層を積層したシートを、5cm×5cmの大きさに切って、コート層同士が向い合う条件、及び離型フィルムとコート層が向かい合う条件でそれぞれ重ねて厚み1mmのガラス板に挟んだ。その上に100gの荷重をかけて、常温(25℃)環境下で24時間放置した後、荷重を解除してガラス板を上下に広げた際の剥離状態を確認することにより、コート層のタックを評価した。具体的な評価基準については、後述する。
【0012】
本実施形態に係る接着シートは、後述する方法で測定した40℃で14日放置した後の発熱量比が80%以上であることを特徴とする。
40℃で14日放置後の発熱量比が80%以上である本実施形態に係る接着シートは、常温で保存しても、エポキシ樹脂の硬化の進行を抑制できる。このため、本実施形態に係る接着シートは、常温での保存が可能で、保存場所を確保しやすく、冷蔵輸送が不要で、輸送や保存にかかるコストを低減できる。また、本実施形態に係る接着シートでは、常温での保存が可能なため、取出し後すぐに使用することができ、作業の迅速化が期待できる。
上記40℃で14日放置後の発熱量比は、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0013】
本実施形態に係る接着シートでは、接着層の硬化開始温度以上に加熱することにより、コート層の少なくとも一部が、接着層とコート層の界面からコート層表面に至る範囲で消失する。「コート層が消失する」とは、本実施形態に係る接着シートに、コート層を形成する樹脂のガラス転移温度を超える熱が加わることによってコート層が軟化し、これによりコート層の樹脂が接着層を形成する(硬化前の)エポキシ樹脂と混ざり合うことによって接着層と一体化し、接着層上に存在していたコート層が見掛け上、存在しなくなることをいう。
なお、コート層の消失の有無は、コート層単独の鋼板Aと鋼板Bの引張せん断接着強さの測定値(Pc)と加熱後積層品の鋼板Aと鋼板Bの引張せん断接着強さの測定値(Pm)との比(Pm/Pc)により判断することができる。具体的な方法については後述する。
以下に、本実施形態に係る接着シートの具体的な構成について述べる。
【0014】
(1)接着層
本実施形態に係る接着シートの接着層(以下、単に「接着層」ともいう。)は、エポキシ樹脂及び成膜助剤を含む接着層用の組成物からなる。
1)エポキシ樹脂
接着層に用いられるエポキシ樹脂は、特に限定されない。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン/フェノールエポキシ樹脂、脂環式アミンエポキシ樹脂、脂肪族アミンエポキシ樹脂及びこれらにCTBN変性やハロゲン化等各種変性を行ったエポキシ樹脂が挙げられる。これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂が耐熱性及び入手容易性の観点から好ましい。また、これらのエポキシ樹脂は単独又は複数混合して用いることができる。接着シートに加工した際の接着層のべたつきを改善し、接着シートをロール状に加工する際の柔軟性を確保できるため、接着層に用いるエポキシ樹脂は、常温(25℃)で液状のエポキシ樹脂と固体のエポキシ樹脂を混合することが好ましい。
【0015】
接着層に用いられるエポキシ樹脂のエポキシ当量(WPE)は、150以上であることが好ましく、180以上であることがより好ましく、1000以下であることが好ましく、700以下であることがより好ましい。WPEが150より低い場合、架橋点が多く耐熱性の高い硬化物が得られるが靱性が低く脆くなるおそれがある。WPEが1000より高い場合、架橋点が少ないため耐熱性が低下するおそれがある。「エポキシ当量」とは、エポキシ基1個あたりのエポキシ樹脂の分子量で定義される。ここで「エポキシ基」とは、3員環のエーテルであるオキサシクロプロパン(オキシラン環)を含むものであり、狭義のエポキシ基の他、グリシジル基(グリシジルエーテル基及びグリシジルエステル基を含む。)を含むものである。WPEは、JIS K7236、エポキシ樹脂のエポキシ当量の求め方(2001)に記載されている方法(過塩素酸-臭化テトラエチルアンモニウム法)等により決定される。なお、本明細書において、エポキシ樹脂を複数種使用している場合には、上記のエポキシ当量は、混合後のエポキシ樹脂のエポキシ当量であることを意味する。
【0016】
2)成膜助剤
本実施形態では、接着層が成膜助剤を含有することを特徴とする。接着層に成膜助剤を添加することにより、接着層用の組成物を塗布し乾燥させた接着層表面に、はじき及び塗布むら等が生じることがないため、塗布性を向上させることができる。
接着層に用いられる成膜助剤としては、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリ酢酸ビニル、ナイロン、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂;ポリブタジエン、スチレン-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体、ブチルゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-アクリル酸共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム等のゴム材料等が使用可能である。
これらの中でも、エポキシ樹脂との親和性の観点から、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種を用いるのが好ましい。さらに、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、水酸基を有するポリエステル樹脂がより好ましい。これらの成膜助剤は、単独又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0017】
フェノキシ樹脂とは、ビスフェノールAやビスフェノールF等のジフェノールと、エピクロロヒドリン等のエピハロヒドリンに基づく高分子量熱可塑性ポリエーテル樹脂をいう。フェノキシ樹脂の重量平均分子量は、20,000~100,000であることが好ましい。重量平均分子量を20,000以上とすると成膜性を付与できる。一方、重量平均分子量を100,000以下とすると塗布膜形成時の粘度が高くなりすぎずに平滑、一様な塗布膜を得ることができる。
