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特許7596642冷凍パン食感改良用水中油型乳化油脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】冷凍パン食感改良用水中油型乳化油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20241203BHJP
   A21D 2/14 20060101ALI20241203BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20241203BHJP
   A21D 2/26 20060101ALI20241203BHJP
   A21D 15/02 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D2/14
A21D2/18
A21D2/26
A21D15/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020054051
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021153401
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前田 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】古谷 憲一
(72)【発明者】
【氏名】大上 友菜
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-234290(JP,A)
【文献】特開2018-170967(JP,A)
【文献】パン作りに最適な水のpH値とは!?,パン職人の雨ニモマケズ[online],2018年02月19日,[2024年1月30日検索],インターネット<URL:https://kacchin7.com/best-water-ph>
【文献】酵母【イースト】,調理師の専門用語集,日本調理アカデミー,2016年05月30日,[2024年1月30日検索],インターネット<URL:https://www.nihon-chouri.ac.jp/glossary/koubo/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆蛋白質、油脂、澱粉及び水分を含み、
蛋白質含有素材として、全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物に対する蛋白質の重量比が100~200重量%である大豆抽出物を含み、
pH6.5以下であって、可塑性を有することを特徴とする、焼成後冷凍パンの食感改良用水中油型乳化油脂組成物。
【請求項2】
大豆蛋白質、油脂、澱粉及び水分を含み、
蛋白質含有素材として、脱脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物含量が20重量%以上、かつ、炭水化物に対する蛋白質の重量比が200~300重量%である大豆抽出物を含み、
pH6.5以下であって、可塑性を有することを特徴とする、焼成後冷凍パンの食感改良用水中油型乳化油脂組成物。
【請求項3】
油脂を10~40重量%、蛋白質を0.5~15重量%、澱粉を0.5~10重量%含む、請求項1または2に記載の焼成後冷凍パンの食感改良用水中油型乳化油脂組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の焼成後冷凍パンの食感改良用水中油型乳化油脂組成物を、穀粉100重量部に対し3~55重量%配合することを特徴とする、焼成後冷凍パンの食感改良方法。
【請求項5】
請求項3に記載の焼成後冷凍パンの食感改良用水中油型乳化油脂組成物を、穀粉100重量部に対し3~55重量%配合することを特徴とする、焼成後冷凍パンの食感改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷凍工程を有するパン、特に焼成後冷凍パンの食感改良に関する。
【背景技術】
【0002】
製造工程やベーカリーショップの効率化、省力化や省スペース化、少量多品種の品揃え対応、さらには美味しいパンを手軽にいつでも食べたいという消費者ニーズなどを背景とし、パンの製造工程・流通過程において冷凍を行うパン類の利用が進んでいる。
冷凍工程を有するパン類の製造法としては、例えば生地冷凍、生地玉冷凍、成形冷凍、ホイロ後冷凍、半焼成冷凍、焼成後冷凍等があるが、それぞれにメリットとデメリットを有する。
【0003】
