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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】断熱性保持積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/027 20190101AFI20241203BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241203BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20241203BHJP
   F16L 59/065 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
B32B7/027
B32B27/00 H
B32B27/32 Z
F16L59/065
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020165505
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057320
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】竹内 直也
(72)【発明者】
【氏名】山本 和記
(72)【発明者】
【氏名】常田 洋貴
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-189220(JP,A)
【文献】特開2012-198101(JP,A)
【文献】特開2015-092106(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104650(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/057960(WO,A1)
【文献】特開2020-085180(JP,A)
【文献】特開2019-064635(JP,A)
【文献】特開2019-177920(JP,A)
【文献】特開2019-064633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
F16L 59/00-59/22
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空断熱パネル用の断熱性保持積層体であって、
該断熱性保持積層体は、ガスバリア基材層と、低ガス放出性シーラント層とを有し、
該低ガス放出性シーラント層は、ヒートシール性を有する低ガス放出性樹脂を含有し、
該低ガス放出性樹脂は、ポリエチレン系樹脂であり、密度が0.915g/cm以上、0.935g/cm以下であり、
該低ガス放出性樹脂からなるフィルムに含まれる溶出性の全有機体炭素(TOC)の濃度は、1.5ppm以上、250ppm以下であり、
前記低ガス放出性シーラント層が、低ガス放出性シーラントフィルムからなる層であり、
前記低ガス放出性シーラントフィルムは、空気中で90℃60分間加熱した際に放出される炭素数16の有機ガス成分の、前記低ガス放出性シーラントフィルム単位体積当たりの量が、10μg/cm以上、1000μg/cm以下である
ことを特徴とする、断熱性保持積層体。
【請求項2】
前記低ガス放出性樹脂の含有量が、全低ガス放出性シーラント層中に、70質量%以上、99.9質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の断熱性保持積層体。
【請求項3】
前記低ガス放出性樹脂が、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン及び線状低密度ポリエチレンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする、請求項1または2に記載の断熱性保持積層体。
【請求項4】
前記低ガス放出性シーラント層は、酸化防止剤をさらに含有することを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の断熱性保持積層体。
【請求項5】
前記酸化防止剤の含有量が、全低ガス放出性シーラント層中に、0.005質量%以上、0.5質量%以下であることを特徴とする、請求項に記載の断熱性保持積層体。
【請求項6】
請求項1~の何れか1項に記載の断熱性保持積層体を用いて作製された、真空断熱パネル用の断熱性保持包装材料。
【請求項7】
請求項に記載の断熱性保持包装材料を用いて作製された、真空断熱パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シーラント層それ自体から発生するガス放出量が少ないシーラント層を有する真空断熱パネル外包材用の断熱性保持積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
真空断熱パネルは、芯材が配置された内部構造を外包材によって密封した構成であり、真空断熱パネルの内部は、大気圧よりも圧力が非常に低く、真空に近い減圧状態に保持されている。
真空断熱パネルの内部が減圧状態によって熱対流が抑制されているため、真空断熱パネルは良好な厚み方向の断熱性能を発揮することが可能であり、真空断熱パネルの単位厚み当たりの断熱性能は、一般的な発泡断熱材よりも高い。そして、断熱効率が高いことから、真空断熱パネルは、所望の断熱性を確保しつつ、真空断熱パネルの厚みを薄くすることができる。
したがって、真空断熱パネルを用いて断熱容器を作製することによって、断熱容器の軽量化や省スペース化を図ることが可能になる。
しかしながら、真空断熱パネルは、破損または経時劣化によって内部の気圧が上昇して、減圧状態が損なわれた場合には、断熱性能が急激に低下してしまう。
従来、外包材起因の経時劣化による内部気圧の上昇の理由としては、空気が外包材を透過することによる空気の侵入が挙げられ、外包材のガスバリア性を高める為に、外包材に7~15μm程度の厚さの金属アルミニウム箔をガスバリア層として有する積層フィルムが主として用いられてきたり、各種無機物の蒸着膜や塗布膜からなる層をさらに有する積層フィルムが提案されたりしている(特許文献1)が、長期的に安定した断熱性を維持するという点においては不十分であった。
包装材料のシーラント層に合成ゼオライト等の多孔体を含有させてガス成分を吸着することによって包装体内部の真空度を維持する手法も提案されているが(特許文献2)、吸着するガスの種類が限定的であったり、シーラント層を構成している樹脂の耐熱性が低かったり、アウトガス発生量が多かったりして、長期的に安定した断熱効果を維持するという点においては不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-087176号公報
