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特許7596777インクセット及びインクジェット記録方法
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  • 特許-インクセット及びインクジェット記録方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】インクセット及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/101 20140101AFI20241203BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20241203BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20241203BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241203BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20241203BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20241203BHJP
   C09D 11/106 20140101ALI20241203BHJP
【FI】
C09D11/101
C09D11/54
C09D11/30
B41J2/01 501
B41M5/00 132
C09D11/322
C09D11/106
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020213287
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099495
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】関根 翠
(72)【発明者】
【氏名】田中 恭平
(72)【発明者】
【氏名】中村 潔
【審査官】河村 明希乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-312305(JP,A)
【文献】特開2015-089653(JP,A)
【文献】特開2013-177530(JP,A)
【文献】特開2013-159106(JP,A)
【文献】特開2008-201919(JP,A)
【文献】特開2013-057042(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0392358(US,A1)
【文献】特表2023-544312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
B41J 2/01
B41M 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下層用インクと、上層用インクと、を含む放射線硬化型インクジェット組成物のインクセットであって、
前記下層用インクは、重合性化合物として、単官能の重合性化合物を重合性化合物の総量に対して80.0質量%以上含み、
窒素複素環構造を有する重合性化合物を含み、
前記窒素複素環構造を有する重合性化合物はビニルメチルオキサゾリジノンを含み、且つ、窒素複素環構造を有する重合性化合物及び/又は水酸基を有する重合性化合物を、合計で重合性化合物の総量に対して55.0質量%以上含む、インクセット。
【請求項2】
請求項1において、
前記下層用インクの表面張力は、前記上層用インクの表面張力よりも大きい、インクセット。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、前記下層用インクの表面張力は、前記上層用インクの表面張力よりも8.0mN/m以上大きい、インクセット。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、前記下層用インクは、白色顔料を含む、インクセット。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項において、前記上層用インクは、白色以外の顔料を含む、インクセット。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項において、前記下層用インクは、重合性化合物として下記一般式(I)で表わされるビニル基含有(メタ)アクリレートを含む、インクセット。
2C=CR1-CO-OR2-O-CH=CH-R3 ・・・(I)
(式(I)中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は炭素数2以上20以下の2価の有機基を表し、R3は水素原子又は炭素数1以上11以下の1価の有機基を表す。)
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項において、前記上層用インクの単官能の重合性化合物の含有量は、前記下層用インクの単官能の重合性化合物の含有量よりも多い、インクセット。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項において、前記上層用インクの単官能の重合性化合物の含有量は、重合性化合物の総量に対して95.0質量%以上である、インクセット。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか一項において、前記上層用インクは、重合性化合物として、以下の条件A及び条件Bを満たす重合性化合物を、重合性化合物の総量に対して80.0質量%以上含む、インクセット。
条件A:ファンデルワールス半径で定義される体積が0.26nm3以上である。
条件B:長辺に対する高さ方向の面積が0.25nm2以上である。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載のインクセットを用いるインクジェット記録方法であって、
前記下層用インクを記録媒体に付着させる第1付着工程と、
前記記録媒体上の前記下層用インクに放射線を照射して下層硬化膜を形成する第1硬化工程と、
前記下層硬化膜に前記上層用インクを付着させる第2付着工程と、
前記下層硬化膜上の前記上層用インクに放射線を照射して上層硬化膜を形成する第2硬化工程と、を有する、インクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセット及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙などの記録媒体に、画像データ信号に基づき画像を形成する記録方法として、種々の方式が利用されてきた。このうち、インクジェット方式は、安価な装置で、必要とされる画像部のみにインクを吐出し記録媒体上に直接画像形成を行うため、インクを効率良く使用でき、ランニングコストが安い。さらに、インクジェット方式は騒音が小さいため、記録方法として優れている。
【0003】
近年、耐水性、耐溶剤性、及び耐擦過性などに優れた印字を記録媒体の表面に形成するため、インクジェット方式の記録方法において、放射線(光、紫外線)を照射すると硬化する放射線硬化型インクが使用されている。
【0004】
一方、種々の放射線硬化型インクを順次重ね塗りする記録方法が広く行われている。例えば、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)、及びホワイト(W)等の互いに色の異なるインクを重ね塗りしてカラー画像を形成したり、画像の保護や光沢の付与といった目的でカラー画像に無色透明の下層用インクを重ね塗りしたりする場合がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、エネルギー線硬化型インクジェット記録用カラーインク組成物(Ia)を用いて、被記録部材に印刷塗膜を形成後、該塗膜の上にエネルギー線硬化型インクジェット記録用下層用インク組成物(Ib)を用いてクリア塗膜を形成し、かつ、下層に塗布するIaの表面張力Sa(mN/m)と上層に塗布するIbの表面張力Sb(mN/m)とを、Sb<Saの関係とするエネルギー線硬化型インク組成物の重ね塗り方法が開示されている。同文献には、印刷塗膜の上に付与された上層の組成物のはじきが低減される旨の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-181801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に硬化型の組成物により画像を形成する場合、記録媒体への画像の密着性等を向上させることを意図して、比較的柔軟な硬化物を形成しやすい単官能の重合性化合物が多く配合されることがある。画像を重ね塗りにより形成する場合も同様であり、硬化塗膜を形成する組成物に単官能の重合性化合物を多く用いることで、塗膜の記録媒体への密着性を向上できると考えられている。
【0008】
しかしながら、重ね塗りにおける下層を形成する組成物に単官能の重合性化合物を多く配合すると、下層の組成物及び上層の組成物の表面張力の関係を調節することだけでは、上層の組成物の濡れ広がりを確保しにくいことがわかってきた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るインクセットの一態様は、
下層用インクと、上層用インクと、を含む放射線硬化型インクジェット組成物のインクセットであって、
前記下層用インクは、重合性化合物として、単官能の重合性化合物を重合性化合物の総量に対して80.0質量%以上含み、且つ、窒素複素環構造を有する重合性化合物及び/又は水酸基を有する重合性化合物を、合計で重合性化合物の総量に対して55.0質量%以上含む。
【0010】
本発明に係るインクジェット記録方法の一態様は、
上述のインクセットを用いるインクジェット記録方法であって、
前記下層用インクを記録媒体に付着させる第1付着工程と、
前記記録媒体上の前記下層用インクに放射線を照射して下層硬化膜を形成する第1硬化工程と、
前記下層硬化膜に前記上層用インクを付着させる第2付着工程と、
前記下層硬化膜上の前記上層用インクに放射線を照射して上層硬化膜を形成する第2硬化工程と、
