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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】重金属吸着体の形成方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/08 20060101AFI20241203BHJP
   B01J 20/04 20060101ALI20241203BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20241203BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20241203BHJP
【FI】
B09C1/08 ZAB
B01J20/04 Z
B01J20/30
C02F1/28 L
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021004082
(22)【出願日】2021-01-14
(65)【公開番号】P2022108877
(43)【公開日】2022-07-27
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹崎 聡
(72)【発明者】
【氏名】松尾 晃治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 顕
【審査官】東 勝之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-139735(JP,A)
【文献】特開2006-341196(JP,A)
【文献】特開平10-057937(JP,A)
【文献】米国特許第06416252(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0015126(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/08
B01J 20/04
B01J 20/30
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象地盤中で第1水溶液と第2水溶液とを接触させることにより、原位置で重金属吸着体を形成する重金属吸着体の形成方法であって、
あらかじめ設定した供給地点から前記第1水溶液を前記処理対象地盤に供給し、該処理対象地盤中の土粒子の間隙に入り込むように前記第1水溶液を浸透させる第1工程と、
前記第1工程ののち、前記供給地点から前記第2水溶液を前記処理対象地盤に供給し、該処理対象地盤中の土粒子の間隙に入り込むように前記第2水溶液を浸透させて、前記第1水溶液と接触させる第2工程と、を備え、
前記第1水溶液及び前記第2水溶液は、いずれか一方がカルシウム化合物を含み、他方がリン酸化合物を含み、
前記第1水溶液を浸透させる量は、処理対象領域における間隙を満たす量とすることを特徴とする重金属吸着体の形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の重金属吸着体の形成方法において、
前記処理対象地盤が不飽和帯であるとともに、前記供給地点が、前記不飽和帯の地表面もしくはその上方の所定位置に設定され、
前記第1工程において、前記第1水溶液を、所定の降雨強度に基づいて設定した流量で滴下し、
前記第2工程において、前記第1工程で設定した流量を超えない範囲で、前記第2水溶液を滴下することを特徴とする重金属吸着体の形成方法。
【請求項3】
請求項2に記載の重金属吸着体の形成方法において、
前記第2工程において、段階的に流量を増加させつつ、前記第2水溶液を滴下することを特徴とする重金属吸着体の形成方法。
【請求項4】
請求項1に記載の重金属吸着体の形成方法において、
前記処理対象地盤が飽和帯であり、
前記供給地点は、前記飽和帯の内方の所定位置に設定され、
