(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ICカードの製造方法
(51)【国際特許分類】
G06K 19/02 20060101AFI20241203BHJP
G06K 19/077 20060101ALI20241203BHJP
B42D 25/305 20140101ALI20241203BHJP
B42D 25/47 20140101ALI20241203BHJP
【FI】
G06K19/02 020
G06K19/077 200
B42D25/305 100
B42D25/47
G06K19/077 144
(21)【出願番号】P 2021047494
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2024-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】庄子 寧将
【審査官】後藤 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-341767(JP,A)
【文献】特開2016-071744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/077
B42D 25/305
B42D 25/47
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICチップ及びアンテナを含むインレットを、接着剤を介して一対の基材間に積層してなるICカードを製造する方法であって、
第1基材シートの一方の面に第1接着剤を塗布し、前記第1接着剤上に複数のインレットを配置する工程と、
第2基材シートの一方の面に第2接着剤を塗布する工程と、
前記第1基材シートと前記第2基材シートとの間に通気シートを配置して、前記第1基材シート及び前記第2基材シートを、前記第1接着剤を塗布した面と前記第2接着剤を塗布した面とを対向させて挟圧し、ICカード形成シートを作製する工程と、
前記ICカード形成シートに含まれる接着剤を硬化させる工程と、
を備え
、
前記通気シートは複数の開口部が形成されており、
前記開口部内に前記インレットが位置するように前記通気シートを配置する、ICカードの製造方法。
【請求項2】
前記通気シートは前記第1基材シートより大きい、請求項1に記載のICカードの製造方法。
【請求項3】
前記通気シートの全周を、前記第1基材シートの周縁より外側に延出させる、請求項2に記載のICカードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ICカードの製造方法、ICカード及びICカード形成シートに関する。
【背景技術】
【0002】
社員証、学生証等の個人の身分を証明するために用いられるIC(Integrated
Circuit)カードは、インレットと呼ばれる、ICチップ及びアンテナを有する集積回路を内蔵している。
【0003】
このようなICカードの製造方法として、熱貼合法、接着剤貼合法、射出成形法等が知られている。このうち、湿気硬化型の接着剤貼合法では、接着剤及び多数のインレットが配置された枚葉状の第1基材と、接着剤が塗布されたウェブ状の第2基材と、をニップローラで挟んで、厚みにむらのない積層構造体を得る。得られた積層構造体を幅方向に切断して、複数のインレットを含むICカード形成シートを順次作製する。
【0004】
得られたICカード形成シートは、互いに積み重ねられて、エージング処理される。エージング処理では、ICカード形成シートに含まれる湿気硬化型の接着剤が吸湿し、徐々に硬化していく。接着剤が硬化したICカード形成シートを所望のカード形状に打ち抜くことで、個々のICカードが得られる。
【0005】
エージング処理において、ICカード形成シートは互いに隙間無く積み重ねられているため、各ICカード形成シートは、その周縁領域においては吸湿できるが、中央領域においては吸湿し難かった。このため、中央領域に位置する接着剤が硬化し難く、ICカードを打ち抜く際に、中央領域に位置する未硬化の接着剤から切りカスが発生してしまっていた。