を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態で使用可能な記録装置のヘッドユニット及び搬送ユニットの一例の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0013】
1.インクセット
本実施形態に係るインクセットは、放射線硬化型インクジェット組成物のインクセットであって、下層用インクと、上層用インクと、を含む。放射線硬化型インクジェット組成物は、放射線を照射することにより硬化する。放射線としては、紫外線、電子線、赤外線、可視光線、エックス線等が挙げられる。放射線としては、放射線源が入手しやすく広く用いられている点、及び紫外線の放射による硬化に適した材料が入手しやすく広く用いられている点から、紫外線が好ましい。
【0014】
1.1.下層用インク
下層用インクは、放射線硬化型インクジェット組成物である。本明細書において、「下層」及び「上層」とは、インクを重ね塗りして得られる画像中の相対的な位置関係を表すものにすぎず、それぞれ「下塗り」及び「上塗り」と言い換えることができる。下層用インクは、重合性化合物を含む。
【0015】
下層用インクは、重合性化合物として、単官能の重合性化合物を重合性化合物の総量に対して80.0質量%以上含み、且つ、窒素複素環構造を有する重合性化合物及び/又は水酸基を有する重合性化合物を、合計で重合性化合物の総量に対して55.0質量%以上含む。
【0016】
1.1.1.重合性化合物
下層用インクは、重合性化合物として、単官能の重合性化合物を重合性化合物と、窒素複素環構造を有する重合性化合物及び/又は水酸基を有する重合性化合物と、を含む。下層用インクは、その他の重合性化合物を含んでもよい。さらに、各重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本明細書では重合性化合物のうち、分子量が1000以下であるものを「モノマー」ということがあり、「単官能のモノマー」、「多官能のモノマー」等を「単官能モノマー」、「多官能モノマー」等ということがある。
【0017】
以下、下層用インクに含み得る重合性化合物を例示した後、単官能の重合性化合物を重合性化合物、窒素複素環構造を有する重合性化合物、水酸基を有する重合性化合物について説明する。
【0018】
1.1.1.(1)重合性化合物
下層用インクは、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含有してもよい。すなわち、下層用インクは、重合性化合物として下記一般式(I):
CH=CR-COOR-O-CH=CH-R ・・・(I)
(上記式(I)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数2~20の2価の有機残基であり、Rは水素原子又は炭素数1~11の1価の有機残基である。)
で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含有してもよい。なお、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類は本明細書では、多官能モノマーに相当する。
【0019】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びそれに対応するメタクリレートのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイル及びそれに対応するメタクリロイルのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びそれに対応するメタクリルのうち少なくともいずれかを意味する。
【0020】
下層用インクが上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含有する場合には、硬化性をより優れたものとすることができ、より低粘度化できるという効果も期待できる。また、ビニルエーテル基を有する化合物及び(メタ)アクリル基を有する化合物を別々に使用するよりも、ビニルエーテル基及び(メタ)アクリル基を一分子中に共に有する化合物を使用する方が、インクの硬化性を良好にする上でより好ましい。
【0021】
上記の一般式(I)において、Rで表される炭素数2~20の2価の有機残基としては、炭素数2~20の直鎖状、分枝状又は環状の置換されていてもよいアルキレン基、構造中にエーテル結合及び/又はエステル結合による酸素原子を有する置換されていてもよい炭素数2~20のアルキレン基、炭素数6~11の置換されていてもよい2価の芳香族基が好適である。これらの中でも、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、及びブチレン基などの炭素数2~6のアルキレン基、オキシエチレン基、オキシn-プロピレン基、オキシイソプロピレン基、及びオキシブチレン基などの構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2~9のアルキレン基が好適に用いられる。
【0022】
上記の一般式(I)において、Rで表される炭素数1~11の1価の有機残基としては、炭素数1~10の直鎖状、分枝状又は環状の置換されていてもよいアルキル基、炭素数6~11の置換されていてもよい芳香族基が好適である。これらの中でも、メチル基又はエチル基である炭素数1~2のアルキル基、フェニル基及びベンジル基などの炭素数6~8の芳香族基が好適に用いられる。
【0023】
上記の各有機残基が置換されていてもよい基である場合、その置換基は、炭素原子を含む基及び炭素原子を含まない基に分けられる。まず、上記置換基が炭素原子を含む基である場合、当該炭素原子は有機残基の炭素数にカウントされる。炭素原子を含む基として、以下に限定されないが、例えばカルボキシル基、アルコキシ基が挙げられる。次に、炭素原子を含まない基として、以下に限定されないが、例えば水酸基、ハロ基が挙げられる。
【0024】
上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類としては、以下に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1-メチル-2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1-メチル-3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1-ビニロキシメチルプロピル、(メタ)アクリル酸2-メチル-3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1,1-ジメチル-2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1-メチル-2-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸6-ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸m-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸o-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、及び(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテルが挙げられる。
【0025】
これらの中でも、インクをより低粘度化でき、引火点が高く、かつ、インクの硬化性に優れるため、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチル、すなわち、アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチル及びメタクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチルのうち少なくともいずれかが好ましく、アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチル(VEEA)がより好ましい。特にアクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチル及びメタクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチルは、何れも単純な構造であって分子量が小さいため、インクを顕著に低粘度化することができる。(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチルとしては、(メタ)アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル及び(メタ)アクリル酸2-(1-ビニロキシエトキシ)エチルが挙げられ、アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチルとしては、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル及びアクリル酸2-(1-ビニロキシエトキシ)エチルが挙げられる。なお、アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチルの方が、メタクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチルに比べて硬化性の面で優れている。
【0026】
ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
下層用インクは、単官能、2官能、及び3官能以上の多官能といった種々のモノマー及びオリゴマーを含有してもよい。上記モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸やそれらの塩又はエステル、ウレタン、アミド及びその無水物、アクリロニトリル、スチレン等のビニル化合物、不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、並びに不飽和ウレタンが挙げられる。また、例えば、直鎖アクリルオリゴマー等のモノマーから形成されるオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、オキセタン(メタ)アクリレート、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0028】
