(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20241203BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241203BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241203BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20241203BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2021032409
(22)【出願日】2021-03-02
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】坪内 洋
【審査官】山口 大志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-125481(JP,A)
【文献】特開2016-076469(JP,A)
【文献】国際公開第2020/021763(WO,A1)
【文献】特開2017-073237(JP,A)
【文献】特開2013-235682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質層を有する全固体電池であって、
前記負極活物質層は、負極活物質
、結着材としての
スチレンブタジエンゴム又はアクリロニトリルブタジエンゴム、及び、針状の構造を有する材料を含む導電材を含有し、
前記負極活物質層に対して前記結着材が5体積%以上20体積%以下であり、
体積比率で、導電材/結着材が0.4以上1.0以下である、
全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極活物質層を含む正極、負極活物質層を含む負極、及び、これらの間に配置された固体電解質を含む固体電解質層を備えている。
【0003】
特許文献1には、負極活物質としてSi含有活物質を用いた全固体電池が開示されている。
特許文献2には、電極活物質と導電材とを含む電極活物質(気相成長カーボンファイバ)/導電材の複合体および、その分散剤としてSBR(スチレンブタジエンゴム)を用いても良いことが開示されている。
特許文献3には、気相成長カーボンファイバを含む全固体電池用の電極が開示されている。
特許文献4には、結着材としてSBR、導電材として気相成長カーボンファイバを用いてもよいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-112029号公報
【文献】特開2013-135223号公報
【文献】特表2020-507893号公報
【文献】特開2020-177904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術ではそれぞれ負極活物質層に結着材や導電材が含まれることが開示されているが、充放電を経ることによる容量維持率が低い問題があった。
そこで本開示は、容量維持率を高めることができる全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は上記課題を解決するための一つの手段として、負極活物質層を有する全固体電池であって、負極活物質層は、負極活物質、二重結合を有する材料から得られる結着材、及び、針状の構造を有する材料を含む導電材を含有し、負極活物質層に対して結着材が5体積%以上20体積%以下であり、体積比率で、導電材/結着材が0.4以上1.0以下である、全固体電池を開示する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の全固体電池によれば容量維持率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】全固体電池10の層構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.全固体電池
図1に本開示にかかる全固体電池10の一例を示す概略断面図を示した。
図1に示すように、全固体電池10は、正極活物質を含有する正極活物質層11、負極活物質を含有する負極活物質層12、正極活物質層11と負極活物質層12との間に形成された固体電解質層13、正極活物質層11の集電を行う正極集電体層14、負極活物質層12の集電を行う負極集電体層15を有する。
なお、正極活物質層11と正極集電体層14とを併せて正極と称呼することがあり、負極活物質層12と負極集電体層15とを併せて負極と称呼することがある。
以下、全固体電池10の各構成について説明する。
【0010】
1.1.正極活物質層
正極活物質層11は、正極活物質を含有する層であり、必要に応じて、さらに固体電解質材、導電材及び結着材の少なくとも一つを含有していてもよい。
