(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】半導体ウェハ、圧電素子、および半導体ウェハの製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 30/079 20230101AFI20241203BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20241203BHJP
H10N 30/076 20230101ALI20241203BHJP
【FI】
H10N30/079
C23C14/06 A
H10N30/076
(21)【出願番号】P 2021071356
(22)【出願日】2021-04-20
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 悠也
(72)【発明者】
【氏名】榎本 哲也
【審査官】黒田 久美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-335779(JP,A)
【文献】特開2008-026093(JP,A)
【文献】特開2012-099636(JP,A)
【文献】特開2011-233817(JP,A)
【文献】特開2019-145677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/079
H10N 30/076
C23C 14/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(11)上に圧電膜(15、17)が形成された構成の半導体ウェハであって、
前記圧電膜は、第1圧電膜(151)、および、前記第1圧電膜の一面または他面に配置された第2圧電膜(152)を備え、
前記第2圧電膜は、前記第1圧電膜とは異なる面内応力分布を有
し、応力が面内位置に応じて前記第1圧電膜とは逆向きに変化する面内応力分布を有する半導体ウェハ。
【請求項2】
前記第1圧電膜および前記第2圧電膜の膜厚は、前記第1圧電膜の応力と前記第2圧電膜の応力とが互いに打ち消し合うように調整されている請求項
1に記載の半導体ウェハ。
【請求項3】
前記圧電膜は、前記第1圧電膜と前記第2圧電膜とをそれぞれ複数備え、前記第1圧電膜と前記第2圧電膜とが交互に積層された構成とされている請求項1
または2に記載の半導体ウェハ。
【請求項4】
前記圧電膜は、前記第1圧電膜と前記第2圧電膜との積層構造が、厚さ方向における中心を通り厚さ方向に垂直な面に対して対称とされている請求項
3に記載の半導体ウェハ。
【請求項5】
前記圧電膜は、最下層および最上層が前記第1圧電膜で構成されるように、または、最下層および最上層が前記第2圧電膜で構成されるように、前記第1圧電膜と前記第2圧電膜とが交互に積層された構成とされている請求項
4に記載の半導体ウェハ。
【請求項6】
前記第1圧電膜は、面内位置の一部において前記第2圧電膜よりも応力が大きく、他の部分において前記第2圧電膜よりも応力が小さい請求項1ないし5のいずれか1つに記載の半導体ウェハ。
【請求項7】
基板(11)上に圧電膜(15、17)が形成された構成の圧電素子であって、
前記圧電膜は、第1圧電膜(151)、および、前記第1圧電膜の一面または他面に配置された第2圧電膜(152)を備え、
前記第2圧電膜は、前記第1圧電膜とは異なる面内応力分布を有
し、応力が面内位置に応じて前記第1圧電膜とは逆向きに変化する面内応力分布を有する圧電素子。
【請求項8】
前記第1圧電膜および前記第2圧電膜の膜厚は、前記第1圧電膜と前記第2圧電膜との応力が互いに打ち消し合うように調整されている請求項
7に記載の圧電素子。
【請求項9】
前記圧電膜は、前記第1圧電膜と前記第2圧電膜とをそれぞれ複数備え、前記第1圧電膜と前記第2圧電膜とが交互に積層された構成とされている請求項7
または8に記載の圧電素子。
【請求項10】
前記圧電膜は、前記第1圧電膜と前記第2圧電膜との積層構造が、厚さ方向における中心を通り厚さ方向に垂直な面に対して対称とされている請求項
9に記載の圧電素子。
【請求項11】
