(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】音響レンズ、超音波探触子、及び、超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
A61B 8/00 20060101AFI20241203BHJP
H04R 1/34 20060101ALI20241203BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
A61B8/00
H04R1/34 330A
H04R17/00 330L
(21)【出願番号】P 2020205865
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】奥田 修平
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-212146(JP,A)
【文献】特開2014-004269(JP,A)
【文献】米国特許第07263888(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
H04R 1/00 - 1/46
H04R 17/00 - 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波探触子に適用され、
複数の圧電振動子から送出される超音波を集束して、超音波ビームを形成する音響レンズであって、
前記音響レンズの超音波放射面は、
レンズ中央部に位置し、前記超音波ビームの深部に相当する位置に焦点を形成する第1領域と、前記第1領域のレンズ外側に位置し、前記超音波ビームの浅部に相当する位置に焦点を形成する第2領域と、を含み、
前記第1領域及び前記第2領域の各位置のレンズ部により形成される焦点の深度が、
前記複数の圧電振動子が配列された方向と直交するスライス方向において、前記レンズ中央部側から前記レンズ外側に向かって連続的に浅くなるプロファイルを描く、
音響レンズ。
【請求項2】
前記プロファイルにおいて、前記焦点の深度は、前記第2領域の前記レンズ中央部側の端部から前記第2領域の前記レンズ外側の端部まで、非固定で連続変化する、
請求項1に記載の音響レンズ。
【請求項3】
前記プロファイルにおいて、前記焦点の深度は、前記第1領域のレンズ中心から前記第2領域の前記レンズ外側の端部まで、不連続部なく連続変化する、
請求項1又は2に記載の音響レンズ。
【請求項4】
前記第1領域は、球面形状を呈し、
前記第2領域は、非球面形状を呈する、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の音響レンズ。
【請求項5】
前記第1領域及び前記第2領域は、前記超音波探触子のスライス方向に沿って隣接する領域である、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の音響レンズ。
【請求項6】
前記音響レンズの前記第1領域及び前記第2領域の各位置のレンズ部におけるF値のなかでの最小値により規定される最小F値は、5~7の範囲内の値である、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の音響レンズ。
【請求項7】
前記音響レンズのレンズ中心近傍のF値を前記最小F値で除算した値により規定されるF値比は、2.5~3.5の範囲内の値である、
請求項6に記載の音響レンズ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の音響レンズを有する超音波探触子。
【請求項9】
請求項8に記載の超音波探触子を有する超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、音響レンズ、超音波探触子、及び、超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波を被検体に向けて送信し、その反射波を受信して受信信号に所定の信号処理を行うことにより、被検体内部の形状、性状又は動態を超音波画像として可視化する超音波診断装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。超音波診断装置は、超音波探触子を体表に当てる又は体内に挿入するという簡単な操作で超音波画像を取得することができるので、安全であり、被検体にかかる負担も小さい。
【0003】
超音波診断装置は、被検体である患者の体内に穿刺針を挿入して組織や体液を採取して生体組織を診断する場合や、穿刺針を用いて治療を行う場合にも用いられる。これらの診断又は治療において、医師等の施術者は、超音波診断装置により得られる超音波画像を見て、穿刺針の位置と穿刺部位(ターゲット)の位置を確認しながら穿刺を行うことができる。尚、穿刺針とは、医療針、及びカテーテル等の被検体内に刺入して用いられる医療器具である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の超音波診断装置においては、超音波画像から、ユーザが穿刺針の位置やターゲットの位置を正確に視認し得るようにする要請から、広い被写界深度(Depth of field)と、高い空間分解能を確保することが求められる。
【0006】
かかる課題を解決するための一つの手段としては、超音波探触子の音響レンズの形状の最適化が挙げられる。具体的には、圧電振動子から放射される超音波を、音響レンズにて、浅部から深部まで広範囲にわたり均一に細く集束した超音波ビームに変換することができれば、被検体内の深度方向の各深度位置からの超音波エコーのSN比を向上することが可能となるため、広い被写界深度と、高い空間分解能を確保することが可能となる。
【0007】
そこで、本願の発明者らは、浅部から深部まで広範囲にわたり均一に細く集束した超音波ビームを形成するべく、音響レンズの超音波放射面を、スライス方向に沿って、レンズ中央部に位置するインナー領域と、インナー領域のレンズ外側に位置するアウター領域とに分けて設計し、インナー領域が、浅部に焦点を形成し、アウター領域が、深部に焦点を形成する形状を呈する音響レンズを検討した。
【0008】
しかしながら、かかる音響レンズでは、浅部において、ビーム裾が形成され、超音波画像内の浅部における空間分解能が悪化するという課題に直面した(
図7を参照して後述)。
【0009】
本開示は、上記問題点に鑑みてなされたもので、広い被写界深度と、高い空間分解能を有する超音波画像の生成を可能とする音響レンズ、超音波探触子、及び、超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した課題を解決する主たる本開示は、
