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特許7596690全固体ナトリウムイオン二次電池及び全固体ナトリウムイオン二次電池の製造方法
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  • 特許-全固体ナトリウムイオン二次電池及び全固体ナトリウムイオン二次電池の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】全固体ナトリウムイオン二次電池及び全固体ナトリウムイオン二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/054 20100101AFI20241203BHJP
   C04B 35/447 20060101ALI20241203BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20241203BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20241203BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241203BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20241203BHJP
   H01M 4/131 20100101ALN20241203BHJP
   H01M 4/485 20100101ALN20241203BHJP
【FI】
H01M10/054
C04B35/447
H01M4/136
H01M4/58
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M4/131
H01M4/485
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020163045
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2021097034
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2019228143
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 歩
(72)【発明者】
【氏名】池尻 純一
(72)【発明者】
【氏名】角田 啓
(72)【発明者】
【氏名】山内 英郎
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-079615(JP,A)
【文献】特開2012-243743(JP,A)
【文献】特開2019-079769(JP,A)
【文献】特開2013-243006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/054
C04B 35/447
H01M 4/136
H01M 4/58
H01M 10/0562
H01M 10/0585
H01M 4/131
H01M 4/485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層と、
前記固体電解質層上に設けられており、平均粒子径が0.01μm以上、0.7μm未満である極活物質前駆体粉末を含む極材料層の焼結体からなる極層と、
を備え
前記正極層の厚みが20μm以上であり、
前記正極層における正極活物質の担持量が、3mg/cm 以上である、全固体ナトリウムイオン二次電池
【請求項2】
前記正極活物質が、一般式Na (MはFe、Cr、Mn、Co及びNiから選択される少なくとも1種以上の遷移金属元素、1.20≦x≦2.10、0.95≦y≦1.60)で表される結晶を含む、請求項1に記載の全固体ナトリウムイオン二次電池。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の全固体ナトリウムイオン二次電池の製造方法であって、
固体電解質層上に、極活物質前駆体粉末を含有する極材料層を形成する形成工程と、
前記極材料層を加圧しながら、焼成する焼成工程と、
を備える、全固体ナトリウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記極材料層が、前記固体電解質層側の第1の主面及び前記第1の主面に対向する第2の主面を有し、
前記焼成工程において、前記第2の主面全体を加圧しながら、焼成する、請求項に記載の全固体ナトリウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記焼成工程において、前記極材料層を1kPa以上90kPa以下で加圧する、請求項又はに記載の全固体ナトリウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記極活物質前駆体粉末の平均粒子径が、0.01μm以上、0.7μm未満である、請求項のいずれか1項に記載の全固体ナトリウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項7】
