(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】内燃機関用のスパークプラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/32 20060101AFI20241203BHJP
H01T 13/20 20060101ALI20241203BHJP
H01T 13/54 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
H01T13/32
H01T13/20 B
H01T13/54
(21)【出願番号】P 2021011217
(22)【出願日】2021-01-27
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嶋本 大祐
【審査官】石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-114077(JP,A)
【文献】実開昭52-123207(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 1/00-3/12
F02P 7/00-17/12
H01T 7/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の絶縁碍子(3)と、
該絶縁碍子の内周側に保持されると共に該絶縁碍子の先端側に先端突出部(41)を突出させた中心電極(4)と、
上記絶縁碍子を内周側に保持する筒状のハウジング(2)と、
上記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(6)と、
上記放電ギャップが配される副燃焼室(50)を覆うよう上記ハウジングの先端部に設けられたプラグカバー(5)と、を有し、
上記接地電極は、上記副燃焼室の内壁面(501)から上記副燃焼室内に突出しており、
上記プラグカバーには、上記副燃焼室と外部とを連通させる複数の噴孔(51)が形成されており、
上記複数の噴孔のうちの一部の上記噴孔は、他の上記噴孔よりも先端側に形成された先端噴孔(510)であり、
該先端噴孔の中心軸の延長線(510L)は、上記接地電極を通過せず、
上記先端噴孔の外側開口部(513)の中心から上記放電ギャップまでの距離(D1)は、上記先端噴孔以外の上記噴孔の外側開口部の中心から上記放電ギャップまでの距離(D2)よりも短く、
上記接地電極の先端から上記先端噴孔の内側開口部(511)の内周端(512)までの最短距離(D3)は、プラグ軸方向(Z)における上記中心電極の先端から上記副燃焼室の先端までの距離(D4)よりも短
く、
上記延長線は、プラグ軸方向に対して傾斜していると共に、上記放電ギャップの基端側を通過し、
プラグ軸方向から見たとき、上記放電ギャップと上記先端噴孔とは、プラグ中心軸(C)を挟んで、互いに反対側に位置しており、
上記中心電極の先端と上記接地電極の突出端部(62)とを最短距離でつなぐ直線を直線L1としたとき、上記直線L1を含むと共にプラグ軸方向に沿った断面において、上記直線L1と上記延長線とのなす角度α4は、上記直線L1とプラグ中心軸とのなす角度α1よりも大きい、内燃機関用のスパークプラグ(1)。
【請求項2】
上記中心電極の先端から上記先端噴孔の外側開口部の中心までの最短距離(D5)は、1.0~2.6mmである、請求項1に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項3】
上記接地電極の先端から上記先端噴孔の内側開口部の内周端までの最短距離は、0.0~0.8mmである、請求項1又は2に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項4】
上記先端噴孔の内径(D6)は、他の上記噴孔の内径(D7)よりも大きい、請求項1~3のいずれか一項に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項5】
上記先端噴孔は、該先端噴孔を開口方向に延長した延長領域(510E)が上記接地電極を通過しないように、形成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用のスパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
放電ギャップを囲む副燃焼室を備えたスパークプラグが、例えば、特許文献1に開示されている。
