(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】遮断装置及び蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20241203BHJP
G01K 1/14 20210101ALI20241203BHJP
H01G 2/14 20060101ALI20241203BHJP
H01G 2/18 20060101ALI20241203BHJP
H01G 11/16 20130101ALI20241203BHJP
H01G 11/74 20130101ALI20241203BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20241203BHJP
H01M 50/531 20210101ALI20241203BHJP
H01M 50/572 20210101ALI20241203BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20241203BHJP
H02J 7/04 20060101ALI20241203BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
H01M10/48 301
G01K1/14 L
H01G2/14 106
H01G2/18
H01G11/16
H01G11/74
H01M10/0585
H01M50/531
H01M50/572
H02J7/00 Q
H02J7/04 L
H02J7/10 L
(21)【出願番号】P 2020146190
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】人見 周二
(72)【発明者】
【氏名】岡部 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】山内 翔太
(72)【発明者】
【氏名】山手 茂樹
【審査官】辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-139982(JP,A)
【文献】特開2012-099307(JP,A)
【文献】特表2016-510485(JP,A)
【文献】特開2015-156319(JP,A)
【文献】特開2019-145268(JP,A)
【文献】特開2002-313435(JP,A)
【文献】特開2017-033902(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0064519(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
G01K 1/14
H01G 2/14
H01G 2/18
H01G 11/16
H01G 11/74
H01M 10/0585
H01M 50/531
H01M 50/572
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極端子と、導電性タブを有する電極体とを備え、前記導電性タブを介して前記電極体を前記電極端子に接続してある蓄電素子に関して、前記導電性タブの温度を計測する温度センサからのセンサ出力に基づき、
前記電極体における内部短絡の短絡抵抗を推定するオブザーバを備え、前記オブザーバが推定した前記短絡抵抗に基づいて、前記電極体における内部短絡を検出する検出部と、
前記検出部の検出結果に応じて、前記電極端子と前記電極体との間の電流経路を遮断する遮断部
を備える遮断装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記センサ出力と前記蓄電素子の熱現象を模擬する熱回路モデルとに基づく状態推定アルゴリズムを用いて、前記内部
短絡の短絡抵抗を推定する
請求項
1に記載の遮断装置。
【請求項3】
前記熱回路モデルは、前記電極体、前記導電性タブ、及び短絡部位を節点に含み、各節点における温度及び熱容量、並びに節点間の熱抵抗をパラメータに含むモデルである
請求項
2に記載の遮断装置。
【請求項4】
前記状態推定アルゴリズムは、
各節点の温度及び短絡抵抗を含む状態変数の時間遷移を表す状態方程式を用いて、各状態変数の時間遷移を求め、
前記状態変数と前記温度センサによる観測温度を含む観測量との関係を記述する観測方程式を用いて、状態推定の尤度を求め、
求めた状態推定の尤度に応じて、状態変数の推定値を更新する
手順を含む、請求項
3に記載の遮断装置。
【請求項5】
前記状態推定アルゴリズムは、粒子フィルタ、アンサンブルカルマンフィルタ、拡張カルマンフィルタ、又は無香料カルマンフィルタを含む
請求項
2から請求項
4の何れか1つに記載の遮断装置。
【請求項6】
前記電極体は、積層型の電極体である
請求項1から請求項
5の何れか1つに記載の遮断装置。
【請求項7】
電極端子と、導電性タブを有する電極体とを備え、前記導電性タブを介して前記電極体を前記電極端子に接続してある蓄電素子であって、
前記導電性タブの温度を計測する温度センサ
と、
前記温度センサからのセンサ出力に基づき、前記電極体における内部短絡の短絡抵抗を推定するオブザーバを備え、前記オブザーバが推定した前記短絡抵抗に基づいて、前記電極体における内部短絡を検出する検出部と、
前記検出部の検出結果に応じて、前記電極端子と前記電極体との間の電流経路を遮断する遮断部と
を備える蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮断装置及び蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池などの蓄電素子は、ノート型パーソナルコンピュータ、スマートフォンなどの携帯端末の電源、再生可能エネルギー蓄電システム、IoTデバイス電源など、幅広い分野において使用されている。
【0003】
例えば、リチウムイオン電池の正極と負極との間には、電解液が満たされており、イオンが移動できる多孔質のセパレータが挟まれている。当該セパレータによって、正極及び負極が接触することが回避され、正極と負極との間で短絡(内部短絡)が発生することが防止されている(例えば、特許文献1を参照)。リチウムイオン電池に限らず、蓄電素子に内部短絡が発生すると、電池内部に熱が発生し、電池が故障する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内部短絡によって電池内部に熱が発生するので、例えば電池表面の温度を計測し、電池表面の温度上昇を検知すれば、内部短絡を検出することは可能である。しかしながら、内部短絡によって発生した熱が電池表面に伝わるのには一定の時間が掛かるので、この手法ではリアルタイムに内部短絡を検出することは困難である。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、内部短絡を早期に検出し、検出結果に応じて電流経路を遮断できる遮断装置及び蓄電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
遮断装置は、電極端子と、導電性タブを有する電極体とを備え、前記導電性タブを介して前記電極体を前記電極端子に接続してある蓄電素子に関して、前記導電性タブの温度を計測する温度センサからのセンサ出力に基づき、前記電極端子と前記電極体との間の電流経路を遮断する遮断部を備える。
【0008】
蓄電素子は、電極端子と、導電性タブを有する電極体とを備え、前記導電性タブを介して前記電極体を前記電極端子に接続してある蓄電素子であって、前記導電性タブの温度を計測する温度センサを備える。
【発明の効果】
【0009】
本願によれば、内部短絡を早期に検出し、検出結果に応じて電流経路を遮断できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】蓄電素子を構成する電極体の分解斜視図である。
【
図5】検出装置の内部構成を説明するブロック図である。
【
図7】内部短絡が発生した状態の蓄電素子の等価回路を表す回路図である。
【
図8】合成後の蓄電素子の等価回路を表す回路図である。
【
図9】実施の形態1における熱回路モデルの構成例を示す模式図である。
【
図10】実施の形態1における内部短絡の検出手順を説明するフローチャートである。
【
図11】実施の形態2における熱回路モデルの構成例を示す模式図である。
【
図12】実施の形態3における内部短絡の検出手順を説明するフローチャートである。
【
図13】実施の形態4における内部短絡の検出手順を説明するフローチャートである。
【
図14】実施の形態5における内部短絡の検出手順を説明するフローチャートである。
【
図15】内部短絡の予兆の検出手順を説明するフローチャートである。
【
図16】実施の形態7における蓄電素子の部分断面図である。
【
図18】制御回路が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。
【
図19】ラミネート型の蓄電素子を示す外観斜視図である。
【
図20】ラミネート型の蓄電素子を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