フェノキシ樹脂としては、特に限定されるものではなく、ビスフェノールA骨格、ビスフェノールF骨格、ビスフェノールS骨格、ビスフェノールアセトフェノン骨格、ノボラック骨格、ビフェニル骨格、フルオレン骨格、ジシクロペンタジエン骨格、ノルボルネン骨格、ナフタレン骨格、アントラセン骨格、アダマンタン骨格、テルペン骨格、トリメチルシクロヘキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有するものが挙げられる。
【0018】
フェノキシ樹脂の市販品としては、例えば、商品名PKHB、PKHC、PKHH、PKHJ(いずれもHUNTSMAN社製)、jER(登録商標) 1256、4250、4275、(いずれも三菱ケミカル社製)、YP-50、YP-50S、YP-70、ZX-1356-2、FX-316(いずれも日鉄ケミカル&マテリアル社製)等が挙げられる。
また、溶剤を用いて、フェノキシ樹脂を溶解したものも市販されており、これらも同様に使用できる。例えば、jER 1256B40、 1255HX30、 YX6954BH30、YX6954B35、YX8100BH30、YL7174BH40(いずれも三菱ケミカル社製)、YP-40ASM40、YP-50EK35、YPB-40PXM40、ERF-001M30、YPS-007A30、FX-293AT40(いずれも日鉄ケミカル&マテリアル社製)等が挙げられる。これらのフェノキシ樹脂は単独又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0019】
ポリビニルアセタール樹脂としては、例えば、商品名エスレック(登録商標) KS-23Z、KS-1、KS-5、BX-1、BM-S(いずれも積水化学工業社製)等が挙げられる。
ポリエステル樹脂としては、例えば、商品名バイロン(登録商標)シリーズ(東洋紡エムシー社製)、商品名ニチゴーポリエスターTPシリーズ(三菱ケミカル社製)、商品名エリーテル(登録商標)UEシリーズ(ユニチカ社製)等が挙げられる。
【0020】
接着層中のエポキシ樹脂と成膜助剤の質量比(エポキシ樹脂:成膜助剤)は、3:1~20:1の範囲であることが好ましく、3:1~15:1の範囲であることがより好ましく、4;1~12:1の範囲であることが特に好ましい。接着層中のエポキシ樹脂と成膜助剤の質量比を上記範囲に調整することにより、接着層用の組成物の塗膜形成時のはじき及び塗布むらが改善し塗布性がさらに向上するとともに、表面のべたつき、離型フィルムからの剥離性を改善でき耐熱性にも優れた接着層を得ることができる。
【0021】
3)エポキシ樹脂硬化剤
本実施形態に係る接着シートは、常温における接着シートの硬化反応の進行を抑制できることを特徴とする。
このためには、上述のとおり、(i)コート層中に、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤を添加して、接着層中には、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤とも添加しない構成、(ii)コート層中に、エポキシ樹脂硬化剤を添加して、接着層中には、エポキシ樹脂硬化促進剤を添加する構成、(iii)コート層中に、エポキシ樹脂硬化促進剤を添加して、接着層中に、エポキシ樹脂硬化剤を添加する構成、並びに(iv)コート層中に、エポキシ樹脂硬化剤を添加して、接着層中に、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤とも添加しない構成のうちのいずれかの構成を採用する必要がある。
(i)、(ii)及び(iv)の構成では、接着層には、エポキシ樹脂硬化剤は含まれないため、以下では、(iii)の構成のエポキシ樹脂硬化剤について説明する。
【0022】
(iii)の構成において、接着層に含有されるエポキシ樹脂硬化剤は、ジシアンジアミド(DICY)、イミダゾール化合物、三級アミン及び酸無水物のうちから選択される少なくとも1種であり、コート層には、イミダゾール化合物、三級アミン及びリン系化合物から選択される少なくとも1種のエポキシ樹脂硬化促進剤が含有される。但し、コート層に含まれるエポキシ樹脂硬化促進剤と、接着層に含まれるエポキシ樹脂硬化剤と異なる種類の化合物とする必要がある。
例えば、接着層に、エポキシ樹脂硬化剤としてジシアンジアミドを添加した場合、コート層には、エポキシ樹脂硬化促進剤としてイミダゾール化合物、三級アミン類又はリン系化合物の少なくとも1種を添加することができる。このような接着層とコート層により構成される接着シートでは、常温での保存時にエポキシ樹脂の硬化反応の進行を抑制でき、使用時に接着シートを加熱することにより、接着層中のエポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤と、コート層のエポキシ樹脂硬化促進剤が混ざり合って、エポキシ樹脂の硬化反応が進行する。
【0023】
前記イミダゾール化合物としては、例えば、2-メチルイミダゾール、 2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-[2-(2-メチル-1-イミダゾリル)エチル]-1,3,5-トリアジン、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。
【0024】
前記三級アミン類としては、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、トリエチレンジアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、4-ジメチルアミノピリジン、2-ジメチルアミノメチルフェノール、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン等が挙げられる。
【0025】
前記酸無水物としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3-ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物、4-メチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3-ジカルボン酸無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,4,3’ ,4’-テトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビストリメリット酸無水物、4,4’-[プロパン-2,2-ジイルビス(1,4-フェニレンオキシ)]ジフタル酸二無水物等が挙げられる。
【0026】
