(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/06 20060101AFI20241203BHJP
B60K 6/36 20071001ALI20241203BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20241203BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20241203BHJP
B60K 6/485 20071001ALI20241203BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60K6/36 ZHV
B60K6/547
B60W10/08 900
B60K6/485
(21)【出願番号】P 2021047918
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 満
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正幸
(72)【発明者】
【氏名】江藤 真吾
【審査官】大野 明良
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-108988(JP,A)
【文献】特開2011-094591(JP,A)
【文献】特開2007-145220(JP,A)
【文献】特開2018-047791(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0166051(US,A1)
【文献】特開2007-138808(JP,A)
【文献】特開2013-208944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20- 6/547
B60L 1/00- 3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
B60W 10/00-20/50
G05B 1/00- 7/04
11/00-13/04
17/00-17/02
21/00-21/02
G05D 5/00- 5/06
13/00-15/01
17/00-19/02
99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、電動機と、前記エンジンと前記電動機との間に設けられたクラッチと、を備えるハイブリッド車両の、制御装置であって、
前記クラッチが係合されて前記電動機によるクランキングによって前記エンジンが始動される場合に、前記エンジンと前記電動機との同期を判定するためのエンジン回転速度と電動機回転速度との第1回転差を逐次算出し、
前記同期の判定以外の制御に用いるための前記エンジン回転速度と前記電動機回転速度との第2回転差を逐次算出し、
前記第1回転差は、前記第2回転差よりもなまし度合を大きくされている
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記同期の判定以外の制御は、前記エンジンが始動される場合における前記電動機の出力トルク制御である
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと、電動機と、それらエンジン及び電動機の間に設けられたクラッチと、を備えるハイブリッド車両の、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、電動機と、それらエンジン及び電動機の間に設けられたクラッチと、を備えるハイブリッド車両が知られている。このハイブリッド車両のエンジンが始動される場合におけるエンジンと電動機との同期の判定を、エンジン回転速度と電動機回転速度との回転差(クラッチの回転速度差と同義)を用いて判定し、電動機の制御をエンジン始動時における制御からエンジン始動時以外の通常時における制御へ移行させる技術が知られている。例えば、特許文献1に記載のものがそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のハイブリッド車両の制御装置において、エンジンが始動される場合における同期の判定に用いられるエンジンと電動機との回転差として、同期の判定以外の制御に用いられるエンジン回転速度と電動機回転速度との回転差が用いられると、ダンパーや車両の走行状態の影響を受けて、実際の回転差と同期の判定に用いられる回転差との間に乖離(特に、実際の回転差と同期の判定に用いられる回転差との間で符号が逆となる正負反転)が生じるおそれがある。電動機は、回転差に基づいて出力トルクが調節されるので、前記乖離により電動機の出力トルクが回転差の収束を遅らせる可能性がある。回転差の収束が遅れると、エンジンと電動機との同期判定も遅れるためエンジン始動制御の完了が遅れるおそれがある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジンが始動される場合におけるエンジンと電動機との同期判定の遅れを抑制しエンジン始動制御の完了の遅れを抑制できる、ハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、エンジンと、電動機と、前記エンジンと前記電動機との間に設けられたクラッチと、を備えるハイブリッド車両の、制御装置であって、(a)前記クラッチが係合されて前記電動機によるクランキングによって前記エンジンが始動される場合に、前記エンジンと前記電動機との同期を判定するためのエンジン回転速度と電動機回転速度との第1回転差を逐次算出し、(b)前記同期の判定以外の制御に用いるための前記エンジン回転速度と前記電動機回転速度との第2回転差を逐次算出し、(c)前記第1回転差は、前記第2回転差よりもなまし度合を大きくされていることにある。
【発明の効果】
【0007】
第1発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、(a)前記クラッチが係合されて前記電動機によるクランキングによって前記エンジンが始動される場合に、前記エンジンと前記電動機との同期を判定するためのエンジン回転速度と電動機回転速度との第1回転差が逐次算出され、(b)前記同期の判定以外の制御に用いるための前記エンジン回転速度と前記電動機回転速度との第2回転差が逐次算出され、(c)前記第1回転差は、前記第2回転差よりもなまし度合を大きくされている。エンジンと電動機との同期を判定するための第1回転差のなまし度合が同期の判定以外の制御に用いるための第2回転差のなまし度合よりも大きい場合には、そうでない場合に比較して実際の回転差と同期の判定に用いられる回転差との間の乖離(符号が逆となる正負反転)が抑制されて電動機から誤調整されたトルクが出力されることが抑制される。これにより、エンジンが始動される場合における同期の判定に用いられる第1回転差の収束の遅れが抑制されることで、エンジン始動制御の完了の遅れが抑制される。