また、他の単官能モノマーや多官能モノマーとして、N-ビニル化合物を含んでもよい。N-ビニル化合物としては、N-ビニルフォルムアミド、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、及びアクリロイルモルフォリン、並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
【0029】
上記(メタ)アクリレートのうち、単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート(4-HBA)、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの中でも、フェノキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0030】
上記(メタ)アクリレートのうち、2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの中でも、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(DPGDA)が好ましい。
【0031】
上記(メタ)アクリレートのうち、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カウプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、及びカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0032】
上記の重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
下層用インクは、窒素含有単官能モノマーを含有してもよい。窒素含有単官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルフォルムアミド、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルアセトアミド、ビニルメチルオキサゾリジノン(VMOX)及びN-ビニルピロリドン等の窒素含有単官能ビニルモノマー;アクリロイルモルフォリン等の窒素含有単官能アクリレートモノマー;(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリレートベンジルクロライド4級塩等の(メタ)アクリルアミド等の窒素含有単官能アクリルアミドモノマーが挙げられる。
【0034】
このなかでも、窒素含有単官能ビニルモノマー又は窒素含有単官能アクリレートモノマーのいずれかを選択することがより好ましく、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルピロリドン、又はアクリロイルモルフォリン(ACMO)などの含窒素複素環構造を有するモノマーがより好ましく、アクリロイルモルフォリンを含むことがさらに好ましい。
【0035】
このような窒素含有単官能モノマーを用いることにより、塗膜の耐擦過性がより向上する傾向にある。さらに、アクリロイルモルフォリン等の含窒素複素環構造を有する窒素含有単官能アクリレートモノマーは塗膜の延伸性及び密着性をより向上させる傾向にある。
【0036】
下層用インクに窒素含有単官能モノマーを用いる場合の含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは2.0~15.0質量%であり、より好ましくは3.0~13.0質量%であり、さらに好ましくは4.0~12.0質量%である。重合性化合物の総量に対する窒素含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の耐擦過性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0037】
下層用インクは、架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートを含有してもよい。架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートジシクロペンタニル(メタ)アクリレートが挙げられる。架橋縮合環構造とは、2以上の環状構造が1対1で辺を共有し、かつ、同じ環状構造または異なる環状構造の、互いに隣接しない2個以上の原子を連結した構造を意味する。
【0038】
このなかでもジシクロペンテニル(メタ)アクリレート(DCPA)を含むことがより好ましい。このような架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートを用いることにより、塗膜の耐擦過性と塗膜の延伸性及び密着性がより向上する傾向にあることに加えて、下層用インクの塗膜の光沢の低下がより抑制される傾向にある。
【0039】
下層用インクに架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートを用いる場合の含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは5.0~65.0質量%であり、より好ましくは10.0~63.0質量%であり、さらに好ましくは15.0~60.0質量%である。重合性化合物の総量に対する架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の密着性及び耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0040】
下層用インクは、芳香族基含有単官能モノマーを含有してもよい。芳香族基含有単官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート(PEA)、ベンジル(メタ)アクリレート(BZA)、アルコキシ化2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、アルコキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、p-クミルフェノールEO変性(メタ)アクリレート、及び2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0041】
このなかでも、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、フェノキシエチルアクリレート(PEA)がさらに好ましい。このような芳香族基含有単官能モノマーを用いることにより、重合開始剤の溶解性がより向上し、下層用インクの硬化性がより向上する傾向にある。特に、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤やチオキサントン系重合開始剤を用いる場合にその溶解性が良好となる傾向にある。
【0042】
下層用インクは、飽和脂肪族基含有単官能モノマーを含有してもよい。飽和脂肪族基含有単官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、3,3,5-トリメチルシクロへキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、tertブチルシクロヘキサノール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリル酸-1,4-ジオキサスピロ[4,5]デシ-2-イルメチル等の脂環属基含有(メタ)アクリレート;イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐鎖の脂肪属基含有(メタ)アクリレート;ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、飽和脂肪族基含有単官能モノマーは、架橋縮合環構造を有する化合物でないものとする。
【0043】
このなかでも3,3,5-トリメチルシクロへキシルアクリレート(TMCHA)、イソボルニルアクリレート(IBXA)、tertブチルシクロヘキサノールアクリレート(TBCHA)、ラウリルアクリレート(LA)が好ましい。このような飽和脂肪族基含有単官能モノマーを用いることにより、下層用インクの硬化性及び耐擦性がより向上する傾向にあることに加えて、下層用インクの塗膜の光沢の低下がより抑制される傾向にある。
【0044】
1.1.1.(2)重合性化合物の組成
下層用インクは、重合性化合物として、単官能の重合性化合物を重合性化合物の総量に対して80.0質量%以上含み、且つ、窒素複素環構造を有する重合性化合物及び/又は水酸基を有する重合性化合物を、合計で重合性化合物の総量に対して55.0質量%以上含む。
【0045】
(単官能の重合性化合物)
単官能の重合性化合物とは、重合性化合物の分子中に1つの重合性官能基を有する化合物である。単官能の重合性化合物としては、特に限定されないが、従来公知の、重合性官能基、例えば、(メタ)アクリル基、ビニル基等の炭素間の不飽和二重結合に基づく重合性官能基を有する単官能モノマーが挙げられる。単官能の重合性化合物は、上記例示した重合性化合物の中から選択できる。
【0046】
単官能の重合性化合物としては、単官能モノマーを用いるのが好ましい。分子量の比較的小さい単官能モノマーを用いることにより、下層用インクをより低粘度化することができる。単官能モノマーの具体例としては、フェノキシエチル(メタ)アクリレート(PEA)、(メタ)アクリロイルモルフォリン(ACMO)、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート(4-HBA)、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート(DCPA)、イソボルニル(メタ)アクリレート(IBXA)、ビニルメチルオキサゾリジノン(VMOX)、3,3,5-トリメチルシクロへキシル(メタ)アクリレート(TMCHA)、ラウリルアクリレート(LA)、tertブチルシクロヘキサノールアクリレート(TBCHA)等を挙げることができる。
