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特許7596887調光シート、調光装置、調光シートの製造方法、および調光シートの評価方法
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  • 特許-調光シート、調光装置、調光シートの製造方法、および調光シートの評価方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】調光シート、調光装置、調光シートの製造方法、および調光シートの評価方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1334 20060101AFI20241203BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20241203BHJP
   G02F 1/1339 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
G02F1/1334
G02F1/13 505
G02F1/1339 500
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021049981
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148342
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】松原 吉隆
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101121887(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111487802(CN,A)
【文献】特開2018-146654(JP,A)
【文献】特開2015-215420(JP,A)
【文献】国際公開第2020/262219(WO,A1)
【文献】特開2005-173149(JP,A)
【文献】特開2009-210725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13
G02F 1/1334
G02F 1/1339
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の空隙を区画する有機高分子層と、
液晶化合物を含み前記空隙を埋める液晶組成物と、を備え、
前記液晶化合物の駆動によって可視光線の透過率を変える調光シートであって、
前記調光シートにおける365nmの光透過率が0.1%以上5%以下である不透明状態を有し、
前記液晶組成物は、前記不透明状態において有色を示す二色性色素を含む、
調光シート。
【請求項2】
前記液晶組成物は、前記有機高分子層から相分離した液晶粒子であり、
前記光透過率は、2%以上5%以下である
請求項に記載の調光シート。
【請求項3】
前記二色性色素が呈する色と同色を呈するスペーサーをさらに備える
請求項またはに記載の調光シート。
【請求項4】
前記不透明状態の前記調光シートにおける全光線透過率は、60%以下である
請求項1からのいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項5】
第1透明電極層と、
第2透明電極層と、をさらに備え、
前記有機高分子層は、透明電極層間に位置し、
前記透明電極層間の電圧印加の解除によって透明状態から前記不透明状態に移る
請求項1からのいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項6】
第1透明電極層と、
第2透明電極層と、をさらに備え、
前記有機高分子層は、透明電極層間に位置し、
前記透明電極層間の電圧印加によって透明状態から前記不透明状態に移る
請求項1からのいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項7】
複数の空隙を区画する有機高分子層、および、液晶化合物を含み前記空隙を埋める液晶組成物を備える調光シートと、
前記液晶化合物に印加する電圧の変更によって、前記調光シートにおける可視光線の透過率を変える駆動部と、を備え、
前記駆動部は、前記調光シートにおける365nmの光透過率が0.1%以上5%以下である不透明状態になるように前記電圧の変更を行い、
前記液晶組成物は、前記不透明状態において有色を示す二色性色素を含む、
調光装置。
【請求項8】
複数の空隙を区画する有機高分子層、および、液晶化合物を含み前記空隙を埋める液晶組成物を備え、前記液晶化合物の駆動によって可視光線の透過率を変える調光シートを製造する方法であって、
前記液晶組成物と光重合性化合物とを含む層で前記光重合性化合物を重合することにより前記液晶組成物からなる液晶粒子を前記有機高分子層から相分離することを含み、
前記調光シートにおける365nmの光透過率が0.1%以上5%以下となる不透明状態を前記調光シートが有するように、前記光重合性化合物を重合し、
前記液晶組成物は、前記不透明状態において有色を示す二色性色素を含む、
調光シートの製造方法。
【請求項9】
複数の空隙を区画する有機高分子層、および、液晶化合物を含み前記空隙を埋める液晶組成物、を備え、前記液晶化合物の駆動によって可視光線の透過率を変える調光シートを評価する方法であって、
前記液晶組成物は、前記調光シートの不透明状態において有色を示す二色性色素を含み、
360nm以上400nm以下の特定波長である365nmの光透過率が、前記不透明状態の前記調光シートにおいて0.1%以上5%以下であるか否かを判定する
調光シートの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶組成物を備えた調光シート、調光装置、調光シートの製造方法、および調光シートの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調光シートは、第1透明電極層、第2透明電極層、および第1透明電極層と第2透明電極層とに挟まれた調光層を備える。調光層に含まれる液晶化合物の配向状態は、2つの透明電極層の間の電位差の変化に追従して調光シートの光透過率を変える。例えば、液晶化合物の配向秩序が構築されるとき、調光シートは高い光透過率を示す。液晶化合物の長軸方向が無秩序であるとき、調光シートは低い光透過率を示す。
【0003】
透明から不透明に切り替わる調光シートは、対象空間のプライバシーを保護可能にする。クラリティ、平行線透過率、透過像鮮明度、およびヘイズは、プライバシーの保護性能を評価する光学特性値として用いられる(例えば、特許文献1~3を参照)。
【0004】
クラリティ、平行線透過率、および透過像鮮明度は、対象空間の平行光線を観察空間に透過する度合いであり、調光シートを通して視認される像の鮮明さを示す。像の不鮮明化によるプライバシーの保護性能は、クラリティ、平行線透過率、および透過像鮮明度によって評価される。
【0005】