前記圧電膜は、最下層および最上層が前記第1圧電膜で構成されるように、または、最下層および最上層が前記第2圧電膜で構成されるように、前記第1圧電膜と前記第2圧電膜とが交互に積層された構成とされている請求項
10に記載の圧電素子。
【請求項12】
前記第1圧電膜は、面内位置の一部において前記第2圧電膜よりも応力が大きく、他の部分において前記第2圧電膜よりも応力が小さい請求項7ないし11のいずれか1つに記載の圧電素子。
【請求項13】
基板(11)上に圧電膜(15、17)が形成された構成の半導体ウェハの製造方法であって、
前記圧電膜を構成する第1圧電膜(151)を成膜することと、
前記第1圧電膜の一面または他面に配置され、前記圧電膜を構成する第2圧電膜(152)を成膜することと、を備え、
前記第2圧電膜を成膜することでは、前記第1圧電膜と前記第2圧電膜とが互いに異なる面内応力分布を有するように、前記第1圧電膜を成膜することとは異なる成膜条件で前記第2圧電膜を成膜
し、前記第2圧電膜の応力が面内位置に応じて前記第1圧電膜とは逆向きに変化するように前記第2圧電膜を成膜する半導体ウェハの製造方法。
【請求項14】
前記第1圧電膜を成膜すること、および、前記第2圧電膜を成膜することでは、それぞれスパッタリングにより前記第1圧電膜および前記第2圧電膜を成膜し、
前記第2圧電膜を成膜することにおける成膜条件は、チャンバー内の圧力、ターゲットと前記基板の表面との距離、ターゲットとマグネットとの距離、RFバイアス電力、DCパワー、ガス流量比、および成膜温度のうち少なくとも一部が、前記第1圧電膜を成膜することにおける成膜条件と異なっている請求項13に記載の半導体ウェハの製造方法。
【請求項15】
前記第2圧電膜を成膜することでは、前記第1圧電膜を成膜することに比べて、RFバイアス電力が大きくされるとともに、DCパワーが小さくされる請求項14に記載の半導体ウェハの製造方法。
【請求項16】
基板(11)上に圧電膜(15、17)が形成された構成の半導体ウェハの製造方法であって、
前記圧電膜を構成する第1圧電膜(151)を成膜することと、
前記第1圧電膜の一面または他面に配置され、前記圧電膜を構成する第2圧電膜(152)を成膜することと、を備え、
前記第2圧電膜を成膜することでは、前記第1圧電膜と前記第2圧電膜とが互いに異なる面内応力分布を有するように、前記第1圧電膜を成膜することとは異なる成膜条件で前記第2圧電膜を成膜
し、
前記第1圧電膜を成膜すること、および、前記第2圧電膜を成膜することでは、それぞれスパッタリングにより前記第1圧電膜および前記第2圧電膜を成膜し、
前記第2圧電膜を成膜することにおける成膜条件は、チャンバー内の圧力、ターゲットと前記基板の表面との距離、ターゲットとマグネットとの距離、RFバイアス電力、DCパワー、ガス流量比、および成膜温度のうち少なくとも一部が、前記第1圧電膜を成膜することにおける成膜条件と異なっており、
前記第2圧電膜を成膜することでは、前記第1圧電膜を成膜することに比べて、RFバイアス電力が大きくされるとともに、DCパワーが小さくされる半導体ウェハの製造方法。
【請求項17】
前記第1圧電膜を成膜すること、および、前記第2圧電膜を成膜することでは、前記第1圧電膜は、面内位置の一部において前記第2圧電膜よりも応力が大きく、他の部分において前記第2圧電膜よりも応力が小さくなるように前記第1圧電膜および前記第2圧電膜を成膜する請求項13ないし16のいずれか1つに記載の半導体ウェハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハ、圧電素子、および半導体ウェハの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、片持ち支持された圧電素子を備え、印加された電圧に応じて圧電膜が屈曲変形するとともに、電極間の容量に応じた電圧を出力するように構成されたマイクロホンが提案されている。このようなマイクロホンでは、圧電素子が応力によって反ることにより、低周波感度が低下する。
【0003】
