(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】タイヤの摩耗性能評価方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20241203BHJP
G01M 17/02 20060101ALI20241203BHJP
B60C 11/24 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
B60C19/00 H
G01M17/02
B60C11/24 Z
(21)【出願番号】P 2021044882
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2024-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】玉田 良太
(72)【発明者】
【氏名】早苗 隆平
【審査官】高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-200137(JP,A)
【文献】特開2016-134146(JP,A)
【文献】特開2016-8919(JP,A)
【文献】特開2001-1723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
G01M 17/02
G06F 30/00-30/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのトレッド部の摩耗性能を評価するための方法であって、
タイヤが装着された車両を、自由転動、制動、駆動、及び、旋回を含む複数の走行条件で走行させて、前記複数の走行条件の発生頻度をそれぞれ取得するステップと、
前記複数の走行条件ごとに、前記トレッド部の摩耗エネルギーを計算するステップと、
前記複数の走行条件ごとに、前記摩耗エネルギーを前記発生頻度で重み付けをして、前記複数の走行条件の全てを考慮したトータル摩耗エネルギーを求めるステップと、
前記複数の走行条件から選択される一部の走行条件を決定するステップと、
前記一部の走行条件に対応する前記摩耗エネルギーと、前記トータル摩耗エネルギーとに基づく重回帰分析により、前記一部の走行条件の発生頻度を決定するステップとを含む、
タイヤの摩耗性能評価方法。
【請求項2】
前記一部の走行条件の個数は、前記複数の走行条件の個数の50%以下である、請求項1に記載のタイヤの摩耗性能評価方法。
【請求項3】
前記一部の走行条件ごとに、評価対象のタイヤの摩耗エネルギーを、前記発生頻度で重み付けをして、前記評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーを求めるステップと、
前記評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーに基づいて、摩耗性能を評価するステップとを含む、請求項1又は2に記載のタイヤの摩耗性能評価方法。
【請求項4】
前記一部の走行条件は、前記駆動の走行条件を含み、
前記評価するステップは、前記車両の駆動輪に装着されるタイヤの摩耗性能を評価する、請求項3に記載のタイヤの摩耗性能評価方法。
【請求項5】
前記一部の走行条件は、前記自由転動及び前記制動の少なくとも一方の走行条件を含み、
前記評価するステップは、前記車両の従動輪に装着されるタイヤの摩耗性能を評価する、請求項3又は4に記載のタイヤの摩耗性能評価方法。
【請求項6】
タイヤのトレッド部の摩耗性能を評価する演算処理装置を有する装置であって、
前記演算処理装置は、
タイヤが装着された車両を、自由転動、制動、駆動、及び、旋回を含む複数の走行条件で走行させて、前記複数の走行条件の発生頻度をそれぞれ取得する発生頻度取得部と、
前記複数の走行条件ごとに、前記トレッド部の摩耗エネルギーを計算する摩耗エネルギー計算部と、
前記複数の走行条件ごとに、前記摩耗エネルギーを前記発生頻度で重み付けをして、前記複数の走行条件の全てを考慮したトータル摩耗エネルギーを求める第1トータル摩耗エネルギー計算部と、
前記複数の走行条件から選択される一部の走行条件を決定する走行条件決定部と、
前記一部の走行条件に対応する前記摩耗エネルギーと、前記トータル摩耗エネルギーとに基づく重回帰分析により、前記一部の走行条件の発生頻度を決定する発生頻度決定部とを含む、
タイヤの摩耗性能評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの摩耗性能評価方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、タイヤの摩耗性能を評価するための方法が記載されている。この方法では、先ず、車両の加速度等を考慮した複数の使用条件と、その頻度との関係を示す使用条件頻度分布が取得される。そして、使用条件頻度分布と、評価対象のタイヤの摩耗エネルギーとに基づいて、タイヤの摩耗量が予測されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の方法では、タイヤの摩耗量を予測するために、複数の使用条件ごとに、摩耗エネルギーを頻度で重み付けしている。このため、タイヤの摩耗性能の評価には、多くの時間を要するという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、タイヤの摩耗性能の評価に要する時間を短縮しつつ、摩耗性能の評価精度を維持することが可能な方法及び装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、タイヤのトレッド部の摩耗性能を評価するための方法であって、タイヤが装着された車両を、自由転動、制動、駆動、及び、旋回を含む複数の走行条件で走行させて、前記複数の走行条件の発生頻度をそれぞれ取得するステップと、前記複数の走行条件ごとに、前記トレッド部の摩耗エネルギーを計算するステップと、前記複数の走行条件ごとに、前記摩耗エネルギーを前記発生頻度で重み付けをして、前記複数の走行条件の全てを考慮したトータル摩耗エネルギーを求めるステップと、前記複数の走行条件から選択される一部の走行条件を決定するステップと、前記一部の走行条件に対応する前記摩耗エネルギーと、前記トータル摩耗エネルギーとに基づく重回帰分析により、前記一部の走行条件の発生頻度を決定するステップとを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る前記タイヤの摩耗性能評価方法において、前記一部の走行条件の個数は、前記複数の走行条件の個数の50%以下であってもよい。
