(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ゲルマニウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 41/00 20060101AFI20241203BHJP
C22B 7/02 20060101ALI20241203BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20241203BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20241203BHJP
C22B 3/12 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C22B41/00
C22B7/02 B
C22B3/04
C22B3/44 101Z
C22B3/12
(21)【出願番号】P 2020136383
(22)【出願日】2020-08-12
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 喜一
(72)【発明者】
【氏名】幅崎 利已
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智哉
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04385915(US,A)
【文献】中国特許出願公開第104164577(CN,A)
【文献】韓国登録特許第10-0420682(KR,B1)
【文献】特開2004-305799(JP,A)
【文献】特開2017-140571(JP,A)
【文献】米国特許第06054104(US,A)
【文献】特表2002-512560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 41/00
B01D 53/00-53/96
B03C 3/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバを製造する時に排出される排出ガスからゲルマニウムを回収する方法であって、
前記排出ガスから
ゲルマニウム含有粒子およびその他の未堆積粒子を含むゲルマニウム含有ダストを分離する第一工程と、
前記第一工程において分離された前記ゲルマニウム含有ダストからゲルマニウムを液体中に抽出してゲルマニウム抽出液を得る第二工程と、
前記第二工程で得られた前記ゲルマニウム抽出液と固体残渣とを分離する第三工程と、
前記第三工程において分離された前記ゲルマニウム抽出液からゲルマニウム含有化合物を析出させる第四工程と、
前記第四工程で析出した前記ゲルマニウム含有化合物と液体とを分離する第五工程と、を含む、ゲルマニウムの回収方法。
【請求項2】
前記第一工程において、湿式集塵機または乾式集塵機を用いて前記排出ガスから前記ゲルマニウム含有ダストを捕集し、
前記第二工程において、前記ゲルマニウム含有ダストを含むスラリーのp
Hを調整することで、前記ゲルマニウム含有ダストからゲルマニウムを液体中に抽出し、
前記第四工程において、前記ゲルマニウム抽出液を濃縮する、又は前記ゲルマニウム抽出液に金属塩を添加することで、前記ゲルマニウム抽出液から前記ゲルマニウム含有化合物を析出させる、
請求項1に記載のゲルマニウムの回収方法。
【請求項3】
前記第二工程において、前記スラリーのpHを8.5以上11以下に調整して、ゲルマニウムを液体中に抽出する、
請求項2に記載のゲルマニウムの回収方法。
【請求項4】
前記第三工程によって分離された前記ゲルマニウム抽出液をストック槽に保管し、
その後、前記第一工程において乾式集塵機を用いて前記排出ガスから前記ゲルマニウム含有ダストを捕集し、
前記第二工程において、前記乾式集塵機により捕集したゲルマニウム含有ダストを
前記ストック槽に保管した前記ゲルマニウム抽出液に添加して、ゲルマニウムを液体中に抽出する、
請求項2
または請求項3に記載のゲルマニウムの回収方法。
【請求項5】
前記第四工程において、ゲルマニウムと複合酸化物を形成する溶解性金属塩を添加して、前記ゲルマニウム抽出液から前記ゲルマニウム含有化合物を析出させる、
