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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】プリプレグ
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20241203BHJP
   C08G 59/24 20060101ALI20241203BHJP
   C08G 59/50 20060101ALI20241203BHJP
   C08K 5/41 20060101ALI20241203BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20241203BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20241203BHJP
   C08L 81/06 20060101ALI20241203BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C08J5/24 CFC
C08G59/24
C08G59/50
C08K5/41
C08K7/06
C08L63/00
C08L81/06
C08L101/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020570084
(86)(22)【出願日】2020-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2020046004
(87)【国際公開番号】W WO2021131740
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2019235865
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020043995
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】越智 隆志
(72)【発明者】
【氏名】渡 遼平
(72)【発明者】
【氏名】新井 厚仁
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/017340(WO,A1)
【文献】特開2005-298815(JP,A)
【文献】国際公開第2006/095516(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/100024(WO,A1)
【文献】国際公開第2003/040206(WO,A1)
【文献】特開2006-291093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
C08G 59/00-59/72
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載のプリプレグまたは請求項9に記載のプリプレグテープを成形して成る炭素繊維複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張強度、耐熱性、耐衝撃性に優れた炭素繊維複合材料を製造するためのプリプレグであって、さらにそれに用いる樹脂組成物の粘度安定性に優れるプリプレグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化複合材料は、軽量でありながら、強度や剛性などの力学特性や耐熱性、また耐食性に優れているため、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に応用されてきた。特に、高耐熱性能が要求される用途では、連続した強化繊維を用いた繊維強化複合材料が用いられ、強化繊維としては比強度、比弾性率に優れた炭素繊維が用いられ、マトリックス樹脂としては熱硬化性樹脂、中でも特に炭素繊維との接着性、耐熱性、弾性率を有し、硬化収縮が小さいエポキシ樹脂が多く用いられている。近年、炭素繊維強化複合材料(以下、CFRPと略す)の使用例が増えるに従い、その要求特性は厳しくなっている。
【0003】
特に航空宇宙用途や車両などの構造材料に適用する場合は高温での条件下でも物性を十分に保持することが要求される。高温条件下でも物性を発現するには、マトリックス樹脂であるエポキシ樹脂の耐熱性を向上させる必要があり、エポキシ樹脂の耐熱性を向上させるには、架橋密度を高めることが必要である。
【0004】
一方で、架橋密度を高めるとエポキシ樹脂の伸度が下がる傾向にある。CFRPにおいて、マトリックス樹脂の引張破断伸度が下がるとマトリックス樹脂の引張強度利用率が低下することが知られており、CFRPの比強度に優れる特徴を十分に活かせないことがある。上記のことからCFRPの耐熱性、強度を両立する種々のエポキシ樹脂の改質技術が提案されている。
【0005】
エポキシ樹脂の架橋密度を下げて、耐熱性を向上させる方法として、エポキシ樹脂の主鎖中の分子鎖の自由度を下げる剛直な構造を導入することが考えられ、芳香族系の剛直骨格を有する化合物を用いることが有効である。例えば、特許文献1には剛直な骨格としてナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂を組み合わせた樹脂組成物が提案されているが、電子基板用樹脂組成物であり、力学特性や耐湿熱性等が構造材料用の設計とはなっていない。また、特許文献2には、構造材料用として、3官能以上のビスナフタレン型エポキシ樹脂を用いているが、架橋密度の低下が十分ではなかった。一方、特許文献3には、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂を用いることが記載されているが、耐熱性が低い問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-263550号公報
【文献】特開2014-145017号公報
【文献】特開2010-202727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる背景技術に鑑み、引張強度、耐熱性、耐衝撃性に優れ、航空機機体の構造材料として好適な炭素繊維複合材料を与えるプリプレグであって、さらにそれに用いる樹脂組成物の粘度安定性に優れるプリプレグを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するために次の手段を採用するものである。すなわち、炭素繊維および少なくとも下記に示す構成要素[A]~[D]を含有する樹脂組成物を含有するプリプレグにおいて、構成要素[A]のエポキシ樹脂は、[A1]および[A2]を含有し、前記[A1]はエポキシ当量が200g/eq以上、265g/eq以下であり、その含有量は5質量部以上、45質量部以下であり、前記[A2]の含有量は55質量部以上、95質量部以下であり、前記[A2]は少なくとも[A2-1]および[A2-2]を含み、その質量比[A2-1]/[A2-2]が0.7以上、4.0以下であり、該樹脂組成物を80℃で2時間保持した時の粘度増加率が20%以下であるプリプレグである。
[A]:[A1]および[A2]を含むエポキシ樹脂
[A1]:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂
[A2]:[A2-1]および[A2-2]を含有するエポキシ樹脂
[A2-1]:4官能型液状エポキシ樹脂
[A2-2]:2官能型液状エポキシ樹脂
[B]:ジアミノジフェニルスルホン
[C]:ポリエーテルスルホン
[D]:真球状ポリマー粒子
または、次の構成要素[E]に構成要素[A]~[D-2]を含む樹脂組成物が含浸されてなるプリプレグであって、構成要素[A]100質量部中、[A1]エポキシ当量が200g/eq以上265g/eq以下であるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を45質量部以上80質量部以下、[A2-1]4官能型液状エポキシ樹脂を10質量部以上40質量部以下含むプリプレグ。
[A]エポキシ樹脂
[B]ジアミノジフェニルスルホン
[C]ポリエーテルスルホン
[D-2]熱可塑性樹脂粒子
[E]炭素繊維
または、炭素繊維および少なくとも下記に示す構成要素[A]~[D]を含み、構成要素[A]のエポキシ樹脂は、配合したエポキシ樹脂総量100質量部に対して、[A1]が2質量部以上、15質量部以下、[A2-1]が45質量部以上、65質量部以下、[A3]が15質量部以上、35質量部以下、[A4]が0質量部以上、35質量部以下を含み、[A1]のエポキシ当量が200g/eq以上、265g/eq以下である、プリプレグである。
[A]:[A1]、[A2-1]、[A3]、[A4]を含むエポキシ樹脂
[A1]:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂
[A2-1]:4官能型液状エポキシ樹脂
[A3]:2官能型グリシジルアニリン型エポキシ樹脂
[A4]:[A1]、[A2-1]、[A3]以外のエポキシ樹脂
[B]:ジアミノジフェニルスルホン
[C]:ポリエーテルスルホン
[D]:真球状ポリマー粒子
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、引張強度、耐熱性、耐衝撃性に優れるCFRPを得るための中間基材であるプリプレグを提供することができ、さらに該プリプレグの製造工程中での樹脂組成物の粘度安定性や該プリプレグから成るプリプレグテープの自動積層性にも優れるプリプレグを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0011】
本発明ではジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を活用した3種のプリプレグを開示しているが、第1のプリプレグは、炭素繊維および少なくとも下記に示す構成要素[A]~[D]を含有する樹脂組成物を含有するプリプレグにおいて、構成要素[A]のエポキシ樹脂は、[A1]および[A2]を含有し、前記[A1]はエポキシ当量が200g/eq以上、265g/eq以下であり、その含有量は5質量部以上、45質量部以下であり、前記[A2]の含有量は55質量部以上、95質量部以下であり、前記[A2]は少なくとも[A2-1]および[A2-2]を含み、その質量比[A2-1]/[A2-2]が0.7以上、4.0以下であり、該樹脂組成物を80℃で2時間保持した時の粘度増加率が20%以下であるプリプレグである。
[A]:[A1]および[A2]を含むエポキシ樹脂
[A1]:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂
[A2]:[A2-1]および[A2-2]を含有するエポキシ樹脂