【文献】特開2018-189220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、シーラント層それ自体から発生するガス放出量が少ないシーラント層を有し、経時劣化による真空断熱パネル内部の内部減圧状態の気圧上昇を抑制して、真空断熱パネルの厚さ方向の熱伝導率の上昇を抑制する真空断熱パネル外包材用の断熱性保持積層体、断熱性保持包装材料、真空断熱パネルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、種々検討の結果、少なくとも、ガス放出量が少ない断熱性保持積層体が、上記の目的を達成することを見出した。
すなわち、本発明は、以下の点を特徴とする。
1.真空断熱パネル用の断熱性保持積層体であって、
該断熱性保持積層体は、ガスバリア基材層と、低ガス放出性シーラント層とを有し、
該低ガス放出性シーラント層は、ヒートシール性を有する低ガス放出性樹脂を含有し、
該低ガス放出性樹脂は、密度が0.915g/cm3以上、0.935g/cm3以下であることを特徴とする、断熱性保持積層体。
2.前記低ガス放出性樹脂の含有量が、全低ガス放出性シーラント層中に、70質量%以上、99.9質量%以下であることを特徴とする、上記1に記載の断熱性保持積層体。
3.前記低ガス放出性樹脂は、ポリエチレン系樹脂であることを特徴とする、上記1又は2に記載の断熱性保持積層体。
4.前記低ガス放出性樹脂からなるフィルムに含まれる、溶出性の全有機体炭素(TOC)の濃度は、1.5ppm以上、250ppm以下であることを特徴とする、上記1~3のいずれか1項に記載の断熱性保持積層体。
5.前記低ガス放出性樹脂が、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン及び線状低密度ポリエチレンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする、上記1~4のいずれか1項に記載の断熱性保持積層体。
6.前記低ガス放出性シーラント層は、酸化防止剤をさらに含有することを特徴とする、上記1~5のいずれか1項に記載の断熱性保持積層体。
7.前記酸化防止剤の含有量が、全低ガス放出性シーラント層中に、0.005質量%以上、0.5質量%以下であることを特徴とする、上記5に記載の断熱性保持積層体。
8.前記低ガス放出性シーラント層が、低ガス放出性シーラントフィルムからなる層であることを特徴とする、上記1~7のいずれか1項に記載の断熱性保持積層体。
9.前記低ガス放出性シーラントフィルムは、空気中で90℃60分間加熱した際に放出される炭素数16の有機ガス成分の、前記低ガス放出性シーラントフィルム単位体積当たりの量が、10μg/cm3以上、1000μg/cm3以下であることを特徴とする、上記8に記載の断熱性保持積層体。
10.上記1~9の何れか1項に記載の断熱性保持積層体を用いて作製された、真空断熱パネル用の断熱性保持包装材料。
11.上記10に記載の断熱性保持包装材料を用いて作製された、真空断熱パネル。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、シーラント層それ自体から発生するガス放出量が少ないシーラント層を有し、経時劣化による真空断熱パネル内部の内部減圧状態の気圧上昇を抑制して、真空断熱パネルの厚さ方向の熱伝導率の上昇を抑制する真空断熱パネル外包材用の断熱性保持積層体、断熱性保持包装材料、断熱性保持包装体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の断熱性保持積層体または断熱性保持包装材料の層構成の一例を示す概略的断面図である。
図2】本発明の断熱性保持積層体または断熱性保持包装材料の層構成の、別態様の一例を示す概略的断面図である。
図3】本発明の断熱性保持積層体または断熱性保持包装材料の層構成の、また別態様の一例を示す概略的断面図である。
図4】本発明の断熱性保持包装体(真空断熱パネル)の構成の一例を示す概略的断面図である。
【0008】
各図においては、解り易くする為に、部材の大きさや比率を変更または誇張して記載することがある。また、見易さの為に説明上不要な部分や繰り返しとなる符号は省略することがある。
また、各図においては省略されているが、各層の間に接着層を設けることもできる。
さらに、必要に応じて、各層間の接着強度(密着強度)を強固にするために、各層の積層面に、コロナ放電処理、オゾン処理、プラズマ処理、グロー放電処理、サンドブラスト
処理等、などの物理的な表面処理や、化学薬品を用いた酸化処理などの化学的な表面処理を予め施しておくこともできる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の断熱性保持積層体、断熱性保持包装材料、断熱性保持包装体について、以下に更に詳しく説明する。具体例を示しながら説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、本発明においては、フィルムとシートとは、同義として扱う。
【0010】
≪断熱性保持積層体≫
本発明の断熱性保持積層体は、真空断熱パネルの外包材に用いられる積層体であり、ガスバリア基材層と、低ガス放出性シーラント層とを有する層構成である。
低ガス放出性シーラント層は、低ガス放出性樹脂を含有し、該低ガス放出性樹脂は、ヒートシール性を有する低ガス放出性樹脂であることが好ましい。
【0011】
真空断熱パネル内部は、用途にもよるが、0.1~100Paに減圧されていることが多い。本発明の断熱性保持積層体によって包装された真空断熱パネルは、長期間に亘って、内部の気圧が減圧状態に維持されることによって厚さ方向の断熱性が維持される。
真空断熱パネルにおける断熱維持性は、例えば、真空断熱パネルの100℃環境下で1000時間保管後の熱伝導率の上昇が、0mW/mK以上、7.0mW/mK以下であることが好ましく、0mW/mK以上、6.5mW/mK以下であることがより好ましい。熱伝導率の上昇が無いことが最も好ましく、上記範囲を超えるものは長期間に亘る実用性に劣り易い。
【0012】
真空断熱パネル内部の減圧状態を維持する為には、真空断熱パネル内部の気体分子の増加を抑制することが必要であり、その為には、真空断熱パネルの外包材自身から放出されるガスの量、外包材の厚さ方向に透過して真空断熱パネル内部に侵入するガスの量、外包材のヒートシール等による接合部分界面を伝わって真空断熱パネル内部に侵入するガスの量等を抑制する必要がある。
【0013】
真空断熱パネル内部に外包材自身から放出されるガスは、外包材のシーラント層から放出される量が多く、外包材のヒートシール等による接合部分界面はヒートシール層が存在し、また、真空断熱パネル内部空間にはシーラント層が接している。