請求項2から請求項
4のいずれか一項に記載のゲルマニウムの回収方法。
【請求項6】
前記第四工程において、アルカリ土類金属塩を添加して前記ゲルマニウム抽出液から前記ゲルマニウム含有化合物を析出させる、
請求項2から請求項
4のいずれか一項に記載のゲルマニウムの回収方法。
【請求項7】
前記第四工程における前記アルカリ土類金属塩の添加量が、液中のゲルマニウム当量に対して、0.8当量以上3.0当量以下である、
請求項
6に記載のゲルマニウムの回収方法。
【請求項8】
前記第五工程において、前記ゲルマニウム含有化合物を粗粒分と微粒分とに分ける分級処理に供し、前記粗粒分を回収し、前記微粒分を前記第四工程に戻して循環使用する、
請求項2から請求項
7のいずれか一項に記載のゲルマニウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゲルマニウムの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイオードなどの半導体の材料や、ガラス製の光ファイバにおけるコアの添加剤など、種々の工業製品の原料にゲルマニウム(Ge)が使用されている。Geは、近年、価格が高騰している。例えば、特許文献1及び特許文献2には、Geを回収する技術が開示されている。特許文献1にはGeをバグフィルターで回収し、光ファイバ製造工程で再利用する技術が開示されている。特許文献2には、光ファイバの製造時の廃液に含まれるGeをキレート繊維に吸着させて回収する光ファイバ製造廃液の処理方法及び処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-2088号公報
【文献】特開2017-140571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光ファイバの製造時、光ファイバにおけるコアの添加剤であるゲルマニウムの一部は、コアの生成において利用されず、排出ガスとして排出される。排出ガス中に含まれるゲルマニウムの量は微量であり、またゲルマニウムを含有する粒子は非常に微細であるため、ゲルマニウムを効率良く安価に回収するのは容易ではなかった。従来の方法においてもゲルマニウムの回収効率は必ずしも高くはない。また、特許文献2に示されるキレート繊維を用いた技術では設備が高価であった。
【0005】
本開示は、光ファイバの製造時の排出ガスからゲルマニウムを効率良く、安価に回収できるゲルマニウム回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のゲルマニウムの回収方法は、
光ファイバを製造する時に排出される排出ガスからゲルマニウムを回収する方法であって、
前記排出ガスからゲルマニウム含有ダストを分離する第一工程と、
前記第一工程において分離された前記ゲルマニウム含有ダストからゲルマニウムを液体中に抽出してゲルマニウム抽出液を得る第二工程と、
前記第二工程で得られた前記ゲルマニウム抽出液と固体残渣とを分離する第三工程と、
前記第三工程において分離された前記ゲルマニウム抽出液からゲルマニウム含有化合物を析出させる第四工程と、
前記第四工程で析出した前記ゲルマニウム含有化合物と液体とを分離する第五工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、光ファイバの製造時の排出ガスからゲルマニウムを効率良く、安価に回収できるゲルマニウム回収方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に係るゲルマニウム回収方法のフローを示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施形態に係る第二工程および第三工程を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施形態の一側面に係る第四工程および第五工程を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施形態の別側面に係る第四工程および第五工程を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
