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特許7596679リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液、リチウムイオン電池電極用スラリー、リチウムイオン電池電極及びリチウムイオン電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液、リチウムイオン電池電極用スラリー、リチウムイオン電池電極及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20241203BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241203BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20241203BHJP
   C08F 216/14 20060101ALI20241203BHJP
   C08F 220/56 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/139
C08F216/14
C08F220/56
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020148046
(22)【出願日】2020-09-03
(65)【公開番号】P2021044238
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2019161654
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大久保 勝也
(72)【発明者】
【氏名】合田 英生
(72)【発明者】
【氏名】笹川 巨樹
(72)【発明者】
【氏名】青山 悟
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/076370(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/134465(WO,A1)
【文献】特開2009-295405(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008555(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0244427(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
C08C19/00-19/44
C08F6/00-246/00, 301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単量体群100モル%に対し、水酸基含有ビニルエーテル(a)を5~80モル%及び(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)が20~95モル%含む単量体群の重合物であるフッ素原子非含有水溶性ポリマー(A)を含む、リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液。
【請求項2】
前記単量体群に不飽和有機酸又はその無機塩(c)が0.01~50モル%含まれる、請求項に記載のリチウムイオン電池電極用バインダー水溶液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池電極用バインダー水溶液及び電極活物質(B)を含む、リチウムイオン電池電極用スラリー。
【請求項4】
請求項に記載のリチウムイオン電池電極用スラリーを集電体に塗布し乾燥、硬化させることにより得られる、リチウムイオン電池電極。
【請求項5】
請求項に記載のリチウムイオン電池電極を含む、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液、リチウムイオン電池電極用スラリー、リチウムイオン電池電極及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、小型で軽量、かつエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そのため、近年では、リチウムイオン電池の更なる高性能化を目的として、電極等の電池部材の改良が検討されている。
【0003】
リチウムイオン電池の正極及び負極はいずれも、電極活物質とバインダー樹脂とを溶媒に分散させてスラリーとしたものを集電体(例えば金属箔)上に両面塗布し、溶媒を乾燥除去して電極層を形成した後、これをロールプレス機等で圧縮成形して製造される。
【0004】
近年、リチウムイオン電池用電極において、電池容量を高める観点から、様々な電極活物質が提案されている。しかしながら、電極活物質によっては、充放電に伴って膨張及び収縮し易い。そのため、充放電に伴って膨張及び収縮し易いリチウムイオン電池用電極は、充放電の繰り返し初期より体積変化を生じ(スプリングバック性)、これを用いたリチウムイオン電池のサイクル特性等の電気的特性を低下させ易い。
【0005】
そこで斯界では、上記課題をバインダー樹脂で解決を図る検討がなされており、例えば水溶性樹脂のバインダーとしてポリアクリルアミド(特許文献1及び2)を用いることで良好な充放電特性が得られることが提案されている。また、活物質の充放電に伴う膨張及び収縮に対して、バインダー樹脂である粒子状樹脂に架橋剤を添加することで膨張を抑制することが提案されている(特許文献3)。架橋剤は、通常、スラリー組成物を集電体に塗布した後の乾燥の工程において架橋反応を起こし、粒子状樹脂の粒子間等において架橋を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-118908号公報
【文献】特開2015-106488号公報
【文献】国際公開第2015/098507号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2のポリアクリルアミドは、水に対する溶解性を担保する観点から、バインダー樹脂が水に不溶化するほどの高分子量化をすることができない。その結果、活物質の膨張に起因するスプリングバック性への耐性が十分ではないという課題があった。
【0008】
特許文献3に記載の架橋剤の併用は、場合によっては、多く添加しても効果が発現しないことがある。そのような場合において、架橋剤の効果、例えばスプリングバックへの耐性を発現させるべく大量に架橋剤を添加すると、電極活物質層の集電体への密着性が却って低下し、高温サイクル特性といった所望の効果が得られない場合があるためさらなる改善の余地がある。
【0009】
不飽和有機酸を含む重合体は中和率が低い場合、初回クーロン効率と容量維持率が低下することがある。また、アクリルエステルと不飽和有機酸を含む重合体は、中和率95%を超えると、アクリルエステルの加水分解により未中和の不飽和有機酸量が増える。それに伴い初回クーロン効率と容量維持率が低下する。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、良好な初回クーロン効率、容量維持率及びスプリングバック耐性をリチウムイオン電池に付与し、かつ、良好なカール防止性、電極柔軟性及び電極密着性を電極に付与し、良好な貯蔵安定性をスラリーに付与する良好なリチウムイオン電池電極用バインダー水溶液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、所定の不飽和モノマーを構成成分とする水溶性ポリマーにより、上記課題が解決されることを見出した。
【0012】
本開示により以下の項目が提供される。
(項目1)
単量体群100モル%に対し、水酸基含有ビニルエーテル(a)を5~80モル%含む単量体群の重合物である水溶性ポリマー(A)を含む、リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液。
(項目2)
前記単量体群に(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)が20~95モル%含まれる、上記項目に記載のリチウムイオン電池電極用バインダー水溶液。
(項目3)
前記単量体群に不飽和有機酸又はその無機塩(c)が0.01~50モル%含まれる、上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池電極用バインダー水溶液。
(項目4)
上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池電極用バインダー水溶液及び電極活物質(B)を含む、リチウムイオン電池電極用スラリー。
(項目5)
上記項目に記載のリチウムイオン電池電極用スラリーを集電体に塗布し乾燥、硬化させることにより得られる、リチウムイオン電池電極。
(項目6)
上記項目に記載のリチウムイオン電池電極を含む、リチウムイオン電池。
【0013】
本開示において、上述した1又は複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得る。
【発明の効果】
【0014】
本開示のリチウムイオン電池電極用バインダー水溶液を用いることにより、貯蔵安定性が良好なスラリーを製造でき、カールしておらず、密着性が高く、柔軟な電極を製造でき、初回クーロン効率、容量維持率及びスプリングバック耐性が良好なリチウムイオン電池を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の全体にわたり、各物性値、含有量等の数値の範囲は、適宜(例えば下記の各項目に記載の上限及び下限の値から選択して)設定され得る。具体的には、数値αについて、数値αの上限及び下限としてA4、A3、A2、A1(A4>A3>A2>A1とする)等が例示される場合、数値αの範囲は、A4以下、A3以下、A2以下、A1以上、A2以上、A3以上、A1~A2、A1~A3、A1~A4、A2~A3、A2~A4、A3~A4等が例示される。
【0016】
[リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液:水溶液ともいう]
本開示は、単量体群100モル%に対し、水酸基含有ビニルエーテル(a)を5~80モル%含む単量体群の重合物である水溶性ポリマー(A)を含む、リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液を提供する。
【0017】
<水溶性ポリマー(A):(A)成分ともいう>
本開示において、「水溶性」とは、25℃において、その化合物0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が0.5質量%未満(2.5mg未満)であることを意味する。
【0018】
<水酸基含有ビニルエーテル(a):(a)成分ともいう>
本開示において、水酸基含有ビニルエーテルは、
C=CH-O-ROH
(式中、ROHは水酸基を有する基を意味する。)
で表される化合物を意味する。
【0019】
1つの実施形態において、水酸基含有ビニルエーテルは、一般式(1)
C=CH-R-OH
(式中、Rは、置換若しくは非置換の炭素数が1~5のオキシアルキレン基、