よって、本発明の断熱性保持積層体のシーラント層は、低ガス放出性シーラント層であり、それ自体から発生するガス量が少なく、ヒートシール性に優れることによって、接合部分界面を伝わって真空断熱パネル内部に侵入するガスの真空断熱パネル内部への到達を抑制して、真空断熱パネル内部の気圧の上昇を抑制し、減圧状態を維持して、断熱性を維持することができる。
【0014】
本発明の断熱性保持積層体のガス放出性は、断熱性保持積層体を構成する低ガス放出性シーラント層のガス放出性が支配的要因であり、低ガス放出性シーラント層を形成する低ガス放出性シーラントフィルムのガス放出性を測定することで知ることができる。
例えば、低ガス放出性シーラントフィルムを50mm×10mmにカットして得た2枚の短冊状フィルムを試験管に入れて90℃で60分間加熱し、試験管中の空気を採取して、ガスクロマトグラフィーによって、採取した空気中の各炭素数の有機ガス成分の濃度を測定し、低ガス放出性シーラントフィルムが加熱時に放出した有機ガス成分量を算出することができる。
有機ガス成分の中でも、特にC16ガス成分(炭素数16の有機ガス成分)の量が、低ガス放出性着シーラントフィルムから形成されたシーラント層を有する断熱性保持包装材料を用いて作製された真空断熱パネルにおける熱伝導性と相関性が高い。
【0015】
上記の方法で求められる、低ガス放出性シーラントフィルムを加熱した際に放出されるC16ガス成分の、低ガス放出性シーラントフィルム単位体積当たりの量は、10μg/cm3以上、1000μg/cm3以下であることが好ましい。
【0016】
(放出されるガス)
本発明の断熱性保持積層体から放出されるガス成分は、主に、本発明の断熱性保持積層体(特に低ガス放出性シーラント層)が元から含有しているガス成分や、ヒートシール等の加熱や、UVまたはEB等の照射によって断熱性保持積層体中の樹脂が分解することで発生した樹脂分解物からなるガス成分や、大気中に存在するガス成分である。
ここで、断熱性保持積層体が元から含有しているガス成分としては、断熱性保持積層体(特に低ガス放出性シーラント層)を構成する原材料が含有していたガス成分、および断熱性保持積層体を形成する際の熱履歴等によって発生したガス成分や、断熱性保持積層体をヒートシールする際に発生したガス成分等が挙げられる。
【0017】
具体的に放出されるガス成分としては、低分子量の有機物、二酸化炭素が挙げられる。
有機物は、断熱性保持積層体に由来するガス成分であり、ガス成分の化合物としては、炭素数が1~16のものが多く、種類としては炭化水素類が最も多く、他に、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類等が挙げられる。
【0018】
炭化水素類の具体的な化合物としては、プロパン、プロペン、ブタン、イソブタン、2-メチルブタン、ブテン、イソブテン、2-メチルペンタン、3-エチルペンタン、2,2-ジメチルペンタン、3,3-ジメチルペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン、ヘプタン、2-メチルヘプタン、3-メチルヘプタン、3-エチルヘプタン、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン、3-エチル-3-メチルヘプタン、3-メチルヘプテン、オクタン、2-メチルオクタン、4-エチルオクタン、ノナン、3-メチルノナン、デカン、ドデカン等が挙げられる。
【0019】
アルコール類の具体的な化合物としては、2-メチル-2-プロパノール、2-メチルプロパノール、エタノール、1-プロパノール等が挙げられる。
【0020】
アルデヒド類の具体的な化合物としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、2-メチルプロパナール、3-メチルブタナール等が挙げられる。
【0021】
ケトン類の具体的な化合物としては、アセトン、MEK、MIBK、3,3-ジメチルー2-ブタノン等が挙げられる。
【0022】
カルボン酸類の具体的な化合物としては、酢酸、イソ吉草酸、2-メチルプロパン酸、2,2-ジメチルプロパン酸等が挙げられる。
【0023】
エステル類の具体例な化合物として、酢酸エチル、酢酸ブチル、等が挙げられる。
【0024】
二酸化炭素は大気成分に由来し、アルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類、アルコール類は低ガス放出性シーラントフィルムまたは断熱性保持積層体の熱履歴及び大気成分に由来し、エステル類は接着層に由来する。
【0025】
<ガスバリア基材層>
本発明におけるガスバリア基材層とは、ガスバリア性を有する基材層のことであり、ガスバリア性と基材としての性質とを有するガスバリア性樹脂フィルム等の1層で構成され
ていてもよく、ガスバリア層と基材層とを含む多層構成であってもよい。
また、ガスバリア基材層を構成する各層間または他層との間には、接着性を向上させるために、接着層を設けたり、各層の表面に、必要に応じて、予め、所望の表面処理層を設けたりすることができる。
【0026】
例えば、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガスまたは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品等を用いたる酸化処理等の前処理を任意に施して、コロナ処理層、オゾン処理層、プラズマ処理層、酸化処理層等を形成して設けることができる。
【0027】
或いは、各層の表面に、プライマーコート剤層、アンダーコート剤層、アンカーコート剤層、接着層、蒸着アンカーコート剤層等の各種コート剤層を任意に形成して、表面処理層とすることもできる。
上記の各種コート剤層には、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエチレンもしくはポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂またはその共重合体ないし変性樹脂、セルロース系樹脂等をビヒクルの主成分とする樹脂組成物を用いることができる。
ガスバリア基材層の厚さは、5μm以上、100μm以下が好ましく、7μm以上、75μm以下がより好ましい。上記範囲未満であると、剛性および/またはガスバリア性が不十分になる虞があり、上記範囲を超えると、剛性が強くなり過ぎて作業性が低下する虞がある。
【0028】
[基材層]
基材層には、樹脂フィルムや紙材等を用いることができ、1層で構成されていてもよく、組成が同一または異なる2層以上を含む多層構成であってもよい。
【0029】
