(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】情報媒体
(51)【国際特許分類】
B42D 25/333 20140101AFI20241203BHJP
G06K 19/077 20060101ALI20241203BHJP
B42D 25/305 20140101ALI20241203BHJP
【FI】
B42D25/333
G06K19/077 272
G06K19/077 144
B42D25/305 100
(21)【出願番号】P 2020183630
(22)【出願日】2020-11-02
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】耳田 尚道
(72)【発明者】
【氏名】小久保 悠
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/032183(WO,A1)
【文献】特開2006-167955(JP,A)
【文献】特開2015-037844(JP,A)
【文献】特開2016-000886(JP,A)
【文献】特開2009-262384(JP,A)
【文献】特開平08-096105(JP,A)
【文献】実開昭58-168457(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2018/0290478(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D 15/02
25/00-25/485
B41M 3/14
G06K 19/00-19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターン層の表裏両面に窓あき層、印刷層が順次積層一体化された情報媒体であって、
前記パターン層が基材上にセキュリティパターン部が設けられたものであり、
前記基材は可視光が透過するものであり、
前記セキュリティパターン部は可視光の透過度が低いセキュリティパターンが形成されたものであり、
前記窓あき層は、前記セキュリティパターン部に重なる部分が可視光の透過度が高い窓部であり、それ以外の部分が可視光の透過度が低い低透過部であり、
前記印刷層は全面に印刷パターンが形成されたものであり、
可視光を照射したときに前記窓部を可視光が透過して前記セキュリティパターンを外側から透視可能であることを特徴とする情報媒体。
【請求項2】
前記セキュリティパターンが金属で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の情報媒体。
【請求項3】
前記パターン層にアンテナパターンがさらに形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の情報媒体。
【請求項4】
前記セキュリティパターンと前記アンテナパターンが金属エッチングにより形成されたものであることを特徴とする
請求項3に記載の情報媒体。
【請求項5】
前記窓部が透明な部材からなり、前記低透過部が不透明な部材からなることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の情報媒体。
【請求項6】
前記セキュリティパターンは、可視光を照射したときに表面の反射光で視認されないものであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の情報媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個人情報などの各種の情報を担持するカードや冊子などの形態の情報媒体に関し、特に情報の視認に支障がなく偽造防止機能に優れる情報媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
個人情報や各種の情報を担持した情報媒体としては、IDカード、クレジットカード、免許証カードなどの様なカード状の媒体や、ビザの様なシート状の媒体、パスポートの様な冊子状の媒体などが利用されている。
【0003】
これらの情報媒体は、いずれも顔写真、ID番号などの重要な個人情報を担持しており、また各種の認証などに用いられるため、悪意による偽造、贋造、改竄の対象となりやすいことから、これを防ぐための防止機能(総称して偽造防止機能という)を持たせるのが一般的である。情報媒体の偽造防止機能として従来から知られているものとしては、ホログラム、透かし、蛍光インクなどがある。
【0004】
