(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】磁歪式トルクセンサ
(51)【国際特許分類】
G01L 3/10 20060101AFI20241203BHJP
【FI】
G01L3/10 301J
(21)【出願番号】P 2020155210
(22)【出願日】2020-09-16
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大寺 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】小野 潤司
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】福田 晃大
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-523124(JP,A)
【文献】特開昭63-033635(JP,A)
【文献】特開2007-292727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 3/00-3/26
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時にも回転しない部分に取り付けられた状態で、磁歪特性を有する回転体の被検出面に対向して配置され、前記回転体に生じる逆磁歪効果を利用して該回転体が伝達するトルクを測定する、磁歪式トルクセンサであって、
合成樹脂製のホルダと、
該ホルダに埋め込まれた検出部と、
を備え、
前記検出部が、前記被検出面の周囲に全周にわたって配置されており、
前記ホルダが、前記検出部を保持する本体部と、その先端部を、前記回転体の前記被検出面に摺接又は近接対向させた、少なくとも1個の位置決め凸部
とを有
しており、
前記少なくとも1個の位置決め凸部が、前記本体部の内周面の円周方向3箇所以上から径方向内側に向けて突出するように設けられている、又は、前記本体部の内周面から全周にわたって径方向内側に向けて突出するように設けられている、
磁歪式トルクセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体に生じる逆磁歪効果を利用して該回転体が伝達するトルクを測定する磁歪式トルクセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の技術分野においては、自動変速機を構成する回転軸により伝達しているトルクを測定し、その測定結果を利用して、当該変速機の変速制御やエンジンの出力制御を行うことが、従来から行われている。
【0003】
また、回転軸により伝達しているトルクを測定する技術として、例えば特開2017-96826号公報(特許文献1)には、当該トルクを、回転軸の周囲に配置した磁歪式トルクセンサにより測定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2017-96826号公報に記載の磁歪式トルクセンサは、トルクの測定精度を向上させる面からは、さらなる改良の余地がある。すなわち、磁歪式トルクセンサによるトルクの測定精度を向上させるためには、磁歪式トルクセンサの検出部と、回転軸の被検出面との間隔を精度よく規制することが効果がある。これに対し、特開2017-96826号公報に記載の構造では、エンジンのクランクシャフトとトルクコンバータのケースとをトルク伝達可能に接続するドライブプレートを被検出部材とし、該ドライブプレートに、前記エンジンのシリンダブロックに支持固定された磁歪式トルクセンサの検出部を対向させている。したがって、前記磁歪式トルクセンサの検出部と、前記回転軸の被検出面との間隔を規制するためには、エンジンやトルクコンバータを構成する各部品の形状精度及び組立精度を十分に確保する必要があり、自動車の製造コストが増大する可能性がある。
【0006】
本発明は、上述のような事情に鑑み、トルクの測定精度を向上することができる磁歪式トルクセンサの構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の磁歪式トルクセンサは、使用時にも回転しない部分に取り付けられた状態で、磁歪特性を有する回転体の被検出面に対向して配置され、前記回転体に生じる逆磁歪効果を利用して該回転体が伝達するトルクを測定するものである。
本発明の磁歪式トルクセンサは、合成樹脂製のホルダと、該ホルダに埋め込まれた検出部とを備える。
前記検出部は、前記被検出面の周囲に全周にわたって配置されている。