前記第1工程及び前記第2工程で、前記第1水溶液及び前記第2水溶液をそれぞれ、前記供給地点から圧入することを特徴とする重金属吸着体の形成方法。
【請求項5】
処理対象地盤中で第1水溶液と第2水溶液とを接触させることにより、原位置で重金属吸着体を形成する重金属吸着体の形成方法であって、
あらかじめ設定した供給地点から前記第1水溶液を前記処理対象地盤に供給し、該処理対象地盤中に前記第1水溶液を浸透させる第1工程と、
前記供給地点から前記第2水溶液を前記処理対象地盤に供給し、該処理対象地盤中に前記第2水溶液を浸透させて前記第1水溶液と接触させる第2工程と、を備え、
前記第1水溶液及び前記第2水溶液は、いずれか一方がカルシウム化合物を含み、他方がリン酸化合物を含み、
前記処理対象地盤が不飽和帯であるとともに、前記供給地点が、前記不飽和帯の地表面もしくはその上方の所定位置に設定され、前記第1工程において、前記第1水溶液を、所定の降雨強度に基づいて設定した流量で滴下し、
前記第2工程において、前記第1工程で設定した流量を超えない範囲で、前記第2水溶液を滴下することを特徴とする重金属吸着体の形成方法。
【請求項6】
請求項5に記載の重金属吸着体の形成方法において、
前記第2工程において、段階的に流量を増加させつつ、前記第2水溶液を滴下することを特徴とする重金属吸着体の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属を吸着する重金属吸着体を地盤中に形成するための重金属吸着体の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤中の不飽和帯に重金属を含む土壌等が存在すると、降雨により地表から不飽和帯に浸透した雨水は、重金属の洗い出しを行いつつ飽和帯に到達する。すると、重金属が地下水とともに移動して、周辺地盤に拡散する恐れが生じる。
【0003】
このため、重金属を含む土壌を掘削して洗浄する、もしくは重金属を含む土壌に重金属を吸着する鉄粉を散布するなどの土壌浄化対策が実施されている。これらの方法はいずれも重金属を含む土壌が、表層近傍の浅い範囲に存在する場合には有効な方法である。しかし、深度方向の広い範囲に存在する場合には、工費が膨大となる、もしくは散布においては鉄粉が表層近傍でろ過されてしまう等、必ずしも適した方法とは言えない。
【0004】
このような中、例えば特許文献1では、ふっ素で汚染された土壌中にカルシウム化合物とリン酸化合物を添加して混合撹拌するとともに、これらを土壌中のふっ素イオンと反応させることによりフルオロアパタイトを形成し、ふっ素の溶出を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-305387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によれば、効率よくふっ素の溶出を抑制することができる。しかし、地盤を混合攪拌する作業に地盤改良用の重機が必要になる等、作業が大掛かりなものとなりやすい。したがって、対象領域が狭隘であったり、十分な作業空間が確保できない環境下にある場合には実施が困難になる等、施工性に課題が生じる。また、対象領域が広域にわたる場合には、土壌中に添加するカルシウム化合物とリン酸化合物の添加量も増大するため、経済的にも不利となりやすい。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、地盤中に簡略な方法で効率よく、重金属を吸着する重金属吸着体を形成することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明の重金属吸着体の形成方法は、処理対象地盤中で第1水溶液と第2水溶液とを接触させることにより、原位置で重金属吸着体を形成する重金属吸着体の形成方法であって、あらかじめ設定した供給地点から前記第1水溶液を前記処理対象地盤に供給し、該処理対象地盤中の土粒子の間隙に入り込むように前記第1水溶液を浸透させる第1工程と、前記第1工程ののち、前記供給地点から前記第2水溶液を前記処理対象地盤に供給し、該処理対象地盤中の土粒子の間隙に入り込むように前記第2水溶液を浸透させて、前記第1水溶液と接触させる第2工程と、を備え、前記第1水溶液及び前記第2水溶液は、いずれか一方がカルシウム化合物を含み、他方がリン酸化合物を含み、前記第1水溶液を浸透させる量は、処理対象領域における間隙を満たす量とすることを特徴とする。
