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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】液体噴射装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20241203BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
B41J2/14 605
B41J2/14 301
B41J2/01 451
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020190758
(22)【出願日】2020-11-17
(65)【公開番号】P2022079892
(43)【公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】片倉 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】村山 寿郎
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-30327(JP,A)
【文献】特開2017-132211(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0167807(US,A1)
【文献】特開2015-131475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の圧力室と、前記第1の圧力室の内容積を変化させる第1の圧電素子と、前記第
1の圧力室に連通するノズルと、を有する液体吐出部と、
第2の圧力室と、第2の圧電素子と、を有する圧力振動部と、
前記第1の圧力室と前記第2の圧力室とに連通する第1の共通流路と、
前記第1の圧電素子に供給する吐出駆動信号と、前記第2の圧電素子に供給する検出駆
動信号とを生成する駆動信号生成部と、
前記検出駆動信号が供給された後の前記第2の圧電素子の起電力の変化に基づいて、前
記第2の圧力室に充填された液体の残留振動を検出する振動検出部と、
を備え、
前記残留振動が検出される前記圧力振動部の前記第2の圧力室と前記第1の共通流路と
の間における流路の粘性抵抗が、前記液体吐出部の前記第1の圧力室と前記第1の共通流
路との間における流路の粘性抵抗よりも、小さい
液体噴射装置。
【請求項2】
第1の圧力室と、前記第1の圧力室の内容積を変化させる第1の圧電素子と、前記第1
の圧力室に連通するノズルと、を有する液体吐出部と、
第2の圧力室と、第2の圧電素子と、を有する圧力振動部と、
前記第1の圧力室と前記第2の圧力室とに連通する第1の共通流路と、
前記第1の圧電素子に供給する吐出駆動信号と、前記第2の圧電素子に供給する検出駆
動信号とを生成する駆動信号生成部と、
前記検出駆動信号が供給された後の前記第2の圧電素子の起電力の変化に基づいて、前
記第2の圧力室に充填された液体の残留振動を検出する振動検出部と、
を備え、
前記残留振動が検出される前記圧力振動部の前記第2の圧力室と前記第1の共通流路と
の間における流路の断面積は、前記液体吐出部の前記第1の圧力室と前記第1の共通流路
との間における流路の断面積より、大きい
液体噴射装置。
【請求項3】
第1の圧力室と、前記第1の圧力室の内容積を変化させる第1の圧電素子と、前記第1
の圧力室に連通するノズルと、を有する液体吐出部と、
第2の圧力室と、第2の圧電素子と、を有する圧力振動部と、
前記第1の圧力室と前記第2の圧力室とに連通する第1の共通流路と、
前記第1の圧電素子に供給する吐出駆動信号と、前記第2の圧電素子に供給する検出駆
動信号とを生成する駆動信号生成部と、
前記検出駆動信号が供給された後の前記第2の圧電素子の起電力の変化に基づいて、前
記第2の圧力室に充填された液体の残留振動を検出する振動検出部と、
を備え、
前記残留振動が検出される前記圧力振動部の前記第2の圧力室と前記第1の共通流路と
の間における流路の長さは、前記液体吐出部の前記第1の圧力室と前記第1の共通流路と
の間における流路の長さより、短い
液体噴射装置。
【請求項4】
前記第2の圧力室と前記第1の共通流路との間における流路の断面積は、前記第1の圧
力室と前記第1の共通流路との間における流路の断面積より、大きい
請求項3に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記第1の圧力室と前記第2の圧力室とに連通する第2の共通流路を有し、
前記第1の共通流路と前記第2の共通流路とで圧力差が生じる
請求項1乃至4のいずれかに記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記第2の圧力室にはノズルが連通しない
請求項1乃至5のいずれかに記載の液体噴射装置。
【請求項7】
前記第2の圧力室にはノズルが連通せず、
前記第2の圧力室と前記第1の共通流路との間における流路の長さは、前記第1の圧力
室と前記第1の共通流路との間における流路の長さ以上である、
請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項8】
前記第2の圧力室にはノズルが連通せず、
前記第2の圧力室と前記第1の共通流路との間における流路の断面積は、前記第1の圧
力室と前記第1の共通流路との間における流路の断面積以下である、
請求項3に記載の液体噴射装置。
【請求項9】
前記第2の圧力室にはノズルが連通せず、
前記第2の圧力室と前記第2の共通流路との間に絞りが設けられた
請求項5に記載の液体噴射装置。
【請求項10】
前記液体吐出部の固有振動周期と前記圧力振動部の固有振動周期とが実質的に等しい、
請求項6乃至9のいずれかに記載の液体噴射装置。
【請求項11】
前記振動検出部が検出した前記第2の圧力室に充填された液体の残留振動に基づいて前
記第1の圧電素子に供給する吐出駆動信号が生成される
