(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】銅合金板、めっき皮膜付銅合金板及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 9/04 20060101AFI20241203BHJP
C22F 1/08 20060101ALI20241203BHJP
C25D 5/10 20060101ALI20241203BHJP
C25D 5/34 20060101ALI20241203BHJP
C25D 5/50 20060101ALI20241203BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20241203BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20241203BHJP
【FI】
C22C9/04
C22F1/08 B
C22F1/08 K
C25D5/10
C25D5/34
C25D5/50
C25D7/00 G
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 630C
C22F1/00 630M
C22F1/00 661A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
(21)【出願番号】P 2020133279
(22)【出願日】2020-08-05
【審査請求日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2019144181
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】森川 健二
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 直輝
(72)【発明者】
【氏名】牧 一誠
(72)【発明者】
【氏名】船木 真一
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-084923(JP,A)
【文献】特開2015-160994(JP,A)
【文献】特開2007-051370(JP,A)
【文献】特開2003-160829(JP,A)
【文献】特開平02-125830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/04
C22F 1/08
C25D 5/10
C25D 5/34
C25D 5/50
C25D 7/00
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚方向の中心部において、2.0%(mass%、以下同じ)を超え32.5%以下のZnと、0.1%以上0.9%以下のSnと、0.05%以上1.0%未満のNiと、0.001%以上0.1%未満のFeと、0.005%以上0.1%以下のPと、含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金板であって、表面における表面Zn濃度が前記中心部における中心Zn濃度の
40%以下であり、Zn濃度が前記表面から前記中心Zn濃度の90%となるまでの深さの表層部を有し、該表層部は、前記表面から前記中心部に向かって10質量%/μm以上1000質量%/μm以下の濃度勾配で前記Zn濃度が増加していることを特徴とする銅合金板。
【請求項2】
さらにCoを0.001%以上0.1%未満、含有していることを特徴とする請求項1に記載の銅合金板。
【請求項3】
前記表層部の厚さは、1μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の銅合金板。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載した銅合金板と、
前記銅合金板の前記表層部の上に形成されためっき皮膜と、を備えることを特徴とするめっき皮膜付銅合金板。
【請求項5】
前記めっき皮膜中のZnの平均濃度は前記中心Zn濃度の10%以下であることを特徴とする請求項4記載のめっき皮膜付銅合金板。
【請求項6】
前記めっき皮膜が、錫、銅、亜鉛、ニッケル、金、銀、パラジウムおよびそれらの各合金のうちから選ばれる1つ以上の層からなることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のめっき皮膜付銅合金板。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか一項に記載の銅合金板を製造する方法であって、Znを表面に拡散させて濃化させ、Znが濃化した表面部を形成するZn濃化処理と、
前記表面部を除去して前記表層部を形成する表面部除去処理とを有することを特徴とする銅合金板の製造方法。
【請求項8】
請求項4から請求項6のいずれか一項に記載のめっき皮膜付銅合金板を製造する方法であって、前記めっき皮膜を電流密度0.1A/dm
2以上60A/dm
2以下の電解めっきで形成することを特徴とするめっき皮膜付銅合金板の製造方法。
【請求項9】
前記めっき皮膜に錫を含んでおり、
前記電解めっき処理後、加熱ピーク温度が230℃以上330℃以下、前記加熱ピーク温度での加熱時間が0.5秒以上30秒以下でリフロー処理することを特徴とする請求項8記載のめっき皮膜付銅合金板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄銅(Cu―Zn合金)にSn、Ni、Fe、Pを含有させた銅合金板、その銅合金板にめっきを施してなるめっき皮膜付銅合金板及びこれらの製造方法に関する。本願は、2019年8月6日に日本国に出願された特願2019-144181号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置のコネクタなどの端子、あるいは電磁リレーの可動導電片などの電子・電気用の導電部品としては、銅もしくは銅合金が使用されており、そのうちでも、強度、加工性、コストのバランスなどの観点から、黄銅(Cu-Zn合金)が従来から広く使用されている。またコネクタなどの端子の場合、主として相手側の導電部材との接触の信頼性を高めるため、Cu-Zn合金からなる基材(素板)の表面に錫(Sn)めっきを施して使用することが多くなり、リサイクル性なども考慮して基材のCu-Zn合金自体にSnを添加したCu-Zn―Sn系合金を使用する場合も増えてきている。
