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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20241203BHJP
   B41J 2/175 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
B41J2/14
B41J2/14 605
B41J2/175 111
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021049409
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022147931
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鐘ヶ江 貴公
(72)【発明者】
【氏名】大久保 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】村上 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】冨松 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】小林 大記
(72)【発明者】
【氏名】植澤 晴久
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-217516(JP,A)
【文献】特開2017-019153(JP,A)
【文献】特開2019-188716(JP,A)
【文献】特開2013-193419(JP,A)
【文献】特開2010-194820(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0311956(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射する複数のノズルが設けられるノズル面を有するノズルプレートをそれぞれが有する複数のヘッドチップと、
前記複数のヘッドチップを保持する熱伝導性のホルダーと、
前記複数のヘッドチップとの間に前記ホルダーを介在させる位置に配置され、前記ノズル面に平行な方向に沿う面状のヒーターと、を備え、
前記ノズル面に沿って互いに交差する2つの方向を第1方向および第2方向とするとき、
前記複数のヘッドチップのそれぞれは、前記第1方向に沿って長尺であり、
前記複数のヘッドチップは、第1ヘッドチップおよび第2ヘッドチップを含み、
前記第1ヘッドチップおよび前記第2ヘッドチップは、前記第1方向および前記第2方向の双方に互いにずれて配置され、
面視で前記複数のヘッドチップの集合体に外接する仮想の長方形の4つの辺のうち、1つの辺を第1辺とし、前記第1辺の一端に接続される辺を第2辺とし、前記第1辺の他端に接続される辺を第3辺としたとき、
前記第1ヘッドチップは、前記平面視で前記第1辺および前記第3辺に接し、
前記第2ヘッドチップは、前記平面視で前記第2辺に接し、
前記ヒーターは、前記平面視で前記複数のヘッドチップに重なり、
前記平面視で前記第1辺と前記第2辺と前記第1ヘッドチップと前記第2ヘッドチップとで囲まれる第1領域は、前記ヒーターの外縁よりも外側に位置する第1外側部分を含む、
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記第1辺は、前記第1領域を画定する第1部分を有し、
前記第2辺は、前記第1領域を画定する第2部分を有し、
前記平面視で、前記ヒーターの前記外縁は、前記複数のヘッドチップを内包し、かつ、前記第1部分および前記第2部分の双方に交差する、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記平面視で、前記ヒーターの前記外縁と前記第1部分との交点は、前記第1部分の中点よりも前記第1ヘッドチップの近くに位置し、かつ、前記ヒーターの前記外縁と前記第2部分との交点は、前記第2部分の中点よりも前記第2ヘッドチップの近くに位置する、
ことを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記平面視での前記ホルダーの外形は、長方形または略長方形である、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記複数のヘッドチップを前記ホルダーに対して固定する固定板をさらに備え、
前記固定板は、前記ノズル面を露出させる開口部を有し、
前記平面視での前記固定板の外形は、長方形または略長方形である、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記ホルダーと前記ヒーターとの間に配置され、前記ホルダーよりも熱伝導率の高い第1伝熱部材をさらに備え、
前記平面視で、前記第1伝熱部材の外形は、前記ヒーターの外形とほぼ同じである、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記ホルダーには、前記複数のヘッドチップに供給される液体の流路が設けられ、
前記ホルダーは、金属またはセラミックスで構成される、
ことを特徴とする請求項6に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記複数のヘッドチップに供給される液体の流路が設けられる流路構造体をさらに備え、
前記ヒーターは、前記流路構造体と前記ホルダーとの間に配置される、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記ヒーターと前記流路構造体との間に配置され、前記流路構造体よりも熱伝導率の高い第2伝熱部材をさらに備え、
前記平面視で、前記第2伝熱部材および前記流路構造体のそれぞれは、前記第1外側部分に重なる、
ことを特徴とする請求項8に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項10】
前記流路構造体は、ステンレス鋼またはセラミックスで構成される、
ことを特徴とする請求項9に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項11】
前記複数のヘッドチップは、第3ヘッドチップおよび第4ヘッドチップを含み、
前記第3ヘッドチップおよび前記第4ヘッドチップは、前記第1方向および前記第2方向の双方に互いにずれて配置され、
前記仮想の長方形の4つの辺のうち、前記第1辺、前記第2辺および前記第3辺以外の辺を第4辺としたとき、
前記第3ヘッドチップは、前記平面視で前記第3辺に接し、
前記第4ヘッドチップは、前記平面視で前記第2辺および前記第4辺に接し、
前記平面視で前記第3辺と前記第4辺と前記第3ヘッドチップと前記第4ヘッドチップとで囲まれる第2領域は、前記ヒーターの前記外縁よりも外側に位置する第2外側部分を含む、
ことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項12】
前記第1領域の中心は、前記ヒーターの前記外縁の外側に位置する、
ことを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項13】
前記第1外側部分の面積は、前記第1領域の面積の1/4以上である、
ことを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドに供給する液体を貯留する液体貯留部と、を備える、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式のプリンターに代表される液体噴射装置には、一般に、インク等の液体を液滴として噴射する液体噴射ヘッドが設けられる。例えば、特許文献1に記載のヘッドは、千鳥状に配置される複数のヘッドチップと、当該複数のヘッドチップを保持する矩形のホルダーと、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-19153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では紫外線硬化型インクのような高粘度の液体を吐出するためにヘッド内にヒーターを配置する場合がある。そして、特許文献1に記載のような複数のヘッドチップの配列方向と交差する方向において互いにずれたヘッドチップを含むヘッドに対して、省電力かつ効果的にヘッドをヒーターで加熱することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明の好適な態様に係る液体噴射ヘッドは、液体を噴射するノズルが設けられるノズル面を有する複数のヘッドチップと、前記複数のヘッドチップを保持する熱伝導性のホルダーと、前記複数のヘッドチップとの間に前記ホルダーを介在させる位置に配置され、前記ノズル面に平行な方向に沿う面状のヒーターと、を備え、前記ノズル面に沿って互いに交差する2つの方向を第1方向および第2方向とするとき、前記複数のヘッドチップのそれぞれは、前記第1方向に沿って長尺であり、前記複数のヘッドチップは、第1ヘッドチップおよび第2ヘッドチップを含み、前記第1ヘッドチップおよび前記第2ヘッドチップは、前記第1方向および前記第2方向の双方に互いにずれて配置され、前記平面視で前記複数のヘッドチップの集合体に外接する仮想の長方形の4つの辺のうち、1つの辺を第1辺とし、前記第1辺の一端に接続される辺を第2辺とし、前記第1辺の他端に接続される辺を第3辺としたとき、前記第1ヘッドチップは、前記平面視で前記第1辺および前記第3辺に接し、前記第2ヘッドチップは、前記平面視で前記第2辺に接し、前記ヒーターは、前記平面視で前記複数のヘッドチップに重なり、前記平面視で前記第1辺と前記第2辺と前記第1ヘッドチップと前記第2ヘッドチップとで囲まれる第1領域は、前記ヒーターの外縁よりも外側に位置する第1外側部分を含む。
【0006】
本発明の好適な態様に係る液体噴射装置は、前述の態様の液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドに供給する液体を貯留する液体貯留部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態に係る液体噴射装置の構成例を示す概略図である。
図2】第1実施形態に係る液体噴射ヘッドおよび支持体の斜視図である。
図3】第1実施形態に係る液体噴射ヘッドの分解斜視図である。
図4図2中のA-A線断面図である。
図5図2中のB-B線断面図である。
図6】ヘッドチップの一例を示す断面図である。
図7】第1実施形態におけるホルダーの下面図である。
図8】第1実施形態におけるホルダーの上面図である。
図9】第1実施形態におけるホルダーの保持部の形状を説明するための図である。
図10】第1実施形態におけるヒーターおよび伝熱部材の形状を説明するための図である。
図11】第1実施形態におけるヒーターからの熱の伝達経路を説明するための図である。
図12】第2実施形態に係る液体噴射ヘッドの分解斜視図である。
図13】第3実施形態におけるヒーターからの熱の伝達経路を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態を説明する。なお、図面において各部の寸法および縮尺は実際と適宜に異なり、理解を容易にするために模式的に示している部分もある。また、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られない。