【0047】
下層用インクに含まれる単官能の重合性化合物の含有量は、重合性化合物の総量に対して、80.0質量%以上である。また、下層用インクに含まれる単官能の重合性化合物の含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは85.0質量%以上であり、より好ましくは90.0質量%以上である。単官能の重合性化合物の含有量が重合性化合物の総量に対して80.0質量%以上であることにより、塗膜の延伸性がより向上する。また、下層用インクにおける単官能の重合性化合物の含有量の上限は、特に制限されないが、重合性化合物の総量に対して、好ましくは99.0質量%以下であり、より好ましくは98.0質量%以下であり、さらに好ましくは97.0質量%以下である。単官能の重合性化合物の含有量が重合性化合物の総量に対して99.0質量%以下であることにより、インクの臭気が抑制され、光沢性がより向上し、また、塗膜の硬化性、耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0048】
また、下層用インクに含まれる単官能の重合性化合物の含有量は、下層用インク全体の総量に対して、好ましくは70.0質量%以上であり、より好ましくは75.0質量%以上であり、さらに好ましくは80.0質量%以上である。単官能の重合性化合物の含有量が下層用インクの総量に対して70.0質量%以上であることにより、塗膜の延伸性がより向上する傾向にある。また、単官能の重合性化合物の含有量の上限は、下層用インクの総量に対して、好ましくは95.0質量%以下であり、より好ましくは92.0質量%以下であり、さらに好ましくは90.0質量%以下である。単官能の重合性化合物の含有量が下層用インクの総量に対して95.0質量%以下であることにより、インクの臭気が抑制され、光沢性がより向上し、また、塗膜の硬化性、耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0049】
(窒素複素環構造を有する重合性化合物及び/又は水酸基を有する重合性化合物)
窒素複素環構造を有する重合性化合物としては、特に限定されないが、従来公知の、窒素複合環、例えば、ピロリジン、ピペリジン、ピリジン、ピリミジン、イミダゾール、オキサゾリン、オキサゾリジン、オキサゾール、ピリジン、ピリミジン、モルフォリン、オキサジン等に由来する骨格を含む(メタ)アクリレート又はビニル化合物等を例示できる。窒素複素環構造を有する重合性化合物は、上記例示した重合性化合物の中から選択できる。窒素複素環構造を有する重合性化合物の具体例としては、(メタ)アクリロイルモルフォリン(ACMO)、ビニルメチルオキサゾリジノン(VMOX)等が挙げられる。
【0050】
水酸基を有する重合性化合物としては、特に限定されないが、従来公知の、水酸基を含む(メタ)アクリレート又はビニル化合物等を例示できる。水酸基を有する重合性化合物は、上記例示した重合性化合物の中から選択できる。水酸基を有する重合性化合物の具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート(4-HBA)、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
【0051】
本実施形態の下層用インクは、窒素複素環構造を有する重合性化合物及び水酸基を有する重合性化合物のうち、少なくとも一方を含有する。そして下層用インクは、窒素複素環構造を有する重合性化合物及び/又は水酸基を有する重合性化合物の合計として、重合性化合物の総量に対して55.0質量%以上含有する。
【0052】
また、下層用インクに含まれる窒素複素環構造を有する重合性化合物及び/又は水酸基を有する重合性化合物の合計含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは60.0質量%以上であり、より好ましくは65.0質量%以上である。
【0053】
なお、窒素複素環構造を有する重合性化合物及び水酸基を有する重合性化合物は、いずれも上述の単官能の重合性化合物である場合がある。したがって、下層用インクにおいて、単官能モノマーが重合性化合物の総量に対して80.0質量%以上であること、及び、窒素複素環構造を有する重合性化合物及び/又は水酸基を有する重合性化合物が重合性化合物の総量に対して55.0質量%以上であることを計算する場合には、各含有量は、独立に算出することとし、特定のモノマーがそれぞれの含有量の計算に重複して算入される場合がある。
【0054】
窒素複素環構造を有する重合性化合物及び/又は水酸基を有する重合性化合物の含有量が重合性化合物の総量に対して55.0質量%以上であることにより、上層用インクの塗膜との密着性をより向上させることができる。また、下層用インクにおける窒素複素環構造を有する重合性化合物及び/又は水酸基を有する重合性化合物の含有量の上限は、特に制限されないが、重合性化合物の総量に対して、好ましくは90.0質量%以下であり、より好ましくは85.0質量%以下である。
【0055】
1.1.2.重合開始剤
下層用インクは、重合開始剤を含んでもよい。重合開始剤としては、放射線を照射することにより活性種を生じるものであれば特に限定されないが、例えば、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤、アルキルフェノン系重合開始剤、チタノセン系重合開始剤、チオキサントン系重合開始剤等の公知の重合開始剤が挙げられる。これらの中でも、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤が好ましい。このような重合開始剤を用いることにより、下層用インクの硬化性がより向上し、特にUV-LEDの光による硬化プロセスによる硬化性がより向上する傾向にある。重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤としては、特に制限されないが、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0057】
このようなアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 819(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド)、IRGACURE 1800(ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドと、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトンの質量比25:75の混合物)、IRGACURE TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)(以上全てBASF社製)等が挙げられる。
【0058】
下層用インクに含まれる重合開始剤の含有量は、下層用インクの総量に対して、好ましくは3.0~12.0質量%であり、より好ましくは5.0~10.0質量%であり、さらに好ましくは7.0~9.0質量%である。重合開始剤の含有量が上記範囲内であることにより、下層用インクの硬化性及び重合開始剤の溶解性がより向上する傾向にある。
【0059】
1.1.3.色材
下層用インクは、色材を含んでもよく、含まなくてもよい。色材としては、顔料及び染料のうち少なくとも一方を用いることができる。
【0060】
色材として顔料を用いることにより、下層用インクの耐光性を向上させることができる。顔料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.(Colour Index Generic Name)ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。
【0062】
有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。
【0063】
更に詳しく言えば、ブラックに使用されるカーボンブラックとしては、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製)、Raven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以上、コロンビアカーボン(Carbon Columbia)社製)、Rega1 400R、Rega1 330R、Rega1 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等(キャボット社(CABOTJAPAN K.K.)製)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color B1ack S150、ColorBlack S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、SpecialBlack 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4(以上、デグッサ
(Degussa)社製)が挙げられる。
【0064】
ホワイトに使用される白色顔料としては、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21が挙げられる。
【0065】
イエローに使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、155、167、172、180が挙げられる。
【0066】
マゼンタに使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、又はC.I.ピグメントヴァイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
【0067】
シアンに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー 4、60が挙げられる。
【0068】