正極活物質は公知の活物質を用いればよい。例えば、コバルト系(LiCoO2等)、ニッケル系(LiNiO2等)、マンガン系(LiMn2O4、Li2Mn2O3等)、リン酸鉄系(LiFePO4、Li2FeP2O7等)、NCA系(ニッケル、コバルト、アルミニウムの化合物)、NMC系(ニッケル、マンガン、コバルトの化合物)等が挙げられる。より具体的にはLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2などがある。
正極活物質は表面がニオブ酸リチウム層やチタン酸リチウム層やリン酸リチウム層等の酸化物層で被覆されていてもよい。
正極活物質の粒径は特に限定されないが、例えば5μm以上50μm以下の範囲であることが好ましい。ここで本明細書において「粒径」とは、レーザ回折・散乱法によって測定された体積基準の粒度分布において、積算値50%での粒径(D50)を意味する。
また正極活物質層に対する正極活物質の含有量は、例えば50重量%以上99重量%以下の範囲である。
【0011】
固体電解質は無機固体電解質が好ましい。有機ポリマー電解質と比較してイオン伝導度が高く、耐熱性に優れるためである。無機固体電解質として例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質等が挙げられる。
Liイオン伝導性を有する硫化物固体電解質材としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-B2S3、Li2S-P2S5-ZmSn(ただし、m、nは正の数。Zは、Ge、Zn、Gaのいずれか。)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LixMOy(ただし、x、yは正の数。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれか。)等を挙げることができる。なお、上記「Li2S-P2S5」の記載は、Li2SおよびP2S5を含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質材を意味し、他の記載についても同様である。
【0012】
一方、Liイオン伝導性を有する酸化物固体電解質材としては、例えば、NASICON型構造を有する化合物等を挙げることができる。NASICON型構造を有する化合物の一例としては、一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3(0≦x≦2)で表される化合物(LAGP)、一般式Li1+xAlxTi2-x(PO4)3(0≦x≦2)で表される化合物(LATP)等を挙げることができる。また、酸化物固体電解質材の他の例としては、LiLaTiO(例えば、Li0.34La0.51TiO3)、LiPON(例えば、Li2.9PO3.3N0.46)、LiLaZrO(例えば、Li7La3Zr2O12)等を挙げることができる。
【0013】
正極活物質層11における固体電解質の含有量は特に限定されないが、例えば1重量%以上50重量%以下の範囲である。
【0014】
結着材は、化学的、電気的に安定なものであれば特に限定されるものではないが、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系結着材、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系結着材、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のオレフィン系結着材、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース系結着材等を挙げることができる。
正極活物質層11における結着材の含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%以上10重量%以下の範囲である。
【0015】
導電材としてはアセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、カーボンファイバ等の炭素材料やニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料を用いることができる。
正極活物質層11における導電材の含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%以上10重量%以下の範囲である。
【0016】
全固体電池10を容易に構成できる観点から、シート状の正極活物質層11が好ましい。この場合、正極活物質層11の厚みは、例えば0.1μm以上1mm以下であることが好ましく、1μm以上150μm以下であることがより好ましい。
【0017】
1.2.負極活物質層
負極活物質層12は、少なくとも負極活物質、結着材、及び、導電材を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質材を含んでもよい。固体電解質材については正極活物質層11と同様に考えることができる。