【0009】
本発明の重金属吸着体の形成方法は、前記処理対象地盤が不飽和帯であるとともに、前記供給地点が、前記不飽和帯の地表面もしくはその上方の所定位置に設定され、前記第1工程において、前記第1水溶液を、所定の降雨強度に基づいて設定した流量で滴下し、前記第2工程において、前記第1工程で設定した流量を超えない範囲で、前記第2水溶液を滴下することを特徴とするまた、前記第2工程において、段階的に流量を増加させつつ、前記第2水溶液を滴下することを特徴とする。
【0010】
本発明の重金属吸着体の形成方法は、前記処理対象地盤が飽和帯であり、前記供給地点は、前記飽和帯の内方の所定位置に設定され、前記第1工程及び前記第2工程で、前記第1水溶液及び前記第2水溶液をそれぞれ、前記供給地点から圧入することを特徴とする。
【0011】
本発明の重金属吸着体の形成方法は、処理対象地盤中で第1水溶液と第2水溶液とを接触させることにより、原位置で重金属吸着体を形成する重金属吸着体の形成方法であって、あらかじめ設定した供給地点から前記第1水溶液を前記処理対象地盤に供給し、該処理対象地盤中に前記第1水溶液を浸透させる第1工程と、前記供給地点から前記第2水溶液を前記処理対象地盤に供給し、該処理対象地盤中に前記第2水溶液を浸透させて前記第1水溶液と接触させる第2工程と、を備え、前記第1水溶液及び前記第2水溶液は、いずれか一方がカルシウム化合物を含み、他方がリン酸化合物を含み、前記処理対象地盤が不飽和帯であるとともに、前記供給地点が、前記不飽和帯の地表面もしくはその上方の所定位置に設定され、前記第1工程において、前記第1水溶液を、所定の降雨強度に基づいて設定した流量で滴下し、前記第2工程において、前記第1工程で設定した流量を超えない範囲で、前記第2水溶液を滴下することを特徴とするまた、前記第2工程において、段階的に流量を増加させつつ、前記第2水溶液を滴下することを特徴とする。
【0012】
本発明の重金属吸着体の形成方法によれば、カルシウム化合物もしくはリン酸化合物を含む第1水溶液及び第2水溶液を順次、処理対象地盤中に浸透させて接触させることにより、原位置でふっ素を吸着可能な重金属吸着体を形成する。これにより、重金属の除去を目的として処理対象地盤を掘削して洗浄したり、不溶化を目的として薬剤を処理対象地盤に混合し攪拌する等の大掛かりな作業が不要となるこのため、処理対象地盤が狭隘であったり、十分な作業空間を確保できない環境下にあっても、なんら制約を受けることなく効率よく原位置で重金属吸着体を形成し、処理対象地盤中を浸透する雨水に洗い出されたふっ素を流出させることなく、重金属吸着体に吸着させることが可能となるまた、第1水溶液及び第2水溶液を、処理対象地盤中に浸透させる方法であるから、浸透させる量は両者ともに、少なくとも処理対象地盤における土粒子間の間隙を満たす程度、好ましくはその2倍程度で賄えるため、大掛かりな作業が不要となることと相まって、原位置で経済的に重金属吸着体を形成することが可能となる。
【0013】
本発明の重金属吸着体の形成方法によれば、第1水溶液を所定の降雨強度に基づいて設定した流量で滴下することから、第1水溶液は、降雨を生じた際の雨水浸透に近似した挙動で処理対象地盤中に浸透する。そして、第1水溶液を滴下したのち、この流量を超えない範囲で前記第2水溶液を滴下する。これにより、第2水溶液は、第1水溶液を押し出し流亡させる現象を抑制しつつ、第1水溶液と接触することができる。
【0014】
