(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】タイヤの摩擦特性計測方法および摩擦特性計測装置
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20241203BHJP
G01M 17/02 20060101ALI20241203BHJP
B60C 11/24 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
B60C19/00 H
G01M17/02
B60C11/24 Z
(21)【出願番号】P 2021042147
(22)【出願日】2021-03-16
【審査請求日】2024-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】八木 康
(72)【発明者】
【氏名】多田羅 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】谷 英樹
【審査官】高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-156322(JP,A)
【文献】特開昭50-156985(JP,A)
【文献】登録実用新案第3116093(JP,U)
【文献】特開平11-230867(JP,A)
【文献】特開2012-56365(JP,A)
【文献】特開昭49-12871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
G01M 17/02
G06F 30/00-30/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのスリップ比と摩擦力との関係で規定される摩擦特性を計測するタイヤの摩擦特性計測方法であって、
互いに外径が異なるタイヤが装着された前輪および後輪と、
前記前輪および前記後輪の双方に走行駆動力が伝達されるように形成された駆動力伝達経路と、
前記駆動力伝達経路中に介挿され、締結力の大きさにより前記前輪と前記後輪とのそれぞれへトルク配分を可変するカップリングと、
を有する走行体を用い、
前記走行体の走行中に前記カップリングの前記締結力の大きさを変化させながら、前記前輪および前記後輪のうちの計測対象となる対象車輪を駆動させるための軸トルクと、前記走行体の走行速度と、前記対象車輪の回転周速とを計測する計測ステップと、
前記締結力の大きさごとに、前記走行速度と前記回転周速とからスリップ比を算出するスリップ比算出ステップと、
前記締結力の大きさごとに、前記軸トルクと前記対象車輪の外径とから摩擦力を算出する摩擦力算出ステップと、
前記締結力の大きさごとに、前記スリップ比と前記摩擦力とから前記摩擦特性に係るデータを生成する特性データ生成ステップと、
を備える、
タイヤの摩擦特性計測方法。
【請求項2】
請求項1に記載のタイヤの摩擦特性計測方法において、
前記後輪は、前記前輪よりも外径が大きなタイヤが装着されており、
前記計測ステップは、前記後輪を前記対象車輪として実行される、
タイヤの摩擦特性計測方法。
【請求項3】
請求項1に記載のタイヤの摩擦特性計測方法において、
前記後輪は、前記前輪よりも外径が小さなタイヤが装着されており、
前記計測ステップは、前記後輪を前記対象車輪として実行される、
タイヤの摩擦特性計測方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れかに記載のタイヤの摩擦特性計測方法において、
前記計測ステップは、前記走行速度が略一定の状態で実行される、
タイヤの摩擦特性計測方法。
【請求項5】
タイヤのスリップ比と摩擦力との関係で規定される摩擦特性を計測するタイヤの摩擦特性計測装置であって、
互いに外径が異なるタイヤが装着された前輪および後輪と、
前記前輪および前記後輪の双方に走行駆動力が伝達されるように形成された駆動力伝達経路と、
前記駆動力伝達経路中に介挿され、締結力の大きさにより前記前輪と前記後輪とのそれぞれへのトルク配分を可変するカップリングと、
を有する走行体と、
前記走行体の走行中に前記カップリングの前記締結力の大きさを変化させながら、前記前輪および前記後輪の内の計測対象となる対象車輪を駆動させるための軸トルクを計測する軸トルク計測部と、
走行中における前記走行体の走行速度を計測する走行速度計測部と、
前記走行体が走行中である場合に、前記対象車輪の角速度を計測する車輪角速度計測部と、
前記締結力の大きさごとに、前記対象車輪におけるタイヤの摩擦特性に係るデータを生成するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記角速度に基づいて、前記対象車輪の回転周速を算出する車輪周速算出部と、
前記締結力の大きさごとに、前記走行速度と前記回転周速とからスリップ比を算出するスリップ比算出部と、
前記締結力の大きさごとに、前記軸トルクと前記対象車輪の外径とから摩擦力を算出する摩擦力算出部と、
前記締結力の大きさごとに、前記スリップ比と前記摩擦力とから前記摩擦特性に係るデータを生成する特性データ生成部と、
を有する、
タイヤの摩擦特性計測装置。
【請求項6】
互いに外径が異なるタイヤが装着された前輪および後輪と、
前記前輪および前記後輪の双方に走行駆動力が伝達されるように形成された駆動力伝達経路と、
前記駆動力伝達経路中に介挿され、締結力の大きさにより前記前輪と前記後輪とのそれぞれへのトルク配分を可変するカップリングと、
