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特許7596733ポリアミド樹脂粉粒体、その製造方法、およびポリアミド樹脂粉粒体を用いた三次元造形物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂粉粒体、その製造方法、およびポリアミド樹脂粉粒体を用いた三次元造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/02 20060101AFI20241203BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20241203BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20241203BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20241203BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241203BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C08G69/02
B29C64/153
B33Y70/00
B33Y80/00
B33Y10/00
C08J3/12 A CFG
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020190207
(22)【出願日】2020-11-16
(65)【公開番号】P2022079184
(43)【公開日】2022-05-26
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 圭
(72)【発明者】
【氏名】近藤 啓之
(72)【発明者】
【氏名】河井 梓
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-514420(JP,A)
【文献】特表2002-544307(JP,A)
【文献】特開平03-079630(JP,A)
【文献】特開平02-115227(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207728(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G69/00- 69/50
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C08J 3/00- 3/28
C08J99/00
B29C64/00- 73/34
B29D 1/00- 99/00
B33Y10/00- 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が1μmを超え100μm以下であり、アミノカルボン酸またはラクタからなるモノマー(A)と、アミノ基およびカルボキシル基を合計3つ以上含むモノマー(B)からなるポリアミドであり、モノマー(A)とモノマー(B)のモル比率(モノマー(A)のモル比率:モノマー(B)のモル比率)が99:1~85:15であるポリアミドから構成される分岐状ポリアミド樹脂粉粒体。
【請求項2】
前記モノマー(A)がε-アミノカプロン酸またはε-カプロラクタムであることを特徴とする、請求項1記載の分岐状ポリアミド樹脂粉粒体。
【請求項3】
前記モノマー(B)がL-リジンであることを特徴とする、請求項1または2記載の分岐状ポリアミド樹脂粉粒体。
【請求項4】
示差走査熱量測定によって昇降温速度20℃/minで測定される融点と降温結晶化温度の差が50℃以上であることを特徴とする、請求項1~3いずれか記載の分岐状ポリアミド樹脂粉粒体。
【請求項5】
真球度が0.80以上であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか記載の分岐状ポリアミド樹脂粉粒体。
【請求項6】
アミノカルボン酸またはラクタからなるモノマー(A)と、アミノ基およびカルボキシル基を合計3つ以上含むモノマー(B)を、アニオン触媒を用いずに重合させ、得られた重合物を粉砕してポリアミド粉粒体を得ることを特徴とする、請求項1~5いずれか記載の分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の製造方法。
【請求項7】
アミノカルボン酸またはラクタからなるモノマー(A)と、アミノ基およびカルボキシル基を合計3つ以上含むモノマー(B)を、モノマー(A)およびモノマー(B)と相溶しポリアミド樹脂と相分離する少なくとも1種のポリマー(C)の存在下で重合させ、重合後にポリアミド樹脂粉粒体が析出することを特徴とする、請求項1~5いずれか記載の分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の製造方法。
【請求項8】