かかるスパークプラグは、副燃焼室において混合気に着火することにより火炎を形成する。そして、副燃焼室内にて生じた火炎を、副燃焼室と主燃焼室とを連通させる噴孔から噴出させる。これにより、主燃焼室内に火炎を伝搬させて混合気を燃焼させる。
特許文献1においては、副燃焼室内の気流の跳ね返り効果を利用して、火炎の成長を促進することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のスパークプラグにおいては、火炎の成長については考慮されているものの、初期火炎の形成自体については、考慮されていない。つまり、放電ギャップに生じた放電を引き伸ばして着火性を向上させることについては、何ら考慮されていない。また、排ガス浄化フィルタの触媒温度を高くする等の目的のため、内燃機関の膨張行程において、放電による点火を行う場合があるが、膨張行程における着火性についても考慮されていない。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、着火性を向上させることができる内燃機関用のスパークプラグを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、筒状の絶縁碍子(3)と、
該絶縁碍子の内周側に保持されると共に該絶縁碍子の先端側に先端突出部(41)を突出させた中心電極(4)と、
上記絶縁碍子を内周側に保持する筒状のハウジング(2)と、
上記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(6)と、
上記放電ギャップが配される副燃焼室(50)を覆うよう上記ハウジングの先端部に設けられたプラグカバー(5)と、を有し、
上記接地電極は、上記副燃焼室の内壁面(501)から上記副燃焼室内に突出しており、
上記プラグカバーには、上記副燃焼室と外部とを連通させる複数の噴孔(51)が形成されており、
上記複数の噴孔のうちの一部の上記噴孔は、他の上記噴孔よりも先端側に形成された先端噴孔(510)であり、
該先端噴孔の中心軸の延長線(510L)は、上記接地電極を通過せず、
上記先端噴孔の外側開口部(513)の中心から上記放電ギャップまでの距離(D1)は、上記先端噴孔以外の上記噴孔の外側開口部の中心から上記放電ギャップまでの距離(D2)よりも短く、
上記接地電極の先端から上記先端噴孔の内側開口部(511)の内周端(512)までの最短距離(D3)は、プラグ軸方向(Z)における上記中心電極の先端から上記副燃焼室の先端までの距離(D4)よりも短く、
上記延長線は、プラグ軸方向に対して傾斜していると共に、上記放電ギャップの基端側を通過し、
プラグ軸方向から見たとき、上記放電ギャップと上記先端噴孔とは、プラグ中心軸(C)を挟んで、互いに反対側に位置しており、
上記中心電極の先端と上記接地電極の突出端部(62)とを最短距離でつなぐ直線を直線L1としたとき、上記直線L1を含むと共にプラグ軸方向に沿った断面において、上記直線L1と上記延長線とのなす角度α4は、上記直線L1とプラグ中心軸とのなす角度α1よりも大きい、内燃機関用のスパークプラグ(1)にある。
【発明の効果】
【0007】
上記スパークプラグは、複数の噴孔のうちの一部として、先端噴孔を有する。そして、先端噴孔が、上記の条件を満たす位置及び向きに形成されている。それゆえ、内燃機関の膨張行程において、先端噴孔を介して副燃焼室から導出される気流によって、放電ギャップに生じた放電を伸長させることができる。その結果、着火性を向上させることができる。
【0008】
以上のごとく、上記態様によれば、着火性を向上させることができる内燃機関用のスパークプラグを提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1における、スパークプラグの先端部付近の、プラグ軸方向に沿った断面図であって、
図2のI-I線矢視断面相当図。
【
図3】実施形態1における、先端噴孔の中心軸の延長線と接地電極との関係を説明する、断面説明図。
【
図4】実施形態1における、噴孔の外側開口部の中心から放電ギャップまでの距離を説明する、断面説明図。
【
図5】実施形態1における、接地電極の先端から先端噴孔の内側開口部の内周端までの最短距離等を説明する、断面説明図。
【
図6】実施形態1における、噴孔の内径の大きさを説明する、断面説明図。
【
図7】実施形態1における、中心電極に対する接地電極の位置を説明する、断面説明図。
【