遮断装置は、電極端子と、導電性タブを有する電極体とを備え、前記導電性タブを介して前記電極体を前記電極端子に接続してある蓄電素子に関して、前記導電性タブの温度を計測する温度センサからのセンサ出力に基づき、前記電極端子と前記電極体との間の電流経路を遮断する遮断部を備える。
蓄電素子において内部短絡が発生した場合、導電性タブは電極体や電極体を収容する容器と比較して速やかに昇温する。遮断装置は、導電性タブの温度上昇が認められる場合、電極端子と電極体との間の電流経路を遮断することによって、蓄電素子が高温となることを防止できる。
【0012】
遮断装置において、前記センサ出力に基づき、前記電極体における内部短絡を検出する検出部を備え、前記遮断部は、前記検出部の検出結果に応じて、前記電極端子と前記電極体との間の電流経路を遮断してもよい。この構成によれば、検出部は、導電性タブの温度を参照することによって、内部短絡を早期に検出し、内部短絡を検出した場合、電極端子と電極体との間の電流経路を遮断できる。
【0013】
遮断装置において、前記検出部は、前記センサ出力に基づき、前記内部短絡の短絡抵抗を推定するオブザーバを備えてもよい。この構成によれば、オブザーバから得られる状態変数を通じて、直接的に観測することができない内部抵抗の短絡抵抗を推定できる。
【0014】
遮断装置において、前記検出部は、前記センサ出力と前記蓄電素子の熱現象を模擬する熱回路モデルとに基づく状態推定アルゴリズムを用いて、前記内部抵抗の短絡抵抗を推定してもよい。この構成によれば、状態推定アルゴリズムを用いて、直接的に観測することができない内部抵抗の短絡抵抗を推定できる。
【0015】
遮断装置において、前記熱回路モデルは、前記電極体、前記導電性タブ、及び短絡部位を節点に含み、各節点における温度及び熱容量、並びに節点間の熱抵抗をパラメータに含むモデルであってもよい。この構成によれば、簡易なモデルを用いて蓄電素子における熱現象を記述できる。
【0016】
遮断装置において、前記状態推定アルゴリズムは、各節点の温度及び短絡抵抗を含む状態変数の時間遷移を表す状態方程式を用いて、各状態変数の時間遷移を求め、前記状態変数と前記温度センサによる観測温度を含む観測量との関係を記述する観測方程式を用いて、状態推定の尤度を求め、求めた状態推定の尤度に応じて、状態変数の推定値を更新する手順を含んでもよい。この構成によれば、逐次更新される状態変数を通じて、直接的に観測することができない内部抵抗の短絡抵抗を時系列的に推定できる。
【0017】
遮断装置において、前記状態推定アルゴリズムは、粒子フィルタ、アンサンブルカルマンフィルタ、拡張カルマンフィルタ、又は無香料カルマンフィルタを含んでもよい。この構成によれば、粒子フィルタ、アンサンブルカルマンフィルタ、拡張カルマンフィルタ、又は無香料カルマンフィルタを用いて、状態変数を逐次更新し、直接的に観測することができない内部抵抗の短絡抵抗を時系列的に推定できる。
【0018】
遮断装置において、前記電極体は積層型の電極体であってもよい。この構成によれば、蓄電素子の正極板同士(又は負極板同士)は導電性タブのみを介して接続されているので、内部短絡が発生した場合、導電性タブの温度は速やかに上昇する。遮断装置は、導電性タブの温度上昇が認められる場合、電極端子と電極体との間の電流経路を遮断することによって、蓄電素子が高温となることを防止できる。
【0019】
蓄電素子は、電極端子と、導電性タブを有する電極体とを備え、前記導電性タブを介して前記電極体を前記電極端子に接続してある蓄電素子であって、前記導電性タブの温度を計測する温度センサを備える。蓄電素子は、導電性タブの温度を計測する温度センサを備えるので、内部短絡が発生したときに比較的速やかに変化する状態を観測できる。
【0020】
蓄電素子において、前記温度センサからのセンサ出力に基づき、前記電極端子と前記電極体との間の電流経路を遮断する遮断部を備えてもよい。この構成によれば、蓄電素子の内部短絡が検出された場合、電極端子と電極体との間の電流経路を遮断するので、蓄電素子が高温となることを防止できる。
【0021】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
(実施の形態1)
図1は蓄電素子100の外観斜視図、
図2は蓄電素子100の分解斜視図、
図3は蓄電素子100を構成する電極体200の分解斜視図、
図4は端子付近の部分断面図である。蓄電素子100は、例えばリチウムイオン二次電池である。蓄電素子100は、外部の充電装置から供給される電力を蓄電し、蓄電した電力を所定の負荷に対して供給する。蓄電素子100は、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)等の自動車用(又は移動体用)電源、航空用電源、宇宙用電源、電子機器用電源、電力貯蔵用電源などに利用される。
【0022】
蓄電素子100は、容器110に収容される電極体200(
図2を参照)、及び外部の充電装置や負荷に接続される電極端子310,320を備える。一方の電極端子310は正極端子であり、他方の電極端子320は負極端子である。電極体200は、導電性タブ(後述する正極タブ211,負極タブ221)を介して、電極端子310,320に電気的に接続される。
【0023】
容器110は、直方体形状の容器本体111と、容器本体111の開口を閉塞する蓋体112とにより構成される。容器本体111及び蓋体112は、例えばステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金など溶接可能な金属によって形成される。代替的に、容器本体111及び蓋体112は、樹脂によって形成されてもよい。容器本体111は、電極体200などを収容した後、蓋体112によって密閉される。容器110の内部には電解液(不図示)が封入される。電解質として、例えば有機溶媒中に支持塩を含有させた電解質が用いられる。有機溶媒として、例えばカーボネート類、エステル類、エーテル類等の非プロトン性溶媒が用いられる。支持塩として、例えば、LiPF6 、LiBF4 、LiClO4 等のリチウム塩が好適に用いられる。電解質は、例えば、ガス発生剤、被膜形成剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含んでもよい。蓋体112は、容器110の内部に電解液を注入するための注入口、容器110の内圧が上昇したときに容器内部のガスを排出するガス排出弁等を備えてもよい。
【0024】
蓄電素子100の電極端子310,320は、かしめ等によって、容器110の蓋体112に取り付けられる。具体的には、電極端子310,320は、それぞれ下方に延びる軸部(リベット部)を有しており、この軸部が、上部ガスケット120、蓋体112、下部ガスケット130、及び集電体140の貫通孔に挿通されて、かしめられる。これにより、電極端子310,320は、上部ガスケット120、蓋体112、下部ガスケット130、及び集電体140と共に、容器110の蓋体112に取り付けられる。
【0025】
ここで、上部ガスケット120は、容器110の蓋体112と電極端子310,320との間に配置される平板状の封止部材である。下部ガスケット130は、容器110の蓋体112と集電体140との間に配置される封止部材である。上部ガスケット120及び下部ガスケット130は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等の絶縁性を有する樹脂材料によって形成される。
【0026】
集電体140は、電極端子310,320と電極体200の導電性タブ(正極タブ211及び負極タブ221)とを電気的に接続する矩形平板状の導電部材である。集電体140は、アルミニウム、アルミニウム合金、銅または銅合金等の金属等の材料によって形成される。正極側の集電体140は、かしめ等によって電極端子310に接続されると共に、溶接等によって電極体200が備える正極タブ211に接続される。同様に、負極側の集電体140は、かしめ等によって電極端子320に接続されると共に、溶接等によって電極体が備える負極タブ221に接続される。代替的に、集電体140は、溶接やネジ締結などの手法を用いて電極端子310,320に接続されてもよく、かしめやネジ締結などの手法を用いて、正極タブ211及び負極タブ221に接続されてもよい。
【0027】
電極体200は、正極板210、負極板220、及びセパレータ230の積層体である。
図3に一例として示す電極体200は、セパレータ230、負極板220、セパレータ230、正極板210、…の順に繰り返し積層された積層体からなることを示している。
【0028】
正極板210は、基材と、基材上に形成される正極活物質層とにより構成される。正極板210の基材は集電箔である。集電箔は、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金など公知の材料によって形成される。正極活物質層は、正極活物質、導電助剤、及びバインダを含む。正極活物質には、リチウムイオンを吸蔵・放出できる物質が用いられる。正極活物質として、LiMPO4 、LiMSiO4 、LiMBO3 (MはFe、Ni、Mn、Co等から選択される1種または2種以上の遷移金属元素)等のポリアニオン化合物、LiMn2 O4 やLiMn1.5Ni0.5 O4 等のスピネル型リチウムマンガン酸化物、LiMO2 (MはFe、Ni、Mn、Co等から選択される1種又は2種以上の遷移金属元素、リチウム過剰型の複合酸化物を含む)等のリチウム遷移金属酸化物などが用いられる。導電助剤には、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の炭素材料が好適に用いられる。バインダには、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の材料が用いられる。