【0008】
第2発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、第1発明において、前記同期の判定以外の制御は、前記エンジンが始動される場合における前記電動機の出力トルク制御である。エンジンが始動される場合における電動機からクラッチを介してエンジンに伝達するトルクの制御に用いる第2回転差のなまし度合がエンジンと電動機との同期を判定するための第1回転差のなまし度合よりも小さい場合には、そうでない場合に比較して実際の回転差と電動機の出力トルク制御に用いる第2回転差との差(絶対値)が小さくなる。これにより、クランキング反力トルクとして電動機からクラッチを介してエンジンに伝達されるトルクが過大となることが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例に係る電子制御装置を備えるハイブリッド車両の概略構成図であるとともに、車両における各種制御のための制御機能の要部を表す機能ブロック図である。
【
図2】
図1に示す電子制御装置の制御作動を説明するフローチャートの一例である。
【
図3】
図2のフローチャートが実行された場合におけるタイムチャートの一例である。
【
図4】比較例1に係るタイムチャートの一例である。
【
図5】比較例2に係るタイムチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0011】
本発明の実施例に係る電子制御装置90を備えるハイブリッド車両10の概略構成図であるとともに、ハイブリッド車両10における各種制御のための制御機能の要部を表す機能ブロック図である。
【0012】
ハイブリッド車両10(以下、単に「車両10」と記す。)は、走行用の駆動力源である、エンジン12及び電動機MGと、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備える。
【0013】
エンジン12は、周知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置90によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTe[Nm]が制御される。
【0014】
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、エンジン12側から順に、ダンパー42、K0クラッチ20、電動機連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24等を備える。動力伝達装置16は、自動変速機24の出力回転部材である変速機出力軸26に連結されたプロペラシャフト28、プロペラシャフト28に連結されたディファレンシャルギヤ30、ディファレンシャルギヤ30に連結された1対のドライブシャフト32等を備える。動力伝達装置16は、エンジン12とダンパー42とを連結するエンジン連結軸34を備える。電動機連結軸36は、K0クラッチ20とトルクコンバータ22とを連結している。
【0015】
ダンパー42は、エンジン12の脈動を吸収しつつその回転を伝達する周知のダンパー装置、例えば振り子ダンパーである。K0クラッチ20は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路におけるエンジン12と電動機MGとの間に設けられたクラッチである。K0クラッチ20が係合状態にある場合には、電動機連結軸36は、その一端がダンパー42を介してエンジン12に連結されることでエンジン12により回転駆動させられる。なお、K0クラッチ20は、本発明における「クラッチ」に相当する。
【0016】
トルクコンバータ22は、周知のトルクコンバータである。トルクコンバータ22は、電動機連結軸36と連結されたポンプ翼車22aと、自動変速機24の入力回転部材である変速機入力軸38と連結されたタービン翼車22bと、ポンプ翼車22aとタービン翼車22bとを直結するLUクラッチ40と、を備える。トルクコンバータ22は、駆動力源(エンジン12、電動機MG)の各々からの駆動力を流体を介して電動機連結軸36から変速機入力軸38へ伝達する流体式伝動装置である。トルクコンバータ22は、K0クラッチ20及びダンパー42を介してエンジン12に連結されている。自動変速機24は、トルクコンバータ22に連結されており、トルクコンバータ22と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられている。トルクコンバータ22及び自動変速機24は、各々、駆動力源(エンジン12、電動機MG)と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成している。
【0017】
電動機MGは、電力から機械的な動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。電動機MGは、後述するインバータ52を介して車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。バッテリ54は、電動機MGに対して電力を授受する蓄電装置である。電動機MGは、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、電動機MGの出力トルクである電動機トルクTmg[Nm]が制御される。電動機トルクTmgは、例えば電動機MGの回転方向がエンジン12の運転時と同じ回転方向である正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。前記電力は、特に区別しない場合には電気エネルギーも同意である。前記動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。
【0018】
電動機MGは、ケース18内において、電動機連結軸36に動力伝達可能に連結されている。つまり、電動機MGは、K0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結されている。見方を換えれば、電動機MGは、K0クラッチ20を介することなくトルクコンバータ22や自動変速機24と動力伝達可能に連結されている。