これに対して、例えば特許文献1では、成膜装置のステージ構造によって放熱性を調整し、ウェハ面内の応力の均一化を図る技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2017/0294294号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、圧電膜に例えば窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)を用いる場合には、圧電膜のSc濃度に応じて応力分布形状が変化する。そのため、用途に応じて様々なSc濃度の圧電素子を製造する場合には、特許文献1に記載の方法では、Sc濃度に応じたステージを用意する必要があり、製造コストが増加する。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、製造コストの増加を抑制しつつ応力を均一化することが可能な半導体ウェハ、圧電素子、および半導体ウェハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、基板(11)上に圧電膜(15、17)が形成された構成の半導体ウェハであって、圧電膜は、第1圧電膜(151)、および、第1圧電膜の一面または他面に配置された第2圧電膜(152)を備え、第2圧電膜は、第1圧電膜とは異なる面内応力分布を有し、応力が面内位置に応じて第1圧電膜とは逆向きに変化する面内応力分布を有する。
【0008】
このように、互いに異なる面内応力分布を有する第1圧電膜と第2圧電膜で圧電膜を構成することにより、圧電膜全体での応力が均一化される。また、面内応力分布は成膜条件によって調整することができるため、第1圧電膜と第2圧電膜を同じ装置で成膜することが可能であり、製造コストの増加を抑制することができる。
【0009】
また、請求項7に記載の発明では、基板(11)上に圧電膜(15、17)が形成された構成の圧電素子であって、圧電膜は、第1圧電膜(151)、および、第1圧電膜の一面または他面に配置された第2圧電膜(152)を備え、第2圧電膜は、第1圧電膜とは異なる面内応力分布を有し、応力が面内位置に応じて第1圧電膜とは逆向きに変化する面内応力分布を有する。
【0010】
このように、互いに異なる面内応力分布を有する第1圧電膜と第2圧電膜で圧電膜を構成することにより、圧電膜全体での応力が均一化される。また、面内応力分布は成膜条件によって調整することができるため、第1圧電膜と第2圧電膜を同じ装置で成膜することが可能であり、製造コストの増加を抑制することができる。
【0011】
また、請求項13に記載の発明では、基板(11)上に圧電膜(15、17)が形成された構成の半導体ウェハの製造方法であって、圧電膜を構成する第1圧電膜(151)を成膜することと、第1圧電膜の一面または他面に配置され、圧電膜を構成する第2圧電膜(152)を成膜することと、を備え、第2圧電膜を成膜することでは、第1圧電膜と第2圧電膜とが互いに異なる面内応力分布を有するように、第1圧電膜を成膜することとは異なる成膜条件で第2圧電膜を成膜し、第2圧電膜の応力が面内位置に応じて第1圧電膜とは逆向きに変化するように第2圧電膜を成膜する。
【0012】
このように、互いに異なる面内応力分布を有する第1圧電膜と第2圧電膜で圧電膜を構成することにより、圧電膜全体での応力が均一化される。また、成膜条件によって面内応力分布を調整することにより、第1圧電膜と第2圧電膜を同じ装置で成膜することが可能となり、製造コストの増加を抑制することができる。
【0013】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態にかかる半導体ウェハの断面図である。
【
図4】圧電膜を構成する第1圧電膜および第2圧電膜の面内応力分布を示す図である。
【
図6】半導体ウェハの製造装置の構成を示す図である。
【
図9】第1圧電膜および第2圧電膜の膜厚の組み合わせによる面内応力分布の変化を示す図である。
【
図10】第1圧電膜および第2圧電膜の膜厚と推定歩留まりとの関係を示す図である。
【
図11】第2実施形態における圧電膜の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0016】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。