【0029】
正極板210は正極タブ211を備える。正極タブ211は、正極板210の一辺から突出する矩形状の導電性タブである。正極タブ211は、基材(集電箔)と一体的に形成される。各正極板210の正極タブ211は1つに束ねられてタブ束を形成する。
【0030】
負極板220は、基材と、基材上に形成される負極活物質層とにより構成される。負極板220の基材は集電箔である。集電箔には、正極板210の基材を構成する集電箔と同様の材料が用いられる。負極活物質層は、負極活物質、導電助剤、及びバインダを含む。負極活物質には、リチウムイオンを吸蔵・放出できる物質が用いられる。負極活物質として、リチウム金属、リチウム合金(リチウム-ケイ素、リチウム-アルミニウム、リチウム-鉛、リチウム-錫、リチウム-アルミニウム-錫、リチウム-ガリウム、及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えば黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)、ケイ素酸化物、金属酸化物、リチウム金属酸化物(Li4 Ti5 O12等)、ポリリン酸化合物、一般にコンバージョン負極と呼ばれるCo3 O4 やFe2 P等の遷移金属と第14族~第16族元素との化合物などが挙げられる。導電助剤及びバインダには、正極活物質層を構成する導電助剤及びバインダと同様の材料が用いられる。
【0031】
負極板220は負極タブ221を備える。負極タブ221は、正極タブ211と重ならないような位置にて負極板220の一辺から突出する矩形状の導電性タブである。負極タブ221は、基材(集電箔)と一体的に形成される。各負極板220の負極タブ221は1つに束ねられてタブ束を形成する。
【0032】
セパレータ230は、微多孔性を有する矩形状のシートである。セパレータ230の素材として、例えば、有機溶剤に不溶な織布、不織布、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂からなる合成樹脂微多孔膜などが用いられる。セパレータ230は、材料、重量平均分子量、空孔率などが異なる複数の微多孔膜を積層した構成であってもよく、これらの微多孔膜に各種の可塑剤、酸化防止剤、難燃剤などの添加剤を適量含有する構成であってもよく、これらの微多孔膜の片面又は両面にシリカなどの無機酸化物を塗布したものであってもよい。
【0033】
実施の形態1では、蓄電素子100として、積層型の電極体200を有するリチウムイオン二次電池について説明した。代替的に、蓄電素子100は、巻回電極体を有するリチウムイオン二次電池であってもよい。また、蓄電素子100は、円筒形リチウムイオン電池であってもよく、ラミネート型リチウムイオン電池であってもよい。また、蓄電素子100は、電解質に固体を用いた全固体リチウムイオン電池、負極に金属リチウムを用いた金属リチウム二次電池であってもよい。更に、蓄電素子100は、亜鉛空気電池、ナトリウムイオン電池、鉛電池などのリチウムイオン二次電池以外の電池、又は電気二重層キャパシタなどのキャパシタであってもよい。
【0034】
上述した蓄電素子100に限らず、蓄電素子における正負の極板は互いに接触しないように離隔して設けられる。その結果、正負極板間の短絡(内部短絡)が回避されている。このような蓄電素子では、容器内部に異物が混入した場合、セパレータが破損した場合などにおいて、正負極板間の絶縁が保たれなくなり、内部短絡が発生することがある。蓄電素子に内部短絡が発生すると、電池内部に熱が発生し、電池の故障に繋がる。
【0035】
内部短絡によって電池内部に熱が発生するので、例えば電池表面の温度を計測し、電池表面の温度上昇を検知すれば、内部短絡を検出することは可能である。しかしながら、内部短絡によって発生した熱が電池表面に伝わるのには一定の時間が掛かるので、この手法ではリアルタイムに内部短絡を検出することは困難である。また、内部短絡の抵抗を実測することは困難であり、内部短絡の抵抗を把握する技術は存在しなかった。
【0036】
そこで、実施の形態1では、以下で説明する検出装置10において、蓄電素子100の電極体200が備える導電性タブの温度を参照したシミュレーションを実行し、シミュレーションの実行結果に基づき、蓄電素子100における内部短絡を検出する。例えば、検出装置10は、シミュレーションによって内部短絡の短絡抵抗を推定し、推定した短絡抵抗が閾値未満である場合、蓄電素子10における内部短絡を検出したと判断する。代替的に、事前に想定される種々の使用条件(充電又は放電時の電流値、通電時間など)にて、導電性タブの最高到達温度を求めておき、実際の運転時のタブ温度が予め求めておいた最高到達温度よりも一定割合又は一定温度以上高くなった場合、検出装置10は、内部短絡を検出したと判断してもよい。更に、事前に想定される種々の使用条件(充電又は放電時の電流値、通電時間など)での導電性タブの温度を実験又はシミュレーションにより求めて、使用条件とタブ温度との関係を予め明確にしておき、実際の運転時のタブ温度が該当する使用条件下でのタブ温度よりも一定割合又は一定温度以上高くなった場合、検出装置10は、内部短絡を検出したと判断してもよい。
【0037】
以下、シミュレーションを実行する検出装置10の構成について説明する。
図5は検出装置10の内部構成を説明するブロック図である。検出装置10は、演算部11、記憶部12、入力部13、及び出力部14を備える専用又は汎用のコンピュータである。
図5の例では、検出装置10は蓄電素子100の外部に設けられている。具体的には、検出装置10は、蓄電素子100の外側に設けられる蓄電素子監視装置(BMU : Battery Management Unit)であってもよく、遠隔地に設置されるサーバなどの計算機であってもよい。代替的に、検出装置10は蓄電素子100に内蔵されてもよい。
【0038】
演算部11は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備える演算回路である。演算部11が備えるCPUは、ROMや記憶部12に格納された各種コンピュータプログラムを実行し、上述したハードウェア各部の動作を制御することによって、装置全体を本願の検出装置として機能させる。具体的には、演算部11は、導電性タブ(正極タブ211,負極タブ221)の温度を計測する温度センサ250のセンサ出力と、蓄電素子100の熱現象を模擬する熱回路モデルMD1とに基づく状態推定アルゴリズムを用いて、蓄電素子100における短絡抵抗を推定する。演算部11は、短絡抵抗の推定結果に基づき、蓄電素子100の内部短絡を検出する。
【0039】
演算部11は、上記の構成に限定されるものではなく、複数のCPU、マルチコアCPU、GPU(Graphics Processing Unit)、マイコン、揮発性または不揮発性のメモリ等を備える任意の処理回路または演算回路であってもよい。また、演算部11は、計測開始指示を与えてから計測終了指示を与えるまでの経過時間を計測するタイマ、数をカウントするカウンタ、日時情報を出力するクロック等の機能を備えていてもよい。
【0040】
記憶部12は、フラッシュメモリなどの記憶装置である。記憶部12には各種のコンピュータプログラム及びデータが記憶される。記憶部12に記憶されるコンピュータプログラムには、例えば、状態推定アルゴリズムに基づく演算を演算部11に実行させるための状態推定プログラムPGが含まれる。記憶部12に記憶されるデータには、状態推定プログラムPGにおいて用いられるパラメータ、後述する短絡の等価回路モデルや熱回路モデルMD1において用いられるパラメータ、演算部11による演算によって一時的に生成されるデータなどが含まれる。状態推定プログラムPGは、例えば、コンピュータプログラムを読み取り可能に記録した非一時的な記録媒体Mにより提供される。記録媒体Mは、CD-ROM、USBメモリ、SD(Secure Digital)カードなどの可搬型メモリである。演算部11は、図に示していない読取装置を用いて、記録媒体Mから所望のコンピュータプログラムを読み取り、読み取ったコンピュータプログラムを記憶部12に記憶させる。代替的に、上記コンピュータプログラムは通信により提供されてもよい。
【0041】
入力部13は、温度センサ250を接続するためのインタフェースを備え、温度センサ250からのセンサ出力を取得する。温度センサ250は、熱電対、サーミスタなどの既存のセンサである。温度センサ250は、導電性タブを構成する正極タブ211又は負極タブ221の何れか1つ若しくは複数に接続される。代替的に、温度センサ250は、導電性タブが接合されている集電体140に接続されてもよい。実施の形態1において、温度センサ250の個数は1個である。代替的に、温度センサ250の個数は複数個であってもよい。温度センサ250は、有線によって入力部13に接続されてもよく、無線によって入力部13に接続されてもよい。