【0018】
負極活物質は特に限定されることはないが、リチウムイオン電池を構成する場合は、負極活物質としてグラファイトやハードカーボン等の炭素材料や、チタン酸リチウム等の各種酸化物、SiやSi合金、あるいは、金属リチウムやリチウム合金等を挙げることができる。
その中でも本開示ではSi、Si合金であることが好ましい。Si材料は充放電により膨張収縮が大きいことから、本開示の効果がより顕著である。
【0019】
本形態で結着材は、二重結合を含む材料から得られるとともに、この材料が負極活物質層12に対して5体積%以上20体積%以下で含まれる。
二重結合を含む材料としてはスチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等を挙げることができる。
【0020】
本形態で導電材は、針状の構造を有する材料であるとともに、負極活物質層12において、体積で上記結着材に対する導電材の比率(導電材の体積比率/結着材の体積比率)が0.4以上1.0以下とされている。
針状の構造を有する材料として、カーボンファイバ(CF)、カーボンナノチューブ(CNT)等を挙げることができる。
ここで、「針状の構造」とは繊維径が300nm以下であり、当該繊維径に対する繊維の長さ(繊維長さ/繊維径:アスペクト比)が40以上であることを挙げることができる。
【0021】
このような構成を有する負極活物質層によれば、負極活物質層の膨張収縮に対しても、負極活物質内(特に負極活物質と固体電解質との間)で亀裂が発生することが抑制され、負極活物質が孤立して容量が減少することを抑制することができる。
具体的には上記の割合で結着材と導電材とを含むことで、負極活物質層の柔軟性と電子伝導性、イオン伝導性をバランスよく有するものとなり、亀裂発生の抑制と導電性との両者を満たすものとなる。
導電材として針状の構造を有する材料を用いることで、これがフィラーのような役割を果たすことにより、負極活物質層の強度が向上しうると考えられる。また、結着材として二重結合を含む材料から得られる結着材を用いることで、これが導電材に吸着し、より機械的に強固なネットワークを形成することで亀裂の発生を抑制できると推定される。
【0022】
負極活物質層12の形状は従来と同様とすればよい。全固体電池10を容易に構成できる観点から、シート状の負極活物質層12が好ましい。この場合、負極活物質層12の厚みは、例えば0.1μm以上1mm以下であることが好ましく、1μm以上150μm以下であることがより好ましい。
【0023】
1.3.固体電解質層
固体電解質層13は、正極活物質層11と負極活物質層12の間に配置される固体電解質層である。固体電解質層13は、少なくとも固体電解質材を含有する。固体電解質材としては、正極活物質層11で説明した固体電解質材と同様に考えることができる。
【0024】
固体電解質層13は任意に結着材を備えていてもよい。結着材の種類は、正極活物質層11に用いられる結着材と同様の種類のものを用いることができる。固体電解質層における結着材の含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%以上10重量%以下の範囲である。
【0025】
1.4.集電体層
集電体は、正極活物質層11の集電を行う正極集電体層14、及び負極活物質層12の集電を行う負極集電体層15である。正極集電体層14を構成する材料としては、例えばステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボン等を挙げることができる。一方、負極集電体層15を構成する材料としては、例えばステンレス鋼、銅、ニッケルおよびカーボン等を挙げることができる。
正極集電体層14、負極集電体層15の厚みは特に限定されず、所望の電池性能に応じて適宜設定すればよい。例えば、0.1μm以上1mm以下の範囲である。
【0026】
1.5.電池ケース
全固体電池は不図示の電池ケースを備えてもよい。電池ケースは各部材を収納するケースであり、例えばステンレス製の電池ケース等を挙げることができる。
【0027】
2.効果等
上記のような負極活物質層を備える全固体電池によれば、負極活物質層の膨張収縮に対しても、負極活物質内(特に負極活物質と固体電解質との間)で亀裂が発生することが抑制され、負極活物質が孤立して容量が減少することを抑制することができる。
【0028】
3.全固体電池の製造方法
以下に全固体電池の製造方法について説明する。全固体電池の製造方法は公知の通りに行えばよいが、例えば次のように行うことができる。
【0029】
[正極構造体の作製]
正極活物質層を構成する材料を混錬し、スラリー状の正極組成物を得る。その後、正極集電体層となる材料の表面に、作製したスラリー状の正極組成物を塗工し、加熱乾燥させる過程を経て正極活物質層となる層を形成し、加圧して正極集電体層となる層及び正極活物質層となる層を有する正極構造体とする。