前記極活物質前駆体粉末が、非晶質酸化物材料である、請求項のいずれか1項に記載の全固体ナトリウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記極活物質前駆体粉末が、酸化物換算のモル%で、NaO 25%~55%、Fe+Cr+MnO+CoO+NiO 10%~30%、及びP 25%~55%を含有する、請求項のいずれか1項に記載の全固体ナトリウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用部材、全固体電池及び蓄電デバイス用部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、モバイル機器や電気自動車等に不可欠な、高容量で軽量な電源としての地位を確立している。しかし、現行のリチウムイオン二次電池には、電解質として可燃性の有機系電解液が主に用いられているため、発火等の危険性が懸念されている。この問題を解決する方法として、有機系電解液に代えて固体電解質を使用した全固体リチウムイオン電池の開発が進められている(例えば特許文献1参照)。また、リチウムは世界的な原材料の高騰等の問題が懸念されているため、その代替として全固体ナトリウムイオン電池の研究が近年行われている。特許文献2には、Na(Fe1-az(MはCr、Mn、Co及びNiからなる群より選ばれた少なくとも一種の遷移金属元素、1.2≦x≦2.8、0.95≦y≦1.6、0≦a≦0.9、7≦z≦8)で表される正極活物質が開示されている。特許文献2では、非晶質のガラス粉末を含むスラリーを固体電解質の一方の表面に塗布し乾燥させた後、焼成させることにより、上記の正極活物質を含む正極層が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-205741号公報
【文献】国際公開第2016/084573号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電気自動車用の電源等としての二次電池では、車の航続距離を伸ばすため高エネルギー密度にすることが求められる。ここで、高エネルギー密度にするためには、電極活物質の担持量を多くしたり、電極層の厚みを厚くしたりして高容量化する必要がある。しかしながら、特許文献2のように、固体電解質層の上に電極材料層を形成し、焼成する方法では、電極活物質の担持量を多くしたり、電極材料層の厚みを厚くしたりすると、焼結により得られる正極層が固体電解質層から剥離することがある。この場合、イオン伝導の接点が失われるため、電池作動しないという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、電極活物質の担持量を多くした場合においても充放電可能であり、高容量化を図ることができる、蓄電デバイス用部材、全固体電池及び蓄電デバイス用部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る蓄電デバイス用部材は、固体電解質層と、前記固体電解質層上に設けられており、平均粒子径が0.01μm以上、0.7μm未満である電極活物質前駆体粉末を含む電極材料層の焼結体からなる電極層と、を備えることを特徴としている。
【0007】
本発明においては、前記電極層の厚みが20μm以上であることが好ましい。
【0008】
本発明においては、前記電極層における電極活物質の担持量が、3mg/cm以上であることが好ましい。
【0009】
本発明に係る全固体電池は、前記いずれかの蓄電デバイス用部材を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る蓄電デバイス用部材の製造方法は、固体電解質層上に、電極活物質前駆体粉末を含有する電極材料層を形成する形成工程と、前記電極材料層を加圧しながら、焼成する焼成工程と、を備えることを特徴としている。
【0011】
本発明においては、前記電極材料層が、前記固体電解質層側の第1の主面及び前記第1の主面に対向する第2の主面を有し、前記焼成工程において、前記第2の主面全体を加圧しながら、焼成することが好ましい。
【0012】
本発明においては、前記焼成工程において、前記電極材料層を1kPa以上で加圧することが好ましい。
【0013】
本発明においては、前記電極活物質前駆体粉末の平均粒子径が、0.01μm以上、0.7μm未満であることが好ましい。
【0014】
本発明においては、前記電極活物質前駆体粉末が、非晶質酸化物材料であることが好ましい。
【0015】
本発明においては、前記電極材料層が、正極材料層であることが好ましい。
【0016】
本発明においては、前記電極活物質前駆体粉末が、酸化物換算のモル%で、NaO 25%~55%、Fe+Cr+MnO+CoO+NiO 10%~30%、及びP 25%~55%を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電極活物質の担持量を多くした場合においても充放電可能であり、高容量化を図ることができる、蓄電デバイス用部材、全固体電池及び蓄電デバイス用部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1(a)~(c)は、本発明の一実施形態に係る蓄電デバイス用部材の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る全固体電池を示す模式的断面図である。
図3図3は、実施例5で得られた正極層の平面視における写真である。
図4図4は、参考例2で得られた正極層の平面視における写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0020】
[蓄電デバイス用部材及び全固体電池の製造方法]
図1(a)~(c)は、本発明の一実施形態に係る蓄電デバイス用部材の製造方法を説明するための模式的断面図である。また、図2は、本発明の一実施形態に係る全固体電池を示す模式的断面図である。
【0021】
本実施形態の製造方法では、まず、図1(a)に示すように、固体電解質層1の第1の主面1a上に、正極活物質前駆体粉末を含有する正極材料層2Aを形成する。次に、図1(b)に示すように、正極材料層2Aを加圧しながら、焼成する。それによって、固体電解質層1の第1の主面1a上に、図1(c)に示す正極層2を形成し、蓄電デバイス用部材6を得る。次に、固体電解質層1の第2の主面1b上に、図2に示す負極層3を形成する。それによって、全固体電池10を得ることができる。
【0022】