ヘイズは、全光線透過率に対する拡散透過率の割合であり、調光シートを通して視認される像の濁り度合いを示す。像の混濁化によるプライバシーの保護性能は、ヘイズによって評価される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-200284号公報
【文献】特許第6669300号公報
【文献】国際公開第2018/021308号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
クラリティやヘイズ等の光学特性値は、それぞれ可視光全域の光線を用いて測定される。クラリティの変化は、可視光全域での透過の変化を大きく反映するが、透過の他に、可視光全域での吸収、反射、および散乱も少なからず反映する。ヘイズの変化は、可視光全域での散乱の変化を大きく反映するが、散乱の他に、可視光全域での吸収、反射、および透過も少なからず反映する。透過を大きく反映するクラリティであれ、散乱を大きく反映するヘイズであれ、調光シートの光学特性値から予測される調光シートの視覚効果は、結局のところ、可視光全域にわたり他の光学作用も反映する。
【0008】
この点、調光シートを通した視覚による認知結果もまた、可視光全域での透過、吸収、反射、および散乱の複合から導かれる。上述したように、可視光全域の光線を用いる測定であれば、調光シートを通じた視覚による認知結果と、調光シートの光学特性値から予測される認知結果と、の整合が図られて、プライバシーの保護という所望の視覚作用が発現される。
【0009】
近年、調光シートの適用範囲が広がることに伴い、調光シートに付加する新たな機能として、透過光の防眩性が求められている。透過光の防眩性は、直射日光や高輝度照明光等の強すぎる透過光を和らげる機能である。防眩性の向上に際しては、光学作用のなかの散乱を高めること、および前方散乱を抑えることが求められる。一方、可視光全域での透過、吸収、反射、および散乱の複合を反映した上述した光学特性値は、防眩性の評価に適しているとはいえず、結果として、防眩性が付加された調光シートを提供するまでに至っていないのが実情である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための調光シートは、複数の空隙を区画する有機高分子層と、液晶化合物を含み前記空隙を埋める液晶組成物と、を備え、前記液晶化合物の駆動によって可視光線の透過率を変える調光シートであって、前記調光シートにおける365nmの光透過率が0.1%以上5%以下である状態を有する。
【0011】
上記課題を解決するための調光シートは、複数の空隙を区画する有機高分子層、および、液晶化合物を含み前記空隙を埋める液晶組成物を備える調光シートと、前記液晶化合物に印加する電圧の変更によって、前記調光シートにおける可視光線の透過率を変える駆動部と、を備え、前記駆動部は、前記調光シートにおける365nmの光透過率が0.1%以上5%以下になるように前記電圧の変更を行う。
【0012】
ミー散乱によって前方に散乱される可視光線は、当該可視光線の衝突する粒子の粒径が当該可視光線の波長よりも小さいほど弱まる。すなわち、可視光波長よりも小さい粒径を有した粒子が多く存在することは、可視光線全域にわたり散乱を高め、かつ前方に散乱される可視光線を和らげる。有機高分子層が区画する空隙を埋める液晶組成物は、調光シートに含まれる液晶粒子ではあるが、有機高分子層が区画する空隙の大きさは、当該空隙のなかで液晶化合物の配向状態を変え得るような寸法を求められる。
【0013】
この点、360nm以上400nm以下の特定波長の光透過率、例えば365nmの光透過率は、粒子の存在する度合いを大きく反映し、当該粒子の粒径は、特定波長よりも小さい。そして、特定波長よりも小さい粒径を有した粒子は、可視光全域にわたり散乱を高め、かつ前方に散乱される可視光線を和らげる。また、特定波長に相当する粒径を有した粒子は、可視光全域わたり前方散乱を抑える粒子のなかでも、液晶化合物の配向状態を変え得る最も大きいものである。
【0014】
このように、特定波長の光透過率は、粒子の存在する度合いを的確に表現する。当該粒子の大きさは、液晶化合物が配向状態を変え得る大きさであり、かつ可視光全域にわたり散乱を高めて、前方散乱を抑える大きさである。そのため、不透明状態での365nmの光透過率が0.1%以上5%以下であれば、可視光全域にわたり散乱を高めること、かつ前方散乱を抑えること、ひいては透過光の防眩性を調光シートに付加することが可能となる。
【0015】
上記調光シートにおいて、前記液晶組成物は、前記不透明状態において有色を示す二色性色素を含んでもよい。
二色性色素の配向状態は、液晶化合物の配向状態に追従し、これにより、不透明状態の調光シートに色を付加する。一方、有機高分子層が区画する空隙は、液晶化合物の配向状態を変えるための大きさのみならず、二色性色素の配向状態を変えるための大きさも要する。この点、特定波長の光透過率は、粒子が存在する度合いを的確に表現し、かつ当該粒子は、可視光全域わたり前方散乱を抑える粒子のなかで最も大きい粒子を含む。結果として、二色性色素の配向状態を変えるための大きさを空隙に要求される上記構成であれば、365nmの光透過率が0.1%以上5%以下であることによる効果がさらに顕著なものとなる。
【0016】
上記調光シートにおいて、前記液晶組成物は、前記有機高分子層から相分離した液晶粒子であり、前記光透過率は、2%以上5%以下であってもよい。
有機高分子層で相分離する液晶粒子の大きさは、液晶粒子の数量が多いほど小さくなりやすい。一方、液晶粒子の大きさは、すなわち有機高分子層が区画する空隙の大きさは、当該空隙のなかで液晶化合物が配向状態を変え得るような寸法を求められる。液晶組成物が二色性色素を含む場合、上述したように、二色性色素が配向状態を変えるための大きさ分だけ、さらに大きな空隙を求められる。
【0017】
この点、上記調光シートであれば、365nmの光透過率が2%以上であるため、空隙の数量は多いが、二色性色素が配向状態を変えるうえでは空隙の大きさが小さいという構成を排除し、空隙の大きさは、二色性色素を含む液晶組成物に適した寸法となる。そして、二色性色素を含む液晶組成物に特化した空隙を調光シートが備えるため、液晶組成物が二色性色素を含む構成において、上述した効果をさらに高めることが可能ともなる。
【0018】
上記調光シートは、前記二色性色素が呈する色と同色を呈するスペーサーをさらに備えてもよい。この調光シートによれば、二色性色素とスペーサーとが同色を呈するため、不透明状態の調光シートが可視光線の防眩性をさらに高める。また、スペーサーによる散乱等に起因して粒状むらが生じることが、不透明状態の調光シートにおいて抑制可能ともなる。
【0019】
上記調光シートにおいて、前記不透明状態の前記調光シートにおける全光線透過率は、60%以下であってもよい。これによれば、不透明状態での全光線透過率が60%以下であるため、透過光の防眩性をさらに高めることが可能ともなる。
【0020】
上記調光シートは、第1透明電極層と、第2透明電極層と、をさらに備え、前記有機高分子層は、透明電極層間に位置し、前記透明電極層間の電圧印加の解除によって透明状態から前記不透明状態に遷移してもよい。
【0021】