[A2-1]:4官能型液状エポキシ樹脂
[A2-2]:2官能型液状エポキシ樹脂
[B]:ジアミノジフェニルスルホン
[C]:ポリエーテルスルホン
[D]:真球状ポリマー粒子。
【0012】
ここで、少なくとも構成要素[A]~[D]を含有する樹脂組成物を、以下では単に「樹脂組成物」と記す場合がある。
【0013】
本発明における構成要素[A]はエポキシ樹脂であり、CFRPの力学特性、プリプレグの取扱性の根幹をなす。本発明におけるエポキシ樹脂は、1分子内に1個以上のエポキシ基を有する化合物を意味する。
【0014】
本発明に用いられる構成要素[A1]のジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂とは、下記構造式(1)で表されるジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂の単独または混合物のことを言う。
【0015】
【化1】
【0016】
構成要素[A1]のジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂に含まれる構造式(1)中の、nは下記に記載のエポキシ当量を有するものであれば特に限定されないが、1~6の整数であるものを用いることが好ましい。また不純物としてnが0のものを含んでいてもよい。
【0017】
本発明に用いられる構成要素[A1]として、エポキシ当量が200g/eq以上265g/eq以下であるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を用いることで、樹脂組成物硬化物の架橋密度を低下させることと高い耐熱性を両立させることが可能となる。これはジシクロペンタジエン骨格が剛直であることに起因すると考えられる。
【0018】
また、本発明において構成要素[A1]であるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の含有量は、構成要素[A]エポキシ樹脂100質量部中、5質量部以上、45質量部以下とすると、引張強度などの力学特性を向上することができる。構成要素[A1]であるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の含有量の上限は、構成要素[A]エポキシ樹脂100質量部中、45質量部以下がより好ましい。
【0019】
構成要素[A1]ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の含有量は、25質量部以上とすると、得られるCFRPの引張強度が向上するとともに、モードI層間靱性(GIC)、耐衝撃性、耐熱性とのバランスを取ることができ、好ましい。また、構成要素[A1]ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂のエポキシ当量は265g/eq以下とすることで、併用する構成要素[C]ポリエーテルスルホン(以下、PESと略する)との相溶性が向上し、構成要素[A1]ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の含有量を増加させ易く、前記したように力学特性の向上に有利である。ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂のエポキシ当量は好ましくは253g/eq以下である。一方、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂のエポキシ当量は200g/eq以上とすることで、硬化物の耐熱性を向上することができる。
【0020】
本発明における構成要素[A1]であるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の市販品としては、“EPICLON”HP-7200L(エポキシ当量245g/eq~252g/eq、軟化点50~60℃)、“EPICLON”HP-7200(エポキシ当量254g/eq~264g/eq、軟化点56~58℃)(以上、DIC(株)製)、XD-1000-L(エポキシ当量240g/eq~255g/eq、軟化点60~70℃)、XD-1000-2L(エポキシ当量235g/eq~250g/eq、軟化点53~63℃)(以上、日本化薬(株)製)、“Tactix”556(エポキシ当量215g/eq~235g/eq、軟化点79℃)(Huntsman社製)などを例示することができる。
【0021】
本発明に用いられる構成要素[A2]は[A2-1]4官能型液状エポキシ樹脂と[A2-2]2官能型液状エポキシ樹脂とが含有されるものである。[A2]の含有量は、構成要素[A]エポキシ樹脂100質量部中、55質量部以上、95質量部以下とすると、本発明のプリプレグを成形して得られるCFRPの力学特性とプリプレグの取扱性のバランスを取ることができる。
【0022】
[A2-1]4官能型液状エポキシ樹脂とは、エポキシ樹脂1分子内に4つ以上のエポキシ基を含み、23℃で液状であるものであり、典型的にはグリシジルアミン型エポキシ樹脂である。例えばテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンやこれらのハロゲン置換体、アルキル置換体、アラルキル置換体、水添品などを用いることができる。これの市販品としては、“スミエポキシ”ELM434(住友化学(株)製)、“アラルダイト”MY720、“アラルダイト”MY721、“アラルダイト”MY9512、“アラルダイト”MY9663(以上ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、および“エポトート”YH-434(東都化成(株)製)等を例示することができる。
【0023】
[A2-2]2官能型液状エポキシ樹脂としては、分子内にエポキシ基を2つ含み、23℃で液状であるエポキシ樹脂であり、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂、グリシジルアニリン型エポキシ樹脂などを用いることができる。グリシジルアニリン型エポキシ樹脂の市販品としては、GAN(N,N-ジグリシジルアニリン)(日本化薬(株)製)、GOT(N,N-ジグリシジル-o-トルイジン)(日本化薬(株)製)、等を例示することができる。
【0024】
[A2-1]と[A2-2]の質量比としては、[A2-1]/[A2-2]を0.7以上、4.0以下とすると、CFRPの耐熱性と引張強度などの力学特性とのバランスを取ることができる。耐熱性を重視する場合には、[A2-1]/[A2-2]が2.0以上、4.0以下が好ましく、引張強度を重視する場合には、[A2-1]/[A2-2]が0.7以上~2.0未満であることがより好ましい。また、[A2-1]/[A2-2]が0.7以上~2.0未満であると、樹脂組成物の室温での貯蔵弾性率G’を低下させられるため、得られるプリプレグの室温での形状追従性、すなわち軟らかさを向上させ易い観点からもより好ましい。特にグリシジルアニリン型エポキシ樹脂を用いると、プリプレグの室温での柔らかさを向上させつつ、さらに得られるCFRPの引張強度を向上することもできるため好ましく、この場合には[A2-1]/[A2-2]を2.0以上として、さらに耐熱性を向上させることも同時に可能とできるため好ましい。
【0025】
もちろん、本発明のエポキシ樹脂組成物において、構成要素[A]であるエポキシ樹脂は構成要素[A1]、[A2]以外のエポキシ樹脂を含むこともできる。
【0026】
本発明に用いられる構成要素[B]としては、ジアミノジフェニルスルホン(以下、DDSと略する)が用いられる。DDSは構成要素[A]のエポキシ樹脂の硬化剤として用いられる。DDSとしては例えば4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-DDS)、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(3,3’-DDS)等が挙げられる。4,4’-DDSは3,3’-DDSに比べ反応活性が低いため、プリプレグ製造プロセス中での樹脂組成物の安定性を向上することができる。一方、3,3’-DDSは硬化物の弾性率を向上することができ、CFRPの弾性率や圧縮強度を向上することができる。
【0027】
本発明において、構成要素[B]であるDDSの含有量はDDSの全活性水素数(H)と、構成要素[A]エポキシ樹脂中のエポキシ基総数(E)との比、いわゆるH/Eで示すことができる。H/Eが0.7以上であれば、十分な硬化度が得られ、硬化物の耐熱性を向上することができるため好ましい。一方、H/Eは1.3以下であれば、硬化剤の未反応部を減じることができるため耐熱性を向上することができるため好ましい。例えば、構成要素[A1]としてHP-7200Lが40質量部、構成要素[A2]としてELM434が30質量部、構成要素[A1]、[A2]以外のエポキシ樹脂としてEPICLON830が30質量部含まれるエポキシ樹脂[A]を例にとって説明すると、DDS含有量をH/E=0.7とした場合の樹脂硬化物のガラス転移温度は185℃程度、H/E=1.0とした場合のガラス転移温度は190℃程度、H/Eを1.3とした場合のガラス転移温度は185℃程度である。またDDS含有量をH/E=0.6とした場合、樹脂硬化物がもろく、均一な樹脂板が得られず、H/E=1.4としたときのガラス転移温度は170℃未満と耐熱性が低い。
【0028】
本発明では、硬化剤としてDDS以外の物を含むこともできる。例えば、樹脂組成物の硬化時間を短縮する副硬化剤としてはヒドラジド系硬化剤を例示することができ、中でもイソフタル酸ジヒドラジド(以下、IDHと略す)が構造材料用プリプレグの成形工程において反応開始温度が適切であり、好ましい。IDHはDDSよりも低温でエポキシ基と反応を開始するため、硬化時間を短縮しCFRP製造効率を高くすることができる。ここで、IDHの含有量はIDHの全活性水素数(H)と、構成要素[A]エポキシ樹脂中のエポキシ基総数(E)との比、いわゆるH/Eで示すことができる。H/Eは0.05以上であれば、硬化時間短縮効果が得られるため、好ましい。また、H/Eは0.3以下とすると、硬化時間短縮効果と耐熱性のバランスを取ることができ、好ましい。なお、IDHを加えると、硬化過程での樹脂組成物のゲル化までの時間も短縮できる。このため、IDHの添加により、硬化中の樹脂流れを制御することも可能であり、得られるCFRPの品位を向上させることも可能である。ヒドラジド系硬化剤の市販品としてはIDH-S(大塚化学(株)製)等を例示することができる。
【0029】
