(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】排水構造及び盛土構造物
(51)【国際特許分類】
E02D 17/18 20060101AFI20241203BHJP
【FI】
E02D17/18 Z
(21)【出願番号】P 2021004334
(22)【出願日】2021-01-14
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹崎 聡
(72)【発明者】
【氏名】三橋 実季
(72)【発明者】
【氏名】日笠山 徹巳
(72)【発明者】
【氏名】三浦 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】森下 智貴
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-038174(JP,A)
【文献】特開2004-322017(JP,A)
【文献】特開2006-212568(JP,A)
【文献】米国特許第05183355(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染物質を含む盛土材料を敷き均し締固めて構築した盛土本体を備える盛土構造物に設ける排水構造であって、
前記盛土本体の上面に積層された上面排水層と、
前記盛土本体の下面側に積層される下面排水層と、
前記盛土本体を貫通して前記上面排水層と前記下面排水層とを通水可能に連結する縦樋と、を備え、
前記上面排水層と前記盛土本体との境界面に、キャピラリーバリアが形成されることを特徴とする排水構造。
【請求項2】
汚染物質を含む盛土材料を敷き均し締固めて構築した盛土本体を備える盛土構造物に設ける排水構造であって、
前記盛土本体の
上方に積層された上面排水層と、
前記盛土本体の下面側に積層される下面排水層と、
前記盛土本体を貫通して前記上面排水層と前記下面排水層とを通水可能に連結する縦樋と、
前記盛土本体と前記上面排水層との間に前記縦樋に接して設けられた中間層と、を備え、
前記上面排水層と前記中間層との境界面に、キャピラリーバリアが形成されることを特徴とする排水構造。
【請求項3】
請求項2に記載の排水構造において、
前記中間層と前記盛土本体との間に、難透水層が設けられていることを特徴とする排水構造。
【請求項4】
請求項2に記載の排水構造において、
前記中間層と前記盛土本体との境界面に、キャピラリーバリアが形成されることを特徴とする排水構造。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の排水構造と、
汚染物質を含む盛土材料を敷き均し締固めて構築した盛土本体と、
を備えることを特徴とする盛土構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染物質を含む盛土材料を用いた盛土構造物に設ける排水構造、及び盛土構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、重金属や有機塩素化合物等の汚染物質を含む建設発生土等の土砂を盛土材料に採用し、盛土構造物を構築する場合がある。このような盛土構造物に雨水が浸透すると汚染水を生じることから、天端やのり面には雨水浸透防止策が講じられている。しかし、雨水の浸透を完全に防止することは困難である。このため、盛土材料に中和材を混合する、もしくは、発生した汚染水を集水し中和処理するための処理施設を別途設けるなど、盛土構造物には様々な対策工が設けられている。
【0003】
このような中、特許文献1では、盛土材料にトンネル構築時に発生した酸性水発生物質が含まれている掘削ずりを採用して構築した盛土構造物に設けた、中和材で周囲を囲まれた有孔管を備える排水構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1によれば、降雨時に雨水が盛土材料に浸透して酸性水が生じると、この酸性水が中和材によって中和されたのち、有孔管に導かれて盛土場外に排水されるから、中和処理施設を別途設ける等の手間を省略することができる。しかし、雨水を盛土材料に浸透させることを前提とした構造であるため、降雨量によっては大量の酸性水が発生し、盛土から漏出する恐れを生じる。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、汚染物質を含む盛土材料を利用した盛土構造物から流出する、汚染物質を含む雨水浸透水の排出量を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、本発明の排水構造は、汚染物質を含む盛土材料を敷き均し締固めて構築した盛土本体を備える盛土構造物に設ける排水構造であって、前記盛土本体の上面に積層された上面排水層と、前記盛土本体の下面側に積層される下面排水層と、前記盛土本体を貫通して前記上面排水層と前記下面排水層とを通水可能に連結する縦樋と、を備え、前記上面排水層と前記盛土本体との境界面に、キャピラリーバリアが形成されることを特徴とする。