【0003】
しかしながら、これらCu―Zn―Sn系合金は耐応力緩和特性が低いことが問題であり、この耐応力緩和特性を向上させるため、従来から例えば特許文献1~特許文献5に記載されたような方策が示されている。
【0004】
特許文献1においては、Cu-Zn―Sn系合金にNiを含有させてNi-P系化合物を生成させることによって耐応力緩和特性を向上させることができると記載されている。
特許文献2においては、Cu-Zn―Sn系合金に、Ni、FeをPとともに添加して化合物を生成させることにより、強度、弾性、耐熱性を向上させ得ることが記載されている。この特許文献2には耐応力緩和特性の直接的な記載はないが、上記の強度、弾性、耐熱性の向上は、耐応力緩和特性の向上を意味しているものと思われる。
【0005】
特許文献3では、Cu-Zn―Sn系合金にNiを添加するとともに、Ni/Sn比を特定の範囲内に調整することにより耐応力緩和特性を向上させることができると記載されている。またFeの微量添加も耐応力緩和特性の向上に有効である旨、記載されている。
【0006】
特許文献4はリードフレームを対象としたものであるが、Cu―Zn―Sn系合金に、Ni、FeをPとともに添加し、同時に(Ni+Fe)/Pの原子比を0.2~3の範囲内に調整して、Fe―P系化合物、Ni―P系化合物、もしくはFe―Ni―P系化合物を生成させることにより、耐応力緩和特性の向上が可能となる旨、記載されている。
【0007】
これら特許文献1~特許文献4の提案により、耐応力緩和特性をある程度向上させることは可能となったがまだ十分とは言い難く、さらなる向上が望まれていた。かかる状況の中、特許文献5に記載のように、Fe、Ni、Pの合計量と(Ni+Fe)/P、Fe/Ni比、さらにはSn/(Ni+Fe)をバランス良く調整することによって、耐応力緩和特性がさらに向上することが見出された。
【0008】
以上のように、黄銅(Cu―Zn合金)にSn、Ni、Fe、Pを含有させた銅合金からなる電子・電気機器導電部品用銅合金は、特にコネクタのごとく薄板(条)に圧延して曲げ加工を施した曲げ部分を有し、かつその曲げ部分付近で相手側導電部材と接触させて、曲げ部分のバネ性により相手側導電部材との接触状態を維持するように使用される部品において、優れた耐応力緩和特性を持たせることが可能となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平5-33087号公報
【文献】特開2006-283060号公報
【文献】特許第3953357号公報
【文献】特許第3717321号公報
【文献】特許第5303678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、Znを含有する銅合金は、添加されたZnにより優れた機械的強度と良好な導電性とのバランスを有している。一方で、はんだ濡れ性が悪化し、電気的接続信頼性が劣化する恐れがあった。特に、電子・電気機器導電部品では電気的接続信頼性をさらに向上させるために、母材にSnめっきを施したのちに加熱溶融処理(リフロー処理)を行うことが多いが、Znを含有する銅合金では、かかる処理を行った場合に、Snめっき表面のはんだ濡れ性低下が著しくなり、また、めっき皮膜の密着性も低下する恐れがあった。
【0011】
本発明では、このような事情に鑑みてなされたものであり、Znを含有する銅合金板において、はんだ濡れ性及びめっき皮膜の密着性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの事情に鑑み、発明者らは鋭意研究の結果、はんだ濡れ性の低下は母材表面に存在するZnが酸化することが原因であり、特に、母材にSnめっきを施した後に加熱溶融処理を行った場合、加熱により母材中のZnが拡散してめっき皮膜表面に到達することにより、はんだ濡れ性低下が著しくなることを見出した。この場合、銅合金の母材中のCuがSnと合金化することにより、Sn-Cu合金層が形成されるため、このSn-Cu合金層にZnが取り込まれ、その上のSn層表面(めっき皮膜表面)にZnが拡散しやすくなる。
【0013】
Znは活性元素であるため、めっきする前の銅合金板表面のZnは即座に酸化Znとなる。表面にZnが多い銅合金板にめっきした場合、母材表面にある酸化Znとめっき皮膜中の金属とは金属結合を容易には形成できないため、めっき皮膜の密着性が劣り、加熱等による剥離が生じ易くなる。
【0014】
このような知見の下、本発明は、銅合金板の表層部のZn濃度を適切に制御することにより、表面の酸化を抑制するとともに、めっき皮膜を形成した場合でもめっき皮膜中のZn濃度を低減させ、はんだ濡れ性の向上及び密着性の向上を図ったものである。
【0015】
本発明の銅合金板は、板厚方向の中心部において、2.0%(質量%、以下同じ)を超え32.5%以下のZn、0.1%以上0.9%以下、Niを0.05%以上1.0%未満のSn、0.001%以上0.1%未満のFe、0.005%以上0.1%以下のPを含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金板であって、表面における表面Zn濃度が前記中心部における中心Zn濃度の60%以下であり、Zn濃度が前記表面から前記中心Zn濃度の90%となるまでの深さの表層部を有し、該表層部は、前記表面から前記中心部に向かって10質量%/μm以上1000質量%/μm以下の濃度勾配で前記Zn濃度が増加している。
【0016】
この銅合金板は、表面Zn濃度が中心Zn濃度の60%以下であり、表面Zn濃度が低いので、表面に酸化Znが生じにくい。このため、電気的接続信頼性に優れ、このまま接点として利用できるとともに、表面にめっき皮膜を形成した場合にめっき皮膜の剥離を防止することができる。また、めっき皮膜を形成した後に加熱処理した場合でも、めっき皮膜中にZnが拡散することを抑制できる。したがって、めっき皮膜表面においてもはんだ濡れ性に優れる。