前記ポリマー(C)が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体、およびこれらのアルキルエーテル体であることを特徴とする、請求項7に記載の分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の製造方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか記載の分岐状ポリアミド樹脂粉粒体を、粉末床溶融結合法3Dプリンタに供給する三次元造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や航空宇宙、産業・医療用機械などの幅広い用途に適した粉末床溶融結合方式を用いた三次元造形物を作製するための材料粉末として、好適なポリアミド樹脂粉粒体、その製造方法、およびポリアミド樹脂粉粒体を用いた三次元造形物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、三次元造形(以下、3Dプリンタと記す場合がある)は、射出成形では難しかった立体物形状を自由に造形でき、溶接部品や分割構成部品および複雑部品からなる部品を一体で作製できることから有用であるため、製造イノベーションを起こせる可能性がある技術として注目を浴びている。
【0003】
これらを造形する方式としては、溶融物堆積法(Fused Deposition Molding)、UV硬化インクジェット法、光造形法(Stereo Lithography)、粉末床溶融結合法(Powder Bed Fusion。以下、PBF方式と記す場合がある)、インクジェットバインダ法などが知られている。
中でも、PBF方式は、三次元造形物の高い寸法精度と機械強度を実現できるため、急速な拡大が見込まれている。
【0004】
PBF方式の工程は、ローラーやブレードを用いて粉末を敷きつめることにより粉末床を形成し、粉末床上にレーザー光を走査させて粉末を溶融凝固させるため、レーザー光を照射後の結晶化速度を制御し、溶融凝固時の体積収縮に伴う三次元造形物の反りを抑制する必要がある。従来、PBF方式の造形素材としては、主にポリアミド樹脂粉末が使用されてきたが、ポリアミド樹脂粉末は結晶化速度が速く、三次元造形物の反りを抑制するためには結晶化速度の遅いポリアミド樹脂粉末が求められる。
【0005】
上記のようなポリアミド樹脂を得る技術としては、これまで数々の技術的な改良が試みられてきた。例えば、特許文献1では、アニオン重合によるポリアミド重合の活性化剤としてポリイソシアネートを使用することにより結晶化度の低い架橋ポリアミドを得る方法が開示されている。特許文献2には、グラフトによってポリアミドに架橋性官能基を導入することによって熱機械特性に優れたPBF方式用の架橋ポリアミドを得る方法が開示されている。特許文献3は、多官能性モノマーと二官能性モノマーの重合により、結晶化速度を制御した非晶質の多分岐ポリアミドを得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2014-528018号公報
【文献】特表2020-514457号公報
【文献】特表2002-544307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法では、注型重合であるため粉末化が困難であり、PBF方式に適した平均粒径を有するポリアミド樹脂粉粒体を得ることができない。また、アニオン重合によって分岐状ポリアミド樹脂を得るためにアニオン触媒を必要とすることから経済的に不利である。さらに、特許文献1の実施例においてはごく少量の架橋剤比率に関してのみ開示されているが、アニオン重合は反応速度が速く、架橋剤であるポリイソシアネートが活性化剤として作用するため、反応を制御することは難しかった。また、架橋剤比率を増加した際は、適度な重合度および架橋度に制御することが困難であり、過度な架橋により結晶化度が著しく低下し、PBF方式で三次元造形物を作製すると機械物性の低下やゲル化を引き起こす恐れがあった。
【0008】
特許文献2の方法では、PBF方式において三次元造形物の反りを抑制するためにはポリアミド樹脂の結晶化速度の低下が不十分であり、ポリアミド樹脂を重合した後にグラフト処理を行って結晶化速度を低下させる必要があるため経済的に不利であった。
また、特許文献3の方法で得られた多分岐ポリアミドは、3Dプリンタ用途に供することに関しては一切の開示がなく、粉末形状でないためPBF方式には不適であった。さらに、多分岐ポリアミドの結晶化度は著しく低いため、PBF方式で三次元造形物を作製すると機械物性の低下やゲル化を生じる課題があった。
【0009】
そこで、本発明は、適度にコントロールされた結晶化速度を有し、かつ粉末床溶融結合法3Dプリンタに使用する際に、平滑な粉面を形成することができ、レーザー照射時の反りがなく、造形物の引張強度が良好な三次元造形物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、かかる課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、下記発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)平均粒径が1μmを超え100μm以下であり、アミノカルボン酸またはラクタからなるモノマー(A)と、アミノ基およびカルボキシル基を合計3つ以上含むモノマー(B)からなるポリアミドであり、モノマー(A)とモノマー(B)のモル比率(モノマー(A)のモル比率:モノマー(B)のモル比率)が99:1~85:15であるポリアミドから構成される分岐状ポリアミド樹脂粉粒体。
(2)前記モノマー(A)がε-アミノカプロン酸またはε-カプロラクタムであることを特徴とする、(1)の分岐状ポリアミド樹脂粉粒体。