実施形態に係るゲルマニウムの回収方法は、
(1) 光ファイバを製造する時に排出される排出ガスからゲルマニウムを回収する方法であって、
前記排出ガスからゲルマニウム含有ダストを分離する第一工程と、
前記第一工程において分離された前記ゲルマニウム含有ダストからゲルマニウムを液体中に抽出してゲルマニウム抽出液を得る第二工程と、
前記第二工程で得られた前記ゲルマニウム抽出液と固体残渣とを分離する第三工程と、
前記第三工程において分離された前記ゲルマニウム抽出液からゲルマニウム含有化合物を析出させる第四工程と、
前記第四工程で析出した前記ゲルマニウム含有化合物と液体とを分離する第五工程と、
を含む。
【0010】
上記のゲルマニウム回収方法によれば、排出ガスからゲルマニウム含有ダストを分離する方法に依らずに、ゲルマニウム含有ダストからゲルマニウムを液体中に抽出し、得られた抽出液からゲルマニウム含有化合物を析出させることで、効率良く、安価に排出ガス中に含まれるゲルマニウムを回収できる。
【0011】
(2)上記(1)のゲルマニウムの回収方法は、
前記第一工程において、湿式集塵機または乾式集塵機を用いて前記排出ガスから前記ゲルマニウム含有ダストを捕集し、
前記第二工程において、前記ゲルマニウム含有ダストを含むスラリーのpH又は温度を調整することで、前記ゲルマニウム含有ダストからゲルマニウムを液体中に抽出し、
前記第四工程において、前記ゲルマニウム抽出液を濃縮する、または前記ゲルマニウム抽出液に金属塩を添加することで、前記ゲルマニウム抽出液から前記ゲルマニウム含有化合物を析出させてもよい。
【0012】
上記の回収方法では、第一の工程においては湿式集塵機および乾式集塵機のいずれを採用してもよい。第二工程においてスラリーのpH又は温度を調整する方法を採用することで、安価な方法でも効率良くゲルマニウムを液体中に抽出できる。そして、第四工程において、ゲルマニウム抽出液を濃縮すること、またはゲルマニウム抽出液に金属塩を添加して共沈させること、によって安価な手段で効率良くゲルマニウム含有化合物を析出させることができる。この手順を踏むことで効率良く、安価に排出ガス中に含まれるゲルマニウムを回収できる。
【0013】
(3)上記(2)のゲルマニウムの回収方法は、
前記第二工程において、前記スラリーのpHを8.5以上11以下に調整して、ゲルマニウムを液体中に抽出してもよい。
【0014】
スラリーをアルカリ性にすることで、ゲルマニウム含有ダストの液体中への溶解が促進される。そしてゲルマニウムの液体中への溶出量が増加し、効率良くゲルマニウムを回収できる。
【0015】
(4)上記(2)のゲルマニウムの回収方法は、
前記第二工程において、前記スラリーの温度を30℃以上95℃以下に調整して、ゲルマニウムを液体中に抽出してもよい。
【0016】
スラリーの温度を高温にすることで、ゲルマニウム含有ダストを好適にスラリーに分散させることができる。そして分散に伴いゲルマニウムの溶出量が増加し、効率良くゲルマニウムを回収できる。
【0017】
(5)上記(2)から上記(4)のいずれかのゲルマニウムの回収方法は、
前記第一工程において乾式集塵機を用いて前記排出ガスから前記ゲルマニウム含有ダストを捕集し、
前記第二工程において、前記乾式集塵機により捕集したゲルマニウム含有ダストを前記第三工程によって分離された前記ゲルマニウム抽出液に添加して、ゲルマニウムを液体中に抽出してもよい。
【0018】
乾式集塵機を用いる方法では、ゲルマニウム含有ダストをスラリー化する工程が加わる。このスラリー化をするための液体として第三工程において分離されたゲルマニウム抽出液を用いてもよい。
【0019】
(6)上記(2)から上記(5)のいずれかのゲルマニウムの回収方法は、
前記第四工程において、ゲルマニウムと複合酸化物を形成する溶解性金属塩を添加して、前記ゲルマニウム抽出液から前記ゲルマニウム含有化合物を析出させてもよい。
【0020】
ゲルマニウムと複合酸化物を形成する溶解性金属塩を添加することで、ゲルマニウム抽出液に溶解したゲルマニウムを添加した金属との複合酸化物として高い収率で回収できる。
【0021】
(7)上記(2)から上記(5)のいずれかのゲルマニウムの回収方法は、