本発明では、樹脂組成物の耐熱性と熱安定性を損ねない範囲で硬化促進剤を含有してもよい。硬化促進剤としては、例えば、三級アミン、ルイス酸錯体、オニウム塩、イミダゾール化合物、尿素化合物、ヒドラジド化合物、スルホニウム塩などが挙げられる。硬化促進剤の含有量は、使用する種類により適宜調整する必要があるが、エポキシ樹脂総量100質量部に対して10質量部以下が好ましく、より好ましくは5質量部以下である。硬化促進剤がかかる範囲で含有されている場合、CFRPを成形する際の温度ムラが生じにくいために好ましい。
【0030】
本発明に用いられる構成要素[C]としては、ポリエーテルスルホン(以下、PESと記載することもある)が用いられる。PESは、主鎖中にエーテル結合とスルホン結合を有し、プリプレグのタック性の制御をすること、プリプレグを加熱硬化するときのマトリックス樹脂の流動性制御をすること、および、得られるCFRPの耐熱性や弾性率を損ないにくく、引張強度と耐衝撃性、モードI層間靭性(GIC)を付与することなどを目的として含有される。PESの重量平均分子量は10,000g/mol以上であると、本発明のプリプレグを成形して得られるCFRPの引張強度、モードI層間靱性、耐衝撃性等の力学特性を向上することができ、好ましい。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下、GPCと略する)で測定され、ポリスチレン換算の重量平均分子量である。一方、PESの重量平均分子量は30,000g/mol以下であると本発明の重要構成要素であるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂とPESの相溶性が向上し、樹脂組成物製造や樹脂フィルム化、プリプレグ化での工程安定性を向上することができ、好ましい。加えて、重量平均分子量を30,000g/mol以下とすることで、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂およびPESの含有量を増加させることができる。PESがエポキシ樹脂と相溶するとは、PESをエポキシ樹脂に混合し、加熱攪拌することで均一相となることである。均一相をなすとは、目視で相分離のない状態が得られることを指す。また、相溶性が向上することで、硬化過程でのエポキシ樹脂/PESの相分離構造の形成も抑制され、硬化条件によらず一定品質のCFRPが得られる。更に取り得る硬化条件の幅が広くなるとともに、厚物成形時でも部位による構造差を抑制することができ、品質安定性を向上することができる。
【0031】
PESの含有量は、構成要素[A]であるエポキシ樹脂100質量部に対し、2質量部以上とすることで、CFRPの引張強度や耐衝撃性、モードI層間靱性等の力学特性を高めることができ、好ましい。一方、PESの含有量は18質量部以下とすることが、エポキシ樹脂組成物の高粘度化を抑制でき、樹脂組成物製造や樹脂フィルム化、プリプレグ化での工程安定性を向上することができ、好ましい。また、タック性などのプリプレグの取り扱い性の面からも好ましい。また、PESの含有量は2質量部以上、18質量部以下であれば、その範囲内で含有量が多いほどCFRPの引張強度や耐衝撃性、モードI層間靱性に優れる。
【0032】
本発明における構成要素[C]であるPESの市販品としては、“Virantage”VW-10700RFP(重量平均分子量21,000g/mol)“Virantage”VW-10200RFP(重量平均分子量46,500g/mol)(以上、Solvay Advanced Polymers(株)製)、また“Virantage”VW-10200RFPと同程度の重量平均分子量を有するものとして“スミカエクセル”PES5003P(住友化学(株)製)が挙げられる。
【0033】
本発明の構成要素[D]は真球状ポリマー粒子である。真球状ポリマー粒子を含有することにより、CFRPとしたときに、特に耐衝撃性を向上させることができる。本発明で用いられる真球状ポリマー粒子に用いるポリマーとしては、本発明の効果が得られるものであれば特に制限は無いが、構造材料用のCFRPとした時に安定した接着強度や耐衝撃性を与え、更に耐湿熱性、耐薬品性を確保するとともに、一般的なプリプレグの成形方法(180℃程度の高温となる場合がある)を適用することを考慮すると、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフェニレンエーテルが好ましい。ポリアミドの中でも、ポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミド6、ポリアミド66やポリアミド6/12共重合体、例えば特開平1-104624号公報の実施例1に例示されるセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたポリアミド(セミIPNポリアミド)などが更に好ましい。
【0034】
ポリマー粒子の形状を真球状とすることで、高い耐衝撃性を有するCFRPを得ることができる。本発明で言う真球状とは、下記に定義する真球度が90~100の範囲にある事を言う。真球度は、走査型電子顕微鏡写真から無作為に30個の粒子を観察し、その短径と長径から下記数式に従い、決定される。
【0035】
【数1】
【0036】
なお、S:真球度、a:長径、b:短径、n:測定数30とする。
真球状ポリマー粒子の市販品としては、ポリアミド系としてはSP-500、SP-10(東レ(株)製)、ポリメチルメタクリレート系としてはMBX-12などのMBXシリーズおよびSSX-115などのSSXシリーズ(積水化成品(株)製)、ポリスチレン系としてはSBX-12などのSBXシリーズ(積水化成品(株)製)、また、それらの共重合体としてはMSXやSMX(積水化成品(株)製)、ポリウレタン系としてはダイミックビーズCMシリーズ、酢酸セルロース系としてはBELLOCEA((株)ダイセル製)、フェノール樹脂系としてはマリリン(群栄化学(株)製)などが挙げられる。更にポリアミドおよびその共重合体からなる真球状粒子としては、特開平1-104624号公報の実施例1記載のポリアミド系粒子やWO2018/207728号パンフレット記載のポリアミド系粒子などを例示することができる。また、ポリエーテルスルホン系の真球状粒子は、例えば特開2017-197665号公報記載の物を例示することができる。中でも、特開平1-104624号公報の実施例1記載のポリアミド系粒子は耐湿熱性、耐薬品性等が優れており、また、CFRPとした時の耐衝撃性発現効果に優れており、更に好ましい。真球状ポリマー粒子の粒子径は、光散乱法により決定されるモード径で5μm以上45μm以下であることが好ましい。本範囲とすることでCFRPとしたときに、安定した耐衝撃性を付与することができる。粒子径測定は光散乱法を適用し、例えば堀場製作所製Partica LA-950V2やマイクロトラック社製MT3300IIなどを用いて行うことができる。
【0037】
本発明の樹脂組成物は、80℃で2時間保持した時の粘度増加率が20%以下であるため、プリプレグ製造工程、特に樹脂組成物をフィルム化する工程での樹脂組成物の粘度安定性に優れ、樹脂組成物フィルムの目付安定性や均一性、工程安定性に優れる。粘度増加率は10%以下であれば、より好ましい。80℃で2時間保持した時の粘度増加率を低下させるには、80℃での樹脂組成物の反応性を低下させることが好ましく、この観点からは硬化剤であるDDSは3,3’-DDSよりも4,4’-DDSを用いることが好ましい。また、この意味からも本発明で用いるエポキシ樹脂において、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、4官能型エポキシ樹脂と組み合わせるエポキシ樹脂は、反応性が高いトリグリシジルアミノフェノール型エポキシ樹脂よりも2官能型液状エポキシ樹脂を選択しており、特にビスフェノール型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0038】
本発明の第2のプリプレグは、次の構成要素[E]に構成要素[A]~[D-2]を含む樹脂組成物が含浸されてなるプリプレグであって、構成要素[A]100質量部中、[A1]エポキシ当量が200g/eq以上265g/eq以下であるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を45質量部以上80質量部以下、[A2-1]4官能型液状エポキシ樹脂を10質量部以上40質量部以下含むプリプレグ。
[A]エポキシ樹脂
[B]ジアミノジフェニルスルホン
[C]ポリエーテルスルホン
[D-2]熱可塑性樹脂粒子
[E]炭素繊維
であり、本発明の第2のプリプレグは、次の構成要素[E]に構成要素[A]~[D-2]を含むエポキシ樹脂組成物が含浸されてなるプリプレグであって、構成要素[A]100質量部中、[A1]エポキシ当量が200g/eq以上265g/eq以下であるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を45質量部以上80質量部以下、[A2-1]4官能型液状エポキシ樹脂を10質量部以上40質量部以下含むプリプレグ。
[A]エポキシ樹脂
[B]ジアミノジフェニルスルホン
[C]ポリエーテルスルホン
[D-2]熱可塑性樹脂粒子
[E]炭素繊維
であることが好ましい。
【0039】
第2のプリプレグは、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂が45質量部以上80質量部以下と配合量が多いことが特徴である。これにより、-60℃での引張強度などの低温環境下での力学特性を向上することができる。ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の含有量は、45質量部以上60質量部以下とすると、得られるCFRPの引張強度、モードI層間靱性(GIC)、耐熱性のバランスを取ることができ、好ましい。また、この観点から、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の含有量は、樹脂組成物全体質量に対し、22質量%以上、55質量%以下とすることも好ましい。ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂のエポキシ当量は第1の発明と同様に設定することができる。
【0040】
第2のプリプレグに用いられる構成要素[A2-1]としては4官能型液状エポキシ樹脂が用いられるが、第1のプリプレグの[A2-1]と同様の物が用いられる。その含有量は、構成要素[A]エポキシ樹脂100質量部中10質量部以上40質量部以下であり、好ましくは10質量部以上30質量部以下である。構成要素[A2-1]をかかる範囲とすることで得られるCFRPの耐熱性と引張強度のバランスを取ることができる。
【0041】
また、第2のプリプレグに用いる樹脂組成物において、構成要素[A]エポキシ樹脂は構成要素[A1]、[A2-1]以外のエポキシ樹脂を含むことができ、かかるエポキシ樹脂は特に限定されないが、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、グリシジルアニリン型エポキシ樹脂などを用いることができる。
