(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】異常検出装置及び方法
(51)【国際特許分類】
H02P 29/024 20160101AFI20241203BHJP
G01R 31/34 20200101ALI20241203BHJP
【FI】
H02P29/024
G01R31/34 A
(21)【出願番号】P 2021036620
(22)【出願日】2021-03-08
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091524
【氏名又は名称】和田 充夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 高洋
(72)【発明者】
【氏名】矢野 慧介
(72)【発明者】
【氏名】中村 昂洋
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/208743(WO,A1)
【文献】特開2020-176998(JP,A)
【文献】特許第6824494(JP,B1)
【文献】国際公開第2019/082277(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/024
G01R 31/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源からモータに供給される電流又は電圧に基づいて、前記モータの異常状態を検出する異常検出装置であって、
前記電流又は電圧のデータを異なる第1及び第2の時間期間で周波数分析することで、前記第1の時間期間のスペクトルの最大ピーク値に対応する第1の駆動周波数と、前記第2の時間期間のスペクトルの最大ピーク値に対応する第2の駆動周波数とを検索し、
前記第1の駆動周波数を有する第1のスペクトルと、前記第2の駆動周波数を有する
第2のスペクトルとに基づいて、前記各スペクトルの各最大ピーク値を合わせるように一方のスペクトルの周波数軸を補正した後、補正後のスペクトルと未補正のスペクトルとに係る平均化スペクトルを計算し、
前記平均化スペクトルに基づいて、最大ピーク値を有する駆動周波数とは異なる周波数において、所定のしきい値以上の異常ピーク値を検索し、前記異常ピーク値の有無に応じて、前記モータの異常状態を判断する信号処理部を、
備える異常検出装置。
【請求項2】
前記平均化スペクトルを計算するときに、前記信号処理部は、
(1)前記第1及び第2の駆動周波数のうち、低い駆動周波数を高い駆動周波数で除算した除算値を、前記高い駆動周波数を有するスペクトルの周波数軸に乗算するように、前記高い駆動周波数を有するスペクトルの周波数軸を補正することで、補正後の高い駆動周波数を有するスペクトルを計算し、前記補正後の高い駆動周波数を有するスペクトルと、前記低い駆動周波数を有するスペクトルとに基づいて、当該2つのスペクトルの各最大ピーク値を合わせ
るように前記平均化スペクトルを計算し、もしくは
(2)前記第1及び第2の駆動周波数のうち、高い駆動周波数を低い駆動周波数で除算した除算値を、前記低い駆動周波数を有するスペクトルの周波数軸に乗算するように、前記低い駆動周波数を有するスペクトルの周波数軸を補正することで、補正後の低い駆動周波数を有するスペクトルを計算し、前記補正後の低い駆動周波数を有するスペクトルと、前記高い駆動周波数を有するスペクトルとに基づいて、当該2つのスペクトルの各最大ピーク値を合わ
せるように前記平均化スペクトルを計算する、
請求項1に記載の異常検出装置。
【請求項3】
前記信号処理部は、第1及び第2の時間期間で周波数分析する前に、前記周波数分析する前記電流又は電圧のデータに対して、所定の低域遮断周波数でハイパスフィルタリングする、
請求項1又は2に記載の異常検出装置。
【請求項4】
前記信号処理部は、
前記電流又は電圧のデータを、前記第1及び第2の時間期間を含む時間期間で周波数分析し、前記周波数分析結果のスペクトルに基づいて、最大ピーク値を有するピークの周波数幅を計算し、前記計算されたピークの周波数幅に基づいて、前記低域遮断周波数を設定する、
請求項3に記載の異常検出装置。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記計算されたピークの周波数幅が広くなるにつれて、前記低域遮断周波数を高くなるように設定する、
請求項4に記載の異常検出装置。
【請求項6】
電源からモータに供給される電流又は電圧に基づいて、前記モータの異常状態を検出する異常検出方法であって、
信号処理部が、前記電流又は電圧のデータを異なる第1及び第2の時間期間で周波数分析することで、前記第1の時間期間のスペクトルの最大ピーク値に対応する第1の駆動周波数と、前記第2の時間期間のスペクトルの最大ピーク値に対応する第2の駆動周波数とを検索するステップと、
前記信号処理部が、前記第1の駆動周波数を有する第1のスペクトルと、前記第2の駆動周波数を有する