【0008】
本発明の排水構造によれば、上面排水層及び縦樋と盛土本体の境界面にキャピラリーバリアが形成される。したがって、盛土構造物内に流入した雨水の多くは、上面排水層で保水されるとともに、盛土本体との境界面に沿って縦樋に流下し、効率よく排水される。このため、盛土本体への雨水の浸透量を大幅に低減できるとともに、盛土本体に雨水が浸透することにより生じる汚染物質を含んだ雨水浸透水の発生量も低減することが可能となる。
【0009】
本発明の排水構造は、汚染物質を含む盛土材料を敷き均し締固めて構築した盛土本体を備える盛土構造物に設ける排水構造であって、前記盛土本体の上方に積層された上面排水層と、前記盛土本体の下面側に積層される下面排水層と、前記盛土本体を貫通して前記上面排水層と前記下面排水層とを通水可能に連結する縦樋と、前記盛土本体と前記上面排水層との間に前記縦樋に接して設けられた中間層と、を備え、前記上面排水層と前記中間層との境界面に、キャピラリーバリアが形成されることを特徴とする。
【0010】
本発明の排水構造によれば、盛土本体の上方で積層される上面排水層と中間層との境界面にキャピラリーバリアが形成されるため、より確実に盛土本体への雨水の浸透を抑制することができ、汚染物質を含んだ雨水浸透水の発生量を低減することが可能となる。
【0011】
また、本発明の排水構造は、前記中間層と前記盛土本体との間に、難透水層が設けられていることを特徴とする。もしくは、本発明の排水構造は、前記中間層と前記盛土本体との境界面に、キャピラリーバリアが形成されることを特徴とする。
【0012】
本発明の排水構造によれば、例えば降雨強度が想定より大きい等の不慮の事態が生じて、上面排水層で保水する雨水の量が増大し、上面排水層と中間層との境界面に形成されたキャピラリーバリアが消失した場合に、上面排水層から中間層に流入した雨水を、難透水層に沿って速やかに縦樋に流下させることが可能となる。もしくは、上面排水層から流入した雨水を中間層で保水するとともに、盛土本体との境界面に沿って縦樋に流下させることが可能となる。
【0013】
本発明の盛土構造物は、本発明の排水構造と、汚染物質を含む盛土材料を敷き均し締固めて構築した盛土本体と、を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の盛土構造物によれば、本発明の上面排水層及び縦樋を備えた排水構造を利用して、盛土本体に雨水が浸透することにより生じる汚染物質を含んだ雨水浸透水の発生量を低減することができる。これにより、盛土構造物から、環境基準(環境基本法の規定に基づく地下水の水質汚濁に係る基準)を超える濃度の汚染物質を含む地下水が流出する事態を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、盛土本体の上方に設けた上面排水層と盛土本体もしくは中間層との境界面にキャピラリーバリアを形成するとともに、上面排水層と中間層に通水可能な縦樋を設ける簡略な構造で、汚染物質を含む盛土材料を利用した盛土構造物から流出する、汚染物質を含む雨水浸透水の発生量を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態における盛土構造物及び排水構造の第1実施例を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態における排水構造の効果検証結果、及び土壌水分特性曲線を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態における排水構造の第2実施例を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態における排水構造に付与された遮水性能が消失する様子を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態における排水構造の第3実施例を示す図である。
【
図6】本発明の実施の形態における排水構造の第4実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、重金属や有機塩素化合物等の汚染物質を含む土砂を盛土材料として適用する場合に好適な、盛土構造物及び盛土構造物に設ける排水構造である。以下に、
図1~
図6を参照しつつ、その詳細を説明する。
【0018】
図1(a)で示すように、盛土構造物1は、盛土材料を層状に撒き出して締固め転圧する作業を繰り返すことにより構築された盛土本体2を備えている。また、盛土構造物1の天端には、例えばアスファルト等の舗装工3が設けられ、のり面には、遮水シート等の遮水対策工とともにのり面保護工4が設けられている。