この中で、完全に焼成したパンを冷凍する「焼成後冷凍」は、自然解凍、またはオーブンやオーブントースター、電子レンジ等による短時間の再加熱により喫食可能であり、必要分を最小限の手間で提供できる利点を有する。一方で食感の劣化やパサつき、具体的にはしっとり感やソフトさの喪失が比較的顕著であるという課題がある。これまで本課題については顧みられることが少なく、市場が広がりにくいことの一要因ともなっていた。
【0004】
特許文献1は焼成パンに副食物を挟み込んだ冷凍食品に関する出願であり、微粉小麦粉を含む多加水パンとすることで、電子レンジ再加熱による固化やパサつきを抑制できると記載されている。しかし電子レンジ加熱に伴う問題は特異的な現象であり、他の解凍方法における課題解決については開示されていない。
【0005】
特許文献2は分離大豆蛋白質を含有するO/W乳化油脂組成物からなる、ベーカリー生地の表面に塗布するクラスト改質剤に関する出願であり、パーベイク(半焼成)にも適用可能とあるが、焼成後冷凍における食感改良効果の有無についての記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-194518号公報
【文献】特開2018-143143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的はしっとり感やソフト感の良好な、冷凍工程を有するパン、特に焼成後冷凍パンを製造可能な水中油型乳化油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはまず焼成後冷凍パンの各プロセスと最終品の食感への影響を詳細に検証し、焼成後の冷却時、冷凍保管中、および解凍時における水分損失が大きな要因となっていることを見出した。これを抑制する素材についてさらに検討を進め、特定原材料を含み可塑性を有する水中油型乳化油脂組成物が有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0010】
(冷凍工程を有するパン)
製造工程中に冷凍工程を有するパン類としては、生地冷凍、生地玉冷凍、成形冷凍、ホイロ後冷凍、半焼成冷凍、焼成後冷凍が例示できる。本発明の水中油型乳化油脂組成物はこれらのいずれにおいても食感改良効果を有するが、特に、これまで有効な改良方法が知られていなかった「焼成後冷凍」においても顕著な効果を奏する点で、従来の素材とは一線を画する。
【0011】
(焼成後冷凍パン)
焼成後冷凍パンとは、パンを完全焼成の後に冷凍工程を有し、冷凍の状態で保管・流通し、解凍して喫食されるものをいう。解凍の手段としては室温での自然解凍の他、オーブン、オーブントースター、電子レンジ等での短時間再加熱が例示できる。
【0012】
(パンの種類、製造方法)
本発明が適用されるパンの種類としては特に制限はなく、小麦粉や米粉等の穀粉を主原料とし、これに水、油脂類、糖類、澱粉類、調味料、卵、乳製品、イースト、イーストフード、酵素類、乳化剤、フレーバー等の原料を必要に応じて添加し、混捏工程を経て得られた生地を焼成加熱し得られるものを指し、食パン、菓子パン、テーブルロール、調理パン、デニッシュペストリー、ピザ、ピタパン、ナンなどが例示できる。パン生地の製造方法についても特に制限はなく、一般的に使用されるストレート法、中種法、冷凍生地法、冷蔵生地法などをいずれも用いることができる。
本発明の水中油型乳化油脂組成物の添加混合も常法に従えばよく、工程中通常の練り込み油脂と同様に使用することができる。具体的には工程の前半から主原料と同時に混合してもよく、またはミキシングの後半に練り込み油脂と同時、あるいは練り込み油脂の混合の後でも添加できる。配合量のすべてを一度に加えても、数回に分けて加えてもよい。配合量は穀粉100重量部に対し3重量%以上55重量%以下、より好ましくは5~40重量%、さらに好ましくは5~30重量%である。これより少ないと本発明の効果が得られにくく、これより多いとパン生地への均一な混合が困難になる場合がある。
【0013】
(大豆蛋白質)
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、蛋白質含有素材として大豆蛋白質を含むことを特徴とし、より具体的には以下(A)及び/又は(B)の大豆抽出物を含むことが望ましい。
(A)全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物に対する蛋白質の重量比が100~200質量%である大豆抽出物
(B)脱脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物含量が20重量%以上、かつ炭水化物に対する蛋白質の重量比が200~300重量%である大豆抽出物
以下、大豆抽出物(A)、(B)についてさらに説明する。
【0014】