【0009】
以下の説明は、便宜上、互いに交差するX軸、Y軸およびZ軸を適宜に用いて行う。また、以下の説明では、X軸に沿う一方向がX1方向であり、X1方向と反対の方向がX2方向である。同様に、Y軸に沿って互いに反対の方向がY1方向およびY2方向である。また、Z軸に沿って互いに反対の方向がZ1方向およびZ2方向である。また、Z軸方向にみることを単に「平面視」という場合がある。なお、Y1方向またはY2方向は、「第1方向」の一例である。X1方向またはX2方向は、「第2方向」の一例である。
【0010】
ここで、典型的には、Z軸が鉛直な軸であり、Z2方向が鉛直方向での下方向に相当する。ただし、Z軸は、鉛直な軸でなくともよい。また、X軸、Y軸およびZ軸は、典型的には互いに直交するが、これに限定されず、例えば、80°以上100°以下の範囲内の角度で交差すればよい。
【0011】
1.第1実施形態
1-1.液体噴射装置の概略構成
図1は、第1実施形態に係る液体噴射装置100の構成例を示す概略図である。液体噴射装置100は、「液体」の一例であるインクを液滴として媒体Mに噴射するインクジェット方式の印刷装置である。媒体Mは、典型的には印刷用紙である。なお、媒体Mは、印刷用紙に限定されず、例えば、樹脂フィルムまたは布帛等の任意の材質の印刷対象でもよい。
【0012】
図1に示すように、液体噴射装置100は、液体貯留部10と制御ユニット20と搬送機構30と移動機構40と液体噴射ヘッド50とを有する。
【0013】
液体貯留部10は、インクを貯留する容器である。液体貯留部10の具体的な態様としては、例えば、液体噴射装置100に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、および、インクを補充可能なインクタンク等の容器が挙げられる。
【0014】
図示しないが、液体貯留部10は、互いに種類の異なるインクを貯留する複数の容器を有する。当該複数の容器に貯留されるインクとしては、特に限定されないが、例えば、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインク、クリアインク、ホワイトインクおよび処理液等が挙げられ、これらのうちの2種以上の組み合わせが用いられる。なお、インクの組成は、特に限定されず、例えば、染料または顔料等の色材を水系溶媒に溶解させた水系インクでもよいし、色材を有機溶剤に溶解させた溶剤系インクでもよいし、紫外線硬化型インクでもよい。
【0015】
本実施形態では、互いに異なる4種類のインクが用いられる構成が例示される。当該4種類のインクは、例えば、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクおよびブラックインクのような互いに色の異なるインクである。
【0016】
制御ユニット20は、液体噴射装置100の各要素の動作を制御する。例えば、制御ユニット20は、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の処理回路と半導体メモリー等の記憶回路とを含む。制御ユニット20は、駆動信号Dおよび制御信号Sを液体噴射ヘッド50に向けて出力する。駆動信号Dは、液体噴射ヘッド50の駆動素子を駆動する駆動パルスを含む信号である。制御信号Sは、当該駆動素子に駆動信号Dを供給するか否かを指定する信号である。
【0017】
搬送機構30は、制御ユニット20による制御のもとで、媒体MをY1方向である搬送方向DMに搬送する。移動機構40は、制御ユニット20による制御のもとで、液体噴射ヘッド50をX1方向とX2方向とに往復させる。図1に示す例では、移動機構40は、液体噴射ヘッド50を収容するキャリッジと称される略箱型の支持体41と、支持体41が固定される搬送ベルト42と、を有する。なお、支持体41には、液体噴射ヘッド50のほかに、前述の液体貯留部10が搭載されてもよい。
【0018】
液体噴射ヘッド50は、後述するように複数のヘッドチップ54を有しており、制御ユニット20による制御のもとで、液体貯留部10から供給されるインクを各ヘッドチップ54の複数のノズルのそれぞれから媒体Mに向けて噴射方向であるZ2方向に噴射する。この噴射が搬送機構30による媒体Mの搬送と移動機構40による液体噴射ヘッド50の往復移動とに並行して行われることにより、媒体Mの表面にインクによる所定の画像が形成される。
【0019】
なお、液体貯留部10は、循環機構を介して液体噴射ヘッド50に接続されてもよい。当該循環機構は、液体噴射ヘッド50にインクを供給するとともに、液体噴射ヘッド50から排出されるインクを液体噴射ヘッド50への再供給のために回収する機構である。当該循環機構の動作により、インクの粘度上昇を抑えたり、インク内の気泡の滞留を低減したりすることができる。
【0020】
1-2.液体噴射ヘッドの取付状態
図2は、第1実施形態に係る液体噴射ヘッド50および支持体41の斜視図である。図2に示すように、液体噴射ヘッド50は、支持体41に支持される。支持体41は、液体噴射ヘッド50を支持する部材であり、前述のように、本実施形態では、略箱状のキャリッジである。支持体41の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、チタンまたはマグネシウム合金等の金属材料を用いることが好ましい。支持体41を金属材料で構成する場合、支持体41の剛性を高めやすいので、支持体41に対して液体噴射ヘッド50を安定的に支持することができる。また、この場合、支持体41が導電性を有するので、支持体41を介して液体噴射ヘッド50に基準電位を供給することができる。
【0021】
ここで、支持体41には、開口41aおよび複数のネジ孔41bが設けられる。本実施形態では、支持体41が板状の底部を有する略箱状をなしており、例えば、当該底部に開口41aおよび複数のネジ孔41bが設けられる。液体噴射ヘッド50は、開口41aに挿入された状態で、複数のネジ孔41bを用いたネジ止めにより支持体41に固定される。以上のように、液体噴射ヘッド50は、支持体41に対して取り付けられる。
【0022】
図2に示す例では、支持体41に取り付けられる液体噴射ヘッド50の数が1個である。なお、支持体41に取り付けられる液体噴射ヘッド50の数は、2個以上でもよい。この場合、支持体41には、例えば、当該数に応じた数または形状の開口41aが適宜に設けられる。
【0023】
1-3.液体噴射ヘッドの構成
図3は、第1実施形態に係る液体噴射ヘッド50の分解斜視図である。図4は、図2中のA-A線断面図である。図5は、図2中のB-B線断面図である。なお、図3から図5では、便宜上、液体噴射ヘッド50の各部が適宜に簡略的に示される。例えば、後述の図11に示すように、外壁部5bと流路構造体51との間には間隔d2の隙間が設けられるが、図4および図5では、作図の便宜上、当該隙間の図示が省略される。
【0024】
図3に示すように、液体噴射ヘッド50は、流路構造体51と基板ユニット52とホルダー53と4個のヘッドチップ54_1~54_4と固定板55とヒーター56と伝熱部材57とカバー58とを有する。これらは、Z2方向に向かって、カバー58、基板ユニット52、流路構造体51、伝熱部材57、ヒーター56、ホルダー53、4個のヘッドチップ54、固定板55の順に並ぶように配置される。以下、液体噴射ヘッド50の各部を順次説明する。
【0025】
なお、伝熱部材57は、「第2伝熱部材」の一例である。また、ヘッドチップ54_1~54_4のそれぞれは、図1に示すヘッドチップ54である。ここで、ヘッドチップ54_1は、「第1ヘッドチップ」の一例である。ヘッドチップ54_2は、「第2ヘッドチップ」の一例である。ヘッドチップ54_3は、「第3ヘッドチップ」の一例である。ヘッドチップ54_4は、「第4ヘッドチップ」の一例である。以下では、ヘッドチップ54_1~54_4を区別しない場合、これらのチップのそれぞれがヘッドチップ54と表記される。
【0026】
流路構造体51は、前述の液体貯留部10に貯留されたインクを4個のヘッドチップ54に供給するための流路が内部に設けられる構造体である。流路構造体51は、流路部材51aと8個の接続管51bとを有する。
【0027】
流路部材51aには、図示しないが、4種類のインクの種類ごとに設けられる4つの供給流路と、4種類のインクの種類ごとに設けられる4つの排出流路と、が設けられる。当該4つの供給流路のそれぞれは、インクの供給を受ける1つの導入口と、インクを排出する2つの排出口と、を有する。当該4つの排出流路のそれぞれは、インクの供給を受ける2つの導入口と、インクを排出する1つの排出口と、を有する。各供給流路の導入口および各排出流路の排出口のそれぞれは、流路部材51aのZ1方向を向く面に設けられる。これに対し、各供給流路の排出口および各排出流路の導入口のそれぞれは、流路部材51aのZ2方向を向く面に設けられる。
【0028】
また、流路部材51aには、複数の配線孔51cが設けられる。当該複数の配線孔51cのそれぞれは、ヘッドチップ54の後述の配線基板54iが基板ユニット52に向けて通される孔である。なお、流路部材51aの側面には、周方向での2箇所に切り欠いた部分が設けられる。当該部分による空間には、例えば、ヒーター56と基板ユニット52とを接続する図示しない配線等の部品が配置される。また、流路部材51aには、図示しない孔が設けられており、ホルダー53に対して当該孔を用いたネジ止めにより固定される。
【0029】
流路部材51aは、図示しないが、複数の基板をZ軸に沿う方向に積層した積層体で構成される。当該複数の基板のそれぞれには、前述の供給流路および排出流路のための溝および孔が適宜に設けられる。当該複数の基板は、例えば、接着剤、ろう付け、溶接またはネジ止め等により互いに接合される。なお、当該複数の基板の間には、必要に応じて、ゴム材料等で構成されるシート状のシール部材が適宜に配置されてもよい。また、流路部材51aを構成する基板の数または厚さ等は、供給流路および排出流路の形状等の態様に応じて決められ、特に限定されず、任意である。
【0030】
当該複数の基板のそれぞれの構成材料としては、熱伝導性の良好な材料を用いることが好ましく、例えば、室温(20℃)での熱伝導率が10.0W/m・K以上である、ステンレス鋼、チタンおよびマグネシウム合金等の金属材料、または、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、サファイア、アルミナ、窒化珪素、サーメットおよびイットリア等のセラミックス材料を用いることが好ましい。このような金属材料またはセラミックス材料を用いて流路部材51aを構成することにより、ヒーター56からの熱で流路部材51a内のインクを効率的に加熱することができる。
【0031】
8個の接続管51bのそれぞれは、流路部材51aのZ1方向を向く面から突出する管体である。8個の接続管51bは、前述の4つの供給流路と4つの排出流路とに対応しており、対応する供給流路の導入口または排出流路の排出口に接続される。各接続管51bの構成材料としては、特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼、チタンおよびマグネシウム合金等の金属材料、または、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、サファイア、アルミナ、窒化珪素、サーメットおよびイットリア等のセラミックス材料を用いることが好ましい。