【0019】
自動変速機24は、例えば不図示の1組又は複数組の遊星歯車装置と、複数の係合装置CBと、を備える、公知の遊星歯車式の自動変速機である。係合装置CBは、例えば公知の油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、各々、油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるCB油圧PRcb[Pa]によりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcb[Nm]が変化させられることで、係合状態や解放状態などの作動状態つまり制御状態が切り替えられる。
【0020】
自動変速機24は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置の係合によって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni[rpm]/AT出力回転速度No[rpm])が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。自動変速機24は、後述する電子制御装置90によって、運転者のアクセル操作や車速V[km/h]等に応じて、係合装置CBのうちの自動変速機24の変速に関与する係合装置である所定の係合装置の制御状態が切り替えられることで、形成されるギヤ段が切り替えられる。つまり、自動変速機24の変速制御においては、例えば所定の係合装置の掴み替えにより変速が実行される、すなわち解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とにより変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。解放側係合装置は、所定の係合装置のうちの自動変速機24の変速前には係合状態とされていた係合装置であって、自動変速機24の変速過渡において係合状態から解放状態に向けて制御される係合装置である。係合側係合装置は、所定の係合装置のうちの自動変速機24の変速前には解放状態とされていた係合装置であって、自動変速機24の変速過渡において解放状態から係合状態に向けて制御される係合装置である。AT入力回転速度Niは、変速機入力軸38の回転速度であり、自動変速機24の入力回転速度である。AT入力回転速度Niは、トルクコンバータ22の出力回転速度であるタービン回転速度Nt[rpm]と同値である。AT入力回転速度Niは、タービン回転速度Ntで表すことができる。AT出力回転速度Noは、変速機出力軸26の回転速度であり、自動変速機24の出力回転速度である。
【0021】
K0クラッチ20は、例えば多板式或いは単板式のクラッチにより構成される油圧式の摩擦係合装置である。K0クラッチ20は、油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるK0油圧PRk0[Pa]によりK0クラッチ20のトルク容量であるK0トルクTk0[Nm]が変化させられることで、係合状態や解放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0022】
車両10において、K0クラッチ20の係合状態では、エンジン12とトルクコンバータ22とが動力伝達可能に連結される。一方、K0クラッチ20の解放状態では、エンジン12とトルクコンバータ22との間の動力伝達が遮断される。電動機MGはトルクコンバータ22に連結されているので、K0クラッチ20は、エンジン12を電動機MGと断接するクラッチとして機能する。
【0023】
動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、K0クラッチ20が係合された場合に、エンジン連結軸34から、K0クラッチ20、電動機連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。電動機MGから出力される動力は、K0クラッチ20の制御状態に拘わらず、電動機連結軸36から、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。
【0024】
車両10は、機械式のオイルポンプであるMOP58、電動式のオイルポンプであるEOP60、ポンプ用モータ62等を備える。MOP58は、ポンプ翼車22aに連結されており、駆動力源(エンジン12、電動機MG)により回転駆動させられて動力伝達装置16で用いられる作動油OILを吐出する。ポンプ用モータ62は、EOP60を回転駆動するためのEOP60専用のモータである。EOP60は、ポンプ用モータ62により回転駆動させられて作動油OILを吐出する。MOP58やEOP60が吐出した作動油OILは、油圧制御回路56へ供給される。油圧制御回路56は、MOP58及び/又はEOP60が吐出した作動油OILを元にして各々調圧した、CB油圧PRcb、K0油圧PRk0などを供給する。
【0025】
車両10は、電子制御装置90を備える。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、電動機制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。なお、電子制御装置90は、本発明における「制御装置」に相当する。
【0026】
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、タービン回転速度センサ72、出力回転速度センサ74、電動機回転速度センサ76、アクセル開度センサ78、スロットル弁開度センサ80、バッテリセンサ84、油温センサ86など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne[rpm]、AT入力回転速度Niと同値であるタービン回転速度Nt、車速Vに対応するAT出力回転速度No、電動機MGの回転速度である電動機回転速度Nmg[rpm]、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc[%]、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth[%]、バッテリ54のバッテリ温度THbat[℃]やバッテリ充放電電流Ibat[A]やバッテリ電圧Vbat[V]、油圧制御回路56内の作動油OILの温度である作動油温THoil[℃]など)が、それぞれ入力される。