【0008】
本発明に係る前記タイヤの摩耗性能評価方法において、前記一部の走行条件ごとに、評価対象のタイヤの摩耗エネルギーを、前記発生頻度で重み付けをして、前記評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーを求めるステップと、前記評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーに基づいて、摩耗性能を評価するステップとが含まれてもよい。
【0009】
本発明に係る前記タイヤの摩耗性能評価方法において、前記一部の走行条件は、前記駆動の走行条件を含み、前記評価するステップは、前記車両の駆動輪に装着されるタイヤの摩耗性能を評価してもよい。
【0010】
本発明に係る前記タイヤの摩耗性能評価方法において、前記一部の走行条件は、前記自由転動及び前記制動の少なくとも一方の走行条件を含み、前記評価するステップは、前記車両の従動輪に装着されるタイヤの摩耗性能を評価してもよい。
【0011】
本発明は、タイヤのトレッド部の摩耗性能を評価する演算処理装置を有する装置であって、前記演算処理装置は、タイヤが装着された車両を、自由転動、制動、駆動、及び、旋回を含む複数の走行条件で走行させて、前記複数の走行条件の発生頻度をそれぞれ取得する発生頻度取得部と、前記複数の走行条件ごとに、前記トレッド部の摩耗エネルギーを計算する摩耗エネルギー計算部と、前記複数の走行条件ごとに、前記摩耗エネルギーを前記発生頻度で重み付けをして、前記複数の走行条件の全てを考慮したトータル摩耗エネルギーを求める第1トータル摩耗エネルギー計算部と、前記複数の走行条件から選択される一部の走行条件を決定する走行条件決定部と、前記一部の走行条件に対応する前記摩耗エネルギーと、前記トータル摩耗エネルギーとに基づく重回帰分析により、前記一部の走行条件の発生頻度を決定する発生頻度決定部とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のタイヤの摩耗性能評価方法は、上記のステップを採用することにより、タイヤの摩耗性能の評価に要する時間を短縮しつつ、摩耗性能の評価精度を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】タイヤの摩耗性能評価方法が実行されるコンピュータ(タイヤの摩耗性能評価装置)の一例を示すブロック図である。
【
図2】タイヤの摩耗性能評価方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図3】発生頻度取得ステップの処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図4】複数の走行条件の発生頻度の一例を示すグラフである。
【
図5】タイヤモデル及び路面モデルの一例を示す斜視図である。
【
図6】発生頻度決定ステップの処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図7】一部の走行条件の発生頻度の一例を示すグラフである。
【
図8】評価摩耗エネルギー取得ステップの処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーを示す概念図である。
【
図10】実施例のトータル摩耗エネルギーと、比較例のトータル摩耗エネルギーとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。なお、各図面は、発明の内容の理解を高めるためのものであり、誇張された表示が含まれる他、各図面間において、縮尺等は厳密に一致していない点が予め指摘される。
【0015】
[タイヤの摩耗性能評価方法(第1実施形態)]
本実施形態のタイヤの摩耗性能評価方法(以下、単に「評価方法」ということがある。)では、タイヤのトレッド部の摩耗性能が評価される。本実施形態では、コンピュータを用いて、評価方法が実行される。
図1は、タイヤの摩耗性能評価方法が実行されるコンピュータ(タイヤの摩耗性能評価装置)の一例を示すブロック図である。
【0016】
[タイヤの摩耗性能評価装置]
本実施形態のコンピュータ1は、タイヤの摩耗性能評価装置(以下、単に「評価装置」ということがある。)1Aとして構成されている。本実施形態のコンピュータ1は、入力デバイスとしての入力部2と、出力デバイスとしての出力部3と、タイヤの物理量等を計算する演算処理装置4とを含んで構成されている。
【0017】
入力部2には、例えば、キーボード又はマウス等が用いられる。出力部3には、例えば、ディスプレイ装置又はプリンタ等が用いられる。演算処理装置4は、各種の演算を行う演算部(CPU)4A、データやプログラム等が記憶される記憶部4B、及び、作業用メモリ4Cを含んで構成されている。
【0018】
記憶部4Bは、例えば、磁気ディスク、光ディスク又はSSD等からなる不揮発性の情報記憶装置である。記憶部4Bには、データ部5、及び、プログラム部6が設けられている。