【0032】
以上の8個の接続管51bのうち、前述の4つの供給流路に対応する4個の接続管51bには、互いに異なる種類のインクの供給を受けるよう、前述の液体貯留部10に接続される。一方、8個の接続管51bのうち、前述の4つの排出流路に対応する4個の接続管51bは、液体噴射ヘッド50へのインクの初期充填時等の所定時にインクを排出するための排出容器または液体貯留部10と液体噴射ヘッド50との間に配置され液体を保持可能なサブタンク等に接続して用いられる。印刷時等の通常時には、前述の4つの排出流路に対応する4個の接続管51bは、キャップ等の封止体により塞がれる。なお、液体貯留部10が循環機構を介して液体噴射ヘッド50に接続される場合、4つの排出流路に対応する4個の接続管51bは、通常時に、当該循環機構のインク回収用の流路に接続される。
【0033】
基板ユニット52は、液体噴射ヘッド50を制御ユニット20に電気的に接続するための実装部品を有するアセンブリーである。基板ユニット52は、回路基板52aとコネクター52bと支持板52cとを有する。
【0034】
回路基板52aは、各ヘッドチップ54とコネクター52bとを電気的に接続するための配線を有するリジッド配線基板等のプリント配線基板である。回路基板52aは、支持板52cを介して流路構造体51上に配置されており、回路基板52aのZ1方向を向く面には、コネクター52bが設置される。
【0035】
コネクター52bは、液体噴射ヘッド50と制御ユニット20とを電気的に接続するための接続部品である。支持板52cは、回路基板52aを流路構造体51に対して取り付けるための板状の部材である。支持板52cの一方の面には、回路基板52aが載置されており、回路基板52aは、支持板52cに対してネジ止め等により固定される。また、支持板52cの他方の面は、流路構造体51に接触しており、その状態で、流路構造体51には、支持板52cがネジ止め等により固定される。
【0036】
ここで、支持板52cは、前述のように回路基板52aを支持する機能だけでなく、回路基板52aと流路構造体51との間の電気的な絶縁を確保したり、ヒーター56と回路基板52aとの間を断熱したりする機能をも有する。これらの機能を好適に発揮させる観点から、支持板52cの構成材料は、絶縁性および断熱性に優れる材料であることが好ましく、具体的には、例えば、ザイロン等の変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリプロピレン樹脂等の樹脂材料であることが好ましい。なお、ザイロンは、商標登録である。また、支持板52cの構成材料には、樹脂材料のほか、ガラス繊維等の繊維基材、またはアルミナ粒子等のフィラー等が含まれてもよい。
【0037】
ホルダー53は、4個のヘッドチップ54を収容および支持する構造体である。ホルダー53の構成材料としては、熱伝導性の良好な材料を用いることが好ましく、例えば、室温(20℃)での熱伝導率が10.0W/m・K以上である、ステンレス鋼、チタンおよびマグネシウム合金等の金属材料、または、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、サファイア、アルミナ、窒化珪素、サーメットおよびイットリア等のセラミックス材料を用いることが好ましい。このような金属材料またはセラミックス材料を用いてホルダー53を構成することにより、ヒーター56からの熱を、ホルダー53を介して各ヘッドチップ54に効率的に伝達することができる。
【0038】
ホルダー53は、略トレイ状をなしており、凹部53aと複数のインク孔53bと複数の配線孔53cと複数の凹部53dと複数のネジ孔53iと複数のネジ孔53kとを有する。凹部53aは、Z1方向に向けて開口しており、前述の流路部材51aとヒーター56と伝熱部材57との積層体が配置される空間である。当該複数のインク孔53bのそれぞれは、ヘッドチップ54と流路構造体51との間でインクを流通させる流路である。当該複数の配線孔53cのそれぞれは、ヘッドチップ54の配線基板54iが基板ユニット52に向けて通される孔である。当該複数の凹部53dのそれぞれは、Z2方向に向けて開口しており、ヘッドチップ54が配置される空間である。当該複数のネジ孔53iは、ホルダー53を支持体41に対してネジ止めするためのネジ孔である。当該複数のネジ孔53kは、ホルダー53に対してカバー58をネジ止めするためのネジ孔である。なお、ホルダー53の詳細については、後述の図7から図9に基づいて説明する。
【0039】
各ヘッドチップ54は、インクを噴射する。各ヘッドチップ54は、第1インクを噴射する複数のノズルと、第1インクとは異なる種類の第2インクを噴射する複数のノズルと、を有する。ここで、第1インクおよび第2インクは、前述の4種類のインクのうちの2種のインクである。例えば、ヘッドチップ54_1およびヘッドチップ54_2のそれぞれには、第1インクおよび第2インクとして当該4種類のインクのうちの2種のインクが用いられる。そして、ヘッドチップ54_3およびヘッドチップ54_4のそれぞれには、当該4種類のインクのうちの残りの2種のインクが用いられる。各ヘッドチップ54には、配線基板54iが設けられる。なお、図3では、各ヘッドチップ54の構成が簡略化して図示される。ヘッドチップ54の構成については、後述の図6に基づいて詳述する。
【0040】
固定板55は、4個のヘッドチップ54とホルダー53とが固定された板状部材である。具体的には、固定板55は、ホルダー53との間に4個のヘッドチップ54を挟む状態で配置され、各ヘッドチップ54およびホルダー53が接着剤等により固定される。
【0041】
固定板55には、4個のヘッドチップ54のノズル面FNを露出させる複数の開口部55aが設けられる。図3に示す例では、当該複数の開口部55aは、ヘッドチップ54ごとに個別に設けられる。固定板55は、例えば、ステンレス鋼、チタンおよびマグネシウム合金等の金属材料等で構成されており、ホルダー53から各ヘッドチップ54に熱を伝達する機能を有する。また、固定板55は導電性を有する。そのため、固定板55は、ホルダー53および支持体41を介して接地されており、媒体Mからの静電気等の影響を防ぐための静電シールドとしても機能する。なお、固定板55は、複数の金属材料から成る板状部材が積層されて構成されていてもよい。
【0042】
以上の固定板55の外形は、平面視で長方形または略長方形である。ここで、「略長方形」とは、実質的に長方形といえる形状と長方形に類似した形状とを含む概念である。実質的に長方形といえる形状は、例えば、長方形の4つの角部をC面取りまたはR面取り等の面取りにより得られる形状である。長方形に類似した形状は、例えば、長方形に沿う4つの辺と当該4つの辺のそれぞれよりも短い4つの辺とを含む8角形のような形状である。なお、開口部55aは、2個以上のヘッドチップ54で共用される態様でもよい。ただし、開口部55aがヘッドチップ54ごとに個別に設けられる場合、固定板55と各ヘッドチップ54との接触面積を大きくしやすいので、ホルダー53から各ヘッドチップ54に熱を効率的に伝達することができる。
【0043】
ヒーター56は、流路構造体51とホルダー53との間に配置される面状のヒーターである。ヒーター56は、例えば、絶縁性のフィルムと、薄膜状の発熱抵抗体と、を有するフィルムヒーターである。当該フィルムは、例えば、ポリイミドまたはPET(ポリエチレンテレフタラート)等の樹脂材料で構成される。当該発熱抵抗体は、当該フィルム上にパターニングされ、例えば、ステンレス鋼や銅又はニッケル合金等の金属材料で構成される。また、ヒーター56は、ガラス繊維入りシリコーンゴムの間に発熱体を挟んだシリコーンラバーヒーターやセラミックヒーター等の面状のヒーターでもよい。
【0044】
ヒーター56には、複数の孔56aと複数の孔56bとが設けられる。当該複数の孔56aのそれぞれは、ヘッドチップ54の配線基板54iと、ホルダー53に形成された流路管53lとが通される孔である。流路管53lの内部に形成されたインク孔53bは、ヘッドチップ54と流路構造体51との間でインクを流通させる流路の一部である。流路管53lは、例えば、ホルダー53のZ1方向を向く上面(後述する第1面F1)からZ1方向へ突出する。そして、流路管53lのZ1方向側の先端が流路構造体の51のZ2方向を向く下面に接着されることで、インク孔53bは流路構造体51の内部の流路と液密にシールされている。当該複数の孔56bのそれぞれは、ヒーター56をホルダー53に対してネジ止めするための孔である。なお、ヒーター56の平面視形状については、後述の図10に基づいて詳述する。
【0045】
伝熱部材57は、熱伝導性を有し、流路構造体51とヒーター56との間に配置される板状の部材である。伝熱部材57は、厚さ方向および面方向のそれぞれに熱を伝達する機能を有する。当該機能により、ヒーター56からの熱が伝熱部材57を介して流路構造体51に効率的に伝達される。ここで、伝熱部材57の面方向での伝熱により、ヒーター56の発熱分布に起因する流路構造体51の加熱ムラが低減される。
【0046】
伝熱部材57は、例えば、金属材料または炭化ケイ素、窒化アルミニウム、サファイア、アルミナ、窒化珪素、サーメットおよびイットリア等のセラミックスのような熱伝導性の材料で構成される。当該金属材料としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、チタンおよびマグネシウム合金等が挙げられる。伝熱部材57は、流路構造体51やホルダー53に対して熱伝導率が高い材料であるのが好ましい。このような熱伝導率の高い伝熱部材57を備えることにより、ヒーター56からの熱をノズル面FNに平行な方向へ移動しやすくするため、ヒーター56からの熱が伝熱部材57を介して加熱対象物である流路構造体51に均一且つ効率的に伝達することができる。
【0047】
伝熱部材57には、複数の孔57aと複数の配線孔57bと複数の孔57cとが設けられる。当該複数の孔57aのそれぞれは、前述の流路管53lが挿通される孔である。当該複数の配線孔57bのそれぞれは、ヘッドチップ54の配線基板54iが基板ユニット52に向けて通される孔である。当該複数の孔57cは、伝熱部材57をホルダー53に対してネジ止めするための孔である。本実施形態では、当該複数の孔57cのうちの2つの孔57cがヒーター56および伝熱部材57を共締めによりホルダー53に固定するのに用いられる。なお、伝熱部材57の平面視形状については、後述の図10に基づいて詳述する。
【0048】
カバー58は、基板ユニット52を収容する箱状の部材である。カバー58は、例えば、前述の支持板52cと同様、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリプロピレン樹脂等の樹脂材料で構成される。
【0049】
カバー58には、8個の貫通孔58aと開口部58bとが設けられる。当該8個の貫通孔58aは、流路構造体51の8個の接続管51bに対応しており、各貫通孔58aには、対応する接続管51bが挿入される。開口部58bには、カバー58の内側から外側に前述のコネクター52bが通される。
【0050】
1-4.ヘッドチップの構成