一般式(2):
【化1】
(式中、qは1~3の整数であり、nは1以上の整数である。なお、nは1~10の整数が好ましい。)
で示されるポリオキシアルキレン基、
【化2】
又はこれらの組合せを表す。)
で表される。
【0020】
アルキレン基は、直鎖アルキレン基、分岐アルキレン基、シクロアルキレン基等が例示される。
【0021】
直鎖アルキレン基は、-(CH-(nは1以上の整数)の一般式で表現できる。直鎖アルキレン基は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、n-ブチレン基、n-ペンチレン基等が例示される。
【0022】
分岐アルキレン基は、直鎖アルキレン基の少なくとも1つの水素がアルキル基によって置換された基である。分岐アルキレン基は、メチルメチレン基、エチルメチレン基、プロピルメチレン基、ブチルメチレン基、メチルエチレン基、エチルエチレン基、プロピルエチレン基、メチルプロピレン基、2-エチルプロピレン基、ジメチルプロピレン基、メチルブチレン基等が例示される。
【0023】
シクロアルキレン基は、単環シクロアルキレン基、架橋環シクロアルキレン基、縮合環シクロアルキレン基等が例示される。
【0024】
本開示において、単環は、炭素の共有結合により形成された内部に橋かけ構造を有しない環状構造を意味する。また、縮合環は、2つ以上の単環が2個の原子を共有している(すなわち、それぞれの環の辺を互いに1つだけ共有(縮合)している)環状構造を意味する。架橋環は、2つ以上の単環が3個以上の原子を共有している環状構造を意味する。
【0025】
単環シクロアルキレン基は、シクロペンチレン基等が例示される。
【0026】
オキシアルキレン基の置換基はヒドロキシ基、アミノ基、アセチル基、スルホン酸基等が例示される。
【0027】
水酸基含有ビニルエーテルは、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、ポリアルキレングリコールモノビニルエーテル等が例示される。
【0028】
ヒドロキシアルキルビニルエーテルは、ヒドロキシ直鎖アルキルビニルエーテル、ヒドロキシ分岐アルキルビニルエーテル、ヒドロキシシクロアルキルビニルエーテル等が例示される。
【0029】
ヒドロキシ直鎖アルキルビニルエーテルは、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、5-ヒドロキシペンチルビニルエーテル等が例示される。
【0030】
ヒドロキシ分岐アルキルビニルエーテルは、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシ-2-メチルブチルビニルエーテル等が例示される。
【0031】
ヒドロキシシクロアルキルビニルエーテルは、4-ヒドロキシシクロペンチルビニルエーテル等が例示される。
【0032】
ポリアルキレングリコールモノビニルエーテルは、ポリメチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリプロピレングリコールモノビニルエーテル等が例示される。
【0033】
ポリメチレングリコールモノビニルエーテルは、ジメチレングリコールモノビニルエーテル、トリメチレングリコールモノビニルエーテル、テトラメチレングリコールモノビニルエーテル、ペンタメチレングリコールモノビニルエーテル、ヘキサメチレングリコールモノビニルエーテル、ヘプタメチレングリコールモノビニルエーテル、オクタメチレングリコールモノビニルエーテル、ノナメチレングリコールモノビニルエーテル、デカメチレングリコールモノビニルエーテル等が例示される。
【0034】
ポリエチレングリコールモノビニルエーテルは、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラエチレングリコールモノビニルエーテル、ペンタエチレングリコールモノビニルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノビニルエーテル、ヘプタエチレングリコールモノビニルエーテル、オクタエチレングリコールモノビニルエーテル、ノナエチレングリコールモノビニルエーテル、デカエチレングリコールモノビニルエーテル等が例示される。
【0035】
ポリプロピレングリコールモノビニルエーテルは、ジプロピレングリコールモノビニルエーテル、トリプロピレングリコールモノビニルエーテル、テトラプロピレングリコールモノビニルエーテル、ペンタプロピレングリコールモノビニルエーテル、ヘキサプロピレングリコールモノビニルエーテル、ヘプタプロピレングリコールモノビニルエーテル、オクタプロピレングリコールモノビニルエーテル、ノナプロピレングリコールモノビニルエーテル、デカプロピレングリコールモノビニルエーテル等が例示される。
【0036】
単量体群100モル%に対する水酸基含有ビニルエーテルの含有量の上限及び下限は、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、9、5モル%等が例示される。1つの実施形態において、単量体群100モル%中に対する水酸基含有ビニルエーテルの含有量は5~80モル%である。
【0037】
単量体群100質量%に対する水酸基含有ビニルエーテルの含有量の上限及び下限は、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5質量%等が例示される。1つの実施形態において、単量体群100質量%に対する水酸基含有ビニルエーテルの含有量は、5~85質量%である。
【0038】
<(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b):(b)成分ともいう>
本開示において「(メタ)アクリルアミド基含有化合物」とは、(メタ)アクリルアミド基を有する化合物を意味する。(メタ)アクリルアミド基含有化合物は、各種公知のものを特に制限なく使用でき、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0039】
本開示において「(メタ)アクリル」は「アクリル及びメタクリルからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味する。同様に「(メタ)アクリレート」は「アクリレート及びメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味する。また「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル及びメタクリロイルからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味する。
【0040】
1つの実施形態において、(メタ)アクリルアミド基含有化合物は下記構造式
【化3】
(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基、又はアセチル基であるか、或いはR及びRが一緒になって環構造を形成する基であり、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基(-NR(R及びRはそれぞれ独立して水素原子又は置換若しくは非置換のアルキル基である))、アセチル基である。置換アルキル基の置換基はヒドロキシ基、アミノ基、アセチル基等が例示される。また、R及びRが一緒になって環構造を形成する基は、モルホリル基等が例示される。)
により表される。
【0041】
アルキル基は、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、シクロアルキル基等が例示される。
【0042】
直鎖アルキル基は、-C2n+1(nは1以上の整数)の一般式で表される。直鎖アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デカメチル基等が例示される。
【0043】
分岐アルキル基は、直鎖アルキル基の少なくとも1つの水素原子がアルキル基によって置換された基である。分岐アルキル基は、i-プロピル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ジエチルペンチル基、トリメチルブチル基、トリメチルペンチル基、トリメチルヘキシル基等が例示される。
【0044】
シクロアルキル基は、単環シクロアルキル基、架橋環シクロアルキル基、縮合環シクロアルキル基等が例示される。
【0045】
単環シクロアルキル基は、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロデシル基、3,5,5-トリメチルシクロヘキシル基等が例示される。
【0046】
架橋環シクロアルキル基は、トリシクロデシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基等が例示される。
【0047】
縮合環シクロアルキル基は、ビシクロデシル基等が例示される。
【0048】
アルキル基の炭素数は、特に限定されないが、その上限及び下限は、40、35、30、29、25、20、15、12、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1等が例示される。
【0049】
上記(メタ)アクリルアミド基含有化合物は、(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、マレイン酸アミド、(メタ)アクリロイルモルフォリン、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、及びその塩等が例示され、上記塩は、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド塩化メチル4級塩、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートベンジルクロライド4級塩等が例示される。これらの中でも(メタ)アクリルアミド、特にアクリルアミドを用いると、水溶性が高く、電極活物質との相互作用が高く、スラリーの分散性や、電極内部における電極活物質同士の結着性が高いバインダーを作製することができる。
【0050】
単量体群100モル%に対する(メタ)アクリルアミド基含有化合物の含有量の上限及び下限は、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20モル%等が例示される。1つの実施形態において、上記含有量の範囲は、20~95モル%が好ましい。
【0051】
単量体群100質量%に対する(メタ)アクリルアミド基含有化合物の含有量の上限及び下限は、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10質量%等が例示される。1つの実施形態において、単量体群100質量%に対する(メタ)アクリルアミド基含有化合物の含有量は、10~95質量%が好ましい。
【0052】
<不飽和有機酸又はその無機塩(c):(c)成分ともいう>
(c)成分は、各種公知のものを特に制限なく使用でき、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0053】