これにより、重金属吸着体の多くを、不飽和帯内における雨水浸透の挙動に対応した位置に形成することが可能となる。このため、降雨が生じると雨水は、ふっ素の洗い出しを行いつつ、確実に重金属吸着体に接触しながら不飽和帯中を浸透し流下する。したがって、雨水により洗い出されたふっ素を効率よく重金属吸着体に吸着させることができ、不飽和帯から流出するふっ素の流出量を大幅に低減することが可能となる。
【0016】
本発明の重金属吸着体の形成方法によれば、第1水溶液を滴下する際に設定した流量を超えない範囲で、第2水溶液の流量を段階的に増加させる。これにより、第1水溶液の流亡を抑制しつつ、1回目の滴下で第2水溶液を、土粒子間に作用するサクションの大きい部分(間隙の小さい部分)に先行して浸透させるとともに、深度方向へ向けて浸透させて、重金属吸着体を形成させる。
【0017】
こののち、段階的にサクションの小さい部分や平面方向に向けて第2水溶液を浸透させて、これらの部分に重金属吸着体を形成させることができる。したがって、第1の工程で第1水溶液を浸透させた、雨水浸透の挙動に対応した位置に対して、より確実に重金属吸着体を形成することが可能となる。
【0019】
本発明の重金属吸着体の形成方法によれば、飽和帯において供給地点を中心とする広い範囲に重金属吸着体を形成することができる。これにより、不飽和帯からふっ素が飽和帯に流出した場合にも、これらの多くは、地下水とともに飽和帯内を流下する途中で重金属吸着体に吸着される。したがって、ふっ素が地下水とともに移動して、周辺地盤に拡散する現象を防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、カルシウム化合物もしくはリン酸化合物を含む第1水溶液及び第2水溶液を順次、処理対象地盤中に浸透させるといった簡略な方法で効率よく、処理対象地盤中にふっ素を吸着する重金属吸着体を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態における処理対象地盤に重金属吸着体を形成する様子を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における不飽和帯に重金属吸着体を形成する手順を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における不飽和帯に形成した重金属吸着体の効果検証の様子を示す図である。
図4】本発明の実施の形態における飽和帯に重金属吸着体を形成する手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、処理対象地盤に原位置で、ふっ素を吸着可能な重金属吸着体を形成する方法である。以下に、処理対象地盤が、ふっ素を含有したスラグを含む土壌が存在する不飽和帯である場合、及びその下方に位置する飽和帯である場合を事例に挙げ、図1図4を参照しつつ、以下にその詳細を説明する。
【0023】
図1で示すように、不飽和帯1と飽和帯2にはそれぞれ、重金属吸着体3が形成されている。重金属吸着体3として、本実施の形態ではリン酸カルシウムを採用しており、カルシウム化合物を含む第1水溶液4と、リン酸化合物を含む第2水溶液5を接触させることにより形成している。なお、リン酸カルシウムは、ふっ素をフルオロアパタイトとして不溶化することのできる化学物質として、広く一般に知られている物質である。
【0024】
第1水溶液4に含まれるカルシウム化合物としては、塩化カルシウムが好適であり、また、第2水溶液5に含まれるリン酸化合物としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウムが好適である。なお、カルシウム化合物及びリン酸化合物は、これに限定されるものではなく、互いに接触してリン酸カルシウムを形成するものであれば、両者ともにいずれを採用してもよい。
【0025】
上記の第1水溶液4及び第2水溶液5は、それぞれ別工程で不飽和帯1に浸透して接触させることにより、原位置で重金属吸着体3を形成することができる。これにより、処理対象の不飽和帯1が、狭隘な環境下にある場合や十分な作業空間を確保できない場合にも、なんら制約を受けることなく効率よく原位置で、重金属吸着体3を形成することが可能となる。