また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン 7、10、C.I.ピグメントブラウン 3、5、25、26、C.I.ピグメントオレンジ 1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63が挙げられる。
【0069】
色材として染料を用いてもよい。染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能である。染料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
染料としては、特に制限されないが、例えば、C.I.アシッドイエロー17、23、42、44、79、142、C.I.アシッドレッド52、80、82、249、254、289、C.I.アシッドブルー9、45、249、C.I.アシッドブラック1、2、24、94、C.I.フードブラック1、2、C.I.ダイレクトイエロー1、12、24、33、50、55、58、86、132、142、144、173、C.I.ダイレクトレッド1、4、9、80、81、225、227、C.I.ダイレクトブルー1、2、15、71、86、87、98、165、199、202、C.I.ダイレクトブラック19、38、51、71、154、168、171、195、C.I.リアクティブレッド14、32、55、79、249、C.I.リアクティブブラック3、4、35が挙げられる。
【0071】
これらの中でも、色材として白色顔料を含むのが好ましい。下層用インクが白色顔料を含む場合には、より背景隠蔽性が良好で視認性の良い画像を形成できるインクセットとすることができる。
【0072】
下層用インクの色材の合計含有量は、色材として白色顔料を含まない場合、下層用インクの総量に対して好ましくは0.2~20.0質量%であり、より好ましくは0.5~15.0質量%であり、さらに好ましくは1.0~10.0質量%である。一方色材として白色顔料を含む場合、色材の合計含有量は、下層用インクの総量に対して好ましくは5.0~25.0質量%であり、より好ましくは10.0~20.0質量%である。白色顔料の含有量が上記範囲内であることにより、下層用インクの背景隠蔽性がより良好となる。
【0073】
1.1.4.その他の添加剤
下層用インクは、必要に応じて、分散剤、重合禁止剤、スリップ剤等の添加剤をさらに含んでもよい。
【0074】
(分散剤)
分散剤としては、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤などの顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤が挙げられる。その具体例として、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン、ビニル系ポリマー及びコポリマー、アクリル系ポリマー及びコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、及びエポキシ樹脂のうち1種以上を主成分とするものが挙げられる。分散剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
高分子分散剤の市販品として、味の素ファインテクノ社製のアジスパーシリーズ、アベシア(Avecia)社やノベオン(Noveon)社から入手可能なソルスパーズシリーズ(Solsperse36000等)、BYK Additives&Instruments社製のディスパービックシリーズ、楠本化成社製のディスパロンシリーズが挙げられる。
【0076】
下層用インクに含まれる分散剤の含有量は、下層用インクの総量に対して、好ましくは0.1~2.0質量%であり、より好ましくは0.1~1.0質量%であり、さらに好ましくは0.1~0.5質量%である。
【0077】
(重合禁止剤)
下層用インクは、重合禁止剤をさらに含んでもよい。重合禁止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
重合禁止剤としては、以下に限定されないが、例えば、p-メトキシフェノール、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、ヒドロキノン、クレゾール、t-ブチルカテコール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-ブチルフェノール)、及び4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ヒンダードアミン化合物などが挙げられる。
【0079】
重合禁止剤の含有量は、下層用インクの総量に対して、好ましくは0.05~1.0質量%であり、より好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0080】
(スリップ剤)
下層用インクは、スリップ剤をさらに含んでもよい。スリップ剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
スリップ剤としては、シリコーン系界面活性剤が好ましく、ポリエステル変性シリコーンまたはポリエーテル変性シリコーンであることがより好ましい。ポリエステル変性シリコーンとしては、BYK-347、348、350、BYK-UV3500、3510、3530(以上、BYK Additives&Instruments社製)等が挙げられ、ポリエーテル変性シリコーンとしては、BYK-3570(BYK Additives&Instruments社製)等が挙げられる。
【0082】
スリップ剤の含有量は、下層用インクの総量に対して、好ましくは0.01~2.0質量%であり、より好ましくは0.05~1.0質量%である。
【0083】
1.2.上層用インク
上層用インクは、放射線硬化型インクジェット組成物である。上層用インクは、重合性化合物を含む。また、上層用インクは、必要に応じて、重合開始剤、色材、その他の添加剤を含んでもよい。
【0084】
上層用インクに用い得る重合性化合物、重合開始剤、色材、その他の添加剤は、上述の「1.1.下層用インク」の「1.1.1.(1)重合性化合物」、「1.1.2.重合開始剤」、「1.1.3.色材」、「1.1.4.その他の添加剤」の項で述べたと同様であり、これらの項の「下層用インク」を「上層用インク」と読み替えることにより、説明を省略する。
【0085】
1.2.1.重合性化合物の組成
上層用インクは、重合性化合物として、単官能の重合性化合物を重合性化合物の総量に対して95.0質量%以上、より好ましくは98.0質量%以上含むことが好ましい。単官能の重合性化合物の含有量がこの範囲であれば、上層用インクにより形成される画像のひび割れがさらに生じにくくなる。すなわち、このようにすれば、上層用インクにより形成される硬化膜の柔軟性がさらに高まり、記録媒体の伸びや折れ曲がりによって上層用インクの硬化膜に歪が生じた場合に、硬化膜が追従して変形しやすくなるので、ひび割れを生じにくく、画像を良好な状態に保ちやすい。
【0086】
また、上層用インクは、重合性化合物として、以下の条件A及び条件Bを満たす重合性化合物を、重合性化合物の総量に対して80.0質量%以上、好ましくは85.0質量%以上、より好ましくは90,0質量%以上含むことが好ましい。
条件A:ファンデルワールス半径で定義される体積が0.26nm以上である。
条件B:長辺に対する高さ方向の面積が0.25nm以上である。
【0087】
上層用インクが条件A、条件Bに規定されるような嵩高さを有する重合性化合物を多く含むことで、上層用インクによる画像の光沢感が向上する。
【0088】
条件Aにおけるファンデルワールス(van-der-Waals)半径で定義される体積は、好ましくは0.27nm以上であり、より好ましくは0.28nm以上である。また、ファンデルワールス半径で定義される体積の上限は、特に制限されないが、好ましくは0.60nm以下であり、より好ましくは0.55nm以下であり、さらに好ましくは0.50nm以下である。
【0089】
条件Bのファンデルワールス半径で定義される長辺に対する高さ方向の面積は、好ましくは0.27nm以上であり、より好ましくは0.29nm以上である。また、ファンデルワールス半径で定義される長辺に対する高さ方向の面積の上限は、特に制限されないが、好ましくは0.50nm以下であり、より好ましくは0.45nm以下であり、さらに好ましくは0.40nm以下である。
【0090】
なお、ファンデルワールス半径で定義される体積及び長辺に対する高さ方向の面積は、分子の構造異性体のうち最もエネルギーの低い分子構造における、体積及び長辺に対する高さ方向の面積として求める。分子のファンデルワールス半径で定義される立体形状の特定や、それに基づく体積及び長辺に対する高さ方向の面積の算出には、公知のソフトウェア、例えば熱力学物性推算ソフトウェア等を用いることができる。
【0091】
「体積」は、化学式から真空中の分子状態を近似し、ファンデルワールス半径からつくられるキャビティの体積である。また、「長辺」とは、ファンデルワールス半径で定義される立体形状で最も長い辺であり、分子が最も安定になる構造をモデル化したときに、末端骨格原子(C,O,Nなど)のうち最も遠い物同士の距離を計算して求めたものである。「長辺に対する高さ方向の面積」とは、体積を長辺で割った値であり、長辺に直交する面における面積の指標をいう。
【0092】
上記の条件を満たす重合性化合物としては、例えば、ジシクロペンテニルアクリレート(DCPA)、イソボルニルアクリレート(IBXA)、3,3,5-トリメチルシクロへキシルアクリレート(TMCHA)、tertブチルシクロヘキサノールアクリレート(TBCHA)、イソノニルアクリレート(INAA)、ラウリルアクリレート(LA)のような重合性官能基を1つもつ単官能モノマー;ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)のような重合性官能基を複数もつ多官能モノマーが挙げられる。
【0093】
1.2.2.色材
上層用インクは、色材を含んでもよく、含まなくてもよい。、色材を含む場合、上層用インクは画像を形成するためのカラーインクとなる。一方色材を含まない場合、上層用インクは下層用インクにより記録された画像を保護するクリアインクとなる。
【0094】