(3)前記モノマー(B)がL-リジンであることを特徴とする、(1)または(2)の分岐状ポリアミド樹脂粉粒体。
(4)示差走査熱量測定によって昇降温速度20℃/minで測定される融点と降温結晶化温度の差が50℃以上であることを特徴とする、(1)~(3)いずれかの分岐状ポリアミド樹脂粉粒体。
(5)真球度が0.80以上であることを特徴とする、(1)~(4)のいずれかの分岐状ポリアミド樹脂粉粒体。
(6)アミノカルボン酸またはラクタからなるモノマー(A)と、アミノ基およびカルボキシル基を合計3つ以上含むモノマー(B)を、アニオン触媒を用いずに重合させ、得られた重合物を粉砕してポリアミド粉粒体を得ることを特徴とする、(1)~(5)のいずれか記載の分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の製造方法。
(7)アミノカルボン酸またはラクタからなるモノマー(A)と、アミノ基およびカルボキシル基を合計3つ以上含むモノマー(B)を、モノマー(A)およびモノマー(B)と相溶しポリアミド樹脂と相分離する少なくとも1種のポリマー(C)の存在下で重合させ、重合後にポリアミド樹脂粉粒体が析出することを特徴とする、(1)~(5)のいずれか記載の分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の製造方法。
(8)前記ポリマー(C)がポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体、およびこれらのアルキルエーテル体であることを特徴とする、(7)の分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の製造方法。
(9)(1)~(いずれかの分岐状ポリアミド樹脂粉粒体を、粉末床溶融結合法3Dプリンタに供給する、三次元造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、適度にコントロールされた結晶化速度を有し、粉末床溶融結合法3Dプリンタに使用する際に、平滑な粉面を形成することができ、レーザー照射時の反りがなく、造形物の引張強度が良好な三次元造形物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、実施形態とともに詳細に説明する。
【0014】
本発明は、平均粒径が1μmを超え100μm以下であり、アミノカルボン酸、ラクタム、または、ジアミンおよびジカルボン酸のいずれか少なくとも1種からなるモノマー(A)と、モノマー(A)の反応性官能基と反応しうる官能基を3つ以上含むモノマー(B)からなるポリアミドであり、モノマー(A)とモノマー(B)のモル比率(モノマー(A)のモル比率:モノマー(B)のモル比率)が99:1~85:15であることを特徴とする分岐状ポリアミド樹脂粉粒体。
【0015】
一般的に、三次元造形物の反りを抑制する手段としては、上述した架橋剤などを用いて結晶化速度を制御する方法が知られている。これに対し、本願発明者らは三次元造形物の反りのメカニズムに着目すると、分子鎖への分岐構造の導入によってポリアミドのアミド結合に起因する分子鎖間水素結合による分子配向を阻害させることで、反りを抑制できると着想した。しかし、一般的に分子鎖に分岐構造を導入すると三次元造形物中の非晶構造の比率も上昇し、逆に造形物の強度低下が発生する傾向にある。
【0016】
そこで、本願発明者らは、微粒子状であり、かつ特定のモノマー構造からなる分岐状ポリアミド樹脂粉粒体を用いることにより、上述のトレードオフを解消し、適度にコントロールされた結晶化速度を有し、かつ粉末床溶融結合法3Dプリンタに使用する際に、平滑な粉面を形成することができ、レーザー照射時の反りがなく、造形物の引張強度を向上させられることを見出し、本発明に至った。
【0017】
[分岐状ポリアミド樹脂]
本発明に用いる分岐状ポリアミド樹脂のモノマー(A)とは、アミノカルボン酸、ラクタム、または、ジアミンおよびジカルボン酸のいずれかであり、重合することでポリアミドを生成する化合物を指す。具体的なモノマー(A)を例示すると、4-ブタンラクタム、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタム類、4-アミノ酪酸、ε-アミノカプロン酸、12-アミノドデカン酸などのアミノ酸類、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、1,10-ジアミノデカン、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、デカンジアミン、ウンデカンジアミン、ドデカンジアミンなどのジカルボン酸とジアミン類などがあげられる。これらのモノマー(A)は、本発明を損なわない範囲であれば2種以上を使用してもよい。また、これらの成分に共重合することができる他の成分を含んでいても構わない。
【0018】
本発明に用いる分岐状ポリアミド樹脂のモノマー(B)とは、モノマー(A)の反応性官能基と反応しうる官能基を3つ以上含み、モノマー(A)と重合することで分岐構造を形成する化合物を指す。モノマー(A)の反応性官能基と反応しうる官能基としては、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基などがあげられる。具体的なモノマー(B)を例示すると、L-リジン、D-リジン、DL-リジン、L-アスパラギン酸、D-アスパラギン酸、DL-アスパラギン酸、セリン、システイン、L-グルタミン酸、D-グルタミン酸、DL-グルタミン酸、5-アミノイソフタル酸、5-アミノウンデカン二酸、3,5-ジアミノ安息香酸、3,4-ジアミノ安息香酸、4,4′-ジアミノビフェニル-3,3′-ジカルボン酸、イソシアヌル酸トリグリシジルなどがあげられる。これらのモノマー(B)は、本発明を損なわない範囲であれば2種以上を使用してもよい。