本実施形態の製造方法では、上記のように、固体電解質層1上に形成された正極材料層2Aを加圧しながら、焼成するので、電極活物質の担持量を多くした場合においても充放電可能であり、蓄電デバイスである全固体電池10の高容量化を図ることができる蓄電デバイス用部材6を製造することができる。この理由については、以下のように説明することができる。
【0023】
従来、固体電解質層の上に、正極活物質前駆体粉末を含有する正極材料層を形成し、焼成する方法では、焼成により得られる正極層が固体電解質層から剥離することがあった。この原因は、正極活物質前駆体粉末として、例えば非晶質の材料を用いた場合に、焼成時における結晶化により、体積収縮が起こり易いためであると考えられる。特に、電極活物質の担持量を多くしたり、正極層の厚みを厚くしたりした場合に、上記剥離の問題が顕著となる傾向がある。
【0024】
また、電気自動車用の電源等としての二次電池では、モーターを駆動させるために高い出力特性が求められる。高出力化のために正極活物質前駆体粉末を微粉化すると、緻密な正極層を得ることができるが、この場合、正極活物質前駆体粉末の比表面積が大きくなるため、ペースト化する際にバインダーの添加量を増やす必要がある。しかしながら、焼成時にバインダーは揮発するため、正極材料層内の空隙が多くなることから、正極材料層の体積収縮がより生じ易くなる。その結果、正極層の固体電解質層からの剥離がより生じ易くなる。
【0025】
これに対して、本実施形態の製造方法では、固体電解質層1上に形成された正極材料層2Aを加圧しながら、焼成するので、平面方向における正極材料層2Aの収縮を抑制することができ、焼成により得られる正極層2と固体電解質層1との密着性を向上させることができる。そのため、特に電極活物質の担持量を多くしたり、正極材料層2Aの厚みを厚くしたりした場合においても、焼成により得られる正極層2が固体電解質層1から剥離し難い。このように、正極層2が固体電解質層1から剥離し難いので、イオン伝導の接点が失われ難く、高出力で充放電が可能な蓄電デバイス用部材6及び全固体電池10を得ることができる。また、正極活物質の担持量を多くしたり、正極材料層2Aの厚みを厚くしたりできるので、高容量化することができ、それによって全固体電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0026】
以下、一例として、ナトリウムイオン伝導性を有する材料を用いた全固体ナトリウムイオン二次電池について、各工程の詳細について説明する。
【0027】
(正極材料層形成工程)
正極材料層2Aは、固体電解質層1の第1の主面1a上に、正極活物質前駆体粉末を含むスラリーを塗布し、乾燥することにより得ることができる。スラリーには、固体電解質粉末や導電助剤が含まれていてもよい。また、スラリーには、必要に応じて、バインダー、可塑剤、又は溶剤等が含まれていてもよい。
【0028】
正極活物質前駆体粉末;
正極活物質前駆体粉末は、焼成により正極活物質結晶を生成する非晶質酸化物材料からなることが好ましい。非晶質酸化物材料は焼成時に正極活物質結晶が生成するとともに、軟化流動してより緻密な正極層2を形成することが可能となる。その結果、イオン伝導パスがより良好に形成されるため好ましい。また、本発明において、「非晶質酸化物材料」は完全に非晶質の酸化物材料に限定されず、一部結晶を含有しているもの(例えば結晶化度10%以下)も含むものとする。
【0029】
正極活物質前駆体粉末は、下記酸化物換算のモル%で、NaO 25%~55%、Fe+Cr+MnO+CoO+NiO 10%~30%、及びP 25%~55%を含有することが好ましい。組成をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。
【0030】
NaOは、一般式Na(MはFe、Cr、Mn、Co及びNiから選択される少なくとも1種以上の遷移金属元素、1.20≦x≦2.10、0.95≦y≦1.60)で表される正極活物質結晶の主成分である。NaOの含有量は、25%~55%であることが好ましく、30%~50%であることがより好ましい。NaOの含有量が少なすぎる、あるいは、多すぎると、充放電容量が低下する傾向にある。
【0031】
Fe、Cr、MnO、CoO及びNiOも、一般式Naで表される正極活物質結晶の主成分である。Fe+Cr+MnO+CoO+NiOの含有量は10%~30%であることが好ましく、15%~25%であることがより好ましい。Fe+Cr+MnO+CoO+NiOの含有量が少なすぎると、充放電容量が低下する傾向にある。一方、Fe+Cr+MnO+CoO+NiOの含有量が多すぎると、望まないFe、Cr、MnO、CoOまたはNiO等の結晶が析出しやすくなる。なお、サイクル特性を向上させるためには、Feを積極的に含有させることが好ましい。Feの含有量は、1%~30%であることが好ましく、5%~30%であることがより好ましく、10%~30%であることがさらに好ましく、15%~25%であることが特に好ましい。Cr、MnO、CoO及びNiOの各成分の含有量は、それぞれ、0%~30%であることが好ましく、10%~30%であることがより好ましく、15%~25%であることがさらに好ましい。また、Fe、Cr、MnO、CoO及びNiOから選択される少なくとも2種の成分を含有させる場合、その合量は10%~30%であることが好ましく、15%~25%であることがより好ましい。
【0032】
も一般式Naで表される正極活物質結晶の主成分である。Pの含有量は25%~55%であることが好ましく、30%~50%であることがより好ましい。Pの含有量が少なすぎる、あるいは、多すぎると、充放電容量が低下する傾向にある。
【0033】
正極活物質前駆体粉末には、上記成分以外にも、V、Nb、MgO、Al、TiO、ZrO、又はScを含有させてもよい。これらの成分は導電性(電子伝導性)を高める効果があり、正極活物質の高速充放電特性が向上しやすくなる。上記成分の含有量は合量で0%~25%であることが好ましく、0.2%~10%であることがより好ましい。上記成分の含有量が多すぎると、電池特性に寄与しない異種結晶が生じ、充放電容量が低下しやすくなる。