【0019】
データ部5は、評価方法の実行に必要な情報や、評価方法の実行によって得られた計算結果等を記憶するためのものである。本実施形態のデータ部5には、車両の走行履歴が記憶される走行履歴入力部5Aと、タイヤモデル及び路面モデルが記憶されるモデル入力部5Bとが含まれる。データ部5には、走行条件の発生頻度を入力するための発生頻度入力部5Cと、摩耗エネルギーを入力するための摩耗エネルギー入力部5Dとが含まれる。データ部5には、トータル摩耗エネルギーを入力するためのトータル摩耗エネルギー入力部5Eと、一部の走行条件を入力するための一部走行条件入力部5Fとが含まれる。
【0020】
プログラム部6は、演算部4Aによって実行されるプログラムである。本実施形態のプログラム部6には、発生頻度取得部6Aと、摩耗エネルギー計算部6Bと、第1トータル摩耗エネルギー計算部6Cと、走行条件決定部6Dと、発生頻度決定部6Eと、第2トータル摩耗エネルギー計算部6Fと、評価部6Gとが含まれている。これらのプログラムの機能は、評価方法の後述の各ステップにおいて説明される。
【0021】
[複数の走行条件の発生頻度を取得(発生頻度取得ステップS1)]
図2は、タイヤの摩耗性能評価方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態の評価方法では、先ず、タイヤが装着された車両について、複数の走行条件(自由転動、制動、駆動、及び、旋回を含む)の発生頻度がそれぞれ取得される(発生頻度取得ステップS1)。
【0022】
本実施形態の発生頻度取得ステップS1では、例えば、種々のタイヤが使用される仕向地での車両について、走行条件の発生頻度が取得される。このため、発生頻度取得ステップS1において、車両に装着されるタイヤは、摩耗性能が評価されるタイヤに限定されない。また、車両としては、例えば乗用車である場合が例示されるが、特に限定されるわけではなく、例えば、トラック又はバス等であってもよい。
図3は、発生頻度取得ステップS1の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0023】
[走行履歴の取得(ステップS11)]
本実施形態の発生頻度取得ステップS1では、先ず、タイヤが装着された車両を、複数の走行条件で走行させたときの走行履歴が取得される(ステップS11)。複数の走行条件には、自由転動の走行条件、制動の走行条件、駆動の走行条件、及び、旋回の走行条件が含まれる。旋回の走行条件には、左旋回の走行条件、及び、右旋回の走行条件が含まれる。
【0024】
本実施形態の走行履歴(図示省略)は、例えば、高速道路、山岳路、及び、一般道を含む経路に、車両を走行させることによって取得されている。これらの経路では、自由転動、制動、駆動、及び、旋回を含む複数の走行条件で、車両を走行させることができる。
【0025】
本実施形態の走行履歴には、複数の走行条件で車両を走行させたときの複数の加速度が含まれる。これらの複数の加速度は、例えば、車両に装着される加速度計を用いて、予め定められた間隔(例えば、走行距離:5~15mの間隔)で測定される。
【0026】
加速度には、例えば、車両の前後方向の加速度や、車両の左右方向の加速度等が含まれている。これらの加速度に基づいて、加速度が測定されたときの複数の走行条件(自由転動、制動、駆動、及び、旋回の走行条件)が、それぞれ特定されうる。走行履歴(加速度の時系列データ)は、走行履歴入力部5A(
図1に示す)に入力される。
【0027】
[複数の走行条件の発生頻度を取得]
次に、本実施形態の発生頻度取得ステップS1では、車両の走行履歴(図示省略)を用いて、複数の走行条件の発生頻度がそれぞれ取得される(ステップS12)。本実施形態のステップS12では、
図1に示したコンピュータ1(評価装置1A)を用いて、複数の走行条件の発生頻度が取得される。
【0028】
本実施形態のステップS12では、
図1に示した走行履歴入力部5Aに予め入力されている走行履歴、及び、プログラム部6の発生頻度取得部6Aが、作業用メモリ4Cに入力される。発生頻度取得部6Aは、複数の走行条件の発生頻度をそれぞれ取得するためのものである。そして、発生頻度取得部6Aが、演算部4Aによって実行される。
図4は、複数の走行条件の発生頻度の一例を示すグラフである。
図4において、頻度の大きさは、円弧の大きさで示されており、円弧が大きいほど、頻度が大きいことを示している。
【0029】
本実施形態のステップS12では、先ず、走行履歴に含まれる複数の加速度(前後方向の加速度や、左右方向の加速度等)から、自由転動の加速度、制動の各加速度、駆動の各加速度、及び、旋回(左旋回及び右旋回)の各加速度がそれぞれ特定される。そして、ステップS12では、これらの加速度の発生頻度(測定頻度)が集計される。これにより、ステップS12では、複数の走行条件(本例では、自由転動の加速度、制動の各加速度、駆動の各加速度、及び、旋回の各加速度)の発生頻度がそれぞれ取得される。
【0030】
自由転動の加速度は、前後方向及び左右方向の加速度がともに0Gである。本実施形態の制動の各加速度には、例えば、後方向の加速度β1G及びβ2Gが含まれる。本実施形態の駆動の各加速度には、例えば、前方向の加速度α1G及びα2Gが含まれる。なお、α1、α2、β1及びβ2は、いずれも加速度を示す数値であり、仕向地での車両に応じて異なる。
【0031】
本実施形態の左旋回の各加速度には、例えば、左方向の加速度δ1G及びδ2Gが含まれる。本実施形態の右旋回の各加速度には、例えば、右方向の加速度γ1G及びγ2Gが含まれる。なお、δ1、δ2、γ1及びγ2は、いずれも加速度を示す数値であり、仕向地での車両に応じて異なる。また、複数の走行条件は、このような態様に限定されるわけではなく、例えば、制動の加速度、駆動の加速度、及び、旋回(左旋回及び右旋回)の加速度が、それぞれ1個ずつであってもよいし、より多くの個数の加速度が含まれてもよい。