これらの偽造防止機能は、機能を設けること自体が技術的な難度が高いこと、また顔写真などの個人情報が記録された領域の表面側に積層して形成することで、個人情報に対する物理的な改竄などが行われたときに同時にこれらの機能が損傷を受けるため、改竄されたことを容易に検出できることから、広く採用されている。
【0005】
しかしながら、これらの偽造防止機能が設けられた場合でも、
図4に示した様に情報媒体10をこれらの偽造防止機能11が積層された側とは反対側の裏面側から削り取るなどして、例えば顔写真部12を削り出し、別の顔写真13と差し替えるなどすることが可能であることから、新たなセキュリティ機能が求められていた。
【0006】
例えばICカードの分野では、
図5に例示した様に、ICカード20にアンテナパターン23を金属エッチングにより形成する際に、同時に顔写真などの目視画像21が形成される位置に重なる様に金属エッチングによるセキュリティパターン22を形成することが行われている。このセキュリティパターン22は顔写真などの目視画像21よりも内層側に形成されており、裏面側からの削り取り24でセキュリティパターン22も削られてしまうため改竄が検出可能であると考えられる。一方でこの金属エッチングによるセキュリティパターン22は、白矢印の方向から見たときに顔写真自体の視認性を妨げることがあり、必ずしも好ましいものではなかった。
【0007】
また、紙幣などの紙を素材とする媒体に適用されることの多い透かしの技術をカードに応用することも提案されており、例えば特許文献1には、カードに設けた黒色印刷層に透かし画像を彫刻し、昇華転写により設けた目視画像と透かし画像とを見比べることで正偽の判断が容易にできるとした認証カードが開示されている。しかしこの様なカードは、1枚1枚彫刻する手間が大きく、削り滓がカードに付着してしまうことがあり、また彫刻することでカードの厚みにむらができ、媒体形成後に文字や画像などの目視画像の記録を行う場合に支障を生じるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、媒体形成後に目視画像を記録する場合でも記録に支障がなく、一見するとセキュリティパターンが見えずに潜像の状態となり、特定の観察条件とするとセキュリティパターンが透かしの様に見えることで、偽造、改竄の抑制効果が得られる情報媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、
パターン層の表裏両面に窓あき層、印刷層が順次積層一体化された情報媒体であって、
前記パターン層が基材上にセキュリティパターン部が設けられたものであり、
前記基材は可視光が透過するものであり、
前記セキュリティパターン部は可視光の透過度が低いセキュリティパターンが形成されたものであり、
前記窓あき層は、前記セキュリティパターン部に重なる部分が可視光の透過度が高い窓部であり、それ以外の部分が可視光の透過度が低い低透過部であり、
前記印刷層は全面に印刷パターンが形成されたものであり、
可視光を照射したときに前記窓部を可視光が透過して前記セキュリティパターンを外側から透視可能であることを特徴とする情報媒体である。
【0011】
上記情報媒体において、
前記セキュリティパターンが金属で形成されていて良い。
【0012】
上記情報媒体において、
前記パターン層にアンテナパターンがさらに形成されていて良い。
【0013】
上記情報媒体において、
前記セキュリティパターンと前記アンテナパターンが金属エッチングにより形成されたものであって良い。
【0014】
上記情報媒体において、
前記窓部が透明な部材からなり、前記低透過部が不透明な部材からなるものであって良い。
【0015】
上記情報媒体において、
前記セキュリティパターンは、可視光を照射したときに表面の反射光で視認されないものであって良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明の情報媒体によれば、反射光による観察条件下では印刷層の印刷パターンのみが見えるが、これを透過光による観察条件下で見ると、可視光が透過する基材上に可視光の透過度が低いセキュリティパターンが窓部を透過した光で透かして見え、透かしと同様のセキュリティ効果が得られ、媒体の厚みムラが無く、セキュリティパターンが他の反射光で見る顔写真等の目視画像の形成や見え方に影響を与えない情報媒体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の情報媒体の層構成例の説明図である。
【