【0034】
また上記成分以外に、SiO、B、GeO、Ga、Sb、又はBiを含有していてもよい。これら成分を含有させることにより、ガラス形成能が向上し、均質な正極活物質前駆体粉末を得やすくなる。上記成分の含有量は合量で、0%~25%であることが好ましく、0.2%~10%であることがより好ましい。上記成分は電池特性に寄与しないため、その含有量が多すぎると、充放電容量が低下する傾向にある。
【0035】
正極活物質前駆体粉末は、原料バッチを溶融、成形することにより作製することが好ましい。当該方法によれば、均質性に優れた非晶質の正極活物質前駆体粉末を得やすくなるため好ましい。具体的には、正極活物質前駆体粉末は以下のようにして製造することができる。
【0036】
まず、所望の組成となるように原料を調製して原料バッチを得る。次に、得られた原料バッチを溶融する。溶融温度は、原料バッチが均質に溶融されるよう適宜調整すればよい。例えば、溶融温度は800℃以上であることが好ましく、900℃以上であることがより好ましい。上限は特に限定されないが、溶融温度が高すぎるとエネルギーロスや、ナトリウム成分等の蒸発につながるため、1500℃以下であることが好ましく、1400℃以下であることがより好ましい。
【0037】
次に、得られた溶融物を成形する。成形方法としては特に限定されず、例えば、溶融物を一対の冷却ロール間に流し込み、急冷しながらフィルム状に成形してもよいし、あるいは、溶融物を鋳型に流し出し、インゴット状に成形しても構わない。
【0038】
続いて、得られた成形体を粉砕することにより正極活物質前駆体粉末を得る。正極活物質前駆体粉末の平均粒子径は、0.01μm以上、0.7μm未満であることが好ましく、0.03μm以上、0.6μm以下であることがより好ましく、0.05μm以上、0.6μm以下であることがさらに好ましく、0.1μm以上、0.5μm以下であることが特に好ましい。正極活物質前駆体粉末の平均粒子径が小さすぎると、ペースト化して使用する場合に粒子同士の凝集力が強くなり、ペースト中に分散しにくくなる。また、固体電解質粉末等と混合する場合に、混合物中に正極活物質前駆体粉末を均一に分散することが困難となり、内部抵抗が上昇するため出力特性が下がり充放電容量が低下する恐れがある。一方、正極活物質前駆体粉末の平均粒子径が大きすぎると、結晶化温度が高くなる傾向がある。また、正極材料の単位表面積あたりのイオンと電子の拡散量が低下することで、内部抵抗が大きくなるため出力特性が下がり、結果として充放電容量が低下する傾向がある。さらに、固体電解質粉末と混合する場合に、正極活物質前駆体粉末と固体電解質粉末との密着性が低下するため、正極層2の機械的強度が低下し、結果的に充放電容量が低下する傾向にある。あるいは、正極層2と固体電解質層1との密着性にも劣り、正極層2が固体電解質層1から剥離する恐れがある。
【0039】
なお、正極活物質前駆体粉末の平均粒子径を小さくすると、緻密な正極層を得ることができるが、この場合、正極活物質前駆体粉末の比表面積が大きくなるため、ペースト化する際にバインダーの添加量を増やす必要がある。しかしながら、焼成時にバインダーは揮発するため、正極材料層内の空隙が多くなることから、正極材料層の体積収縮がより生じ易くなる。その結果、正極層の固体電解質層からの剥離がより生じ易くなる。本実施形態の製造方法では、固体電解質層1上に形成された正極材料層2Aを加圧しながら、焼成するので、正極活物質前駆体粉末の平均粒子径を小さくした場合においても、焼成により得られる正極層2が固体電解質層1から剥離し難い。
【0040】
なお、本発明において、平均粒子径は、D50(体積基準の平均粒子径)を意味し、レーザー回折散乱法により測定された値を指す。
【0041】
固体電解質粉末;
固体電解質粉末は、全固体電池10において、正極層2におけるイオン伝導を担う成分である。
【0042】
固体電解質粉末としては、例えば、ナトリウムイオン伝導性に優れるベータアルミナまたはNASICON結晶が挙げられる。ベータアルミナは、β-アルミナ(理論組成式:NaO・11Al)とβ”-アルミナ(理論組成式:NaO・5.3Al)の2種類の結晶型が存在する。β”-アルミナは準安定物質であるため、通常、LiOやMgOを安定化剤として添加したものが用いられる。β-アルミナよりもβ”-アルミナの方が、ナトリウムイオン伝導度が高いため、β”-アルミナ単独、またはβ”-アルミナとβ-アルミナの混合物を用いることが好ましく、LiO安定化β”-アルミナ(Na1.7Li0.3Al10.717)またはMgO安定化β”-アルミナ((Al10.32Mg0.6816)(Na1.68O))を用いることがより好ましい。
【0043】
NASICON結晶としては、NaZrSiPO12、Na3.2Zr1.3Si2.20.710.5、NaZr1.6Ti0.4SiPO12、NaHfSiPO12、Na3.4Zr0.9Hf1.4Al0.6Si1.21.812、NaZr1.7Nb0.24SiPO12、Na3.6Ti0.20.7Si2.8、NaZr1.880.12SiPO12、Na3.12Zr1.880.12SiPO12、Na3.6Zr0.13Yb1.67Si0.112.912等が挙げられ、特にNa3.12Zr1.880.12SiPO12がナトリウムイオン伝導性に優れるため好ましい。
【0044】
固体電解質粉末の平均粒子径は、0.05μm以上、3μm以下であることが好ましく、0.05μm以上、1.8μm未満であることがより好ましく、0.05μm以上、1.5μm以下であることがさらに好ましく、0.1μm以上、1.2μm以下であることが特に好ましく、0.1μm以上、0.7μm以下であることが最も好ましい。固体電解質粉末の平均粒子径が小さすぎると、正極活物質前駆体粉末とともに均一に混合することが困難となるだけでなく、吸湿や炭酸塩化することによりイオン伝導性が低下したり、正極活物質前駆体粉末との過剰反応を助長する恐れがある。その結果、正極材料層の内部抵抗が高くなり、電圧特性及び充放電容量が低下する傾向にある。一方、固体電解質粉末の平均粒子径が大きすぎると、正極活物質前駆体粉末の軟化流動を著しく阻害するため、得られる正極層2の平滑性に劣って機械的強度が低下したり、内部抵抗が大きくなる傾向がある。