請求項1乃至10の何れかに記載の液体噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は、液体、典型的にはインクを、圧力室の内壁に設けられた圧電素子を利用して、圧力室に連通するノズルから噴射(吐出)させる。圧電素子は、印加電圧に応じて変位する。このため、液体吐出装置は、当該圧電素子に例えばパルス状の駆動信号を印加して、圧力室の内壁を変位させ、当該圧力室の内容積を縮小させることで、当該圧力室に充填されたインクを押し出し、ノズルから吐出させて、媒体Pに着弾させる。これにより、液体噴射装置は、媒体Pに所望の画像を形成することができる。
【0003】
このような圧電素子を用いた液体噴射装置において、駆動信号の印加後に、圧電素子によって出力される逆起電力(残留振動)を解析し、駆動信号を修正する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-351704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、液体の粘性が高い状態では、残留振動が速く減衰して、残留振動の解析が困難となる、という課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る液体噴射装置は、第1の圧力室と、前記第1の圧力室の内容積を変化させる第1の圧電素子と、前記第1の圧力室に連通するノズルと、を有する液体吐出部と、第2の圧力室と、第2の圧電素子と、を有する圧力振動部と、前記第1の圧力室と前記第2の圧力室とに連通する第1の共通流路と、前記第1の圧電素子に供給する吐出駆動信号と、前記第2の圧電素子に供給する検出駆動信号とを生成する駆動信号生成部と、前記検出駆動信号が供給された後の前記第2の圧電素子の起電力の変化に基づいて、前記第2圧力室に充填された液体の残留振動を検出する振動検出部と、を備え、前記第2の圧力室と前記第1の共通流路との間における流路の粘性抵抗が、前記第1の圧力室と前記第1の共通流路との間における流路の粘性抵抗よりも、小さい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態に係る液体噴射装置の概略構成を示す図である。
図2】液体噴射装置の電気的な構成を示すブロック図である。
図3】液体噴射装置におけるプリントヘッド等の構成を示す図である。
図4】吐出駆動信号の一例を示す図である。
図5】検出駆動信号等の一例を示す図である。
図6】検出信号の波形の一例を示す図である。
図7】検出信号の波形の一例を示す図である。
図8】検出信号の波形の一例を示す図である。
図9】検出信号の波形の一例を示す図である。
図10】第2実施形態に係る液体噴射装置のプリントヘッドの構成を示す図である。
図11】プリントヘッドの変形例を示す図である。
図12】プリントヘッドの変形例を示す図である。
図13】プリントヘッドの変形例を示す図である。
図14】プリントヘッドの変形例を示す図である。
図15】プリントヘッドの変形例を示す図である。
図16】プリントヘッドの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて説明する。用いる図面は説明の便宜上のものである。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0009】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る液体噴射装置1の概略構成を示す図である。液体噴射装置1は、1または複数個のプリントヘッド20を含むキャリッジCrを往復動させ、プリントヘッド20に設けられたノズルから、液体の一例としてインクを吐出することで、媒体Paに画像を形成するインクジェットプリンターである。
【0010】
以下の説明では、キャリッジCrの移動方向のうち、図において右方向をX方向、媒体Paが搬送される方向をY方向、インクが吐出される方向をZ方向として説明する。なお、X方向、Y方向、及びZ方向は互いに直交する方向とする。ここで、媒体Paとしては、印刷用紙、樹脂フィルム、布帛等の任意の印刷対象を用いることができる。
【0011】
液体噴射装置1は、液体容器5、制御機構10、キャリッジCr、移動機構30および搬送機構40を含む。
液体容器5には、媒体Paに吐出されるインクの1または複数の種類が貯留される。液体容器5に貯留されるインクの種類としては、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、レッド、グレー等の色彩が挙げられる。また、インクが貯留される液体容器5としては、インクカートリッジや、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、インクの補充が可能なインクタンク等が用いられる。
【0012】
ヘッドユニットHUは、1または複数個のプリントヘッド20を含む。なお、図1では、説明の便宜上、ヘッドユニットHUに含まれるプリントヘッド20の個数を「4」とする。プリントヘッド20の個数は「4」に限られず、1以上であればよい。
キャリッジCrは、移動機構30に含まれる無端ベルト32に固定されている。なお、液体容器5は、キャリッジCrに搭載されていてもよいし、キャリッジCr以外の場所に設けられていてもよい。液体容器5とヘッドユニットHUとは、インク供給管で接続されている。これにより、液体容器5に貯留されているインクがヘッドユニットHUのプリントヘッド20に供給される。
なお、説明を簡略化するために、本実施形態では、1個のプリントヘッド20に供給されるインクについては同一の種類とする。
【0013】
制御機構10は、各要素を制御するための複数の制御信号を生成する。具体的には、制御機構10は、移動機構30によるキャリッジCrの移動を制御するための制御信号Ctrl-C、および、搬送機構40による媒体Pの搬送を制御するための制御信号Ctrl-Tのほか、プリントヘッド20からインクを吐出させるための各種の信号を出力する。なお、プリントヘッド20への信号については後述する。
【0014】