(iii)の構成で、接着層に添加するジシアンジアミドの市販品としては、商品名DICY7(三菱ケミカル社製)等が挙げられる。また、イミダゾール化合物の市販品としては、商品名キュアゾール(登録商標)2MZA-PW、2P4MHZ-PW、2E4MZ、2PHZ(いずれも、四国化成工業社製)等が挙げられる。三級アミンの市販品としては、商品名アンカミン(登録商標)シリーズ(エボニック社製)、商品名DBU(登録商標)、U-CAT(登録商標)シリーズ(いずれも、サンアプロ社製)等が挙げられる。
【0027】
エポキシ樹脂硬化剤の配合量は、使用するエポキシ樹脂との当量比から算出され、当量比の好適な範囲は0.2~2.0である。例えば、エポキシ樹脂硬化剤がジシアンジアミドの場合は、エポキシ樹脂100質量部に対し、2~20質量部の範囲であることが好ましく、5~15質量部の範囲であることがより好ましい。エポキシ樹脂硬化剤の配合量が2質量部未満では、十分に硬化しにくく、耐熱性、耐薬品性等エポキシ樹脂としての特徴を十分に発揮できない可能性がある。その一方で配合量が20質量部を超えると、硬化時に過剰な発熱反応を伴い、硬化物中に未反応のエポキシ樹脂硬化剤が残存し、樹脂特性に影響を与える可能性がある。
【0028】
4)エポキシ樹脂硬化促進剤
(iii)の構成で、接着層に、エポキシ樹脂硬化剤としてジシアンジアミドを添加した場合に、コート層にエポキシ樹脂硬化促進剤として添加するイミダゾール化合物、三級アミン類は、上述したものを用いることができる。リン系化合物としては、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン等の有機ホスフィン類、トリフェニルボラン-トリフェニルホスフィン錯体、テトラキス(4-メチルフェニル)ボラン-テトラフェニルホスフィン錯体等のホスホニウム塩等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂硬化促進剤は、接着層中に含まれるエポキシ樹脂硬化剤と同種でなければ、単独又は複数を混合して用いることができる。
【0029】
リン系化合物の市販品としては、ホクコーTPP (登録商標)、TPTP、TPP-S、TPP-K、TPP-MK(いずれも、北興化学工業社製)等が挙げられる。
【0030】
本実施形態においては、エポキシ樹脂硬化促進剤は、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤とは異なる層に含有されているため、接着シートの保存安定性に大きな影響を与えることなくエポキシ樹脂硬化促進剤を配合することができる。エポキシ樹脂硬化促進剤として常温で固体のものを使用する場合には、エポキシ樹脂硬化促進剤の配合量は熱可塑性樹脂100質量部に対し20質量部以下であることが好ましい。エポキシ樹脂硬化促進剤の配合量を上記範囲とすることにより、コート層形成塗工液において分散安定性及び粘度が良好な状態となり、平滑性の良好なコート層を作製することが可能となる。また、熱硬化時に未反応物の残留を抑えることもできるため、耐熱性の優れた接着シートを作製することが可能となる。
【0031】
次に、(ii)の構成で接着層に添加するエポキシ樹脂硬化促進剤について説明する。
上記エポキシ樹脂硬化促進剤としては、リン系化合物を添加することができる。イミダゾール化合物及び三級アミンは、それ自身でエポキシ樹脂硬化剤としても機能するため、(ii)の構成のエポキシ樹脂硬化促進剤として添加することはできない。このような接着層とコート層により構成される接着シートでは、常温での保存においてエポキシ樹脂の硬化反応の進行を抑制でき、使用時に接着シートを加熱することにより、接着層中のエポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化促進剤と、コート層中のエポキシ樹脂硬化剤が混ざり合って、エポキシ樹脂の硬化反応が進行する。
【0032】
(ii)の構成で接着層に添加するエポキシ樹脂硬化促進剤の配合量は、エポキシ樹脂100質量部に対し、例えば5質量部以下とするのが好ましい。但し、本実施形態においては、エポキシ樹脂硬化促進剤は、エポキシ樹脂硬化剤とは異なる層に含有されているため、エポキシ樹脂硬化促進剤の配合量が5質量部を超えても接着シートの保存安定性に大きな影響は与えない。
【0033】
5)その他の添加剤
接着層を形成する接着層用の組成物には、任意成分として配合可能なその他の添加剤を加えることもできる。例えば、増粘剤(非晶質シリカ、炭酸カルシウム、タルク等)、熱発泡剤、発泡助剤、各種充填剤、整泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤等を配合することもできる。
【0034】
(2)コート層
本実施形態に係る接着シートのコート層(以下、単に「コート層」ともいう。)は、上記接着層上に形成され、熱可塑性樹脂を含む組成物からなる。コート層は、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤のうちの少なくとも一方を含み、常温でタックを示さない。また、接着シートの使用時に、接着層の硬化開始温度以上に加熱することにより、コート層の少なくとも一部が、接着層とコート層の界面からコート層表面に至る範囲で消失し、接着シートの、被着体と接する部分に、加熱硬化後の接着層の少なくとも一部が露出することにより接着シートとして機能する。
以下に、コート層を構成する成分について説明する。
【0035】
1)熱可塑性樹脂
コート層に用いられる熱可塑性樹脂は、上述した接着層に用いられる成膜助剤の中の熱可塑性樹脂として記載のものを用いることができる。熱可塑性樹脂も、エポキシ樹脂との親和性の観点から、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの中で、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、水酸基を有するポリエステル樹脂がより好ましい。熱可塑性樹脂は、単独又は複数を組み合わせて用いることができる。
具体的には、接着層に用いられる成膜助剤をフェノキシ樹脂として、コート層に用いられる熱可塑性樹脂をフェノキシ樹脂及び/又はポリビニルアセタール樹脂及び/又は水酸基を有するポリエステル樹脂とした構成、並びに接着層に用いられる成膜助剤をポリビニルアセタール樹脂として、コート層に用いられる熱可塑性樹脂をフェノキシ樹脂及び/又はポリビニルアセタール樹脂及び/又は水酸基を有するポリエステル樹脂とした構成においてより優れた親和性が実現される。
【0036】
2)エポキシ樹脂硬化剤及び/又はエポキシ樹脂硬化促進剤