上層用インクは、白色以外の顔料を含むのが好ましい。特に下層用インクが白色顔料を含む場合において、上層用インクが白色以外の顔料を含むカラーインクであると、下層用インクによる塗膜を下地とした画像を形成することができ、画像の視認性を向上できる。また、下地層が白色であると、その上に上層用インクにより形成される画像において、粒状感が高まりやすいが、本実施形態のインクセットでは、上述の上層用インクの濡れ広がりが良好であるので、粒状感の発現を抑制できる。すなわち、上層用インクが白色以外の顔料を含むことにより、上層用インクの濡れ広がりが良好であることによる効果がより顕著となる。
【0095】
1.3.重合性化合物の関係
本実施形態のインクセットにおいて、上層用インクの単官能の重合性化合物の含有量は、下層用インクの単官能の重合性化合物の含有量よりも多くすることがより好ましい。このようにすれば、下層用インクの単官能重合性化合物の含有比率が上層用インクの単官能重合性化合物の含有比率よりも小さいので、上層用インクが下層用インクよりも伸びやすくなり、画像形成部において記録媒体の折り曲げや伸びが生じた場合に、上層用インクにより形成される画像のひび割れがより生じにくくなる。
【0096】
1.4.表面張力の関係
本実施形態のインクセットにおいて、下層用インクの表面張力は、上層用インクの表面張力よりも大きくすることが好ましい。このようにすれば、上層用インクの濡れ広がりをさらに良好にできる。
【0097】
また、本実施形態のインクセットにおいて、下層用インクの表面張力を、上層用インクの表面張力よりも8.0mN/m以上大きくすることがより好ましい。このようにすれば、上層用インクの濡れ広がりをさらに良好にできる。
【0098】
本明細書において、「インクの濡れ広がり性」とは、下層用インクの塗膜上に上層用インクを線状に重ね塗った際に、線幅が比較的広くなる性質をいう。「硬化」とは、重合性化合物を含むインクに放射線を照射すると、重合性化合物が重合してインクが固化することをいう。「硬化性」とは、光を感応して硬化する性質をいう。「埋まり性」とは、充填性とも言い、記録物を硬化物(画像)が形成された側から見たときに、下地である記録媒体が見えない性質をいう。「吐出安定性」とは、ノズルの目詰まりがなく液滴を吐出させる性質をいう。「保存安定性」とは、インクを保存したときに、保存前後における粘度が変化しにくい性質をいう。
【0099】
1.5.その他のインク組成物
本実施形態のインクセットは、上記の下層用インク及び上層用インク組成物を含む限り、その他のインク組成物を含んでもよい。
【0100】
1.6.作用効果
本実施形態のインクセットによれば、下層用インクが単官能の重合性化合物を多く含むので塗膜の柔軟性が良好で、形成される画像の記録媒体への密着性が良好である。そのうえ下層用インクが極性基を有する重合性化合物を含むので塗膜上で上層用インクの濡れ広がりも良好で、埋まりの良好な画像を形成することができる。下層用インクが単官能の重合性化合物を多く含む場合、単に上層用インクと下層用インクの表面張力の差をつけても上層用インクの濡れ広がり性が確保できないところ、このインクセットでは、下層用インクが分子中に極性を有する部位を持つ窒素複素環構造を有する重合性化合物及び/又は水酸基を有する重合性化合物を含むので、当該部位が硬化した際に下層用インクの硬化塗膜表面に出てくることで下層用インクの表面自由エネルギーが向上し、上層用インクの濡れ広がり性が向上する。
【0101】
2.インクジェット記録方法
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、上記のインクセットを用いるインクジェット記録方法であって、下層用インクを記録媒体に付着させる第1付着工程と、記録媒体上の下層用インクに放射線を照射して下層硬化膜を形成する第1硬化工程と、下層硬化膜に上層用インクを付着させる第2付着工程と、下層硬化膜上の上層用インクに放射線を照射して上層硬化膜を形成する第2硬化工程と、を有する。
【0102】
2.1.記録媒体
本実施形態のインクセットは、インクジェット記録方法を用いて、記録媒体上に吐出されること等により、記録物が得られる。この記録媒体としては、例えば、吸収性又は非吸収性の記録媒体が挙げられる。後述する実施形態のインクジェット記録方法は、インクの浸透が困難な非吸収性記録媒体から、インクの浸透が容易な吸収性記録媒体まで、様々な吸収性能を持つ記録媒体に幅広く適用できる。
【0103】
吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、インクの浸透性が高い電子写真用紙などの普通紙、インクジェット用紙(シリカ粒子やアルミナ粒子から構成されたインク吸収層、あるいは、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーから構成されたインク吸収層を備えたインクジェット専用紙)から、インクの浸透性が比較的低い一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙、キャスト紙等が挙げられる。
【0104】
非吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック類のフィルム、シート、及びプレート、鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート、又はそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレスや真鋳等の合金のプレート等が挙げられる。
【0105】
2.2.インクジェット記録装置
上記実施形態のインクセットを用いて、上記インクジェット記録方法を実施するためのインクジェット記録装置(以下、単に「記録装置」とも言う。)の一例を説明する。当該記録装置は、第1の記録モードと、第2の記録モードと、記録制御部と、を備える。
【0106】
当該第1の記録モードは、下層用インクで形成された塗膜の上に上層用インクを重ね塗りして塗膜を形成するものである。
【0107】
当該第2の記録モードは、上層用インクで形成された塗膜の上に下層用インクを重ね塗りして塗膜を形成するものである。
【0108】
上記記録制御部は、第1の記録モード及び第2の記録モードにおいて、下層用インクで形成されるベタパターン画像のドット当たりのインク量を制御するものである。
以下、上記の記録装置の一例を詳細に説明する。
【0109】
図1は、本実施形態で使用可能な記録装置のヘッドユニット及び搬送ユニットの一例を説明するための概念図である。連続シート状の記録媒体Sは、上流側ローラー12A、搬送ドラム12、下流側ローラー12Bの回転に伴い、搬送方向の上流側から下流側へ搬送される。ヘッドユニットは、ホワイトインクWを吐出する1つ目のホワイトヘッドユニット30A(紙面上、図1の左側のもの)、イエローインクYを吐出するイエローヘッドユニット30B、マゼンタインクMを吐出するマゼンタヘッドユニット30C、シアンインクCを吐出するシアンヘッドユニット30D、ブラックインクKを吐出するブラックヘッドユニット30E、及びホワイトインクWを吐出する2つ目のホワイトヘッドユニット30A(紙面上、図1の右側のもの)を備える。照射ユニット40は、ヘッドユニット毎にその搬送方向の下流側に設けられた照射部42a,41a,41b,41c,41d,42bと、搬送方向の最後に設けられた照射部43と、を備えている。このような記録装置は、例えば特開2010-208218号における図2のように構成することができる。
【0110】
ここで、第1の記録モードが行われる場合は、搬送ドラム上の各ヘッドユニットと対向する位置に搬送されてきた記録媒体Sに対し、記録媒体Sが搬送されてくる順に、まず、1つ目のホワイトヘッドユニット30Aから下層用インクが吐出され、照射部42aから照射が行われて下層用インクによる塗膜が形成される。次に、当該塗膜の上に、イエローヘッドユニット30B、マゼンタヘッドユニット30C、シアンヘッドユニット30D、及びブラックヘッドユニット30Eのうち少なくともいずれかから上層用インクが吐出され、当該ヘッドの下流側に設けられた照射部から照射が行われる。最後に、照射部43から照射が行われて塗膜が形成される。なお、2つ目のホワイトヘッドユニット30A及び照射部42bは使用しない。
【0111】
一方、第2の記録モードが行われる場合は、搬送ドラム上の各ヘッドユニットと対向する位置に搬送されてきた記録媒体Sに対し、記録媒体Sが搬送されてくる順に、まず、イエローヘッドユニット30B、マゼンタヘッドユニット30C、シアンヘッドユニット30D、及びブラックヘッドユニット30Eの少なくともいずれかから上層用インクが吐出され、当該ヘッドの下流側に設けられた照射部から照射が行われて上層用インクの塗膜が形成される。次に、当該塗膜の上に、2つ目のホワイトヘッドユニット30Aから下層用インクが吐出され、照射部42bから照射が行われる。最後に、照射部43から照射が行われて塗膜が形成される。なお、1つ目のホワイトヘッドユニット30A及び照射部42aは使用しない。
【0112】
上記の記録制御部は、下層用インクの塗膜をベタパターンとするとき、第2の記録モードの方が第1の記録モードよりも、下層用インクの1ドット当たりのインク量が、好ましくは10%以上大きく、より好ましくは10~50%大きくなるよう調節するとよい。これにより、第2の記録モードでも第1の記録モードと同等の下層用インクの濡れ広がり性を確保する。なお、当該1ドットは、記録解像度で規定される最小記録単位である画素の1画素当たりに付着させるインク滴を意味する。
【0113】
ここで、第2の記録モードは必ずしも備えなくてよく、この場合、2つ目のホワイトヘッドユニット30A及び照射部42bは備えなくてもよい。また、インクのうち後から塗膜形成されるインク、すなわち、第1の記録モードにおける上層用インク及び第2の記録モードにおける下層用インクは、ヘッドユニットの下流側に設けられた照射部(41a~41d,42b)による照射及び照射部43による照射のうち少なくともいずれかにより硬化されればよく、ヘッドユニットの下流側に設けられた照射部によって硬化される場合は、照射部43は無くてもよい。
【0114】
なお、本明細書における「ベタパターン画像」とは、記録解像度で規定される最小記録単位領域である画素の全ての画素に対してドットを記録した画像を意味する。
【0115】
2.3.インクジェット記録方法