発生した切りカスがICカードの表面に付着すると、印刷品質に悪影響を及ぼし、生産効率を低下させる要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、ICカードを製造する際に用いられる接着剤を、むらを少なく硬化させることが可能なICカードの製造方法、ICカード及びICカード形成シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のICカードの製造方法は、ICチップ及びアンテナを含むインレットを、接着剤を介して一対の基材間に積層してなるICカードを製造する方法であって、第1基材シートの一方の面に第1接着剤を塗布し、前記第1接着剤上に複数のインレットを配置する工程と、第2基材シートの一方の面に第2接着剤を塗布する工程と、前記第1基材シートと前記第2基材シートとの間に通気シートを配置して、前記第1基材シート及び前記第2基材シートを、前記第1接着剤を塗布した面と前記第2接着剤を塗布した面とを対向させて挟圧し、ICカード形成シートを作製する工程と、前記ICカード形成シートに含まれる接着剤を硬化させる工程と、を備えるものである。
【0009】
本開示のICカードは、第1基材層と、前記第1基材層上に設けられ、ICチップ及びアンテナを含むインレットを収容する第1接着層と、前記第1接着層上に設けられた通気シートと、前記通気シート上に設けられた第2接着層と、前記第2接着層上に設けられた第2基材層と、を備えるものである。
【0010】
本開示のICカード形成シートは、第1基材シートと、前記第1基材シート上に設けられ、それぞれICチップ及びアンテナを含む複数のインレットを収容する第1接着層と、前記第1接着層上に設けられ、サイズが前記第1基材シートのサイズ以上である通気シートと、前記通気シート上に設けられた第2接着層と、前記第2接着層上に設けられた第2基材シートと、を備えるものである。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、ICカードを製造する際に用いられる接着剤を、むらを少なく硬化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の実施形態に係るICカードの平面図である。
【
図2】同実施形態に係るICカードの断面図である。
【
図3】
図3a、
図3bはICカードの製造方法を説明する断面図及び平面図である。
【
図4】
図4a、
図4bはICカードの製造方法を説明する断面図及び平面図である。
【
図5】
図5a、
図5bはICカードの製造方法を説明する断面図及び平面図である。
【
図6】
図6a、
図6bはICカードの製造方法を説明する断面図及び斜視図である。
【
図7】ICカード形成シートを積層した状態を示す図である。
【
図8】ICカード形成シートの内部へ進入する空気の流れを示す模式図である。
【
図9】別の実施形態に係る通気シートの平面図である。
【
図10】ICカードの製造方法を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態を、図面等を参照しながら説明する。なお、本開示は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定するものではない。
【0014】
図1、
図2に示すように、本開示の実施形態に係るICカード70は、情報の記録や演算をするために、インレット80と呼ばれる集積回路が組み込まれている。ICカード70は、例えば、社員証、学生証等の個人の身分を証明するために用いられる。
【0015】
ICカード70は、印刷層71、受容層72、クッション層73、第1基材層74、接着層75a、通気シート4、接着層75b、及び第2基材層76を、表面側から裏面側に向かってこの順で含む。接着層75aに、インレット80が収容されている。
【0016】
印刷層71は、典型的には、熱転写シートから受容層72に色材を熱転写することにより形成される。
図2に示す印刷層71は、ICカード70を作製する前に予め印刷されたプレ印刷層を含む。プレ印刷層として印刷される情報の一例として、絵柄、模様あるいは枠のような、他のICカード70と共通の印刷情報が挙げられる。また、印刷層71は、必要に応じて、ICカード70を作製した後に印刷される個別印刷層をさらに含んでもよい。個別印刷層として印刷される情報の一例として、個人に関する画像や記載情報のような個別の印刷情報が挙げられる。
【0017】
受容層72は、熱転写シートから熱によって移行する色材を受容するよう構成された層である。受容層72をなす材料としては、昇華性染料または熱溶融性インキ等の熱移行性の色材を受容し易い樹脂材料などが使用される。一例として、受容層72をなす材料として、塩化ビニル系樹脂、アクリル-スチレン系樹脂またはポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0018】
クッション層73は、適度なクッション性を発揮し、受容層72に熱転写される印刷層71を安定して記録することに寄与する。一例として、クッション層73は、ゼラチンからなるバインダー樹脂に、無機物からなる中空粒子を分散させることにより得られる。