超音波探触子に適用され、複数の圧電振動子から送出される超音波を集束して、超音波ビームを形成する音響レンズであって、
前記音響レンズの超音波放射面は、
レンズ中央部に位置し、前記超音波ビームの深部に相当する位置に焦点を形成する第1領域と、前記第1領域のレンズ外側に位置し、前記超音波ビームの浅部に相当する位置に焦点を形成する第2領域と、を含み、
前記第1領域及び前記第2領域の各位置のレンズ部により形成される焦点の深度が、前記複数の圧電振動子が配列された方向と直交するスライス方向において、前記レンズ中央部側から前記レンズ外側に向かって連続的に浅くなるプロファイルを描く、
音響レンズである。
【0011】
又、他の局面では、
上記の音響レンズを有する超音波探触子である。
【0012】
又、他の局面では、
上記の超音波探触子を有する超音波診断装置である。
【発明の効果】
【0013】
本開示に係る音響レンズによれば、広い被写界深度と、高い空間分解能を有する超音波画像の生成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】超音波診断装置の制御系の主要部の構成例を示すブロック図
【
図4】従来技術1に係る音響レンズの形状の一例を示す図
【
図5】従来技術2に係る音響レンズの形状の一例を示す図
【
図6】従来技術2に係る音響レンズの設計思想について、説明する図
【
図7】従来技術2に係る音響レンズにて形成される超音波ビームにおいて発生するビーム裾の一例を示す図
【
図8】本発明の一実施形態に係る音響レンズの形状の一例を示す図
【
図9】本発明の一実施形態に係る音響レンズの設計思想について、説明する図
【
図10】本発明の一実施形態に係る音響レンズの超音波放射面の面内の各位置のレンズ部が形成する焦点の深度を示すプロファイルを示す図
【
図11】本発明の一実施形態に係る音響レンズの焦点深度プロファイルを、形状プロファイルと重ねて、模試的に示した図
【
図12】従来技術1の音響レンズにて形成された超音波ビームの音圧分布(
図12A)、従来技術2の音響レンズにて形成された超音波ビームの音圧分布(
図12B)、及び、本実施形態に係る音響レンズにて形成された超音波ビームの音圧分布(
図12C)を示す図
【
図13】従来技術1に係る音響レンズを用いて撮影された超音波画像を示す図(
図13A)、従来技術2に係る音響レンズを用いて撮影された超音波画像を示す図(
図13B)、及び、本発明の一実施形態に係る音響レンズを用いて撮影された超音波画像を示す図(
図13C)
【
図21】本願発明に係る音響レンズ、従来技術1に係る音響レンズ、及び従来技術2に係る音響レンズそれぞれの性能を、「CTR(Clutter Energy to Total Energy Ratio)(dB)」、「Penetration(cm)」、「Gel気泡だまり」の3つの観点から、評価した結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
[超音波診断装置の全体構成]
図1は、超音波診断装置1の外観の一例を示す図である。
図2は、超音波探触子20の構成の一例を示す図である。尚、
図2Aは、超音波探触子20の平面図であり、
図2Bは、超音波探触子20の斜視図である。
【0017】
図3は、超音波診断装置1の制御系の主要部の構成例を示すブロック図である。
【0018】
図1に示すように、超音波診断装置1は、超音波診断装置本体10及び超音波探触子20を備える。超音波診断装置本体10と超音波探触子20とは、ケーブル30を介して接続される。
【0019】
超音波診断装置1は、被検体内の形状、性状又は動態を超音波画像として可視化し、画像診断するために用いられる。超音波診断装置1は、例えば、穿刺針をターゲット(例えば、被検体の筋、腱、神経束や腫瘍等の検体採取対象)に向けて刺入する穿刺術において、ユーザが、穿刺針の位置又は穿刺部位(ターゲット)の位置を確認する用途に用いられる。
【0020】
超音波探触子20は、被検体に対して超音波を送信するとともに、被検体で反射された超音波エコーを受信し、受信信号に変換して超音波診断装置本体10に送信する。超音波探触子20には、コンベックス探触子、リニア探触子、又はセクタ探触子等の任意の電子走査方式の探触子やメカニカルセクタ探触子等の機械走査方式の探触子を適用することができる。
【0021】
超音波探触子20は、超音波放射面側から順に、音響レンズ21、音響整合層22、振動子アレイ23、及び、バッキング材24を有する(
図2Aを参照)。尚、音響レンズ21の表面(超音波放射面)側には、更に保護層が配置されてもよい。
【0022】
音響レンズ21は、超音波をスライス方向(複数の振動子が配列されているスキャン方向とは直交する方向)に集束させて、超音波ビームを形成する。本実施形態に係る音響レンズ21は、生体よりも音速が遅い材料(例えば、シリコーン樹脂)にて形成されており、スライス方向における中央部が盛り上がったかまぼこ様の形状(即ち、略半円筒形状)を呈する。但し、本実施形態に係る音響レンズ21の超音波放射面の形状は、一様な球面形状とはなっておらず、所望のレンズ特性が得られるように、球面形状と非球面形状とが組み合わさったような形状を呈している(
図8を参照して後述)。
【0023】
音響整合層22は、超音波を効率よく被検体内に進入させるための中間的物質であり、圧電振動子23aと被写体の音響インピーダンスを整合させる。
【0024】
振動子アレイ23は、スライス方向には分離されておらず、スキャン方向に沿って単列で配置された複数の短冊状の圧電振動子23aにより構成される。すなわち、超音波探触子20は、いわゆる単列探触子(1D型の探触子とも称される)である。
【0025】
バッキング材24は、振動子アレイ23で発生する不要振動を減衰する。
【0026】
超音波探触子20によれば、スライス方向に集束する超音波のビームプロファイルが得られる(
図2Bを参照)。尚、複数の圧電振動子23aを切り替えて駆動することにより、超音波をスキャン方向に集束させることもできる(いわゆる電子スキャン方式)。
【0027】
超音波診断装置本体10は、超音波探触子20からの受信信号を用いて、被検体の内部状態を超音波画像(Bモード画像)として可視化する。
【0028】
図3に示すように、超音波診断装置本体10は、操作入力部11、送信部12、受信部13、信号処理部14、画像処理部15、表示処理部16、表示部17及び制御部18等を備える。
【0029】