本実施形態において、下層用インクは、第1の記録モードにおいて記録媒体に上層用インクより先に塗膜を形成するインクであり、上層用インクは、第1の記録モードにおいて記録媒体の下層用インクによる塗膜の上に塗膜を形成するインクである。上層用インク及び下層用インクは、例えば、一方を主インクとし、他方を補助インクとすればよい。そして、当該主インクは、例えばカラーインク等の塗膜を視認して用いるインクとすればよい。また、当該補助インクは、例えば、ホワイトインク、下層用インク、及びメタリックインク等の特色インク、又は、主インクの密着性、濡れ広がり性、及び耐擦性などの性能を向上させる機能インク等とすればよい。
【0116】
ここで、上層用インク及び下層用インクを、共に主インクとしてもよいし、あるいは共に補助インクとしてもよいが、一方を主インクとし他方を補助インクとすることが、記録物の用途が広がり、かつ、主インクの性能が向上するため好ましい。一方を主インクとし他方を補助インクとする場合、上層用インクと下層用インクのいずれを主インクとするかは、上述した主インク及び補助インクの各々の性質を考慮して決めればよい。したがって、上記図1では、第1の記録モードで下層用インクを吐出するヘッドを1つ目のホワイトヘッドユニット30Aとしているが下層用インクがホワイトインクに限られるものではない。
【0117】
このように、第1の記録モード及び第2の記録モードの間でインク量を異ならせるのは、第2の記録モードでは、上層用インクの塗膜上の下層用インクの線幅が狭くなることから、下層用インクのベタパターン画像の埋まり性が悪化するためである。そこで、上記のようにインク量を増やすことにより、下層用インクの埋まり性を良好にすることができる。
【0118】
本実施形態のインクジェット記録方法は、記録媒体上に上記実施形態における下層用インクの塗膜を形成する第1の記録工程と、当該塗膜の上に上記実施形態における上層用インクを重ね塗りして当該インクの塗膜を形成することにより画像を形成する第2の記録工程と、を含むものである。
【0119】
第1の記録工程及び第2の記録工程はそれぞれ、インクを記録媒体上に吐出する第1(第2)吐出工程と、吐出された当該インクに放射線を照射して、当該インクを硬化させる第1(第2)硬化工程と、を含むものである。このようにして、記録媒体上で硬化したインクにより、画像、即ち硬化されたインク塗膜が形成される。以下、これらの段階について説明する。
【0120】
〔吐出工程〕
第1吐出工程では、記録媒体に向けてインクが吐出され、下層用インクが記録媒体に付着する。一方、第2吐出工程では、上層用インクが下層硬化膜に付着する。吐出時におけるインクの粘度は、15mPa・s以下が好ましく、12mPa・s以下がより好ましい。インクの粘度が、インクの温度を室温として、あるいは、インクを加熱しない状態として上記のものであれば、インクの温度を室温として、あるいはインクを加熱せずに吐出させればよい。その際、吐出時のインクの温度は20~30℃であることが好ましい。一方、インクを所定の温度に加熱することによって粘度を好ましいものとして吐出させてもよい。このようにして、良好な吐出安定性が実現される。
【0121】
本実施形態における下層用インク及び上層用インクはいずれも放射線硬化型インクであり、通常の水性インクより粘度が高いため、吐出時の温度変動による粘度変動が大きい。このようなインクの粘度変動は、液滴サイズの変化及び液滴吐出速度の変化に対して大きな影響を与え、ひいては画質劣化を引き起こし得る。したがって、吐出時のインクの温度はできるだけ一定に保つことが好ましい。
【0122】
〔硬化工程〕
次に、硬化工程では、記録媒体に向けて吐出されて付着(着弾)したインクを、放射線の照射によって硬化させる。硬化工程には、上述した第1吐出工程で記録媒体に付着した下層用インクに放射線を照射して下層用塗膜を形成する第1硬化工程と、上述した第2吐出工程で下層硬化膜上に付着させた上層用インクに放射線を照射して上層用塗膜を形成する第2硬化工程と、が含まれる。これは、インクに含まれ得る重合開始剤が光(紫外線)の照射により分解して、ラジカル、酸、及び塩基などの開始種を発生し、重合性化合物の重合反応が、その開始種の機能によって促進されるためである。あるいは、放射線の照射によって、重合性化合物の重合反応が開始するためである。このとき、インクにおいて重合開始剤と共に増感色素が存在すると、系中の増感色素が放射線を吸収して励起状態となり、重合開始剤と接触することによって重合開始剤の分解を促進させ、より高感度の硬化反応を達成させることができる。
【0123】
放射線源としては、紫外線を照射する水銀ランプやガス・固体レーザー等が主に利用されており、放射線硬化型インクジェットインクの硬化に使用される光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプが広く知られている。その一方で、現在環境保護の観点から水銀フリー化が強く望まれており、GaN系半導体紫外発光デバイスへの置き換えは産業的、環境的にも非常に有用である。さらに、紫外線発光ダイオード(UV-LED)及び紫外線レーザダイオード(UV-LD)は小型、高寿命、高効率、低コストであり、放射線硬化型インクジェット用光源として好ましく用いられる。これらの中でも、UV-LEDが好ましい。
【0124】
ここで、LEDの出力を上げやすいため、発光ピーク波長が好ましくは350~420nmの範囲にあるUV-LEDを用いて、好ましくは200mJ/cm以下の照射エネルギーで硬化可能な放射線硬化型インクジェットインクのセットをインクジェット記録方法に用いることが好適である。この場合、低コスト印刷且つ大きな印刷速度が実現できる。このようなインクは、上記波長範囲の紫外線照射により分解する重合開始剤、及び上記波長範囲の紫外線照射により重合を開始する重合性化合物のうち少なくともいずれかを含むことにより得られる。
【0125】
このように、本実施形態によれば、上層用インクの濡れ広がり性、上層用インク及び下層用インク双方の硬化性及び吐出安定性、並びに記録媒体上における下層用インクの埋まり性のいずれにも優れた、インクセットを用いたインクジェット記録方法を提供することができる。
【0126】
このインクジェット記録方法によれば、下層用インクが単官能の重合性化合物を多く含むので塗膜の柔軟性が良好で、形成される画像の記録媒体への密着性が良好である。そのうえ下層用インクが極性基を有する重合性化合物を含むので塗膜上で上層用インクの濡れ広がりも良好で、埋まりの良好な画像を形成することができる。
【0127】
3.実施例及び比較例
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をさらに説明するが、本発明は以下の例によってなんら限定されるものではない。
【0128】
3.1.下層用インク及び上層用インクの調製
まず、表1及び表2に示す色材、分散剤、各モノマーの一部を秤量して顔料分散用のタンクに入れ、タンクに直径1mmのセラミック製ビーズミルを入れて攪拌することにより、色材をモノマー中に分散させた顔料分散液を得た。次いで、表1及び表2に記載の組成となるように、ステンレス製容器である混合物用タンクに、残りのモノマー、重合開始剤及び重合禁止剤を入れ、混合攪拌して完全に溶解させた後、上記で得られた顔料分散液を投入して、さらに常温で1時間混合撹拌し、さらに5μmのメンブランフィルターでろ過することにより下層用インク及び上層用インクを得た。なお、表中の各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【0131】
表1及び表2中の略号は以下の通りである。
・PEA:商品名「ビスコート#192」、大阪有機化学工業株式会社製、フェノキシエチルアクリレート。
・ACMO:アクリロイルモルフォリン。「(〇)」は、窒素複素環構造を有する重合性化合物及び/又は水酸基を有する重合性化合物に該当することを示す。
・4-HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート。「(〇)」は、窒素複素環構造を有する重合性化合物及び/又は水酸基を有する重合性化合物に該当することを示す。
・DCPA:ジシクロペンテニルアクリレート。「(△)」は、「条件A:ファンデルワールス半径で定義される体積が0.26nm以上である。」及び「条件B:長辺に対する高さ方向の面積が0.25nm以上である。」を満たすモノマーであることを示す。
・IBXA:イソボルニルアクリレート。「(△)」は、「条件A」及び「条件B」を満たすモノマーであることを示す。
・VMOX:ビニルメチルオキサゾリジノン。「(〇)」は、窒素複素環構造を有する重合性化合物及び/又は水酸基を有する重合性化合物に該当することを示す。
・VEEA:アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル。
・DPGDA:商品名「SR508」、サートマー株式会社製、ジプロピレングリコールジアクリレート。「(△)」は、「条件A」及び「条件B」を満たすモノマーであることを示す。
・819:商品名「IRGACURE 819」BASF社製、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド。
・TPO:商品名「IRGACURE TPO」、BASF社製、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド。
・MEHQ:商品名「p-メトキシフェノール」、関東化学株式会社製、ヒドロキノンモノメチルエーテル。
・BYK-350:BYK社製商品名、アクリル系界面活性剤、「BYK 350」と略記した。
・PW6:C.I.ピグメントホワイト6(酸化チタン、テイカ社製)
・Solsperse36000:Lubrizol社製、高分子分散剤。
・TMCHA:商品名「ビスコート#196」、大阪有機化学工業株式会社製、3,3,5-トリメチルシクロへキシルアクリレート。「(△)」は、「条件A」及び「条件B」を満たすモノマーであることを示す。
・LA:商品名「ライトアクリレートL-A」、共栄社化学株式会社製、ラウリルアクリレート。「(△)」は、「条件A」及び「条件B」を満たすモノマーであることを示す。
・TBCHA:商品名「SR217」、サートマー株式会社製、tertブチルシクロヘキサノールアクリレート。「(△)」は、「条件A」及び「条件B」を満たすモノマーであることを示す。