【0032】
本実施形態では、複数の走行条件(例えば、前方向の加速度及び左方向の加速度の双方)が同時に発生した場合、それらの走行条件(例えば、駆動及び左旋回の各加速度)の頻度がそれぞれ加算(集計)される。また、本実施形態では、予め定められた手順に基づいて、各加速度が端数処理(丸め処理)されてもよい。これにより、本実施形態では、複数の走行条件の個数が必要以上に多くなるのを抑制しつつ、測定された加速度を、上述の加速度に分類することができる。走行条件の発生頻度は、発生頻度入力部5C(
図1に示す)に入力される。
【0033】
[トレッド部の摩耗エネルギーを計算(ステップS2)]
次に、
図2に示されるように、本実施形態の評価方法では、複数の走行条件ごとに、トレッド部の摩耗エネルギーが計算される(ステップS2)。本実施形態の摩耗エネルギーは、
図1に示したコンピュータ1(評価装置1A)を用いたタイヤのシミュレーションによって計算される。なお、摩耗エネルギーは、例えば、発生頻度取得ステップS1で車両に装着されたタイヤを用いた実験等に基づいて取得されてもよい。
【0034】
本実施形態のステップS2では、先ず、モデル入力部5Bに記憶されているタイヤモデル及び路面モデルが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、ステップS2では、摩耗エネルギー計算部6Bが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。摩耗エネルギー計算部6Bは、複数の走行条件ごとに、トレッド部の摩耗エネルギーを計算するためのものである。そして、摩耗エネルギー計算部6Bが、演算部4Aによって実行される。
図5は、タイヤモデル11及び路面モデル12の一例を示す斜視図である。
【0035】
タイヤモデル11及び路面モデル12は、公知の手順(例えば、上記特許文献1に記載の手順)で作成されうる。なお、タイヤモデル11には、発生頻度取得ステップS1で車両に装着されたタイヤ(図示省略)をモデリングしたものが用いられるのが望ましい。
【0036】
本実施形態のステップS2では、タイヤモデル11を路面モデル12に転動させて、トレッド部13の摩耗エネルギーが計算される。タイヤモデル11の転動計算や、摩耗エネルギーの計算は、公知の手順(例えば、上記特許文献1に記載の手順)に基づいて行われる。
【0037】
本実施形態のステップS2では、発生頻度取得ステップS1において発生頻度が取得された複数の走行条件(本例では、自由転動の加速度、制動の各加速度、駆動の各加速度、及び、旋回の各加速度)ごとに、摩耗エネルギーが計算される。これらの摩耗エネルギーは、各走行条件に対応するトルクや横力が、転動計算中のタイヤモデル11に設定されることによって計算されうる。
【0038】
本実施形態のステップS2では、各走行条件において、タイヤが上記間隔(単位距離)を転動したときの摩耗エネルギーがそれぞれ計算される。なお、摩耗エネルギーは、タイヤモデル11のトレッド部13を構成する要素14の任意の節点(図示省略)において求められてもよいし、トレッド部13の全ての節点において求められてもよい。摩耗エネルギーは、摩耗エネルギー入力部5D(
図1に示す)に入力される。
【0039】
[トータル摩耗エネルギーを取得(ステップS3)]
次に、本実施形態の評価方法では、トータル摩耗エネルギーが求められる(ステップS3)。トータル摩耗エネルギーは、複数の走行条件(本例では、自由転動の加速度、制動の各加速度、駆動の各加速度、及び、旋回の各加速度)の全てが考慮されたものである。本実施形態では、複数の走行条件ごとに、摩耗エネルギーを発生頻度で重み付けをして、トータル摩耗エネルギーが求められる。本実施形態において、トータル摩耗エネルギーの取得には、
図1に示したコンピュータ1(評価装置1A)が用いられる。
【0040】
本実施形態のステップS3では、先ず、発生頻度入力部5Cに入力されている走行条件の発生頻度(
図4に示す)、及び、摩耗エネルギー入力部5Dに入力されている摩耗エネルギーが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、プログラム部6の第1トータル摩耗エネルギー計算部6Cが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。第1トータル摩耗エネルギー計算部6Cは、複数の走行条件の全てを考慮したトータル摩耗エネルギーを求めるためのものである。そして、第1トータル摩耗エネルギー計算部6Cが、演算部4Aによって実行される。
【0041】
本実施形態のステップS3では、複数の走行条件(本例では、
図4に示した自由転動の加速度、制動の各加速度、駆動の各加速度、及び、旋回の各加速度)ごとに、摩耗エネルギーが、発生頻度で重み付けされる(乗じられる)。そして、全ての走行条件について、発生頻度で重み付けされた摩耗エネルギーが足し合わされる。これにより、複数の走行条件の全てが考慮されたトータル摩耗エネルギーが取得される。
【0042】
本実施形態のトータル摩耗エネルギーは、上記の経路での走行を開始してから走行を終了するまでの間(走行履歴が取得された間)に、タイヤのトレッド部(図示省略)に発生した摩耗エネルギーの合計値として扱われる。このようなトータル摩耗エネルギーは、複数の走行条件の全てが考慮されているため、上記の経路を走行したタイヤのトレッド部に生じる摩耗エネルギーを、高い精度で求めることができる。トータル摩耗エネルギーは、トータル摩耗エネルギー入力部5E(
図1に示す)に入力される。
【0043】
[一部の走行条件を決定(ステップS4)]