【0019】
盛土本体2を構成する盛土材料には、重金属や有機塩素化合物等の汚染物質を含む可能性のあるトンネル掘削ズリずりが用いられている。盛土材料は、これらトンネル掘削ズリをそのまま採用したものであってもよいし、盛土構造物1の用途に応じて、現場内で他の材料を混合させるなどして適宜調整したものであってもよい。
【0020】
≪≪排水構造(第1実施例)≫≫
上記の構成を有する盛土構造物1の内部には、
図1(a)で示すように、舗装工3及びその近傍から流入する降雨等の水分(以降、雨水と称する)を排水するための排水構造10が設けられている。
【0021】
排水構造10は、盛土本体2の上面側に積層される上面排水層11と、盛土本体2の下面側に積層される下面排水層12と、盛土本体2を貫通するように設けられ、上面排水層11と下面排水層12とを通水可能に連結する縦樋13とを備えている。
【0022】
上面排水層11は、細粒物を締固めて構築した細粒層であり、細粒物は、排水材料として一般に広く用いられている良質な砂材、細粒分混じりの砂、または礫混じりの砂等の土質材料が好適である。しかし、これに限定されるものではなく、土質材料の代替物として使用される材料であって、これらと同程度の粒径を有する粒状体を採用してもよい。
【0023】
そして、細粒層は、盛土本体2における少なくとも上面排水層11と接する部分近傍の土粒子より径小の細粒物を採用して構築したものである。このような構成を有する上面排水層11は、盛土本体2との境界面B1が、のり面保護工4から縦樋13に向かって下方に傾斜する傾斜面に形成されている。なお、境界面B1の勾配については、後述する。
【0024】
縦樋13は、少なくとも上端が上面排水層11と通水可能に接続された柱状体であり、上面排水層11と同様に、良質な砂材、細粒分混じりの砂、または礫混じりの砂等の土質材料や、これらと同程度の粒径を有する粒状体を採用することができる。
【0025】
図1(a)では、縦樋13を盛土構造物1の中央に設けているが、その位置はこれに限定されるものではなく、横断方向の左右いずれかに位置をずらして配置してもよい。また、その数量も例えば、横断方向に間隔を設けて複数本設ける構造としてもよい。さらに、縦樋13は
図1(b)で示すように、いわゆるサンドパイルのごとく、縦断方向に間隔を設けて複数本設ける構造としてもよいし、盛土構造物1の縦断方向に連続させて壁状に形成してもよい。
【0026】
下面排水層12は、縦樋13を流下する雨水や盛土本体2を浸透した雨水を排水するものであり、本実施の形態では、上面排水層11及び縦樋13と同様の材料を用いた細粒層を採用している。なお、下面排水層12に用いる材料は、必ずしも上面排水層11及び縦樋13と同一の材料を用いなくてもよく、透水性の高い材料であればいずれの透水材料を採用することも可能である。
【0027】
上記の構成を有する排水構造10は、
図1(a)で示すように、上面排水層11と盛土本体2との境界面B1に、キャピラリーバリアと称される遮水層が形成される。これにより、盛土構造物1内に流入した雨水の多くは、上面排水層11で保水されたのち、盛土本体2との境界面B1に沿って縦樋13に流下し、下面排水層12に効率よく排水される。したがって、盛土本体2に浸透する雨水の浸透量を大幅に低減でき、これに伴い、盛土本体2に雨水が浸透することにより生じる汚染物質を含んだ雨水浸透水の発生量も低減することが可能となる。
【0028】
なお、キャピラリーバリアは一般に、不飽和状態で上下層のうち、下層のサクションが相対的に低い場合に形成され、上層に雨水が保持され下層に浸透しない現象として知られている。そして、盛土本体2を構成する盛土材料は当然ながら、様々な粒径の材料が混在している。したがって、上面排水層11を構成する細粒層に含まれる細粒物は、そのすべてが盛土本体2における上面排水層11と接する部分近傍の土粒子より、径小なものでなくてもよい。
【0029】
つまり、上面排水層11に雨水が流入した際、土粒子間に作用するサクションが相対的に、盛土本体2における少なくとも上面排水層11と接する部分近傍の土粒子間に作用するサクションを上回る状態を維持できるよう構築されていればよい。サクションは、水分を吸い上げる力であり、不飽和土の間隙においては、大気圧に対する負圧として作用する。
【0030】
そして、サクションの大きさは、土粒子の粒径や土粒子間の距離(締固め)により制御することができ、土粒子の粒径が小さく、また土粒子間の距離が小さい(締固めが良い)ほど、大きいサクションを生じやすい。したがって、上面排水層11は、盛土本体2における上面排水層11と接する部分近傍の状態に応じて、採用する細粒物の粒径や締固めの度合いを適宜調整して構築すればよい。