【0019】
本発明の分岐状ポリアミド樹脂とは、アミド基を含む構造のポリマーを示す。分岐状ポリアミド樹脂のモノマー(A)とモノマー(B)をポリアミドに重合する方法としては、例えばアミノ酸の重縮合反応、ラクタム類の水などによる加水分解後の開環重合、ジカルボン酸とジアミン、またはそれらの塩の重縮合反応など、またはこれらの組み合わせによって製造される。経済的な観点から、加水分解型の開環重合が好ましく、ラクタム類を加水分解で開環重合する方法としては、公知の方法であれば制限されないが、水の共存下に加圧し、ラクタムの加水分解を促進しながらアミノ酸を生成させ、その後、水を除去しながら開環重合と重縮合反応を行う方法が好ましい。
【0020】
本発明のモノマー(A)とモノマー(B)を重合することで得られる分岐状ポリアミド樹脂の具体的な例としては、ポリアミド4、ポリアミド5、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド44、ポリアミド46、ポリアミド410、ポリアミド411、ポリアミド412、ポリアミド56、ポリアミド510、ポリアミド511、ポリアミド512、ポリアミド64、ポリアミド65、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド611、ポリアミド612、ポリアミド104、ポリアミド106、ポリアミド1010、ポリアミド1011、ポリアミド1012、ポリアミド124、ポリアミド125、ポリアミド126、ポリアミド1210、ポリアミド1212、ポリアミド6T、ポリアミド10T、ポリアミド12T、ポリアミド6I、ポリアミド10I、ポリアミド12Iなど、また例えばポリアミド6/ポリアミド66共重合体のような、これらのポリアミドをさらに共重合したものなどが挙げられる。
【0021】
本発明の分岐状ポリアミド樹脂を構成するモノマー(A)とモノマー(B)のモル比率は、モノマー(A):モノマー(B)が99:1から85:15の範囲である。モノマー(A)とモノマー(B)のモル比率は、分岐状ポリアミド樹脂を重合する際の、モノマー(A)とモノマー(B)の仕込み量から算出する。モノマー(B)のモル比率が99:1より小さいと十分に結晶化速度を下げる効果が得られず、モノマー(B)のモル比率が85:15より大きいと、分岐状ポリアミド樹脂粉末の結晶化度が著しく低下し、PBF法3Dプリンタによって造形した三次元造形物の引張強度をはじめとした三次元造形物の種々の物性が低下する。
【0022】
本発明の分岐状ポリアミド樹脂の融点と降温結晶化温度の差は、50℃以上であることが好ましい。分岐状ポリアミド樹脂の融点と降温結晶化温度の差が50℃未満であるとレーザー光照射により溶融した樹脂が結晶化することで収縮・反りが発生する恐れがある。粉末床溶融結合法においては、溶融樹脂に反りが発生すると、溶融樹脂の上部に粉末層を積層する際に反った溶融樹脂が引き摺られ、所望の形状の三次元造形物を得ることができない場合がある。ここで降温結晶化温度は、分岐状ポリアミド樹脂を窒素雰囲気中、示差走査熱量計を用いて、50℃から融点よりも40℃高い温度まで20℃/minで昇温後、5分間保持し、50℃まで20℃/minで降温した際の結晶化時の発熱ピークの頂点温度を指す。複数のピークを有する場合は最も高温側のピークの頂点を融点および降温結晶化温度とした。
【0023】
[分岐状ポリアミド樹脂粉粒体]
本発明の分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の平均粒径は、1μmを超え100μm以下である必要がある。かかる分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の平均粒径の下限は5μmであることが好ましく、より好ましくは10μmである。また、好ましい平均粒径の上限は95μmであり、より好ましくは、90μmであり、さらに好ましくは80μmである。分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の平均粒径が100μmを超えると、粉末床溶融結合法3Dプリンタでの粉末積層時に均一な粉面を形成することができない。また、分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の平均粒径が1μm未満である場合にも、粉粒体の凝集が発生し、同様に均一な粉面を形成することができない。
【0024】
本発明における分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の平均粒径とは、マイクロトラック法によるレーザーの散乱光を解析して得られる微粒子の総体積を100%として累積カーブを求め、小粒径側からの累積カーブが50%となるとなる粒径(d50)である。
【0025】