【0042】
第2のプリプレグに係わるその他の構成要素[B]、[C]に関しても第1のプリプレグと同様の物が用いられる。構成要素[D-2]の熱可塑性樹脂粒子を配合することにより、CFRPとしたときに、特にモードIIの層間靱性が向上し耐衝撃性を向上させることができる。本発明で用いられる熱可塑性樹脂粒子に用いる熱可塑性樹脂としては、本発明の効果が得られるものであれば特に制限は無いが、CFRPとした時に安定した接着強度や耐衝撃性を与える観点から、樹脂組成物中で形態を保持するものであることが好ましい。なかでも、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテルが好ましい。ポリアミドの中でも、ポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミド6、ポリアミド66やポリアミド6/12共重合体、特開平1-104624号公報の実施例1記載のエポキシ化合物においてセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたポリアミド(セミIPNポリアミド)などを好適に用いることができる。この熱可塑性樹脂粒子の形状としては、球状粒子でも非球状粒子でも、また多孔質粒子でもよいが、球状が、樹脂の流動特性を低下させないため粘弾性に優れ、また応力集中の起点がなく、高い耐衝撃性を与えるという点でも好ましい態様である。特に真球状ポリマー粒子を用いる場合には、第1のプリプレグと同様の物を用いることができる。なお、真球状ではないが、“オルガソール(登録商標)”1002D、2001UD、2001EXD、2002D、3202D、3501D,3502D、(以上、アルケマ(株)製)、“グリルアミド(登録商標)”TR90(エムザベルケ(株)社製)、“TROGAMID(登録商標)”CX7323、CX9701、CX9704、(デグサ(株)社製)等を使用することができる。これらの熱可塑性樹脂粒子は、単独で使用しても複数を併用してもよい。ポリエーテルイミドの市販品としては“ウルテム(登録商標)”1000、“ウルテム(登録商標)”1010、“ウルテム(登録商標)”1040(以上、ソルベイアドバンストポリマーズ(株)製)などが挙げられる。
【0043】
第2のプリプレグを成形して得られるCFRPは、優れた室温環境下、および低温環境下での引張強度特性と耐熱性、モードI層間靱性が得られる。
【0044】
かかる引張強度特性は0°引張強度測定にて評価することが可能である。CFRPの0°とは、JIS K7017(1999)に記載されているとおり、一方向繊維強化複合材料の繊維方向を軸方向とし、その方向を0°軸と定義し、軸直交方向を90°と定義する。JIS K7073(1988)の規格に準じて0゜引張試験を、測定温度を室温(23℃)と低温(-60℃)の2条件にて実施し、低温環境下における引張強度と室温環境下における引張強度の比である強度保持率を以下の式から算出する。
強度保持率(%)=引張強度(低温環境下)/引張強度(室温環境下)×100。
【0045】
第2のプリプレグにより得られるCFRPの引張強度の強度保持率は90%以上、110%以下が好ましく、95%以上、110%以下がより好ましい。強度保持率をかかる範囲とすることで航空機機体の使用環境下である低温(-60℃)環境下と室温近傍での強度との差が小さく、低温下での力学特性に優れる。
【0046】
かかるモードI層間靱性(GIC)は、JIS K7086(1993)に従い、求めることができ、GICは350J/m以上であると、適用可能な航空機等の構造部材の幅が広くなり好ましい
本発明の第3のプリプレグは、[A1]ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂と[A3]2官能型グリシジルアニリン型エポキシ樹脂を併用することに特徴がある。ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂としては、第1、第2のプリプレグと同様の物を用いることができる。前記したようにジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂は、CFRPの引張強度向上に有利であるが、一方で軟化点が50℃以上の、いわゆる固形エポキシ樹脂の場合が多く、樹脂組成物やプリプレグの室温付近での粘弾性制御に制限が見られる場合が有った。より詳細には、後述するように近年盛んになっているプリプレグテープを用いた自動積層工程において、樹脂組成物の貯蔵弾性率(G’)が高すぎると、プリプレグテープのスプライス不良や自動積層機内糸道でのプリプレグテープの搬送不良・テープのスプライス外れ、また積層不良などが発生し易い場合が有るが、固形エポキシ樹脂では室温付近での樹脂組成物のG’が高くなり易いものである。このため、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の配合量を減じても、CFRPの引張強度を高く維持するために2官能型グリシジルアニリン型エポキシ樹脂を併用するものである。また、2官能型グリシジルアニリン型エポキシ樹脂は室温付近で液状であることが多く、室温付近の粘弾性制御に適している。2官能型グリシジルアニリン型エポキシ樹脂の市販品としては、GAN(N,N-ジグリシジルアニリン)(日本化薬(株)製)、GOT(N,N-ジグリシジル-o-トルイジン)(日本化薬(株)製)、等を例示することができる。
【0047】
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂は2質量部以上、15質量部以下、2官能型グリシジルアニリン型エポキシ樹脂は15質量部以上、35質量部以下の組み合わせとすると、十分なCFRP強度と室温付近での粘弾性調整を両立することができる。ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂は5質量部以上、10質量部以下とすると、樹脂組成物の室温近傍のG’低減とCFRP強度のバランスをとり易く、好ましい。また、2官能型グリシジルアニリン型エポキシ樹脂は20質量部以上とすると、CFRP引張強度を向上させ易く、好ましい。なお、それぞれのエポキシ樹脂の好ましい質量部数は、第1樹脂組成物と第2樹脂組成物を合わせたエポキシ樹脂の総質量部数を100として設定すれば良い。
【0048】
また、[A2-1]4官能型液状エポキシ樹脂が用いられるが、第1、第2のプリプレグの[A2-1]と同様の物が用いられる。その含有量は45質量部以上、65質量部以下とすると、耐熱性と引張強度のバランスが良好なCFRPを得ることができる。4官能型液状エポキシ樹脂の含有量は50質量部以上、60質量部以下とすることがより好ましい。
【0049】
第3のプリプレグでは、[A1]、[A2-1]、[A3]以外のエポキシ樹脂[A4]を含有することもできる。[A4]を適切に選択することにより、樹脂組成物の粘弾性を調整し、樹脂組成物やプリプレグの製造工程、プリプレグの成形工程での工程通過性を良好に保つことができる。[A4]としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂などを用いることができる。その含有量は0質量部以上、35質量部以下である。
【0050】
第3のプリプレグに係わるその他の構成要素[B]、[C]、[D]に関しても第1、第2のプリプレグと同様の物が用いられる。
【0051】
以下は、本発明のその他の特徴について記載する。
【0052】
炭素繊維としては、アクリル系、ピッチ系およびレーヨン系等の炭素繊維が挙げられ、特に引張強度の高いアクリル系の炭素繊維が好ましく用いられる。
【0053】
かかるアクリル系の炭素繊維は、例えば、次に述べる工程を経て製造することができる。アクリロニトリルを主成分とするモノマーから得られるポリアクリロニトリルを含む紡糸原液を、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法、または溶融紡糸法により紡糸する。紡糸後の凝固糸は、製糸工程を経て、プリカーサーとし、続いて耐炎化および炭化などの工程を経て炭素繊維を得ることができる。
【0054】
本発明のプリプレグの中における炭素繊維の形態や配列については限定されず、例えば、一方向に引き揃えて配列された連続繊維、単一のトウ、平織り、朱子織、綾織などの織物、ニット、不織布、マットおよび組紐などの繊維構造物を用いることができる。これらの中でも、一方向に引き揃えて配列された形態や、平織り、朱子織、綾織などの織物の形態で用いることが好ましく、かかる炭素繊維により層を形成されるものであることが好ましい。ここで連続繊維とは平均10mm以上の長さを有する繊維を指す。
【0055】
また、2種類以上の炭素繊維を用いることや、炭素繊維に、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、PBO繊維、高強力ポリエチレン繊維、アルミナ繊維および炭化ケイ素繊維などから選ばれる他の強化繊維を組み合わせて用いることもできる。
【0056】
本発明に用いられる炭素繊維は、引張弾性率が200~440GPaの範囲であることが好ましい。この範囲であるとCFRPに剛性、強度が高いレベルでバランスするために好ましい。より好ましい弾性率は、230~400GPaの範囲内であり、さらに好ましくは250~370GPaの範囲内である。
【0057】
炭素繊維の引張伸度は、0.8~3.0%の範囲であることが好ましい。炭素繊維の引張伸度が低いとCFRPとしたときに十分な引張強度や耐衝撃性を発現できない場合がある。また、引張伸度が3.0%を超えると炭素繊維の引張弾性率は低下する傾向にある。より好ましい炭素繊維の引張伸度は、1.0~2.5%であり、さらに好ましくは1.2~2.3%の範囲である。
【0058】
ここで、炭素繊維の引張弾性率、引張伸度は、JIS R7601(2006)に従い測定された値である。
【0059】
本発明において用いられる炭素繊維は、一つの繊維束中のフィラメント数が1,000~50,000本の範囲であることが好ましい。フィラメント数が2,500本を下回ると繊維配列が蛇行しやすく強度低下の原因となりやフィラメント数は、より好ましくは2,500~40,000本の範囲であると特に航空・宇宙用途に好適である。
【0060】
炭素繊維の市販品としては、“トレカ”(登録商標)T800S-24K、“トレカ”(登録商標)T800G-24K、“トレカ”(登録商標)T1100G-24K、“トレカ”(登録商標)クロスCO6343(炭素繊維:T300-3K)、“トレカ”(登録商標)クロスCK6244C(炭素繊維:T700S-12K)などが挙げられる。
【0061】