基材層の厚さは、素材にもよるが、樹脂フィルムの場合には、好ましくは15μm以上、60μm以下、より好ましくは7μm以上、45μm以下である。
基材層に用いられる樹脂フィルムには、熱可塑性樹脂をフィルム化したものを用いることができ、化学的または物理的強度に優れ、金属や金属酸化物の蒸着膜を形成する条件に耐え、それらの蒸着膜の特性を損なうことなく良好に保持し得ることができる熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0030】
このような樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂等の各種の樹脂が挙げられる。
本発明においては、樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、ポリプロピレン(PP)が好ましい。
【0031】
本発明において、基材層に用いられる熱可塑性樹脂は、各種製膜法でフィルム化することができる。
例えば、1種の樹脂を使用して、押し出し法、キャスト成形法、Tダイ法、切削法、インフレーション法等の製膜化法を用いて製膜する方法、2種以上の樹脂を使用して多層共押し出し製膜する方法、2種以上の樹脂を製膜する前に混合して上記製膜法で製膜する方
法、等が挙げられる。さらに、テンター方式やチューブラー方式等を利用して1軸または2軸方向に延伸したフィルムとすることができる。
【0032】
または、他の樹脂フィルム上に、1種または2種以上の樹脂を、塗布及び乾燥してコーティングしたり、Tダイ法等によって溶融した樹脂を積層したりすることもできる。
本発明においては、樹脂フィルムとしては、二軸延伸PETフィルム、二軸延伸ナイロンフィルム、二軸延伸PPフィルムまたはシートが好ましく用いられる。
【0033】
なお、樹脂フィルムには、その製膜化に際して、例えば、フィルムの加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離形性、難燃性、抗カビ性、電気的特性、強度等を改良、改質する目的で、種々のプラスチック配合剤や添加剤等を添加することができ、その添加量としては、極微量から数十%まで、その目的に応じて、任意に添加することができる。
上記において、一般的な添加剤としては、例えば、滑剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、補強剤、帯電防止剤、顔料、改質用樹脂等を使用することができる。
【0034】
[ガスバリア層]
ガスバリア層は、本発明の断熱性保持積層体を用いて作製した真空断熱パネルにおいて、真空断熱パネルの外部から内部へと、大気中のガスが断熱性保持積層体を透過して来るのを抑制する層である。
ガスバリア層には、ガスバリア性樹脂フィルム、金属箔、金属または金属酸化物蒸着層付き樹脂フィルム、ガスバリア性樹脂塗膜からなる群から選ばれる1種または2種以上の組み合わせを用いることができる。
【0035】
ガスバリア性樹脂フィルムとしては、例えば、PET、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体等の樹脂からなる樹脂フィルムが好ましい。
【0036】
金属箔としては、厚さが3μm以上、15μm以下のアルミニウム箔が好ましい。
【0037】
金属または金属酸化物蒸着層付き樹脂フィルムとしては、アルミニウム蒸着膜、シリカ蒸着膜、酸化アルミニウム蒸着膜を、上記の基材樹脂フィルムの少なくともいずれか一方の面上に形成したものが好ましい。商業的にも入手可能な酸化アルミニウム蒸着膜付き樹脂フィルムとしては、例えば、PVD法によりアルミナを片面に蒸着したPETフィルムである、大日本印刷株式会社製のアルミナ蒸着IB-PET-PIR(厚さ12μm)、シリカ蒸着IB-ON-UB(厚さ15μm)が挙げられる。
【0038】
ガスバリア性樹脂塗膜としては、金属アルコキシドと水溶性高分子とから形成されたゾルゲル法加水分解重縮合物を含有する塗膜が好ましい。
【0039】
ガスバリア層用の金属箔、金属または金属酸化物蒸着層付き樹脂フィルムは、ドライラミネート接着剤を用いて、他の層と接着することができる。
あるいは、金属または金属酸化物蒸着層付き樹脂フィルムの樹脂フィルムに、基材層用の樹脂フィルムを用いることで、基材層への積層を省略することもできる。
【0040】
<低ガス放出性シーラント層>
低ガス放出性シーラント層は、ヒートシール性を有する低ガス放出性樹脂を含有する層であり、ヒートシール性を有し、ガス放出性が低い。
低ガス放出性シーラント層は、1層の単層構成であってよく、2層以上の多層構成であ
ってもよい。
例えば、低ガス放出性樹脂を多量に含有して低ガス放出性に優れた低ガス放出層と、ヒートシール性樹脂を多量に含有してヒートシールに優れたヒートシール層とから構成されていてもよく、2つのヒートシール層が低ガス放出層を挟んだ3層構成であってもよい。
【0041】
全低ガス放出性シーラント層中の低ガス放出性樹脂の含有量は、70質量%以上、100質量%以下が好ましく、80質量%以上、99.9質量%以下がより好ましい。上記範囲よりも少ないと、低ガス放出性シーラントの低ガス放出性が不十分になる虞がある。
低ガス放出性シーラント層が低ガス放出層およびヒートシール層等を有する多層構成の場合には、ヒートシール性を高める為に、前記低ガス放出性シーラント層の少なくとも片側の最外層は、ヒートシール層であることが好ましいが、ヒートシール性に優れた低ガス放出性樹脂を用いることによって、低ガス放出性シーラント層が低ガス放出性とヒートシール性の両方に優れた単層構成であることがより好ましい。
また、低ガス放出層に含有される低ガス放出性樹脂と、ヒートシール層に含有される低ガス放出性樹脂とは、同一でもよく、異なっていてもよい。
【0042】
真空断熱パネル内部において、低ガス放出性シーラント層は、真空断熱パネル内部の空間に接し、ヒートシール部の接合界面に存在することから、低ガス放出性シーラント層の厚さを調節して低ガス放出性を調節することができる。
低ガス放出性シーラント層の厚さは、良好なヒートシール性と低ガス放出性とのバランスを有する為に、25μm以上、150μm以下が好ましく、30μm以上、100μm以下がより好ましい。上記範囲よりも薄いとヒートシール性が不十分になる虞があり、上記範囲よりも厚いと低ガス放出性が劣る虞がある。
【0043】
そして、低ガス放出性シーラント層は、スリップ剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、溶剤、その他の添加剤をさらに少量含むことができる。
本発明の低ガス放出性シーラント層は、高温環境下による樹脂劣化由来の放出性ガスの発生を抑制する為に、酸化防止剤を含有することが好ましい。逆に、高温時にガス放出量を上昇させてしまいそうな添加剤の使用は制限することが好ましい。