次に、本実施形態の評価方法では、複数の走行条件(本例では、自由転動の加速度、制動の各加速度、駆動の各加速度、及び、旋回の各加速度)から選択される一部の走行条件が決定される(ステップS4)。本実施形態のステップS4では、
図1に示したコンピュータ1(評価装置1A)を用いて、一部の走行条件が決定されているが、オペレータによって決定されてもよい。
【0044】
本実施形態のステップS4では、先ず、発生頻度入力部5Cに入力されている走行条件の発生頻度(
図4に示す)が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、プログラム部6の走行条件決定部6Dが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。走行条件決定部6Dは、複数の走行条件から選択される一部の走行条件を決定するためのものである。そして、走行条件決定部6Dが、演算部4Aによって実行される。
【0045】
一部の走行条件は、
図4に示した複数の走行条件(本例では、自由転動の加速度、制動の各加速度、駆動の各加速度、及び、旋回の各加速度)から適宜選択されうる。
【0046】
ところで、車両の駆動輪に装着されるタイヤの摩耗は、複数の走行条件のうち、駆動の走行条件の影響が相対的に大きくなる傾向がある。このため、本実施形態の評価方法において、例えば、車両の駆動輪に装着されるタイヤの摩耗性能が評価される場合には、一部の走行条件に、駆動の走行条件が含まれるのが望ましい。
【0047】
ところで、駆動の走行条件は、複数の駆動の加速度から1個選択されてもよい。本実施形態では、
図4に示した複数の駆動の加速度のうち、最も発生頻度が多い加速度(例えば、前方向の加速度α1G)が、一部の走行条件として決定される。これにより、本実施形態では、一部の走行条件の個数を少なくできるため、後述の評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーを求めるステップ(評価摩耗エネルギー取得ステップS6)において、計算時間を短縮することができる。
【0048】
また、駆動輪のタイヤの摩耗は、
図4に示した複数の走行条件のうち、旋回(左旋回及び右旋回)の走行条件の影響も相対的に大きくなる傾向がある。このため、本実施形態の評価方法において、例えば、車両の駆動輪に装着されるタイヤの摩耗性能が評価される場合には、一部の走行条件に、旋回の走行条件がさらに含まれてもよい。
【0049】
左旋回の走行条件は、
図4に示した複数の左旋回の加速度から1個選択されてもよい。本実施形態では、複数の左旋回の加速度のうち、最も発生頻度が多い加速度(例えば、左方向の加速度δ2G)が、一部の走行条件として決定される。
【0050】
同様に、右旋回の走行条件も、
図4に示した複数の右旋回の加速度から1個選択されてもよい。本実施形態では、複数の右旋回の加速度のうち最も発生頻度が多い加速度(例えば、右方向の加速度γ2G)が、一部の走行条件として決定される。
【0051】
このように、本実施形態の一部の走行条件は、左旋回及び右旋回の複数の加速度から、それぞれ1個ずつ選択される。したがって、本実施形態では、一部の走行条件の個数を少なくできるため、後述の評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーを求めるステップ(評価摩耗エネルギー取得ステップS6)において、計算時間を短縮することができる。
【0052】
一方、車両の従動輪に装着されるタイヤの摩耗は、
図4に示した複数の走行条件のうち、自由転動及び制動の走行条件の影響が相対的に大きくなる。このため、本実施形態の評価方法において、例えば、車両の従動輪に装着されるタイヤの摩耗性能が評価される場合には、一部の走行条件に、自由転動及び制動の走行条件が含まれるのが望ましい。なお、制動の走行条件は、複数の制動の加速度から1個(例えば、複数の制動の加速度のうち、最も発生頻度が多い加速度)が選択されてもよい。
【0053】
本実施形態の評価方法では、車両の駆動輪に装着されるタイヤの摩耗性能が評価される。このため、本実施形態の一部の走行条件には、上述の手順に基づいて、
図4に示した複数の走行条件のうち、駆動及び旋回(左旋回及び右旋回)の走行条件が決定される。一部の走行条件は、一部走行条件入力部5Fに記憶される。
【0054】
[一部の走行条件の発生頻度を決定(発生頻度決定ステップS5)]
次に、本実施形態の評価方法では、一部の走行条件に対応する摩耗エネルギーと、トータル摩耗エネルギーとに基づく重回帰分析により、一部の走行条件の発生頻度が決定される(発生頻度決定ステップS5)。本実施形態の発生頻度決定ステップS5では、
図1に示したコンピュータ1(評価装置1A)を用いて、一部の走行条件の発生頻度が決定される。
【0055】
本実施形態の発生頻度決定ステップS5では、先ず、摩耗エネルギー入力部5Dに入力されている摩耗エネルギーと、一部走行条件入力部5Fに入力されている一部の走行条件とが作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、発生頻度決定ステップS5では、トータル摩耗エネルギー入力部5Eに入力されているトータル摩耗エネルギーと、プログラム部6の発生頻度決定部6Eとが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。発生頻度決定部6Eは、一部の走行条件の発生頻度を決定するためのものである。そして、発生頻度決定部6Eが、演算部4Aによって実行される。
図6は、発生頻度決定ステップS5の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0056】