【0031】
≪≪排水構造(第1実施例)に係る効果検証≫≫
上記の排水構造10について、効果を確認すべく模型実験を行った。実験では
図2(a)で示すように、上面排水層11及び縦樋13として珪砂を採用し、上面排水層11を含水比9.6%、縦樋13を含水比11.2%で締固めた。また、盛土本体2として珪砂より径大な砕石を採用し、これを含水比3.2%で締固めた。
【0032】
そして、模型作成時のサクションは、珪砂を3kPa、砕石を2kPaに設定した。こうして作成した模型の上面から降雨に見立てた水分を散水した。なお、散水は、降雨強度にして36mm/hを超えない程度に行った。降雨強度とは、単位時間あたり、例えば1時間あたりに換算した雨量(mm/h)をいう。
【0033】
すると、
図2(b)で示すように、散水から1.5時間後までは、上面排水層11及び縦樋13に見立てた珪砂側より盛土本体2に見立てた砕石側の採水量が大きかった。しかし、散水から2時間以降は、珪砂側からの採水量が増大し、散水から4時間経過後の累計採水量は、珪砂側が109mL程度、砕石側は4mL程度の留まる結果となった。
【0034】
これは、盛土本体2に見立てた砕石の上面近傍で含水比が上昇し始めた途端に、サクションが上面排水層11に見立てた珪砂に作用するサクションを下回り、散水から2時間後にはキャピラリーバリアが形成されたものと想定できる。なお、
図2(d)で示す土壌水分特性曲線をみても、上面排水層11に見立てた珪砂は、ポテンシャルの変動範囲が小さい安定した毛管領域(保水領域)を有する。一方、盛土本体2に見立てた砕石は、ポテンシャルの変動範囲が大きく、含水比が上昇すると急激にポテンシャルが小さくなり、保水力を失う様子がわかる。
【0035】
図2(c)に比較例として、
図2(a)と同様の模型を作成し、上面排水層11及び縦樋13に砕石を採用するとともに盛土本体2に珪砂を採用し、さらに、上面排水層11と盛土本体2との間に難透水層を設けて散水実験を実施した結果を示す。なお、散水は、降雨強度にして24mm/hを超えない程度に行った。
【0036】
図2(c)をみると、散水を開始してから日を追うごとに、上面排水層11及び縦樋13に見立てた砕石より盛土本体2に見立てた珪砂からの採水量(累計)が増大している様子がわかる。そして、散水を開始して55日目には、盛土本体2に見立てた珪砂からの採水量が114,850mLと、散水量全体の80%程度を占める結果となった。つまり、降雨強度にして24mm/hを超えない程度に小さい場合、上面排水層11に見立てた砕石に滞留する水分が盛土本体2の上面に設けた難透水層に徐々に浸透し、盛土本体2に見立てた珪砂側に浸透したものと想定できる。
【0037】
≪≪排水構造(第2実施例)≫≫
排水構造10において、キャピラリーバリアは盛土本体2の上方において形成されていれば、必ずしも上面排水層11と盛土本体2との境界面B1でなくてもよい。例えば、
図3で示すように、上面排水層11と盛土本体2との間に中間層14を設け、中間層14と上面排水層11との境界面B2にキャピラリーバリアを形成してもよい。
【0038】
中間層14は、粗粒物を締固めて構築した粗粒層であり、上面排水層11で採用した細粒物より径大な粗粒物を採用して構築している。本実施の形態では、砕石を締固めた砕石層を粗粒層として採用しているが、粗粒層はこれに限定されるものではない。例えば、良質な礫材、細粒分混じりの礫、または砂混じり礫、砂利等の土質材料が好適である。また、これに限定されるものではなく、土質材料の代替物として使用される材料であって、これらと同程度の粒径を有する粒状体を採用してもよい。なお、上面排水層11と中間層14との境界面B2も、のり面保護工4から縦樋13に向かって下方に傾斜する傾斜面に形成している。
【0039】
これにより、降雨時に雨水が舗装工3から盛土構造物1内に流入したのち、雨水の多くは上面排水層11で保水されるとともに中間層14との境界面B2に沿って縦樋13に流下する。したがって、中間層14と盛土本体2との間にはなんら制約はなく、例えば、
図3で示すように、盛土本体2を構成する盛土材料は、中間層14として採用する砕石層より径小であってもよい。
【0040】
≪≪排水構造(第3実施例)≫≫
ところで、降雨強度が大きい場合(具体的には、36mm/h程度を超える場合)には、
図4で示すように、上面排水層11と中間層14との境界面B2に形成されたキャピラリーバリアが縦樋13の手前で消失する恐れが生じる。これは、上面排水層11内を境界面B2に沿って流下する雨水の流量が増大し、飽和度を増すことに起因して生じる現象である。キャピラリーバリアが消失すれば、雨水は中間層14に流下し、ひいては盛土本体2に浸透することとなりかねない。
【0041】
そこで、