前記第四工程において、ゲルマニウムを吸着する難溶性金属塩を添加して、前記ゲルマニウム抽出液から前記ゲルマニウム含有化合物を析出させてもよい。
【0022】
ゲルマニウムを吸着する難溶性金属塩を添加することで、ゲルマニウムを難溶性金属塩の表面に集めてゲルマニウム含有化合物を析出させることができ、ゲルマニウム抽出液に溶解したゲルマニウムを高い収率で回収できる。
【0023】
(8)上記(2)から上記(7)のいずれかのゲルマニウムの回収方法は、
前記第四工程において、アルカリ土類金属塩を添加して前記ゲルマニウム抽出液から前記ゲルマニウム含有化合物を析出させてもよい。
【0024】
アルカリ土類金属塩を添加することで、ゲルマニウム含有化合物を好適に析出させることができ、ゲルマニウム抽出液に溶解したゲルマニウムを高い収率で回収できる。
【0025】
(9)上記(8)のゲルマニウムの回収方法は、
前記第四工程における前記アルカリ土類金属塩の添加量が、液中のゲルマニウム当量に対して、0.8当量以上3.0当量以下であってもよい。
【0026】
上記の添加量でアルカリ土類金属塩を添加することで、ゲルマニウムとアルカリ土類金属とを1:1の当量比で含む複合酸化物に限らず、当量比においてアルカリ土類金属が多い複合酸化物の生成も誘導でき、ゲルマニウム抽出液に溶解したゲルマニウムを高い収率で回収できる。
【0027】
(10)上記(2)から上記(9)のいずれかのゲルマニウムの回収方法は、
前記第五工程において、前記ゲルマニウム含有化合物を粗粒分と微粒分に分ける分級処理に供し、前記粗粒分を回収し、前記微粒分を前記第四工程に戻して循環使用してもよい。
【0028】
上記の構成では、分級されたゲルマニウム含有化合物の微粒分を第四工程に戻すことで、当該微粒分がゲルマニウム含有化合物を析出させる際の種結晶として機能する。これにより、ゲルマニウム化合物の析出を誘導でき、ゲルマニウム抽出液に溶解したゲルマニウムを高い収率で回収できる。
【0029】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示のゲルマニウムの回収方法の実施形態の詳細を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係るゲルマニウムの回収方法のフローを示す図である。当該ゲルマニウムの回収方法は、光ファイバを製造する時(光ファイバ製造S0)に排出される排出ガスからゲルマニウムを回収する方法である。当該方法は、光ファイバ製造S0で排出された排出ガスからゲルマニウム含有ダストを分離する第一工程S1と、第一工程S1において分離されたゲルマニウム含有ダストからゲルマニウムを液体中に抽出してゲルマニウム抽出液を得る第二工程S2と、第二工程S2で得られたゲルマニウム抽出液と固体残渣とを分離する第三工程S3と、第三工程S3において分離されたゲルマニウム抽出液からゲルマニウム含有化合物を析出させる第四工程S4と、第四工程S4で析出したゲルマニウム含有化合物と液体とを分離する第五工程S5と、を含む。
【0030】
光ファイバ製造S0は、MCVD法、OVD法、VAD法等により光ファイバの母材となるガラス体を製造する工程を表す。光ファイバ製造S0においてガラス体の原料としてゲルマニウムを添加する場合、ガラス体に積層されないゲルマニウム含有粒子はその他の未堆積粒子や気体と共に排出ガスとして排出される。
【0031】
第一工程S1は、光ファイバ製造S0から排出された排出ガスからゲルマニウム含有粒子およびその他の未堆積粒子を含むゲルマニウム含有ダストを分離する工程である。第一工程S1において、湿式集塵機または乾式集塵機を用いて排出ガスからゲルマニウム含有ダストが捕集されてもよい。湿式集塵機としては、スクラバー、湿式電気集塵機等が採用され得る。乾式集塵機としては、サイクロン、乾式電気集塵機、バグフィルター、セラミックスフィルター等が採用され得る。湿式集塵機は、ゲルマニウム含有ダストの捕集の際にスラリー量が多くなるため、設備を大型にするおそれがある。乾式集塵機は、スラリー量が多くなる懸念がないため、湿式集塵機よりも設備を小型にし得る。乾式集塵機は排出ガスの温度や量に応じた耐熱性に優れる設備であってもよい。ゲルマニウム含有ダストが捕集された排出ガスは、排出ガス処理AS1によって除害される。排出ガス処理AS1は、公知の手段を採用できる。