図8】実施形態1における、内燃機関の断面説明図。
【
図9】実施形態1における、膨張行程時の、放電が伸長する前のスパークプラグの先端部付近の断面図。
【
図10】実施形態1における、膨張行程時の、放電が伸長したときのスパークプラグの先端部付近の断面図。
【
図11】実施形態1における、膨張行程時の、放電が主燃焼室まで伸長したときのスパークプラグの先端部付近の断面図。
【
図12】比較形態1における、スパークプラグの先端部付近の、プラグ軸方向に沿った断面図。
【
図13】実験例1における、中心電極の先端から先端噴孔の外側開口部の中心までの最短距離と、遅角限界との関係を示すグラフ。
【
図14】放電の長さと放電維持電圧との関係を示すグラフ。
【
図15】実験例2における、接地電極の先端から先端噴孔の内側開口部の内周端までの最短距離と、COVとの関係を示すグラフ。
【
図16】実施形態2における、スパークプラグの先端部付近の、プラグ軸方向に沿った断面図。
【
図17】実施形態3における、スパークプラグの先端部付近の、プラグ軸方向に沿った断面図。
【
図18】実施形態4における、スパークプラグの先端部付近の、プラグ軸方向に沿った断面図。
【
図19】実施形態5における、スパークプラグの先端部付近の、プラグ軸方向に沿った断面図。
【
図20】実施形態6における、スパークプラグの先端部付近の、プラグ軸方向に沿った断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
内燃機関用のスパークプラグに係る実施形態について、
図1~
図11を参照して説明する。
本形態の内燃機関用のスパークプラグ1は、
図1、
図2に示すごとく、筒状の絶縁碍子3と、中心電極4と、筒状のハウジング2と、接地電極6と、プラグカバー5と、を有する。中心電極4は、絶縁碍子3の内周側に保持されると共に絶縁碍子3の先端側に先端突出部41を突出させている。ハウジング2は、絶縁碍子3を内周側に保持する。接地電極6は、中心電極4との間に放電ギャップGを形成する。プラグカバー5は、放電ギャップGが配される副燃焼室50を覆うようハウジング2の先端部に設けられている。接地電極6は、副燃焼室50の内壁面501から副燃焼室50内に突出している。
【0011】
プラグカバー5には、副燃焼室50と外部とを連通させる複数の噴孔51が形成されている。複数の噴孔51のうちの一部の噴孔51は、他の噴孔51よりも先端側に形成された先端噴孔510である。
【0012】
先端噴孔510の中心軸の延長線510Lは、
図3に示すごとく、接地電極6を通過しない。
図4に示すごとく、先端噴孔510の外側開口部513の中心から放電ギャップGまでの距離D1は、先端噴孔510以外の噴孔51の外側開口部513の中心から放電ギャップGまでの距離D2よりも短い。また、
図5に示すごとく、接地電極6の先端から先端噴孔510の内側開口部511の内周端512までの最短距離D3は、プラグ軸方向Zにおける中心電極4の先端から副燃焼室50の先端までの距離D4よりも短い。
【0013】
本形態のスパークプラグ1は、例えば、自動車、コージェネレーション等の内燃機関における着火手段として用いることができる。
図8に示すごとく、ハウジング2の外周面に形成した取付ネジ部21を、シリンダヘッド76のプラグホール761の雌ネジ部に螺合して、スパークプラグ1が内燃機関10に取り付けられる。
【0014】
内燃機関10は、シリンダ70内を往復運動するピストン74を備える。主燃焼室11は、ピストン74の往復運動によって、体積変化する。内燃機関10には、吸気ポート721及び排気ポート731が形成されており、それぞれ吸気弁72又は排気弁73が備えられている。
【0015】
そして、スパークプラグ1の軸方向Zの一端が、内燃機関10の主燃焼室11に配置される。スパークプラグ1の軸方向Zにおいて、主燃焼室11に露出する側を先端側、その反対側を基端側というものとする。また、スパークプラグ1の軸方向Zを、適宜、プラグ軸方向Z、或いは単に、Z方向ともいう。なお、プラグ中心軸Cは、スパークプラグ1の中心軸Cを意味するものとする。また、
図1に示すごとく、プラグ中心軸Cは、本形態において、中心電極4の中心軸でもある。
【0016】
プラグカバー5は、ハウジング2の先端部に溶接等によって接合されている。スパークプラグ1が内燃機関に取り付けられた状態において、プラグカバー5は、副燃焼室50を主燃焼室と区画している。
【0017】