【0045】
固体電解質粉末の平均粒子径を小さくすると、緻密な正極層を得ることができるが、この場合、固体電解質粉末の比表面積が大きくなるため、ペースト化する際にバインダーの添加量を増やす必要がある。しかしながら、焼成時にバインダーは揮発するため、正極材料層内の空隙が多くなることから、正極材料層の体積収縮がより生じ易くなる。その結果、正極層の固体電解質層からの剥離がより生じ易くなる。本実施形態の製造方法では、固体電解質層1上に形成された正極材料層2Aを加圧しながら、焼成するので、固体電解質粉末の平均粒子径を小さくした場合においても、焼成により得られる正極層2が固体電解質層1から剥離し難い。
【0046】
なお、固体電解質層1は上記固体電解質粉末と同様の材料から構成されていることが好ましい。固体電解質層1は、原料粉末を混合し、混合した原料粉末を成形した後、焼成することにより製造することができる。例えば、原料粉末をスラリー化してグリーンシートを作製した後、グリーンシートを焼成することにより製造することができる。また、ゾルゲル法により製造してもよい。
【0047】
導電助剤;
導電助剤は、正極材料中において導電パスを形成する成分である。導電助剤としては、例えば、導電性炭素を用いることができる。導電性炭素としては、アセチレンブラックやケッチェンブラックといった高導電性カーボンブラック等の粉末状または繊維状の導電性炭素が好ましい。導電性炭素を添加する場合、正極活物質前駆体粉末を粉砕する際に添加することが好ましい。導電性炭素は粉砕助剤の役割を果たし、正極活物質前駆体粉末と均質に混合することが可能となるだけでなく、焼成時の正極活物質前駆体粉末粒子同士の過剰な融着を抑制し、導電性が確保されやすくなり、急速充放電特性が向上しやすくなる。
【0048】
バインダー;
バインダーは、原料(原料粉末)同士を一体化させるための材料である。バインダーとしては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体またはポリビニルアルコール等の水溶性高分子;熱硬化性ポリイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;ポリプロピレンカーボネート等のポリカーボネート系樹脂;ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。
【0049】
原料の構成;
固形原料は、質量%で、正極活物質前駆体粉末 30%~100%、固体電解質粉末 0%~70%、及び導電性炭素 0%~20%を含有することが好ましく、正極活物質前駆体粉末 44.5%~94.5%、固体電解質粉末 5%~55%、及び、導電性炭素 0.5%~15%を含有することがより好ましく、正極活物質前駆体粉末 50%~92%、固体電解質粉末 7%~50%、及び導電性炭素 1%~10%を含有することがさらに好ましい。正極活物質前駆体粉末の含有量が少なすぎると、正極材料中の充放電に伴ってナトリウムイオンを吸蔵または放出する成分が少なくなるため、蓄電デバイスの充放電容量が低下する傾向にある。導電性炭素または固体電解質粉末の含有量が多すぎると、正極活物質前駆体粉末の結着性が低下して内部抵抗が高くなるため、電圧特性や充放電容量が低下する傾向にある。
【0050】
また、バインダーの含有量は、固形原料100質量部に対して、1質量部~50質量部であることが好ましく、5質量部~40質量部であることがより好ましい。バインダーの含有量が少なすぎると、固形原料の結着性が不足して、正極材料層2Aの乾燥時にクラックが生じたり、固体電解質層1から剥離が生じたりする。バインダーの含有量が多すぎると、上述したように焼成時にバインダーが揮発するため、正極材料層2A内の空隙が多くなりやすく体積収縮が起こり易くなる。しかしながら、本実施形態の製造方法では、固体電解質層1上に形成された正極材料層2Aを加圧しながら、焼成するので、バインダーの含有量を多くした場合においても焼成により得られる正極層2が固体電解質層1から剥離し難い。
【0051】
原料の混合に際しては、例えば、自転公転ミキサー、タンブラー混合機等の混合器や、乳鉢、らいかい機、ボールミル、アトライター、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、ビーズミル等の一般的な粉砕機を用いることができる。
【0052】
また、スラリーの乾燥温度としては、特に限定されないが、例えば、30℃以上、100℃以下とすることができる。また、スラリーの乾燥時間としては、特に限定されないが、例えば、10分以上、600分以下とすることができる。
【0053】
(焼成工程)
焼成工程では、固体電解質層1上に形成された正極材料層2Aを加圧しながら、焼成する。本実施形態では、図1(b)に示すように、正極材料層2Aの第2の主面2b上にカーボンシート4を載置し、カーボンシート4上にさらにおもり5を載置する。それによって、正極材料層2Aを加圧しながら、焼成する。なお、正極材料層2Aの第1の主面2aは、固体電解質層1側の主面であり、第2の主面2bは第1の主面2aに対向している主面である。
【0054】
本実施形態では、正極材料層2Aの第2の主面2b全体を加圧する。このように、本発明においては、第2の主面2b全体を加圧することが望ましいが、第2の主面2bの少なくとも一部を加圧すればよく、特に限定されない。
【0055】
また、正極材料層2Aに加える圧力は、好ましくは1kPa以上、より好ましくは5kPa以上、さらに好ましくは10kPa以上である。この場合、焼成により得られる正極層2が固体電解質層1からより一層剥離し難い。なお、正極材料層2Aに加える圧力の上限値は、特に限定されないが、例えば、100MPaとすることができる。