上述のとおり、本実施形態に係る接着シートは、常温で接着層中のエポキシ樹脂の硬化反応の進行が抑制されることを特徴とする。このためには、(i)コート層中に、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤を添加して、接着層中には、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤とも添加しない構成、(ii)コート層中に、エポキシ樹脂硬化剤を添加して、接着層中には、エポキシ樹脂硬化促進剤を添加する構成、(iii)コート層中に、エポキシ樹脂硬化促進剤を添加して、接着層中に、エポキシ樹脂硬化剤を添加する構成、並びに(iv)コート層中に、エポキシ樹脂硬化剤を添加して、接着層中に、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤とも添加しない構成のうちのいずれかの構成を採用する必要がある。(iii)の構成については、上述のとおりであるので、以下には、(i)(ii)、及び(iv)の構成について説明する。
【0037】
(i)コート層中に、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤を添加して、接着層中には、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤とも添加しない構成
本構成において、コート層中に添加するエポキシ樹脂硬化剤は、ジシアンジアミド、イミダゾール化合物、三級アミンから選択される少なくとも1種であることが好ましく、エポキシ樹脂硬化促進剤は、イミダゾール化合物、三級アミン、リン系化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。但し、上記エポキシ樹脂硬化剤と同じ種類のものは除く。それぞれの成分の詳細は、上述のとおりである。
上記中でも、エポキシ樹脂硬化剤として、ジシアンジアミドを用い、エポキシ樹脂硬化促進剤として、イミダゾール化合物を用いた構成では、長期間にわたる常温保存においてもエポキシ樹脂の硬化反応の進行が抑えられるとともに、使用時の加熱において、コート層が完全に消失して、より優れた接着性を実現でき、好ましい。
【0038】
(ii)コート層中に、エポキシ樹脂硬化剤を添加して、接着層中には、エポキシ樹脂硬化促進剤を添加する構成
本構成において、コート層中にエポキシ樹脂硬化剤を添加する場合、エポキシ樹脂硬化剤は、ジシアンジアミド、イミダゾール化合物、三級アミンから選択される少なくとも1種であることが好ましい。それぞれの成分の詳細は、上述のとおりである。エポキシ樹脂硬化促進剤についても、上述したとおりである。
【0039】
(iv)コート層中に、エポキシ樹脂硬化剤を添加して、接着層中に、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤とも添加しない構成
本構成において、コート層中にエポキシ樹脂硬化剤を添加する場合、エポキシ樹脂硬化剤は、イミダゾール化合物、三級アミンから選択される少なくとも1種であることが好ましい。それぞれの成分の詳細は、上述のとおりである。上記中でも、エポキシ樹脂硬化剤として、イミダゾール化合物を用いた構成では、長期間にわたる常温保存においてもエポキシ樹脂の硬化反応の進行が抑えられるとともに、使用時の加熱において、コート層が消失して、優れた接着性を実現でき好ましい。
【0040】
(3)接着シートの作製方法
接着層用の組成物は、上述したエポキシ樹脂及び成膜助剤に、必要に応じて、エポキシ樹脂硬化剤又はエポキシ樹脂硬化促進剤、各種添加剤等を任意の順序で混合させることにより得ることができる。上記原材料の混合は、ミキシングロール、プラネタリーミキサー、バタフライミキサー、ニーダ、単軸もしくは二軸押出機等の混合機あるいは混練機を用いて行うことができる。混合温度は、組成により異なるが、硬化開始温度未満で行うことが好ましい。
接着層用の組成物の各成分は、接着層用の組成物をシート状にして形成した接着シートの硬化開始温度が60℃以上200℃以下となるように調整することが望ましい。
【0041】
接着層は、上述した接着層用の組成物を溶媒に溶解又は分散させ、後述する基材の片面又は両面に塗布し、必要に応じて乾燥させることにより得られる。なお、接着層は、上述した接着層用の組成物を、別途用意した離型フィルムに形成した、後述するコート層上に塗布し、必要に応じて乾燥させることにより得ることもできる。また、接着層は、上述した接着層用の組成物を、離型処理が施されている基材の片面に塗布し、必要に応じて乾燥させることによっても得られる。
【0042】
接着層形成塗工液の塗布方法については特に制限はなく、ワイヤーバー、アプリケーター、刷毛、スプレー、ローラー、グラビアコーター、ダイコーター、リップコーター、コンマコーター、ナイフコーター、リバースコーター、スピンコーター等を用いた従来公知の塗布方法を利用することができる。なお、接着層形成塗工液を塗布する離型フィルムや基材の面には、必要に応じて予め表面処理を施しておいてもよい。
【0043】
接着層形成塗工液の乾燥方法についても特に制限はなく、熱風乾燥、減圧乾燥等の従来公知の乾燥方法を利用することができる。乾燥条件については、接着層用組成物の種類や接着層形成塗工液で使用した溶剤の種類、接着層の膜厚等に応じて適宜設定すればよいが、60~200℃程度の温度で乾燥を行うことが一般的である。
【0044】
接着層の厚み(t1)は接着シートの用途に応じて適宜選択すればよいが、10μm~1000μmの範囲が好ましく、30μm~400μmの範囲がより好ましく、30μm~200μmの範囲が特に好ましい。接着層の厚みを10μm以上とすることにより、例えば、凹凸を有する被着体に対して追従することができるため安定した接着性能を維持することができる。接着層の厚み(t1)を1000μm以下とすることにより、薄膜化が要求される用途に好適に用いることができる。
【0045】
溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒などを単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
基材としては、特に制約されるものではなく、適宜選択すればよく、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、アラミド、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、芳香族ポリアミド、ポリスルホン等の合成樹脂からなるフィルム、不織布、紙等が挙げられる。基材は接着シートの用途によって選択される。特に絶縁性、耐熱性を求める用途においては、ポリイミドフィルムやアラミド不織布シート等を使用することが好ましい。