副燃焼室50は、中心電極4の先端突出部41の周辺における、ハウジング2の先端部の内周側の空間を含む。したがって、副燃焼室50の内壁面501は、プラグカバー5の内面の他、ハウジング2の先端部の内面を含む。
【0018】
プラグカバー5は、副燃焼室50の外周側の一部を覆う周壁部52と、副燃焼室50の先端側を覆う底壁部53と、周壁部52と底壁部53とをつなぐ角部54とを有する。底壁部53には、先端噴孔510が形成されている。角部54には、先端噴孔510以外の噴孔51が形成されている。
【0019】
本形態において、プラグカバー5には、
図2に示すごとく、5つの噴孔51が形成されており、そのうちの一つが先端噴孔510となっている。それぞれの噴孔51は、略円柱形状に形成されている。
【0020】
図6に示すごとく、先端噴孔510の内径D6は、他の噴孔51の内径D7よりも大きい。つまり、先端噴孔510は、先端噴孔510以外の噴孔51よりも開口面積が大きい。
【0021】
先端噴孔510の内径は、例えば、先端噴孔510以外の噴孔51の内径の1.5倍~3.0倍とすることができる。また、先端噴孔510の内径は、先端噴孔510以外の噴孔51の内径の2.0倍~3.0倍とすることが好ましい。
【0022】
本形態において、先端噴孔510の内径D6は、プラグカバー5の底壁部53の最大の厚みよりも大きい。プラグカバー5の厚みは、例えば、0.5mm~1.5mmとすることができる。
【0023】
先端噴孔510以外の噴孔51は、
図2に示すごとく、Z方向から見たとき、プラグ周方向に等間隔で形成されている。また、先端噴孔510以外の噴孔51は、
図1、
図3~
図7に示すごとく、先端側へ向かうほどプラグ径方向の外側へ向かうように、Z方向に対して傾斜して開口している。なお、プラグ周方向は、プラグ中心軸Cを中心とする円周に沿った方向である。また、プラグ径方向とは、スパークプラグ1の中心軸Cに直交する平面上において、スパークプラグ1の中心軸Cを中心とする円の半径方向を意味する。
【0024】
本形態において、先端噴孔510は、
図3に示すごとく、先端噴孔510の中心軸の延長線510Lが、Z方向に沿うように、形成されている。また、先端噴孔510は、延長線510Lが、プラグ中心軸と重なるように、形成されている。
【0025】
先端噴孔510は、
図1に示すごとく、プラグ径方向において、プラグカバー5の周壁部52の内壁面501とプラグ中心軸Cとの中間位置よりも、プラグ中心軸C側に形成されている。
【0026】
また、本形態においては、
図5に示すごとく、中心電極4の先端から先端噴孔510の外側開口部513の中心までの最短距離D5は、1.0~2.6mmである。また、最短距離D3は、0.0~0.8mmである。なお、D3=0.0mmの場合は、実質的に接地電極6の先端がプラグカバー5の底壁部53の内壁面501に接触した状態となる。
【0027】
また、接地電極6は、
図2に示すごとく、Z方向から見たとき、プラグ径方向に沿うように、ハウジング2に固定されている。
図1、
図2に示すごとく、プラグ中心軸Cは、接地電極6を通過しない。
【0028】
図1に示すごとく、接地電極6の基端面61は、接地電極6の突出端部62に近づくに従って先端側に向かうように傾斜している。接地電極6の基端面61は、平坦な面となっている。
【0029】
また、本形態において、中心電極4の先端は、接地電極6の突出端部62よりも基端側に位置している。中心電極4の先端部は、突出端部62よりもプラグ径方向の内側に位置している。また、中心電極4の先端は、ハウジング2の先端よりも先端側に位置している。
【0030】
図1、
図2に示すごとく、中心電極4の先端部には、平坦な先端面411が形成されている。
図2に示すごとく、Z方向から見たとき、先端面411と接地電極6とが互いに重ならないように、接地電極6が固定されている。
【0031】
図7に示すごとく、中心電極4の先端と接地電極6の突出端部62とを最短距離でつなぐ直線を直線L1とする。本形態においては、
図7に示すごとく、直線L1を含むと共に、Z方向に沿った断面において、直線L1とプラグ中心軸Cとのなす角度α1は、鋭角となっている。
【0032】
また、中心電極4の先端を通ると共に、プラグ中心軸Cに直交する平面を、平面Pとする。本形態においては、
図7に示すごとく、プラグ中心軸Cを含むと共に接地電極6の突出方向に沿った断面において、平面Pと接地電極6の基端面61とのなす角度α2は、鋭角となっている。角度α2は、例えば、0°~90°とすることができる。
【0033】