【0026】
このような第1水溶液4と第2水溶液5を、それぞれ別工程で浸透させる作業は、飽和帯2で重金属吸着体3を形成する場合も同様である。以下に、原位置で重金属吸着体3を形成する方法の詳細を、不飽和帯1及び飽和帯2ごとに説明する。
【0027】
≪≪不飽和帯1における重金属吸着体3の形成方法≫≫
本実施の形態では、図1で示すような有孔管6を用いて、第1水溶液4及び第2水溶液5を、不飽和帯1に浸透させる場合を事例に挙げ、重金属吸着体3を形成する手順を説明する。
【0028】
有孔管6は、図1で示すように、不飽和帯1の地表面上もしくは地表面の上方に水平姿勢で配置され、管壁における地表面と対向する位置に中空部61と連通する細孔62が、所定の間隔を設けて有孔管6の軸線方向に複数設けられている。細孔62は、中空部61に供給した液体を滴下させることができるように形成されていれば、その大きさや形状はいずれに形成されていてもよい。このような形状の有孔管6を、図1では、所定の間隔を設けて3本並列に配置しているが、その本数や配置間隔も何ら限定されるものではない。
【0029】
≪第1水溶液4を浸透させる工程(第1の工程)≫
上記の構成を有する有孔管6を、不飽和帯1に対してあらかじめ設定した供給地点P上に配置したのち、第1水溶液4を有孔管6に供給する。すると、第1水溶液4は細孔62から不飽和帯1に向けて連続的に滴下し、図2(a)で示すように、土粒子の表面に付着するもしくは土粒子の間隙に入り込むなどしながら、重力により深度方向に浸透するとともに、平面方向に広がりつつ浸透していく。
【0030】
このとき、第1水溶液4は、所定の降雨強度に基づいて設定した流量で細孔62より不飽和帯1に向けて滴下するよう制御している。これは、連続した降雨が生じた際の雨水浸透に近似した挙動で、第1水溶液4を不飽和帯1中に浸透させることを目的としたものである。なお、降雨強度は、単位時間あたり(例えば1時間あたり)に換算した雨量(mm/h)をいう。
【0031】
流量の設定に用いる降雨強度としては、ゲリラ豪雨等の不測の事象を除き、日本国内で想定される概ね最大の降雨強度に相当する18~19(mm/h)が好ましい。こうすると、不飽和帯1に対して第1水溶液4を、最大の降雨強度の降雨があった場合に想定される雨水の浸透挙動で浸透させることができる。
【0032】
また、不飽和帯1に浸透させる第1水溶液4の滴下量は、少なくとも不飽和帯1の処理対象領域における間隙を満たす量(対象領域全体の体積と間隙率との積)を準備すれば足りるが、好ましくはその2倍程度を準備しておくとよい。
【0033】
≪第2水溶液5を浸透させる工程(第2の工程)≫
こうして準備した第1水溶液4を上記の流量で滴下したのち、有孔管6を洗浄したうえで第2水溶液5を供給し、図2(b)で示すように第1水溶液4と同様に、有孔管6の細孔62より不飽和帯1に対して連続的に滴下し浸透させる。このとき、第2水溶液5は、第1水溶液4を滴下させる際に設定した流量を超えない範囲の流量で滴下するとよい。
【0034】
これにより、不飽和帯1に浸透した第1水溶液4を、第2水溶液5で押し出し流亡させる現象を抑制できる。そして、第2水溶液5は、雨水浸透に近似した挙動で不飽和帯1中に浸透した状態の第1水溶液4に接触するため、重金属吸着体3の多くを、不飽和帯1中の雨水浸透の挙動に対応した位置に確実に形成することが可能となる。
【0035】
したがって、図2(c)で示すように、重金属吸着体3を形成したのちの不飽和帯1に降雨が生じると、雨水は、不飽和帯1中に存在するふっ素の洗い出しを行いつつ、重金属吸着体3に接触しながら不飽和帯1中を浸透し流下する。これにより、ふっ素濃度の高い状態の雨水R2はその多くが、重金属吸着体3にふっ素を吸着され、ふっ素濃度の低い状態の雨水R1となって、飽和帯2に流下する。したがって、雨水が不飽和帯1を浸透することにより飽和帯2に流下するふっ素の流出量を、大幅に低減することが可能となる。
【0036】
≪第2水溶液5を浸透させる工程(他の事例)≫