図6は、ヘッドチップ54の一例を示す断面図である。図6に示すように、ヘッドチップ54は、Y軸に沿う方向に配列される複数のノズルNを有する。当該複数のノズルNは、X軸に沿う方向に互いに間隔をあけて並ぶ第1列L1と第2列L2とに区分される。第1列L1および第2列L2のそれぞれは、Y軸に沿う方向に直線状に配列される複数のノズルNの集合である。
【0051】
ヘッドチップ54は、X軸に沿う方向で互いに略対称な構成である。ただし、第1列L1の複数のノズルNと第2列L2の複数のノズルNとのY軸に沿う方向での位置は、互いに一致してもよいし異なってもよい。図6では、第1列L1の複数のノズルNと第2列L2の複数のノズルNとのY軸に沿う方向での位置が互いに一致する構成が例示される。
【0052】
図6に示すように、ヘッドチップ54は、流路基板54aと圧力室基板54bとノズル板54cと吸振体54dと振動板54eと複数の圧電素子54fと保護板54gとケース54hと配線基板54iと駆動回路54jとを有する。
【0053】
流路基板54aおよび圧力室基板54bは、この順でZ1方向に積層されており、複数のノズルNにインクを供給するための流路を形成する。流路基板54aおよび圧力室基板54bからなる積層体よりもZ1方向に位置する領域には、振動板54eと複数の圧電素子54fと保護板54gとケース54hと配線基板54iと駆動回路54jとが設置される。他方、当該積層体よりもZ2方向に位置する領域には、ノズル板54cと吸振体54dとが設置される。ヘッドチップ54の各要素は、概略的にはY方向に長尺な板状部材であり、例えば接着剤により、互いに接合される。以下、ヘッドチップ54の各要素を順に説明する。
【0054】
ノズル板54cは、第1列L1および第2列L2のそれぞれの複数のノズルNが設けられた板状部材である。複数のノズルNのそれぞれは、インクを通過させる貫通孔である。ここで、ノズル板54cのZ2方向を向く面がノズル面FNである。つまり、ノズル面FNの法線方向は、ノズル面FNの法線ベクトルの方向であり、噴射方向であるZ2方向である。ノズル板54cは、例えば、ドライエッチングまたはウェットエッチング等の加工技術を用いる半導体製造技術によりシリコン単結晶基板を加工することにより製造される。ただし、ノズル板54cの製造には、他の公知の方法および材料が適宜に用いられてもよい。また、ノズルの断面形状は、典型的には円形状であるが、これに限定されず、例えば、多角形または楕円形等の非円形状であってもよい。
【0055】
流路基板54aには、第1列L1および第2列L2のそれぞれについて、空間R1と複数の供給流路Raと複数の連通流路Naとが設けられる。空間R1は、Z軸に沿う方向でみた平面視で、Y軸に沿う方向に延びる長尺状の開口である。供給流路Raおよび連通流路Naのそれぞれは、ノズルNごとに形成された貫通孔である。各供給流路Raは、空間R1に連通する。
【0056】
圧力室基板54bは、第1列L1および第2列L2のそれぞれについて、キャビティと称される複数の圧力室Cが設けられた板状部材である。複数の圧力室Cは、Y軸に沿う方向に配列される。各圧力室Cは、ノズルNごとに形成され、平面視でX軸に沿う方向に延びる長尺状の空間である。流路基板54aおよび圧力室基板54bそれぞれは、前述のノズル板54cと同様に、例えば、半導体製造技術によりシリコン単結晶基板を加工することにより製造される。ただし、流路基板54aおよび圧力室基板54bのそれぞれの製造には、他の公知の方法および材料が適宜に用いられてもよい。
【0057】
圧力室Cは、流路基板54aと振動板54eとの間に位置する空間である。第1列L1および第2列L2のそれぞれについて、複数の圧力室CがY軸に沿う方向に配列される。また、圧力室Cは、連通流路Naおよび供給流路Raのそれぞれに連通する。したがって、圧力室Cは、連通流路Naを介してノズルNに連通し、かつ、供給流路Raを介して空間R1に連通する。
【0058】
圧力室基板54bのZ1方向を向く面には、振動板54eが配置される。振動板54eは、弾性的に振動可能な板状部材である。振動板54eは、例えば、第1層と第2層とを有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。第1層は、例えば、酸化シリコン(SiO)で構成される弾性膜である。当該弾性膜は、例えば、シリコン単結晶基板の一方の面を熱酸化することにより形成される。第2層は、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)で構成される絶縁膜である。当該絶縁膜は、例えば、スパッタ法によりジルコニウムの層を形成し、当該層を熱酸化することにより形成される。なお、振動板54eは、前述の第1層および第2層の積層による構成に限定されず、例えば、単層で構成されてもよいし、3層以上で構成されてもよい。
【0059】
振動板54eのZ1方向を向く面には、第1列L1および第2列L2のそれぞれについて、互いにノズルNに対応する複数の圧電素子54fが駆動素子として配置される。各圧電素子54fは、駆動信号の供給により変形する受動素子である。各圧電素子54fは、平面視でX軸に沿う方向に延びる長尺状をなす。複数の圧電素子54fは、複数の圧力室Cに対応するようにY軸に沿う方向に配列される。圧電素子54fは、平面視で圧力室Cに重なる。
【0060】
各圧電素子54fは、図示しないが、第1電極と圧電体層と第2電極とを有し、この順でこれらがZ1方向に積層される。第1電極および第2電極のうちの一方の電極は、圧電素子54fごとに互いに離間して配置される個別電極であり、当該一方の電極には、駆動信号が印加される。第1電極および第2電極のうちの他方の電極は、複数の圧電素子54fにわたり連続するようにY軸に沿う方向に延びる帯状の共通電極であり、当該他方の電極には、所定の基準電位が供給される。これらの電極の金属材料としては、例えば、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、金(Au)、銅(Cu)等の金属材料が挙げられ、これらのうち、1種を単独でまたは2種以上を合金または積層等の態様で組み合わせて用いることができる。圧電体層は、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)等の圧電材料で構成されており、例えば、複数の圧電素子54fにわたり連続するようにY軸に沿う方向に延びる帯状をなす。ただし、圧電体層は、複数の圧電素子54fにわたり一体でもよい。この場合、圧電体層には、互いに隣り合う各圧力室Cの間隙に平面視で対応する領域に、当該圧電体層を貫通する貫通孔がX軸に沿う方向に延びて設けられる。以上の圧電素子54fの変形に連動して振動板54eが振動すると、圧力室C内の圧力が変動することで、インクがノズルNから吐出される。なお、駆動素子として、当該圧電素子54fに代えて、圧力室C内のインクを加熱する発熱素子を用いてもよい。
【0061】
保護板54gは、振動板54eのZ1方向を向く面に設置される板状部材であり、複数の圧電素子54fを保護するとともに振動板54eの機械的な強度を補強する。ここで、保護板54gと振動板54eとの間には、複数の圧電素子54fが収容される。保護板54gは、例えば、樹脂材料で構成される。
【0062】
ケース54hは、複数の圧力室Cに供給されるインクを貯留するためのケースである。ケース54hは、例えば、樹脂材料で構成される。ケース54hには、第1列L1および第2列L2のそれぞれについて、空間R2が設けられる。空間R2は、前述の空間R1に連通する空間であり、空間R1とともに、複数の圧力室Cに供給されるインクを貯留するリザーバーRとして機能する。ケース54hには、各リザーバーRにインクを供給するための導入口IOが設けられる。各リザーバーR内のインクは、各供給流路Raを介して圧力室Cに供給される。
【0063】
吸振体54dは、コンプライアンス基板とも称され、リザーバーRの壁面を構成する可撓性の樹脂フィルムであり、リザーバーR内のインクの圧力変動を吸収する。なお、吸振体54dは、金属製の可撓性を有する薄板であってもよい。吸振体54dのZ1方向を向く面は、流路基板54aに接着剤等により接合される。一方、吸振体54dのZ2方向を向く面には、枠体54kが接着剤等により接合される。枠体54kは、吸振体54dの外周に沿う枠状の部材であり、前述の固定板55に接触する。ここで、枠体54kは、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、チタンおよびマグネシウム合金等の金属材料で構成される。このように枠体54kを金属材料で構成することにより、ヒーター56からの熱をホルダー53および固定板55を介してヘッドチップ54内のインクに好適に伝達することができる。なお、図6には、ヒーター56からヘッドチップ54への熱の伝達経路H1が破線矢印で模式的に示される。なお、伝達経路H1の一部には、比較的熱伝導率が低い材料である樹脂製の吸振体54dを含むが、吸振体54dは可撓性を有するためにフィルム状で形成されることで厚さが薄く、熱抵抗は非常に小さいため。そのため、吸振体54dによって枠体54kから流路基板54aへの熱の伝導を阻害する影響は小さい。
【0064】
配線基板54iは、振動板54eのZ1方向を向く面に実装されており、制御ユニット20とヘッドチップ54とを電気的に接続するための実装部品である。配線基板54iは、例えば、COF(Chip On Film)、FPC(Flexible Printed Circuit)またはFFC(Flexible Flat Cable)等の可撓性の配線基板である。本実施形態の配線基板54iには、各圧電素子54fに駆動電圧を供給するための駆動回路54jが実装される。駆動回路54jは、制御信号Sに基づいて、駆動信号Dに含まれる波形のうちの少なくとも一部を駆動パルスとして供給するか否かを切り替える回路である。
【0065】
1-5.ホルダーの構成
図7は、第1実施形態におけるホルダー53のZ1方向にみた下面図である。図8は、第1実施形態におけるホルダー53のZ2方向にみた上面図である。前述のように略トレイ状をなすホルダー53は、図7および図8に示すように、底部5aと外壁部5bとフランジ部5cとを有する。
【0066】
底部5aは、Z軸に直交する方向に拡がる略板状をなしており、前述の凹部53aの底面を構成する。ここで、底部5aは、保持部5a1と、保持部5a1の外周を囲んで配置され、保持部5a1よりも厚さの薄い接続部5a2と、に区分される。
【0067】
保持部5a1は、前述の4つの凹部53dを有し、4個のヘッドチップ54を保持する。各ヘッドチップ54は、各凹部53dと固定板55との間で囲まれた空間内に収容されている。また、保持部5a1には、図7に示すように、4つの凹部53dのほか、2つの凹部53hが設けられる。各凹部53hは、いわゆる肉抜きのための凹部であり、4つの凹部53dの間に配置され、凹部53dと同程度の深さを有する。このような保持部5a1は、受熱部5a11と側壁部5a12と、を有する。
【0068】
受熱部5a11は、Z軸に直交する方向に拡がる第1面F1および第2面F2を有する板状をなしており、凹部53dおよび凹部53hの底面を構成する。第1面F1は、Z1方向を向いており、ヒーター56からの熱を受ける受熱面である。第1面F1には、前述のヒーター56および伝熱部材57を介して流路構造体51が載置される。第2面F2は、Z2方向を向いており、凹部53dおよび凹部53hの底面を構成する。