図1に示す半導体ウェハ1は、基板上に圧電膜が形成されたものであり、基板11と、絶縁膜12と、下地膜13と、下層電極膜14と、下層圧電膜15と、中間電極膜16と、上層圧電膜17と、上層電極膜18とを備えている。
【0017】
基板11は、例えばシリコンで構成されている。基板11の表面には、酸化シリコン等で構成された絶縁膜12が形成されている。絶縁膜12の表面には、下地膜13が形成されている。下地膜13は、下層電極膜14等を成膜する際の結晶成長をし易くするためのものであり、窒化アルミニウム等で構成されている。
【0018】
下地膜13の表面には、下層電極膜14~上層電極膜18が順に積層されている。すなわち、半導体ウェハ1をチップ単位に分割して得られる圧電素子は、下層圧電膜15が下層電極膜14と中間電極膜16とで挟み込まれ、上層圧電膜17が下層圧電膜15と上層電極膜18とで挟み込まれたバイモルフ構造とされる。
【0019】
そして、圧電素子は、下層電極膜14と中間電極膜16との間の電圧、および、中間電極膜16と上層電極膜18との間の電圧に応じて、下層圧電膜15、上層圧電膜17が屈曲変形する構成とされる。
【0020】
また、圧電素子は、下層電極膜14と中間電極膜16との間の容量、および、中間電極膜16と上層電極膜18との間の容量に応じた電圧を出力する。下層電極膜14、中間電極膜16、上層電極膜18は、例えばモリブデンで構成されており、下層圧電膜15、上層圧電膜17は、本実施形態ではScAlNで構成されている。
【0021】
下層圧電膜15、上層圧電膜17の詳細な構成について説明する。
図2に示すように、下層圧電膜15は、それぞれ圧電材料で構成された2種類の膜を備えている。この2種類の膜をそれぞれ第1圧電膜151、第2圧電膜152とする。第2圧電膜152は、第1圧電膜151の一面または他面に配置されている。
【0022】
本実施形態では、第1圧電膜151と第2圧電膜152は、それぞれ複数備えられており、下層圧電膜15は、第1圧電膜151と第2圧電膜152とが交互に積層された構成とされている。本実施形態では、下層圧電膜15の最下層が第1圧電膜151で構成され、最上層が第2圧電膜152で構成されるように、互いに同じ数の第1圧電膜151と第2圧電膜152とが備えられている。
【0023】
第1圧電膜151、第2圧電膜152は共にScAlNで構成されているが、これらは互いに面内応力分布が異なる。具体的には、
図3に示すように、基板11の中央部を通る軸であって、基板11の表面に平行な軸に沿った位置を面内位置とし、面内位置に対応する第1圧電膜151、第2圧電膜152の応力を図示すると、
図4のようになる。
図4において、実線、破線は、それぞれ第1圧電膜151、第2圧電膜152の応力を示している。
【0024】
図4に示すように、第1圧電膜151の応力は、上に凸のグラフになっている。すなわち、第1圧電膜151は、中央部の応力が最も大きく、外縁に近い部分ほど応力が小さくなっている。一方、第2圧電膜152の応力は、下に凸のグラフになっている。すなわち、第2圧電膜152は、中央部の応力が最も小さく、外縁に近い部分ほど応力が大きくなっている。
【0025】
このように、第1圧電膜151と第2圧電膜152は、応力が面内位置に応じて互いに逆向きに変化する面内応力分布を有している。このような面内応力分布を有する第1圧電膜151と第2圧電膜152とを積層することにより、第1圧電膜151の応力と第2圧電膜152の応力とが打ち消し合い、
図5に示すように下層圧電膜15全体での面内応力が均一化される。
【0026】
なお、
図2では第1圧電膜151が第2圧電膜152よりも厚く形成されているが、第1圧電膜151と第2圧電膜152の厚さが互いに等しくてもよいし、第1圧電膜151が第2圧電膜152よりも薄く形成されていてもよい。1つの第1圧電膜151と1つの第2圧電膜152の厚さの合計は、例えば100nmとされる。
【0027】
上層圧電膜17も下層圧電膜15と同様の構成とされている。すなわち、上層圧電膜17は互いに逆向きの面内応力分布を有する2種類の膜を備えており、この2種類の膜が積層されることにより、上層圧電膜17全体での面内応力が均一化されている。
【0028】