[一部の走行条件の摩耗エネルギーを特定(ステップS51)]
本実施形態の発生頻度決定ステップS5では、先ず、一部の走行条件に対応する摩耗エネルギーが特定される(ステップS51)。ステップS51では、上述のステップS2において、複数の走行条件(本例では、自由転動の加速度、制動の各加速度、駆動の各加速度、及び、旋回の各加速度)ごとに取得された摩耗エネルギーのうち、一部の走行条件に対応する摩耗エネルギーが選択される。
【0057】
本実施形態の一部の走行条件には、
図4に示した複数の走行条件のうち、駆動の走行条件(前方向の加速度α1G)、左旋回の走行条件(左方向の加速度δ2G)、及び、右旋回の走行条件(右方向の加速度γ2G)が含まれている。したがって、ステップS51では、上述のステップS2で取得された複数の走行条件の摩耗エネルギーのうち、これらの一部の走行条件に対応する摩耗エネルギーが特定される。
【0058】
[重回帰分析を実施(ステップS52)]
次に、本実施形態の発生頻度決定ステップS5では、一部の走行条件に対応する摩耗エネルギーと、トータル摩耗エネルギーとに基づく重回帰分析が行われる(ステップS52)。
【0059】
トータル摩耗エネルギー、一部の走行条件に対応する摩耗エネルギー、及び、一部の走行条件の発生頻度との関係は、例えば、下記式(1)で定義されうる。
E=E1×F1+E2×F2+E3×F3 … (1)
ここで、各変数は、次のとおりである。
E:トータル摩耗エネルギー
E1:駆動の走行条件の摩耗エネルギー
E2:左旋回の走行条件の摩耗エネルギー
E3:右旋回の走行条件の摩耗エネルギー
F1:駆動の走行条件の発生頻度
F2:左旋回の走行条件の発生頻度
F3:右旋回の走行条件の発生頻度
【0060】
上記式(1)では、各走行条件において、摩耗エネルギーE1~E3が、発生頻度F1~F3で重み付けされた値を足し合わせた摩耗エネルギーの値と、複数の走行条件の全てを考慮したトータル摩耗エネルギーEとが等しいことを示している。
【0061】
トータル摩耗エネルギーEには、ステップS3で求められたトータル摩耗エネルギーが代入される。各走行条件の摩耗エネルギーE1~E3には、ステップS51で特定された摩耗エネルギーが代入される。なお、発生頻度F1~F3は、重回帰分析によってそれぞれ決定されるものであり、発生頻度取得ステップS1で取得された発生頻度とは異なる(独立した)ものである。
【0062】
本実施形態のステップS52では、上記式(1)を用いて、一部の走行条件に対応する摩耗エネルギーE1~E3と、トータル摩耗エネルギーEとに基づく重回帰分析により、一部の走行条件の発生頻度F1~F3が決定される。重回帰分析には、例えば、日科技研製のStatWorks等が用いられる。
図7は、一部の走行条件の発生頻度の一例を示すグラフである。
図7において、頻度の大きさは、円弧の大きさで示されており、円弧が大きいほど、頻度が大きいことを示している。
【0063】
本実施形態のステップS52では、
図4に示した複数の走行条件(自由転動、制動、駆動、旋回の各加速度)の発生頻度を、
図7に示した一部の走行条件の発生頻度F1~F3に集約することができる。一部の走行条件の発生頻度F1~F3は、発生頻度入力部5C(
図1に示す)に入力される。
【0064】
[評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーを取得(評価摩耗エネルギー取得ステップS6)]
次に、
図2に示されるように、本実施形態の評価方法では、評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーが求められる(評価摩耗エネルギー取得ステップS6)。本実施形態において、評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーは、
図1に示したコンピュータ1(評価装置1A)を用いたタイヤのシミュレーションによって計算される。
【0065】
本実施形態の評価摩耗エネルギー取得ステップS6では、先ず、モデル入力部5Bに記憶されている評価対象のタイヤをモデリングしたタイヤモデル(図示省略)、及び、路面モデル12(
図5に示す)が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、評価摩耗エネルギー取得ステップS6では、発生頻度入力部5Cに入力されている一部の走行条件の発生頻度F1~F3(
図7に示す)、及び、第2トータル摩耗エネルギー計算部6Fが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。第2トータル摩耗エネルギー計算部6Fは、評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーを求めるためのものである。そして、第2トータル摩耗エネルギー計算部6Fが、演算部4Aによって実行される。
図8は、評価摩耗エネルギー取得ステップS6の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0066】
[評価対象のタイヤの摩耗エネルギーを取得(ステップS61)]
本実施形態の評価摩耗エネルギー取得ステップS6では、先ず、一部の走行条件ごとに、評価対象のタイヤの摩耗エネルギーが取得される(ステップS61)。
図7に示されるように、本実施形態の一部の走行条件には、駆動の走行条件(駆動(前方向)の加速度α1G)、左旋回の走行条件(左旋回(左方向)の加速度δ2G)、及び、右旋回の走行条件(右旋回(右方向)の加速度γ2G)が含まれている。
【0067】
本実施形態では、公知の手順(例えば、上記特許文献1に記載の手順)に基づいて、評価対象のタイヤをモデリングしたタイヤモデル(図示省略)、及び、路面モデル12(