送信部12、受信部13、信号処理部14、画像処理部15及び表示処理部16は、例えば、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、PLD(Programmable Logic Device)等の、各処理に応じた専用もしくは汎用のハードウェア(電子回路)で構成され、制御部18と協働して各機能を実現する。
【0030】
操作入力部11は、例えば、診断開始等を指示するコマンド又は被検体に関する情報の入力を受け付ける。操作入力部11は、例えば、複数の入力スイッチを有する操作パネル、キーボード、及びマウス等を有する。尚、操作入力部11は、表示部17と一体的に設けられるタッチパネルで構成されてもよい。
【0031】
送信部12は、制御部18の指示に従って、送信信号(駆動信号)を生成して、超音波探触子20に出力する。図示を省略するが、送信部12は、例えば、クロック発生回路、パルス発生回路、パルス幅設定部及び遅延回路を含んで構成される。
【0032】
クロック発生回路は、パルス信号の送信タイミングや送信周波数を決定するクロック信号を発生させる。パルス発生回路は、所定の周期で予め設定された電圧振幅のバイポーラー型の矩形波パルスを発生させる。パルス幅設定部は、パルス発生回路から出力される矩形波パルスのパルス幅を設定する。パルス発生回路で生成された矩形波パルスは、パルス幅設定部への入力前又は入力後に、超音波探触子20の個々の圧電振動子23aごとに異なる配線経路に分離される。遅延回路は、生成された矩形波パルスを、圧電振動子23aごとの送信タイミングに応じて遅延させ、圧電振動子23aに出力する。
【0033】
受信部13は、制御部18の指示に従って、超音波探触子20からの受信信号を受信し、画像処理部15へ出力する。図示を省略するが、受信部13は、例えば、増幅器、A/D変換回路、整相加算回路を含んで構成される。
【0034】
増幅器は、超音波探触子20の各圧電振動子23aにより受信された超音波に応じた受信信号を予め設定された所定の増幅率でそれぞれ増幅する。A/D変換回路は、増幅された受信信号を所定のサンプリング周波数でデジタルデータに変換する。整相加算回路は、A/D変換された受信信号に対して、圧電振動子23aに対応した配線経路毎に遅延時間を与えて時相を整え、これらを加算(整相加算)する。
【0035】
信号処理部14は、受信部13から入力される音線データから必要に応じて高調波抽出処理等を行ったのちに検波(包絡線検波)して信号を取得し、また、必要に応じて対数増幅、フィルタリング(例えば、低域透過、スムージングなど)や強調処理などを行う。
【0036】
画像処理部15は、信号処理部14から取得した受信信号に基づいて、診断用画像を生成する。画像処理部15は、例えば、診断用画像の一つとして、受信信号の信号強度に応じた輝度信号で信号の送信方向(被検体の深さ方向)と超音波のスキャン方向を含む断面内の二次元構造を表す断層画像を生成する。
【0037】
画像処理部15は、診断用画像データをフレーム単位で直近の所定フレーム数分記憶する記憶部(例えば、DRAM)や、診断用画像データから穿刺針の位置を同定し、同定した穿刺針に色付けを行う処理部を有していてもよい。尚、穿刺針の位置を同定する方法としては、例えば、本願の出願人の先願である特開2014-212922号公報や特開2020-010753号公報の手法を参照されたい。
【0038】
表示処理部16は、制御部18の指示に従って、画像処理部15において生成された断層画像のデータを、表示部17に対応する表示信号に変換して、表示用画像データとして出力する。
【0039】
表示部17は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、又は、CRTディスプレイ等で構成される。表示部17は、制御部18の指示に従って、表示処理部16から取得する表示用画像データを表示する。
【0040】
制御部18は、操作入力部11、送信部12、受信部13、信号処理部14、画像処理部15、表示処理部16及び表示部17を、それぞれの機能に応じて制御することによって、超音波診断装置1の全体制御を行う。
【0041】
制御部18は、演算/制御装置としてのCPU(Central Processing Unit)181、主記憶装置としてのROM(Read Only Memory)182及びRAM(Random Access Memory)183等を有する。ROM182には、基本プログラムや基本的な設定データが記憶される。CPU181は、ROM182から処理内容に応じたプログラムを読み出してRAM183に展開し、展開したプログラムを実行することにより、超音波診断装置本体10の各機能ブロック(送信部12、受信部13、信号処理部14、画像処理部15、表示処理部16、及び表示部17)の動作を集中制御する。
【0042】
[音響レンズの構成]
次に、音響レンズ21の構成の一例について、説明する。
【0043】
まず、
図4~
図8を参照して、本願の発明者らが、本願発明の超音波探触子20の音響レンズ21の構成に至った経緯について、説明する。
【0044】
従来、超音波探触子20の音響レンズとしては、超音波放射面が球面形状となったものが採用されている(以下、「従来技術1に係る音響レンズ21X」と称する)。しかしながら、従来技術1に係る音響レンズ21Xは、音響レンズ21Xの超音波放射面の面内の各位置から放射される超音波を一点の焦点に集束させるため、かかる音響レンズ21Xを用いて超音波ビームを形成した場合、当該焦点深度の位置から離れた深度位置に存在する物体(例えば、穿刺針及びターゲット等)からの超音波エコーのSN比が著しく悪化してしまう。
【0045】
そこで、本願の発明者らは、超音波探触子20の音響レンズの超音波放射面を、スライス方向に沿って、レンズ中央部に位置するインナー領域21Yaと、インナー領域21Yaのレンズ外側に位置するアウター領域21Ybとに分けて設計し、インナー領域21Yaが、浅部に焦点を形成し、アウター領域21Ybが、深部に焦点を形成する形状を呈する音響レンズを検討した(以下、「従来技術2に係る音響レンズ21Y」と称する)。
【0046】
図4は、従来技術1に係る音響レンズ21Xの形状の一例を示す図である。
図5は、従来技術2に係る音響レンズ21Yの形状の一例を示す図である。
図6は、従来技術2に係る音響レンズ21Yの設計思想について、説明する図である。
【0047】
図4及び
図5では、上図(
図4A、
図5A)に、音響レンズ21X、21Yの形状を模式的に示し、下図(
図4B、
図5B)のグラフにて、音響レンズ21X、21Yの超音波放射面の形状の詳細を示している。
【0048】
図4B、