・BYK-UV3500:BYK Additives&Instruments社製、アクリロイル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン。
・PB15:3:C.I.ピグメントブルー15:3。
【0132】
表1及び表2には、各インクにおける単官能モノマーの、重合性化合物の総量に対する割合、及び表面張力(mN/m)を記入した。また、表1では、各インクにおける極性モノマーの、重合性化合物の総量に対する割合を記入した。さらに表2では、各インクにおける「条件A」及び「条件B」を満たすモノマーの、重合性化合物の総量に対する割合を記入した。
【0133】
表2中、「体積」はソフトウェア「COSMOtherm」(MOLSIS社製)を用いて算出した、分子が真空中に浮いた状態における、該分子を構成する各原子のVan-der-Waals半径によって形成される該分子のキャビティーの体積である。
【0134】
表2中の「長辺」はソフトウェア「COSMOtherm」(MOLSIS社製)を用いて算出した、「体積」算出時の最も長い一辺を表す。より具体的には、分子が最も安定になる構造をモデル化したときに、末端骨格原子(C、O、Nなど)のうち最も遠い物同士の距離を計算して求めた。
【0135】
表2中の「体積/長辺」は上記「体積」を上記「長辺」で割った値を表す。この値は長辺に直交する断面の面積を意味する。
【0136】
3.2.評価内容
表3に示す実施例、比較例のインクセットにつき、以下の評価を行った。
【0137】
3.2.1.濡れ広がり性の評価
バーコーターで作製した下層用インク塗膜上での上層用インクの接触角を評価した。以下の基準で評価して、結果を表3に記載した。
A:25°以下
B:25°超28°以下
C:28°超30°以下
D:30°超
【0138】
3.2.2.埋まり性の評価
記録媒体(PET E20)に対して20ng/ドットで吐出し硬化させた下層用インクに、同条件で上層用インクを下層用インク上に重ねた時の埋まり性を目視で確認した。以下の基準で評価して、結果を表3に記載した。
A:記録媒体から30cm未満の距離から目視確認しても埋まっていた。
B:記録媒体から30cm以上1m未満の距離から目視確認すると埋まっていた。
C:記録媒体から1m以上の距離から目視確認しても埋まっていなかった。
【0139】
3.2.3.密着性の評価
PVC(ポリ塩化ビニル)フィルムに20ng/ドットで吐出し硬化させた塗膜の1か所に切り込みを入れ、テープ剥離を行った。以下の基準で評価して、結果を表3に記載した。
A:剥離無し。
B:塗膜の一部が剥離した。
C:塗膜が全て剥離した。
【0140】
3.2.4.硬化性の評価
下層用インクおよび上層用インクのそれぞれについて、PVC(ポリ塩化ビニル)フィルムに20ng/ドットで吐出し硬化させた塗膜に対し綿棒擦り試験をし、タックフリーとなる照射エネルギーを評価した。以下の基準で評価して、結果を表3に記載した。
A:200mJ/cm未満で硬化した。
B:200mJ/cm以上で硬化しなかった。
【0141】
【表3】
【0142】
3.3.評価結果
下層用インクが、単官能の重合性化合物を重合性化合物の総量に対して80.0質量%以上含み、且つ、窒素複素環構造を有する重合性化合物及び/又は水酸基を有する重合性化合物を、合計で重合性化合物の総量に対して55.0質量%以上含む、各実施例のインクセットは、濡れ広がり性、埋まり性、密着性のいずれもが良好な結果となった。これに対して下層用インクが、単官能の重合性化合物を重合性化合物の総量に対して80.0質量%未満であるか、窒素複素環構造を有する重合性化合物及び/又は水酸基を有する重合性化合物が、合計で重合性化合物の総量に対して55.0質量%未満である、各比較例では、濡れ広がり性及び密着性を両立できないことが分かった。
【0143】
実施例のインクセットによれば、下層用インクが単官能の重合性化合物を多く含むので塗膜の柔軟性が良好で、形成される画像の記録媒体への密着性が良好であったと考えられる。そのうえ下層用インクが極性基を有する重合性化合物を含むので塗膜上で上層用インクの濡れ広がりも良好で、埋まりの良好な画像を形成することが判明した。すなわち、下層用インクが単官能の重合性化合物を多く含む場合、単に上層用インクと下層用インクの表面張力の差をつけても上層用インクの濡れ広がり性が確保できない。このインクセットでは、下層用インクが分子中に極性を有する部位を持つ窒素複素環構造を有する重合性化合物及び/又は水酸基を有する重合性化合物を含むので、当該部位が硬化した際に下層用インクの硬化塗膜表面に出てくることで上層用インクの濡れ広がり性が向上すると考えられる。
【0144】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0145】
上述した実施形態及び変形例から以下の内容が導き出される。
【0146】
インクセットは、
下層用インクと、上層用インクと、を含む放射線硬化型インクジェット組成物のインクセットであって、
前記下層用インクは、重合性化合物として、単官能の重合性化合物を重合性化合物の総量に対して80.0質量%以上含み、且つ、窒素複素環構造を有する重合性化合物及び/又は水酸基を有する重合性化合物を、合計で重合性化合物の総量に対して55.0質量%以上含む。
【0147】
このインクセットによれば、下層用インクが単官能の重合性化合物を多く含むので塗膜の柔軟性が良好で、形成される画像の記録媒体への密着性が良好である。そのうえ下層用インクが極性基を有する重合性化合物を含むので塗膜上で上層用インクの濡れ広がりも良好で、埋まりの良好な画像を形成することができる。下層用インクが単官能の重合性化合物を多く含む場合、単に上層用インクと下層用インクの表面張力の差をつけても上層用インクの濡れ広がり性が確保できないところ、このインクセットでは、下層用インクが分子中に極性を有する部位を持つ窒素複素環構造を有する重合性化合物及び/又は水酸基を有する重合性化合物を含むので、当該部位が硬化した際に下層用インクの硬化塗膜表面に出てくることで下層用インクの表面自由エネルギーが向上し、上層用インクの濡れ広がり性が向上する。
【0148】
上記インクセットにおいて、
前記下層用インクの表面張力は、前記上層用インクの表面張力よりも大きくてもよい。
【0149】
このインクセットによれば、上層用インクの濡れ広がりがさらに良好である。
【0150】
上記インクセットにおいて、
前記下層用インクの表面張力は、前記上層用インクの表面張力よりも8.0mN/m以上大きくてもよい。
【0151】
このインクセットによれば、上層用インクの濡れ広がりがさらに良好である。
【0152】
上記インクセットにおいて、
前記下層用インクは、白色顔料を含んでもよい。
【0153】
このインクセットによれば、より背景隠蔽性が良好で視認性の良い画像を形成できる。
【0154】
上記インクセットにおいて、
前記上層用インクは、白色以外の顔料を含んでもよい。
【0155】
このインクセットによれば、上層用インクの濡れ広がりによる効果がより顕著となる。
【0156】
上記インクセットにおいて、
前記下層用インクは、重合性化合物として下記一般式(I)で表わされるビニル基含有(メタ)アクリレートを含んでもよい。
C=CR-CO-OR-O-CH=CH-R ・・・(I)
(式(I)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数2以上20以下の2価の有機基を表し、Rは水素原子又は炭素数1以上11以下の1価の有機基を表す。)
【0157】
このインクセットによれば、下層用インクをさらに低粘度化し、尚且つ硬化性に優れるものとすることができる。
【0158】
上記インクセットにおいて、
前記上層用インクの単官能の重合性化合物の含有量は、前記下層用インクの単官能の重合性化合物の含有量よりも多くてもよい。
【0159】
このインクセットによれば、下層用インクの単官能重合性化合物の含有比率が上層用インクの単官能重合性化合物の含有比率よりも小さいので、上層用インクが下層用インクよりも伸びやすくなり、画像形成部において記録媒体の折り曲げや伸びが生じた場合に、上層用インクにより形成される画像のひび割れが生じにくくなる。
【0160】
上記インクセットにおいて、
前記上層用インクの単官能の重合性化合物の含有量は、重合性化合物の総量に対して95.0質量%以上であってもよい。
【0161】
このインクセットによれば、上層用インクにより形成される画像のひび割れがさらに生じにくくなる。
【0162】
上記インクセットにおいて、
前記上層用インクは、重合性化合物として、以下の条件A及び条件Bを満たす重合性化合物を、重合性化合物の総量に対して80.0質量%以上含んでもよい。
条件A:ファンデルワールス半径で定義される体積が0.26nm以上である。
条件B:長辺に対する高さ方向の面積が0.25nm以上である。
【0163】
このインクセットによれば、上層用インクが条件A、条件Bに規定されるような嵩高さを有する重合性化合物を多く含むことで、上層用インクによる画像の光沢感が向上する。
【0164】
インクジェット記録方法は、
上記のインクセットを用いるインクジェット記録方法であって、
前記下層用インクを記録媒体に付着させる第1付着工程と、
前記記録媒体上の前記下層用インクに放射線を照射して下層硬化膜を形成する第1硬化工程と、
前記下層硬化膜に前記上層用インクを付着させる第2付着工程と、
前記下層硬化膜上の前記上層用インクに放射線を照射して上層硬化膜を形成する第2硬化工程と、
を有する。
【0165】
このインクジェット記録方法によれば、下層用インクが単官能の重合性化合物を多く含むので塗膜の柔軟性が良好で、形成される画像の記録媒体への密着性が良好である。そのうえ下層用インクが極性基を有する重合性化合物を含むので塗膜上で上層用インクの濡れ広がりも良好で、埋まりの良好な画像を形成することができる。
【符号の説明】
【0166】
12…搬送ドラム、12A…上流側ローラー、12B…下流側ローラー、30A…ホワイトヘッドユニット、30B…イエローヘッドユニット、30C…マゼンタヘッドユニット、30D…シアンヘッドユニット、30E…ブラックヘッドユニット、40…照射ユニット、41a,41b,41c,41d,42a,42b,43…照射部、S…記録媒体、W…ホワイトインク、Y…イエローインク、M…マゼンタインク、C…シアンインク、K…ブラックインク
図1