を有する走行体に対して装着され、
タイヤのスリップ比と摩擦力との関係で規定される摩擦特性を計測するタイヤの摩擦特性計測装置であって、
前記走行体の走行中に前記カップリングの前記締結力の大きさを変化させながら、前記前輪および前記後輪の内の計測対象となる対象車輪を駆動させるための軸トルクを計測する軸トルク計測部と、
走行中における前記走行体の走行速度を計測する走行速度計測部と、
前記走行体が走行中である場合に、前記対象車輪の角速度を計測する車輪角速度計測部と、
前記締結力の大きさごとに、前記対象車輪におけるタイヤの摩擦特性に係るデータを生成するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記角速度に基づいて、前記対象車輪の回転周速を算出する車輪周速算出部と、
前記締結力の大きさごとに、前記走行速度と前記回転周速とからスリップ比を算出するスリップ比算出部と、
前記締結力の大きさごとに、前記軸トルクと前記対象車輪の外径とから摩擦力を算出する摩擦力算出部と、
前記締結力の大きさごとに、前記スリップ比と前記摩擦力とから前記摩擦特性に係るデータを生成する特性データ生成部と、
を有する、
タイヤの摩擦特性計測装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のタイヤの摩擦特性計測装置において、
前記後輪は、前記前輪よりも外径が大きなタイヤが装着されており、
前記コントローラは、前記後輪を前記対象車輪として前記摩擦特性の計測を実行する、
タイヤの摩擦特性計測装置。
【請求項8】
請求項5または請求項6に記載のタイヤの摩擦特性計測装置において、
前記後輪は、前記前輪よりも外径が小さなタイヤが装着されており、
前記コントローラは、前記後輪を前記対象車輪として前記摩擦特性の計測を実行する、
タイヤの摩擦特性計測装置。
【請求項9】
請求項5から請求項8の何れかに記載のタイヤの摩擦特性計測装置において、
前記コントローラは、前記走行速度が略一定の状態で前記摩擦特性の計測を実行する、
タイヤの摩擦特性計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの摩擦特性計測方法および摩擦特性計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の挙動制御技術の開発には、タイヤの摩擦特性を計測することが必要である。タイヤの摩擦特性は、スリップ比とタイヤが発生する摩擦力との関係で評価される。
【0003】
従来技術に係るタイヤの摩擦特性の計測方法としては、計測対象となるタイヤを装着した計測装置をトレーラで牽引して計測する方法や、実験室内でのベンチテスで計測する方法などが知られている。
【0004】
しかしながら、上記のような計測方法では、実際の走行状態と異なる。このため、タイヤの摩擦特性を正確に計測するという観点で改善が求められる。特許文献1では、発電体が組み込まれたタイヤを車両に装着し、車両を走行させることでタイヤの摩擦状態を計測する方法が提案されている。特許文献1に開示の方法を用いれば、実際の車両にタイヤを装着して摩擦状態を計測することができるため、より実際の走行状態に近い状態での計測が可能であるとも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示の計測方法では、内部に発電体やセンサモジュールを設けた計測用に準備したタイヤが用いられているため、実際の車両に装着するタイヤとは異なる。このため、上記特許文献1に開示の方法で計測した結果を実際の車両に適用するのが難しい。また、上記特許文献1に開示の計測方法では、計測しようとするタイヤ種類ごとに発電体やセンサモジュールを組み込んだ計測用タイヤを準備しなければならず、計測のためのコストおよび工数がかかる。
【0007】
本発明は、上記のような問題の解決を図ろうとなされたものであって、計測のためのコストおよび工数を抑制しながら、実際の走行状態により近い状態での計測が可能なタイヤの摩擦特性計測方法および摩擦特性計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るタイヤの摩擦特性計測方法は、タイヤのスリップ比と摩擦力との関係で規定される摩擦特性を計測する方法である。本態様に係るタイヤの摩擦特性計測方法では、前輪および後輪と、駆動力伝達経路と、カップリングとを有する走行体を用いる。前記前輪および前記後輪は、互いに外径が異なるタイヤが装着されている。前記駆動力伝達経路は、前記前輪および前記後輪の双方に走行駆動力が伝達されるように形成された経路である。前記カップリングは、前記駆動力伝達経路中に介挿され、締結力の大きさにより前記前輪と前記後輪とのそれぞれへのトルク配分を可変する。
【0009】
本態様に係るタイヤの摩擦特性計測方法では、計測ステップと、スリップ比算出ステップと、摩擦力算出ステップと、特性データ生成ステップとを実行する。前記計測ステップでは、前記走行体の走行中に前記カップリングの前記締結力の大きさを変化させながら、前記前輪および前記後輪のうちの計測対象となる対象車輪を駆動させるための軸トルクと、前記走行体の走行速度と、前記対象車輪の回転周速を計測する。前記スリップ比算出ステップでは、前記締結力の大きさごとに、前記走行速度と前記回転周速とからスリップ比を算出する。前記摩擦力算出ステップでは、前記締結力の大きさごとに、前記軸トルクと前記対象車輪の外径とから摩擦力を算出する。前記特性データ生成ステップでは、前記締結力の大きさごとに、前記スリップ比と前記摩擦力とから前記摩擦特性に係るデータを生成する。