第2のスペクトルとに基づいて、前記各スペクトルの各最大ピーク値を合わせるように一方のスペクトルの周波数軸を補正した後、補正後のスペクトルと未補正のスペクトルとに係る平均化スペクトルを計算するステップと、
前記信号処理部が、前記平均化スペクトルに基づいて、最大ピーク値を有する駆動周波数とは異なる周波数において、所定のしきい値以上の異常ピーク値を検索し、
上記異常ピーク値の有無に応じて、前記モータの異常状態を判断するステップと、
含む異常検出方法。
【請求項7】
前記平均化スペクトルを計算するステップは、前記信号処理部が、
(1)前記第1及び第2の駆動周波数のうち、低い駆動周波数を高い駆動周波数で除算した除算値を、前記高い駆動周波数を有するスペクトルの周波数軸に乗算するように、前記高い駆動周波数を有するスペクトルの周波数軸を補正することで、補正後の高い駆動周波数を有するスペクトルを計算し、前記補正後の高い駆動周波数を有するスペクトルと、前記低い駆動周波数を有するスペクトルとに基づいて、当該2つのスペクトルの各最大ピーク値を合わせ
るように前記平均化スペクトルを計算し、もしくは
(2)前記第1及び第2の駆動周波数のうち、高い駆動周波数を低い駆動周波数で除算した除算値を、前記低い駆動周波数を有するスペクトルの周波数軸に乗算するように、前記低い駆動周波数を有するスペクトルの周波数軸を補正することで、補正後の低い駆動周波数を有するスペクトルを計算し、前記補正後の低い駆動周波数を有するスペクトルと、前記高い駆動周波数を有するスペクトルとに基づいて、当該2つのスペクトルの各最大ピーク値を合わせ
るように前記平均化スペクトルを計算する、
請求項6に記載の異常検出方法。
【請求項8】
前記信号処理部が、第1及び第2の時間期間で周波数分析する前に、前記周波数分析する前記電流又は電圧のデータに対して、所定の低域遮断周波数でハイパスフィルタリングするステップを、
さらに含む請求項6又は7に記載の異常検出方法。
【請求項9】
前記信号処理部が、前記電流又は電圧のデータを、前記第1及び第2の時間期間を含む時間期間で周波数分析し、前記周波数分析結果のスペクトルに基づいて、最大ピーク値を有するピークの周波数幅を計算し、前記計算されたピークの周波数幅に基づいて、前記低域遮断周波数を設定するステップを、
さらに含む請求項8に記載の異常検出方法。
【請求項10】
前記低域遮断周波数を設定するステップは、前記計算されたピークの周波数幅が広くなるにつれて、前記低域遮断周波数を高くなるように設定する、
請求項9に記載の異常検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばモータ等の回転機の異常状態を検出する異常検出装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの状態を診断する監視機器において、センサで取得した例えばモータ電流のデータを周波数分析したときに、常時現れるピーク以外にノイズ成分が見られた場合、それを異常状態と判断し、ノイズ成分を数値化して異常の度合いを示すことが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では、周期的な雑音が存在する場合でも、音声信号に基づいて回転が発する音の周期に相当する周波数を特定可能な異常検出装置が開示されている。この異常検出装置は、所定枚数の羽を有する回転体から発せられる周期的な音及び他の物体から発せられる周期的な音が表された音声信号の包絡線を検波し、包絡線からフレームごとに音声信号の周波数スペクトルを算出し、フレームごとに、そのフレームにおける回転体から発せられる音の周期に相当する周波数の候補を検出する。次いで、フレーム毎に、そのフレームについて検出された候補における周波数スペクトルの成分のパワーに対する、パワーの変動が一定以下となる継続時間を求め、継続時間が最長となる候補を回転体から発せられる音の周期に相当する周波数として特定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の従来技術では、モータの回転速度が一定であることが前提となっており、仮に測定期間中にモータの駆動周波数が変動した場合、常時現れるピークとノイズ成分の切り分けが困難となる。その結果、常時現れるピークをノイズ成分として判断してしまい、診断結果の異常度合いが高くなってしまうという問題点があった。
【0006】
ユーザは、正しい診断結果を得るためには、少なくとも診断のための測定を行っている間はモータの回転速度を一定に保たなければならない。また、診断結果の異常度合いが大きくなった場合、それが実際にモータの異常に起因するものか、モータの回転速度が変化したことによるものかをユーザ側で切り分けなければならない。
【0007】