【0027】
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、ポンプ用モータ62など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御するためのエンジン制御信号Se、電動機MGを制御するための電動機制御信号Sm、係合装置CBを制御するためのCB油圧制御信号Scb、K0クラッチ20を制御するためのK0油圧制御信号Sk0、LUクラッチ40を制御するためのLU油圧制御信号Slu、EOP60を制御するためのEOP制御信号Seopなど)が、それぞれ出力される。
【0028】
電子制御装置90は、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部92と、クラッチ制御手段すなわちクラッチ制御部94と、変速制御手段すなわち変速制御部96と、を機能的に備える。
【0029】
ハイブリッド制御部92は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部92aと、インバータ52を介して電動機MGの作動を制御する電動機制御手段すなわち電動機制御部92bと、を機能的に備え、それらの制御機能によりエンジン12及び電動機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0030】
ハイブリッド制御部92は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量を算出する。前記駆動要求量マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である。前記駆動要求量は、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdem[Nm]である。要求駆動トルクTrdemは、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPrdem[W]である。前記駆動要求量としては、駆動輪14における要求駆動力Frdem[N]、変速機出力軸26における要求AT出力トルク等を用いることもできる。前記駆動要求量の算出では、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良い。
【0031】
ハイブリッド制御部92は、伝達損失、補機負荷、自動変速機24の変速比γat、バッテリ54の充電可能電力Win[W]や放電可能電力Wout[W]等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御するエンジン制御信号Seと、電動機MGを制御する電動機制御信号Smと、を出力する。エンジン制御信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン12のパワーであるエンジンパワーPe[W]の指令値である。電動機制御信号Smは、例えばそのときの電動機回転速度Nmgにおける電動機トルクTmgを出力する電動機MGの消費電力Wm[W]の指令値である。
【0032】
バッテリ54の充電可能電力Winは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能な最大電力であり、バッテリ54の入力制限を示している。バッテリ54の放電可能電力Woutは、バッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能な最大電力であり、バッテリ54の出力制限を示している。バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Woutは、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ54の充電状態値(予め定められた満充電容量に対する実際に蓄電されている充電量の比)SOC[%]に基づいて電子制御装置90により算出される。
【0033】
ハイブリッド制御部92は、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合には、走行モードをモータ走行(=EV走行)モードとする。ハイブリッド制御部92は、EV走行モードでは、K0クラッチ20の解放状態において、駆動力源(エンジン12、電動機MG)のうちの電動機MGのみから駆動力を出力して走行するEV走行を行う。一方で、ハイブリッド制御部92は、少なくともエンジン12の出力を用いないと要求駆動トルクTrdemを賄えない場合には、走行モードをエンジン走行モードすなわちハイブリッド走行(=HV走行)モードとする。ハイブリッド制御部92は、HV走行モードでは、K0クラッチ20の係合状態において、駆動力源(エンジン12、電動機MG)のうちの少なくともエンジン12から駆動力を出力して走行するエンジン走行すなわちHV走行を行う。他方で、ハイブリッド制御部92は、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合であっても、バッテリ54の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12等の暖機が必要な場合などには、HV走行モードを成立させる。前記エンジン始動閾値は、エンジン12を強制的に始動してバッテリ54を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判定するための予め定められた閾値である。このように、ハイブリッド制御部92は、要求駆動トルクTrdem等に基づいて、HV走行中にエンジン12を自動停止したり、そのエンジン停止後にエンジン12を再始動したり、EV走行中にエンジン12を始動したり、停車中にエンジン12を自動停止したり、エンジン12を始動したりして、EV走行モードとHV走行モードとを切り替える。
【0034】
エンジン制御部92aは、車両10に対する駆動要求量を実現するようにエンジントルクTeを制御する。電動機制御部92bは、車両10に対する駆動要求量を実現するように電動機トルクTmgを制御する。具体的には、HV走行モードにおいては、エンジン制御部92aは、要求駆動トルクTrdemの全部又は一部を実現するようにエンジントルクTeを制御し、電動機制御部92bは、要求駆動トルクTrdemに対してエンジントルクTeでは不足するトルク分を補うように電動機トルクTmgを制御する。EV走行モードにおいては、電動機制御部92bは、要求駆動トルクTrdemを実現するように電動機トルクTmgを制御する。