【0069】
図7および図8に示す例では、受熱部5a11には、複数のインク孔53bおよび複数の配線孔53cが第1面F1および第2面F2のそれぞれに開口するように設けられる。また、受熱部5a11の第1面F1には、これらのほか、複数の孔53eと複数の孔53fと複数のネジ孔53gとが設けられる。
【0070】
複数の孔53eは、ヘッドチップ54に設けられる図示しない突起が挿入されることにより、ホルダー53に対するヘッドチップ54の位置決めに用いる孔である。複数の孔53fは、流路構造体51、ヒーター56及び伝熱部材57の位置決めに用いる位置決めピンが挿入されるための孔である。複数のネジ孔53gは、伝熱部材57のネジ止めに用いるネジ孔である。複数のネジ孔53gは、流路構造体51のネジ止めに用いるネジ孔である。
【0071】
側壁部5a12は、受熱部5a11からZ2方向に突出しており、凹部53dおよび凹部53hの側面を構成する。側壁部5a12のZ2方向での端には、接続部5a2が接続される。ここで、Z軸に沿う方向にみて、側壁部5a12の形状は、受熱部5a11の形状から複数の凹部53dおよび複数の凹部53hの形状を除いた形状である。つまり、側壁部5a12は、Z軸に沿う方向にみて、隣り合う複数の凹部53dの間の隔壁と、隣り合う凹部53dと凹部53hとの間の隔壁と、複数の凹部53d及び複数の凹部53hを囲む外周壁と、を含む。
【0072】
接続部5a2は、Z軸に沿う方向にみて保持部5a1を囲んで配置される。接続部5a2は、側壁部5a12からZ軸に直交する方向に延びる板状をなしており、側壁部5a12と外壁部5bとを全周にわたり接続する。なお、接続部5a2は、欠損した部分を有する形状でもよいし、周方向に間隔を隔てて並ぶ複数の部分で構成されてもよい。
【0073】
外壁部5bは、底部5aの周縁から全周にわたりZ1方向に延びる枠状をなしており、前述の凹部53aの側面を構成する。
【0074】
フランジ部5cは、外壁部5bのZ1方向での端から外方に向けてZ軸に直交する方向に突出する板状をなす。このように、フランジ部5cの内周縁には、外壁部5bを介して底部5aの接続部5a2の外周縁が接続される。図7および図8に示す例では、フランジ部5cは、平面視で長方形または略長方形をなす。したがって、平面視でのホルダー53の外形は、長方形または略長方形である。フランジ部5cには、前述の複数のネジ孔53iおよび複数のネジ孔53kのほか、複数の孔53jが設けられる。複数の孔53jは、支持体41に設けられる図示しない突起が挿入されることにより、支持体41に対するホルダー53の位置決めに用いる孔である。
【0075】
1-6.ホルダーの保持部の形状
図9は、第1実施形態におけるホルダー53の保持部5a1の形状を説明するための図である。図9では、説明の便宜上、Z2方向にみた保持部5a1と複数のヘッドチップ54とのそれぞれの外形が実線で示される。
【0076】
図9に示すように、Z軸に沿う方向にみた平面視で、保持部5a1の外縁OE1は、ヘッドチップ54_1、54_2、54_3、54_4の配置に応じた形状をなす。すなわち、外縁OE1は、平面視で、長方形の4つの角のうちの対角となる1対の角およびその近傍部分を略長方形に切り欠いたような形状をなす。以下、ヘッドチップ54_1、54_2、54_3、54_4の配置と保持部5a1の外縁OE1の平面視形状とについて順に詳細に説明する。
【0077】
図9に示すように、ヘッドチップ54_1、ヘッドチップ54_2、ヘッドチップ54_3およびヘッドチップ54_4は、平面視で、千鳥配置される。ヘッドチップ54_1とヘッドチップ54_2とは互いに隣り合い、ヘッドチップ54_2とヘッドチップ54_3とは互いに隣り合い、ヘッドチップ54_3とヘッドチップ54_4とは互いに隣り合っている。
【0078】
具体的には、ヘッドチップ54_1、ヘッドチップ54_2、ヘッドチップ54_3およびヘッドチップ54_4は、この順でX1方向に並ぶ。ただし、ヘッドチップ54_1およびヘッドチップ54_3は、ヘッドチップ54_2およびヘッドチップ54_4に対してY1方向にずれた位置に配置される。ここで、ヘッドチップ54_1およびヘッドチップ54_3は、Y軸に沿う方向での互いの位置を揃えるように、X軸に沿う方向に並んで配置される。同様に、ヘッドチップ54_2およびヘッドチップ54_4は、Y軸に沿う方向での互いの位置を揃えるように、X軸に沿う方向に並んで配置される。また、各ヘッドチップ54の平面視形状は、Y軸に沿う方向に延びる長方形または略長方形である。
【0079】
図9では、平面視で、前述のように配置されるヘッドチップ54_1、54_2、54_3、54_4の集合体に外接する仮想の長方形VSが二点鎖線で示される。長方形VSは、平面視で、当該集合体を内包する最小の長方形である。また、本実施形態において、複数のヘッドチップ54_1、54_2、54_3、54_4の夫々は、仮想の長方形VSに接する。図9に示す例では、当該集合体は、平面視で2回対称な形状をなす。
【0080】
保持部5a1の外縁OE1は、長方形VSの内側に位置する部分と外側に位置する部分とを有する。
【0081】
ここで、長方形VSの4つの辺を第1辺E1、第2辺E2、第3辺E3および第4辺E4とするとき、ヘッドチップ54_1は、平面視で第1辺E1および第3辺E3に接する。ヘッドチップ54_2は、平面視で第2辺E2に接する。ヘッドチップ54_3は、平面視で第3辺E3に接する。ヘッドチップ54_4は、平面視で第2辺E2および第4辺E4に接する。
【0082】
ただし、第1辺E1は、長方形VSの4つの辺のうちの1つの辺である。第2辺E2は、長方形VSの4つの辺のうちの第1辺E1の一端に接続される辺である。第3辺E3は、長方形VSの4つの辺のうちの第1辺E1の他端に接続される辺である。第4辺E4は、長方形VSの4つの辺のうちの第1辺E1、第2辺E2および第3辺E3以外の辺である。
【0083】
平面視で第1辺E1と第2辺E2とヘッドチップ54_1とヘッドチップ54_2とで囲まれる第1領域RE1は、外縁OE1により第1内側部分RE1aと第1外側部分RE1bとに二分される。第1内側部分RE1aは、第1領域RE1のうち外縁OE1よりも内側に位置する部分である。第1外側部分RE1bは、第1領域RE1のうち外縁OE1よりも外側に位置する部分である。なお、第1領域RE1は、平面視で、第1辺E1と、第2辺E2と、ヘッドチップ54_1の2つの短辺のうちヘッドチップ54_2に近いほうの短辺に沿う直線と、ヘッドチップ54_2の2つの長辺のうちヘッドチップ54_1に近いほうの長辺に沿う直線とで囲まれる矩形状の領域である。
【0084】
ここで、第1辺E1は、第1領域RE1を画定する第1部分PA1を有する。第1部分PA1は、長方形をなす第1領域RE1の4つの辺のうち、第1辺E1に属する辺である。第2辺E2は、第1領域RE1を画定する第2部分PA2を有する。第2部分PA2は、長方形をなす第1領域RE1の4つの辺のうち、第2辺E2に属する辺である。そして、平面視で、保持部5a1の外縁OE1は、第1部分PA1および第2部分PA2の双方に交差する。
【0085】
また、平面視で、保持部5a1の外縁OE1と第1部分PA1との交点IPaは、第1部分PA1の中点MP1よりもヘッドチップ54_1の近くに位置し、かつ、保持部5a1の外縁OE1と第2部分PA2との交点IPbは、第2部分PA2の中点MP2よりもヘッドチップ54_2の近くに位置する。なお、図9に示す例では、交点IPbは、中点MP2に極めて近い位置にあるが、中点MP2に対してX1方向に位置する。
【0086】
さらに、第1領域RE1の中心CPは、平面視で保持部5a1の外縁OE1の外側に位置する。すなわち、保持部5a1の外縁OE1の内側には、第1領域RE1の中心CPが包含されない。なお、図9に示す例では、中心CPは、外縁OE1に極めて近い位置にあるが、外縁OE1の外側に位置する。
【0087】
以上の第1領域RE1と同様、平面視で第3辺E3と第4辺E4とヘッドチップ54_3とヘッドチップ54_4とで囲まれる第2領域RE2は、外縁OE1により第2内側部分RE2aと第2外側部分RE2bとに区分される。第2内側部分RE2aは、外縁OE1よりも内側に位置する。第2外側部分RE2bは、外縁OE1よりも外側に位置する。なお、第2領域RE2は、平面視で、第3辺E3と、第4辺E4と、ヘッドチップ54_3の2つの長辺のうちヘッドチップ54_4に近いほうの長辺に沿う直線と、ヘッドチップ54_4の2つの短辺のうちヘッドチップ54_3に近いほうの短辺に沿う直線とで囲まれる矩形状の領域である。
【0088】
1-7.ヒーターの形状
図10は、第1実施形態におけるヒーター56および伝熱部材57の形状を説明するための図である。図10では、説明の便宜上、Z2方向にみたヒーター56と複数のヘッドチップ54とのそれぞれの外形が実線で示される。また、図10では、Z2方向にみた流路構造体51または伝熱部材57の外形が破線で示される。
【0089】
図10に示すように、Z軸に沿う方向にみた平面視で、ヒーター56の外縁OE2は、ヘッドチップ54_1、54_2、54_3、54_4の配置に応じた形状をなす。本実施形態では、外縁OE2は、前述の図8に示すように、概略的には、前述の保持部5a1の外縁OE1と同形状である。すなわち、外縁OE2は、外縁OE1に沿う形状であるといえる。以下、ヒーター56の外縁OE2の平面視形状について順に詳細に説明する。
【0090】
図10では、前述の仮想の長方形VSが二点鎖線で示される。ヒーター56の外縁OE2は、前述の保持部5a1の外縁OE1と同様、長方形VSの内側に位置する部分と外側に位置する部分とを有する。
【0091】
平面視で第1領域RE1は、外縁OE2により第1内側部分RE1cと第1外側部分RE1dとに二分される。第1内側部分RE1cは、第1領域RE1のうち外縁OE2よりも内側に位置する部分である。第1外側部分RE1dは、第1領域RE1のうち外縁OE2よりも外側に位置する部分である。なお、本実施形態では、前述のように外縁OE2が概略的に保持部5a1の外縁OE1と同形状であることから、第1内側部分RE1cが前述の第1内側部分RE1aに略等しく、第1外側部分RE1dが第1外側部分RE1bに略等しい。
【0092】
ここで、平面視で、ヒーター56の外縁OE2は、複数のヘッドチップ54を内包し、かつ、第1部分PA1および第2部分PA2の双方に交差する。また、平面視で、ヒーター56の外縁OE2と第1部分PA1との交点IPcは、第1部分PA1の中点MP1よりもヘッドチップ54_1の近くに位置し、かつ、ヒーター56の外縁OE2と第2部分PA2との交点IPdは、第2部分PA2の中点MP2よりもヘッドチップ54_2の近くに位置する。なお、図10に示す例では、交点IPdは、中点MP2に極めて近い位置にあるが、中点MP2に対してX1方向に位置する。
【0093】
第1領域RE1の中心CPは、平面視で外縁OE2の外側に位置する。すなわち、ヒーター56の外縁OE2の内側には、第1領域RE1の中心CPが包含されない。なお、図10に示す例では、中心CPは、外縁OE2に極めて近い位置にあるが、外縁OE2の外側に位置する。
【0094】
以上の第1領域RE1と同様、平面視で第2領域RE2は、外縁OE2により第2内側部分RE2cと第2外側部分RE2dとに区分される。第2内側部分RE2cは、外縁OE2よりも内側に位置する。第2外側部分RE2dは、外縁OE2よりも外側に位置する。なお、本実施形態では、第2内側部分RE2cが前述の第2内側部分RE2aに略等しく、第2外側部分RE2dが第2外側部分RE2bに略等しい。