本発明における分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の真球度は、粉体流動性の観点から0.80以上であることが好ましい。分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の真球度は、走査型電子顕微鏡にて粒子を観察し、粒子の長径をa、短径をbとしたときに、無作為に選んだ30個の粒子について以下の数式にて算出した。
【数1】
【0026】
なお、S:真球度、n:測定数30とする。真球度の好ましい下限は0.82であり、より好ましくは0.85である。特に高い真球度を有する分岐状ポリアミド樹脂粉粒体を使用して粉末床溶融結合法3Dプリンタによって三次元造形物を作製する場合には、粉末を敷きつめる際に非常に平滑な粉面を形成することができるため好ましい。
【0027】
[分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の製造方法]
本発明における分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の製造方法は、特に限定されるものではないが、溶融重合によって得られたポリアミド樹脂ペレットを粉砕する方法や、モノマー(A)およびモノマー(B)と相溶するポリマー(C)の存在下で所定の回転数で攪拌しながら重合を行い、生成した分岐状ポリアミド樹脂がポリマー(C)と相分離することで粒子状に析出する方法などがあげられる。
【0028】
溶融重合によって分岐状ポリアミド樹脂ペレットを得る方法においては、重合温度は分岐状ポリアミド樹脂の融点+20℃以上であり融点+100℃以下であることが好ましい。重合時の圧力は常圧または減圧であることが好ましく、反応速度を向上させるためには減圧であることがより好ましい。減圧で重合する際の圧力はゲージ圧で-80kPa以上-10kPa以下であることが好ましい。
【0029】
溶融重合によって得られた分岐状ポリアミド樹脂ペレットは、残存するモノマー(A)およびモノマー(B)を除去するために洗浄を行うことができる。分岐状ポリアミド樹脂ペレットの洗浄は公知の方法で実施することが可能である。分岐状ポリアミド樹脂ペレットへの付着物や内包物を除去するための洗浄方法としては、リスラリー洗浄などを使用することができ、ペレット中に残存するモノマー(A)およびモノマー(B)を効率よく除去するためには加温することが好ましい。洗浄で使用する溶媒としては、分岐状ポリアミド樹脂ペレットを溶解せず、モノマー(A)およびモノマー(B)を溶解する溶媒であれば制限はなく、経済性の観点からメタノール、エタノール、イソプロパノールや水が好ましく、最も水が好ましい。
【0030】
分岐状ポリアミド樹脂ペレットを粉砕する方法は特に限定されるものではないが、-40℃以下に冷却し低温脆性を利用した脆性破壊による粉砕を行うことで効率よく分岐状ポリアミド樹脂粉粒体を得ることができる。粉砕処理の方法に特に制限は無く、ジェットミル、ビーズミル、ハンマーミル、ボールミル、サンドミル、ターボミル、ピンミルが挙げられる。好ましくは、ターボミル、ジェットミルなどの乾式粉砕である。-40℃以下に冷却する方法としては、粉砕前に液体窒素やドライアイスで冷却する方法や、原料投入口から粉砕機までを液体窒素やドライアイスで冷却する方法などが挙げられる。粉砕後の分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の平均粒径は粉砕時間を調整することによってコントロールすることができる。
【0031】
モノマー(A)およびモノマー(B)と相溶するポリマー(C)の存在下で所定の回転数で攪拌しながら重合を行い、生成した分岐状ポリアミド樹脂がポリマー(C)と相分離することで粒子状に析出する方法においては、重合温度はポリアミド樹脂の融点-50℃以上であり融点+20℃以下であることが好ましい。重合時の圧力は常圧であることが好ましい。
【0032】
分岐状ポリアミド樹脂粉粒体を重合・析出させた後に残存するモノマー(A)およびモノマー(B)、ポリマー(C)を除去するために洗浄を行うことができる。分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の洗浄は公知の方法で実施することが可能である。分岐状ポリアミド樹脂粉粒体への付着物や内包物を除去するための洗浄方法としては、リスラリー洗浄などを使用することができ、適宜加温しても構わない。洗浄で使用する溶媒としては、分岐状ポリアミド樹脂粉粒体を溶解せず、モノマー(A)およびモノマー(B)やポリマー(C)を溶解する溶媒であれば制限はなく、経済性の観点からメタノール、エタノール、イソプロパノールや水が好ましく、最も水が好ましい。
【0033】
ポリマー(C)は、重合開始時点で分岐状ポリアミド樹脂のモノマー(A)およびモノマー(B)と相溶するが、重合後にポリアミドとは相溶しないポリマーである。相溶とは、重合を開始する温度や圧力の条件下でポリマー(C)とモノマー(A)およびモノマー(B)が均一に溶解しているかどうかで判断する。ポリマー(C)とポリアミド樹脂との非相溶は、重合後における温度や圧力の条件下で懸濁液または2相に分離しているかどうかで判断する。均一溶液や懸濁液、2相分離であるか否かの判断は、反応槽を目視で確認することで可能である。析出後の分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の平均粒径は、重合時の攪拌回転数やモノマー(A)およびモノマー(B)とポリマー(C)の仕込み重量比率、ポリマー(C)の分子量の調整によってコントロールすることができる。