上記調光シートによれば、ノーマル型の調光シートにおいて透過光の防眩性を高めることが可能となる。また、電圧印加の解除された状態で365nmの光透過率を評価できるため、光透過率の評価に電圧印加を要する構成と比べて、透過光の防眩性が高められた調光シートの生産性やメンテナンス性を向上できる。
【0022】
上記調光シートは、第1透明電極層と、第2透明電極層と、をさらに備え、前記有機高分子層は、透明電極層間に位置し、前記透明電極層間の電圧印加によって透明状態から前記不透明状態に遷移してもよい。
【0023】
上記調光シートによれば、リバース型の調光シートにおいて透過光の防眩性を高めることが可能となる。また、有機高分子層における空隙の大きさに誤差を生じ、当該誤差によって防眩性に誤差を生じる場合であっても、透明電極層間に印加される電圧の大きさによって誤差を補正することが可能ともなる。
【0024】
上記課題を解決するための調光シートの製造方法は、複数の空隙を区画する有機高分子層、および、液晶化合物を含み前記空隙を埋める液晶組成物を備え、前記液晶化合物の駆動によって可視光線の透過率を変える調光シートを製造する方法であって、前記液晶組成物と光重合性化合物とを含む層で前記光重合性化合物を重合することにより前記液晶組成物からなる液晶粒子を前記有機高分子層から相分離することを含み、前記調光シートにおける365nmの光透過率が0.1%以上5%以下となる不透明状態を前記調光シートが有するように、前記光重合性化合物を重合する。
【0025】
上記調光シートの製造方法によれば、不透明状態での365nmの光透過率が0.1%以上5%以下となる調光シートを、光重合性化合物の重合によって製造することが可能となる。これにより、調光シートによる可視光線の散乱を高めること、かつ前方散乱を抑えること、ひいては防眩性の付加された調光シートを製造することが可能となる。
【0026】
上記課題を解決するための調光シートの評価方法は、複数の空隙を区画する有機高分子層、および、液晶化合物を含み前記空隙を埋める液晶組成物、を備え、前記液晶化合物の駆動によって可視光線の透過率を変える調光シートを評価する方法であって、360nm以上400nm以下の特定波長の光透過率が、不透明状態の前記調光シートにおいて所定範囲であるか否かを判定する。
【0027】
上述したように、特定波長の光透過率は、粒子の存在する度合いを的確に表現する。当該粒子の大きさは、液晶化合物が配向状態を変え得る大きさであり、かつ可視光全域にわたり散乱を高めて、前方散乱を抑える大きさである。不透明状態での特定波長の光透過率が所定範囲であるか否かを判定する方法であれば、調光シートにおいて可視光線の散乱が高めるか否か、かつ前方散乱が抑えられるか否かの評価が可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、防眩性が付加された調光シート、調光装置、調光シートの製造方法、および調光シートの評価方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】一実施形態における調光装置の概略構成を示す構成図。
図2】一実施形態における調光シートの部分断面構造を示す構成図。
図3】調光シートの実施例および比較例の評価結果を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0030】
調光シート、調光装置、調光シートの製造方法、および調光シートの評価方法の一実施形態を説明する。まず、図1を参照して調光装置、および調光シートの構成を説明する。次に、図2を参照して調光シートの内部構成を説明する。最後に、調光シートの製造方法、調光シートの評価方法、および調光シートの各実施例を説明する。
【0031】
調光シートは、透明基材に貼り付けられる。透明基材は、ガラス体や樹脂体である。透明基材の一例は、車両や航空機等の移動体が搭載する窓ガラス、建物に設置された窓ガラス、車内や屋内に配置された間仕切りである。調光シートが貼り付けられる面は、平面状あるいは曲面状である。調光シートは、2つの透明基材によって挟まれてもよい。
【0032】
調光シートの駆動型式は、ノーマル型、あるいはリバース型である。ノーマル型の調光シートは、電圧印加によって不透明状態から透明状態に遷移し、当該電圧印加の解除によって透明状態から不透明状態に戻る。リバース型の調光シートは、電圧印加によって透明状態から不透明状態に遷移し、当該電圧印加の解除によって不透明状態から透明状態に戻る。
なお、ノーマル型とリバース型とは、2つの透明電極層と調光層とを備える点において共通する。以下では、リバース型の構成と作用とを主に説明し、ノーマル型のなかでリバース型と相違する構成を付記し、ノーマル型のなかでリバース型と重複する構成を割愛する。
【0033】
[調光装置]
図1が示すように、調光装置10は、調光シート11と、駆動部12とを備える。調光シート11は、調光層31、第1配向層32、第2配向層33、第1透明電極層34、第2透明電極層35、第1透明支持層36、および、第2透明支持層37を備える。
【0034】
調光層31は、第1配向層32と第2配向層33との間に位置する。調光層31の第1面31Fは、第1配向層32に接し、調光層31の第2面31Sは、第2配向層33に接する。第1配向層32は、調光層31と第1透明電極層34との間に位置し、かつ調光層31と第1透明電極層34とに接する。第2配向層33は、調光層31と第2透明電極層35との間に位置し、かつ調光層31と第2透明電極層35とに接する。
【0035】
第1透明電極層34は、第1接続端子22Aと第1配線23Aとを通じて、駆動部12に接続される。第1透明電極層34は、第1配向層32と第1透明支持層36との間に位置し、第1配向層32と第1透明支持層36とに接する。第2透明電極層35は、第2接続端子22Bと第2配線23Bとを通じて、駆動部12に接続される。第2透明電極層35は、第2配向層33と第2透明支持層37との間に位置し、第2配向層33と第2透明支持層37とに接する。
【0036】
調光層31は、有機高分子層31P(図2を参照)と液晶組成物31LC(図2を参照)とを備える。有機高分子層31Pは、液晶組成物31LCに埋められた空隙31Dを区画する。有機高分子層31Pによる液晶組成物31LCの保持型式は、高分子分散型、ポリマーネットワーク型、カプセル型からなる群から選択されるいずれか一種である。
【0037】
高分子分散型の調光層31は、孤立した多数の空隙31Dを区画する有機高分子層31Pを備え、有機高分子層31Pに分散した空隙31Dのなかに液晶組成物31LCを保持する。ポリマーネットワーク型の調光層31は、3次元の網目状を有した空隙31Dを有機高分子層31Pを備え、相互に連通した網目状の空隙31Dのなかに液晶組成物31LCを保持する。カプセル型の調光層31は、有機高分子層31Pのなかに分散したカプセル状の空隙31Dのなかに液晶組成物31LCを保持する。
【0038】
第1配向層32と第2配向層33とは、それぞれ液晶化合物LCMの配向方向を規制する。第1配向層32と第2配向層33とは、それぞれ無色透明、あるいは有色透明に視認される。第1配向層32と第2配向層33とは、垂直配向膜である。垂直配向膜は、液晶化合物LCMの長軸方向を調光層31の厚さ方向に沿わせ、調光層31に可視光線を透過させる。