【0017】
銅合金板表面の酸化防止及びめっき皮膜へのZn拡散抑制の点からは、表面Zn濃度は、中心Zn濃度の60%以下が好ましい。また、表層部でZn濃度が急激に変化しているため、表層部が薄く、銅合金の優れた機械的特性は維持される。
【0018】
表層部において、表面からのZnの濃度勾配が10質量%/μm未満であると、上記のZn拡散を抑制する特性は飽和する一方で、相当の深さとなるまで所望のZn濃度にならず、Zn含有銅合金板としての特性が損なわれる。一方、Znの濃度勾配が1000質量%/μmを超えていると、Zn濃度の低い表層部が薄くなり過ぎて、Znの拡散を抑制する効果が乏しくなる。
【0019】
銅合金板の一つの実施態様は、前記表層部の厚さは、0μm以上1μm以下である。表層部の厚さが1μmを超えていると、板厚の全体の中でZn濃度の少ない範囲が占める割合が多くなり、Zn含有銅合金としての機械的特性を損なうおそれがある。この特性劣化は特に板厚が薄い場合に顕著になる。
【0020】
本発明のめっき皮膜付銅合金板は、前記銅合金板と、前記銅合金板の前記表層部の上に形成されためっき皮膜とを備えている。
このめっき皮膜付銅合金板は、銅合金板の表面Zn濃度が低く、銅合金板表面に酸化Znが少ないので、めっき皮膜の密着性に優れている。また、銅合金板からめっき皮膜中に拡散するZnも低減することができ、はんだ濡れ性に優れている。
【0021】
めっき皮膜付銅合金板の一つの実施態様は、前記めっき皮膜中のZnの平均濃度は前記中心Zn濃度の10%以下である。
【0022】
めっき皮膜中のZnの平均濃度が銅合金板の中心Zn濃度の10%を超えると、Znの表面拡散による接触抵抗に及ぼす影響が大きくなる。
【0023】
めっき皮膜付銅合金板の他の一つの実施態様は、前記めっき皮膜が、錫、銅、亜鉛、ニッケル、金、銀、パラジウムおよびそれらの各合金のうちから選ばれる1つ以上の層からなる。めっき皮膜をこれらの金属又は合金とすることにより、コネクタ端子として好適に使用できる。
【0024】
本発明の銅合金板の製造方法は、Znを表面に拡散させ、Znが濃化した表面部を形成するZn濃化処理と、前記表面部を除去して表層部を形成する表面部除去処理とを有する。
【0025】
この製造方法では、Zn含有銅合金中のZnをまず表面部に拡散させて濃化させた後、その濃化した表面部を除去している。表面部を除去した後に形成される表層部は、Zn濃度が低く、酸化膜の発生も少ないので、はんだ濡れ性に優れる。
【0026】
本発明のめっき皮膜付銅合金板の製造方法は、前記めっき皮膜を電流密度0.1A/dm2以上60A/dm2以下の電解めっき処理で前記銅合金板上に形成する。電解めっき時の電流密度が0.1A/dm2未満であると、成膜速度が遅く経済的でない。電流密度が60A/dm2を超えていると拡散限界電流密度を超え、欠陥の無い皮膜を形成できない。
【0027】
たとえば前記電解めっき処理として電解錫めっき処理を行った場合、対ウイスカ性を高めるためにリフロー処理を実施してもよい。すなわち、めっき皮膜付銅合金板の製造方法の一つの実施態様は、前記めっき皮膜に錫を含んでおり、前記電解めっき後、加熱ピーク温度が230℃以上330℃以下、望ましくは300℃以下、前記加熱ピーク温度での加熱時間が0.5秒以上30秒以下、望ましくは1秒以上20秒以下でリフロー処理する。
【0028】
処理時のピーク加熱温度が230℃未満若しくは加熱時間が0.5秒未満では、錫が溶融しない。加熱温度が330℃を超えている、若しくは加熱時間が30秒を超えていると、過剰加熱によりZnのめっき皮膜表面への拡散が進行し、はんだ濡れ性が低下する。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、表面の酸化を抑制するとともに、電気的接続信頼性及び銅合金板表面のはんだ濡れ性を向上させ、まためっき皮膜を形成した場合でもめっき皮膜中のZn濃度を低減させ、めっき皮膜表面のはんだ濡れ性の向上及びめっき皮膜と銅合金板の密着性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明のめっき皮膜付銅合金板の一実施形態を模式的に示した断面図である。
【
図2】銅合金板の深さ方向のZn成分をXPSで測定した分析図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施形態について説明する。
この実施形態のめっき皮膜付銅合金板1は、
図1に示すように、Zn及びSn、Ni、P、Feを含有する銅合金板10の表面10aに、Cu層21、Sn-Cu合金層22及びSn層23が順に積層されてなるめっき皮膜20が形成されている。
【0032】
[銅合金板]
銅合金板10は、板厚方向の中心部において、質量%(以下の元素含有率も同じ)で、2.0%を超え32.5%以下のZnと、Snを0.1%以上0.9%以下、Niを0.05%以上1.0%未満、Feを0.001%以上0.1%未満、Pを0.005%以上0.1%以下を含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる。
【0033】
(Zn)
Zn(亜鉛)は、本発明で対象としている銅合金(黄銅)において基本的な合金元素であり、銅合金板10の強度およびばね性の向上に有効な元素である。またZnはCuより安価であるため、銅合金板10の材料コストの低減にも効果がある。Zn濃度が2.0%以下では、材料コストの低減効果が十分に得られない。また、強度およびばね性の向上効果が不十分である。一方、Zn濃度が32.5%を超えれば、耐応力緩和特性が低下してしまい、Fe、Ni、Pを添加しても、十分な耐応力緩和特性を確保することが困難となり、また耐食性が低下するとともに、β相が多量に生じるため冷間圧延性および曲げ加工性も低下してしまう。したがってZn濃度は2.0%を超え32.5%以下の範囲内とした。なお、Zn濃度は、上記の範囲内でも4.0%以上32.5%以下の範囲内が好ましく、さらには8.0%以上32.0%以下の範囲内が好ましく、特に8.0%以上27.0%以下の範囲内が好ましい。