【0032】
第二工程S2は、第一工程S1において分離されたゲルマニウム含有ダストからゲルマニウムを液体中に抽出してゲルマニウム抽出液を得る工程である。第一工程S1において乾式集塵が採用された場合には、捕集されたゲルマニウム含有ダストを工業用水などの液体と混合させてスラリーを形成する。第一工程S1において湿式集塵が採用された場合には、捕集されたゲルマニウム含有ダストのスラリーをそのまま用いてもよい。当該方法により得られたスラリーのpHは通常3以下である。スラリー化することでゲルマニウムを液体中に抽出してゲルマニウム抽出液を得ることができる。
【0033】
第二工程S2において、ゲルマニウム含有ダストを含むスラリーのpHまたは温度を調整することで、ゲルマニウム含有ダストからゲルマニウムをさらに液体中に抽出してもよい。第二工程S2においてスラリーのpH又は温度を調整する方法を採用することで、安価な方法でも効率良くゲルマニウムを液体中に抽出できる。
【0034】
スラリーのpHを調整する場合には、スラリーのpHをアルカリ性の範囲に調整してもよく、例えばpHを8.5以上11以下に調整してもよい。また、pHを9.5以上11以下に調整してもよい。スラリーをアルカリ性にすることで、ゲルマニウムを微量に含むシリカの一部を溶解させることができ、ゲルマニウムを液体中にさらに抽出できる。また、スラリーのpHを強アルカリ性(例えばpH=10)としてから酸性または中性に再度調整してもよい。
【0035】
スラリーの温度を調整する場合には、スラリーの温度を30℃以上100℃以下に調整してもよい。またスラリーの温度を30℃以上95℃以下、50℃以上95℃以下、さらには60℃以上95℃以下に調整してもよい。スラリーの温度を高温にすることで、ゲルマニウム含有ダストを好適にスラリーに分散させることができ、ゲルマニウムを液体中にさらに抽出できる。
【0036】
第三工程S3は、第二工程S2で得られたゲルマニウム抽出液と固体残渣とを分離する工程である。当該固体残渣はシリカを主成分とする固体である。分離する方法としては、沈降分離、減圧ろ過、加圧ろ過等の方法が採用され得る。シリカ粒子が微粒であることを考慮してフィルタープレス等の加圧ろ過を採用してもよい。減圧ろ過または加圧ろ過を採用する場合には、固液分離後にケーキ洗浄を行うことで、ゲルマニウムの回収率を向上できる。また、ケーキ洗浄を行うことで、固体残渣のシリカ粒子を高純度シリカとして有効利用できる。分離された固体残渣は汚泥として回収される(汚泥回収AS3)。
【0037】
第三工程S3において分離されたゲルマニウム抽出液は、すぐに次工程(第四工程S4)に搬送されて処理されてもよいが、ストック槽で保管してもよい。また、第一工程S1において乾式集塵機を用いて排出ガスからゲルマニウム含有ダストを捕集する場合には、第三工程S3において分離されたゲルマニウム抽出液を用いて、第二工程S2においてゲルマニウム含有ダストのスラリーを形成してもよい。当該スラリーにおいて、ゲルマニウムを液体中に抽出できる。例えば、第三工程S3の次工程である第四工程S4が連続式ではなく、第三工程S3で分離されたゲルマニウム抽出液がストック槽に保存されている場合に、保存された当該抽出液を用いてゲルマニウムの抽出を実施することで最終的に生じる廃液の量を減少させることができる。
【0038】
ここで、
図2を参照して第二工程S2および第三工程S3の一態様を説明する。
図2は、実施形態に係る第二工程S2および第三工程S3を模式的に示す図である。
図2において、第二工程S2を実施するための抽出槽20と、第三工程S3を実施するためのフィルタープレス30と、第三工程S3で分離されたゲルマニウム抽出液42をストックするためのゲルマニウム抽出液ストック槽40と、後段の第四工程S4を実施するための析出槽50と、が示されている。抽出槽20、フィルタープレス30、ゲルマニウム抽出液ストック槽40および析出槽50は、送液用の配管によって
図2に示すように接続されている。
【0039】