【0039】
第1配向層32と第2配向層33とを構成する材料は、有機高分子化合物、あるいは無機酸化物である。有機高分子化合物は、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、シアン化化合物からなる群から選択されるいずれか一種である。無機酸化物は、シリコン酸化物、酸化ジルコニウム、シリコーンからなるいずれか一種である。
【0040】
第1透明電極層34と第2透明電極層35とは、それぞれ無色透明、あるいは有色透明に視認される。第1透明電極層34と第2透明電極層35とを構成する材料は、それぞれ導電性無機酸化物、金属、あるいは導電性有機高分子化合物である。導電性無機酸化物の一例は、酸化インジウムスズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化スズ、酸化亜鉛からなる群から選択されるいずれか一種である。金属は、金や銀のナノワイヤーである。導電性有機高分子化合物の一例は、カーボンナノチューブ、ポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン)からなる群から選択されるいずれか1種である。
【0041】
第1透明支持層36と第2透明支持層37とは、それぞれ無色透明、あるいは有色透明に視認される。第1透明支持層36と第2透明支持層37とを構成する材料は、それぞれ有機高分子化合物、あるいは無機高分子化合物である。有機高分子化合物の一例は、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリオレフィンからなる群から選択されるいずれか一種である。無機高分子化合物の一例は、酸化珪素、酸化窒化珪素、窒化珪素からなる群から選択されるいずれか一種である。
【0042】
駆動部12は、第1透明電極層34と第2透明電極層35とに別々に接続される。駆動部12は、第1透明電極層34と第2透明電極層35との間に、駆動電圧を印加する。駆動電圧は、液晶化合物LCMの配向状態を変えるための電圧である。駆動部12は、液晶化合物LCMの配向状態を変えて、透明状態と不透明状態とのうちの一方から他方に調光シート11を切り替える。不透明状態は、透明状態よりも低い平行線透過率を有し、また透明状態よりも高いヘイズを有する。
【0043】
駆動電圧の印加が解除されているとき、液晶化合物LCMは、第1配向層32と第2配向層33とから配向規制力を受け、液晶化合物LCMの長軸方向は、調光層31の厚さ方向に沿う。これにより、調光シート11は、可視光全域にわたり調光層31での散乱を抑えて、透明状態となる。
【0044】
駆動電圧が印加されはじめると、液晶化合物LCMは、電界による配向規制力を受け、液晶化合物LCMの長軸方向は、電界方向と直交する方向に向けて移動しはじめる。この際、液晶化合物LCMの長軸方向は、液晶組成物31LCでの分子間の相互作用と空隙31Dの大きさとによる制約を受け、十分に移動しきれず、無秩序になる。これにより、調光シート11は、可視光全域にわたり調光層31での散乱を生じ、不透明状態となる。
【0045】
駆動電圧の印加が再び解除されると、液晶化合物LCMは、電界による配向規制力を解除され、第1配向層32と第2配向層33とによる配向規制力に従い、液晶化合物LCMの長軸方向を調光層31の厚さ方向に沿わせる。これにより、調光シート11は、可視光全域にわたり調光層31での散乱を抑え、再び透明状態となる。
【0046】
なお、電圧印加による液晶化合物LCMの配向状態の変更に基づいて、調光シート11の透明状態と不透明状態とを切り換える構成であれば、調光シート11は、第1配向層32と第2配向層33とを割愛してもよい。この際、調光層31は、調光層31の第1面31Fは、第1透明電極層34に接し、調光層31の第2面31Sは、第2透明電極層35に接する。すなわち、調光シート11の駆動型式は、リバース型からノーマル型に変更してもよい。
【0047】
第1配向層32と第2配向層33とが割愛された場合、駆動電圧の印加が解除されているとき、液晶化合物LCMは、配向規制力を受けず、液晶化合物LCMの長軸方向は、無秩序になる。これにより、調光シート11は、可視光全域にわたり調光層31での散乱を生じ、不透明状態となる。
【0048】
駆動電圧が印加されると、液晶化合物LCMは、電界による配向規制力を受け、液晶化合物LCMの長軸方向は、電界方向に沿う配向状態となる。これにより、調光シート11は、可視光全域にわたり調光層31での散乱を抑えて、透明状態となる。
【0049】
駆動電圧の印加が再び解除されると、液晶化合物LCMは、電界による配向規制力を解除され、液晶化合物LCMの長軸方向は、無秩序になる。これにより、調光シート11は、可視光全域にわたり調光層31での散乱を生じ、再び不透明状態となる。
【0050】
[調光シート]
図2が示すように、調光層31は、有機高分子層31P、液晶組成物31LC、およびスペーサーSPとを備える。有機高分子層31Pは、液晶組成物31LCに埋められた空隙31Dを区画する。有機高分子層31Pは、複数の空隙31Dを区画する。空隙31Dは、隣接する他の空隙31Dと隔絶されてもよいし、隣接する他の空隙31Dと接続されてもよい。空隙31Dの大きさは、2種類以上であり、相対的に大きい空隙31H1と、相対的に小さい空隙31H2とを含む。空隙31Dの形状は、球形状、楕円体状、あるいあは不定形状である。
【0051】
[光重合性化合物]
有機高分子層31Pは、光重合性化合物の硬化体である。光重合性化合物は、紫外線硬化性化合物でもよいし、電子線硬化性化合物でもよい。光重合性化合物は、液晶組成物31LCと相溶性を有する。空隙31Dにおける寸法の制御性を高めることを要する場合、光重合性化合物は、紫外線硬化性化合物であることが好ましい。紫外線硬化性化合物の一例は、分子構造の末端に重合性不飽和結合を含む。あるいは、紫外線硬化性化合物は、分子構造の末端以外に重合性の不飽和結合を含む。光重合性化合物は、1種の重合性化合物、あるいは2種以上の重合性化合物の組み合わせである。
【0052】
紫外線硬化性化合物は、アクリレート化合物、メタクリレート化合物、スチレン化合物、チオール化合物、および、各化合物のオリゴマーからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0053】
アクリレート化合物は、ジアクリレート化合物、トリアクリレート化合物、テトラアクリレート化合物を含む。アクリレート化合物の一例は、ブチルエチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレートである。メタクリレート化合物の一例は、ジメタクリレート化合物、トリメタクリレート化合物、テトラメタクリレート化合物である。メタクリレート化合物の一例は、N,N‐ジメチルアミノエチルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレートである。チオール化合物の一例は、1,3-プロパンジチオール、1,6-ヘキサンジチオールである。スチレン化合物の一例は、スチレン、メチルスチレンである。
【0054】