【0042】
出力部14は、外部装置を接続するインタフェースを備える。外部装置の一例は液晶ディスプレイなどの表示装置20である。代替的に、外部装置は、ユーザが使用するコンピュータやスマートフォンなどの端末装置(不図示)であってもよい。演算部11は、内部短絡の検出結果を出力部14より外部装置へ出力する。演算部11は、内部短絡の検出結果に加え、短絡抵抗の推定値を出力部14より外部装置へ出力してもよい。
【0043】
検出装置10は、内部短絡の検出結果をユーザに報知するために、LEDランプやブザー等の報知部を備えてもよい。
【0044】
以下、検出装置10が実行する演算処理の内容について説明する。
実施の形態1では、内部短絡時における電流を計算するために、蓄電素子100の等価回路を導入する。
図6は蓄電素子100の等価回路を表す回路図である。一般的な積層液系リチウムイオン電池は、各層が電気的に並列に接続される。よって、蓄電素子100の等価回路は、例えば
図6に示すような並列回路によって表される。
図6に示す等価回路は5層の積層電池を表す。層の数は、蓄電素子100の電極体200が備える正極板210及び負極板の数に応じて適宜設定される。
【0045】
蓄電素子100の各層は、正極タブ211、電池部、及び負極タブ221に区分される。電池部は、正極板210、セパレータ230、負極板220、電解液などを含む。等価回路において、正極タブ211は、正極タブ抵抗(抵抗値rptab)として表され、負極タブ221は、負極タブ抵抗(抵抗値rntab)として表される。電池部は、平衡電位(電圧値Eeq)と、内部抵抗(抵抗値re )とによって表される。ここで、電池部の内部抵抗は、電極のオーム抵抗、電極の反応抵抗、及び電解質のオーム抵抗を含む。
【0046】
図6に示す等価回路では、簡略化のために、蓄電素子100の各層を、正極タブ211、電池部、及び負極タブ221の3つ部位に区分したが、更に細かく区分してもよい。また、
図6の等価回路では、外部短絡層が同じ状態にあることを仮定しているが、外部短絡層毎に異なる状態を設定してもよい。
【0047】
図7は内部短絡が発生した状態の蓄電素子100の等価回路を表す回路図である。
図7に一例として示す等価回路は、5層目を内部短絡層とし、1~4層目を外部短絡層とした等価回路を表している。内部短絡は、電池部に並列に接続される短絡抵抗(抵抗値R
s )によって表される。他の層において内部短絡が発生した場合についても同様である。
【0048】
等価回路において、外部短絡層の各層(1~4層目)は同一とみなせるので、外部短絡層の各素子は合成して記述できる。
図8は合成後の蓄電素子100の等価回路を表す回路図である。外部短絡層における合成正極タブ抵抗(r
ptab,ex )、合成内部抵抗(r
e,ex)、合成負極タブ抵抗(r
ntab,ex )は、数1のように記述される。
【0049】
【0050】
ここで、nは層の総数を表す。この例では、n=5である。各層は並列であるため、平衡電位はEeqである。
【0051】
外部短絡層を流れる電流をI
ex、内部短絡層を流れる電流をI
in、短絡部を流れる電流をI
s とする。I
exは全ての外部短絡層を流れる電流の総和であり、一層あたりの電流はI
ex/(n-1)である。
図8の例では、内部短絡層における電池の内部抵抗を、外部短絡層における電池の内部抵抗(r
e,ex)と区別するために、r
e,inと表記している。
【0052】
図8に示す等価回路において、電流の保存則を適用した場合、数2が得られる。
【0053】
【0054】
外部短絡層と、内部短絡層のタブ部分と、短絡部とからなる閉回路において、キルヒホッフの法則を適用した場合、数3が得られる。
【0055】
【0056】
内部短絡層と短絡部とからなる閉回路において、キルヒホッフの法則を適用した場合、数4が得られる。
【0057】
【0058】
数2~数4を解くと、内部短絡層に流れる電流Iin、外部短絡層に流れる電流Iex、短絡部に流れる電流Is は、それぞれ数5~数7のように得られる。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
数5~数7において、短絡抵抗Rs 以外の全ての抵抗は、設計値(材料物性、形状)によって定まるため、既知である。一方、短絡抵抗Rs については、設計により定めることはできず、計測することも不可能である。
【0063】
実施の形態1では、内部短絡時における温度を計算するために、蓄電素子100の熱現象を模擬する熱回路モデルMD1を導入する。
図9は実施の形態1における熱回路モデルMD1の構成例を示す模式図である。熱回路モデルMD1は、蓄電素子100を区分する複数の領域の温度と、領域間の熱抵抗とをパラメータに用いて、蓄電素子100の熱現象を模擬するためのモデルである。
図9に例示する熱回路モデルMD1は、蓄電素子100を7つの領域(領域1~領域7)に区分している。領域1~領域7は、内部短絡層、外部短絡層、内部短絡層に連なる正極タブ、外部短絡層に連なる正極タブ、内部短絡層に連なる負極タブ、外部短絡層に連なる負極タブ、及び短絡部にそれぞれ対応する。熱回路モデルMD1において、領域1~領域7の温度をT
1 ~T
7 と表記し、領域iと領域jとの間の熱抵抗をR
ij(i,j=1~7)と表記する。例えば、温度T
1 は内部短絡層の温度(電池温度)、温度T
2 は外部短絡層の温度(電池温度)、熱抵抗R
12は内部短絡層と外部短絡層との間の熱抵抗を表す。他の領域の温度、他の領域間の熱抵抗についても
図9に示した通りである。
【0064】
図9に示した熱回路モデルMD1から、温度T
1 ~T
7 の熱伝導方程式は数8のように表される。
【0065】
【0066】
ここで、Cpiは領域iの比熱、Vi は領域iの体積、ρi は領域iの密度である。Q1 ~Q7 は通電による発熱(ジュール発熱及び電気化学反応熱)を表す。数8に示す熱伝導方程式では、簡略化のために、電池外部への熱放出はなく、短絡電流によって生じた熱は全て電池の温度上昇に使われると仮定した。代替的に、電池外部への熱放出を考慮した熱伝導方程式を用いてもよい。
【0067】
数8の項を整理し、左辺の時間微分を差分に書き換えることによって、数9が得られる。数9において、Δtは計算の時間刻み幅を表し、上付き添え字のk,k+1はステップ数(時間ステップ)を表す。
【0068】
【0069】
数9において、αj =Δt/ρj CpjVj とおき、整理すると、数10が得られる。
【0070】
【0071】
数10において、各領域における発熱量Q1
k~Q7
kは、以下のように表される。
【0072】
【0073】
ここで、内部短絡層に流れる電流Iin、外部短絡層に流れる電流Iex、短絡部に流れる電流Is は、それぞれ数5~数7のように記述されている。数5~7及び数11において、未知のパラメータは短絡抵抗Rs のみである。発熱量Q1
k~Q7
kが短絡抵抗Rsの関数であることを明示するために、Qi
k=Qi
k(Rs )と表記すると、数10は以下のように書き換えられる。
【0074】
【0075】
短絡抵抗Rs を推定するために、数12に対して、短絡抵抗Rs を状態量(=潜在変数)として付加する。検出装置10は、演算部11をオブザーバとして機能させ、数13に示す8つの状態変数を8つの方程式によって解けばよい。
【0076】
【0077】
また、系や観測の外乱を抑えながら状態推定を行うために、外乱項を加えてもよい。外乱項は必須ではないが、計算の進みを良くするために、与えることが好ましい場合がある。外乱項を加えた式は数14に示すように記述される。数14において、vT1
k~vT7
k ,vRs
k は外乱項である。
【0078】
【0079】
数14は次式のように書き換えられる。
【0080】
【0081】
ここで、xk は状態量を要素に持つベクトル(状態ベクトル)であり、vk は外乱量を要素に持つベクトル(外乱ベクトル)である。fは数14に示す非線形の差分式を表す。
【0082】
実施の形態1では、温度センサ250は正極タブ211に取り付けられているとする。ただし、内部短絡が発生したとしても、どの層において内部短絡が発生したのかを把握することはできない。よって、内部短絡が発生したとしても、温度センサ250の計測値が内部短絡層に繋がる正極タブ211の温度を表しているのか、外部短絡層に繋がる正極タブ211の温度を表しているのかは分からない。しかしながら、外部短絡層のタブの昇温は内部短絡層のタブの昇温よりも穏やかであるため、温度センサ250の計測値は外部短絡層に繋がる正極タブ211の温度とみなした方が安全性マージンを確保できる。以下では、温度センサ250の計測値は外部短絡層に繋がる正極タブ211の温度であると仮定する。
【0083】
観測方程式は数16のように表される。
【0084】
【0085】
ここで、yk は観測値、cT は観測ベクトル、wk は観測外乱である。外部短絡層に繋がる正極タブ211の温度T4
kはxk の4番目の成分であるから、cT は次式のように表される。cの右肩のTは転置を表す。
【0086】
【0087】
上述した観測方程式において、観測値は1つだけであるとした。代替的に、観測値は複数であってもよい。
【0088】