【0019】
第1基材層74及び第2基材層76は、ICカード70内に収容されたインレット80を保護し、ICカード70の本体を構成する。第1基材層74及び第2基材層76をなす材料としては、特に限定されないが、例えばポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂が挙げられる。なお、第2基材層76に、必要に応じて筆記層をさらに積層させてもよい。
【0020】
第1基材層74と第2基材層76との間に接着層75a、通気シート4及び接着層75bが配置される。接着層75a(第1接着層)は、第1基材層74と通気シート4とを接着すると共に、インレット80を収容して保護する。接着層75b(第2接着層)は、通気シート4と第2基材層76とを接着する。接着層75a、75bをなす材料として、典型的には、吸湿して徐々に硬化していく湿気硬化型の接着剤が用いられる。このような材料として、ホットメルト接着剤が挙げられる。
【0021】
インレット80は、図示は省略するが、板状のインレット基材、インレット基材上に配置されたICチップ、ICチップに電気的に接続されたアンテナ等を含む。インレット基材は、フィルム又は不織布などで構成される。アンテナは、例えば、Al、Cu、Ag等の導体で構成される。
【0022】
ICチップは、情報を記憶するためのメモリ部と、該メモリ部への情報の記憶動作、該メモリ部からの情報の読み出し動作、および、無線通信動作を制御する制御部を有する。このICチップは、アンテナを介して、図示しないリーダ・ライタ等の質問器(Interrogator)へ情報を読み出し、または、該質問器からアンテナを介して入力された情報を記憶するようになっている。
【0023】
通気シート4は、通気性を有する樹脂シートであり、例えば、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等を用いた不織布シートである。通気シート4は、目付が10g/m
2以上80g/m
2以下が好ましく、30g/m
2以上70g/m
2以下がさらに好ましい。通気シート4の厚みは、100μm以上400μm以下が好ましく、200μm以上350μm以下がさらに好ましい。通気シート4の目付及び厚みをこの範囲内にすることで、接着剤が通気シート4に浸透することを抑制して通気シート4の通気性を確保すると共に、ICカード全体の厚みがカード規格を満たすようにすることができる。
図2に示す例では、通気シート4はICカード70の全面に設けられており、通気シート4の周縁部が、ICカード70の端面に露出している。
【0024】
次に、
図3~
図8を参照して、本実施形態に係るICカードの製造方法を説明する。
【0025】
図3a、
図3bに示すように、枚葉状の第1基材シート10を準備する。第1基材シート10は、上述の第1基材層74、クッション層73、受容層72及び印刷層71を含んでいる。第1基材シート10の印刷層71には、絵柄、模様あるいは枠のようなプレ印刷層が予め形成されている。
【0026】
この第1基材シート10の第1基材層74側となる面に、接着層75aとなる接着剤20を塗布する。接着剤20は、温められて溶融状態としたものが塗布される。接着剤20の塗布方法は限定されず、ダイ塗布方式、グラビア方式、ロール方式等を用いることができる。接着剤20は、ICカードの配列に合わせて間欠塗布してもよい。
【0027】
次に、
図4a、
図4bに示すように、接着剤20を塗布された第1基材シート10の第1基材層74側の面に、複数のインレット80を二次元配列する。本実施の形態では、複数のインレット80は、いわゆる格子状に配列される。すなわち、複数のインレット80が、
図4bの縦方向及び横方向に所定の間隔を空けて配置される。
【0028】
次に、
図5a、
図5bに示すように、インレット80を覆うように、第1基材シート10の第1基材層74側の面に、通気シート4を配置する。通気シート4のサイズは、第1基材シート10のサイズ以上であり、第1基材シート10より大きい方が好ましい。例えば、通気シート4のサイズは、第1基材シート10のサイズを縦、横それぞれ10%程度大きくしたものである。
図5bに示すように、通気シート4の全周が第1基材シート10の周縁部よりも外側に位置するように、通気シート4を配置することが好ましい。
【0029】
次に、
図6a、