(大豆抽出物(A))
本抽出物の一形態としては低脂肪豆乳が例示できる。これは固形分中の脂質含量と炭水化物に対する蛋白質の重量比(以下、P/C含量と表記する場合がある)が上記範囲となるものである。ちなみに全脂大豆から公知の方法で抽出、オカラを除去して得られる一般の豆乳(全脂豆乳)では、固形分中の脂質含量が20重量%以上、かつP/C含量は250を超える。低脂肪豆乳を得るには、スラリー(大豆粉砕液)や全脂豆乳から高速遠心分離等により脂質を分離する方法や、該スラリーからオカラを分離する際に脂質をオカラ側に移行させる方法を用いることができる。より好ましい態様として、上記の通り予め加熱処理された全脂大豆、好ましくはNSI(水溶性窒素指数)15~77、より好ましくは40~70の全脂大豆を原料とすることによって、さらに本発明の効果を向上させることができる。この方法は例えば特開2012-16348号公報に記載の方法を参照することができる。
【0015】
(大豆抽出物(B))
本抽出物の一形態としては脱脂大豆を原料として製造された粉末状大豆たん白や、脱脂豆乳粉末が例示できる。本条件に合致する組成の市販品を適宜選択すればよく、例えば、商品名:ソヤフィット2000(不二製油株式会社製)が挙げられる。
【0016】
(蛋白質含量)
本発明の水中油型乳化油脂組成物は蛋白質、特に大豆蛋白質を0.5~15重量%含むことが望ましい。より好ましくは1~10重量%、更に好ましくは1.5~5重量%である。これより少ないと本発明の効果が得られにくい場合がある。なお、蛋白質が比較的多い配合では冷凍解凍後のパンの食感、特にソフト感に影響する場合があるが、パン生地製造工程での吸水量を多めにすることで調整できる。
【0017】
(油脂)
本発明の水中油型乳化油脂組成物に用いられる油脂としては、食用として用いられているものであれば植物性油脂、動物性油脂の何れでもよく、例えば、菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、胡麻油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油等の植物性油脂、乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物性油脂、又はこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。これらは単独でも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
配合量は水中油型乳化油脂組成物中10重量%以上40重量%以下が好ましく、より好ましくは15~35重量%、さらに好ましくは20~30重量%である。この範囲外では乳化が不安定になったり、パン生地への練り込みに適した物性が得られにくくなったりする場合がある。
【0018】
(澱粉)
本発明の水中油型乳化油脂組成物に用いる澱粉は食用として用いられているものであれば何れでもよく、例えば小麦澱粉、米澱粉、モチ米澱粉、サゴ澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ等の生澱粉や、これらに架橋処理、α化処理、エーテル化処理、エステル化処理、分解処理等の処理が施された加工澱粉等が挙げられる。配合量は水中油型乳化油脂組成物中0.5重量%以上10重量%以下が好ましく、より好ましくは2~8重量%である。配合量がこれ未満ではパン練り込みに適した可塑性が維持されにくかったり、食感改良効果が十分でなかったりする場合がある。これより多いとパンの食感が損なわれてしまう場合がある。
【0019】
(水分)
本発明の水中油型乳化油脂組成物に用いる水分としては飲用に適するものであれば特に限定されず、水道水、蒸留水、イオン交換水、ミネラルウォーター等を何れも用いることができる。本発明の水中油型乳化油脂組成物の水分含量は、他原料中に由来する水分も含め40~80重量%が好ましく、より好ましくは50~75重量%、さらに好ましくは55~70質量%である。これより多い、又は少ないと乳化が不安定になったり、パン生地への練り込みに適した物性が維持されにくくなったりする場合がある。
【0020】
(可塑性)
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、その性状が可塑性を有することを特徴とする。さらに、5℃におけるレオメーター測定値による硬さが150~500g/19.6mm2(直径30mm円形プランジャー、テーブルスピード50mm/分)、より好ましくは180~450g/19.6mm2、最も好ましくは200~400g/19.6mm2であることが望ましい。かかる硬さを有する可塑性の水中油型乳化油脂組成物は、均一にパン生地に練り込みやすい物性を備える。