移動機構30は、キャリッジモーター31、無端ベルト32、駆動ローラーDRおよび従動ローラーFRを含む。キャリッジモーター31は、駆動ローラーDRを回転させ、無端ベルト32は、駆動ローラーDRおよび従動ローラーFRとの間に張架される。無端ベルト32は、キャリッジモーター31の回転にしたがって移動する。このため、キャリッジモーター31が駆動ローラーDRを回転させると、無端ベルト32に固定されたキャリッジCrがX方向および当該X方向の反対方向で往復動する。
したがって、制御機構10が制御信号Ctrl-Cを出力することによって画像形成における主走査の位置が制御される。
【0015】
搬送機構40は、搬送モーター41および搬送ローラー42を含む。搬送モーター41は、制御機構10から入力される制御信号Ctrl-Tに基づいて動作し、搬送ローラー42は、搬送モーター41の動作に従って回転する。
このため、制御機構10が制御信号Ctrl-Tを出力することによって、搬送ローラー42が回転し、媒体PaがY方向に搬送されるので、画像形成における副走査の位置が制御される。
【0016】
このように液体噴射装置1は、搬送機構40による媒体Paの搬送と移動機構30によるキャリッジCrの往復動とに連動して、キャリッジCrに搭載されたプリントヘッド20からインクが吐出される。これにより、媒体Pの表面の任意の位置にインクを着弾させ、媒体Pに所望の画像を形成することができる。
【0017】
図2は、液体噴射装置1の電気的な構成を示すブロック図である。液体噴射装置1は、上述した制御機構10、ヘッドユニットHU、キャリッジモーター31および搬送モーター41を含む。
本実施形態では、上述したようにヘッドユニットHUに4個のプリントヘッド20が設けられる。4個のプリントヘッドは、供給されるインクの種類が異なる場合があるが、構造的にはほぼ同一である。そこで、ある1つのプリントヘッド20に着目して説明し、他のプリントヘッド20についての説明は適宜省略する。
【0018】
制御機構10は、制御部100、駆動信号生成部110および振動検出部130を含む。制御部100は、例えばマイクロコントローラー等のプロセッサーや、半導体メモリ等の記憶回路を含む。このうち、プロセッサーは、例えばCPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の処理回路である。また、記憶回路には、波形データDtおよびDcを記憶する。
【0019】
制御部100は、図示省略されたホストコンピューターから画像データ等の各種の信号Hstを入力し、当該信号Hstに基づいて、各部を制御するためのデータや信号等を生成して、出力する。
【0020】
制御部100は、図示省略された位置センサーによってヘッドユニットHUにおける主走査の位置を取得する。そして、制御部100は、取得したヘッドユニットHUの位置に応じて各種信号を生成し出力する。詳細には、制御部100は、ヘッドユニットHUの往復動を制御するための制御信号Ctrl-Cを生成し、キャリッジモーター31に出力する。制御部100は、媒体Pの搬送を制御するための制御信号Ctrl-Tを生成し、搬送モーター41に出力する。
【0021】
また、制御部100は、信号HstとヘッドユニットHUの位置とに基づいて、プリントヘッド20を制御するため各種の信号を生成して、プリントヘッド20に出力する。プリントヘッド20を制御するため各種の信号には、ノズル毎にインクの吐出/非吐出を指定する制御データSIが含まれる。制御データSIは、例えばノズル毎にインクの吐出/非吐出の指定するデータがクロック信号CLKにしたがってシリアルで出力される。
制御部100は、後述する残留振動の検出の開始を指定する信号Tnvを出力する。
プリントヘッド20を制御するため各種の信号には、制御データSI、クロック信号CLKのほか、制御データSIをラッチ等するために信号も含まれるが、省略されている。
【0022】
駆動信号生成部110は、検出駆動信号生成部113および吐出駆動信号生成部115を含む。検出駆動信号生成部113は、制御部100から出力される波形データDtをアナログ信号に変換し、変換したアナログの源信号をD級増幅して、検出駆動信号Tstとして出力する。吐出駆動信号生成部115は、制御部100から出力される波形データDcをアナログ信号に変換し、変換したアナログの源信号をD級増幅して、吐出駆動信号COMとして出力する。
【0023】
本実施形態では、検出駆動信号生成部113が、波形データDtをアナログに変換し、当該変換後の信号を増幅して検出駆動信号Tstとしているが、波形データDtに依らずにアナログの信号を生成して、検出駆動信号Tstの源信号としてもよい。同様に、吐出駆動信号生成部115が、波形データDcをアナログに変換し、当該変換後の信号を増幅して吐出駆動信号COMとしているが、波形データDcに依らずにアナログの信号を生成して、吐出駆動信号COMの源信号としてもよい。
また、検出駆動信号生成部113における増幅および吐出駆動信号生成部115における増幅は、D級増幅に限られず、例えばA級増幅、B級増幅またはAB級増幅等であってもよい。
【0024】
振動検出部130は、検出駆動信号Tstが出力された後に、プリントヘッド20から出力される検出信号Nvtによって、当該プリントヘッド20における圧力室で発生した残留振動を検出する。また、振動検出部130は、検出した残留振動を解析して、当該圧力室に充填されたインクの粘度を求める。振動検出部130は、当該粘度の情報を制御部100に出力する。
なお、検出駆動信号Tst、吐出駆動信号COM、検出信号Nvtの波形等については、後述する。
【0025】
ヘッドユニットHUに設けられる4個のプリントヘッド20のうち、着目した1つのプリントヘッド20には、検出駆動信号Tst、吐出駆動信号COM、制御データSI等が制御機構10から供給される一方で、当該プリントヘッド20から、検出信号Nvtが振動検出部130に供給される。
【0026】
プリントヘッド20は、吐出用の複数m個の圧電素子211と、検出用の圧電素子222と、を含む。mは2以上の整数であって、インクを吐出するノズルの個数である。すなわち、本実施形態では、圧電素子211はノズルと一対一に対応して設けられる。圧電素子222の構造は圧電素子211の構造とほぼ同様である。ただし、本実施形態において、圧電素子222は、ノズルには対応しない。
【0027】