【0047】
基材の厚みは、適用する用途に応じて適宜選択することができる。例えば、適用用途が後述の絶縁性を要求される電子機器の各種部品接着等である場合、基材の厚さは25~250μmであることが好ましい。
【0048】
コート層用の組成物は、上述した熱可塑性樹脂に、必要に応じて、エポキシ樹脂硬化剤又はエポキシ樹脂硬化促進剤、各種添加剤等を任意の順序で混合させることにより得ることができる。上記原材料の混合は、ミキシングロール、プラネタリーミキサー、バタフライミキサー、ニーダ、単軸もしくは二軸押出機等の混合機あるいは混練機を用いて行うことができる。混合温度は、組成により異なるが、硬化開始温度未満で行うことが好ましい。
【0049】
コート層は、上述したコート層用の組成物を溶媒に溶解又は分散させ、上述の基材の片面又は両面に塗布し、必要に応じて乾燥させることにより得られる。なお、コート層形成塗工液の塗布方法及び乾燥方法についても特に制限はなく、上述した接着層形成塗工液の塗布方法及び乾燥方法と同様の方法を利用することができる。
【0050】
コート層の厚み(t2)は、加熱前の接着層の厚み(t1)の100%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、30%以下であることが特に好ましい。t2をt1の100%以下とすることにより、熱によってコート層は軟化し、かつこれを良好に消失させることができる。
コート層が消失するメカニズムは次のとおりである。コート層を形成する樹脂のガラス転移温度を超える熱が加わることによってコート層が軟化する。これによりコート層の樹脂(熱可塑性樹脂)が、接着層を形成する(硬化前の)エポキシ樹脂と混ざり合い、接着層と一体化する(接着層内に取り込まれる)。その結果、接着層上に存在していたコート層が見掛け上、存在しなくなる。
【0051】
t2がt1の100%を超えると、接着層内に十分取り込まれなく、その結果、コート層の消失が良好に進まない可能性がある。本実施形態において、t2は、例えば、0.5μm以上600μm以下が好ましく、1μm以上200μm以下であることがより好ましく、3μm以上100μm以下であることが特に好ましい。
【0052】
コート層は、そのガラス転移温度が好ましくは60℃以上、硬化温度未満となるように、コート層を形成する樹脂を決定することが望ましい。コート層のガラス転移温度が60℃未満であると、コート層表面のべたつき(タック)が多くなり、本発明の効果が得られにくくなる可能性がある。一方、硬化温度を超えると、接着層の加熱硬化温度域でコート層が十分に軟化しないため、接着層による接着力を十分に発揮できないおそれがある。
【0053】
本実施形態の接着シートは、ウエット法及びドライ法の何れの方法でも作製することができる。
ウエット法は、上記コート層の成分を溶媒に溶解又は分散させたコート層形成塗工液を基材に塗布し、必要に応じて乾燥して得られたコート層上に、上記接着層の成分を溶媒に溶解又は分散させた接着層形成塗工液を作製し、塗布し、乾燥させる方法である。
一方、ドライ法は、例えば、離型フィルムに形成したコート層と、コート層を形成するために用いた離型フィルムと異なる離型フィルムに形成した接着層とを貼り合わせる(ラミネートする)ことによって作製する方法である。
【0054】
<用途>
以上のような本実施形態に係る接着シートは、例えば、建築構造材のリベット接合の補強、家具や建築資材の化粧板貼り合せ、自動車の内装材、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の層間接着や構造接着用途、フレキシブル電子回路基板用カバーレイフィルム接着等に好適に用いることができる。また、接着層中に絶縁性基材を用いることにより、電子回路基板の層間絶縁膜等、絶縁性を要求される電子機器の各種部品接着等に用いることができる。
さらに、接着層に熱伝導性フィラーを導入することにより、電子デバイスとヒートシンクの接着に用いることができる。
接着層に熱発泡性フィラーを導入することにより、熱発泡による空隙充填性を利用し画像表示装置(液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ等)に固定された画像表示部材や、携帯電子機器(携帯電話や携帯情報端末等)に固定された光学部材(カメラやレンズ等)と、筐体(窓部)との間に生ずる隙充填材としての用途のほか、モータやジェネレータに用いられるステータのコイルエンド部において隣接する相の異なるコイル間の間隙や、ステータコアのスロット溝内の間隙等に介装させる用途として、電気・電子業界において広く用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例により本発明の実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例中、特に記載がない場合には、「%」及び「部」は質量%及び質量部を示す。
【0056】
[実施例1~24、比較例1~5]
1.接着層及びコート層形成塗工液の調製
表1~表4に記載の各成分を固形分比(質量換算)で配合し、別途用意したメチルエチルケトンと共に撹拌混合し、減圧下で脱泡し、接着層形成塗工液及びコート層形成塗工液を調製した。各塗工液中の全固形分は30質量%~50質量%とした。
使用した原材料は、以下のとおりである。
(A)エポキシ樹脂
(a1)ビスフェノールA型液状樹脂(エポキシ当量:184-194g/eq、常温で液状)
(a2)ビスフェノールA型固形樹脂(エポキシ当量:600-700g/eq、軟化温度78℃)
(a3)ビスフェノールA型固形樹脂(エポキシ当量:1,700-2,200g/eq、軟化温度:128℃)
(B)成膜助剤
(b1)フェノキシ樹脂(製品名:PHENOXY PKHB(ビスフェノールA骨格含有)、ガラス転移温度:84℃、重量平均分子量:32,000、HUNTSMAN社製)
(b2)ポリビニルアセタール樹脂(製品名:エスレック KS-23Z、 ガラス転移温度110℃、積水化学工業社製)
(b3)ポリエステル樹脂(水酸基を有するポリエステル樹脂、製品名:ニチゴーポリエスター TP-235、ガラス転移温度:65℃、三菱ケミカル社製)
(C)エポキシ樹脂硬化剤及び/又はエポキシ樹脂硬化促進剤
(c1)ジシアンジアミド(50%粒子径:3μm)