【0010】
上記態様に係るタイヤの摩擦特性計測方法では、前輪と後輪とで外径が異なるタイヤが装着された走行体を用いて摩擦特性の計測がなされる。走行体は、前輪と後輪との双方に走行駆動力を伝達でき、カップリングの締結力により前輪と後輪とのそれぞれへのトルク配分を可変できる。そして、上記態様に係る計測方法では、締結力の大きさごとに算出されたスリップ比と、同じく締結力の大きさごとに算出された摩擦力とから計測対象である対象車輪のタイヤの摩擦特性に係るデータを生成することができる。
【0011】
よって、上記態様に係る計測方法では、実験室内でのベンチテス(台上試験機を用いた試験)とは異なり、実際の走行路での計測が可能である。そして、実験室内のベンチテストでは、タイヤに対する荷重条件を変化させて摩擦特性を計測することになるが、上記態様に係る計測方法では、タイヤに対する荷重条件を変化させることなく摩擦特性を計測することが可能である。これより、上記態様に係る計測方法では、高精度にタイヤの摩擦特性を計測することができる。
【0012】
また、上記態様に係る計測方法では、上記特許文献1に開示の技術のように、発電体等を組み込んだ計測用タイヤを準備する必要がない。また、上記態様に係る計測方法で用いる対象車輪のタイヤとしては、実際に走行体に装着しようとするタイヤを用いることができるので、より高精度な摩擦特性の計測が可能である。
【0013】
上記態様に係るタイヤの摩擦特性計測方法において、前記後輪は、前記前輪よりも外径が大きなタイヤが装着されており、前記計測ステップは、前記後輪を前記対象車輪として実行されることにしてもよい。
【0014】
上記態様に係るタイヤの摩擦特性計測方法では、前輪よりも外径が大きなタイヤが装着された後輪を対象車輪として摩擦特性の計測を実行する。そして、上記態様に係る計測方法では、前輪よりも大径のタイヤを装着した後輪を対象車輪とするので、対象車輪(後輪)に駆動力を作用させた状態で計測を実行することができる。
【0015】
タイヤを装着した計測装置をトレーラで牽引して計測する従来技術に係る計測方法では、対象車輪に駆動力を作用させた状態での摩擦特性の計測を行うことができなかった。これに対して、上記態様に係る計測方法では、後輪に駆動力を作用させた状態で当該後輪に装着されたタイヤの摩擦特性を計測することができ、実際の走行条件での計測が可能である。
【0016】
上記態様に係るタイヤの摩擦特性計測方法において、前記後輪は、前記前輪よりも外径が小さなタイヤが装着されており、前記計測ステップは、前記後輪を前記対象車輪として実行されることにしてもよい。
【0017】
上記態様に係るタイヤの摩擦特性計測方法では、前輪よりも外径が小さなタイヤが装着された後輪を対象車輪として摩擦特性の計測を実行する。そして、上記態様に係る計測方法では、前輪よりも小径のタイヤを装着した後輪を対象車輪とするので、対象車輪(後輪)に制動力を作用させた状態で計測を実行することができる。よって、上記態様に係る計測方法では、制動時におけるタイヤの摩擦特性も容易に計測することができる。
【0018】
上記態様に係るタイヤの摩擦特性計測方法において、前記計測ステップは、前記走行速度が略一定の状態で実行されることにしてもよい。
【0019】
上記態様に係るタイヤの摩擦特性計測方法では、走行速度を略一定に維持した状態で計測を実行する。このように走行速度を略一定にすることで、計測誤差を小さく抑えることができる。
【0020】
本発明の一態様に係るタイヤの摩擦特性計測装置は、タイヤのスリップ比と摩擦力との関係で規定される摩擦特性を計測する装置である。本態様に係るタイヤの摩擦特性計測装置は、走行体と、軸トルク計測部と、走行速度計測部と、車輪角速度計測部と、コントローラとを備える。前記走行体は、前輪および後輪と、駆動力伝達経路と、カップリングとを有する。
【0021】
前記前輪および前記後輪は、互いに外径が異なるタイヤが装着されている。前記駆動力伝達経路は、前記前輪および前記後輪の双方に走行駆動力が伝達されるように形成された経路である。前記カップリングは、前記駆動力伝達経路中に介挿され、締結力の大きさにより前記前輪と前記後輪とのそれぞれへのトルク配分を可変する。
【0022】
前記軸トルク計測部は、前記走行体の走行中に前記カップリングの前記締結力の大きさを変化させながら、前記前輪および前記後輪の内の計測対象となる対象車輪を駆動させるための軸トルクを計測する。前記走行速度計測部は、走行中における前記走行体の走行速度を計測する。前記車輪角速度計測部は、前記走行体が走行中である場合に、前記対象車輪の角速度を計測する。前記コントローラは、前記締結力の大きさごとに、前記対象車輪におけるタイヤの摩擦特性に係るデータを生成する。
【0023】
前記コントローラは、車輪周速算出部と、スリップ比算出部と、摩擦力算出部と、特性データ生成部とを有する。前記車輪周速算出部は、前記角速度に基づいて、前記対象車輪の回転周速を算出する。前記スリップ比算出部は、前記締結力の大きさごとに、前記走行速度と前記回転周速とからスリップ比を算出する。前記摩擦力算出部は、前記締結力の大きさごとに、前記軸トルクと前記対象車輪の外径とから摩擦力を算出する。前記特性データ生成部は、前記締結力の大きさごとに、前記スリップ比と前記摩擦力とから前記摩擦特性に係るデータを生成する。
【0024】