不飽和有機酸は、不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、不飽和リン酸等が例示される。
【0054】
不飽和カルボン酸は、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が例示される。
【0055】
不飽和スルホン酸は、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸等のα,β-エチレン性不飽和スルホン酸;(メタ)アクリルアミドt-ブチルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-スルホプロパン(メタ)アクリル酸エステル、ビス-(3-スルホプロピル)イタコン酸エステル等が例示される。
【0056】
不飽和リン酸は、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス((メタ)アクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、ジオクチル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、モノメチル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロパンリン酸等が例示される。
【0057】
本開示において、(メタ)アクリルアミド基含有化合物にも不飽和有機酸にも該当する化合物は、不飽和有機酸とする。
【0058】
本開示において、不飽和有機酸の無機塩は、カチオン部が金属カチオンである塩をいう。無機塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が例示される。
【0059】
アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム等が例示される。
【0060】
アルカリ土類金属は、マグネシウム、カルシウム等が例示される。
【0061】
単量体群100モル%に対する不飽和有機酸又はその無機塩の含有量の上限及び下限は、50、45、40、35、30、25、20、15、10、9、5、4、1、0.9、0.5、0.3、0.1、0.09、0.05、0.03、0.01モル%等が例示される。1つの実施形態において、単量体群100モル%に対する不飽和有機酸又はその無機塩の含有量は0.01~50モル%が好ましい。
【0062】
単量体群100質量%に対する不飽和有機酸又はその無機塩の含有量の上限及び下限は、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、9、5、4、1、0.9、0.5、0.3、0.1、0.09、0.05、0.03、0.01質量%等が例示される。1つの実施形態において、単量体群100質量%に対する不飽和有機酸又はその無機塩の含有量は0.01~75質量%が好ましい。
【0063】
単量体群100モル%に対する不飽和カルボン酸又はその無機塩の含有量の上限及び下限は、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、1、0モル%等が例示される。1つの実施形態において、単量体群100モル%に対する不飽和カルボン酸又はその無機塩の含有量は0~50モル%が好ましい。
【0064】
単量体群100質量%に対する不飽和カルボン酸又はその無機塩の含有量の上限及び下限は、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、1、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、単量体群100質量%に対する不飽和カルボン酸又はその無機塩の含有量は0~60質量%が好ましい。
【0065】
単量体群100モル%に対する不飽和スルホン酸又はその無機塩の含有量の上限及び下限は、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、1、0モル%等が例示される。1つの実施形態において、単量体群100モル%に対する不飽和スルホン酸又はその無機塩の含有量は0~50モル%が好ましい。
【0066】
単量体群100質量%に対する不飽和スルホン酸又はその無機塩の含有量の上限及び下限は、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、1、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、単量体群100質量%に対する不飽和スルホン酸又はその無機塩の含有量は0~75質量%が好ましい。
【0067】
単量体群100モル%に対する不飽和リン酸又はその無機塩の含有量の上限及び下限は、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、1、0モル%等が例示される。1つの実施形態において、単量体群100モル%に対する不飽和リン酸又はその無機塩の含有量は0~50モル%が好ましい。
【0068】
単量体群100質量%に対する不飽和リン酸又はその無機塩の含有量の上限及び下限は、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、1、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、単量体群100質量%に対する不飽和リン酸又はその無機塩の含有量は0~75質量%が好ましい。
【0069】
<単量体群における(a)~(c)成分の量の相対比率>
単量体群に含まれる(a)成分と(b)成分とのモル比〔(a)成分の物質量/(b)成分の物質量〕の上限及び下限は、4、3、2、1、0.9、0.7、0.5、0.3、0.1、0.09、0.07、0.05等が例示される。1つの実施形態において、単量体群に含まれる(a)成分と(b)成分とのモル比〔(a)成分の物質量/(b)成分の物質量〕は0.05~4が好ましい。
【0070】
単量体群に含まれる(a)成分と(c)成分とのモル比〔(a)成分の物質量/(c)成分の物質量〕の上限及び下限は、8000、7500、5000、2500、1000、750、500、250、100、90、75、50、25、10、9、7、5、3、1、0.9、0.7、0.5、0.3、0.1等が例示される。1つの実施形態において、単量体群に含まれる(a)成分と(c)成分とのモル比〔(a)成分の物質量/(c)成分の物質量〕は0.1~8000が好ましい。
【0071】
単量体群に含まれる(b)成分と(c)成分とのモル比〔(b)成分の物質量/(c)成分の物質量〕の上限及び下限は、9500、9000、8000、7500、5000、2500、1000、750、500、250、100、90、75、50、25、10、9、7、5、3、1、0.9、0.7、0.5、0.4等が例示される。1つの実施形態において、単量体群に含まれる(b)成分と(c)成分とのモル比〔(b)成分の物質量/(c)成分の物質量〕は0.4~9500が好ましい。
【0072】
単量体群に含まれる(a)成分と(b)成分との質量比〔(a)成分の質量/(b)成分の質量〕の上限及び下限は、8.5、8、7.5、5、3、1、0.9、0.5、0.3、0.1、0.09、0.06等が例示される。1つの実施形態において、単量体群に含まれる(a)成分と(b)成分との質量比〔(a)成分の質量/(b)成分の質量〕は0.06~8.5が好ましい。
【0073】
単量体群に含まれる(a)成分と(c)成分との質量比〔(a)成分の質量/(c)成分の質量〕の上限及び下限は、8500、8000、7500、5000、2500、1000、750、500、250、100、90、75、50、25、10、9、7、5、3、1、0.9、0.7、0.5、0.3、0.1、0.09、0.06等が例示される。1つの実施形態において、単量体群に含まれる(a)成分と(c)成分との質量比〔(a)成分の質量/(c)成分の質量〕は0.06~8500が好ましい。
【0074】
単量体群に含まれる(b)成分と(c)成分との質量比〔(b)成分の質量/(c)成分の質量〕の上限及び下限は、8000、7500、5000、2500、1000、750、500、250、100、90、75、50、25、10、9、7、5、3、1、0.9、0.7、0.5、0.3、0.13等が例示される。1つの実施形態において、単量体群に含まれる(b)成分と(c)成分との質量比〔(b)成分の質量/(c)成分の質量〕は0.13~8000が好ましい。
【0075】
<上記のいずれでもない単量体:その他成分ともいう>
上記単量体群には、(a)~(c)成分のいずれでもない単量体(その他成分)を本発明の所望の効果を損ねない限り使用できる。その他成分は、各種公知のものを単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0076】
その他成分は、水酸基非含有不飽和カルボン酸エステル、共役ジエン、芳香族ビニル化合物等が例示される。
【0077】
水酸基非含有不飽和カルボン酸エステルは、水酸基非含有(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。水酸基非含有(メタ)アクリル酸エステルは、水酸基非含有直鎖(メタ)アクリル酸エステル、水酸基非含有分岐(メタ)アクリル酸エステル、水酸基非含有脂環(メタ)アクリル酸エステル、水酸基非含有置換(メタ)アクリル酸エステル等が例示される。
【0078】
水酸基非含有直鎖(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル等が例示される。
【0079】
水酸基非含有分岐(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸i-アミル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が例示される。
【0080】
水酸基非含有脂環(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が例示される。
【0081】
水酸基非含有置換(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸アリル、ジ(メタ)アクリル酸エチレン等が例示される。
【0082】
水酸基非含有不飽和カルボン酸エステルは、電極に柔軟性を与える目的で好適に使用できる。上記観点から、上記単量体群100モル%に対する水酸基非含有不飽和カルボン酸エステルの含有量は、40モル%未満(例えば30、20、19、15、10、5、1モル%未満、0モル%)が好ましい。
【0083】
また、上記単量体群100質量%に対する水酸基非含有不飽和カルボン酸エステルの含有量は、90質量%以下(例えば80、70、60、50、40、30、20、19、15、10、5、1質量%未満、0質量%)が好ましい。
【0084】
共役ジエンは、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン、置換及び側鎖共役ヘキサジエン等が例示される。
【0085】
上記単量体群100モル%に対する共役ジエンの含有量は、リチウムイオン電池のサイクル特性の観点より、10モル%未満が好ましく、0モル%がより好ましい。