図5Bの上グラフは、音響レンズ21X、21Yの超音波放射面の面内の各位置の座標を、スライス方向をx軸(レンズ中心をゼロ点として、x軸プラス方向がレンズ外側方向に相当する)とし、超音波放射方向をy軸とした二次元座標系で表している(以下、「音響レンズの超音波放射面の形状プロファイル」とも称する)。又、
図4B、
図5Bの下グラフは、音響レンズ21X、21Yの超音波放射面の面内の各位置の接線角度(
図4B、
図5Bにθで示すように、音響レンズ21X、21Yの超音波放射面の形状プロファイルの各位置に対して接線を引いたときに、当該接線がx軸に対して有する傾斜角を意味する。以下同じ)を、スライス方向をx軸とし、接線角度の値をy軸とした二次元座標系で表している(以下、「音響レンズの超音波放射面の接線角度プロファイル」とも称する)。
【0049】
尚、超音波放射面が球面形状の場合、接線角度プロファイルは、
図4Bのように、接線角度の傾き(=dθ/dx)がx軸プラス方向に向かって一定値をとるものとなる。従って、接線角度プロファイルにおいて、接線角度の傾き(=dθ/dx)がx軸プラス方向に向かって増大する場合には、超音波放射面は、曲率がレンズ中心側からレンズ外側に向かって漸次増加する形状を取り、接線角度の傾き(=dθ/dx)がx軸プラス方向に向かって減少する場合には、超音波放射面は、曲率がレンズ中心側からレンズ外側に向かって漸次減少する形状を取ることを意味する。
【0050】
従来技術1に係る音響レンズ21Xは、
図4に示すように、レンズ部21Xaが球面形状となっている。尚、
図4に示すエッジ領域21Xeは、生体と音響レンズ21Xとの接触状態を良好にすること等を目的に設けられた音響レンズ21Xの最外端の平坦面である。エッジ領域21Xeは、圧電振動子23aの最外端又は外部に位置し、音響レンズ21Xにて形成される超音波ビームのビーム特性に対して大きな影響を及ぼさないため、以下では、特に言及しない。換言すると、エッジ領域21Xeは、音響レンズ21Xを構成する上では、省略されてもよい。尚、
図5に示すエッジ領域21Ye、及び、
図8に示すエッジ領域21dについても、この点は、同様である。
【0051】
従来技術2に係る音響レンズ21Yは、例えば、
図5に示すように、インナー領域21Yaが球面形状を呈し、アウター領域21Ybが傾斜形状を呈するように設定されている。即ち、従来技術2に係る音響レンズ21Yの超音波放射面は、インナー領域21Yaとアウター領域21Ybとで曲率が異なり、インナー領域21Yaの曲率はアウター領域21Ybの曲率よりも大きい。そのため、従来技術2に係る音響レンズ21Yにおいては、インナー領域21Yaの超音波の集束性は、アウター領域21Ybの超音波の集束性よりも低くなる。
【0052】
従来技術2に係る音響レンズ21Yでは、かかる構成により、インナー領域21Yaから放射される超音波を浅い位置で集束させ(
図6の左図の斜線領域を参照)、アウター領域21Ybから放射される超音波を深い位置で集束させる(
図6の中央図の斜線領域を参照)。つまり、従来技術2に係る音響レンズ21Yにおいては、インナー領域21Yaから放射される超音波にて、超音波ビームの浅部の中心軸音圧(音響レンズ21Yのスライス方向におけるレンズ中心軸の音圧を表す。以下同じ)をサポートし、アウター領域21Ybから放射される超音波にて、超音波ビームの深部の中心軸音圧をサポートする構成となる。
【0053】
これにより、従来技術2に係る音響レンズ21Yにより形成される超音波ビームを、従来技術1に係る音響レンズ21Xにより形成される超音波ビームよりも、浅部から深部まで広範囲にわたり集束した超音波ビームとすることが可能となる。
【0054】
しかしながら、本願の発明者らの鋭意検討の結果、従来技術2に係る音響レンズ21Yを用いて形成された超音波ビームにおいては、実際には、アウター領域21Ybから放射される超音波が、浅部において、インナー領域21Yaから放射される超音波に重畳し、ビーム裾が形成されてしまうことが分かってきた。換言すると、従来技術2に係る音響レンズ21Yを用いて形成された超音波ビームは、浅部において、ビーム幅がスライス方向に拡がったものとなってしまうことを意味する。かかるビーム裾は、超音波画像の浅部における空間分解能の低下を招く要因となる。尚、これは、アウター領域21Ybから放射される超音波の拡散広がり成分に起因するものと推察される。
【0055】
図7は、従来技術2に係る音響レンズ21Yにて形成される超音波ビームにおいて発生するビーム裾の一例を示す図である。
【0056】
図7A、
図7Bは、従来技術1に係る音響レンズ21Xにて形成される超音波ビームの浅部の画像化にかかわる音響エネルギー分布の一例を示し、
図7C、
図7Dは、従来技術2に係る音響レンズ21Yにて形成される超音波ビームの浅部の音響エネルギー分布の一例を示している。尚、
図7A~
図7Dでは、S軸がスライス方向を表し、T軸がスキャン方向を表し、U軸が超音波ビームの音響エネルギー値(ここでは、超音波画像の輝度情報から音響エネルギー値に換算した値)を表している。尚、
図7Eに、
図7A~
図7Dのデータが採取された深さ位置を示している。
【0057】
特に、
図7Cと
図7Aを比較すると分かるように、従来技術2に係る音響レンズ21Yにて形成される超音波ビームにおいては、超音波ビームの浅部において、ビーム裾が発生している。
【0058】
本発明の音響レンズ21は、従来技術1に係る音響レンズ21X、及び従来技術2に係る音響レンズ21Yの上記の問題点に鑑みて設計されたものである。
【0059】
以下、
図8~
図11を参照して、本発明の一実施形態に係る音響レンズ21の構成について、説明する。
【0060】
図8は、本実施形態に係る音響レンズ21の形状の一例を示す図である。尚、
図8では、
図4及び
図5と同様に、上図(
図8A)に、音響レンズ21の形状を模式的に示し、下図(
図8B)のグラフにて、音響レンズ21の超音波放射面の形状プロファイル、及び、音響レンズ21の超音波放射面の接線角度プロファイルを示している。
【0061】
図9は、本実施形態に係る音響レンズ21の設計思想について、説明する図である。
【0062】
図10は、本実施形態に係る音響レンズ21の超音波放射面の面内の各位置のレンズ部が形成する焦点の深度を示すプロファイル(以下、「焦点深度プロファイル」と略称する)を示す図(下図)である。
図10には、本実施形態に係る音響レンズ21と従来技術に係る音響レンズ21との相違を説明するため、本実施形態に係る音響レンズ21の焦点深度プロファイル(実線グラフ)と共に、従来技術1に係る音響レンズ21Xの焦点深度プロファイル(点線グラフ)、及び、従来技術2に係る音響レンズ21Yの焦点深度プロファイル(一点鎖線グラフ)についても、描画している。
【0063】
尚、