本発明の目的は以上の問題点を解決し、従来技術に比較して高い精度でモータの異常状態を検出することができる異常検出装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る異常検出装置は、
電源からモータに供給される電流又は電圧に基づいて、前記モータの異常状態を検出する異常検出装置であって、
前記電流又は電圧のデータを異なる第1及び第2の時間期間で周波数分析することで、前記第1の時間期間のスペクトルの最大ピーク値に対応する第1の駆動周波数と、前記第2の時間期間のスペクトルの最大ピーク値に対応する第2の駆動周波数とを検索し、
前記第1の駆動周波数を有する第1のスペクトルと、前記第2の駆動周波数を有する第2のスペクトルとに基づいて、前記各スペクトルの各最大ピーク値を合わせるように一方のスペクトルの周波数軸を補正した後、補正後のスペクトルと未補正のスペクトルとに係る平均化スペクトルを計算し、
前記平均化スペクトルに基づいて、最大ピーク値を有する駆動周波数とは異なる周波数において、所定のしきい値以上の異常ピーク値を検索し、前記異常ピーク値の有無に応じて、前記モータの異常状態を判断する信号処理部を、
備える。
【発明の効果】
【0009】
従って、本発明に係る異常検出装置等によれば、従来技術に比較して高い精度でモータの異常状態を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態1に係るモータの異常検出装置4の構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図1のプロセッサ10により実行される異常検出処理を示すフローチャートである。
【
図3】
図1のプロセッサ10により
図2の異常検出処理を実行したときに計算されるモータ電流の複数のスペクトルの一例を示すグラフである。
【
図4A】実施形態2に係るモータの異常検出装置4のプロセッサ10により実行される異常検出前置処理を示すフローチャートである。
【
図4B】実施形態2に係るモータの異常検出装置4のプロセッサ10により実行される異常検出処理を示すフローチャートである。
【
図5A】
図1のプロセッサ10により
図4Bの異常検出処理を実行したときに計算されるモータ電流のスペクトルの第1の例を示すグラフである。
【
図5B】
図1のプロセッサ10により
図4Bの異常検出処理を実行したときに計算されるモータ電流のスペクトルの第2の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、同一又は同様の構成要素については同一の符号を付している。
【0012】
(実施形態1)
図1は実施形態1に係るモータの異常検出装置4の構成例を示すブロック図である。
図1は異常検出装置4及びその周辺回路を示しており、交流電源1からの交流電力は電流センサ3を介してモータ2に供給される。
図1において、異常検出装置4は、AD変換器11と、周波数分析部12及び異常検出部13を有して「信号処理部」を構成するプロセッサ10と、表示部14とを備えて構成される。ここで、周波数分析部12及び異常検出部13はそれぞれメモリ12m,13mを有する。
【0013】
図1において、電流センサ3は、交流電源1からモータ2に供給される電流の電流値を検出して、電流値を示す検出信号をAD変換器11に出力する。AD変換器11は、入力される検出信号を、電流値を示す電流データにAD変換した後、周波数分析部12に出力する。周波数分析部12は、入力される電流データに対して、所定の時間期間T1及び2分割された時間期間T2,T3にわたって、高速フーリエ変換(FFT)処理を実行する。異常検出部13は、FFT処理後のスペクトルに基づいて、モータの異常状態を判断して、その判断結果を表示部14に表示する。具体的には、周波数分析部12及び異常検出部13からなるプロセッサ10は、
図2の異常検出処理を実行することで、モータの異常状態を判断して、その判断結果を表示部14に表示する。
【0014】
図2は、
図1のプロセッサ10により実行される異常検出処理を示すフローチャートである。また、
図3は、
図1のプロセッサ10により
図2の異常検出処理を実行したときに計算されるモータ電流の複数のスペクトルの一例を示すグラフである。
【0015】
以下、
図2及び
図3を参照して、実施形態1に係る異常検出処理について説明する。
【0016】
図2のステップS1において、電流センサ3により検出された所定時間期間T1のAD変換値の電流データを入力し、ステップS2Aにおいて、周波数分析部12は、所定
時間期間T1の電流値のAD変換値を、メモリ12mを用いてFFT処理を実行してFFT値(パワー)の基準スペクトル100(
図3(a))を計算し、ステップS2Bにおいて、所定
時間期間T1の電流値のAD変換値を、2個の所定の時間期間T2,T3に2分割して各時間期間T2,T3毎に、メモリ12mを用いてFFT処理を実行してFFT値(パワー)のスペクトル101,102(
図3(b)及び
図3(c))を計算する。
【0017】