【0034】
ポリマー(C)はモノマー(A)およびモノマー(B)と非反応性であることが、均一な溶液から分岐状ポリアミド粉粒体を析出させる観点から好ましい。具体的には、ポリマー(C)がポリアミド中に含まれるアミド基を形成するカルボキシル基やアミノ基と反応する極性基を有していない、またはカルボキシ基やアミノ基との反応性が低い極性基を有しているものであることが好ましい。カルボキシ基やアミノ基と反応する極性基としては、アミノ基、カルボキシ基、エポキシ基、イソシアネート基などが挙げられる。カルボキシ基やアミノ基との反応性の低い極性基としては、水酸基、水硫基などが挙げられるが、中でも水酸基が最も好ましい。これらは架橋反応を抑制する観点から、ポリマー(C)中の極性基が4個以下であることが好ましく、3個以下がより好ましく、2個以下が最も好ましい。
【0035】
このようなポリマー(C)の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリペンタメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体、ポリエチレングリコール-ポリテトラメチレングリコール共重合とこれらの片末端、または両末端の水酸基をメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などで封鎖したアルキルエーテル体、オクチルフェニル基などで封鎖したアルキルフェニルエーテル体などが挙げられる。特に、モノマー(A)およびモノマー(B)との相溶性に優れ、高濃度のポリアミドの単量体を用いてポリアミド粉粒体を製造できることから、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、およびこれらのアルキルエーテル体であることが好ましく、モノマー(A)を加水分解による開環重合時に使用する水との相溶性にも優れる観点から、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体、およびこれらのアルキルエーテル体がさらに好ましく、ポリエチレングリコールが最も好ましい。これらは、本発明を損なわない範囲で2種以上を同時に使用しても構わない。重合時のポリマー(C)の配合量はモノマー(A)およびモノマー(B)とポリマー(C)の合計100質量部に対し、10質量部以上70質量部未満の範囲であることが好ましい。また、モノマー(A)およびモノマー(B)とポリマー(C)の他に、これらの相溶性を改善するために水を存在させても良く、水の量としてはモノマー(A)およびモノマー(B)とポリマー(C)の合計100質量部に対し、1質量部以上600質量部以下が好ましい。
【0036】
上記の分岐状ポリアミド樹脂ペレットまたは分岐状ポリアミド樹脂粉粒体を得る方法においては、必要に応じて重合時に重合促進剤を添加することができる。重合促進剤としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸およびこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などの無機系リン化合物などが好ましく、特に亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウムが好適に用いられる。重合促進剤は、ポリアミド樹脂の原料100質量部に対して、0.001~1質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0037】
さらに、分岐状ポリアミド樹脂または分岐状ポリアミド樹脂粉粒体を重合する際に、末端封鎖剤(酢酸、安息香酸等のモノカルボン酸、アニリン等のモノアミン)や酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)を配合してもよい。
【実施例
【0038】
以下、本発明の方法を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、各種測定法は以下の通りである。
【0039】
[分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の平均粒径]
分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の平均粒径は、MicrotracBEL製レーザー回折・散乱方式粒度分布測定装置MT3300EX2を用い、分散媒としてポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル(商品名ノナール912A 東邦化学工業製 以後、ノナール912Aと称す)の0.5重量%水溶液を用いて測定した。具体的にはマイクロトラック法によるレーザーの散乱光を解析して得られる微粒子の総体積を100%として累積カーブを求め、小粒径側からの累積カーブが50%となる点の粒径(メジアン径:d50)を分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の平均粒径とした。
【0040】
[分岐状ポリアミド樹脂の融点、降温結晶化温度]
分岐状ポリアミド樹脂の降温結晶化温度は、パーキンエルマー製DSC7を用いて粉粒体約5mgを、窒素雰囲気中、下記測定条件を用いて測定した。
・50℃×1分間保持
・50℃から融点より40℃高い温度まで昇温、昇温速度20℃/min