【0034】
この場合、Zn濃度は、板厚の中心部におけるZn濃度(中心Zn濃度)は前述した2.0%超え32.5%以下であるが、表面10aのZn濃度(表面Zn濃度)は中心Zn濃度の60%以下(0%以上)とされる。また、Zn濃度は、表面から板厚の中心に向かって10質量%/μm以上1000質量%/μm以下の濃度勾配が生じている。
【0035】
この銅合金板10は、表面Zn濃度が中心Zn濃度の60%以下であるので、表面10aに酸化Znが生じにくく、また、後にめっきを施して加熱処理した場合でも、めっき皮膜20中にZnが拡散することを抑制できる。したがって、はんだ濡れ性に優れるとともに、めっき皮膜20の剥離を防止することができる。
【0036】
表面10aの酸化防止及びめっき皮膜20へのZn拡散抑制の点からは、表面10aにZnが含有していなければよい(表面Zn濃度が中心Zn濃度の0%)。しかしながら、表面Zn濃度が中心Zn濃度の60%以下であれば、Zn含有銅合金としての特性が表面でもある程度付与されるので好ましい。より好ましい表面Zn濃度は、中心Zn濃度に対して40%以下、さらに好ましくは30%以下である。
【0037】
この表面10aから板厚方向に生じているZnの濃度勾配が10質量%/μm未満であると、相当の深さとなるまで所望のZn濃度にならず、Zn含有銅合金板としての特性が損なわれる。一方、Znの濃度勾配が1000質量%/μmを超えていると、その濃度勾配が生じている部分(後述の表面部)が薄くなりすぎることから、Znの拡散を抑制する効果が乏しくなる。このZnの濃度勾配は好ましくは20質量%/μm以上500質量%/μm以下、より好ましくは50質量%/μm以上200質量%/μm以下である。
【0038】
なお、この濃度勾配が生じている部分において、Zn濃度が中心Zn濃度の90%となる深さ位置から表面10aまでの範囲を表層部11とする。この表層部11は、厚さが0μm以上1μm以下であり、好ましくは0.3μm以下、より好ましくは0.2μm以下である。この表層部11に対して、表層部11より内側の部分を母材内部12とする。
【0039】
図2は、銅合金板10を板厚方向に薄膜化して得た試料をX線光分子分光測定装置(XPS)にて深さ方向にZn成分を分析した結果を示すグラフであり、横軸が表面10aからの深さ、縦軸がXPSのスペクトル強度である。母材板厚方向中心部で測定されるZn濃度は安定しており、その最大値と最小値の算術平均を「中心Zn濃度」とし、表面10aから板厚方向の中心部に向かって変化するZn濃度が中心Zn濃度の90%に最初に達した位置までの(表面10aからの)深さを「表層部厚さ」とした。
【0040】
(Sn、Ni、Fe、P)
Sn(錫)の添加は銅合金板10の強度向上に効果があり、またSnめっきを施して使用する電子・電気機器材料の母材を黄銅合金として、Snを添加しておくことが、Snめっき付き黄銅材のリサイクル性の向上に有利となる。さらにSnがNiおよびFeと共存すれば、銅合金板10の耐応力緩和特性の向上にも寄与することが本発明者等の研究により判明している。Snが0.1%未満ではこれらの効果が十分に得られず、一方Snが0.9%を超えれば、熱間加工性および冷間圧延性が低下してしまい、熱間圧延や冷間圧延で割れが発生してしまうおそれがあり、また導電率も低下してしまう。
【0041】
そこでSnの添加量は0.1%以上0.9%以下の範囲内とした。なおSn濃度は、上記の範囲内でも特に0.2%以上0.8%以下の範囲内が好ましい。
【0042】
Ni(ニッケル)は、Fe、Pと並んで本発明において特徴的な添加元素であり、Cu-Zn―Sn合金に適量のNiを添加して、NiをFe、Pと共存させることによって、〔Ni,Fe〕-P系析出物を母相(α相主体)から析出させることができる。また、NiをFe、Co,Pと共存させることによって、〔Ni,Fe,Co〕-P系析出物を母相(α相主体)から析出させることができる。
【0043】
これらの〔Ni,Fe〕-P系析出物もしくは〔Ni,Fe,Co〕-P系析出物が存在することによって、再結晶の際に結晶粒界をピン止めする効果により、母相である銅の平均結晶粒径を小さくすることができる。その結果、銅合金板10の強度を増加させることができる。またこのように平均結晶粒径を小さくすることによって、曲げ加工性や耐応力腐食割れ性も向上させることができる。さらに、これらの析出物の存在により、耐応力緩和特性を大幅に向上させることができる。加えて、NiをSn、Fe、Co(コバルト),Pと共存させることで、析出物による耐応力緩和特性の向上だけでなく、固溶強化による強度向上にも効果がある。ここで、Niの添加量が0.05%未満では、耐応力緩和特性を十分に向上させることができない。一方Niの添加量が1.0%以上となれば、母相に固溶するNiが多くなって導電率が低下し、また高価なNi原材料の使用量の増大によりコスト上昇を招く。
【0044】
そこでNiの添加量は0.05%以上1.0%未満の範囲内とした。なおNiの添加量は、上記の範囲内でも特に0.05%以上0.8%未満の範囲内とすることが好ましい。
【0045】
Fe(鉄)は本発明において特徴的な添加元素であり、Cu-Zn―Sn合金に適量のFeを添加して、FeをNi、Pと共存させることによって、〔Ni,Fe〕-P系析出物を母相(α相主体)から析出させることができる。また、FeをNi、Co,Pと共存させることによって、〔Ni,Fe,Co〕-P系析出物を母相(α相主体)から析出させることができる。
【0046】
これらの〔Ni,Fe〕-P系析出物もしくは〔Ni,Fe,Co〕-P系析出物が存在することによって、再結晶の際に結晶粒界をピン止めする効果により、銅の平均結晶粒径を小さくすることができ、その結果、銅合金板10の強度を増加させることができる。またこのように平均結晶粒径を小さくすることによって、曲げ加工性や耐応力腐食割れ性も向上させることができる。さらに、これらの析出物の存在により、耐応力緩和特性を大幅に向上させることができる。ここで、Feの添加量が0.001%未満では、結晶粒界をピン止めする効果が充分に得られず、そのため充分な強度が得られない。一方Feの添加量が0.10%以上としても、一層の強度向上は認められず、母相に固溶するFeが多くなって導電率が低下し、また冷間圧延性も低下してしまう。