【0044】
[低ガス放出層]
低ガス放出層は、低ガス放出性樹脂を多量に含有する層である。そして、低ガス放出性を大きく損なわない範囲で、他の樹脂や、酸化防止剤等の各種添加剤をさらに含有することができる。
低ガス放出性シーラント層中に低ガス放出層は、1層または組成が同一あるいは異なる2層以上が含まれていてもよい。
【0045】
低ガス放出層の厚さは、5μm以上、80μm以下が好ましく、7μm以上、75μm以下がより好ましい。上記範囲よりも薄いと低ガス放出層を設けた効果が不十分になる虞があり、上記範囲よりも厚くても、低ガス放出性はさほど向上せず、低ガス放出性シーラント層の剛性が強くなり過ぎて作業性が低下する虞がある。
【0046】
[ヒートシール層]
ヒートシール層はヒートシール性樹脂を含有する層であり、高いヒートシール性を有する層である。ここで、ヒートシール性樹脂は、高いヒートシール性と低ガス放出性とを両立させる為に、ヒートシール性を有する低ガス放出性樹脂であることが好ましい。
しかしながら、ヒートシール性と低ガス放出性を大きく損なわない範囲で、他の樹脂や、酸化防止剤等の各種添加剤を含有することができる。
低ガス放出性シーラント層中にヒートシール層は、1層または組成が同一あるいは異なる2層以上が含まれていてもよい。
【0047】
ヒートシール層の厚さは、良好なヒートシール性を示す為に、3μm以上、30μm以下が好ましく、5μm以上、25μm以下がより好ましい。上記範囲よりも薄いとヒートシール性が不十分になる虞があり、上記範囲よりも厚くても、ヒートシール性はさほど向上せず、低ガス放出性シーラント層の剛性が弱くなり過ぎて作業性が低下する虞がある。
【0048】
[低ガス放出性樹脂]
低ガス放出性樹脂とは、ガスの放出量が少ない樹脂のことであり、ガス放出量は樹脂の形状や熱履歴等によって変化する。
ヒートシール性を有する低ガス放出性樹脂を真空断熱パネル内部空間に接する低ガス放出性シーラント層に含有させることによって、低ガス放出性シーラント層にヒートシール性を付与し、放出されるガス量を低減して、真空断熱パネル内部の気圧上昇を抑制することができる。
低ガス放出性樹脂のガス放出量は、低ガス放出性樹脂に含有される溶出性の全有機体炭素(TOC=Total Organic Carbon)濃度と相関が高い。
TOCは、水中の酸化され得る有機物(有機炭素体)全量の濃度を炭素量の濃度で示したものであり、代表的な水質指標の一つとして用いられているものであって、JIS K0805(有機体炭素(TOC)自動計測器)等で規格化されている。
【0049】
本発明における低ガス放出性樹脂からなるフィルムに含まれる溶出性の全有機体炭素(TOC)の濃度は、1.5ppm以上、250ppm以下が好ましく、5ppm以上、200ppm以下が好ましい。上記範囲よりも少ないものを準備することは困難であり、且つ実用上の効果に有意差を示し難い。上記範囲よりも多いと、低ガス放出性樹脂が不十分になるおそれがある。
【0050】
ここで、単体原料としての低ガス放出性樹脂に関する溶出性のTOCの濃度を、原料ペレット等の状態ではなく、フィルム化された状態で測定する理由は、低ガス放出性樹脂は、低ガス放出性シーラント層形成等の為にフィルム化される際に、様々な熱履歴等を与えられてTOCの溶出量を増加させてしまうことがあるからである。
【0051】
上記の低ガス放出性樹脂からなるフィルムに含まれる溶出性の全有機体炭素(TOC)の濃度は、例えば、本発明における低ガス放出性樹脂からなるフィルムで作製されたパウチ内に、充填水として蒸留水を充填して、有機炭素体を溶出させて、充填水のTOC濃度を測定し、充填前の充填水のTOC濃度をブランクとして差し引いてTOC濃度の増加分を算出し、さらに、低ガス放出性樹脂からなるフィルムに含有されていた溶出性のTOC濃度を算出する。
【0052】
充填水のTOC濃度の増加分は、0.01ppm以上、1.5ppm以下であることが好ましく、0.02ppm以上、1.45ppm以下であることがより好ましく、0.025ppm以上、1.4ppm以下であることが更に好ましい。上記範囲よりも少ないものを準備することは困難であり、且つ実用上の効果に有意差を示し難い。上記範囲よりも多いと、低ガス放出性樹脂の低ガス放出性が不十分になるおそれがある。コストと性能の両立の観点から、上記の範囲であることが好ましい。
【0053】
さらに具体的な条件としては、用途にもよるが、充填時の充填水の温度を40℃~80℃、保管時の温度を25℃~50℃、保管期間を数日~4週間とし、充填水のTOC濃度を全有機体炭素計やHS-GCで測定することが好ましい。
【0054】
本発明においては、低ガス放出性樹脂からなる樹脂フィルムに含まれる溶出性のTOC濃度は、低ガス放出性樹脂からなる樹脂フィルムを用いて作製された内寸15cm×44
cmのパウチに、充填水として65℃1000gの蒸留水(高速液体クロマトグラフィー用蒸留水、純正化学(株)社製)を充填及び封止して、35℃2週間保管後に、該充填水のTOC濃度をTOC-L全有機体炭素計((株)島津製作所社製)で測定することを標準方法として、低ガス放出性樹脂からなる樹脂フィルムに含まれる溶出性のTOC濃度を算出することが好ましい。
【0055】
例えば、サイズ15cm×44cm×50μm厚のパウチと、1000gの充填水を用いた場合には、下記の様に、充填水中のTOCの増加濃度から、低ガス放出性樹脂からなるフィルム中に含まれる溶出性のTOCの濃度Cが算出される。
充填水(蒸留水)重量:W1=1000[g]
低ガス放出性樹脂からなるフィルムの密度:S[g/cm3
パウチサイズ:15cm×44cm×50μm厚
パウチ重量:W2=15×44×50×10-4×2×S=6.6×S[g]
低ガス放出性樹脂からなるフィルム中に含まれる溶出性のTOC濃度:C[ppm]
充填水中のTOC濃度の増加分:X[ppm]
とすると、
低ガス放出性樹脂からなるフィルム中に含まれる溶出性のTOCの全重量=C×W2[g]
これがW1[g]の水に溶出するので、
X=C×W2/W1=C×6.6×S×10-3[ppm]
の関係になり、低ガス放出性樹脂からなるフィルム中に含まれる溶出性のTOC濃度Cは下記式から算出される。
C=X/(6.6×S×10-3)[ppm]
例えば、パウチを構成する低ガス放出性樹脂からなるフィルムの密度Sが0.92[g/cm3]、充填水のTOC濃度の増加分Xが0.01[ppm]の場合には、
C=0.01/(6.6×0.92×10-3)=1.64[ppm]
のように算出される。
【0056】
低ガス放出性ポリエチレン系樹脂の密度は、0.915g/cm3以上、0.935g/cm3以下が好ましく、0.919g/cm3以上、0.933g/cm3以下がより好ましい。密度が上記範囲であるポリエチレン系樹脂は、有機物のガス放出量を低くし得る傾向にある。