【0021】
(水中油型乳化油脂組成物のpH)
本発明の水中油型乳化油脂組成物のpHは7.5以下であることを特徴とする。より好ましくは3.5以上7以下である。水中油型乳化油脂組成物の原料混合後のpH又は乳酸発酵物の発酵停止時のpHにより、酸あるいは逆にアルカリ剤を添加し、目的とするpHに適宜調整することが好ましい。
pH調整に用いる酸としては食用として用いられているものであれば無機酸、有機酸の何れでもよく、例えば、リン酸等の無機酸や、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸、グルコン酸等の有機酸が挙げられ、これらを単独ないしは2種以上を組合せて用いることもできる。乳酸菌を原料に添加し乳酸発酵させて乳酸を生成させても良い。また該乳酸発酵と酸の添加を併用することもできる。
【0022】
(乳酸発酵)
本発明の水中油型乳化油脂組成物においては、上記の通り、少なくとも蛋白質を含む原料の一部又は全部を乳酸発酵させることができる。特に蛋白質を含む原料として本抽出物が乳酸発酵されていることが好ましく、他の蛋白質を含む原料が用いられる場合には、全ての蛋白質を含む原料が乳酸発酵されていることが好ましい。乳酸発酵を経た水中油型乳化油脂組成物を用いることで、冷凍工程を有するパンに更に良好な「しっとり感」を付与することができる。
蛋白質以外の油脂、澱粉や他の原料は、蛋白質を含む原料と共に乳酸発酵されていてもよい。例えば蛋白質と油脂を共に乳酸発酵する場合には、蛋白質と油脂との乳化物を乳酸発酵することができる。
乳酸発酵に使用される乳酸菌は特に限定はされず、通常の発酵乳に使用する一般的な乳酸菌、例えば、ラクトバチルス・ブルガリクス、ストレプコッカス・サーモフィルス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ヘルベチカス、ラクトバチルス・ラクチス、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・サンフランシスコ、ラクトバチルス・パネックス、ラクトバチルス・コモエンシス、ラクトバチルス・カルバタス、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・ヒルガルディ、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ルテリ、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ストレプトコッカス・ラクチス、ストレプトコッカス・クレモリス、ストレプトコッカス・ジアセチルラクチス、ロイコノストック・メセンテロイデス、ロイコノストック・クレモリス、ビフィドバクテリム属等の単独または混合物を使用することができる。
【0023】
(他原料)
本発明の水中油型乳化油脂組成物中には上記の他にもゲル化剤、安定剤、乳化剤、多糖類、食物繊維、糖類、甘味料、塩類等、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜添加することができる。
【0024】
(水中油型乳化油脂組成物の製造)
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、例えば全原料を混合、乳化して得た原料液に、酸を添加するか乳酸発酵することにより製造することが好ましい。また、例えば蛋白質を含む原料の一部又は全部を混合し、必要により油脂と乳化して得た原料液に酸を添加するか乳酸発酵した後、残りの原料を混合し、必要により油脂と乳化することにより製造することが好ましい。酸の添加又は乳酸発酵の前後には、必要により加熱殺菌を行うこともできる。また乳化はホモゲナイザー等により行うことができ、必要により乳化の前に予め撹拌機等により水相と油相を予備乳化させておいてもよい。
【0025】
(実施例)
以降に本発明をより詳細に説明する。なお、文中の「部」および「%」は、特に断りのない限り重量基準を意味する。
【0026】
(水中油型乳化油脂組成物(1)の製造)
菜種硬化油26部を60℃に加温し、水24部、蛋白質含有素材として低脂肪豆乳(商品名:美味投入(R)、不二製油(株)製)40部を混合し50℃に加温した。糖類5部、澱粉5部を混合し、50℃で撹拌しながら乳酸でpH5.5に調整後、80~90℃で加熱撹拌して殺菌し、次いで4MPaの圧力にてホモゲナイザーで均質化し、冷却して本発明の「水中油型乳化油脂組成物(1)」を得た。
該組成物の組成および物性値を、後述する他の組成物とともに表1-1、1-2に示した。硬さの測定はレオメーターを使用し、直径30mm円形プランジャー、テーブルスピード50mm/分の条件で行った。なお、本実施例で用いた低脂肪豆乳はNSIが20~77の範囲となるように加熱処理された全脂大豆からの抽出物であり、特開2012-16348号公報に記載の方法で製造された。