【0047】
そこでFeの添加量は0.001%以上0.10%未満の範囲内とした。なおFeの添加量は、上記の範囲内でも特に0.002%以上0.08%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0048】
P(リン)は、Fe、Ni、さらにはCoとの結合性が高く、Fe、Niとともに適量のPを含有させれば、〔Ni,Fe〕-P系析出物を析出させることができる。またFe、Ni、Coとともに適量のPを含有させれば、〔Ni,Fe,Co〕-P系析出物を析出させることができる。
【0049】
これらの析出物の存在によって、銅合金板10の耐応力緩和特性を向上させることができる。ここで、Pの含有量が0.005%未満では、十分に〔Ni,Fe〕-P系析出物または〔Ni,Fe,Co〕-P系析出物を析出させることが困難となり、十分に耐応力緩和特性を向上させることができなくなる。一方Pの含有量が0.10%を超えれば、母相へのPの固溶量が多くなって、導電率が低下するとともに圧延性が低下して冷間圧延割れが生じやすくなってしまう。
【0050】
そこでPの含有量は、0.005%以上0.10%以下の範囲内とした、なおPの含有量は、上記の範囲内でも特に0.01%以上0.08%以下の範囲内が好ましい。
【0051】
なお、Pは、銅合金の溶解原料から不可避的に混入することが多い元素であり、従ってPの含有量を上述のように規制するためには、溶解原料を適切に選定することが望ましい。
【0052】
以上の各元素の残部は、基本的にはCu(胴)および不可避的不純物とすればよい。ここで不可避的不純物としては、Mg,Al, Mn, Si, (Co),Cr,Ag,Ca,Sr,Ba,Sc,Y,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Re,Ru,Os,Se,Te,Rh,Ir,Pd,Pt,Au,Cd,Ga,In,Li,Ge,As,Sb,Ti,Tl,Pb,Bi,S,O,C,Be,N,H,Hg, B、Zr、希土類等が挙げられるが、これらの不可避不純物は、総量で0.3質量%以下であることが望ましい。
【0053】
なお、このうちCoについては意図的に0.001%以上0.10%未満含有させてもよい。Coをこの範囲でNi、Fe、Pとともに添加すれば、〔Ni,Fe,Co〕-P系析出物が生成され、銅合金板10の耐応力緩和特性をより一層向上させることができる。ここでCo添加量が0.001%未満では、Co添加による耐応力緩和特性のより一層の向上効果が得られず、一方Co添加量が0.10%以上となれば、固溶Coが多くなって導電率が低下し、また高価なCo原材料の使用量の増大によりコスト上昇を招く。
【0054】
そこでCoを添加する場合のCoの添加量は0.001%以上0.10%未満の範囲内とした。なおCoの添加量は、上記の範囲内でも特に0.002%以上0.08%以下の範囲内とすることが好ましい。なおまた、Coを積極的に添加しない場合でも、不純物として0.001%未満のCoが含有されることがあることはもちろんである。
【0055】
[めっき皮膜]
めっき皮膜20は、銅合金板10の表面10aからめっき皮膜20の表面20aにかけて、厚さが0μm~1μmのCu層21、厚さが0.1μm~1.5μmのSn-Cu合金層22、厚さが0.1μm~3.0μmのSn層23の順で構成されている。
【0056】
Cu層21の厚さが1μmを超えると、加熱時に、めっき皮膜層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき皮膜20の剥離が生じるおそれがある。このCu層21は存在しない場合もある。
【0057】
Sn-Cu合金層22は、硬質であり、その厚さが0.1μm未満では、コネクタとしての使用時の挿入力の低減効果が薄れて強度が低下する。Sn-Cu合金層22の厚さが1.5μmを超えると、加熱時に、めっき皮膜20に発生する熱応力が高くなり、めっき皮膜20の剥離が生じるおそれがある。
【0058】
Sn層23の厚さが0.1μm未満では、はんだ濡れ性が低下し、厚さが3.0μmを超えると、加熱した際にめっき皮膜20内部に発生する熱応力が高くなるおそれがある。
【0059】
以上の層構成からなるめっき皮膜20中のZnの平均濃度は銅合金板10の中心Zn濃度の10%以下(0%以上)である。
【0060】
めっき皮膜20中のZnの平均濃度は、銅合金板10の中心Zn濃度の10%を超えると、めっき皮膜中のZnが表面20aに拡散してはんだ濡れ性を低減させるおそれがある。めっき皮膜20中のZnの平均濃度は、銅合金板10の中心Zn濃度の5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
【0061】
[製造方法]
以上のように構成されるめっき皮膜付銅合金板1を製造する方法について説明する。
【0062】
このめっき皮膜付銅合金板1は、2.0%を超え32.5%以下のZn、0.1%以上0.9%以下のSn、0.05%以上1.0%未満のNi、0.001%以上0.1%未満のFe、0.005%以上0.1%以下のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する銅合金母材を製造し(銅合金用母材製造工程)、得られた銅合金母材に表面処理を施した(表面処理工程)後、めっき処理し(めっき処理工程)、リフロー処理する(リフロー処理工程)ことにより、製造される。
【0063】
(銅合金母材製造工程)
銅合金母材は、上記の成分範囲に調合した材料を溶解鋳造により銅合金鋳塊を作製し、この銅合金鋳塊を熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍、仕上げ冷間圧延をこの順序で含む工程を経て製造される。本実施例では、銅合金母材の板厚を0.2mmとした。
【0064】
(表面処理工程)