【0086】
上記単量体群100質量%に対する共役ジエンの含有量の上限及び下限は、30、20、10、5、1、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、上記含有量は、0~30質量%が好ましい。
【0087】
また、芳香族ビニル化合物は、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン等が例示される。
【0088】
上記単量体群100モル%に対する芳香族ビニル化合物の含有量は、リチウムイオン電池のサイクル特性の観点より、10モル%未満が好ましく、0モル%がより好ましい。
【0089】
上記単量体群100質量%に対する芳香族ビニル化合物の含有量の上限及び下限は、30、20、10、5、1、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、上記含有量は、0~30質量%が好ましい。
【0090】
上記単量体群における上記水酸基非含有不飽和カルボン酸エステル、上記共役ジエン、上記芳香族ビニル化合物以外のその他成分の割合は、上記単量体群100モル%に対して、10モル%未満、5モル%未満、2モル%未満、1モル%未満、0.1モル%未満、0.01モル%未満、0モル%等が例示される。また、上記単量体群100質量%に対して、10質量%未満、9質量%未満、7質量%未満、5質量%未満、4質量%未満、2質量%未満、1質量%未満、0.9質量%未満、0.5質量%未満、0.3質量%未満、0.1質量%未満、0.05質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示される。
【0091】
<(A)成分の製造方法>
(A)成分は、各種公知の重合法、好ましくはラジカル重合法で合成され得る。具体的には、前記成分を含む単量体混合液にラジカル重合開始剤及び必要に応じて連鎖移動剤を加え、撹拌しながら、反応温度50~100℃で重合反応を行うことが好ましい。反応時間は特に限定されず、1~10時間が好ましい。
【0092】
ラジカル重合開始剤は、各種公知のものが特に制限なく使用される。ラジカル重合開始剤は、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;上記過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウム等の還元剤とを組み合わせたレドックス系重合開始剤;2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩等のアゾ系開始剤等が例示される。ラジカル重合開始剤の使用量は特に制限されないが、(A)成分を与える単量体群100質量%に対し0.05~5.0質量%が好ましく、0.1~3.0質量%がより好ましい。
【0093】
ラジカル重合反応前及び/又は得られた(A)成分を水溶化する際等に、製造安定性を向上させる目的で、アンモニアや有機アミン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等の一般的な中和剤で反応溶液のpH調整を行ってもよい。その場合、pHは2~11が好ましい。また、同様の目的で、金属イオン封止剤であるエチレンジアミン四酢酸(EDTA)又はその塩等を使用することも可能である。
【0094】
(A)成分が酸基を有する場合には、用途に応じて適宜中和率(中和率100%は(A)成分に含まれる酸成分と同モル数のアルカリにより中和することを示している。中和率50%は(A)成分に含まれる酸成分に対して半分のモル数のアルカリにより中和されたことを示す)を調整して使用できる。電極活物質を分散させるときの中和率は特に限定されない。1つの実施形態において、コーティング層等の形成後には95~100%であることが好ましい。初期容量の低下を防止する観点から95%以上が好ましく、加水分解を防止する観点から100%以下が好ましい。中和塩は、Li塩、Na塩、K塩、アンモニウム塩、Mg塩、Ca塩、Zn塩、Al塩等が例示される。
【0095】
1つの実施形態において、(A)成分は無機塩であることが好ましい。(A)成分の無機塩は、カチオン部が金属カチオンである塩をいう。無機塩は上述のもの等が例示される。
【0096】
<(A)成分の物性>
(A)成分のガラス転移温度の上限及び下限は、160、155、150、145、140、135、130、125、120、115、110、105、100、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、0℃等が例示される。1つの実施形態において、0℃以上が好ましく、機械的強度、耐熱性の観点から30℃以上がより好ましい。
【0097】
(A)成分のガラス転移温度は、モノマーの組み合わせによって調整可能である。(A)成分において、そのガラス転移温度は、モノマーのホモポリマーのガラス転移温度(Tg)(絶対温度:K)とそれらの質量分率から、以下に示すFoxの式に基づいて求めることができる。
1/Tg=(W/Tg)+(W/Tg)+(W/Tg)+・・・+(W/Tg
[式中、Tgは、求めようとしているポリマーのガラス転移温度(K)、W~Wは、各単量体の質量分率、Tg~Tgは、各単量体のホモポリマーのガラス転移温度(K)を示す]
【0098】
例えば、ガラス転移温度は、アクリルアミドのホモポリマーでは165℃、アクリル酸のホモポリマーでは106℃、アクリル酸ヒドロキシエチルのホモポリマーでは-15℃、アクリロニトリルのホモポリマーでは105℃である。所望のガラス転移温度を有する(A)成分が得られるように、それを構成するモノマー組成を決定できる。なお、単量体のホモポリマーのガラス転移温度は、DSC(示差走査熱量測定装置)、DTA(示差熱分析装置)、TMA(熱機械測定装置)等によって例えば-100℃から300℃へ昇温させる条件(昇温速度10℃/min.)で測定することができる。また、文献に記載されている値を用いることもできる。文献は、「化学便覧 基礎編II 日本化学会編 (改訂5版)」、p325等が例示される。
【0099】
(A)成分の硬化物のゲル分率は特に限定されないが、(A)成分の硬化物のゲル分率の上限及び下限は、99.9%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%等が例示される。1つの実施形態において、充放電サイクルに伴う耐スプリングバック性の発現効果の観点から20%以上が好ましく、25%以上がより好ましい。
【0100】
なお、(A)成分の硬化物のゲル分率は下記式
ゲル分率(%)={水への不溶物残渣(g)/固形樹脂の質量(g)}×100
により算出される値である。
【0101】
1つの実施形態において、上記硬化物の硬化条件は、120℃で4時間等が例示される。
【0102】
上記ゲル分率は、例えば以下のようにして測定される。(A)成分を含む、リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液を適切な量(例えば10g)、適切な容器(例えば軟膏缶(株式会社相互理化学硝子製作所製、商品名「軟膏缶 ブリキ製」))に入れ適切な乾燥条件(例えば循風乾燥機(アドバンテック東洋株式会社製、商品名「送風定温乾燥器 DSR420DA」)にて120℃4時間)にて乾燥後、熱架橋後の固形樹脂を得る。その固形樹脂の質量を25℃で正確に適切な質量計(例えば、ザルトリウス・ジャパン株式会社製、商品名「スタンダード天秤 CPA324S」)で測定する。測定した固形樹脂を純水が適切な量(例えば150mL)入っている適切な容器(例えば300mLビーカー)に移し、水中に適切な条件(例えば25℃で3時間)適切なマグネチックスターラー(例えば東京理化器械株式会社製、商品名「強力マグネチックスターラー RCX-1000D」)を用いて攪拌させた条件で浸漬後、適切な器具(例えば桐山ロート(有限会社桐山製作所製、商品名「桐山ロート SB-60」)と吸引鐘(有限会社桐山製作所製、商品名「吸引鐘 VKB-200」)を用い、ろ紙(有限会社桐山製作所製、「No.50B」))で減圧濾過した。その後、ろ紙上に残った不溶物残渣を適切な乾燥機(例えば上記循風乾燥機)にて適切な条件(例えば120℃3時間)乾燥した後、不溶物残渣の質量を適切な温度(例えば25℃)で正確に適切な質量計(例えば上記質量計)で測定して、上記式から水溶性電池用バインダーの熱架橋後の樹脂のゲル分率を算出する。
【0103】
(A)成分の熱架橋は、水酸基含有ビニルエーテル(a)に由来する水酸基及び(メタ)アクリルアミド基含有化合物(b)に由来するアミド基によるものと考えられる。(A)成分における、水酸基とアミド基とのモル比(水酸基/アミド基)は、特に限定されないが、アミド基が過剰であることが好ましい。水酸基とアミド基とのモル比(水酸基/アミド基)の上限及び下限は、2.0、1.5、1.0、0.9、0.7、0.5、0.3、0.1、0.09、0.07、0.05等が例示される。1つの実施形態において、水酸基/アミド基=0.05~2.0が好ましく、0.1~2.0がより好ましい。上記を満たすことで、活物質層の集電体への密着性を損なうことなく、充放電サイクルに伴う耐スプリングバック性の発現効果が得られると考えられるが、本発明がこれに限定されることを意図するものではない。
【0104】
(A)成分の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、その上限及び下限は、700万、650万、600万、550万、500万、450万、400万、350万、300万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、35万、30万、25万、20万、15万、10万等が例示される。1つの実施形態において、上記スラリーの分散安定性の観点から好ましくは10万~700万、より好ましくは35万~600万である。
【0105】
(A)成分の数平均分子量(Mn)は特に限定されないが、その上限及び下限は、600万、550万、500万、450万、400万、350万、300万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、30万、20万、10万、5万、1万等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分の数平均分子量(Mn)は、1万以上が好ましい。
【0106】
重量平均分子量及び数平均分子量は、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により適切な溶媒下で測定したポリアクリル酸換算値として求められ得る。
【0107】
(A)成分の分子量分布(Mw/Mn)の上限及び下限は、15、14、13、11、10、9、7.5、5、4、3、2.9、2.5、2、1.5、1.1等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分の分子量分布(Mw/Mn)は、1.1~15が好ましい。
【0108】
(A)成分を13質量%含む水溶液のB型粘度は特に限定されないが、その上限及び下限は、10万、9万、8万、7万、6万、5万、4.5万、4万、3万、2万、1万、9000、8000、7000、6000、5000、4000、3000、2000、1000、900、700、500、300、200、100mPa・s等が例示される。1つの実施形態において、上記B型粘度の範囲は100~10万mPa・sが好ましい。