【0035】
ハイブリッド制御部92は、エンジン始動判定手段すなわちエンジン始動判定部92cと、始動制御手段すなわち始動制御部92dと、を機能的に更に備える。
【0036】
エンジン始動判定部92cは、エンジン12の始動が要求されたか否かを判定する。つまり、エンジン始動判定部92cは、エンジン12の始動要求の有無を判定する。例えば、エンジン始動判定部92cは、EV走行モード時に、要求駆動トルクTrdemが電動機MGの出力のみで賄える範囲よりも増大した場合、エンジン12等の暖機が必要である場合、又は、バッテリ54の充電状態値SOCが前記エンジン始動閾値未満である場合には、エンジン12の始動要求が有ると判定する。
【0037】
クラッチ制御部94は、エンジン12の始動制御を実行するようにK0クラッチ20を制御する。例えば、クラッチ制御部94は、エンジン始動判定部92cによりエンジン12の始動要求が有ると判定された場合には、エンジン回転速度Neを引き上げるトルクであるエンジン12のクランキングに必要なトルクをエンジン12側へ伝達するためのK0トルクTk0が得られるように、解放状態のK0クラッチ20を係合状態に向けて制御するためのK0油圧制御信号Sk0を油圧制御回路56へ出力する。クラッチ制御部94は、エンジン12の始動に際して、K0クラッチ20の制御状態を解放状態から係合状態へ切り替えるようにアクチュエータを制御するためのK0油圧制御信号Sk0を油圧制御回路56へ出力する。本実施例では、エンジン12のクランキングに必要なトルクを必要クランキングトルクTcrn[Nm]という。
【0038】
始動制御部92dは、エンジン12の始動制御を実行するようにエンジン12及び電動機MGを制御する。例えば、始動制御部92dは、エンジン始動判定部92cによりエンジン12の始動要求が有ると判定された場合には、クラッチ制御部94によるK0クラッチ20の係合状態への切り替えに合わせて、電動機MGが必要クランキングトルクTcrnを出力するための電動機制御信号Smをインバータ52へ出力する。つまり、始動制御部92dは、エンジン12の始動に際して、必要クランキングトルクTcrnを電動機MGが出力するように電動機MGを制御するための電動機制御信号Smをインバータ52へ出力する。
【0039】
始動制御部92dは、エンジン始動判定部92cによりエンジン12の始動要求が有ると判定された場合には、K0クラッチ20及び電動機MGによるエンジン12のクランキングに連動して、燃料供給や点火などを開始するためのエンジン制御信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。つまり、始動制御部92dは、エンジン12の始動に際して、エンジン12が運転を開始するようにエンジン12を制御するためのエンジン制御信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。このように、始動制御部92dは、エンジン始動判定部92cによりエンジン12の始動が要求されたと判定された場合に、エンジン12の始動制御を実行する。
【0040】
エンジン12のクランキング時には、K0クラッチ20の係合に伴う反力トルクであるクランキング反力トルクTrfcr[Nm]が生じる。このクランキング反力トルクTrfcrは、EV走行時には、エンジン始動中のイナーシャによる車両10の引き込み感、つまり駆動トルクTr[Nm]の落ち込みを生じさせる。そのため、エンジン12を始動する際に電動機MGが出力する必要クランキングトルクTcrnは、クランキング反力トルクTrfcrを打ち消すための電動機トルクTmgでもある。つまり、必要クランキングトルクTcrnは、エンジン12のクランキングに必要なK0トルクTk0であり、電動機MG側からK0クラッチ20を介してエンジン12側へ流れる電動機トルクTmgに相当する。すなわち、K0トルクTk0は、クランキング反力トルクTrfcrを打ち消す反力保証トルクでもある。必要クランキングトルクTcrnは、例えばエンジン12の諸元等に基づいて予め定められた例えば一定のクランキングトルクTcrである。
【0041】
始動制御部92dは、EV走行中のエンジン12の始動の際には、EV走行用の電動機トルクTmgつまり駆動トルクTrを生じさせる電動機トルクTmgに加えて、必要クランキングトルクTcrn分の電動機トルクTmgを電動機MGから出力させる。そのため、EV走行中には、エンジン12の始動に備えて、必要クランキングトルクTcrn分を担保しておく必要がある。したがって、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える範囲は、出力可能な電動機MGの最大トルクに対して、必要クランキングトルクTcrn分を減じたトルク範囲となる。出力可能な電動機MGの最大トルクは、バッテリ54の放電可能電力Woutによって出力可能な最大の電動機トルクTmgである。
【0042】
変速制御部96は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機24の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機24の変速制御を実行するためのCB油圧制御信号Scbを油圧制御回路56へ出力する。前記変速マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機24の変速が判断されるための変速線を有する所定の関係である。前記変速マップでは、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良いし、又、要求駆動トルクTrdemに替えて要求駆動力Frdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。
【0043】
ここから、早期点火始動方式によりエンジン12の始動制御が実行される場合を例にして、電子制御装置90の制御機能をさらに詳しく説明する。早期点火始動方式とは、K0クラッチ20を係合させて電動機MGによりクランキングし、K0クラッチ20の同期前にエンジン12に燃料を噴射し点火してその燃焼が継続可能になったら一旦K0クラッチ20を解放し、その後にK0クラッチ20を再係合する方式である。早期点火始動方式では、エンジン回転速度Neが低回転の段階で圧縮TDC(Top Dead Center;上死点)付近で燃料が噴射され点火されてエンジン12が始動させられる。なお、ここにいうエンジン12の「始動」とは、単にエンジン12が完爆して(運転を開始して)自立運転可能になるまでのことの他に、K0クラッチ20が完全係合されるまでのエンジン始動に関わる一連の制御作動のことでもある。K0クラッチ20の再係合において完全係合すなわちエンジン12と電動機MGとの同期が完了したと判定されることで、エンジン始動制御が完了する。