図10の上図(
図10A)は、音響レンズ21、21X、21Yの超音波放射面の形状プロファイルを表し、
図10の下図(
図10B)が、音響レンズ21、21X、21Yの焦点深度プロファイルを表している。
図10Bのグラフの横軸は、音響レンズ21、21X、21Yの超音波放射面のスライス方向の各位置を、
図10Aと共通のx座標系で表しており、
図10Bのグラフの縦軸は、各位置のレンズ部が形成する焦点の深度を表している。尚、いずれの場合もX=0mmではレンズ面の接線が水平となり、その焦点深度は無限大(無限遠)となるため0mmでの焦点深度は表示していない。
【0064】
図11は、本実施形態に係る音響レンズ21の焦点深度プロファイルを、音響レンズ21の形状プロファイルと重ねて、模試的に示した図である。F1、F2、F3、F4は、それぞれ、音響レンズ21のレンズ中心からL1の距離の位置にあるレンズ部が形成する焦点、音響レンズ21のレンズ中心からL2の距離の位置にあるレンズ部が形成する焦点、音響レンズ21のレンズ中心からL3の距離の位置にあるレンズ部が形成する焦点、及び、音響レンズ21のレンズ中心からL4の距離の位置にあるレンズ部が形成する焦点に相当する。
【0065】
本実施形態に係る音響レンズ21は、その超音波放射面に、スライス方向に沿って、レンズ中央部に位置するインナー領域21aと、インナー領域21aと隣接してインナー領域21aのレンズ外側に位置するアウター領域21bと、を含む(
図8を参照)。そして、本実施形態に係る音響レンズ21においては、インナー領域21aは、超音波ビームの深部に相当する位置に焦点を形成し(
図9の左図の斜線領域を参照)、アウター領域21bは、超音波ビームの浅部に相当する位置に焦点を形成する(
図9の中央図の斜線領域を参照)構成となっている。即ち、本実施形態に係る音響レンズ21においては、インナー領域21aから放射される超音波にて、超音波ビームの深部の中心軸音圧をサポートし、アウター領域21bから放射される超音波にて、超音波ビームの浅部の中心軸音圧をサポートする。
【0066】
尚、本実施形態に係る音響レンズ21は、スライス方向における中央部が盛り上がったかまぼこ様の形状(即ち、略半円筒形状)を呈し、レンズ中心を対称軸として、スライス方向に沿って、線対称な形状を呈している。即ち、アウター領域21bは、スライス方向に沿って、インナー領域21aを挟んで、インナー領域21aのレンズ外側の一方側と他方側の両側に配設され、インナー領域21aのレンズ外側の一方側と他方側の両側のアウター領域21bにより、レンズ中心軸上で、インナー領域21aの焦点深度よりも浅い深度位置(
図11のT2を参照)に、焦点を結ぶように形成される。
【0067】
音響レンズ21のインナー領域21aは、例えば、球面形状を呈し、音響レンズ21のアウター領域21bは、例えば、レンズ中央部側からレンズ外側に向かって、超音波放射面の面内の各位置の接線角度の傾き(=dθ/dx)が漸次増加する非球面形状を呈する(
図8を参照)。即ち、音響レンズ21のアウター領域21bは、当該アウター領域21bを曲面形状とした場合、レンズ中央部側からレンズ外側に向かって、超音波放射面の面内の各位置の曲率が漸次増加する形状となる。ここで、「漸次増加する」とは、単調的に、且つ、連続的に増加することを意味する。尚、
図8に示すように、音響レンズ21のインナー領域21aとアウター領域21bとの接続位置においても、超音波放射面の接線角度の傾き(=dθ/dx)(即ち、曲率)は、不連続部を有することなく、レンズ中央部側からレンズ外側に向かって、連続的に増加する。
【0068】
又、
図8に示す音響レンズ21では、アウター領域21bの超音波放射面の面内の各位置の接線角度の傾き(=dθ/dx)は、レンズ中央部側の端部からレンズ外側の端部まで、非固定で連続変化する(即ち、一定値をとらない)。
【0069】
尚、本実施形態に係る音響レンズ21では、アウター領域21bと音響レンズ21の最外端のエッジ領域21dとの間に、曲率が急変する領域が形成されないように、超音波放射面の接線角度の傾き(=dθ/dx)が、レンズ中央部側からレンズ外側に向かって、漸次減少するコネクション領域21cが形成されている(
図8を参照)。但し、コネクション領域21cは、エッジ領域21dと同様に、圧電振動子23aの端部又は外部に位置し、音響レンズ21にて形成される超音波ビームのビーム特性に対して大きな影響を及ぼさない。そのため、換言すると、コネクション領域21cは、エッジ領域21dと同様に、音響レンズ21を構成する上では、省略されてもよい。
【0070】
本実施形態に係る音響レンズ21では、かかる形状を取ることによって、アウター領域21bが形成する焦点の方が、インナー領域21aが形成する焦点よりも、浅い位置となる。又、本実施形態に係る音響レンズ21においては、インナー領域21a及びアウター領域21bの各位置のレンズ部が形成する焦点の深度(即ち、焦点深度プロファイル)が、レンズ中央部側からレンズ外側に向かって、連続的に浅くなる(
図10B、
図11を参照)。
【0071】
尚、
図10Bに示す本実施形態に係る焦点深度プロファイルにおいて、x軸のレンズ中心からレンズ外側に、1.5mm以上離れた位置から、焦点深度が急激に深くなっているのは、かかる領域(1.5mm以上離れた領域)が、凹状のコネクション領域21c及び平坦形状のエッジ領域21dに相当するためである。
【0072】
図9を参照して、本実施形態に係る音響レンズ21の設計思想を詳述すると、本実施形態に係る音響レンズ21においては、従来技術2に係る音響レンズ21Yと比較して、インナー領域21aの曲率を小さくするとともに、インナー領域21aを小開口にすることにより、インナー領域21aの長焦点化(即ち、F値を上昇させる)を行い、インナー領域21aから放射される超音波の狭小部(
図9のT1a位置)(インナー領域21aの焦点位置に相当)をWide化すると共に、インナー領域21aから放射される超音波の深部(
図9のT1b位置)(インナー領域21aの焦点位置よりも深い位置に相当)をNarrow化する。
【0073】
そして、本実施形態に係る音響レンズ21においては、アウター領域21bが形成する焦点を、インナー領域21aが形成する焦点よりも浅い位置(
図9のT2位置)とし、インナー領域21aの長焦点化で下がる超音波ビームの浅部の中心軸音圧を、アウター領域21bから放射される超音波にてサポートする。加えて、本実施形態に係る音響レンズ21においては、インナー領域21a及びアウター領域21bの各位置のレンズ部により形成される焦点の深度が、レンズ中央部側からレンズ外側に向かって、連続的に浅くなる焦点深度プロファイルを描く。
【0074】