上記態様に係るタイヤの摩擦特性計測装置では、前輪と後輪とで外径が異なるタイヤが装着された走行体を用いて摩擦特性の計測がなされる。走行体は、前輪と後輪との双方に走行駆動力を伝達でき、カップリングの締結力によりトルク廃部を可変できる。そして、上記態様に係る計測装置では、スリップ比算出部が締結力の大きさごとにスリップ比を算出し、摩擦力算出部が締結力の大きさごとに摩擦力を算出する。そして、上記態様に係る計測装置では、特性データ生成部が、締結力ごとに対応付けられたスリップ比と摩擦力とから計測対象である対象車輪のタイヤの摩擦特性に係るデータを生成することができる。
【0025】
よって、上記態様に係る計測装置では、実験室内でのベンチテス(台上試験機を用いた試験)とは異なり、実際の走行路を走行して摩擦特性を計測することが可能である。そして、実験室内のベンチテストでは、タイヤに対する荷重条件を変化させて摩擦特性を計測することになるが、上記態様に係る計測装置では、タイヤに対する荷重条件を変化させることなく摩擦特性を計測することが可能である。これより、上記態様に係る計測装置では、高精度にタイヤの摩擦特性を計測することができる。
【0026】
また、上記態様に係る計測装置では、上記特許文献1に開示の技術のように、発電体等を組み込んだ計測用タイヤを準備する必要がない。また、上記態様に係る計測装置における対象車輪のタイヤとしては、実際に走行体に装着しようとするタイヤを用いることができるので、より高精度な摩擦特性の計測が可能である。
【0027】
本発明の別態様に係るタイヤの摩擦特性計測装置は、走行体に対して装着され、タイヤのスリップ比と摩擦力との関係で規定される摩擦特性を計測する装置でる。前記走行体は、前輪および後輪と、駆動力伝達経路と、カップリングとを有する。前記前輪および前記後輪は、互いに外径が異なるタイヤが装着されている。前記駆動力伝達経路は、前記前輪および前記後輪の双方に走行駆動力が伝達されるように形成された経路である。前記カップリングは、前記駆動力伝達経路中に介挿され、締結力の大きさにより前記前輪と前記後輪とのそれぞれへのトルク配分を可変する。
【0028】
本態様に係るタイヤの摩擦特性計測装置は、軸トルク計測部と、走行速度計測部と、車輪角速度計測部と、コントローラとを備える。前記軸トルク計測部は、前記走行体の走行中に前記カップリングの前記締結力の大きさを変化させながら、前記前輪および前記後輪の内の計測対象となる対象車輪を駆動させるための軸トルクを計測する。前記走行速度計測部は、走行中における前記走行体の走行速度を計測する。前記車輪角速度計測部は、前記走行体が走行中である場合に、前記対象車輪の角速度を計測する。前記コントローラは、前記締結力の大きさごとに、前記対象車輪におけるタイヤの摩擦特性に係るデータを生成する。
【0029】
前記コントローラは、車輪周速算出部と、スリップ比算出部と、摩擦力算出部と、特性データ生成部とを有する。
【0030】
前記車輪周速算出部は、前記角速度に基づいて、前記対象車輪の回転周速を算出する。前記スリップ比算出部は、前記締結力の大きさごとに、前記走行速度と前記回転周速とからスリップ比を算出する。前記摩擦力算出部は、前記締結力の大きさごとに、前記軸トルクと前記対象車輪の外径とから摩擦力を算出する。前記特性データ生成部は、前記締結力の大きさごとに、前記スリップ比と前記摩擦力とから前記摩擦特性に係るデータを生成する。
【0031】
上記態様に係るタイヤの摩擦特性計測装置では、前輪と後輪とで外径が異なるタイヤが装着された走行体を用いて摩擦特性の計測がなされる。走行体は、前輪と後輪との双方に走行駆動力を伝達でき、カップリングの締結力を可変できる構成を有する。そして、上記態様に係る計測装置では、スリップ比算出部が締結力の大きさごとにスリップ比を算出し、摩擦力算出部が締結力の大きさごとに摩擦力を算出する。そして、上記態様に係る計測装置では、特性データ生成部が、締結力ごとに対応付けられたスリップ比と摩擦力とから計測対象である対象車輪のタイヤの摩擦特性に係るデータを生成することができる。
【0032】
よって、上記態様に係る計測装置では、実験室内でのベンチテス(台上試験機を用いた試験)とは異なり、実際の走行路を走行して摩擦特性を計測することが可能である。そして、実験室内のベンチテストでは、タイヤに対する荷重条件を変化させて摩擦特性を計測することになるが、上記態様に係る計測装置では、タイヤに対する荷重条件を変化させることなく摩擦特性を計測することが可能である。これより、上記態様に係る計測装置では、高精度にタイヤの摩擦特性を計測することができる。
【0033】
また、上記態様に係る計測装置では、上記特許文献1に開示の技術のように、発電体等を組み込んだ計測用タイヤを準備する必要がない。また、上記態様に係る計測装置における対象車輪のタイヤとしては、実際に走行体に装着しようとするタイヤを用いることができるので、より高精度な摩擦特性の計測が可能である。
【0034】
さらに、上記態様に係る計測装置では、当該装置の一部として走行体を備えるのではなく、軸トルク計測部と、走行速度計測部と、車輪角速度計測部と、コントローラとが走行体に対して“後付け”された構成を備える。よって、上記態様に係る計測装置では、実際に対象タイヤを装着しようとする走行体を用いて摩擦特性の計測を行うことができる。また、計測装置の一部として走行体を具備しないので、装置コストの上昇を抑えることも可能である。
【0035】
上記態様に係るタイヤの摩擦特性計測装置において、前記後輪は、前記前輪よりも外径が大きなタイヤが装着されており、前記コントローラは、前記後輪を前記対象車輪として前記摩擦特性の計測を実行することにしてもよい。
【0036】