図6bに示すように、第2基材シート30の一方の面に、接着層75bとなる接着剤20を塗布する。第2基材シート30は、ICカード70の第2基材層76を構成するものである。そして、第2基材シート30の接着剤20を塗布した面と、第1基材シート10上の通気シート4とを向かい合わせ、第1基材シート10と第2基材シート30とを挟圧する。言い換えれば、第1基材シート10と第2基材シート30との間に通気シート4を配置して、第1基材シート10及び第2基材シート30を、接着剤20を塗布した一方の面同士を対向させて挟圧する。これにより、通気シート4を挟んで第1基材シート10及び第2基材シート30が接着剤20で接着されたICカード形成シート3が得られる。
【0030】
第2基材シート30は、第1基材シート10と同程度のサイズの枚葉状であることが好ましい。ICカード形成シート3では、第1基材シート10及び第2基材シート30の周縁部よりも外側に通気シート4が延出している。
【0031】
図7に示すように、ICカード形成シート3を積み重ねて、エージングを行い、接着剤20を硬化させる。エージング工程での温度や湿度、エージング時間等の条件は、接着剤の仕様等により適宜決定される。
【0032】
図8に示すように、通気シート4が外部からの空気の通り道となる。通気シート4は、第1基材シート10及び第2基材シート30の周縁部よりも外側にまで延びているため、空気を取り込みやすい。ICカード形成シート3の周縁部だけでなく、中央部にも空気が到達し、接着剤20が空気中の水分を吸湿して硬化する。これにより、ICカード形成シート3に含まれる接着剤20を面内で偏りなく硬化させることができる。
【0033】
その後、接着剤20が硬化したICカード形成シート3を所望のカード形状に打ち抜くことで、個々のICカード70が得られる。
【0034】
図9に示すように、ICカード打ち抜き領域を開口部Hとした通気シート4Aを用いてもよい。この通気シート4Aを、接着剤20が塗布された第1基材シート10上に配置する場合は、
図10に示すように、インレット80が開口部H内に位置するように調整する。このような通気シート4Aを用いた場合でも、ICカード形成シート3の中央部まで空気が進入しやすくなり、接着剤20を速やかに硬化させることができる。
【0035】
通気シート4Aを用いた場合、ICカード形成シート3から打ち抜かれるICカード70は、通気シート4Aを含まないものとなる。
【0036】
図11aに示すように、複数のストライプ状の通気シート4Bを、所定間隔を空けて平行に配置してもよい。通気シート4Bの長手方向の長さを、第1基材シート10の一辺の長さより長くし、通気シート4Bの長手方向の両端を第1基材シート10の外側に位置させることが好ましい。
【0037】
通気シート4Bは、
図11aに示すように、インレット80を覆うように配置してもよいし、
図11bに示すように、インレット80を覆わないように、インレット80同士の間に配置してもよい。
【0038】
インレット80を覆うように通気シート4Bを配置した場合、ICカードとして打ち抜かれる部分の接着剤20をより速やかに硬化させることができる。
【0039】
インレット80を覆わないように通気シート4Bを配置した場合、打ち抜かれたICカードは、通気シート4Bを含まないものとなる。
【0040】
上記実施形態において、通気シート4は、インレット80の上下に設けてもよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を用いて本開示をより詳細に説明するが、本開示はこの実施例に限定されるものではない。以下に説明するようにして、各サンプルに係る通気シートを準備し、各通気シートを用いた場合に、硬化工程においてICカード形成シートに含まれる接着剤がむらなく硬化されるかを評価した。サンプル1は通気シートを使用しなかった。
【0042】
(サンプル2~6)
サンプル2~6に係る通気シートとして、いわゆる不織布シートを用いた。サンプル2~6に係る通気シートの主な物性は、表1に示す通りである。
【0043】
サンプルに係る通気シートを用いてICカード形成シートを作製し、複数のICカード形成シートを積み重ねた状態で、エージング室内に保管し、ICカード形成シートに含まれる接着剤を硬化させた。放置時間が経過した後、各ICカード形成シートにおいて接着剤が硬化した程度を確認し、以下の評価基準に基づいて評価した。結果を表1に示す。
【0044】
(評価基準)
A:周縁部と中央部で接着剤硬化に差が見られなかった。
B:接着剤硬化のむらがほとんどなかった。
C:接着剤硬化のむらが比較的少なかった。
D:接着剤硬化にむらがあった。
【0045】
【符号の説明】
【0046】
3 ICカード形成シート
4 通気シート
10 第1基材シート
20 接着剤
30 第2基材シート
70 ICカード
80 インレット