本実施形態に係る音響レンズ21は、かかる構成を取ることで、浅部から深部まで広範囲にわたり均一に細く集束した超音波ビームを実現する。特に、本実施形態に係る音響レンズ21においては、アウター領域21bのレンズ外側方向の端部が最も浅い焦点位置となるため、超音波ビームの浅部における、ビーム裾引きの発生が抑制されることになる。そのため、本実施形態に係る音響レンズ21によれば、従来技術2に係る音響レンズ21Yと比較して、より広範囲にわたって均一に細く集束した超音波ビームを実現することが可能であり、これにより、被写界深度を拡大すると共に、ビーム裾の広がりを抑制することができ空間分解能を向上することができる。
【0075】
又、本実施形態に係る音響レンズ21においては、中心軸音圧の音圧ピークを下げることが可能となるため、MI(Mechanical Index)制限(超音波エネルギーの生体への影響を考慮して規定された出力制限であり、実用上、中心軸音圧の音圧ピーク等を基準として算出されたMI値が所定値以下である必要がある。)への対策にも繋がる。つまり、本実施形態に係る音響レンズ21においては、高出力の超音波ビームの送信が可能となる。
【0076】
次に、
図12及び
図13を参照して、本実施形態に係る音響レンズ21を用いて形成された超音波ビームの音圧分布の一例、及び、本実施形態に係る音響レンズ21を用いて撮影された超音波画像の一例を示す。
【0077】
図12は、従来技術1の音響レンズ21Xにて形成された超音波ビームの音圧分布(
図12A)、従来技術2の音響レンズ21Yにて形成された超音波ビームの音圧分布(
図12B)、及び、本実施形態に係る音響レンズ21にて形成された超音波ビームの音圧分布(
図12C)を示す図である。
図12A、
図12B、
図12Cの超音波ビームの音圧分布は、シミュレーションによって算出されたものであり、当該シミュレーションは、音響レンズ21以外の構成を同一にした条件下で行われている。尚、
図12A、
図12B、
図12Cにおいて、濃度の濃い領域ほど、音圧が高くなっていることを表す。
【0078】
図13は、従来技術1に係る音響レンズ21Xを用いて撮影された超音波画像を示す図(
図13A)、従来技術2に係る音響レンズ21Yを用いて撮影された超音波画像を示す図(
図13B)、及び、本実施形態に係る音響レンズ21を用いて撮影された超音波画像を示す図(
図13C)である。尚、
図13A、
図13B、及び、
図13Cの超音波画像は、それぞれ、超音波診断装置評価用ファントム(ここでは、球体シストファントム:Gammex 408 LE)を撮影したときに生成された超音波画像である。
【0079】
図12Aから、従来技術1の音響レンズ21を用いて送信した超音波ビームの音圧分布では、音響レンズ21の焦点に相当する深度位置の音圧のみが、局所的に高く、且つ、Narrow化しており、超音波ビームの深部のビーム幅が拡散し、なおかつ中心の音圧も下がった状態となっていることが分かる。
【0080】
又、
図12Bから、従来技術2の音響レンズ21を用いて送信した超音波ビームの音圧分布では、従来技術1の音響レンズ21を用いて送信した超音波ビームの音圧分布に比較して、超音波ビームの浅部から超音波ビームの深部まである程度の領域に亘って、均一で、細く集束した音圧となっていることが分かる。これは、従来技術2の音響レンズ21では、インナー領域21aで超音波ビームの浅部の音圧を高め、アウター領域21bで超音波ビームの深部の音圧を高める構成となっているためである。但し、
図12Bの超音波ビームの音圧分布においては、超音波ビームの浅部において、アウター領域21bから送信された超音波ビームの一部が外側に拡散して広がることにより、ビーム裾引きが発生し、ビーム幅が拡がってしまっていることが分かる。
【0081】
又、
図12Cから、本実施形態に係る音響レンズ21を用いて送信した超音波ビームの音圧分布では、従来技術2の音響レンズ21を用いて送信した超音波ビームの音圧分布に比較して、更に、超音波ビームの浅部から超音波ビームの深部まで広範囲に亘って、均一で、細く集束した音圧となっていることが分かる。これは、本実施形態に係る音響レンズ21を用いて送信した超音波ビームにおいては、従来技術2の音響レンズ21を用いて送信した超音波ビームで発生していたビーム裾引きが抑制されているためである。加えて、
図12Cからは、本実施形態に係る音響レンズ21では、音響レンズ21が形成する焦点の深度方向への分散がより効果的に行われ、本実施形態に係る音響レンズ21を用いて送信した超音波ビームでは、従来技術2の音響レンズ21を用いて送信した超音波ビームよりも、超音波ビームの中心軸音圧が、浅部から深部にわたって平準化できていることが分かる。
【0082】
又、
図13Aと
図13Bを比較すると分かるように、従来技術2に係る音響レンズ21Yを用いて撮影された超音波画像は、従来技術1に係る音響レンズ21Xを用いて撮影された超音波画像と比較して、深部において、鮮明な画像が得られている。一方、従来技術2に係る音響レンズ21Yを用いて撮影された超音波画像は、従来技術1に係る音響レンズ21Xを用いて撮影された超音波画像と比較して、浅部において、不鮮明な画像となっている。
【0083】
この点、
図13Cを、
図13A及び
図13Bと比較すると分かるように、本実施形態に係る音響レンズ21を用いて撮影された超音波画像は、浅部及び深部のいずれにおいても、鮮明な画像となっている。つまり、本実施形態に係る音響レンズ21を用いることで、従来技術1及び従来技術2に係る音響レンズ21X、21Yを用いた場合よりも、被写界深度の拡大が可能であり、且つ、空間分解能の向上が可能であることが分かる。
【0084】
ここで、本実施形態に係る音響レンズ21のより好ましい態様について、説明する。
【0085】
本実施形態に係る音響レンズ21の形状は、例えば、最小F値、F値比、焦点深度プロファイル、及び、コネクション領域21cの形状等によって定義することができる。
【0086】
ここで、「最小F値」は、音響レンズ21の各位置におけるF値のなかでの最小値により規定される値である。最小F値は、例えばレンズ中心からの距離=1.8mmで、その位置の焦点距離=18.4mmであれば、その位置におけるF値=18.4/(1.8*2)=5.1となり、このF値が全位置中で最小であれば最小F値=5.1となる。又、「F値比」は、音響レンズのレンズ中心近傍のF値を最小F値で除算した値(中心近傍換算F値/最小F値)により規定される値(但し、中心近傍換算F値は、中心近傍焦点距離と超音波放射面全体の幅から求めたF値)である。
【0087】