【0109】
B型粘度は東機産業株式会社製 製品名「B型粘度計モデルBM」等のB型粘度計により測定される。
【0110】
リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液のpHの上限及び下限は、9、8.9、8.5、8、7.9、7.5、7、6.9、6.5、6、5.9、5.6、5.5、5.4、5.2、5.1、5等が例示される。1つの実施形態において、リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液のpHは、溶液安定性の観点からpH5~9が好ましい。
【0111】
pHは、ガラス電極pHメーター(例えば株式会社堀場製作所製 製品名「pHメータ D-52」)を用い、25℃で測定され得る。
【0112】
リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液100質量%に対する(A)成分の含有量の上限及び下限は、25、23、21、20、19、15、14、12、10、9、7、6、5質量%等が例示される。1つの実施形態において、リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液100質量%に対する(A)成分の含有量は、5~25質量%が好ましい。
【0113】
リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液100質量%に対する水の含有量の上限及び下限は、95、90、85、80質量%等が例示される。1つの実施形態において、リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液100質量%に対する水の含有量は、80~95質量%が好ましい。
【0114】
リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液に含まれる(A)成分と水との質量比の上限及び下限は、0.25、0.2、0.15、0.1、0.05等が例示される。1つの実施形態において、リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液に含まれる(A)成分と水との質量比は、0.05~0.25が好ましい。
【0115】
<添加剤>
リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液は、(A)成分にも水にも該当しないものを添加剤として含み得る。
【0116】
添加剤は、分散剤、レベリング剤、酸化防止剤、増粘剤、分散体(エマルジョン)等が例示される。
【0117】
添加剤の含有量は、(A)成分100質量%に対し、5質量%以下、5質量%未満、4質量%未満、2質量%未満、1質量%未満、0.9質量%未満、0.5質量%未満、0.4質量%未満、0.2質量%未満、0.1質量%未満、0.09質量%未満、0.05質量%未満、0.04質量%未満、0.02質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、5質量%を超えるとバインダーにHAZEが生じる観点から、添加剤の含有量は、(A)成分100質量%に対し、5質量%以下が好ましい。
【0118】
また上記水溶液100質量%に対する添加剤の含有量は、5質量%未満、4質量%未満、2質量%未満、1質量%未満、0.9質量%未満、0.5質量%未満、0.4質量%未満、0.2質量%未満、0.1質量%未満、0.09質量%未満、0.05質量%未満、0.04質量%未満、0.02質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示される。
【0119】
分散剤は、アニオン性分散剤、カチオン性分散剤、非イオン性分散剤、高分子分散剤等が例示される。
【0120】
レベリング剤は、アルキル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤等の界面活性剤等が例示される。界面活性剤を用いることにより、塗工時に発生するはじきを防止し、上記スラリーの層(コーティング層)の平滑性を向上させ得る。
【0121】
酸化防止剤は、フェノール化合物、ハイドロキノン化合物、有機リン化合物、硫黄化合物、フェニレンジアミン化合物、ポリマー型フェノール化合物等が例示される。ポリマー型フェノール化合物は、分子内にフェノール構造を有する重合体である。ポリマー型フェノール化合物の重量平均分子量は200~1000が好ましく、600~700がより好ましい。
【0122】
増粘剤は、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系ポリマー及びこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸及びこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸若しくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体等のポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体水素化物等が例示される。
【0123】
分散体(エマルジョン)は、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス、ポリスチレン系重合体ラテックス、ポリブタジエン系重合体ラテックス、アクリロニトリル-ブタジエン系共重合体ラテックス、ポリウレタン系重合体ラテックス、ポリメチルメタクリレート系重合体ラテックス、メチルメタクリレート-ブタジエン系共重合体ラテックス、ポリアクリレート系重合体ラテックス、塩化ビニル系重合体ラテックス、酢酸ビニル系重合体エマルジョン、酢酸ビニル-エチレン系共重合体エマルジョン、ポリエチレンエマルジョン、カルボキシ変性スチレンブタジエン共重合樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、芳香族ポリアミド、アルギン酸とその塩、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等が例示される。
【0124】
なお、分散体(エマルジョン)に関しては、上述の添加剤の含有量よりも多く含まれていてもよい。(A)成分100質量%に対する分散体(エマルジョン)の含有量の上限及び下限は、20、19、17、15、13、10、9、7、5、4、2、1、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、耐スプリングバック性と放電容量維持率の観点から、(A)成分100質量%に対する分散体(エマルジョン)の添加量は5質量%未満が好ましい。
【0125】
リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液は、リチウムイオン電池負極用バインダー水溶液、リチウムイオン電池正極用バインダー水溶液として使用され得る。
【0126】
[リチウムイオン電池電極用スラリー:スラリーともいう]
本開示は、上記リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液及び電極活物質(B)を含む、リチウムイオン電池電極用スラリーを提供する。
【0127】
本開示において「スラリー」は、液体と固体粒子の懸濁液を意味する。
【0128】
上記スラリー100質量%に対する(A)成分の含有量の上限及び下限は、99.9、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、4、2、1、0.9、0.5、0.2、0.1質量%等が例示される。1つの実施形態において、上記含有量は0.1~99.9質量%が好ましい。
【0129】
水は、超純水、純水、蒸留水、イオン交換水、及び水道水等が例示される。
【0130】
上記スラリー100質量%に対する水の含有量の上限及び下限は、70、65、60、55、50、45、40、35、30質量%等が例示される。1つの実施形態において、上記含有量は、30~70質量%が好ましい。
【0131】
<電極活物質(B)>
電極活物質は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。電極活物質は、負極活物質、正極活物質が例示される。
【0132】
負極活物質は、リチウムを可逆的に吸蔵及び放出できるものであれば特に制限されず、目的とするリチウムイオン電池の種類により適宜適当な材料を選択でき、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。負極活物質は、炭素材料、並びにシリコン材料、リチウム原子を含む酸化物、鉛化合物、錫化合物、砒素化合物、アンチモン化合物、及びアルミニウム化合物等のリチウムと合金化する材料等が例示される。
【0133】
上記炭素材料は、高結晶性カーボンであるグラファイト(黒鉛ともいい、天然グラファイト、人造グラファイト等が例示される)、低結晶性カーボン(ソフトカーボン、ハードカーボン)、カーボンブラック(ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック等)、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリル、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維等が例示される。
【0134】
上記シリコン材料は、シリコン、シリコンオキサイド、シリコン合金に加え、SiC、SiO(0<x≦3、0<y≦5)、Si、SiO、SiO(0<x≦2)で表記されるシリコンオキサイド複合体(例えば特開2004-185810号公報や特開2005-259697号公報に記載されている材料等)、特開2004-185810号公報に記載されたシリコン材料等が例示される。また、特許第5390336号、特許第5903761号に記載されたシリコン材料を用いても良い。
【0135】
上記シリコンオキサイドは、組成式SiO(0<x<2、好ましくは0.1≦x≦1)で表されるシリコンオキサイドが好ましい。
【0136】
上記シリコン合金は、ケイ素と、チタン、ジルコニウム、ニッケル、銅、鉄及びモリブデンよりなる群から選ばれる少なくとも一種の遷移金属との合金が好ましい。これらの遷移金属のシリコン合金は、高い電子伝導度を有し、かつ高い強度を有することから好ましい。シリコン合金は、ケイ素-ニッケル合金又はケイ素-チタン合金がより好ましく、ケイ素-チタン合金が特に好ましい。シリコン合金におけるケイ素の含有割合は、上記シリコン合金中の金属元素100モル%に対して10モル%以上が好ましく、20~70モル%がより好ましい。なお、シリコン材料は、単結晶、多結晶及び非晶質のいずれであってもよい。
【0137】