(c2)イミダゾール化合物
(c2―1)2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール
(c2―2)2,4-ジアミノ-6-[2-(2-メチル-1-イミダゾリル)エチル]-1,3,5-トリアジン
(c2-3)2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール
(c3)酸無水物
(c3-1)3, 3’,4,4’ -ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
(c4)リン化合物
(c4-1)トリフェニルホスフィン
(c4-2)トリ-p-トリルホスフィン
(c5)三級アミン
(c5-1)2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール
【0057】
2.コート層の作製
表1~4に示す組成のコート層形成塗工液を用い、離型フィルム1(厚さ38μm、非シリコーン離型層付きPETフィルム)の離型層上に、所定のコート層形成塗工液をベーカー式アプリケーターにて、乾燥後のコート層厚みが表1~4に示す厚みになるように塗布した。その後、90℃で3分乾燥し、積層品1(離型フィルム1及びコート層の積層品)を得た。
【0058】
3.接着シートの作製
表1~4に示す接着層形成塗工液を用い、離型フィルム2(厚さ38μm、非シリコーン離型層付きPETフィルム)の離型層上に、所定の接着層形成塗工液をベーカー式アプリケーターにて、乾燥後の接着層厚みが表1~4に示す厚みになるように塗布した。その後、90℃で3分乾燥し、積層品2(離型フィルム2及び接着層の積層品)を得た。当該接着層面と積層品1のコート層とを80℃の熱を加えながらラミネートした後、離型フィルム1及び離型フィルム2を剥離し実施例及び比較例の接着シートを得た。
【0059】
4.評価
得られた各実施例及び比較例の接着シートに対し、下記項目について以下の方法により測定又は評価を行った。結果を表1~4に示す。
【0060】
[コート層の膜厚(t2)]
各実施例及び比較例で得られた接着シートにつき、積層品1について、マイクロメーターを使用して全厚を測定し、得られた測定値から離型フィルム1の厚みを減ずることにより算出した。
【0061】
[接着層の膜厚(t1)]
各実施例及び比較例で得られた接着シートにつき、積層品2について、マイクロメーターを使用して、全厚を測定し、得られた測定値から離型フィルム2の厚みを減ずることにより算出した。
【0062】
[コート層のタック]
各実施例及び比較例の接着シートの内、積層品1(離型フィルム1及びコート層の積層品)を、5cm×5cmの大きさに切って、コート層同士が向い合う条件、及び離型フィルムとコート層が向かい合う条件でそれぞれ重ねて厚み1mmのガラス板に挟んだ。その上に100gの荷重をかけて、常温環境下でそれぞれ24時間放置した後、荷重を解除し、ガラス板を上下に広げた際の剥離状態を確認することにより、コート層のタックを評価した。
ここで、ガラス板を上下に広げた際の状態を目視で観察して以下の基準で評価した。
○:コート層同士及び離型フィルムとコート層の接触による剥がれなし
△:いずれか一方の条件において剥がれが生じる
×:いずれの条件においても剥がれが生じる
【0063】
[塗布性]
積層品2を作製する過程において、接着層の状態を目視で観察して以下の基準で評価した。
〇:はじきなく均一に塗布できる
△:一部にはじきが生じる
×:全面にはじきが生じる
【0064】
[ハンドリング性]
積層品2の接着層面に積層品1のコート層をラミネートする過程における、接着層面の状態を以下の基準で評価した。
〇:べたつきなし
△:取り扱いに支障がないべたつきあり
×:取り扱いが困難なべたつきあり
【0065】
[剥離性]
離型フィルム1及び離型フィルム2の剥離性を以下の基準で評価した。
〇:各離型フィルムが容易に剥離できる
△:どちらか片側の離型フィルムしか剥離できない
×:離型フィルムを剥がそうとすると接着シートが凝集破壊する
【0066】
[引張せん断接着強さ及びコート層の消失性]
各実施例及び比較例の接着シートを25mm×12.5mmに断裁し、厚み1.6mmのSPCC鋼板(鋼板A)上に接着層が接するように置き、60℃の熱を加えながらハンドローラー(ゴム製)を用いてラミネートし、コート層上にさらに厚み1.6mmSPCC鋼板(鋼板B)を重ねて、ピンチコックで固定した。この積層品を表1~4に示す温度(硬化温度)に加熱したオーブンに30分間放置した後、取り出し、室温で放冷後ピンチコックを外し、試験片とした。インストロン社製万能試験機#5982を用いて、室温で、加熱後積層品の鋼板Aと鋼板Bを、接着面と平行で、かつ互いに反対の方向(せん断方向)に5mm/min.の速度で引張ることにより、せん断接着強さ(Pm)を測定した(単位:MPa)。なお、本評価は、上述の塗布性、ハンドリング性及び剥離性の全ての評価が「〇」のものについてのみ実施した。
【0067】
コート層が消失し、接着層が鋼板A及び鋼板Bに接着すると、コート層のみが鋼板に接着する場合よりも、せん断接着強さが大きくなる。そのため、積層品1の離型フィルムを剥離し、上記と同様にして、鋼板Aと鋼板Bとの間に設け、コート層単独のせん断接着強さ(Pc)を測定する。そして、コート層単独のせん断接着強さの測定値(Pc)と加熱後積層品の鋼板Aと鋼板Bのせん断接着強さの測定値(Pm)との比(Pm/Pc)を用いて、下記基準により、コート層の消失性を評価した。
◎:(Pm/Pc)の値が110%を超えたもの
〇:(Pm/Pc)の値が100%を超え110%以下であったのもの
×:(Pm/Pc)の値が100%以下であったのもの
【0068】
[保存安定性]
各実施例及び比較例で得られた接着シートを所定のサイズに断裁して、複数の試料を作製した。得られた試料の発熱量を示差走査熱量測定(DSC)により測定して、初期発熱量Q0とした。また、別の試料のコート層面と接着層面に、離型フィルム1と離型フィルム2をそれぞれラミネートさせ、積層品3を得た。積層品3を40℃に設定された恒温槽に入れ、14日間放置後、恒温槽から取り出して放冷し、離型フィルム1と離型フィルム2を剥離後、DSCにより発熱量を測定し、40℃放置後発熱量Q1とした。得られたQ0及びQ1から以下の式により40℃で14日放置後の発熱量比を算出した。
40℃で14日放置後の発熱量比(%)=(40℃放置後の発熱量(Q1)/初期発熱量(Q0))×100
なお、DSCによる発熱量の測定条件は、以下のとおりとした。
測定温度:30℃~300℃、昇温速度:10℃/min.