また、プリントヘッド20は、分配回路280と、m個のスイッチ回路281と、1個のスイッチ回路282と、を含む。
分配回路280は、制御データSIをノズルのm個分ラッチして、当該ラッチした結果にしたがって、m個のスイッチ回路281の制御端に、オンまたはオフを指定する信号を出力する。
スイッチ回路281は、入力端と出力端との間を、制御端に供給された信号にしたがってオン(導通)またはオフ(非導通)にさせる。
スイッチ回路281の入力端には吐出駆動信号COMが供給される。スイッチ回路281の出力端は、圧電素子211における2つの電極のうちの一方に接続される。m個の圧電素子211における2つの電極のうちの他方は共通接続されて、電圧Vbsに保たれる。
【0028】
このような構成において、スイッチ回路281が分配回路280から出力される信号にしたがってオンすれば、吐出駆動信号COMが圧電素子211における一方の電極に印加される。
なお、スイッチ回路281がオフであれば、圧電素子211における一方の電極は、電気的にどの部分にも接続されないハイ・インピーダンス状態となる。ただし、圧電素子211の等価回路は図に示されるようにコンデンサーのような容量素子であるので、圧電素子211における一方の電極は、ハイ・インピーダンス状態となる直前に印加された電圧に保持される。このため、圧電素子211における一方の電極の電圧が不定とはならない。
【0029】
また、分配回路280は、信号TnvがLレベルであれば、接点aを選択し、信号TnvがHレベルであれば、接点bを選択する旨の制御信号を、スイッチ回路282の制御端に出力する。なお、信号TnvがLレベルからHレベルに遷移したときに、残留振動の検出の開始が指定される。
スイッチ回路282は、接点aまたは接点bのいずれかを、制御端に供給された信号にしたがって接点cに接続する双投型である。スイッチ回路282において、接点aには検出駆動信号Tstが供給され、接点bが振動検出部130の入力端に接続され、接点cは圧電素子222における一方の電極に接続される。なお、圧電素子222における他方の電極は、m個の圧電素子211における他方の2つの電極のうちの他方と共通接続されて、電圧Vbsに保たれる。
したがって、信号Tnvが出力されるLレベルであれば、圧電素子222の一端には検出駆動信号Tstが印加され、信号TnvがHレベルに遷移して残留振動の検出の開始が指定されると、圧電素子222による起電力で生じた信号、詳細には残留振動を示す信号が、スイッチ回路282を介し検出信号Nvtとして振動検出部130の入力端に供給される。
【0030】
なお、制御機構10は、着目したプリントヘッド20以外についても、同様に、検出駆動信号Tst、吐出駆動信号COM、制御データSI、クロック信号CLK等をプリントヘッド20毎に出力し、検出信号Nvtをプリントヘッド20毎に入力する。
【0031】
図3は、プリントヘッド20の構成についてインクの供給経路等を含めて示す図である。ポンプ271は、液体容器5に貯留されたインクを吸引し、当該吸引したインクを、インク供給管を介してタンク270に移送する。ポンプ273は、タンク270に移送されたインクを、プリントヘッド20に設けられた共通流路251に移送する。
【0032】
プリントヘッド20は、共通流路251、252、m個の液体吐出部21および1個の圧力振動部22を含む。
共通流路251および252は、m個の液体吐出部21および1個の圧力振動部22に対して共通に設けられる。
このうち、共通流路251は、ポンプ273により移送されたインクを、液体吐出部21または圧力振動部22に供給するために共通に設けられた流路である。共通流路252は、液体吐出部21または圧力振動部22からのインクをタンク270に排出するために共通に設けられた流路である。
【0033】
液体吐出部21は、圧力室210、圧電素子211およびノズルNを含む。m個の液体吐出部21における計m個のノズルNは、Y方向に沿ってほぼ等間隔で一列に配置する。m個の液体吐出部21には一対一に対応して個別流路231および232が設けられる。共通流路251に移送されたインクは、個別流路231を介して液体吐出部21の圧力室210に導かれた後、個別流路232を介して共通流路252に排出される。
圧力振動部22は、圧力室220および圧電素子222を含む。圧力振動部22には、個別流路241および242が設けられる。共通流路251に移送されたインクは、個別流路241を介して圧力振動部22の圧力室220に導かれた後、個別流路242を介して共通流路252に排出される。
共通流路252に排出されたインクは、タンク270に戻される。
【0034】
このような構成において、ノズルNから吐出されなかったインクは、ポンプ273によって、タンク270→共通流路251→個別流路231→液体吐出部21→個別流路232→共通流路252→タンク270という経路で循環する。また、圧力振動部22へのインクは、タンク270→共通流路251→個別流路241→圧力振動部22→個別流路242→共通流路252→タンク270という経路で循環する。
【0035】
図3においてX方向、Y方向およびZ方向は、プリントヘッド20のみについて図1と揃っており、プリントヘッド20へのインクの経路、および、プリントヘッド20からのインクの供給経路についてX方向、Y方向およびZ方向は無関係である。
【0036】
圧電素子211、222は、同等の構成を有し、印加電圧に応じて変位する一方で、逆に変位が加わると、当該変位に応じた起電力を発生させる。すなわち、圧電素子211、222は印加電圧に応じて変位するアクチュエーターであって、かつ、変位に応じた起電力を発生させるセンサーである。
【0037】
インクをノズルNから吐出した後の圧力室210では、押し出し後の戻りに応じて振動が発生する。このような振動は、吐出後に残留することから残留振動とも呼ばれ、インクの粘度に応じて減衰する。
このため、残留振動を検出し、当該検出した残留振動の波形を解析することで、インクの粘度を推定することができる。圧力室に充填されたインクの粘度が求められれば、例えば、インクを吐出させる際の吐出駆動波形を粘度に応じて適切に制御することできる。このような制御によれば、インクを吐出させる量を粘度の変化(温度の変化)によらずにほぼ一定量に保つことが期待できる。