実施の形態1に係る検出装置10は、粒子フィルタを利用して、数15の状態方程式及び数16の観測方程式によって表される時系列モデルの時間更新を逐次計算し、内部抵抗Rs を求める。検出装置10は、求めた内部抵抗Rs に基づき、蓄電素子100における内部短絡を検出する。
【0089】
以下、内部短絡の検出手順について説明する。
図10は実施の形態1における内部短絡の検出手順を説明するフローチャートである。検出装置10の演算部11は、k=1の初期値を与える(ステップS101)。演算部11は、温度の初期値として環境温度を与え、短絡抵抗の初期値として予め設定した仮の値を与えればよい。
【0090】
次いで、演算部11は、各状態変数について、N個の粒子を発生させる(ステップS102)。ここで、Nは、102 ~106 程度の数が通常用いられる。
【0091】
次いで、演算部11は、i=1,2,…,Nについて、vk に相当する乱数を発生させる(ステップS103)。
【0092】
演算部11は、全てのN個の粒子について、数18に基づく演算を実行することによって、粒子の状態を次の時間ステップにおける粒子の状態に更新する(ステップS104)。
【0093】
【0094】
演算部11は、入力部13を通じて温度センサ250のセンサ出力を取得し(ステップS105)、全てのN個の粒子について、観測方程式に基づき粒子の重みPk
(i)を算出する(ステップS106)。粒子の重みは、粒子iの状態ベクトルxk を得たときに、観測値yk が観測される確率(尤度)であり、次式によって記述される。
【0095】
【0096】
演算部11は、ステップS106において算出した粒子の重みPk
(i)を、次式に基づいて規格化する(ステップS107)。
【0097】
【0098】
演算部11は、粒子の重みと状態ベクトルとの加重平均をとったベクトルを、粒子フィルタによる推定値として算出する(ステップS108)。演算式は、数21に示す通りである。この演算により、各領域の温度の推定値、及び短絡抵抗の推定値が得られる。
【0099】
【0100】
次いで、演算部11は、短絡抵抗の推定値に基づき、蓄電素子100における内部短絡の有無を推定する。例えば、演算部11は、短絡抵抗の推定値が閾値未満であるか否かを判断する(ステップS109)。閾値は、任意に設定される。
【0101】
短絡抵抗の推定値が閾値未満でない場合(S109:NO)、蓄電素子100において内部短絡は生じていないと推定される。内部短絡が生じていないと推定した場合、演算部11は、次の時間ステップの推定のために粒子をリサンプリング(層化サンプリング)する(ステップS110)。演算部11は、時間ステップkの状態ベクトルxk
(i)はpk
(i)に比例して復元抽出されるとし、時間ステップk+1での状態ベクトルを定めればよい。演算部11は、粒子をリサンプリングした後、処理をステップS102へ戻す。
【0102】
短絡抵抗の推定値が閾値未満である場合(S109:YES)、蓄電素子100において内部短絡が生じていると推定される。内部短絡が生じていると推定した場合、演算部11は、内部短絡の発生を報知する(ステップS111)。例えば、演算部11は、内部短絡が発生した旨の文字情報を生成し、出力部14より表示装置20へ出力することによって、表示装置20に表示させる。代替的に、演算部11は、内部短絡が発生した旨の文字情報を出力部14より端末装置(不図示)に通知してもよい。また、演算部11は、蓄電素子100の使用停止若しくは交換を促してもよく、使用停止若しくは交換の判断をユーザに仰いでもよい。
【0103】
以上のように、実施の形態1における検出装置10は、導電性タブの温度を計測する温度センサ250のセンサ出力に基づき、蓄電素子100の内部短絡を検出する。蓄電素子100において内部短絡が発生した場合、導電性タブは容器110や電極体200と比較して速やかに昇温するので、検出装置10は、導電性タブの温度に基づき短絡抵抗を推定することによって、内部短絡を早期に検出できる。
【0104】
電池内部の温度をほぼタイムラグなく正確に計測できるのであれば、温度センサ250の取付位置は導電性タブ上に限定されない。例えば、温度センサ250は、電極端子310,320(より好ましくは電極端子310,320のリベット部)に取り付けられてもよい。代替的に、温度センサ250は、集電体140やバスバー(不図示)に取り付けられてもよい。代替的に、温度センサ250は、電極体200を収容する容器110の外側表面に取り付けられてもよい。電極体200が絶縁袋に覆われた状態で容器110の内面と接触している場合、容器110の温度は、電極体200の温度上昇と共に速やかに上昇する。このため、容器110の温度に基づき短絡抵抗を推定することによって、内部短絡を早期に検出できる。特に、電極体200が絶縁袋を介して容器110の内側の長側面に接触している場合、温度センサ250は、容器110の外側の長側面に取り付けられるとよい。
【0105】
実施の形態1における検出装置10は、粒子フィルタを利用して短絡抵抗を推定する。粒子フィルタは、非線形性や非ガウス性を有する状態空間モデルを対象としたフィルタ手法であり、線形性やガウス性を仮定せずに、より一般的な状態空間モデルを対象とすることができる。また、粒子フィルタは、アルゴリズムが比較的単純であり、検出装置10に容易に実装できる。
【0106】
(実施の形態2)
実施の形態2では、複数の正極タブ211(又は複数の負極タブ221)が束ねられたタブ結束部に温度センサ250を取り付け、この温度センサ250のセンサ出力に基づき内部短絡を検出する構成について説明する。
【0107】
実施の形態2において、温度センサ250は、複数の正極タブ211(又は複数の負極タブ221)が束ねられたタブ結束部に取り付けられる。実施の形態2では、内部短絡層のタブの温度と、外部短絡層のタブの温度とが同一であると仮定する。
【0108】
図11は実施の形態2における熱回路モデルMD2の構成例を示す模式図である。熱回路モデルMD2は、蓄電素子100を区分する複数の領域の温度と、領域間の熱抵抗とをパラメータに用いて、蓄電素子100の熱現象を模擬するためのモデルである。
図11に例示する熱回路モデルMD2は、蓄電素子100を5つの領域(領域1~領域5)に区分している。領域1~領域5は、内部短絡層、外部短絡層、正極タブ、負極タブ、及び短絡部にそれぞれ対応する。熱回路モデルMD2において、領域1~領域5の温度をT
1 ~T
5 と表記し、領域iと領域jとの間の熱抵抗をR
ij(i,j=1~5)と表記する。例えば、温度T
1 は内部短絡層の温度(電池温度)、温度T
2 は外部短絡層の温度(電池温度)、熱抵抗R
12は内部短絡層と外部短絡層との間の熱抵抗を表す。他の領域の温度、他の領域間の熱抵抗についても
図11に示した通りである。
【0109】
図11に示した熱回路モデルMD2から、温度T
1 ~T
5 の熱伝導方程式は数22のように表される。
【0110】
【0111】
ここで、Cpiは領域iの比熱、Vi は領域iの体積、ρi は領域iの密度である。Q1 ~Q5 は通電による発熱(ジュール発熱及び電気化学反応熱)を表す。数22に示す熱伝導方程式では、簡略化のために、電池外部への熱放出はなく、短絡電流によって生じた熱は全て電池の温度上昇に使われると仮定した。代替的に、電池外部への熱放出を考慮した熱伝導方程式を用いてもよい。
【0112】
数22の項を整理し、左辺の時間微分を差分に書き換えることによって、数23が得られる。数23において、Δtは計算の時間刻み幅を表し、上付き添え字のk,k+1はステップ数(時間ステップ)を表す。
【0113】
【0114】
数23において、αj =Δt/ρj CpjVj とおき、整理すると、数24が得られる。
【0115】
【0116】
数24において、各領域における発熱量Q1
k~Q5
kは、以下のように表される。
【0117】
【0118】
ここで、内部短絡層に流れる電流Iin、外部短絡層に流れる電流Iex、短絡部に流れる電流Is は、実施の形態1において説明したように、それぞれ数5~数7のように記述される。数5~7及び数25において、未知のパラメータは短絡抵抗Rs のみである。発熱量Q1
k~Q5
kが短絡抵抗Rsの関数であることを明示するために、Qi
k=Qi
k(Rs )と表記すると、数24は以下のように書き換えられる。
【0119】
【0120】
短絡抵抗Rs を推定するために、数26に対して、短絡抵抗Rs を状態量(=潜在変数)として付加する。検出装置10は、演算部11をオブザーバとして機能させ、数27に示す6つの状態変数を6つの方程式によって解けばよい。
【0121】
【0122】
また、系や観測の外乱を抑えるために、外乱項を加えてもよい。外乱項は必須ではないが、計算の進みを良くするために、与えることが好ましい。外乱項を加えた式は数28に示すように記述される。数28において、vT1
k~vT5
k ,vRs
k は外乱項である。
【0123】
【0124】
数28は次式のように書き換えられる。
【0125】
【0126】
ここで、xk は状態量を要素に持つベクトル(状態ベクトル)であり、vk は外乱量を要素に持つベクトル(外乱ベクトル)である。fは数28に示す非線形の差分式を表す。
【0127】
観測においては、状態量のうち一部が観測される。以下では、温度センサ250の計測値は正極タブ211を束ねた結束部の温度であると仮定する。
【0128】
観測方程式は数30のように表される。