・5分間保持
・融点より40℃高い温度から50℃まで降温、降温速度20℃/min
昇温時の溶融に伴う吸熱ピークの頂点を融点、降温時の結晶化に伴う発熱ピークの頂点を降温結晶化温度とした。
【0041】
[分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の真球度]
分岐状ポリアミド樹脂粉粒体の真球度は、日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡にて粒子を観察し、無作為に選んだ30個の粒子について下記の数式として算出した。
【数2】
【0042】
なお、S:真球度、a:粒子の長径、b:粒子の短径、n:測定数30とする。
【0043】
[三次元造形物の引張強度]
分岐状ポリアミド樹脂粉粒体を使用して作製した三次元造形物の引張強度は、粉末床溶融結合法3Dプリンタ((株)アスペクト製Rafael2 300HT)を使用してISO1A型試験片を作製し、万能試験機(株式会社エーアンドデイ製テンシロン万能試験機RTG―1250)にて測定した。測定方法はISO-527に従い、5回測定した平均値を引張強度とした。
【0044】
[ポリマー(C)の数平均分子量]
ポリマー(C)の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法を用い、ポリエチレングリコールによる校正曲線と対比させて分子量を算出した。測定サンプルは、ポリマー(C):約3mgを水:約6gに溶解し調整した。
装置:株式会社島津製作所製 LC-10Aシリーズ
カラム:東ソー株式会社製TSKgelG3000PWXL
移動相:100mmol/L塩化ナトリウム水溶液
流速:0.8mL/min
温度:40℃
検出:示差屈折率計
【0045】
[実施例1]
撹拌機付きの3Lオートクレーブに、ε-カプロラクタム566g(5モル)、L-リジン7.38g(0.05モル)、安息香酸3.95g(0.03モル)、及びイオン交換水141g(7.85モル)を仕込んだ。モノマー(A)とモノマー(B)のモル比率は、モノマー(A):モノマー(B)=99:1であった。槽内を窒素置換してから密閉して120rpmで攪拌しながら内温200℃まで約120分間かけて徐々に加熱し120分間保持した。この時の内圧はゲージ圧1.0MPaであった。
【0046】
次に、60分間かけて内温240℃まで加熱すると同時に、放圧バルブの開度を制御することで水を留出させながら常圧まで放圧した。その後、槽内をゲージ圧-20kPaに減圧し、1時間保持して重合を行った。1時間経過後に撹拌機を停止し、窒素を封入して槽内をゲージ圧0.2MPaに加圧し、口金から吐出されたストランドを、水を張った冷却バスにくぐらせて冷却し、カッターにて引取りながら1~3mmのペレット長に切断することで分岐状ポリアミド樹脂(1)のペレットを得た。得られた分岐状ポリアミド樹脂(1)の融点は217℃、降温結晶化温度は165℃であった。分岐状ポリアミド樹脂(1)のペレットを液体窒素で-192℃に冷却し、ターボミルで平均粒径50μmとなるように粉砕して分岐状ポリアミド樹脂粉粒体(1)を得た。得られた分岐状ポリアミド樹脂粉粒体(1)の真球度は0.80であった。この分岐状ポリアミド樹脂粉粒体(1)を使用して粉末床溶融結合法3Dプリンタ((株)アスペクト製Rafael2 300HT)によって三次元造形物を作製した。粉末積層時の粉面荒れやレーザー照射時の反りは発生せず良好な三次元造形物が得られた。三次元造形物の引張強度は70MPaであった。
【0047】
[実施例2]
L-リジンの仕込み量を38.5g(0.263モル)とした以外は実施例1と同様にして分岐状ポリアミド樹脂(2)のペレットを得た。モノマー(A)とモノマー(B)のモル比率は、モノマー(A):モノマー(B)=95:5であった。得られた分岐状ポリアミド樹脂(2)の融点は208℃、降温結晶化温度は153℃であった。分岐状ポリアミド樹脂(2)のペレットを液体窒素で-192℃に冷却し、ターボミルで平均粒径50μmとなるように粉砕して分岐状ポリアミド樹脂粉粒体を得た。得られた分岐状ポリアミド樹脂粉粒体(2)の真球度は0.81であった。この分岐状ポリアミド樹脂粉粒体(2)を使用して粉末床溶融結合法3Dプリンタ((株)アスペクト製Rafael2 300HT)によって三次元造形物を作製した。粉末積層時の粉面荒れやレーザー照射時の反りは発生せず良好な三次元造形物が得られた。三次元造形物の引張強度は66MPaであった。
【0048】
[実施例3]
L-リジンの仕込み量を99.7g(0.682モル)とした以外は実施例1と同様にして分岐状ポリアミド樹脂(5)のペレットを得た。モノマー(A)とモノマー(B)のモル比率は、モノマー(A):モノマー(B)=88:12であった。得られた分岐状ポリアミド樹脂(3)の融点は202℃、降温結晶化温度は146℃であった。分岐状ポリアミド樹脂(3)のペレットを液体窒素で-192℃に冷却し、ターボミルで平均粒径50μmとなるように粉砕して分岐状ポリアミド樹脂粉粒体を得た。得られた分岐状ポリアミド樹脂粉粒体(3)の真球度は0.81であった。この分岐状ポリアミド樹脂粉粒体(3)を使用して粉末床溶融結合法3Dプリンタ((株)アスペクト製Rafael2 300HT)によって三次元造形物を作製した。粉末積層時の粉面荒れやレーザー照射時の反りは発生せず良好な三次元造形物が得られた。三次元造形物の引張強度は64MPaであった。
【0049】
[実施例4]