【0056】
焼成時の雰囲気は還元雰囲気であることが好ましい。還元雰囲気としては、H、NH、CO、HS、及びSiHから選ばれる少なくとも1種の還元性ガスを含む雰囲気が挙げられる。なお、正極活物質前駆体粉末中のFeイオンを3価から2価に効率的に還元する観点からは、雰囲気中にH、NH、及びCOから選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましく、Hガスを含有することがより好ましい。なお、Hガスを使用する場合、焼成中における爆発等の危険性を低減するため、N等の不活性ガスを混合することが好ましい。具体的には、還元性ガスが、体積%で、N 90%~99.9%及びH 0.1%~10%を含有することが好ましく、N 90%~99.5%及びH 0.5%~10%を含有することがより好ましく、N 92%~99%及びH 1~8%を含有することがさらに好ましい。
【0057】
焼成温度(最高温度)は、400℃~600℃であることが好ましく、410℃~580℃であることがより好ましく、420℃~575℃であることがさらに好ましく、425℃~560℃であることが特に好ましく、450℃~530℃であることが最も好ましい。焼成温度が低すぎると、正極活物質前駆体粉末の結晶化が不十分となり、残存する非晶質相が高抵抗部となって電圧特性及び充放電容量が低下する傾向にある。一方、焼成温度が高すぎると、正極活物質前駆体粉末同士が過剰に融着し、粗大な粒子が形成されるため、正極活物質の比表面積が小さくなって、充放電特性が低下する傾向にある。また、焼成時に正極活物質前駆体粉末と固体電解質粉末が反応し、充放電に寄与しない結晶(マリサイト型NaFePO結晶等)が析出して充放電容量が低下する恐れがある。あるいは、正極活物質前駆体粉末と固体電解質粉末に含まれる元素が焼成時に相互に拡散することで、部分的に高抵抗層が形成され、蓄電デバイスである全固体電池のレート特性が低下する場合がある。
【0058】
焼成時間(焼成時における最高温度での保持時間)は3時間未満であることが好ましく、2時間以下であることがより好ましく、1時間以下であることがさらに好ましく、45分以下であることが特に好ましく、30分以下であることが最も好ましい。焼成時間が長すぎると、正極活物質前駆体粉末同士が過剰に融着し、粗大な粒子が形成されやすくなり、正極活物質の比表面積が小さくなって、充放電特性が低下する傾向にある。また、全固体電池の場合は、焼成時に正極活物質前駆体粉末と固体電解質粉末が反応し、充放電に寄与しない結晶(マリサイト型NaFePO結晶等)が析出して充放電容量が低下する恐れがある。あるいは、正極活物質前駆体粉末と固体電解質粉末に含まれる元素が焼成時に相互に拡散することで、部分的に高抵抗層が形成され、全固体電池のレート特性が低下する場合がある。一方、焼成時間が短すぎると、正極活物質前駆体粉末の結晶化が不十分となり、残存する非晶質相が高抵抗部となって電圧特性及び充放電容量が低下する傾向にある。そのため、焼成時間は1分以上であることが好ましく、5分以上であることがより好ましい。
【0059】
焼成には、電気加熱炉、ロータリーキルン、マイクロ波加熱炉、高周波加熱炉等を用いることができる。
【0060】
(負極層形成工程)
負極層3は、例えば、負極活物質前駆体粉末に、必要に応じて、固体電解質粉末及び/または導電助剤を含むスラリーを用いて作製することができる。スラリーには、必要に応じて、バインダー、可塑剤、溶剤等が添加される。スラリーを固体電解質層1の第2の主面1b上に塗布した後、乾燥し、これを焼成することにより、負極層3を作製することができる。また、スラリーをPET(ポリエチレンテレフタレート)等の基材の上に塗布した後乾燥し、グリーンシートを作製し、このグリーンシートを焼成することにより作製してもよい。あるいは、負極層3は金属からなるものであってもよく、この場合はスパッタ法や蒸着法等により負極層3を形成することができる。
【0061】
(他の実施形態)
なお、上記実施形態では、ナトリウムイオン伝導性を有する材料を用いた全固体ナトリウムイオン二次電池の製造方法について説明したが、リチウムイオン伝導性を有する材料を用いた全固体リチウムイオン二次電池など他の全固体電池の製造方法に用いてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、正極層2形成時に加圧しながら焼成を行ったが、負極層3形成時に加圧しながら焼成を行ってもよい。また、正極層2及び負極層3の双方の形成時に加圧しながら焼成を行ってもよい。正極層2及び負極層3の双方を同時に焼成してもよい。
【0063】
また、必要に応じて、正極層2及び負極層3上に、それぞれ、集電体層を形成してもよい。
【0064】
集電体層の形成方法としては、特に限定されず、例えば、蒸着又はスパッタリング等の物理的気相法や、熱CVD、MOCVD、プラズマCVD等の化学的気相法が挙げられる。集電体層のその他の形成方法として、メッキ、ゾルゲル法、スピンコートによる液相成膜法が挙げられる。もっとも、集電体層は、正極層2又は負極層3上にスパッタリング法により形成することが、密着性に優れるため好ましい。
【0065】
集電体層の材料としては、特に限定されないが、アルミニウム、チタン、銀、銅、ステンレス鋼又はこれらの合金などの金属材料を用いることができる。上記金属材料は、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。なお、これらの合金とは、少なくとも1種の上記金属を含む合金である。
【0066】
[全固体電池]
図2に示すように、全固体電池10は、固体電解質層1、正極層2、及び負極層3を備える。固体電解質層1は、対向している第1の主面1a及び第2の主面1bを有している。固体電解質層1の第1の主面1a上に、正極層2が設けられている。これにより、蓄電デバイス用部材6が構成されている。また、固体電解質層1の第2の主面1b上に、負極層3が設けられている。