図5に示す)が作成される。ステップS61において、タイヤのモデリングには、評価対象のタイヤの設計因子が用いられるのが望ましい。
【0068】
次に、本実施形態のステップS61では、評価対象のタイヤモデルを、路面モデル12に転動させて、一部の走行条件ごとに、評価対象のタイヤの摩耗エネルギーが計算される。評価対象のタイヤモデル(図示省略)の転動計算や、摩耗エネルギーの計算は、公知の手順(例えば、上記特許文献1に記載の手順)に基づいて行われる。
【0069】
本実施形態のステップS61では、一部の走行条件(駆動の走行条件(加速度α1G)、左旋回の走行条件(加速度δ2G)、及び、右旋回の走行条件(加速度γ2G))ごとに、評価対象のタイヤの摩耗エネルギーが計算される。これらの摩耗エネルギーは、各走行条件に対応するトルクや横力が、転動計算中のタイヤモデル(図示省略)に設定されることによって計算されうる。
【0070】
本実施形態のステップS61では、各走行条件において、タイヤが上記の間隔(単位距離)を転動したときの摩耗エネルギーがそれぞれ計算される。なお、摩耗エネルギーは、評価対象のタイヤモデル(図示省略)のトレッド部の任意の節点(図示省略)において求められてもよいし、トレッド部の全ての節点において求められてもよい。一部の走行条件の摩耗エネルギーは、摩耗エネルギー入力部5Dに入力される。
【0071】
[評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーの計算(ステップS62)]
次に、本実施形態の評価摩耗エネルギー取得ステップS6では、一部の走行条件ごとに、評価対象のタイヤの摩耗エネルギーを、発生頻度F1~F3で重み付けをして、評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーが計算される(ステップS62)。
【0072】
本実施形態では、一部の走行条件(駆動の走行条件(加速度α1G)、左旋回の走行条件(加速度δ2G)、及び、右旋回の走行条件(加速度γ2G))ごとに、評価対象のタイヤの摩耗エネルギーが、発生頻度F1~F3で重み付けされる(乗じられる)。そして、一部の走行条件の全てについて、発生頻度F1~F3で重み付けされた摩耗エネルギーが足し合わされることにより、評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーが求められる。
【0073】
図9は、評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーを示す概念図である。
図9では、評価対象のタイヤモデル(図示省略)のトレッド部の全ての節点において、トータル摩耗エネルギーが求められている。
図9において、トータル摩耗エネルギーの大きさは、色付けの濃淡で示されており、色が濃いほど、トータル摩耗エネルギーが大きいことを示している。評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーは、トータル摩耗エネルギー入力部5E(
図1に示す)に入力される。
【0074】
上述したように、一部の走行条件の発生頻度F1~F3(
図7に示す)は、
図4に示した複数の走行条件(本例では、自由転動、制動、駆動、旋回の各加速度)の全てを考慮したトータル摩耗エネルギーに基づく重回帰分析によって決定されている。したがって、発生頻度F1~F3は、複数の走行条件(自由転動、制動、駆動、旋回の各加速度)の発生頻度が集約されている。したがって、これらの発生頻度F1~F3が考慮されたトータル摩耗エネルギーは、例えば、複数の走行条件(
図4に示す)の全てを考慮した評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーに近似しうる。これにより、本実施形態の評価方法では、摩耗性能の評価精度を維持することができる。
【0075】
また、本実施形態の評価方法は、一部の走行条件の個数(
図7に示す)を、複数の走行条件の個数(
図4に示す)よりも少なくできる。これにより、本実施形態では、複数の走行条件(使用条件)の発生頻度が用いられる従来の方法(例えば、特許文献1)とは異なり、一部の走行条件以外の走行条件(例えば、制動の各加速度等)において、評価対象のタイヤの摩耗エネルギーを求める必要がない。したがって、本実施形態では、評価に要する時間を短縮することができる。
【0076】
評価に要する時間を短縮するために、一部の走行条件の個数は、好ましくは、複数の走行条件の個数の50%以下であり、さらに好ましくは、35%以下である。一方、摩耗性能の評価精度を維持するために、一部の走行条件の個数は、好ましくは、複数の走行条件の個数の10%以上であり、さらに好ましくは、15%以上である。
【0077】
[タイヤの摩耗性能を評価(ステップS7)]
次に、
図2に示されるように、本実施形態の評価方法では、評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーに基づいて、評価対象のタイヤの摩耗性能が評価される(ステップS7)。本実施形態のステップS7では、
図1に示したコンピュータ1(評価装置1A)を用いて、摩耗性能が評価されているが、オペレータによって評価されてもよい。
【0078】
本実施形態のステップS7では、先ず、トータル摩耗エネルギー入力部5Eに入力されている評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、プログラム部6の評価部6Gが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。評価部6Gは、評価対象のタイヤの摩耗性能を評価するためのものである。そして、評価部6Gが、演算部4Aによって実行される。
【0079】