図5では、中間層14と盛土本体2との間に難透水層15を設けて、雨水が盛土本体2に浸透する現象を抑制している。難透水層15は、いずれの材料またいずれの手段で形成してもよいが、例えば粘性土等の細粒分を多く含む地盤材料を盛土本体2の上面に撒き出し締固めて層状に形成すると良い。
【0042】
なお、
図2(c)の比較例で示したように、難透水層15も透水性を有するため、中間層14を流下した雨水が難透水層15上で長期間にわたり滞留すると、雨水が難透水層15から盛土本体2に浸透する恐れがある。このため、中間層14と難透水層15との境界面は、中間層14を流下した雨水が効率よく縦樋13に流下するよう所定の勾配を設け、のり面保護工4から縦樋13に向かって下方に傾斜する傾斜面に形成するとよい。
【0043】
これにより、中間層14と上面排水層11との境界面B2に形成したキャピラリーバリアが消失しても、上面排水層11から中間層14に流下した雨水を、中間層14内で難透水層15との境界面に沿って効率よく縦樋13に流下させ、速やかに下面排水層12に排水することができる。
【0044】
上記のとおり、盛土本体2の上面に難透水層15と中間層14と上面排水層11の3層を設ける排水構造10は、降雨強度が小さい場合には、上面排水層11と中間層14とを利用して雨水を縦樋13に排水する。また、降雨強度が大きく、中間層14と上面排水層11との境界面B2に形成されたキャピラリーバリアが消失した場合には、中間層14と難透水層15とを利用して雨水を排水できる。したがって、排水構造10を、5~70mm/h程度の降雨強度に対応可能な構造とすることが可能となる。
【0045】
なお、上記の上面排水層11と中間層14との境界面B2に形成されたキャピラリーバリアが消失する現象は、上面排水層11と中間層14との境界面B2の距離が長い場合にも生じる可能性がある。これは、
図1で示したような上面排水層11と盛土本体2との境界面B1にキャピラリーバリアを形成した場合も同様である。この場合には、境界面B1及び境界面B2の勾配を小さくとるよう適宜調整することで、キャピラリーバリアの有効範囲を長大化させることも可能である。
【0046】
≪≪排水構造(第4実施例)≫≫
図5では、中間層14と上面排水層11との境界面B2に形成されたキャピラリーバリアが消失した場合に備えて、中間層14と盛土本体2との間に難透水層15を設ける場合を事例に挙げた。しかし、これに限定するものではなく、
図6で示すように、排水構造10に2層のキャピラリーバリアを形成してもよい。
【0047】
具体的には、中間層14を構成する粗粒層を、上面排水層11で採用した細粒物より径大であり、かつ、盛土本体2における少なくとも中間層14と接する部分近傍の土粒子より径小の、粗粒物を採用して構築する。
【0048】
こうすると、上面排水層11と中間層14との境界面B2に形成されたキャピラリーバリアが消失して上面排水層11内を流下する雨水が中間層14に流入しても、中間層14で保水されるとともに、中間層14と盛土本体2との境界面B3に沿って、縦樋13に排水することができ、雨水を盛土本体2に浸透させる現象を抑制することが可能となる。
【0049】
なお、前述したように、キャピラリーバリアは、不飽和状態で上下層のうち、下層のサクションが相対的に低い場合に形成される。したがって、中間層14も、盛土本体2における中間層14と接する部分近傍の状態に応じて、採用する粗粒物の粒径や締固めの度合いを適宜調整して構築すればよい。
【0050】
本発明の盛土構造物1によれば、排水構造10を利用して、盛土本体2に雨水が浸透することにより生じる汚染物質を含んだ雨水浸透水の発生量を低減することができる。これにより、盛土構造物1から、環境基準(環境基本法の規定に基づく地下水の水質汚濁に係る基準)を超える濃度の汚染物質を含む地下水が流出する事態を抑制することが可能となる。
【0051】
本発明の盛土構造物1及び排水構造10は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0052】
例えば、本実施の形態では、トンネル掘削ズリを含む盛土材料を採用しに盛土本体2を構築する場合を事例に挙げたが、必ずしもこれに限定するものではなく、地盤掘削等その他の建設工事で生じる建設発生土を盛土材料に含むものであってもよい。
【0053】
また、排水構造10を設ける盛土構造物1は、道路盛土、鉄道盛土、河川堤防、敷地造成、宅地造成、埋立等のいずれの目的で構築される土構造物にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 盛土構造物
2 盛土本体
3 舗装工
4 のり面保護工
10 排水構造
11 上面排水層
12 下面排水層
13 縦樋
14 中間層
15 難透水層
B1 境界面(上面排水層と盛土本体)
B2 境界面(上面排水層と中間層)
B3 境界面(中間層と盛土本体)