本発明のプリプレグに用いられる樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、カップリング剤や、あるいはシリカゲル、カーボンブラック、クレー、カーボンナノチューブ、カーボン粒子、金属粉体といった無機フィラー、赤リン、リン酸エステル等の難燃剤等を含有することができる。特にカーボン粒子などの導電性粒子を含有すると、CFRPの導電性を飛躍的に向上させ、航空機用途などで耐雷性等の点から好ましい。この観点からは、CFRPの導電性は厚み方向の体積固有抵抗値として、好ましくは300Ωcm以下、より好ましくは35Ωcm以下、更に好ましくは20Ωcm以下である。導電性粒子を用いる場合、例えば国際公開第2012/124450号パンフレットに示されるような導電性粒子を含有する方法を用いることができる。また、カーボン粒子の粒子径測定は光散乱法を適用し、例えば堀場製作所製Partica LA-950V2やマイクロトラック社製MT3300IIなどを用いて行うことができる。
【0062】
本発明のプリプレグに用いられるCFRPの耐熱性は、樹脂組成物を硬化してなる樹脂組成物硬化物のガラス転移温度に依存する。優れた耐熱性を有するCFRPを得るためには、180℃、120分で硬化させた時の樹脂組成物硬化物のガラス転移温度が180℃以上であることが好ましく、185℃以上であることがより好ましい。樹脂組成物硬化物のガラス転移温度が180℃以上とすることで、高温高湿条件下でのCFRPの力学物性に優れる。ここでガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置(ARES G2、ティー・エイ・インスツルメント社製)を用い、規定の大きさで切り出した樹脂組成物硬化板を昇温速度5℃/分、周波数1Hzで測定を行い、得られた貯蔵弾性率G’の変曲点での温度のことである。より具体的には、貯蔵弾性率G’曲線において、ガラス状態での接線と転移状態での接線との交点温度値をガラス転移温度とする。
【0063】
本発明の樹脂組成物の硬化性は、CFRPを加熱硬化して成形する際の硬化時間に影響する。硬化時間を短縮することで、CFRPの成形コストを低減することに寄与する。樹脂組成物の硬化性を評価する指標としてゲルタイムがある。ここでゲルタイムとは、動的粘弾性測定装置(ARES G2、ティー・エイ・インスツルメント社製)を用い、直径40mmのパラレルプレートを用い、角周波数3.14rad/s、測定温度50℃、1.5℃/minで180℃まで昇温し、180℃到達後は180℃を保持して測定することで得られるG’とG”の交点が得られる時の時間で計測する。
【0064】
本発明のプリプレグは、様々な公知の方法で製造することができる。例えば、エポキシ樹脂のフィルムを、炭素繊維束をシート状に配列した炭素繊維シートの表面に重ね、加圧/加熱含浸するホットメルト法が挙げられる。かかる方法においては、エポキシ樹脂組成物を離型紙上に、リバースロールコーターあるいは、ナイフコーターなどを使用して塗布し、エポキシ樹脂組成物フィルムを作製し、次いで、このエポキシ樹脂組成物フィルムを炭素繊維の両面に重ねて、加熱及び加圧することによって炭素繊維束中に含浸させることにより製造され得る。さらに、プリプレグ内層部に含浸させる樹脂組成物とプリプレグ表層に存在させる樹脂組成物を異なる物とすることもできが、この時にはそれぞれの樹脂組成物から成る樹脂組成物フィルムを準備し、それぞれ炭素繊維シートに重ね含浸させることを行う多段含浸法を用いることもできる。多段含浸法の段数の制限は無いが、2段とすることが一般的である。
【0065】
本発明のプリプレグは、単位面積あたりの炭素繊維量が70~2,000g/mであることが好ましい。かかる炭素繊維量が70g/m未満では、CFRP成形の際に所定の厚みを得るために積層枚数を多くする必要があり、作業が繁雑となることがある。一方で、炭素繊維量が2,000g/mを超えると、プリプレグのドレープ性が悪くなる傾向にある。
【0066】
プリプレグ中の炭素繊維質量割合は、50質量%以上80質量%以下であると、CFRPの軽量性と成形によるボイド低減を両立でき、好ましい。
【0067】
プリプレグの幅には、特に制限は無く、幅が数十cm~2m程度の広幅でもよいし、幅数mm~数十mmのテープ状でもよく、用途に応じ幅を選択することができる。近年では、プリプレグの積層工程を効率化するため、細幅プリプレグやプリプレグテープを自動積層していくATL(Automated Tape Laying)やAFP(Automated Fiber Placement)と呼ばれる装置が広く用いられるようになってきており、これに適合した幅とすることも好ましい。ATLでは幅が約7.5cm、約15cm、約30cm程度の細幅プリプレグが用いられることが多く、AFPでは約3mm~約25mm程度のプリプレグテープが用いられることが多い。所望の幅のプリプレグを得る方法には特に制限は無く、幅1m~2m程度の広幅プリプレグを細幅にスリットする方法を用いることができる。また、スリット工程を簡略化あるいは省略するため、トウプレグ等、最初から所望の幅となるようにプリプレグテープを製造することもできる。
【0068】
スリット加工装置やAFP装置においてプリプレグテープを搬送する場合、小径ロール上や、プリプレグテープの折り返し箇所などプリプレグテープが大きく曲げられる箇所を通過する場合がある。この時にプリプレグテープが硬いと、前記した大きく曲げられる箇所でのプリプレグテープの形状追従性が悪く、プリプレグテープが所望の搬送経路からズレたり、プリプレグテープがスプライス部で破断するといったトラブルが発生する場合がある。ここで、スプライスとは、複数のプリプレグテープ同士を圧着などで長手方向に接合することを言うものである。このため、プリプレグを軟らかくしておくことが好ましい。プリプレグを軟らかくするためには、用いる炭素繊維の弾性率や繊維直径、またサイジング剤で調整することも可能であるが、CFRPの力学特性確保や炭素繊維の毛羽を抑制する観点から調整幅には制限が有る場合がある。また、プリプレグの厚みが薄い方がプリプレグの見かけの軟らかさは向上するが、これもプリプレグの積層効率の観点から調整幅には制限が有る場合がある。このため、マトリックス樹脂である樹脂組成物の剛性を低下させることが好ましい。この際、プリプレグ内層部に含浸される樹脂組成物とプリプレグ表層に存在させる樹脂組成物が異なる粘弾性特性を持つことが好ましく、プリプレグ内層部に含浸される樹脂組成物を第1樹脂組成物、プリプレグ表層に存在する樹脂組成物を第2樹脂組成物と定義する。そして、第1樹脂組成物の粘弾性特性として、23℃、77rad/sで測定した貯蔵弾性率G’が1×10Pa以上、2×10Pa以下の範囲とすると効果的にプリプレグを軟らかくすることができ、上記したプリプレグテープの搬送性を向上すると共にスプライス部での破断を抑制することができ、好ましい。また、この範囲とすることで、スリット時のプリプレグテープの変形を抑制することもでき、良好な幅精度を有するプリプレグテープとすることもできる。このような構成のプリプレグを得る方法としては、例えば前記した多段含浸法を用いることができる。
【0069】
本発明では、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を用いるが、これは室温で固形である場合が多く、これが樹脂組成物の室温でのG’を過度に高くし、プリプレグを硬くしてしまう場合がある。このため、第1のプリプレグでは、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂と組み合わせる構成要素[A2]は液状エポキシ樹脂である[A2-1]、[A2-2]としており、その質量比を設計することで、樹脂組成物の室温でのG’、ひいてはプリプレグの硬さを制御している。第3のプリプレグでは、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂含有量を減じながらも、室温付近で液状かつCFRP引張強度を向上し得る2官能型グリシジルアニリン型エポキシ樹脂を併用することで、樹脂組成物の室温でのG’、ひいてはプリプレグの硬さを制御している。
【0070】
近年、特に航空機構造材用途ではAFPの適用が急速に拡大しており、それに対応したプリプレグテープの搬送性をプリプレグや樹脂組成物の設計にフィードバックすることが非常に重要になってきている。本発明のプリプレグテープは、上記した搬送性だけでなく、幅精度にも優れており、AFPに好適に用いることができる。
【0071】
本発明のプリプレグから得られるCFRPは、例えば、上述した本発明のプリプレグを所定の形態で積層し、加圧・加熱して賦形すると共に樹脂を硬化させるいわゆる加熱加圧成形法により、製造することができる。加熱加圧成形法としては、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等を用いることができる。
【0072】
CFRPを成形する温度としては、本発明のプリプレグを用いる場合、通常150℃~220℃の範囲の温度で成形が行われる。成形温度をかかる温度範囲とすることで、十分な硬化性が得られる。
【0073】
CFRPをオートクレーブ成形法で成形する圧力としては、プリプレグの厚みや炭素繊維の体積含有率などによりことなるが、通常、0.1から1MPaの範囲の圧力である。成形圧力をかかる範囲とすることで、得られるCFRP中にボイドのような欠点などがなく、反りなどの寸法変動のすくないCFRPを得ることができる。
【0074】
本発明のプリプレグを成形して成るCFRPは、優れた室温環境下、および低温環境下での引張強度特性と耐熱性、モードI層間靱性が得られる。
【0075】
かかる引張強度特性は0°引張強度測定にて評価することが可能である。CFRPの0°引張強度とは、JIS K7017(1999)に記載されているとおり、一方向繊維強化複合材料の繊維方向を軸方向とし、その方向を0°軸と定義し、軸直交方向を90°と定義する。JIS K7073(1988)の規格に準じて0゜引張試験を室温(23℃)にて実施する。CFRPの0°引張強度は2,850MPa以上が好ましく、2,950MPa以上がより好ましく、3,050MPa以上が更に好ましい。
【0076】
かかるモードI層間靱性(GIC)は、JIS K7086(1993)に従い、求めることができ、GICは250J/m以上であると、適用可能な航空機等の構造部材の幅が広くなり好ましい。GICはより好ましくは280J/m以上、さらに好ましくは300J/m以上である。
【0077】
また耐衝撃性は衝撃後圧縮強度(以下、CAIと略する)にて評価することが可能である。本発明により得られるCFRPのCAIはJIS K 7089(1996)に従って試験片の厚さ1mmあたり6.7Jの衝撃エネルギーを付与した後のCAIが230MPa以上であることが好ましく、より好ましくは280MPa以上である。CAIがかかる範囲である場合は、適用可能な航空機等の構造部材の幅が広くなり好ましい。