抽出槽20は、撹拌羽22と、ダスト投入口24と、試薬投入口26と、を備えている。第二工程S2では、第一工程S1において乾式集塵機によって捕集されたゲルマニウム含有ダスト10が、ダスト投入口24から抽出槽20の内部に投入される。そして、図示を省略する投入口から工業用水を抽出槽20の内部に導入して、撹拌羽22で撹拌することで、スラリー28が調製される。スラリー28に、試薬投入口26を介して水酸化ナトリウム等のアルカリ試薬を投入することで、ゲルマニウムを液体中にさらに溶出させることができる。
【0040】
第三工程S3において、抽出槽20で調製されたスラリー28をフィルタープレス30によって加圧ろ過することで、ゲルマニウム抽出液42と固体残渣32とが分離される。分離されたゲルマニウム抽出液42は、ゲルマニウム抽出液ストック槽40に搬送されてもよく、直接後段の析出槽50に搬送されてもよい。また、ゲルマニウム抽出液ストック槽40からゲルマニウム抽出液42を抽出槽20に搬送して、スラリー28を調整するためにゲルマニウム抽出液42を活用してもよい。
【0041】
図1に戻り、第四工程S4および第五工程S5を説明する。第四工程S4は、第三工程S3において分離されたゲルマニウム抽出液からゲルマニウム含有化合物を析出させる工程である。第四工程S4において、ゲルマニウム抽出液を濃縮する、またはゲルマニウム抽出液に金属塩を添加することで、ゲルマニウム抽出液からゲルマニウム含有化合物を析出させてもよい。第四工程S4において、ゲルマニウム抽出液を濃縮すること、またはゲルマニウム抽出液に金属塩を添加して共沈させること、によって安価な手段で効率良くゲルマニウム含有化合物を析出させることができる。
【0042】
第四工程S4において金属塩を添加する場合には、ゲルマニウムと複合酸化物を形成する溶解性金属塩またはゲルマニウムを吸着する難溶性金属塩を添加してもよい。溶解性金属塩を添加すると、ゲルマニウム抽出液に溶解したゲルマニウムを添加した金属との複合酸化物として高い収率で回収できる。難溶性金属塩を添加すると、ゲルマニウムを難溶性金属塩の表面に集めてゲルマニウム含有化合物を析出させることができ、ゲルマニウム抽出液に溶解したゲルマニウムを高い収率で回収できる。
【0043】
第四工程S4において金属塩を添加する場合には、アルカリ土類金属塩を添加してもよい。アルカリ土類金属塩を添加すると、ゲルマニウム含有化合物を好適に析出させることができ、ゲルマニウム抽出液に溶解したゲルマニウムを高い収率で回収できる。アルカリ土類金属塩としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の添加量としては、液中のゲルマニウム当量に対して、0.8当量以上3.0当量以下としてもよい。上記の添加量でアルカリ土類金属塩を添加することで、ゲルマニウムとアルカリ土類金属とを1:1の当量比で含む複合酸化物に限らず、当量比においてアルカリ土類金属が多い複合酸化物の生成も誘導でき、ゲルマニウム抽出液に溶解したゲルマニウムを高い収率で回収できる。
【0044】
第五工程S5は、第四工程S4で析出したゲルマニウム含有化合物と液体とを分離する工程である。分離する方法としては、第三工程S3において挙げたものが採用され得る。分離されたゲルマニウム含有化合物は回収され(ゲルマニウム回収BS5)、分離された液体は必要に応じて廃液として処理される(廃液処理AS5)。
【0045】
第五工程S5において、ゲルマニウム含有化合物を粗粒分と微粒分に分ける分級処理に供してもよい。分級処理としては、シックナー、液体サイクロン、遠心分離機等が採用され得る。粗粒分と微粒分とに分けた後に、粗粒分の固液分離を、沈降分離、減圧ろ過、加圧ろ過等の方法で実施して、ゲルマニウム含有化合物の粗粒分を回収してもよい(ゲルマニウム回収BS5)。ゲルマニウム含有化合物の微粒分を含む液体は、第四工程S4に戻してゲルマニウム抽出液に混合して循環使用してもよい。分級されたゲルマニウム含有化合物の微粒分を第四工程S4に戻すことで、当該微粒分がゲルマニウム含有化合物を析出させる際の種結晶として機能する。これにより、ゲルマニウム化合物の析出を誘導でき、ゲルマニウム抽出液に溶解したゲルマニウムを高い収率で回収できる。
【0046】
ここで、
図3を参照して第四工程S4および第五工程S5の一態様を説明する。
図3は、実施形態の一側面に係る第四工程S4および第五工程S5を模式的に示す図である。