上記態様に係るタイヤの摩擦特性計測装置では、前輪よりも外径が大きなタイヤが装着された後輪を対象車輪として摩擦特性の計測を実行する。そして、上記態様に係る計測方法では、前輪よりも大径のタイヤが装着された後輪を対象車輪とするので、当該対象車輪(後輪)に駆動力を作用させた状態で計測を実行することができる。
【0037】
タイヤを装着した計測装置をトレーラで牽引して計測する従来技術に係る計測装置では、対象車輪に駆動力を作用させた状態での摩擦特性の計測を行うことができなかった。これに対して、上記態様に係る計測装置では、後輪に駆動力を作用させた状態で当該後輪に装着されたタイヤの摩擦特性を計測することができ、実際の走行条件での計測が可能である。
【0038】
上記態様に係るタイヤの摩擦特性計測装置において、前記後輪は、前記前輪よりも外径が小さなタイヤが装着されており、前記コントローラは、前記後輪を前記対象車輪として前記摩擦特性の計測を実行することにしてもよい。
【0039】
上記態様に係るタイヤの摩擦特性計測装置では、前輪よりも外径が小さなタイヤが装着された後輪を対象車輪として摩擦特性の計測が実行できる。そして、上記態様に係る計測装置では、前輪よりも小径のタイヤが装着された後輪を対象車輪とするので、当該対象車輪(後輪)に制動力を作用させた状態で計測が実行することができる。よって、上記態様に係る計測装置では、制動時におけるタイヤの摩擦特性も容易に計測することができる。
【0040】
上記態様に係るタイヤの摩擦特性計測装置において、前記コントローラは、前記走行速度が略一定の状態で前記摩擦特性の計測を実行することにしてもよい。
【0041】
上記態様に係るタイヤの摩擦特性計測装置では、走行速度を略一定に維持した状態で計測が実行できる。このように走行速度を略一定にすることで、計測誤差を小さく抑えることができる。
【発明の効果】
【0042】
上記の各態様では、計測のためのコストおよび工数を抑制しながら、実際の走行状態により近い状態での計測が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るタイヤの摩擦特性計測装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】摩擦特性計測装置の制御構成を示すブロック図である。
【
図3】コントローラが実行する摩擦特性データの生成方法を示すフローチャートである。
【
図4】締結力設定部が設定する締結力の一例を示すグラフである。
【
図5】摩擦特性計測装置による摩擦特性の計測原理を示す模式図である。
【
図6】摩擦特性計測装置により計測される摩擦特性データの一例を示すグラフである。
【
図7】本発明の第2実施形態に係るタイヤの摩擦特性計測装置概略構成を示す模式図である。
【
図8】変形例1に係る摩擦特性計測方法を示すフローチャートの一部である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明の一例であって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0045】
以下の説明で用いる図において、「Fr」は車両前後方向の前方(進行方向)、「Re」は車両前後方向の後方、「Le」は車幅方向の左方、「Ri」は車幅方向の右方をそれぞれ示す。
【0046】
[第1実施形態]
1.タイヤの摩擦特性計測装置1の概略構成
本発明の第1実施形態に係るタイヤの摩擦特性計測装置1の概略構成について、
図1を用いて説明する。
【0047】
本実施形態に係るタイヤの摩擦特性計測装置(以下では、単に「計測装置」と記載する場合がある。)1は、走行体の一例である四輪駆動車を用いて構成されている。
図1に示すように、計測装置1に用いられている四輪駆動車は、前輪15および後輪20と、走行用の駆動力を発生する原動機11と、トランスミッション12と、動力分割装置(PTO:Power Take-Off)13と、プロペラシャフト16と、電子制御カップリング17と、デファレンシャルギヤ18と、ドライブシャフト14,19とを備える。
【0048】
本実施形態において、後輪20に装着されたタイヤの外径Drは、前輪15に装着されたタイヤの外径Dfよりも大きく設定されている。本実施形態に係る計測装置1が摩擦特性を計測しようとする対象は、後輪20である。即ち、本実施形態に係る計測装置1の対象車輪は、後輪20である。
【0049】
原動機11は、電動モータあるいはエンジンであって、四輪駆動車の走行用の駆動力を発生する。
【0050】
PTO13は、トランスミッション12を介して原動機11から伝達されてきた駆動力を、ドライブシャフト14とプロペラシャフト16へと分割する装置である。四輪駆動車では、トランスミッション12から前輪15および後輪20に至る駆動力伝達経路中にPTO13を設けることにより、原動機11で発生した駆動力が前輪15および後輪20の双方に伝達される。
【0051】
電子制御カップリング17は、駆動力伝達経路中におけるプロペラシャフト16とデファレンシャルギヤ18との間に設けられている。電子制御カップリング17は、後述する締結力設定部28からの指令に基づき、締結力の大きさを任意の値に設定する装置である。四輪駆動車において、前輪15と後輪20とへのトルク配分は、電子制御カップリング17での締結力の大きさにより設定される。
【0052】
図1に示すように、本実施形態に係る計測装置1は、3つの車体速度計測部21~23と、2つの車輪角速度計測部24,25と、上述の締結力設定部28と、コントローラ29とをさらに備える。車体速度計測部21~23、車輪角速度計測部24,25、軸トルク計測部26,27、および締結力設定部28と、コントローラ29と信号接続されている。なお、車体速度計測部、車輪角速度計測部、および軸トルク計測部については、それぞれを1つずつ設けることとしてもよい。