図2】本発明の情報媒体の層構成例を示す断面図である。
【
図3】本発明の情報媒体を観察する態様の説明図である。
【
図4】従来の情報媒体の裏面側から顔写真の差し替えを行う態様の説明図である。
【
図5】顔写真部分に金属パターンを重ねて設けた従来の情報媒体の層構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また以下に示す実施形態では、発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0019】
図1は、本発明の情報媒体の層構成の例の説明図である。また
図2は本発明の情報媒体の層構成例を示す断面図である。本発明の情報媒体1は、パターン層2を中心に、その表裏両面に少なくとも窓あき層3、印刷層4が順次積層され、熱ラミネートなどにより貼り合されて一体化された構成である。また特に図示していないが、必要に応じ接着剤層などを別に設けても良い。なお
図1では一方の面側のみ示している。
【0020】
パターン層2は、可視光を透過する基材2dにアンテナパターン2bが、そのセキュリティパターン部にセキュリティパターン2aが、それぞれ金属をパターニングすることで形成され、アンテナパターン2bと電気的に接続されたICチップ2cが搭載されている。基材2dは可視光を透過する素材であれば特に限定はないが、典型的には透明または半透明な、または白色などの淡色のプラスチックシートを好ましく適用できる。
【0021】
セキュリティパターン2aとアンテナパターン2bを金属で形成する場合は、アルミ、銅、銀、金などが好適に使用できるが、良好な導電性を有していれば特に限定されない。なおセキュリティパターン2aはアンテナパターン2bなどと電気的に接続されている必要はない。セキュリティパターン2aとアンテナパターン2bを形成する方法は特に限定されず、それぞれ異なった方法を採用しても良く、セキュリティパターン2aは可視光の透過度が低い素材であれば必ずしも金属である必要はないが、同一の方法で形成すると効率的であり、公知の金属エッチング技術により形成することができる。
【0022】
金属によるセキュリティパターン2aの厚みは基材2dに比べて薄く形成できるので、各層を貼り合わせた際に実質的に段差が生じない厚さとすることができる。また、さらに熱ラミネート等による加工時に加熱により基材2dに埋め込むことも容易である。従って、情報媒体1を平坦で段差などが無いものとすることができ、ラミネート加工後表面に印刷する場合でも印刷品質に影響を与えないものとすることができる。
【0023】
セキュリティパターン2aのパターン形状は、特に限定されないが、任意の絵柄や文字、記号、マークなど目視により直接その内容が確認できるものであっても、情報媒体1の個別情報をバーコードなどにコード化したり暗号符号化したりしたパターンとして形成しても良い。
【0024】
窓あき層3は、パターン層2の表裏両面に積層される。積層されたときにパターン層2のセキュリティパターン2aと重なる部分は可視光に対して透過度が高い、好ましくは透明な窓部3aとなっており、それ以外の部分は可視光に対して透過度が低い低透過部、好ましくは不透明な不透明部3bとなっている。すなわち、窓あき層3は、不透明なシートの一部に窓状に透明な窓部3aが嵌め込まれた様な形状である。窓あき層3を積層した状態ではアンテナパターン2bとICチップ2cは不透明部3bに覆われているため見えず、セキュリティパターン2aは透明な窓部3aを透して見える態様である。窓あき層3の素材は特に限定はないが、典型的には各種のプラスチックシートから特性が合うものを適宜選択して適用できる。
【0025】
窓部3aを形成するには、不透明部3bとなる不透明なシートの一部を窓状に刳り抜き
、刳り抜いた形状に合わせて同じ厚みの透明な素材を嵌め込んで段差が生じない様にし、各層を熱ラミネートして貼り合わせる際に同時に接着または融着するなどして全体を平坦なシート状に形成できる。
【0026】
不透明部3bは、素材自体を不透明なものとしたり、濃色のものとすることで実質的に不透明としたり、淡色のものであっても十分な厚みを持たせることで実質的に不透明としたりすることで形成できる。
【0027】
窓あき層3の上層に印刷層4が積層されている。印刷層4は、窓あき層3の上層に直接、グラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷などの公知の印刷方法を適宜適用して印刷パターン4aを印刷して形成しても良いが、透明または半透明の、または白色などの淡色のシート4b上に印刷パターン4aを印刷し、このシート4bを窓あき層3に積層する態様であっても良い。またシート4bを透明なものとして、印刷パターン4aが内層側となる様に積層しても良い。あるいは、各層を積層してラミネート加工等により貼り合わせた後に、その表面に印刷を施すこともできる。