【0057】
低ガス放出性ポリエチレン系樹脂のMFR(メルトフローレート)は、0.2g/10分以上、10g/10分以下が好ましく、0.5g/10分以上、7g/10分以下が好ましい。MFRが上記範囲であれば、他の樹脂や各種添加剤と混合されても、良好なMFRを維持し、良好な製膜性や接着性を示すことができる。
【0058】
低ガス放出性樹脂としては、ヒートシール性に優れ、UVまたはEB照射や加熱に対して耐性があって分解され難い性質があることから、ポリエチレン系樹脂(低ガス放出性ポリエチレン系樹脂)が好ましい。
低ガス放出性ポリエチレン系樹脂は、元々含有している放出性のガス量が少なく、且つUVまたはEB照射や加熱に対して耐性があって分解され難いことによって、ガス放出量を少なくすることができる。
【0059】
低ガス放出性ポリエチレン系樹脂のポリエチレン種の具体例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メチルメタクリル酸共重合体、エチレン-プロピレン共重
合体等の低ガス放出化されたもの及びそれらの樹脂の混合物が挙げられるが、これらの樹脂に限定されない。
【0060】
上記の中でも、MDPE、LDPEおよびLLDPEからなる群から選ばれる1種または2種以上の組み合わせであることが好ましい。
また、LLDPEは、C4-LLDPE、C6-LLDPE、C8-LLDPEからなる群から選ばれる1種または2種以上の組み合わせであることが好ましく、C6-LLDPEがより好ましい。
【0061】
ここで、C4-LLDPEは、エチレンと1-ブテンとの共重合体からなる直鎖状低密度ポリエチレンであり、C6-LLDPEは、エチレンと1-ヘキセンおよび/または4-メチル-1-ペンテンとの共重合体からなる直鎖状低密度ポリエチレンであり、C8-LLDPEは、エチレンと1-オクテンとの共重合体からなる直鎖状低密度ポリエチレンである。
それぞれの分子構造は、エチレン由来のLLDPEの主鎖に、それぞれ、1-ブテン、1-ヘキセンおよび/または4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン由来の、炭素数がそれぞれ、4個、6個、8個の側鎖が存在する分子構造を有する。
【0062】
樹脂に含有される放出性ガス量を低く抑える為には、例えば、樹脂を製造する際に、未反応原料残存量や低分子量生成物や副生成物の量を低減することや、重合触媒を除去することが有効である。具体的には、原料純度を向上したり、反応温度や圧力等の条件を精密に制御したり、蒸留や洗浄によって未反応原料や低分子量生成物や副生成物や重合触媒を除去したり、高温のままで空気中の酸素に触れることによる酸化を防止したりする方法が挙げられる。
他の方法としては、製造された樹脂をペレット化やフィルム化する際に、放出性ガス量を増加させてしまいそうな添加剤の使用を制限し、高温による酸化を防止することが挙げられる。具体的な添加剤としては、滑剤、酸化防止剤、ブロッキング防止剤、溶剤、その他が挙げられる。
【0063】
[酸化防止剤]
断熱性保持積層体は、酸化防止剤をさらに、低ガス放出性シーラント層中に含有することが好ましい。
全低ガス放出性シーラント層中の酸化防止剤の含有量は、0.005質量%以上、0.5質量%以下が好ましく、0.04質量%以上、0.4質量%以下がより好ましい、上記範囲よりも少ないと、酸化防止剤を含有した効果が不十分になる虞があり、上記範囲よりも多くても、酸化防止剤を増加した効果はさほど変わらず、ヒートシール性が悪化する傾向になり易い。
酸化防止剤が含有されるのは、低ガス放出性シーラント層を構成する低ガス放出層および/またはヒートシール層であってもよく、低ガス放出層に含有される酸化防止剤と、ヒートシール層に含有される酸化防止剤とは、同一でもよく、異なっていてもよい。
【0064】
具体的な酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、フェノール系・リン系混合系等が挙げられ、これらからなる群から選ばれる1種または2種以上の組み合わせを含有することが好ましい。
【0065】
<接着層>
本発明の断熱性保持積層体は、構成する各層の層間および各層内の層間に、接着層を設けて積層することが可能である。
また、接着層を形成する前に、接着性を向上する為に、接着対象層表面に予めアンカーコート層を形成しておいてもよい。
【0066】
接着層を形成する接着剤(接着剤組成物)は、熱硬化型、紫外線硬化型、電子線硬化型等であってよく、水性型、溶液型、エマルジョン型、分散型等のいずれの形態でもよく、また、その性状は、フィルム/シート状、粉末状、固形状等のいずれの形態でもよく、更に、接着機構については、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、熱圧型等のいずれの形態でもよい。
【0067】
またこのような接着剤としては、ポリ酢酸ビニルや酢酸ビニル-エチレン共重合体等のポリ酢酸ビニル系接着剤、ポリアクリル酸とポリスチレン、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル等との共重合体からなるポリアクリル酸系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸エチル、アクリル酸、メタクリル酸等のモノマーとの共重合体からなるエチレン共重合体系接着剤、セルロース系接着剤、ポリウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリイミド系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、尿素樹脂又はメラミン樹脂等からなるアミノ樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、エポキシ系接着剤、反応型(メタ)アクリル系接着剤、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム等からなるエラストマー系接着剤、シリコーン系接着剤、アルカリ金属シリケート、低融点ガラス等からなる無機系接着剤等が挙げられる。
インフレーション法による共押出し及び製膜で積層体を形成する場合には、上記の中でも、ポリオレフィン系接着剤が好ましい。
【0068】
本発明の一態様において、接着層は、EC(エクストルージョンコート)用接着剤、ドライラミネート用接着剤、ノンソルベントラミネート用接着剤等の何れからなる層であってよい。
EC用接着剤を用いる場合は、特に限定されないが、例えば、まず、接着剤を加熱溶融して、Tダイス等で必要な幅方向に拡大伸張させてカーテン状に押出し、接着対象層上へ流下させて、ゴムロールと冷却した金属ロールとで挟持することで、接着層の形成と接着対象層への接着と積層を同時に行う。