【0044】
早期点火始動方式においてK0クラッチ20が再係合される場合、エンジン回転速度Neを引き上げて電動機回転速度Nmgに同期させるために、電動機MGから必要クランキングトルクTcrn(=K0トルクTk0)がエンジン12側へ伝達される。例えば、理想的には、始動制御部92dは、電動機回転速度Nmgとエンジン回転速度Neとの差である実際の回転差ΔN0(=Nmg-Ne)[rpm]が正の値である場合には、エンジン回転速度Neを引き上げるためにK0トルクTk0を正の値とする。始動制御部92dは、実際の回転差ΔN0が負の値である場合には、エンジン回転速度Neを引きさげるためにK0トルクTk0を負の値とする。これにより、エンジン回転速度Neが電動機回転速度Nmgに向かって増速されたり減速されたりする。なお、現実には、実際の回転差ΔN0に対して遅延することなく電動機MGからエンジン12へK0トルクTk0を出力させることはできない。本明細書では、発明の理解を容易とするため、電子制御装置90での制御処理において実際の回転差ΔN0が算出できるものとして説明するが、現実には遅延を含んで算出される。
【0045】
ハイブリッド制御部92は、回転差算出手段すなわち回転差算出部92eと、同期判定手段すなわち同期判定部92fと、を機能的に更に備える。
【0046】
回転差算出部92eは、実際の回転差ΔN0(=Nmg-Ne)に対してなまし度合の異なる複数の回転差を逐次算出する。なまし度合とは、回転差ΔN0から算出された回転差における変化速度の鈍さの程度である。例えば、第1回転差ΔN1[rpm]及び第2回転差ΔN2[rpm]は、回転差ΔN0の移動平均であり、移動平均期間τ(移動平均を算出する場合のデータである回転差ΔN0の取得期間)[ms]を大きくすることでなまし度合を大きくすることができる。なお、移動平均期間τは、本発明における「なまし度合」に相当する。回転差算出部92eは、所定の移動平均期間τ1で算出された第1回転差ΔN1と、所定の移動平均期間τ1よりも短い移動平均期間τ2(<τ1)で算出された第2回転差ΔN2と、を逐次算出する。すなわち、第1回転差ΔN1は、第2回転差ΔN2よりもなまし度合が大きい。なお、所定の移動平均期間τ1は、実際の回転差ΔN0に比較して第1回転差ΔN1が速く収束するように、予め実験的に或いは設計的に予め定められた期間である。例えば、所定の移動平均期間τ1は、後述する期間T{実際の回転差ΔN0と第2回転差ΔN2との間の乖離(符号が逆となる正負反転)に起因して電動機MGから誤調整されたトルクが出力されて第2回転差ΔN2が正負反転する場合における正値又は負値の継続期間}[ms]に基づいて、期間Tよりも長い期間に定められる。所定の移動平均期間τ2は、実際の回転差ΔN0と第2回転差ΔN2との差(絶対値)が小さくなるように、予め実験的に或いは設計的に予め定められた期間である。好適には、所定の移動平均期間τ2は、電動機MGの出力トルク制御に許容範囲を超える影響を与えるノイズ成分を除去できる程度の短い期間に設定される。
【0047】
同期判定部92fは、回転差算出部92eにより算出された第1回転差ΔN1に基づいて、エンジン12と電動機MGとの同期を判定する。エンジン12と電動機MGとが同期していると判定することは、K0クラッチ20が完全係合していると判定することと同義である。例えば、第1回転差ΔN1が予め定められた零値を含む同期判定幅[rpm]の範囲内である状態が所定期間Tcon[ms]継続した場合に、同期が完了したと判定される。第1回転差ΔN1が同期判定幅の範囲内である状態が所定期間Tcon継続していない場合には、K0クラッチ20が完全係合しておらずK0クラッチ20でスリップが発生しているのか、K0クラッチ20が完全係合しているけれどもダンパー42の影響によりエンジン連結軸34と電動機連結軸36とが捩れているのか、のいずれであるかの区別がつかない。そのため、同期が完了したとは判定されない。なお、同期判定幅及び所定期間Tconは、それぞれエンジン12と電動機MGとの同期が完了したことを判定するために、実験的に或いは設計的に予め定められた判定値である。
【0048】
同期判定部92fにより同期が完了していないと判定されると、始動制御部92dは、エンジン12の始動制御の実行を継続する。エンジン12の始動制御において、始動制御部92dは、回転差算出部92eにより算出された第2回転差ΔN2に基づいて、エンジン12及び電動機MGを制御する。例えば、始動制御部92dは、第2回転差ΔN2に基づいて、クラッチ制御部94によるK0クラッチ20の係合状態への切り替えに合わせて、電動機MGがエンジン12へ出力する必要クランキングトルクTcrn(クランキング反力トルクTrfcr、K0トルクTk0と同値)を制御する。
【0049】
ここで、期間Tを、実際の回転差ΔN0と第2回転差ΔN2との間の乖離(符号が逆となる正負反転)に起因して電動機MGから誤調整されたトルクが出力されて第2回転差ΔN2が正負反転する場合における、正値又は負値の継続期間とする。以下、この期間Tを、「正負反転の期間T」と記す場合がある。好適には、始動制御部92dは、第2回転差ΔN2が予め定められた所定の判定期間Tjdg[ms]よりも期間Tが短い場合には、電動機MGからエンジン12へK0トルクTk0を出力しないようにする。なお、所定の判定期間Tjdgは、ダンパー42や車両10の走行状態の影響(例えば、ダンパー42の振動)でしか発生しないような期間Tであることを判定するための判定値であって、実験的に或いは設計的に予め定められた値である。
【0050】
同期判定部92fにより同期が完了したと判定されると、始動制御部92dは、エンジン12の始動制御を終了し、ハイブリッド制御部92は、エンジン始動時以外の通常時のハイブリッド制御を実行する。
【0051】
図2は、
図1に示す電子制御装置90の制御作動を説明するフローチャートの一例である。
図2のフローチャートは、車両走行中でのエンジン12の始動制御の実行中に繰り返し実行される。
【0052】
まず、回転差算出部92eの機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、第1回転差ΔN1及び第2回転差ΔN2が算出される。