また、本形態においては、
図7に示すごとく、直線L1を含むと共に、Z方向に沿った断面において、直線L1と平面Pとのなす角度α3は、鋭角となっている。後述する実施形態2及び実施形態3にて示すように、角度α3は、例えば、0°~90°とすることができる。
【0034】
また、本形態において、放電ギャップGは、プラグ中心軸Cの近傍に形成されている。放電ギャップGは、
図1に示すごとく、プラグ径方向において、プラグカバー5の周壁部52の内壁面501とプラグ中心軸Cとの中間位置よりも、プラグ中心軸C側となるように形成されている。また、放電ギャップGは、プラグ中心軸Cよりも、プラグ径方向の外側に形成されている。
【0035】
放電ギャップGは、中心電極4の先端突出部41の先端部と接地電極6とが、プラグ軸方向Zに対して傾斜して、互いに対向することにより形成されている。放電ギャップGは、
図7に示すごとく、直線L1に沿って、形成されている。なお、互いに対向する先端突出部41の先端部と接地電極6とのそれぞれに、チップを接合することもできる(図示略)。つまり、先端突出部41の先端部に接合されたチップと接地電極6に接合されたチップとの間に、放電ギャップGを形成することもできる。チップは、例えば、イリジウムや白金等の貴金属、又はこれらを主成分とする合金とすることができる。
【0036】
次に、本形態の作用効果を説明する。
上記内燃機関用のスパークプラグ1は、複数の噴孔51のうちの一部として、先端噴孔510を有する。そして、先端噴孔510が、上記の条件を満たす位置及び向きに形成されている。それゆえ、内燃機関の膨張行程において、先端噴孔510を介して副燃焼室50から導出される気流によって、放電ギャップGに生じた放電を伸長させることができる。その結果、着火性を向上させることができる。
【0037】
膨張行程においては、ピストンが先端側に移動することにより、主燃焼室が副燃焼室50に対して陰圧となる。これにより、噴孔51を介して、副燃焼室50から主燃焼室へとガスが導出される。そして、
図9~
図11に示すごとく、先端噴孔510を介してガスが導出されることにより、副燃焼室50に先端噴孔510へと向かう気流Aが形成される。ここで、本形態のスパークプラグ1においては、先端噴孔510の中心軸の延長線510Lが接地電極6を通過しないよう構成されている。そのため、気流Aは、放電ギャップG及びその周辺にも充分に形成される。それゆえ、
図9に示すごとく、放電ギャップGに生じた放電Sは、
図10に示すごとく、気流Aによって伸長しやすい。その結果、膨張行程において、着火性が向上しやすい。また、膨張行程における着火性が向上することにより、排ガス浄化フィルタの触媒温度を、短期間に上昇させることができる。そのため、燃費向上、エミッション低減が期待できる。
【0038】
また、放電ギャップGにおいて気流Aが充分に形成されるため、
図10に示すごとく、放電Sは、先端噴孔510に向かって伸長しやすい。これにより、着火位置を先端噴孔510に近付けやすいため、例えば、副燃焼室50の温度が低い運転条件などでは、初期火炎の冷損が抑制され、先端噴孔510から主燃焼室へと火炎が噴出しやすい。また、放電Sが、先端噴孔510から主燃焼室側へと誘引されやすい。その結果、主燃焼室での着火性を向上させることができる。
【0039】
また、最短距離D3(
図5参照)は、距離D4(
図5参照)よりも短い。そのため、
図9に示すごとく、放電ギャップGに生じた放電Sの接地電極6側の起点SPは、気流Aによって、突出端部62を伝って、
図10に示すごとく、先端噴孔510に近づくように移動しやすい。それゆえ、放電Sは、先端噴孔510に向かって一層伸長しやすい。その結果、着火性を一層向上させることができる。また、場合によっては、
図11に示すごとく、放電Sの起点SPは、突出端部62から、更に先端噴孔510の内面に移ることもある。そして、気流Aの流速は、先端噴孔510に近づくに従って速くなりやすい。そうすると、流速の速い気流Aによって、放電Sの起点SPは先端噴孔510の外側開口部513にまで移りやすいと共に、放電Sは更に伸長しやすい。そのため、放電Sの一部が先端噴孔510から主燃焼室側へ飛び出すことも期待できる。これによって、主燃焼室の着火性を向上させることができる。
【0040】
最短距離D5(
図5参照)は、1.0~2.6mmである。それゆえ、放電ギャップG及びその周辺において、先端噴孔510へと向かう気流を確実に形成しやすい。その結果、放電ギャップGに生じた放電は、先端噴孔510に向かって確実に伸長しやすい。