【0028】
印刷パターン4aは全面にわたって形成されているため、透明な窓部3aの部分も覆う態様である。印刷パターン4aの絵柄は特に限定はなく、任意の絵柄、マーク、ロゴ、文字情報などを含んでいて良いが、窓部3aの部分に墨インクのベタパターンを形成するのは避けたほうが好ましい。また表裏両面の印刷層に印刷される印刷パターン4aの絵柄は異なっていても同じでも良い。
【0029】
図3は、本発明の情報媒体を観察する態様の説明図である。前述の様な態様で積層されて構成された情報媒体1を、
図3(a)の様に通常の光源5による照明下で表面の反射光で観察する場合は、観察者6には印刷パターン4aの絵柄が見え、その内層側に形成されたセキュリティパターンなどは隠蔽されて見えない。
【0030】
一方、情報媒体1を、
図3(b)の様に通常の光源5による照明光にかざして透過光で観察する場合、印刷層4の印刷パターン4aを形成するインクは、色重ね時の色再現性を高めるため一般的には透明性を有しているため、照明光は少なくともその一部が印刷層4を透過し、不透明部3bでは遮光されるが透明な窓部3aの部分を透過するので、観察者6には窓部3aの部分ではパターン層2に金属で形成されたセキュリティパターン2aが遮光パターンとなって見えることになる。
【0031】
この様に、情報媒体1では、可視光の透過度の異なる部分が形成されるため、反射光での観察時にはセキュリティパターン2aは隠蔽されて印刷パターン4aの違いしか確認できないが、透過光での観察時には透かしの様に見えるため、透かしと同様の効果を有して偽造や改竄を抑止する効果を発揮し、セキュリティ機能として利用できる。
【0032】
また窓部3aにおいては、透過光で見た際に印刷パターン4a、セキュリティパターン2aが重なって見えることと、窓部3aの透過度の調整と光源の光強度の調整により実質的に3値以上の階調を有する階調パターンが表現され、例えば偽造や改竄が疑われる媒体が発見されたときに、各材料自体や各パターンの透過度のマッチングが完全でないと、本来の階調パターンと異なる階調パターンが視認できるため偽造を発見できる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
下記の構成で情報媒体を試作し、目視にて効果を観察した。
<構成>
図2に例示したものと同様の層構成とした。
<材料>
パターン層(2)
白色ポリカーボネートMakrofol ID4-4-010207 厚さ125μm
(コベストロ社製)にアルミエッチングアンテナ+セキュリティパターンを形成。
窓あき層(3)
不透明部:白色ポリカーボネートMakrofol ID4-4-010207
厚さ125μm(コベストロ社製)
窓部:透明ポリカーボネートMakrofol ID6-2-000000
厚さ125μm(コベストロ社製)
印刷層(4)
シート:白色ポリカーボネートMakrofol ID4-4-010207
厚さ100μm(コベストロ社製)
印刷:印刷インキ FD0 ニューPTシリーズ(東洋インキ社製)
<ラミネート加工機>
ミニテストプレス機 MP-WNH(加熱)/MP-WC(冷却)
<テスト>
(1)上記層構成で、窓部にセキュリティパターンが来るように見当を合わせてハンダゴテで仮止め(熱をかけて一部融着)した。このとき窓部の透明ポリカーボネートと不透明部の白色ポリカーボネートは一体化していないが、個別にそれぞれが隣り合う層に仮止めされていることで見当が合ってズレが発生しないようにした。
(2)ミニテストプレス機にて熱ラミネート加工+冷却し各層を融着させ一体化させた。加熱:190℃ 10min 5MPa
冷却:水冷 10min 5MPa(圧力と温度はミニテストプレス機表示)
(3)ラミネート加工が済んだ情報媒体を確認したところ、蛍光灯下での反射光観察ではセキュリティパターンが隠蔽されて見えず、透過光観察では窓部に階調差が発生しセキュリティパターンが目視で確認できた。
【符号の説明】
【0034】
1・・・情報媒体
2・・・パターン層
2a・・・セキュリティパターン
2b・・・アンテナパターン
2c・・・ICチップ
2d・・・基材
3・・・窓あき層
3a・・・窓部
3b・・・不透明部
4・・・印刷層
4a・・・印刷パターン
4b・・・シート
5・・・光源
6・・・観察者