前記ホルダは、前記検出部を保持する本体部と、その先端部を、前記回転体の前記被検出面に摺接又は近接対向させた、少なくとも1個の位置決め凸部とを有する。
前記少なくとも1個の位置決め凸部は、前記本体部の内周面の円周方向3箇所以上から径方向内側に向けて突出するように設けられている、又は、前記本体部の内周面から全周にわたって径方向内側に向けて突出するように設けられている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の磁歪式トルクセンサによれば、トルクの測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態の1例に係る磁歪式トルクセンサを、軸方向から見た端面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態の1例に係る磁歪式トルクセンサの検出部を展開した状態で示す模式図であり、(A)は第1検出コイル及び第4検出コイルを示す図であり、(B)は第2検出コイル及び第3検出コイルを示す図である。
【
図4】
図4は、実施の形態の1例に係る磁歪式トルクセンサの測定部を示す回路図である。
【
図5】
図5は、実施の形態の1例に係る磁歪式トルクセンサの変形例を示す、
図2に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態の1例について、
図1~
図5を用いて説明する。本例の磁歪式トルクセンサ1は、使用時にも回転しないケーシングなどの非回転部材に取り付けられ、かつ、磁歪特性を有する回転軸2の周囲に配置されて、回転軸2が伝達するトルクを測定する。すなわち、磁歪式トルクセンサ1は、検出部3を、回転軸2の外周面に備えられた被検出面4に対向させている。磁歪式トルクセンサ1は、検出部3により、逆磁歪効果に基づいて、回転軸2がトルクを伝達する際に生じる該回転軸2の透磁率の変化を検出し、回転軸2が伝達するトルクを測定する。
【0011】
磁歪式トルクセンサ1は、検出部3と、ホルダ5と、測定回路6とを備える。
【0012】
検出部3は、ボビン7と、該ボビン7に巻き付けられた絶縁電線からなる複数個ずつの検出コイル8a~8dと、バックヨーク9とを備える。
【0013】
ボビン7は、円筒形状を有し、非磁性体材料である樹脂材料により構成されている。ボビン7は、外周面に、ボビン7の軸方向に対して所定角度(図示の例では+45度)だけ傾斜した複数の第1傾斜溝10aと、ボビン7の軸方向に対して第1傾斜溝10aとは反対方向に所定角度(図示の例では-45度)だけ傾斜した複数の第2傾斜溝10bとを有する。なお、第1傾斜溝10a及び第2傾斜溝10bのそれぞれの傾斜角度は、任意に設定することができる。
【0014】
複数の検出コイル8a~8dのうち、第1検出コイル8a及び第4検出コイル8dのそれぞれは、ボビン7の第1傾斜溝10aに沿って絶縁電線を巻き付けてなる。これに対し、複数の検出コイル8a~8dのうち、第2検出コイル8b及び第3検出コイル8cのそれぞれは、ボビン7の第2傾斜溝10bに沿って絶縁電線を巻き付けてなる。
【0015】
すなわち、複数の検出コイル8a~8dは、径方向に積層されている。また、第1検出コイル8aは、円周方向に等間隔に配置され、かつ、円周方向に隣り合う第1検出コイル8a同士が直列に接続されている。第2検出コイル8bは、円周方向に等間隔に配置され、かつ、円周方向に隣り合う第2検出コイル8b同士が直列に接続されている。第3検出コイル8cは、円周方向に等間隔に配置され、かつ、円周方向に隣り合う第3検出コイル8c同士が直列に接続されている。第4検出コイル8dは、円周方向に等間隔に配置され、かつ、円周方向に隣り合う第4検出コイル8d同士が直列に接続されている。
【0016】
第1検出コイル8a及び第4検出コイル8dは、回転軸2の軸方向に対して所定角度(図示の例では+45度)だけ傾斜した第1方向での、回転軸2の透磁率変化を検出する。第2検出コイル8b及び第3検出コイル8cは、回転軸2の軸方向に対して第1方向とは反対側に所定角度(図示の例では-45度)だけ傾斜した第2方向での、回転軸2の透磁率変化を検出する。検出コイル8a~8dを構成する絶縁電線は、測定回路6に電気的に接続される。
【0017】
バックヨーク9は、円筒形状を有し、例えば鉄などの磁性体材料(強磁性体材料)により構成され、ボビン7に外嵌固定されている。バックヨーク9は、ボビン7の周囲に配置された検出コイル8a~8dで生じた磁束の外部への漏れを抑制する機能を有する。
【0018】
ホルダ5は、本体部11と、複数個(図示の例では3個)の位置決め凸部12と、コネクタ部13とを備える。
【0019】