撹拌機付きの3Lオートクレーブに、ε-アミノカプロン酸200g(1.52モル)、L-リジン11.7g(0.08モル)、ポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製1級ポリエチレングリコール6,000、重量平均分子量7,700)800g、及びイオン交換水1000g(55.6モル)を仕込んだ。モノマー(A)とモノマー(B)のモル比率は、モノマー(A):モノマー(B)=95:5であった。槽内を窒素置換してから密閉して30rpmで攪拌しながら内温210℃まで加熱した。この際、系の圧力がゲージ圧1MPaに達した後は、内圧がゲージ圧1MPaを維持するように水蒸気を放圧させながら制御した。
【0050】
次に、放圧バルブの開度を制御し、50分間かけて水を留出させながら常圧まで放圧した。その後、窒素を通気しながら1時間保持して重合を行った。1時間経過後に撹拌機を停止し、内容物を2Lの水に吐出することで分岐状ポリアミド樹脂粉粒体(4)スラリーを得た。得られたスラリーのろ過を行い、ろ上物に水を2000mL加え、80℃で洗浄を行った。その後200μmの篩を通過させたスラリー液をろ過して単離したろ上物を80℃で12時間真空乾燥させ、分岐状ポリアミド樹脂粉粒体(4)を得た。得られた分岐状ポリアミド樹脂粉粒体(4)の融点は209℃、降温結晶化温度は156℃、平均粒径は48μm、真球度は0.94であった。この分岐状ポリアミド樹脂粉粒体(4)を使用して粉末床溶融結合法3Dプリンタ((株)アスペクト製Rafael2 300HT)によって三次元造形物を作製した。粉末積層時の粉面は非常に平滑でありレーザー照射時の反りは発生せず良好な三次元造形物が得られた。三次元造形物の引張強度は74MPaであった。
【0051】
[比較例1]
L-リジンを仕込まなかったこと以外は実施例1と同様にしてポリアミド樹脂(5)のペレットを得た。モノマー(A)とモノマー(B)のモル比率は、モノマー(A):モノマー(B)=100:0であった。得られたポリアミド樹脂(5)の融点は219℃、降温結晶化温度は176℃であった。ポリアミド樹脂(5)のペレットを液体窒素で-192℃に冷却し、ターボミルで平均粒径50μmとなるように粉砕してポリアミド樹脂粉粒体を得た。得られたポリアミド樹脂粉粒体(5)の真球度は0.81であった。このポリアミド樹脂粉粒体(5)を使用して粉末床溶融結合法3Dプリンタ((株)アスペクト製Rafael2 300HT)によって三次元造形物を作製した。粉末積層時の粉面荒れは発生しなかったが、レーザー照射時の反りにより三次元造形物が得られなかった。
【0052】
[比較例2]
分岐状ポリアミド樹脂粉粒体をターボミルで平均粒径が200μmとなるように粉砕したこと以外は実施例1と同様にして分岐状ポリアミド樹脂粉粒体(6)を得た。得られた分岐状ポリアミド樹脂粉粒体(6)の真球度は0.73であった。この分岐状ポリアミド樹脂粉粒体(6)を使用して粉末床溶融結合法3Dプリンタ((株)アスペクト製Rafael2 300HT)によって三次元造形物を作製した。粉末積層時の粉面荒れが発生し、三次元造形物が得られなかった。
【0053】
[比較例3]
L-リジンの仕込み量を150g(1.02モル)とした以外は実施例1と同様にして分岐状ポリアミド樹脂(7)のペレットを得た。モノマー(A)とモノマー(B)のモル比率は、モノマー(A):モノマー(B)=83:17であった。得られた分岐状ポリアミド樹脂(7)の融点は199℃、降温結晶化温度は142℃であった。分岐状ポリアミド樹脂(7)のペレットを液体窒素で-192℃に冷却し、ターボミルで平均粒径50μmとなるように粉砕して分岐状ポリアミド樹脂粉粒体(7)を得た。得られた分岐状ポリアミド樹脂粉粒体(7)の真球度は0.82であった。この分岐状ポリアミド樹脂粉粒体(7)を使用して粉末床溶融結合法3Dプリンタ((株)アスペクト製Rafael2 300HT)によって三次元造形物を作製した。粉末積層時の粉面荒れやレーザー照射時の反りは発生せず良好な三次元造形物が得られた。三次元造形物の引張強度は46MPaであった。
【0054】
[比較例4]
比較例1と同様にして得たポリアミド樹脂粉粒体(2)に対して、5wt%のグリシドキシプロピルトリメトキシシランSilquestA187(モメンティブパフォーマンスマテリアルズ社製)をペースト状になるまで混合し、得られたペーストを密閉容器に入れてオーブンにて80℃で3時間保持した後、130℃で8時間保持することにより、シランカップリング剤のグラフトによる分岐状ポリアミド樹脂粉粒体(8)を得た。得られた分岐状ポリアミド樹脂粉粒体(8)の融点は219℃、降温結晶化温度は173℃、平均粒径は50μm、真球度は0.81であった。この分岐状ポリアミド樹脂粉粒体(8)を使用して粉末床溶融結合法3Dプリンタ((株)アスペクト製Rafael2 300HT)によって三次元造形物を作製した。粉末積層時の粉面荒れは発生しなかったが、レーザー照射時の反りにより三次元造形物が得られなかった。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の分岐状ポリアミド樹脂粉粒体は、適度にコントロールされた結晶化速度を有するため、粉末床溶融結合法3Dプリンタなどに好適に利用できる。さらに、粉末床溶融結合法3Dプリンタに使用する際に、平滑な粉面を形成することができ、レーザー照射時の反りがなく、造形物の引張強度が良好な造形物を得ることができる。