半導体ウェハ1の製造方法について説明する。
図6に示す製造装置2は、ScAlNで構成された薄膜をマグネトロンスパッタリングにより形成するものであり、基板11上に下層圧電膜15または上層圧電膜17を成膜する際に用いられる。
【0029】
図6に示すように、製造装置2は、ステージ21と、RFバイアス電源22と、ターゲット23と、バッキングプレート24と、DC電源25と、マグネット26と、ガス供給部27とを備えている。ステージ21~マグネット26は、図示しないチャンバー内に配置されている。
【0030】
ステージ21は、チャンバー内の下部に配置されている。ステージ21は、成膜時に基板11を保持するものである。ステージ21にはヒータ211が備えられており、成膜時には、基板11はヒータ211によって加熱される。ステージ21には、RFバイアス電源22が接続されている。RFバイアス電源22は、ステージ21にRF電力を供給するためのものである。
【0031】
ターゲット23は、ステージ21および基板11から離された状態で、チャンバー内の上部に配置されている。ターゲット23は、ScAl合金で構成されている。バッキングプレート24は、ターゲット23の上部に配置されている。バッキングプレート24は、成膜時にターゲット23を冷却するとともに、ターゲット23をDC電源25に接続するための電極としても機能するものである。
【0032】
ターゲット23とステージ21との間には、DC電源25が接続されている。DC電源25は、パルスDC電力をターゲット23に供給するためのものである。ターゲット23およびバッキングプレート24の上部には、ターゲット23およびバッキングプレート24から離された状態で、マグネット26が配置されている。マグネット26は、成膜時にターゲット23の周囲にプラズマを発生させるためのものである。
【0033】
ガス供給部27は、チャンバー内にスパッタガスを供給するものである。本実施形態では、スパッタガスは、N2とArの混合ガスとされる。ガス供給部27は、N2とArのガス流量比、および、チャンバー内の圧力を調整できるように構成されている。
【0034】
このような構成の製造装置2では、DC電源25によってターゲット23にDCパルス電力を供給するとともに、RFバイアス電源22によってステージ21にRF電力を供給し、ガス供給部27によってチャンバー内にスパッタガスを供給することで、マグネトロンスパッタにより基板11上にScAlNで構成された層が成膜される。そして、基板11上に絶縁膜12~上層電極膜18を形成したものを、ダイシングによりチップ単位に分割することで、圧電素子が形成された半導体チップが得られる。
【0035】
製造装置2によって下層圧電膜15を成膜するときに、第1圧電膜151と第2圧電膜152の面内応力分布を調整する方法について説明する。製造装置2では、第1圧電膜151と第2圧電膜152とを交互に成膜することで下層圧電膜15を形成する。このとき、第1圧電膜151とは異なる成膜条件で第2圧電膜152を成膜することで、第1圧電膜151と第2圧電膜152とが互いに異なる面内応力分布を有するようになる。
【0036】
第1圧電膜151と第2圧電膜152の面内応力分布は、ターゲット23と基板11の表面との距離L1、ターゲット23とマグネット26との距離L2、RFバイアス電力、DCパワー、チャンバー内の圧力、ガス流量比、成膜温度等の成膜条件によって調整することができる。
【0037】
なお、第1圧電膜151と第2圧電膜152の成膜時に、これらの成膜条件のすべてを変更する必要はなく、一部の成膜条件のみを変更することによっても面内応力分布を調整することができる。本発明者らの鋭意検討によれば、例えば、RFバイアス電力を大きくするとともにDCパワーを小さくすることにより、面内応力分布のグラフが上に凸の形状から下に凸の形状へと変化する傾向があることがわかった。
【0038】
図7は、距離L1を60mm、距離L2を40mm、RFバイアス電力を15W、DCパワーを8kW、チャンバー内の圧力を1.18Pa、ガス流量比をAr30%として成膜したSc濃度24%の第1圧電膜151の面内応力分布を示す。