本体部11は、円筒形状を有する。本体部11は、回転軸2の周囲に配置され、内部に検出部3を保持している。換言すれば、検出部3は、本体部11の内部に埋め込まれている(モールドされている)。
【0020】
位置決め凸部12のそれぞれは、本体部11の内周面の円周方向複数箇所(図示の例では円周方向等間隔3箇所)のそれぞれから径方向内側に向けて突出している。位置決め凸部12のそれぞれは、先端部(径方向内側の端部)を、回転軸2の被検出面4に摺接又は近接対向、好ましくは摺接させている。本例では、位置決め凸部12のそれぞれは、先端部に、本体部11の中心軸を中心とする部分円筒面状の凹曲面部14を有する。
【0021】
本例では、位置決め凸部12のそれぞれは、
図2に示すように、本体部11の内周面のうち、軸方向片側(
図2の左側)の端部から径方向内側に向けて突出している。ただし、例えば
図5に示すように、位置決め凸部12のそれぞれを、本体部11の内周面から軸方向全長にわたって突出させることもできる。または、位置決め凸部のそれぞれを、本体部の内周面の軸方向中間部若しくは軸方向他側の端部から径方向内側に向けて突出させることもできる。
【0022】
コネクタ部13は、本体部11の外周面の円周方向1箇所から径方向外側に向けて突出している。コネクタ部13には、ハーネス15が接続される。ハーネス15は、検出コイル8a~8dを構成する絶縁電線と測定回路6とを電気的に接続する。あるいは、ホルダ5の内部に、測定回路6が実装された基板部を埋め込み、かつ、測定回路6のトルク演算部16が出力するトルク信号をハーネス15により取り出すように構成することもできる。
【0023】
本例のホルダ5は、例えば、エポキシ樹脂や、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、PA(ポリアミド)、PPA(ポリフタルアミド)などの熱可塑性樹脂を射出成形することにより造ることができる。すなわち、検出部3の周囲に金型を配置し、検出部3と金型との間に画成されたキャビティ内に溶融樹脂を送り込み、該溶融樹脂を冷却及び固化させる。これにより、ホルダ5を成形し、かつ、ホルダ5の本体部11の内部に検出部3を埋め込む。
【0024】
測定回路6は、検出コイル8a~8dのそれぞれのインダクタンスの変化を検出することで、回転軸2が伝達するトルクを測定する。測定回路6は、ブリッジ回路17と、発振器18と、電圧測定装置(ロックイン増幅器)19と、トルク演算部16とを備える。
【0025】
ブリッジ回路17は、第1検出コイル8aと、第2検出コイル8bと、第3検出コイル8cと、第4検出コイル8dとを環状に接続してなる。発振器18は、第1検出コイル8aと第2検出コイル8bとの接点Aと、第3検出コイル8cと第4検出コイル8dとの接点Bとの間に、交流電圧を印加する。電圧測定装置19は、第1検出コイル8aと第3検出コイル8cとの接点Cと、第2検出コイル8bと第4検出コイル8dとの接点Dとの間の電圧を検出する。トルク演算部16は、電圧測定装置19の出力信号に基づいて、回転軸2が伝達するトルクを演算する。
【0026】
本例の磁歪式トルクセンサ1を用いて、回転軸2が伝達するトルクを測定するには、発振器18により、A点とB点との間に交流電圧を印加し、検出コイル8a~8dのそれぞれに交流電流を流す。すると、検出コイル8a~8dのそれぞれには、円周方向に隣り合う一対の検出コイル同士で互いに逆向きの電流が流れる。この結果、検出コイル8a~8dの周囲に交流磁界が発生し、交流磁界の磁束の一部が回転軸2の表層部を通過する。この状態で、回転軸2にトルクが加わると、逆磁歪効果により、回転軸2は、軸方向に対して+45度の方向の透磁率が増加(又は減少)し、軸方向に対して-45度の方向の透磁率が減少(又は増加)する。このため、第1検出コイル8a及び第4検出コイル8dでは、インダクタンスが減少(又は増加)し、第2検出コイル8b及び第3検出コイル8cでは、インダクタンスが増加(又は減少)する。この結果、電圧測定装置19で検出される電圧の値が変化するため、トルク演算部16は、この電圧の値をもとに、回転軸2が伝達するトルクを演算する。
【0027】
一方、回転軸2がトルクを伝達していない状態では、検出コイル8a~8dのそれぞれのインダクタンスは互いに等しくなる。このため、電圧測定装置19で検出される電圧は0になる。
【0028】