音響レンズ21の最小F値は、5~7の間となるのが好ましい。最小F値が、5より小さくなると浅部の描出は向上するが、最小F値となる位置のレンズ部(圧電振動子23a)より放射された超音波ビームの傾き角度が大きくなり、浅部の音圧が高くなってMI値が増加してしまう。又、焦点以深で超音波ビームが拡がってしまうため、深部描出が低下してしまう。一方、最小F値が、7より大きくなると今度は超音波ビームによる集束より拡散の影響が大きくなり、これもまた深部描出が低下する。
【0088】
音響レンズ21のF値比は、最小F値の範囲が5~7の範囲にあるとき、2.5~3.5の範囲にあることが好ましい。F値比が2.5より小さくなるとレンズ内での焦点の変化が小さくなることにより超音波ビームの集束範囲が狭くなり、音圧集中によるMI値の上昇を招くため、結果として送信電圧が規制されやすくなってしまう。一方、F値比が3.5より大きくなると今度は中央付近から放射された超音波ビームの集束性が不足し、深部で拡散により拡がって深部描出が低下する。
【0089】
音響レンズ21のインナー領域21a及びアウター領域21bの焦点深度プロファイルは、インナー領域21aのレンズ中心からアウター領域21bのレンズ外側端部まで、不連続部なく連続変化するのが好ましい。不連続部をなくすことで、音響レンズ21の外形において、確実に、超音波ゼリー中の気泡が溜まりやすい谷状部が形成されることがなくなるため、超音波ゼリー中の気泡に起因した画質の悪化を抑制することができる。尚、ここで、不連続部がない状態とは、焦点深度プロファイル(
図10Bを参照)において、プラスx軸方向0.1mmの当たりの焦点深度の変化量が10mm以上となる領域が、存在しない状態を意味する。尚、本実施形態に係る音響レンズ21では、コネクション領域21cにおいては、谷状部が形成されるおそれがあるが、上記したように、コネクション領域21cは、圧電振動子23aの端部又は外部に位置し、音響レンズ21にて形成される超音波ビームのビーム特性に対して大きな影響を及ぼさないため、この領域に谷状部が形成される点については、問題とはならない。
【0090】
又、音響レンズ21のアウター領域21bの焦点深度プロファイルは、アウター領域21bのレンズ中央部側の端部からアウター領域21bのレンズ外側の端部まで、非固定で連続変化するのが好ましい。これにより、より一層、浅部から深部まで広範囲にわたり均一に細く集束した超音波ビームを形成することが可能となり、且つ、中心軸音圧の音圧ピークを下げることが可能となる。尚、ここで、非固定で連続変化する状態とは、焦点深度プロファイル(
図10Bを参照)において、プラスx軸方向0.1mmの当たりの焦点深度の変化量が1mm未満となる領域が、存在しない状態を意味する。
【0091】
音響レンズ21のコネクション領域21cの形状は、特に制約はなく、凹曲線、凸曲線、直線等、様々な形をとることができるが、予め作製しておいた振動子にレンズを貼り付ける製造プロセスにてレンズを設ける場合は直線であることが好ましい。レンズを貼り付ける製造プロセスの場合、貼り付けがある程度ズレることを考慮してレンズ形状を大きめに作製する必要があるが、コネクション領域21cが直線であれば、この直線形状を必要に応じて延伸してズレをカバーするためのレンズ幅を確保しやすくなる。但し、レンズ部材を貼り付けたのちに形状加工する製造プロセスの場合はこの限りではない。
【0092】
[実施例]
次に、
図14~
図20を参照して、本願発明に係る音響レンズ21の設計思想に基づいて作成した音響レンズ21の種々の形状を示す。
【0093】
図14Aは、実施例1に係る音響レンズ21の形状プロファイルを示す図であり、
図14Bは、実施例1に係る音響レンズ21の焦点深度プロファイルを示す図である。実施例1に係る音響レンズ21は、本願発明に係る音響レンズ21の設計思想のもと、中心近傍焦点距離(mm)を69.0mm、中心近傍換算F値を17.2、最短焦点距離(mm)を18.4mm、最小F値を5.1、F値比を3.4に設定して作製された音響レンズ21である。
【0094】
図15Aは、実施例2に係る音響レンズ21の形状プロファイルを示す図であり、
図15Bは、実施例1に係る音響レンズ21の焦点深度プロファイルを示す図である。実施例2に係る音響レンズ21は、本願発明に係る音響レンズ21の設計思想のもと、中心近傍焦点距離(mm)を69.0mm、中心近傍換算F値を17.2、最短焦点距離(mm)を18.4mm、最小F値を5.1、F値比を3.4に設定して作製された音響レンズ21である。
【0095】
図16Aは、実施例3に係る音響レンズ21の形状プロファイルを示す図であり、
図16Bは、実施例1に係る音響レンズ21の焦点深度プロファイルを示す図である。実施例3に係る音響レンズ21は、本願発明に係る音響レンズ21の設計思想のもと、中心近傍焦点距離(mm)を69.0mm、中心近傍換算F値を17.2、最短焦点距離(mm)を29.5mm、最小F値を8.3、F値比を2.1に設定して作製された音響レンズ21である。
【0096】
図17Aは、実施例4に係る音響レンズ21の形状プロファイルを示す図であり、
図17Bは、実施例1に係る音響レンズ21の焦点深度プロファイルを示す図である。実施例4に係る音響レンズ21は、本願発明に係る音響レンズ21の設計思想のもと、中心近傍焦点距離(mm)を69.0mm、中心近傍換算F値を17.2、最短焦点距離(mm)を13.4mm、最小F値を3.7、F値比を4.6に設定して作製された音響レンズ21である。
【0097】
図18Aは、実施例5に係る音響レンズ21の形状プロファイルを示す図であり、
図18Bは、実施例1に係る音響レンズ21の焦点深度プロファイルを示す図である。実施例5に係る音響レンズ21は、本願発明に係る音響レンズ21の設計思想のもと、中心近傍焦点距離(mm)を47.7mm、中心近傍換算F値を11.9、最短焦点距離(mm)を18.4mm、最小F値を5.1、F値比を2.3に設定して作製された音響レンズ21である。
【0098】
図19Aは、実施例6に係る音響レンズ21の形状プロファイルを示す図であり、
図19Bは、実施例1に係る音響レンズ21の焦点深度プロファイルを示す図である。実施例6に係る音響レンズ21は、本願発明に係る音響レンズ21の設計思想のもと、中心近傍焦点距離(mm)を90.5mm、中心近傍換算F値を22.6、最短焦点距離(mm)を18.4mm、最小F値を5.1、F値比を4.4に設定して作製された音響レンズ21である。
【0099】
図20Aは、実施例7に係る音響レンズ21の形状プロファイルを示す図であり、
図20Bは、実施例1に係る音響レンズ21の焦点深度プロファイルを示す図である。実施例7に係る音響レンズ21は、本願発明に係る音響レンズ21の設計思想のもと、中心近傍焦点距離(mm)を61.2mm、中心近傍換算F値を15.3、最短焦点距離(mm)を27.4mm、最小F値を8.4、F値比を1.8に設定して作製された音響レンズ21である。