【0038】
残留振動の変位に応じた起電力で生じた残留振動を示す信号検出するための圧力振動部22の構成については、インクを吐出するための構成、すなわち、ノズルNおよび圧力室210を含む液体吐出部21とは別の構成が好ましい。
この理由は、ノズルNを有すると、インクの乾燥や異物による詰まりなどの不具合が発生する原因となるためであり、ノズルNを有しない構成では、このような不具合が発生しないためである。
【0039】
さらに、インクの粘度が高いと、残留振動が極めて早く減衰するので、または、残留振動がほとんど発生しないので、液体吐出部21と同様の構成では残留振動の解析が困難となる。
そこで、本実施形態では、圧力振動部22の圧力室220と共通流路251との間に設けられて、インクを圧力室220に導く個別流路241の形状(長さ、断面積)と、圧力振動部22の圧力室220と共通流路252との間に設けられて、インクを共通流路252に導く個別流路242の形状(長さ、断面積)と、に着目した。
具体的には、個別流路241の形状を、液体吐出部21の圧力室210と共通流路251との間に設けられ、インクを圧力室210に導く個別流路231の形状と、異ならせることにした。また、個別流路242の形状を、液体吐出部21の圧力室210と共通流路252との間に設けられ、インクを共通流路252に導く個別流路232の形状と、異ならせることにした。より具体的には、個別流路241および個別流路242の粘性抵抗を、個別流路231および個別流路232の粘性抵抗よりも小さくして、インクの粘度が高くても 圧力振動部22における圧力室220で発生する残留振動が早く減衰しないようにした。
【0040】
一般に、インクのような液体(流体)が充填された流路、例えば円管に圧力が加わった場合、当該圧力に伴って動こうとする慣性抵抗Mは、次式(1)のように示される。
M=ρL/(πr) …(1)
式(1)で示されるように、慣性抵抗Mは、円管の長さLに比例し、円管の半径rの2乗に反比例する。なお、式(1)において、ρは液体の比重である。
【0041】
また、上記の場合に液体の粘性によって作用する円管の粘性抵抗Rは、次式(2)のように示される。
R=8μL/(πr) …(2)
式(2)においてμは液体の粘度である。粘性抵抗Rは、円管の半径rの4乗に反比例する。なお、流路が円管ではなく角管である場合、特に示さないが、ほぼ同様な傾向にある。
【0042】
式(2)を変形して、粘度μについて解くと、次式(2)のように示すことができる。
μ=R・πr/8L …(3)
【0043】
個別流路241の粘性抵抗を、個別流路231の粘性抵抗よりも小さくするには、個別流路241の断面積を個別流路231の断面積よりも大きくすればよい。また、個別流路242の粘性抵抗を、個別流路232の粘性抵抗よりも小さくするには、個別流路241の断面積を個別流路231の断面積よりも大きくすればよい。
これにより、例えば、液体吐出部21では、インクの粘度が高く残量振動が極めて早く減衰し残留振動の解析が困難の場合であっても、圧力振動部22では液体吐出部21よりも残留振動の減衰が遅くなり、残留振動の解析が可能となる。
ここで、液体吐出部21はノズルNが形成されている一方で、圧力振動部22はノズルを有さない。液体吐出部21に生じる振動は、ノズルN及び圧力室210の形状及び大きさ、並びに、圧力室210に充填されたインクの重量、等により決定される固有振動周期を有する。圧力振動部22に生じる振動は、圧力室220の形状及び大きさ、並びに、圧力室220に充填されたインクの重量、等により決定される固有振動周期を有する。そのため、個別流路231、232の断面積より大きい断面積を有する個別流路241、242の長さが、個別流路231および個別流路232の長さ以下の場合、液体吐出部21はノズルNに相当するイナータンスに応じて、液体吐出部21の固有振動周期と圧力振動部22の固有振動周期とが相違する。そこで、液体吐出部21の固有振動周期と圧力振動部22の固有振動周期とが実質的に等しくなるように、個別流路241および個別流路242の慣性抵抗を調整する。具体的には、液体吐出部21の固有振動周期と圧力振動部22の固有振動周期とが実質的に等しくなるように、個別流路241および個別流路242の長さを調整することで個別流路241および個別流路242の慣性抵抗を調整する。本実施形態では、個別流路241の長さを個別流路231の長さよりも長くし、個別流路242の長さを個別流路232の長さよりも長くする。
なお、液体吐出部21の固有振動周期と圧力振動部22の固有振動周期とが実質的に等しいとは、圧力振動部22の固有振動周期が、液体吐出部21の固有振動周期の平均値の0.8倍から1.2倍の範囲内、好ましくは0.9倍~1.1倍の範囲内であることを意味する。または、液体吐出部21の固有振動周期と圧力振動部22の固有振動周期とが実質的に等しいとは、圧力振動部22の固有振動周期が、複数の液体吐出部21の固有振動周期のばらつきの範囲内であることを意味する。
【0044】
具体的には、図3に示されるように、圧力振動部22における圧力室220と共通流路251との間の個別流路241の断面積S2が、液体吐出部21における圧力室210と共通流路251との間の個別流路231の断面積S1よりも大きくなっており、個別流路241の長さL2が、個別流路231の長さL1よりも長くなっている。同様に、個別流路242の断面積S4が、個別流路232の断面積S3よりも大きくなっており、個別流路242の長さL4が、個別流路232の長さL3よりも長くなっている。
【0045】
なお、個別流路241の断面積S2とは、共通流路251と圧力室220との間の流路において、断面積が変動する流路の形状の場合では、共通流路251と圧力室220との間の流路内で最小面積となる断面積をいう。また、個別流路242の断面積S4とは、共通流路252と圧力室220との間の流路において、断面積が変動する流路の形状の場合では、共通流路252と圧力室220との間の流路内で最小面積となる断面積をいう。