得られた銅合金母材に表面処理を施す。この表面処理は、銅合金母材中のZnを表面部に拡散させて濃化するZn濃化処理と、Znが濃化した表面部を除去する表面部除去処理とを有する。
【0065】
Zn濃化処理としては、銅合金母材を酸素やオゾン等の酸化性雰囲気下で所定温度に所定時間加熱する。この場合の加熱温度、加熱時間は、100℃以上で再結晶が生じない時間内で実施すればよく、その中から、設備制約や経済性等を勘案した任意の温度で実施すればよい。例えば、300℃で1分、250℃で2時間、あるいは200℃で5時間など、低温であれば長時間、高温であれば短時間であればよい。
【0066】
酸化性雰囲気の酸化性物質濃度は、たとえばオゾンであれば5~4000ppmであればよく、望ましくは10~2000ppm、さらに望ましくは20~1000ppmであればよい。オゾンを使用せず酸素を使用する場合は、オゾンのみを使用した場合に対し2倍以上の雰囲気濃度が望ましい。オゾン等酸化性物質と酸素を混合して使用してもよい。なお、Zn濃化処理の前に、機械研磨などによるひずみや空孔の導入など、Znの拡散を促進させるための処理を実施してもよい。
【0067】
表面部除去処理としては、Zn濃化処理を施した銅合金母材に対して、化学研磨、電解研磨、機械研磨などを単独もしくは複数組み合わせて適用することにより、行うことができる。
【0068】
化学研磨は選択的エッチングなどが使用できる。選択的エッチングは、たとえばノニオン性界面活性剤、カルボニル基またはカルボキシル基を有する複素環式化合物、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物、テトラゾール化合物などの銅腐食を抑制できる成分を含んだ酸性もしくはアルカリ性の液を用いたエッチングなどが使用できる。
【0069】
電解研磨は、たとえば、酸やアルカリ性の液を電解液として使用し、銅の結晶粒界に偏析しやすい成分に対しての電解による、結晶粒界の優先的なエッチングなどが使用できる。
【0070】
機械研磨は、ブラスト処理、ラッピング処理、ポリッシング処理、バフ研磨、グラインダー研磨、サンドペーパー研磨などの一般的に使用される種々の方法が使用できる。
【0071】
このようにして、銅合金母材にZn濃化処理及び表面部除去処理がなされることにより、銅合金板10が形成される。銅合金板10は、前述したように、表層部11のZn濃度が中心Zn濃度に比べて低く、また、表面10aから板厚方向の中心部に向かって所定の濃度勾配でZn濃度が増加した状態となっている。
【0072】
(めっき処理工程)
次に、この銅合金板10の表面10aにめっき皮膜20を形成するためにめっき処理を行う。
【0073】
銅合金板10の表面10aに、脱脂、酸洗等の処理をすることによって、汚れと自然酸化膜を除去して表面を清浄にした後、その上に、Cuめっき処理を施してCuめっき層を形成し、次に、Cuめっき層の表面にSnめっき処理を施してSnめっき層を形成する。なお、上記Cuめっき層及びSnめっき層は、それぞれ純銅及び純錫のめっき層とすることが望ましいが、本発明の作用効果を損なわない範囲であれば、それぞれ他の元素を含んだCu合金めっき層及びSn合金めっき層としても良い。
【0074】
各めっき層は、電流密度0.1A/dm2以上60A/dm2以下の電解めっきで形成する。電解めっき時の電流密度が0.1A/dm2未満であると成膜速度が遅く経済的でない。電流密度が60A/dm2を超えていると拡散限界電流密度を超え、欠陥の無い皮膜を形成できない
【0075】
Cu又はCu合金によるめっき処理条件の一例を表1に、Sn又はSn合金によるめっき処理条件の一例を表2に示す。
【0076】
【0077】
【0078】
(リフロー処理工程)
次に、これらのめっき層を形成した銅合金板10に対し、加熱ピーク温度230℃以上330℃以下で、その加熱ピーク温度に0.5秒以上30秒以下保持した後、60℃以下の温度となるまで冷却するリフロー処理を施す。
【0079】
このリフロー処理を施すことにより、銅合金板10の表面10aから、厚さが0μm~1μmのCu層21、厚さが0.1μm~1.5μmのSn-Cu合金層22、厚さが0.1μm~3.0μmのSn層23の順で構成されためっき皮膜20が形成される。なお、このリフロー処理において、Cuめっき層のCuの全部がSnめっき層のSnと合金化して、Cu層21が形成されない場合もある。
【0080】
このリフロー処理により、銅合金板10の表面10aの一部のCuがめっき皮膜20に拡散してめっき皮膜20を構成するSnと合金化する可能性があり、その場合に銅合金板10に含有しているZnもCuとともにめっき皮膜20に拡散する可能性もあるが、銅合金板10の表面10aのZn濃度を低く形成しておいたので、めっき皮膜20中に取り込まれるZnも微小で済み、Znの表面拡散を効果的に抑制することができる。
【0081】
また、銅合金板10の表面はZnが極めて少ないため、表面酸化物も少なく、わずかに酸化物が存在していたとしてもめっき処理前の通常の洗浄等により容易に除去できる。したがって、このめっき皮膜付銅合金板1は、めっき皮膜20と銅合金板10との密着性も優れている。
【0082】
更には、めっき皮膜20の表面20aにも酸化Znが生じにくいので、めっき皮膜20のはんだ濡れ性にも優れたものとなる。
【0083】
なお、上記実施形態では、銅合金板10に、Cu層21、Sn-Cu合金層22、Sn層23の順で構成されためっき皮膜20を形成したが、めっき皮膜は、これに限ることはなく、錫、銅、亜鉛、ニッケル、金、銀、パラジウムおよびそれらの合金のうちから選ばれる1つ以上の層から構成されるものであればよい。
【実施例】
【0084】
[実施例1]
2.0%を超え32.5%以下のZn、0.1%以上0.9%以下のSn、0.05%以上1.0%未満のNi、0.001%以上0.1%未満のFe、0.005%以上0.1%以下のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金の鋳塊を用意し、常法により熱間圧延、中間焼鈍、冷間圧延等を経て、板状の銅合金母板を作製した。一部の鋳塊には、さらに0.001%以上0.1%未満のCoを含有させた。
【0085】