【0069】
別態様において、接着層は、サンドラミネーションにより形成されてもよい。この場合、接着層は、加熱溶融させて押出機で適用可能な任意の樹脂を用いることができる。具体的には、上記のヒートシール性を有する熱可塑性樹脂として挙げた樹脂を好ましく用いることができる。
【0070】
ドライラミネート用接着剤を用いる場合は、溶媒へ分散または溶解した接着剤を一方のフィルム上に塗布し乾燥させて、もう一方のフィルムを重ねて積層した後に、30~120℃で数時間~数日間エージングすることで、接着剤を硬化させて接着し、積層することができる。
【0071】
ノンソルベントラミネート用接着剤を用いる場合は、溶媒へ分散または溶解せずに接着剤自身を接着対象層上に塗布し乾燥させて、もう一方の層を形成するフィルムを重ねて積層した後に、30~120℃で数時間~数日間エージングすることで、接着剤を硬化させて積層する。
【0072】
ドライラミネート用接着剤またはノンソルベントラミネート用接着剤は、例えばロールコート、グラビアロールコート、キスコート等でコーティングして用いることができ、そのコーティング量は、0.1~10g/m2(乾燥状態)が望ましい。該コーティング量を上記範囲とすることで、良好な接着性が得られる。
【0073】
(アンカーコート層)
アンカーコート層は、任意のアンカーコート剤から形成することができる。
アンカーコート剤としては、例えば、有機チタン系、イソシアネート(ウレタン系)系、ポリエチレンイミン系、酸変性ポリエチレン系、ポリブタジエン系、ポリアクリル系、ポリエステル系、エポキシ系、ポリ酢酸ビニル系、セルロース系、その他等のアンカーコート剤を用いることができる。
【0074】
[断熱性保持積層体の作製方法]
下記に示す作製方法は1例であって、本発明を限定するものではない。
断熱性保持積層体を構成する各層の製膜、積層は、例えば、ウェットラミネーション法、ドライラミネーション法、無溶剤型ドライラミネーション法、押し出しラミネーション法、Tダイ共押し出し成形法、共押し出しラミネーション法、インフレーション法、その他等の任意の方法で行うことができる。
得られた断熱性保持積層体には、化学的機能、電気的機能、磁気的機能、力学的機能、摩擦/磨耗/潤滑機能、光学的機能、熱的機能、生体適合性等の表面機能等の付与を目的として、二次加工を施すことも可能である。
【0075】
二次加工の例としては、エンボス加工、塗装、接着、印刷、メタライジング(めっき等)、機械加工、表面処理(帯電防止処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、フォトクロミズム処理、物理蒸着、化学蒸着、コーティング、等)等が挙げられる。
【0076】
以下に、一例として、ガスバリア基材層[基材層/接着層/基材層/接着層/ガスバリア層]/接着層/低ガス放出性シーラント層という層構成を有する断熱性保持積層体(断熱性保持包装材料)を作製する場合について説明する。
【0077】
(低ガス放出性シーラントフィルムの作製)
低ガス放出性シーラント層用のシーラント層樹脂組成物を調製して準備し、インフレーション法により、低ガス放出性シーラントフィルムを得る。
【0078】
(断熱性保持積層体の作製)
次に、低ガス放出性シーラント層用の上記で得た低ガス放出性シーラントフィルムと、基材層用の基材フィルム1および基材フィルム2と、ガスバリア層用のアルミニウム箔とを、この順で接着層用のDL接着剤を介したドライラミネーション(塗布量:3.5g/m2、乾燥温度:70℃)によって張り合わせて、上記層構成の断熱性保持積層体を得る。
【0079】
(別態様の低ガス放出性シーラント層の製膜・積層方法)
低ガス放出性シーラント層は、押出しまたは共押出しで、ガスバリア基材層等の他の層上に、エクストルージョンコート法で積層してもよい。エクストルージョンコート法の場合でも、必要に応じて接着層を介して、積層してもよい。
【0080】
≪断熱性保持包装材料≫
本発明の断熱性保持包装材料は、本発明の断熱性保持積層体から作製された包装材料であり、断熱性保持積層体と同一物であってもよく、必要に応じて、種々の機能層や、印刷層等をさらに含むこともできる。
また、本発明の断熱性保持包装材料に、ラミネート加工(ドライラミネートや押し出しラミネート)、製袋加工、およびその他の後処理加工を施すこともできる。
本発明の断熱性保持包装材料の具体例としては、真空断熱パネル用の断熱性保持包装材料が挙げられる。
【0081】
≪断熱性保持包装体≫
本発明の断熱性保持包装体は、本発明の断熱性保持包装材料を用いて作製された包装体
であり、具体例としては、真空断熱パネルが挙げられる。
上記の真空断熱パネルを用いて、断熱効果の高い断熱容器を作製することができる。断熱容器としては、例えば、冷蔵庫、冷凍庫、低温コンテナ、クーラーボックス、保温庫、温室、保温ボックス等が挙げられる。
【実施例
【0082】
実施例に用いた原料の詳細は下記の通りである。
[低ガス放出性樹脂]
・低ガス放出性樹脂1:(株)プライムポリマー社製、ウルトゼックス3520L。C6-LLDPE、密度0.931g/cm3、MFR2.1g/10分。抽出水のTOC濃度0.26ppm、樹脂フィルムに含有される溶出性のTOC濃度42.3ppm。
・低ガス放出性樹脂2:(株)プライムポリマー社製、ネオゼックス3510F。C4-LLDPE、密度0.933g/cm3、MFR1.6g/10分。抽出水のTOC濃度0.32ppm、樹脂フィルムに含有される溶出性のTOC濃度52.0ppm。
・低ガス放出性樹脂3:(株)プライムポリマー社製、ウルトゼックス2021L。C6-LLDPE、密度0.919g/cm3、MFR2.0g/10分。抽出水のTOC濃度0.56ppm、樹脂フィルムに含有される溶出性のTOC濃度92.3ppm。
・低ガス放出性樹脂4:日本ポリエチレン(株)社製、ノバテックLC522。LDPE。密度0.923g/cm3、MFR4g/10分。抽出水のTOC濃度0.32ppm、樹脂フィルムに含有される溶出性のTOC濃度52.5ppm。
【0083】
[汎用ポリエチレン]
・汎用ポリエチレン1:(株)プライムポリマー社製エボリューSP4020。C6-LLDPE、密度0.937g/cm3、MFR1.7g/10分。抽出水のTOC濃度2.85ppm、樹脂フィルムに含有される溶出性のTOC濃度461ppm。
・汎用ポリエチレン2:(株)プライムポリマー社製、エボリューSP1520。C6-LLDPE、密度0.913g/cm3、MFR2.0g/10分。抽出水のTOC濃度3.05ppm、樹脂フィルムに含有される溶出性のTOC濃度506ppm。
【0084】
[酸化防止剤]