【0129】
【0130】
ここで、yk は観測値、cT は観測ベクトル、wk は観測外乱である。正極タブ211の結束部の温度T3
kはxk の3番目の成分であるから、cT は次式のように表される。cの右肩のTは転置を表す。
【0131】
【0132】
上述した観測方程式において、観測値は1つだけであるとした。代替的に、観測値は複数であってもよい。
【0133】
検出装置10は、実施の形態1と同様に、粒子フィルタを利用して数29の状態方程式及び数30の観測方程式によって表される時系列モデルの時間更新を逐次計算し、内部抵抗Rs を求める。検出装置10は、求めた内部抵抗Rs に基づき、蓄電素子100における内部短絡を検出する。
【0134】
以上のように、実施の形態2では、複数の正極タブ211(又は複数の負極タブ221)が束ねられたタブ結束部に温度センサ250を設けるので、温度センサ250の取り付けが容易である。実施の形態2では、熱回路モデルMD2が簡略化され、パラメータの数が減少するので、計算が容易となる。
【0135】
(実施の形態3)
実施の形態3では、アンサンブルカルマンフィルタを用いた状態推定アルゴリズムについて説明する。すなわち、実施の形態3における検出装置10は、アンサンブルカルマンフィルタを用いて、数15の状態方程式及び数16の観測方程式によって表される時系列モデルの時間更新を逐次計算し、内部抵抗Rs を求める。検出装置10は、求めた内部抵抗Rs に基づき、蓄電素子100の内部短絡を検出する。
【0136】
図12は実施の形態3における内部短絡の検出手順を説明するフローチャートである。検出装置10の演算部11は、k=1の初期値を与える(ステップS121)。演算部11は、温度の初期値として環境温度を与え、短絡抵抗の初期値として予め設定した仮の値を与えればよい。状態方程式における外乱項v
k 及び観測方程式における外乱項w
k の分散をそれぞれQ
k 及びR
k とする。
【0137】
次いで、演算部11は、各状態変数について、N個の粒子を発生させる(ステップS122)。ここで、Nは、102 ~106 程度の数が通常用いられる。
【0138】
次いで、演算部11は、i=1,2,…,Nについて、vk に相当する乱数を発生させる(ステップS123)。vk は正規分布に従うものとし、分散は既知とする。
【0139】
演算部11は、全てのN個の粒子について、数18に基づく演算を実行することによって、粒子の状態を次の時間ステップにおける粒子の状態に更新する(ステップS124)。
【0140】
【0141】
演算部11は、i=1,2,…,Nの各粒子の状態ベクトルと、全粒子の状態ベクトルの平均値との差xk
(i)_barを算出する(ステップS125)。xk
(i)_barは、数33によって表される。
【0142】
【0143】
演算部11は、全ての粒子に関する状態量予測値の共分散行列Pk を算出する(ステップS126)。共分散行列Pk は、数34によって表される。
【0144】
【0145】
演算部11は、入力部13を通じて温度センサ250のセンサ出力を取得する(ステップS127)。取得した温度センサ250のセンサ出力は、時間ステップkにおける各粒子の観測値yk
iを与える。
【0146】
演算部11は、i番目の粒子の時間ステップkにおける観測誤差rk
iを算出する(ステップS128)。ここで、wk は観測外乱である。観測誤差rk
iは、数35によって表される。
【0147】
【0148】
演算部11は、時間ステップkにおけるカルマンゲインKk を算出する(ステップS129)。カルマンゲインKk は、数36によって表される。
【0149】
【0150】
演算部11は、i番目の粒子の推定値xk
(i)_hatを算出する(ステップS130)。推定値xk
(i)_hatは、数37によって表される。すなわち、演算部11は、数32の最初の予測値を、数35の観測誤差rk
iと数36のカルマンゲインKk とを用いて修正する。
【0151】
【0152】
演算部11は、各粒子の平均値xk _hatを算出する(ステップS131)。各粒子の平均値xk _hatは、アンサンブルカルマンフィルタによって得られる状態ベクトル推定値を表し、次式によって算出される。
【0153】
【0154】
数38によって得られる推定値(各粒子の平均値xk _hat)には、各領域の温度の推定値、及び短絡抵抗の推定値が含まれる。演算部11は、短絡抵抗の推定値に基づき、蓄電素子100における内部短絡の有無を推定する。例えば、演算部11は、短絡抵抗の推定値が閾値未満であるか否かを判断する(ステップS132)。閾値は、任意に設定される。
【0155】
短絡抵抗の推定値が閾値未満でない場合(S132:NO)、蓄電素子100において内部短絡は生じていないと推定される。内部短絡が生じていないと推定した場合、演算部11は、処理をステップS122へ戻し、次の時間ステップにおける演算を実行する。
【0156】
短絡抵抗の推定値が閾値未満である場合(S132:YES)、蓄電素子100において内部短絡が生じていると推定される。内部短絡が生じていると推定した場合、演算部11は、内部短絡の発生を報知する(ステップS133)。例えば、演算部11は、内部短絡が発生した旨の文字情報を生成し、出力部14より表示装置20へ出力することによって、表示装置20に表示させる。代替的に、演算部11は、内部短絡が発生した旨の文字情報を出力部14より端末装置(不図示)に通知してもよい。また、演算部11は、蓄電素子100の使用停止若しくは交換を促してもよく、使用停止若しくは交換の判断をユーザに仰いでもよい。
【0157】
実施の形態3における検出装置10は、アンサンブルカルマンフィルタを利用して短絡抵抗を推定する。アンサンブルカルマンフィルタは、非線形性や非ガウス性を有する状態空間モデルを対象としたフィルタ手法であり、より一般的な状態空間モデルを対象とすることができる。アンサンブルカルマンフィルタは、アルゴリズムが比較的単純であり、検出装置10に容易に実装できる。
【0158】
(実施の形態4)
実施の形態4では、拡張カルマンフィルタを用いた状態推定アルゴリズムについて説明する。すなわち、実施の形態4における検出装置10は、拡張カルマンフィルタを用いて、数15の状態方程式及び数16の観測方程式によって表される時系列モデルの時間更新を逐次計算し、内部抵抗Rs を求める。検出装置10は、求めた内部抵抗Rs に基づき、蓄電素子100の内部短絡を検出する。
【0159】
図13は実施の形態4における内部短絡の検出手順を説明するフローチャートである。検出装置10の演算部11は、k=1の初期値を与える(ステップS141)。演算部11は、温度の初期値として環境温度を与え、短絡抵抗の初期値として予め設定した仮の値を与えればよい。状態方程式における外乱項v
k 及び観測方程式における外乱項w
k の分散をそれぞれQ
k 及びR
k とする。初期の分散共分散行列Pを仮定する。
【0160】
演算部11は、事前状態推定値x-
k+1 _hatを次式により算出する(ステップS142)。
【0161】
【0162】
演算部11は、非線形変換fのヤコビアン行列を以下の手順によって導出する(ステップS143)。例えば、数40によって表される3成分ベクトルに対し、非線形変換fを数41のように表した場合、ヤコビアンは数42によって算出される。演算部11は、ヤコビアンを事前に導出し、記憶部12に記憶させておいてもよい。
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
演算部11は、事前誤差共分散行列P-
k+1を次式により算出する(ステップS144)。ここで、状態遷移行列Ak は数44により表される。
【0167】
【0168】
【0169】
演算部11は、カルマンゲインgk を算出する(ステップS145)。カルマンゲインgk は、数45によって表される。
【0170】
【0171】
演算部11は、入力部13を通じて温度センサ250のセンサ出力を取得する(ステップS146)。取得した温度センサ250のセンサ出力は、時間ステップkの観測値yk を与える。
【0172】
演算部11は、事後状態推定値xk+1 _hat、及び事後誤差共分散行列Pk を次式により算出する(ステップS147)。
【0173】
【0174】
数46によって得られる推定値(事後状態推定値xk+1 _hat)には、各領域の温度の推定値、及び短絡抵抗の推定値が含まれる。演算部11は、短絡抵抗の推定値に基づき、蓄電素子100における内部短絡の有無を推定する。例えば、演算部11は、短絡抵抗の推定値が閾値未満であるか否かを判断する(ステップS148)。閾値は、任意に設定される。
【0175】
短絡抵抗の推定値が閾値未満でない場合(S148:NO)、蓄電素子100において内部短絡は生じていないと推定される。内部短絡が生じていないと推定した場合、演算部11は、処理をステップS142へ戻し、次の時間ステップにおける演算を実行する。
【0176】
短絡抵抗の推定値が閾値未満である場合(S148:YES)、蓄電素子100において内部短絡が生じていると推定される。内部短絡が生じていると推定した場合、演算部11は、内部短絡の発生を報知する(ステップS149)。例えば、演算部11は、内部短絡が発生した旨の文字情報を生成し、出力部14より表示装置20へ出力することによって、表示装置20に表示させる。代替的に、演算部11は、内部短絡が発生した旨の文字情報を出力部14より端末装置(不図示)に通知してもよい。また、演算部11は、蓄電素子100の使用停止若しくは交換を促してもよく、使用停止若しくは交換の判断をユーザに仰いでもよい。