有機高分子層31Pと液晶組成物31LCとの総量に対する有機高分子層31Pの含有量の下限値は20質量%であり、より好ましい含有量の下限値は30質量%である。有機高分子層31Pと液晶組成物31LCとの総量に対する有機高分子層31Pの含有量の上限値は70質量%であり、より好ましい含有量の上限値は60質量%である。
【0055】
有機高分子層31Pの含有量の下限値、および上限値は、光重合性化合物の硬化過程において、液晶組成物31LCからなる液晶粒子が光重合性化合物の硬化体から相分離する範囲である。有機高分子層31Pの機械的な強度を高めることを要する場合、有機高分子層31Pの含有量の下限値が高いことが好ましい。液晶化合物LCMの駆動電圧を低めることを要する場合、有機高分子層31Pの含有量の上限値が低いことが好ましい。
【0056】
[液晶組成物]
液晶組成物31LCは、高分子分散型液晶組成物である。液晶組成物31LCは、液晶化合物LCMを含み、空隙31Dに充填されている。液晶組成物31LCは、二色性色素DPを含有してもよい。液晶組成物31LCは、粘度低下剤、消泡剤、酸化防止剤、耐候剤、溶剤を含有してもよい。耐候剤の一例は、紫外線吸収剤や光安定剤である。
【0057】
[非重合成性液晶化合物]
液晶化合物LCMの長軸方向の誘電率は、液晶化合物LCMの短軸方向の誘電率よりも大きい、正の誘電異方性を有する。あるいは、液晶化合物LCMの長軸方向の誘電率は、液晶化合物LCMの短軸方向の誘電率よりも低い、負の誘電異方性を有する。液晶化合物LCMの誘電異方性は、調光シート11における各配向層の有無、および駆動型式に基づいて適宜選択される。
【0058】
非重合性液晶化合物は、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、ビフェニル系、ターフェニル系、安息香酸エステル系、トラン系、ピリミジン系、ピリダジン系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ビフェニルシクロヘキサン系、ジシアノベンゼン系、ナフタレン系、ジオキサン系からなる群から選択される少なくとも一種である。非重合性液晶化合物は、1種の液晶化合物、あるいは2種以上の液晶化合物の組み合わせである。
【0059】
非重合性液晶化合物の一例は、下記式(1)に表される。
11-A11-Z11-A12-Z12-A13-Z13-A14-R12 …(1)
11は、水素原子、炭素原子数1以上20以下のアルキル基である。R11のアルキル基に含まれる1つ、または隣接しない2つ以上のメチレン結合は、酸素原子、エチレン結合、エステル結合、ジエーテル結合からなる群から選択されるいずれかに置換可能である。
【0060】
12は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、または、炭素原子数1以上15以下のアルキル基である。R12のアルキル基に含まれる1つ、または隣接しない2つ以上のメチレン結合は、酸素原子、エチレン結合、エステル結合、ジエーテル結合からなる群から選択されるいずれかに置換可能である。
【0061】
11、A12、A13、A14は、それぞれ独立して、1,4-フェニレン基、2,6-ナフチレン基を表す。1,4-フェニレン基、2,6-ナフチレン基の1つ、または2つ以上の水素原子は、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基に置換可能である。A11、A12、A13、A14は、それぞれ独立して、1,4-シクロヘキシレン基、3,6-シクロヘキセニレン基、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル基、ピリジン-2,5-ジイル基でもよい。A13、A14は、それぞれ独立して、単結合でもよい。
【0062】
11、Z12、Z13は、それぞれ独立して、単結合、エステル結合、ジエーテル結合、エチレン結合、フルオロエチレン結合、カルボニル結合からなる群から選択されるいずれか一種を表す。
【0063】
二色性色素は、液晶化合物LCMをホストとしたゲストホスト型式によって駆動されて有色を呈する。二色性色素は、ポリヨウ素、アゾ化合物、アントラキノン化合物、ナフトキノン化合物、アゾメチン化合物、テトラジン化合物、キノフタロン化合物、メロシアニン化合物、ペリレン化合物、ジオキサジン化合物からなる群から選択される少なくとも一種である。二色性色素は、1種の色素、あるいは2種以上の色素の組み合わせである。
【0064】
耐光性を高めること、および二色比を高めることを要する場合、二色性色素は、アゾ化合物、およびアントラキノン化合物からなる群から選択される少なくとも一種であり、よりが好ましくはアゾ化合物である。
【0065】
スペーサーSPは、有機高分子層31Pの全体にわたり分散されている。スペーサーSPは、スペーサーSPの周辺において調光層31の厚さを定めると共に、調光層31の厚さを均一にする。スペーサーSPは、ビーズスペーサーでもよいし、フォトレジストの露光および現像によって形成されるフォトスペーサーでもよい。スペーサーSPは、無色透明でもよいし、有色透明でもよい。液晶組成物31LCが二色性色素を含む場合、スペーサーSPの呈する色は、二色性色素の呈する色と同色であることが好ましい。
【0066】
[調光シートの光透過率]
調光シート11は、不透明状態での特定波長の光透過率が0.1%以上5%以下であることを満たす。ノーマル型の調光シート11は、電源印加を解除された状態で、特定波長の光透過率が0.1%以上5%以下である。一方、リバース型の調光シート11では、不透明状態での特定波長の光透過率が0.1%以上5%以下であるように、駆動部12が駆動電圧を印加する。
【0067】
特定波長は、360nm以上400nm以下の範囲から選択される単一の波長である。特定波長の一例は、365nmである。特定波長における光透過率の測定は、23±2℃の環境において、JIS K 7361-1:1997(ISO 1468-1)に準拠した全光線透過率の測定装置を用いて得られる値であり、測定装置は、光源と光学システムとの組み合わせによって特定波長の平行入射光束を作る。すなわち、特定波長の光透過率は、特定波長の狭角散乱光、および特定波長の広角散乱光を透過光とし、調光シート11の平行入射光束に対する透過光束の割合を示す。
【0068】
不透明状態での防眩性をより高めることを調光シート11に要求される場合、調光シート11は、不透明状態での全光線透過率が60%以下であり、かつ365nmの光透過率が2%以上5%以下であること満たすことが好ましい。全光線透過率は、JIS K 7361-1:1997(ISO 1468-1)に準拠した方法を用いて測定される値である。
【0069】
不透明状態での防眩性をさらに高めることを調光シート11に要求される場合、調光シート11は、黒色を呈する二色性色素DPを含有し、かつ黒色を呈するスペーサーSPを含有する。そして、不透明状態での365nmの光透過率が2%以上5%以下であること満たすことが好ましい。
【0070】
ミー散乱によって前方に散乱される可視光線は、当該可視光線の衝突する粒子の粒径が当該可視光線の波長よりも小さいほど弱まる。すなわち、可視光波長よりも小さい粒径を有した粒子が多く存在することは、可視光線全域にわたり散乱を高め、かつ前方に散乱される可視光線を和らげる。