【0067】
正極層2は、平均粒子径が0.01μm以上、0.7μm未満である正極活物質前駆体粉末を含む正極材料層の焼結体からなる。そのため、緻密な正極層2となる。よって、エネルギー密度を高めることができ、それによって全固体電池10が高容量化されている。なお、その他の点は、上述の製造方法の欄で説明したものを用いることができる。
【0068】
正極層2に含まれる正極活物質としては特に限定されないが、NaCrO、Na0.7MnO、NaFe0.2Mn0.4Ni0.4等の層状ナトリウム遷移金属酸化物結晶やNaFeP、NaFePO、Na(PO等の、Na、M(MはCr、Fe、Mn、Co及びNiから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素)、P、Oを含むナトリウム遷移金属リン酸塩結晶等の活物質結晶を挙げることができる。
【0069】
特に、Na、M、P及びOを含む結晶は、高容量で化学的安定性に優れるため好ましい。なかでも、空間群P1またはP-1に属する三斜晶系結晶、特に一般式Na(MはFe、Cr、Mn、Co及びNiから選択される少なくとも1種以上の遷移金属元素、1.20≦x≦2.10、0.95≦y≦1.60)で表される結晶が、サイクル特性に優れるため好ましい。
【0070】
正極層2の厚みは、20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることがさらに好ましく、100μm以上であることが特に好ましく、120μm以上であることが最も好ましい。この場合、全固体電池10をより一層高容量化することができる。他方、正極層2の厚みが厚すぎると、電子伝導に対する抵抗が大きくなり放電容量及び作動電圧が低下することがあるほか、焼成時の収縮による応力が大きくなり剥離につながることがあるため、150μm以下であることが好ましい。
【0071】
また、正極層2に含まれる正極活物質の担持量は、好ましくは3mg/cm以上、より好ましくは5mg/cm以上、さらに好ましくは7mg/cm以上、特に好ましくは9mg/cm以上、最も好ましくは12mg/cm以上である。この場合、全固体電池10をより一層高容量化することができる。なお、正極活物質の担持量の上限値は、特に限定されないが、例えば、100mg/cmとすることができる。
【0072】
なお、固体電解質層1及び負極層3は、上述の製造方法で製造した固体電解質層1及び負極層3と同じものを用いることができる。
【0073】
固体電解質層1の厚みは、5μm~1500μmの範囲であることが好ましく、20μm~200μmの範囲であることがより好ましい。固体電解質層1の厚みが薄すぎると、機械的強度が低下して破損しやすくなるため、内部短絡が起こりやすくなる。固体電解質層1の厚みが厚すぎると、充放電に伴うナトリウムイオン伝導距離が長くなるため内部抵抗が高くなり、放電容量及び作動電圧が低下しやすくなる。また、全固体電池10の単位体積当たりのエネルギー密度も低下しやすくなる。
【0074】
負極活物質としては、Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶、Sn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種の金属結晶等の活物質結晶を挙げることができる。
【0075】
Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶は、サイクル特性に優れるため好ましい。さらに、Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶が、Na及び/またはLiを含むと、充放電効率(充電容量に対する放電容量の比率)が高まり、高い充放電容量を維持することができるため好ましい。なかでも、Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶が、斜方晶系結晶、六方晶系結晶、立方晶系結晶または単斜晶系結晶、特に空間群P21/mに属する単斜晶系結晶であれば、大電流で充放電しても容量の低下が起こりにくいため好ましい。斜方晶系結晶としては、NaTi等が、六方晶系結晶としては、NaTiO、NaTi13、NaTiO、LiNbO、LiNbO、LiNbO、LiNbO、LiTi等が、立方晶系結晶としては、NaTiO、NaNbO、LiTi12、LiNbO等が、単斜晶系結晶としては、NaTi13、NaTi、NaTiO、NaTi12、NaTi、NaTi19、NaTi、NaTi、Li1.7Nb、Li1.9Nb、Li12Nb1333、LiNb等が、空間群P21/mに属する単斜晶系結晶としては、NaTi等が挙げられる。
【0076】
Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶は、さらに、B、Si、P及びGeから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの成分は、活物質結晶とともに非晶質相を形成させやすくし、ナトリウムイオン伝導性を向上させる効果を有する。
【0077】
その他に、Sn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種の金属結晶、またはSn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種を含有するガラスを使用することができる。これらは、高容量であり、大電流で充放電しても容量の低下が起こりにくいため好ましい。
【0078】
負極層3の厚みは、0.3μm~300μmの範囲であることが好ましく、3μm~150μmの範囲であることがより好ましい。負極層3の厚みが薄すぎると、負極の絶対容量(mAh)が低下する傾向にある。負極層3の厚みが厚すぎると、抵抗が大きくなるため容量(mAh/g)が低下する傾向にある。