本実施形態のステップS7では、評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーが、許容範囲内か否かが判断される。許容範囲は、評価対象のタイヤのカテゴリーや構造等に基づいて、適宜設定される。
【0080】
本実施形態では、車両の駆動輪に装着されるタイヤの摩耗性能が評価される。上述したように、トータル摩耗エネルギーの計算に考慮される一部の走行条件(
図7に示す)には、複数の走行条件(
図4に示す)のうち、駆動の走行条件が含まれている。このため、本実施形態では、駆動輪に装着される評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーが、精度よく計算されうる。
【0081】
さらに、一部の走行条件(
図7に示す)には、複数の走行条件のうち、旋回(左旋回及び右旋回)の走行条件(
図4に示す)が含まれている。このため、駆動輪に装着される評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーをより精度よく計算することができる。したがって、本実施形態の評価方法では、評価対象のタイヤの摩耗性能を、精度良く評価することができる。
【0082】
ステップS7において、トータル摩耗エネルギーが、許容範囲内であると判断された場合(ステップS7において「Yes」)、評価対象のタイヤの設計因子に基づいて、タイヤが設計及び製造される(ステップS8)。
【0083】
一方、トータル摩耗エネルギーが、許容範囲外であると判断された場合(ステップS7において「No」)、評価対象のタイヤの設計因子が変更されて(ステップS9)、評価摩耗エネルギー取得ステップS6及びステップS7が再度実施される。これにより、本実施形態の評価方法では、耐摩耗性能に優れたタイヤを確実に設計及び製造することができる。
【0084】
[タイヤの摩耗性能評価方法(第2実施形態)]
本実施形態の評価方法では、車両の駆動輪に装着されるタイヤの摩耗性能が評価されたが、このような態様に限定されるわけではなく、車両の従動輪に装着されるタイヤの摩耗性能が評価されてもよい。この場合、上述したように、トータル摩耗エネルギーの計算に考慮される一部の走行条件には、複数の走行条件(
図4に示す)のうち、自由転動及び制動の走行条件が含まれるのが望ましい。これにより、この実施形態の評価方法では、従動輪に装着される評価対象のタイヤのトータル摩耗エネルギーをより精度よく計算することができ、評価対象のタイヤの摩耗性能を、精度良く評価することができる。
【0085】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0086】
図2に示した処理手順に基づいて、タイヤのパターン及びプロファイルを異ならせた8種類のタイヤの摩耗性能が評価された(実施例)。
【0087】
実施例では、先ず、
図3に示した処理手順に基づいて、タイヤが装着された車両を、一般道及び高速道路で合計約20000km走行させることにより、自由転動、制動、駆動、及び、旋回を含む複数の走行条件で走行させたときの走行履歴が取得された。そして、車両の走行履歴を用いて、
図4に示されるように、複数の走行条件の発生頻度がそれぞれ取得された。
【0088】
次に、実施例では、複数の走行条件ごとに、トレッド部の摩耗エネルギーを計算するステップと、摩耗エネルギーを発生頻度で重み付けをして、複数の走行条件の全てを考慮したトータル摩耗エネルギーを求めるステップとが実施された。次に、実施例では、複数の走行条件から選択される一部の走行条件を決定するステップと、
図6に示した処理手順に基づいて、一部の走行条件の発生頻度(
図7に示す)が決定するステップとが実施された。
【0089】
そして、実施例では、一部の走行条件ごとに、評価対象(8種類)のタイヤの摩耗エネルギーが求められ、それらの摩耗エネルギーを、発生頻度で重み付けをして、評価対象(8種類)のタイヤのトータル摩耗エネルギーをそれぞれ求めるステップが実施された。
【0090】
比較のために、複数の走行条件ごとに、評価対象(8種類)のタイヤの摩耗エネルギーが求められ、それらの摩耗エネルギーを、発生頻度で重み付けをして、評価対象(8種類)のタイヤのトータル摩耗エネルギーがそれぞれ求められた(比較例)。共通仕様は、次のとおりである。
タイヤサイズ:195/65R15
内圧:240kPa
荷重:3780N
評価対象のタイヤの装着:車両の駆動輪
【0091】
図10は、実施例のトータル摩耗エネルギーと、比較例のトータル摩耗エネルギーとの関係を示すグラフである。
図10では、8種類の評価対象のタイヤの各陸部(センター陸部、一対のミドル陸部、及び、一対のショルダー陸部)の同一位置において、実施例のトータル摩耗エネルギーと、比較例のトータル摩耗エネルギーとの相関関係がそれぞれ示されている。
【0092】
図10に示されるように、実施例のトータル摩耗エネルギーと、比較例のトータル摩耗エネルギーとの相関が高くなっている(決定係数R
2が0.99)。したがって、実施例は、複数の走行条件の発生頻度を考慮する比較例と略同一のトータル摩耗エネルギーを得ることができており、摩耗性能の評価精度を維持することができた。
【0093】
また、実施例では、比較例とは異なり、複数の走行条件ごとに、評価対象のタイヤの摩耗エネルギーを求める必要がないため、タイヤの摩耗性能の評価に要する時間を短縮(比較例の約1/3に短縮)することができた。
【符号の説明】
【0094】
S1 複数の走行条件の発生頻度を取得するステップ
S2 複数の走行条件ごとに摩耗エネルギーを計算するステップ
S3 複数の走行条件を考慮したトータル摩耗エネルギーを求めるステップ
S4 複数の走行条件から一部の走行条件を決定するステップ
S5 一部の走行条件の発生頻度を決定するステップ