また、流路の断面積とは、液体が流れる方向に対して流路を垂直方向に破断したときの面積をいう。図3に示す例では、個別流路231、241、232または242において液体としてのインクがX方向の反対方向に流れる。このため、個別流路231、241、232または242の断面積とは、該当する個別流路をY方向に沿って破断した場合の断面積をいう。
【0046】
図4は、吐出駆動信号COMにおける波形の一例を示す図である。
吐出駆動信号COMは、印刷周期Tbが開始するタイミングt1では電圧Vcであり、電圧Vcから電圧VL1まで低下し、電圧VL1から電圧VH1まで上昇し、電圧VH1から電圧Vcまで低下して、印刷周期Tbが終了するタイミングt2に至るという台形波形の繰り返し波形である。
【0047】
この吐出駆動信号COMは、仮にスイッチ回路281のオンにより圧電素子211における一方の電極に印加された場合に、当該圧電素子211に対応する液体吐出部21のノズルNから、インクが吐出される信号である。
具体的には、吐出駆動信号COMが電圧Vcから電圧VL1まで低下すると、圧電素子211が圧力室210の内容積を拡大する方向に変位して、当該変位によってインクが圧力室210に引き込まれる。吐出駆動信号COMにおける電圧VL1は期間Pwh1で一定に維持される。この後、吐出駆動信号COMが電圧VL1から電圧VH1まで、期間Pwc1で上昇すると、圧電素子211が圧力室210の内容積を縮小する方向に変位し、圧力室210に引き込まれたインクが当該変位によってノズルNから吐出される。吐出駆動信号COMにおける電圧VH1は期間Pwh2で一定に維持される。この後、吐出駆動信号COMが電圧VH1から電圧Vcまで低下すると、圧電素子211が圧力室210の内容積を拡大する方向に、詳細にはタイミングt1の状態に戻す方向に変位する。
【0048】
なお、スイッチ回路281がオフであれば、吐出駆動信号COMが、圧電素子211における一方の電極に印加されないので、当該圧電素子211は変位しない。このため、当該圧電素子211に対応する液体吐出部21のノズルNからは、インクが吐出されない。
【0049】
また、吐出駆動信号COMの繰り返し波形が、圧電素子211における一方の電極に印加され続けると、当該圧電素子211に対応するノズルNからインクが印刷周期Tb毎に吐出される。画像形成の際には、プリントヘッド20が主走査方向に移動するので、印刷周期Tbは、インクの吐出により媒体Paに形成されるドット配列のうち、主走査方向の最小間隔を定めることになる。
【0050】
図5は、検出駆動信号Tstにおける波形および検出信号Nvtにおける波形等の一例を示す図である。
検出駆動信号Tstは、本実施形態では一例として、タイミングtspで電圧VL2から上昇し、電圧VH2まで至り、その後、タイミングtsnで電圧VL2に低下する1ショットのパルス波形としている。
残留振動の検出開始を指定する信号Tnvは、タイミングtsnでLからHレベルに変化する。タイミングtsnの前まで、信号TnvがLレベルであるので、スイッチ回路282は、接点aを選択する。この選択により、検出駆動信号Tstが、圧電素子222における一方の電極に印加される。この印加により圧力振動部22における圧力室220では、残留振動の源となる振動が誘起される。なお、本実施形態では、圧力振動部22にはノズルNを有していないので、圧力室220で振動が誘起されてもインクが吐出されることはない。
【0051】
信号Tnvは、タイミングtsnでHレベルに変化すると、スイッチ回路282は、接点aから接点bへ選択を切り換える。圧力室220では、残留振動による変位が圧電素子222の起電力となり、当該変位に応じた電圧を有する検出信号Nvtとして出力される。
振動検出部130は、検出信号Nvtの電圧波形を次のようにして解析してインクの粘度を求める。
【0052】
図6は、検出信号Nvtの電圧波形の一例を示す図である。
検出信号Nvtは、タイミングtsn以降、粘度に応じて減衰して、ある電圧(図ではVf)に収束する。
振動検出部130は、このような減衰波形において、ピーク点を時間の順にδ1、δ2、δ3、…とし、これらの点を結んで得られる太実線δを次式(3)のような指数関数で近似して、λを求める。
δ=Xe-λt …(4)
【0053】
なお、λは、次式(5)で表すことができる。
λ=R/(2M) …(5)
【0054】
流路に働く慣性抵抗Mは式(1)で示されるように、液体の比重ρと、流路の寸法で求めることができる。
また、流路の粘性抵抗Rは、式(5)を変形した次式(6)で求めることができる。
R=2Mλ …(6)
【0055】
式(1)で求めた慣性抵抗M、および、近似した指数関数より求めたλを式(6)に代入して、粘性抵抗Rを求める。
求めた粘性抵抗Rおよび流路の寸法を式(2)に代入すれば、液体の粘度μを求めることができる。
具体的には、振動検出部130は、検出信号Nvtの電圧波形を、式(4)で示される指数関数に近似して、λを求める。また、振動検出部130は、式(1)を用いて慣性抵抗Mを求める。そして、振動検出部130は、求めたλおよび慣性抵抗Mを式(6)に代入して流路の粘性抵抗Rを求める。そして、振動検出部130は、求めた粘性抵抗Rおよび流路の寸法を式(3)に代入して液体の粘度μを求める。
【0056】
このように液体の粘度μについて、液体の粘度が比較的低い場合であれば、流路の寸法および液体吐出部21の圧電素子211の検出結果に基づいて求めることは一応可能である。具体的には、液体吐出部21の圧力室210で生じた残留振動を圧電素子211で検出して、圧電素子211から出力される検出信号に基づいて、液体の粘度μを求めることができる。
しかしながら、この構成では、液体の粘度μが高い場合に、圧電素子211から出力される検出信号の波形は、例えば図7に示されるように減衰が早く、ピーク座標を正確に求めることができない。さらに液体の粘度が高い場合には、例えば図8に示されるように、ピーク座標さえ現れないこともある。
したがって、上記構成において液体の粘度が低い場合でしか粘度を求めることができない、という問題があった。
【0057】