【0079】
なお、上記実施形態では、ナトリウムイオン伝導性を有する材料を用いた全固体ナトリウムイオン二次電池について説明したが、リチウムイオン伝導性を有する材料を用いた全固体リチウムイオン二次電池など他の全固体電池に用いてもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、平均粒子径が0.01μm以上、0.7μm未満である正極活物質前駆体粉末を含む正極材料層2Aの焼結体からなる正極層2を用いたが、平均粒子径が0.01μm以上、0.7μm未満であり、好ましくは0.05μm以上、0.6μm以下である負極活物質前駆体粉末を含む負極材料層の焼結体からなる負極層3を用いてもよい。この場合、負極層3の厚みや負極活物質の担持量は、上述の正極層2の厚みや正極活物質の担持量を採用してもよい。なお、正極層2及び負極層3の双方がこれらの構成を備えていてもよい。
【0081】
また、必要に応じて、正極層2及び負極層3上に、それぞれ、上述の製造方法の欄で説明した集電体層が設けられていてもよい。
【0082】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0083】
(実施例1~11、参考例1~2)
(a)正極活物質前駆体粉末の作製
メタリン酸ソーダ(NaPO)、酸化第二鉄(Fe)及びオルソリン酸(HPO)を原料とし、モル%で、NaO 40%、Fe 20%、及びP 40%の組成となるように原料粉末を調合し、1250℃にて45分間、大気雰囲気中にて溶融を行った。その後、溶融物を一対の回転ローラー間に流し出し、急冷しながら成形し、厚み0.1mm~2mmのフィルム状のガラスを得た。得られたフィルム状ガラスに対し、ボールミル及び遊星ボールミルでの粉砕を行うことにより、表1に示す平均粒子径を有するガラス粉末(正極活物質前駆体粉末)を得た。なお、粉末X線回折(XRD)測定の結果、得られたガラス粉末は非晶質であることが確認された。
【0084】
(b)固体電解質層及び固体電解質粉末の作製
LiO安定化β”アルミナ(Ionotec社製、組成式:Na1.7Li0.3Al10.717)を厚み0.5mmのシート状に加工することにより固体電解質層を得た。また、シート状のLiO安定化β”アルミナをボールミル及び遊星ボールミルで粉砕することにより、平均粒子径が0.4μmである固体電解質粉末を得た。
【0085】
(c)試験電池の作製
実施例1~11、参考例1~2では、上記で得られた正極活物質前駆体粉末、固体電解質粉末、さらに導電性炭素としてのアセチレンブラック(TIMCAL社製、SUPER C65)をそれぞれ下記の表1に記載の割合となるようにそれぞれ秤量し、メノウ製の乳鉢及び乳棒を用いて、30分間混合した。混合した粉末100質量部に、20質量部のポリプロピレンカーボネートを添加し、さらにN-メチルピロリドンを30質量部添加して、自転・公転ミキサーを用いて十分に撹拌し、スラリー化した。
【0086】
得られたスラリーを、上記で得られた固体電解質層の一方の表面に、面積1cm、厚さ80μmで塗布し、70℃で3時間乾燥させ、正極材料層を形成した。なお、実施例1~11では、それぞれ、形成した正極材料層の上にカーボンシート(20mm×20mm×0.5mm)を載置し、さらにその上に表1に示す圧力で加圧されるようにおもりを載置した。他方、参考例1~2では、おもりを載置しなかった。
【0087】
この状態で、H 4体積%及びN 96体積%の混合ガス中において、525℃で30分間焼成することにより、固体電解質層の一方の表面に正極層を形成し、蓄電デバイス用部材を作製した。なお、上記の操作はすべて露点-40℃以下の環境で行った。また、正極活物質の担持量(活物質担持量)は、下記の表1に示す通りである。また電極層の厚みはマイクロメーターで測定した。
【0088】
得られた正極層について粉末X線回折パターンを確認したところ、全てNaFeP結晶が確認された。なお、いずれの正極層においても、使用した固体電解質粉末に由来する結晶性回折線が確認された。
【0089】
図3は、実施例5で得られた正極層の平面視における写真である。また、図4は、参考例2で得られた正極層の平面視における写真である。
【0090】
図3から明らかなように、実施例5では、正極活物質の担持量が多いにも関わらず、焼成により得られる正極層が固体電解質層から剥離していないことがわかる。なお、図示していないが、同様に、実施例1~4,6~11においても、焼成により得られる正極層が固体電解質層から剥離していないことが確認された。他方、図4から明らかなように、参考例2では、焼成により得られる正極層が固体電解質層から剥離していることが確認された。
【0091】
次に、得られた正極層の表面にスパッタ装置(サンユー電子社製、品番「SC-701AT」)を用いて厚さ300nmの金電極からなる集電体を形成した。その後、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中にて、対極となる金属ナトリウムを固体電解質層の他方の表面に圧着し、コインセルの下蓋の上に載置した後、上蓋を被せてCR2032型試験電池を作製した。
【0092】
(d)充放電試験
作製した試験電池について30℃で充放電試験を行い、電池容量を測定した。結果を表1に示す。なお、充放電試験において、Cレートは0.1Cとした。
【0093】
【表1】
【0094】
表1から明らかなように、実施例1~11では、正極活物質の担持量に関わらず、充放電が可能であることがわかる。従って、正極活物質の担持量が多い実施例2や実施例5~7では、電池容量が高められていることがわかる。他方、参考例2では、充放電できないことが確認された。
【符号の説明】
【0095】
1…固体電解質層
1a,2a…第1の主面
1b,2b…第2の主面
2A…正極材料層
2…正極層
3…負極層
4…カーボンシート
5…おもり
6…蓄電デバイス用部材
10…全固体電池
図1
図2
図3
図4