ところで、第2水溶液5を滴下し不飽和帯1に浸透させる第2の工程は、複数回に分けて実施してもよい。この場合には、第1水溶液4を滴下させる際に設定した流量を超えない範囲で、段階的に流量を増加させつつ、第2水溶液5を滴下させる。
【0037】
例えば、第2水溶液5を滴下する作業を3回に分割する場合には、1回目の流量を第1水溶液4を滴下させた際の30%程度の流量、2回目は50%程度の流量、3回目は70%程度の流量に設定し、あらかじめ準備した第2水溶液5の量の1/3ずつを各回ごとに滴下する。
【0038】
すると、1回目の滴下では第2水溶液5が、土粒子間に作用するサクションの大きい部分(間隙の小さい部分)に対して先行して浸透しながら、重力により深度方向に流下していく。こののち、2回及び3回目では流量が増大することに伴い、土粒子間に作用するサクションの小さい部分(間隙の大きい部分)や平面方向にも第2水溶液5が浸透する。これにより、不飽和帯1に浸透した第1水溶液4全体に、第2水溶液5を効率よく接触させることができるため、第1水溶液4を浸透させた領域に対して確実に重金属吸着体3を形成することが可能となる。
【0039】
≪≪重金属吸着体3の効果検証≫≫
上記の第1の工程及び第2の工程を経て不飽和帯1に形成した重金属吸着体3の効果検証を、次の手順で行った。
【0040】
実験は、図3(a)で示すような、遮水壁8で仕切られた実験現場にて実施した。重金属吸着体3は、ふっ素を含有したスラグを含む土壌が存在する不飽和帯1中に、第1水溶液4を滴下し浸透させたのち、第2水溶液5を3回に分けて滴下し浸透させる上述の方法(他の事例)を採用し形成した。
【0041】
処理対象となる不飽和帯1の量は24m3(長さ4m×幅1m×深さ6m)であり、第1水溶液4に塩化カルシウムを含む水溶液(濃度:3.6wt%)、第2水溶液5にリン酸水素二ナトリウムを含む水溶液(濃度:2.0wt%)を採用した。
【0042】
また、滴下する量は両者ともに、不飽和帯1の実験対象領域の間隙を満たす量(上記の体積24m3と間隙率の積)の2倍とした。これは、第1水溶液4を滴下しつつ実験現場内に設けた観測井戸9で地下水に含まれるカルシウム濃度の経過観察を行ったところ、上記の滴下量に達した時点で、カルシウム濃度の定常状態が確認されたことによる。なお間隙率は0.3に設定した。
【0043】
そして、第1水溶液4及び第2水溶液5の滴下作業には、長さ4mで口径が25mmの有孔管6を50cm間隔で3列配置した。有孔管6には、圧力弁を設けた16mmの細孔62を300mm間隔で配置されたものを採用した。
【0044】
上記の条件で重金属吸着体3を形成した不飽和帯1に対して、重金属吸着体3の形成作業で利用した有孔管6を採用した散水10を、降雨強度にして18(mm/h)に相当する流量で行うとともに、観測井戸9から地下水を採取した。地下水は散水10の直後から5日間にわたって採取し、地下水に含まれるふっ素濃度の経過観察を行った。
【0045】
また、比較例として、当該実験現場において重金属吸着体3を形成する前の不飽和帯1に対して同様の条件で散水10を行い、地下水に含まれるふっ素濃度の経過観察を行った。図3(b)に上記実験の経過観察結果を示す。
【0046】
図3(b)をみると、重金属吸着体3を形成する前の不飽和帯1では、散水10の直後で地下水のふっ素濃度が0.6mg/L程度と環境基準を下回っていた。しかし、散水10を行って2日後には1.4mg/L程度まで上昇し、その後も4日目まで環境基準を超過する状態が続いた様子がわかる。これは散水10を行ったことにより不飽和帯1中に存在するふっ素が洗い出され、飽和帯2に流出したものと想定できる。
【0047】
一方、重金属吸着体3を形成したのちの不飽和帯1では、散水10の直後から5日を経過しても、地下水中のふっ素濃度は0.4mg/L程度を維持し、環境基準を上回ることがない様子がわかる。これは、散水10により不飽和帯1に流入した水分が、効率よく重金属吸着体3に接触しつつ浸透することに伴い、洗い出したふっ素を重金属吸着体3に確実に吸着させたものと想定できる。