【0053】
車体速度計測部21は、GPS(Global Positioning System)を用いた速度計であって、車体の移動速度を検出する装置である。車体速度計測部22,23は、レーザ光ドップラ式の速度計であって、同じく車体の移動速度を検出装置である。本実施形態では、車体速度計測部22,23は、後輪20が配設された位置の近傍に配置されている。
【0054】
車輪角速度計測部24,25は、例えば、パルサーリングにより電磁ピックアップでパルス計測して回転に変換する装置により実現できる。車輪角速度計測部24,25は、左右の後輪20のそれぞれの角速度を検出できるように設けられている。
【0055】
2.計測装置1の制御構成
計測装置1の制御構成について、
図2を用いて説明する。
【0056】
図2に示すように、車体速度計測部21~23、車輪角速度計測部24,25、軸トルク計測部26,27、および締結力設定部28と、コントローラ29と信号接続されている。そして、締結力設定部28は、電子制御カップリング17に信号接続されている。
【0057】
コントローラ29は、MPU/CPU、ASIC、ROM、RAM等を含むマイクロプロセッサと、メモリを有し構成されている。コントローラ29は、メモリに予め格納されたファームウェア等を実行することにより、締結力設定部28に対して締結力の大きさを制御するための指令を発するとともに、入力される各種情報に基づいて、締結力の大きさごとの、後輪20に装着されたタイヤの摩擦特性に係るデータを生成する。
【0058】
コントローラ29は、車輪周速算出部291と、スリップ比算出部292と、摩擦力算出部293と、データ記憶部294と、特性データ生成部295とを有する。車輪周速度算出部291は、車輪角速度計測部24,25が計測した角速度ω(rad/sec.)に基づいて、後輪20の回転周速Vwを算出する。具体的には、次の関係式を用いて回転周速Vwが算出される。
Vw=(Dr/2)×ω ・・(式1)
スリップ比算出部292は、車体速度計測部21~23が計測した車体速度Vvと上記関係式1により算出された後輪20の回転周速Vwとに基づいて、スリップ比Srを算出する。具体的には、次の関係式を用いてスリップ比Srが算出される。
Sr=(Vw-Vv)/Vw ・・(式2)
【0059】
摩擦力算出部293は、軸トルク計測部26,27が計測した軸トルクTsと後輪20の外径Drとに基づいて、摩擦力Ffを算出する。具体的には、次の関係式を用いて摩擦力Ffが算出される。
Ff=Ts/Dr ・・(式3)
データ記憶部294は、締結力設定部28が設定した電子制御カップリング17の締結力の大きさごとに、算出したスリップ比Srと摩擦力Ffとを対応付けて記憶する。特性データ生成部295は、データ記憶部294に記憶された記憶データを用いて、後輪20におけるタイヤの摩擦特性データを生成する。
【0060】
3.コントローラ29が実行する摩擦特性データの生成方法
コントローラ29が実行する摩擦特性データの生成方法について、
図3および
図4を用いて説明する。なお、
図4は、締結力設定部28が設定する電子制御カップリング17での締結力の一例を示すグラフである。
【0061】
コントローラ29は、車体速度計測部21~23から車体速度Vvを、車輪角速度計測部24,25から後輪20の角速度ωを、軸トルク計測部26,27から後輪20の軸トルクTsの各情報を取得する(ステップS1)。なお、コントローラ29による各情報の取得は、制御中に随時実行される。
【0062】
次に、コントローラ29は、車体速度Vvを経時的に観察し、車両が定速走行状態であるか否かを判断する(ステップS2)。コントローラ29は、車両が定速走行状態となるまで観察を続ける(ステップS2:NO)。なお、車両の定速走行状態とは、車両の走行速度Vvが略一定(例えば、±3km/hの範囲内、好ましくは±1km/hの範囲内)であれば足りる。
【0063】
コントローラ29は、車両が定速走行状態になったと判断した場合には(ステップS2:YES)、電子制御カップリング17の締結力FをF1にする旨の指令を締結力設定部28に出す(ステップS3)。そして、コントローラ29は、スリップ比算出部292でスリップ比Srを算出し(ステップS4)、摩擦力算出部293で摩擦力Ffを算出する(ステップS5)。スリップ比Srおよび摩擦力Ffのそれぞれの算出方法は、上述の通りである。
【0064】
次に、コントローラ29は、締結力Fの大きさごとに算出したスリップ比Srと摩擦力Ffとを対応付けてデータ記憶部294に一時保存する(ステップS6)。そして、コントローラ29は、締結力Fが予め設定された上限値F2以上であるか否かを判断する(ステップS7)。コントローラ29は、締結力FがF2未満であると判断した場合には(ステップS7:NO)、締結力Fを微増させるように締結力設定部28に指令を出し(ステップS8)、ステップS4からステップS8の実行を繰り返す。
【0065】
ここで、ステップS3からステップS8の実行における経過時間と締結力Fとの関係は、一例として
図4に示すような関係とする。
図4に示すように、経過時間T1で締結力FがF1に設定され(ステップS3)、経過時間T2で締結力Fが上限値F2となるように締結力Fが漸増されて行く。
【0066】