本例の磁歪式トルクセンサ1は、ホルダ5の本体部11を、回転軸2の被検出面4の周囲に配置し、かつ、位置決め凸部12の凹曲面部14を、回転軸2の被検出面4に摺接又は近接対向させる。これにより、磁歪式トルクセンサ1は、検出部3を、被検出面4の周囲に配置し、該被検出面4に対向させている。回転軸2のうち、少なくとも被検出面4を含む部分は、SCr420(クロム鋼)、SCM420(クロムモリブデン鋼)、SNCM420(ニッケルクロムモリブデン鋼)などの鋼(鉄合金)などの磁歪特性を有する材料により構成されている。具体的には、回転軸2全体を、磁歪特性を有する材料により構成することができる。あるいは、被検出面4を含む部分を、磁歪特性を有する材料により構成し、残部を構成する部品と結合固定することもできる。
【0029】
なお、被検出面4に、ショットピーニング処理を施して、磁歪特性を改善した改質層を形成することもできる。このような改質層を形成すれば、磁歪式トルクセンサ1によるトルク測定の感度及びヒステリシスを改善することができる。
【0030】
本例の磁歪式トルクセンサ1は、ホルダ5の位置決め凸部12のそれぞれの先端部に備えられた凹曲面部14を、回転軸2の被検出面4に摺接又は近接対向、好ましくは摺接させている。このため、磁歪式トルクセンサ1及び回転軸2を備える機械装置の部品の形状精度及び組立精度を過度に高くすることなく、ホルダ5の本体部11の内部に埋め込まれた検出部3と、回転軸2の被検出面4との間隔を精度よく規制することができる。換言すれば、回転軸2の被検出面4に対する検出部3の径方向の位置決めを高精度に行うことができる。したがって、前記機械装置の製造コストを過度に増大させることなく、磁歪式トルクセンサ1によるトルクの測定精度を向上させることができる。
【0031】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0032】
本例では、検出部3を埋め込んだホルダ5に、位置決め凸部12を形成している。本発明の技術的範囲からは外れるが、検出コイルを巻き付けたボビンに位置決め凸部を形成し、かつ、該位置決め凸部の先端部を、回転体の被検出面に摺接又は近接対向させることもできる。この場合、ボビンの径方向外側を、合成樹脂製のホルダにより覆うことができる。
【0033】
本例では、位置決め凸部12を円周方向複数箇所に配置しているが、位置決め凸部を全周にわたり円環状に形成することもできる。ただし、位置決め凸部の先端部を、回転体の被検出面に摺接する場合、位置決め凸部の先端部と回転体の被検出面との摺接面積を小さくして、摺接抵抗を抑える面から、位置決め凸部を円周方向複数箇所、好ましくは3箇所以上に間欠的に配置することが好ましい。
【0034】
本例では、4組の検出コイル8a~8dによりブリッジ回路17を構成しているが、ブリッジ回路を構成する4組の検出コイルのうち、2組の検出コイルを抵抗に置き換えて使用することができる。あるいは、複数の検出コイルとボビンとからなるコイル部材に代えて、ホール素子、ホールIC、MR素子、GMR素子、AMR素子、TMR素子、MI素子などの磁気検出素子を備えた磁気センサを使用することもできる。
【0035】
本例では、磁歪式トルクセンサ1の検出部3を、回転軸2の外周面に備えられた被検出面4の周囲に配置しているが、本発明の技術的範囲からは外れるが、検出部を、回転体の軸方向側面に備えられた被検出面に、軸方向に対向させることもできる。この場合、位置決め凸部は、被検出面に向けて軸方向に突出するように形成される。
【0036】
本発明の磁歪式トルクセンサは、例えば、自動車のパワートレインに組み込んで使用することができる。この場合、組み込み対象となる装置は、特に限定されず、オートマチックトランスミッション(AT)、ベルト式無段変速機、トロイダル型無段変速機、オートマチックマニュアルトランスミッション(AMT)、ダブルクラッチトランスミッション(DCT)などの車側の制御で変速を行うトランスミッション、又はトランスファーを対象とすることができる。また、対象となる車両の駆動方式(FF、FR)も、特に問わない。
【0037】
さらに、本発明の磁歪式トルクセンサは、自動車のパワートレインに限らず、電動アシスト自転車を含む自転車、風車、鉄道車両、圧延機、工作機械、建設機械、農業機械、家庭用電気器具などの各種機械装置に組み込んで使用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 磁歪式トルクセンサ
2 回転軸
3 検出部
4 被検出面
5 ホルダ
6 測定回路
7 ボビン
8a 第1検出コイル
8b 第2検出コイル
8c 第3検出コイル
8d 第4検出コイル
9 バックヨーク
10a 第1傾斜溝
10b 第2傾斜溝
11 本体部
12 位置決め凸部
13 コネクタ部
14 凹曲面部
15 ハーネス
16 トルク演算部
17 ブリッジ回路
18 発振器
19 電圧測定装置