図8は、距離L1を80mm、距離L2を40mm、RFバイアス電力を30W、DCパワーを6kW、チャンバー内の圧力を1.18Pa、ガス流量比をAr15%として成膜したSc濃度24%の第1圧電膜151の面内応力分布を示す。
【0039】
図7、
図8に示すように、成膜条件によって互いに逆向きの2つの面内応力分布を得ることができた。このような面内応力分布を有する第1圧電膜151と第2圧電膜152とを積層して下層圧電膜15を構成することで、下層圧電膜15全体での応力分布が均一化される。なお、この第1圧電膜151、第2圧電膜152のXRD半値幅はそれぞれ1.53deg、1.64degとなり、圧電素子として利用する上で十分に高い結晶性が得られた。
【0040】
さらに、第1圧電膜151の応力と第2圧電膜152の応力とが互いに打ち消し合うように第1圧電膜151と第2圧電膜152との膜厚比を調整することで、下層圧電膜15全体での応力分布をより均一化することができる。具体的には、第1圧電膜151の応力と第2圧電膜152の応力とに応じて、第1圧電膜151と第2圧電膜152のうち一方を他方よりも厚く形成する。これにより、第1圧電膜151と第2圧電膜152を同じ膜厚にしたときに比べて、下層圧電膜15全体での応力分布をより均一化することができる。
【0041】
図9は、第1圧電膜151の膜厚と第2圧電膜152の膜厚との比を変えたときの下層圧電膜15全体での平均応力の変化を示す。11本のグラフは、下から順に、第1圧電膜151と第2圧電膜152の膜厚比を0:10、1:9、2:8、3:7、4:6、5:5、6:4、7:3、8:2、9:1、10:0としたときの下層圧電膜15の応力を示す。
【0042】
図10は、第1圧電膜151と第2圧電膜152の膜厚の合計のうち第1圧電膜151の膜厚が占める割合と、推定歩留まりとの関係を示す。ここでは、測定範囲の面積に対する、半導体ウェハ1の中央部の応力±50MPaとなる領域の面積の割合を推定歩留まりとした。
【0043】
図9、
図10に示す実験結果では、第1圧電膜151と第2圧電膜152の膜厚比が8:2のときに、下層圧電膜15の応力が良好に均一化され、推定歩留まりが最大となった。このように、第1圧電膜151と第2圧電膜152との膜厚比を調整することで、下層圧電膜15の応力分布のばらつきをさらに低減することができる。また、第1圧電膜151と第2圧電膜152とを組み合わせた場合には、膜厚比を0:10または10:0とした場合、すなわち、第1圧電膜151と第2圧電膜152のうちいずれか一方のみで下層圧電膜15を構成した場合に比べて、推定歩留まりが最大で約6倍に大きくなった。
【0044】
以上説明したように、本実施形態では、下層圧電膜15、上層圧電膜17は、互いに異なる面内応力分布を有する2種類の層を備えている。これにより、下層圧電膜15、上層圧電膜17全体での応力が均一化されるため、下層圧電膜15、上層圧電膜17の反りによる低周波感度の低下を低減することができる。また、圧電素子の特性を均一化することができる。
【0045】
また、本実施形態では、第1圧電膜151と第2圧電膜152とが互いに異なる面内応力分布を有するように、第1圧電膜151とは異なる成膜条件で第2圧電膜152を成膜する。これにより、下層圧電膜15、上層圧電膜17全体での応力が均一化されるため、下層圧電膜15、上層圧電膜17の反りによる低周波感度の低下を低減することができる。
【0046】
また、成膜条件を変更するだけで面内応力分布を調整することができるため、例えば互いにSc濃度の異なる第1圧電膜151、第2圧電膜152を成膜する場合に、装置構造の変更が不要であり、半導体ウェハ1の製造コストの増加を抑制することができる。
【0047】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0048】
(1)第2圧電膜152は、応力が面内位置に応じて第1圧電膜151とは逆向きに変化する面内応力分布を有する。これによれば、下層圧電膜15全体での応力をさらに均一化することができる。
【0049】
(2)第1圧電膜151および第2圧電膜152の膜厚は、第1圧電膜151の応力と第2圧電膜152の応力とが互いに打ち消し合うように調整されている。これによれば、下層圧電膜15全体の応力をさらに均一化することができる。