【0041】
また、最短距離D5が上記範囲にあることにより、放電ギャップG及びその周辺に形成される気流は、流速の速い気流となりやすい。それゆえ、放電ギャップGに生じた放電は、先端噴孔510に向かって一層伸長しやすい。その結果、着火性を一層向上させることができる。
【0042】
最短距離D3は、0.0~0.8mmである。それゆえ、先端噴孔510を介して導出される気流により、放電ギャップGに生じた放電の起点が、接地電極6から先端噴孔510の内面に一層移りやすい。それゆえ、放電が主燃焼室に向かって一層伸長しやすい。その結果、主燃焼室の着火性を一層向上させることができる。
【0043】
先端噴孔510の内径D6は、他の噴孔51の内径D7よりも大きい(
図6参照)。それゆえ、先端噴孔510を介して副燃焼室50から導出される気流が強くなりやすい。それゆえ、放電ギャップG及びその周辺において、先端噴孔510へと向かう強い気流が生じやすい。その結果、気流によって、放電を効果的に伸長させることができる。
【0044】
接地電極6の基端面61は、突出端部62に近づくに従って先端側に向かうように傾斜している。それゆえ、膨張行程において、放電ギャップG及びその周辺に形成された気流は、基端面61によって、先端噴孔510側に案内されやすい。それゆえ、放電ギャップGに生じた放電は、先端噴孔510に向かって一層伸長しやすい。その結果、着火性を一層向上させることができる。
【0045】
以上のごとく、本形態によれば、着火性を向上させることができる内燃機関用のスパークプラグ1を提供することができる。
【0046】
(比較形態1)
本形態のスパークプラグ9は、
図12に示すごとく、最短距離D3と距離D4とが同等となったスパークプラグ9である。
【0047】
図12に示すごとく、本形態において、中心電極4の先端と、接地電極6の先端とは、Z方向における位置が、互いに同等となっている。
【0048】
本形態において、放電ギャップGは、中心電極4の先端部と接地電極6とが、プラグ径方向に互いに対向することにより、形成されている。
その他は、実施形態1と同様である。なお、
図12において用いた符号のうち、実施形態1において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、実施形態1におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0049】
(実験例1)
本例では、
図13に示すように、基本構造を実施形態1と同様とするスパークプラグと、基本構造を比較形態1と同様とするスパークプラグと、につき、最短距離D5(
図5、
図12参照)と遅角限界との関係を解析した。試験条件は、内燃機関として過給エンジンを用い、排気量を2L、圧縮比を10、回転数を1500r/mとした。そして、遅角限界がATDC(圧縮上死点後の略)18°CA(クランク角の略)以上となる最短距離D5を求めた。また、本例では、燃焼変動率(以下において、COVという。)15%を基準に、遅角限界を定めた。つまり、COVが15%を超えない範囲において最も遅角できる点火時期を求めた。
【0050】
図13に示すごとく、全体として、比較形態1に対し実施形態1の方が、より遅角できる結果となった。具体的には、例えば、最短距離D5を2.0mmとしたとき、実施形態1では、ATDC30°CAよりも遅角できたのに対し、比較形態1では、基準とするATDC18°CAを下回る結果となった。また、本例の結果より、実施形態1における、遅角限界がATDC18°CA以上となる最短距離D5は、2.6mm以下であった。
【0051】
一般に、スパークプラグの着火性が向上するほど、点火時期を遅角することができると考えられる。つまり、放電ギャップに生じた放電が伸長しやすいほど、点火時期を遅角することができると考えられる。また、一般に、放電ギャップに生じた放電は、放電の長さが長くなるに従って、放電の維持電圧が上昇する。従って、本例では、
図14に示すごとく、予め、放電の長さと放電の維持電圧との関係を求めた結果に基づいて、検出した放電の維持電圧から、放電の長さを求めた。具体的には、実施形態1と比較形態1とのそれぞれにつき、最短距離D5を2.0mmとしたときの放電の長さを求めたところ、
図13の符号Sy1で示す実施形態1の場合、放電の長さは5.0mmであった。また、符号Sy2で示す比較形態1の場合、放電の長さは1.5mmであった。これらの結果より、実施形態1は、比較形態1に対し、放電が伸長しやすく、着火性が高いと考えられる。そのため、実施形態1は、比較形態1に対し、より遅角できたと考えられる。