【0100】
尚、実施例1~実施例6に係る音響レンズ21(
図14~
図19)では、コネクション領域21cの形状が直線形状となっており、実施例7に係る音響レンズ21(
図20)では、コネクション領域21cの形状が凹部形状となっている。
【0101】
[検証実験]
次に、本願発明に係る音響レンズ21の性能評価を行った検証実験の実験結果を示す。尚、本検証実験は、Gammex 408 LE球体シストファントムを用いて行った。
【0102】
図21は、本願発明に係る音響レンズ21、従来技術1に係る音響レンズ21X、及び従来技術2に係る音響レンズ21Yそれぞれの性能を、「CTR(Clutter Energy to Total Energy Ratio)(dB)」、「Penetration(cm)」、「Gel気泡だまり」の3つの観点から、評価した結果を示す図である。
【0103】
尚、ここでは、本願発明に係る音響レンズ21としては、
図15に示した実施例2に係る音響レンズを用いた。又、従来技術1に係る音響レンズ21Xとしては、
図22に示す比較例1に係る音響レンズ、及び、
図23に示す比較例2に係る音響レンズを用いた。又、従来技術2に係る音響レンズ21Yとしては、
図24に示す比較例3に係る音響レンズ、及び、
図25に示す比較例4に係る音響レンズを用いた。本願発明に係る音響レンズ及び比較例1~4に係る音響レンズの設計パラメータについては、
図21中に記載している。
【0104】
「CTR」とは、無エコー部の描出性指標であり、被写界深度、及び、各深さ位置の空間分解能を表す指標となる。CTRは、256階調の画像では下記の計算式で求めることができる。尚、CTR値(dB)が大きいほど、無エコー部の描出が良好となる。一方、無エコー部全体の輝度が上昇している場合、又は、境界が無エコー部にはみ出して見かけ上の大きさが小さくなった場合、CTR値の数値は低下する。
【数1】
【0105】
「Penetration(cm)」は、被写界深度を表す指標となる。ここでは、無エコーターゲットがなく全てバックグラウンド部が描出される状態で、Gammex 408 LE球体シストファントムの同一箇所にて2枚撮像し、2枚の画像相関係数が0.5以上となる深度を、Penetrationの評価値とした。
【0106】
「Gel気泡だまり」は、超音波ゼリー中に泡だて器にて気泡を含有させ、このゼリーを用いてGammex 408 LE球体シストファントムを観察した際の画像欠陥の有無に係る評価項目である。尚、ここでは、Gel気泡だまりが発生しなかった場合に加えて、音響レンズをシストファントムに対して押し付ける動作だけで気泡による画像欠陥を排除できた場合にも、Gel気泡だまり「無し」として評価した。
【0107】
図21から分かるように、本願発明に係る音響レンズでは、比較例1~4に係る音響レンズと比較して、CTR値が、浅部から深部まで高い値となっている。又、本願発明に係る音響レンズでは、比較例1~4に係る音響レンズと比較して、Penetration(cm)が、高い値となっている。又、比較例3に係る音響レンズでは、Gel気泡だまりが発生してしまったが、本願発明に係る音響レンズでは、Gel気泡だまりが生じなかった。
【0108】
[効果]
以上のように、本実施形態に係る音響レンズ21は、超音波放射面が、レンズ中央部に位置し、超音波ビームの深部に相当する位置に焦点を形成する第1領域(インナー領域21aに相当)と、第1領域のレンズ外側に位置し、超音波ビームの浅部に相当する位置に焦点を形成する第2領域(アウター領域21bに相当)と、を含み、第1領域及び第2領域の各位置のレンズ部により形成される焦点の深度を示す焦点深度プロファイルが、レンズ中央部側からレンズ外側に向かって連続的に浅くなるプロファイルを描く構成を有する。
【0109】
従って、本実施形態に係る音響レンズ21によれば、広い被写界深度と、高い空間分解能を有する超音波画像の生成が可能である。又、本実施形態に係る音響レンズ21によれば、中心軸音圧の音圧ピークを下げることができるため、超音波検査において、高出力の超音波ビームの送信が可能となる。
【0110】
又、本実施形態に係る音響レンズ21によれば、従来技術2に係る音響レンズ21Yと異なり、超音波放射面の設計思想から、インナー領域21aとアウター領域21bとの接続位置に谷状部が形成されないため、超音波ゼリー中の気泡だまりによる画像欠陥が発生することを抑制することが可能である。
【0111】
尚、本実施形態に係る音響レンズ21は、1.25D、1.5D、1.75Dのように振動子を多列化することなく、1Dと呼ばれる安価な単列の探触子で浅部から深部までスライスビーム幅が均一で、ペネトレーションに優れた超音波探触子20を得ることを可能にするものである。従って、本実施形態に係る音響レンズ21は、基本的には、単列の超音波探触子20に適用することで大きな改善効果を得るものであるが、本実施形態に係る音響レンズ21の構成を、多列型振動子の中央列に適用してもよい。
【0112】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態に限らず、種々に変形態様が考えられる。
【0113】
例えば、上記実施形態では、音響レンズ21の一例として、音速が生体より遅い部材(例えば、シリコーン樹脂)を用いた凸レンズ型のレンズ態様を示したが、本発明に係る音響レンズ21は、音速が生体よりも速い部材(例えば、ポリメチルペンテン樹脂)を用いた凹レンズにも適用可能である。
【0114】
又、上記実施形態では、音響レンズ21の一例として、音響レンズ21を形成する材料が超音波放射面の面内で同一な態様を示したが、本発明に係る音響レンズ21は、音響レンズ21を形成する材料が超音波放射面の面内で材質が異なる部材(例えば、超音波屈折率が異なる部材)で形成されてもよい。
【0115】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本開示に係る音響レンズによれば、広い被写界深度と、高い空間分解能を有する超音波画像の生成が可能である。
【符号の説明】
【0117】
1 超音波診断装置
10 超音波診断装置本体
11 操作入力部
12 送信部
13 受信部
14 信号処理部
15 画像処理部
16 表示処理部
17 表示部
18 制御部
20 超音波探触子
21 音響レンズ
21a インナー領域(第1領域)
21b アウター領域(第2領域)
21c コネクション領域
21d エッジ領域
22 音響整合層
23 振動子アレイ
24 バッキング材