次いで、ステップS3において、異常検出部13は、各時間期間T2,T3のスペクトルに基づいて、各時間期間T2,T3の最大ピーク値に対応する駆動周波数を検索する。なお、ステップS3~S9の処理は異常検出部13により実行される。ステップS4において、検索された2個の駆動周波数のうち、低い駆動周波数f
low(
図3において、f
low=51Hz)を高い駆動周波数f
high(
図3において、
f
high
=52Hz)で除算した除算値(f
low/f
high)を、高い駆動周波数f
highを有するスペクトル102の周波数軸に乗算するように、高い駆動周波数f
highを有するスペクトル102の周波数軸を補正することで、補正後の高い駆動周波数f
highを有するスペクトル102A(
図3(d))を計算してメモリ13mに格納する。次いで、ステップS5において、補正後の高い駆動周波数f
highを有するスペクトル102Aと、低い駆動周波数f
lowを有するスペクトル101とを、最大ピーク値を合わせ
るように加算して2で除算することで、これら2個のスペクトルの平均化スペクトル103(
図3(e))を計算してメモリ13mに格納する。
【0018】
次いで、ステップS6において、異常検出部13は、平均化スペクトル103に基づいて、最大ピーク値を有する駆動周波数とは異なる周波数において、所定のしきい値以上の異常ピーク104のピーク値を検索する(
図3の(e))。ここで、異常ピーク104は、例えば最大ピークに次いで、例えば2番目又は3番目に強いパワーを有するピーク値を有する。さらに、ステップS7において、異常検出部13は、異常ピークがあるか否かが判断され、YESのときはステップS8に進む一方、NOのときはステップS9に進む。ステップS8では、モータが異常状態であると判断し、判断結果を表示部14に表示して当該異常検出処理を終了する。また、ステップS9において、モータが異常状態ではないと判断し、判断結果を表示部14に表示し、当該異常検出処理を終了する。
【0019】
図2の異常検出処理では、所定の時間期間T1で取得したモータの駆動電流の電流データに対して、時間期間T1を時間期間T2,T3に2分割して周波数分析し、2分割した時間期間T2,T3毎のピーク値の最大値となる駆動周波数を検索する。検索された2つの駆動周波数のうち、低い駆動周波数÷高い駆動周波数を、高い駆動周波数を有する周波数分析結果のスペクトルの周波数軸に乗算し、低い駆動周波数を有する周波数分析結果のスペクトルに加算して平均化する。
【0020】
例えば
図3の実施例では、4秒間のデータで駆動周波数が変動していることで、異常の特徴のピークが鈍る場合、例えば0~2秒の間のFFTと2秒~4秒の周波数分析を実行して、最大ピークの周波数がそれぞれ51Hz、52Hzだとすると、52Hzの周波数軸を51/52倍したスペクトルと、51Hzの周波数分析結果のスペクトルと合算して平均化する。これによって、異常の特徴がシャープに現れることになり、エンベローブFFTよりも感度よく、かつ正確に異常の特徴を捉えることができる。
【0021】
以上説明したように、
図3(e)に示すように、
図2の異常検出処理を行うことで、従来技術では見えていなかったピーク104(
図3(e))を捉えることができる。特に、駆動周波数が変動した場合において、常時出現するピークとノイズ成分とを切り分けすることが容易となり、異常検出処理を従来技術に比較して高精度で行うことができる。
【0022】
(実施形態2)
図4Aは実施形態2に係るモータの異常検出装置4のプロセッサ10により実行される異常検出前置処理を示すフローチャートである。また、
図4Bは実施形態2に係るモータの異常検出装置4のプロセッサ10により実行される異常検出処理を示すフローチャートである。実施形態2に係る異常検出処理が、実施形態1に係る異常検出処理と比較して以下のことが異なる。なお、異常検出装置4は、
図1と同様に構成される。
(1)
図4Aの異常検出前置処理は、
図4Bの異常検出処理よりも前段で実行され、これにより、異常検出部13は、所定のしきい値以上のFFT値において、最大ピーク値を有するピーク幅(周波数幅)を計算し、計算されたピーク幅に基づいて、低域遮断周波数fcを決定してメモリ13mに格納する。
(2)
図4Bの異常検出処理は、
図2の異常検出処理と比較して、ステップS2Cの処理を、ステップS2AとステップS2Bとの間に挿入したことを特徴とする。
以下、相違点について説明する。
【0023】
図4Aの異常検出前置処理のステップS11において、電流センサ3により検出された所定時間期間T1の電流値のAD変換値を入力する。次いで、ステップS12において、周波数分析部12は、所定
時間期間T1の電流値のAD変換値を、メモリ12mを用いてFFT処理を実行してFFT値(パワー)のスペクトルを計算する。さらに、ステップSS13において、所定のしきい値以上のFFT値において、最大ピーク値を有するピークの周波数幅を計算し、ステップS14において、計算されたピークの周波数幅に基づいて、低域遮断周波数fcを設定して、当該異常検出前置処理を終了する。