【0071】
有機高分子層31Pが区画する空隙31Dを埋める液晶組成物31LCは、調光シート11に照射される可視光線から見て、調光シート11に含まれる液晶粒子とみなされる。すなわち、液晶粒子は、液晶組成物が集合したものである。また、有機高分子層31Pが区画する空隙31Dの大きさは、当該空隙31Dのなかで液晶化合物LCMの配向状態を変え得るような寸法を求められる。
【0072】
360nm以上400nm以下の波長は、可視光線と紫外光線との境界域である。360mn以上400nm以下のなかの特定波長の光透過率、例えば365nmの光透過率は、可視光線からみた液晶粒子の存在する度合いを大きく反映し、当該液晶粒子の粒径は、特定波長よりも小さい。
【0073】
例えば、特定波長の光透過率が高いほど、特定波長よりも小さい粒径を有した液晶粒子は少ない。反対に、特定波長の光透過率が低いほど、特定波長よりも小さい粒径を有した液晶粒子は多い。そして、特定波長よりも小さい粒径を有した液晶粒子は、可視光全域にわたり散乱を高め、かつ前方に散乱される可視光線を和らげる。また、特定波長に相当する粒径を有した液晶粒子は、可視光全域わたり前方散乱を抑える液晶粒子のなかでも、液晶化合物LCMの配向状態を変え得る最も大きいものである。
【0074】
このように、特定波長の光透過率は、液晶粒子の存在する度合いを的確に表現する。当該粒子の大きさは、液晶化合物LCMが配向状態を変え得る大きさであり、かつ可視光全域にわたり散乱を高めて、前方散乱を抑える大きさである。そのため、不透明状態での特定波長の光透過率が0.1%以上5%以下であれば、可視光全域にわたり散乱を高めること、かつ前方散乱を抑えること、ひいては透過光の防眩性を調光シート11に付加することが可能となる。
【0075】
なお、電圧印加による液晶化合物LCMの配向状態の変化に基づいて、調光シート11の透明状態と不透明状態とを切り換える構成であれば、調光シート11は、他の機能層を備えてもよい。他の機能層は、調光層31に向けた酸素や水分の透過を抑えるガスバリア層でもよいし、調光層31に向けた特定波長以外の紫外光線の透過を抑える紫外線バリア層でもよい。他の機能層は、調光シート11の各層を機械的に保護するハードコート層でもよいし、調光シート11における層間の密着性を高める接着層でもよい。
【0076】
[調光シートの製造方法]
調光シート11の製造方法は、第1配向層32と第1透明電極層34とを備えた第1透明支持層36と、第2配向層33と第2透明電極層35とを備えた第2透明支持層37との間に、塗膜を形成することを含む。塗膜は、上述した光重合性化合物と液晶組成物31LCとを含む。なお、第1配向層32と第2配向層33とが割愛された調光シート11の製造方法では、第1透明電極層34を備えた第1透明支持層36と、第2透明電極層35を備えた第2透明支持層37との間に、塗膜を形成する。塗膜は、上述した光重合性化合物と液晶組成物31LCとを含む。
【0077】
塗膜は、光重合性化合物の重合を開始するための重合開始剤を含む。重合開始剤は、ジケトン化合物、アセトフェノン化合物、ベンゾイン化合物、ベンゾフェノン化合物、チオキサンソン化合物からなる群から選択される少なくとも一種である。重合開始剤は、1種の化合物でもよいし、2種以上の化合物の組み合わせでもよい。重合開始剤の一例は、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、シクロヘキシルフェニルケトンからなる群から選択されるいずれか一種である。
【0078】
調光シート11の製造方法は、塗膜のなかで光重合性化合物を重合させることによって、液晶組成物31LCからなる液晶粒子を重合体から相分離させることを含む。光重合性化合物を重合させる光は、紫外光線でもよいし、電子線でもよい。塗膜に照射される光は、第1透明支持層36に向けて照射されてもよいし、第2透明支持層37に向けて照射されてもよいし、これらの組み合わせでもよい。
【0079】
液晶組成物31LCからなる液晶粒子の相分離は、光重合性化合物の重合と、液晶組成物31LCの拡散とを通じて進む。光重合性化合物の重合する速度は、光重合性化合物に照射される光の強度によって変わる。液晶組成物31LCの拡散する速度は、光重合性化合物の重合時の処理温度によって変わる。液晶組成物31LCの相分離では、液晶粒子の大きさを所望の大きさとするように、また液晶粒子の数量が所望の数量となるように、光重合性化合物に照射される光の強度、照射時間、および光重合性化合物の重合時の処理温度が設定される。すなわち、液晶組成物31LCの相分離では、空隙31Dの大きさを所望の大きさとするように、また空隙31Dの数量が所望の数量となるように、光重合性化合物に照射される光の強度、照射時間、および光重合性化合物の重合時の処理温度が設定される。
【0080】
例えば、特定波長の光透過率を低めることを要求される場合、空隙31Dの大きさを小さく、かつ空隙31Dの数量を増すために、光重合性化合物の重合する速度が高まるように照射光の強度を高めることが好ましい。また、液晶組成物31LCの拡散を抑えるように処理温度を低めることが好ましい。反対に、特定波長の光透過率を高めることを要求される場合、空隙31Dの大きさを大きく、かつ空隙31Dの数量を減らすために、光重合性化合物の重合する速度を低めるように照射光の強度を低めることが好ましい。また、液晶組成物31LCの拡散を高めるように処理温度を高めることが好ましい。
【0081】
[調光シートの評価方法]
調光シート11の評価方法は、360nm以上400nm以下の特定波長の平行光線を調光シート11に照射し、調光シート11を透過した特定波長の光の透過率が所定範囲であるか否かを判定する。特定波長は、1種類でもよいし、別々に測定される相互に異なる2種類以上の波長でもよい。特定波長が相互に異なる2種類以上の波長である場合、判定に用いられる光透過率の所定範囲は、各特定波長に対して一定でもよいし、各特定波長に対して別々に設定されてもよい。
【0082】
上述したように、特定波長の光透過率は、特定波長よりも粒径が小さい液晶粒子の存在する度合いを的確に表現する。相互に異なる2種類の特定波長は、液晶粒子の粒径分布に基づいて、液晶粒子の存在する度合いを相互に異ならせる。これにより、液晶粒子の存在する度合いを粒径ごとに細かく把握することが可能ともなる。
【0083】
例えば、特定波長は、365nmでもよいし、365nm以外でもよいし、これらの組み合わせでもよい。光透過率の所定範囲は、特定波長が365nmである場合、0.1%以上5%以下でもよいし、2%以上5%以下でもよい。特定波長が相互に異なる2種類以上の波長である場合、判定に用いられる光透過率の所定範囲は、各特定波長に対して0.1%以上5%以下でもよいし、各特定波長に対して別々に設定されてもよい。
【0084】
[実施例]
調光シート11の具体的な実施例、および比較例を以下に示す。なお、各実施例、および比較例は、第1配向層32と第2配向層33とが割愛されたノーマル型の調光シート11である。そして、第1透明電極層34を備えた第1透明支持層36と、第2透明電極層35を備えた第2透明支持層37との間に、光重合性化合物と液晶組成物31LCとを含む塗膜を形成し、塗膜のなかで光重合性化合物を重合させることによって、調光シート11を得た。