【0078】
本発明のプリプレグを含むプリプレグテープ、および本発明のプリプレグまたは本発明のプリプレグテープを成形して成る炭素繊維複合材料についても、例えば航空機等の構造部材に好ましく用いることができる。
【実施例
【0079】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、組成比の単位「部」は、特に注釈のない限り質量部を意味する。また、各種特性(物性)の測定は、特に注釈のない限り温度23℃、相対湿度50%の環境下で行った。
【0080】
<実施例および参考例、比較例で用いられた原材料>
(1)構成要素[A1] ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂
・“EPICLON”HP-7200L(DIC(株)製、エポキシ当量246g/eq)
・XD-1000-2L(日本化薬(株)製、エポキシ当量240g/eq)
・“EPICLON”HP-7200(DIC(株)製、エポキシ当量260g/eq)。
・“EPICLON(登録商標)”HP-7200H(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、DIC(株)製、エポキシ当量278g/eqであり、比較例に用いる)
・“EPICLON”HP-7200HHH(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、DIC(株)製、エポキシ当量280g/eqであり、比較例に用いる)。
【0081】
(2)構成要素[A2-1] 4官能型液状エポキシ樹脂
・“スミエポキシ”ELM434(テトラグリシジジアミノジフェニルメタン、住友化学(株)製、エポキシ当量120g/eq)。
【0082】
(3)構成要素[A2-2] 2官能型液状エポキシ樹脂
・“EPICLON”830(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、DIC(株)製、エポキシ当量171g/eq)
・“jER(登録商標)”825(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル(株)製、エポキシ当量170g/eq)。
【0083】
(4)構成要素[A3] 2官能型グリシジルアニリン型エポキシ樹脂
・GOT(グリシジルアニリン型エポキシ樹脂(N,N-ジグリシジル-o-トルイジン)、日本化薬(株)製)。
【0084】
(5)構成要素[A4] [A1]、[A2-1]、[A3]以外のエポキシ樹脂
・“アラルダイド”MY0510(トリグリシジルアミノフェノール型エポキシ樹脂、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)社製、エポキシ当量101g/eq)。
・“EPICLON(登録商標)”HP-4770(ナフタレン型エポキシ樹脂、DIC(株)製、エポキシ当量204g/eq)。
【0085】
(6)構成要素[B] DDS
・セイカキュア-S(4,4’-DDS、セイカ(株)製、活性水素当量62g/eq)・3,3’-DAS(3,3’-DDS、三井化学ファイン(株)製、活性水素当量62g/eq)。
【0086】
(7)構成要素[C] PES
・“Virantage”(登録商標)VW-10700RFP(PES、SolvayAdvanced Polymers(株)製、重量平均分子量21,000g/mol)
・“Virantage”(登録商標)VW-10200RFP(PES、SolvayAdvanced Polymers(株)製、重量平均分子量46,500g/mol)。
【0087】
(8)構成要素[D]真球状ポリマー粒子および[D-2]熱可塑性樹脂粒子
・ポリアミド粒子1:国際公開第2012/124450号パンフレットの実施例中(例えば実施例1、2)にて用いられているエポキシ変性ポリアミド粒子と同様の方法でエポキシ変性ポリアミド粒子を得た(モード径14μm、真球度97)。粒子径はマイクロトラック社製MT3300II(光源780nm-3mW、湿式セル(媒体:水))を用いて測定した。
・ポリアミド粒子2:以下の製法により得られたポリアミド6粒子(モード径15μm、真球度96)。粒子径はポリアミド粒子1と同様に測定した。
【0088】
国際公開第2018/207728号公報を参考に、3Lのヘリカルリボン型の撹拌翼が付属したオートクレーブに、ε-カプロラクタム(東レ(株)製)200g、第2成分のポリマーとしてポリエチレングリコール(和光純薬工業(株)製1級ポリエチレングリコール20,000、重量平均分子量18,600)800g、水1,000gを加え均一な溶液を形成後に密封し、窒素で置換した。その後、撹拌速度を100rpmに設定し、温度を240℃まで昇温させた。この際、系の圧力が10kg/cmに達した後、圧が10kg/cmを維持するよう水蒸気を微放圧させながら制御した。温度が240℃に達した後に、0.2kg/cm・分の速度で放圧させた。その後、窒素を流しながら1時間温度を維持し重合を完了させ、2,000gの水浴に吐出しスラリーを得た。溶解物を溶かした後に、ろ過を行い、ろ上物に水2,000gを加え、80℃で洗浄を行った。その後200μmの篩を通過させた凝集物を除いたスラリー液を、再度ろ過して単離したろ上物を80℃で12時間乾燥させ、ポリアミド6粉末を140g作製した。得られた粉末の融点はポリアミド6と同様の218℃、結晶化温度は170℃であった。
・ポテト型ポリアミド粒子:“Orgasol”1002D(アルケマ(株)社製、真球度68)。
【0089】
(9)構成要素[E]炭素繊維
・“トレカ”(登録商標)T800G-24K-31E(東レ(株)製、フィラメント数24,000本、引張強度5.9GPa、引張弾性率294GPa、引張伸度2.0%の炭素繊維)。
・“トレカ”(登録商標)T800S-24K-10E(東レ(株)製、フィラメント数24,000本、引張強度5.9GPa、引張弾性率294GPa、引張伸度2.0%の炭素繊維)。
【0090】
(10)副硬化剤(イソフタル酸ジヒドラジド)
・IDH-S(大塚化学(株)製、活性水素当量48g/eq)。
【0091】
(11)導電性粒子
・“三菱”導電性カーボンブラック#3230B(1次粒子の粒子径23nm(カーボンブラック粒子を電子顕微鏡で観察して求めた算術平均径)、三菱ケミカル(株)製)
・ カーボン粒子“ニカビーズ”ICB2020(平均粒子径:20μm、日本カーボン(株)製)。
【0092】
<各種評価法>
(12)樹脂組成物の調製
構成要素[A]エポキシ樹脂と構成要素[C]PESを混練し、150℃以上に昇温し、そのまま1時間攪拌することで構成要素[C]を溶解させて透明な粘調液を得た。この液を混練しながら降温した後、構成要素[B]のDDSを添加してさらに混練し、第1樹脂組成物を得た。
【0093】
また、構成要素[A]エポキシ樹脂と構成要素[C]PESを混練し、150℃以上に昇温し、そのまま1時間攪拌することで構成要素[C]を溶解させて透明な粘調液を得た。この液を混練しながら降温した後、構成要素[D]を添加して混練した後、さらに構成要素[B]を添加して混練し、第2樹脂組成物を得た。またIDH、導電性粒子を含む場合は、第1樹脂組成物、第2樹脂組成物ともに構成要素[B]と同タイミングで添加した。
【0094】
各実施例、比較例の樹脂組成物の組成比は表1~7に示すとおりであった。
【0095】
(13)樹脂組成物の粘度増加率の測定
樹脂組成物の粘度増加率は、動的粘弾性装置ARES-G2(ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いて測定した。上下部測定冶具に直径40mmの平板のパラレルプレートを用い、上部と下部の冶具間距離が1mmとなるように樹脂組成物をセット後、角周波数3.14rad/sで測定した。80℃で1分間保持した時の粘度η 、80℃で2時間保持した時の粘度η 120を測定した。そして、増粘増加率を以下で計算した。粘度増加率(%)=(1-η 120/η )×100% 。
【0096】
(14)樹脂組成物のG’の測定
樹脂組成物のG’(貯蔵弾性率)は、動的粘弾性装置ARES-G2(ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いて測定した。上下部測定冶具に直径8mmの平板のパラレルプレートを用い、上部と下部の冶具間距離が0.5mmとなるように樹脂組成物をセット後、歪み速度77rad/s、昇温速度2.0℃/minの昇温測定を行った。23℃のG’は昇温測定により得られるG’曲線より読み取った。
【0097】
(15)樹脂組成物のゲルタイム測定
樹脂組成物のゲルタイムは、動的粘弾性装置ARES-G2(ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いて測定した。
【0098】
上下部測定冶具に直径40mmの平板のパラレルプレートを用い、上部と下部の冶具間距離が1mmとなるよう樹脂組成物をセット後、歪み速度3.14rad/s、測定温度50℃から、1.5℃/minで180℃まで昇温し、180℃到達後は180℃を保持して測定することで得られるG’とG”の交点が得られる時の時間で計測した。
【0099】
(16)樹脂組成物硬化物のガラス転移温度の測定
樹脂組成物をモールドに注型した後、熱風乾燥機中で30℃から速度1.5℃/minで昇温し、180℃で2時間加熱硬化した後、30℃まで速度2.5℃/分で降温して厚さ2mmの樹脂硬化板を作製した。
【0100】
作製した樹脂硬化板から幅12.7mm、長さ55mmの試験片を切り出し、SACMA SRM18R-94に従い、DMA法によりガラス転移温度を求めた。
【0101】
貯蔵弾性率G’曲線において、ガラス状態での接線と転移状態での接線との交点温度値をガラス転移温度とした。ここでは昇温速度5.0℃/分、周波数1Hzで測定した。
【0102】
(17)プリプレグの作製
本実施例において、プリプレグは以下のように2段含浸法を用いて作製した。シリコーンを塗布した離型紙上に、上記(12)で作製した第1樹脂組成物または第2樹脂組成物を均一に塗布して、それぞれ第1樹脂フィルム、第2樹脂フィルムとした。2枚の第1樹脂フィルムの間に一方向に均一に引き揃えた炭素繊維を挟み込み、プレスロールを用いて加熱、加圧して、炭素繊維に第1樹脂組成物が含浸した1次プリプレグを得た(樹脂含有率20質量%)。1次プリプレグは第1樹脂組成物を含浸した後、両方の離型紙を剥離した。次に、第2樹脂フィルムの間に1次プリプレグを挟み込み、プレスロールを用いて加熱、加圧して、1次プリプレグに第2樹脂組成物が含浸したプリプレグを得た(樹脂含有率34質量%)。
【0103】
(18)CFRPの0°引張強度測定