また、電極活物質としてシリコン材料を用いる場合には、シリコン材料以外の電極活物質を併用してもよい。このような電極活物質は、上記の炭素材料;ポリアセン等の導電性高分子;A(Aはアルカリ金属又は遷移金属、Bはコバルト、ニッケル、アルミニウム、スズ、マンガン等の遷移金属から選択される少なくとも一種、Oは酸素原子を表し、X、Y及びZはそれぞれ0.05<X<1.10、0.85<Y<4.00、1.5<Z<5.00の範囲の数である。)で表される複合金属酸化物や、その他の金属酸化物等が例示される。電極活物質としてシリコン材料を用いる場合は、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積変化が小さいことから、炭素材料を併用することが好ましい。
【0138】
上記リチウム原子を含む酸化物は、三元系ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、リチウム-マンガン複合酸化物(LiMn等)、リチウム-ニッケル複合酸化物(LiNiO等)、リチウム-コバルト複合酸化物(LiCoO等)、リチウム-鉄複合酸化物(LiFeO等)、リチウム-ニッケル-マンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5等)、リチウム-ニッケル-コバルト複合酸化物(LiNi0.8Co0.2等)、リチウム-遷移金属リン酸化合物(LiFePO等)、及びリチウム-遷移金属硫酸化合物(LiFe(SO)、リチウム-チタン複合酸化物(チタン酸リチウム:LiTi12)等のリチウム-遷移金属複合酸化物、及びその他の従来公知の電極活物質等が例示される。
【0139】
本発明の効果が顕著に発揮されるという観点から、炭素材料及び/又はリチウムと合金化する材料を電極活物質中に好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%含む。
【0140】
1つの実施形態において、電極活物質(B)が炭素層で覆われたシリコン及び/又はシリコンオキサイドを1質量%以上(2、5、10、25、50、75、90質量%以上、100質量%)含む負極活物質であることが好ましい。
【0141】
正極活物質は、無機化合物を含む活物質と有機化合物を含む活物質とに大別される。正極活物質に含まれる無機化合物は、金属酸化物が例示される。金属酸化物は、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属硫化物等が例示される。上記遷移金属は、Fe、Co、Ni、Mn、Al等が例示される。正極活物質に使用される無機化合物は、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiFePO、LiNi1/2Mn3/2、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiCo0.3Ni0.5Mn0.2、LiCo0.2Ni0.6Mn0.2、LiCo0.1Ni0.8Mn0.1、LiCo0.15Ni0.8Al0.05、Li[Li0.1Al0.1Mn1.8]O、LiFeVO等のリチウム含有複合金属酸化物;TiS、TiS、非晶質MoS等の遷移金属硫化物;Cu、非晶質VO-P、MoO、V、V13等の遷移金属酸化物等が例示される。これらの化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。正極活物質に含まれる有機化合物は、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性重合体等が例示される。電気伝導性に乏しい鉄系酸化物は、還元焼成時に炭素源物質を存在させることで、炭素材料で覆われた電極活物質として用いてもよい。また、これらの化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。これらの中でも実用性、電気特性、長寿命の点で、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiFePO、LiNi1/2Mn3/2、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiCo0.3Ni0.5Mn0.2、LiCo0.2Ni0.6Mn0.2、LiCo0.1Ni0.8Mn0.1、LiCo0.15Ni0.8Al0.05、Li[Li0.1Al0.1Mn1.8]Oが好ましい。
【0142】
1つの実施形態において、電極活物質(B)は、リン酸鉄及び/又は金属酸化物を含む正極活物質が好ましい。
【0143】
電極活物質の形状は特に制限されず、微粒子状、薄膜状等の任意の形状であってよいが、微粒子状が好ましい。電極活物質の平均粒子径は特に制限されないが、その上限及び下限は、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、4、3、2.9、2、1、0.5、0.1μm等が例示される。1つの実施形態において、均一で薄い塗膜を形成する観点、より具体的には0.1μm以上であればハンドリング性が良好であり、50μm以下であれば電極の塗布が容易であることから、電極活物質の平均粒子径は0.1~50μmが好ましく、0.1~45μmがより好ましく、1~10μmがさらに好ましく、5μmが特に好ましい。
【0144】
本開示において「粒子径」は、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する(以下同様)。また本開示において「平均粒子径」は、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする(以下同様)。
【0145】
上記スラリーにおける電極活物質(B)100質量%に対する(A)成分の含有量の上限及び下限は、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1.5、1、0.5質量%等が例示される。1つの実施形態において、電極活物質(B)100質量%に対する(A)成分の含有量が、0.5~15質量%が好ましい。
【0146】
<導電助剤>
1つの実施形態において、導電助剤が上記スラリーに含まれ得る。導電助剤は、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素、黒鉛粒子、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック、平均粒径10μm以下のCu、Ni、Al、Si又はこれらの合金からなる微粉末等が例示される。導電助剤の含有量は特に限定されないが、電極活物質成分に対して0~10質量%が好ましく、0.5~6質量%がより好ましい。
【0147】
<スラリー粘度調整溶媒>
スラリー粘度調整溶媒は、特に制限されることはないが、80~350℃の標準沸点を有する非水系媒体を含めてよい。スラリー粘度調整溶媒は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。スラリー粘度調整溶媒は、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド溶媒;トルエン、キシレン、n-ドデカン、テトラリン等の炭化水素溶媒;メタノール、エタノール、2-プロパノール、イソプロピルアルコール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、ラウリルアルコール等のアルコール溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン溶媒;ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル溶媒;酢酸ベンジル、酪酸イソペンチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル溶媒;o-トルイジン、m-トルイジン、p-トルイジン等のアミン溶媒;γ-ブチロラクトン、δ-ブチロラクトン等のラクトン;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド・スルホン溶媒;水等が例示される。これらの中でも、塗布作業性の点より、N-メチルピロリドンが好ましい。上記非水系媒体の含有量は特に限定されないが、上記スラリー100質量%に対し0~10質量%が好ましい。
【0148】
上記スラリーは、本発明の効果を阻害しない範囲内で、(A)成分、(B)成分、水、導電助剤、スラリー粘度調整溶媒のいずれにも該当しないものを添加剤として含み得る。添加剤は、上述したもの等が例示される。
【0149】
添加剤の含有量は、(A)成分100質量%に対して0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示される。
【0150】
また(B)成分100質量%に対する添加剤の含有量は、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示される。
【0151】
なお、分散体(エマルジョン)に関しては、上述の添加剤の含有量よりも多く含まれていてもよい。リチウムイオン電池電極用スラリー100質量%に対する分散体(エマルジョン)の含有量の上限及び下限は、20、19、17、15、13、10、9、7、5、4、2、1、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、耐スプリングバック性と放電容量維持率の観点から、上記水溶液又は上記リチウムイオン電池電極用スラリー100質量%に対する分散体(エマルジョン)の添加量は5質量%未満が好ましい。
【0152】
上記リチウムイオン電池電極用スラリーは、リチウムイオン電池負極用スラリー、リチウムイオン電池正極用スラリーとして使用され得る。
【0153】
上記スラリーは、(A)成分、(B)成分、及び水、並びに必要に応じて導電助剤、スラリー粘度調整溶媒を混合して製造される。
【0154】
スラリーの混合手段は、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサー等が例示される。
【0155】
[リチウムイオン電池電極]
本開示は、上記リチウムイオン電池電極用スラリーを集電体に塗布し乾燥、硬化させることにより得られる、リチウムイオン電池電極を提供する。上記リチウムイオン電池電極は、上記リチウムイオン電池電極用スラリーの硬化物を集電体表面に有する。
【0156】
集電体は、各種公知のものを特に制限なく使用され得る。集電体の材質は特に限定されず、銅、鉄、アルミ、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料や、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が例示される。集電体の形態も特に限定されず、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板等が、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が例示される。中でも、電極活物質を負極に用いる場合には集電体として銅箔が、現在工業化製品に使用されていることから好ましい。
【0157】
塗布手段は特に限定されず、コンマコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ダイコーター、バーコーター等従来公知のコーティング装置が例示される。
【0158】