【0177】
実施の形態4における検出装置10は、拡張カルマンフィルタを利用して短絡抵抗を推定する。拡張カルマンフィルタは、非線形モデルを平均値等の代表値付近で線形近似することにより、カルマンフィルタの適用を可能にする手法である。拡張カルマンフィルタは、計算負荷が小さく、安価な装置にて実現可能である。
【0178】
(実施の形態5)
実施の形態5では、無香料カルマンフィルタを用いた状態推定アルゴリズムについて説明する。すなわち、実施の形態5における検出装置10は、無香料カルマンフィルタを用いて、数15の状態方程式及び数16の観測方程式によって表される時系列モデルの時間更新を逐次計算し、内部抵抗Rs を求める。検出装置10は、求めた内部抵抗Rs に基づき、蓄電素子100の内部短絡を検出する。
【0179】
図14は実施の形態5における内部短絡の検出手順を説明するフローチャートである。検出装置10の演算部11は、k=1の初期値を与える(ステップS161)。演算部11は、温度の初期値として環境温度を与え、短絡抵抗の初期値として予め設定した仮の値を与えればよい。状態方程式における外乱項v
k 及び観測方程式における外乱項w
k の分散をそれぞれQ
k 及びR
k とする。初期の分散共分散行列Pを仮定する。
【0180】
演算部11は、ある計算ステップにて得られた推定値x-
kと分散共分散行列Pk を用いて、シグマポイントと呼ばれる計算点を生成する(ステップS162)。生成される(2n+1)個のシグマポイントを数47のように付番すると、j(jは-n≦j≦nを満たす整数)番目のシグマポイントは、数48のように表される。
【0181】
【0182】
【0183】
ただし、sig(j)は、j<0のとき-1、j=0のとき0、0<jのとき+1を与える関数である。κは正の調整パラメータである。
【0184】
各々のシグマポイントの重みwj を、j≠0のときwj =κ/2(n+κ)、j=0のときw0 =κ/(n+κ)とする。
【0185】
演算部11は、次式のように、全てのシグマポイントの状態、事前状態推定値、事前誤差共分散行列を更新する(ステップS163)。
【0186】
【0187】
演算部11は、事前状態推定値と事前誤差共分散行列とを更新したため、次式によりシグマポイントを再計算する(ステップS164)。
【0188】
【0189】
演算部11は、観測のシグマポイントを次式に従って更新する(ステップS165)。
【0190】
【0191】
演算部11は、事前観測推定値y-
k+1_hatを次式により算出する(ステップS166)。
【0192】
【0193】
演算部11は、事前観測誤差の共分散行列P-
yy,k+1 を次式により算出する(ステップS167)。
【0194】
【0195】
演算部11は、事前状態・観測誤差の共分散行列P-
xy,k+1 を次式により算出する(ステップS168)。
【0196】
【0197】
演算部11は、カルマンゲインgk を次式により算出する(ステップS169)。
【0198】
【0199】
演算部11は、入力部13を通じて温度センサ250のセンサ出力を取得する(ステップS170)。取得した温度センサ250のセンサ出力は、時間ステップk+1における観測値yk+1 を与える。
【0200】
演算部11は、カルマンゲインgk を観測値yk+1と事前観測推定値y-
k+1_hatとの差に乗じ、時間ステップk+1における状態推定を行う(ステップS171)。
【0201】
【0202】
演算部11は、事後観測誤差の共分散行列Pk+1 を次式により算出する(ステップS172)。
【0203】
【0204】
数56によって得られる事後観測推定値(xk+1 _hat)には、各領域の温度の推定値、及び短絡抵抗の推定値が含まれる。演算部11は、短絡抵抗の推定値に基づき、蓄電素子100における内部短絡の有無を推定する。例えば、演算部11は、短絡抵抗の推定値が閾値未満であるか否かを判断する(ステップS173)。閾値は、任意に設定される。
【0205】
短絡抵抗の推定値が閾値未満でない場合(S173:NO)、蓄電素子100において内部短絡は生じていないと推定される。内部短絡が生じていないと推定した場合、演算部11は、処理をステップS162へ戻し、次の時間ステップにおける演算を実行する。
【0206】
短絡抵抗の推定値が閾値未満である場合(S173:YES)、蓄電素子100において内部短絡が生じていると推定される。内部短絡が生じていると推定した場合、演算部11は、内部短絡の発生を報知する(ステップS174)。例えば、演算部11は、内部短絡が発生した旨の文字情報を生成し、出力部14より表示装置20へ出力することによって、表示装置20に表示させる。代替的に、演算部11は、内部短絡が発生した旨の文字情報を出力部14より端末装置(不図示)に通知してもよい。また、演算部11は、蓄電素子100の使用停止若しくは交換を促してもよく、使用停止若しくは交換の判断をユーザに仰いでもよい。
【0207】
実施の形態5における検出装置10は、無香料カルマンフィルタを利用して短絡抵抗を推定する。無香料カルマンフィルタは、平均値周りにシグマポイントと呼ばれる複数のサンプル点を設け、これらの統計的性質に基づいて共分散行列を推定する。無香料カルマンフィルタは、非線形性が強い問題においては、拡張カルマンフィルタよりも良好な性能を示す。
【0208】
(実施の形態6)
実施の形態6では、検出装置10が短絡抵抗Rs に基づき内部短絡の予兆を検出する構成について説明する。
【0209】
図15は内部短絡の予兆の検出手順を説明するフローチャートである。検出装置10の演算部11は、実施の形態1~5と同様の手順を用いて、蓄電素子100における短絡抵抗R
s を逐次推定する(ステップS201)。
【0210】
演算部11は、推定した短絡抵抗Rs が基準値より所定割合低下したか否かを判断する(ステップS202)。基準値には、内部短絡が生じていない状態における短絡抵抗Rs の平均値などが設定される。閾値として設定する割合は適宜設定される。例えば、短絡抵抗Rs が基準値より10%以上低下した場合に内部短絡の予兆を検出したとする場合、閾値には10%が設定される。
【0211】
演算部11は、推定した短絡抵抗Rs が基準値より所定割合低下していない場合(S202:NO)、処理をステップS201へ戻し、短絡抵抗Rs の推定を継続する。
【0212】
演算部11は、推定した短絡抵抗Rs が基準値より所定割合低下した場合(S202:YES)、内部短絡の予兆が発生していると推定する。演算部11は、内部短絡の予兆が発生していると判断した場合、内部短絡の予兆を報知する(ステップS203)。例えば、演算部11は、内部短絡の予兆を検出した旨の文字情報を生成し、出力部14より表示装置20へ出力することによって、表示装置20に表示させる。代替的に、演算部11は、内部短絡の予兆を検出した旨の文字情報を出力部14より端末装置(不図示)に通知してもよい。また、演算部11は、蓄電素子100の使用停止若しくは交換を促してもよく、使用停止若しくは交換の判断をユーザに仰いでもよい。
【0213】
実施の形態6では、推定した内部抵抗Rs が基準値より所定割合低下したか否かを判断することによって、内部短絡の予兆を検出する構成とした。代替的に、演算部11は、推定した内部抵抗Rs が設定回数(例えば5回)連続して低下したか否かを判断基準として、内部短絡の予兆を検出してもよい。
【0214】
実施の形態1~6では、導電性タブの温度を計測する温度センサ250のセンサ出力に基づき、予兆を含む内部短絡を検出する構成としたが、モータスポーツ車の走行時や重機を大トルクで使用する場合など、蓄電素子100から大電流を出力する場合には導電性タブが高温に至る可能性がある。この場合、導電性タブは高温に至るものの、正常な使用の範囲内であって、内部短絡などの異常ではない。正常な使用により導電性タブが高温に至った場合と、内部短絡により導電性タブが高温に至った場合とを区別するために、蓄電素子100に流れる電流に基づいた伝熱計算が同時に実施されてもよい。検出装置10は、温度センサ250によって計測される導電性タブの温度と、蓄電素子100の電流から推定される導電性タブの温度とを比較し、両者の値が近ければ、内部短絡による昇温ではなく、正常使用時の昇温であると判断できる。一方、蓄電素子100に流れる電流からは起こり得ないような昇温が測定された場合、検出装置10は、内部短絡が発生している可能性があると判断すればよい。
【0215】
(実施の形態7)
実施の形態7では、蓄電素子100の内部短絡が検出された場合、電極端子310と導電性タブ(正極タブ211又は負極タブ221)との間の電流経路を遮断する構成について説明する。
【0216】
実施の形態7における蓄電素子100は、検出装置10によって蓄電素子100の内部短絡が検出された場合、電極端子310と導電性タブ(正極タブ211又は負極タブ221)との間の電流経路を遮断する遮断器を備える。
【0217】
図16は実施の形態7における蓄電素子100の部分断面図、