一方向プリプレグを所定の大きさにカットし、一方向に4枚積層した後、真空バッグを行い、オートクレーブを用いて、温度180℃、圧力6kg/cm、2時間で硬化させ積層体を得た。この一方向強化材を幅12.7mm、長さ230mmでカットし、両端に1.2mm、長さ50mmのガラス繊維強化プラスチック製のタブを接着し試験片を得た。この試験片はインストロン万能試験機を用いて、JIS K7073(1988)の規格に準じて0゜引張試験を行った。測定温度は室温(23℃)と、場合により低温(-60℃)でも実施した。低温環境下における引張強度と室温環境下における引張強度の比である強度保持率は以下の式から算出した。
強度保持率(%)=引張強度(低温環境下)/引張強度(室温環境下)×100。
【0104】
(19)モードI層間靭性(GIC)試験用複合材料製平板の作製とGIC測定
JIS K7086(1993)に準じ、次の(a)~(e)の操作によりGIC試験用複合材料製平板を作製した。
【0105】
(a)(17)で作製した一方向プリプレグを、繊維方向を揃えて、炭素繊維質量268g/mの場合は12プライ、炭素繊維質量194g/mの場合は20プライ積層した。ただし、積層中央面(炭素繊維質量268g/mの場合は6プライ目と7プライ目の間、炭素繊維質量194g/mの場合は10プライ目と11プライ目の間)に、繊維配列方向と直角に、幅40mmのフッ素樹脂製フィルムをはさんだ。
【0106】
(b)積層したプリプレグを真空バッグし、オートクレーブを用いて、温度180℃、圧力6kg/cm、2時間で硬化させ積層体を得た。
【0107】
(c)(b)で得た一方向CFRPを、幅20mm、長さ195mmにカットした。繊維方向は、試験片の長さ側と平行になるようにカットした。
【0108】
(d)JIS K7086(1993)に記載のピン負荷用ブロック(長さ25mm、アルミ製)を試験片端(フッ素樹脂製フィルムを挟んだ側)に接着した。
【0109】
(e)亀裂進展を観察しやすくするため、試験片の両側面に白色塗料を塗った。
【0110】
(f)作製した試験片を用いて、以下の手順により、GIC測定を行った。JIS K7086(1993)附属書1に従い、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用いて試験を行った。クロスヘッドスピードは、亀裂進展が20mmに到達するまでは0.5mm/分、20mm到達後は1mm/分とした。試験は亀裂が100mm進展するまで行い、試験中に取得した荷重-変位線図の面積からGICを算出した。
【0111】
(20)CFRP中の衝撃後圧縮強度測定(CAI)
一方向プリプレグを炭素繊維質量268g/mの場合は[+45°/0°/-45°/90°]2s構成で、擬似等方的に16プライ積層し、炭素繊維質量194g/mの場合は[+45°/0°/-45°/90°]3s構成で擬似等方的に24プライ積層し、オートクレーブにて180℃の温度で2時間、圧力6kg/cm、昇温速度1.5℃/分で成形してCFRPを作製した。このCFRPから、縦150mm×横100mmのサンプルを切り出し、SACMA SRM 2R-94に従い、サンプルの中心部に6.7J/mmの落錘衝撃を与え、衝撃後圧縮強度を求めた。
【0112】
(21)CFRPの厚み方向の導電性測定
一方向プリプレグを炭素繊維質量268g/mの場合は[+45°/0°/-45°/90°]2s構成で、擬似等方的に16プライ積層、炭素繊維質量194g/mの場合は[+45°/0°/-45°/90°]3s構成で擬似等方的に24プライ積層し、オートクレーブにて180℃の温度で2時間、圧力6kg/cm、昇温速度1.5℃/分で成形してCFRPを作製した。得られたCFRPから、縦40mm×横40mmのサンプルを切り出し、両表面の樹脂層を研磨除去後、両面に導電性ペーストN-2057(昭栄化学工業(株)製)を、バーコーターを用いて約70μmの厚さで塗布し、180℃の温度に調整した熱風オーブン中にて、30分かけて硬化させ、導電性評価用のサンプル得た。得られたサンプルの厚さ方向の抵抗を、アドバンテスト(株)製R6581デジタルマルチメーターを用いて四端子法により測定した。測定は6回行い、平均値をCFRPの厚み方向の体積固有抵抗値(Ωcm)とした。
実施例1~17、参考例1、比較例1~7は第1のプリプレグに関するものである。
【0113】
(実施例1~3)
構成要素[A1]として“EPICLON”HP-7200L(エポキシ当量:246g/eq)、構成要素[A2-1]として“スミエポキシ”ELM434、構成要素[A2-2]のエポキシ樹脂として“EPICLON”(登録商標)830、構成要素[B]として、4,4’-DDS、構成要素[C]として、“Virantage”VW-10700RFP(重量平均分子量21,000g/mol)を用いて、上記(12)に従い、表1記載の組成比で第1樹脂組成物を調製した。次に、構成要素[A1]として“EPICLON”(登録商標)HP-7200L(エポキシ当量:246g/eq)、構成要素[A2-1]として“スミエポキシ”ELM434、構成要素[A2-2]として“EPICLON”830、構成要素[B]として、4,4’-DDS、構成要素[C]として、“Virantage”VW-10700RFP(重量平均分子量21,000g/mol)、構成要素[D]として、ポリアミド粒子1を用いて、上記(12)に従い、表1記載の含有比で第2樹脂組成物を調製した。
【0114】
さらに、炭素繊維として、“トレカ”(登録商標)T800G-24K-31Eを用い、上記で調製した第1および第2樹脂組成物を用いて、上記(17)に従い、プリプレグを作製した。プリプレグ中の炭素繊維質量は268g/mであった。
【0115】
表1に示すとおり、構成要素[A1]であるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、構成要素[A2]である液状エポキシ樹脂の含有量を最適な範囲とすることで、0°引張強度、GIC、耐熱性、CAIに優れるCFRPを得た。
【0116】
(比較例1~7、参考例1)
表2に示す組成比で、実施例2と同様にプリプレグを作製した。
【0117】
比較例1は、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の含有量が少ないため、得られたCFRPの引張強度が劣っていた。
【0118】
参考例1は、室温で固形であるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の含有比が第1のプリプレグの観点からは過度に多く、一方、室温で液状である[A2]エポキシ樹脂の含有比が過度に少ないため、樹脂組成物の室温でのG’が過度に高くなった。このため、得られたプリプレグも室温で硬く、取扱性に劣るものであった。なお、-60℃での0° 引張強度は3,160MPa、-60℃での強度保持率は96%であった。
【0119】
比較例2は、[A2-1]/[A2-2]が過度に高いため、得られたCFRPの引張強度が低いものであった。
【0120】
比較例3は、比較例3同様、[A2-1]/[A2-2]が過度に高いため、得られたCFRPの引張強度が低いものであった。さらにトリグリシジルアミノフェノール型エポキシ樹脂を併用しているため、80℃での粘度安定性にも劣っていた。
【0121】
比較例4は、[A2-1]/[A2-2]が過度に低いため、耐熱性が劣っていた。
【0122】
比較例5は、PESを含有していなかったため、得られたCFRPの引張強度が不十分であった。また、成形過程での樹脂流れが多く、CFRPの品位が低下した。
【0123】
比較例6は、ポリマー粒子として真球状ではないポリアミド粒子(Orgasol1002D)を用いたため、得られたCFRPの耐衝撃性(CAI)が不十分であった。
【0124】
比較例7は、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂のエポキシ基当量が多すぎたため、PESとの相溶性が悪化し、樹脂フィルム作製時に目付斑が大きくなる問題が発生した。
【0125】
(実施例4~9)
表3に示す組成比で、実施例2と同様にプリプレグを作製した。
【0126】
実施例4は、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂のエポキシ基当量が多いため、PESとの相溶性が低下し、問題となるほどではないが、実施例2と比較すると樹脂フィルム作製時に目付斑が大きくなる場合があった。
【0127】
実施例5は、[A2-1]/[A2-2]が高いため、耐熱性が向上した。
【0128】
実施例6は、2官能型液状エポキシ樹脂としてグリシジルアニリン型エポキシ樹脂を併用したため、実施例1と比較し、得られたCFRPの引張強度が向上した。さらに、液状エポキシ樹脂の含有量が多いため、樹脂組成物の室温G’が効果的に低下し、得られたプリプレグは軟らかく、取扱性に優れたものであった。このように、グリシジルアニリン型エポキシ樹脂を併用することにより、CFRP力学強度、耐熱性、プリプレグの取扱性を高度にバランスさせることができた。
【0129】
実施例7は、DDSとして3,3’-DDSを用いたため、問題となるほどではないが、実施例2と比較し80℃での粘度安定性が若干及ばなかった。
【0130】
実施例8は、高分子量PESを用いたため、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂との相溶性が低下し、問題となるほどではないが、実施例2と比較すると樹脂フィルム作製時に目付斑が大きくなる場合があった。
【0131】
実施例9は、真球状ポリマー粒子として、ポリアミド粒子2を用いたが、得られたCFRPの耐衝撃性(CAI)は良好であった。
【0132】
(実施例10)
表4に示す組成比で、実施例2と同様にプリプレグを作製した。
【0133】
本実施例では、IDHを含有しているので、ゲル化時間が84分と実施例2の101分に比べ短縮し、成形時間短縮効果を確認することができた。なお、得られたプリプレグの取扱性、CFRPの力学物性とも良好であった。
【0134】
(実施例11)
表4に示す組成比で、実施例2と同様にプリプレグを作製した。
【0135】
本実施例では、導電性粒子を添加しているので、得られたCFRP厚み方向の体積固有抵抗値が15Ωcmと実施例2の10Ωcmに比べ導電性が向上していた。これにより、本材料を航空機に適用した場合、耐雷性が向上することが期待される。なお、得られたプリプレグの取扱性、CFRPの力学物性とも良好であった。
【0136】
(実施例12)
表4に示す組成比で、実施例2と同様にプリプレグを作製した。
【0137】
本実施例で得られた樹脂組成物のゲル化時間は84分と実施例2の101分に比べ短縮し、成形時間短縮効果を確認することができた。また、得られたCFRP厚み方向の体積固有抵抗値が16Ωcmと実施例2の10Ωcmに比べ導電性が向上していた。なお、得られたプリプレグの取扱性、CFRPの力学物性とも良好であった。
【0138】
(実施例13)