【0048】
≪≪飽和帯2における重金属吸着体3の形成方法≫≫
次に、処理対象地盤が飽和帯2である場合に、図1で示すような重金属吸着体3を飽和帯2に形成する手順を、薬液注入管7を利用する場合を事例に挙げ、以下に図1及び図4を参照しつつ説明する。
【0049】
薬液注入管7は、図1で示すように、不飽和帯1から飽和帯2に達するように設けた削孔に配置または挿入され、飽和帯2に対して第1水溶液4及び第2水溶液5を圧入することの可能なものであれば、いずれを採用してもよい。例えば、本実施の形態では、飽和帯2と接する高さ範囲の周壁に、中空部71と連通するストレーナー72を設けた管材を採用している。このような形状の薬液注入管7は、飽和帯2にあらかじめ設定した供給地点Pに配置しておく。
【0050】
≪第1水溶液4を浸透させる工程(第1の工程)≫
図4(a)で示すように、供給地点Pに配置された薬液注入管7に第1水溶液4を供給し、飽和帯2に対して第1水溶液4を所定の注入圧で圧入する。すると、第1水溶液4が飽和帯2における土粒子の間隙から地下水を押し出して入り込み、平面方向に広がりつつ深度方向に浸透していく。
【0051】
このとき、第1水溶液4の注入圧は、飽和帯2における土粒子の間隙から地下水を押し出すことができ、かつ飽和帯2を大きく乱さない程度に設定する。また、その注入量は、飽和帯2の処理対象範囲における間隙を満たす量を準備するが、さらに、地下水の影響を受けて流亡する可能性のある量を見込んでおくと良い。
【0052】
≪第2水溶液5を浸透させる工程(第2の工程)≫
こうして準備した第1水溶液4を上記の注入圧で圧入したのち、図4(b)で示すように、薬液注入管7を洗浄したうえで第2水溶液5を供給し、第1水溶液4と同様の注入圧及び注入量で飽和帯2に圧入する。これにより、供給地点Pを中心として飽和帯2中で、平面方向に広がりつつ深度方向に浸透した第1水溶液4に第2水溶液5が接触し、重金属吸着体3が形成される。
【0053】
したがって、図4(c)で示すように、不飽和帯1から流出したふっ素を含んだ地下水W2が、重金属吸着体3を形成した飽和帯2内を流下してこの重金属吸着体3内に浸透すると、ふっ素の多くが重金属吸着体3に吸着されて無害化された地下水W1となり、飽和帯2に排出される。したがって、不飽和帯1からふっ素が飽和帯2に流出した場合であっても、ふっ素が地下水とともに移動して、周辺地盤に拡散する現象を抑制することが可能となる。
【0054】
本発明の重金属吸着体の形成方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0055】
例えば、本実施の形態では、第1水溶液4をカルシウム化合物を含む水溶液に設定するとともに、第2水溶液5をリン酸化合物を含む水溶液に設定した。しかし、これに限定するものではなく、リン酸化合物を含む水溶液を第1水溶液4とし、これを先行して浸透させてもよい。
【0056】
また、本実施の形態では、不飽和帯1に第1水溶液4及び第2水溶液5を滴下する装置として有孔管6を採用したが、これに限定するものではない。不飽和帯1の地表面を乱すことなく、所望の降雨強度で第1水溶液4及び第2水溶液5を滴下可能な装置であれば、いずれを採用してもよい。
【0057】
さらに、重金属吸着体3の形成方法では、上記の第1の工程と第2の工程を実施する作業を1サイクルとし、この作業を複数回繰り返し実施してもよい。
【0058】
また、本実施の形態では、不飽和帯1と飽和帯2の両者に重金属吸着体3を形成しているが、いずれか一方に形成してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 不飽和帯
2 飽和帯
3 重金属吸着体
4 第1水溶液
5 第2水溶液
6 有孔管
61 中空部
62 細孔
7 薬液注入管
71 中空部
72 ストレーナー
8 遮水壁
9 観測井戸
10 散水
R1 ふっ素濃度の低い状態の雨水
R2 ふっ素濃度の高い状態の雨水
W1 無害化された地下水
W2 ふっ素を含んだ地下水
図1
図2
図3
図4