次に、同期判定部92fの機能に対応するS20において第1回転差ΔN1に基づいてエンジン始動時における同期判定が実行され、同期判定部92fの機能に対応するS30において同期が完了したか否かが判定される。
【0053】
S30の判定が否定された場合は、始動制御部92dの機能に対応するS40において第2回転差ΔN2に基づいてエンジン始動時における電動機MGの出力トルク制御が実行され、そしてリターンとなる。S30の判定が肯定された場合は、リターンとなる。
【0054】
図3は、
図2のフローチャートが実行された場合におけるタイムチャートの一例である。
図3の横軸は、時間t[ms]である。
【0055】
図3では、電動機回転速度Nmgとエンジン回転速度Neとから算出された回転差について、実際の回転差ΔN0が細い実線で示され、第1回転差ΔN1が破線で示され、第2回転差ΔN2が太い実線で示されている。
【0056】
時刻t0において、早期点火始動方式により、エンジン12に燃料が噴射されて点火されその燃焼が継続している状態(例えばアイドリング状態)であって、K0クラッチ20が一旦解放状態とされている。
【0057】
時刻t1(>t0)において、K0クラッチ20の再係合に先立って、電動機MGからエンジン12側へ伝達する必要クランキングトルクTcrnを担保するために、K0トルクTk0の出力上昇が開始される。時刻t1から時刻t2(>t1)までの期間においてK0トルクTk0が上昇させられ、時刻t2において電動機MGから必要クランキングトルクTcrnが担保された状態となる。
【0058】
時刻t2において、K0クラッチ20を再係合させる係合制御が開始される。これにより、時刻t2から時刻t3までの期間において、電動機回転速度Nmgに向けてエンジン回転速度Neの上昇が開始される。
【0059】
時刻t3(>t2)において、実際のエンジン回転速度Neが電動機回転速度Nmgと同値、すなわち実際の回転差ΔN0が零値となるが、回転差ΔN0に対して第2回転差ΔN2は遅延しているため、第2回転差ΔN2は負値である。この負値である第2回転差ΔN2に基づいて電動機MGから出力されるK0トルクTk0が調整されるため、時刻t3と時刻t4との間で正値であるK0トルクTk0が誤調整されて出力される。この正値であるK0トルクTk0が出力されている期間は、実際の回転差ΔN0が正値となっているため、ダンパー42の振動が助長される。この誤調整は、第2回転差ΔN2が算出される際に、センサ(エンジン回転速度センサ70やタービン回転速度センサ72)から電子制御装置90までの通信時間、第2回転差ΔN2の算出時間、及び電子制御装置90からインバータ52経由での電動機MGへの制御指示から制御開始までの応答時間などの遅延が原因である。すなわち、この遅延により、電子制御装置90によって指示されたK0トルクTk0が電動機トルクTmgに反映されるまでに、実際の回転差ΔN0が反転してしまい、実際の回転差ΔN0に対して正負逆の制御となってしまうのが原因である。
【0060】
時刻t4(>t3)において、実際のエンジン回転速度Neが電動機回転速度Nmgと同値、すなわち実際の回転差ΔN0が零値となるが、回転差ΔN0に対して第2回転差ΔN2は遅延しているため、第2回転差ΔN2は正値である。この正値である第2回転差ΔN2に基づいて時刻t4と時刻t5(>t4)との間で負値であるK0トルクTk0が誤調整されて出力される。この負値であるK0トルクTk0が出力されている期間は、実際の回転差ΔN0が負値となっているため、ダンパー42の振動が助長される。
【0061】
第2回転差ΔN2が負値から正値に切り替わった時刻tx(>t3)から、時刻tx以降において正値から負値に切り替わった時刻ty(>t4)まで、の期間Tが、所定の判定期間Tjdgよりも短いため、時刻tyにおいて短期間で正負が反転していると判定される。すなわち、第2回転差ΔN2の正負反転の期間Tが所定の判定期間Tjdgよりも短いか否かが判定される。第2回転差ΔN2の正負反転の期間Tが所定の判定期間Tjdgよりも短いと判定された時刻ty以降において、K0トルクTk0の出力が停止される、すなわちK0トルクTk0が零値とされる。
【0062】
時刻t5以降において、実際の回転差ΔN0及び第2回転差ΔN2が正値と負値との間でしばらく振動するが、次第に振動幅が減少していく。
【0063】
一方、時刻t2以降において、第1回転差ΔN1は、実際の回転差ΔN0の変化に遅れて負値から零値に向かって第2回転差ΔN2に比較して緩やかに変化している。時刻tp(>t5)において第1回転差ΔN1が同期判定幅の範囲内となり、時刻tq(>tp)において、第1回転差ΔN1が同期判定幅の範囲内である状態が所定期間Tcon継続したとして、同期が完了したと判定される。
(比較例1)
【0064】
図4は、比較例1に係るタイムチャートの一例である。前述の実施例では、同期判定は第1回転差ΔN1に基づいて行われ、電動機MGから出力されるK0トルクTk0は第2回転差ΔN2に基づいて調整されたが、本比較例では、同期判定も電動機MGから出力されるK0トルクTk0の調整も第2回転差ΔN2に基づいて行われる点が前述の実施例と異なる。また、本比較例では、第2回転差ΔN2の正負反転の期間Tが所定の判定期間Tjdgよりも短いと判定されてK0トルクTk0の出力が停止されることはない点が前述の実施例と異なる。そのため、
図3と異なる部分を中心に説明することとし、実質的に共通する部分には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0065】
図4では、電動機回転速度Nmgとエンジン回転速度Neとから算出された回転差について、実際の回転差ΔN0が細い実線で示され、第2回転差ΔN2が太い実線で示されている。
【0066】
時刻t5以降において、実際の回転差ΔN0が正値となっている期間に正値であるK0トルクTk0が出力されたり、実際の回転差ΔN0が負値となっている期間に負値であるK0トルクTk0が出力されたりするため、前述の実施例に比較してダンパー42の振動が更に助長される。すなわち、実際の回転差ΔN0と第2回転差ΔN2との乖離(符号の正負反転)によるK0トルクTk0の誤調整によりダンパー42の振動が助長される。このダンパー42の振動が助長されることにより、第2回転差ΔN2は収束しにくくなる。
【0067】
本比較例では、第2回転差ΔN2に基づいて同期判定が行われるため、前述の実施例に比較して第2回転差ΔN2が同期判定幅の範囲内である状態が所定期間Tcon継続しにくく同期が完了したとの判定が遅れやすい。したがって、本比較例では、前述の実施例に比較してエンジン始動制御の完了が遅れやすい。
(比較例2)
【0068】