【0052】
すなわち、実施形態1は、最短距離D3(
図5参照)が距離D4(
図5参照)よりも短い。そのため、実施形態1は、最短距離D3と距離D4とが同等の比較形態1に対し、接地電極側の放電の起点が、先端噴孔の内面に移りやすいと考えられる。それゆえ、本例においては、比較形態1に対し、実施形態1の方が、放電が伸長しやすく、遅角できたと考えられる。つまり、実施形態1は、比較形態1に対し、膨張行程での点火によって、排ガス浄化フィルタの触媒温度を上昇させやすいと考えられる。
【0053】
また、実施形態1は、最短距離D5が2.6mmを超える符号Sy3で示す条件のとき、遅角限界はATDC18°CAよりも低い結果となった。また、符号Sy3で示す条件のときの放電の長さは2.0mmであった。これらの結果より、最短距離D5が2.6mmを超える場合、先端噴孔と放電ギャップとの間の距離が長くなったことにより、最短距離D5が2.6mm以下のときと比較し、放電が伸長しにくくなったと考えられる。つまり、最短距離D5が2.6mmを超える場合、最短距離D5が2.6mm以下のときと比較し、放電ギャップ及びその周辺に生じる気流は弱くなりやすいと考えられる。その結果、放電の伸長距離も短くなったと考えられる。
【0054】
(実験例2)
本例では、
図15に示すように、基本構造を実施形態1と同様とするスパークプラグにつき、最短距離D3(
図5参照)とCOVとの関係を解析した。試験条件は、最短距離D5を2.0mm、放電による点火タイミングをATDC20°CAとし、その他の条件は、実験例1と同様とした。
【0055】
本例の結果において、COVが15%以下となる最短距離D3は、
図15に示すごとく、0.8mm以下であった。
【0056】
一般に、スパークプラグの着火性が向上するほど、COVを下げることができると考えられる。
図15の符号Sy4で示す、COVが15%以下である最短距離D3の場合、放電の長さは5.0mmであった。また、符号Sy5で示す、COVが15%を大幅に超えたときの最短距離D3の場合、放電の長さは1.5mmであった。これらの結果より、最短距離D3が0.8mm以下のとき、放電が、より伸長しやすいため、COVの値は15%以下になったと考えられる。具体的には、最短距離D3が0.8mm以下のとき、接地電極側の放電の起点が、先端噴孔の内面に、より移りやすいと考えられる。それゆえ、放電が、より伸長しやすいと共に、放電の一部が先端噴孔から主燃焼室側へ飛び出しやすいことにより、安定して混合気を燃焼させることができたと考えられる。一方、最短距離D3が0.8mmを超える場合、最短距離D3が0.8mm以下の場合と比較し、放電の起点が先端噴孔の内面に移りにくく、放電の伸長距離が短くなったと考えられる。その結果、COVは15%を超えたと考えられる。
【0057】
(実施形態2)
本形態は、
図16に示すごとく、実施形態1に対し、接地電極6の位置を変更した形態である。
【0058】
本形態においては、
図16に示すごとく、直線L1を含むと共に、Z方向に沿った断面において、直線L1と平面Pとのなす角度α3は、略90°となっている。本形態において、放電ギャップGは、Z方向に沿って形成されている。
その他は、実施形態1と同様である。なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
本形態においても、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0059】
(実施形態3)
本形態は、
図17に示すごとく、実施形態1に対し、接地電極6の位置を変更した形態である。
【0060】
本形態においては、
図17に示すごとく、直線L1が、平面Pと重なるように、接地電極6が固定されている。つまり、直線L1を含むと共に、Z方向に沿った断面において、直線L1と平面Pとのなす角度は、0°となっている。また、放電ギャップGは、プラグ径方向に形成されている。
その他の構成及び作用効果は、実施形態1と同様である。
【0061】
(実施形態4)
本形態は、
図18に示すごとく、実施形態1に対し、先端噴孔510と接地電極6との位置関係を変更した形態である。
【0062】
先端噴孔510は、
図18に示すごとく、先端噴孔510を開口方向に延長した延長領域510Eが接地電極6を通過しないように、形成されている。