次に、この銅合金母板に対して、酸化性雰囲気下で加熱温度200~300℃、加熱時間1分~5時間の範囲内で種々条件を変えて加熱することによりZn濃化処理を施した後、表面部除去処理を行うことにより、表層部に種々のZn濃度勾配を有する銅合金板を作製した。
【0086】
表面部除去処理は、以下の研磨処理のいずれかを行った。
物理研磨:バフ研磨
化学研磨:硫酸と過酸化水素混合水溶液にポリオキシエチレンドデシルエーテルを添加した研磨液に浸漬
電解研磨:リン酸水溶液に対極としてSUS304を使用して通電
比較例として、Zn濃化処理及び表面部除去処理を施さなかった試料(銅合金母板のままの試料)も作製した。
【0087】
そして、これら各銅合金板の表面及び板厚方向の各部におけるZn濃度を測定した。
板厚方向の各部のZn濃度についてはX線光電子分光法(XPS)における深さ方向の濃度プロファイルより測定した。XPSの測定条件は下記の通りである。
【0088】
(測定条件)
前処理:アセトン溶剤中に浸漬し、超音波洗浄機を用いて38kHz 5分間 前処理を行う。
使用した装置: アルバック・ファイ(ULVAC PHI)株式会社製 X線光電子分光分析装置 PHI5000 VersaProbe
スパッタリングレート:100Å/min
スパッタリング時間:100分
【0089】
なお、上記のXPSにおける深さはSiO2換算深さであるため、別途断面方向からのTEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法 Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)により測定したデータと比較することで、XPS深さ方向濃度プロファイルにおけるSiO2換算深さを実深さに換算した。
【0090】
銅合金板の中心Zn濃度は、Zn濃度の安定している厚さ中心部分を採取し、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)にて測定した。
【0091】
次に、各銅合金板に汚れと自然酸化膜の除去のため脱脂、酸洗等の処理を行った後、表1に示すCuめっき条件でCuめっき層を形成し、次に、表2に示すSnめっき条件でSnめっき層を形成し、これらのめっき層が形成された銅合金板をリフロー処理して、めっき皮膜付銅合金板を作製した。
【0092】
リフロー処理は、めっき層を230℃以上330℃以下の範囲内の温度に加熱後、60℃以下の温度となるまで冷却した。
【0093】
そして、各めっき皮膜付銅合金板から試料を切り出し、めっき皮膜中のZn濃度を測定した。
めっき皮膜に対するZn濃度の測定は、上記の銅合金板の場合と同様、XPSによる表面からの深さ方向の濃度プロファイルから求めた。
【0094】
また、各銅合金板の裸材(めっき皮膜が形成されていない銅合金板)及びめっき皮膜付銅合金板の各試料につき、表面のはんだ濡れ性を測定するとともに、裸材(銅合金板)の表面硬度、及びめっき皮膜付銅合金板についてのめっき皮膜の密着性を測定した。
【0095】
<はんだ濡れ性>
はんだ濡れ性は、JIS-C60068-2-54のはんだ付け試験方法(平衡法)に準じ、株式会社レスカ社5200TNソルダーチェッカーを用い、脱脂にて汚れを除去した後、下記のフラックス塗布、はんだ付け条件にて、各試料と鉛フリーはんだとの濡れ性を評価した。
【0096】
(フラックス塗布)
フラックス:25%ロジン-エタノール
フラックス温度:室温
フラックス深さ:8mm
フラックス浸漬時間:5秒
たれ切り方法:ろ紙にエッジを5秒当ててフラックスを除去し、装置に固定して30秒保持
【0097】
(はんだ付け)
はんだ組成:千住金属工業株式会社製 Sn-3.0%Ag-0.5%Cu
はんだ温度:240℃
はんだ浸漬速さ:10±2.5mm/秒
はんだ浸漬深さ:2mm
はんだ浸漬時間:10秒
【0098】
得られた荷重/時間曲線より、浸漬開始から表面張力による浮力がゼロ(即ちはんだと試料の接触角が90°)になるまでの時間をゼロクロス時間(秒)とした。はんだ濡れ性は、ゼロクロス時間が2秒未満であったものをA(良)、2秒以上4秒未満であったものをB(可)、4秒以上であったものをC(不可)とした。
【0099】
<密着性>
密着性は、120℃、1000時間加熱した試料に対し、クロスカット試験にて評価した。カッターナイフで試料に切込みを入れ、1mm四方の碁盤目を100個作製したのち、セロハンテープ(ニチバン株式会社製#405)を指圧にて碁盤目に押し付け、当該セロハンテープを引き剥がした後にめっき皮膜の剥がれが発生しなかった場合はA、剥離した碁盤目が3個以下の場合をB、碁盤目が4個以上剥離した場合はCとした。
【0100】
<表面硬度>
表面硬度は、めっき皮膜を形成していない裸材(銅合金板)を測定対象とした。ビッカース硬度計を用いて、荷重1gfと10gfにおける硬度を測定し、荷重1gfで計測した硬度が、荷重10gfで計測した硬度の80%以上であったものをA(良)、70%以上、80%未満であったものをB(可)、70%未満であったものをC(不可)とした。
【0101】
表3A,3B及び表4A,4B,4Cに、各裸材(銅合金板)の試料における評価結果を、表5A,5B及び表6A,6B,6Cに、各めっき皮膜付銅合金板の試料における評価結果を示す。
【0102】
いずれの表においても、「中心Zn濃度」は板厚中心部におけるZn濃度、「中心Sn,Ni,Fe,P,Co濃度」は板厚中心部におけるSn,Ni,Fe,P,Coの濃度、「表面Zn濃度」は表面部除去処理を行った段階での銅合金板表面のZn濃度であり、単位は質量%である。「対中心濃度比」は表面Zn濃度の中心Zn濃度に対する比率で単位は%である。「表層部厚さ」は銅合金板の表面からZn濃度が中心Zn濃度の90%に初めて達するまでの深さで単位はμm、「濃度勾配」は表層部におけるZn濃度の勾配で単位は質量%/μmである。
【0103】
この表層部厚さ及び濃度勾配はXPSによるZn成分の深さ方向濃度プロファイルから算出される。
図2はそのプロファイルの一例であり、表4の中心Zn濃度が10質量%、濃度勾配が130質量%/μmのサンプルに関するものである。この例を含め、表3及び表4の各試料では、種々の表面Zn濃度の銅合金板を作製した。また、表5及び表6の各試料では、表3及び表4の各銅合金板にめっき皮膜を形成した。