【0050】
(3)圧電膜15は、第1圧電膜151と第2圧電膜152とをそれぞれ複数備え、第1圧電膜151と第2圧電膜152とが交互に積層された構成とされている。これによれば、下層圧電膜15全体の応力をさらに均一化することができる。
【0051】
(4)スパッタリングにより第1圧電膜151および第2圧電膜152を成膜する。そして、第2圧電膜152の成膜条件は、距離L1、距離L2、RFバイアス電力、DCパワー、チャンバー内の圧力、ガス流量比、および成膜温度のうち少なくとも一部が、第1圧電膜151の成膜条件と異なっている。例えば、第2圧電膜152の成膜時には、第1圧電膜151の成膜時に比べて、RFバイアス電力が大きくされるとともに、DCパワーが小さくされる。これにより、第1圧電膜151とは異なる面内応力分布を有する第2圧電膜152を成膜することができる。
【0052】
(5)第2圧電膜152の応力が面内位置に応じて第1圧電膜151とは逆向きに変化するように第2圧電膜152を成膜する。これによれば、下層圧電膜15全体での応力をさらに均一化することができる。
【0053】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して下層圧電膜15の構成を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0054】
本実施形態では、第1圧電膜151と第2圧電膜152との積層構造が、下層圧電膜15の厚さ方向における中心を通り厚さ方向に垂直な面に対して対称とされている。例えば
図11に示すように、下層圧電膜15は、最下層および最上層が第1圧電膜151で構成されるように、第1圧電膜151と第2圧電膜152とが交互に積層された構成とされている。
図11の破線は、下層圧電膜15の厚さ方向における中心を通り厚さ方向に垂直な面を示す。
【0055】
なお、
図11では下層圧電膜15の中央の層が第1圧電膜151とされているが、中央の層が第2圧電膜152とされていてもよい。また、下層圧電膜15が、最下層および最上層が第2圧電膜152で構成されるように、第1圧電膜151と第2圧電膜152とが交互に積層された構成とされていてもよい。
【0056】
本実施形態は、第1実施形態と同様の構成および作動からは第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0057】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0058】
(1)第1圧電膜151と第2圧電膜152との積層構造が、下層圧電膜15の厚さ方向における中心を通り厚さ方向に垂直な面に対して対称とされている。具体的には、下層圧電膜15は、最下層および最上層が第1圧電膜151で構成されるように、または、最下層および最上層が第2圧電膜152で構成されるように、第1圧電膜151と第2圧電膜152とが交互に積層された構成とされている。これによれば、下層圧電膜15の応力による圧電素子の反りを低減することができる。
【0059】
(他の実施形態)
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。
【0060】
上記各実施形態では、下層圧電膜15は2種類の膜で構成されているが、下層圧電膜15が3種類以上の膜で構成されていてもよい。
【0061】
上記各実施形態では、第1圧電膜151、第2圧電膜152の応力のグラフがそれぞれ上に凸、下に凸となっているが、第2圧電膜152の応力が面内位置に応じて第1圧電膜151とは逆向きに変化していれば、応力のグラフが他の形状となっていてもよい。例えば、第1圧電膜151の応力のグラフが、上に凸のグラフが2つ連なってM字状となっており、第2圧電膜152の応力のグラフが、下に凸のグラフが2つ連なってW字状となっていてもよい。また、第1圧電膜151の応力のグラフが、上に凸のグラフが3つ以上連なった形状となっており、第2圧電膜152の応力のグラフが、下に凸のグラフが3つ以上連なった形状となっていてもよい。
【符号の説明】
【0062】
11 基板
15 圧電膜
151 第1圧電膜
152 第2圧電膜
17 圧電膜