カーボンブラックを含有させないこと以外は実施例11と同様に樹脂組成物を調製しプリプレグを得たが、実施例11同様、好ましい特性が得られた。また、CFRP厚み方向の体積固有抵抗値が300Ωcmであった。
【0139】
(実施例14)
炭素繊維を“トレカ”(登録商標)T800S-24K-10Eとし、カーボン粒子の配合量を変更したこと以外は実施例13と同様に樹脂組成物を調製しプリプレグを得たが、CFRP厚み方向の体積固有抵抗値が14Ωcmであった。
【0140】
(実施例15)
実施例1~14で得られたプリプレグを幅1インチでスリット加工を行った。スリットした後のプリプレグテープの搬送性に問題は無く、優れた形状追従性を示すとともにスプライス部での破断も無かった。
【0141】
(実施例16)
実施例15で得られたプリプレグテープを自動積層機で積層したが、プリプレグテープの搬送性に問題は無く、優れた形状追従性を示すとともにスプライス部での破断も無かった。
【0142】
(実施例17)
実施例15で得たプリプレグテープを自動積層機で積層した後、成形することでCFRPを得たが、実施例1~14とほぼ同等の優れた力学物性を示した。
【0143】
実施例18~32、参考例2、比較例8~15は第2のプリプレグに関するものである。
【0144】
(実施例18)
構成要素[A1]として、“EPICLON(登録商標)”HP-7200L(エポキシ当量:246g/eq)を45部、構成要素[A2-1]として、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434を30部、構成要素[A1]、[A2-1]以外のエポキシ樹脂として“EPICLON(登録商標)”830を25部、構成要素[B]として、4,4’-DDSを40部、構成要素[C]として、“Virantage(登録商標)”VW-10700RFP(重量平均分子量21,000g/mol)を8部用いて、上記(12)に従い、第1樹脂組成物を調製した。次に、構成要素[A1]として、“EPICLON(登録商標)”HP-7200L(エポキシ当量:246g/eq)を45部、構成要素[A2-1]として、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434を30部、構成要素[A1]、[A2-1]以外のエポキシ樹脂として“EPICLON(登録商標)”830を25部、構成要素[B]として、4,4’-DDSを40部、構成要素[C]として、“Virantage(登録商標)”VW-10700RFP(重量平均分子量21,000g/mol)を8部、構成要素[D-2]として、上記(8)の方法で作製したポリアミド粒子1を37部用いて、上記(12)に従い、第2樹脂組成物を調製した。
【0145】
さらに、構成要素[E]として、“トレカ(登録商標)”T800G-24K-31Eを用い、上記で調製した第1および第2樹脂組成物を用いて、上記(17)に従い、プリプレグを作製した。プリプレグ中の炭素繊維質量は194g/mであった。
【0146】
表5、6に示すとおり、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、4官能型液状エポキシ樹脂の配合量を最適な範囲とすることで、強度保持率、GIC、耐熱性に優れるCFRPを得た。
【0147】
(実施例19~23、27~30および参考例2、比較例8~12)
樹脂組成物の配合比は表5~7に従い、実施例18と同様にプリプレグを作製した。
【0148】
表5、6に示すように、実施例19~23では、エポキシ当量を200g/eq以上、265g/eq以下であるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を選択し、好ましい配合量に調整することにより、耐熱性、強度保持率、GICに優れるCFRPを得ることができた。また実施例19、20、27~30に示すようにIDHの配合比(H/E)が大きくなるとゲルタイムが短くなっていることが確認できた。またIDHの配合比が好ましい範囲にある実施例19、20、29、30は硬化時間短縮の効果と耐熱性のバランスに優れていた。
【0149】
表7に示すように、参考例2、比較例8はジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の配合量が第2のプリプレグの好ましい範囲外にあるために、参考例2は強度保持率、GICが実施例18に比べ低い。なお、参考例2において、樹脂組成物の80℃で2時間保持した時の粘度増加率は第1樹脂組成物、第2樹脂組成物とも10%、23℃、77rad/secでのG’は第1樹脂組成物で3.0×10Pa、第2樹脂組成物で3.2×10Paであった。比較例8はジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の配合比が大きいため、PESとエポキシ樹脂とが相溶することができず、均一な樹脂硬化物の作製と樹脂フィルムの作製ができなかった。比較例9はジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を用いず、それ以外のエポキシ樹脂を配合したために、強度保持率とGICが実施例18に比べ低かった。比較例10、11は配合したジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂のエポキシ当量が好ましい範囲より大きいため(比較例10は構成要素[A1]のエポキシ当量が278g/eq、比較例11は構成要素[A1]のエポキシ当量が280g/eq)、PESとエポキシ樹脂中とが相溶することができず、均一な樹脂板の作製と樹脂フィルムの作製ができなかった。比較例12ではジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を含まず、4官能型液状エポキシ樹脂の配合量が大きいために、強度保持率、GICが実施例18に比べ低かった。
【0150】
(実施例24~26および比較例13)
エポキシ樹脂組成物の配合比は表5~7に従い、実施例18と同様にプリプレグを作製した。なお、エポキシ樹脂の配合比を構成要素[A1]“EPICLON(登録商標)”HP-7200(エポキシ当量:260g/eq)を60部、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434を25部、“EPICLON(登録商標)”830を15部とし、エポキシ樹脂組成物を調製し、プリプレグを作製したところ、HP-7200とPESの相溶性が低いことに起因し、プリプレグの品位が実施例18に及ばなかった。このため、HP-7200の量を45部に減じ、プリプレグを作製した。(実施例24)
また、実施例25において、構成要素[C]のPESを、重量平均分子量の大きい“Virantage(登録商標)”VW-10200RFP(重量平均分子量46,500g/mol)8部としてプリプレグを作製したところ、プリプレグの品位が実施例18に及ばなかったため、“Virantage(登録商標)”VW-10200RFPを表1の実施例25に記載の4部として、プリプレグを作製した。(実施例25)
表5、6に示すように、実施例24~26ではジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂と4官能型液状エポキシ樹脂を最適な配合量とすることで、耐熱性、強度保持率とGICに優れ、特に実施例24、25は4官能型液状エポキシの配合比が高いため、耐熱性に優れるCFRPを得ることができた。
【0151】
表7に示すように、比較例13では4官能型液状エポキシ樹脂が第2のプリプレグとして最適な配合量ではないために、実施例18に比較し、比較例13では耐熱性が低かった。
【0152】
(実施例27、28、30および比較例14)
エポキシ樹脂組成物の配合比は表5~7に従い、実施例18と同様にプリプレグを作製した。
【0153】
表5、6に示すように、実施例27、28、30では、PESを最適な配合量とすることで、強度保持率とGICに優れるCFRPを得ることができた。実施例28では、PESの配合量が多く、特に強度利用率、GICが高いCFRPが得られた。
【0154】
表7に示すように、比較例14ではPESを含まないために、実施例18に比較し、強度保持率が低かった。
【0155】
(実施例31、32)
エポキシ樹脂組成物の配合比は表8に従い、実施例18と同様にプリプレグを作製した。表8に示すように、実施例31では導電性粒子を含むために、厚み方向に対する体積固有抵抗値は14Ωcmと導電性粒子を含まない実施例32(体積固有抵抗値10Ωcm)に対して、優れた導電性を示した。
【0156】
実施例6、33、参考例1、比較例1、15は第3のプリプレグに関するものである。
【0157】
参考例1(表2から表9に再掲)ではジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の配合量が多いため、樹脂組成物の室温でのG’が過度に高く、プリプレグテープの自動積層工程の条件によってはテープの搬送性・積層性で問題となる可能性があった。
【0158】
一方、比較例1(表2から表9に再掲)ではジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の配合量が少なく、2官能型グリシジルアニリン型エポキシ樹脂の併用も無いため、CFRPの0°引張強度が低下した。
【0159】
実施例6(表3から表9に再掲)では、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の配合量を減じつつ、2官能型グリシジルアニリン型エポキシ樹脂を併用したので、十分なCFRPの0°引張強度が得られ、かつ第1樹脂組成物の室温G’も自動積層工程での搬送性に優れる範囲とすることができた。
【0160】
また、炭素繊維をとして“トレカ”(登録商標)T800S-24K-10Eを用い、樹脂組成物の配合比は表9に従い、実施例14と同様に樹脂組成物、プリプレグを作製した。プリプレグ中の炭素繊維質量は268g/mであった(実施例33)。実施例33では、良好な力学物性を有するCFRPが得られるとともに、厚み方向に対する体積固有抵抗値も14Ωcmと良好な導電性が得られた。さらに、樹脂組成物の室温でのG’も自動積層工程での搬送性に優れる範囲とすることができた。また、80℃で2時間保持した時の樹脂組成物の粘度増加率は10%であった。
【0161】
一方、比較例15では、2官能型グリシジルアニリン型エポキシ樹脂は用いたが、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を配合しなかったため、CFRPの0°引張強度が劣っていた。
【0162】
【表1】
【0163】
【表2】
【0164】
【表3】
【0165】
【表4】
【0166】
【表5】
【0167】
【表6】
【0168】
【表7】
【0169】
【表8】
【0170】
【表9】