図17は遮断器の実装例を示す斜視図である。蓄電素子100は、実施の形態1において説明した構成に加え、制御基板150、制御回路151、及び半導体スイッチング素子152(以下、FET152と称する)を備える。これらは例えば蓄電素子100の蓋体112と集電体140との間に設けたスペースに実装される。実施の形態7では、集電体140は、第1集電体140aと第2集電体140bとに分かれる。第1集電体140a及び第2集電体140bは、間隙を設けて配置される。第1集電体140aには正極タブ211が接続され、第2集電体140bには端子電極310が接続される。
【0218】
制御基板150は、第1集電体140a及び第2集電体140b上に設けられる。制御基板150には、矩形状の切欠部150a,150bが設けられている。制御回路151は、制御基板150上に実装される。FET152は、切欠部150aより露出する第1集電体140aの露出面上に実装される。
【0219】
制御回路151は、上述した検出装置10より検出結果を取得し、取得した検出結果に応じてFET152をオン/オフする。実施の形態7では、便宜的に制御回路151と検出装置10とを別体とした。代替的に、制御回路151と検出装置10とは一体であってもよい。
【0220】
FET152は、例えば、スイッチング用のパワーMOSFET(Metal-Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)である。FET152のゲート端子152Gは、制御基板150に形成されたプリント配線(不図示)を介して制御回路151に接続される。ドレイン端子152Dは、切欠部150aより露出する第1集電体140aの露出面上に接続される。ソース端子152Sは、第1集電体140aと第2集電体140bとの間の間隙を跨いで、制御基板150の切欠部150bより露出する第2集電体140bの露出面に接続される。
【0221】
制御回路151は、FET152のゲート端子152Gに所定の電圧(ゲート電圧)を印加することによって、ドレイン端子152D及びソース端子152S間を接続できる。この結果、電極端子310と正極タブ211との間の電流経路が接続される。一方、制御回路151は、ゲート電圧をゼロにすれば、ドレイン端子152D及びソース端子152S間を遮断できる。この結果、電極端子310と正極タブ211との間の電流経路が遮断される。
【0222】
実施の形態7では、電極端子310と正極タブ211との間の電流経路にFET152を介装する構成とした。代替的に、FET152は、電極端子320と負極タブ221との間の電流経路に介装されてもよい。
【0223】
実施の形態7では、簡略化のために、FET152を1つだけ実装した構成について説明した。代替的に、蓄電素子100は、ドレイン端子152Dが第2集電体140bに接続され、ソース端子152Sが第1集電体140aに接続されたFET152を更に備えてもよい。
【0224】
実施の形態7では、電極端子310と導電性タブ(正極タブ211又は負極タブ221)との間の電流経路を遮断する遮断器として、蓄電素子100がFET152を備える構成について説明した。代替的に、制御回路151によりオン/オフが制御される機械式スイッチ、制御回路151より昇温させることによって変形するバイメタルを用いたスイッチ、制御回路151より昇温させることによって溶断するヒューズなどの任意の遮断器を用いてもよい。また、蓄電素子100が複数の電極体200を備える場合、制御回路151は、内部短絡が発生した電極体200に繋がる電流経路のみを遮断してもよい。
【0225】
図18は制御回路151が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。制御回路151は、検出装置10から検出結果を取得し、蓄電素子100に内部短絡が発生したか否かを判断する(ステップS301)。
【0226】
制御回路151は、蓄電素子100に内部短絡が発生していないと判断した場合(S301:NO)、FET152のオン状態を維持し(ステップS302)、処理をステップS301へ戻す。
【0227】
制御回路151は、蓄電素子100に内部短絡が発生したと判断した場合(S301:YES)、制御回路151は、FET152をオフすることによって、電極端子310と正極タブ211との間の電流経路を遮断する(ステップS303)。
【0228】
以上のように、実施の形態7では、検出装置10において蓄電素子100の内部短絡が検出された場合、制御回路151は、電極端子310と導電性タブ(正極タブ211又は負極タブ221)との間の電流経路を遮断するので、蓄電素子100が高温になることを防止できる。
【0229】
実施の形態7では、FET152を用いて電流経路を遮断する構成について説明した。代替的に、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、サイリスタ、バイポーラトランジスタなどの半導体素子が用いられてもよい。また、導電性タブにバイメタルを用い、昇温により導電性タブが歪んで切断されるようにしてもよい。更に、機械バネによる拘束を外すことによって電流経路を遮断する構成としてもよい。更に、溶断によって電流経路を遮断する構成としてもよい。
【0230】
実施の形態7では、検出装置10において蓄電素子100の内部短絡が検出された場合、制御回路151が電流経路を遮断する構成とした。代替的に、検出装置10において蓄電素子100の内部短絡の予兆を検出した場合、制御回路151が電流経路を遮断してもよい。電流経路を遮断することによって動作中の装置や走行中の車両が急停止する場合があるため、制御回路151は、蓄電素子100を搭載する装置や車両の停止を確認した後に電流経路を遮断してもよい。
【0231】
今回開示された実施形態は、全ての点において例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0232】
例えば、実施の形態1から7では、積層型の電極体200を備えた蓄電素子100を例に挙げて内部短絡の検出手法等を説明したが、内部短絡の検出対象は、巻回型の電極体を備えた蓄電素子であってもよい。ただし、積層型の電極体200では、正極タブ211(又は負極タブ221)のみを介して正極板同士(又は負極板同士)が電気的に接続されるのに対し、巻回型の電極体では、タブだけでなく巻回部を介して正極板同士(又は負極板同士)が接続されている。このため、巻回型の電極体では、導電性タブを切断したとしても、巻回部を介して短絡が継続するという側面を有する。本願の効果は、巻回型の電極体を備えた蓄電素子よりも、積層型の電極体200を備えた蓄電素子100において、効果的に発揮される。
【0233】
実施の形態における蓄電素子はラミネート型の蓄電素子であってもよい。
図19はラミネート型の蓄電素子500を示す外観斜視図であり、
図20はラミネート型の蓄電素子500を示す分解斜視図である。蓄電素子500は、ラミネートフィルムからなる外装体510、並びに、蓄電素子500の長手方向の両端部からそれぞれ外側に突出する正極リード端子520及び負極リード端子530を備える。外装体1の内部には、発電要素540と電解液(不図示)とが収納されている。
図20に一例として示す発電要素540は、帯状の正極と負極とを巻回し長円筒形とした構造を有する。
【0234】
外装体510は、2枚のラミネートフィルムが互いに対向した状態で重ねられ、それぞの端部にて溶着されて筒状に形成されている。蓄電素子500の両端部の溶着部は、それぞれ、正極リード端子520及び負極リード端子530を挟み込んだ状態で溶着されている。外装体510は、例えば、PE(polyethylene)溶着層、PET(polyethylene terephthalate)層、アルミニウム層、PET層、PE層がこの順に積層されたラミネート構造を有する。
【0235】
正極リード端子520は、外装体510の内部において、発電要素540の正極に接合されている。正極リード端子520は、例えば、アルミニウム層とチタン層とが圧延接合されたクラッド材(積層体)によって構成される。
【0236】
負極リード端子530は、外装体510の内部において、発電要素540の負極に接合されている。負極リード端子530は、例えば、銅層と、銅層の両面に設けられたチタン層とを備える積層体によって構成される。
【0237】
上述した蓄電素子500において、温度センサ250は、正極リード端子520(又は負極リード端子)に取り付けられる。検出装置10は、温度センサ250のセンサ出力を取得し、取得したセンサ出力に基づき、蓄電素子500の内部短絡を検出すればよい。内部短絡の検出方法は、実施の形態1~6において説明した検出方法と同様である。蓄電素子は、実施の形態7と同様に、蓄電素子500の内部短絡が検出された場合、正極リード端子520(又は負極リード端子530)を介した電流経路を遮断する遮断器を備えてもよい。
【符号の説明】
【0238】
10 検出装置
11 演算部
12 記憶部
13 入力部
14 出力部
100 蓄電素子
110 容器
150 制御基板
151 制御回路
152 半導体スイッチング素子
200 電極体
210 正極板
211 正極タブ
220 負極板
221 負極タブ
250 温度センサ
230 セパレータ
310 電極端子
320 電極端子
PG 状態推定プログラム
MD1,MD2 熱回路モデル