【0095】
これに対し、図10中の破線で示す伝熱部材57は、平面視で、ヘッドチップ54_1、54_2、54_3、54_4を内包するだけでなく、第1外側部分RE1dおよび第2外側部分RE2dのそれぞれの少なくとも一部に重なる。同様に、伝熱部材57は、図示しないが、平面視で、前述の図9に示す第1外側部分RE1bおよび第2外側部分RE2bのそれぞれの少なくとも一部に重なる。
【0096】
ここで、伝熱部材57の平面視形状は、流路構造体51の平面視形状にほぼ等しい。このため、平面視で、流路構造体51は、第1外側部分RE1dおよび第2外側部分RE2dのそれぞれの少なくとも一部に重なる。同様に、流路構造体51は、図示しないが、平面視で、前述の図9に示す第1外側部分RE1bおよび第2外側部分RE2bのそれぞれの少なくとも一部に重なる。
【0097】
1-8.ヒーターからの熱の伝達経路
図11は、第1実施形態におけるヒーター56からの熱の伝達経路H1および伝達経路H2を説明するための図である。図11では、伝達経路H1および伝達経路H2のそれぞれが破線で模式的に示される。
【0098】
前述のように、支持体41には、外壁部5bが挿入される開口41aが設けられる。一方、フランジ部5cは、ノズル面FNの法線方向であるZ2方向を向く取付面5c1を有する。そして、ホルダー53は、外壁部5bと支持体41との間に間隔d1を隔てて外壁部5bを開口41aに挿入するとともに取付面5c1を支持体41に接触させた状態で支持体41に取り付けられる。
【0099】
ヒーター56は、前述のように、伝達経路H1で各ヘッドチップ54に熱を伝達させることにより、各ヘッドチップ54を加熱する。
【0100】
しかし、ヒーター56からの熱の一部は、ホルダー53を介して支持体41に伝達されてしまう。すなわち、ヒーター56からの熱の一部は、各ヘッドチップ54の加熱に用いられずに、ホルダー53を介して支持体41に逃げてしまう。このような熱の逃げは、ヒーター56による各ヘッドチップ54の加熱効率の低下を招くだけでなく、各ヘッドチップ54内またはヘッドチップ54間の温度分布のバラつきの原因となる。
【0101】
そこで、このような熱の逃げを低減するべく、ホルダー53は、ヒーター56から支持体41への熱の伝達経路H2での熱抵抗を高める構成を有する。具体的には、ホルダー53では、前述のように、側壁部5a12、接続部5a2および外壁部5bを介して、受熱部5a11とフランジ部5cとを接続する。
【0102】
伝達経路H2は、受熱部5a11、側壁部5a12、接続部5a2、外壁部5bおよびフランジ部5cにこの順で熱が伝達される経路である。前述のように、側壁部5a12および外壁部5bのそれぞれがZ軸に沿う方向に延びるのに対し、接続部5a2およびフランジ部5cのそれぞれがZ軸に交差する方向に延びる。このため、伝達経路H2は、図11に示すような断面でみたとき、受熱部5a11からフランジ部5cまでの間で少なくとも2箇所で屈曲または湾曲する。図11では、伝達経路H2の屈曲または湾曲する2箇所が二点鎖線で囲まれる領域で示される。
【0103】
ここで、側壁部5a12の外周面は、外壁部5bの内周面に対して全域にわたり間隔d3を隔てて配置される。このため、側壁部5a12から外壁部5bへの熱の伝達は、これらの間で直接行われずに、接続部5a2を経由する。また、流路構造体51は、外壁部5bとの間に間隔d2を隔てて配置される。このため、受熱部5a11から外壁部5bへの熱の伝達は、流路構造体51を経由しない。
【0104】
以上の液体噴射ヘッド50は、前述のように、複数のヘッドチップ54と熱伝導性のホルダー53と熱伝導性の流路構造体51と面状のヒーター56とを備える。複数のヘッドチップ54のそれぞれは、「液体」の一例であるインクを噴射するノズルNが設けられるノズル面FNを有する。ホルダー53は、複数のヘッドチップ54を保持する。流路構造体51には、複数のヘッドチップ54に供給されるインクの流路が設けられる。ヒーター56は、ホルダー53と流路構造体51との間に配置され、ノズル面FNに平行な方向に沿う。そのうえで、ヒーター56は、平面視で複数のヘッドチップ54に重なる。
【0105】
以上の液体噴射ヘッド50では、ヒーター56がホルダー53と流路構造体51との間に配置される。このため、ヒーター56とホルダー53との間に流路構造体51が介在する従来の構成に比べて、ヒーター56からの熱をホルダー53および流路構造体51のそれぞれに効率的に伝達することができる。この結果、ホルダー53と流路構造体51との温度差を低減し、ひいては、ヘッドチップ54と流路構造体51との温度差を低減することができる。また、ヒーター56がノズル面に平行な方向に沿う面状をなしており、そのうえで、ヒーター56が平面視で複数のヘッドチップ54に重なる。このため、ヒーター56が平面視で複数のヘッドチップ54の一部のみ重なる構成に比べて、ヒーター56からの熱を複数のヘッドチップ54のそれぞれに効率的に伝達することができる。この結果、複数のヘッドチップ54間の温度差を低減することもできる。以上から、ヒーター56の温度制御によりヘッドチップ54の温度を高精度に管理することができる。
【0106】
本実施形態では、前述のように、ホルダー53は、複数のヘッドチップ54を保持する保持部5a1を有する。保持部5a1は、複数のヘッドチップ54を平面視で内包する。このため、ヒーター56からの熱を1つの保持部5a1を介して複数のヘッドチップ54に伝達することができる。この結果、ヒーター56をヘッドチップ54ごとに設ける必要がないので、ヒーター56の設置が容易である。
【0107】
そのうえで、複数のヘッドチップ54のそれぞれは、Y軸に沿う方向に沿って長尺である。また、複数のヘッドチップ54は、「第1ヘッドチップ」の一例であるヘッドチップ54_1と、「第2ヘッドチップ」の一例であるヘッドチップ54_2と、を含む。ヘッドチップ54_1とヘッドチップ54_2とは、互いに隣り合う。ここで、複数のヘッドチップが隣り合うとは、複数のヘッドチップ54同士の位置関係のことを指しており、当該複数のヘッドチップ54の間にヘッドチップ54以外の構成(例えば、本実施形態ではホルダー53の5a12側壁部に相当)が介在していてもよい。また、ヘッドチップ54_1とヘッドチップ54_3とは、ヘッドチップ54_2のY1方向の端部を介在するようにして、互いにX軸に沿う方向にずれて且つY軸に沿う方向に関して同じ位置に配置されている。しかし、ヘッドチップ54_1とヘッドチップ54_3とは、ヘッドチップ54のY軸に沿う方向に関する寸法の半分以上で互いにX軸に沿う方向に対向する位置関係にある。そのため、これらのヘッドチップ54_1およびヘッドチップ54_3も、互いに隣り合う関係にあると言える。そして、ヘッドチップ54_1およびヘッドチップ54_2は、Y軸に沿う方向およびX軸に沿う方向の双方に互いにずれて配置される。なお、ノズル面FNに沿って互いに交差する2つの方向を第1方向および第2方向とするとき、Y軸に沿う方向が「第1方向」の一例であり、X軸に沿う方向が「第2方向」の一例である。
【0108】
ここで、ヘッドチップ54_1が平面視で仮想の長方形VSの第1辺E1および第3辺E3に接するとともに、ヘッドチップ54_2が平面視で第2辺E2に接する。そして、平面視で第1辺E1と第2辺E2とヘッドチップ54_1とヘッドチップ54_2とで囲まれる第1領域RE1は、保持部5a1の外縁OE1よりも外側に位置する第1外側部分RE1bを含む。なお、外縁OE1は、平面視での側壁部5a12の外縁である。
【0109】
なお、長方形VSは、前述のように、平面視で、液体噴射ヘッド50の有する複数のヘッドチップ54の集合体に外接する。第1辺E1は、長方形VSの4つの辺のうちの1つの辺である。第2辺E2は、長方形VSの4つの辺のうちの第1辺E1の一端に接続される辺である。第3辺E3は、長方形VSの4つの辺のうちの第1辺E1の他端に接続される辺である。
【0110】
第1外側部分RE1bには、保持部5a1が存在しないし、ヘッドチップ54も存在しない。したがって、このような第1外側部分RE1bが存在することは、保持部5a1の加熱すべき部分以外の無駄な部分を少なくすることを意味する。このため、ヒーター56からの熱が当該無駄な部分に逃げることを低減することができ、この結果、ヘッドチップ54をヒーター56により効率的に加熱することができる。また、ヒーター56の小面積化または省電力化を図れるという利点もある。
【0111】
前述のように、ホルダー53には、複数のインク孔53bが設けられており、当該複数のインク孔53bは、複数のヘッドチップ54に供給されるインクの流路を構成する。したがって、ホルダー53のインクに対する耐性を高めたり、ホルダー53を介してヒーター56からの熱をインク孔53b内のインクへ効率的に伝達したりする観点から、ホルダー53は、ステンレス鋼またはセラミックスで構成されることが好ましい。
【0112】
また、平面視で、第1領域RE1は、ヒーター56に重ならない第1外側部分RE1dを含む。このため、ヒーター56の小面積化を図ることができる。第1外側部分RE1dには、ヘッドチップ54_1およびヘッドチップ54_2が存在しないので、ヒーター56の無駄な発熱を低減することができる。この結果、ヘッドチップ54をヒーター56により効率的に加熱することができる。
【0113】
さらに、前述のように、液体噴射ヘッド50は、「第2伝熱部材」の一例である伝熱部材57をさらに備える。伝熱部材57は、ヒーター56と流路構造体51との間に配置され、流路構造体51よりも熱伝導率の高い部材であり、例えばアルミニウムである。そして、平面視で、伝熱部材57および流路構造体51のそれぞれは、第1外側部分RE1bに重なる。流路構造体51が第1外側部分RE1bに存在することにより、流路構造体51内の流路の引き回しの自由度を高めることができる。また、伝熱部材57がヒーター56と流路構造体51との間に配置されるので、ヒーター56からの熱を第2伝熱部材で面方向に拡げた後に流路構造体51に伝達することができる。特に、第1外側部分RE1bに流路構造体51が存在する部分を有しても、伝熱部材57も第1外側部分RE1bに存在するので、伝熱部材57を介してヒーター56からの熱を当該部分に伝達することができる。この結果、ヒーター56による流路構造体51の温度分布のバラつきを低減することができる。
【0114】
また、前述のように、流路構造体51のインクに対する耐性を高めたり、ヒーター56からの熱を流路構造体51内のインクへ効率的に伝達したりする観点から、流路構造体51は、ステンレス鋼またはセラミックスで構成されることが好ましい。
【0115】
また、本実施形態では、複数のヘッドチップ54は、「第3ヘッドチップ」の一例であるヘッドチップ54_3と、「第4ヘッドチップ」の一例であるヘッドチップ54_4と、を含む。ヘッドチップ54_3およびヘッドチップ54_4は、Y軸に沿う方向およびX軸に沿う方向の双方に互いにずれて配置される。
【0116】
ここで、仮想の長方形VSの4つの辺のうち、第1辺E1、第2辺E2および第3辺E3以外の辺を第4辺E4としたとき、ヘッドチップ54_3が平面視で第3辺E3に接するとともに、ヘッドチップ54_4が平面視で第2辺E2および第4辺E4に接する。そして、平面視で第3辺E3と第4辺E4とヘッドチップ54_3とヘッドチップ54_4とで囲まれる第2領域RE2は、保持部5a1の外縁OE1よりも外側に位置する第2外側部分RE2bを含む。