図5は、比較例2に係るタイムチャートの一例である。前述の実施例では、同期判定は第1回転差ΔN1に基づいて行われ、電動機MGから出力されるK0トルクTk0は第2回転差ΔN2に基づいて調整されたが、本比較例では、同期判定も電動機MGから出力されるK0トルクTk0の調整も第1回転差ΔN1に基づいて行われる点が前述の実施例と異なる。また、本比較例では、第1回転差ΔN1(前述の実施例では、第2回転差ΔN2)の正負反転の期間Tが所定の判定期間Tjdgよりも短いと判定されてK0トルクTk0の出力が停止されることはない点が前述の実施例と異なる。そのため、
図3と異なる部分を中心に説明することとし、実質的に共通する部分には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0069】
図5では、電動機回転速度Nmgとエンジン回転速度Neとから算出された回転差について、実際の回転差ΔN0が実線で示され、第1回転差ΔN1が破線で示されている。また、K0トルクTk0について、本比較例が実線で示され、前述の実施例についてのものが参考として破線で示されている。
【0070】
時刻t3において、実際のエンジン回転速度Neが電動機回転速度Nmgと同値となる。前述の実施例における第2回転差ΔN2に比較すると、第1回転差ΔN1は実際の回転差ΔN0の変化に遅れて負値から零値に向かって緩やかに変化するため、時刻t3以降も第1回転差ΔN1が負値である状態が継続する。この負値である第1回転差ΔN1に基づいて電動機MGから出力されるK0トルクTk0が調整されるため、時刻t3以降の期間(時刻t3から時刻tvまでの期間)において正値であるK0トルクTk0が出力され続ける。この時刻t3から時刻tv(>t3)までの期間のうち時刻tu(t3<tu<tv)から時刻tvまでの期間については、前述の実施例におけるK0トルクTk0に比較すると、必要のないK0トルクTk0が出力されており、K0トルクTk0が過大となっている。すなわち、実際の回転差ΔN0と第1回転差ΔN1との差(絶対値)によるK0トルクTk0の誤調整によりK0トルクTk0が過大となっており、この過大なK0トルクTk0によりダンパー42の振動が助長されてしまうこととなる。本比較例では、前述の実施例に比較して過大なK0トルクTk0のために時刻t3以降のエンジン回転速度Ne及び電動機回転速度Nmgの上昇幅が大きくなりやすい。
【0071】
本実施例によれば、(a)K0クラッチ20が係合されて電動機MGによるクランキングによってエンジン12が始動される場合に、エンジン12と電動機MGとの同期を判定するためのエンジン回転速度Neと電動機回転速度Nmgとの第1回転差ΔN1が逐次算出され、(b)エンジン12が始動される場合における電動機MGの出力トルク制御に用いるためのエンジン回転速度Neと電動機回転速度Nmgとの第2回転差ΔN2が逐次算出され、(c)第1回転差ΔN1は、第2回転差ΔN2よりもなまし度合を大きくされている。エンジン12と電動機MGとの同期を判定するための第1回転差ΔN1のなまし度合が電動機MGの出力トルク制御に用いるための第2回転差ΔN2のなまし度合よりも大きい場合には、そうでない場合に比較して実際の回転差ΔN0と同期の判定に用いられる回転差との間の乖離(符号の正負反転)が抑制されて電動機MGから誤調整されたトルクが出力されることが抑制される。これにより、エンジン12が始動される場合における同期の判定に用いられる第1回転差ΔN1の収束の遅れが抑制されることで、エンジン始動制御の完了の遅れが抑制される。また、エンジン12が始動される場合における電動機MGの出力トルク制御に用いる第2回転差ΔN2のなまし度合がエンジン12と電動機MGとの同期を判定するための第1回転差ΔN1のなまし度合よりも小さい場合には、そうでない場合に比較して実際の回転差ΔN0と電動機MGの出力トルク制御に用いる第2回転差ΔN2との差(絶対値)が小さくなる。これにより、クランキング反力トルクTrfcrとして電動機MGからK0クラッチ20を介してエンジン12に伝達されるトルク、すなわちK0トルクTk0が過大となることが抑制される。
【0072】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0073】
前述の実施例では、第2回転差ΔN2が用いられたのはエンジン12が始動される場合における電動機MGの出力トルク制御であったが、これに限らず、第2回転差ΔN2は同期の判定以外の制御に用いられる態様であっても良い。
【0074】
前述の実施例では、実際の回転差ΔN0(=Nmg-Ne)を算出した後に、この回転差ΔN0の移動平均を逐次算出する態様であったが、例えばエンジン回転速度Ne及び電動機回転速度Nmgのそれぞれの移動平均を逐次算出した後に、電動機回転速度Nmgの移動平均からエンジン回転速度Neの移動平均を逐次減算する態様であっても良い。要は、最終的に逐次算出される第1回転差ΔN1及び第2回転差ΔN2について、第1回転差ΔN1が第2回転差ΔN2よりもなまし度合が大きくなっていれば良い。
【0075】
前述の実施例では、第2回転差ΔN2の正負反転の期間Tが所定の判定期間Tjdgよりも短いと判定されるとK0トルクTk0の出力が停止される態様であったが、本発明は、K0トルクTk0の出力の停止が必ずしも行われなくても良い。K0トルクTk0の出力の停止が行われなくとも、エンジン12と電動機MGとの同期を判定するために第1回転差ΔN1が用いられることで、第2回転差ΔN2が用いられる場合に比較してエンジン12が始動される場合における同期の判定に用いられる第1回転差ΔN1の収束の遅れが抑制されることで、エンジン始動制御の完了の遅れが抑制される。
【0076】
前述の実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ22が用いられたが、この態様に限らない。例えば、流体式伝動装置として、トルクコンバータ22に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。また、流体式伝動装置は、必ずしも備えられている必要はなく、例えば発進用のクラッチに置き換えられても良い。
【0077】
なお、上述したのはあくまでも本発明の実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0078】
10:ハイブリッド車両
12:エンジン
20:K0クラッチ(クラッチ)
90:電子制御装置(制御装置)
MG:電動機
Ne:エンジン回転速度
Nmg:電動機回転速度
ΔN1:第1回転差
ΔN2:第2回転差
τ,τ1-τ2:移動平均期間(なまし度合)