【0024】
なお、ステップS14では、低域遮断周波数fcは、例えば、計算されたピーク幅(周波数幅)が大きくなるにつれて、低域遮断周波数fcを高くするように、低域遮断周波数fcを設定することで、検出感度を高くする。
【0025】
図4Bの異常検出処理のステップS2Cにおいては、基準スペクトル100のうち、異常検出前置処理において決定された低域遮断周波数fcを有するハイパスフィルタでフィルタリング処理を行って、フィルタリング処理後のスペクトルを基準スペクトル100として、ステップS2B~S9の処理を、
図2と同様に実行する。
【0026】
図5Aは
図1のプロセッサ10により
図4Bの異常検出処理を実行したときに計算されるモータ電流のスペクトルの第1の例を示すグラフである。また、
図5Bは
図1のプロセッサ10により
図4Bの異常検出処理を実行したときに計算されるモータ電流のスペクトルの第2の例を示すグラフである。
【0027】
この実施形態2では、モータの駆動電流の電流データを周波数分析して、モータ異常の特徴を捉える時に、余分なDC成分及びその近傍の低域成分をカットし、すなわちハイパスフィルタリングすることを特徴としている。ここで、モータの駆動周波数が変動すると、DC成分及びその近傍の周波数幅が大きくなることがあり、一部がカットできずに異常の特徴と捉えてしまう。そこで、駆動周波数の変動の程度に合わせて、低域成分をカットする帯域幅を調整し、検出感度を上げる。例えば、
図5Aのスペクト
ル201に示すように、駆動周波数の変動量が±0.5Hz以内のときは、低域遮断周波数fcを1Hzに設定する。また、
図5Bのスペクトル202に示すように、駆動周波数の変動量が±1.0Hz以内のときは、低域遮断周波数fcを2Hzにすることが好ましい。
【0028】
以上説明したように、実施形態2によれば、実施形態1の異常検出処理において、所定の低域遮断周波数fcを用いて、計算されたスペクトルをハイパスフィルタリングすることで、余分なDC成分及び低周波成分をカットする。ここで、低域遮断周波数fcは、計算されたピークの周波数幅が大きくなるにつれて、低域遮断周波数fcを高くするように、低域遮断周波数fcを設定することで、検出感度を高くすることができる。これにより、特に、駆動周波数が変動した場合において、常時出現するピークとノイズ成分とを切り分けすることが容易となり、異常検出処理を従来技術に比較して高精度で行うことができる。
【0029】
(変形例)
以上の実施形態では、交流電源からモータに供給される電流の電流データを周波数分析してモータの異常状態について判断しているが、本発明はこれに限らず、交流電源からモータに供給される電圧の電圧データを周波数分析して、同様にモータの異常状態について判断してもよい。
【0030】
以上の実施形態では、第1及び第2の駆動周波数を含む2つの駆動周波数のうち、低い駆動周波数を高い駆動周波数で除算した除算値を、前記高い駆動周波数を有するスペクトルの周波数軸に乗算するように、前記高い駆動周波数を有するスペクトルの周波数軸を補正することで、補正後の高い駆動周波数を有するスペクトルを計算し、前記補正後の高い駆動周波数を有するスペクトルと、前記低い駆動周波数を有するスペクトルとに基づいて、当該2つのスペクトルの各最大ピーク値を合わせるように前記平均化スペクトルを計算している。しかし、本発明はこれに限らず、前記第1及び第2の駆動周波数のうち、高い駆動周波数を低い駆動周波数で除算した除算値を、前記低い駆動周波数を有するスペクトルの周波数軸に乗算するように、前記低い駆動周波数を有するスペクトルの周波数軸を補正することで、補正後の低い駆動周波数を有するスペクトルを計算し、前記補正後の低い駆動周波数を有するスペクトルと、前記高い駆動周波数を有するスペクトルとに基づいて、当該2つのスペクトルの各最大ピーク値を合わせるように前記平均化スペクトルを計算してもよい。
【0031】
従って、本発明では、前記第1の駆動周波数を有する第1のスペクトルと、前記第2の駆動周波数を有する第2のスペクトルとに基づいて、前記各スペクトルの各最大ピーク値を合わせるように一方のスペクトルの周波数軸を補正した後、補正後のスペクトルと未補正のスペクトルとに係る平均化スペクトルを計算してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上詳述したように、本発明によれば、駆動周波数が変動した場合において、常時出現するピークとノイズ成分とを切り分けすることが容易となり、異常検出処理を従来技術に比較して高精度で行うことができる。
【符号の説明】
【0033】
1 交流電源
2 モータ
3 電流センサ
4 異常検出装置
10 プロセッサ(信号処理部)
11 AD変換器
12 周波数分析部
12m メモリ
13 異常検出部
13m メモリ
14 表示部