図3に戻って、コントローラ29は、締結力Fが上限値F2以上となったと判断した場合には(ステップS7:YES)、データ記憶部294に記憶された複数のデータを読み出して、後輪20のタイヤの摩擦特性に係るデータを生成する(ステップS9)。その後、コントローラ29は、締結力Fを上限値F2から下限値F1まで減少させるように締結力設定部28に指令を出す(ステップS10)。
図4に示すように、上記指令を受けた締結力設定部28は、経過時間T3から経過時間T4にかけて締結力Fを上限値F2から下限値F1へと漸減させて行く。
【0067】
なお、本実施形態では、締結力Fを上限値F2から下限値F1へと漸減させて行く際には、締結力Fの大きさごとのスリップ比Srおよび摩擦力Ffは算出しないこととしているが、データ数の増加を図るためにそれぞれ算出することにしてもよい。
【0068】
4.計測装置1による摩擦特性に係るデータの計測原理
計測装置1による摩擦特性に係るデータの計測原理について、
図5を用いて説明する。
【0069】
図5に示すように、本実施形態に係る計測装置1では、四輪駆動車を用い、前輪15よりも大径のタイヤが装着された後輪20を計測の対象(対象車輪)としている。このため、対象車輪である後輪20に接続されるドライブシャフト19には、軸トルク計測部26,27を配設している。
【0070】
そして、駆動力伝達経路中に介挿された電子制御カップリング17での締結力Fを締結力設定部28による制御により変化させて行く(
図4を参照)。これにより、本実施形態に係る計測装置1では、大径のタイヤを装着した後輪20に駆動力を作用させた状態で当該後輪20のタイヤの摩擦特性に係るデータを計測することができる。
【0071】
5.得られる摩擦特性に係るデータの一例
本実施形態に係る計測装置1を用いた計測により得られる摩擦特性に係るデータの一例について、
図6を用いて説明する。
【0072】
図6に示すように、一例としての摩擦特性に係るデータは、横軸にスリップ比Sr、縦軸に摩擦力Ffをとる場合に、スリップ比がSr1からSr2へと大きくなるのに伴って摩擦力FfもFf1からFf2へを大きくなる。そして、スリップ比SrがSr2を超えてSr3からSr4へと大きくなるのに伴って、摩擦力FfはFf3からFf4へと小さくなる。
【0073】
なお、
図6に示すデータは一例であり、タイヤのトレッドコンパウンドやトレッドパターン、さらには内部構造(例えば、ベルト枚数やベルトのワイヤー角度)などにより種々変化するものである。
【0074】
6.効果
本実施形態に係るタイヤの摩擦特性計測装置1および当該計測装置1を用いた計測方法では、前輪15よりもタイヤの外径が大きいタイヤが装着された後輪20を備える四輪駆動車を用いて摩擦特性の計測がなされる。四輪駆動車は、前輪15と後輪20との双方に走行駆動力を伝達でき、締結力設定部28により電子制御カップリング17の締結力Fが可変できるよう構成されている。そして、計測装置1では、コントローラ29のスリップ比算出部292が締結力Fの大きさごとにスリップ比Srを算出し、摩擦力算出部293が締結力Fの大きさごとにタイヤの摩擦力Ffを算出する。そして、計測装置1では、特性データ生成部295が、締結力Fごとに対応付けられたスリップ比Srと摩擦力Ffとから計測対象である後輪20のタイヤの摩擦特性に係るデータを生成することができる。
【0075】
よって、計測装置1では、実験室内でのベンチテスト(台上試験機を用いた試験)とは異なり、実際の走行路を走行して摩擦特性を計測することが可能である。そして、実験室内のベンチテストでは、タイヤに対する荷重条件を変化させて摩擦特性を計測することになるが、本実施形態に係る計測装置1では、タイヤに対する荷重条件を変化させることなく摩擦特性を計測することが可能である。これより、計測装置1では、高精度にタイヤの摩擦特性を計測することができる。
【0076】
また、本実施形態に係る計測装置1では、上記特許文献1に開示の技術のように、発電体等を組み込んだ計測用タイヤを準備する必要がない。また、計測装置1における後輪20のタイヤとしては、実際の性能開発の対象としてのタイヤを用いることができるので、より高精度な摩擦特性の計測が可能である。
【0077】
また、本実施形態に係る計測装置1において、コントローラ29は、定速走行である場合に摩擦特性の計測を実行する。このため、本実施形態に係る計測装置1では、走行速度を略一定にした状態で計測を実行することにより、計測誤差を小さく抑えることができる。
【0078】
以上のように、本実施形態に係る計測装置1および当該計測装置1を用いた計測方法では、計測のためのコストおよび工数を抑制しながら、実際の走行状態により近い状態での計測が可能である。
【0079】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係るタイヤの摩擦特性計測装置2の構成について、
図7を用いて説明する。なお、以下の説明では、上記第1実施形態との差異部分だけを説明する。
【0080】
図7に示すように、本実施形態に係る摩擦特性計測装置(以下では、単に「計測装置」と記載する場合がある。)2でも、四輪駆動車を用いてタイヤの摩擦特性を計測することができる。本実施形態に係る計測装置2で採用する四輪駆動車では、タイヤの摩擦特性を計測する対象である後輪40におけるタイヤの外径Dr2が前輪35のタイヤの外径Df2よりも小さく設定されている。そして、後輪40に接続されるドライブシャフト19には、軸トルク計測部26,27が取り付けられている。また、原動機11で発生した駆動力を伝達する経路である駆動力伝達経路中には、上記第1実施形態と同様の電子制御カップリング17が介挿されている。