これに対して本実施形態では、液体吐出部21とは別個の圧力振動部22を設け、共通流路251から圧力振動部22の圧力室220までの個別流路241の断面積S2を、共通流路251から液体吐出部21の圧力室210までの個別流路231の断面積S1よりも大きくして、個別流路241の粘性抵抗を個別流路231の粘性抵抗よりも小さくしている。これにより、本実施形態では、残留振動の減衰が抑制されるので、液体の粘度μが高い場合であっても、当該粘度μを求めることが可能となる。
【0058】
なお、本実施形態において、振動検出部130が液体の粘度μを求めると、当該粘度μを示す情報を制御部100に供給し、当該制御部100は、当該粘度μに応じて波形データDcを修正する。具体的には、アナログに変換した際の期間Pwh1、Pwc1、Pwh2、電圧Vc、VL1、VH1、印刷周期Tb等を粘度μに応じて修正する。または、制御部100は、粘度μを範囲でわけ、各範囲に応じた波形データDcを予め複数記憶しておき、振動検出部130から供給された粘度μの範囲に応じた波形データを選択して、吐出駆動信号生成部115に供給し、吐出駆動信号COMを、粘度μに応じた波形で生成させる構成としてもよい。
【0059】
また、本実施形態において、圧力振動部22はノズルNを有しない構成としたが、ノズルNを有する構成としてもよい。図9は、圧力振動部22がノズルNを有する場合において、検出信号Nvtの波形の一例を実線で示す図である。圧力振動部22がノズルNを有する場合の検出信号Nvtの波形は、圧力振動部22がノズルNを有しない場合の検出信号Nvtの波形(図9において破線)と比較して、振幅がわずかに小さくなるものの、粘度が高い場合にも対応できることが判る。
なお、圧力振動部22はノズルNを有する構成では、ノズルNによって、インクの乾燥や異物による詰まりなどの不具合が発生する原因となる。逆にいえば、ノズルNを有しない構成では、このような不具合の発生を抑えることができる。
また、圧力振動部22がノズルNを有さない構成であっても、液体吐出部21のノズルNに相当するイナータンスに応じた圧力振動部22の個別流路241、242の長さに調整することで、液体吐出部21の固有振動周期と圧力振動部22の固有振動周期とが実質的に等しくすることができる。
一般的に、液体吐出部21に印加する吐出駆動信号COMの波形形状は、液体吐出部21の固有振動周期に関連して設定される。したがって、圧力振動部22の残留振動を示す検出信号Nvtに基づいて、液体吐出部21に印加する吐出駆動信号COMの波形形状を補正することができる。
【0060】
[第2実施形態]
第1実施形態では、ノズルNを有する液体吐出部21の固有振動周期と、ノズルを有しない圧力振動部22の固有振動周期とが実質的に等しくなるように、図3に示される構成では、個別流路242の長さL4が個別流路232の長さL3よりも長く、個別流路241の長さL2が個別流路231の長さL1よりも長い構成としたが、これに限定されない。
第1実施形態で説明したように、粘性抵抗Rは、式(2)に示されるように、円管(流路)の長さLが短くなるほど小さくなり、円管(流路)の断面積を大きくするほど小さくなる。従って、個別流路241、242の断面積S2、S4が個別流路231、232の断面積S1、S3以下の場合でも、個別流路241、242の長さL2、L4のうち少なくとも一方を個別流路231、232の長さL1、L3より短くすることで、圧力振動部22の粘性抵抗Rを液体吐出部21の粘性抵抗Rよりも小さくすることができる。また、個別流路241、242の長さL2、L4が個別流路231、232の長さL1、L3以上の場合でも、個別流路241、242の断面積S2、S4のうち少なくとも一方を個別流路231の断面積S1、S3より大きくすることで、圧力振動部22の粘性抵抗Rを液体吐出部21の粘性抵抗Rよりも小さくすることができる。
ノズルNを有する液体吐出部21の固有振動周期と、ノズルを有しない圧力振動部22の固有振動周期とが実質的に等しくなくても、圧力振動部22の粘性抵抗Rを液体吐出部21の粘性抵抗Rより小さくすることで、インクの粘度が高くて液体吐出部21における圧力室210で発生する残留振動は早く減衰し残留振動の解析が不可能な場合であっても 圧力振動部22における圧力室220で発生する残留振動が早く減衰しないようにし、残留振動の解析を可能とすることができる。
そこで次に、ノズルNを有する液体吐出部21の固有振動周期と、ノズルを有しない圧力振動部22の固有振動周期とが実質的に等しくない第2実施形態について説明する。
なお、第1実施形態では、インクを循環させるために共通流路252が設けられたが、共通流路252が省略された構成であってよい。
【0061】
図10は、第2実施形態に係る液体噴射装置1に適用されるプリントヘッド20の構成を示す図である。
この図では、プリントヘッド20において、共通流路252が省略され、個別流路241の断面積S2が個別流路231の断面積S1より大きく、かつ、個別流路241の長さL2が個別流路231の長さL1より短い構成となっている。
なお、図10に示される構成では、共通流路252の省略に伴って個別流路232、242についても省略されている。
また、個別流路241の長さL2が個別流路231の長さL1より短い構成には、図11に示されるように、長さL2をゼロとする態様が含まれる。
【0062】
また、第2実施形態において、第1実施形態のようにインクを循環させるために共通流路252が設けられる場合、特に図示しないが、個別流路の断面積S4が、個別流路232の断面積S3より大きい構成、または、個別流路242の長さL4を、個別流路232の流路の長さL3より短い構成、としてもよい。なお、個別流路242の長さL4が個別流路232の長さL3より短い構成には、長さL4をゼロとする態様が含まれる。
【0063】
このように第2実施形態において、インクを循環させる共通流路252が設けられる場合では、個別流路241と242のうち少なくとも一方の断面積が、個別流路231および232の断面積より大きい構成、または、個別流路241と242のうち少なくとも一方の流路の長さが、個別流路231および232の流路の長さより短い構成となっている。
さらに、個別流路241と242のうち少なくとも一方の断面積が、個別流路231および232の断面積より大きく、かつ、個別流路241と242のうち少なくとも一方の流路の長さが、個別流路231および232の流路の長さより短い構成にすることができる。