図3において、第四工程S4を実施するための析出槽50と、第五工程S5を実施するためのフィルタープレス60と、分級されたゲルマニウム含有化合物の微粒分を含む液体である微粒分含有液72をストックするための微粒分含有液ストック槽70と、後段の廃液処理AS5を実施するための廃液処理設備80と、が示されている。微粒分含有液ストック槽70、析出槽50、フィルタープレス60および廃液処理設備80は、送液用の配管によって
図3に示すように接続されている。
【0047】
析出槽50は、撹拌羽52と、図示を省略するゲルマニウム抽出液投入口と、試薬投入口56と、を備えている。第四工程S4では、第三工程S3において分離されたゲルマニウム抽出液が、ゲルマニウム抽出液投入口から析出槽50に投入される。そして、ゲルマニウム抽出液に試薬投入口56を介して塩化マグネシウム等の金属塩を投入することでゲルマニウム含有化合物62が析出し、ゲルマニウム含有化合物62を含むスラリー58が調製される。
【0048】
第五工程S5において、析出槽50で調製されたスラリー58をフィルタープレス60によって加圧ろ過することで、ゲルマニウム含有化合物62と液体が分離され、ゲルマニウム含有化合物62を回収できる。分離された液体は必要に応じて廃液処理設備80に搬送される。なお、析出槽50からフィルタープレス60にスラリーを搬送する前に、分級処理を施してゲルマニウム含有化合物を粗粒分と微粒分とに分けてもよい。ゲルマニウム含有化合物62の粗粒分を含む液体はフィルタープレス60に搬送して加圧ろ過を行い、ゲルマニウム含有化合物62の微粒分を含む液体(微粒分含有液72)は微粒分含有液ストック槽70でストックしてもよい。そして第四工程において、析出槽50に微粒分含有液ストック槽70から微粒分含有液72を供給して、当該微粒分をゲルマニウム含有化合物の種結晶として活用しても良い。
【0049】
続いて、
図4を参照して第四工程S4および第五工程S5の別の態様を説明する。
図4は、実施形態の別側面に係る第四工程S4および第五工程S5を模式的に示す図である。
図4において、第三工程S3において分離されたゲルマニウム抽出液142をストックするゲルマニウム抽出液ストック槽140と、第四工程S4を実施するためのエバポレータ150と、第五工程S5を実施するためのフィルタープレス160と、が示されている。ゲルマニウム抽出液ストック槽140、エバポレータ150およびフィルタープレス160は、送液用の配管によって
図4に示すように接続されている。
【0050】
エバポレータ150は、ゲルマニウム抽出液ストック槽140からゲルマニウム抽出液142を受けとり、液体を蒸発させて濃縮液152を調製して、ゲルマニウム含有化合物162を析出させる(第四工程S4)。析出したゲルマニウム含有化合物162を含む液体をフィルタープレス160に搬送して、ゲルマニウム含有化合物162と液体とを分離することで、ゲルマニウム含有化合物162を回収できる(第五工程S5)。第五工程S5において分離された液体はゲルマニウム抽出液ストック槽140に戻してもよい。
【0051】
以上に説明したゲルマニウム回収方法によれば、排出ガスからゲルマニウム含有ダストを分離する方法に依らずに、ゲルマニウム含有ダストからゲルマニウムを液体中に抽出し、得られた抽出液からゲルマニウム含有化合物を析出させることで、効率良く、安価に排出ガス中に含まれるゲルマニウムを回収できる。
【実施例】
【0052】
以下、本開示に係る具体的な実施例(検討例)を説明する。なお、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
例1(第二工程S2の検討)
ゲルマニウム含有ダストのスラリーを調製する際の、水の温度によるゲルマニウムの液体への溶出率の差異を評価した。光ファイバ母材の製造時に排出されたスス(ゲルマニウム含有ダスト)10gを、50mLの水(20℃または95℃)に分散させてスラリー化させた。当該ススのゲルマニウム濃度の分析値は0.39質量%であった。スラリーの液体に含まれるゲルマニウムの濃度を測定し、ススに含まれるゲルマニウムが完全に溶出した場合のゲルマニウムの濃度に対する割合(%)を溶出率として算出した。20℃の水を用いた場合のゲルマニウムの溶出率は88%であったのに対し、95℃の水を用いた場合のゲルマニウムの溶出率は94%であった。なお、スラリーのpHはともに2.4であった。熱水によりススをスラリー化させることでゲルマニウムの溶出が促進されることが示された。また、熱水を用いた場合の方が、ススの分散が良好でありスラリー化が容易であった。