【0081】
本実施形態に係る計測装置2でも、四輪駆動車を定速走行状態とした上で、駆動力伝達経路中に介挿された電子制御カップリング17での締結力Fを締結力設定部28による制御により変化させて行く。これにより、本実施形態に係る計測装置2では、小径のタイヤを装着した後輪40に制動力を作用させた状態で当該後輪40のタイヤの摩擦特性に係るデータを計測することができる。
【0082】
本実施形態に係る計測装置2では、前輪35よりも小径のタイヤを装着した後輪40を対象車輪とし、後輪40に制動力を作用させた状態で摩擦特性に係るデータを計測することとしているが、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0083】
なお、この場合のスリップ比Srは、次式にて算出する。
Sr=(Vv-Vw)/Vv ・・(式4)
[変形例]
変形例に係るタイヤの摩擦特性計測方法について、
図8を用いて説明する。なお、本変形例では、上記第1実施形態または上記第2実施形態と共通の装置構成を採用するので、装置構成についての説明については、省略する。
【0084】
上記第1実施形態に係る計測方法では、締結力Fが上限値F2以上となったと判断した場合には(ステップS7:YES)、摩擦特性に係るデータを生成し(ステップS9)、締結力Fを上限値F2から下限値F1まで減少させるように締結力設定部28に指令を出すこととした(ステップS10)。これに対して、本変形例に係る計測方法では、締結力Fが上限値F2に到達した後に、経過時間T3からT4に向けて締結力Fを上限値F2から下限値F1に向けて減少させながら(
図4を参照。)、摩擦力Ffの計測を継続する。
【0085】
具体的には、
図8に示すように、コントローラ29は、締結力Fが上限値F2に到達した後に、電子制御カップリング17の締結力FをF1まで漸減させながら(ステップS11)、上記同様に、スリップ比Srの算出(ステップS12)および摩擦力Ffの算出(ステップS13)を実行する。
【0086】
次に、コントローラ29は、締結力Fの大きさごとに算出したスリップ比Srと摩擦力Ffとを対応付けてデータ記憶部294に一時保存する(ステップS14)。コントローラ29は、締結力Fが下限値F1になるまで(ステップS15:NO)、ステップS11からステップS15を実行する。コントローラ29は、締結力FがF1に到達したと判断した場合には(ステップS15)、データ記憶部294に記憶された複数のデータを読み出して、後輪20のタイヤの摩擦特性に係るデータを生成する(ステップS16)。
【0087】
本変形例に係る計測方法では、上記第1実施形態または上記第2実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本変形例に係る計測方法では、電子制御カップリング17の締結力Fが上限値F2から下限値F1へと減少する際にも計測を実行するので、計測データ数を多くすることができ、高い計測精度を実現することができる。
【0088】
[その他の変形例]
上記第1実施形態および上記第2実施形態、さらには上記変形例では、四輪駆動車を構成中に含んだ摩擦特性計測装置1,2を採用したが、本発明は、これに限定を受けるものではない。即ち、
図2に示すように、車体速度計測部21~23、車輪角速度計測部24,25、軸トルク計測部26,27、締結力設定部28、およびコントローラ29をユニット化して計測装置主ユニット30とすることも可能である。そして、計測装置主ユニット30を汎用の四輪駆動車に装着するとともに、前輪と後輪とのタイヤ外径に差異を設けることで、上記第1実施形態、上記第2実施形態、あるいは上記変形例と同様に計測を行うことができる。この場合、計測装置主ユニット30を「タイヤの摩擦特性計測装置」に該当する。
【0089】
また、上記第1実施形態および上記第2実施形態では、車体速度が定速状態となってから計測を開始することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、電子制御カップリング17の締結力Fを所定の値に設定し、その上で車体速度が所定範囲内となったときの計測値を取得するようにしてもよい。
【0090】
また、上記第1実施形態および上記第2実施形態、さらには上記変形例では、スリップ比Srと摩擦力Ffとを対応付けたデータをデータ記憶部294に一時保存することとしたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、スリップ比Srと摩擦力Ffとを対応付けたデータを用いて直接摩擦特性データを生成することとしてもよい。
【0091】
また、上記実施形態では、各ステップをコントローラ29が自動的に実行するものとして記載したが、本発明は、操作者の操作により実行されることとしてもよい。
【0092】
また、上記実施形態では、前輪15,35または後輪20,40の何れかを計測対象としたが、それぞれに車輪角速度計測部と軸トルク計測部とを取り付けることにより、前輪および後輪の両方の摩擦特性を同時に計測することも可能である。
【符号の説明】
【0093】
1,2 摩擦特性計測装置
15,35 前輪
17 電子制御カップリング
20,40 後輪
21~23 車体速度計測部
24,25 車輪角速度計測部
26,27 軸トルク計測部
28 締結力設定部
29 コントローラ
30 計測装置主ユニット
291 車輪周速算出部
292 スリップ比算出部
293 摩擦力算出部
295 特性データ生成部