【0085】
なお、実施例、および比較例に用いた各構成材料を以下に示す。
・第1透明電極層34 : 酸化インジウムスズ
・第2透明電極層35 : 酸化インジウムスズ
・第1透明支持層36 : ポリエチレンテレフタレートフィルム
・第2透明支持層37 : ポリエチレンテレフタレートフィルム
・紫外線重合性化合物 : イソボニルアクリレート
: ペンタエリスリトールトリアクリレート
: ウレタンアクリレート
・重合開始剤 : 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
・液晶化合物LCM : シアノビフェニル化合物
・スペーサーSP : PMMA製の真球状粒子
【0086】
(実施例1)
二色性色素DPとしてアントラキノン化合物の青M1(製品名M-412:三井化学ファイン社製)を用い、実施例1の塗工液を準備した。この際、液晶組成物31LCの総量に対する二色性色素DPの割合を2質量%とし、液晶組成物31LCの総量に対する重合開始剤の割合を3質量%とした。また、液晶組成物31LCの総量に対する液晶化合物LCMの割合を55質量%とし、液晶組成物31LCの総量に対する紫外線重合性化合物の割合を40質量%とした。
【0087】
実施例1の塗工液を用いて厚さが20μmの塗膜を第1透明電極層34の上に形成し、16μmの粒径を有する白色のスペーサーSPを塗膜中に散布した。そして、スペーサーSPが散布された塗膜を第1透明電極層34と第2透明電極層35とによってラミネートし、第1透明支持層36に向けて365nmの紫外光線を照射することによって、実施例1の調光シート11を得た。この際、紫外光線の強度を10mW/cmに設定し、紫外線の照射時間を100秒とした。
【0088】
(実施例2)
二色性色素DPとしてアントラキノン化合物の青S1(製品名SI-497:三井化学ファイン社製)を用い、実施例1の塗工液と同じ配合比で、実施例2の塗工液を準備した。それ以外の条件を実施例1と同じくして、実施例2の調光シート11を得た。
【0089】
(実施例3)
二色性色素DPとしてアントラキノン化合物とアゾ化合物との混合物である黒Y1(製品名YH-428:三井化学ファイン社製)を用い、実施例3の塗工液を準備した。この際、液晶組成物31LCの総量に対する二色性色素DPの割合を3質量%とし、液晶組成物31LCの総量に対する重合開始剤の割合を3質量%とした。また、液晶組成物31LCの総量に対する液晶化合物LCMの割合を54質量%とし、液晶組成物31LCの総量に対する紫外線重合性化合物の割合を40質量%とした。
【0090】
実施例3の塗工液を用いて厚さが20μmの塗膜を第1透明電極層34の上に形成し、16μmの粒径を有する白色のスペーサーSPを塗膜中に散布した。そして、スペーサーSPが散布された塗膜を第1透明電極層34と第2透明電極層35とによってラミネートし、第1透明支持層36に向けて紫外光線を照射することによって、実施例3の調光シート11を得た。この際、紫外光線の強度を実施例1よりも高め、かつ紫外光線の照射時間を長くして、紫外線重合性化合物の重合を行った。
【0091】
(実施例4)
二色性色素DPとしてアントラキノン化合物とアゾ化合物との混合物である黒S2(製品名S-428:三井化学ファイン社製)を用い、実施例3の塗工液と同じ配合比で、実施例4の塗工液を準備した。それ以外の条件を実施例3と同じくして、実施例4の調光シート11を得た。
【0092】
(実施例5)
実施例3のスペーサーSPを粒径が18μmの黒色のスペーサーSPに変更し、それ以外の条件を実施例3と同じくして、実施例5の調光シート11を得た。
【0093】
(比較例1)
二色性色素DPとしてアゾ化合物の赤S3(製品名SI-426:三井化学ファイン社製)を用い、紫外光線の強度を実施例1よりも低め、それ以外の条件を実施例3と同じくして、比較例1の調光シート11を得た。
(比較例2)
二色性色素DPとしてアゾ化合物の黄S4(製品名SI-486:三井化学ファイン社製)を用い、紫外光線の強度を実施例1よりも低め、それ以外の条件を実施例3と同じくして、比較例2の調光シート11を得た。
【0094】
[評価]
実施例1~5、および比較例1、2の調光シート11を用い、(a)特定波長の透過率、(b)光源透け、(c)全光線透過率、(d)不透明状態のヘイズ、(e)透明状態のヘイズ、および(f)粒状むらの評価を行った。各評価結果を図3に示す。
【0095】
(a)特定波長の透過率の測定では、全光線透過率の測定装置を用い、UV照射器(製品名:8322A、CCS株式会社製)と光学システムとを組み合わせて365nmの平行入射光束を形成した。そして、平行入射光束の波長を365nmとする以外は、JIS K 7361-1:1997(ISO 1468-1)に準拠した方法を用い、各実施例、および各比較例について、特定波長の透過率を測定した。
【0096】
(b)特定波長の光源透けの測定では、UV照射器(製品名:8322A、CCS株式会社製)から照射された365nmの光を、不透明状態の調光シート11を通して、目視によって評価した。この際、UV照射器と調光シート11との間に1mの間隔を設け、照射光の光量を1W/cmに設定した。図3には、光源が鮮明に認められた水準に「×」を付し、光源が不鮮明に認められた水準に「○」を付し、光源の位置を特定できなかった水準に「◎」を付す。
【0097】
(c)全光線透過率の測定では、光源である白色LEDと光学システムとを用いて、可視光全域にわたる平行入射光束を形成した。そして、JIS K 7361-1:1997(ISO 1468-1)に準拠した方法を用い、各実施例、および各比較例における不透明状態の調光シート11について、全光線透過率を測定した。
【0098】
(d)ヘイズの測定では、ヘイズメータ(製品名:NDH7000SD、日本電色工業株式会社製)を用いた。そして、JIS K 7136:2000(ISO 14782)に準拠した方法を用い、各実施例、および各比較例における不透明状態の調光シート11について、ヘイズを測定した。同様に、各実施例、および各比較例における透明状態の調光シート11について、ヘイズを測定した。
【0099】
(e)クラリティの測定では、光源である白色LEDと光学システムとを用いて、可視光全域にわたる平行入射光束を作り、ヘイズ透明性測定器(製品名:ヘイズガードi、BYK-Gardner株式会社製)を用いた。クラリティは、ヘイズ透明性測定器によって測定された狭角散乱光の光量Iと、平行入射光束の光量Iとから下記式(2)を用いて算出した。狭角散乱光の光量は、積分球において、平行入射光束の光軸に対する角度が-2.5°以上2.5°以下の範囲で検出された光量である。
100×(I-I)/(I+I) … 式(2)
【0100】
(f)粒状むらの測定では、不透明状態の調光シート11を目視で観察し、調光シート11に粒状のむらが存在するか否かを判定した。
【0101】