【0064】
[変形例]
上述した実施形態は、多様に変形され得る。具体的な以下のような変形または応用が可能である。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を併合することも可能である。
【0065】
[変形例1]
第1実施形態では、ノズルNを有する液体吐出部21の固有振動周期と、ノズルを有しない圧力振動部22の固有振動周期とが実質的に等しくなるように、図3に示される構成では、個別流路242の長さL4が個別流路232の長さL3よりも長く、個別流路241の長さL2が個別流路231の長さL1よりも長い構成としたが、これに限定されない。固有振動周期が実質的に等しくなるように、例えば、個別流路241および242のうち一方の長さだけを、個別流路231および232よりも長くする構成とすることができる。
また、固有振動周期が実質的に等しくなるように、図3に示される構成では、個別流路242の断面積S4が個別流路232の断面積S3よりも大きく、個別流路241の断面積S2が個別流路231の断面積S1よりも大きい構成としたが、これに限定されない。固有振動周期が実質的に等しくなるように、例えば、個別流路241および242のうち一方の断面積だけを、個別流路231および232の断面積よりも大きくする構成とすることができる。
図12は、個別流路241の断面積S2だけを個別流路231の断面積S1よりも大きくした構成の例である。
また例えば、個別流路241の粘性抵抗を個別流路231の粘性抵抗よりも小さくなるように、個別流路241の断面積S2を個別流路231の断面積S1よりも大きくして、または、個別流路242の断面積S4を個別流路232の断面積S3よりも大きくして、個別流路241の長さL2と個別流路231の長さL1とを略同一としてもよい。
図13は、個別流路242の断面積S4と個別流路232の断面積S3とが略等しい状態で、個別流路241の断面積S2を個別流路231の断面積S1よりも大きくし、個別流路241の長さL2と個別流路231の長さL1とを略同一とした構成の例である。
【0066】
[変形例2]
また、第1実施形態では、ノズルNを有する液体吐出部21の固有振動周期とノズルを有さない圧力振動部22の固有振動周期とが実質的に等しくなるように、個別流路241の長さL2を個別流路231の長さL1よりも長くし、個別流路242の長さL4を個別流路232の長さL3よりも長くする構成としたが、これに限定されない。
第1実施形態のように、インクを循環させるために共通流路252が設けられる構成において、例えば図14に示されるように、圧力振動部22における圧力室220と共通流路252との間の個別流路242に、液体吐出部21のノズルNに相当するイナータンスを付加する絞りFを設けて、圧力差が生じるようにしてもよい。絞りFの断面積および長さを調整することで、ノズルNを有する液体吐出部21の固有振動周期とノズルを有さない圧力振動部22の固有振動周期とを近づけることができる。
【0067】
他の例として、図15に示される構成は、液体吐出部21が1個のノズルNと、圧力室210aおよび圧電素子211aの組と、圧力室210bおよび圧電素子211bの組とを含み、圧力室210a、210bが連結流路245で連結されて、連結流路245の(X方向の長さでみて)ほぼ中心にノズルNが設けられた例である。
なお、図15に示される構成は、圧力振動部22が圧力室220aおよび圧電素子222aの組と、圧力室220bおよび圧電素子222bの組とを含み、圧力室220a、220bが連結流路246で連結された例である。
【0068】
図15に示されるような構成では、連結流路246の断面積S6を、連結流路245の断面積S5よりも小さくして、液体吐出部21のノズルNに相当するイナータンスを圧力振動部22に設けることができる。なお、連結流路246の一部の断面積を小さくする構成とすることができる。連結流路246の少なくとも一部の断面積および長さを調整することで、ノズルNを有する液体吐出部21の固有振動周期とノズルを有さない圧力振動部22の固有振動周期とを近づけることができる。
このような構成にすると、圧力振動部22の粘性抵抗を液体吐出部の粘性抵抗よりも小さくしても、ノズルNを有しない圧力振動部22の圧力室220におけるインクの挙動を、液体吐出部21の圧力室210におけるインクの挙動に、より近づけることができる。
【0069】
[変形例3]
実施形態では、圧力振動部22はノズルを有さない構成としたが、これに限定されない。例えば、圧力振動部22に、ノズルを有する構成とすることもできる。特に、図16に示されるようにインクを循環させる構成でない場合、圧力振動部22にノズルを形成させることでインクの初期充填が容易となる構成とすることができる。なお、この構成において、初期充填後にノズルを閉塞してもよい。
また、インクを循環させない構成の場合、圧力振動部22内のインクだけが排出されず、時間経過とともに液体吐出部21内のインクの状態と異なる可能性があるため、圧力振動部22にもノズルを設け、圧力振動部22の圧力室220に充填されたインクを液体吐出部21と同様にリフレッシュさせる構成とすることもできる。
【0070】
[変形例4]
また、実施形態では、プリントヘッド20に1個の圧力振動部22を設ける構成としたが、これに限定されない。プリントヘッド20に複数の圧力振動部22を設ける構成とすることもできる。
【0071】
なお、圧力室210が第1の圧力室の一例であり、圧力室220が第2の圧力室の一例である。圧電素子211が第1の圧電素子の一例であり、圧電素子222が第2の圧電素子の一例である。共通流路251が第1の共通流路の一例であり、共通流路252が第2の共通流路の一例である。
【符号の説明】
【0072】
1…液体噴射装置、5…液体容器、10…制御機構、20…プリントヘッド、21…液体吐出部、22…振動検出部、110…駆動信号生成部、130…振動検出部、210、220…圧力室、211、222…圧電素子、231、232、241、242…個別流路、251、252…共通流路、N…ノズル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16