【0053】
例2(第二工程S2の検討)
ゲルマニウム含有ダストのスラリーを調製する際の、pHによるゲルマニウムの液体への溶出率の差異を評価した。評価に使用したススおよび溶出率については例1で説明したものと同様である。光ファイバ母材の製造時に排出されたスス(ゲルマニウム含有ダスト)10gを、50mLの水(20℃)に分散させてスラリー化させた。続いてスラリーのpHを調整した。pH調整後のスラリーの液体に含まれるゲルマニウムの濃度を測定し、溶出率を算出した。以下に結果を示す。
【0054】
調整pH 溶出率(%)
例2-1 1.0 88
例2-2 2.4 88
例2-3 3.6 86
例2-4 5.0 87
例2-5 8.2 88
例2-6 10.0 94
【0055】
pHが10.0のスラリーではゲルマニウムの溶出が促進されることが示された。
【0056】
例3(第二工程S2の検討)
ゲルマニウム含有ダストのスラリーのpHを10に調整した後に、pHを下げた場合のゲルマニウムの液体への溶出率の変化を評価した。例2-6のスラリーのpHをさらに調整し、pH調整後のスラリーの液体に含まれるゲルマニウムの濃度を測定し、溶出率を算出した。以下に結果を示す。
【0057】
最終pH 溶出率(%)
例3-1 1.0 94
例3-2 3.0 93
例3-3 4.8 91
【0058】
スラリーのpHを10に調整してエッチングをして、最終pHを酸性に調整しても液中のゲルマニウム濃度は維持されることが示された。また、エッチングをした場合(例3-1から例3-3)としなかった場合(例2-1から例2-4)との比較により、エッチングによりゲルマニウムの溶出率が向上することが示された。
【0059】
例4(第四工程S4の検討)
ゲルマニウム抽出液を濃縮することによりゲルマニウム含有化合物を析出させる方法を検討した。例1で使用したものと同一のスス(ゲルマニウム含有ダスト)1.5kgを純水7.5Lに分散させてスラリーを調製した。当該スラリーをろ過して得られたろ液のうちの4.0Lを750mLに濃縮して、評価用のサンプルとしてのゲルマニウム抽出液を調製した。当該ゲルマニウム抽出液のpHは2.1であり、ゲルマニウムの濃度の分析値は3.5g/Lであった。この評価用のサンプルをさらに4倍に濃縮したところ、固体が析出した。4倍濃縮液のpHは1.33であり、4倍濃縮液のゲルマニウムの濃度の分析値は10.4g/Lであった。このことから、サンプル中のゲルマニウムが固体として析出したことが示された。
【0060】
例5(第四工程S4の検討)
ゲルマニウム抽出液に金属塩を添加することによりゲルマニウム含有化合物を析出させる方法を検討した。例4で調製した評価用のサンプルと同じサンプルを用意した。このサンプル200mL(ゲルマニウム含有量0.50g、酸化ゲルマニウム量で換算して1.02g)に塩化マグネシウム六水和物(MgCl2・6H2O)を3.16g添加したところ、固体が析出した。液体の最終pHを10.0に調整した。調整後の液体中のゲルマニウムの濃度の分析値は88.3mg/Lであった。このことから、サンプル中のゲルマニウムが固体として析出したことが示された。また、金属塩を加える方法では、濃縮による方法と比べて固体として析出するゲルマニウムの量が大きいことが示された。
【0061】
以上、特定の実施形態および実施例に基づいて本開示を説明したが、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0062】
10:ゲルマニウム含有ダスト、20:抽出槽、22,52:撹拌羽、24:ダスト投入口、26,56:試薬投入口、28,58:スラリー、30,60,160:フィルタープレス、32:固体残渣、40,140:ゲルマニウム抽出液ストック槽、42,142:ゲルマニウム抽出液、50:析出槽、62,162:ゲルマニウム含有化合物、70:微粒分含有液ストック槽、72:微粒分含有液、80:廃液処理設備、150:エバポレータ、152:濃縮液