【0117】
第2外側部分RE2bには、前述の第1外側部分RE1bと同様、保持部5a1が存在しないし、ヘッドチップ54も存在しない。したがって、このような第2外側部分RE2bが存在することは、保持部5a1の加熱すべき部分以外の無駄な部分を少なくすることを意味する。このため、ヒーター56からの熱が当該無駄な部分に逃げることを低減することができ、この結果、ヘッドチップ54をヒーター56により効率的に加熱することができる。また、ヒーター56の小面積化または省電力化を図れるという利点もある。
【0118】
第1外側部分RE1bの面積は、第1領域RE1の面積の1/4以上であることが好ましく、第1領域RE1の面積の1/2以上9/10以下であることがより好ましい。第1外側部分RE1bの面積がこのような範囲内であると、保持部5a1の前述のような無駄な部分を好適に少なくすることができる。これに対し、第1外側部分RE1bの面積が小さすぎると、ヒーター56の消費電力が増大したり、各ヘッドチップ54内または複数のヘッドチップ54間の温度分布のばらつきが生じやすくなったりする傾向を示す。一方、第1外側部分RE1bの面積が大きすぎると、保持部5a1に必要な肉厚を確保することが難しい。なお、第2外側部分RE2bの面積も、第1外側部分RE1bの面積と第1領域RE1との関係と同様、第2領域RE2の面積の1/4以上であることが好ましい。
【0119】
また、前述のように、ヒーター56は、平面視で複数のヘッドチップ54に重なる。そして、平面視で前述の第1領域RE1は、ヒーター56の外縁OE2よりも外側に位置する第1外側部分RE1dを含む。
【0120】
第1外側部分RE1dには、ヒーター56が存在しないし、ヘッドチップ54も存在しない。したがって、このような第1外側部分RE1dが存在することは、ヒーター56の不要な部分を少なくすることを意味する。このため、当該不要な部分の発熱に起因する各ヘッドチップ54内または複数のヘッドチップ54間での温度分布のばらつきを低減することができる。また、ヒーター56の小面積化または省電力化を図れるという利点もある。
【0121】
ここで、平面視で、前述の伝熱部材57および流路構造体51のそれぞれは、第1外側部分RE1dに重なる。流路構造体51が第1外側部分RE1dに存在することにより、流路構造体51内の流路の引き回しの自由度を高めることができる。また、第1外側部分RE1dに流路構造体51が存在する部分を有しても、伝熱部材57も第1外側部分RE1dに存在するので、伝熱部材57を介してヒーター56からの熱を当該部分に伝達することができる。この結果、ヒーター56による流路構造体51の温度分布のバラつきを低減することができる。なお、平面視で、流路構造体51内の流路の一部が第1外側部分RE1dと重複する構成では特に有用である。
【0122】
また、前述のように、平面視で前述の第2領域RE2は、ヒーター56の外縁OE2よりも外側に位置する第2外側部分RE2dを含む。
【0123】
第2外側部分RE2dには、前述の第1外側部分RE1dと同様、ヒーター56が存在しないし、ヘッドチップ54も存在しない。したがって、このような第2外側部分RE2dが存在することは、ヒーター56の不要な部分を少なくすることを意味する。このため、当該不要な部分の発熱に起因する各ヘッドチップ54内または複数のヘッドチップ54間での温度分布のばらつきを低減することができる。また、ヒーター56の小面積化または省電力化を図れるという利点もある。
【0124】
第1外側部分RE1dの面積は、第1領域RE1の面積の1/4以上であることが好ましく、第1領域RE1の面積の1/2以上9/10以下であることがより好ましい。第1外側部分RE1dの面積がこのような範囲内であると、ヒーター56の不要な部分を好適に少なくすることができる。これに対し、第1外側部分RE1dの面積が小さすぎると、ヒーター56の消費電力が増大したり、各ヘッドチップ54内または複数のヘッドチップ54間の温度分布のばらつきが生じやすくなったりする傾向を示す。一方、第1外側部分RE1dの面積が大きすぎると、保持部5a1の大きさ等によっては、ヒーター56からの熱を保持部5a1に均一に伝達することが難しく、この点でも、各ヘッドチップ54内または複数のヘッドチップ54間の温度分布のばらつきが生じやすくなる傾向を示す。なお、第2外側部分RE2dの面積も、第1外側部分RE1dの面積と第1領域RE1との関係と同様、第2領域RE2の面積の1/4以上であることが好ましい。
【0125】
また、前述のように、液体噴射ヘッド50は、支持体41に支持される。ここで、ホルダー53は、保持部5a1のほか、保持部5a1から離れた位置で支持体41と接触するフランジ部5cを有する。ヒーター56は、保持部5a1を加熱する。保持部5a1は、ヒーター56からの熱を受ける受熱部5a11を有する。
【0126】
そのうえで、伝達経路H2のうち受熱部5a11からフランジ部5cまでホルダー53を伝わる熱の最短経路は、2か所以上で屈曲または湾曲する。ここで、屈曲または湾曲とは、例えば本実施形態のように側壁部5a12と接続部5a2との間で屈曲または湾曲されている場合に、側壁部5a12の伝達経路H2に沿う長さ(換言すれば、Z軸に沿う方向に関する側壁部5a12の長さ)及び接続部5a2の伝達経路H2に沿う長さ(換言すれば、Y軸に沿う方向に関する接続部5a2の長さ)の夫々が、側壁部5a12の厚さ方向(Y軸に沿う方向)の厚みよりも長く、接続部5a2の厚さ方向(Z軸に沿う方向)の厚みよりも長い状態をいう。これは、接続部5a2と外壁部5bとの間の屈曲または湾曲でも同じであり、これらの部分以外で屈曲または湾曲されている場合でも同じである。なお、「当該受熱部5a11からフランジ部5cまでの最短経路」は、受熱部5a11及びフランジ部5cの内部を移動する熱の経路を含めてはいない。より詳述すれば、「当該受熱部5a11からフランジ部5cまでの最短経路」は、受熱部5a11の任意の位置から、フランジ部5cと支持体41との接触位置まで、ホルダー53内を通る最短の経路のうち、受熱部5a11及びフランジ部5cの内部を移動する熱の経路を含めない部分である。このため、当該受熱部5a11からフランジ部5cまでの最短経路が直線状である構成や、接続部5a2のZ1方向を向く面を第1面F1に一致させるように接続部5a2の厚さを厚くした構成に比べて、当該最短経路の熱抵抗を高めることができる。したがって、ヒーター56からの熱がフランジ部5cを介して支持体41に放熱し難くすることができる。この結果、ヘッドチップ54をヒーター56により効率的に加熱することができる。
【0127】
ここで、前述のように、ヒーター56は、保持部5a1に対してノズル面FNの法線方向(Z2方向)とは反対方向(Z1方向)の位置に配置される。そして、保持部5a1は、受熱部5a11から当該法線方向(Z2方向)に延びる側壁部5a12をさらに有する。受熱部5a11および側壁部5a12は、ヘッドチップ54を収容する「空間」の一例である凹部53dを形成する。このため、ヘッドチップ54、ホルダー53、ヒーター56をこの順で積層するように容易に組み立てることができる。
【0128】
そのうえで、ホルダー53は、フランジ部5cに接続されるとともに当該法線方向にみて側壁部5a12を囲む外壁部5bと、側壁部5a12と外壁部5bとを接続する接続部5a2と、をさらに有する。そして、接続部5a2は、当該法線方向に交差する方向に延びており、側壁部5a12および外壁部5bのそれぞれは、接続部5a2から当該法線方向とは反対方向に延びる。
【0129】
このように、ホルダー53は、ヘッドチップ54を保持する保持部5a1と、保持部5a1から離れた位置で支持体41と接触するフランジ部5cと、フランジ部5cに接続されるとともにノズル面FNの法線方向にみて保持部5a1を囲む外壁部5bと、保持部5a1と外壁部5bとを接続する接続部5a2と、を有する。そして、保持部5a1が接続部5a2から当該法線方向とは反対方向に突出するとともに、外壁部5bが接続部5a2からフランジ部5cに向けて当該法線方向とは反対方向に延びる。
【0130】
このようにホルダー53を構成することにより、伝達経路H2のうち受熱部5a11からフランジ部5cまでの最短経路は、側壁部5a12と接続部5a2との接続により屈曲または湾曲する箇所と、外壁部5bと接続部5a2との接続により屈曲または湾曲する箇所と、を有する。つまり、伝達経路H2のうち受熱部5a11からフランジ部5cまでの最短経路において側壁部5a12での熱の伝達方向と外壁部5bでの熱の伝達方向とが互いに反対方向である。
【0131】
また、外壁部5bは、前述のように、平面視で保持部5a1との間に間隔を隔てて保持部5a1を囲む。このため、受熱部5a11からフランジ部5cまでの間で前述のような2か所以上で屈曲または湾曲する伝達経路H2を容易に実現することができる。
【0132】
さらに、前述のように、フランジ部5cは、受熱部5a11よりもノズル面FNの法線方向とは反対方向の位置に配置される。このため、外壁部5dのZ軸に沿う方向に関して長尺化することができ、伝達経路H2の熱抵抗を高くすることができる。
【0133】
また、前述のように、受熱部5a11は、互いに反対方向を向く第1面F1および第2面F2を有する。ここで、第1面F1は、ヒーター56からの熱を受ける受熱面である。ヘッドチップ54は、インクの流路が設けられたケース54hを有する。ケース54hは、第2面F2に固定され、ホルダー53よりも熱伝導率の低い材料で構成される。このように、ケース54hの構成材料の熱伝導率をホルダー53よりも低くすることにより、ヘッドチップ54内のインクからの放熱を低減することができる。ここで、受熱部5a11からの熱は、ケース54hに伝わり難くなる結果、相対的に支持体41に向かう方向にホルダー53を伝って移動しやすくなる。したがって、このようなケース54hを用いる場合、前述のように支持体41から放熱し難くすることは、特に有用である。
【0134】
さらに、前述のように、流路構造体51は、保持部5a1に対してノズル面FNの法線方向とは反対方向の位置に配置されており、ヒーター56は、保持部5a1と流路構造体51との間に配置される。そして、流路構造体51は、外壁部5bとの間に間隔を隔てて配置される。このため、流路構造体51から外壁部5bへの直接的な放熱を低減することができる。
【0135】
また、前述のように、ノズル面FNの法線方向にみて側壁部5a12の外周面は、外壁部5bの内周面に対して全域にわたり間隔を隔てて配置される。このため、側壁部5a12から外壁部5bへの直接的な放熱を低減することができる。
【0136】
さらに、前述のように、フランジ部5cは、ノズル面FNの法線方向にみて外壁部5bを全周にわたり囲む。このため、ヘッドチップ54でのインクの噴射に伴って発生するミストがノズル面FNから支持体41よりも鉛直上方に回り込むのをフランジ部5cにより阻止することができる。一方、フランジ部5cは、ヒーター56の熱が外壁部5bを囲むフランジ部5cの全周から支持体41へ放熱される虞が有るが、前述のようにノズル面FNの法線方向にみて側壁部5a12の外周面は、外壁部5bの内周面に対して全域にわたり間隔を隔てて配置されるため、側壁部5a12から外壁部5bへの直接的な放熱を低減することができる。
【0137】
2.第2実施形態