【0027】
(水中油型乳化油脂組成物(2)の製造)
菜種硬化油20部を60℃に加温し、水20部、蛋白質含有素材として低脂肪豆乳(商品名:美味投入(R)、不二製油(株)製)50部を混合し50℃に加温した。糖類5部、デキストリン5部を混合し、50℃で加熱攪拌し予備乳化の後、2MPaの圧力にてホモゲナイザー出で均質化し、70~80℃で殺菌後24℃まで冷却した。
続いて該乳化液に対してラクトバチルス・ブルガリカス及びストレプトコッカス・サーモフィラスを混合した乳酸菌スターターを0.01%添加し37~40℃で約5時間発酵させた。発酵液のpHは4.5であった。得られた発酵液80部に対して菜種硬化油10部、澱粉5部、さらに水を加えて100部とし、50℃で撹拌しながらアルカリでpH5.5に調整後、80~90℃で加熱撹拌して殺菌し、次いで2MPaの圧力にてホモゲナイザーで均質化し、冷却して本発明の「水中油型乳化油脂組成物(2)」を得た。
【0028】
(水中油型乳化油脂組成物(3)の製造)
水中油型乳化油脂組成物(1)の配合中、低脂肪豆乳を脱脂豆乳粉末(商品名:ソヤフィット2000、不二製油株式会社)3.5部、水を60.5部に代え、他は同様に製造した。
【0029】
(水中油型乳化油脂組成物 (4)の製造)
水中油型乳化油脂組成物(1)の配合中、低脂肪豆乳を全脂豆乳(商品名:無調整豆乳、不二製油株式会社)42部に、水を22部に代え、他は同様に製造した。
【0030】
(水中油型乳化油脂組成物 (5)の製造)
水中油型乳化油脂組成物(1)の配合中、低脂肪豆乳を市販の低脂肪牛乳55部、水を9部に代え、他は同様に製造した。
【0031】
(水中油型乳化油脂組成物 (6)の製造)
水中油型乳化油脂組成物(1)の配合中、澱粉の配合を省略し、水を29部とし、他は同様に製造した。
【0032】
(水中油型乳化油脂組成物 (7)の製造)
水中油型乳化油脂組成物(1)の工程において、pHを4.0に調整した。
【0033】
(水中油型乳化油脂組成物 (8)の製造)
水中油型乳化油脂組成物(1)の工程において、pHを7.0に調整した。
【0034】
(水中油型乳化油脂組成物 (9)の製造)
水中油型乳化油脂組成物(1)の工程において、アルカリを用いてpHを8.5に調整した。
【0035】
(表1-1)水中油型乳化油脂組成物(1)~(5)の組成、物性値
【0036】
(表1-2)水中油型乳化油脂組成物(6)~(9)の組成、物性値
【0037】
(パンの製造、及び冷凍・解凍試験)
表2、表3の配合及び製造条件に従い、マーガリン以外の原材料(水中油型乳化油脂組成物を含む)を合わせ、縦型ミキサーで低速4分、中速3分、高速2分ミキシングした。ここにマーガリンを加えて低速1分、中速3分、高速3分ミキシングし生地を得た。フロアタイム60分の後110gに分割して丸め、約20分のベンチタイム後に生地を丸め直し、食パン型(半斤)に入れホイロの後、上火200℃/下火200℃、28分焼成した。得られたパンは20℃、湿度50%の条件で60分放冷後、-35℃にて急速冷凍し、-20℃の冷凍庫にて7日間保管した。これを38℃、湿度80%にて3時間解凍後、-35℃、3時間の冷凍を5回行い(サイクルテスト)、室温解凍後に官能評価を行った。
【0038】
(官能評価基準)
評価は熟練したパネラー5名にて行い、対照区を0として「しっとり感」「ソフトさ」の2観点から評点を付与し、合議にて決定した。両項目とも+2以上で「有意に改良効果あり」と最終判定した。
(+1):やや良好 ~(+5):顕著に良好
( 0 ):対照区と差なし
(-1):やや劣る ~(-5):著しく劣る
【0039】
(練り込み作業性の評価)
水中油型乳化油脂組成物の練り込みの作業性については下記基準により評価した。
◎:特に良好、○:良好、△:難ありで混合作業に長時間を要する
【0040】
(表2)パン配合
【0041】
(表3)パン製造条件、冷凍・解凍試験条件
【0042】
(検討1)
水中油型乳化油脂組成物(1)、(3)~(6)を用いて製造したパンの比較を表4に示した。P/C含量160%の低脂肪豆乳、またはP/C含量226%の脱脂豆乳粉末を用い、かつ澱粉を含有する実施例1、2において、過酷な冷凍解凍サイクルテストの後にも関わらず、しっとり感およびソフトさが有意に改善できることが確認された。
【0043】
(表4)
【0044】
(検討2)
乳化油脂組成物(1)、(2)、(7)、(8)、(9)を用いて製造したパンの比較を表5に示した。pH7以下の試験区において有意な効果が確認できた。中でも乳酸発酵を経た実施例3は特に良好な結果であった。発酵により生成した有機酸等の効果によるものと推察された。
【0045】
(表5)