【0063】
本形態において、接地電極6の突出端部62は、プラグ径方向において、先端噴孔510よりも外側に位置している。
その他は、実施形態1と同様である。
【0064】
先端噴孔510は、延長領域510Eが接地電極6を通過しないように、形成されている。それゆえ、先端噴孔510を介して副燃焼室50から導出される気流は、接地電極6によって乱されにくい。それゆえ、放電ギャップG及びその周辺において、先端噴孔510へと向かう気流を一層形成しやすい。それゆえ、放電ギャップGに生じた放電は、先端噴孔510に向かって一層伸長しやすい。その結果、着火性を一層向上させることができる。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0065】
(実施形態5)
本形態は、
図19に示すごとく、実施形態1に対し、先端噴孔510の形成位置を変更した形態である。
【0066】
本形態において、先端噴孔510は、
図19に示すごとく、先端噴孔510の中心軸の延長線510Lが、プラグ中心軸Cからずれた状態にて、形成されている。また、先端噴孔510は、延長線510Lが、先端突出部41を通過しないように形成されている。
【0067】
放電ギャップGと先端噴孔510とは、プラグ径方向において、プラグ中心軸Cを挟んで、互いに反対側に位置している。
その他の構成及び作用効果は、実施形態1と同様である。
【0068】
(実施形態6)
本形態は、
図20に示すごとく、実施形態5に対し、先端噴孔510の開口方向を変更した形態である。
【0069】
先端噴孔510の中心軸の延長線510Lは、
図20に示すごとく、Z方向に対して傾斜している。つまり、先端噴孔510の開口方向は、Z方向に対して傾斜している。また、延長線510Lは、放電ギャップGの基端側を通過する。
【0070】
本形態において、延長線510Lは、先端突出部41を通過する。また、延長線510Lは、実質的にプラグ中心軸Cを通過する。
【0071】
図20に示すごとく、直線L1を含むと共にZ方向に沿った断面において、直線L1と延長線510Lとのなす角度α4は、直線L1とプラグ中心軸Cとのなす角度α1よりも大きい。つまり、本形態においては、実施形態5に対し、放電ギャップGの形成方向と延長線510Lとのなす角度が、90°に近づくように、先端噴孔510が形成されている。
その他は、実施形態5と同様である。
【0072】
角度α4は、角度α1よりも大きい。それゆえ、放電ギャップG及びその周辺において、先端噴孔510に向かう気流が一層形成されやすい。その結果、放電ギャップGに生じた放電が、先端噴孔510に向かって一層伸長しやすい。
その他、実施形態5と同様の作用効果を有する。
【0073】
上記実施形態1~6において、接地電極6の先端は、プラグカバー5に当接していない。ただし、接地電極は、例えば、その先端をプラグカバーに当接させた状態にて、ハウジング又はプラグカバーに固定することができる。また、接地電極は、例えば、先端噴孔の内側開口部の内周端に隣接するように、プラグカバーに固定することもできる。つまり、先端噴孔の内側開口部の内周端に隣接する位置から副燃焼室内に突出するように、接地電極を設けることができる。これらの構成とすることにより、放電ギャップに生じた放電の接地電極側の起点は、先端噴孔の内面に一層移りやすくなる。
【0074】
上記実施形態1~6において、先端噴孔510の中心軸の延長線510Lは、放電ギャップGを通過しない。ただし、先端噴孔は、例えば、先端噴孔の中心軸の延長線が、放電ギャップGを通過するように形成することもできる。これにより、放電ギャップ及びその周辺において、先端噴孔に向かう気流が一層形成されやすくなる。
【0075】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0076】
1…スパークプラグ、2…ハウジング、3…絶縁碍子、4…中心電極、41…先端突出部、5…プラグカバー、50…副燃焼室、501…副燃焼室の内壁面、51…噴孔、511…内側開口部、512…内側開口部の内周端、510…先端噴孔、6…接地電極、510L…先端噴孔の中心軸の延長線、Z…プラグ軸方向、G…放電ギャップ、D1…先端噴孔の外側開口部の中心から放電ギャップまでの距離、D2…先端噴孔以外の噴孔の外側開口部の中心から放電ギャップまでの距離、D3…接地電極の先端から先端噴孔の内側開口部の内周端までの最短距離、D4…プラグ軸方向における中心電極の先端から副燃焼室の先端までの距離