以下、本発明の第2実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0138】
図12は、第2実施形態に係る液体噴射ヘッド50Aの分解斜視図である。液体噴射ヘッド50Aは、ヒーター56および伝熱部材57の配置が異なる以外は、前述の第1実施形態の液体噴射ヘッド50と同様である。
【0139】
図12に示すように、本実施形態では、Z軸に沿う方向でのヒーター56および伝熱部材57の並び順が前述の第1実施形態と逆である。すなわち、液体噴射ヘッド50Aでは、Z2方向に向かって、カバー58、基板ユニット52、流路構造体51、ヒーター56、伝熱部材57、ホルダー53、4個のヘッドチップ54、固定板55の順に、これらが並ぶように配置される。本実施形態の伝熱部材57は、「第1伝熱部材」の一例である。
【0140】
以上の第2実施形態によっても、前述の第1実施形態と同様、ヘッドチップ54の温度を高精度に管理することができる。図13に示す例では、流路構造体51、ヒーター56および伝熱部材57の平面視形状は、前述の第1実施形態と同様である。つまり、平面視で、伝熱部材57は、第1外側部分RE1bに重なる。ただし、伝熱部材57の平面視形状は、これに限定されず、例えば、ヒーター56の平面視形状とほぼ同じでもよい。すなわち、平面視で、伝熱部材57は、第1外側部分RE1bにほぼ重なっていなくてもよい。ここで、伝熱部材57が第1外側部分RE1bにほぼ重なっていないとは、第1領域RE1のうち伝熱部材57の外縁よりも外側の部分が、第1外側部分RE1bの面積の1/2以上重なっていないことを含む。より好ましくは、伝熱部材57が第1外側部分RE1bにほぼ重なっていないとは、第1領域RE1のうち伝熱部材57の外縁よりも外側の部分が、第1外側部分RE1bの面積の3/4以上重なっていないことを指す。
【0141】
ヒーター56は、ホルダー53との間に伝熱部材57が介在するため、ヒーター56の熱を伝熱部材57によってノズル面FNと平行な方向に移動しやすくし、保持部5a1の温度分布のバラつきを低減することができる。
【0142】
3.第3実施形態
以下、本発明の第3実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0143】
図13は、第3実施形態におけるヒーター56からの熱の伝達経路H1および伝達経路H2を説明するための図である。本実施形態の液体噴射ヘッド50Bは、ホルダー53に代えてホルダー53Bを有する以外は、前述の第1実施形態の液体噴射ヘッド50と同様である。ホルダー53Bは、外壁部5bに代えて外壁部5dを有する以外は、ホルダー53と同様である。
【0144】
外壁部5dは、底部5aの接続部5a2の外周縁とフランジ部5cの内周縁とを接続する。ここで、外壁部5dは、第1壁部5d1と第1板部5d2と第2壁部5d3と第2板部5d4と第3壁部5d5とを有する。
【0145】
第1壁部5d1は、接続部5a2からZ1方向に延びる筒状をなす。第1板部5d2は、保持部5a1に近づくよう第1壁部5d1からZ軸に直交する方向に延びる板状をなす。第2壁部5d3は、第1板部5d2からZ1方向に延びる筒状をなす。第2板部5d4は、保持部5a1から遠ざかるよう第2壁部5d3からZ軸に直交する方向に延びる板状をなす。第3壁部5d5は、第2板部5d4からZ1方向に延びる筒状をなす。
【0146】
以上の第3実施形態によっても、前述の第1実施形態と同様、ヘッドチップ54の温度を高精度に管理することができる。本実施形態では、前述のような外壁部5dを介して底部5aとフランジ部5cとが接続されるので、ヒーター56から支持体41への熱の伝達経路H2は、少なくとも6箇所で屈曲または湾曲する。図13では、伝達経路H2の屈曲または湾曲する6箇所が二点鎖線で囲まれる領域で示される。このように伝達経路H2の屈曲または湾曲する箇所の数が4以上であると、前述の第1実施形態に比べて、伝達経路H2の熱抵抗を高めやすいという利点がある。なお、前述の第1実施形態と同様、「当該受熱部5a11からフランジ部5cまでの最短経路」は、受熱部5a11及びフランジ部5cの内部を移動する熱の経路を含めてはいない。
【0147】
4.変形例
以上に例示した形態は多様に変形され得る。前述の形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0148】
4-1.変形例1
前述の形態では、保持部5a1の平面視形状が4個のヘッドチップ54の配置に応じて長方形とは異なる形状である。保持部5a1の平面視形状は、前述の形態に限定されず、例えば、長方形または略長方形でもよい。
【0149】
4-2.変形例2
前述の形態では、ヒーター56が流路構造体51とホルダー53との間に配置されるが、これに限定されず、ヒーター56とホルダー53との間に流路構造体51が介在してもよい。
【0150】
4-3.変形例3
前述の形態では、1個の伝熱部材57を用いる構成が例示されるが、当該構成に限定されず、例えば、第1実施形態および第2実施形態を組み合わせたような形態でもよい。すなわち、ヒーター56とホルダー53との間と、ヒーター56と流路構造体51との間と、のそれぞれに伝熱部材57を配置してもよい。
【0151】
4-4.変形例4
ともに剛体であるホルダー53と流路構造体51との間には、弾性シートを配置してもよい。このような弾性シートとしては、エラストマーなどが採用でき、例えばヘッドチップ54のケース54hを構成する樹脂材料よりも熱伝導率の高い熱伝導シートが選択されることが望ましい。このような樹脂材料よりも熱伝導率の高い弾性の熱伝導シートとしては、熱伝導率が1.0以上W/m・K以上である材料を用いるのが好ましい。具体的に熱伝導シートとしては、アクリル系又はシリコン系のシートや、エラストマーにシリコン、ステンレス鋼、アルミニウム、チタンおよびマグネシウム合金等の金属材料を分散させた材料、炭素繊維などカーボン系やシリカやアルミナ等のセラミック酸化物又は窒化ケイ素や窒化ホウ素等のセラミック窒化物等のフィラーをエラストマー等の弾性材料に含有させた複合材料などが好適である。このようにホルダー53と流路構造体51との隙間を弾性材料で埋めることで、ホルダー53や流路構造体51のZ軸に沿う方向に関する厚さ寸法に製造誤差が生じたとしても、伝熱部材57やヒーター56と、ホルダー53や流路構造体51のような加熱対象物との密着性を高めて、ヒーター56からの熱を当該加熱対象物に効率的に伝達することができる。
【0152】
4-5.変形例5
前述の実施形態における「ヒーター56の外縁OE2」は、ヒーター56の有する発熱抵抗体の形成領域の外縁に読み替えられてもよい。
【0153】
4-6.変形例6
前述の形態では、液体噴射ヘッド50の有するヘッドチップ54の数が4個である構成が例示されるが、当該構成に限定されず、当該数は、2個、3個または5個以上でもよい。また、前述の形態では、複数のヘッドチップ54が、ヘッドチップ54の長手方向に沿って千鳥状に配置されていたが、当該構成に限定されず、複数のヘッドチップ54は、ヘッドチップ54の短手方向に沿って千鳥状に配置されてもよい。
【0154】
4-7.変形例7
平面視で、ヒーター56は、第1外側部分RE1bに重ならなくてもよい。この構成では、ヒーター56の小面積化を図ることができる。また、第1外側部分RE1bには、ヘッドチップ54_1、ヘッドチップ54_2および保持部5a1が存在しないので、平面視でヒーター56が第1外側部分RE1bに重ならないことにより、ヒーター56の無駄な発熱をより低減することができる。
【0155】
4-8.変形例8
前述の形態では、液体噴射ヘッド50を支持する支持体41を往復させるシリアル方式の液体噴射装置100が例示されるが、複数のノズルNが媒体Mの全幅にわたり分布するライン方式の液体吐出装置にも本発明を適用することが可能である。すなわち、液体噴射ヘッド50を支持する支持体は、シリアル方式のキャリッジに限定されず、ライン方式において液体噴射ヘッド50を支持する構造体でもよい。この場合、例えば、複数の液体噴射ヘッド50が媒体Mの幅方向に並んで配置され、当該複数の液体噴射ヘッド50が1つの支持体に一括して支持される。
【0156】
4-9.変形例9
前述の形態で例示した液体噴射装置は、印刷に専用される機器のほか、ファクシミリ装置やコピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、液体噴射装置の用途は印刷に限定されない。例えば、色材の溶液を噴射する液体噴射装置は、液晶表示パネル等の表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、導電材料の溶液を噴射する液体噴射装置は、配線基板の配線や電極を形成する製造装置として利用される。また、生体に関する有機物の溶液を噴射する液体噴射装置は、例えばバイオチップを製造する製造装置として利用される。
【符号の説明】
【0157】
5a…底部、5a1…保持部、5a11…受熱部、5a12…側壁部、5a2…接続部、5b…外壁部、5c…フランジ部、5c1…取付面、5d…外壁部、5d1…第1壁部、5d2…第1板部、5d3…第2壁部、5d4…第2板部、5d5…第3壁部、10…液体貯留部、20…制御ユニット、30…搬送機構、40…移動機構、41…支持体、41a…開口、41b…ネジ孔、42…搬送ベルト、50…液体噴射ヘッド、50A…液体噴射ヘッド、50B…液体噴射ヘッド、51…流路構造体、51a…流路部材、51b…接続管、51c…配線孔、52…基板ユニット、52a…回路基板、52b…コネクター、52c…支持板、53…ホルダー、53B…ホルダー、53a…凹部、53b…インク孔、53c…配線孔、53d…凹部、53e…孔、53f…孔、53g…ネジ孔、53h…凹部、53i…ネジ孔、53j…孔、53k…ネジ孔、53l…流路管、54…ヘッドチップ、54_1…ヘッドチップ(第1ヘッドチップ)、54_2…ヘッドチップ(第2ヘッドチップ)、54_3…ヘッドチップ(第3ヘッドチップ)、54_4…ヘッドチップ(第4ヘッドチップ)、54a…流路基板、54b…圧力室基板、54c…ノズル板、54d…吸振体、54e…振動板、54f…圧電素子、54g…保護板、54h…ケース、54i…配線基板、54j…駆動回路、54k…枠体、55…固定板、55a…開口部、56…ヒーター、56a…孔、56b…孔、57…伝熱部材、57a…孔、57b…配線孔、57c…孔、58…カバー、58a…貫通孔、58b…開口部、100…液体噴射装置、C…圧力室、CP…中心、D…駆動信号、DM…搬送方向、E1…第1辺、E2…第2辺、E3…第3辺、E4…第4辺、F1…第1面、F2…第2面、FN…ノズル面、H1…伝達経路、H2…伝達経路(最短経路)、IO…導入口、IPa…交点、IPb…交点、IPc…交点、IPd…交点、L1…第1列、L2…第2列、M…媒体、MP1…中点、MP2…中点、N…ノズル、Na…連通流路、OE1…外縁、OE2…外縁、PA1…第1部分、PA2…第2部分、R…リザーバー、R1…空間、R2…空間、RE1…第1領域、RE1a…第1内側部分、RE1b…第1外側部分、RE1c…第1内側部分、RE1d…第1外側部分、RE2…第2領域、RE2a…第2内側部分、RE2b…第2外側部分、RE2c…第2内側部分、RE2d…第2外側部分、Ra…供給流路、S…制御信号、VS…長方形。
図1
図2
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