【0069】
表1に示すように、エポキシ樹脂及び成膜助剤であるフェノキシ樹脂を含有する接着層中にエポキシ樹脂硬化剤であるジシアンジアミドとエポキシ樹脂硬化促進剤であるイミダゾール化合物を添加した比較例1の接着シートでは、40℃で14日放置後の発熱量比が60%と低い値であることが確認された。これは、接着剤層中に、ジシアンジアミド及びイミダゾール化合物が含有されていることにより、40℃の環境下で、エポキシ樹脂の硬化反応が進行したためと考えられる。
これに対して、ジシアンジアミド及びイミダゾール化合物を接着層中ではなく、コート層中に含有させた構成、すなわち、(i)コート層中に、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤を添加して、接着層中には、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤とも添加しない構成の実施例1及び2では、40℃で14日放置後の発熱量比が100%であり、40℃の環境下でも、エポキシ樹脂の硬化反応が抑制されていることが確認された。このことから、本発明の接着シートは、常温での保存が十分可能であるといえる。
また、ジシアンジアミド及びイミダゾール化合物をコート層に含有させた実施例1及び2では、比較例1に比べて、引張せん断接着強さも上昇しており、本発明では、接着性能も向上することが確認された。実施例1と実施例2では、ジシアンジアミド及びイミダゾール化合物の添加量が異なるが、広い範囲で特性が安定していることが確認できる。このように、本発明では、接着層にエポキシ樹脂硬化剤及び/又は硬化促進剤を添加している従来技術と同程度のエポキシ樹脂硬化剤及び/又はエポキシ樹脂硬化促進剤の添加により、優れた保存安定性及び接着性能が得られることが確認された。
【0070】
【0071】
実施例3には、(ii)コート層中に、エポキシ樹脂硬化剤を添加して、接着層中には、エポキシ樹脂硬化促進剤を添加した構成の評価結果を示す。ここで、コート層に添加するエポキシ樹脂硬化剤は、(c1)ジシアンジアミドとして、接着層中に添加するエポキシ樹脂硬化促進剤は、(c4)リン化合物である(c4-2)トリ-p-トリルホスフィンを用いた他は、実施例1と同様の方法で作製した。
表1に示すとおり、実施例3は、優れた保存安定性、高い引張せん断接着強さ、並びに良好な塗布性、ハンドリング性及び剥離性が得られることが確認された。この結果より、(ii)の構成でも本発明の効果が実現できることがわかった。
【0072】
接着層にイミダゾール化合物(c2-1)を添加し、コート層にはエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤の双方を添加していない比較例2の接着シートでは、40℃で14日放置後の発熱量比が64%と低い値であることが確認された。このことから、イミダゾール化合物を単独で接着層に添加しても、接着シートの硬化反応が進行することがわかった。これに対して、エポキシ樹脂硬化剤である同種のイミダゾール化合物(c2-1)をコート層に添加した構成、すなわち、(iv)コート層中に、エポキシ樹脂硬化剤を添加して、接着層中に、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤とも添加しない実施例4では、(c2-1)の配合量が大幅に増加しているにも関わらず40℃で14日放置後の発熱量比は100%であり、エポキシ樹脂の硬化反応が抑制されていることが確認された。さらに、実施例4では、比較例2より、引張せん断接着強さが向上しており、本発明の効果が確認された。なお、実施例4及び比較例2のいずれの接着シートでも塗布性、ハンドリング性及び剥離性は良好であった。
【0073】
エポキシ樹脂硬化剤であるイミダゾール化合物を(c2-1)から、(c2-2)に変更した比較例3及び実施例5でも同様の傾向が認められ、本発明の効果が確認された。
なお、実施例5の接着層から成膜助剤を除いた構成の比較例4では、剥離シートに接着層形成塗工液を塗布する際、全面にはじきが生じて良好な接着層が得られないことがわかった。
また 、イミダゾール化合物として、(c2-3)2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールを用いた実施例6においても、40℃で14日放置後の発熱量比は100%で、塗布性、ハンドリング性及び剥離性とも良好であり、本発明の効果が認められた。
【0074】
実施例7は、実施例4~6と同様、(iv)コート層中に、エポキシ樹脂硬化剤を添加して、接着層中に、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤とも添加しない構成である。実施例4~6では、コート層に添加したエポキシ樹脂硬化剤として、(c2)イミダゾール化合物を添加したが、実施例7では、(c5)三級アミンの(c5-1)2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールを用い、硬化温度を変えて作製した。
表1に示すとおり、実施例7は、優れた保存安定性、高い引張せん断接着強さ、並びに良好な塗布性、ハンドリング性及び剥離性が得られることが確認された。この結果より、(iv)の構成で、コート層中に、エポキシ樹脂硬化剤として三級アミンを採用しても本発明の効果が実現できることがわかった。
【0075】