乾燥手段も特に限定されず、温度は60~200℃が好ましく、100~195℃がより好ましい。雰囲気は乾燥空気又は不活性雰囲気であればよい。
【0159】
電極(硬化物)の厚さは特に限定されないが、5~300μmが好ましく、10~250μmがより好ましい。上記範囲とすることにより、高密度の電流値に対する十分なLiの吸蔵・放出の機能が得られやすくなり得る。
【0160】
上記リチウムイオン電池電極は、リチウムイオン電池正極、リチウムイオン電池負極として用いられ得る。
【0161】
[リチウムイオン電池]
本開示は、上記リチウムイオン電池電極を含む、リチウムイオン電池を提供する。上記電池には、電解液、及び包装材料も含まれ、これらは特に限定されない。
【0162】
(電解液)
電解液は、非水系溶媒に支持電解質を溶解した非水系電解液等が例示される。また、上記非水系電解液には、被膜形成剤を含めてもよい。
【0163】
非水系溶媒は、各種公知のものを特に制限なく使用でき、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。非水系溶媒は、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート溶媒;1,2-ジメトキシエタン等の鎖状エーテル溶媒;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、1,3-ジオキソラン等の環状エーテル溶媒;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等の鎖状エステル溶媒;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル溶媒;アセトニトリル等が例示される。これらのなかでも、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含む混合溶媒の組み合わせが好ましい。
【0164】
支持電解質は、リチウム塩が用いられる。リチウム塩は、各種公知のものを特に制限なく使用でき、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。支持電解質は、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLi等が例示される。中でも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF、LiClO、CFSOLiが好ましい。解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節できる。
【0165】
被膜形成剤は、各種公知のものを特に制限なく使用でき、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。被膜形成剤は、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ビニルエチルカーボネート、メチルフェニルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート等のカーボネート化合物;エチレンサルファイド、プロピレンサルファイド等のアルケンサルファイド;1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン等のスルトン化合物;マレイン酸無水物、コハク酸無水物等の酸無水物等が例示される。電解質溶液における被膜形成剤の含有量は特に限定されないが、10質量%以下、8質量%以下、5質量%以下、及び2質量%以下の順で好ましい。含有量を10質量%以下とすることで、被膜形成剤の利点である、初期不可逆容量の抑制や、低温特性及びレート特性の向上等が得られやすくなる。
【0166】
上記リチウムイオン電池の形態は特に制限されない。リチウムイオン電池の形態は、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ等が例示される。また、これらの形態の電池を任意の外装ケースに収めることにより、コイン型、円筒型、角型等の任意の形状にして用いることができる。
【0167】
上記リチウムイオン電池の製造方法は特に制限されず、電池の構造に応じて適切な手順で組み立てればよい。リチウムイオン電池の製造方法は、特開2013-089437号公報に記載する方法等が例示される。外装ケース上に負極を乗せ、その上に電解液とセパレータを設け、更に負極と対向するように正極を乗せて、ガスケット、封口板によって固定して電池を製造できる。
【実施例
【0168】
以下、実施例及び比較例を通じて本発明を具体的に説明する。但し、上述の好ましい実施形態における説明及び以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供するものではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。また、各実施例及び比較例において、特に説明がない限り、部、%等の数値は質量基準である。
【0169】
1.(A)成分の製造
製造例1
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、イオン交換水1450g、ヒドロキシエチルビニルエーテル137.3g(1.5580mol)、50%アクリルアミド水溶液188.6g(1.3266mol)、メタリルスルホン酸ナトリウム0.09g(0.0006mol)を入れ、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、50℃まで昇温した。そこに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)2.3g、イオン交換水50gを投入し、80℃まで昇温し3時間反応を行い、水溶性ポリマーを含有する水溶液を得た。
【0170】
製造例2
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、イオン交換水550gを入れ、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、80℃まで昇温した。そこにヒドロキシエチルビニルエーテル99.0g(1.1236mol)、50%アクリルアミド水溶液870.8g(6.1241mol)、メタリルスルホン酸ナトリウム0.2g(0.0014mol)、イオン交換水100gの混合溶液と、2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)5.3g、イオン交換水170gの混合溶液をそれぞれ同時に滴下した。80℃に保温したまま3時間かけて滴下し、水溶性ポリマーを含有する水溶液を得た。
【0171】
製造例3、4
上記製造例1において、モノマー組成を表1で示すものに変更した他は製造例1と同様にして、水溶性ポリマーを含有する水溶液を調製した。
【0172】
製造例5
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、イオン交換水1340g、ヒドロキシエチルビニルエーテル68.8g(0.7806mol)、50%アクリルアミド水溶液237.0g(1.6669mol)、80%アクリル酸55.2g(0.6123mol)、メタリルスルホン酸ナトリウム0.24g(0.0015mol)を入れ、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、50℃まで昇温した。そこに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)2.3g、イオン交換水50gを投入し、80℃まで昇温し3時間反応を行った。その後、中和剤として48%水酸化ナトリウム水溶液51.0g(0.6123mol)を入れ撹拌し、固形分濃度が13%となるようにイオン交換水を入れ、水溶性ポリマーを含有する水溶液を得た。
【0173】
製造例6、7
上記製造例5において、モノマー組成を表1で示すものに変更した他は製造例5と同様にして、水溶性ポリマーを含有する水溶液を調製した。
【0174】
比較製造例1
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、イオン交換水1310g、50%アクリルアミド水溶液462.9g(3.2549mol)、メタリルスルホン酸ナトリウム0.26g(0.0016mol)を入れ、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、50℃まで昇温した。そこに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)2.3g、イオン交換水50gを投入し、80℃まで昇温し3時間反応を行い、水溶性ポリマーを含有する水溶液を得た。
【0175】
比較製造例2
上記比較製造例1において、モノマー組成を表1で示すものに変更した他は比較製造例1と同様にして、水溶性ポリマーを含有する水溶液を調製した。
【0176】
比較製造例3
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、イオン交換水1400g、50%アクリルアミド水溶液200.9g(1.4129mol)、80%アクリル酸46.8g(0.5194mol)、アクリル酸2-ヒドロキシエチル76.9g(0.6623mol)、メタリルスルホン酸ナトリウム0.41g(0.0026mol)を入れ、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、50℃まで昇温した。そこに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)2.2g、イオン交換水50gを投入し、80℃まで昇温し3時間反応を行った。その後、中和剤として48%水酸化ナトリウム水溶液34.6g(0.4156mol)を入れ撹拌し、固形分濃度が13%となるようにイオン交換水を入れ、水溶性ポリマーを含有する水溶液を得た。
【0177】
比較製造例4
上記比較製造例3において、モノマー組成及び中和剤の量を表1で示すものに変更した他は比較製造例3と同様にして、水溶性ポリマーを含有する水溶液を調製した。
【0178】
B型粘度
各バインダー水溶液の粘度は、B型粘度計(東機産業株式会社製 製品名「B型粘度計モデルBM」)を用い、25℃にて、以下の条件で測定した。
粘度100,000~20,000mPa・sの場合:No.4ローター使用、回転数6rpm、粘度20,000mPa・s未満の場合:No.3ローター使用、回転数6rpm。
【0179】
重量平均分子量
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により0.2Mリン酸緩衝液/アセトニトリル溶液(90/10、PH8.0)下で測定したポリアクリル酸換算値として求めた。GPC装置はHLC-8220(東ソー(株)製)を、カラムはSB-806M-HQ(SHODEX製)を用いた。
【0180】
ゲル分率