・酸化防止剤1:(株)プライムポリマー社製、EAG-5。フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤とを合計5質量%含有。MFR4.5g/10分。
【0085】
[基材層用フィルム]
・基材フィルム1:ユニチカ(株)社製、エンブレムON、厚さ25μm。
・基材フィルム2:東洋紡(株)社製、エスペット T4102、厚さ12μm。
・基材フィルム3:大日本印刷(株)社製IB-PET-PIR。バリアコート樹脂層付きアルミナ蒸着PETフィルム。厚さ12μm。
【0086】
[ガスバリア層用金属箔]
・アルミニウム箔1:東洋アルミニウム(株)社製。6μm厚。
【0087】
[接着剤]
・DL接着剤1:ロックペイント(株)社製、アドロックRU77T/H7。ポリエステル系接着剤。
【0088】
<低ガス放出性シーラント層樹脂組成物の調製>
表1に示された配合で各原料をドライブレンドすることによって、低ガス放出性シーラント層樹脂組成物1、2を得た。
【0089】
【表1】
【0090】
<実施例1>
[低ガス放出性シーラントフィルムの作製]
低ガス放出性樹脂1を用いて、インフレーション法により、低ガス放出性シーラントフィルム1を得た。
得られた低ガス放出性シーラントフィルム1を用いて、製膜性、低ガス放出性を評価した。
【0091】
[断熱性保持積層体の作製]
次に、上記で得た低ガス放出性シーラントフィルム1と基材フィルム1、基材フィルム2とアルミニウム箔1とを、DL接着剤1を介したドライラミネーション(塗布量:3.5g/m2、乾燥温度:70℃)によって張り合わせて、下記層構成の断熱性保持積層体1を得た。
断熱性保持積層体1の構成:ガスバリア基材層(基材フィルム1/DL接着剤1/基材フィルム2/DL接着剤1/アルミニウム箔1)/DL接着剤1/低ガス放出性シーラントフィルム1
得られた断熱性保持積層体1を用いて、ヒートシール性評価、断熱性評価を実施した。
評価結果を表2に示す。
【0092】
<実施例2~7、比較例1~2>
表2に示された各原料を用いて、実施例1と同様に操作して、低ガス放出性シーラントフィルム、断熱性保持積層体を作製して、同様に評価した。
【0093】
<評価方法>
[製膜性]
低ガス放出性シーラントフィルムの外観を観察し、官能的に評価した。評価基準は以下の通りである。
○:皺やぶつが生じることなく製膜が可能。
×:皺やぶつが多数生じ、製膜が困難。
【0094】
[ガス放出量]
低ガス放出性シーラントフィルムを50mm×10mmにカットして得た2枚のフィルムを試験管に入れて90℃で60分間加熱し、試験管中の空気を採取して、ガスクロマトグラフィーによって、採取した空気中の炭素数16の有機物ガス成分の濃度を測定し、低ガス放出性シーラントフィルムが単位体積当たりに放出した炭素数16の有機物ガス成分量を算出した。
【0095】
[ヒートシール性]
断熱性保持積層体を10cm×10cmに切り分け、低ガス放出性シーラント層面を重ね合せ、ヒートシールテスター(テスター産業社製:TP-701-A)を用いて、1cm×10cmの領域を下記条件でヒートシールして、端部はヒートシールされずに接着し
ておらず、二股に分かれている状態の引き剥がし強度の試験片を作製した。
この試験片を、15mm幅で短冊状に切り、二股に分かれている各端部を引張試験機に装着して下記条件で引き剥がし強度(N/15mm)を測定して、下記合否判定基準で合否判定した。
ヒートシール条件
温度:160℃
圧力:1kgf/cm2
時間:1秒
試験条件
試験速度:300mm/分
荷重レンジ:50N
合否判定基準
○:30N/15mm以上であり、合格。
×:30N/15mm未満であり、不合格。
【0096】
[断熱維持性]
幅40cm×長さ50cmの長方形に切断された断熱性保持積層体を2枚準備し、2枚の断熱性保持積層体のそれぞれの低ガス放出性シーラント層を対向させて重ねて、三辺の外縁部の端部から2cm~3cmの範囲をヒートシールすることによって、一辺が開口している袋体を得た。
袋体の開口部から芯材として幅29cm×長さ30cm×厚さ3cmのグラスウール(目付量800g/m2のノーバインダーのグラスウール、製品名:ホワイトロールWR800、マグ・イゾベール社製)を入れた後に、袋体の開口部から空気を吸引した。
吸引は、真空包装機(MVR-1000型、設楽製作所製)を用いて行い、袋体の内部が減圧されて0.05Paになった状態で、残る一辺の外縁部の端部から5cm~6cmの範囲をヒートシールした。
ヒートシールは熱溶着機(インパルスシーラーFA-600-10W、富士インパルス社製)を用いた。
さらに、全外周の外縁部を折りたたんで、テープで固定して、芯材が断熱性保持積層体により包装された断熱維持性評価用の試験片である簡易真空断熱パネルを作製した。
熱伝導率の測定は、簡易真空断熱パネルの厚さ方向の熱伝導率を測定した。
先ず、作製直後に熱伝導率を測定し(LMD1)、次いで、100℃環境下で1000時間保管後に熱伝導率を測定した(LMD2)。そして、下記式によってΔ熱伝導率を算出して、下記合否判定基準により断熱維持性の合否を判定した。
Δ熱伝導率=LMD2-LMD1
合否判定基準
合 格:Δ熱伝導率が7.0mW/mK以下である。
不合格:Δ熱伝導率が7.0mW/mKよりも大きい。
【0097】
[溶出性のTOC濃度]
樹脂フィルムを用いて作製されたパウチに、充填水を充填及び封止して、35℃2週間保管後に、該充填水のTOC濃度を測定して、TOC濃度の増加濃度を求めた。
パウチのサイズ:内寸15cm×44cm×50μm厚
充填水:純正化学(株)社製高速液体クロマトグラフィー用蒸留水。65℃1000g。
TOC濃度測定器:(株)島津製作所社製TOC-L全有機体炭素計。
次に、上記で得られた充填水中のTOCの増加濃度から、次式によって樹脂フィルム中に含まれる溶出性TOCの濃度を算出した。
C=X×W1/W2
=X×W1/(6.6×S)
C:樹脂フィルム中に含まれる溶出性TOCの濃度[ppm]
X:充填水中のTOCの増加濃度[ppm]
W1:充填水重量=1000[g]
W2:パウチ重量=15×44×50×10-4×2×S=6.6×S[g]
S:樹脂フィルムの密度[g/cm3
【0098】
【表2】
【0099】
<結果まとめ>
全実施例の低ガス放出性シーラントフィルムは、良好な製膜性、低ガス放出性を示し、断熱性保持積層体は良好なヒートシール性と断熱性維持効果を示した。
しかしながら、低ガス放出性樹脂を含有しない比較例1、2のシーラントフィルムはガス放出量が多く、ガスバリア基材層を積層した積層体は劣った断熱性維持効果を示した。
【符号の説明】
【0100】
1 断熱性保持積層体
2 断熱性保持包装材料
3 ガスバリア基材層
4 低ガス放出性シーラント層
4a 低ガス放出層
4b ヒートシール層
5 接着層
10 減圧保持包装体
11 芯材
12 ヒートシール接合部
図1
図2
図3
図4