【0104】
濃度勾配は、プロファイルにおける表面の濃度と、板厚中心部濃度の90%に初めて達する点を結んだ直線の勾配を意味する。すなわち、深さ方向濃度プロファイルにおいて、銅合金板の表面から板厚中心部濃度の90%に初めて達する点までのZn濃度変化が、局所的な変動はあっても概ね一定勾配の直線とみなせる場合、そのプロファイルの勾配を濃度勾配とする。
【0105】
各表は中心Zn濃度ごとにまとめており、中心Zn濃度は、表3Aが2.1質量%、表3Bが10質量%、表4Aが20質量%、表4Bが32.5質量%、表4Cが20質量%、表5Aが2.1質量%、表5Bが10質量%、表6Aが20質量%、表6Bが32.5質量%、表6Cが2.1質量%である。
【0106】
なお、表5A,5B及び表6A,6B,6CにおいてCuめっき層の厚さの単位はμmであり、Cuめっき層の厚さが「0」とあるのは、Cuめっきは施さないで、Snめっき処理のみ行った例である。Snめっき層の厚さは1μmとした。
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
この表3及び表4に示すように、銅合金板についてZn濃化処理及び表面部除去処理を施していないもの(濃度勾配が「∞(未処理)」となっており、板表面からのZn濃度勾配が極めて急な状態)、及びZn濃度勾配が1000質量%/μmを超えるものは、はんだ濡れ性が悪かった。表面硬度については、中心Zn濃度が20質量%の材料において、Zn濃度勾配が10質量%/μm未満のものでは表面の硬度低下が著しかった。
【0118】
また、表5及び表6に示すように、銅合金板についてZn濃化処理及び表面部除去処理を施していないもの(濃度勾配が「∞(未処理)」となっており、板表面からのZn濃度勾配が極めて急な状態)、及びZn濃度勾配が1000質量%/μmを超えるものは、めっき皮膜を形成しても密着性が悪かった。
【0119】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で中心Zn濃度32.5質量%の材料に対して種々の濃度勾配を有する銅合金板を作製したのち、実施例1と同様の方法でめっきし、めっき皮膜付銅合金板を作製した。
【0120】
作製しためっき皮膜付銅合金板のSnめっき層中のZn濃度およびはんだ濡れ性を確認した。Snめっき層中のZn濃度は実施例1と同様の条件でXPSにて測定した。結果を表7に示す。
【0121】
【0122】
表7に示すように、濃度勾配が1000質量%/μmを超えた試料では、めっき内Znの対中心濃度比が10%を超えるとともに、はんだ濡れ性が悪化した。
【0123】
[実施例3]
実施例1と同様の方法で、中心Zn濃度20質量%、濃度勾配10質量%/μmの銅合金板の試料を作製した。作製の際には、表面部除去処理における除去量を変量させることで、濃度勾配は同じであるが、表面Zn濃度の異なる試料とした。作製した試料に実施例1と同様の方法でめっき処理を行いめっき皮膜付銅合金板を作製し、めっき密着性およびはんだ濡れ性を測定した。結果を表8に示す。
【0124】
【0125】
表8に示すように、表面Zn濃度が中心のZn濃度の60%を超えた試料では、めっき密着性やはんだ濡れ性が悪化した。
【0126】
[実施例4]
実施例1と同様の方法で、銅合金板の板厚中心部のZn濃度(中心Zn濃度)32.5質量%で表層部に各種Zn濃度勾配をもち、表面Zn濃度が0質量%に調整された銅合金板(裸材)を作製したのち、表9に示す各種金属めっき層を1層のみ形成した。本実施例はめっき処理のみを実施し、リフロー処理は行わなかった。
【0127】
めっきの金属種はSn、Cu、Zn、Ni、Au、Ag、Pdとした。めっき電流密度はすべて3A/dm2でめっき皮膜の厚さは1μmとした。なお、各種めっき浴は一般的に使用される酸性、中性、アルカリ性浴のいずれを使用してもよいが、本実施例ではSn、Cu、Zn、Ni、Pdは酸性浴を、Au、Agはアルカリ性浴を使用した。
【0128】
上記手順で作製した試料のはんだ濡れ性、めっき被膜の密着性を評価した。評価方法および判定方法は実施例1と同様である。
その評価結果を表9に示す。
【0129】
【0130】
この表9に示すように、はんだ濡れ性は実施例、比較例共に良好であったが、比較例にあるようにZn濃化処理及び表面部除去処理を施していない試料(濃度勾配が「∞(未処理)」のもの)、およびZn濃度勾配が1000質量%/μmを超える試料では、加熱後にめっき皮膜の剥離が発生した。
【0131】
なお、実施例では1層のみのめっき皮膜であるが、実施形態を制限するものではなく、コスト低減や特性のさらなる向上等を目的として加熱等の処理により各種金属を合金化することや、多層のめっき皮膜構造としてもよい。
【0132】
例えば、上記のCuめっき層とSnめっき層の組合せにおいて、何らかの特性上の都合によりリフロー処理を実施できない場合、純錫めっき層では下地の銅(銅合金板又はCuめっき層)との間で経時的に意図せざる合金層を形成することがあり、その合金層に起因するめっき層の内部応力等の要因によりウイスカが発生する恐れがある。その場合、ウイスカ抑制のためにSnめっき層をSnとCuやAgなどとの合金めっき層にすることもできる。また、銅合金板の銅がめっき層(たとえば錫層)に拡散し、合金形成することを防止するために、拡散を抑制する中間層(たとえば電解ニッケルめっき層)を形成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
表面の酸化を抑制するとともに、電気的接続信頼性を向上させ、まためっき皮膜を形成した場合でもめっき皮膜中のZn濃度を低減させ、めっき皮膜表面の接触電気抵抗の低減及びめっき皮膜と銅合金板の密着性の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0134】
1 めっき皮膜付銅合金板
10 銅合金板
11 表層部
12 母材内部
20 めっき皮膜
21 Cu層
22 Sn-Cu合金層
23 Sn層