(A)成分を含む、リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液10gを軟膏缶(株式会社相互理化学硝子製作所製、商品名「軟膏缶 ブリキ製」)に入れ循風乾燥機(アドバンテック東洋株式会社製、商品名「送風定温乾燥器 DSR420DA」)にて120℃4時間乾燥後、熱架橋後の固形樹脂を得た。その固形樹脂の質量を25℃で正確に質量計(ザルトリウス・ジャパン株式会社製、商品名「スタンダード天秤 CPA324S」)で測定した。測定した固形樹脂を純水が150mL入っている容器(300mLビーカー)に移し、水中に25℃で3時間マグネチックスターラー(東京理化器械株式会社製、商品名「強力マグネチックスターラー RCX-1000D」)を用いて攪拌させた条件で浸漬後、桐山ロート(有限会社桐山製作所製、商品名「桐山ロート SB-60」)と吸引鐘(有限会社桐山製作所製、商品名「吸引鐘 VKB-200」)を用い、ろ紙(有限会社桐山製作所製、「No.50B」)で減圧濾過した。その後、ろ紙上に残った不溶物残渣を上記循風乾燥機にて120℃3時間乾燥した後、不溶物残渣の質量を25℃で正確に上記質量計で測定して、以下の式から水溶性電池用バインダーの熱架橋後の樹脂のゲル分率を算出した。
ゲル分率(%)={不溶物残渣(g)/固形樹脂の質量(g)}×100
【0181】
カール評価
カールを下記のように評価した。
50mm×50mmに切り取ったアルミ箔の隣り合う2辺をテープでガラス板に固定し、アルミ箔表面にバインダー水溶液を厚さ400μmでドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃循風乾燥機(ADVANTEC製 製品名「DRS420DA」)で5分間乾燥した。乾燥機から取り出し、2分間静置した後、テープで固定されていない角とガラス面との高さを測定した。高さが大きいほど大きくカールすることを示す。バインダーフィルムのカールは電極にしたときのカールと相関があり、バインダーフィルムが大きくカールするほど電極にしたときのカールも大きく、電極作成工程で剥離する等の問題を引き起こす可能性がある。
高さの数値を元に下記のように評価した。
A:10mm未満
B:10mm以上20mm未満
C:20mm以上
【0182】
【表1】
・HEVE:ヒドロキシエチルビニルエーテル
・DEGV:ジエチレングリコールモノビニルエーテル
・AM:アクリルアミド(三菱ケミカル株式会社製 「50%アクリルアミド」)
・DMAA:N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド(KJケミカルズ株式会社製 「DMAA」)
・AA:アクリル酸(大阪有機化学工業株式会社製 「80%アクリル酸」)
・AN:アクリロニトリル(三菱ケミカル株式会社製 「アクリロニトリル」)
・HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル(大阪有機化学工業株式会社製 「HEA」)
・SMAS:メタリルスルホン酸ナトリウム
・NaOH:水酸化ナトリウム(関東化学株式会社製 「48%水酸化ナトリウム溶液」)
【0183】
2.電極用スラリーの製造及びセル作製と評価
実施例1-1:電極の評価
<電極用スラリーの製造>
市販の自転公転ミキサー(製品名「あわとり練太郎」、シンキー(株)製)を用い、該ミキサー専用の容器に、製造例1で得られた水溶液を固形分換算で3質量部と、電極活物質としてコバルト酸リチウムLCO(LiCoO、日本化学工業製、商品名「セルシードC-5H」)91部と、アセチレンブラック6部とを混合した。そこにイオン交換水を固形分濃度50%となるように加えて、当該容器を上記ミキサーにセットした。次いで、2000rpmで10分間混練後、1分間脱泡を行い、電極用スラリーを得た。
【0184】
<電極の製造>
アルミ箔からなる集電体の表面に、上記リチウムイオン電池電極用スラリーを、乾燥後の膜厚が100μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、60℃で30分間乾燥後、150℃/真空で120分間加熱処理した。その後、膜(電極活物質層)の密度が3.0g/cmになるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、電極を得た。
【0185】
<リチウムハーフセルの組み立て>
アルゴン置換されたグローブボックス内で、上記電極を直径16mmに打ち抜き成形したものを、試験セル(有限会社日本トムセル社製)のAl製の下蓋の上のパッキンの内側に載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(CS TECH CO., LTD製、商品名「Selion P2010」)を載置し、さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した後、市販の金属リチウム箔を16mmに打ち抜き成形したものを載置し、前記試験セルの外装ボディーをネジで閉めて封止することにより、リチウムハーフセルを組み立てた。ここで使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPFを1モル/Lの濃度で溶解した溶液である。
【0186】
実施例1-2~1-8、比較例1-1~1-5
上記実施例1-1において、組成を表2で示すものに変更した他は実施例1-1と同様にして、リチウムハーフセルを得た。
【0187】
実施例2-1:電極の評価
<電極用スラリーの製造>
市販の自転公転ミキサー(製品名「あわとり練太郎」、シンキー(株)製)を用い、該ミキサー専用の容器に、製造例1で得られた水溶液を固形分換算で5質量部と、D50が5μmの一酸化ケイ素粒子(「CC粉末」、(株)大阪チタニウムテクノロジーズ製)を20質量部と、天然黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製 製品名「Z-5F」)を80質量部とを混合した。そこにイオン交換水を固形分濃度40%となるように加えて、当該容器を上記ミキサーにセットした。次いで、2000rpmで10分間混練後、1分間脱泡を行い、電極用スラリーを得た。
【0188】
<電極の製造>
銅箔からなる集電体の表面に、上記リチウムイオン電池電極用スラリーを、乾燥後の膜厚が80μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、150℃で30分間乾燥後、150℃/真空で120分間加熱処理した。その後、膜(電極活物質層)の密度が1.5g/cmになるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、電極を得た。
【0189】
<リチウムハーフセルの組み立て>
実施例1-1と同様の手順によりリチウムハーフセルを製造した。
【0190】
比較例2-1
上記実施例2-1において、組成を表2で示すものに変更した他は実施例2-1と同様にして、リチウムハーフセルを得た。
【0191】
<電極スラリーの貯蔵安定性試験>
電極スラリーの粘度(単位:mPa・s)をB型粘度計で測定した後、40℃に加温したオーブンに3日間貯蔵した。貯蔵後に、B型粘度計で再び粘度を測定し、粘度変化を次式で計算し、下記評価基準にて評価した。
粘度変化(%)=(貯蔵後の電極スラリーの粘度)/(貯蔵前の電極スラリーの粘度)×100
A:110%未満
B:110%以上120%未満
C:120%以上130%未満
D:130%以上
【0192】
<電極柔軟性評価>
電極を幅10mm×長さ70mmに切り、直径30mmφのテフロン(登録商標)棒に活物質層を外側にして捲き付け、活物質層の表面の様子を観察し、以下の基準で評価した。
A:集電体上に結着している活物質層にひび割れ及び剥がれが全く生じていない。
B:集電体上に結着している活物質層にひび割れが見られるが、剥がれは認められない。
C:集電体上に結着している活物質層にひび割れが見られ、剥がれが認められる。
【0193】
<電極密着性評価>
電極密着性を下記のように評価した。
電極から幅2cm×長さ10cmの試験片を切り出し、コーティング面を上にして固定した。次いで、該試験片の活物質層表面に、幅15mmの粘着テープ(「セロテープ(登録商標)」 ニチバン(株)製))(JIS Z1522に規定)を押圧しながら貼り付けた後、25℃条件下で引張り試験機((株)エー・アンド・デイ製「テンシロンRTM-100」)を用いて、試験片の一端から該粘着テープを30mm/分の速度で180°方向に引き剥がしたときの応力を測定した。測定は5回行い、幅15mm当たりの値に換算し、その平均値をピール強度として算出した。ピール強度が大きいほど、集電体と活物質層との密着強度あるいは活物質同士の結着性が高く、集電体から活物質層あるいは活物質同士が剥離し難いことを示す。
ピール強度の値を元に下記のように評価した。
A:ピール強度が5N/mより大きかった。
B:ピール強度が1~5N/mであった。
C:ピール強度が1N/m未満であった。
【0194】
<充放電測定>
リチウムハーフセルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.1C)にて充電を開始し、電圧が5.0Vになった時点で充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.1C)にて放電を開始し、電圧が3.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)とする充放電を30回繰り返した。
なお、上記測定条件において「1C」とは、ある一定の電気容量を有するセルを定電流放電して1時間で放電終了となる電流値を示す。例えば「0.1C」とは、10時間かけて放電終了となる電流値のことであり、「10C」とは0.1時間かけて放電完了となる電流値のことをいう。
【0195】
実施例2-1、比較例2-1
<充放電測定>
リチウムハーフセルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.1C)にて充電を開始し、電圧が0.01Vになった時点で充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.1C)にて放電を開始し、電圧が1.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)とする充放電を30回繰り返した。
【0196】
<初回クーロン効率の測定>
充放電サイクル試験を室温(25℃)で行った際の、初回充電容量(mAh)および初回放電容量(mAh)の値より、初回クーロン効率を下記式によって求めた。
初回クーロン効率={(初回放電容量)/(初回充電容量)}×100
【0197】
<スプリングバック率の測定>
充放電サイクル試験を室温(25℃)で30サイクル行った後、リチウムハーフセルを解体し、電極の厚みを測定した。電極のスプリングバック率は下記式によって求めた。
スプリングバック率={(30サイクル後の電極厚み-集電体厚み)/(充放電前の電極厚み-集電体厚み)}×100-100 (%)
【0198】
<放電容量維持率>
放電容量維持率は以下の式より求めた。
放電容量維持率={(30サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)}×100(%)
【0199】
【表2】
・LCO:コバルト酸リチウム(LiCoO
・NMC:ニッケルマンガンコバルト酸リチウム(Li[Ni1/3Mn1/3Co1/3]O