実施例8~実施例12は、いずれも(iii)接着層中に、エポキシ樹脂硬化剤である(c1)ジシアンジアミドを添加して、コート層中には、エポキシ樹脂硬化促進剤である(c2-2)イミダゾール化合物を添加した構成であり、(c1)ジシアンジアミドと(c2-2)イミダゾール化合物の配合量及び配合比を表2に示すとおりとした以外はすべて同様の条件で作製した。実施例8~実施例12のいずれにおいても優れた保存安定性、高い引張せん断接着強さ、並びに良好な塗布性、ハンドリング性及び剥離性が得られることがわかった。
【0076】
【0077】
比較例5は、実施例9の接着層から成膜助剤を除いた構成であり、良好な塗布性は得られたものの、ハンドリング性及び剥離性に問題が生じた。このことから、良好なハンドリング性及び剥離性を得るためには、接着層に成膜助剤を添加する本発明の構成が必須であることが確認された。
また、実施例13は、コート層の熱可塑性樹脂を(b1)フェノキシ樹脂から(b2)ポリビニルアセタールに変更した以外は、実施例9と同様に作製されたものである。実施例13の引張せん断接着強さは、実施例9と同等であり、保存安定性は、実施例7より、向上している。このことから、本発明の接着シートのコート層の熱可塑性樹脂として、ポリビニルアセタールも好適に用いることができることがわかった。
【0078】
実施例14は、コート層の熱可塑性樹脂を(b1)フェノキシ樹脂から(b3)ポリエステル樹脂に変更した以外は、実施例9と同様に作製されたものである。実施例14の引張せん断接着強さと保存安定性は、実施例9より、向上している。このことから、本発明の接着シートのコート層の熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂も好適に用いることができることがわかった。
【0079】
表3には、(iii)接着層中に、エポキシ樹脂硬化剤を添加して、コート層中に、エポキシ樹脂硬化促進剤を添加して調製した接着シートの評価結果を示す。実施例15、16は、接着層中には、エポキシ樹脂硬化剤(c1)ジシアンジアミドを添加して、コート層中には、エポキシ樹脂硬化促進剤として、(c4)リン化合物の種類を変えて添加した。表3に示すとおり、(c4)リン化合物の種類により、引張せん断接着強さ及び保存安定性が変動することがわかった。しかしながら、実施例15及び16のいずれにおいても優れた保存安定性、高い引張せん断接着強さ、並びに良好な塗布性、ハンドリング性及び剥離性が得られることが確認された。なお、実施例15と実施例16を比較すると、保存安定性はそれほど大きな違いはないものの、引張せん断接着強さは実施例16の方が明らかに大きいことが確認された。
上記結果より、(iii)の構成において、コート層中に添加するエポキシ樹脂硬化促進剤として、(c4)リン化合物を適用できることがわかった。
【0080】
【0081】
実施例17は、コート層中に添加するエポキシ樹脂硬化促進剤として、(c4)リン化合物に変えて、(c5)三級アミンである(c5-1)2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールを用いて、硬化温度を150℃から130℃に変えた他は、実施例15等と同様の方法で作製した。表3に示すとおり、実施例17においても優れた保存安定性、高い引張せん断接着強さ、並びに良好な塗布性、ハンドリング性及び剥離性が得られることが確認された。
上記結果より、(iii)の構成において、コート層中に添加するエポキシ樹脂硬化促進剤として、(c5)三級アミンも適用できることがわかった。また、実施例17の接着シートの硬化温度は130℃であり、実施例15、16より低温で硬化させることが可能であるため、低温硬化性を要する分野への適用が期待される。
【0082】
表3の実施例18~20は、実施例8~17と同様、(iii)接着層中に、エポキシ樹脂硬化剤を添加して、コート層中に、エポキシ樹脂硬化促進剤を添加して調製した接着シートの評価結果を示す。実施例18~20では、接着層中に添加するエポキシ樹脂硬化剤として、(c3)酸無水物である(c3-1)3, 3’,4,4’ -ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用い、硬化温度を150℃から190℃に変更した。また、コート層中に添加するエポキシ樹脂硬化促進剤として、実施例18は、(c2)イミダゾール化合物である(c2-2)2,4-ジアミノ-6-[2-(2-メチル-1-イミダゾリル)エチル]-1,3,5-トリアジンを用い、実施例19及び20は、(c5)三級アミンである(c5-1)2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールを用いて添加量を変えて作製した。
実施例18~20はいずれも優れた保存安定性、高い引張せん断接着強さ、並びに良好な塗布性、ハンドリング性及び剥離性が得られることが確認された。この結果より、(iii)の構成で、エポキシ樹脂硬化剤として酸無水物を用いることも可能で、特に耐熱性が要求される用途への適用が期待できる。
【0083】
表4には、(iii)接着層中に、エポキシ樹脂硬化剤を添加して、コート層中に、エポキシ樹脂硬化促進剤を添加して調製した接着シートにおいて、コート層と接着層の厚みのそれぞれを変更させた評価結果を実施例21~24として示す。実施例21~24は、接着層の厚みまたはコート層の厚みを変えた他は全て実施例9と同様の方法で作製した。表4に示すとおり、接着層の厚みまたはコート層の厚みを変えても実施例21~24の引張せん断接着強さ及び保存安定性は、実施例9と同等であり、それぞれの厚みを適宜選択して用いることができることが確認された。
【0084】