【0030】
[負極構造体の作製]
負極活物質層を構成する材料を混錬し、スラリー状の負極組成物を得る。その後、負極集電体層となる材料の表面に、作製したスラリー状の負極組成物を塗工し、加熱乾燥させる過程を経て負極活物質層となる層を形成し、加圧して負極集電体層となる層及び負極活物質層となる層を有する負極構造体とする。
【0031】
[固体電解質層及び全固体電池作製]
固体電解質層となる材料を混錬し、スラリー状の固体電解質組成物を得る。その後、例えばアルミニウム箔等の表面に、作製したスラリー状の固体電解質組成物を塗工し、加熱乾燥させる過程を経て固体電解質層となる層を形成する。
そして、固体電解質となる層を上記作製した正極構造体に転写し、さらに負極構造体を転写することで全固体電池を作製することができる。
【0032】
4.実施例
4.1.各例にかかる全固体電池の作製
[正極構造体の作製]
正極活物質(LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2)及び硫化物固体電解質(Li2S-P2S5)の体積比率が正極活物質:固体電解質=75:25となるように秤量し、且つ、正極活物質100重量部に対してPVDF結着材が1.5重量部、及び、正極活物質100重量部に対して導電材(VGCF(登録商標)、昭和電工株式会社)が3.0重量部となるように秤量した。
次いで固形分率が63重量%となるように、これらを調合し、超音波ホモジナイザーを用いて1分間に亘って混練することにより、スラリー状の正極組成物を作製した。
その後、正極集電体層となるアルミニウム箔の表面に、スラリー状の正極組成物を塗工し、加熱乾燥させる過程を経て正極活物質層となる層を形成し、25℃にて線圧1t/cmでプレスし、正極集電体層なる層及び正極活物質層となる層を有する正極構造体を作製した。
【0033】
[負極構造体の作製]
負極活物質(Si)及び硫化物固体電解質(Li2S-P2S5)の体積比率が負極活物質:硫化物固体電解質=60:40となるように秤量して合材とし、この合材に対して結着材、及び、導電材が表1に示した体積比率になるように秤量した。表1において、結着材の「SBR」はスチレンブタジエンゴム、「PVDF」はポリフッ化ビニリデンであり、導電材の「CF」はカーボンファイバ(本例ではCFとしてVGCF(登録商標)、昭和電工株式会社を用いた。なお、VGCF(登録商標)は、カーボンファイバの中でも気相成長カーボンファイバと呼ばれるものである。)、「AB」はアセチレンブラックをそれぞれ意味する。
次いで固形分率が45重量%となるように、これらを調合し、超音波ホモジナイザーを用いて1分間に亘って混練することにより、スラリー状の負極組成物を作製した。
その後、負極集電体となるニッケル箔の表面に、スラリー状の負極組成物を塗工し、加熱乾燥させる過程を経て負極活物質層となる層を形成し、25℃にて線圧1t/cmでプレスし、負極集電体層となる層及び負極活物質層となる層を有する負極構造体を作製した。
【0034】
[固体電解質層及び全固体電池作製]
硫化物固体電解質(Li2S-P2S5)及びPVDF結着材を、硫化物固体電解質100重量部に対してPVDFによる結着材が1重量部となるように秤量した。
次いで固形分率が63重量%となるように、これらを調合し、超音波ホモジナイザーを用いて1分間に亘って混練することにより、スラリー状の固体電解質組成物を作製した。
その後、アルミニウム箔の表面に、スラリー状の固体電解質組成物を塗工し、加熱乾燥させる過程を経て固体電解質層となる層を形成し、正極構造体に転写し、さらに負極構造体を転写することで全固体電池を作製した。
【0035】
4.2.評価
作製した全固体電池を2.5-4.2V、0.1C CCCVにて500サイクル充放電し、1サイクル目と500サイクル目の放電容量の変化から容量維持率を算出し、比較例1の容量維持率を1として、各例について容量維持率比を求めた。
【0036】
4.3.結果
表1に各例の主要な条件及び結果を示した。
【0037】
【0038】
表1からわかるように、上記した負極活物質層とすること、すなわち、二重結合を有する材料から得られる結着材、及び、針状の構造を有する材料を含む導電材を含有し、負極活物質層に対して結着材が5体積%以上20体積%以下であり、体積比率で、導電材/結着材が0.4以上1.0以下であることにより、容量維持率比を比較例1に対して8%以上高めることができた。
一方、結着材、導電材の含有割合を満たさない例(比較例1~比較例4)、結着材として二重結合を有しない材料から得られるPVDFを用いた例(比較例5~比較例8)、及び、導電材として球状構造であるABを用いた例(比較例9~比較例12)では、容量維持率比を3%以上高めることはできなかった。
【符号の説明】
【0039】
10 全固体電池
11 正極活物質層
12 負極活物質層
13 固体電解質層
14 正極集電体層
15 負極集電体層