図3が示すように、実施例1~5における特定波長の光透過率は、それぞれ0.1%以上5%以下を満たすことが認められた。一方、比較例1,2における特定波長の光透過率は、6%以上であることが認められた。そして、実施例1~5における特定波長の光源透け、すなわち透過光の防眩性は、それぞれ比較例1,2よりも良好であることが認められた。なお、特定波長の防眩性が高いことは、可視光全域にわたる防眩性が高いことを示す。
【0102】
実施例1と比較例1との間での全光線透過率の比較から、全光線透過率が同程度であっても、防眩性に差異を生じることが認められた。また、実施例2と比較例1との間での全光線透過率の比較から、全光線透過率が相対的に高い構成であっても、防眩性を相対的に向上可能であることも認められた。
【0103】
実施例2と実施例3との間での不透明状態でのヘイズの比較から、ヘイズが同程度であっても、防眩性に差異を生じることが認められた。また、実施例1と実施例3との間での不透明状態でのヘイズの比較から、ヘイズが相対的に低い構成であっても、防眩性を相対的に向上可能であることも認められた。すなわち、像の濁り度合いが相対的に低い構成であっても、防眩性を相対的に向上可能であることも認められた。
【0104】
実施例1,2と実施例3~5との間での不透明状態でのクラリティの比較から、クラリティが相対的に高い構成であっても、防眩性を相対的に向上可能であることも認められた。すなわち、像の鮮明さが相対的に高い構成であっても、防眩性を相対的に向上可能であることも認められた。
【0105】
可視光全域の光線を用いて測定されるヘイズの変化は、可視光全域での散乱の変化を大きく反映するが、散乱の他に、可視光全域での吸収、反射、および透過も少なからず反映する。可視光全域の光線を用いて測定されるクラリティの変化は、可視光全域での透過の変化を大きく反映するが、透過の他に、可視光全域での吸収、反射、および散乱も少なからず反映する。調光シート11を通した視覚による認知結果もまた、可視光全域での透過、吸収、反射、および散乱の複合から導かれるため、調光シート11を通じた像の混濁結果と、ヘイズから予測される像の混濁結果との整合は図られる。同様に、調光シート11を通じた像の鮮明さと、クラリティから予測される像の鮮明さとの整合は図られる。
【0106】
一方、実施例1~5の比較が示すように、光学作用のなかの散乱、特に前方散乱の度合いが寄与する防眩性は、可視光全域での光学作用の複合を反映するヘイズやクラリティで適切に示されるとはいえない。この点、特定波長の光透過率であれば、散乱、特に前方散乱を抑え得る粒子の存在する度合いを的確に表現し、透過光の防眩性を詳細に評価するに足る指標値であることが認められた。
【0107】
実施例3~5における特定波長の光透過率は、それぞれ2%以上5%以下を満たすことが認められた。一方、実施例1,2における特定波長の光透過率は、1%未満であることが認められた。そして、実施例3~5における透過光の防眩性は、それぞれ実施例1,2よりも良好であることが認められた。すなわち、特定波長の光透過率が2%以上である構成であっても、特定波長の光透過率が1%である構成よりも高い防眩性を得られることが認められた。
【0108】
二色性色素DPの配向状態は、液晶化合物LCMの配向状態に追従し、これにより、不透明状態の調光シート11に色を付加する。有機高分子層31Pが区画する空隙31Dは、液晶化合物LCMの配向状態を変えるための大きさのみならず、二色性色素DPの配向状態を変えるための大きさも要する。特定波長の光透過率が2%以上5%以下の構成であれば、特定波長の光透過率が2%未満となる構成と比べて、小さい空隙31Dの存在が抑えられ、二色性色素DPの配向状態を変えるための大きさに足る空隙31Dが多く存在し得る。結果として、特定波長の光透過率が2%以上5%以下であれば、透過光の防眩性をより高められることが認められた。
【0109】
実施例1~4、および比較例1,2と、実施例5との間での粒状むらの比較から、二色性色素DPが呈する色と、スペーサーSPが呈する色とが同色であれば、粒状むらが抑えられることも認められた。
【0110】
上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)特定波長の光透過率は、液晶粒子の存在する度合いを的確に表現する。液晶粒子の大きさは、液晶化合物LCMが配向状態を変え得る大きさであり、かつ可視光全域にわたり散乱を高めて、前方散乱を抑える大きさである。そのため、不透明状態での特定波長の光透過率が0.1%以上5%以下であれば、可視光全域にわたり散乱を高めること、かつ前方散乱を抑えること、ひいては透過光の防眩性を調光シートに付加することが可能となる。
【0111】
(2)二色性色素DPの配向状態を変えるための大きさを空隙31Dに要求される場合、上記(1)に準じた効果がさらに顕著なものとなる。
(3)特定波長の光透過率が2%以上である場合、空隙31Dの数量は多いが、二色性色素DPが配向状態を変えるうえでは空隙31Dの大きさが小さいという構成を排除し、空隙31Dの大きさは、二色性色素DPを含む液晶組成物31LCに適した寸法となる。そして、二色性色素DPを含む液晶組成物31LCに特化した空隙31Dを調光シート11が備えるため、液晶組成物31LCが二色性色素DPを含む場合、上記(1)に準じた効果をさらに高めることが可能ともなる。
【0112】
(4)二色性色素DPとスペーサーSPとが同色を呈する場合、スペーサーSPによる散乱等に起因して粒状むらが生じることが、不透明状態の調光シートにおいて抑制可能ともなる。
【0113】
(5)不透明状態での全光線透過率が60%以下である場合、透過光の防眩性をさらに高めることが可能ともなる。
(6)ノーマル型の調光シート11であれば、電圧印加の解除された状態で特定波長の光透過率を評価できるため、透過光の防眩性が高められた調光シート11の生産性やメンテナンス性を向上できる。
【0114】
(7)リバース型の調光シート11であれば、空隙31Dにおける大きさの誤差が防眩性に誤差を生じる場合であっても、駆動電圧の大きさによって誤差を補正することが可能ともなる。
【0115】
(8)不透明状態での特定波長の光透過率が所定範囲であるか否かを判定する方法であれば、調光シート11において可視光線の散乱が高めるか否か、かつ前方散乱が抑えられるか否かの評価が可能となる。
【0116】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。
・液晶組成物31LCは、二色性色素DPを割愛された構成とすることもできる。上述したように、特定波長の光透過率は、可視光全域にわたる散乱を高め、かつ前方散乱を抑える液状粒子の存在する度合いを的確に表現する。そのため、二色性色素DPが割愛された構成であっても、不透明状態での特定波長の光透過率が0.1%以上5%以下であれば、可視光全域にわたり散乱を高めること、かつ前方散乱を抑えることが可能である。ひいては、透過光の防眩性を調光シート11に付加することが可能である。
【符号の説明】
【0117】
DP…二色性色素
LCM…液晶化合物
SP…スペーサー
11…調光シート
12…駆動部
31…調光層
32…第1配向層
33…第2配向層
34…第1透明電極層
35…第2透明電極層
36…第1透明支持層
37…第2透明支持層
31P…有機高分子層
31D…空隙
31LC…液晶組成物
図1
図2
図3